30−1:とある少女の場合


30−2:とある少年の場合


30−3:とある少年少女の場合







「いける。これはいける。これはいける。これはいける」
 TCG歴79年春。当時10歳のミィは、魔法の呪文を唱える代わりに自己暗示の言葉を呟きながら、魔法のステッキさながら決闘盤を構えていた。世間知らずの少女が、世間知らずの父親に頼み込んで入手した小型円盤型デュエルディスク 決闘小盤(パルーム)。 "手の平サイズの小さな部屋" を意味するそれは、幼いミィにとっては十分過ぎるほど大きい。
 大変動以来、大地に存在するある種の物質 ―― 人間という名の物質もそこに含まれる ―― には3つのオーラが通っているという事実が判明した。 『すんげえことになってるけどぶっちゃけこれどうすんの』 という問いに対し、 『あるものは使えばいいのです』 とばかりに開発されたOZONEのもと、日常化した3つのオーラはモンスター・マジック・トラップを発現するトリガーとしての意義を持つようになる。そしてそれは、小さな小さな少女のもとにも等しく宿っていた。
「お願い!」
 意を決して投盤を行う。本来なら失敗する筈の投盤。 「ぐぎゃあっ!」 起こったのは再現性のない偶然。足を滑らせ慌てふためき、偶々決闘盤との共振に成功……フィールドに決闘盤が跳ねた瞬間、確定性のある衝撃波が飛び出した。その名は《BF−激震のアブロオロス》。棍棒を携えた鳥人が狭い枠から解き放たれ、OZONEの中で雄々しくその翼を広げている。ミィの心が激しく震えた。
「かっこいい……」
 ミィは喜んだ。溢れ出す喜びをたった1人のトモダチと分かち合う。 「やったじゃないか、ミィ!」 少年の名前はテロ・ヘルコヴァーラ。 自分と瓜二つで、自分の全てを受け入れてくれるトモダチが、この世に存在しないトモダチがそこにいたから、ミィはこの上なく幸せを感じていた。

 ―――― あの頃のことは正直、あんまり覚えてないんだけど……学校を出て、人気の少ない道に入って、おうちに帰って、軽く着替えて、いつもの木の下に行くと、そこには、夢の壁に囲まれた世界(誰かがこう言っていたような気がする。誰が言ったのかは覚えてないけど)があった。一通り満喫するとおうちに帰る。外も内おんなじ。おうちの中には、夢の世界へのワープ・ゾーンがあったから。

 TCG歴79年夏。ミィは今日もTVをつける。厳格な父ミックから許されていた、TVを観ていい時間帯。鉄の壁に囲まれた世界を覗き込むと、そこには2人の決闘者が映っていた。
 1人はTeam Earthboundの紅一点、フェルティーヌ・オース。もう1人はTeam Galaxyのリーダー、ゼクト・プラズマロック。2人ともミィの好きなタイプだった。地上に向かって髪を垂らすフェルティーヌは天使のように美しかったし、白いローブを纏ったゼクトは魔導師然としていたから。
 《天空の聖域》が敷かれた夢の世界、対峙するのは2つの光。

 四枚の羽根を持つ黄金の美天使 ―― The splendid VENUS

 白装束に身を包んだ光位の魔導士 ―― ライトレイ ソーサラー


The splendid VENUS(2800/2400)
天使族以外の攻撃力・守備力を500ポイントダウン
自分のマジック・トラップの発動と効果は無効化されない

[効果] [8] [光] [天使族]
ライトレイ ソーサラー(2300/2000)
1ターンに1度、除外された光属性をデッキに戻す
⇒表側表示モンスター1体を除外する
[特殊] [6] [光] [魔法使い族]


Divine Punishment


 フェルティーヌ・オースの指先が動いた瞬間、白魔導士が爆ぜる。
 その瞬間、実況者がセットテキストをリバース。お馴染みの美辞麗句を発動する。
『カウンター・トラップ、《神罰》! 《天空の聖域》の庇護の下、《The splendid VENUS》のお膝元、モンスター! マジック! トラップ! あらゆる効果を雲散霧消! まさしくパーフェクト・カウンター! 蘇生不能の《ライトレイ ソーサラー》を完全攻略したと言えましょう! まさに……』
「不完全」 ゼクト・プラズマロックの一声と共に、《The splendid VENUS》は光の中に消えた。白魔導士の再臨。さも当然とばかりに、2体目の《ライトレイ ソーサラー》がそこにいた。
「何の為に5体も除外させたと思っている。《ダーク・アームド・ドラゴン》のような詰まらぬモンスターとは違う。《ライトレイ ソーサラー》は3体 以上 の除外で特殊召喚が可能。言っておくぞ実況」
 人差し指を天に向け、ゼクトが高らかに言ってのけた。
「1体のエース・モンスターを延々と蘇生する……そのような無粋な戦法など事の起こりからして不要。我が愛杖、《ライトレイ ソーサラー》は怪物ではない。言うなれば概念。一度打ち消したからといって何になる。召喚時に何かを失う事もなく、そればかりか、効果発動時に何かを失う事もない。失われた魔力を《ライトレイ ソーサラー》(デッキ)へと還元し、輝きを増した《ライトレイ ソーサラー》(デッキ)それ自体の光があらゆる敵を呑み込んでいく。我は得る、敵は失う。これぞまさしく完全美」 ゼクトはそのままターンエンドを宣言。上げた指を振り下ろし、対戦相手に指を差す。
「フェルティーヌ・オース!」
「なに?」 フェルティーヌ・オースが、多少疲れたような声を発した。
「美を謳われる貴方は、己の決闘をなんと心得る。心あらば答えよ!」
「私は、応援してくれる皆さんの為に決闘を行っています。ここにいる観客の皆さん、遠くで私を見守ってくださる方々、Earthboundのスタッフ……みんなの笑顔が見たいから」
 にわかにフェルティーヌコールが巻き起こる。 "フェルティーヌ・オースの活躍を見守る会" を筆頭とした熱い声援を受けながら、地上の天使がカードを引いた。
「負けないわ。応援してくれるファンの為にも。メインフェイズ、《智天使ハーヴェスト》《豊穣のアルテミス》《シャインエンジェル》《神聖騎士パーシアス》の4体が墓地にあることを条件に……」
『これはぁっ!』 実況が首を捻る。捻って捻って横を向く。
『解説のエア・スケルトスさん、これはまさか、あの……』
「我々の間には 『山札天国、墓地地獄、手札煉獄、戦地は現世』 という諺があります。天国の筆頭として地獄に堕ちず、堕天した天使にさえ救済を与え、現世の調和を保つ最上級天使。それが……」
『降臨しているぅっ。今にも降臨しているぅっ! 赤い翼と白い体。再生と召喚を司り、制限と禁止の間を駆け巡る。まさしく輪廻の体現者……天使族最強のモンスターが今ここにぃっ!』
「《大天使クリスティア》を特殊召喚」
『美しい! 起死回生の ―― 』
「醜悪」 ゼクト・プラズマロックは一蹴した。
「私に言わせれば、カウンター・トラップなど無粋の極みだがそれは良しとしよう。30段目の美ぐらいはあるかもしれぬ。私に言わせれば、特殊召喚封殺など野暮の極みだがそれも良しとしよう。20段目の美ぐらいはあるかもしれぬ。しかし! フェルティーヌ・オース、それらを用いる貴様の美など10段目のそれにも値しない。折角の大天使がそれでは泣くぞ! リバース・カード・オープン!」
『《デモンズ・チェーン》! 天使の翼を悪魔の鎖が縛り込む!』
「一寸の虫にも五枚の札。しかし、美学のない決闘者などプチモスにも劣る。私のターン、ドロー。メインフェイズ、《異次元の女戦士》をデッキに戻し、《ライトレイ ソーサラー》の効果……」 「《天罰》を発動。効果を無効にし……」 「生暗いわっ! 《ライトレイ ソーサラー》を特殊召喚。光果発動!」
「3体目ぇっ! 限度額一杯の札保証! なんとう強引な突破ぁっ!」
「いえ」 Team Goddess筆頭札主、"女神の換気扇" エア・スケルトスがまたも指摘した。
「我々の間には 『待てば光路の日和あり』 という諺があります。光漏れを防ぐ毅然としたプレイング、ドロー&サーチを駆使した優雅な抜札……終盤、満を持して《ライトレイ ソーサラー》を連続召喚。せわしない速攻で【エンジェル・パーミッション】の隙を付くのではなく、堂々真正面から攻略してみせる。強引な突破? いえいえ。強豪の一角らしい、実に洗練された決闘ですよ」
「我が愛杖《ライトレイ ソーサラー》で《大天使クリスティア》を美しく除外、1枚セットしてターンエンド。これで貴方の札は残らず尽きた。どうされるか、レディ」
「ごめんなさい」 聞こえぬほど小さな声。
 デッキの上に手をかざし、
 実況が声を張り上げる。
『流石は "白旗の王" ! サレンダーで勝負を決めてしまったぁっ!』

 ミィは魅入られたように、現実に存在する夢の世界を凝視した。画面上では、エースカードを高々と掲げるゼクト・プラズマロックと、蓄積された疲労がピークを迎えたフェルティーヌ・オースが映っている。 「ミィ……ミィ!」 釘を刺したのはテロ・ヘルコヴァーラだった。夢の壁に囲まれた、おぼろげな世界から仄めかす。 「友達を作ろう。年の近い友達を作るんだ」 「なんで?」 「いいから」

 ―――― あの頃は友達が欲しかった……ような気がする。……あれ? 欲しがったのわたしだっけ。駄目。あんまり覚えていない。覚えていないけれど、何かを求めていたような気はする。

「あのねあのね。面白い遊びがあるの」
 TCG歴80年。当時11歳のミィは、学校で知り合った女の子Aに対して嬉しそうにそう言った。ミィはOZONEをソリティアモードで起動する。女の子Aは "男の子の遊び道具" に戸惑いつつも好機の目を向けていた。畢竟、ミィはいけると思った。 「こうするの!」 投盤開始。デーモン・ソルジャーを3体ほど並べると攻撃宣言を行った……但し敵陣の側から。いつも1人遊びでそうしているように、アルティメット・デーモン・バーストの衝撃を喰らって受身を取るミィ。
「一緒に引こっ!」
 女の子Aは引いた。札ではなく心を引いた。

「あのねあのね。面白い遊びがあるの」
 TCG歴81年。当時12歳のミィは、学校で知り合った女の子Bに対して嬉しそうにそう言った。ミィはせっせと木の上に登る。女の子Bは "男の子がよくやる遊び" に戸惑いつつも好奇の目を向けていた。畢竟、ミィはいけると思った。前回は急ぎすぎたのだ。段階を踏もうと思った。決闘の前に、まずは自分の日常を知ってもらおう。 「こうするの!」 投身開始。木の上から錐揉み回転で身を投げる。いつもそうしているように、イチ・エネルギー・バーストの衝撃を喰らって受身を取るミィ。
「一緒に上がろっ!」
 女の子Bは上げた。木に上がらず悲鳴を上げた。

「あのねあのね。面白い遊びがあるの」
 TCG歴82年。当時13歳のミィは、学校で知り合った女の子Cに対して嬉しそうにそう言った。ミィは木に登りながらOZONEをソリティア・モードで起動する。ミィの中での緻密な計算が一分の隙もない完璧なプレイングを実現した。 「こうするの!」 木の上から身を投げつつ決闘盤を投げる。
「一緒にやろっ!」
 女の子Cは、もうそこにいなかった。

