【斉藤聖VSエリザベート】
試合形式:ノー・ダイレクトアタック
試合概要:直接攻撃は常に禁止される
特別禁止:《地獄の扉越し銃》《痛恨の呪術》《黒板消しの罠》

「絶対に負けられない。勝って…浩司に並ぶ。」

 斉藤聖は境界線上にいた。その線を象徴するのが武藤浩司という存在である。
 彼女より一つ年下の新キャプテン・武藤浩司はカリスマ性に欠ける部分がある一方で、部員から慕われる男だった。恐らく彼ならば森勇一の代わりが務まるかどうかはともかくとして)部を牽引していくことは可能だと思われる。事実、あの何を考えているのか今一読めない新入生・元村信也ですら彼とはウマが合っている。

 何時ぞやの偽装監禁事件において彼女は自分の空しさに気がつく。『仕掛け人の筈がいいピエロ』『所詮自分の存在はその程度』『目の前にあるものしか見えない』。彼女は自分の『限界』を痛感していた。だからこそ―せめて自分より一つ年下であり、雲の上の存在とは言いがたいタイプである武藤浩司に遅れをとるのだけは嫌だった。もしそこからも追放されたら―

 斉藤聖は気がつくと『スレッショルド―墓地にカードを送る事でパワーアップする戦術―』を得意としていた。劇的な何かを持たない彼女は積み重ねることによって彼等に追いつこうとしたのだ。心の何処かで脆い戦術と知りながら…既にデッキ構築タイムは始まっていた。

 これは、『死骸勘定役(スレッショルダー)』斉藤聖の決闘である。

第6話:絶望注意報(ホープレス・ウォーニング)


【プレイヤーへのダイレクトアタック禁止】
 かつて遊戯王草創期―遊戯王OCGが『紳士のデュエル』と呼ばれていた時代―においては、「危険である」であるという動かし難い理由からダイレクトアタックが硬く禁じられていた。そこでは「一端守備表示に入った者は無理攻めしない」という博愛主義的な価値感に基づいた思想が大きなウェイトを占めていたのだ。草創期においては、ダイレクトアタックを試みる決闘民族は野蛮人と見なされていた。
 だが、第二次遊戯王大戦を経て殺伐とした世界情勢においては「そのような生微温い決闘は決闘にあらず」という声が資本主義的決闘者達の中から続出。遊戯王の資産ゲームとしての運用法に目に付けた彼等は、遂にダイレクトアタックを自由化。その結果遊戯王OCGはある種の資産ゲームの一類型へとその姿を変えた。それは時代の必然だったのだろう。ダイレクトアタックとは、言わば時代の分水嶺なのである。
 そのダイレクトアタックを再禁止する…これは下手をすれば過去への退行になりかねない危険なアクションである。それ故大会運営者側からは批判もままあった。其れほどまでに『ダイレクトアタック』の有無は、環境に対し大きな影響力を有していたのである。
 しかし現代遊戯王界においては、大戦以後の新概念【バーン】が既に確立。直接攻撃への物神崇拝的な信仰が除去されたと言われている。その【バーン】が遂に主役となる世界。そう、これは過去への退行ではなく、未来における可能性の模索なのだ。言わばこの決闘は、【バーン】が中心となる第四世界の、その具象化過程における試金石と言っても決して過言ではあるまい。二人の決闘者はその核真に何処まで迫れるや―。

