―― いつだって突然だった。デュエルに、チームデュエルに踏み込んだ途端、テロ君から別れを告げられた。いつだって突然だった。デュエルに、タッグデュエルに打ち込んだ途端、アブロオロスとの別れを告げられた。いつだって突然だった。新しい世界を引き込もうとすると、今いる世界があっという間に崩れていく。何もできないまま、わたしのもとから消えていく。


「近くでじっくり見るの初めてだけど」
 投盤のコツ、構築のプラン。ノートに書き殴ったことを思い出しながら、パルムはそれを眺める。攻撃力100、守備力2100。丸い瞳で罠を捉え、鋭い嘴で罠を食う。空に馴染んだ淡色の翼が揺らめき、迂闊に眺める者を知らず知らずの内に引き込んでいく。 「綺麗だな、おまえ」 敢えて翻弄されながら少年は思考を巡らせる。 "積めるだけ積みたい" そう聞かされて引っ張り出した1枚。
「ようやく会えた。ミィを助けてやってくれ」

(大好きだった) 投盤で振った左腕をスカートの隣まで戻す。 (一緒に闘ってくれるドッシリしたモンスターも、右から左にババーンってなるマジックも) 召喚を終えたパルームを右腕に寄せる。 (トラップは受身で、わたしに似てて格好悪くて……違う。トラップは ―― ) 研ぎ澄まされていく指先の感覚。 「……特殊召喚成功時、幻凰鳥−トリック・トランス・トルネードの効果発動」
 戦禍を生き抜く鳥類の足掻き。戦地に転がる罠の残骸をむさぼり、自らの身体で罠の本領を学ぶ。繰り返される鳥体実験、辿り着いた突然変異。淡色の羽根が赤く染まり、両手のデュエルオーブが光輝くその瞬間……千切れそうになるほどの勢い。ミィが両手で空を押した。

「"トリック・ペンタグラム"!」
 空を騒がす打ち上げ花火が始まった。布陣を払う罠、初弾を弾く罠、大型を抉る罠、戦闘を捌く罠、直撃を返す罠……羽根と共に打ち上げられたトラップ・カードが天空に五芒星を描き出す。 「裏向きで除外されたトラップの中から1枚を選択」 ミィが両手を合わせた瞬間、天空の五芒星が中心一点に凝縮。両腕を縦に振って大地に埋める。 「フィールド上に再セット!」
(5枚の残骸を掻き集め1枚を再生) 蘇我劉抗の表情は一定していた。マジック・トラップを斬り裂く
光輝の騎士《ライトレイ ギア・フリード》を横目で確認。悪足掻きと断ずる。しかし、
「もういっこ! 手札からマジック・トラップを1枚セット。ターンエンド」
 蘇我劉抗の眉間に皺が寄る。少女が言った。
「一度で駄目なら二度三度。来るなら来い!」

幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード−(100/2100)
自分の墓地に同名のトラップが2枚以上存在しない場合、裏向きにして5種類除外することで特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚に成功した場合、裏向きで除外されたトラップの中から1枚を自分フィールド上にセットする。
自分の手札・墓地から「幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード」を3枚除外⇒デッキからマジック1枚を手札に加える。
[特殊] [5] [風] [鳥獣]


「ドロー!」 抜札を終えた蘇我劉抗は右腕の照準をミィに合わせる。
(性懲りもなく多重セットを。奴の手札はほんの1枚…… 焼夷弾(ブラック・ローズ) が怖くはないのか)
 北の狙撃者が視界を広げた。フィールド上に存在するモンスターは僅か2体。西の《ライトレイ ギア・フリードと南の《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード》。マジック・トラップは5枚。西のフェリックスが《光の護封剣》を東に打ち込み、東のパルムが1枚をセット[バイソン曰く使用不能のマジックカード]、更に南のミィが2枚のセットカードを置いている。残るは自身の1枚限り。

ライトレイ ギア・フリード(2800/2200)
自分フィールド上に表側表示で存在するのが戦士族
のみの場合、自分の墓地の戦士族1体を除外する事で、
マジック・トラップの発動を無効にし破壊する
(1ターンに1度しか使用できない)
[特殊] [8] [光] [戦士] 
光の護封剣(通常魔法)
@相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする
A3ターンの間、フィールド上に残り続ける
B相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない
  
  

(拡散した脅威では一点突破に叶わない。それを知っての一点収束) 蘇我劉抗がミィを睨む。 (フリッグのリンゴ、畳返し、自由解放、砂塵の大竜巻、煉獄の落とし穴。……何を伏せる。飽くなき連打はこちらの専売特許と知っている筈。焼夷弾の再来がチラ付く以上、《ライトレイ ギア・フリード》の排除を待つのは悠長……ある。恐怖を打ち消す即効性の札があの中に)
 突如、風船の割れる音がした。目の前にあったセットカードがドロー粒子を撒き散らす。 "Reverse" "Magic" "Dark" "Draw" 固定された右腕(ノーモーション)からの《闇の誘惑》は《マジック・プランター》の再来か。セットスペルを引き上げミィの反応を伺う。……不動。ミィは微動だにしない。
(完璧なポーカーフェイス……完璧すぎる。ならば、)

 ―― 思うなよ……。こんなことで、ぼくの【反転世界(リバーサル・ワールド)】を止められると……っ!

(止める!) 「デッキから2枚引き《魔導戦士 ブレイカー》を除外。特殊召喚権を放棄し《強欲で謙虚な壺》を発動。デッキトップから3枚を捲り、」 開かれた右手の前に3枚のカード・ヴィジョンが浮き上がる。1枚目、《ブラック・ボンバー》、2枚目、《ダーク・ネフティス》、3枚目……
「2度ある事は3度ある。《ピンポイント・ガード》を手札に」
「以前うちの店に来た」 アブソルが薄く笑う。 「龍を一体融通したくなる程度にはいい手をしていた。打撃型ならチームに誘っても良かったぐらいだ。とはいえ、うちに来る客なら」
(来たか) 東から北への視線。手札を弄る左手をパルムが追いかけていた。蘇我劉抗は敢えてほんの少し動きを緩める。気持ち分やや長めのシャッフル。ある者は隠し、ある者は見せる。
「モンスター、マジック・トラップを1枚ずつセット。ターンエンド!」

「罠の張り合いか」 観客席の最上段より更に上。2メートルオーバーの棒の上に緑髪黄眼の優男がゆらりゆらりと立っている。Team MistValley大将、その名はライアル・スプリット。
「かつての西部は荒れていた。暴引族が跋扈しモンスターで殴ることしか考えられない空間。40枚全てがアタッカーというのも珍しくなかった。それ故、西の決闘行政はマジック・トラップを必要以上に推進。価値観が上塗りされ……めでたく近代化したわけだ。ジャムナード、君はどう思う」
「大地に小細工は無用」 2メートルオーバーの棒の正体は、両刃斧型デュエルディスク 決闘斧盤(グレイトアックス) の柄であった。身長2メートルの巨漢、ジャムナード・アックスがばっさりと答える。
「大地の主役は生物! 魔術がもたらす奇跡は兎も角、小賢しい罠など悠長に過ぎる!」
「私の前でそれを言うのか」 「嘘は嫌いだ」 「確かにトラップは即効性に欠ける。しかし、『仕掛ける』 と 『起動する』 という要素が、人間性を如実に反映するのも事実だよ、ジャムナード。かつての蘇我劉邦が一歩先を行っていたのも、《闇次元の解放》によるものが大きい」
「トラップを持たぬ者の "人" はどうなる」 己とパルムを順次指さす。
「その答えは」 ライアルが跳んだ。 決闘斧盤(グレイトアックス) の頂点からふわりと跳躍。会場を囲む太陽龍の口に 決闘風盤(フーガ)決闘雷盤(サンガ) を引っかけ優美に回転。龍の頭上に身を立て言った。
「いつだって決闘が知っている」

Turn 17
Life 10000
Life 11000
■パルム
 Hand 4
 Moster 0
 Magic・Trap 1(セット)
□フェリックス
 Hand 3
 Monster 1(《ライトレイ ギア・フリード》)
 Magic・Trap 1(《光の護封剣》)
■ミィ
 Hand 1
 Moster 1(《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード−》
 Magic・Trap 3(セット/セット/セット)
□蘇我劉抗
 Hand 3
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 1(セット/《デモンズ・チェーン》[発動済])

(ミィは 『ここに来たかった』。 じゃあぼくは?)
 "向かい合う" "踏み越える" ……雄壮な文字列を頭に浮かべながら、パルムは使用不能のカードをじっと眺める。 (旧時代に生きてればマジックとトラップを使えた? 西部でなければデッキ構築の自由を?) 西部歴史学を修めたラウ曰く 『マジック・トラップの推進を果たしたのは当時のトップランカー一同。そもそも統計を鑑みれば五枚規制に意味はない。行政があやまちを認めたくないから今も残っている』 "ひょっとして" 仮説がパルムに絡み付く。
(ぼくがここに来たのは……当てつけてやりたかったから?)
 パルムは会場をぐるりと見渡す。ゆっくり一周。腐食の跡を残す両腕に戻る。時に試合さえ拒まれた両腕。使いたいのに使えない、入れたくないのに入れねばならない、引きたくないのに引いてしまう、そんな両腕。 『マジックやトラップを使わない決闘なんて決闘じゃねえよ!』 『本物の愛を備えた真の決闘者になれるかと期待したのに。がっかりだよ』 刻まれた拒絶が頭をよぎる。
(昔の同期に目に物みせてやりたかった? ぼくでもやれるって証明したかった?)
 10歳の頃から引いていた。1日たりとも決闘を考えない日はなかったが、対外試合の総数は日数 ―― 5年とんで170日 ―― にまるで及ばない。思考の沼を足搔く日々、自分を自分でない何かに変える呪いのような思考が纏わり付いた。中心に踏み込むほど深まる呪い。
 ふとフェリックスに向かって問いかける。
「あのさ」 「なんだ」 
「TCGはカードとカードをぶつけ合う。殴るにしても、嵌めるにしても、カードでカードをどうにかする。その間決闘者は逃げられない。何があってもここに立ち続けないといけない」
「その通り。現に今、逃げ場はない」
(四面楚歌)
 パルムが拠って立つ東側のフィールドを囲むのは四本の剣。左右背後を《光の護封剣》が囲い込む一方、西側では《ライトレイ ギア・フリード》が剣を構えて壁のように圧迫している。更に北側にはもう1人。蘇我劉抗がスナイプアームを構えて狙撃を狙う。更にその奥には後続の……
(バルートンは対決姿勢。ぼくの上限を敢えて引き出し大技の隙を狙った。フェリックスの受け筋はこれとも違う。 半端な反撃を誘っては圧し潰す。ちょびっと布陣を抜けたところで圧力行政は潰せない。いつの間にやら敷地が狭くなる) 二重三重の圧力が、プレス機となって少年の精神を四方から圧迫。それまでの人生に重なっていく。 (逃げ道は……あると言えばある)
  決闘集盤(ウエスト・ピッカー) ―― 修繕を繰り返した愛機に右手を添える。
(夜逃げでもすればいい。……ぼくはここから逃げない。だから、) "本当に?" という声が脳裏に響くが、パルムはギュッと唇を噛む。 (西部が怖いから逃げる……情動が行動に直結するのはガキの発想。ぼくが今やるべきは) 高まったデュエルオーラが腕から漏れ出すその瞬間、
「ドロー!」 (圧力の発生源を直接叩く)
 6歳のころ憧れた戦隊物の秘密基地。中心部に本拠を置いて、そこから五方向にドックが伸びる。ドックから発進したバトルマシンは1つに合体。巨大ロボが敵を討つ。パルム・アフィニス16歳。モンスター偏重型の 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) は中心部に墓地を置く。デッキから引いた1枚を墓地の天辺に仮置きすると、五方向に伸びたモンスター・ゾーンがほんの一瞬煌き……モンスターの映像がゾーンに映る。