「何がいけなかったんだろう」
 全力で計画を練り上げ、精一杯の勇気を振り絞った行動の末、ミィは地方妖怪 重力鬼(フォーリン・ダウン) として、秘密の中で恐れられる存在になった。 『あいつやばいよ。だって飛び降りるんだもん』 『あいつには近づかない方がいい。落体の法則に組み込まれるよ』 『え〜なにそれこわ〜い』 『なんでみんな信じないの? あいつは地方妖怪なんだよ!』 『わかったわかった。なんかよくわかんないけど要はシメればいいんでしょ』 『だ〜か〜ら〜!』 『そんな大声では言えないよ。地方妖怪なんて今時……』 『いいから近づかないで! あなたの為に言ってるの。いーい? 兎に角近づかないのが一番の解決策。弄りや嫌がらせなんて以ての外! 迂闊に刺激しようものなら……階段から突き落とされるわよ!』 『そんなにヤバイの!? あのまないた……』 『落体の法則を操る地方妖怪を甘く見ないで! あいつの耳に入りそうな場所では絶対喋っちゃ駄目だから! わかった? わたしたちは平面の廊下を歩くの。大地をしっかり踏みしめるEarthbound Style!』
 伝言ゲームの末、最終的には、『落体の法則を自在に操り、近づいた生徒をまないたの上に載せて崖から叩き落とす恐るべき地方妖怪 重力鬼(フォーリン・ダウン) 』 に落ち着いた。

「3人で、一緒に遊ぶ友達が欲しかっただけなのに」
 ミィは知らなかった。西部では、相互監視の自主規制により決闘範囲が調節されていたことを。建前の上では6歳児でも本格的なデュエルを行えるが、そんな例は皆無であることを。ミィは気づかなかった。TVの中に映る、華々しい夢の世界をものさしにしていた過ちに気づかなかった。衝撃に慣れすぎたミィは、いつしか自分の中の衝動を抑えきれなくなってしまう。大規模大会の会場に入りたいという衝動。電波を受信する四角い箱、カードが陳列されたショーケース、決闘施設を囲い込む強化ガラス……そういうものの内側を直に確かめたい衝動。ミィは走った。工事中、ショートカット、壁を越えて……そこはもう壁の外。目の前にあったのは私営のカードショップと、珍妙極まる現実の束。

 ―――― なんて言えばいいんだろう。私営のカードショップで襲われた時、わたしの中に "自分じゃない何か" が物凄い勢いで流れ込んできたの。(ラウンドさんが言うには)似非決闘文学に囲まれて、(ラウンドさんが言うには)暇人一同に助けられて。私を囲む暖炉の壁、引き出される 決闘小盤(パルーム)、 線を引く尻尾、降ってくるコアラ……テロくんが段々と薄くなっていって、消えちゃって、わけがわからなくなって、無我夢中で藻掻いて、投げ込んで、打ち込んで、売り込んで……あの半年ちょっとの間に何もかもがひっくり返っちゃった。遠くから眺めるだけの存在だったデュエルチームは学校の給食ぐらいには日常になってて、西部最大級の決闘施設・地縛館は、滅っっっ多にいけない高級レストランと同じぐらいには身近な存在になってたの。夢の意味が、変わった。

「手札はある。うん。ある。いつ召喚するかが問題……召喚できるかな、これ」
 TCG歴83年2月。ミィは菓子折片手に地縛館の周囲をうろついていた。
 地縛館。ほんの1週間前、Team BURSTとTeam Earthboundが3VS3の決闘を繰り広げた5階建ての巨大決闘施設(なんか横に広い!)。 決闘啓蒙活動の一環か、1階の練習場はオープンなガラス張りになっており、沢山の見学者が物見遊戯と洒落込んでいる。
 ミィも見学常連の1人だったが、今日は趣が違っていた。
( "はあどなとれいにんぐ" なんかよりずっとずっとキツイ……)
 ミィの脳裏にリードの言葉が過ぎる。 『菓子折ぐらいは持っていけ。テイルと一緒にされるのは嫌だろ』 最初はなるほどと思った。菓子折一式はラウが買ってくれた。丁度暇を持て余してたテイルが同行を申し出たが、嫌な予感しかしなかったので全力で断った。その結果、なんとなく1人で行く空気ができあがった。行った。着いた。気が付いた。途轍もない入りづらさに、ミィは足を震わせる。
「ふざけてる。あんな男臭い空間にか弱い乙女を1人でいかせるなんて。襲われたらどうするの」
 限りなく0%に近いIFに脅えながら、ミィは二の足を踏んでいた。むしろ三の足を後ろに置いた。
「うん、がんばった。今日のわたしはがんばった。明日のわたしが……」
「おい!」
「ひゃうっ!?」
 振り向いたミィの瞳に映る見慣れた服。Earthboundの象徴とも言えるブラックジャンパーの胸元がミィの、身長154センチのミィの真正面に立ち塞がっていた。
「ごめんなしゃい! ごめんなひゃい! なんでもにゃいんですごめんなふぁい!」
 頭かくかく、腕ふりふり、三、四、がなくて、五に謝罪。そのまま逃げだそうとしたものの、肩を掴まれ引き戻される。慌てふためき、更なる謝罪を試みる、が、 「静かにしろ!」 の一言で我に返る。声の主は、頬を2〜3度掻きながら呆れたように言った。
「いきなり謝られても困るだろ」
「あれ……ケルド……さん?」
 割と知ってる顔だった。

「安心しろ。みんな 『くたばれテイル』 しか言ってねえ」
 Team Earthbound新レギュラー : ケルド・アバンスは軽く腰を曲げると、目の高さをできる限りミィに合わせた。大きく見開かれ、ぐりっとした目でミィの顔を覗き込む。
「ありがとう……ございます……」
「あれから一週間か。あの決闘には驚かされたもんだ」
 1週間前だろうが1ヶ月前だろうが1年前だろうが忘れられるわけもなく。目を瞑らずとも映像を思い出せる。今にも飛びかかってきそうな前傾姿勢。鋭い踏み込みから繰り出される獣族の群れ。前進、前進、前進。ケルドが踏み込めば踏み込むほどに、四六時中吹っ飛ばされた記憶。
「いえ……そんな……わたしなんて全然……ほとんど何もできなかったし……」
「そう卑下するもんでもねえ。こいつは自慢なんだが、俺様の決闘に恐れおののき尻尾を巻いたへたれは腐るほどいる。なのにおまえは片っ端から全部受けきって、あまつさえ一矢を報いやがった。実はあの後《ライトニング・ボルテックス》を触ってみたんだがうんともすんとも言わねえ。《サンダー・ブレイク》は発動したんだけどな……。才能か努力か知らんがいずれにせよ大したもんだ」
(練習した甲斐があった……)
「だがな!」 褒めすぎたことに気付いたケルドは、ミィをぎろりと睨み付ける。
「いい気になってんじゃねえぞ。対策は完了した。ミラフォだろうがライボルだろうがババーンと弾き返す術をレザール先輩に習ったからな。Earthboundに入った甲斐があったってもんだ」
「入った甲斐……」
「折角入ったんだから最大限活用しねえと。おまえもそうだろ。あんな妙ちくりんなチームに……あんな妙ちくりんなチームになんで入ったんだ? よく入ろうと思ったな」
「ああ、それは……」 ミィは一瞬目を反らす。 「わたしが公園で練習しているところを "偶々" リードさんが発見して、そこからの自然な流れで自然に入らせてもらったといいますか……あ! そうだ!」
 Earthboundの象徴、ブラックジャンパーをじっと見つめながら言った。
「ケルドさんは、どうしてEarthboundに入ったんですか?」
「前進したいからに決まってるだろ。もとは田舎の生まれなんだが、これがまた笑っちゃうほどつまんねえんだ。他人の足を引っ張る事しか能のねえ連中ばっかり。んで、ある日、ミツルさんが載ってる雑誌を読みながら思ったんだ。どうせ引っ張られるなら前に引っ張ってくれってな。そうすりゃ前進できる。前に、前に、前に、前に……進み続けるから決闘は楽しいんだろ?」
「……」 ミィはきょとんとしていた。何かを考えるような顔を浮かべている。
「ミツル・アマギリを間近に観た時は震えた。偽物じゃねえ。本物なんだ。会ってみてがっかりしたらどうしようと思ってたんだが取り越し苦労。前に進める。俺はそう確信したんだ……どうした?」
「リードさんは……違う。前に進みたいのはおんなじなのに……なんか……違う……」
「あぁん? リード? ああ、あれか。ミツルさんに瞬殺された一番ショボい奴」
「ショボくないです!」 ミィがケルドの目をぎりりと睨み付けた。
「あの人は、Team BURSTのリーダーです」
「あぁん? その目はあれか。 "訂正しろ" とでも言いてえのか、この俺に」
 オールバックにした額にほんの少し皺が寄り、茶色い髪がにわかに荒立つ。身体からはデュエルオーラが漏れ出し、常に剥き出しな双眸からは微量の殺気が漏れていた。腰に下げていた決闘盤を左腕に付け直すと、 "どうする" と言わんばかりに牙を剥く。
「……!」 ミィの行動は早かった。バッグから決闘盤を取り出し右腕に付ける。腕をぶるぶると震わせながらも 決闘小盤(パルーム) を前に出し、円盤の盾で威を受ける。
「わたしには、あの人の夢はおっきすぎて、てんでわかってないけど、わかりたいから」
 両者が盤を構えて向かい合う。数秒の沈黙…… 「はっ」 不意にケルドが笑い出す。左腕の決闘盤を降ろすと、声を上げて笑いながらミィの反応を褒め立てる。
「いい啖呵の切りっぷり。決闘者はそうでないとな。悪かったよ。大将さんによろしくな」
「え? あ……すいません! あの、その……」
「褒めてんだから図に乗れ!」
「えっへん!」
「その厚かましさが気に入った! おまえいくつだ? 中二? 中三? はっ、んなこたどうでもいいか。おまえはガキだがガキじゃねえ!」 野性の前進論者が吠えた。デッキから1枚のカードユニットを取り出すと、ミィの目の前にがばっと提示する。 「こいつが、こいつこそが《地縛神 Cusillu》。こいつをミツルさんから預かった時は嬉しさで気が狂いそうになった。頭ん中で《百獣大行進》が発動しまくったんだよ。西部決闘界に山ほど伝説を作った、あのミツル・アマギリと同じ地縛神……けどな! おまえにぶち込んだあんときのあれは完全なクシルじゃない。俺はもっと引き出せる筈なんだ……覚えとけ。今度どこかでぶつかる時があれば、今度こそ100%のクシルをぶつけてやる。曲がりなりにもあれの受身を取ったんだ。今更おまえに手加減はいらねえよな」
「はい! わたしも今度こそ、100%受身を取れるようにがんばります!」
 ミィは満面の笑顔でそう答えるが、ケルドは毒気を抜かれたように目を細めた。
「おい。なんできっちり喰らう前提で語ってんだよ。ほんっと変な奴だな……ったく」

 ―――― わたしにとって地縛神は、言うほど怖いものではなかった……とまでは言えないけれど、それはジェットコースターに乗るのと似たような怖さだった。怖いと言えば怖いけど、本当の意味で怖いものはもっと他に……ラウンドさんとのタッグデュエルは本当に怖かった。カードショップで人の渦に放り込まれた時も本当に怖かった。友達が欲しい。デュエ友が欲しいと思っていたけれど、壁の外、まっさらなフィールドに立つ決闘者は一人ぼっちっていう現実がそこにあって……。冷たい世界。証明書が欲しかった。自分がここにいていい証明書。なのにわたしは逃げ出した。そんなわたしにみんなは優しくしてくれて、あの娘は友達になってくれた。冷たくて、あったかい世界。

