―― 2ヶ月前 ――

 西部の中心部から外側に向かって落ちていく。下へ、下へ、外へ、外へ、西部郊外のさらに外側。十字を描いた世界地図の果てにそれはある。地上から転がり落ちた、もう1つの西部への隙間口 ―― 寂れた空間を男が歩く。 刻一刻と廃墟に近づいていく寂しい街並み。それでも1人見つけて聞き込み開始。殴られる。食い下がる。殴られる。殴られる。殴られる。親切な人がいたものだ。居場所の手がかりを難なく聞き出すことに成功。入り口を探す。あった。
 階段を降りる。さらに降りる。くるりと降りる。辿り着いた先に広がっていたのは、昼間の光をさえぎるもう1つの西部。 "地下" と呼ばれる謎めいた世界の真骨頂……完全なる暗闇が男を脅す。真っ暗な視界に辟易するが、じっと前を見つめていると眼が変わる。暗闇を選り分ける為の人体機能。明所視から暗所視に切り替わる。それでも暗闇の優位は変わらない。吸い込まれそうな闇が奥へと続く。
「このまま歩いてこいと」
 壁にぶつからないよう、罠にかからないよう、慎重に一歩ずつ歩く。あった。ありったけの遊び心が注がれた仰々しい扉。軽い深呼吸からドアノブに触れようとした瞬間、カタンという音がした。鍵が、開いた? 一瞬、尻込みするが後には退けない。意を決して扉を開けた。
「いるのか! バルートン!」
 リード・ホッパーが大声で問いかける。5秒……10秒……くつくつという笑い声がにわかに響く。いる。探し求めた男がここに。リードが首を左右に振るが、お探しの決闘者(デュエリスト)は正面にいた。シュボっとライターに火が灯り、鋭利な相貌が闇の中に浮かび上がる。
「基本ここにはバカしか来ないがとびきりか」
「さっさと明かりを点けろよ、バルートン」
「洞闇浴の最中だ。点けるかどうかはおまえ次第」
「なあバル兄ィ、こいつあれだろ。Team BURSTの」
 バルートンと、その弟兼妹のボーラが椅子に座ったままあれこれ言うのを聞き取ると、改めて部屋の主人をじっと見る。ノーフレームの眼鏡に覆われた鋭い双眸。地下住まいとは思えないほど整ったダークスーツ。そして手元には辞典型デュエルディスク 決闘書盤(ヴァルワール・リーブル)。 紛れもなく、かつてパルムと闘ったバルートン。 「さて」 地下の曲者がリードを見据える。
「洞察力には自信があるんだが……何しに来たのか心当たりがまるでない。さあ、用件を言え」
「……」 暗闇の中を進んできたリードに乱れはない。その太い眉は意思そのものを凝固させていた。その大きな瞳は気迫そのものが形を成していた。軽く深呼吸……ありったけの意志を解き放つ。
「頼む! おれにあんたの決闘(デュエル)を教えてくれ!!」
 リードの土下座は早かった。ゴツゴツとした硬い床に頭蓋骨がギンギン響く。
「おいおい」 バルートンは椅子の肘掛けで頬杖を付くと、ボーラ共々呆気に取られた表情でリードを凝視。ぐるりと首を傾ける。
「強くなりたいのは結構なことだがなぜ俺なんだ? チームメイトは? 師匠の類はいないのか?」
「あいつらは優しすぎるんだ。厳しく言われてるようで、結局は甘やかされていた。だから、」
「なるほど。確かに俺はそう優しい人間じゃあないが、なぜよりにもよって俺なんだ」
「あんたはあのパルムが認め、デオシュタインが行動を共にした男だ。あんたはおれに足りないものを持ってる。おれは弱かった。弱いのに弱いままでいいと思ってた。潔いつもりで本当は自分の弱さに言い訳していただけなんだ。それでも夢は捨てたくない。本当の潔さをおれは知りたい」
「バル兄ィがおまえなんかに技を教えるわけがないだろ。寝言は寝て……」
 はたとボーラが口をつぐむ。首を曲げると、バルートン ―― 三度の飯よりも寝言を好む男 ―― が立っている方角を一瞥。後に残るは "ああやっぱり" という溜息1つ。年がら年中血迷った男が実にいい顔で笑っていた。そのバルートンが手元のスイッチに手を触れると、バチバチという音が周囲一帯に鳴り響き……電流ロープが起動する。
 今度はリードが呆れる番だった。気の触れた地下の流儀に首を振る。
「明かりを付けろとは言ったが、そういうことじゃねえだろ」
「おまえの野望は変わっていない」
「……」 「そういうことでいいんだな」
「……おれは世界一になりたい。相手がミツルだろうがデオシュタインだろうが……」
「ミツルの時代を終わらせたいなら当面は次の大会が目標になる。あそこで優勝すれば……いいだろう。おまえには1つ借りもある。精々ミツルを笑わせてやろう。それにしても……はっ」
「笑わば笑えよ。おれは本気だ」
「デオシュタインにあれだけやられてよくもまあ」
「往生際の悪い奴らのリーダーだからな、おれは」
「崖っぷちから落っこちて地下まで埋まったか。なら覚えておけ」 壁を巡る電流ロープが1回止まる。再度暗闇に閉ざされ、全てを呑み込んでいく地下の奥底……欲望の択一論者が持論を唱える。
「夜は世迷った奴らの遊園地だ。そして地下は、血迷った奴らの戯曲化だ」

                     ―― 大会会場 ――

 夜のデュエルフィールドが淡く煌めいていた。淡月に見守られたOZONEの下で、戦士と魔法使いが向かい合う。 「ふっ」 美の白魔導師が両眼を見張り、 「はっ」 夜の黒魔術師が口角を上げる。2人の真髄ソーサラーズを瞬時に斬り裂き、目の前に立ち塞がるのは月下の双壁。
『示し合わすは表裏一体の構え! 繰り出したのは二天一対の速攻! その全てを受け止めると言わんばかりに、ジャック・A・ラウンド選手がツインホープで立ちはだかったぁっ!』

                Life Point:15500

        No Set            Set Card   Set Card
       No Monster              No Monster

      静寂のサイコウィッチ    希望皇ホープ 希望皇ホープ
         Set Card                No Set

                Life Point:11000

No.39 希望皇ホープ(2500/2000)
自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、
このカードのORUを1つ取り除いて発動できる。
そのモンスターの攻撃を無効にする。
[同調] [4] [光] [戦士]
No.39 希望皇ホープ(2500/2000)
自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、
このカードのORUを1つ取り除いて発動できる。
そのモンスターの攻撃を無効にする。
[同調] [4] [光] [戦士] 

「スリップストリーム」
 Team FrameGearの女傑 ―― ファロ・メエラの呟きを小耳に挟むと、
「なんすか! それ!」
 隣のエルチオーネがにわかに燃える。質問を受けたファロは意味深な笑みを浮かべつつ、欄干に手を付いて軽く身を乗り出す。赤い髪の女傑は夜風の楽しみ方を知っていた。
「先行するマシンの後ろは空気の抵抗が弱くなるのさ」
 懐から取り出した高機動型アンデッド族:《ピラミッド・タートル》をチラリと晒すと、後ろの "子供達" に経験則を投げつける。 「ここのダメージレースでは時々ある。追い込まれた側にブーストがかかるんだよ。デッドエンドのバカ弟子は殴り込まれた。だがね!」
「なんと! あのラウンドはそれをてめえの戦略に! ほんのりちょびっと燃えてきた!」
攻撃(フロント)重視のセッティングなら防御(リア)に死角ができる。相手の事情を逆手に取れば(うしろにぴったりくっつけば)、最小限のリスクで逆襲(かそく)できるってもんさ。一旦追い抜いたところで急停止。ライフでは負けているからスピード勝負は挑まない。ブロックフォーメーションで減速を狙う」 「加速する度に追いかけるんじゃラチがあかねえ。加速そのものを止める……流石は元暴引族。例えの方も走り屋ですか」
「一週間でやめたっつってんだろ!」
「あれ? 前は1ヶ月って……」
「おいチェネーレ、フォローしろ!」
 愛弟子に呼びかけるが返事はない。寡黙な葬儀屋がラウの墓標にのめり込む。
(あのブロックはリードへの走行ラインを潰している。2人がかりで1人を狙えばダイレクトアタックを狙いやすいのがタッグデュエル。だが、ホープの効果なら相棒が狙われても防御可能。しかし、)
「今は好きなだけ燃えな」
 暖かく見守るファロを余所に、チェネーレが紫色の闘気を燃やす。葬儀屋の息子は誰よりも、死に場所という概念を知っていた。 「我が身を盾にしてでも……大将を守るつもりだ」

