―― いつだって突然だった。

 決闘者(デュエリスト)とは一国一城の主である。信頼に足る戦力(カード)を引き入れ、必勝を期す戦略(デッキ)を組み上げ、死活を超える戦術(プレイング)を繰り出し、決闘(デュエル)という名の覇を競う。故に1人で事足りる。故に1人で勝ち誇る。それが決闘者の矜恃でもあった。しかし、時は決闘戦国時代。スタンバイフェイズ……メインフェイズ……バトルフェイズ……メインフェイズ……スタンバイフェイズ……メインフェイズ……バトルフェイズ……明日の浮かばぬ局地戦。飽いた者が喝破した。 「札を交えよ」

 連鎖決闘(チェーン・デュエル)。それは世界の定義を問い直す、四者四様の決闘の共演。それまでの決闘には前しかなかった。正面の対戦者を凝視すればそれで済んだ。狭窄は鈍化を生み、鈍化は停滞を呼ぶ。拡張 ―― 世界に奥行きを持たせる実用新案。まるでお菓子の袋を開けるかのように、一本の線を正方形に押し広げる拡張性。眠れる大地がぱっくりと割れ、視野が広がった決闘者達は思い出す。決闘の世界は果てしなく広いという事実を。そう、世界は[中央]に収まらない。[東][西][南][北]が活き活きと札を引く……そう言わんばかりの連鎖決闘(チェーン・デュエル)が、閉鎖的とも揶揄される西部決闘界で発達したのは時代の皮肉であろうか。それとも ――

「宣誓! 我々はデュエリストソウルに則り! 正々堂々、誰が真の強豪かを決めるべく引き続けることをここに誓う! 諸君! この1枚1枚のドローに強豪を四隅に至るまで注ぎ込み、あらゆる決闘を駆使して闘おうではないか! 強豪の、強豪による、強豪の為の大会! 西部全域から集まった64チームの精鋭達よ、今こそ強豪の中の強豪を競い合おうではないか!」

「相変わらずだな、フェリックスさんは」
 Team Earthbound主将ミツル・アマギリは、宣誓台を除けば最も映りのいい場所に立っている。それで十分。あの西部文芸評論家ディーム・メッシャーをして 『時代の華は有り触れた属性の中からこそ生まれる。それでいて、余人には及びも付かぬ器量を感じさせなくてはならない。彼は両方を備えていた。ありふれた闇属性を使い、ありふれた悪魔族を使い、あくまでオーソドックスなファイトスタイルを根底に置きつつも、時に捨て身で攻め込み、時に引いて構える。決闘を作品に例えるならば、彼は駄作を作らず、最低でも佳作に仕上げ、大一番で名作を生み出す』 と言わしめたブラックジャンパーの美男子は、ただそこに立っているだけで観客達を魅了していた。
 決闘特需の象徴として、大会会場は西の中心部に建てられている。即ち、西部ビルの屋上 ―― 今を去ること3年前、ミツル・アマギリとリュウホウ・ソガが激突した西の頂上 ―― から一望できる位置に建てられていた。四面のフィールドと巨大なスクリーンを完備し、観客で埋め尽くされた現代の闘技場。決闘者は今か今かと息を潜め、観覧者は今か今かと息を吐く。そんな中で行われたフェリックスの選手宣誓は、西部全域の血を沸騰させるのに十分な効果を発揮した。
(あの頃優勝を競った面子も、フェリックスさんとファロさんぐらいになったか)
 黒目黒髪の25歳が喧噪の中で目を瞑る。脳裏を駆け巡る10年間の決闘。
(今季の大会は何かが違う。そう考えるのはおれだけじゃない筈だ)
 ミツルはトーナメント表を頭の中で反芻した。
 いる。1人、2人、3人……、
 天地咬渦狗流の拳が天地鳴動を予感していた。静かに目を開け覚悟を決める。その右腕には、十周年記念とも言うべき新型の決闘盤 ―― Earthboundが新規に開発したレギュラー専用デュエルディスク 決闘絆盤(ファイブバウンド) が装着されていた。雨が降ろうと、風が拭こうと、友が去ろうと、10年間そうしてきたように。TCG歴83年・夏。西部全域から決闘者を喚び込み、トーナメントが唸りを上げる。

 来るなら来い。言いたいことは、決闘で語れ

『フェリックス選手のド熱い選手宣誓を受け、遂に始まった今大会! 今年は一体どんなドラマが待っているのか! 不肖、このYAICHIが全身全霊を持ってお届けします! 今大会の形式はタッグデュエル2本先取。決闘の境界線となるのは……四方八方連鎖のライン!』

□Tag Duel Introduction

 プレイヤーは互いのタッグ・パートナーと共にエネミー・プレイヤー2人と決闘を行う

 ライフポイントは16000ポイントを共有する

 First Turnを消化していないエネミー・プレイヤーには攻撃不能

 タッグ・パートナー(=相棒)は自分でも相手でもない固有の地位を占める

 効果発動にあたっては対象となる相手プレイヤーを随時選択する(チェーンライン)

 決闘者(プレイヤー)相棒(パートナー)のフィールドにもモンスターを置ける(ディスパーチ)

 タッグデュエルにおいてはアシストスペルの発動が許される(アシストスペル)

 1つのデッキに入るアシストスペルは、1種類につき1枚のみを認めるものとする

 息が合うと楽しい

『さあ時間もおしているので、4試合纏めていきましょう。集団的決闘権は、既に行使されているっ!』

 YAICHIがマイクを握るとき、実況の扉が開かれる。北の全一実況は、吹き荒れるブリザードの中でも観客達の耳に決闘を叩き込むという。南の全一実況は、読解困難と言われた聖札全書を完全暗記し自在に発動するという。東の全一実況は、店に乱入した龍を実況の片手間にねじ伏せるという。そして! 西の全一実況は、多人数戦に対応すべく独自の進化を遂げていた。
「みろ! YAICHIが4人に分身した!」 「4試合を1度に実況!」
「流石大規模大会! 実況のレベルからして西部最高水準だ!」
『それでは始めていきましょう! 1回戦第1試合は……』
 実況の熱気に後押しされて、決闘者達がフィールド上に躍り出る。スタジアムを包み込む大歓声。西部最大の宴に誰もが血を滾らせていた。引く者も観る者も、誰もが熱い血を滾らせていた。

 ぐーすやすや、ぐーすやすや、ぐーぐーすやすや、ぐーすやすや

 そんな中、聖コアキメイル学園中等部三年生の14才 ―― Team BURSTのミィは、腐腕の少年パルム・アフィニスと肩と寄せ合いぐっすりと眠っていた。目を覚ますことになったその瞬間から、以後しばらくは目を閉じずに済むよう、残された時間全てを使って身体を癒やしていた。

 過去と 現在と 未来が 交差する


DUEL EPISODE 31

強豪集結! Tag Duel Tournament

〜 踏み潰し、燃え盛り、跳ね返す者達 〜


 大会には歴史がある。歴史には常連がいる。西部最大のスタジアム、天井知らずのフィールド、決闘者を照らすスポットライト、召喚・効果をより鮮明に彩る補助装置……。西の誰もが憧れる戦場で、10年間引き続けた者がいる。西部五店長パルチザン・デッドエンド、西部の強豪ギャラクシー・フェリックスらと同様、ドラゴン族と引き続けた2人の古参。その内の1人、ドラゴンボーイが決闘盤を放つと同時にギャラリーがにわかに色めきだつ。 「古典だぁっ!」 「むせ返る程の古典っ!!」 「古典的ドラゴニズムに基づく採算度外視のダイナミックな投盤!」 「10年選手がここにきてド古典をっ!」



我々は! ロード・オブ・ドラゴン

ドラゴンの支配者を通常召喚!




 号令が上がると同時に、"Reborn" "Draw" の文字がOZONEに浮かぶ。ドラゴンボーイではない。 「はいさ!」 ドラゴンボーイの相棒、うぃっちがーるが援軍を送る。
「《As-八汰烏の埋蔵金》を発動、旦那にぃっ、デッキから1枚引かせるよ。さあっ! ここからが本番! 《リビングデッドの呼び声》を発動。旦那の場に、《ドラゴン・ウィッチ−ドラゴンの守護者−》をディスパーチ」 「ベェリィ・グゥゥゥゥゥッド」 「受け取って! あなた!」
『 Team Dragonic、ドラゴンボーイ&うぃっちガールペアが満を持して動きます! ミラーフォースが墓地へ行ってチャンス到来。夫婦(めおと)魔導士が並び立ち、受け入れ体勢は万全か!』

ロード・オブ・ドラゴン(1200/1100)
ドラゴン族が効果対象になることを防ぐ
[効果] [4] [闇] [魔法使い] 


ドラゴン・ウィッチ(1500/1100)
ドラゴン族が攻撃対象になることを防ぐ

[効果] [4] [闇] [魔法使い]

「我々Team Dragonicは!」 「この瞬間を待っていた!」
「「Normal Magic:《ドラゴンを呼ぶ笛》を発動!」」
『支配者がっ、息吸ってっ! 笛を吹き鳴らしたぁっ!』
「ダブル・スペシャル・サモン! 我らがもとへ現れろ!」
 心惹かれたのは氷の龍。自慢のアイス・ボディは呪文を反射するほど研ぎ澄まされ、氷麗なる両翼は真夏を嘲笑うかのように煌めいている。2つの氷龍、今動く。
「ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン!」
「ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン!」

青氷の白夜龍(3000/2500)
@自身を対象にしたマジック・トラップを破壊
[効果] [8] [水] [ドラゴン]


青氷の白夜龍(3000/2500)
A攻撃対象を自身に変更することができる
[効果] [8] [水] [ドラゴン]


 ドラゴンボーイがうぃっちガールを一瞥、コンマ1秒で 夫婦力(めおとりょく) を補給すると、魔方陣の構築を行う。 「支配者と守護者でオーバーレイ! エクシーズとは、同一のレベルによって成される召喚体系。即ち、夫婦の対称性!」 「行くわよ! あなた!」 うぃっちガールも呼応。ドラゴンボーイをじっと見つめて夫婦力を高める。 「《竜の転生》を発動! ドラゴのラブはエターナル!」 《デコイドラゴン》を除外し己の墓地から龍を喚ぶ。ディスパーチ。ドラゴンボーイの場に龍を喚ぶ。
 夫婦龍(めおとりゅう)が産声を上げた。下半身を龍の尾に変えた龍操士キングドラグーンと、下半身を龍の四肢に変えた龍衛士クィーンドラグーン。2体の龍魔人がフィールド上を席巻する。

キングドラグーン(2400/1100)
@ドラゴン族が効果対象になることを防ぐ
A手札のドラゴン族1体を特殊召喚できる
[融合] [7] [闇] [ドラゴン] 


クィーンドラグーン(2200/1200)
@他のドラゴン族が戦闘で破壊されることを防ぐ
A墓地のドラゴン族を制約付きで特殊召喚できる
[装填] [4] [闇] [ドラゴン]


「まだまだぁっ! オーバーレイユニットを1つ使って《竜魔人 クィーンドラグーン》の効果発動。墓地から、3体目のブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴンを特殊召喚!」
『こ、この陣形はぁっ!』
「これぞ!」 「これぞ!」

竜魔人 キングドラグーン(2400) 竜魔人 クィーンドラグーン(2200)

    青氷の白夜龍(3000)      青氷の白夜龍(3000)

              青氷の白夜龍(3000)

【ドラゴニック・ボーイ・ミーツ・ガール】

    今日で結婚10周年!