「14歳の誕生日おめでとう!」 「おめでと」 「おめでとうミィちゃん!!」
 TCG歴83年3月。早生まれのミィが誕生日の到来を祝福されていた。 「お菓子ここでいい?」 「ペットボトルはちゃぶ台に置かないで、邪魔だから」 「早く始めよ! 早く始めよ!」 ちゃぶ台を囲んで飛び交う声、声、声。 『主役なんだから何もしなくていいよ。てゆうか迂闊に動かないで。その辺地雷埋まってるから』 と言われたミィは、ちゃぶ台の西側に座って3人娘の準備を見守っていた。そう、3人娘。祝いの席を設けたのはアリーナ家の3人娘 ―― コロナ・アリーナ、シェル・アリーナ、ティア・アリーナ。カードショップ ヤタロック で知り合った、美少女決闘集団 Team Arena の3人娘。
 ミィは恍惚の海の中に溺れてそのまま安らかに息を引き取ろうとしていた。 "たんじょうびぱぁてぃ" と銘打たれた天国の相互互換は、全盛期の混沌帝龍よろしくミィの理性を綺麗さっぱり吹き飛ばし、冷静な判断能力を墓地にダークエン……ダークエンドらない。ふと気が付いて首を振る。
(やらかすわけにはいかない) そう心に決めた。
 誕生日会が始まる。極めて質素ではあるが、ミィにとっては何もかもが美味しかった。3人娘からプレゼントをもらう一方、ある種のお詫びのつもりでヘアバンドをコロナに渡す。初っぱな一通り騒いだところで、北側に座るアリーナ家次女、コロナが言った。
「ぶっちゃけぼろっちい部屋だけどガンガンくつろいでいいから」
「あの、その、プレゼントまでもらって、その……」
 ミィの手には決闘盤用のネームプレートが握られていた。あたふたとお礼を述べると、「気にしないでいいよ」 北側とは別の方角から声が飛んできた。生来の陰気をそのまま形にしたような掠れ声。アリーナ家三女のシェルが、東側の席からばっさりと言い放つ。
「うちでも買える超安物だから。それより……」
 三女がパープルフレームのメガネ越し、釣り目の瞳をコロナに向ける。次女の手にはヘアバンドが握られていた。ミィがコロナに贈った、空と海を併せ持つ青いヘアバンド。
 鋭い瞳を怠そうに戻すと、シェル・アリーナがずけずけと言った。
「いつぞやのお返しだかお詫びだか知らないけど、そのヘアバンドどうすんの」
 "コロの髪は短いから" そう言いたげなシェルが自分の長い黒髪をぎゅっと掴む。親指と人差し指で髪の末端を掴むと、ぶんぶん振り回して小さなヘリコプターを作る。
 ぐるぐる。
「使いどころないじゃん」
「うい……ごめん。何も考えてなくて……」
「解決力のないカードがデッキに何枚あっても意味ないよ」
「シェル」 コロナがすぐさま窘めた。 「そういう言い方はダメ」 自分の頭からシャーク・サッカーの髪留めを引き抜くと、元の持ち主であるシェルに返しながら言った。
「ハチマキ代わりに額に当ててみる。丁度前髪がうっとおしかったから」
「渡りにシャーク?」 シェルが溜息をついた。 「コロ、そういう言い訳好きだよね。3ヶ月後には、そういうのが似合う髪型になってるんでしょ、知ってる知ってる」

「ところで!」

 ひときわ陽気な声が室内に響きわたった。南の席からこんにちは、アリーナ家四女、ティアががばっと手を挙げる。シェルがうざったそうに目を細めるが、まるで気にせず話題を変えた。
「ミィちゃんは〜なんでジュニアデュエルでやらないの?」
「……言わないとダメ?」
 ミィは気まずそうに目を逸らすが、ティアはこくこくと必要以上に頭を振った。サイドテールを括った黄色いリボンが上下に揺れ、ミィとの距離を一足飛びでささっと埋める。
「おんなじ学校なんだし、もしあの頃ジュニアにいたら、もっと早く会えてたかもしれないじゃん」
 ミィは眉間に皺を寄せた。どこまで正直に言うべきか迷いつつ、ぽつりと一言 「知らなかった」 と答える。即座に反応が返ってきた。具体的には 「え!?」 「マジ?」 「ヒャーッ!」 といった極めてわかりやすく、それだけに気まずくなる反応。ミィは可能な限り淡々と続きを述べた。
「1人で公園に行って練習して、1人で大会にいって見学して、TCGはそういうものだとばかり思っていたから、ジュニアデュエルとかそういうの知らなくて……」

【ジュニアデュエル】
 20歳以下を対象とした決闘形式。解像度を下げて衝撃波を抑える、大きな衝撃波を伴いやすい大型召喚や連続召喚に制限をかける、衝撃波を受け止める防具の着用を徹底する……等々、衝撃波に配慮した子供用のルールを採用。ミツル・アマギリが 『ここでしっかり基礎力を付けて欲しい』 と答える一方、ケルド・アバンスが 『補助輪付けて自転車に乗る高校生、そんなもんどこの世界にいるんだよ』 と吐き捨て、アブソル・クロークスに至っては 『仮に骨が2〜3本折れたとして何の問題があるの? 僕が5歳の頃は十二指腸がジェイソンに掻き混ぜられて十三指腸になったものだ。成長期の子供はそうやって健康を手にするんだよ』 と語ったのは、決闘評論家達の間で有名である。

「それであのTeam Burstに? 凄い凄い!」
 ティアが小さな身体をぴょんぴょんさせてはしゃぐ。左側で括ったサイドテールが無造作に跳ね、ミィの視界をにぎわせた。 (ワンちゃんの尻尾みたい) 思わず笑みを浮かべ、感慨深く語り出す。
「決闘決闘決闘で頭が一杯になった瞬間、色々なあれが重なって。それで良かったと思うの、今は」
「たとえば?」 ティアではない。
 聞いたのはシェルだった。
「た・と・え・ば?」
「えっと、地縛神に吹っ飛ばされたりとか……」
「最初に思い出すのがそれ? なにそのマゾゲー」
「シェル」 コロナが横合いから再度窘める。……いつものように。
 小言を貰ったシェルは一端立ち上がると、勉強机まで5〜6歩歩き、小型水車型デュエルディスク 決闘掻盤(ストラグル) を持参した。三人娘が使用する、闘技場の血を掬う決闘器。
「ま、私らも人のことは言えないけど。ぼろっぼろのずったぼろ」
「あ」 ミィがようやく "同じ" に気付く。
「そうだよ! それを言ったらコロ達もなんでこっちでやってるの? 前は違ったんでしょ?」
 ミィの一言で、アリーナ家に緊張の糸が張った。薄く見え辛いが、確かにピンと張り詰めた細い糸。質問に答えたのはシェルだった。長い髪の端を親指と人差し指でいじりながら、パープルフレーム越しにミィと目を合わせる。 「強くなりたいから」 更にもう一言続ける。 「おねえちゃんのように」 刃物のように鋭い言葉。ティアが補足がてら 「シェルちゃんがリアルデュエルもやるって言ったの」 と言い添えたが、ミィはもっぱら別の事を考えていた。
(おねえちゃん? そうだ。あの時コロが言ってた名前は…… "アリア"。 あの人とおんなじだ)
「ひょっとして……長女さんも、おねえちゃんも決闘者なの?」
「違う!」 真っ先に否定したのはコロナだった。上がりすぎた声のトーンに自分で気付くと、やや小さめの声で 「おねえちゃんは、その、決闘者じゃないの」 と言い直す。
「あれ? でもさっきシェルが……」
「あのね。それは、その、うちはお父さんがいなくてお母さんも倒れちゃったから、おねえちゃんに色々お世話になってるの。なんでもできるあたしたちのすーぱーうるとらみらくるおねえちゃん。そんなおねえちゃん見てたら、あたしたちも何か頑張らないとって、そう思って……」
「あ、そうなんだ……」
 三人娘はお互いに目配せし合うと、話題を1つ前に戻す。
「そんなわけだから」 シェルが埋め合わせを始めた。 「ガチなデュエルにもちょくちょく顔を出してるの。ガチで強くなりたいなら、ガチな世界を知らないと始まらないから」
(大人だ) ミィは思った。 (おんなじ学年なのに、自分から前に出ようとしてる) ミィはシェルの身体をまじまじと眺める。 (大人だ) ミィは思った。 (おんなじ学年なのに出るとこ出てる)
「受身検定がうざったいんだけどね。あれをパスしてないからデュエルガード必須。なんでも中途半端に規制をかけるせいで出られるんだけど、中途半端に規制をかけるせいでうざったい。ハナからデカ物あんまり使えないけど……ガードクラッシュ喰らって、エクシーズできないのは困るから」
「え? あれそんなに難しいの?」
「は? あんた何級?」
「A級……」 「バカ?」
「そういえば」 コロナがふと思い出す。 「跳腕の一撃を敢えて食らって、な〜んかにやにや気持ちよさそうにしてたような……。シェル、さっきはゴメン、あんたが正しいわ」
 支持者を失ったミィが 「違う。違うから!」 と喚き立てるが、3人はじっとりとした視線でミィの痴態を眺める……5秒……10秒……。不意にティアが笑い出し、コロナも釣られて笑った。
 笑わなかったのは一人だけ。シェル・アリーナは軽く息を吐くと、決闘掻盤(ストラグル) をちゃぶ台に置いて屈み込む。そのままミィの手をぐぃっと持ち上げ、ぼそぼそとした声で言った。
「呪文の扱いが上手かったり、受身の取り方が変態だったり、何が違うんだろ」
「え?」 「何が違うのかなって」 「……」  違う という言葉を聞いた途端、ミィの身体がしゅわわっと縮む。反射的に 同じ 言葉を探し当てると、右から左にそのまま言った。
「モンスターが下手だから……あんまり上手く投げられない……」
「……あっそ」 鋭い瞳で軽く睨み付けると、シェルが雑に纏めた。
「色々うざったいけどまずはデカ物投げられるようにならないと。来年再来年に向けた基礎練ばっかで、いつまでもエアロシャークじゃ何も始まらない。あんたもそうでしょ? アブロオロスじゃ何も……」
「始まってる」 「え?」 「始まってる」 
 2人の間に不意の沈黙が訪れた。……5秒……6秒……6.1秒、6.2秒、6.3秒……何かが倒れた音が沈黙を破る。 「ごめん、ジュースこぼした」 末っ子のティアだった。コロナが布巾を取ろうと席を立ち、後始末で騒がしくなる中……シェルがミィに耳打ちした。アイスピックで刺すような鋭い声。
「さっきの、ああいう顔してる時の方が好きだから。おべっかは嫌い」

 ―――― アリーナ家の長女さんと、ブロートン一派からわたしを助けてくれたちょうかっこいいきれいなおねえさん……が同一人物であると知ったのは、地下決闘が終わった後だった。そう、地下決闘。わたしはあのとき思い知った。決闘者はみんな箱を持っていて、箱の中身をぶつけてる。あの場所は、箱の中身が容赦なくぶつかり合うとてもとても恐ろしい世界。わたしはそんな世界の中にいた。そんな世界の中で……わたしはあの人を、パルム・アフィニスという決闘者との関係をドローした。《ラヴァルバル・チェイン》で置いたカードを引くように、自分の意思でドローした。