『睨み合っている! 高速戦と持久戦が、フィールド上で睨み合っている!』
 バトルフェイズを終えたラウがメインフェイズ2に移行する一方、白装束の決闘者が 決闘白盤(ホワイトスタッフ) を気高く構える。長年の愛杖《ライトレイ ソーサラー》を失いながらも動揺した様子は見られない。
 淡い光を放つ淡月の下、ラウの布陣をぼそりと評す。
「なるほど美しくはある。月の夜のムーンバリアで相棒を守るか」
 ゼクトの賛辞を軽く聞き流すと、ラウは疑問を敢えてぶつける。
「去年のデュエルマガジン3月号240頁目の特集インタビュー 『決闘美学』 より抜粋。 『全ての布石は《ライトレイ ソーサラー》の為にある』 確かにそう書かれていた」
「正確には242頁35行目だ」
「訂正する。242頁の35行目でそう言った。それが今では様変わり。高速機動戦で先手必勝。邪魔な障害を《ライトレイ ソーサラー》で除き、ダメージレースでトップを狙う。かつての決闘……対戦相手のエースカードを除き、悠然と構えるそれとは食い違う」
「ならばどうする」
「極めて月並みな発言になるが……あいつを殴りたいならまずはおれを倒していけ」
「ちょっと待ちな!」
 北側のバイソンが挑発の矢を差し向ける。 「自殺志願者は夜の路上で腹一杯。ホープぅ? そんなんじゃあ下級しか止まらねえ。眼鏡の買い換えを勧めるぜ。俺達の武器が何か、見えないようじゃな!」 バイソンの指摘を受けてなお、長方形の視界は曇らない。
「ゼクト・バイソンペアがメタモンスターを採用するのは守りに寄せたいからじゃない。モンスターに防御機能を持たせることで心置きなく攻められる」
「てめえのホープも同じと言いてえのか」
「御自慢の戦法、自分で自分を否定してもらえるなら有り難い」
「舌戦もいけるらしいな」
「慣例通り、無礼講でいかせてもらう」
「中々どうして骨があるじゃないか。気に入ったぜ、小僧!」
 舌戦を終えたラウが 決闘堅盤(モーメント) を一瞥。もののついでにスポーツウェアの襟元を指で浮かすと、極めてわざとらしく深呼吸を行う。一通り身嗜みを整えるとデュエルフィールドを再度確認。
 未来に向かって視線を伸ばす。
(ゼクト・バイソンの行動には基礎がある。一過性の戦術として前のめりになっているわけではない。周到な戦術なら……逆算も可能……だが、)  淀みない動作で右手を動かすと、残存戦力のカードをしっかりと掴む。 (投げ槍にポツンと置かれたミラフォを踏むリスク……ないとは言えなかった。ホープ2体がかりで斬り込むのは1つの賭け。それを乗り越えた今なら、)

 ―― 単にそちらの方が勝率が高いと思っただけ

 ―― 賭けてなんかない。失うものが何もないから

 ―― 拘るふり、賭けるふり、楽しむふり、

 ―― 貴方が愛した灰色は消えた

 ―― 本当はもう……諦めてるんでしょう?

 暗闇の深度が上がる。深い、深い、奈落の底よりも深い闇。夜の闇よりも深い墓の闇。
 額からは汗が一滴、墓標に向かってしたたりり落ちた。
(あんまり苛めるなよ、ゴスペーナ)

「マジック・トラップを3枚セット」
 もやを振り払うようにモンスターを、マジックを、トラップを、片っ端から夜のフィールドに置いていく。光属性のホープは視認性が高く、新たに置いた3枚の明度もそれなりに上げてある。札で灯す微かな明かり。ジャック・A・ラウンドが墓標の装飾を終えていく。 (おかしい) ふと気付く。 (光が薄い……違う。暗闇が、濃い) 黒い霧。じわりじわり、一帯を覆い始める黒い霧。反射的にターンエンドを試みるが間に合わない。 "Grave" "Remove" "Dark" "Each Other"
(これは ―― やはり ―― )
 異次元への入り口は真っ暗な闇の中にこそ現れる。OZONEの南北が黒い霧に包まれる中……ラウの墓地の上(めのまえ)で穴が空き、役目を終えた魔法使い(つくよみ)の身体をバキュームのように吸い込んでいく。《次元の裂け目》の簡易速攻仕様。《異次元への隙間》がバクリとひらく。

異次元への隙間(通常罠)
属性を1つ宣言し、お互いの墓地に存在する
宣言した属性のモンスターを合計2体選択して発動する。
選択したモンスターをゲームから除外する。


「あの日!」 バイソンが!
「あの夜!」 バイソンが!
「決闘仮面はこいつで減速を目論んだ」 自慢のドレッドヘアを暴れさせ、北側の黒魔術師が闇夜に吠える。 「なら俺はぁっ! 加速の為にこいつを使う! いくぞゼクト、ディメンション・ブーストをぶち込む!」 「それを待っていたぞ、バイソン!」
 2人の呼吸がぴったり合わさるその瞬間、西側のベンチに座っていた蘇我劉抗が直観と共に立ち上がる。 「あいつ、まさか!」 蘇我劉抗が北側を凝視する。異次元への入り口はバイソンの墓地にも開いていた。墓地から消えたのはあの1体。 「《異次元への隙間》が入り口なら、出口は……」
 出口は目の前に広がっていた。西側に立つ白魔導師、ゼクト・プラズマロックの真ん前に。
 "Dark" "Dimension" "Special Summon" ……
 異なる次元を股に掛け、夜の黒魔術師が西部に踏み込む。
「《闇次元の解放》を発動! 相棒の場に《カオス・ソーサラー》を特殊召喚(ディスパーチ)!」
 北から西へのトンネル開通。《異次元への隙間》によってバイソンの墓地から除外された《カオス・ソーサラー》が、《闇次元の解放》によってゼクトのフィールドに復活。正閏(せいじゅん)の黒魔術師が颯爽と飛び出すや、西の観客も喝采を上げる。
「あの黒いの中々やるぞ!」 「いけえゼクト!」
 会場の盛り上がりに呼応して実況も声を振り絞る。
『墓場と現世の橋渡し! 戻ってきた! 戻ってきたぞソーサラー! たっぷりたっぷり脂をのせて! 地獄の四角海域から今ここに! 戻ってきたぁっ!』
「あれは!」
 蘇我劉抗はベンチの前で呆然と立ち尽くしていた。数秒の硬直を経てようやく回帰。かたわらのフェリックスに堪らず告げる。
「あの腕の動かし方……世界と世界の反復横跳び。あれは親父の技だ。なんであいつが」
「ここは決闘の祭典。根付いているからだ」
「根付いて……いる」
「ゼクト! バイソン!」 フェリックスが立ち上がり、力強く叫びをあげる。

「勝て!」

「それでいい!」 「おうよ!」

Turn 13
■15500LP
□11000LP
■ゼクト
 Hand 4
 Moster 1(《カオス・ソーサラー》)
 Magic・Trap 0(※《封印の黄金櫃》発動中)
□リード
 Hand 3
 Monster 1(《静寂のサイコウィッチ》)
 Magic・Trap 1(セット)
■バイソン
 Hand 0
 Moster 1(《次元合成師》)
 Magic・Trap 1(《闇次元の解放》)
□ラウ
 Hand 0
 Monster 2(《No.39 希望皇ホープ》/《No.39 希望皇ホープ》)
 Magic・Trap 3(セット/セット/セット)

「ドロー!」
 誰が来る。白が来る。 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) の光が墓標に伸びる。
「いけっ!」
 誰が在る。黒が在る。 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) の闇が西部に混じる。
「スタンバイフェイズ!」
 一気呵成に攻め立てるゼクトを目の前に ―― ラウの思考も加速する。 
(ライオウ、デスカリ、カイクウ、そしてソーサラーズ。攻撃力も、攻撃速度も、圧倒的なそれとは言い難い。しかし、) いる。掟破りの破魔空掌混合真拳を打ち込み、ホープで斬り裂いた筈の《カオス・ソーサラー》が西にいる。 (攻撃密度が違うんだ。異次元を経由してまで相棒の場に攻城兵器(バニッシャー)を輸送。まるで、) ラウの脳裏に浮かぶのは異空間物質転送装置。ラウが省み、ゼクトが進む。
「《封印の黄金櫃》を開放! デッキから我が愛杖《ライトレイ ソーサラー》を手札に加え、メインフェイズに移行……借りるぞバイソン!」
 右手の 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) をいったん真横に突き刺し、目の前の黒魔術師をチラリとうかがう。鍛えられた肉体、バリバリに尖らせた黒衣。混成の黒魔術師が魔力を高める。
「私に力を貸してくれ。《カオス・ソーサラー》の効果発動!」

カオス・ソーサラー(2300/2000)
1ターンに1度、表側表示のモンスター1体を除外する
この効果を発動したターン、このカードは攻撃できない
[特殊] [6] [闇] [魔法使い]


 凝縮。《カオス・ソーサラー》が両手に魔力を凝縮。左手に夜の闇を貯める一方、右手には照明の淡い光を掻き集め、合掌。全てを呑み込む混成の闇を育み、そして、
「自分自身の攻撃権と引き替えに……全身全霊の魔術を発現する! 喰らうがいい!」
 強引な合掌からの筋力による魔力の発射。即ち、
「ダーク・バニッシュ・マジック!」
『ホープTが闇の中に消し飛んだぁっ! ラウンド選手、一歩も動けなーい!』