 夜行性の種を撒き散らす謎の植物 ―― キラー・トマト

 偽装を施された補給部隊 ―― 魔装機関車 デコイチ

 週末の墓地を徘徊する不審者 ―― 終末の騎士

 機械仕掛けの鳥人変化(トリックスター) ―― A・ジェネクス・バードマン

 偏執狂的召喚師 ―― 召喚僧サモンプリースト

「一度で駄目なら二度三度」



僕はいつだってそうしてきた!

ダーク・クリエイター、特殊召喚(スペシャル・サモン)




 生と死を反転させる黒鉄の巨人が立ち上がる。オレンジ色の翼は空に飛ぶ為に非ず。アビス・パネルによる闇力発電。命の発電施設がここにある。
『大型2体が睨み合う! 受け継いだのは五つの意思か!』
 光輝の騎士《ライトレイ ギア・フリード》が剣を構えて迎え撃つ一方、黒鉄の巨人《ダーク・クリエイター》は両の掌に雷をためる。四刀結界の真っ直中でも、その力に揺るぎなし。
『若干16歳……この投盤力は一体何だ!』

ダーク・クリエイター(2300/3000)
1ターンに1度、自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
自分の墓地の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。
[特殊] [8] [闇] [雷]


「パルムはうちの常連。儀式も融合も使えない、が、投盤精度なら遅れは取らんよ」
「投げ込む時間には困らなかったから。ぼくにとっての 『失う』 は、いつだって 『得る』 とおんなじだ。効果発動。 "ダーク・エクスチェンジ"!」
 墓地主催の錬闇術(れんあんじゅつ)が始まった。デコイチの残骸を闇に戻して燃料を補充。ウイング型のアビスパネルで発電開始。広げた両腕から放電し、浮上した召喚僧に命の充電を……超高速の何かが召喚僧を貫き爆散。反射的にセットを確認するが何も裏返ってはいない。
「セットの追いかけっこなど、ハナからどうでも良かった」

  威圧する魔腕(ドゥルダーク・アームズ)。 蘇我劉抗が右手をかざす。

D.D.クロウ(100/100)
手札から墓地へ捨てて発動⇒相手の墓地のカード1枚を選択し、
ゲームから除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。
[効果] [1] [闇] [鳥獣]


『不発っ! 暗黒発電今何処! 電線の上のカラスには通用しないというのかぁっ!』
「何かを見せるとは、別の何かを隠すこと」 蘇我劉抗が冷徹に打ち抜く。 「エースラインの台頭を抜きに残りの手札でどこまで削れる。四面楚歌を超えられるかどうか、なんなら試すか」
 闇属性の跳梁跋扈決して許さず。その瞳には見えていた。
 孤立した《ダーク・クリエイター》を打ち抜くドゥルダークの姿が。
「……いい手を持ってる」 パルムが顔を伏せる。数秒の沈黙。観客がざわめく一方、音を失っていくフィールド。突然、腕を縦に振った。虚空に放り出される決闘盤。特殊重力下の天井に向かって宙を舞うと、軽く放物線を描いてゆっくりと落下を始める。落下……落下……落下……
「なにっ!?」 蘇我劉抗が突如よろめく。ズシリと重い衝撃波の感触。
「 "レベル・ブラスト" 」
「山を描くような投盤………まさか!」
 山札のド真ん中、それは山の頂点に他ならない。そして! 山頂に蠢くのは六本脚の食屍鬼。デッキトップの《トラゴエディア》が霊体となって超加速。蘇我劉抗の土手っ腹をズシリとえぐる。
「向かい風を追い風に変えるのが【反転世界(リバーサル・ワールド)】。今ので…… "21枚目" だ!」
 揺り戻しの力が反転を生み出す。小が集まるなら集めればいい。小を集めれば残りは大。山頂爆破でレベル10を投げ飛ばし、爆風を利用して自らも飛翔。その名は、
「《星見獣ガリス》を特殊召喚。《トラゴエディア》のレベル×200=2000ポイントのダメージを叩き込む。もう1つ! 墓地の《キラー・トマト》を除外して、レベルの5の《スポーア》を特殊召喚」 手札を、デッキを、墓地を、全てを駆使してパルムが動く。 「サイドチェンジが効くルール。対地縛神用の《バトルフェーダー》が今もあるのかどうか。もし入っているとして、残りの手札に果たしてあるのか……試してみるのも悪くない」 パルムの瞳が鋭く尖る。 「ぼくらが視た絵をくれてやる」

パルム&ミィ:10000LP
フェリックス&蘇我劉抗:11000LP⇒9000LP

星見獣ガリス(800/800)
手札のこのカードを相手に見せて発動⇒自分のデッキ
の一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスター
だった場合、そのモンスターのレベル×200ポイント
ダメージを相手ライフに与え、このカードを特殊召喚する。
モンスター以外だった場合、このカードを破壊する。
[効果] [3] [地] [獣] 
スポーア(400/800)
墓地に存在する場合、このカード以外の自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動
⇒墓地から特殊召喚し、この効果を発動するために除外したモンスターのレベル分だけレベルを上げる(「スポーア」の効果はデュエル中に1度しか使用できない)
[調律] [1⇒] [風] [植物] 



星見獣ガリスにスポーアでチューニング!

スクラップ・ドラゴン、同調召喚(シンクロ・サモン)




『廃炎龍が轟き猛る! その名は《スクラップ・ドラゴン》!』
「攻撃力では精々五分。マジックもトラップも通じない。けど!」
 廃炎龍の背中をズワッと開き、セット済みのマジック・カードを投入。燃料を与えられた焼却炉がフル稼働。眼前の騎士に向かって火炎弾を放つ。
「モンスター効果発動!  "スクラップ・ヘル・ファイア" !」

スクラップ・ドラゴン(2800/2000)
1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを
1枚ずつ選択して発動⇒選択したカードを破壊する(以下略)
[同調] [8] [地] [ドラゴン]


『光輝の剣も廃物の炎は斬れず! 光の騎士が燃え尽きたぁっ!』
「この気迫」 蘇我劉抗が驚嘆する。 「そちらが真のエースとでも」
「エースエースとうるさいな」  決闘集盤(ウエスト・ピッカー) をもう一度握りしめる。
「選べたモンスター。選べなかったモンスター。ぼくと一緒に闘ってくれるモンスターは……ぼくと一緒に闘ってくれたモンスターは……こいつらがいたから」

 ―― ……嬉しかった。わたしが初めて使った魔法は《ツイスター》で、あれって手の平から竜巻がぶわああああって出るんですよ。あの時のことは今でも覚えてる。なんだか魔法使いになったみたいで

「本音を言うなら羨ましかった。なんだよ手から竜巻って……超いいじゃんか。けどさ、」
 手札に控えた1枚の速攻魔法を一瞥する。使用不能の《ツイスター》。パルムは止まらなかった。ゴミ捨て場で拾った中の1枚を 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) にねじ込むと、限界まで自分の身体を捻り込む。
「地属性《オオアリクイクイアリ》と、風属性《The アトモスフィア》・《スポーア》を除外」



ぼくにもツイスターはある!

デザート・ツイスター、特殊召喚(スペシャル・サモン)




(笑った?) 蘇我劉抗が目を見張る。困惑……風の魔精が竜巻を纏うと同時に、パルムがいたずらっぽくにっと笑う。 (なぜ ―― ) 疾風の圧縮機が真価を放つ。
「《ツイスター》を捨てて効果発動!」
 
デザート・ツイスター(2300/2000)
1ターンに1度、手札を1枚捨てる事でフィールド上のマジック・トラップ1枚を破壊する
[特殊] [6] [風] [悪魔]


「ぼくの《ツイスター》は《砂塵の大竜巻》に化ける。そして!」

 ―― 未来に向けて置くカード。それがトラップ

「行くよ、パルくん!」 ミィが呼応した。ありったけの声を振り絞る。 「リバース・カード・オープン!」 ミィがトラップカードを反転させた。幻凰鳥でセットした1枚を。
「《砂塵の大竜巻》を発動!」
「馬鹿なっ!」 瞬間、蘇我劉抗の右腕が微かに揺らぐ。
「《畳返し》では、カウンター・トラップではないというのか!」

                 蘇我劉抗[北]


   フェリックス[西]                  パルム[東]


                    ミィ[南]

 パルムからフェリックスに、ミィからリュウコウに。ツイスターを護封剣に、トルネードをセットカードに。デザート・ツイスターとトリック・トルネードがその真価を発揮した。2本の竜巻が大地を奔り、《砂塵の大竜巻》となってクロス。剣の台座を、右腕の盾を、威圧の壁を吹き飛ばす。
「なぜだ」 蘇我劉抗が揺れる。 (《ブラック・ボンバー》からの 焼夷弾(ブラック・ローズ) を防ぐなら、ギア・フリードに邪魔されない《畳返し》ではないのか。なぜ砂塵を選べる。なぜ《闇の誘惑》に反応しない)
「計画と即興」 パルムが強豪の核に照準を合わせる。 「こういう絵を見たかった。行くよ!」
 バトルフェイズ。黒鉄の創世神《ダーク・クリエイター》が雷を鳴らし、古参の廃炎龍《スクラップ・ドラゴン》が火を焚き、砂塵の魔精《デザート・ツイスター》が風を巻く。この3体に共通項はない。故に、 「さあおまえら、好きなだけ暴れて来い!」 狙いは一点フェリックス。頭上からの落雷が、正面からの火柱が、両サイドからの風刃が、破裂音と共に混じり合う ―― 仕組まれた即興(ツイスト・クリエイト)

