ラウンド2。後がない信也と余裕のヴァヴェリ。その火蓋が再び切って落とされる。
「それでは定刻になりましたので、両決闘者前へ!」
「元村信也……いい機会だ。勉強していクがイイ」
 ヴァヴェリが拙いながらもはっきりと伝わる日本語で信也に助言する。その時信也は、見ようにとっては侮蔑とも取れるその発言に対し、うやうやしく返事を返した。
「はい。そうさせて頂きます。」

【ラウンド2】
元村信也(翼川高校)―ヴァヴェリ=ヴェドゥイン(オーストラリア)


「わしのターン、ドロー! わしはカードを1枚セット。モンスターを1体裏守備表示で召喚。ターンエンド」
 ヴァヴェリが何時も通り『後の先』を狙うセットで第一ターンを終了する。この、どっしりと構えた不動の決闘者を前に、脆くも敗れ去った決闘者は数多い。 1戦目の信也もその1人と言えるだろうか。だが、信也の眼光は先程の苦しそうなそれとは異なり、鋭利な刃物を思わせる殺気を備えていた。信也が、動く。
「僕のターン……ドロー。僕は《光の護封剣》を発動。そのモンスターを表にする」
「なっ……」
「表になったモンスターは……やはりリクルーターか。なら僕は《サイバー・ドラゴン》を召還。更に《地砕き》を発動! 《見習い魔術師》を破壊する。ダイレクトアタックだ!」
「《炸裂装甲》!」
「《我が身を盾に》!」
「なんと!」

元村信也:6500LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:5900LP

 信也の手は異様なまでに早かった。第1ターンから《光の護封剣》に加え《我が身を盾に》まで使った奇襲。この奇襲を受けた当事者であるヴァヴェリは多少の動揺を見せる。
(小僧のデッキは、データにあった【グッドスタッフ】のそれに違いない。先程の【暗黒界】から必須カードを10枚程抜いて、サイドボードの30枚に上乗せ した例のアレか。此方が本来のデッキか?じゃが、データよりも仕掛けが早い。使用カードもそうじゃが、思考に淀みが感じられん。まぐれ当たりか?それと も……)
「ターンエンドだ。さぁ、かかってこいよ、爺さん」
「ほざきよって。わしのターン……ドロー」
 ここでのヴァヴェリ。信也の奇襲により長考を強いられる。
(わしが引いたカードは《ピラミッド・タートル》。このデッキ、そしてこの状況、普段なら相手へターンを渡す前にこちらから自爆特攻してでも次に繋げる局 面。戦線を破壊し尽くされる前に一刻でも早く『堤防』を築きたいところじゃ。じゃが向こうの場に《光の護封剣》がある以上、それは不可能というもの。これ は計算か?それともただ焦って早攻めしとるだけなのか? まあそれも次のターンでわかるじゃろ。亜奴がどのような……)
 ヴァヴァリが再び元村信也を仰ぎ見るが、そこには無表情を貫く16歳がいた。ヴァヴェリはこの瞬間、本能的に悪寒を感じる。違う。少なくとも先程の小僧とは何処かが違う。
「わしはカードを一枚セット。モンスターを一体守備表示でターンエンドじゃ。」
「僕のターン、ドロー。また性懲りも無くリクルーターか? それとも……いいさ。潰すだけだ。徹底的、徹底的に、徹底的にな。あんたに時間は……1秒たりとも与えない」
(この小僧。まさか、謀りおったか……!?)
 電獣に対し遂にその牙を剥いた信也。観客席のディムディルは、いち早くこの動きを察知する。
「雰囲気が変わったな。使用カードと事前の情報から考えるに、あれが元村信也の駆る【グッドスタッフ】か。先程の試合より一回りか二回り分大きな威容を備 えている。1戦目を軽く取ったヴァヴェリのデッキに大した変更が成されていない……ヴァヴェリのデッキがリクルーターを多用するデッキのままであることを 読みきった上での一撃……か。なぁ、アキラ。彼は普段からこういった早攻めを得意としているのか?」
「いや。アイツはどちらかというと相手を見てから対応するタイプだ。【グッドスタッフ】の特性そのままにな。どっちかといえば、遅攻め志向って気がしなくもないな」
「成る程。ならば、対戦相手がヴァヴェリであることを意識した上でのカード運用と捉えるべきか。となると……一戦目はやはり罠か。一瞬でも穴が空けば、それは大水を流し込む隙となる」
「罠……!?」