「コーナーからの立ち上がりが違うんだよ!」
 誰よりも速く。火よりも速く。ファロ・メエラが訴える。
「普通のマシンは特定のタイミングで減速する。《封印の黄金櫃》の待ち時間、ソーサラーの攻撃制限、そして勿論相手側のブロック……速攻重視のセッティングでも減速するタイミングがあるんだ。なのにあいつらは止まらない。チェネーレ、今のおまえならわかる筈」
「黄金櫃とヴァリーからのライトレイ、手札コストを逆手に取った電撃戦、隙間と解放を使ったカオスの輸送……デッキの関節に推進剤を仕込んでいる」
「コーナーを曲がったところで即座に着火するからスピードが落ちない。アタックチャンスを逃さないからダメージレースの一歩先を走れる……覚えておきなおまえら。 『速い』ってのは、初っぱなからばらまくだけじゃない。攻めも守りも紙一重。相手の想定、その一歩先に踏み込めるのが速い」
「即ち」
「そう! ここ一番でまくれる奴が……一番速くて格好いいのさ!」

 黒が在る。白も来る。混成の闇が役目を果たしたその瞬間、ゼクトが踏み込み、 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) をガシッと掴む。手札から1枚のカード・ユニットを挿し込みダーツ・スタイルに移行。そんな中、
(来い)
 ラウは息を乱さない。ラウの脈は乱れない。ラウの心は揺るがない。
(秘密兵器がある筈だ)
 他方、ゼクトは毅然と構える。
「ジャック・A・ラウンド! 淡月では足りぬとばかりに、月の布陣を強化するとは小粋な真似を!」
『ゼクト選手が爪先だけで立っている! 始めるというのか! ここから始めてしまうのか!』
「ならば私は! 沈んだ太陽で再び照らす!」
 銀河の太陽未だ沈まず。 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) の先端で円を描くとさあ大変。束の間の太陽が浮上する。
「太陽の妖精《サニー・ピクシー》を通常召喚!」
『決闘美術が始まったっ! 魔導師の杖が筆と化し、水墨画を彷彿とさせる白と黒の筆捌き!』
(来るか、シンクロ召喚(もうひとつ)
「レベル6の《カオス・ソーサラー》にレベル1の《サニー・ピクシー》でチューニング! 昼と夜の合作を、《アーカナイト・マジシャン》をシンクロ召喚!」

サニー・ピクシー(300/400)
光属性シンクロモンスターのシンクロ召喚に
利用され墓地に送られた場合、1000ライフ
ポイント回復する
[調律] [1] [光] [魔法使い]
     
アーカナイト・マジシャン(400/1800)
@シンクロ召喚に成功した時、魔力カウンターを2つ置く
A魔力カウンターの数×1000ポイント攻撃力がアップ
B魔力カウンターを1つ取り除く⇒相手フィールド上の
 カード1枚を選択して破壊する
[同調] [7] [光] [魔法使い]

 その魔導師は最上級の称号を持っていた。その魔導師は開門の魔導師と呼ばれていた。2つの光球を自在に操り開かない扉をこじ開ける ――
『ラウンド選手がリバース・カードを発動しているぅっ!』
 開門の魔導師が封印の鎖に縛られる。
『初参戦すら折り込み済みか! ラウンド選手が《デモンズ・チェーン》を発動! 《カオス・ソーサラー》の暴れっぷりを敢えて見逃し、《アーカナイト・マジシャン》をきっちり止めたぁっ!』

デモンズ・チェーン(永続罠)
このカードがマジック・トラップゾーンに存在する限り、フィールドの効果モンスター1体は攻撃できず、効果は無効化される
(そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される)


 《アーカナイト・マジシャン》の効果を早々に封殺。NeoGalaxy側の観客席が消沈するのを尻目に、
「ピンポイントブロックだ」
 テイルがほっと胸をなで下ろす。 「ホープで下級を軒並み抑えて、頼みの上級を誘い込む。後はライトレイを無理矢理投げさせ、攻撃制限でダメージ・ゼロと……」 得体の知れない不穏に口をつぐむ。真っ先に声を上げたのは隣のミィ。
「ダメっ!」 ほとんど同時、パルムも目元を引き絞る。
「フェリックスと闘ったぼくらにはわかる。あれじゃあ、あいつらにはもう勝てない!」

 速いとは、止まった瞬間こそ重いということ

「はああああああっ!」
 白魔導師の両手が荒々しく輝く。両腕を大きく広げるや、胸元から50センチ先の "空" に向かって連続で両掌を叩き込む。1回、2回、3回、4回、打ちつける度に轟く光の渦。月夜を斬り裂くほどの閃光と共に、鬼気迫る相貌(かお)で光の中を突き進む。
「魔法使いとは!」 権威か! 「魔法使いとは!」 選民か! 「魔法使いとは!」 保守か! 「魔法使いとは何者かぁっ!」 右手には《ライトレイ ソーサラー》の強く鋭い光を、左手には《アーカナイト・マジシャン》の淡く広い光を、両手に合わせてさらなる光を拡散 ―― 大魔法を発現させる。
「光の中より現れ出でよ!」



   停滞の扉を開く者!

覇魔導士アーカナイト・マジシャン、

   同調(シンクロ) 融合(フュージョン) 召喚(サモン)




 《アーカナイト・マジシャン》が進化を遂げた。闇属性とのシンクロで生まれた《アーカナイト・マジシャン》が墓地から発光。《ライトレイ ソーサラー》との融合によってさらなるステージへと辿り着く。総攻撃力は3400。銀河色に染まったギャラクシー・ローブに秘めた想いは "札磨かざれば光なし"。 超高等呪文《ミラクルシンクロフュージョン》の導きに従い、超最上級魔導師が戦地に趣く。

ミラクルシンクロフュージョン(通常魔法)
自分のフィールド上・墓地から、指定された融合
素材を除外し、シンクロモンスターを融合素材と
するその融合モンスター1体を融合召喚する
  
 
       
覇魔導士アーカナイト・マジシャン(1400/2800)
@融合召喚に成功した時、魔力カウンターを2つ置く
A魔力カウンターの数×1000ポイント攻撃力がアップ
B1ターンに1度、魔力カウンターを1つ取り除く
⇒ 相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊
or デッキから1枚ドロー
[融合] [10] [光] [魔法使い]

「魔法使いとは新世界への道標! 奇跡の先導者に他ならん!」 「騒がしいことを!」 「2つの光球を再び展開……そして! 魔法使い族専用装備魔法《ワンショット・ワンド》を発動」

ワンショット・ワンド(装備魔法)
魔法使い族モンスターの攻撃力を800ポイントアップする。
また、装備モンスターが戦闘を行ったダメージ計算後、
このカードを破壊してデッキから1枚ドローできる。


 覇魔導士が魔力照準を解放。1つの照準はホープに、もう1つの照準はラウに合わせる。狙うは破壊効果と直接攻撃の二重奏。《ワンショット・ワンド》を両手に携え覇魔導士が魔力をチャージ。腰を落とし、体を沈め、溢れる魔力を《ワンショット・ワンド》に収束……本来、遠距離戦を好む《覇魔導士アーカナイト・マジシャン》が加速した。マジック・ブーストによる水平移動からラウの墓標に侵入。最高の加速は最強の停止への布石であった。混成・拡散を続ける二列速攻の成果を 破城槌(ワンショット・ワンド) に収束。13ターンの助走を力に変えて ――
 こじ開ける! 月の扉を太陽の槌がこじ開ける!
『なんという衝撃波! ラウンド選手がのけぞったぁっ!』

ゼクト&バイソン:16500LP
リード&ラウ:11000LP⇒7800LP

『ブロックフォーメーション粉砕! ムーンバリアを突破し、ダメージレースを続行かっ!』
 砂ぼこりの中から覇魔導士が立ち上がる。急ぎはしない。走りもしない。浮遊魔法でゼクトのフィールドに帰還すると、地縛神さながら超最上級が威圧する。ゼクトが言った。
「加速を止めたいなら好きにすればいい。我々が求めるのはNeoGalaxyの勝利ただ1つ」

「止まったっちゃ止まった」
 テイルが髪の毛をくしゃりと掻き込む。 「アクセル全開で突っ込みやがる。ブロックごと吹っ飛ばしてコースアウトさせればスピードもクソもない。大将のもとに一直線だ」

「今、音がした」
 ミィはゼクトの一挙一動を観察していた。心臓が、バクバクと高鳴る。
「扉が開く音。あれが本物の魔法使い。あの人は、あの人達は……」 

 南側のフィールドではラウが埃をパンパンと払う。砂埃自体は映像……膝を付いた事実は消えない。たいそうすっきりとした目の前のフィールド上を見渡し、ぼそりと毒づく。 
(単騎でフェリックス・蘇我劉抗。連携でミィ・パルム。おまけに関係ない奴の影までチラつくか)
 ブラック・ローズ・ドラゴンによる強引極まる突破、炎霊神パイロレクスによる迷いなき焚き付け、そして全てを締めくくるファイヤー・ソウル。火葬論に基づく循環が生み出した進化のきざし。【ターボ・インシネレート】にぶち破られた焔の夜が頭をよぎる。
(チラついたのは筋金入りの西部出身者。おれとは違う人種) 中央出身の瞳に変化が映る。 (以前の西部は雑の一言。例え出力が低くとも隙を突けば勝利を拾えた。今は違う。『対応』のままでは出力差で押し切られる。……あいつらはもう止まらない)