パルム&ミィ:10000LP
フェリックス&蘇我劉抗:9000LP⇒1600LP

『落雷が火柱が風刃がフルヒットォッ! 強豪フェリックスが弾け飛ぶっ!』
 モンスターは意思を継ぎ、マジックは意思を伝え、トラップは意思を放つ。故に少年は1つを選ぶ。マジックを燃料に、モンスター主体のチャージ&アタックで自分の空間を生み出す。逆に少女は1つを選ぶ。マジックを潤滑油に、トラップ主体のディフェンス&チャージで他人の空間に立ち向かう。パルムが右手を、ミィが左手をぐっと握りしめる中
、呆然と眺める者がいた。
「なぜだ」 蘇我劉抗の視界がぐにゃりと歪む。 「なぜ圧されている」 


DUEL EPISODE 35

ラストパス


「親父、そんな生活を続けてたらおっちんじまう」
「すぅいませーん! これでも元チャンプなんですぅ!」
 中央から帰ってきた親父はもう違う人間だった。足を砕かれ無惨な姿に成り果てた "元" 英雄。不自然なほどの速さで世代交代が進む中、親父に対する風当たりは逆風ですらない。無風。抗がうことすらままならない。ミツル・アマギリを褒め称える伝記の中にしか登場しない架空の悪役。それが親父の末路。時折、親父はカードを手に取ろうとする。その度に脚は怪我で震え、手は恐怖で震えていた。酒やらなんやらに溺れ、母さんにも逃げられた自慢の親父。殴られた時に言ってやったよ。
「効かねえよ! まるで効かないんだよ!」 あの時の親父の顔。傑作過ぎて泣けてきた。

 ある日親父は酒やらなんやらを断った。親父にそれだけの意志が残っていたのを喜んだよ。なのに捕まった。西部の象徴を襲って西部の英雄に倒された。監獄に通ってわかったのは少しだけ。譫言のように 「悪いことをした」 と呟く親父と、その身体がもう長くは持たないというクソみたいな事実。親父の身体はもう壊れていた。それからしばらく……親父が血を吐いてくたばった。自らの血で記した 『嗚呼、懐かしき四面楚歌』 を時世の句代わりに。
「遺書です。あなた宛ての」
「こんなもん残すなら……」
 封を切って中を読む。決闘しか取り柄のない人間特有の下手糞な字。文面はもっとふざけてた。
「ミツルに言っておいてくれ。 『一足早くあっちに逝く。酒の肴が欲しいからおまえの未来を拝ませろ。ありがとよ』 」 息子への遺書で伝言を頼む馬鹿1人。俺に対しては一言だけだった。
「リュウコウ、西を信じろ」
 ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! なんでだよ。もっと喚けよ! みっともなくのたうち回って 『仇を討ってくれ』 ぐらい言ってみろよ! なぜミツル・アマギリを、ミツル・アマギリによって構築された西部を認められる。あんな奴がいた所為で、西部の決闘行政はあんたをなかったことにしたんじゃないのか! 勝手に壊れて、勝手に作って、今更何を信じろって言うんだ! ……ふと気づくと親父の遺品を漁っていた。ある。ここに1枚お誂え向きのカードがある。A・ジェネクス・ドゥルダーク。俺は知りたかった。親父にまつわる全てを。そうだ。事件を起こしたからうやむやになる。親父はもうボロボロだからああした。俺はそうじゃない。正攻法でミツル・アマギリと対峙する。

 目の前にできた、でっかい壁を貫く為に。

――
―――
――――

「なぜ圧されている」 蘇我劉抗は呆然としていた。現実が首を締め付ける。
「16000あった筈。なぜ1600しかない。なぜだ……。なぜこんなことに」

(通用する。ぼくらの決闘はここでも) 手札に残るはマジック1枚。パルムが更なる殺気を放つ。
(あのバイソンにだって、後半馬力が高まるデッキとしか伝えていない。呪文を使えないのを知っていても、五枚規制を知っていても、初手に問題児を引きがちなぼくの体質までは普通わからない。思わせぶりに握っておけばトマトにもライコウにもゴーズにも)

「あの子は定まると強いから」 アリアがぼそりと言った。赤い瞳をミィに向ける。
「踏まれても立ち上がる構築。流石に焼夷弾は効いたんだろうけど、覚悟があるから立ち上がれる。覚悟があるから《闇の誘惑》も撥ね除けた。《畳返し》で安心を買わなくても、焼夷弾への恐怖を抑えきることができる。……あの子は守りながら攻めてる。良い罠使いは 『退いて守る』 に囚われない。揺りかごから墓場まで、あらゆるタイミングで意思の掴み合いをやってのける」
「デュエルはクイズ大会ではない」 ミツルが話を継いだ。 「クイズではなくデュエルを仕掛けた。《ブラック・ボンバー》の恐怖はチラ付いていた筈だ。それでも彼女は砂塵を伏せ、逆に蘇我劉抗は退いた。《畳返し》を匂わされたところに、"ひょっとして" が頭を過ぎったんだろう。日和った安全策(たたみがえし)なら強攻は要らない……防御札を欲して《闇の誘惑》に乗り、半端に固めたところを全力前傾で吹き飛ばす。あの少年の投盤はフェルティーヌ並に美しく、怖い」
「あいつらは殺気を晒していたんだよ」 バルートンが口を挟む。 「晒す中で爪を隠せるってんなら、隠しながら晒せる爪もある。足し算の威圧が掛け算の殺気に吹っ飛ばされた……NeoGalaxyとの明確な差だ。打撃効果の分担、二重の威圧……所詮は単なる足し算」
「SDTであっさり負けたのもそれが遠因……後を引くかもしれない。大規模大会は精神戦でもある。NeoGalaxyにはパートナーへの信頼が欠けている。攻めでも守りでも大胆にはなりきれない」
「多人数戦は日和ったら終わりだ。攻めの姿勢を貫かれた今のNeoGalaxyには……FULL BURSTがさぞでっかく見えてるさ。びっくり箱ってのはそういうもんだ」

(壁を吹き飛ばすほどの決闘!) 蘇我劉抗が認識の沼に嵌まる。 (ミィが伏せた2枚目は別のカウンタートラップ……違う。あの気配。何の保証もなく砂塵を伏せていた。ブレイカーとライトレイで処理できた……俺の腕を遙かに超えている? 打倒Earthboundへの道のりがこんな所で) 不動の右腕が萎び落ち、状況の整理すら覚束ない。 (次は何が。わからない。俺が負ける。そんなことが)
 セメントで固めた意思が夏の氷のように溶ける。黒鉄の巨人《ダーク・クリエイター》が命の放電を図っていた。廃炎龍《スクラップ・ドラゴン》が全てを燃やすべく猛っていた。砂塵の魔精《デザート・ツイスター》が隙あらば吹き飛ばそうと狙っていた。更にその後ろではミィがトラップカードを構えている。
(ブラックボンバー) (強謙で見送った) (次で引けば) (ダイレクトコースが空く) (打てない)
 時は夕暮れ。沈む太陽。蘇我劉抗の心も沈む。
「負けるのか。何にもわかんないまま俺は……親父……」



Duel Orb Liberation


Lightning Vortex ! !



 ミィが、パルムが、蘇我劉抗が目を剥いた。パルムのフィールドを見慣れた稲光が駆け抜けていく。堅固な装甲を誇る《ダーク・クリエイター》も、鋼鉄そのものを肉体としている《スクラップ・ドラゴン》も、竜巻の中に身を隠す《デザート・ツイスター》も、その全てを消し炭に変える雷光。 「これって!」 ミィはその呪文の名を誰よりも良く知っていた。光魔法、《ライトニング・ボルテックス》。

「何の為に見栄を張ってきた」

 ―― 見栄えがいいだけの強豪もどき

「我々は何の為にここに来た」

 ―― 格下ばっかり狩って楽しいのかよ

「歴史を認めず! 所属を選ばず!」

 ―― 技を磨いたら大一番に弱くなりました? ばっかじゃねえの

「我々がここに来たのは、」

 ―― 強くて格好いい決闘に憧れてます。がんばってください!

「何の為だぁっ!」
「フェリックス、あんた……」
「全ては応える為! 勝たずして何が強豪! 蘇我劉抗! おまえの執念この程度ではあるまい! 親父が地獄で嘆いているぞ!」 フェリックスの言葉に蘇我劉抗がはっとした。
 叫んだ当人は手の平を前方にかざし、更なる呪文を発動する。
「《強欲で謙虚な壺》を発動!」
 1枚目:《リビングデッドの呼び声》。2枚目:《次元幽閉》。3枚目:《フォトン・スラッシャー》。断固とした意思でリビングデッドを掴み、土壇場でチャージに移る。
「マジック・トラップを1枚セットし、2枚目の《カードカー・D》を通常召喚。効果発動!」
(そういう構築か) パルムが分析する。 (恐らく《貪欲な壺》は入っていない。手札と墓地を肥やしながらチャージする。冬よりも洗練された【銀河流星強豪群(ノーマルセッティング)】。リカバリー能力も上がっている)
 恐怖故に見栄を張り、恐怖故に腰を抜かし、恐怖故に負けが込む。張り子の龍。それでもフェリックスは見栄を張り続ける。恐怖からではなく意思故に、銀河を背負って張り続ける。
「私はこれにてターンエンドを宣言。来い! Team FULL BURST!」

「以前のあの人とは違う」 レザールが拳を握りしめる。 「銀河眼の効果があの人の戦型。下克上を拒否して試合を有利に運ぶ。押しは強くても押し返されると脆かった。なのに……」
「フェリックスさんはためている」 ミツルがぼそりと言った。 「持ち前の決闘はそのままに、押し返された時の為にためていた……試合前からずっとだ」

『さあ残り1600! 1発でも入れば試合が終わる!』
(あと1発) ミィが眼をぎらつかせる。 (あと1発で勝てる)
「ドロー!」 むさぼりつくかのようにカードを引く。目の前にあるのは2体。フェリックスのリビングデッドと蘇我劉抗のセットモンスター。ピン挿しの《貪欲な壺》を発動。気ぜわしくカードを引き抜くがピタリと止まる。 (勝てるのに) ミィの顔がぎゅっと歪む。

