エリザベートは形を持たない。彼女が何処から来て何処に行くのかは誰にもわからないことである。彼女は今でこそ『決闘十字軍』に所属する決闘権化の一人である。だが明日の彼女がそうである保障は何処にもない。彼女は常に混沌を隣り合わせにした人生を送っている。彼女は時には従順な犬であり、そうかと思えば何者にも縛られない猫になっている。エリザベートにとって、それらは皆瑣末なものであった。
 彼女はフランスで生まれ、一身上の都合でヨーロッパを転々とする。元々好奇心が強かったのだろう。世界の広さを確認した彼女が、その後多様な言語と文化を学び、年上のダルジュロスと共にヨーロッパ中はおろか、世界中をその足で歩き回ったのはある意味で必然だったのかもしれない。彼女は気の赴くまま戦地すら渡り歩いた。決して怖い物知らずなわけではない。多様な世界の持つ『怖さ』は十分に知っていた。或いは『怖さ』を既に経験していた。しかしそれで止まるには彼女は好奇心が強すぎた。
そんな彼女は決闘に出会い、以後世界中で決闘を行う事に喜びを見出している。あらゆる異言語・異文化に情熱を見出し、その一方で少なからず失望を感じる事があったエリザベートにとって、『決闘』という名の世界共通言語は何処か心を惹かれる物があったに違いない。彼女はあらゆる可能性を、その無限に近い好奇心故に愛していた。同僚のディムズディル=グレイマンは彼女をこう評す。「この世の魑魅魍魎をその『器』一個で受け入れようとする人間だ」と。

 彼女は『決闘』なるものを心から愛していた。しかし、その愛し方は何処か……――

第7話:Aurevoir(オール・ヴォワール)

「どう? 少しは驚いた? ね? ワクワクしたでしょ?」
 エリザベートが無邪気にはしゃぎたてている。その顔を四字熟語で表すとするなら、まさしく喜色満面と言った所。その姿に悪意らしきものは一切感じられない。聖は当惑していた。先程の、対峙する者に殺気すら感じさせた……あの峻烈なる決闘者とのギャップに―
「何が『ね?』よ。聞いてないわよそんなの」
「アレ? そうだっけ」
 エリザベートによる気の抜けた返事を半ば無視して、聖は脳内をフル回転させる。まずやるべきこと…それは状況整理。大いに乱されてしまった決闘ビジョンの再構築だ。彼女が再構築の為脳髄に火を灯すその間、エリザベートが尚もターンを進行する。その表情はやはり何処か楽しげだ。
「カードを1枚伏せて……私はこれでターンエンド。」
 激動に彩られたエリザベートのターンが終了し、聖のターンランプが点灯する。時間にすれば約3分。だが聖にとっては15分ぐらいに感じられる長い第2ターンだった。
「私のターン、ドロー。」
 ここで聖は引きたくないカードを引く。いや、デッキを自分で組んだ以上、元々は引きたいカードだったのだろうが…事ここにいたっては対戦相手を喜ばせるだけのカードだった。
(あっ…《抹殺の使徒》。でもこのタイミングじゃ手札の《デス・コアラ》共々ただの紙切れ。……そうか! これがアイツのもう一つの狙い。サイクルリバースを潰す《聖なる輝き》と、《聖なる輝き》で表向きになったモンスターを片っ端から潰していく《究極恐獣》。どちらも『裏守備』に関連した戦法とは対極。それがアイツのデッキの基本構造。だとしたら、私が予めリバース系メタとして用意した《抹殺の使徒》や《シールド・クラッシュ》は、この試合に関してはただの紙切れってこと? くそっ! 気づくのが遅すぎた。それにしてもアイツ、予想以上のやり手。この決闘の為に十重二十重の戦術を練ってきている。並みのカードゲーマーじゃない……。今思えば…最初の『火炎地獄』すらあの瞬間の為の布石だったのかもしれない。あ〜もう!こんなことなら保険として《魔法の筒》でも入れとくんだった。このままじゃヤバイ!《聖なる輝き》と《究極恐獣》がある限り此方のバーン・モンスターはほぼ封じられた。出したが最後。ダメージレースでボロ負けしちゃう。そりゃ直接攻撃禁止の文言上、此方からモンスターを一体も出さなければ私が《究極恐獣》の攻撃で負けることはないけれど…そんな消極策じゃアイツには勝てない。なら……)
 聖は、動揺しつつも状況整理を終え、体制の立て直しを図る。彼女が自らの決闘に対し最初に施した応急処置。それは腐ってしまった手札の再構築だった。
「だったら! 私は罠カード《八汰烏の骸》と《強欲な瓶》を順次チェーンに載せ発動。さらにカードを2枚引く」
「更に手札から《堕天使の誘惑》