『10年前からこんにちは! 2人がかりのドラゴニック・ショーが光ります! 龍操士が効果を払い、白夜龍が攻撃を受け、龍衛士が破壊を防ぐ! 美しい! 夫婦龍(めおとりゅう)が3匹の白夜龍を従えて、真夏の獲物を睨み付けている! 幻想的食物連鎖に、震えおののけとでも言いたげに!』
「我が意を得たり!」 「私達の集大成を……」

「御託はそれで終わりかよ」

 地響きのような声が大気を震わせた。威を発している。TeamEarthbound先鋒、野性の前進論者ケルド・アバンスが威を発している。 「毎年毎年ご苦労様と言いてえが……真っ向勝負で踏み潰す」 虎の爪を彷彿とさせる鋭い指が、引き裂くようにOZONEを走る。
 OZONE ―― 映像と衝撃で決闘を具体化する特殊空間 ―― に文字が浮かび上がった。 "Quick-Play Spell" 《終焉の地》を発動。 氷龍の特殊召喚をトリガーに、デッキからフィールド魔法を、《サベージ・コロシアム》を、後退知らずの独壇場を打ち立てる。弱肉強食を体現した野性のコロシアム。周囲を埋め尽くす木々の群れ。 「おまえの出番だ! 気合いを入れろ!」 閉ざされた森の末端が蠢いた。既に特殊召喚されていた1体の獣。巨大なヒヒが棍棒を携え、挑発するようにぐるぐる回す。


龍だろうが何だろうが狩っちまえ!

森の狩人(かりうど)イエロー・バブーン!


イエロー・バブーン(2600/1800)
獣族の戦闘破壊時に発動可能
墓地の獣族2体を除外して特殊召喚
[効果] [7] [地] [獣]


サベージ・コロシアム(フィールド魔法)
攻撃宣言時 300ポイント回復
非攻撃宣言後 モンスターを破壊


「それがどうした!」 ドラゴンボーイは怯まない。キングドラグーンのバリアが、クィーンドラグーンのバリアが、ホワイトナイツドラゴンのバリアが、プリズムのようにOZONEを彩っていく。真夏のフィールドをキャンパスに変えて、ドラゴンアートがブレスを描く。
「バブーンに攻撃! 白夜龍よ、今こそ……」
「ごちゃごちゃしてんじゃねえ!」 前傾姿勢の獣が牙を剥いた。地毛の茶髪を激しく揺らし、拳を大地に打ち付ける。 「1000ライフを支払い、チェーンラインを真っ直ぐ、真っ直ぐぅっ!」
『これはぁっ! ドラゴン軍団の効果が、バリアが、一斉に溶けていくぅっ!』
全体効果系永続罠(ラウンド・アップ・トラップ) 《スキルドレイン》を発動。全部纏めて消えちまえ!」
「その程度ぉっ! バリアを解かれたところで! 白夜龍の攻撃力は ―― 」
 ドラゴンボーイが口を噤む。フィールドに響き渡る 「リバース・カード・オープン」 の声。それも1つではない。大小 2つ の声が響き渡ると、 2つ の罠が発動していた。

幻獣の角(永続罠)
獣族・獣戦士族の攻撃力を800UP
戦闘破壊時 発動者は1枚ドロー


AS-鎖付き釘バット(永続罠)
相棒モンスターの攻撃力を800UP
戦闘破壊時 1枚引いて1枚捨てる    


「二重トラップ!? 」 「私達のドラゴンが!」
 既に刺客は潜行していた。ありふれた髪型、ありふれた体型、ありふれた気配。ありふれすぎてどこもいない。喧噪極まる森の中に沈み込んでいた無音淡色の潜行者。その名はリミッツ・ギアルマ。ケルドの《幻獣の角》に被せる形で《As-鎖付き釘バット》を発動、ほんの一言つまみに添える。
「Earthboundの新人なら派手に決めろ」
 強化されたバブーンが白夜龍を殴り倒したその時、【シャドウバウンド】の仕掛けは終わっていた。必要最小限の動きで《リミット・リバース》を発動。2体目の《魔知ガエル》を特殊召喚すると、対角線にチェーンラインを敷いて永続効果を適用。《魔知ガエル》ロック。ドラゴンボーイの決闘盤から6文字が ―― 潜行者への "Attack" の文字が消失する。

魔知ガエル(100/2000)
他のモンスターが攻撃対象になることを防ぐ
[効果] [2] [水] [水]


リミット・リバース(永続罠)
攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚


「流石は先輩。話が分かる。さあて」 ケルドの、常に全開のまぶたは第2第3の牙と化していた。視界に放り込んで瞬きで噛み切る。それが前身論者の心意気。
「《サベージ・コロシアム》の永続効果、忘れちゃいないだろうな」
「ぎくぅううううううう!」 「お願い! 止まって! もう闘わなくていいの!」
『リミッツ選手が潜行したことで、Team Dragonic側には逃げ道がありません!』
 ドラゴニック・モンスターズの眼前には、2本の角を生やし、2本の棒を持った鮮黄色のヒヒがいた。「なんてこったぁっ!」 観客がにわかに騒ぎ出す。 「図鑑に載っていた! 知能の高いヒヒは二棍流を使いこなすと!」 「あれはもう棒じゃねえ! 新手のドラゴンキラーだぁっ!」
「喰らってろ!」 バブーンの二棍流が猛威を振るう。《スキルドレイン》で耐性を失い、《サベージ・コロシアム》で攻撃を強いられるドラゴンの群れを片っ端から打殺、殴殺、大撲殺。ブルーアイスを、キングドラグーンを、クィーンドラグーンを叩き伏せ、トラップの効果で手札を肥やす。
「1匹残ったか」 白夜龍(C)の周囲には "No Ataack"の文字が浮かんでいた。 「女王様のキスで蘇った奴は、浮かれてこのターン攻撃できない……はっ!」 咀嚼は既に完了していた。  「止まる奴はくたばれ! 《サベージ・コロシアム》の効果発動!」 エンドフェイズ、森が審判を下す。
『全滅ぅっ! 栄華を誇ったドラゴン族の群れが、一瞬にして全滅ぅっ!』
「我々Team Dragonicの総決算が……こうも……こうもあっさり……」
「みみっちいこと言ってんじゃねえ!」 オールバックのビーストライダーが吠えた。
「俺のタァーン! いっちまい引いてぇっ! フィールド魔法、《同種同源》を発動!」 

同種同源フィールド魔法)
墓地からモンスターを除外することで自分フィールド上に「サクリファイス・トークン」(除外したモンスターと同じ種族・闇・星1・攻/守0)を1体特殊召喚する。このトークンは、除外したモンスターと同じ種族のモンスターの召喚・特殊召喚以外で使用することはできない。この効果は1ターンに2回まで使用できる。
エンドフェイズ、サクリファイス・トークンを全て破壊する。


 アースハウンド社の新型が西部の常識を更新する。除外される獣、抽出される魂、獣の餌が食卓に並ぶ。 「まだまだぁっ! 《二重召喚》を発動! 手札から、《モジャ》を通常召喚」 ケルドが更に一歩踏み込む。イエロー・プレートの 決闘絆盤(ファイブバウンド) を縦横無尽に繰り出し、そして、
「飯の時間だ、たっぷり喰らえ!」

 一匹の通称は百獣王。消費を生産に置換する前進生物

 はち切れんばかりの筋肉と共に、迫り上がった角を突きつける
 
 一匹の異名は供獣王。生死を食欲が超越する前進生物

 全身を黒い体毛で覆い尽くし、黄金色(こがねいろ)の四肢のみを外部に晒す

キング・オブ・ビースト(2500/800)
フィールド上のモジャをリリースすることで
手札又は墓地から特殊召喚
[効果] [7] [地] [獣]


百獣王 ベヒーモス(2700/1500)
召喚成功時、生贄にしたモンスター
の数だけ墓地の獣族を手札に戻す
[効果] [7] [地] [獣]


「はぁーっはっはっはぁっ!」 地毛の茶髪が野生動物を連想させた。低身長の身体を悪しとせず、殊更に身体を沈み込ませた18歳の新人が吠える。オールバックのビーストライダー、ケルド・アバンスの額の先には一騎当千の獣達。 「おまえらぁっ! 御注文通り目立て、目立て、目立ちまくれっ!」 【ノンストップ・ビースト・キング】 ビーストが巨体を揺らし、ベヒーモスが角をせり上げ、バブーンが棍棒を振り上げる。ケルドは両手を光らせた。 "All" の文字がぐわっと浮かび上がると、全体強化のビジュアル・エフェクトが発生する。猛進のケルドは止まらない。
「こいつで終わりだ!」



駆け抜けろ!

百 獣 大 行 進(ザ・ビッグ・マーチ・オブ・アニマルズ)




ケルド&リミッツ:13100LP
ドラゴンボーイ&うぃっちガール:0LP

『決まったぁっ! First Duelを制したのはケルド・リミッツペア!』
「矢でも鉄砲でもオベリスクでも、なんだって吹っ飛ばしてやる!」
 始まりから終わりまで、前に進み続ける猛獣の決闘。他方、
(ケルドの仕上がりは上々。3回戦までは問題なくいける)
 もう1人の男が喧噪の中に同化していた。ほんの少し脱色したブラックジャンパーを筆頭に淡い配色で身を固め、周囲の気を惹く一切の挙動を封印した潜行者。奇抜の対極に位置する髪型、無駄を廃した細身の身体、必要最小限に抑えられた所作。何もかもが計算されていた。
 無音投盤術(サイレント・スローイング) の使い手、リミッツ・ギアルマ(26)が淡々と退場する。
「フェルティーヌ、レザール。後は任せる」 すれ違いざま、事務的に一言そう告げた。

「地縛館の時より仕上がってるか」
 身軽な男がぼそりと呟く。青く染まった狐の尻尾と、黒く染まった髪の末端が微かに揺れる。夏の日差しと程良く付き合いながら、テイル・ティルモットが1人気ままに観戦していた。
「手札がダダ余ってたっつっても、これだけ投げられるなら大したもんだ」
「いやいや、この程度で満足して貰っては困る」
 次の瞬間、テイルは後方からの気配を察して回避行動を取る。紙一重で躱される銃弾……、より正確には、紙一重で躱されたデュエルオーラ越しの無害な挨拶。
「あんたは……」 「久しぶりだな、テイル・ティルモット」
 知っている。テイルはこの男の顔を知っている。自分の手で引導を渡したこの男の名を知っている。Team Earthbound OB、『砲銃』 店長ダァーヴィット・アンソニーのテンガロンハットを知っている。
 テイルは大袈裟に両手を上げると、首を左右に、尻尾を上下に振った。
「欲張りすぎだろ。動のケルドに静のリミッツ。これをサブに置けるんだ」
「栄えあるTeam BURSTのエースが、この程度で恐れおののくものか」
「おいおい、おれにまで注文付けるのかよ。さーすが西部五店長」
「ほう。あれから少しは、我々に興味を持ってくれたようだな」
「ああ。西部決闘界は、あんたらのデカさに魅了されたんだ」