「こぉ〜あきぃめ〜い〜るぅの〜♪ こ〜うか〜くにぃ〜♪ きぃ〜たえ〜し ど〜ろ〜お〜 た〜くま〜しく〜♪ でっきのよおにぃ〜がっこうを〜♪ はつどう〜めぇ〜ざし〜かが〜や〜け〜よ〜はい!」
 TCG歴83年6月。聖コアキメイル学園の校歌を口ずさみながらミィは上機嫌で歩いていた。
(アフィニスさんとの練習、練習、練習。タッグを組んでくれるって、あの人は言ってくれた)
 極々自然な経緯から、極々自然に了承を得たタッグパートナーのもとへ向かうミィ。 (でも) 急にぴたりと足が止まる。 (上手くやれるかな) ここ4ヶ月程に成し遂げた数々の失態を思い出し目線を下げる。 (大丈夫なことなんて何もない) 足が完全に固まったその時、
 一際大きな声が耳に響いた。
「ひったくりだ! 誰か捕まえてくれぇっ!」
「ヒィィィィィヤッハー! 決闘盤をドローしちまったぜぇっ!」
「あのサングラスは! ドローアクションをひったくりに悪用した "警棒のセカンドディール" 」
「今日もまた! あいつに何もかもドローされてしまうのかぁっ!」 「俺達は無力だぁっ!」
「なんてこったっ! しょうがねえ! デュエセンいって練習しようぜ!」 「OK! Let's go!」
 野次馬達の帰宅を余所に、セカンドディールは走り続けた。 (ちょろい) 角を曲がって更に加速。 (決闘者のクセして、心に隙を作ってるのが悪いんだよ) 戦利品を片手に舌なめずりを1回2回……3回目はなかった。足が止まる。目の前には1人の女子中学生が立っていた。
「決闘盤は、決闘者にとってダイヤモンドより大事な物です。返してあげて」
「なっ、なんで回り込み……」
「あっ、それは、テイルさんからこの辺のショートカットを……」
「どけぇっ!」 「きゃっ!」 
 サングラスとスカーフで顔を隠した窃盗犯は、ミィを突き飛ばして尚も逃走を続けた。角を曲がる。もう一度曲がる。更にもう一度……ようやく撒いた……
「ひったくりさん! 決闘盤を返してあげましょう!」
「なっ、なんで付いてこれる!」
「あっ、それは、ラウンドさんから毎日走るよう……」
「うぜぇっ!」 「きゃっ!」
 サングラスとスカーフで顔を隠した窃盗犯は、隠し持っていた警棒でミィを殴り飛ばす。……軽率。女子中学生相手に思い切り警棒で殴ってしまった罪悪感から、思わず立ち止ま……
「ひったくりさん! もしよろしければわたしが返しに……」
「なっ、なんで立ち上がれる!」
「あっ、それは、その……言わなきゃ……駄目?」
「なんだ。なんだこいつは。およそ意味がわからねえ……」
「あの」 「寄るな! こいつが見えねえのか」 「黒光りする棒……ですよね」 「こいつが怖くねえのか」 「ナイフとかピストルとかなら兎も角、そんなちっちゃい棒なら別に……」 「馬鹿野郎! 当たり所次第では骨折や死亡もありえるっつぅの!」 「それはそうですけど、うーん、なんていうか、それは当たり前というか……。え〜っと例えば、3階から落ちたら……あ、でも、3階なら別に……。え〜っと……ああ〜頭悪くて上手い例えが……」 「うるせえよ! 人をおちょくるのもいい加減に……」
「待てぃっ!」 路地裏の上空から低い声が響いた。 「今度はなんだ!」 狼狽したセカンドディールが上を見上げると、何かが落ちてくる。何か。具体的には、剣と盾を装備した決闘騎士。
「なっ! ナイト!? 次から次へと変態がぁっ! 喰らえ!」
 喰らったのはセカンドディールの方だった。剣の柄で警棒を弾かれると、盾越しの体当たりを喰らって吹き飛ばされる。なんとか立ち上がった時、窃盗犯の手に決闘盤はなかった。
 騎士が、髪を兜のように切り揃えた決闘騎士が言った。
「私の正義と名誉にかけて、これは持ち主の所に返す」
 後日の獄中、連続決闘窃盗犯 : 警棒のセカンドディールは、憧れであった強制決闘猥褻犯 : 跳腕のウエストツイストと共通の話題で大いに盛り上がったという。

「君は確か、地下決闘で……」
「あ、あなたはもしかして……」
 全てが片付いた後、お互いがお互いの存在に気が付いた。
「改めて自己紹介しておこう。私の名はマンドック・モンタージュ」
「ミィです。地下決闘の時はお世話になりました。助けて頂いて」
「こんなところで再会するとは。あの時はお互い……」
 マンドックは口元を引き絞って沈黙した。ミィは 『お互い』 の意味を噛みしめる。地下の兄弟を相手に、完膚無きまでに舐め尽くされた記憶……ミィはふと気が付いた。
「その剣と盾、もしかして決闘盤なんですか?」
「ああ。骨董品だよ。先生が 『君にはこれが似合う』 と言ってくれた」
 盾に収まった剣を使い、いかなる方法で投盤行為に及ぶのか一瞬気になったが、先に浮かんだもう1つの疑問への答えを聞く。 「あの時は、槍型の決闘盤を使ってましたよね。むっちゃぶんぶしてましたし、ひょっとして壊れちゃった?」 ミィから疑問を投げられ、マンドックの顔が曇る。
「壊れてはいない。壊れてはいないが、私にはもうその資格がないのだ……」

「私の話は、成人前にまで遡る」 マンドック・モンタージュは、一を語る為に十の話を始めた。
「目を瞑ると今でも思い出す。天高く舞い上がる《青 眼 の 白 龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の勇姿を。あれを目の当たりにしたとき私は思ったんだ。ドラゴンの上に乗って空を飛べたら、清々しいほどに自由であろうと」
 マンドックの語り口は優しかった。
 聞かされた話から、ミィは1枚のカードユニットを連想する。
「あ! ひょっとして、《竜騎士ガイア》を主力にしてたのは……」
「当たりと言えば当たりだが、外れと言えば外れだ」 「ほえ?」
 マンドックは薄く微笑むと、決闘盤のエクストラデッキから1枚のカードユニットを取り出す。シンクロでもなく、エクシーズでもなく、相当古くに作られたとわかる融合モンスター。
「今もお守り代わりに入れているんだ」
「《ドラゴンに乗るワイバーン》……?」
「知らなくてもおかしくはない。《ベビードラゴン》の上に《ワイバーンの戦士》が乗った小型の龍騎士。2体の融合にして攻撃力たったの1700。当時の私にはこれが精一杯だったんだ。それでも私は、自分が龍騎士になったようで嬉しかった。もっとも、その歓喜が絶望に変わるのもすぐだった」
「マンドック……さん?」
「弱者への嘲笑。来る日も来る日も、私は笑われていた。『何が龍騎士だ、上に乗っただけで融合面してんじゃねえよ!』 『デパートの屋上に置いてあるあれにしか見えねえよ!』 と散々こき下ろされた。悔しかった。我々に正義はないのか、我々に名誉はないのか。そんな私の前に現れたのがTeam Justice。そう、Team Justiceのエンブレムは、2本の槍を交差させたそれなんだ。当時は荒くれ者が多かったから、TCG界の清浄化を謳うTeam Justiceの存在はまさしく希望であった。その志に感銘を受け、馳せ参じた私に対し、彼らは優しい言葉をかけてくれた。 『何も足さなくていい。何も引かなくていい。ありのままの君こそが何よりも素晴らしい』 と」
 ミィはうんうんと頷きながら聞いていたが、マンドックの言葉がある段階に達した瞬間、頭の奥に眠っていた記憶がスライド写真のように蘇る。 "私営のカードショップ"  "ブロートン文学"  "文学的強化蘇生" ……若干の戸惑いを覚えつつもミィは、マンドックの話に耳を傾け続けた。
「決闘者の名誉を守る為に必要なものこそ、巨悪を滅ぼす正義であると教えられた。蒙が啓けた思いだった。正義のない決闘に名誉はない。……しかし、あれだけ眩しかったTeam Justiceも今はもう存在しない。地下決闘に乗り込み全てを失った。哀しいかな、私は泣きながらバルートンに挑みかかったが、歯牙にも掛けられず瞬殺されたよ。……3年後、私が地下に向かったのはTeam Justiceの名誉を回復する為。《竜騎士ガイア》を筆頭に、槍で固めた構成で!」
 一瞬激したマンドックは、はたと気付いて頭を冷ます。
「しかし結果はあのザマだ。私の実力では何も貫けなかった。これでは逆効果もいいところ。故に、私は槍を置いたのだ」 「マンドックさん……」 「しかし先日、私は新たな師匠を得た。修行が完成した暁には、あいつを……バルートンを……」
 マンドックの心が昂ぶる一方、
 座りが悪くなったミィは疑問を挿した。
「あの、そんなに……許せないんですか?」
「意外か? 君とてあの、奴の弟、ボラ―トンを相手に……」
「……」 ミィは10秒ほど考え込むと、当時を思い出しながら淡々と言った。
「好きか嫌いかでいえば、偶々電柱に頭をぶつけてるところを見かけたら思わずガッツポーズするぐらいには好きじゃないですけど、恨んだりとかそういうのはないです。私達の方から出向いて、あっちの土俵で正々堂々決闘したから」 「あの時の君は、この上なく悔しがっているように見えたが」 「アブロオロスを、パルームを、デッキを、何もできないままにしてしまった自分が不甲斐なくて。決闘の技術や姿勢で言うなら、あの人達からも学べる事は一杯あるから……。アフィニスさんも言ってました。 『バルートンと、今もう一度やって勝てるとは思えないけど、やる機会があるならもう一度やりたいし、もう一度やるなら勝つことしか考えられない』 って」
「ぬぅ。しかし私は、それでも受け入れられんのだ」
「わかります。わたしにもそういうの、あるから……」
「……そうか。ならお互い精進しよう。日々の練習が明日を裏付ける」
「そうですね。……あ」 「どうした?」 「いけない! 練習のことすっかり忘れてた!」
 慌てふためきながらその場で立ち上がると、スカートの端をきゅっと広げてマンドックの方を振り返る。1回ぺこりと頭を下げると、そのまま一目散に駆け出した。



(いける。これはいける。これはいける。これはいける)
 TCG歴79年。当時12歳のパルム・アフィニスが自己暗示をかけながら決闘盤を構えていた。度重なる故障から自暴自棄になっていた暴引族を尻目に、『不法投棄は良くない』 一言呟き入手した、小型円盤型デュエルディスク 決闘小盤(パルーム)。 その意味は、"手の平サイズの小さな部屋"。
 決闘盤に1枚のカードユニットを挿し込むと、右手で掴んでデュエルオーラを共鳴させる。少年の腕は青紫色に変色していた。本来なら3つ通っている筈のデュエルオーラが1つしか通っていない。マジックでもなく、トラップでもない、唯一つ残された資格。モンスターを召喚する資格。
 意を決して投盤を行う。福引きで当てた生まれて初めてのレアカード、泣きながら行った3倍の投げ込み。決闘者の決算を映し出すOZONEの中、フィールドを跳ねる決闘盤……
「いけ!」 
 そこには なにもなかった。
「……なんで初めてがおまえなんだよ。おまえなんか大嫌いだ」
 挿していた《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード》を放り出すとパルムは沈黙した。抱える悩みを共有できる人間などいない。『無駄な努力ご苦労さん』 自分とは相異なり、自分の生き方を認めてくれない他人が、この世にありふれた他人が群れを成していたから、パルムは若干疲れていた。

 ―― 『マジック・トラップを使えない』 それがどういうことなのか、2つの意味でぼくの認識は甘かった。まず1つ、使わないと使えないの間には雲泥の差がある。そしてもう1つ、マジック・トラップを使えないのは始まりに過ぎなかった。一度あることは二度ある。二度あることは三度ある。