《堕天使の誘惑》 (通常魔法)
このカードの発動成功時、手札を2枚捨てる。カードを2枚ドローする。

 現状では使い物になりそうにない《抹殺の使徒》と《デス・コアラ》を捨て、新たにカードを引きなおす聖。この手札入れ替えにより手札の総数こそ一枚減って しまったが、二枚の紙切れを廃品回収に出せた結果、むしろ手札は一気に補強されたといってよいのだろう。
 相手がどんな手でこようがこの「手札交換」である 程度の修正が可能となる。聖は既に落ち着きを取り戻していた。確かに相手が《究極恐獣》を使ってきたのは驚きだ。そしてそれにより《抹殺の使途》が刺さら なかったのは確かに口惜しい。だがそれは相手が【フルバーン】でも同じ事。元々が、相手が素直に【フルバーン】で来ない時用の保険だったのだ。保険をかけ た結果、一瞬使えると思ったが使えなかった。それだけのことに過ぎない。考えを取り纏めた聖は、おもむろに反撃を開始する。

「手札から《キャノンソルジャー》を召喚。更に手札から《ダンディ・ライオン》を捨てて《閃光の宣告者》を発動。《悪夢の拷問部屋》の効果を加え1500ダメージ」

斉藤聖:4700LP
エリザベート:4700LP

「墓地に《ダンディライオン》を召喚した事でトークン二体発生! さあ…喰らいなさい。《悪夢の拷問部屋》の効力下トークン二体とキャノンソルジャー本体を生贄に捧げ……2400ダメージ! これでどう?」
「うわ露骨! もしここにいるのがD君なら『君の決闘には美学が足りない』とか言われてますよ?」
「D君って誰よ。精々ほざいてなさい」

斉藤聖:4700LP(手札3枚)
エリザベート:2300LP(手札2枚)

 一瞬にして聖とエリザベートのライフが逆転する。その様相は、天地を切り裂く雷が一瞬にして全てを燃やし尽くすかのごとく。《究極恐獣》の付け入る隙を与えない、瞬きする間の連続攻撃。
「形勢逆転……私はこのままターンエン……」
 だが、エリザベートによる第二の刺客は既に用意されていた。息をつく暇のない猛攻が聖に迫る。
「罠カード発動。《竜の歯》!」
「なっ……」

《竜の歯(トゥースオブドラゴン)》
永続罠
3000ポイント以上のダメージを受けたターンにのみ発動可能。自分のスタンバイフェイズ時、このカードの上にトゥース・カウンターを一個置く。このカードの上にカウンターが2個以上乗った時、全てのカウンターを生贄に捧げ、対戦相手のフィールド上に2体までの「武装兵トークン」(攻/500・守/500)を守備表示で特殊召喚する(攻撃できない)。「武装兵トークン」のコントローラーは自分のスタンバイフェイズ時、このトークン一体につき500ダメージを受ける。

《竜の歯》……。そんなものまで!?」

【竜の歯】 
 火力内臓系トークンの製造能力を持った永続罠カード。その本質は、一端起動すれば2ターンで1000ダメージ、4ターンで4000ダメージ、6ターンでなんと8500ダメージを与えるという強烈極まりないバーン系の殺戮兵器である。だがその一方で@発動条件が対戦相手次第A時間が掛かりすぎる上に除去に弱いBキャノン・ソルジャーの弾或いは上級モンスターの餌として使われ た日には眼も当てられない…といった理由でトーナメントレベルとしては扱われず、専ら地雷としての運用がなされていたカードでもある。だがエリザベートは その『地雷』を今ここで起動した。このプレイングに対しまたしても驚愕を強いられる聖。彼女は再びデュエルプランの変更を強いられる―。