―第3ターン―

「《増援》を発動! デッキから、《マジック・ストライカー》を手札に加える。いくぞ! 墓地の、《地砕き》を除外して《マジックストライカー》を特殊召還! 更に……!」

元村信也:6000LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:3200LP


(ヌゥ……此方の『財布事情』を読みきった上で迷い無く詰めてきよるか……)
 ヴァヴェリが活目する。この少年はやはりダルジュロスが言ったとおりのマーク対象なのか。少なくともヴァヴェリが今、それまでの経緯から導き出しつつあ る元村信也は決して只者ではなかった。ヴァヴェリが、徐々に『デッキウォッチャー』の顔に変わっていく。幾多の決闘を勝ち抜いてきた勝負師の顔。圧勝だった1戦目には変わりきらなかったその表情。だが信也は怯まない。真っ向からヴァヴェリに立ち向かっていく。その度量はとても16歳は思えぬ程。この顔は、勝負師の顔に他ならない。彼は言い放った。
「ヴァヴェリ。あんた俺が全てを失って負けると言ったよな。だが、全てを失って負けるのはあんただ」
「ヌゥ……」
「俺の日本語……聞こえたか?じゃあ『続き』も頑張って聞いてくれ。」
「『続き』じゃと……?」
「魅せてやるよ。これが俺の……【ベストスタッフ】だ」
(【ベストスタッフ】か。よく言ったもんじゃわい……小僧!)
 ヴァヴェリの表情が更に険しくなる。挑発的な表情でヴァヴェリを睨みつける信也。築かれた優位を生かし、そのまま圧倒する構えだ。だが、信也はまだ経験 していない。『電獣』の本気を未だ経験していない。この決闘を揺るがすのは、一体如何なる類の力か。それは、これから明らかとなる。

[元村信也]
年齢:16歳
国籍:日本
所属:翼川高校カードゲーム部
属性:標準決闘者(スタンダード・デュエリスト)
異名:―――――
得意デッキ:グッドスタッフ
特技:ポーカーフェイス
備考:実質的な決闘歴半年足らず。

VS

[ヴァヴェリ=ヴェドゥイン]
年齢:68歳
国籍:オーストラリア
所属:決闘十字軍(デュエルクルセイダーズ)
属性:吸収決闘者(ドレイン・デュエリスト)
異名:電獣
得意デッキ:メタオブジェクション
特技:札魂吸引(カードバキューム)、札魂吸収(デッキドレイン)
備考:世界最高峰の『デッキウォッチャー』


 

第25話:“Best Stuff”


「ねぇ、ユウイチ。私思うんだけど……これって、シンヤ君が自分で作った流れなんじゃ……」
「ああ。間違いない。シンヤはただ自滅したわけじゃなかったんだ。第一戦目はわざとだ。本気で素人丸出しな【暗黒界】を敢えて使用して相手の油断を誘いつ つ、本命の【グッドスタッフ】をより高度な、【ベストスタッフ】辺りに錯覚させる。予め90キロのスローカーブを見せた後なら130キロのストレートが 140キロにも150キロにも見える……ってのと似たような理屈だな。優れたデッキ観察眼を持ち、相手のデッキ習熟度まで完璧に見切れるヴァヴェリ=ヴェ ドウィンだからこそ……ってわけだ。」
「成る程ね。どうせ相手は2戦目3戦目に強いヴァヴェリ=ヴェドゥイン。とりわけ、相手のデッキを完全に見切った3戦目には無類の強さを誇るわけだから……最初から第一戦目を捨て試合と考えたってこと?」
「ああ。サイドボーディングやメタデッキ構築に優れた、超一級のデッキウォッチャー相手に対し、速攻による2連勝狙いを考えるのは当然っちゃ当然だ。だ が、信也はその考え方を一歩無理矢理推し進めた。そして、その布石となるのが1戦目におけるあの稚拙な【暗黒界】ってわけだ。「【グッドスタッフ】しか一 線級として使えるデッキを持たないのなら、スーパー・アグレッシブ・サイドボーディングの可能性を秘めた30枚のサイドボードも宝の持ち腐れ。ならばいっ そのこと相手の油断を誘う為の“ネタ”として30枚をばら撒いた方が幾分マシ」ってな。普通なら1戦目2戦目で2連勝を狙う所を1個づらし、2戦目3戦目 での二連勝を狙う。こうすれば、1戦目に必死こいて向かってきた対戦相手に肩透かしを食らわせられる一方、自分だけ相手の力量を計ることができるってわけ だ。苦肉の策っちゃ苦肉の策だが……意外性はあるな。何せ相手はディフェンシブ・サイドボーディングの使い手。裏を返せば、緒戦で圧勝してしまった以上、 一々デッキを変える必然性がない。そこが狙い目ってわけだ」
「時々無茶をやるわよね、あの子って」
「大胆な奴だよ。騙しきる為とはいえ、本気で使ったことのないデッキを使うのは並みの心臓じゃない。まぁ、そうでもしなけりゃ、一片の油断すらあの爺さんからは引き出せないだろうからな」