「手札から《ガード・ヘッジ》の効果発動。《スクラップ・ゴーレム》を戦闘での破壊から守る」
 TCG歴79年夏。子供の好奇と大人の監視。周囲からのなんとも言えない視線に晒されながら、腐腕の少年がジュニアデュエルでの試合に臨む。試す、試す、試す……限られた選択肢の中、練りに練った構築を試す。 (いける) 相手の攻撃をなんとかいなすと、一転、反撃を試みる。
「《スクラップ・ゴーレム》の効果発動……イリーガル・ダンピング」
 冷蔵庫の体、電子レンジの頭、換気ダクトの腕、トースターの足……廃品の集合体が唯一最大の特技を披露した。墓地に眠る廃品の業を呼び覚まし、着払い上等で送り込む。
「ガンチャンの場に《スクラップ・サーチャー》を特殊召喚。効果発動」

スクラップ・ゴーレム(2300/1400)
1ターンに1度、墓地に存在するレベル4以下の「スクラップ」
モンスターを、自分もしくは相手の場に特殊召喚する
[効果] [5] [地] [岩石族] 
スクラップ・サーチャー(100/300)
特殊召喚に成功した時、そのフィールド上に存在する「スクラップ」以外の表側表示モンスターを全て破壊する

[効果] [1] [地] [鳥獣族]

「くそっ、ゴミを押し付けやがって」
  イリーガル・ダンピング、即ち、不法投棄された産業廃棄物は生きていた。酸素を二酸化炭素に変えるように、純正品を廃品の山に変えていく。マジックを封じる《コアキメイル・ウォール》も、トラップを封じる《コアキメイル・サンドマン》も、その全てを一様に食い荒らす鳥の性。
 パルムはそのまま攻め続ける。攻めて、攻めて、攻め続ける。
「《スクラップ・キマイラ》を通常召喚して効果発動。《スクラップ・ビースト》を特殊召喚。いけ」

「ざけんな!」 決闘が終わった次の瞬間、"石鍋のガンチャン" が怒りを露わにする。ブレザーの胸元に縫い付けられた、聖コアキメイル学園の校章が揺れていた。 「マジックやトラップを使わない決闘なんて決闘じゃねえよ! 何の為にウォールやサンドマンがいると思ってんだ」
「知らないよ。それに、効果を封じたいなら《コアキメイル・ガーディアン》も……」
 パルムは胸ぐらを掴まれる。 「生意気なこと言いやがって」 にわかに騒がしくなり、大人がフィールドに駆けつける。事情を説明。これで一安心……とはいかなかった。
「ん? パルムくん、君のデッキは公式戦では使えないよ。ここ数年モンスターの偏重が激しかったからね。三種類のバランスを保つ為、5枚はマジック・トラップを入れないと。そういう決まりだよ」
「え? いや、でも……」
「ほらみたことか! フルモンなんて決闘じゃねえんだよ! バランスを欠いた荒くれの時代なんて間違っていたんだ。そう! 今という時代は! 俺達Team Rock&Lockの時代なんだ!」

 ―― ぼくの構築は【スクラップ】から始まった。両親から買ってもらったんだ。ちょいとした手切れ金のようなもので、 『これやるからもう話しかけるな』 ぐらいの意味が込められていたのはぼくにもわかる。沢山ある中からスクラップを選んだ理由は 『マジック・トラップが文字通りのスクラップだったから』。 当時売り出し中の《ポンコツの意地》や《スクラップ・カウンター》は、マジック・トラップへの未練をいい具合に断ち切ってくれた……んならよかったんだけどそうもいかない。西部には中途半端な規制が沢山ある。ミツル・アマギリ台頭後、変化する状勢に合わせた場当たり的な規制行政。確率2/5で、フルモンが普通に使える世界に生まれていた可能性もあったのに。

「ダメだ。遅すぎる」
 TCG歴80年。中学一年生になったパルムが自分の狭い部屋に身体を寝かす。ばらけたノートには、"手札誘発" "足りない" "墓地活用" と言った文字がびっしりと殴り書きされていた。
(使いもしないトラップ。やたらめったら初手に引くこいつらをどうすればいい。処分してる間に日が暮れる。幻鳳鳥を活かすどころじゃない。なんでだ。なんでこうも上手く行かない)
「駄目だ。選択肢が足りない。スクラップ……スクラップ……あ、スクラップだ」

「ゴミ捨て場の中はこうなっているのか。……行政は何をやってるんだ」
 3日後、パルムはぼやきながら墓地を漁る。OZONE内ではなく、現代社会の墓地。壊れたカードが四方八方に散乱する決闘の墓場。腐臭を放つ西部の現実。
(許可を取る為のハッタリを山ほど用意していたのに。半ばフリーパスとはふざけたことを。そもそもなんでこんなにいっぱいあるんだ。ちゃんと扱えばそんな壊れるもんじゃないのに)
 黎明期の名残とも言うべき残骸の山がそこにあった。数年前は決闘道具への正しい認識がなく、『おい俺のカードがなんかおかしいんだけど』 は 『折角だからフリスビー代わりにぶん投げようぜ』 ぐらいの意味しかなかった。西部の英雄 : ミツル・アマギリの登場で大分意識改革が進んだものの、過去が消滅するわけではない。荒くれ者が跋扈した黎明期の傷痕。
「この《カードガンナー》。ぼくの技術でもなんとかなるか」
 パルムはぎゅっと拳を握ると、「いや、なんとかしてやる」 と息巻いた。漁っては直し、漁っては直し……パルムの【スクラップ】は、【スクラップ】と名の付いたカード・ユニットの集まりというよりはむしろ、本物のスクラップを修理したカード・ユニットの集合体になっていった。《カードガンナー》のネジを締め、《サイバー・ヴァリー》に電気を通し、《ジェネクス・コントローラー》の配線を繋ぎ、《レアル・ジェネクス・クロキシアン》にトンカチを当てる。日に日に廃品で溢れていく小さな部屋。
 そんなある日、ふとしたことから掘り出し物が見付かる。

召喚僧サモンプリースト(800/1600)
1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動
⇒デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚
(このターン、そのモンスターは攻撃できない)
[効果] [4] [闇] [魔法使い族]


「嘘だろ? ほとんど無傷じゃないか。誰だよこれ捨てた不届き者は……なんて言ってる場合じゃない。これがあれば、これがあればマジック5枚の処理が捗る……」

 少年は満面の笑顔を浮かべた。

 その数秒後、

 少年は顔全体をぎゅっと歪めた。

「幻鳳鳥、もう入んないな……」

 ―― ぼくは幻鳳鳥の投げ込みをやめた。身体の相性が最悪だった上に、構築の相性が最悪なら練習する理由がない。ふと気が付くと、《召喚僧サモンプリースト》と相性が良かった筈の《スクラップ・ビースト》が消えた。単体でも価値のある《ライトロード・マジシャン ライラ》のようなカードを引っ張る方が都合良く思えた。そうすると《スクラップ・キマイラ》がデッキから消える。いつの間にやら《スクラップ・ゴーレム》や《スクラップ・サーチャー》も引き出しの中に収まった。特定の名前に拘っていてはゴミ捨て場の収穫を活かせない。ぼくの思い出が、日に日に増えていった。

「おいパルム、最近デュエってないじゃないか」
 タダで使えるジュニアデュエルの練習場。ベンチに座っているパルムに声を掛けたのは、少し年上の権兵衛という男であった。パルムは少し考えると、さらっと言ってのける。
「今のぼくの決闘は、ジュニアデュエルの枠には収まらないみたいだから」
「ははあ。そういうことなら俺もあるんだぜ。受身検定は大丈夫か?」
「まだC級」 「デュエルガードの使用前提か。いいぜ。おれとガチろう」
 2人は場所を変えると、誰もいない場所を見繕う。決闘盤を取り出し、OZONEを起動…… 「決闘(デュエル)!」 「決闘(デュエル)!」 先手を取ったのは権兵衛。にやりと笑って《スクラップ・ゴブリン》をリリースし、意気揚々と《スクラップ・ゴーレム》を打ち立てる 「ジュニアじゃねえんだ。こっからだ!」 換気ダクトの腕で《スクラップ・ゴブリン》を掴み、胴体の冷蔵庫に放り込む。《スクラップ・ゴブリン》のチューニングが身体の内側から始まった。同調の証明とばかりに、頭部の電子レンジと脚部のトースターがぐわんぐわんと過熱。圧倒的熱量がエクストラデッキへの扉を開き、捻子と鉄板を送り込む。廃品と廃品の連鎖。間接代わりの車輪で廃品を繋ぎ合わせ、巨大なる龍へとその存在を変えていく。
「不滅なる鉄の魂よ、新たなる依り代を得て創世せよ、《スクラップ・ドラゴン》をシンクロ召喚!」
 古びたトタン屋根を翼に変えて、権兵衛が己の心を解放した。
「おまえもこいつを召喚したくなったんだろ! ジュニアじゃ刺激が強すぎるこいつをなっ! さあ! おまえも出してみろよ! 水入らずのスクラップ・デュエルだ!」

「なんだ……それは……」
 権兵衛は我が目を疑った。《ネクロ・ガードナー》によるブロックを契機とし、目の前を脅かすは2つの鋼鉄。黒い汽車を模した鋼鉄の巨人と、権兵衛の寵愛をほしいままにするエース・スティール。

レアル・ジェネクス・クロキシアン(2500/2000)
シンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上に存在
するレベルが1番高いモンスターのコントロールを得る

[同調] [9] [闇] [機械族]
スクラップ・ドラゴン(2800/2000)
1ターンに1度、自分と相手のカードを
1枚ずつ破壊することができる
[同調] [8] [地] [ドラゴン族]

怒れる自動人形(レイジング・コッペリア) 」 黒鉄の先導者 : 《レアル・ジェネクス・クロキシアン》が《スクラップ・ドラゴン》のレールをねじ曲げ、鋼鉄の輪廻を解き放つ。パルムは止まらなかった。《デブリ・ドラゴン》で《カードガンナー》と《レベル・スティーラー》にチューニング。動転する権兵衛に向け対大人用の衝撃波を放ち続ける。シンクロ召喚 ―― 《スクラップ・ドラゴン》。
「《レベル・スティーラー》を引き上げてスクドラの効果発動。……いけ、クロキシアン」
 自分のレールは自分で引けると言わんばかりに、2体の《スクラップ・ドラゴン》を牽引しながら黒鉄の先導者が駆け抜ける。 「バトルフェイズ……ブラック・メタル・スプリント!」

「この、裏切り者!」 決闘終了後、権兵衛はパルムを糾弾した。 「同じ【スクラップ】使いだから目を掛けてやったのに。《スクラップ・キマイラ》はどうした! 《スクラップ・ビースト》はどうした!」
「……抜いた」
「愛がない」
 権兵衛は忌々しげに吐き捨てると、両手をトタン屋根のように大きく広げる。
「スクラップへの愛がない。仲間を失い孤立した《スクラップ・ドラゴン》の声がおまえには聞こえないのか? 他のカードも他のカードだ。《ライトロード・マジシャン ライラ》? 《サイバー・ヴァリー》? 《レアル・ジェネクス・クロキシアン》? 遙か遠方より呼び付けられ、愛のない使い手に酷使され、悲鳴を上げているカードの声が聞こえないのか?  嗚呼、嘆かわしい」
 身体を硬直させたパルムとは対照的に、身振り手振りを加えつつ大声で語る。
「それ以上は、やめろ」 ぼそりと呟くパルムを余所に、権兵衛は一言言い添えた。
「本物の愛を備えた真の決闘者になれるかと期待したのに。がっかりだよパル……ぐっ!?」
 口元を塞ぐ異形の異物。パルムの腐った腕が目一杯広がり、権兵衛の口元を覆い尽くす。
「何が本物の愛だ。何が真の決闘者だ」
 華奢な右腕ながらも、ふりほどこうとする権兵衛を押さえ続ける。
「本物? 真の? 神様のお墨付きでも欲しいのかよあんたは。そんなものは本物の愛じゃない。そんなものは真の決闘でもなんでもない。そんなものは、そんなものはおまえの愛だ! そんなものはおまえの決闘だ! ぼくの愛は……ぼくの決闘は……そんなもので十分だ!」
「この野郎!」 ようやくふりほどいた権兵衛は激昂してパルムを殴りつける。1発、2発……パルムが沈黙するまで殴りつけると、ハンカチを取り出して顔を拭く。
「暴力を振るうとは見損なったよ。俺達の前から永遠に消えろ」