(トークンの十字砲火も勿論厄介だけど、本当にやばいのは《究極恐獣》の存在。向こうが《聖なる輝き》等を利用した間接攻撃を軸とするデッキならば、今後 更なる追撃として攻撃表示強制スペルが使用される可能性も十分にありえる。そうなった場合《究極恐獣》の全体攻撃によって攻撃表示の武装兵トークンが全滅 するわけだから…5000ライフを一気に削られる!? てゆーか即死!?)
 聖がアレコレ考えを巡らせる中、エリザベートは静かにターンを開始する。
「私のターン、ドロー。まずはスタンバイフェイズ。トゥースカウンターを《竜の歯》の上に一個置く。更にメインフェイズ。カードを2枚伏せてから…ターンエンド。さあカウントダウン。ドキドキするよね、こういうのって。貴方もそう思うでしょ? ね、ヒジリ」
 無邪気な面持ちから死刑宣告を読み上げるエリザベート。その発言には常にある種の『無気味さ』が付き纏っていた。勿論カウントダウンは決してハッタリではない。しかし、それは聖がこのまま何もできなかったならの話である。今日の聖は存外にしぶとい。このまま終わる気など更々ないという表情。聖の手札には既 に逆転の手が用意されている。エリザベートが十重二十重の『策』を繰り出す水面下で、聖の『策』もまた結実の日を迎えようとしていたのだ。
「私のターン、ドロー。さぁて、私の本領を見せてあげるわ。」
「え? 何。見たい見たい」
 相変わらず無邪気な調子を崩さないエリザベートに対し、聖は一枚の魔法カードを指し示す。
「魔法カード発動《大嵐》!!」
「え? それだけ? だったらトラップ発動、《セーフティシャッター》!」

《セーフティシャッター》
通常罠
魔法・罠カード1枚を破壊する効果を無効にする。自分は500ライフポイント回復する。

 《竜の歯》の周りを覆う強靭なシャッターが一瞬にしてせり上がる。こうなってしまっては、巨大人型起動兵器の自爆ですら《竜の歯》を破壊する事は敵わないだあろう。攻めばかりではない。守りもまた一流。
「私はこれで《竜の歯》を守る。更に罠カード発動《八汰烏の骸》。カードを1枚引く」
 緊急防御とドローサポートによって、《大嵐》によって破壊されたのは《聖なる輝き》と《悪夢の拷問部屋》の二枚だけにとどまった。だが聖は焦らない。冷静に戦局を見つめている。
(チッ、そうそう簡単にやらせてはくれないか。でもこれであの厄介な《聖なる輝き》は破壊した。さあ仕上げといこうじゃないの。見せてやる! 私の切り札)
 この《大嵐》によって、1つに《聖なる輝き》が消えたこと、そしてもう1つあることを確認した聖は遂に行動を起こす。全てはこの時の為の布石だった。
「《ステルスバード》《八汰烏の骸》《強欲な瓶》《堕天使の誘惑》《抹殺の使途》《デス・コアラ》《キャノンソルジャー》《ダンディライオン》《閃光の宣告者》《大嵐》…そして今《大嵐》によって墓地に落ちた《悪夢の拷問部屋》。これで11枚。いくよ!手札から《カウンター・バード》を召喚。スレッショルドによって得た追加能力発動…《究極恐獣》を破壊! どうだっ! これが私の『領域』よ!」

《カウンター・バード》
☆4 鳥獣族/闇属性 0/2000
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。このカードはスレッショルドを持つ。
スレッショルド――自分の墓地にカードが10枚以上存在している時、1ターンに一度だけフィールド上のモンスター一体を破壊し、そのコントローラーに1000ダメージを与えることができる。