レプティレス・ナージャ(0/0)
このカードは戦闘では破壊されない
このカードと戦闘を行ったモンスターは
バトルフェイズ終了時に攻撃力が0になる
自分のエンドフェイズ時、攻撃表示に変更する
[効果] [1] [闇] [爬虫類]


レプティレス・ガードナー(0/2000)
破壊され墓地に送られた時、デッキから
「レプティレス」モンスター1枚を手札に加える
[効果] [4] [水] [爬虫類]


「くそっ!」 Team Dragonicのセカンドタッグが舌を打つ。
「こんだけ攻めてるのに、こんだけ攻めてるってのに……」
 Team Earthbound中堅、レザール・オースの腹心達が龍の侵攻を堰き止める。腹に一物仕込んだ毒蛇の少女と、腹を満たし続ける堅忍の亀。瞬殺しようなど愚かが過ぎる。
「そいつは焦りすぎだろ」 腹の上にも腹筋。髪を短く刈り上げ、腹を据えた男がばっさり言った。
「効かねえよ! 《レプティレス・ナージャ》の効果発動。《ホルスの黒炎竜 LV6》をゼロにする」
 龍の軍勢を受けきることで黒蛇の腹筋が加速した。ナージャとホルスをリリース、毒蛇の女王 《レプティレス・ヴァースキ》を特殊召喚すると、《アームド・ドラゴン LV7》を瞬時に溶かす。
 沼の中の光明、英雄の模倣者が満を持して動く。
「《同種同源》の効果発動!」

「テイル、おまえの言う通りだ」 ダァーヴィット・アンソニーが、当時を懐かしむように言った。
「テキストに、映像に、物理的な輪郭が与えられるOZONEの中にあって、"デカイ" とはそれ自体がエポックメイキングな出来事だった。今を去ること蘇我劉邦時代、扱いやすい下級中心の一大攻勢に対し、扱いの難しい超最上級を単騎で置く。それこそが……

私は、あの我が侭なコンドルに魅了されたのだ」

  『《パーフェクト機械王》こそ至高!』 『いやいややっぱり《青眼の白龍》だろ!』 ……日々言い争いに明け暮れた、西部決闘界の話題をかっ攫った圧倒的な巨躯。現に今、フィールドに喚ばれたそれは、言ってしまえば単なるトカゲの怪物だった。真っ黒な身体と、全身を彩る緑の線こそ怪異であるが、元を正せばトカゲの怪物に他ならない。にもかかわらず、にもかかわらず、そうであるにもかかわらず、それは西部の守護神であり続けた。屈強なる戦士を、奇跡を操る魔法使いを、天高く飛ぶドラゴンを、蟻に変えてしまうほどの存在感をOZONEに示す。それが ――
「じ、地縛神だぁっ!」



腹礎剛筋咬渦咬咬(ふっそごうきんこかこっこう)



地縛神 Ccarayhua(2800/1800)
フィールド上に1体のみ召喚可能
直接攻撃/戦闘拒絶/土地強制
[効果] [10] [闇] [爬虫類]


レプティレス・ヴァースキ(2600/0)
フィールド上に1体のみ召喚可能
フィールド上の表側表示1体を破壊
[効果] [8] [闇] [爬虫類]


『《地縛神 Ccarayhua》の質量攻撃が炸裂ぅ! 【蛇腹の双剣】は今期も健在!』
 デュエルガードごと薙ぎ払う圧倒的質量と共に、1人の男が勝ち名乗りを受ける。
「……ったく、姉貴の所為で余計に時間がかかっちまっった」
 物憂げな精神を、飽くなき腹筋で押し上げる22歳。髪を短く刈り上げ、皮膚の一部のようにブラックジャンパーを着こなす腹の決まった決闘者、レザール・オースが決着の二撃を叩き込む。
『圧倒的ぃっ! 優勝候補筆頭、Team Earthboundが仕上がっているぅっ!』


Technological Card Game ――

Chain Duel ――

Complete ――

Winner ――

Team Earthbound !




「れざある!」 
 汗を拭うだけの時間はなかった。長身長髪の美女があらゆる節操をかなぐり捨て、レザールの腹に飛びついていたから。フェルティーヌはがっちり両手を回すと、汗だくの腹筋に顔を押し付ける。
 レザールはすぐさまフェルティーヌを引き剥がした。引き離した、ではなく、引き剥がした。すらりと伸びた手足が地方の民間伝承さながらに纏わり付き、心底うっとうしそうに弟が叱る。
「ざけんな! 結局ほとんど押し付けやがって! 大会をなんだと思ってんだ!」
「れざあるの わんまんしょお にきまってるじゃない。ちゃあんと あしすと したわ」
 姉がきょとんとした顔で応対した。とろんとしたまぶたが、闘牛士よろしく糾弾をかわす。ぱっと見ふわっとして見えるオレンジのロングスカートさえも、うざったく見せる姉の業。
 レザールは一回大きく息を吐くと、噛んで含めるように説明した。
腹筋(おれ)決闘(ふっきん)は火力偏重型じゃないんだ。姉貴もちゃんと殴れ」
「わかってるわ。れざあるのふっきんはこのぎんがけいでもいちばんなんだから」
「人の話を聞け。これだからタッグ戦は。先行き不安どころの話じゃねえぞ」
「あれあれ? じしんないの? れざあるじしんないの? あれぇ……」
「五月蠅え! 何があろうと負けるつもりはねえよ!」 「うん、そのいき!」
「……」 満足げに頷く姉とは対照的に、弟が恨み言を吐き出す。
「そんなんだから、いつまで経っても結婚できねえんだよ」
  『弟と視界を合わせる為に気合いで伸ばしました』 とうそぶく180センチの長身と長髪に加え、ブラウスとロングスカートが誰よりも似合う26歳。西部全域から 『なんでああなってしまったのか』 と一様に嘆かれた "元天使"、 フェルティーヌ・オースがその場でくるくると回る。回る。回る。目が回って吐きそうになる。レザールは無視を決め込んだ。

 フィールド上ですったもんだする後方、ベンチに座るミツルはうっすら微笑んでいた。 「珍しいな」 ベンチの裏からリミッツの声が微かに響く。 「1回戦を突破した程度で喜ぶとは」
「いや」 ミツルは口元を引き締めた。 「ほんの少し感傷に浸っていただけだ。Team Dragonic。彼らもまた、10年決闘を続けていたのだ。そう考えるとなんとも言えない。それに」
 ミツルはスタジアムの東側を見渡す。
 Team Dragonicのメンバー全員が、ベンチで反省会を始めていた。
「我々の集大成が……」 「爪痕は残したわ。次は指まで入れましょう」 「来年だ! 来年は《フェルグラントドラゴン》でいく!」 「なら俺は敢えて《八俣大蛇》を極める!」 「来年はいっそのこと、メンバー全員が違うドラゴンをエースにして、決勝でその全てを融合したファイブ・ゴッド・ドラゴンを……」
「悪魔も好きだが、ドラゴンも同じぐらい好きなんだ。男の子だからな、俺は」
「それは前にも聞いた。後は機械も好いている……苦手なのはあるのか?」
「実を言うと、爬虫類は生々しくて苦手なんだ。レザールには黙っておいてくれ」
「それは構わん、が、感傷に浸るのは程々にしろ。今期はそう簡単でもない」
「ああ、わかってる。ようやく10年が追いついてきたんだ」

「あんたらは」 観客席の上段。黒髪をぼさぼさと掻きながら、テイルが呆れたように言った。
「10年越しの大馬鹿者の集まりってわけだ。あんなクソでかいものを投げ続け、あんなクソ面倒なもので組み続け、そのデカさを100%発揮できるようになった。よくやるよ」
「気に食わんか」 ダァーヴィット・アンソニーがやや嬉しそうに聞く。
 砲銃店長の意を察したテイルは、心底嫌そうに言った。
「あんたこそ、これ以上何を望むってんだ。もう十分やっただろ」
「私に勝った以上、世代交代はおまえの肩にも掛かっている」
「そいつはおれの仕事じゃない」 「他に誰がいる」 「いるさ」
 空を見上げて、ふわりと言った。
「バカはいる」

                     ―― 50日前 ――

「おらおら! ちんたらしてんじゃねえぞ2人とも!」
 テイルの怒号が崖際に響き渡る。受身の少女と腐腕の少年 ―― ミィとパルムは特訓と称し、それなりに傾斜のある 崖のようなもの を登っていた。人類は、決闘を知ることでより頑丈な肉体へと進化したが、それだけでは十分と言えない。個人個人の飽くなき鍛錬こそがどうたらこうたら……
(なんて言ってたけど。絶対その場の気分でやらせてる。でも……)
 ミィは気合を振り絞って 崖のようなもの を登る。無茶ぶりに応え続けた肉体を更に酷使して登る、登る、登る。息も絶え絶えになりながらなんとか登り切る。
「おいパル! 日が暮れるまで登るつもりか! 女子中学生に負けて悔しねえのか!」
(言ってくれる) パルムは心の中で悪態をついた。 (幾らぼくに体力がないからって、そういう問題じゃないだろ。特訓で崖もどきを登ると聞いて本気で登っちゃう女子中学生。そんなの西部広しと言えどもミィぐらいしかいない) 最初はなんやらかんやら文句を言っていたものの、『決闘の歴史上、札と崖のある種の共犯性がどうのこうの』 などと言われてあっさり丸め込まれ 『よくよく考えたら落ちるのも登るのも似たようなものですよね』 とかなんとか言いながらミィはガンガン登っていた。
 パルムは悪態を付きつつも、『体力のない奴が大会を勝ち抜けるか!』 とまで言い切ったテイルに反論できなかった。現に今、ミィが登っている事実から目をそらせなかった。
 ほんの少し遅れて、パルムもようやく登り切る。
 テイルは崖の下でにんまりすると、懐からトランシーバーを取り出す。予め持たせておいたパルム側のトランシーバーに向けて電波を送ると、すぐさま通信を開始した。
「おれの 決闘屑盤(ジャンキー) 経由でOZONEを起動させた。駆け下りながら投げろ」
「あのさ」 パルムが異議を唱える。 「言ってる意味がよくわからないんだけど」
 テイルは尻尾をぐるぐる回しながら、無駄に嬉しそうな声色で言った。
「パルム・アフィニス君、君は受身検定何級だ」 「……B級」
「タッグデュエルにはコンビプレイがあるんだ。相乗効果で火力がヤバイんだよ火力が。レザール並の腹筋があれば兎も角、今のおまえじゃ吹っ飛ばされるかガードクラッシュの二択だ。ミィを見ろ! A級だぞA級。日進月歩で受身が上達している。下手すりゃS級だ」
「えっへん!」 「バーカ! 受身だけ出来ても意味がねえんだよ! ミィは受身が巧いが投盤が下手。パルムは投盤こそイケてるが受身が今一。2人の体格は似たようなもんだろ? お互いがお互いを参考にできる素晴らしい特訓方法を提案したい。名付けて、 『チキチキ! 地獄の沙汰も崖次第! フリーフォール・スローイング〜嗚呼、転落人生今いずこ〜』 わぁ〜ぱちぱちぱちぱち」
 パルムはげっそりと息を吐く。
「斜面を転がりながら、投盤の練習をしろと言いたいのかあんたは」
「ほらあれだよ。自分の身体を他の何かに引っ張らせることで速度の感覚を掴むって奴。重力さんは素晴らしい。これだけ大がかりな特訓を、タダで手伝ってくれるんだ」
「なあテイル。あんたひょっとして何も考えてないんじゃ……」
「我が愛しのバトルフェイズをdisるのか。あいつの場合、直角の崖を落っこちながら投げるんだ。それに比べりゃこんな緩い坂……下におれが控えてるんだ。なんとかなる」
「これだから似非天才は。……ってホントにやるの?」
 ミィが一歩前に出た。瞳には闘志がみなぎっている。
「落ちるのだけは自信があるんです。いつもたか〜い木の上から落っこちてたし」
 ミィはもう一歩前に出ると、気合いを入れて 崖のようなもの の下を覗き込む。……急に口数が減った。汗をダラダラと流し、脚をぴーんと竦ませている。数秒後、ようやく口を開く。
「登ってきたんだから、駆け下りることも出来る……筈なんです」
「ほら見ろ。そういうのは妖怪だからできるんだ」
「それはどうかな」 テイルの不穏な声が響く。
「ミィ、おまえに魔法の言葉をくれてやる」
「ふえ?」
「『位置エネルギー万歳』 と言ってみろ」
「え? えっと……位置エネルギー万歳」
「もう1回」 「位置エネルギー万歳」
「もっと大きな声で」 「位置エネルギー万歳!」
「ラジオ体操のタイミングで屈伸運動をしながら!」
「位置! エネルギー! 万! 歳! 位置! エネルギー! 万! 歳!」
「……」 パルムはぽかんとしながら、その間もれなく絶句していた。
 復唱を終えたミィが堂々と言い放つ。
「今ならどこへでも行けるかも」
「真下にしかいけないと思うけど」
「ほらな」 テイルが自慢げに言う。 「パル、おまえはどうする」
「……やるよ。 1人で崖を駆け下りたバカがうちのチームにもいるんだろ? なら、このぐらいの傾斜はどうにかしないと笑われる。まだまだ最悪には遠いんだ。そうだろ、ミィ」
「はい!」 2人は、崖のようなもの を駆け下りた。転がった。