 勇一の解説は淀みなく理論的。流石は翼川のリーダーを長期に渡って勤めあげた男といったところか。だが、皐月は心の何処かで不安を抱いていた。そしてその不安は皐月だけのものではない。勇一もまたそうだった。相手がヴァヴェリ=ヴェドゥインだからこそ、その策は高い効果を見込めた。相手の態度でトーシロか否か を8割方見抜けるヴァヴェリだからこそ、その策は有効だった。だがその一方で、ヴァヴェリ=ヴェドゥインだからこそ、ここからの巻き返しもまた有り得るの ではないか、と。
「確かに……今のところシンヤ君が押している。このままいけば2戦目『は』取れるかもしれない。でも本当に、それだけであの……オセアニア地区最強クラスの決闘者を……堕とせる?」
 この、皐月の疑問に対し、勇一は2〜3秒押し黙った後こう言った。
「わからねぇな。電獣の底が何処まで深いか。勝負は其処で決まる」 

―第4ターン―

「わしのターン……ドロー。小僧。そのあまりに稚拙な1戦目には、まんまと騙されたわい」
「……さぁ、なんのことやら」
「演技ならば容易に見破っていよう。じゃが本当に使ったことのないデッキを持ってわしを欺くとはの。気を抜かぬと言いつつ心のどこかで見縊っていた。侮っていた。油断していた。自分でも気がつかぬほど小さい、たった一点“しみ”のような心が生まれとったようじゃ。いや、ここはその“しみ”を、明るみに出したお主の手業を褒めるところか。じゃが、もうわしに隙はない。少々……攻めが遅かったの! 行くぞ小僧!」
「何言ってるのかよくわかんねぇよ。説教するならもっとちゃんとした日本語覚えてからにして下さいってな。さっきから、耳が痛いんだよ。あと、その笑い声はやめてくれ。いい加減聞き飽きた」
 徐々に殺気を露にするヴァヴェリに対し、信也も精一杯口撃を仕掛ける。丁々発止―
「フォーッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ!!!!」
(爺さんの気配が更に変わった。ここが正念場――)
「《天使の施し》発動! わしはカードを3枚引いて……《ネフティスの鳳凰神》と《ネフティスの導き手》を墓地に送る。更に! わしは手札から《光の護封剣》を発動。更にィ!モンスターを守備表示。カードを1枚伏せてターンエンド! さあ……真の決闘の始まりじゃ!」
(このタイミングで徹底した守備体制に入る……間違いない。これはアヤの時と同じだ。凌いで凌いで、その間に此方の手の内を吸い尽くす。2戦目を捨て試合にする気か……)
(少々予定が狂ったが十分に修正可能な領域。若さだけで、このわしを押し切れると思うな……小僧!) 

「ヴァヴェリ=ヴェドウィン。アレは自分の領域であるオーストラリアでの実績を誇るだけでは飽き足らず、世界各地を渡り歩き未知のメタゲーム、未知のデュエリスト、そして何より未知のデッキに負け続けた男だ。ただで負けるような、そんなやわな爺さんじゃないさ」
「負け続けた?あの爺さんが?」
「傾向も対策もなく裸一貫で決闘を、敗北を重ねることで熟成されたのがあの爺さんだ。貪欲に情報を吸収し続け、度重なる連戦を生き抜いたあの男は、こういう状況でこそ真の力を発揮する」
「信也の『勢い』がゴールテープを切るのが先、ヴァヴェリの『キャリア』が追いつくのが先か……てことか」
 ディムズディルとアキラが一言二言言葉をかわす間にも、決闘者達は熱い火花を散らしていた。信也が攻め、ヴァヴェリが守る。既にヴァヴェリは確信していた。元村信也の地力は福西彩以上である、と。 