「ミィはさ」 テイルが空を見上げる。 「ここだけの話よくやったよ。どんだけ偏差値の低い特訓を押し付けてもあの小さい身体でどうにかしちまった。……大半はな」
「詰ます駒が足りねえんだろ」 リードが唇を噛み、テイルが静かに頷く。
「投げ込みは1日も欠かさなかった。おれがやったカードも合間合間に投げ込んだ。……2ヶ月じゃ間に合わなかったんだ」 「あいつの気持ちはガンガン伝わってくる。構築もプレイングもないなりに攻めてんだ」 「ああ。今も押し切ろうと足搔いてる」 「どっかの誰かさんに言わせりゃ、"あと100ドゥールで新しいカードを買えるからって部屋中ひっくり返すようなドロー" ってところか。悔しいよな、ミィ」
「パルムもだ」 ラウが話を継いだ。 「再チャージに少しかかる。その "少し" が問題だ。散々風を起こしたばかりでリビングデッドはまず割れん。土壇場のリビングは……攻防一体の妙手に化ける」

 ミィは思い出す。暖炉に燃やされたことを、前進に吹っ飛ばされたことを、筋肉に押し込まれたことを、跳腕に弾かれたことを、欲望に奪われたことを、その都度思い描いたゴールを。
(ダイレクトコースが空くから焼夷弾は迂闊に打てない。けど、) ミィの瞳に薄く硬い壁が映る。 (あと少しなのに。ゴールまであと少しなのに。本当に、あと少しなのに……)
 瞬間、ミィの身体が硬直した。丸い目を大きく見開き、己の手札を瞳に映す。
「いっつもそう。弱くて、チラ付いて、飛びついて、そうじゃない」 1回大きく深呼吸。手札のトラップカードを掴むと未来に向けて、 「1枚セットでもいっこ! 《カードカー・D》を通常召喚。効果発動!」 竜巻の中から2枚を受け取り、覚悟を決める。 「ターンエンド」

『九死に一生が続くNeoGalaxy。巻き返しを図るは……リュウコウ選手!』
「そうだ。俺は……認めない……」 血走った眼。食いしばった歯。蘇我劉抗が手を伸ばし、足搔く。
「このまま終わることを認めない! 俺のターン、ドロー! メインフェイズ1、攻撃権を放棄し《貪欲で無欲な壺》を発動。墓地に存在する、異なる種族のモンスター3体を ―― 《邪帝ガイウス》、《ブラック・ボンバー》、《ブラック・ローズ・ドラゴン》を ―― デッキに戻しシャッフル。デッキから2枚をドローする。更に! 《魔装機関車 デコイチ》を反転召喚。デッキからもう1枚ドロー!」 2枚、3枚、4枚。2枚目は虚勢と共に引いた。3枚目は疑惑と共に引いた。4枚目を引いた時……蘇我劉抗は絶望した。
(手札が肥えた。何が来ようと一通りは……駄目だ。俺の火力では追いつけない。親父……)

「親父の全盛期には及ばない」 バルートンが洞察する。 「親父は自力で家を建てた。四方を囲んで一気呵成に攻めるのが蘇我劉邦の決闘。あいつは違う。あいつのそれは "夕方の壁にボールを蹴り続ける決闘" 」 「壁、か」 ミツルの反芻にバルートンが舌鋒を向ける。 「死人に口なし、英雄に口なし。もっとも、生前の蘇我劉邦は俺が引くほど饒舌だった。喜怒哀楽全てをそれで表現する。息子は違う。押しが弱いからこそ演説によって見栄を張っている。あいつの演説は悲鳴の裏返しなんだよ。そんなもんは超克(メタ)じゃない」
「一念壁をも穿つが、その一念に迷いがある……か」
「心の底では辿り着けないと思ってんだ。 "駄々っ子が泣きべそかきながら腕をグルグル回すようなドロー" ……そんなんじゃ百年経っても届かねえぞ」

(ない札は引けない) 蘇我劉抗の顔が苦渋に歪む。
(5000ならまだしも1600。パルムの再チャージ、ミィのディスパーチ。防御に徹したところでジリ貧、隙間に刺されば持って行かれる。今すぐ、今すぐ流れを……)
 戻らない。顔を伏せ、腕を下げ、覇気を戻せず立ち竦む。
(勝ちたい。こんなところで終わってたまるか。俺は……俺は……)

 ―― 西を信じろ

「親父 ―― 」
  頭に過ぎったのは最期の言葉。無意識に西を向く……いる。この窮地にあっても、勝利を信じて闘い続ける決闘者がそこにいる。 「フェリックス」 瞬間、属性の異なる2人の気が立ち上り、大気の中で混ざり合う。日が沈むと同時……蘇我劉抗がゆっくりと右腕を上げた。
「応えるというのなら……応えろ!」 "Magic" "Dark" "Draw" ……闇霧の中から解答を。
「《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚引いて」  投身  虚空  沈黙  そして  「《カゲトカゲ》を除外……行くぞ!」 蘇我劉抗の右腕が鎖を放つ。 「《ダーク・バースト》を発動! 墓地から! 攻撃力1500以下の闇属性を引き上げ 決闘杭盤(パイルバンカー) に第一装填!」 身体を捻り、右腕を外し、打ち込まれた掌底が杭を飛ばす。 「《終末の騎士》を通常召喚! デッキから! 闇属性を墓地に送り 決闘杭盤(パイルバンカー) に第二装填!」 突き刺さった杭を手元に戻す。装備し直すのはまだ早い。
「こなくそぉっ!」 掌底連弾。鎖付きパイルバンカーで引き上げる。 「フィールド上の《デモンズ・チェーン》を手札に戻し、ブラックフェザー・精鋭のゼピュロスを特殊召喚!」

パルム・ミィ:10000LP
フェリックス・蘇我劉抗:1200LP

終末の騎士(1400/1200)
召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動
⇒デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。
[効果] [4] [闇] [戦士] 

BF−精鋭のゼピュロス(1600/1000)
自分フィールド上の表側表示のカード1枚を手札に戻して発動⇒このカードを墓地から特殊召喚し、自分は400ダメージを受ける(「BF−精鋭のゼピュロス」の効果はデュエル中に1度しか使用できない)
[効果] [4] [闇] [鳥獣]  

「デコイチ、ゼピュロス、終末の騎士でオーバーレイ……最終装填!
「いけっ」 バルートンが微かに笑った。 「くそったれを吹っ飛ばせ!」
 蘇我劉抗が投盤体勢に入る。 決闘杭盤(パイルバンカー) の後端に全身を投げつけるかのような掌底。着盤の瞬間、3体の闇属性が漆黒の球体の中で混ざり合い、徐々に生物の形へと変わっていく。2本の脚。2本の腕。2つの翼に1本の尻尾。そして何より3つの頭。黒邪龍が顕現する。



三つ首の威に刮目しろ!

ヴェルズ・ウロボロス、装填召喚(エクシーズ・サモン)




「あれを投げるか」 ミツルは身体で知っていた。闇龍族の投盤を。
「男子三戦会わざれば刮目して観よ。三戦どころか三分。化けてみせるか蘇我劉抗」
 トゥエルブ社 ―― 高コスト高出力のランク4トリプルエクシーズモンスターを専門に開発する決闘結社 ―― が独自に開発した重エクシーズの意欲作。瘴気を散らす鋭い翼と、先端が剣を成す鋭い尾っぽ。対処能力に特化した、右腕の秘密兵器が産声を上げる。
「3つの首はそれぞれ異なる能力を備えている。『布陣を後退させる能力』、『手札を減退させる能力』、『墓地を縮退させる能力』……さあ、行くぜ!」

ヴェルズ・ウロボロス(2750/1950)
1ターンに1度、ORUを1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動
●相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。
●相手の手札をランダムに1枚選んで墓地へ送る。
●相手の墓地に存在するカード1枚を選択してゲームから除外する。
[装填] [4] [闇] [ドラゴン] 


(来る) ミィが瞳を尖らせる。 (左の首? 右の首? それとも真ん中?)
 蘇我劉抗が右手を押し込み……三つ首の龍が未来に飛んだ。 「喰らえ!」


三 頭 一 心 転 消 滅 拳(フォースド・テレポート)


  幻凰鳥の足下に魔方陣が発生。ミィは 『布陣後退』 を疑うが、すぐに違うと気付く。魔方陣はもう1つ、黒邪龍の足下にも発生していた。効果解決、2体の位置が瞬時に入れ替わる。
「《強制転移》を発動。2体の支配権を交換する。マジック・トラップを1枚セット」
 大きく一歩前に踏み込み、蘇我劉抗が雄々しく言い放つ。 「ターンエンド!」

Turn 21
Life 10000
Life 1200
■パルム
 Hand 1
 Moster 0
 Magic・Trap 0
□フェリックス
 Hand 2
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
■ミィ
 Hand 3
 Moster 1(ヴェルズ・ウロボロス)
 Magic・Trap 2(セット/セット)
□蘇我劉抗
 Hand 2
 Monster 1(幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード)
 Magic・Trap 1(セット)

(山頂まで来たら) (後は下り坂) (ミィのフィールド) (ぼくの方から) (どうにもできない) (再チャージ) (早く) (早く) (早く) (アシストアタック) (使えれば……)
 パチンという音がした。パルムが頬を叩く音。視界に入るはデッキが1つ。
「ぼくのターン、ドロー!」 渾身の抜札。 反転抜札(リバーサル・ドロー) が轟く。
「手札からモンスターを1体セット。ぼくはこれで……ターンエンド!」

『まわってきた! フェリックス選手にターンがまわってきたぁっ!』
 フェリックスは前方を見つめた。16歳と14歳。足しても己に及ばない。
「 『よもやここまで追い詰められるとは』 とは言わん。そういうこともある」

 フェリックスが目を瞑る。脳裏をよぎるのは10年前の大規模大会1回戦。シャイニング・フェリックスに秘策あり。当時の、西部決闘界の環境を睨んだ秘密兵器。全身をシャイニング・パネルで覆い、あらゆる単体除去を弾く光の龍。《青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)》で勝負をかける。

青眼の光龍(3000/2500)  
「青眼の究極竜」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚可能。
自分の墓地のドラゴン族1体につき攻撃力が300ポイントアップ。
このカードを対象にする効果を全て無効にできる。
[特殊] [10] [光] [ドラゴン] 


 対岸に立つ美少年は闇属性を得意としていた。新人戦で魅せたのは闇の悪魔龍。《真紅眼の黒竜》と《デーモンの召喚》を融合させた《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》。来るか……おかしい。尋常ではない闘気と大地を揺るがす投盤。目の前に現れたのは途方もない別の何かだった。
「《地縛神 Ccapac Apu》」
 歴史が変わった。下級で囲む蘇我劉邦時代を経て、ブルーアイズがどうだ、レッドアイズがどうだと騒いでいる中に登場した規格外の大巨人。映像に実体を与えるOZONEの中、地縛神はまさに神であり、それを操る15歳は神の使徒に他ならない。西部激震、光龍消沈。地縛神で3回殴る束の間、何もできず棒立ちする《青眼の光龍》の姿が全てを物語る。