 その後テイルが、 『うわ、こいつらマジでやりやがったよ。バカじゃねえの。引くわ。マジ引くわ。引くのはカードで十分だっつうの』 などと口走り、5〜6発ほどポカポカ殴られたのは言うまでもない。

                ―― 大会会場(第5試合) ――

「我々の演技(デュエル)を御覧に入れよう」
 フィールド上で倒立を行っていたシライが脚を降ろす。 『決闘の前に体操しよう』 を契機とし 『折角だから決闘中も体操しよう』 に発展。決闘体操の使い手達がここにいた。
『シライ選手壁際まで後退! まさかあれは!』
「ディスク・スローイングの神髄は、床の上にあると知れ!」
『軽い助走からのバク転! バク転! 床の上を跳ねるように……でたぁ! 伸身ムーンサルト! 高度は十分! 回転も十分! 着地は……決めてきた! 見事な着地。ポーズを決めて得点は!』
「10.0」 「10.0」 「10.0」 「9.8」 「10.0」
『文句なしの高得点! そして普通に投げたぁーっ!』



これが我々の投盤だ!

廃 炎 龍(スクラップ・ドラゴン)同調召喚(シンクロ・サモン)




スクラップ・ドラゴン(2800/2000)
自分のカードと相手のカードを同時に破壊
[同調] [8] [地] [ドラゴン]


『流石はTeam Flooring! 数あるスクラップ使いの中でも、トップクラスの投盤が光ります!』
 屑鉄の龍が大首を伸ばし、華麗な床が得点を伸ばす。審査基準次第では満点すら狙えたスローイングを決め、俄然沸き上がる Team Flooring 陣営。
「ユゥーカッカッカーッ、このまま点差を……」

「そんなもんじゃ燃えねえ! ドロー!」
 床を走り抜ける火柱のような一喝。噴火した火山を思わせる、逆立った髪が目を惹いた。
「【スクラップ】のクセして上品すぎるぜ」 「なら貴様がやってみろ」 「ああ、やってやる!」
 オレンジ色のつなぎを着込んだ陽気な花火師、エルチオーネ・ガンザが噴火する。
『今度はエルチオーネ選手が壁に向かって走り出したぁーっ! さあ壁際まで……あぁーっとエルチオーネ選手、そのまま壁を駆け上がり……駆け上がり……てっぺんまで登って……勢いそのまま身体を反らして飛んだぁーーーーーー……そして頭から床に激突! なんという大惨事!』
「なにぃ!? 血迷ったかエルチオーネ!」
『このダメージは深刻だ! さあカウントが入ります。1……2……3……おぉーっとエルチオーネ選手が立ち上がってきたぁ! しかしふらついている。立てるか? 立てるか? 立てるか? カウント8で立ってきたぁっ! 場内騒然! ファイティング・ポーズを取る! 壁際から……一歩ずつ前に!』
「エルチオーネ!」 「エルチオーネ!」 「エルチオーネ!」 「エルチオーネ!」
『頭から漏れた血が! 火砕流となって流れ出る! 溶岩を惜しげもなく流し出し、闘志を全身から吐き出して、エルチオーネ選手が今! 決闘炎盤(フレイムギア) を投げたぁっ!」



生身(トカゲ)の輸送機たぁこいつのことだ!
                         
ヴォルカニック・ロケット! 通常召喚(ノーマル・サモン)




ヴォルカニック・ロケット(1900/1400)
召喚時 ブレイズ・キャノンをサーチ
[効果] [4] [炎] [炎族]


『場内スタンディング・オベーション! エルチオーネコールが響き渡ります!』
 会場を熱気で暖めたエルチオーネは、火炎放射器の口から炎言を放つ。
「着地を綺麗に決めようなんざ、虫が良すぎて、プチモスが逝ってんだよ!」
「一瞬にして会場の空気を……しかし! 今のやりとりに戦術的意味はない!」
「みみっちぃこと言ってんじゃねえ! 《ブレイズ・キャノン》、スタンバイ!」
 三脚式の火砲が迫り上がった瞬間、陽気な花火師がほとばしる。
「《手札抹殺》を発動!」
『三大代名詞が噴火した! 火砕流が流れ込み、死の世界が活気を帯びる!』
「来い!」 かざした手に舞い込む新たな弾丸。装填すべきは三脚の火砲。
 狙いは一点、廃炎龍。


ブレイズ・キャノンの効果発動!

逝って来い! ヴォルカニック・バレット!



ブレイズ・キャノン(永続魔法)
攻撃力500以下の炎族を墓地に送る+攻撃権を放棄
⇒相手フィールド上のモンスター1体を破壊


ヴォルカニック・バレット(100/0)
墓地にある時、1ターンに1度、500ライフを払うことで
デッキから同名カードを手札に加える
[効果] [1] [炎] [炎族]


「まだだっ!」 炎上の瞬間、床の男爵シライが跳ぶ。 「スクラップ・モンスターの演技は終わっていない! 破壊された《スクラップ・ドラゴン》の効果発動。墓地から《スクラップ・ビースト》を……」
  "Destroy"  2秒で浮上したビーストの頭を、1秒で射出したバレットが貫く。
「弾は幾らでもあるんだぜ。五体満足に踊れると思うなよ、床ぁっ!」
「ふっ、長年に渡る床と炎の決着……付ける時が来たか!」
「床の直線、炎の波線、漏れなく燃やしてやろうじゃねえか」
 ほんのしばらくの間、床と炎が沈黙する。試合時刻を知った時から彼らは待っていた。太陽が昇り、地熱が最高潮になるその瞬間を待っていた。3分……2分……1分……時が来た。
「ユゥーカッカッカァッ! 踏み抜け! 《スクラップ・ツイン・ドラゴン》!」
「ヴォォォルカッカッカァッ! 撃ち抜け! 《ヴォルカニック・カウンター》!」
『御覧ください! 炎の申し子Team FlameGearと、床の申し子Team Flooringが激しくぶつかっています! 地熱高まる常連同士の攻防! 燃やしては立ち上がり! 立ち上がっては燃やす! 激しい消耗戦になってきた! 最後に勝つのは炎の花火師か! それとも床の一張羅か!』
「《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果発動。《ヴォルカニック・カウンター》をデッキに戻す。バトルフェイズ、《炎神機−紫龍》を攻撃ぃっ! アトミック・ムーンサルト!」
 廃炎龍 《スクラップ・ドラゴン》は火炎を焚いて焼き尽くす。
 廃風龍 《スクラップ・ツイン・ドラゴン》は突風を起こして吹き飛ばす。
 廃巨龍 《アトミック・スクラップ・ドラゴン》は、《アトミック・スクラップ・ドラゴン》は、嗚呼、嗚呼、《アトミック・スクラップ・ドラゴン》は、巨体を跳ばして押し倒す。空中で見事一回転、《炎神機−紫龍》に向けてボディプレスを敢行する。床の一張羅、その真骨頂がここにあり ―― 
 エルチオーネの、花火のように大きく丸い目が見開いた。OZONEに浮かぶ Remove の文字。押し潰される前に紫龍が消えた。奇怪な装置に導かれ、今いる次元からばったりと消えた。
「《亜空間物質転送装置》か!」
『いや、違う! あのカードはぁっ!』
《As-異空間物質転送装置》を発動!」
 アトミック・ボディプレスが何もない床を押し潰す。
 床の一張羅が吠えた。 「床を……舐めるなぁっ!」 号令と共に《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の瞳が光る。三つ首を床にめり込ませて倒立、首筋のバネで再飛翔。 「丸腰のエルチオーネにダイレクトアタック!」 エルチオーネを吹き飛ばす。

エルチオーネ&???:5600LP
シライ&???:9100LP

『消耗戦に次ぐ消耗戦。打ち合いを制したのは……あ、あれはぁっ!』
「ヴォォォルカッカッカァッ!」
 噴火した活火山のように逆立った髪と、花火のように丸く広がった双眸。オレンジ色のつなぎが目を惹く生まれながらの活火山。逆境を油に変えて燃え盛る特攻隊長、エルチオーネ・ガンザが吠えた。
「うちの店長を誰だと思ってる。受身の練習なんざ必須科目だぜ!」
「あれだけ出血しながらなんとタフな男か。しかし! おまえの手札はもう尽きた!」
「手札は使うもんだろ! 使って燃やすから意味がある! 薪ってのは燃やして始めて薪になる! 宵越しの札は持たねえ! 使い切れたってんなら……勝つのは俺達だ! エンドフェイズ、《As-異空間物質転送装置》の効果適用、《炎神機−紫龍》を相棒の場に移す! 後は任せたぜ、相棒!」