「そして効果によって1000ダメージ! (これで射程圏――)」

斉藤聖:4700LP(手札1枚)
エリザベート:1800LP(手札2枚)

 遂にライフ差が3000にまで広がる。だが、エリザベートはその間瞬き一つしない。ただ微笑むだけである。楽しそうに……。
「へぇ。スレッショルドかぁ。そういえばあったなぁ。すっかり忘れてたっ!でも面白いよねそのメカニック。私も今度使ってみよっかな。いい?」
「是非使って見るといいわ。その為に…今日忘れられなくしてあげる。私は《カウンター・バード》を裏向き守備表示に変え、そのままターンエンド」
 自信満々の面持ちでターンを終える聖。だが聖は自覚していた。まだ自分の勝利には今一歩遠い事を。エリザベートの場には大量殺戮兵器が未だ残されている。ここからが真の正念場。
「じゃあ私のターン、ドロー。《竜の歯》の上にトゥースカウンターを2個置いて…トゥースカウンター2個を生贄に捧げる。さあ…いよいよ登場。クライマックスよ」
(遂に来た――! 絶対に、負けない)
「知ってる? このカードの由来。かってギリシャ神話の英雄が、退治した竜の歯を故郷の大地に撒いたがさあ大変。その『歯』が芽を出し樹と変わり、最後には武装兵となって英雄に襲い掛かったとさ。報仇雪恨! 出て、武装兵軍団! その怨みと共に全てを焼き尽くせ!」
 《竜の歯》の効力によって聖のフィールドに武装兵トークンが二体召喚される。だが、このトークンは決して聖の味方ではない。むしろ獅子身中の虫として聖を蝕む忌むべき存在なのである。その後エリザベートはカードを1枚伏せ、これ以上は何もせずにターンエンドした。その眼は先程《究極恐獣》を召喚した時と同じ…獲物を狩る獣の眼だ。ターンランプが聖の決闘盤に点灯する。
「私のターン、ドロー」
 スタンバイフェイズが到来し、聖のライフが武装兵トークン二体によってきっちり1000削られる。ライフポイントの差は2000。両者共にライフを半分以下に減らし、終盤の訪れを告げる鐘が何処からともなく鳴り響く。

斉藤聖:3700LP(手札2枚)
エリザベート:1800LP(手札1枚)

(チッ。確かにライフポイントはこっちの方が断然上。でも序盤《聖なる輝き》と《暗黒恐獣》の脅威をかわすため強行軍に走りすぎてしまった。事実、今の手札にはバーン・カードがない。もしこのままいけば次のターン、二体の軍団兵トークンによって1000LPが削られてこっちの残りは2700LP。そして次の次のターンにはトークンの数が4体になるから……残りライフポイントがたったの700!? アッチが先手第一ターンに《火炎地獄》を撃ってきた事を考えると700はキツイ。既にアイツが単発のバーンカードを引いている可能性のことも考えれば、ここで動かなければまず間違いなく勝負が決まる。それなら……)
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
 しかし聖はカードを一枚伏せただけで何もせずターンを終了し、ターンランプがエリザベートの方に移行する。聖の、怠慢にも映るこのプレイングに対し、エリザベートもまたトゥースカウンターを一個《竜の歯》に置いただけでターンエンド。このまま聖のライフが削られるのを待つ構えだ。だが、そうは問屋が降ろさなかった。エリザベートのターン終了にチェーンして聖が罠カードを発動する。時は、満ちた。
「罠カード発動《緩慢な潮流操作》!」

《緩慢な潮流操作》
通常罠
デッキから1枚スレッショルドカードを選択し、お互いに確認して自分のデッキの一番上に置く。

「さあ今日のびっくりどっきりメカ! 私がデッキから探したスレッショルドカードは…これだ!」

《傲慢なる絶対者》
☆7 戦士族/闇属性 0/0
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。このカードはスレッショルドを持つ。
スレッショルド――自分の墓地にカードが10枚以上存在している時、このカードは戦闘では破壊されない。2500のダメージを与えることができる。この効果は1ターンに1度しか発動できない。