プレイヤーへのダイレクトアタック禁止。確か大昔はそんなルールでやってたん だっけ。でもそれだと相手が守備表示で守りに入った瞬間10年経っても決着しないからという理由で今のルールになった。でも、今なら【バーン】がある。つまり直接攻撃をしなくても勝てるってわけね。いーじゃん。やってやろーじゃないの。幸いカードプールは隅から隅まで至れり尽くせり。なら私の領域が問題なく使える。だとすると…私が目指すべき決闘はバーン系効果モンスターとドローカードを用いたデッキの高速回転。そして防衛策としては…って。アレ!?)
 聖が使用デッキへ向けて頭を振り絞り、手を動かし、足を走らせる一方、肝心の対戦相手が全く動いていない。それもデッキ構築の為に熟考している、という様子ですらない。ただ聖のデッキ構築をを眺めているだけ。
「ねぇ、何やってんの? あんた、さっきからコッチばかり見てるけど、全然手が動いてないじゃない」
「えぇっと…やりません? コレ?」
「世界共通でやらないわよ。言っとくけど…100年経っても私が使うカードは見せないからね。」
「いえ……そういうわけじゃ……。ただ見るだけ……じゃ駄目ですか?」
(何コイツ、わけわかんない……って、あー駄目だ。なんか乱された。急いで思考回路を修復修復。あんなのに関ってたら時間がいくらあっても足りないっての。 で、防御面だけど…環境にバーンか特殊勝利以外に勝ち手段がないという事を考えれば……その場合……よし! わかった!)

 ―フリーデュエルスペース―

「《風帝ライザー》を召喚。《サイバー・ダーク・キール》をデッキトップに戻し、攻撃します」
「リビングデッド!」
「《サイクロン》!」
「あぁん。あったのかよ」
「一応」

【試合結果】
○元村信也―ダルジュロス=エルメストラ●


「ふ〜。全部で3勝7敗。随分と強いじゃないかお前の【グッドスタッフ】。テストした甲斐があったぜ。久しぶりに連敗を味わえた…中々稀有な経験だった よ。特にそのポーカーフェイスは大したもんだ。この俺に意中を読ませないとは並のスキルじゃないぜ。そんじょそこらの決闘師よりもよっぽどその素質がある」
「でもダルさん。そのデッキはダルさんのフェイバリッドデッキじゃないですよね。さっき急ごしらえで作ったデッキ。もしダルさんが『本気のデッキ』を使っていたら勝敗は引っくり返っていたかもしれない。むしろ……」
 『むしろそのデッキで〜』と信也は続けたかったが、ダルジュロスがそれを遮った。
「いーや、シンヤよ。俺は単なる勝敗だけを見てたわけじゃない。お前のデュエルセンスそのものを見ていた。その結論を言うと…だ。シンヤ。お前なんで開幕戦負けたんだ?ホントに【グッドスタッフ】しか使えないのか?」
「え、ええ。使えない……みたいなんです。それも最近の【グッドスタッフ】しか……ハハハ」
「全く変な奴がいたもんだな。カードゲームやる奴としてそれはどうなんだ? しかもここは大会だぜ?」
「似たような事他の人にも言われました。僕としてはできるつもりだったんですけど」
「お前のプレイングセンスは間違いなく一流だ。そしてデッキ構築能力は間切れもなく超三流。随分と偏った決闘者がこの世にはいたもんだな」
「本格的に初めて三ヶ月なんで」
「三ヶ月!? それであれだけのプレイングか。本当に変わった奴だな。つーか三ヶ月で大会レベルならむしろコピーデッキの一つや二つ覚えていた方が自然に見えるぜ」
「デッキの構築練習をサボってたんですけど。不味いですかね」
「少なくともこの大会では、な。お前が一番よくわかってるだろ。どんなデッキも使えなきゃ話にならない」
「う……」
「それに、だ。もし【グッドスタッフ】が使えたとしてもこの予選リーグは『奴ら』の土壌。見切られるぜ?」
(【グッドスタッフ】が見切られる? で、でも、汎用性に優れ、見切られ難いのが【グッドスタッフ】。それが?)
 信也が不満そうな顔でダルジュロスを見つめる。ダルジュロスは、そんな信也を諭すように話を紡いだ。
「見切られるのは『お前の【グッドスタッフ】』だ。確かにお前の【グッドスタッフ】は一流。俺が本気でやっても手加減は一切出来ない。それほどまでに研 ぎ澄まされていると言っていいだろう。だがだからこそ―研ぎ澄まされているからこそ―特有の『癖』みたいなものがある。カードを投入する癖、手札に揃える 癖、或いは使う癖。お前でも気づかないレベルの『癖』が存在する。お前みたいに一つのデッキを使い込めば使い込むほど、他にはない『違和感』がお前のデッ キの周りに現れ、そしてそれを見切る人間がこの世には存在する」
「まさかそれは……」
(以前サツキさんから聞いたことがある。この世には、実際にデッキを運用して実績を残す『デッキウォーリアー(※俗に言う「デュエリスト」)』と、強力なデッキを構築する『デッキビルダー』。そしてもう一つの人種がいると)
「そう、お前の察しの通りだ。あらゆるデッキを見切ることを生業とした『デッキウォッチャー』だよ。コイツがこの大会ではもっとも厄介な人種かもしれない。何せその気になれば『対人メタ』すら可能なんだからな」
(デッキ……ウォッチャー。まさか……まさか……)