 フェリックスの時代は来なかった。

 赤い夕日さえも遠ざかり、光なき世界で右手が微かに震えていた。記憶。地縛神を前に戦意を忘れた慟哭の記憶。 「私は……強豪は……」 血走った目尻からデュエルオーラが漏れ始めたその時、かつて聞き慣れた声がした。 
「きょーごー……」 「きょーごー……」
 Team Galaxyの構成員に限らない。響き渡る声の渦。
「強豪!」 「強豪!」 期待と失望を繰り返した愛しき声援。
「キョーゴー! キョーゴー! ゴー! ゴー! キョーゴー!」 「大! 強! 豪!」
 四方八方から降り注ぐ声の奔流。 「なぜだ」 レザールが困惑の声を上げた。 「【強豪軍】はもう発動していない。なのになんで」 その問いに対し、ミツル・アマギリは一言で答える。
「強豪だからだ」
「私のターン、ドロォッ!」 フェリックスが躍動。デュエルスペースに銀河を喚んだ。
「《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》を復活。更に! 自分フィールド上にギャラクシー・モンスターがいることを条件に、2枚目の《銀河騎士》をノーリリースで通常召喚!」

銀河騎士(2800/2600)  
自身の効果による召喚成功時、攻撃力を1000ダウン
⇒墓地から銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚
[効果] [8] [光] [戦士] 


「効果発動。剣を掲げてギャラクシーアイズを先導……バスタード・フラッグ! 攻撃力を1000ポイント下げ、墓地から《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》を守備表示で復活!」
 白銀の高位騎士を両脇に起き、銀河跳躍の龍が三度フィールドに舞い降りる。
「パルム・アフィニスよ! 貴様の言葉に一理あり。フォトンモンスターは、ギャラクシーモンスターは、高い攻撃力を持ちながらドッグファイトを不得手としている!」 張り子の龍、銀河色の竹光、見栄えばかりの強豪……脳裏に浮かぶ不名誉な称号。 「しかし!」 フェリックスが 決闘強盤(パワー・プレート) をぎりりと掴む。 「我が剣は! 我が魂は! 銀河を斬り裂き銀河を繋ぐ! 決闘強盤(パワー・プレート) の効果を発動!」
「あれは!」 「あれってっ!」 パルムとミィが驚きの声を上げる。鉄板1枚をメインとする 決闘強盤(パワー・プレート) から更に3枚、都合4枚の鉄板が展開する。実況が声を張り上げた。
『聖者が持つ十字架! 忍者が持つ風魔手裏剣! あるいはヘリのプロペラか! フェリックス選手の決闘盤が十字を描いて進化したぁっ! これは一体!?』
「銀十字型デュエルディスク 決闘豪盤(パワー・クロス) !」

「なんだあれは!」 真っ先に声を上げたのは、ゼクト・プラズマロックだった。
「4枚の内の1枚は元から持っていたパワー・プレート。ならばあの3枚は」
 ゼクトが振り返った時そこには、参謀ゴック・アイゼンマイン、工兵バーベル・クラプトン、歩兵ガックブルー・ハラハーラが立っていた。ゼクトはそのとき全てを悟る。背負い込まれた魂を。
「フェリックス……フェリィッックスッ!!」

「銀河の架け橋!」 龍髪の偉丈夫が投盤の体勢に入る。 「《銀河騎士》2体の剣に導かれ、《銀河眼の光子竜》は銀河の架け橋となる。即ち!」 全てを込めた渾身のオーバースロー。十字の刃で銀河を開く。 「強豪は……銀河への道を開くべし! トリプル・エクシーズ・サモン!」


激情溢れる身体は深紅に染まり


三つ首の龍へと進化を果たす


銀河の果てより現れよ!



超銀河眼の光子龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン) !



『強豪の赤方偏移が今ここに! 遂に、遂に姿を現した!
 これぞ銀河の最終兵器……その名も! 《超 銀 河 眼 の 光 子 龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》!』
 会場を包み込む暗闇の中、銀河の激情が赤い光となって爆発した。ドラゴンヘッドを兼ねた2枚の翼と、トリプルヘッドを支える太い脚。銀河装填の三つ首龍が今吠える。
 第1の効果発動、光の波動が全てを照らす。
「南にチェーンラインを敷いて効果発動。超銀河以外の効果を無効にする」
「この効果」 パルムがふと気付く。 「Earthboundを真っ正面から倒す為の」
「第2の効果を発動! オーバーレイユニットを銀河に変える。私が貰い受けるのは!」
 パルムとミィが唇を噛みしめる。光子の剣が銀河を斬り裂き龍を喚んだように、光子の翼は銀河を超えて龍を喚ぶ。ソーラーパネルと化したギャラクシー・ウィングを展開。光闇全てを吸い寄せる。
『あぁっと! ミィ選手の場には獅子身中の龍! リュウコウ選手のターン、《強制転移》された闇の三つ首龍こと《ヴェルズ・ウロボロス》が存在しているぅっ。この為の召喚! この為の転移! ターンラグを活かしたタッグデュエルの真髄! Team NeoGalaxyが混沌という名の銀河と化した!』
「受け取れ! フェリックス!」
「 銀河面吸収帯(ゾーン・オブ・アボイダンス) !」
 銀河を斬り開き、銀河を渡り歩き、遂には銀河を受け入れる。ミィの場に転移された《ヴェルズ・ウロボロス》のオーバーレイユニットを吸収。混ざり合う2体の三つ首龍が混沌の銀河を生み出す。

超銀河眼の光子龍(4500/3000)
@「銀河眼の光子竜」を素材としてエクシーズ召喚に成功した時、
  このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効にする。
A1ターンに1度、ORUを1つ取り除いて発動⇒相手フィールド上のエクシーズ素材を全て取り除き、
  このターン、取り除いた数×500ポイント攻撃力がアップする。
B↑の効果を使用したターン、取り除いた数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
[装填] [8] [光] [ドラゴン] 


「俺の腹筋を貫くほどの、銀河全域を束ねた一点突破。ミツルさん、こいつは……」
「ノーマルセッティングにしたのは個性を放棄したからじゃない。チームメイトの個性を受け止める為の構築。あの人もまた相乗効果を狙っていた。光属性使いと闇属性使い、放出型と対抗型、6つのドラゴンヘッドの力を結集すればその火力は平時の6倍。1人では辿り着けずとも2人なら」 ミツルの声が少しずつ音を増していく。万感の思いを込めて言った。 「交わることで生まれる盤上の奇跡。銀河的編成とそれを許容するだけの覚悟。最早 銀河的拒否権(パワー・ビート) ではない。あれこそまさに 爆発的札生成銀河(パワー・バースト) !」

「これぞ即ち!」 フェリックスが名乗りを上げた。
超 銀 河 眼 の 混 沌 龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・カオス・ドラゴン) !」 「混沌龍!?」 「頭が6つも!」
 頭に1つ。両翼に2つ。胸に1つ。両腕に2つ。合計6つのドラゴンヘッドが牙を剥く。
「銀河と化したオーバーレイユニット1つに付き攻撃力が500ポイントアップ。更に! その数だけ攻撃可能! 《ヴェルズ・ウロボロス》のオーバーレイユニットは3つ。即ち! 超 銀 河 眼 の 混 沌 龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・カオス・ドラゴン) の攻撃力は6000! 攻撃回数は3回! 総火力は……18000!」
「18000!?」 「そんなことって!」
「強豪の銀河は決闘者達の相互作用によって形成される。白くも黒くもなろう。青くも赤くもなろう。しかし、強豪の矜恃はここにある。ここにこそある!」
「これが、強豪」 ミィの心臓が高鳴る。  「ミィ! 来るぞ!」 6つのドラゴンヘッドが鋭く睨み付ける。コロナが悲鳴を上げ、ケルドが声を張り上げる中、 (逃げたい) よぎった瞬間、ミィは左脚を一歩前に出す。 (守りたい) よぎった瞬間、ミィは右腕のデュエルガードを後ろに下げる。
(勝ちたい) 心の導火線に意識を伸ばし、ミィもまた睨む。
「来るなら、来てみろ!」
「これが俺達……」 「NeoGalaxyの……」
         「「全力だ!」」



超 銀 河 流 星 混 沌 群 Σ(アルティメット・カオス・ストリーム・シグマ)



「やらせない!」 "Trap" "All" "Destruction" …… 両手に気を込め、聖なるバリアを……張れない。 「……っ!」 右腕の威がトラップの効果を堰き止める。"Trap" "All" "Negate" …… 《トラップ・スタン》。障壁が砕けた瞬間、光と闇のドラゴンヘッドが 二重螺旋(ツイン・ブレス) を捻じ入れる!
『ミィ選手が! 吹っ飛ばされたぁーーーーーーーーーーっ!』
「ミィ!」 「負けんじゃねえ!」 「……っ!」 「生き残れ!」
 パルム、リード、ラウ、テイルがそれぞれの反応を示し、観客達が轟く中、ミィは半透明の壁に激しくぶつかった。胃が逆流するほどの衝撃。倒れた瞬間すぐにでもストップが入るほどの衝撃。
 光と闇の轟砲が銀河一帯を貫く。
「リュウコウ」 「なんだ、フェリックス」 一撃目の二重螺旋は《ヴェルズ・ウロボロス》を粉砕した。
「今の攻撃は申し分なかった、そうだな」  二発目の二重螺旋は《異界の棘紫竜》が代わりに受けた。
「ああ。今まで拝んだ中でも最高の攻撃だった」 最後の二重螺旋はそのまま直撃した。