火 葬 抜 札(デッドエンドロー)



『三大代名詞を受け取ってぇっ! 寡黙な葬儀屋チェネーレ・スラストーニが引いたぁーっ!』
 連鎖した相棒から 炎の歯車(フレイムギア) を受け取ると、鋭利な視線を場に向ける。
 視線の先ではTeam Flooringのシライ・ツカハラ両名が身構えていた。
「ツカハラ! 来るぞ! 気をつけろ」
「わかっている! これ以上はやらせん!」 
 床の恋人ツカハラが、愛でるように床を踏む。
「床と炎は不倶戴天の対立概念。今こそ決着を ―― 」



真 炎 の 爆 発



 天に白日(はくじつ)、地に岩漿(がんしょう)。天地に火の輪を描く時、命の証が燃え上がる。 『炎属性』 『守備力200』 炎の眷属が循環した。1つ、札の命運を占う僧侶 《予言僧 チョウレン》、1つ、炎の魔導士 《フレムベル・マジカル》、1つ、魔導士の使い魔 《稲荷火》、1つ、使い魔の幼体 《きつね火》……【早すぎた火葬(ターボ・インシネレート)】の執行へ向け、寡黙な葬儀屋が動き出す。

予言僧 チョウレン(1800/200)
セットカードの種類を宣言
⇒宣言通りならば発動不可
[効果] [4] [炎] [魔法使い]


稲荷火(1500/200)
フィールド上に魔法使いが存在する時
手札から特殊召喚することができる
[効果] [4] [炎] [炎]


フレムベル・マジカル(1400/200)
特にこれといった能力はない
[効果] [チューナー] [4] [炎] [魔法使い]


きつね火(300/200)
かわいい
[効果] [2] [炎] [炎族]


「《きつね火》風情が何を燃やすと」 床の恋人と噂される決闘の使い手、ツカハラが札を揺らした。床を磨き上げた後のようににぃっと笑みを浮かべ、手の平をじわりと光らせる。 「君達Team FlameGearは炎の決闘。屋内で燃えれば家屋を燃やす。野外で燃えるが道理と言える。それが我々との決定的な差。屋内競技に劣る所以……雨天中止で終わって貰おうか、喰らえ!」 「断る」
 蒸発する激流。極炎の香典返しがフィールドを駆け巡る。《魔宮の賄賂》で《激流葬》を打ち消すと、チェネーレが発動という名の念仏を唱える。 「《予言僧 チョウレン》の効果発動。トラップを宣言」 火葬の担い手チェネーレが結末へ向けて動き出す。伏せられたカードが捲られんとしたその時 ――
 対岸のツカハラが跳んだ。
『出たぁっ! ツカハラ選手の "後方" "抱え込み" "3回" 宙返りぃ!』
「雨が降ろうが風が拭こうが、我々は着地を決めてみせる! 《トゥルース・リインフォース》を発動!」
 天から降り注ぐ真なる援軍。吹きすさぶ風の中、《X−セイバー パシウル》が着地を果たす。 「これが床の……なっ!」 着地したツカハラを襲ったのは、伝導された床の熱。
(違う。地熱は既に最高潮。変わってはいない。だとすれば、これは……)
 灰色の装束が、束ねられた長髪が、まるで燃えているかのように ――
「見事な跳躍」 チェネーレは場を一瞥。場に存在するのは2つのしもべ。

X−セイバー パシウル(100/0)
戦闘では破壊されない
[効果] [チューナー] [2] [地] [戦士]


アトミック・スクラップ・ドラゴン(3200/2400)
生きとし生けるもの全てを粉砕したい
[同調] [10] [地] [ドラゴン]


「ならば報いる」 鋭利な瞳が静かに燃えた。

「《きつね火》にマジカルでチューニング ―― 」

「 ―― を通常召喚。効果発動。稲荷火を ―― 」

 炎の歯車 決闘炎盤(フレイムギア) が、

 床に火柱を巻き起こす。

「乱れた炎が一点に収束!?」 ツカハラが息を呑む。
「一年間。たかだか一年間でこうも研ぎ澄ますというのか」
 縦一列の布陣。先鋒を務めるは直列進化のシンクロ・サモン。攻撃力2100。双拳に炎を纏わせ、燃やし続ける度に火力を上げる《フレムベル・ウルキサス》。中枢を担うは一気呵成のスペシャル・サモン。攻撃力2900。自らを炎の槍と変え、触れるもの全てを焼き尽くす《炎神機−紫龍》。そして、最後尾から迸るは一期一会のノーマル・サモン。攻撃力3000。《稲荷火》を喰らい、一直線に突撃する刹那の火球、即ち、《爆炎集合体 ガイヤ・ソウル》。
 共通項。あらゆる壁を燃やし抜く、 貫通 という名の共通項。
「《X−セイバー パシウル》を攻撃対象に選択」
 三乗の貫通。火葬の(ほのお)が燃え上がる。



Turbo Incinerate Combination Attack

真理三乗−火炎乗・紫炎乗・爆炎乗−



「ツカハラ!」 貫通された相棒を目の当たりにし、ツカハラの目の色が変わる。 「だが、まだ……」 チェネーレの方を振り向くがそこに人影はなかった。視界に映るのは迫り来る火球。完全決着を目論む火葬の意志が、残ったシライさえも焼き尽くす。



火霊術(スピリチュアル・ファイア・アート)−「(くれない)」!



Team FlameGear:5600LP
Team Flooring:0LP

『燃やし尽くしたぁっ! First Duelを制したのはエルチオーネ&チェネーレ!』
 炎上するフィールドをバックにエルチオーネとチェネーレが引き上げる。1人は嬉々と。1人は黙々と。ベンチに戻るとそこには、Team FlameGearの総大将が待っていた。
「良くやったよ2人とも! 後はあたいとフーモに任せな!」 
「ファロ姐、無茶はすんなよ! 腰逝ったら目も当てられねえ!」 
「五月蠅いんだよエルチオーネ! あんたらに心配されるほどやわな決闘は燃やしてないよ!」
 若手2人を出迎えるのは西部五店長の紅一点ファロ・メエラ。愛用の火打ち石を決闘盤に収め、駆け出すようにフィールドへ赴く。剥き出しになった大きな瞳に、闘志がありありと燃えていた。

「面倒臭そうなこった」 テイルが軽く舌を打つ。 「激しく燃える陽気な花火師が先行して、静かに燃える寡黙な葬儀屋が仕留める、か」 気怠そうに肩をすくめていると、その肩をポンと叩かれる。長方形(レクタングル)の眼鏡をかけた鋭利な大学四年生。テイルが 先生 と呼ぶチームメイトがそこにいた。
 ジャック・A・ラウンドがフィールド上を睥睨する。
「超高等呪文 《真炎の爆発》。遂にそこまで達したか」
「大将の最終調整はもう終わったん?」
「寝かせたよ」 「ラウ先生は寝なくていいの? 徹夜続きだろ」
 ラウは聞こえないふりをした。何事もなかったかのように話を続ける。
「超高等呪文 《真炎の爆発》。あれは残りライフが100でも使える。丁度一年前に開発されて、誰も使いこなせなかったじゃじゃ馬だが……。あの男の、迷いなき火葬の精神が発動を可能にした」
「えげつねえ効果だけど、あれに対応するモンスターはまだそんなに開発されてないんだろ。にしても《きつね火》か。あいつの芸風に合わせるなら、《ネオフレムベル・シャーマン》とかでよくね?」
「ゴブリンやパシウルをマジカル経由のウルキサスで貫通する。それだけの為にサイドから差し込んだんだろう」 「脳まで燃えてんのか」 「中核となる僧侶と周囲を固める炎族。葬儀屋に火葬の火……構築方針が定まったことで、投盤や呪文の精度まで上がっている。いかにもあいつらしいが、あれでもまだMAXではない」 「噴火野郎のお陰でか」 「まだまだ伸びてくる」
「なあ、それはそうとして、さっきから実況が言ってる三大代名詞って何だ?」
「それは私が答えよう!」
 瞬間、ラウは後方からの店意を感じて振り返る。丸太の如き両脚が、鉄板の如き胸板が、殲圧的なデュエルオーラを振りまき、観客席を速やかに制圧していた。
「貴方は……」
 知っている。ラウはこの男の顔を知っている。共に働いた店の主を知っている。Team FlameGear の前身 Team DeadFlame のOB、『殲圧』 店長パルチザン・デッドエンドのサンダルを知っている。
「あいつらこそ、ファロが仕込んだ全身全霊の燃焼集団。全てのデッキがなんやらかんやらで《炎神機−紫龍》、《手札抹殺》、《火霊術−「紅」》を標準装備している」 「頭悪っ! やりたくねえ!」

「あぁっはっはぁ! 当たって砕けろ!」
 決闘炎盤(フレイムギア)が唸りを上げた。 豪快に盤を投げつけるのは西部五店長の紅一点、『火打』 店長ファロ・メエラ。縦一直線に腕を振り下ろし、赤毛の店長が真っ向勝負を挑む。



さあ突っ込みな! ピラミッド・タートル!



 ブースタートル、即ち、《ピラミッド・タートル》は加速する。背負っていた四角錐(ピラミッド)を開くと三連装の高機動ブースターを展開。召喚された時には特攻態勢に入っていた。亀に対する固定概念を覆した黎明期の傑作。 『火打ち石』 と呼ばれるゆえんを示し、高機動型自爆兵器が《ギガンテス》に特攻する。
『《ピラミッド・タートル》玉砕! ファロ選手、得意の自爆特攻を仕掛けていく!』
 火打ち石が命を着火、ほとばしる火花が炎を喚び込む。狂鬼龍 《バーサーク・デッド・ドラゴン》と共にTeam DeadFlameを支え続けた西の古豪。炎の如きたてがみを揺らし、炎と共に加速する。



明るく 楽しく 死んでこい!

スカル・フレイム、点火召喚(イグナイト・サモン)




ピラミッド・タートル(1200/1400)
アンデット族専用のリクルーター
守備力2000以下をリクルート
[効果] [4] [地] [アンデット]


スカル・フレイム(2600/2000)
電光石火で懐に潜り込み、
必殺のアッパーカットを決める
[効果] [8] [炎] [アンデット]     


高機動型不死族(デッドスピード) を舐めんじゃないよ! ぶち込みな! フレイムアッパー!」
『《ギガンテス》の顎に一撃ぃっ、燃やし砕いたぁっ!』
「はっはぁ! 《炎王炎環》を発動! 《スカル・フレイム》を爆破して、その勢いで《炎神機−紫龍》を釣り上げる。もっぺん喰らいな! スプレッド・ファイア!」
『一気にダメージを加速させた! このまま押し切るつもりかぁ!』

「我が束の間の最多勝記録」 ダァーヴィット・アンソニーがぼやいた。
「元より、節操なく投げ続けた証のようなもの。勝率に勝るミツルに抜かれるのは構わんが、あいつに抜かれるのは癪だな」 他方、テイルは欄干に首を載せながら言った。
「西部個人ランキング2位 : 西部五店長ファロ・メエラ、西部個人ランキング4位 : エースプレイヤーのチェネーレ・スラストーニ、西部個人ランキング7位 : 切り込み隊長エルチオーネ・ガンザ。この3人は要注意か。厄介な連中だが、層の厚さではEarthboundに……ん?」
 テイルは目を細めた。じっと一点を見つめる。
「あいつは……どっかにいたような……」
「どうした? 何か気になるものでも……」
『ようやくターンエンド……いや違う。ファロ選手が、フィニッシュブローの体勢にぃっ!』
 燃え盛る炎のように、チリチリと揺らめく赤毛の女傑が魂を燃やす。魂ほど優れた薪はない。燃える為に生まれた紫龍の魂を、10年間闘い続けた手の平の上で燃やす。即ち、
「《火霊術−「紅」》を発動! さぁ、燃えちまいな!」 
『トドメの一撃が決まったぁっ! 勝ったのは!』



Technological Card Game ――

Chain Duel ――

Complete ――

Winner ――

Team FlameGear !