 ベンチの裏では金網が赤く色づいていた。手の平を金網に食い込ませ、試合にのめり込むアリアが肌を刻んでいたから。 「教えてくれるのかも」 無意識の呟きをテイルが聞き咎める。
「今更教わることなんてあんのか……っつーか、血ぃ出てるぞ」
「変化と勝利。意志があるから」
「チューナーがチラ付いた時からラウ先生はおおよそ覚悟していた。片っ端から手を尽くしてるがどうにもこうにもままならねえ。割らせる気満々で裂け目を置いて、そっから墓地除外は欲しがり過ぎにもほどがあんだろ。そしておまえはさっさと手を拭け」
「今の正閏叛列なんたらかんたらなら今度の勝利も肥やしにできる」
 アリアはベンチに座っているミィとパルムを一瞥した。既に全力を出し切った2人を。
 見かねたテイルは肯定するように息を吐く。
「今日は初体験の目白押し。あいつらはもう限界を超えてんだ。おれが1人分変わっても勢いが違いすぎる」 「策は……ないの?」 問われたテイルは金網に寄りかかったまま空を見上げた。遠い、遠い、果てしない空を。 「この世にはどうにもならないこともある。もし出番が回ってきたら……世界で一番格好いい敗戦処理を拝ませてやる。だからさ」 「だから?」 尻尾付きの決闘者が口を閉ざす。何も答えてくれない真っ暗な夜空を見上げたまま ―― (勝てよ、大将)

 フィールド上ではゼクトの存在感が増していた。おもむろに《ワンショット・ワンド》を破壊すると報酬のワンドローを獲得する。メインフェイズ2、マジック・トラップを2枚伏せてターンエンドを宣言。こじ開けた扉の向こう側に意識を送り込むと、Team BURSTの総大将を煽り立てる。
「どうするリード・ホッパー。西部を倒すとうそぶくならば」
「……あんたに名前を覚えられるのは光栄だ」
「安い世辞とはらしくもない」
「……」 リード・ホッパーはじっとフィールドを見つめていた。
 大きな瞳に太い眉。額には黒一色のハチマキが締められている。
 視界ははっきりしていた。月の壁が吹き飛ばされても、その心は揺らがない。
「いい相棒を持ったのは認める。だがな。相棒自慢なら負ける気がしないんだ」
「私が聞いているのは貴様自身の本性。貴様に一体何がある」
「ゼクト、そしてフェリックス。おれは……闘いたかった、強豪と」


DUEL EPISODE 37

勇者達の祭典(ダメージ・フェスティバル)


                     ―― 1ヶ月前 ――

 ゴツゴツとした冷たい床、物置代わりの硬い壁 カビの生えた雑な天井、主のいない蜘蛛の巣……真っ暗に閉ざされた地下の一室がある種の重力を増していた。一寸先は闇、周囲一帯も闇。迂闊に動けぬ暗闇の中でリードが神経を研ぎ澄ます……いる。暗所視の瞳でも見えない、映らない、捉えられない高速の刺客。リードの周囲を何かが ――
 呻き声と共にリードの身体が揺らぐ。背中に突き刺さったのは針状の衝撃波が3本ばかり。
「マァアアアリィシャアアアアアアウス!」
 真っ暗な地下に轟くイービル・ヒーローの唸り声。
 鋼鉄の羽根にボンデージ・スタイル。悪意の刃マリシャスエッジが手の甲から3本の針を発射。必殺必中のニードル・バーストが未熟な挑戦者を容赦なく貫く。

E−HERO マリシャス・エッジ(2600/1800)
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、このカードはモンスター1体をリリースして召喚できる。
守備表示モンスターを攻撃した時、守備力を攻撃力が超えていればその数値だけ戦闘ダメージを与える
[効果] [7] [地] [悪魔族]


 冷たい床に膝を付く一方、妙に立派な椅子の上でバルートンが煽る。デッキ構築の片手間悠然と。ノーフレムの眼鏡に特注のダークスーツ。 決闘書盤(ヴァルワール・リーブル) を片手に悠然と。
「この程度でくたばるようじゃあ、打倒ミツル・アマギリなど砂漠を海に変えるよりも難しい」
「こぉんの!」
 気合で立ち上がってはみたものの、待っていたのは針地獄。ニードル・バースト、ニードル・バースト、ニードル♪ ニードル♪ ニードル・バースト♪ ボーラがプレイ中の音楽ゲームに合わせて針千本が乱れ飛び、悲鳴のプレイボーナスが小気味良いほど加算、乗算、大合算。
 地下のデュエルフィールドに逃げ道はない。行き止まりの壁にぶつかった瞬間、真っ暗な部屋が一瞬煌めく。地下の名産・電流ロープが後退を阻む柵代わり。こんがり焼かれたリードが食べごろのボロ雑巾となって倒れ伏す。無論、雑巾は雑巾であり喰っても不味い。

 ―― サイキックのバチバチと電流ロープのバチバチ。似てると思わないか?

「やぁりぃっ!」
 ボーラが音楽ゲームのフルコンを達成する一方、マリシャス・リンチも一段落。串刺し電流地獄を満喫したリードが大の字に倒れながら苦情を入れる。
「なんでこんなに速いんだよ」
「速攻は俺達のスタイルじゃない。拘りの内容にも寄るが…… "夜" や "地下" の連中は自分の欲望をじっくりことこと煮込みたがる。しかしこれは特訓だ。おれの欲望じゃあない」
「まさか守備特訓までやらされるとはな」
「本番では相棒に守らせろ。時間がないんだ。やるべき仕事は絞れ」
「……っ!? ならなんで守備練なんてやらせたんだ。時間がないんだろ」
 バルートンはデッキ構築を続けていた。手元の《暗黒魔族ギルファー・デーモン》で紙面をコツコツ弄ぶと、 決闘書盤(ヴァルワール・リーブル) をパタンと閉じて顔を上げる。目の前のボロ雑巾に向けて静かに言った。
「《デビル・フランケン》は半ば欠陥品の骨董品。投げ込むにも相応のバカ力がいる」
「バカは余計だが、あれの投げ込みだけは自信が……」
「それしかなかったんだろ、おまえには」
「……ああ。それしかないからしょうがないと甘えていた」
「デビフラで覚えた身体性を最大限拡張する。それが当面の課題になるが、 "最低限" ができないようでは他人との連携が甘えに落ち込む。……潔くなりたいんだろ?」
「……」
「地下でやり合ったあの時、パルムにはそれができていた。そら、受け取れ」
 安心と安全の電流ロープ(しょうめいきぐ)が起動。明かりを点けると同時にバックハンドで何かを投げる。間一髪、リードが右手で受け取りプレゼントを確認。正体を知って心がざわめく。
決闘盤(デュエルディスク)か」
 心臓がドクンと高鳴る。リードはそのデザインを知っていた。太い鉄槌のような長方形の本体にウイング型のゾーン・ブレードが左右に2枚。
 新型を渡したバルートンが経緯を明かす。
「パルムから昨日預かった。細かい使い方はわかるか?」
「ああ。おれのデザインだからな」
「おまえの?」
「おれの1%をあいつの99%が形にしてくれた」
「徹夜明けで寝ぼけていたのもうなずける」
「カードが2枚?  "表" は店長からちょくちょく基礎を習ったけど、"裏" は初めて拝む」
「1枚はパルムからのおまけだそうだ。年下に気を遣わせるものじゃない」 「……」
 左腕に "決闘叛盤" を取り付けるとびっくりするほど良く馴染む。胸の鼓動がドクンドクン高まる一方、バチバチと鳴っていた電流ロープ(しょうめいきぐ)がいきなり消える。
「悪いが後は自前で点けろ。こいつの電気代、実は結構バカにならない」
 照明が消えても鼓動は消えない。自分の中に何かが息吹く。
「はっきりとしたものが好きだった」 「……?」 「おれはテキストばかり見てきた。テキストははっきりしている。特に《デビル・フランケン》のテキストは。あれだけはっきりと 『リスクがあります』 『リターンがあります』 と書かれたカードはそうそうない、だろ?」
「曖昧なものは嫌いか。ならはっきり見えないものはどうする」
「ボーラは音ゲーの画面を伏せている。こんな場所でやってるからノールックでフルコンクリアできるようになった。この真っ暗な空間は…… 『欲望』 ってやつを研ぎ澄ます舞台装置だ」
「1つ賢くなったか。ならおまえは何を読み取る」
「決闘者は翻訳者じゃない。クソ読み辛いテキストもあるし、責任者出てこいと言いたくなることもあるっちゃあるが、誰でも読めるから決闘ができる。……カードとカードの間にあるもの、それを読む」
 リードがその場で立ち上がると、同時にバルートンも椅子を離れる。OZONE起動。1ターン、2ターン、3ターン、Evil Hero Hell Blood ―― Special Summon。