「僕のターン、ドロー!」
 信也の手は止まらなかった。序盤の回転率がやや低い【ネフアンデット】の戦線が整わぬ内に、更なる追撃を試みる構え。信也は、本気だった。本気で、ヴァヴェリを仕留めにかかる。
(此方の手札は今ドローしたのを加えて3枚。《サイクロン》《地砕き》、そして《亜空間物質転送装置》。場には《マジックストライカー》と《リビングデッ ドの呼び声》が1枚づつ。向こうは手札2枚にセット2枚……内一枚は《光の護封剣》。モンスターは0。《封印の黄金櫃》発動中。カードアドヴァンテージで 考えれば五分。奇襲による損得が丁度相殺された格好。だがライフに関しては此方が圧倒的に優っている。あと一歩で押し切れる状況、か。だが問題は向こうの 守りだ。元々素のデッキパワーに関しては【グッドスタッフ】が引けをとることはそうそうない。だが、蘇生・上級を多用する【ネフアンデット】の底力は決し て軽視できない。さあ、やることをやるか!)
 信也はほんの数秒で状況検分を終えると、再び動き出した。彼の攻めは止まらない。
「手札から《サイクロン》を発動!《光の護封剣》を破壊する! バトルフェイズを宣言! 《マジック・ストライカー》を選択。直接攻撃だ!」

元村信也:4900LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:1100LP


「更に《リビングデッドの呼び声》! 《サイバードラゴン》を復活!追撃……」
「甘いわ! 此方も《リビングデッドの呼び声》を発動!」
「チッ、そうくるか!」
 信也はこの時、条件反射的に墓地に目を向けるが、そこに深い意味はない。彼の頭の中には既に、如何なるモンスターが墓地に落ちていたかがインプット済み であった。彼の脳裏には、ライフを200残せるリクルーター・《ピラミッド・タートル》が一瞬ちらついたが0.5秒で却下。ヴァヴェリの狙いが『アレ』に あることを、1秒ジャストで把握する。ヴァヴェリが守りを固めたターンに、《天使の施し》によって墓地に送られた『アレ』の到来を、信也ははっきりと予感 する。そのモンスターは、壁としても超一級。
「出でよ! 我が同胞!」
「やっぱ……そっちで来るかよ! 『電獣』!」

 

『王』 の末裔達は、それぞれ『紅の王』『蒼の王』『黒の王』『白の王』を名乗り、大部隊を率いて『鳳凰神』の『都』に襲い掛かった。だが『鳳凰神』は一切動じる ことなくその巨大な翼を展開、『都』を覆い尽くした。その後一年もの間蟻一匹通す事がなかったという。鳳凰神は健在也―

 

新世紀鳳凰伝説(レジェンド・オブ・フェニックス)


第三十八章『首都防衛戦』!

 

「《ネフティスの鳳凰神》……墓場から降臨じゃ。言ったろう。鳳凰神は不死身じゃと」
「クッ……つくづく、嫌な爺さんだよアンタは」
 バトルフェイズに壁を出された場合、《地砕き》は使用不可能。他方、メインフェイズ2に《地砕き》を使った場合は、次のターン《死者蘇生》《大嵐》効果で此方だけが損をする格好。信也は手を止めた。
「追撃は中止。僕はカードを1枚セットしてターンエンドだ」
「わしのターン。ドロー……」
 信也の“攻撃中止”を聞き取ったヴァヴァリが意気揚々と自分のターンを開始する。ヴァヴェリの動きがついさっきまでとは明らかに違う。殺気すら感じ取れ るヴァヴァリの挙動。元村信也は、その殺気を真正面から受け止めることを強いられる。『電獣』の殺気とは、ここまで強烈な代物だったのか、と。

聞くのじゃ鳳凰神よぉぉぉお!!

(この殺気……此方のモンスターを潰しに来るか……)
 信也が身構える。ヴァヴェリの攻撃に身構える。だが!
(いや、違う!まさか……この動きは……まさか!)