 ―Gブロック―

「構築時間を終了します」
「出来てるよー♪」
 明るい聖の顔色から、問題なくデッキが完成したのが窺える。もっともデッキ構築終了10分前においては、とある最上級モンスターを入れるか入れないかで軽く迷っていたのだが、どうやらいい答えが出たらしい。聖がふと前を見ると、どうやら対戦相手のエリザベートも同じくデッキを完成させたようだ。間もなく デュエルが開始される。
「それではデュエルを開始します。デュエルスタンバィ……OK?」
 審判がデュエル開始を促し、デュエリストがデッキをスタンバイする。こうなってしまえば何時ものデュエルだ。後はデッキからカードを引き、白黒をつける。単純明快な流れ。
「オーケーオーケー」
「構いません」
「GO−−−!!」

【予選Gブロック二回戦】
斉藤聖(招待選手)―エリザベート(招待選手)

「よろしくお願いしまーす。私のターン、ドロー。私は裏向き守備表示でモンスターを一体召喚し…カードを一枚伏せてターンエンド。ドンドン行くよ!」
 聖の表情は変わらず明るい。聖は、その明るい表情を崩さずに眼前の対戦相手を見やる。金色の長髪が美しい西欧人。聖にとっては初めてとなる外国人相手の決闘である。もっとも、エリザベートが日本語を覚えていたためか、聖の緊張は既に解れていた。これなら緊張故のプレイングミスは有り得ないだろう。
(さあ、今度はそちらのお手並みを拝見しないとね。あんなやり方で一体全体どんなデッキが出来上がったか見てやろうじゃないの。一体どんなびっくりどっき りメカが飛び出してくるのやら。ある意味楽しみかも…って、あの娘の掌が炎に包まれてる。あのエフェクトは…うわっ! まさかいきなり!)

Tremendous Fire!!

斉藤聖:7000LP(4枚)
エリザベート:7500LP(5枚)


 エリザベートのドロー後約1秒後の出来事だった。彼女は今引いた火力呪文を何の躊躇いも無く使ってみせる。知覚から判断までに要した時間としては0.2秒程度だろうか。この手荒い一撃によって決闘の幕が上がる―
(いきなり単発の《火炎地獄》!? 【フルバーン】系統ね。いいわ。上等。向こうはモンスターを一体、カードを一枚セットしてターンエンドか。なんかよう やく決闘っぽくなってきたじゃないの。さあて反撃反撃。えーっと、向こうは…このルール・タイミングでモンスターが一体のみ。十中八九《ステルスバード》 や《デス・コアラ》のようなバーン・モンスターと見て間違いないわね。なら…まずはライフの削り合いで優位に立つ!決して遅れはとらない!)
 エリザベートがターンエンドを宣告するまでの短い間、聖は次ターン以降への構想を纏め上げ、その上でドローフェイズに移る。その動きには一寸の淀みもない。
「私のターン、ドロー。手札から永続魔法発動。《悪夢の拷問部屋》――更にモンスターをリバース。《ステルスバード》。まずは1300ダメージ」
「………痛い」

斉藤聖:7000LP(4枚)
エリザベート:6200LP(3枚)


 《悪夢の拷問部屋》からの《ステルスバード》。【バーン】の常套戦術である。一瞬にして入れ替わるライフ。これこそがバーン合戦の醍醐味と言えるかもしれない。聖の気力は未だかってないほどに充実していた。
(いける。カードの流れもいい。これなら、アレを使うまでもなく勝てるかもしれない。次は《ステルスバード》を元に戻して次のターンへの布石にする。そし てメインフェイズ2で《デスコアラ》召喚。単発のバーンよりこっちの方がよほど早い。そして《悪夢の拷問部屋》の効果があればアイツのバーン・モンスター より尚早い。さあガンガン行く……)
 だがその時だった。初日最大の悪夢が始まりの瞬間を迎える。
「《聖なる輝き 》!!」
(え? 何? 《聖なる輝き》!? このタイミングで? 裏向きセット禁止!?)