E−HERO ヘル・ブラット(300/600)
自分フィールド上にモンスターが存在していない場合、 手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる。
 このカードを生け贄にして「HERO」を生け贄召喚した場合、 エンドフェイズ時にカードを1枚ドローする。
[効果] [2] [闇] [悪魔族]


 E=イービルの名を持つ加速装置が地下に出現。地獄の使者を目の前にリードが潜る。
「ここはさ、元々決闘が盛んな土地だったんだろ。おれは、この場所から西部を追いかけたい」
「今おまえがやってる古式決闘に前後左右の区別はない。かつての蘇我劉邦は四面楚歌の中から死中に活を……地獄を自分のものに変えたんだ。さぁ今度は止めてみろ。ヘル・ブラットを生贄に、」
 マリシャス・エッジが加速した。
 兄弟特有の連携プレイかボーラも呼応。音楽ゲームのボリュームをバカほど上げる。
 前か、右か、左か、後ろか。視覚を塞がれ、聴覚を潰され、針をカギ爪のように伸ばしたマリシャスエッジが後方から接近 ―― リードが反転! 手の平をバッと突き出し、緑色の光を放つ。
「《ブレインハザード》を発動!」
 激突寸前、次元の裂け目からピエロが参上。サイキック・モンスター《クレボンス》のバリアが前方に広がり、マリシャス・エッジのニードル・パンチを受け止める。

ブレインハザード(永続罠)
除外されている自分のサイキック族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する(以下略)
  
クレボンス(1200/400)
このカードが攻撃対象に選択された時、 800ライフポイントを払って発動できる。 その攻撃を無効にする。
[調律] [2] [闇] [サイキック]

「まだだ!」 リードの両手はなおもほとばしっていた。ほとばしり、ほとばしり、そこから ――

                    ―― 大会会場 ――

 両手がバチバチと唸りを上げていた。リードの両手がクイラスタジアムでほとばしる。夜の暗闇の中で弾ける緑色の閃光。その発生源も似たようなものだった。黒いハチマキを額に締め、身体の上からは緑の特攻服を羽織っている。見るからに向こう見ずなが男が徐々にオーラを高めていく向こう岸、迎え撃つゼクトもにやりと笑う。
「サイキック族使い特有の緑光。ようやくその気になったか」

               Life Point:16500

        ゼクト                    バイソン
   Set Card  Set Card             闇次元の解放
 覇魔導士アーカナイト・マジシャン        次元合成師

   静寂のサイコウィッチ
      Set Card                 Set Card Set Card
       リード                        ラウ

                Life Point:7800

 リードが従えるのは 『静寂』 の名を冠するサイキック・ガール。
 リードが仕掛けるのはフリーチェーンのセットトラップ。
 現状は2枚。まだ足りない。共に闘うカードを求めて自分のデッキに右手を添える。手の平からほとばしる緑の閃光が暗闇を斬り裂き、新たな1枚を雄々しくドロー。
 バチバチとほとばしる光がゼクトの関心をドローする。
「随分と刺激的な光だが、夜道の照明には向かんだろうな」
「点けるから見えるんじゃない。見えたから点けるんだ」
 両手がさらに荒ぶる。暗闇を暴れる静電気のように弾け、狂い、ほとばしり遂にバースト。 "Remove" "Draw" "Return" 突然、リードの墓地(めのまえ)が破裂する。

 ライフが下である場合に発動可能。墓地のサイキック族2体を除外して2枚引く

 800ライフをコストにして発動。除外されたサイキック族2枚を手札に加える

『専用トラップ《サイコ・トリガー》で爆破スイッチを押し、専用マジック《サイコパス》で地下道を進む! ライフ差を逆手にとって2枚ドロー。さらに! バイソン選手同様、異次元トンネルを通じて墓地からも戦力を回収! Team NeoGalaxyに負けじとリード選手も加速します!』

サイコ・コマンダー(1400/800)
戦闘時、ライフを500まで支払うことで、
相手モンスターの攻撃力を払った分だけ
ダウンさせる
[調律] [3] [地] [サイキック]
マックス・テレポーター(2100/1200)
2000ライフポイントを払う⇒自分のデッキからレベル3のサイキック族モンスター2体を特殊召喚できる(フィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない)
[効果] [6] [光] [サイキック]

 デッキと墓地から緑色の活力を補充すると、右手で決闘叛盤をしっかり掴む。ゆっくり身体を捻転。軽く左脚を上げると……鋭い踏み込みからオーバースローで投げ入れる。
「行けっ! 《サイコ・コマンダー》!」
 飛び出したのは浮力を持った一機の砲台。座席に座ったサイキック・ソルジャーもろとも、弧を描くようにフィールド上を旋回すると、サイコウィッチの後ろに回ってなおも突進。静かで寂しい股下に主砲を突っ込み準備完了。指示を待つ。司令官の指示は単純明快だった。勢い任せのリードが右手を突き上げ、その場で夜空にアッパーカット!
「《サイコ・コマンダー》で《静寂のサイコウィッチ》にチューニング!」
 浮遊砲台の主砲が魔女の箒となって急上昇。天まで昇って扉を開く。
「うちのエースのお披露目だ。来い!」



サイコ・デビル、同調召喚(シンクロ・サモン)



 サイキック族とは変異である!
 人間の中にサイキッカーが生まれるように、悪魔の眷族にもサイキッカーは生まれうる。
 モンスター・ゾーンに決闘叛盤が叩き込まれたその瞬間、緑髪の悪魔がドドンと参上。悪魔特有の翼と牙に加え、雷を思わせるサイコ・パワーを両腕・両脚に纏った異形の怪物。その特性は ―― 酔狂。未来を伺うサイキックの力を得ても、主人を試す悪魔の性は変わらない。
 気まぐれな悪魔の珍種は気まぐれに真価を発揮する。

サイコ・デビル(2400/1800)
1ターンに1度、相手の手札をランダムに選択し、そのカードの種類を当てる
⇒当たった場合、次の相手のエンドフェイズまで1000ポイント攻撃力がアップする
[同調] [6] [風] [サイキック]


「効果発動。パワー・オブ・フューチャー!」
 リードが右手を振り下ろすと、《サイコ・デビル》が目から怪光線を発射する。破壊光線ではなく映像光線。夜空にカードの裏側が浮かび上がり、それではここでクエスチョン。 『敵』 の正体を主人に問い掛け、当たるかどうかで未来を試す。
「モンスターを宣言!」
『晒されたのは《ライトレイ ソーサラー》! 未来に向かって、攻撃力が1000アップ!』
 当たった瞬間、《サイコ・デビル》の全身がバチバチと弾ける。3400まで上昇した《サイコ・デビル》が牙を剥き、ゼクトが従える超最上級 ―― 《覇魔導士アーカナイト・マジシャン》と睨み合う。 
「悪くはないぞリード・ホッパー。セットカードを増やし、黄金櫃の中身を晒せば良く当たる。前回の大会ではリバイス・ドラゴンがいいところ。少しは選択肢を……」
「バトルフェイズ!」
 緑色のオーラが殺気と共に弾ける。《サイコ・デビル》が主人を認め、その秘めたる力を解放。悪魔の翼を左右に広げ、未来に向かってストレート!
「覇魔導士の首が狙いか。ならば来い!」
「断る!」 「……っ!?」
 緑色の残像を残して《サイコ・デビル》が直角に曲がる。 「小癪なっ!」 ゼクトが首を振るがもう遅い。その目に映るのは精々、加速する《サイコ・デビル》の背中とうろたえる《次元合成師(ディメンション・ケミストリー)》の姿のみ。バイソンの甲冑天使・《次元合成師(ディメンション・ケミストリー)》に《サイコ・デビル》が押し迫る。
「サイコ・ナックル!」
 冥界産駒のサイキッカーに容赦はない。甲冑天使の腹を容赦なくぶち抜き、内側からサイキック・エナジーを流し込む。拳を抜いて足を引き、《次元合成師(ディメンション・ケミストリー)》漏れなく爆散。