 ―― ぼくの決闘に証明書はなかった。なくてよかった。

「これも駄目か」
 やらかしの悪評が祟り、行き場を失ったパルムは1人で構築を続ける。続けて、続けて、行き詰まる。発掘作業も頭打ち。先日も《ダーク・アームド・ドラゴン》の発見に1人盛り上がるが、レア物中のレア物がそうやすやす放り出されるわけもなく。修理は不可能。攻撃も効果もままならない。
「ああでも召喚するだけなら……。その場合は……投盤難易度が下がる……?」
 一週間後。パルムは公園でOZONEを起動すると、まずは《スクラップ・ドラゴン》を召喚した。更にそこから墓地を整備。《ダーク・アームド・ドラゴン》を召喚。2体のドラゴンを眼前に並べる。
「スクラップ・ドラゴンとダーク・スクラップ・ドラゴン……うん、いいな……」
 廃棄龍と廃装龍の饗宴。パルムは懐からTCG界定番のマスコットをにゅわっと取り出し、大きさの比較用に置いてみる。更に使い捨てのカメラを構えると、にわかに写真撮影を開始した。 「いいな。いい。ああ、この角度いける。最高じゃんおまえら……」 一通り気持ちよくなってから溜息一つ。 「こんなことしていてもしょうがないか」 虚ろな空をじっと見つめる。 「ごめんな」

「これが……カードショップ……?」
 TCG歴81年春。パルムは一軒のカードショップを訪れる。入手した情報に寄れば、西部五店長の1人が経営する極めて特殊な私営闘札店。 「ツタが絡まってる……。こんなんで経営する気あるの?」 幽霊屋敷のような外観に尻込みしつつも、意を決して中に踏み込む。
「いらっしゃい……ん? 君、ひょっとして……」
 店長の名前はアブソル・クロークス。パルムを一目見るなり、『秘密のベールに覆われた君の手に触れてみたい』 などとほざき出す。あまりに胡散臭い申し出に身の危険を感じつつも、パルムは駄目元で言い返した。 「カードを融通してくれるなら考えてもいいよ」 契約が成立した。店長のお勧め商品《The アトモスフィア》を筆頭に、《カオス・ソーサラー》、《冥府の使者ゴーズ》、《ラヴァルバル・チェイン》、《スポーア》といったそうそうたる面子が、拾ってきたカードとの交換で加入する。
 とある昼下がり、アブソルがさらりと提案した。
「デュエルフィールドに餓えているなら夜の決闘に赴くといい」
「危険は?」 「荒っぽい世界だから受身の練習は必要になる」
「それだけで足りるの?」 「それだけと言えるほど君の身体は頑丈かな?」 「それは……」 「僕は受身が下手というか必要ないから教えられないけど、なんなら西部五店長、我が盟友ファロ・メエラを紹介しよう。ひ弱な身体を精々鍛えて、夜の決闘を味わってみるといい。運が良ければ楽に死ねる」

 ―― ぼくはアブソルのことが嫌いではない。ぼくのこの腕に……意味もなく嫌われるか、そうでなければ笑いものにされるだけだったこの役立たずに向かって 『君の手は素晴らしい』 と言ってくれたから。あいつの本性を知った後ですら(あの娘は怒るだろうけど)この気持ちはあんまり変わらない。この付かず離れずの奇妙な関係は、あいつが真っ先にああ言ってくれたことで始まったから。そんなことは初めてだったから……。アブソルとの出会いをきっかけに、ぼくの活動範囲が徐々に広がり始めた。反作用のない単なる映像(ソリティア)を何度屠ってもしょうがない。未知の世界に餓えていた。

「《スクラップ・ドラゴン》の効果発動。スクラップ・ヘル・ファイア!」
 TCG歴81年夏。ガラスの眼がサーチライトのように光るや否や、焼却龍がその真価を発揮した。ゴミ捨て場から拾ってきた《死者への供物》を燃料に変え、《破滅の魔王ガーランドルフ》を燃やしきる。
(夜の決闘か。暗くてやりづらいような、そうでもないような……)
 アスファルトの路地裏に火が灯り、スチールヘッドの焼却龍が地に吠える。10ターン目のダイレクトアタック。焼却龍が場を明るくしたその瞬間、パルムは目の前の相手を一瞥した。
(闇属性主体。夜の決闘者らしいと言えばらしいか。それにしても)
「いいねえ! いいねいいねいいねえっ! 決闘ってのはこうでねえと! 俺のターン、ドロー……《闇の誘惑》を発動……ば、ば、ば、ば〜いそんそん! 魔〜魔〜魔魔魔魔降臨DA!」
(ご近所迷惑だろ……って、誰もいないか、この辺)
 少年が夜の闇に腐腕を溶け込ませる一方、黒い肌の男が臆面のない自己主張を始める。メデューサのようなドレッドヘアを自慢げに揺らし、夜の常連が豪気に歌う。
「闇属性 : 《終末の騎士》と、光属性 : 《マンジュ・ゴッド》を除外! さあこっからだ! バイソン・ストマード様のエース・モンスター……《カオス・ソーサラー》を特殊召喚!」
 左手に闇、右手に光、2つの魔力を併せ持つ黒衣の魔術師が両手を重ね、そして、 「スクラップの廃棄処分ってんなら、プレス機で押し潰してやるよ!」 禁術のエキスパートが両手を広げた瞬間、弾き出された暗黒球が《スクラップ・ドラゴン》を呑み込み、存在が消えるまで押し潰す。
「はっ、効果を使った《カオス・ソーサラー》は攻撃しない。ターンエンドだ!」
「ぼくのターン」 「面白くなってきたな、小僧! さあ、次は何をやってくる!」
「あんたと同じさ。《カオス・ソーサラー》を特殊召喚。効果発動……」
「おまえも《カオス・ソーサラー》を使うか。しかし! カウンター・トラップ、《闇の幻影》を発動。《カオス・ソーサラー》を破壊」 「ならこっちは《召喚僧サモンプリースト》を通常召喚。効果……」

カオス・ソーサラー(2300/2000)
1ターンに1度、表側表示のモンスター1体を除外する
この効果を発動したターン、このカードは攻撃できない

[特殊] [6] [闇] [魔法使い族]
    
召喚僧サモンプリースト(800/1600)
1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動⇒デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚(このターン、そのモンスターは攻撃できない)
[効果] [4] [闇] [魔法使い族]

「ガキのくせにやるじゃないか」
 数戦こなした後、ドレッドヘアの男はにやりと笑ってそう言った。
「俺様の《カオス・ソーサラー》を相手にここまでやりあえるとは上等だ」
「《カオス・ソーサラー》……好きなの?」 パルムはおそるおそる聞いた。
「おうよ!」 黒い肌の快男児が黒い札を自慢する。 「まさに闇属性の中の闇属性。闇の中に押し潰す点では《邪帝ガイウス》も同じだが、こいつは召喚権を必要としない。その意味がわかるか?」
「押し潰す……重力波……召喚権……重力に縛られないってこと?」
「その通り! 中々分かってるじゃねえか! ミツル・アマギリのガイウスは確かに一級品だが、あれは地上に縛られている。そこへいくとこの《カオス・ソーサラー》は違う! 夜の世界は自由の世界! 重力を自在に操り、重力に縛られぬ《カオス・ソーサラー》こそふさわしい!」
「なる、ほど……あ、そういえば、いつも最後の方に出してるよね、《カオス・ソーサラー》」
「後ろに《カオス・ソーサラー》がいるからこそ好きに暴れられるんだ。こいつこそ最高の相棒……なんだが、偶にわかんなくなることがある」 「なにが?」 「光属性だ。闇属性の鑑のような効果でありながら、なぜ光属性が必要なのかがわからない。俺様は闇属性使いだ。儀式絡みにしてみたり、色々試してはいるがどうも異物感が抜けん。なんだってこんな仕様に……」
「それって……」 パルムは少し考えてから言った。 「混ざりたかったからじゃない?」
「あ?」 「ブラックホールとかもそうだけど吸い込んで……みたいな……うん……えっと……上手く言えないけど、混ざりたかったんじゃないの、たぶん」
「……おまえのデッキは、なんかよくわかんねえけど色々出てきておもしれえな。デッキ名は?」
「【スクラップ】」
「スクドラしかいねえじゃねえかよ。もっといいのあるだろ」
「そう言われても、これといったカードがあるわけじゃないし……」
 パルムは頬を掻いて顔を顰めるが、バイソンに 「はっ、なんなら今ここで考えてみろ! この俺様が聞き届けてやる」 などと言われてると、ついついその気になって考え始める。
(最初は使えないカードばっかり。まるで勝ち目ないけど……粘り強く闘ってると……)
 パルムは連戦の中で気付いていた。100から0に至るまで、個々の札の性能差があまりに大きすぎる構築。異常な現実を前提とし、特殊な構築を試す中で生まれた不思議な現象。
(デッキが、おおよそ20枚目を境にひっくり返って上手くまわる。ひっくり返る……反転……)
「【反 転 構 築(リバーサル・コンストラクト)】」
 パルム的には大きく踏み込んだつもりだった。 "これでどうだ" と言わんばかりの表情を浮かべるが、眼前のドレッドヘアは左右に揺れた。 「気の迷いが足りねえ。どうせならもう一声」
「え、じゃあ……」 パルムはもう一歩踏み込む。若干恥ずかしがりながら。
「【反 転 世 界(リバーサル・ワールド)】……大袈裟過ぎるかな?」
「いや」 バイソンはにやりと笑った。 「いいと思うぜ、気に入った」

 ―― その後、本当に《反転世界》という名前のトラップカードが開発されて、『《反転世界》入ってないじゃないか!』 というツッコミを喰らう破目になる辺り、ぼくはそういう星の下に生まれた人間らしい。夜の決闘では危ない橋も結構渡った。一番大きな収穫は《No.11 ビッグ・アイ》。一番大きな損失はゴミ捨て場から拾った融合やら儀式やら。……勿論ちゃんと動くよ。詐欺なことはしない。時には、事前の取り決めに従わない輩もいたけど、両腕を晒して適当な設定を喋ったら案外逃げた。意外と迷信深いところらしい。ぼくは、 "8割方気の迷いで生きてる" と言われる夜の住人達のことがそんなに嫌いじゃなかった……けど、心のどこかに、昼への未練があったのかもしれない。

「おまえと一緒に天下を取りたいんだ。おれとチームを組まないか。てゆうか組め」

 そんなぼくのところに、リード・ホッパーという大馬鹿者が現れた。虫の居所が悪かったその日のぼくは、《ヘブンズ・セブン》を代価にあいつの決闘盤を治す。それが全ての始まりだった。骨董品の《デビル・フランケン》を操る心底どうしようもない奴と手を組み、ふと気が付くと、チームメイトの勧誘さえ始めている……あいつは阿呆だと思う。なによりもまず、ぼくを最初に誘う辺りが。