『王』 の末裔に追い詰められた『鳳凰神』は、一端『火口』に戻り、敵の攻撃を退けつつ力を蓄えた。『火口』は、まるで『鳳凰神』に呼応するかのごとく、入り込ん だ決闘者達を次々に焼死体へと変えていった。『鳳凰神』は火口の中で時を待った。天候が崩れ、『雷』が落ちるその日を待った。『雷』こそが、『鳳凰神』を より高みに上らせる『純粋要素』に他ならなかった。『鳳凰神』は雌伏する。その『時』の為に、『雷』の為に雌伏する――

 

新世紀鳳凰伝説(レジェンド・オブ・フェニックス)

第五十三章『火口大籠城』!

 

伝説的待機ィィィィィィィイ!!


(攻撃……してこない!? 《炸裂装甲》のような攻撃宣言をトリガーとする罠によって一端場が空く可能性を嫌ったか。だがそれにしても……なんて殺気だ。攻撃放棄に、ここまで執念を込めるかよ。全く……)
「不死の壁……突破できる物ならやってミロ。カードを1枚セット。ターンエンドじゃ」
「僕のターン、ドロー。手札から《貪欲な壷》を発動する」
 《貪欲な壷》によるドローで、信也は《マシュマロン》と、《風帝ライザー》を引き当てる。《風帝ライザー》、今回信也が使用している【グッドスタッフ】 においては、最も信頼できる上級モンスター。信也は、鬼神ライザーを引いたこの瞬間こそが勝負どころだと直感、今までの即断即決とは真逆の、長考体勢に入る。
(今僕の手札から考えると、選択肢は大雑把に分けて3つある。新たなカードを一切消費せず《マジックストライカー》単体でダイレクトアタックを決めるのが一つ。《マジックストライカー》或いは《サイバードラゴン》を生贄に《風帝ライザー》を召喚。《ネフティスの鳳凰神》をデッキトップに送って殴るのが一 つ。同じく《マジックストライカー》或いは《サイバードラゴン》を生贄に《風帝ライザー》を召喚。伏せカードをデッキトップに送ってぶん殴るのが一つ。さ あどうするか。後腐れのないようトコトンやってやる――) 

(一見すると、《マジック・ストライカー》で2ターンに渡って殴る、最初の案が最も無難に見えるが……却下だな。仮に、ここで《風帝ライザー》を召喚した 場合、最も恐れるべきは召喚をトリガーにした大量破壊兵器《激流葬》だが、既に虎の子の1枚がヴァヴェリの墓地に落ちている。よって最悪のシナリオは最初 から在りえない。ならばここで過度な尻込みを見せるのは流石に……な。単体攻撃じゃ駄目だ。あの爺さんに嫌われちまう) 

(となると僕が採用すべきは《風帝ライザー》を生贄召喚する流れだが……ここでまず考えられるのは《風帝ライザー》を生贄召喚、あの厄介な《ネフティスの 鳳凰神》をデッキトップに戻すという一手。だが、既に《サイクロン》《大嵐》は墓地送り。手札にも《風帝ライザー》以外の伏せ除去は……ない。チェーン発 動の可能性が怖い、伏せカードを狙った場合とは違い、鳳凰神を狙えば確実にクロックが稼げる一方で、攻撃宣言をトリガーとした『罠』に嵌る可能性が生まれ る。現に奴はこの試合まだ《聖なるバリア−ミラーフォース−》を使用していない。加えて次のターン、《封印の黄金棺》の効果で手札を補充できる以上、デッ キトップリターンが決定打になるとは限らない。更には残りライフの問題も考慮すべき、か。いかに鳳凰神が再生能力を備えているとは言え、奴の残りライフは たった1100。鳳凰神を一端場から取り除いて、“それなりのアタッカー”で一発殴ればそれで勝てる状況。この方法は……悪くは無いが良くも無い) 