ゼクト&バイソン:16500⇒14400LP
リード&ラウ:7000LP

『リード選手の反撃開始! 敢えて覇魔導士を狙わず、直近のダメージソースを狙ったか!』
「ふんっ! 我が覇魔導士から逃げるとは。《オネスト》にでも脅えたか!」
 ゼクトが肩透かしを食らう一方、殴られたバイソンは動じなかった。
「はっ! そんなもんじゃ止まらねえっ! 《次元合成師(ディメンション・ケミストリー)》はやられることも折り込み済みだ! 『破壊』をトリガーに最終効果を発動! 2枚目の《カオス・ソーサラー》を手札に加える!」
『ダブルスコアは未だ変わらず! ソーサラーズは未だ健在! ゼクト選手は《封印の黄金櫃》から、バイソン選手は《次元合成師(ディメンション・ケミストリー)》から、次元を跨いでエース・カードを引き寄せる!』
「拳圧はまあまあだが、踏み込みがぬるいぜ。おまえは……」
 "その程度か" そう喋ろうとしたバイソンがふと気付く。景気の良いアッパー・スタイルから一転、じっと息を潜めるリードの視線。対するゼクトはやや入れ込み、バイソン自身の呼吸も荒い。
(違う。そうじゃない。俺様に《カオス・ソーサラー》を握らせたのは……)
 "エースカード" "戦術の核" "攻撃制限" "手札ゼロ" ……脳の中枢に見知った文字列が雪崩れ込み……バイソンが気付く。NeoGalaxyの足下を狙う何者かの意志に。
「それがてめえの……いや、おまえの狙いかラウンド!」
 ムーンバリアを失ってなお、南側に立つラウは立ちはだかることをやめていない。月の布陣は敗れても淡月は未だ空にあり。ジャック・A・ラウンドがそこにいる。
「無理矢理動いて速攻の隙を消すのなら、その為の体力消費を隙にすればいい。そちらが体力(ライフ)を奪いに来るなら、こちらは代わりに体力(カード)を奪う」
「ほざいてくれるぜ」 (ホープの狙いはピンポイントブロックじゃない。ソーサラーズを使わせる為の布陣。エースの運用が違うと気付くや、逆に連投を……ガス欠を狙ってきたか)
 軽く舌打ちするがTeam FULLBURSTは休ませない。
「投げてこいよ、ソーサラー」
 リードが挑発と共にバトルフェイズを終了。残りの札をガバッと掴む。
「《サイコ・デビル》を除外して棒立ちになってもいいし、尻尾を巻いてラウに殴りかかってもいい。メインフェイズ2……手札からマジック・トラップを4枚セットしてターンエンド」
「こいつがお日様と生きてる奴の決闘か。いいぜえ。もっと遊ぼうや」
「なあバイソンさんよ……」 リードの目元がほんのいっとき緩まる。頭にふと浮かんだ興味から、ざっくりと投げ入れられた1つの質問。 「あんたはなんでここに来た」

 バイソンの心に一枚の絵が浮かぶ。額縁はガードレール。背景はコンクリート。塗料は真っ黒な夜の黒。描き込まれたのは《破滅の魔王ガーランドルフ》の孤独な君臨。路上で大きく両手を広げ、暗黒の衝撃波を放射状に解き放ち、悪逆非道の暴引族(スカルライダーズ)を一網打尽に薙ぎ払う。脅え竦む被害者(サイクリンガー)1人には目もくれず、 「こんなものか」 と呟く孤独な ――

「夜が、暗すぎたんだよ」
 ドレッドヘアにブラックローブ。奇特な決闘者が夜について語り出す。
「闇には2種類ある。1つは弾き出す闇。そしてもう1つは吸い込む闇。夜の世界は深い懐を持っているのさ。……昼間とソリが合わないこんな俺にも夜は優しかった」
「ならなぜ」
「決闘者の夜は暗闇一本槍じゃあ成り立たない。ぜ〜んぶ真っ黒じゃ何が何だかになっちまう。灯りがいるのさ。ぴっかぴかの太陽なんざ要らねえが、何の灯りもないんじゃ……やっていけない。《カオス・ソーサラー》に光属性が要るように、夜の路上には灯りが要るんだ」
 バイソンが 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) の先端を上天に突き出す。
「あの月灯りのようになぁっ!」 
「あいつは……」
 ゴック、バーベル、ガクらNeoGalaxyの構成員達は静かにバイソンを見守っていた。ゼクトに同伴する得体の知れない決闘者が、クイラスタジアムに自分を晒す。
「10年経って気づけば真っ暗。今や弾き出す闇がいいところ。違う! このバイソン・ストマードが愛した夜の闇はそうじゃない。ほんの少しの光を、あぶれ者の孤独を、全てを受け入れる混成の闇こそ夜の決闘! 本当に全てが真っ黒じゃ自分の黒さもやりたいこともわからない。そこにあのゼクト・プラズマロックが現れ、何を世迷ったかこの俺様を誘ったんだ!」
「バイソン、あれは……」
「気の迷いの光! 微かな光! それが最高に夜ってもんだ!」
 バイソンの両手が2つのオーラに包まれる。左手(ききて)には黒のオーラが大きく揺らぎ、右手には白のオーラが微かに煌めく。黒魔術師が高まる一方、おぼろな淡月が移り気な雲に隠れていた。雲の中に埋もれていく淡月とは対照的に……バイソンが解き放たれていく。
「もう十分灯りをもらった。思う存分好きなだけ、俺は真っ暗になれる」
 いつのまにか黒い霧がバイソンのフィールドを覆っていた。
 悪魔の嗅覚で察したか《サイコ・デビル》も沈静化。同様に、何かを察したリードとラウが身構える中、《闇の誘惑》がバイソンを誘う……笑った。バイソンが笑った。口角を上げて嬉々とする。 「デッキは暗闇の中にある。だから引くまでわからない。最高にスリリングだろ? 夜は……夜はなぁ……



楽しいんだよ!



「あれは!?」 「あのオーラは!」
 引いた。手札1枚のバイソンが引いた。2枚のカードを確かめ《ファントム・オブ・カオス》を除外。 "Cost" "Grave" "Draw" 怒濤の勢いでさらに引く。
「《闇次元の解放》を解き放ち、《マジック・プランター》を発動。デッキから!」
 バイソンが大きく腕を振り上げ、ベンチのミィが "それ" に気付く。まるで匂いを嗅ぐように、バイソンの決闘をつぶさに嗅ぎ取る。 「はしゃいでる。パルくんと遊園地に来たときの……わたしみたい。夜のここは……あの人にとってホームだし、アウェーだし、混じってる!」
「バイソン、がんばれ!」
 蘇我劉抗のエールを受け取り、バイソンが闇の中に左手を突っこむ。
「付き合ってもらうと言ったな。付き合ってやるよ……夜が明けるまでな! ドロー!」
 引いた瞬間、左手(ききて)の黒いオーラが大きく揺らぎ、右手の白いオーラも微かに煌めく。そのまま自慢の杖 ―― 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) を両手で掴んで頭上に掲げ、バイソン・ストマードが言い放つ。
「加速装置は1つじゃねえ。さあ暴れてやろうぜ! おまえらっ!」
『頭の上で! 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) を高速回転させている!』
(勝利も!) 正閏叛列Boy'sが夜の路上を席巻し、
(敗北も!) 決闘仮面がその全てを吹き飛ばし、
(特訓も!) 生まれて初めてタッグを研究し、 
(地上も!) ネオギャラクシーに合流。そして、
「楽しい半年だった。

 Different

 Dimension

 Revival

 ……発動」

D・D・R(装備魔法)
手札を1枚捨て、ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。


 無骨な両手に力を込めて。混ぜる、混ぜる、 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) が世界を混ぜる。天空の闇に深淵の光。夜の名の下、2つの世界が混じり合う。天の裂け目からは闇属性 ―― 《ファントム・オブ・カオス》が降り注ぎ、地の底からは光属性 ―― 《魔轟神獣ケルベラル》が跳び上がる。

ファントム・オブ・カオス(0/0)
1ターンに1度、自分の墓地にある効果モンスター
1体を除外して発動。エンドフェイズまで同名カード
扱いとなり、同じ攻撃力とモンスター効果を得る
(相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる)
[効果] [4] [闇] [悪魔]
魔轟神獣ケルベラル(1000/400)
手札から墓地へ捨てられた時、
墓地から特殊召喚する。
[調律] [2] [光] [獣]
  
  

「《カオス・ソーサラー》は混じりたがってる。俺の尻をぬぐうばっかりじゃ、そんなタマじゃねえよなあ。さあ混ざって遊べ! 墓地の《カオス・ソーサラー》を除外! 効果発動!」
 天から降り注いだ《ファントム・オブ・カオス》が墓地の黒魔術師と混じり合う。ファントム・オブ・カオス・ソーサラーの効果発動。《サイコ・デビル》に真っ黒な球体を打ち込む。
「ファントム・バニッシュ!」
『黒い球の中に全てを圧縮! 《サイコ・デビル》が跡形もなく消滅したぁっ!』
「クリープ入りのコーヒーを御馳走してやるよ! 《ファントム・オブ・カオス》に《魔轟神獣ケルベラル》をチューニング!」 求める満月は我にあり。 "光輝くもの" を意味する闇属性の獣戦士。月の隠れた夜に狼が吠える。その両腕は2つ目3つ目の頭部であった。ドクロ眩しい 決闘黒盤(ブラック・スタッフ) に導かれ、一身三頭のケルベロス・フォームが闇夜に吠える。



天狼王ブルーセイリオス、同調召喚(シンクロ・サモン)



天狼王 ブルー・セイリオス(2400/800)
フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動
⇒選択したモンスターの攻撃力は2400ポイントダウンする(効果は永続)
[同調] [6] [闇] [獣戦士]