 馬鹿と根暗のスカウト行脚が始まった。

(いつまで続けるつもりなんだろう)
 TCG歴81年。秋の大学構内。パルムはややうんざりとして息を吐く。木の机越しにリードが深々と頭を下げては、目の前の男にはねつけられる。既に37回は繰り返された同じ場面。
 鉄壁を体現する双眸。長方形(レクタングル)のメガネがバリアのように懇願を弾く。いい加減付き合うのが面倒臭くなってきたのか、ジャック・A・ラウンドがぞんざいに言った。
「安い土下座を何度もらってもしょうがない。何度言ったらわかる。おまえらに付き合う気はない」
「なぜだ!」
「何度言ったらわかる。ハイリスク&ハイリターンなワンショットキルしか脳がない決闘と、カウンター・アタック一本槍でデッキバランスを著しく欠いた決闘。まるで将来性が感じられない」
「だからこそ! オールラウンダーが入ればぐっとバランスがよくなる。そう思わないか?」
「おれに何のメリットがある。おまえたちのお守りをする気はない」
「あのさ」 パルムが横合いから口を挟む。
「ぼくは大会に出る気ないんだ。今のところ」
「なら尚更だ。そもそも、なぜおれなんだ」
「あ、それはぼくも聞きたい。なんで?」
 2人の視線がリードの両目に合わさる。
 じっとりとした沈黙……は長く続かない。
 問われたリードは迷いなく言った。

「おまえの中に、決闘者の魂を見たからだ」

「……っ」 ラウは鋭い目を丸く広げ、ほんの一瞬呆気に取られたように沈黙した。……ものの数秒で気を取り直すと首を左右に振り、本日13回目の溜め息を付きながら指摘する。
「リーダーに不可欠な条件が1つある。人を見る目だ」
 ラウは可変型デュエルディスク 決闘考盤(アカデミア) を鞄から取り出し、木の机の上にぽんと置く。
「何回か決闘したから知っている筈だ。満場一致で大したデッキじゃない。 『西部に行け』 そうおれに勧めた名うての決闘者は、おれという人間が決闘者にほど遠いことを噛んで含めるように教えてくれた。あれから何も変わってはいない。何を試しても気づくとこうなっている」
 喋ってる間、声の調子は不気味なほど変わらなかった。眉にかからず、耳にかからず、几帳面に切り揃えられた髪同様、全てが一定の調子で維持されている。
「なら」 リードが反論した。 「それがおまえの決闘なんじゃないのか」
「やらないとできないは違う。できない自慢を己の個性にすり替えるのは見苦しい。おれのデッキにはエースカードのひとつもない。できないとはそういう……」
「エースカードなんて必用なの?」
「パルム……とか言ったな。どういう意味だ」
「決闘者を名乗るのにエースへの愛情が必要なの? じゃあ他のカードへの愛情は? 名前の統一性が必要? それとも全範囲から集めるべき? 沢山使える? 一つしか使えない? 勝利を追求? 趣味を反映? それが自分に都合の良い条件じゃないって誰が言えるの?」 
「それがわからないから苦労している」
 鋭い枠に隠された、ラウの瞳がほんの少し露わになる。
「そこまで言うなら、おまえが考える真の決闘者の条件を知りたい」
「そんな御大層なもの知らないよ。 "真の決闘者" なんて言われても」
「ならおまえが考える決闘者の定義を聞きたい」
 問われたパルムはしばし沈黙した。数秒考えると言葉を返す。
「書いて字のごとく…… "闘いを決める者" それが決闘者、かも」
 回答を聞いたラウはしばし沈黙した。数秒考えると言葉を返す。
「ならもう1つ聞かせて欲しい。昔読んだ文献に載っていた話だ」 「ふぅん」 「かつての旧世界においては、OZONEを用いず紙媒体で決闘を行っていたらしい。何度かブームにもなり数々の名勝負が繰り広げられたが、ものには賞味期限というものがある。ある時期を境にその役目を一度終えた」
「初耳だね。それが?」
「紙媒体の決闘に衝撃波はない。カードの1つ1つに物理的なエフェクトが用意される事はなく、発動資格も存在しなかった。今よりも子供の遊戯としての側面が強かったと言われている。さて、もしそんな決闘なら、マジック・トラップを使えない事態には陥りようがない。文化・産業としての発展もそこそこ止まり。カード1つ1つも単なる紙だから流通問題も大したことはない。従って、五枚規制のような代物も生まれなかった……ということになる」
「……っ」 パルムは唇を引き絞った。鼻先に向かって皺を寄せ、次の言葉を待つ。
「パルム・アフィニス。もし突然神様がここに降りてきて 『今の決闘環境と昔の決闘環境のどちらか選べ』 と言ったなら、おまえはどちらの戦場を選択する」
 引き絞った唇がぐにゃりと歪む。パルムは拳を握って目を瞑った。頭を下げ、顔を隠し、身を震わせていたが、答えるまでに要した時間はそう長くなかった。丸みを帯びた目が開く。
「OZONEなんてものがあるから発動に資格が必要になった。けれど、OZONEがあるおかげでぼくはあいつらと……あいつらと……」 パルムは、背中のポーチに入れておいた決闘盤を取り出すと、ラウの決闘盤の前に置く。その名は決闘孤盤(ソリタリオ)。マジック・トラップゾーンの機能を限界まで排除し、モンスターの投盤用に特化した孤独なデュエルディスク。パルムは言った。
「そういうことは、ぼくがこいつらを握る前に言ってくれ」
「おまえは……」

「ラウっ!」
「……っ!」

 辺り一帯に音が響く。木製の机を叩き割るリード・ホッパーの石頭。額から血を流しながらリードは言った。 「おれは頭が悪いからおまえらの問答もぶっちゃけ良くわからん。わからんが、おまえらと一緒にやりたいという気持ちは秒単位で膨れあがってる。なあラウ、おれの頭が安いってんなら、幾らでも高いとこから振り下ろしてやる。だからさ、おれらと一緒にやろうぜ、決闘」
 ラウは珍しく目をぱちくりさせていたが、少し考えると意を決した。
「……わかった。どこまでいけるかわからんが、やるだけはやってみよう」
 2人が握手を交わす間、パルムは額を手で押さえ込んでいた。
「頭が……悪すぎる……」

 ―― 机の弁償をする破目になったのは言うまでもない。これに関してはラウは 『高い土下座が高く付いた。当然の帰結と言える』 とかなんとか言っていたけど、皮肉なのか冗談なのかいまいちよくわからない。なんにせよ、馬鹿と根暗にあんな奴を加えたことで、絶望的に人が増えなくなったことを付け加えておく。そんなぼくらの前に、輪を掛けてどうしようもない奴が現れた。

「大会に出るんだってな、パル」
 TCG歴83年5月。ふと後ろから声がした。パルムはその場で反転するが誰もいない。 「ここだよここ」 パルムは上を見上げて言った。 「何やってんの、あんた」 倉庫の天井にテイルがぶら下がっていた。キツネのような尻尾の付け根を伸ばし、吸盤か何かで天井にくっつけているらしい。
「ひょっとして馬鹿なの? 聞くまでもないとは思うけど」 
「そう邪険にするなよ。これからは正式なチームメイトになるんだ」
「……そうだね。よろしく」 素直に頷くパルムに対し、テイルはにっと笑って問い続ける。
「なんで出る気になったんだ? 『スポットライトなんてうざったいだけ』 とか言ってたろ」
「正直よくわからない。今前線でバリバリやってる昔の知り合いの顔なんてもう見たくないと思ってたし、何かと気を遣うチームデュエルは手に余ると思ってたし、西が作った西の大会に出るのも阿保臭いと思ってたし、今もその気持ちはあんまり変わっていない気がする」
「ならなんで出る気になったんだ」
「地下決闘の大会。率直に言って楽しかったんだ。あそこに行かなければデオシュタインを拝むこともなかったし、バルートンとやり合うこともなかった。きっとバルートンはあの絵を見る為にあの大会を作ったんだ。場所がある。決闘がある。ぼくは、前に進んでみたい」
「前に進んでも、いいもんがあるとは限らないぞ」
「あんただって、前に進みたいから確かめているんだろ」
「おれは適当にやるだけさ。 "適当な構築に適切な運用" 」
「ジャンク・エンブレイス、ジャンク・ジャパネット、そんで今度はジャンク・バウンサー……ああ、そういえばジャンク・ジャンパーなんてのもあったね。リードが前にブチ切れてたあれ。亜空間物質転送装置と異空間物質装置でピョンピョン跳び回るだけのタッグ専用クソデッキ。あれはもう使わないの?」
「流石にな、流石に」
「ふーん、前から思ってたんだけど……」 パルムは顔を傾けると、机に置かれた調整中の決闘盤を一瞥した。普段は尻尾に納められている、ブレード型デュエルディスク 決闘屑盤(ジャンキー)
「あんたが適当に言い張ってるデッキ。必ず "ジャンク" がついてるけどなんで? テキトーテキトー言ってるクセして、なんでそこは外さないの」
「……ジャンクロンは使い勝手がいいからな。何かと潰しが効く。それだけだ」
「あんたは破壊を不得手としてる。それについては疑わない。適当にやる為の言い訳なら他に幾らでもいいのが思いつくから。でもさ、ならなんでジャンク・デス……」
 言いかけたところで視界が真っ暗になる。顔に絡み付く狐の尻尾。
「汚いよ」 パルムの一言で尻尾を外すと、そのままあっさり幕を引く。
「おまえはリアルだからスクラップを抜き、おれはエセだからジャンクを抜かない。それでいいだろ」
「……あんたは一見好きにやっているようで、丁度良い落としどころをちゃんと探ってる。普段80ぐらいに抑えてるけど、だからこそ自由度が高くて、結果的にはさらっと100点取ったりもする」
「大将に聞かせたいフレーズだ。なんの問題もないってことだろ?」
「あるさ。アリア・アリーナ。あんた同様変な名前の、チョー綺麗なお姉さん」
 テイルの尻尾がぴくりと動く。耽美的な青い目がほんの少し縮んでいた。
「おまえ意外とむっつりしてるよな。ミィのことはどう思ってるんだよ」
「まないたは兎も角として、アリア・アリーナのデュエルオーラは度を超えている。あのアブソルが本気になったところをぼくは初めて観た。なのにあれがMAXじゃない。アリアは伸びるだろうし、アブソルもそれに合わせて伸ばしてくる。……限界を超えてくる。なのにあんたは80に抑える決闘をしてる」
「釣り合いが取れなくなるならそれまでだ。どうにもならないこともある」
「あんたは何もかも諦めた人間じゃない」
「根拠は?」 「ここにいるから」 
「明日消えるかも」 「それはない」
「根拠は?」 「ミィが 『5人でやろう』 と言ったから」
「わお。リアルスクラップ使いは言うことが違う」
「ぼくらにはエセジャンク使いが必要なんだよ、きっと」

 ―― テイルは破壊を不得手としている。ぼくがマジック・トラップを不得手としているように。テイルはジャンクと微妙な関係を築いている。ぼくがスクラップと微妙な関係を築いているように。ぼくとテイルは微妙な共通項と微妙な距離感で付き合っていた。冷静に考えると、ぼくらはみんな微妙なバランスで成り立っていたのかも知れない。残骸に縋り付く決闘、鉄屑を使い込む決闘、道具を使い分ける決闘、受身を取り続ける決闘、そして、断片を押し付ける決闘。