(残った可能性は、《風帝ライザー》で伏せカードをデッキトップに戻す一手。この方法なら《聖なるバリア−ミラーフォース−》は何ら脅威になり得ない。だ が、チェーン発動可能な魔法・罠が仕掛けられていたとしたらその場合はどうなるか。仮にヴァヴェリが伏せたのが《奈落の落とし穴》だとする。更に僕が《風 帝ライザー》を生贄召喚して伏せカードを除去しにいったとする。この場合、《風帝ライザー》の効果によって伏せカードをデッキトップに戻そうとしても…… 《奈落の落とし穴》をチェーン発動されて当然《風帝ライザー》は返り討ち。後に残されたのは生贄にしなかったモンスターだけとなる……が、ここで残ったの が《サイバードラゴン》か《マジックストライカー》かで話がガラリと変わる。《サイバー・ドラゴン》なら《地砕き》→ダイレクトアタックで僕の勝ち。一方 《マジックストライカー》の場合は《地砕き》を使おうが使うまいが1ターンでは勝ちきれず……か。だがもしもあれが《スケープゴート》だった場合はどう だ?《風帝ライザー》→チェーン《スケープゴート》→トークン4体&鳳凰神……悪夢だな。こうなった場合《風帝ライザー》のお供が《サイバー・ドラゴン》 では日が暮れる。一方、《マジックストライカー》なら例え単騎でも2ターンかけて直接殴ればそれでゲームエンド。僕の魔法・罠ゾーンには緊急退避用の《亜 空間物質転送装置》が残されている以上、この方法は割合に堅い。必ず2ターンを必要とするこの方法は手堅い。あの男が、《封印の黄金棺》でサーチしたカー ドが、一発逆転の可能性を秘めたアレであることを考えれば、ここは、最悪の状況だけ『は』何としてでもも避けるプレイングが要求される。この第2戦、敗北 だけはできないんだ。もっとも、どの方法を選んだところで一長一短は存在する。事実、《スケープ・ゴート》の場合は《ネフティスの鳳凰神》を《風帝ライ ザー》でデッキトップに戻した方がより封殺率が高い、が、今更是非も無しだ。最後まで徹底的に馬鹿を貫く……これは、そういう決闘だ!) 

 思考時間2分14秒。元村信也が遂に動く。

「《サイバードラゴン》を生贄に捧げ、《風帝ライザー》を生贄召喚! 生贄召喚時の特殊効果により、アンタが場に伏せた、そのセットカードをデッキトップに戻す!」
「甘いわ! チェーン発動! 《スケープゴート》! 我が身を守れ!」
(やはり能動発動可能なそれだったか。『不死身の壁』……随分なたぬき爺ィだな。)
「微温イノ小僧! 鳳凰神ヲ戻すべきだったな!」
 嘲笑うヴァヴェリ。だが、信也の眼に迷いは無かった。
「十分足りますよ。バトルフェイズ! 《風帝ライザー》で《ネフティスの鳳凰神》を相殺! これでもう復活はできない! 更に! 《マジックストライカー》でダイレクトアタック!ターンエンドだ」

元村信也:4900LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:500LP


 拙いながらも、意思のこもった日本語を信也に投げかけるヴァヴァリ。小石を投じる事で相手の器を測る、ヴァヴェリ独特の手法だった。だが信也は、揺るぐ気配すら見せず、ダイレクトアタックを決めた。その姿にヴァヴェリは、確実な手強さを感じ取る。
(ホゥ……あの顔は……全ての可能性を読みきった上で、覚悟を決めた上で仕掛けた顔じゃ。わしの引くカードが、前提が偶然に左右される以上どんな読みとて 絶対はない。じゃがこやつはわしの手を読むだけ読んだ後……一種の覚悟を決めた上で、わしの懐に突っ込んできおった。なるほどの。ダルジュロスが一目置い とったのは……この『読み』と『度量』か! 小僧とは思えんこの立ち回り……いいじゃろう。認めようではないか。こやつが予選最大最強の敵であることを…… 認めようではないか。こやつはわしが全身全霊を賭けて叩き潰すに値する決闘者……封殺じゃ。徹底的に封殺じゃぁ! 封殺祭りじゃぁ!) 