「ガアアアアアアアッ!」
 天狼王が吠える、頭部、右腕、左腕。三重の牙で吠え猛る。
「2ターン? 5ターン? 10ターン? いずれにせよ決闘は夜の一瞬。次があるかもしれない。永遠にないかもしれない。カードも、デッキも、デュエルも……さあ行くぜ! 《天狼王 ブルー・セイリオス》でダイレクトアタック……ウルフズ・ファング!」 
 血に餓えた天狼王が牙を剥いて走り出す。バイソンがいる北部からラウのいる南部を目指し、滑り落ちるかのような勢いで一直線 ―― 「セットが4枚? 胡散臭いんだよリード・ホッパー!」 天狼王がうねる。左に向かって限界まで身体を傾けると、デュエルフィールドの真ん中でノンストップのまま左に旋回。L字を描いて天狼王が駆け昇る。 「ちぃっ!」 リードの視界を騒がす天狼王の急カーブ。把握した頃にはもうそこに。目の前にいたのは3つの牙。頭部、右腕、左腕、3つの牙がぐわりと噛みつく、リード・ホッパーの右腕に ――
「そんなもんで……っ!」
 特攻隊長の右手はカードを掴んでいた。決闘叛盤に挿入されたデッキの一番上、その1枚をしっかりと ―― 「やられるか!」 《おろかな埋葬》をぎゅいんと引き抜く。
『牙で喰い千切る直前! ドローの勢いで振り飛ばしたぁっ!』
「《ガード・ブロック》!? 喰わせ者が! さっきdisってた野郎がよく使う」
「おれが使う《ガード・ブロック》は格好いい《ガード・ブロック》なんだよ!」
 肘をL字に曲げて力説するリードに対し、ヒュゥっと口笛を吹き鳴らす。
「言ってくれるぜ……戻って来い! ブルー・セイリオス!」
 はね飛ばされた天狼王が北側のフィールドでくるりと着地。そのまま地上で吠える、吠える、吠える。ブルー・セイリオスの遠吠えに呼応してバイソンの闘気も沸き上がる。
「やってくれるな! だが! そうそう何度も防げるか!」
「バイソンさんよ! 徒労に終わった割には楽しそうだな!」
「徒労結構! 邪魔結構! 引け! 守れ! 攻めろ! 小細工を、大技を、必殺技をぶちかませ!さあラウンド! おまえは何をやる! ターンエンドだカードを引きな!」

(あいつはなんだ?)
 ラウは呆然としていた。凍り付いたように動かない。 (おれにとっての暗闇は空っぽの代名詞でしかない。真っ暗な夜から引き出せるのは墓標が精々。なのにあいつは暗闇からテーマパークをドローしている。おれが死についてダラダラ考えている間に……あいつは現に生きている)
  決闘堅盤(モーメント) のターンランプが点灯するがラウは動かない。動けない。動く為の燃料が足りない。
(なんと貧しい人生か。おれは遊べていない。残りの寿命で人生を楽しむと言いながら、おれがドローしたのは棺桶が精々。所詮深刻なフリをして、棺桶の匂いを嗅いでいるだけだ)
 いつぞやミィに投げ渡した言葉が頭の中に残っていた。 "『尊敬できる色々な人間』 のリストからおれの名前は外せ" ラウの焦燥が徐々に深まっていく。
(あいつらにとってデッキは他人事じゃない。拾うにせよ捨てるにせよ本気で足搔いている。おれはもうあいつに何も言ってやれない。どいつもこいつも……)
 眼前に決闘者達の顔が次々と浮かび上がり、そして彼方に消えていく。
 ギュッと拳を握りしめるがその瞬間、ある種の思考が脳裏を過ぎる。
(これが嫉妬か)
 腕が動かない。脚が動かない。全身が硬直して動かない。
(嫉妬……矮小で醜悪な感情……わざわざ西部まで足を運んで得たものがこれか)
 剥き出しの感情が溢れ出し、全身をぐわんぐわんと揺らしていく。そして、



なら闘える!



「おれのターン、ドロー!」
 ラウの瞳が燃え上がる。ドローした右手がOZONEを斬り裂き、勢い余って倒れそうになるが止まらない。左脚を軸に変えて踏みとどまると、目の前のセット・カードに右手を突き出す。
「《無謀な欲張り》を発動! ドロー・ステップをコストにツー・ドロー!」

無謀な欲張り(通常罠)
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
その後、自分のドローフェイズを2回スキップする


「はっ!」
 バイソンのテンションがにわかに上がる。
「ガラにもなさそうなカードを良く入れる! ラウンド、おまえはなにもんだ!」
「おれのデッキには、おれの嫉妬が端から端まで……信用に値する感情だ。だから闘える! 《墓守の石版》の効果発動。墓地から偵察者と番兵を手札に戻し、そのまま《闇の誘惑》を発動!」
(おれより優れた人間など幾らでもいる。あの頃はそれでも、本当はなんとも思わなかった。だが、)
 "Trap" "Draw" "Double" ラウの欲望が振り切れた瞬間、ドロー・ブーストがマシンを飛ばす。
「チェーンして《ゴブリンのやりくり上手》をリバース……もう1つ! 誘惑・やりくり・《デモンズ・チェーン》をコストに《非常食》を発動!」 カードも、ライフも、今だけを見据えてかっ飛ばす。
「やりくりターボの変則型で3000ポイントライフを回復する! そして! デッキから3枚をドローし、手札から1枚を選択。デッキの一番下に戻す!」
 かつて、Team MusclePartnersのビッグ・ブラザーは、精一杯の大脳中枢筋(ユーモア)を効かせてラウのデッキをこう名付ける ―― 【All-Round】。その意味するところは器用貧乏の半端者。
 それからはや数年、ラウのハンドが一列に並ぶ。
 攻撃? 防御? 維持? 補充? あるいは ―― 《墓守の番兵》をデッキに戻す。
「《闇の誘惑》の効果処理。デッキから2枚引き、《墓守の偵察者》を除外!」
 カード・チョイスを終えたラウが高らかに遊び始める。人生を賭けたTCRPGが始まった。
「おれの【All-Round】は戦士と僧侶と魔法使いのデッキだ。《ドドドバスター》を特殊召喚!」

ドドドバスター(1900/800)
@相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、レベル4として特殊召喚可能
Aアドバンス召喚時、「ドドド」モンスターを表側守備表示で特殊召喚できる
[効果] [6] [地] [戦士]


 闇属性から地属性。魔法使い族から戦士族。モンスター・ゾーンの二列目に 決闘堅盤(モーメント) が炸裂し、モーニングスターを構えた土色の重戦士が躍り出る。
「おれは葬儀屋に嫉妬しているらしい。それがたいそう気に食わなくて面白いから、今日は棺桶で遊ぶことにする……《ドドドバスター》をリリース、2体目の《ドドドバスター》をアドバンス召喚!」
 その戦士は柔軟性に長けていた。単騎においては速度を、布陣にあっては協調を重んじ、縦横無尽に戦地を駆ける重戦士。
「効果発動! 墓地から《ドドドバスター》Bを特殊召喚!」
 棘付きの鉄球を先端部に付けた長い棒 ―― 通称モーニングスターを両手で振り上げ大地を叩き、眠れる自分を喚び起こす。 すなわち、
『アドバンスバスター! 2体の "ドドド" がフィールドに!』
 6つの『ド』が並んだ瞬間、バイソンがすぐさま感じ取る。
「棺桶野郎の気迫が違う! 気をつけろ相棒! 来るぞ!」
「望むところだ! 来い! ジャック・A・ラウンド!」
 超最上級《覇魔導士アーカナイト・マジシャン》を目の前に従え、白魔導師が迎え撃つ。
(うちの構成員が《フォトン・ストリーク・バウンサー》の存在を確認している。ソーサラーズの効果を跳ね返す真紅の用心棒。ホープの次は直接効果を……) 「むっ、あれは!?」

『ラウンド選手の後方から! 真紅の装甲車が現れたぁっ!』

 "ドドド" と高鳴るエンジン音。実体のない赤い装甲車の映像が背後の壁をゆっくりとすり抜ける。真紅の装甲に巨大な車体を見て取ると、大会常連の白魔導師が程良く煽る。
「ならば! その装甲車、真っ赤な棺桶にしてくれる!」
「そもそも決闘は棺桶のようなもの。ただ、敢えて言っておくなら、眠っている何かがほんの束の間よみがえる。この場合、カードは札の棺桶で、ディスクは鉄の棺桶だ。おれたちが普段やっている召喚行為が、いかにふざけたものであるかを教えてやる」

 STEP@:札の棺桶(カード)鉄の棺桶(ディスク)に入れてブン投げる

 STEPA:鉄の棺桶が開くと同時に札の棺桶からドドドが飛び出す

 STEPB:《ドドドバスター》が自分自身を蘇らせる

 STEPC:赤い棺桶(そうこうしゃ)にドドドを入れて ――

 ラウはいったん腰を落とし、左足を前に出す。そこから決闘盤を右手で掴むと、ぐぃっと大きく後ろに引いた。そのまま身体をググッと捻り、捻り、限界まで捻り上げ……ラウの動きに呼応したのか、背後の装甲車も一気に加速。そして、
「ふざけきれっ!」
 腕の軌道を装甲車の軌道に合わせ、捻った身体を解放。全力全開で 決闘堅盤(モーメント) を投げ入れる。地面スレスレを滑空する円盤と、それに追走する装甲車が周囲の目を惹き……束の間の召喚劇が始まった。フィールドに到達した真紅の装甲車が実体獲得・変形開始。車体に折りたたまれた脚が伸び、腕が伸び、先端からは手首が伸びる。頭部上昇、光る両眼は意志の業!