『打倒Earthboundに名乗りを挙げたぁっ!』
「札が燃え尽きるまでの命なもんさ!」
 『火打』 店長が子供達のもとに帰還する。
「エルチオーネ! 今の気分はどうだい!」
「優勝することしか考えられねえ!」
「チェネーレ! 決闘は楽しいか!」
「相手を良く視て燃やす。必要と知った」
「それでいい! 決勝まで進化し続けろ! さあて……」
 ファロが首をくぃと向けると、前方から歩いてくる者がいた。
「完敗だ」 シライ・ツカハラが、勝者となった2人に握手を求める。
「次は必ず、ネオ・フローリング・ムーンサルトを会得して戻ってくる」
「なんと!」 エルチオーネが笑みを燃やした。 「たぁのしみだ!」

「なんか……いたような気がしたけど気のせいだった」 テイルはそっけなくそう言うと、ラウの健康状態に話題を移す。 「目の下にクマが出来てるぞ。寝てないんだろ?」  「徹夜には慣れている。特に問題はない」 淡々と言い流すラウを横目に、テイルは欠伸をかく。
「ここの試合みたく、見栄の張り合いになったら疲れるぞ」
「見栄か。その見栄とやらがどれだけあるのかが知りたい」
「……ったく。んなこと言ってると長生きできねえぞ」

                     ―― 40日前 ――

「ブレイカーの効果発動。端っこのカードを破壊します」
「んじゃ、チェーンして《マインドクラッシュ》」 「うげ!」
「《闇の仮面》で拾った《畳返し》な。ジャンクロンの邪魔だ」

魔導戦士 ブレイカー(1600/1000)
魔力カウンターを置いて300UP
魔力カウンターを除いてマジック・トラップを破壊
[効果] [4] [闇] [魔法使い]


マインドクラッシュ(通常罠)
カード名を1つ宣言⇒相手は
宣言されたカードを全て捨てる


 倉庫内にでっち上げられたフィールドの中、ミィとテイルが練習決闘に臨んでいた。フィールドの真横にはパルムが座り込み、かんこんかんこん決闘盤を弄りつつ横目で観戦している。
 テイルは必要以上に大きい身振りで指摘した。
「端っこに置いたカードばっかり狙いすぎだろ」
「はっ、そういえば……」
「クセがばれると困るだろ。散らせよ適度に」
「えっと、じゃあ、2枚セットしてターンエンド」
「ドロー……ハンデ月間、《ポルターガイスト》を発動しとくわ。2番のセットカードな。まさかとは思うが、さっき言われたことを気にして、自分の本命を端から2番目にするとかしてないよな」
「うぐ」  「《ジャンク・ウォリアー》でブレイカーを殴っとく。1枚セット。ターンエンド」
「そこっ!」 ミィはめげずに《砂塵の大竜巻》を発動する。候補は2枚。《マインドクラッシュ》と一緒に伏せられたカードと、今さっき伏せられたカード。ミィは前者を打ち抜く。
「あ、強欲謙虚が割れた」 「なにそれ……」

「ああもう!」 練習決闘終了後、ミィはふて腐れ、パルムの傍らに座り込む。
「ブラフなんて大嫌い。わたしがやると失敗するのに、テイルさんがやると上手く行く。なんで?」
 ミィにじっと見つめられると、テイルはにんまりとした。数枚のカードをお手玉のように弄ぶ。
「決闘中の騙し合いというのは大まかにいって2つしかない。 "ある筈のものがない" と "ない筈のものがある"。 セットがあると思ったらブラフだったり、ブラフと決め込んだらミラフォ喰らったり、要はそういう話だ。いいかおまえら。こんなもんは真面目に考えてもしょうがない。騙したもん勝ちだ。極端な話、たまたま刺さったときでも計算通りって顔をしておけばいい」
「うわ、すぐそういうこと」
「適当でいいんだよ適当で。心理戦なんて格好いいこと言ったところで、大半は真実とかいう話のわからんクソアマのケツを追っかけて右往左往するのがオチなんだ。テキトーに構えて受け流せ。大半は真面目に考えるだけ時間の無駄だ。あるのか? ないのか? 相手に選択の余地を与える時点で実はヤバイ。そんなこんなで騙し合い? かったるいったらありゃしない。やるなら不意打ち狙いだ。尻尾を掴ませるな。風上を取るんだ。そうすりゃそれが基礎になる」
「風上を取る?」
「さっきの模擬戦でいうと、結局は両方ともブラフだったわけだ。端を踏もうが端から2番目を踏もうが当たりはない。もしおまえが端から2番目を踏んでいたとしても、もっともらしい空気を醸しとくんだよ。そうすりゃ、残りの1つは当たりだろっと勝手に思い込む。実はそれが本命の引っかけ」
「なるほど。あんたらしい」 パルムはぼそっと言った。 「ミツル戦といい、ガスターク戦といい、一旦話の焦点を作っておいて、何食わぬ顔で死角を突く……それがあんたのやり方か」
「不真面目なくらいが丁度いいんだ。いつだってそのくらいが丁度いい」

「健全な少年少女を誑かすものではない。注文の《夜叉》だ、受け取れ」
「処女臭い決闘なんて犬も食わないだろ。ほい、お返しの《月読命》」

 ラウとテイルは、特に目を合わせることなく会話し、特に前置きするでもなくカードを交換していた。
 ミィはしばらくぽかんとしていたが、数十日ぶりに会ったことを思い出し、「ラウンドさん! お久しぶりです!」 と無駄に大きな声を出す。隣ではパルムが耳を塞いでいた。
 もののついでとばかりに、ラウは淡々と意見を並べる。
「騙すという行為は、 『騙せなかったら馬鹿をみるのは自分』 という構図を導きかねない。テイルの言うことにも一理あるが、動かず済むならそれに越したことはない。重要なのはリスク管理だ。もっとも、決闘において無難な立ち回りに終始するのは必ずしも賢くはない。時にはリスクを冒した方が勝率もあがる……が、追い風を受けるにはそれなりの安定感が必要だ」
「ほうほう」 テイルは《夜叉》を検分すると、ラウに提案を投げつける。
「暇?」 「そう言えるような時間はない。調整する時間が倍は欲しい」
「タッグの練習が捗らないんだよ。3人しかいないから」 「人の話を聞け」
「実戦であんたの講義を聴きたい。ミィもそうだろ?」 「えっ、それは……」
 なんとか言葉を選んでいたが、『Yes』 という思いを隠し切れなかった。
 テイルはOZONEを起動すると、軽い調子でラウを誘い込む。
「たまには遊んでけよ。そういうもんだろ」

「ほらほら、動きが止まってんぞミィ!」 序盤から中盤にかけて徐々に暖まる盤面、テイルが挑発混じりに仕掛ける。 「お試し月間、《強化蘇生》を発動! 対象は……」
「やらせません! 《砂塵の大竜巻》を発動! 釣る前に壊します!」
「なら《ジャンク・ウォリアー》でダイレクトアタック。これで残りはあと10000。メインフェイズ2、マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド。ほら、パル、仕掛けてみろよ」
「ドロー」 パルム・アフィニスが手札を覗く。 「ぼくは……」
 少年の動きがピタリと止まる。"Discard" の文字が浮かぶと、いたずら好きな尻尾が揺れた。
「《マインドクラッシュ》」 「あっ」 「ちっ」 「宣言するのは《召喚僧サモンプリースト》。《クリッター》で引っ張ったのが丸見えなんだ。狙わない理由なんてない……そうだろ?」
「なら、《キラー・トマト》を通常召喚。《ジャンク・ウォリアー》に攻撃」
「早すぎる」 そう言い放ったのはジャック・A・ラウンド。聖なるバリアを惜しげもなく使い、単騎の《キラー・トマト》を弾き飛ばす。 「痺れを切らすのがいつもより早い。人をアテにすることを覚えろ」

「目先の損得に惑わされるな」 練習決闘が終わるや否や、ラウがミィを叱咤した。
「《砂塵の大竜巻》を残しておけば《マインドクラッシュ》をエンドサイク出来た。結果論と思うか?」
「いくらテイルさんでもあの場では倒しきれないし、『破壊』 がないから砂塵も残りやすいし……」
「なんだ。わかってるじゃないか」 「あ、でも、わかった頃にはもう遅くて……ごめんなさい」
「相手の戦力を見積もるのは重要なプロセスだ。過小評価すれば即座に死を招くが、過大評価すれば緩慢な死を招く。もとより格上の強豪が相手なら苦戦は必至。一から十まで思い通りにいかなくて当たり前。ギリギリのラインを選択しなければ間が持たない。相棒の火力を活かしたければ、死なない程度に死ぬ技術を覚えろ。受身の上手いおまえなら、おれよりも上手くタイミングを取れる。パルム、おまえもだ。シングル戦の時のキレがまるで出ていない。相棒の一挙一動に気を取られ過ぎるな。持ち前の嗅覚を信じろ。重要なのは反撃のタイミングだ」
「パルゥ〜。ミィのお守りはしないんじゃなかったの〜、パルパルゥ〜」
「うるさいよ」 「やっさしいなぁ〜」 「ねえラウ、こいつ殴っていい?」
「許す」 「ありがと」 バシィッ ! 軽く一発叩くと、地下決闘での闘いを思い出す。
「いつもはカウントが20になったら即座に突っこんで、そのまま押し切って終わってたけどあの時は違った。タイミングを計るのが怖かった。もし初見の情報アドがなければ……」
「その経験は応用できる。今回はタッグデュエル。パルムの【反 転 世 界(リバーサル・ワールド)】は、ミィとの呼吸が合って初めて本来の威力を発揮できる。遅すぎても、早すぎても駄目だ」

 ―― ミィ! セットカードを使えるのはおまえ1人なんだ! 正面の様子ばかり伺うな! 頭に部屋
     を3つ作れ! 真横! 正面! 対角! 頭の中で駆け回れ。それがおまえの仕事だ!

 ―― パルム! 見切り発車で動くのが早い! もっとミィを信用しろ! 隙が出来るのを待て!