パルム&ミィ:10000LP⇒750LP
フェリックス&蘇我劉抗:1200LP

「それでもあの少女は立っている」
 ミィは立っていた。小さな足で食いしばるように地面を掴む。最上の受身を取って衝撃波を受け流し、残りを身体で受け止める。一瞬天国が垣間見えたが、ミィは最高の地獄に留まっていた。
「間違ってなかった」 少女の瞳に炎が宿る。 「強豪の決闘は超格好良くて、わたしはそれと闘ってて……『ここに来たい』って気持ち……間違ってなかった!」
「敢えて "成功" と言おう」 フェリックスもまた雄々しく立っている。
「タイミング、セットカード、手札誘発……元より不確定要素に満ちていた。鼠を倒し損なったのではない。鳳の子を追い詰めた。ならば良し。真なる新鋭を倒す。故に強豪」
 新鋭と強豪が闘気をぶつけ合う中、観客達もまた沸き上がる。
「すげえ、すげえぞ強豪!」 「なんというコンビネーション!」 「ギャラクシーがネオってやがる!」 「これだよこれ、これが見たくてここに来たんだ!」 「FULLBURST! いっそ強豪喰っちまえ!」 「何言ってんだ! NeoGalaxyが負けるわけねえ!」 「強豪! 強豪! 強豪! 強豪!」
「なんと無責任な歓声」 蘇我劉抗は天を見上げた。 「だが、この感覚はなんだ……親父……」 困惑しつつも、右腕は闘いを欲していた。 「わからない。わからないが近づいた。何かが俺の中で近づいた。ならもっと近づいてやる……来い! Team FULLBURST!」
「わかった」 パルムがふと気付く。 「本当にここでいいのか。ぼくは迷っていたんだ」 目線を上げてフェリックスに話し掛ける。 「今のチームを組む時、どういう気持ちだったの?」
「やるからには勝たねばならぬ。それ以上の言葉が要るか」
「フェリックス……さん。正直、あんたらの決闘が好きじゃなかった。けど色々あって、 『逃げてばかりじゃ何も変わらない』 ってんでここに来て……でもそんな理由で決闘をしているわけじゃない」
「聞こう。何の為にここにいる」
「決闘者は逃げなくて当たり前。逃げるとか逃げないとか、そんなこと本当はどうでもいいいんだ。ぼくが前に進む理由はいつだってたった1つ……最高の決闘をする為だ。だから、」 ズドンと一歩踏み込み 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) を構えて言った。 「ここでいい」
「ならば!」 フェリックスもまた 決闘豪盤(パワー・クロス) を構える。
「マジック・トラップを1枚セット。ターンエンド!」

『そして! この瞬間スタジアムの効果を発動! 太陽は既に沈んでいるぅっ!』
 民間伝承伝えて曰く "太陽昇りし時、全ての闇を照らし出す。闇に月満ちる時、魔の囁きが聞こえ出す。日は沈み、月が浮かぶは自然の摂理"。 リバーシブル・スタジアムがその真価を発揮する。
『1日に1回、ターンエンド時に太陽が沈んでいる場合に発動! スタジアムの《太陽龍インティ》を廊下に送り、廊下の《月影龍クイラ》を……スタジアムに特殊召喚っっっ!』
 廊下を貫く青いドラゴンヘッドが赤く染まり、他方、会場を囲む4つの赤いドラゴンヘッドが青く染まる。龍の形状も鋭利なそれに変化し、スタジアム中央にフルムーンフェイスが一瞬浮かぶ。
『昼のインティスタジアムが……夜のクイラスタジアムに変わったぁっ! 暗闇の中でも見逃し禁止! 双方一発で試合が決まる! さあ次はミィ選手のターン!』
(倒れちゃいけない) 1回軽く深呼吸。汗で張り付いたスクールシャツを肌から引っ剥がすと、スカート共々すそをパタパタ夜風に晒す。はやる気持ちを抑え、疲労を押さえ込み、あらゆる意味で移り変わった戦場に自分の身体を馴染ませる。 (倒れたら有耶無耶になる) 深まる暗闇、微かな照明。夜のクイラスタジアムに戸惑いはない。地縛館も、夜の決闘も、地下決闘も、ミィが引いてきたのは暗闇に愛された空間。いる。もう1人。暗闇に良く馴染む藍色の決闘着。視線の先には迎え撃つ構えの蘇我劉抗と、その眼前に転移された幻鳳鳥。疲労困憊、掠れる視界に幻鳳鳥が映ったその瞬間……
 ミィの瞳が大きく開く。

                    ―― 2ヶ月前 ――

「思い入れを思い出に変える」 カードショップからの帰り道。鳥獣族同士のトレードが持ち上がる中、ミィがパルムの言葉を反芻。吐き気がするほどの共感……ミィは思いの丈をパルムに述べた。
「本当はわかってた。みんなそうなのに。わたしだってそうなのに。《ツイスター》を《砂塵の大竜巻》に変えた時から分かってた……決闘者のデッキは、いつだって変わっていく。弱いのに、変わるのを拒絶したら駄目なんだって、本当は最初からわかってた」 「……」 「本当は欲しがってた。カチって嵌まるカードをいつも欲しがってた。強くなりたくて、勝ちたくて、前に進みたかったから。でも、」
「なんでそんなに拘るの? アブロオロスを手放すのはそこまで辛いことなの?」
「1年前、私営のカードショップで暖炉に囲まれました。怖くて怖くてしょうがなかったんです。冷たい壁に囲まれてるだけ。そんなところをリードさんと、アリィさんと、あと……」
「懐かしいな」 横合いからテイルが合いの尾を挟む。ミィはこくんと頷き静かに語り続けた。
「アリィさんはこの 決闘小盤(パルーム) を投げて、暖炉の壁を破ってくれたんです。そりゃもう憧れましたよ。けど1人になって、何度も自分で投げて、リードさんと公園で会って、テイルさんに連れ回されて、ラウンドさんに鍛えてもらって、パルムさんの決闘を観て、なんか段々と悔しくなってきて」
「悔しい、か」
「わたしは全然使えてないのに。あんなにこの子と一緒にいたのに」
 壁に囲まれた一人ぼっちの部屋を思い出す。テロと過ごしたあの場所を。
「この決闘盤に入ってるカードはいつだってわたしの部屋を暖めてくれた。特にこの子はヒーローで、この子はわたしのはじめてだったんです。夢中で投げて、転んで、そしたら出てきてくれて。わたしはあの部屋で、この子を完璧に使いこなすテロくんのようになりたくて……嫌だったんです、弱いのが。この子と一緒に勝てるぐらい、大丈夫って言えるぐらい強くなりたかった」
 昼の決闘では勝利を裏切った。夜の決闘では勝利を掴み損ねた。更に地下決闘では、藻掻けば藻掻くほど勝利が遠ざかっていった。ミィの心にパルムが一石を投じる。
「自分の手で好きなカードを活躍させたい。ありふれた欲望さ。けれど、カードはそれを望んでないかもしれない。ひょっとしたら、もう眠りたいと思っているかも。単なる君の我が侭かもしれない」
「 "かも" じゃないです」 「……っ!」
「テロくんが消えて、部屋を出て、心細くて、けどいつだってこの子は傍にいてくれた。どんな怪物でも跳ね返せる無敵の用心棒。この子と一緒に壊れない自分になりたかった。けど理想の自分(テロくん)には逆立ちしてもなれない……。なんにもできなくて、だからせめて、さよならだけは最高の形で言いたかった。それだけなんです。そんなことで…… "このままこの子と別れたらヤタロックでの最低が最後に" ……ってズルズル引き延ばして……この子の力は決闘を引き延ばす為にあるんじゃない。なのにわたしは、また引き延ばそうとしてる。ラウンドさんから 『目を背けるな』 って教えてもらったのに」
「きみは、最初からずっと」
「なーんて、大丈夫ですよ、もう」 突如、ミィは両手をパチンと叩き合わせる。 「 一人遊び(ソリティア) の時間はもう終わり!」 出来損ないの笑顔を浮かべ、パルムに向けて言った。
「チームでタッグなのに迷惑がかかっちゃう。わたし、リードさんに熱意を約束したの。あの人は世界を目指してるのにわたしはこんなちっぽけで……。だからお願い、受け取って!」

                        ――――

Turn 23(Turn Player:ミィ
Life 750
Life 1200
■パルム
 Hand 1
 Moster 1(セット)
 Magic・Trap 0
□フェリックス
 Hand 1
 Monster 1(《超銀河眼の光子龍》)
 Magic・Trap 1(セット/《リビングデッドの呼び声》[使用済])
■ミィ
 Hand 2
 Moster 0
 Magic・Trap 1(セット)
□蘇我劉抗
 Hand 2
 Monster 1(《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード》)
 Magic・Trap 1(セット)

『さあここまでっ! 不屈のガッツを見せてきたミィ選手! ここからの展開は果たしてあるのか!』
「ミィ、がんばれ。あと少し!」 パタパタの途中、コロナの声援がふと聞こえた。軽く頷き、強く引く。
「ドロー!」 庭を造るのは小型の円盤。法的根拠は40枚の契約書。ミィが手にする小さな部屋は四方八方を庭と化す。法的手続き(カードテキスト)に拠らなければ介入できない定員一名の私有地。
 そのド真ん中、
「行きます」 不可視の導火線に火を付ける。
 "Trap" "Level" "Random"……
 ミィは静かに反転させた。
「むぅっ!」 「なにぃっ!?」
「《レベル変換実験室》を発動」

レベル変換実験室(通常罠)
自分の手札のモンスターカードを1枚選択して相手に見せ、サイコロを1回振る。1の目が出た場合、選択したモンスターを墓地へ送る。2〜6の目が出た場合、このターンのエンドフェイズ時までこのモンスターは出た目のレベルになる。


『土壇場で博打をぶちこんだぁっ! カプセルの中に1枚入れて、『2』 『3』 『4』 が出ればノーリリースで召喚可能! 確率は1/2! なんという奇策!』
「狂ったか!」 蘇我劉抗が咎める。 「いかに十面埋伏が奇策に属するとしても、そこには奇策なりの理があった。理を手放し、賽を振るとでも ―― 」
 思わず口を噤む。ミィの瞳に宿るは確かな殺気。
(なんだ。なんだその眼は。何があるというのだ)

                     ―― 2ヶ月前 ――

「この幻凰鳥(カード)はぼくが、」 数秒の沈黙の後、パルムは昔話を始めた。
「何もしてやれなかったエースカードなんだ。トラップを使えないぼくには、サモプリで五枚規制を凌ぐしかないぼくには、このカードの性能を引き出すことはできなかった。いつしかぼくは、相性の悪さを理由にして投げ込むことすら諦めてしまった。初めて当てたレアカードなのに」
「同じ」 ミィは幻鳳鳥を見つめる。 「このカードもアブロオロスと」
「交換条件を出したのは確かめたかったから。使えないエースをデッキに入れる人間には渡したくなかった」 吐き出された言葉に心が軋む。 「【反転世界(リバーサルワールド)】は、使えないカードを使えるようにする為のデッキじゃない。ぼくにはそれしかなかった……。なのに、なのにぼくは! 自分が諦めたカードを飛ばしてもらう為に、きみに諦めさせようとしていたんだ」
「そんなの! 何も決めないままタッグを頼んだわたしが」
「それでいいの?」 「え?」 パルムの眼光が鋭く抉る。
「本当にいいの?」 「そんなの……」