 其処に置かれたのは《聖なる輝き》。その一手を打ったエリザベートの決闘盤がやや上段気味に構えられ、その表情がところどころ隠される。「決闘盤が装着された左腕」という不完全なブラインドから漏れるその美しい顔には、遠目からでは読み取れないほど微細な微笑みが浮かんでいた。
(ヤバイ。アレの所為で《デスコアラ》を出す意味がなくなった。それに《ステルスバード》も止まる。発動タイミングはちょっと遅かった気がするけど…この 娘見かけに依らず中々したたかじゃない。サイクル・リバース封じなんてね。でも…このままでは終わらない。ここは一端引いて、次のターン、向こうの思惑を こてんぱんに潰してやる)
 聖は多少悔しそうな顔を見せつつも、直ぐに立ち直りターンを進行。この程度で手を止めるわけにはいかない。
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
 聖は考えていた。此方の手を一端止めた向こうの出方は如何なるものか、と。
(向こうのデッキも当然【バーン】。それ相応の火力を喰らうかもしれない。でも…ここは一端耐え忍ぶ。ん?でも、《聖なる輝き》がある以上向こうのバーン・モンスターだって使用不可能。アレ? もしかして……いやまさかそんなことは……)
 その『まさか』だった。エリザベートの眼光が一段と鋭くなる。これは先程までの何処か抜けた眼ではない。闘う者―決闘者の眼だ。今にして思えば斉藤聖は若干油断していた。この『特殊決闘』を何処か甘く見ていた―
「私のターン、ドロー。裏向きでセットした《トロイホース》を生贄に捧げ……
(『上級用生贄素材』? つーか、このタイミングで生贄召喚!?まさか、そんなまさか……)

究極恐獣(アルティメット・ティラノ) 地動遍殺!!
千切れ飛べ!! Stealth Bird!!!!

斉藤聖:4700LP(手札3枚)
エリザベート:6200LP(手札3枚)

 突如襲来した恐獣によって無残にも噛み砕かれる《ステルスバード》。その圧倒的な存在感が聖の眼前を覆う。だが、聖にとってそれはいる筈の無いモンスター。存在する筈の無い最上級の『地ならし屋』。
(そんな、嘘でしょ。典型的な最上級打撃モンスター!? 直接攻撃禁止のこのルールで!? ダブルコストの《トロイホース》まで使って召喚する? そんな―! あの《聖なる輝き》はこの為の布石!?ありえない)
 突然の強襲劇を受けた聖は驚愕を隠し切れない。彼女は揺れていた。エリザベートの前で揺れていた。
(確かに…直接攻撃が禁止ってだけで『モンスターで戦闘ダメージを一切与えてはいけない』なんてこと誰も言ってない。そう考えれば確かにこの戦法は盲点だったかもしれない。でも、だからってそこを敢えて狙う?)
 だが、エリザベートの眼光が告げる真実はその『暴挙』が『計画』であったことを示している。彼女はこれを狙っていた。むしろこれ以外の何も狙っていなかっ た。彼女は聖に向かってその肢体を翻し、改めて自己紹介を試みる。その一文は、スペイン語とフランス語がごちゃ混ぜにされていた。

Hola! ( よろしくね ) Je m'appelle Elisabeth ( 私がエリザベートよ。 ) .」




【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
初めて本書きした決闘。労多くて得るもの少なしといったところ。
試行錯誤の時期。聖なる輝きとかその場で検索してテキスト読んでました。




↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。



↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です


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