 ―― ミィ! ディパーチを狙うなら構築段階で詰めろ。 ちゃんとパルムと話し合って
     コンボパターンを覚えるんだ。アドリブでやれるほど甘くはないぞ。

 ―― タッグデュエルという現実を常に意識しろ。ライフは2倍。カードも2倍。
     1人で止めきれる、1人で倒しきれる、そんな意識では通らない。
     例え役割を分担しても、やるのはいつだって2人がかりだ。

 ―― おまえたちのタッグはタイミングが命。決めるまでは迷え。決めたら迷うな!

「ここ! ブレイカーが破壊されたタイミング、《異界の棘紫竜》をパルムさんの場に特殊召喚!」
「懲りずによくやる! じゃあおれは1枚伏せて……」 「《砂塵の大竜巻》を発動」 「げ……」
「ぼくのターン、ドロー! 《召喚僧サモンプリースト》の効果発動! 《火の粉》を捨てて……」 「《禁じられた聖杯》を発動」 「なら、《召喚僧サモンプリースト》を戻して《A・ジェネクス・バードマン》を特殊召喚。《異界の棘紫竜》に、《A・ジェネクス・バードマン》でチューニング!」

異界の棘紫竜(2200/1100)
自分のモンスターが破壊されることで特殊召喚
[効果] [5] [闇] [ドラゴン]


A・ジェネクス・バードマン(1400/400)
自分のモンスターを手札に戻すことで特殊召喚
[効果] [3] [闇] [機械] 


 荒れ場に駆けつけた2つの異端。異界で生まれた援軍龍に、機械仕掛けの鳥人変化(トリックスター)がチューニング。2人の想いがほんの一瞬交わって。同調召喚(シンクロ・サモン)、《スクラップ・ドラゴン》!
(今の動き) (噛み合っ……た?)
 ボロボロの盤面を貫く一筋の光。未開の空間に小さな小さな芽が生える。
 ミィが、そしてパルムが、ほんの一瞬顔を綻ばせた。

 んで。

「《精神操作》を発動」 ラウはしれっと言ってのける。 「《スクラップ・ドラゴン》の支配権を奪い効果発動。パルムの《スクラップ・ドラゴン》と、ミィのセットカードを破壊する」 「うげ!」 「うわ……」 「《ドドドバスター》と《荒野の女戦士》でオーバーレイ」 心に抱くは鋼の刃、刃に込めるは鋼の心。 「《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚」 召喚、即、攻撃。ミィとパルムに一刀ずつ、ずばりと刻まれた斬撃紋。ライフポイント、ゼロ。 「さしあたってはこのくらいだ」 何食わぬ顔で総括した。
「終始杜撰な連携ではあったが、最後の感覚は覚えておけ。あれが最初から出来ていれば火力不足に陥ることもなかった……かもしれない」 テイルが 「言い切れよそこは」 と茶々を入れるが、ラウは 「迂闊な断定は最悪の結果に繋がる」 と返すのみ。2人ががっくりと肩を落とす。
「はい……しゅん……」 「こんなものか、もう少しやれるかと思ったんだけど」
「実戦も勿論重要だが、兎に角2人で話し合え。時間が許す限り四六時中一緒に居て、病める時も健やかなる時も話し合い、最終的には同じ布団で一緒に寝ろ」
 聞かされた瞬間、ミィが赤くなり、パルムが青ざめる。
「え!? いや、それは、あの、その」 「……っ」
「冗談だ。言うことは言ったからあとは頑張れ」
「あ、ありがとうございました」 「……ありがと」
 テイルと話し始めたラウを余所に、
 2人はぽつんと棒立ちしていた。
「冗談なんだ。冗談……」
「あの人、本当にいつも真顔だからね……あ、そうだ」
 パルムはあることを思いつき、新たな相棒に申し出る。
「あのさ、そろそろいいかなって思うことがあるんだけど」
「何ですか?」 「それ」 「はえ?」
「敬語。タッグでやるなら対等でいたいだろ」

「どんなもん?」 さらっと聞き込むテイルに対し、ラウは意味深な表情を浮かべていた。
「何もかもが試行錯誤な段階だが可能性は感じる。ピーキー過ぎて息を合わせるのが難しいが、合わせることが出来れば面白い。ミィのやりたいことも段々とわかってきた。正解だったな」
「正解?」 「おれのもとから離して正解だ。あいつはもう、勝手に強くなっていく」
 テイルは頭をポリポリと掻くと、ほんのちょっと尻尾を振った。
「週一ぐらいでいいからここに来い。ここにはあんたが必要だ」
「考えておく。……話は変わるが、ブレハを欲しがりそうな奴を知らないか?」
「抜くん?」 「《荒野の女戦士》を外そうと思ってる。そうなるとブレハも使わない」
「ふとももが消えて寂しくなるな……。まあ、いないでもない。後で連絡先書くわ」
「後は、おまえの手持ちについて聞きたい。○○○○○○○○○○……使えるか?」
「使えるけどそれが?」 
「そうか、わかった」 一通り聞いたラウは倉庫に背を向ける。
「なあ」 テイルが背中越しに言った。 「そんなに勝ちたいん?」
「わからん。わからんからわかりたい、そういうこともある」
 去って行くラウに向けて、テイルがぐるぐると尻尾を回す。
「週一ぐらいでここにこい! あんたにはここが必要だ!」

                ―― 大会会場(第13試合) ――

 帝王の決闘は正当性の決闘。正当性の決闘は明瞭性の決闘。明瞭性の決闘は一貫性の決闘。帝王は余所者を排除した。永続魔法 《一族の結束》。戦争に臨む悪魔族達を強化する。帝王は黒魔術を重用した。永続魔法 《漆黒のトバリ》、引き入れた闇属性を墓地に貯め込み、更なる戦力を引き入れる。帝王は真正面から進撃した。永続魔法 《進撃の帝王》。戦陣の上位者達を眩いばかりのオーラが覆い尽くし、『効果対象』 並びに 『効果破壊』 を弾く。天空からの使者シンクロモンスターを撥ね付け、大地からの傭兵エクシーズ・モンスターを撥ね除け、純血主義を旗印とした強固な進撃。《侵略の波紋》が波打つと同時に、【純血主義(インヴェルズ)】の時代が幕を上げた……

      進撃の帝王     漆黒のトバリ       一族の結束   
  インヴェルズ・ギラファ インヴェルズを呼ぶ者 インヴェルズ・モース
    (2600+800)    (1700+800)    (2400+800)

                 霞の谷のファルコン                
                    (2000)
    デモンズ・チェーン  Set Card  Set Card  ピンポイント・ガード

(おかしい)
 帝王は目を見張った。補給を密室で賄う《漆黒のトバリ》、戦意の高揚を図る《一族の結束》、正面突破を至上とする《進撃の帝王》。純血主義のもとに集められた軍勢が、無人の荒野を踏み荒らした筈だった。帝王は狼狽を深める。眼前に広がるのは、無人の荒野どころか見渡す限りの大自然。フィールド魔法は発動していない。目を擦る。目を開ける。変わらない。山が聳え、川が流れ、花が咲いていた。帝王は目を凝らし、大自然の発生源を探る。いた。緑の髪と黄の瞳。優男がそこにいた。
「まやかしを!」 あらゆる1回戦を勝ち抜いてきた、 1回戦の帝王 が声高に叫ぶ。
「手札からマジック・トラップを1枚セット。ターンエンドを宣言」

「あいつは何者だ」 テイルが傍らのラウに聞く。
「あいつか? あいつは 1回戦の帝王 ……」
「ちげえよ。あの華奢な優男は何者かと聞いてんだ」
「もののついでに調べておけ。あいつは西部個人ランキング3位……」
「それについては不肖、わたくしめがお話ししましょう」
 次の瞬間、2人の目の前に巨大な柱が突き立てられる。あたかも電柱のように聳え立つ柱の上には、今一特徴を掴みづらい何者かが立っていた。電柱の上の男が怪しげなスイッチを押すと同時に、空気を抜かれた風船のように柱がしぼむ。接地完了。すぐ目の前にはテイルとラウ。
「おまえは……」 「このパターンは……」
 知らない。テイルはその顔を知らない。無論名前など知りはしない。故Team BoostUpperのリーダーにして、カードショップ "ヘブンズアッパー" の店長であることなど知りはしない
「ラウ先生、あんたなら知ってるだろ」
「登場方法の傾向からして、心当たりがないでもないが……」
「西部五店長が1人」 「 『変幻』 店長ゴーストリック・ライアスタ」
 ダァーヴィットとデッドエンドがその名を告げ、降りてきた男はにっこりと笑った。
「西部五店長最弱の座をほしいままにする、わたくしめのことなどどうでもよいでしょう」
「ああ、興味ねえ」 テイルはばっさり言った。 「あそこにいる、頭が緑ってる男は何者だ」
「西部五店長最強の男と決闘を行い、一度は引退を決意させた決闘者でございます」
 
「ドロー」 華奢な男がカードを引いた。見渡す限りの大自然の中、常に開かれた掌が綿毛のようにふわりと浮かぶ。 「《マジック・プランター》を発動。《リミット・リバース》を墓地に送り、デッキから2枚引く」 柔和な双眸で戦陣を一瞥。

 ゆったりと動く。



しからばお相手しよう

魅洲斗芭麗(みすとばれい)鳥獣騎士(ファルコン)を攻撃表示!




「なんであいつ」 テイルが疑問を口にする。 「決闘盤を2つ持ってんだ」
 ライアルは、左腕に装着していたショート・ブレード型デュエルディスク 決闘風盤(フーガ) を右手で掴むと、手首のしなりを生かしたクィックサイドで放り込む。
「更にもう1つ。《ドラゴンフライ》を通常召喚」

霞の谷のファルコン(2000/1200)
攻撃宣言時 自分のカード1枚をバウンス
[効果] [4] [風] [鳥獣]


ドラゴンフライ(1400/900)
風属性専用リクルーター 
攻撃力1500以下をリクルート
[効果] [4] [風] [昆虫]


 ライアルが布陣を露わにした。エスニックな雰囲気を醸す鳥獣騎士と、過酷な環境の中で進化した蜻蛉(とんぼ)人間。 「バトルフェイズ」 鳥獣騎士への攻撃指令。剣の向く先は《インヴェルズを呼ぶ者》。 『点の取れるゲームメーカー』 を目指し、2500まで上げた叩き上げの前線指揮者。  「無謀な真似を!」 帝王が嘲笑った。玉砕。魅洲斗芭麗(みすとばれい)のファルコンは確かに散った。