ガントレット・シューター、装填召喚(エクシーズ・サモン)



「ぬぅっ!」
 ゼクトが瞠目する。真っ赤な装甲に灰色の手首。機甲戦士の両腕は必殺の武器へと昇華されていた。照準は勿論、ゼクトの前にいる覇魔導士。脚を踏み込み、腕を突き出し、発射した右手首が弾丸に変わる。即ち、 「ガントレット・ストライク!」 「ロケットパンチか!」 

ガントレット・シューター(2400/2800)
エクシーズ素材を1つ取り除くことで、相手
フィールド上のモンスター1体を破壊する
[装填] [6] [地] [戦士]


『必殺のガントレットが覇魔導士の土手っ腹をぶち抜いたぁっ!』
「やるっ!」
 それでも白魔導師は怯まない。 「除外には劣るが悪くない。しかし! ロケットパンチの弾数は2発。使わないのでは勿体ないぞ。さあ両腕を使ってみろ! 使えるものなら!」
「残っているのはブルー・セイリオス」
「死に際の執念に怖じ気づいたか。ならば!」
(そうだ。ゼクトもバイソンも恐れを超えている。手数を増やすことによるデッキの安定……違う。試合前の先入観などクソの役にも立たない。そうじゃない。あいつらは必死なんだ。除去を絡めた二列速攻で防御の隙間を? これは誰かさんが得意とする戦法。こいつらが……)
 ラウの脳裏には様々な決闘者の顔が浮かんでいた。フェリックスが浮かび、蘇我劉抗が浮かび、パルムが浮かび、ミィが浮かび、チェネーレ・スラストーニさえ浮かぶ中、 (こいつらが) 1人浮かばない者がいる。 「おれのレベルで……満足していられるか!」
『《ガントレット・シューター》が左手首をパージしたぁっ! これは一体!?』
 手首を失った両腕が轟き始める。オーバーレイ・システム完全解放。両腕の先端が砲門に変わる。他方、脚部のアンカーを大地に刺し込み身体を固定。必殺の体勢からデュエル・エナジー充填完了。
 真紅のボディがツイン・アーム・キャノンを西側(ゼクト)に向かって突き出し ――
「 "《ガントレット・シューター》は両腕を使う" 」 
 両腕からビームをぶっ放す。



ガントレット・バースト!



「相棒!」
 バイソンの視界を2本のビームが走り去っていく。首を振る間もない2つの光芒。2本のビームがデュエルフィールドを突き抜け、恐るべき勢いでゼクトを呑み込む。
『《鬼神の連撃》によるリミット・オーバー・エクシーズ! ダブルブーストでラウンド選手が一気に加速! 先頭を行くゼクト・バイソンペアに競り合い!』 


 14000!



 13000!



 12000!



 11000!



『一気に抜いたぁぁぁぁぁっ!』

ゼクト&バイソン:14400⇒9600LP(《鬼神の連撃》)
リード&ラウ:7000⇒10000LP(《非常食》)

『防御に寄せていたはずのラウンド選手が、7400の距離を一気にまくる!』
 夜の闘技場に歓声が鳴り響く。声を張り上げ、足を踏み鳴らし、思い思いの方法で決闘を堪能する中、 「なんて顔してんだよ」 エルチオーネがふと気付く。燃え盛るチェネーレの表情に。

鬼神の連撃(通常魔法)
自分フィールド上に表側表示で存在するエクシーズモンスター1体を選択し、
そのORUを全て取り除いて発動する。このターン、選択したモンスターは
1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


 金網が真っ赤に染まっていた。アリアの手の平が鋼鉄の幾何学模様と同化していく。
「《ガントレット・シューター》に《鬼神の連撃》。新型のデッキではブレハを使えないからって、ちょっと前に交換したカードなんだけど……わたしと何が違うんだろう」
 のめり込むアリアを横目で見ながら、テイルが頭を抱えていた。
「ハンカチ貸してやるからさっさと血を拭け! クソッ、こういう時ほどこういう奴らは!」
「単純な火力ならもっと上をいける。それでも、観客はきっとあんなに沸かない」
 アリアが金網から手の平を引き剥がす。引きたい。引きたい。引きたい。引きたい。ドローフェイズが欲しい。スタンバイフェイズが欲しい。メインフェイズが欲しい。バトルフェイズが欲しい。この際メインフェイズ2でもいい。アリアの意識が空間の中に溶け出していく。
「もうダメージレースじゃない。テイル、ここはお祭りだよ。ダメージ・フェスティバル!」

 両手首を失った《ガントレット・シューター》をシールド代わりに、ラウはマジック・トラップを2枚セットしてターンエンドを宣言。鬼気迫る迫力……叛列の白魔導師も昂ぶっていた。
「最早特攻の域。隙を逃さぬポーカーフェイスと思いきや、こじ開ける顔もできるとは」
 《覇魔導士アーカナイト・マジシャン》を失いながらも毅然とした態度は変わらない。後方の金網に赤い瞳を見付けると、 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) の先端を前に出す。
「 "両腕を使う" とは懐かしい。あの夜の決闘仮面は美しかった。そしてそれ故、あまりに恐ろしかったのだ。我々2人は、闘い続けることであの恐怖を……」
 ゼクトが胸元を手でさする。言うべきことは既に決まっていた。
「お陰でさっき頭を過ぎった。ゆえに断言できる……恐れはない!」

Turn 17
■9600LP
□1000LP
■ゼクト
 Hand 2
 Moster 0
 Magic・Trap 2(セット/セット)
□リード
 Hand 3
 Monster 0
 Magic・Trap 3(セット/セット/セット)
■バイソン
 Hand 1
 Moster 1(《天狼王 ブルー・セイリオス》)
 Magic・Trap 0
□ラウ
 Hand 0(※ドロースキップ×2)
 Monster 1(《ガントレット・シューター》)
 Magic・Trap 2(セット/セット)

(キャンバスに絵を書き続けた)
 呼吸を整えたゼクトが夜空を見上げる。
(1枚仕上げては 『私の求めるものではない』 と苦悩した。閉じ込められた宇宙では足りない。私の求める美ではない。そしてある日……私の前に決闘という名の宇宙が現れた)

 一枚の絵がある。額縁はない。背景はない。ありのままの真っ白なキャンバス……その一歩手前で崩れ落ちるゼクト・プラズマロックの肖像。精根尽き果て……外から何かが聞こえてくる。疲れ果てたゼクトが窓を開けるとそこにはOZONEが広がっていた。ゼクトはそこで白い龍を、ホワイト・フェリックスが操る《青眼の白龍》の勇姿と出会う。 「美しい……」 それが全ての始まりだった。

「10年前、決闘を始めると言った時は誰もが笑ったよ。浅薄なブームに乗った愚か者。しかし私は一心不乱に追い求めた。そして掴んだのが《ライトレイ ソーサラー》の決闘美学。除外の自由美に魅せられ……そう、自由。昼間の光に溺れて忘れていたのだ。美学を、快楽を、挑戦を、嫉妬を、見栄を、執念を、渇望を……あらゆるものが渦を巻くのがデュエルフィールドというもの。フェリックス、貴様の生き方こそリーダーにふさわしい。蘇我劉抗、おまえの想いも銀河の1つ。そして……」
(バイソン、こうも食い違う私とよくぞここまで闘ってくれた。おまえは楽しそうに引く。おまえのようには引けそうにないが……それでも、眩しいものから目は反らさない)
 ゼクトが右腕を、ロッド型の 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) を高々と掲げる。それはある種の着火であった。
「強豪……」 「強豪……」 「強豪!」 「強豪!」 「強豪!」 「強豪!」 「大☆強☆豪!」
 西側の観客席から強豪コールが鳴り響く。銀河に轟く歓声の中、叛列の白魔導師は誰よりも美しく起立していた。降り注ぐ声援を背中で受け止め目を瞑る。
 勝利を度外視した美の追求によりチーム内での支持を失い、バイソンと共に勝利と敗北を駆け抜けた半年間。フェリックス、バイソン、バーベル、ゴック、ガク、蘇我劉抗、そして数多の一般構成員……全てを受け止め目を開く。
「Team FULLBURST!」
 西部激震。 決闘白盤(ホワイト・スタッフ) を勢いよく振り下ろし、南東に向かって目を見開く。17ターン目の宣戦布告にリードとラウが瞬時に身構え、眩いばかりにゼクトが発光! 光のオーラによって縁取りされていくホワイトローブから腕を伸ばし、信じたデッキに右手を添えて言い放つ。
「私が……NeoGalaxyのエース・デュエリストだ!」

 我らのターン、ドロー!


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。次回決着
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話

































































































































































































































































































































































































































































































































































































 
















 








 

 

 

 

 

 

 

 

 










 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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