 それは聖が、デッキ構築タイムの最後の最後になって投入した最上級スレッショルド・モンスターだった。このカードを持って聖のスレッショルド戦略は完結する。
「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ!まずは癪だけど軍団兵トークンによるダメージで1000LPをロスト。さあ、今度はこっちの番。眼を見開いてよーく見てろ!」

斉藤聖:2700
エリザベート:1800


「私は軍団兵トークンを二体生贄に捧げ…この《傲慢なる絶対者》を召喚する」
憎むべきお荷物野郎二体を生贄に捧げることによって聖が召喚したのは先程サーチした最上級スレッショルドモンスター《傲慢なる絶対者》。哀しいまでの初動の遅さと引き換えに、高い殺傷力を備えた聖のフィニッシャー。『火力』が重要となるこの試合の為に聖が用意した最終兵器。
「効果発動! 2500ダメージ!」
 聖の宣言と共に《傲慢なる絶対者》の持つ杖から裁きの雷が放出される。これを喰らえば。
(これが決まれば勝てる。でも――)
「《Pikeru's Circle of Enchantment》!」

 聖が予想したとおりやはり現実はそう甘くない。エリザベートが伏せていた《ピケルの魔法陣》によって《傲慢なる絶対者》の能力が無効化される。だが聖は決して慌てない。この対戦相手の実力を認め、その上で相手をやり込める為の算段を既に整えていた。彼女は十分な勝算を持った上でターンエンド。ターンランプがエリザベートの決闘盤に点灯する――。
(アイツのデッキの特性…今までの経緯から見る限りでは、メインの間接攻撃とサブの直接火力で大ダメージを狙うデッキ。だとすれば、その二つの要素に加 え、更にモンスター除去を入れるスペースが残っているとはとても思えない。《ピケルの魔法陣》のような緊急防御を保険としてデッキに搭載しているならばそ れは尚更のこと―。ならば戦闘破壊耐性持つ《傲慢なる絶対者》の 独壇場。例えあちらが次のターン新たなトークンを出してきてもそのダメージは1000止まり。残り1700あれば何らかの直接火力があってもおそらくは耐 えられる。勿論絶対ではないけれど……次のターンで勝てる。いや…勝つ!勝ってコウジと並ぶ。並んでみせる!私はスレッショルドを―死骸を数える事を生業と する墓地決闘者(グレブヤード・デュエリスト)。算盤勘定なら誰にも負けやしない――)

 しかしそのときだった。

「Aurevoir.いいデュエルだった。ディムズディルは期待できないって言ってたけど、面白かった」
「おぉるヴぉわある!? いいデュエル? アンタ、何言ってるの? まさか降参するってわけ? 知ってるでしょ。この予選では得失点差調整のためのサレンダーペナルティがあることを……だったら!」
 エリザベートの眼光は何処か寂しげだ。まるで死んでいく同胞を見送るかのごとく、聖はその眼光に異様な何かを感じ取り、その不安から更に言葉を紡ぐ。だがそれは喋るというよりは喋らされているといった方が幾らか正確だった。聖の不安が一文節毎に増大して行く――
「まさか私が負けて終わるっての? 冗談も休み休み言いなさい。現に私はアンタから押し付けられたトークンを生贄に捧げて……生贄に……捧げて?」
 そこまで言いかけて聖は何かに気がつく。否、もっと早く気づかねばならなかった。この決闘の、構造そのものに。
(直接攻撃禁止の文言の下、私が攻撃力の低いバーン・モンスターを防衛策抜きに展開することを予め先読みした上で《聖なる輝き》や《究極恐獣》を投入…序盤ライフを一方的に削り、私がモンスター維持を半ば捨てカードを高速で使い回すと見るや《竜の歯》で デメリット・モンスターを此方に押し付け…中盤更に私を追い詰める。それがこのデュエルにおけるアイツの今までの動き。じゃあ私が押し付けられたモンス ターを上級の為の生贄にする…それすらもアイツが先読みしていたとしたら。或いは『そこまで』が一つのデッキ構築プランだったとしたら…まさか!? そんな 馬鹿なことって!)
 だがそれが全てだった。メタのメタのメタ。予めたった一つの逃げ道を用意し、相手が逃げてきた所を待ち構えて撃つ。それは『決闘(デュエル)』などという生易しいものではなかった。これは、『狩猟(ハンティング)』だ。
「二個のトゥーストークンを生贄に武装兵トークンを二体そちらのフィールドに特殊召喚。更に! 《カウンターバード》《傲慢なる絶対者》を生贄に捧げ……《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を召喚! ……ターンエンド。」
「あ……あ……」
 そう、エリザベートのデッキは直接攻撃禁止という状況下において敢えて『モンスター』に拘ったデッキ。ならばこの可能性も十分過ぎるくらいに在り得たのだ。だが、全てはもう遅かった。この状況…そして先程のチェックメイト発言。そこから導き出される結論とは―。エリザベートの手札にどの種のカードが残さ れているのかは既に明白であった。聖は力なく自分のターンに入りカードを引く。その眼は幾らか泳いでいた。鋭い眼光で『その瞬間』を待ち構えていたエリザ ベートとは対照的に―
「私のターン……ドロー……」
 スタンバイフェイズ。武装兵とラヴァ・ゴーレムによって2000LPが削られる。