 風力発電という概念がある。

『ほとばしっている! ライアル選手の右腕が、 決闘雷盤(サンガ) がほとばしっている! 戦闘破壊された鷹羽の騎士は、しかしタダでは死なない! 攻撃宣言時、《デモンズ・チェーン》を手札に回収。更に! 予め発動しておいた《サンダー・ボトル》の中に、雷カウンターを1つ貯めている!』
 決闘が動くと同時に、ゴーストリック・ライアスタがテイルの耳元で囁いた。
「左腕の 決闘風盤(フーガ) にはモンスター・ゾーン用のブレードが、右腕の 決闘雷盤(サンガ) にはマジック・トラップゾーン用のブレードが仕込まれています。片腕一本に丸々一つは重いとのこと」
「そんなもん、どうしてもってんなら、 決闘小盤(パルーム) でも使えばいいだろ……ったく」
「バトルフェイズ続行。散ってくれ、《ドラゴンフライ》」
 泰然自若転じて電光石火。弧を描くように鋭く手を振ると、《ドラゴンフライ》が後を追う。裂かれる身体、溢れ出る死臭。同胞を喚び寄せる魅惑の死臭。1体目から2体目、2体目から3体目、決闘風盤(フーガ) が寄せては返す度、 決闘雷盤(サンガ) に雷カウンターを貯めていく。そして、
「……《ドラゴンフライ》(C)の効果発動。《烈風の結界像》を特殊召喚……正面にチェーンラインを敷き、永続効果適用。風属性以外の特殊召喚を封じる。メインフェイズ2」
「自爆特攻で4000弱も払うとは。血迷ったかライアル」
「《サンダー・ボトル》にカウンターが貯まりました。今すぐにでも放てます」
「それを血迷ったと言っている。《サンダー・ボルト》であろうと、《ライトニング・ボルテックス》であろうと、《進撃の帝王》のバリアを突破することはできん! こんな自然など虚仮威し!」
「流石はTeam Emperor。モンスターの誘発効果と、マジックの永続効果を主体とするその戦法は、私にとって極めて厄介な代物。しかして大会は長丁場。大細工(サイドボード)を弄す」
 脚幅を広げたライアルがすっと盤を構える。やや大きめのステップから 決闘風盤(フーガ) を投げ入れたその瞬間、広大なる大自然の上を巨大な竜巻が走り出す。既に何かが蠢いていた。深緑を刻印された装甲、薔薇を彷彿とさせる羽根、異形の名は ―― 霊神。



Windrose the Elemental Lord

霊 神 童 話(エレメンタル・ストーリー)大 地 散 翔(ジャンプ・トゥー・アース)




風霊神ウィンドローズ(2800/2200)
@墓地の風属性モンスターが5体の場合のみ特殊召喚できる
A特殊召喚時 相手のフィールド上のマジック・トラップを全て破壊
Bフィールドから離れた場合、次ターンのバトルフェイズをスキップ
[特殊] [8] [風] [鳥獣]


 ライアルの横髪が微かに揺れた。基盤を揺らす無情の轟風。《漆黒のトバリ》が、《一族の結束》が、《進撃の帝王》が、帝王の威光が地を離れる。そして、
『開いているぅっ! "2つ" の壷が、吐く為に、吸う為に、ぱっくりと開いているぅっ!』
  決闘雷盤(サンガ) に挿されていた2枚のカード。魅洲斗芭麗の名産品が外敵を祓う。《サンダー・ボトル》が溜めていた雷を吐き出し、防御を欠いた侵略者達を更なる雷が襲っていた。風と雷のデュオ・アンサンブル。狼狽した帝王は条件反射で《大革命返し》を試みる、が、デュエルオーブが光らない。もう1つの壷が、《心鎮壷のレプリカ》が自惚れた安全装置を封じ込めていたから。
 問答無用の一網打尽。風と雷の二重奏が無に返す、全てを。

サンダーボトル(永続罠)
@自軍攻撃時に雷カウンターを1つ載せる
A雷カウンターが4つ載ったこのカードを墓地に送る
⇒相手フィールド上のモンスターを全て破壊する


心鎮壷のレプリカ(永続罠)
フィールド上にセットされたマジック・トラップ1枚を選択して発動⇒このカードがフィールド上に存在する限り、選択されたカードは発動できない(このカードの発動に対して、モンスター・マジック・トラップの効果を発動することはできない)


 緑の髪と黄の瞳。幻想的な世界に佇む26歳の優男。 カットソーから芽生えた手は綿毛のようにふわりと舞い、ジーンズから根付いた足はしっかりと地を掴んでいる。
 Team MistValley主将 ―― ライアル・スプリット。
「おいおい」 テイルがライアルの片鱗を知る。 「全部消えちまったぞ。しかも結界像さんのおまけ付き。あれがある限り斥候や魔細胞も喚べない。殴ろうとしても《デモンズ・チェーン》で詰んでる。……あんだけふわふわゆったりしてたクセして、動き出したら一瞬かよ」
「私はマジック・トラップを2枚セット。ターンエンドを宣言」
「なんということだ」 1回戦の帝王が呻いた。 「西を平定する筈の布陣がこうも……しかし! 私には相棒がいる! 帝王には皇帝がいる! 天に二君が両立する矛盾、その恐ろしさを今こそ ―― 」
「そんなもんねえよ」
 豪傑がそこにいた。ミツル・アマギリをして 『何かと大雑把な決闘だがそれが怖い』 と言わしめる28歳。ライアルの相棒を務める褐色の豪傑ジャムナード・アックスが、全長2メートル50センチの両刃斧型デュエルディスク 決闘斧盤(グレイトアックス) を雄々しく担ぎ、対岸の決闘を速やかに終わらせていた。
 名だたる1回戦の帝王が、1回戦の侵略を果たせぬままに崩れ落ちる。
「おお、なんという……なんという……我々の1回戦は……ここに崩壊を迎えた」
『各個撃破の掃討戦! Second Duelを制したのは、ライアル・ジャムナードペア!』 

「つまんねえの」 褐色の豪傑、ジャムナード・アックスは言葉を濁さなかった。
「そう愚痴るなジャムナード。全ての戦力を失った以上、懸命な判断ではある」
「諦める奴にターンは回ってこない。地縛神の威に屈したフェリックスの腰抜けがそうであったように」
「ジャムナード、君は率直すぎる」
「事実を言ったまでだ。ゼクト・プラズマロックとギャラクシー・フェリックスのいさかいは知っているだろう。リーダーとエースが互いを見放しリーダーが抜けた。抜けたゼクトはどうなったか。夜の決闘に溺れてその辺のチンピラとタッグを組んだという。それがああなったんだから茶番も茶番」
「ジャムナード。少し自重したまえ」
「おまえこそ、たまには全力で ―― 」
 ジャムナードが口をつぐむ。視線を外したライアルは哀しげな表情でTeam Emperor陣営を見渡した。領土平定の為に身を尽くし、異民族討伐(いっかいせんとっぱ)に明け暮れた君臨者達の成れの果て。
「私も、彼らとそう変わりはしない」



Technological Card Game ――

Chain Duel ――

Complete ――

Winner ――

Team  MistValley!




「流石は強豪Team Mistvalley」 観戦したラウが呟く。 
「あのライアルは、数少ない 精神感応系決闘者 と聞く」
「なあ」 テイルは口元に手を添えると、思いつきを口にする。
「あいつの本領は 全体除去(おおざいく) じゃねえだろ。あんな雑なもんすぐ見切られる」
「フィジカル面に若干の不安があると聞く。適当に捌く決闘を知っているのだろう。それができるから、実績重視の西部個人ランキングで3位という高位置にいる」
「匂いがするんだよ、あいつからは」 「どんな?」
 テイルは答えなかった。じっと黙って考え続ける。
(同類の匂いがするんだよ、あいつからは……)
「ま、いいさ。誰かトーナメント表持ってる? 貸して」
 テイルはゴーストリックからトーナメント表を借り受けると、後半の組み合わせを確かめる。
「めぼしい強豪の決闘は粗方拝んだ。こっからは、ろくでもない連中の殴り込みってわけだ」

「大会の景色が前と違って見える」
 対岸の観客席に立つ者1人。白装束の男が嘆息する。
「なんともうるさく、なんともおぞましく、そしてなんとも美しい」
 元Team Galaxyリーダー、ゼクト・プラズマロックが真夏の日差しをフードで遮っていた。
「フェリックスとの口論から半年か」
 自前のホワイトローブからデッキを取り出すと、中から1枚のカードを取り出す。 「《ライトレイ ソーサラー》、おまえはこの選択を喜んでくれるか」 絡み合った糸のような感情に身を晒す。
「こんなところにいたのか、相棒」
 後ろから、黒い肌の男が声を掛ける。黒装束のフードを外し、威圧的なドレッドヘアをなびかせた快男児。その名はバイソン・ストマード。買ってきた飲み物をゼクトに手渡し、
「俺達の出番が待ち遠しいな」 にやりと笑ってそう言った。
 ゼクトは軽く眼を細めると、相棒に向けて呻くように語る。
「バイソン、実はな……

 いや、なんでもない。なんでもないのだ」
 どこか申し訳なさそうに顔を背けるゼクトの、その背をバイソンは力強く押した。 
「はっ!」 バイソンは喉を鳴らすと、デッキから《カオス・ソーサラー》を取り出す。
「こいつが闘いたがってるんだ。さあ、行こうぜ相棒!」
 発破をかけられたゼクトは、目を瞑ってソーサラー同士を重ね合わせる。
「我々正閏叛列Boy'sは、無限の相乗効果を持つタッグだ。そこに嘘は無い」
「誰が相手でも構うものか。あの敗北を糧に、ブラッシュアップした俺達の決闘で」

「観客席から飛び降りたら……駄目?」 女性の、良く通る声が響いた。
「駄目に決まってるよ!」 「私達はどうすんの」 「ちゃんと地図見ようよ〜」
 4人。20代前後と思われる長髪の女性が1人と、14〜16と思しき女子が3人歩いていた。道に迷ったらしくきょろきょろと辺りを見回している…… 「あ!」 長髪の女性が素っ頓狂な声を発した。ゼクト・バイソン両名と一瞬目を合わせると、きまり悪そうに口を閉じる。
「我々になにか?」 ゼクトが問いかけるが、女性はすぐさま首を振った。
「いえ、なんでもありません! さ、みんな、ちゃっちゃと下に降りるよ!」
「だからどうやって降りるの」 「頭悪い……」 「ちゃんと地図見ようよ〜」
 御一行が去って行くのを見届けると、ゼクトが怪訝な顔で言った。
「なあバイソン。あの女、我々を見て何かに気付いたかのように」
「あんたは西部の有名人だろ。なら反応しても不思議じゃ……」
 瞬間、2人の脳裏に雷が走る。連戦連勝の夜の決闘。 『俺達は、清らかな純情とほんのちょっとの劣情が入り交じる光と闇の快男児』 『この次元を制覇する表裏一体の新しいレジェンド。人呼んで "正閏叛列BOY's" だ!』 全身からみなぎる自信。 『格好は変態じみてるが夜の仮装は不問でいい。どうする? 相棒』 『素敵な快楽に変わってくれると期待するよ。さあ構えるがいい』 負ける筈がないと信じていられた時間。 『混ざり合って消えろ! 《カオス・ソーサラー》、ネオ・ダーク・バニッシュ・マジック!』 『照らしてみせよう闇夜の灯り! 《ライトレイ ソーサラー》、シャイン・バニッシュ・マジックU』 白魔導士の傲慢と、黒魔導士の不遜はそう長く続かなかった。《ライトレイ ソーサラー》は白腕の解力で肥やしとなり、《カオス・ソーサラー》は黒腕の暴力で吹き飛ばされる……蘇る記憶。
「彼女は……」 「あの時の……」
「闇夜の変態!」 「決闘仮面!」



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。ちょっと修正
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


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