「今何をしたいか言ってみろよ!」

「もう一度チャンスをください!」

 ミィが心を絞り出す。 「矢でも、鉄砲でも、地縛神でも、ギガバスでも、それ吸ったサクリファイスでも……何百発喰らってもちゃんと立つから! だから……だから!」
「あの馬鹿が机を割った時、ラウはどんな気持ちだったんだろ」
「え?」 きょとんとするミィに向け、パルムは懇々と語る。
「リードをわかりたいなら、そのちっぽけなところで足搔いてみるべき、かも。交換条件の変更。交換が1:1なら付録も1:1。きみはぼくのを飛ばす。その代わり、ぼくはきみのに手を貸す。やる?」
 問われたミィは目を大きく開く。
「……本当に言いますよ」
「言いたいなら言えばいい」
「やります」
「やるなら派手にやれ」 沈黙を守っていたテイルがようやく口を挟む。ミィのところまで一足飛びで身体を寄せると膝を折り、耳元で囁くように言った。 「ちゃんと "さよなら" を言えることなんて案外ないからな」 「テイル……さん?」 「難儀な話になるぞ」 テイルがすっと立ち上がる。
「あれの活用法を知らんでもないが、シンクロすらできないおまえには1ミリも向いてない。くれてやったカード、まだ使えないんだろ。第一、場にすら出ないんじゃ詰まらねえ。冥土の土産をどう作る」
「奇襲。一発勝負の奇襲。最高のタイミングならこの子も戦力になる」
「ぼくもそれに賛成。こいつのステータスはそう悪くない」
「浮くぞ」 「浮く……」
「受身上手で馬力不足。おまえがおまえらしく、真っ当に進化するほどデッキから浮く。そうなったらタイミングもクソもない……おい、どうした」
「防御型のデッキ……得意な呪文を沢山……」
「メインギミックはそれで良くても奇襲からは遠ざかる。デッキから浮いちうまうんだ」
「それでいい。わたしのデッキはそれでいい」
「きみのデッキ……ぼくの【反転世界】には、手取り足取りきみをフォローするほどの柔軟性はないよ」
「【反転世界】は浮いてるものが集まる。発動できないマジックが普通じゃない確率で手元に集まったり。あれの効力はどこまで? 自分以外には効かないの?」
「考えたこともないな。チームメイトに効いた覚えはないけど」
「タッグデュエルのパートナー……同じフィールドで引く味方なら?」
「わかるわけないよ」 「なんで?」 パルムは軽く目を反らす。
「シミュレーションだけで……タッグやった経験、ないから」
「なら試す」 ミィの瞳に炎が宿る。
「ちょっとでも効果があるなら、浮いてるサブギミックを集めます。浮いてるなら浮かせればいい。メインを研いで、サブを浮かせて、反転の浮力も借りて、浮かせて浮かせて、そしたら ―― 」

                     ――――

「あの1枚」 蘇我劉抗が気付く。 「一巡目から最低1枚……そいつが秘密兵器とでも!」
 晒した1体がカプセルに入り、大きなサイコロが降り注ぐ。ミィは歯を食いしばった。激流のように溢れ出す2つの思考。反転への確信、失敗への不安。極限の緊張から頭がぐらつく。限界。フェリックスの衝波、蘇我劉抗の掌圧、超銀河眼の混沌龍の六重奏……。ほんの数秒の間、思考のミキサーで胃を掻き混ぜたミィの身体は嘔吐を選択。血反吐の如き胃液が僅かに飛び散る。吐くと同時に心までが抜けかけた。失神。辛いなら倒れればいい。そうすれば全ては有耶無耶に……
「だから!」
 ミィはぐっと踏みとどまると、自分の目でしっかりとサイコロの目を確認する。出た目は 『4』。 レベルは4。カードユニットを 決闘小盤(パルーム) に挿し込み、サイドスローの体勢に入る。唸り声を伴った渾身の一投。 "小さな部屋(パルーム)" から飛び出し、闇夜に降り立つ一期一会の通常召喚。太い前腕で棍棒を担ぎ、厚いふとももで身体を保つ。雄々しき翼を広げた鳥人。その二つ名は ――



激震のアブロオロス、通常召喚(ノーマル・サモン)



『降り立ったのは黒い翼の鳥人! 夜のクイラスタジアムに激震走る!』
「ここがわたしのはじめてだから。ここにわたしのはじめてを込める」

「【激震のリバーサルウイング】」 ラウがほっと息を付く。
「初手に "小" が偏る性質といっても、何を持って小と言うかは割合大雑把。個々の出力差が小さいミィのデッキにはそうそう影響しない。だが、発動できないマジックや露骨に浮いたモンスター、超低出力のトラップついでに箱の中の外れクジならば話は別」
「そうさな」 テイルも頷いた。 「"大" が偏る反転後なら半々のクジでも当たりやすい……けど練習中たま〜〜〜〜〜〜〜に外してたぞ。あれの当事者には死んでもなりたくねえ」
「コロナとの一件がある。相手や舞台を選り好みする道理はない、か。……不器用な奴らだ」
「あいつはおれらに言った」 リードがにっと笑う。 「ド派手に決めてやるってな! ミィ!」 その場で立ち上がって声援を叩き付ける。 「やるってんならやってみろ! ぶっ飛ばしてこい!」

 ミィはじっと前を見据えた。迫力を増したフェリックス、強豪と化した蘇我劉抗……2人ではない。背後のベンチからはゼクトとバイソンが睨みを効かしている。更に後方からは数多の構成員達が飽くなき声援を送っている。十重二十重の意思が立ち塞がる中、ミィは、相棒と共に前進を始める。
「行くよ、アブロオロス」  飛翼連離の用心棒(ブラック・ウイング・バウンサー)。その能力は!
「効果発動! 激震のバウンスウイングV!」

BF−激震のアブロオロス(2600/1800)
このカードは特殊召喚できない。このカードと戦闘を行ったモンスターは、その戦闘で破壊されずダメージ計算後に持ち主の手札に戻る。1ターンに1度、このカードの攻撃力を1000ポイントダウンし、相手の魔法&罠カードゾーンに存在するカードを全て持ち主の手札に戻す事ができる。この効果はメインフェイズ1にしか使用できない。
[効果] [7] [闇] [鳥獣]


 アブロオロスの棍棒は重力を揺るがす。直下の大地に棍棒を打ち込むと、局地的な重力変動によって大地の均衡が崩壊。激震によって掻き混ぜられた大気が竜巻に変わる。天地を貫き前進する竜巻がフェリックスのフィールドに一直線。最終防衛ラインを超えようとしたその時、 「勝つのは我々だっ!」 光の剣が竜巻を割く。フェリックスが握るはライトレイの剣。
「《光の召集》を発動! 手札の《フォトン・クラッシャー》を墓地に捨て、墓地の《ライトレイ ギア・フリード》を手札に加える」 「ちっ!」 テイルが舌打ちした。 「準反転。手札に集めてサイコロ当てて、そこまでは目論見通り。……実験室を引くタイミングが僅かに遅れた。借り物の技じゃもう勝てねえ」
「《リビングデッドの呼び声》を回収。リュウコウ、後の守りを頼めるか」
「任せろ。この右腕にかけて止める」
「負けない! バトルフェイズ!」 ミィは一転、蘇我劉抗のフィールドを睨む。
「わたしが狙うのは……《強制転移》で交換した《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード》!」
「強制二択」 蘇我劉抗が呟く。 「幻凰鳥の返還かデモチェンの使用。どちらかを選べと」
「アブロオロスの効果は道を開く効果。だから!」 ミィは1つの技を思い出す。跳腕としのぎを削った夜の決闘。月下の死闘を生み出したその技を。 「激震のバウンスウイングU!」
 前方に突き出した棍棒が引力を生み出し、幻凰鳥の回収を図る。ミィは《デモンズ・チェーン》による妨害を予期するが、突如、蘇我劉抗は後ろを向いた。 決闘杭盤(パイルバンカー) をOZONEに浮かべたまま回転、 「甘いんだよ!」 杭の後端に左の裏拳を叩き込む。
「左のバックブロー!?」
 着盤の瞬間、四方八方からスポットライトが照射。過剰な光量に一瞬幻凰鳥を見失う。立ちはだかったのは背広姿のサンショウウオ。光属性の用心棒、《ジェントルーパー》見参。

ジェントルーパー(1200/1000)
相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃できない。
[効果] [4] [光] [爬虫類]


「ドゥルダークと同じ」 蘇我劉抗が呟く。 「こびりつくほどの執着。なら負けない。負ける筈がない!」
「……っ!」 『止まったぁぁぁぁっ! ここ一番の緊急防御! 二度あることは三度ある。リュウコウ選手が……ミィ選手のアタックをまたしても止めたぁっ!』
「当然守備表示。さっき調達したのは攻撃手段だけじゃないんだぜ。なぁ、パルム」
「そいつなら自慢のドゥルダークも守れるか。Team Galaxyの倉庫にでも転がってた?」
「組む相手は選ぶさ。《ジェントルーパー》の特殊召喚によりもう一度バトルをやり直す。もっとも、アブロオロスは目立ちたがり(ジェントルーパー)しか殴れない。それが何を意味するか」
「ここで攻撃しなかったら」 ミィは静かに言った。 「《キングレムリン》で2枚目を喚ばれる」 「流石に引っかからんか」 「《ジェントルーパー》に攻撃……激震のバウンスウイングT!」
 斥力を伴った棍棒で《ジェントルーパー》を薙ぎ払う。しかし蘇我劉抗は動じない。
「アブロオロスの薙ぎ払い(バウンス)は強制効果。《ジェントルーパー》を手札に戻す」
(パルムの終盤には注意しろとバイソンも言っていた。トマトかデコイチかカーガンかネクガかライコウか、あるいは《カオスポッド》かもしれない。防御手段は1枚でも多い方がいい) ほんの一瞬口角を上げる。 (2枚目の《ジェントルーパー》などハナからない)
 威圧牽制の面目躍如、蘇我劉抗が見得を切る。
「《ジェントルーパー》がある限り、俺達は倒せん!」
『リュウコウ選手の厚い壁! カード消費ゼロで防ぎきったぁっ!』
 敵軍を薙ぎ払う激震のバウンスウイングTも、自軍を取り戻す激震のバウンスウイングUも、目の前の障壁を吹き飛ばす激震のバウンスウイングVも、全てが不発に終わりぼそりと呟く。
「わたしのアブロオロスが……通用しない」
 一言一言を噛みしめながら、ミィは部屋の終焉を知る。
「メインフェイズ2。マジック・トラップを2枚セット、ターンエンド」

「ドロー!」 蘇我劉抗が右腕の照準を絞り込む。 (効果対策1。セットモンスターは止まる) にわかに後方からの声援が届く。 「いけっ! 蘇我劉抗!」 (召喚反応1。リバーサルドローは止まる) 「おまえこそ銀河の相棒だ!」 (手札誘発1。ダイレクトアタックは止まる) 「頼む! NeoGalaxyに勝利を!」 (通常召喚1) 満を持して穿つ。
「道を作るぞ、フェリックス」  決闘杭盤(パイルバンカー) から右腕を引き抜き、掌底を持って打ち出す。必殺の威を持って打ち出された十八番。レベル4、闇属性、機械族、攻撃力1800……。真っ赤な仮面に群青色の四肢。幅の広い足でしっかりと大地を踏みしめ、その一機は、右腕を持って意思を貫く。