斉藤聖:700
エリザベート:1800

 無論攻撃力3000を誇るラヴァ・ゴーレムのコントロールを得た以上地上戦は制したも同然。あの《究極恐獣》ですら1LPも削ることができないこの攻撃力 をもってすれば、相手が何を出そうと殴り殺すことができる。だが、それはある一つの真実を指し示していた。単発火力による牽制から始まったこの決闘。引き 続き単発火力で来ると想定した、聖の裏をかくように登場した究極恐獣、竜の歯による地上戦、更にはその地上戦を自ら終わらせる《ラヴァ・ゴーレム》の登場、ならばその次にくるのは?メインとして用意された、モンスター召喚による地上戦を包み込むかのように「始まり」と「終わり」を彩るその一発。常に後手 後手の戦いを強いられ、状況の変化に翻弄され続けた斉藤聖には及びも付かぬ事実であったが、それは一つの『輪』を描いていた。バーン推奨の環境の中、バー ンで始める事で相手の裏をかき、そのまま地上戦をリード、更には自分から地上戦を終わらせる事まで織り込んだその戦い様。一つの決闘の中で、自らメタを1周させることでその試合を駆け抜ける、掴みどころの無い決闘――

 エリザベートの手に光が集まり、その光が一つの具体的な形状。火球を形成する。この壮大なエフェクトはまさしく火力呪文。聖は既に知っていた。そのカード がなんであるかを知っていた。カードパワーそのものは決して高くないものの柔軟性に優れたバーン・カード。エリザベートの眼光は、既に祭りの後であった。
(そ……そんな。負けたく……ない。負けるのは嫌――)

オール・ヴォワール(また会いましょう)!

《閃光の宣告者(フラッシュ・デクレアラー)》!!

 火力呪文特有の轟音と共に、聖の心臓目掛けて火球エフェクトが叩き込まれる。ライフポイント「0」。
「試合終了。エリザベート選手の勝利です」

【試合結果】
●斉藤聖(招待選手)―エリザベート(招待選手)○
得失点差:±180

 試合終了のアナウンスが響き渡り、決闘が終わった。聖は崩れ落ち、エリザべートの眼は何処か虚ろだった。斉藤聖は完全に味わいつくしたということなのか。大会初日の幕が静かに下りる―


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
カード単位のメタゲームなど、新たに環境作って小説でやったところで、結局は一周して終わりだよっていうのを1話の中で描いて見せようとしたが、色々不足しててあんま伝わらなかった、という実に微妙なお話です。最初からその予定ではあったけど、もうこういう話は書かないんだろうなぁ。ストレスが溜まる一方やしなぁ。教訓教訓。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です

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