「初っぱなから遅刻するとは本当にいい度胸してるよ、あの娘」
 パルムは倉庫の中にいた。リードが無理矢理頼み込み、ラウが無理矢理貸し取った冷暖房 "完欠" の倉庫の中、高一の男子が貧乏揺すりをしながら中三の女子を待っていた。予定時刻の6時間前から待っていた。倉庫の扉が開く。 「ようやくか……遅い! 何をやっていたんだ」 
「悪い悪い」 ミィではなかった。太い眉に大きな目。20代の若者がそこにいた。
「ちょいと崖から転がっちまって」
「生きていたのか、リード……」
「なんだその反応。人を勝手に殺すな」
「テイルが死んだっていうからてっきり。すっかり思い出になっていた」
「なら少しは泣けよ……ったく。こっちに置きっぱなしな忘れ物を取りに来たんだ」
 リードは錆びたロッカーの中に手を入れると、数枚のカードを引っ張り出す。
「あったあった」
「何かと思えば高等呪文様じゃないか。それが使えないからデビフラ一本槍で」
「もう一度試したいんだ」 「【サイキック】……使うつもりなの?」
「今度は死ぬ気でやってみる。んでもって、おまえに1つ頼みたい」
 リードはダサいリュックサックから決闘盤を取り出すと、パルムの懐目掛けて放り投げる。破れて果てた小さな袋を、ボロボロになった 決闘袋盤(マーチ・オブ・コアラ) を、何の迷いもなく少年に託す。
「何度も何度も投げ込んで、デオシュタインにわからされて、デッドエンド店長にも吹っ飛ばされて、崖を転がって、登ってる内にぶっ壊れちまったみたいだ」 「荒っぽいことするから」 「すまん」
「要は直せとおっしゃりますか。こっちだってこれから忙しいのに……まあ、やる気になったってんなら、ぼくのを手直しするついでに直してあげても……」
「いや、折角だからパワーアップしておいてくれ。むしろパワーアップしない内は返すな」
「なんでそんな強気なの……」
「その間おれは修行するから、治ったら "あいつ" んとこに送りつけてくれ」
 呆気に取られる少年に向けて、ぼさぼさ頭のチームリーダーがここぞとばかりに新しい情報を吹き込んでくる。 "あいつ" の名前を聞いたパルムは、余りの驚きに目を白黒させた。
「正気? 自分の決闘盤すら持たないであそこに?」
「今期の大会はデカイ山になる。Team FlameGear、Team MistValley、Team Galaxy、そんで勿論Team Earthbound。強豪ひしめく大会で勝ち抜くってんなら……な。じゃあいってくるわ」
 押し付けるだけ押し付けたリードはすぐさま反転して倉庫を出ようとする、が、入り口のところでぴたりと立ち止まる。数秒何かを考えると、振り向きざま言った。
「なあパルム。おまえはさ……」
 口元を塞ぐ異端の意思。パルムは人差し指を立てると、唇にそっと寄せていた。
「ぼくの決闘を観ればいい。いつでも、どこでも、だれとでも。昼でも、夜でも、地下でも、そして勿論地上でも」 パルムは青紫色に変色した手の平を露わにした。カードを引き続けた小さな手。 「例えどこにいようとも、ぼくの決闘はここにある。それはあんたもおんなじだ」
「……必ず戻ってくる」
「待ってる」
 リードは静かに倉庫を去って行った。パルムはその後ろ姿を眺めながら、息も絶え絶えな1人の少女がすれ違いになって走ってくるのを目にする。 「ごめんなひゃい!」 新しい馬鹿が来た。



 ―― 色々な人達に会えた。わたしは1人じゃない。けれど、

 ―― 孤独に引くのが当たり前だと思ってる。でも、

 ―― デッキのカードが1枚1枚別れているように、決闘者は1人1人が何もかも違う。ひとりぼっち。

 ―― 全然別々のカードが1つのデッキになるように、決闘の中で交わっていける。ひとりじゃない。

 ―― 好きな人も嫌いな人もいたけど、みんな個性的で、みんなわたしとは違ってた

 ―― 好きな奴がいて、嫌いな奴がいて、決闘を通してシナジーが生まれるかもしれない

 ―― 自分のカード1枚1枚をはっきりさせないと。アリィさんはわたしのデッキをわたしより
     わかってた。カードが持ってる力を、限界まで引き出してるから引ける。だから、わたしは、

 ―― テキストと睨めっこするだけじゃ足りない。あのバルートンのように、人の人の間にあるものを
     見極める。反転世界(こいつら)のお陰で裏をかけたけど二度は通用しない。だから、ぼくは、

「ごめんください!」 ミィは扉を開けた。倉庫の中から、極めて率直な質問が飛んでくる。
「夏休みはいつから?」 仏頂面で訪ねるパルムに対し、ミィは申し訳なさそうにおずおずと答える。 「7月1日から8月15日まで」 「ぼくのところよりほんの少し遅いね」 「あの、ほんと、ごめんなさい」
 ミィは息を切らしていた。聖コアキメイル学園のブラウスが汗でびっしょりとしている。夏の到来。赤いプリーツスカートをパタパタすると、相棒があっちを向いている間にスパッツを履く。
 パルムは黙々と周辺機器をセットしていた。小さな決闘盤に収められた大きな世界への入り口 ―― OZONEへの扉を開く。確定性のある衝撃波によって縁取りされる、特殊重力化の遊園地。
「ミィ」
「はい!」
「君は本物の決闘者になりたいんだろ?」
 ミィは胸元で両手を組んでこくこくと頷くが、パルムは哀しげな瞳で言った。
「少なくともぼくには、何が本物かなんてわかりゃしないよ。それでもいい?」
 にわかに沈黙が訪れる。3秒……5秒……7秒……、
 ミィは1回くるりと反転すると、窓から外を覗き込む。
「勝てばしっかりするって思ってたけど、しっかりしないと勝てないんですよね。おバカさんでした。しっかりしたいから煉瓦の壁が欲しくて、しっかりしてないから藁の壁を作って、吹き飛ばされて……」
「三匹の青眼の話ならぼくも知ってる。オベリスクに追いかけられるブルーアイズの童話。1体目のブルーアイズは藁の壁を作ってゴッドハンドクラッシュされた。2体目のブルーアイズは木の壁を作ってゴッドハンドクラッシュされた。3体目のブルーアイズは煉瓦の壁を作って、いけるかと思ったらゴッドハンドインパクトが飛んできた。追い詰められたブルーアイズは返しのターンで融合を果たし、アルティメットになってオベリスクを倒しましためでたしめでたし……君はそうしたいと?」
 問われたミィはもう一度反転する。パルムの瞳をじっと見つめると、ゆっくりと首を振った。
「沢山受け止めてみてわかりました。わたしは誰にもなれないんです。みんな違うこと考えてて、みんな違う引き方してる。みんなの部屋はもう一杯一杯なのに、ズカズカ入り浸るなんて酷い話です。わたしの部屋はちゃんとここにあるのに」 ミィは足下に置いたバッグから 決闘小盤(パルーム) を取り出すと、両手で持ってぐぃっと突き出す。 「わたしは、わたしの想いをこの 決闘小盤(パルーム) に込めたいんです。わたしの中にある想いと1つずつ向き合って、1つずつ決めて、しっかり前に進みたいんです。だから、閉じこもる為の壁はもう要らないし、誰かとおんなじになれなくてもいい」
「きみは……」
「アフィニスさんは、身長ほとんどおんなじで、年も離れてないのに、こ〜〜〜〜〜〜んなにわたしと違うんですよ! そんな人と一緒にやれたら、むちゃくちゃ楽しいじゃないですか!」
「……っ」 パルムは一瞬身体を揺らすが、1回咳払いして話題を変えた。
「あのさ。OZONEの中で初めて魔法を使った時、どういう気持ちになった?」
 突然の問いかけにミィは一瞬緊張するが、優しい瞳に気付いてゆっくりと答える。
「……嬉しかった。わたしが初めて使った魔法は《ツイスター》で、あれって手の平から竜巻がぶわああああって出るんですよ。あの時のことは今でも覚えてる。なんだか魔法使いになったみたいで」
「ツイスター……。風が吹いたら札屋が儲かる。それも悪くないか」 パルムが微かに笑った。 「きみってさ、授業中に空を飛ぶ妄想に耽ったことあるだろ」 「え?」 言い当てられたミィが顔を真っ赤にして狼狽する。 「な、な、な、な、な、な、なんで……」
「 『小さな構築に大きな世界が入るなら、小さな決闘盤にも大きな世界が入る筈』 」
「へ?」
「OZONEを作った決闘狂人の言葉だそうだ」
「あ、そっか。これを作った人がいるんだ……」
「もう文献でしか残っていないんだけど、嘘か真かOZONEの基礎を作ったのはエスティバーニ博士という人らしい。極めてタチの悪い人物である一方、決闘の実力は折り紙付き。そんな博士が生前こう言っていたそうだ。 『OZONEは何もしない。映し出すだけだ』 あらゆる決闘が精密に具体化されるOZONEの下では、決闘者の個性もありありと具体化されるし、可視化された個性が更なる個性を引っ張り出していく。例えば布陣なんかによくそういうのが出る。テイルは一点突破で縦一列になりやすいし、ラウは二列速攻をよくやる所為で2体の間隔がちょい狭い。デッドエンド店長は商品陳列の為に横一列一杯まで使うし、地下決闘のバルートンは包み込む様な布陣を敷いていた。ミィにも覚えあるだろ? そういうの。OZONEにはクセがある」
「《ディメンション・ウォール》に《ガード・ブロック》……OZONEって時々ヘンテコですよね」
「テキストを遵守しつつリアルに合わせようとしてるから、ある種のケースでは自由度が高くなるように出来ている。そうしないと立ちゆかないんだよ。例えば地縛神。あれを端っこに召喚するとどうなるか知ってる? Earthboundの人達が1回試したそうなんだけど、いつもいるような場所にいるんだってさ。可視化してしまうと隅っこに置けないんだよ、あいつらデカ過ぎるから。そういうわけだから、決闘盤の処理の上では端っこに置かれるようにして、見た目の上では中心部にドカンと置いてる」
「そういえば……召喚する時の位置はきっちりしてるのに、召喚した後は結構テキトーに動いてる」
「テキストは厳密に、ビジュアルは適当に。OZONEのこの性質が面白い現象を引き起こした。デッキやオーラ、デュエルの傾向が、フィールド上の光景に影響を与えているんだ。OZONEはぼくらの鏡なんだよ。自分を鏡に映して何度でも何度でも繰り返す。何を入れて何を入れないのか。1枚1枚に責任を持つのが楽しい。他じゃ味わえない決闘の醍醐味」
「頑張ります。これから2ヶ月、スーパー無茶苦茶頑張ります!」
「驚かせてやろう。まずはこのOZONEを。そしたら次は大会だ」
 OZONEを一瞥、ミィは足を踏み入れる。適当に準備を整えながら1枚のマジック・カードを発動。輪の付いた十字架を手の平に浮かべると、墓地から浮かび上がった棺に差し込む。蘇生条件を満たし、"特殊召喚できる" ものならなんだって蘇らせる、始まりと終わりを意味する命の鍵。
「《死者蘇生》を発動」

                     ―― 2ヶ月後 ――

「デカイ門があるわけだ」
 古びた倉庫の片隅。目を覚ました男が開口一番そう言った。前のめりな額に鉢巻きを締めながら、Team BURST大将 : リード・ホッパーが立ち上がる。
「 "あいつ" もいいこと教えてくれたもんだ。西は世界に無関心でも、世界はそうじゃない」
 既に大会は始まっていたが焦りはしない。来るべき、1回戦最終試合に向けてゆっくりと歩き出す。しばらく床の感触を楽しんでいたが倉庫の扉の前でピタリと止まる。違う世界が見えていた。
「門を守ってきたくそったれがいて、門をぶっ壊したいくそったれがいて、激突して……いいじゃねえか。世界がこっそり見てるってんなら、見てるってんなら……」



西部の強豪!

ミツル・アマギリ!

世界全土のくそったれども!

殴り込んでやるから……!

ディスク磨いて構えて待ってろ!



Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Cross Spiral Chain Duel!


Duel Episode 30

始まりの札と始まった人




【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。熱く、激しく、始めます
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話











































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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