「How old are you ?」
(なんだ!?僕の年を聞いてる?)」
 突如投げかけられた英語の、それも疑問文。信也はさほど英語が得意ではなかった。だがそれでもこの程度ならギリギリ聞き取れるレベル。「おいくつです か」。中学の教科書には必ずと言っていいほど載っている例文。信也も中学時代当然の様に見たことがある。聞いたことがある。信也はこの時、最低限度の極み のような受け答えをする。もっとも、ヴァヴェリにはそれで十分だったのだが。
「Sixteen.」
(16か。まぁ、見た目からしてもそんなところじゃろうて。わしが初めてディムズディルと闘ったあの時、あやつは確かそのぐらいの年頃じゃったか。いや、 もうちょいぐらいは上じゃったか。いずれにしろ、あやつは強かった。当時既に、あやつはとてつもなく強かった。わしは負けた。完膚なきまでに負けた。あの 圧倒的な強さの前に己の未熟さを思い知った……そうじゃ。当時のディムズディルに勝てる16歳などこの世に存在せん! そして! 今のわしは、あの時のディムズディルにすら勝てる!)
「わしのターン、ドロー。小僧……タイムリミットじゃ。残念じゃったな」
「タイムリミット?爺さん。ハッタリはよせよ。これでも、心臓が弱いんだぜ」
「それはお互い様じゃろうて。わしも、心臓が弱くての。今にもぽっくり逝きそうじゃわい。じゃがどうやら、棺桶は必要なかったらしい。あと1ターン早けれ ば、お主の勝機もまだあったものを。まずはスタンバイフェイズ!《封印の黄金櫃》の効果で《メタモルポット》を手札に加える!のぅ小僧……3枚じゃ。この 3枚でお主のデッキを全て……『吸収』させてもらおうか!」
 ヴァヴェリ突然の死刑宣告。この時信也は汗を流していた。信也は既に聞いている。信也は既に見ている。森勇一から聞かされた悪魔的なデュエルスキルの事 を。福西彩戦で見せ付けられたを脅威のデュエルスキルのことを。元村信也は知っている。今この瞬間発動されるデュエルスキルがなんであるかを知っている。 ヴァヴェリの、尋常ではない殺気の量がその発動を示唆していた。
「1枚目ェ! モンスターを1体裏向き守備表示でセット!」 

「間違いないわ。あれは《メタモルポット》。それもわざわざサーチまでして手札に加えた以上、リバース効果の即時発動手段をヴァヴェリは手札に残している 筈。手札入れ替えによる大逆転狙い。特殊召喚の方法が多彩な、【ネフアンデット】なら、入れ替え後の奇襲攻撃の可能性も在り得る!」
「いぃや違う! そいつは違うぜサツキ! ヴァヴェリの狙いは其処じゃない! あれはそんな、運試しのようなプレイングじゃないぜ!」
「ユウイチ!? どいうこと!?」
「奴だからこそ、世界最高峰のデッキウォッチャーだからこその、必殺コンボが存在する!」

 

喰らえぃ小僧!これが『デッキウォッチャー』の処世術じゃ!

Nobleman of Crossout!!

 

「《抹殺の使徒》!? タイムラグのある《封印の黄金櫃》を使ってサーチして、手札に加える為ここまで粘り抜いてきたにもにも拘らず……自分の手で除外!? それも大量ドローを、一発逆転さえ見込める《メタモルポット》を除外!? 嘘……こんなのって……?」
「落ち着けサツキ。《抹殺の使徒》をフェイバリッド・カードとする、お前の身近な存在を思い出せ!」
「ミズキ!? ならヴァヴェリの目的は……《抹殺の使徒》が持つデッキ確認効果? でもっ! 【完全記憶】を使える記憶決闘者(メモリー・デュエリスト)はミズキだけの筈。まさかあの男も【瞬間記憶操作】を使えるっていうの? ありえないわ! そんなの!」
「そうだな。在り得ない。その点ではお前の言うとおりだ。確かにヴァヴェリ=ヴェドゥインは【完全記憶】を持たない。少なくとも俺の情報では【瞬間記憶操 作】を使えない筈だ。だがな。アイツには、それに優るとも劣らないデュエルスキルがある。『マジシャンズ・アヤ』を一蹴した、あの観察眼がな!」
「それってまさか……」




【ヴァヴェリ=ヴェドウィン】

『電獣』とよばれた 決闘者 ( デュエリスト )

決闘十字軍 ( デュエルクルセイダーズ ) 』が誇る決闘権化!

世界最高峰の 札魂観察者 ( デッキウォッチャー )

吸収決闘者(ドレイン・デュエリスト)とは奴のこと!