A・ジェネクス・ドゥルダーク、通常召喚(ノーマルサモン)



『闇夜を照らすレッドマスク! Doulldark Shooterここにあり!』
「同じであるなら」 亡き父親の顔が視界に浮かぶ。 「負けるものか」 次の瞬間、蘇我劉抗の右腕が鋼鉄と化した。骨に向かって肉を引き絞り、鋼鉄の如き密度を持って砲身を突き出す。両脚を杭に変えて大地に打ち込み、両目の照準を用心棒に合わせる。
「限界を超えてなお倒れぬなら、支える棒を打ち抜く」
 尋常ではないデュエルオーラが一点に収束。右腕に必殺の威を込める。
「ドゥルダークの右手はあらゆる闇属性を葬る。ヴァースキだろうがガイウスだろうが地縛神だろうが、激震の二つ名だろうが100%葬る。その為にここに来た。その為にドゥルダークと化した。俺が……俺こそがドゥルダークだ! 貫け!」



破 魔 空 掌 対 消 滅 拳(ドゥル・ダークネス・バースト)



「アブロオロスはわたしじゃない! 飛べええええええええええ!」
『ダーク・レーザーが虚空を射貫く! アブロオロスが消えたぁ!』
「躱した!? 《亜空間物質転送装置》……いや、違う! こいつはっ!」

 ―― そしたらあの子は、アブロオロスは飛べる

「《As-異空間物質転送装置》」 パルムが言った。 「ミィが勝ち取るのは、一緒にいる未来じゃない」
 ドゥル・ダークネス・バーストの貫通寸前、用心棒がミィの部屋から消える。
 蘇我劉抗は額に皺を寄せると、マジック・トラップを2枚セットしてエンドフェイズへ移行……"Trap" "Each" "Vanity"、OZONEに文字列が浮かぶと同時に、ミィがラストトラップを発動する。
「リュウコウさんとの間にチェーンラインを敷いて、発動。《ジェントルーパー》を封じます」

虚無空間(永続罠)
@このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。
Aデッキまたはフィールドから自分の墓地へカードが送られた場合に発動する。このカードを破壊する。


「部屋が、空いちゃった」 もう1人の自分。その残滓ももういない。 「大丈夫」 ミィは自分のデッキをじっと見つめ、目を瞑る。 「《デーモン・ソルジャー》、《ツイスター》、《炸裂装甲》……、みんな、ありがとう」 《As-異空間物質転送装置》が再起動。装置の角度をパルム側に傾け、異次元から黒震鳥を送り出す。 「もう寂しくないから」 ミィは目を開けた。他の誰でもない、 "ミィ" が組んだ 小さな部屋(パルーム) と共に。絆を解き放つことで推進力に変える。それが、
「【激震のラストウイング】」
「なぜだ」 動揺を隠しきれず、蘇我劉抗が言った。
「こびりつくほどの執着がありながらなぜ飛ばす!」
「決闘者だからだ!」

Turn 25
Life 750
Life 1200
■パルム
 Hand 1
 Moster 2(セット/《BF−激震のアブロオロス》)
 Magic・Trap 0
□フェリックス
 Hand 1
 Monster 1(《超銀河眼の光子龍》)
 Magic・Trap 0
■ミィ
 Hand 0
 Moster 0
 Magic・Trap 1(《虚無空間》)
□蘇我劉抗
 Hand 2
 Monster 2(《A・ジェネクス・ドゥルダーク》/《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード》)
 Magic・Trap 1(セット)

「受け取ったよ、ミィ」 送ったのは吹き飛ばす為の驟雨。
「ぼくのターン、ドロー!」 引いたのはこじ開ける為の砲台。
(じっと待つのも、耐え忍ぶのも、立ち続けるのも……全ては踏み込む為) パルムが 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) を構える。 「下り坂は下り坂でもうちのはジェットコースター。行くよ」
 ほのかな照明に導かれ、闇属性が集まる暗い夜。
 孤独を引き立て、孤独を引き込む夜の今、
「決闘者」 蘇我劉抗はうわごとのように呟く。
「親父は中央にさえ挑んだ。親父が求めた栄光は ―― 」

「リュウコウ! こいつをやる」 「だあくひいろおぞんばいあ? でゅえるってたのしいの?」
「おまえも決闘者になれ。こんな愉快なことがあるでしょうか! いいえ! あぁりはしなぁい!」

「一番大事な親父を忘れていた」 聞こえぬほどの掠れ声が思わず漏れた。
(うちのクソ親父は大好きな決闘を失った。だからトチ狂った。なのにミツルは、例え上から爆弾が降ってこようと親父を決闘者として倒した。決闘で倒したから……親父は起爆装置を捨て礼さえ言った。西の可能性(みらい)を認めたんだ) 手の平をぎゅっと握りしめ、蘇我劉抗が呻く。 「親父は玉砕し西部(ミツル)は鎖国を選ぶ。それでも親父は…… "戻ってきた蘇我劉邦" は戻ってきてから死んだんだ)
「離すも離さぬも全ては決闘者故……こいつらもか!」
「激震の……」 「バウンスウイングV!」
 棍棒が大地を鳴らした。夜空を貫く竜巻がマジック・トラップゾーンに迫る中、
「俺はドゥルダークだがあいつらはデュエリスト。照準を外して当然か。だが、」
 右腕は落ちなかった。 「うるさい連中がいる」 一般構成員達の声援が響いていた。 「送り出してくれた奴らがいる」 元レギュラー3人の鼓動が聞こえていた。そして、 「こんな俺にも……応えてくれた決闘者がいる」 ギャラクシー・フェリックスが尚も闘っていた。

「負けるわけにはいかねえんだよ!」

『《デモンズ・チェーン》! アブロオロスの効果と攻撃を封じたぁっ!』
 全身全霊の相殺。リュウコウの右手に応えるは4つの瞳。
「まだだ!」 ミィが叫ぶ。 「あの子は、矢でも鎖でも引き受ける!」
「勝負だ!」 パルムが墓地を一瞥、手札の最終戦力を場に放つ。
「ライラとサモプリを除外して、《カオス・ソーサラー》を特殊召喚!」
 右手に光、左手に闇、2つの魔力を併せ持つ禁術のエキスパートが構えを取ろうとしたその瞬間、「やらせるか!」 リュウコウの左手が光る。全身に牙が喰い付き、冥府魔道に引き摺り落とす。
「《奈落の落とし穴》を発動。無駄だっ! NeoGalaxyは負けん!」
「勝つ!」 「……っ!」 ミィは怯まず、パルムもまた止まらない。
「ぼくのソーサラーも、ミィのアブロオロスも、無駄なことなんて何もない。
1人の【反転世界(リバーサル・ワールド)】で足りないなら、2人がかりで反転させる。それが!」
「反転……セットモンスター……」 リュウコウの瞳が開く。 「キラトマ、デコイチ、あるいはカーガン。《カオス・ソーサラー》で道を作って残りの1200を削り取る……違うというのか!」
「柔軟は時に曖昧。【反転世界(リバーサルワールド)】の中では、ハナから柔軟すぎると動きを読み辛かったり……それでも入れたい札がある」 「なぜだ」 「バルートンも、フェリックスも、そんであんたも、ぼくらの決闘を真剣に読んでくれる。だからぼくらもその先を目指せる。こいつが最後の1枚だ。リバース!」



小でも大でもひっくり返れ!

ガガガマジシャン、反転召喚(リバースサモン)




「それが、おまえらの道か」 総力戦の末に開いた一本の細い道。反転の瞬間、リュウコウは本能的に全てを悟る。眼は反らさなかった。食い入るように眼前の光景と向かい合う。

ガガガマジシャン(1500/1000)
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に1から8までの
任意のレベルを宣言して発動⇒エンドフェイズ時まで、
このカードのレベルは宣言したレベルになる(以下省略)
[効果] [4] [闇] [魔法使い]


 レベルが7に上がる中、フェリックスもまた悟っていた。
「レベル7、闇属性、2600、魔法使い族……来るか」
「行くぞ、ミィ!」 「パルくん、行くよ!」
「ガガガマジシャンと」 「アブロオロスで」
       「「オーバーレイ!」」
「2体のモンスターで」 「オーバーレイネットワークを構築!」
       「「装填召喚(エクシーズ・サモン)!!」」


Numbers Eleven Big Eye!



No.11 ビッグ・アイ(2600/2000)
1ターンに1度、ORUを1つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動
⇒選択したモンスターのコントロールを得る(この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない)
[装填] [7] [闇] [魔法使い族]


『総力戦で開いた道が! 銀河の果てへと繋がって!
 《超銀河眼の光子龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》が……黒い翼を受け継いだぁっ!』
 OZONEが魂に呼応した。装填されたアブロオロスの魂を単眼(ビッグアイ)から銀河に飛ばす。
「かっこいい……」 ミィが呟く。 「かっこいいよ、いつも」 最早光子龍ではない。憧れ、向かい合い、ぶつけ合った銀河の深奥への到達。 超銀河眼の黒震龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・ブラッククエイク・ドラゴン)  が雄大なる黒翼を広げる。
「見事だ、新鋭よ」 フェリックスは全てを受け入れ、
 闇夜の戦場に光を放つ。
「ならば来い!」
「……行きます」 「行きます!」
 パルムは左腕を、ミィは右腕を、
 決闘盤ごと前方に突き出し、叫ぶ。
「「フェリックスさんにダイレクトアタック!」」
 黒震の理を継いだ超銀河が、それ自体引力装置となって空間を圧縮。引き込み、引き込み、引き込み……臨界点を超えたその瞬間、 超銀河眼の黒震龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・ブラッククエイク・ドラゴン) が全身からエネルギーを放出。 「決まれっ!」 「いけぇっ!」 宇宙と化した夜のOZONEに小さな光が大きく弾ける。



超 銀 河 新 星 爆 発 波 F(ギャラクシー・フルバースト)



パルム&ミィ:750LP
フェリックス&蘇我劉抗:1200LP⇒0LP

 視界が開けたその瞬間、

 実況が勝利者を讃えるよりも早く、

 歓声の雨が地に降り注ぐより早く、

 パルムが小さくガッツポーズするよりも早く、

 ミィはパルムに飛びついていた。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了ありがとうございました。月並みですが、ここまで本当にありがとうございました。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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