その決闘奥義(デュエルスキル)は『 札魂吸収 ( デッキドレイン )

 

「事前の徹底した情報収集と、事後の緻密な確認作業が噛み合った時発現する神懸り的な洞察力。奴に明確なデッキ情報を与えるのは命取りだ。ただえさえアイ ツには、【グッドスタッフ】しか『電獣』とまともにやりあえるデッキが無い。だからこそアイツは【暗黒界】で隙間を作ってまで【グッドスタッフ】に賭けた んだ。だが、このままデッキを吸収しつくされれば……信也は負ける!」
「ヴァヴェリの、本当の狙いは《抹殺の使徒》によるデッキ確認。これでシンヤ君の【グッドスタッフ】は手札とセットカードを除いて全て把握された。これが『電獣』の狙い。これがデッキウォッチャーの……」
 ヴァヴェリの恐ろしさを噛み締め、恐れおののく皐月。だが皐月は知らなかった。デッキ観察に己の存在意義の全てを賭ける、本場のデッキウォッチャーの執念を知らなかった!!
「いぃや、まだだ!」
「ユウイチ!?」
「あの男が、俺が以前聞いたとおりの決闘者ならば、奴の、ヴァヴェリ=ヴェドウィンの手札には、時計の針を強制的に進め、現在を閲覧可能な歴史へと変える……あのっ! 恐るべきカードが存在する!」
「ヴァヴェリの手札……まだ1枚残ってる!? そんな! そんなことって!?」 

「ハァッハァッハァッハァッ……クッ!」
「息が荒くなってきたな小僧。デッキを知られて苦しいか?じゃが、これで終わりじゃ。デッキウォッチャー一筋はや15年。あらゆるデッキを観察し続けたこのわしの、最大最強の一撃を喰らうがいい。マジックカード発動!!」
 ヴァヴェリが、遂に己のフェイバリッド・カードを発動する。VS彩戦において、ヴァヴェリによる反撃の狼煙を上げたあのカード。ターン制で闘う決闘者に とって、最も尊重すべき要素の一つである“時の流れ”そのものを早めるあの恐るべきカード。そのカードが今! 発動の時を迎える。その運命には!何人たりと も!抗う事など決して許されはしない! ヴァヴェリの眼が黄金に光る!

時間よ進め! 時勢よ奮え! 我が時代よ今こそ来たれぇ!


Card Destruction!!!!

「《手札抹殺》!? まさかそこまで……」
「やはりか! 完璧だ。吸収決闘者(ドレイン・デュエリスト)・ヴァヴェリ=ヴェドゥイン。《抹殺の使徒》の強制発動で対戦相手のデッキを確認。更には《手札抹殺》によって、公開情報へと変えられたハンドカードまで掌握する。奴ならではの、いやむしろ奴にしかできない……アレはまさしく修羅の決闘だ!」 

「くっ……!」
 ヴァヴェリ最強の一撃を喰らい、遂に信也が片膝をつく。その姿はまるで、電力を吸い尽くされたジェット機が無人島に墜落したかの如く。信也は力なくヴァヴェリを眺めていた。
「どうした小僧。後一撃じゃそい。ターンエンド」
「僕の……ターン……ドロー……。《マジックストライカー》でダイレクトアタック!」
 最後の力を振り絞って『直接攻撃』を宣言する信也。その顔は汗ばんでいた。

【ラウンド2】
○元村信也―ヴァヴェリ=ヴェドゥイン●
得失点差±4900


「吸収の儀は完了した。お主の【グッドスタッフ】は……もはやただの抜け殻に過ぎんわ!」
 猛威を振るうヴァヴェリ。その口ぶりは決してハッタリではない。長年の含蓄からくるその言葉には巨大な重圧が備わっていた。だが信也はそれでも立ち上がり……こう言い放った。
「いーや。あんたのデッキドレインは不完全だ。ここに……1枚の伏せカードが在る。」
「たった1枚で何をなそうというのじゃ?小僧。」
「ワンカード……か。そうだ。この1枚があんたを天から打ち落とす……『一本の矢』だ!」
 信也は諦めていなかった。彼は、ありったけの力を込めて、眼の前の要塞に叩きつける。
「楽しみにしとるぞ小僧。フォーフォッフォッフォッフォッフォッフォ……」

ああ、俺もだよ。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
みんな大好き『伝説的待機』。ただの《手札抹殺》が、極大閃熱呪文(ベギラゴン)的なものに見えてくるからさぁ大変。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


                TOPNEXT
































































































































































































































































































































































































































































































inserted by FC2 system