2500年に起こった地殻大変動。あの日を境に世界は変わりました。総人口は1/100にまで落ち込み、文化文明は見る影もなく消え去り、降って沸いた暗黒期が世界を覆い尽くしたのです。それはそれは酷い有様でした。しかし正直に申し上げますと、小生の関心事にはほど遠い出来事でもありました。その頃の小生と言えば、度重なるデュエルブームが遂に沈静化したことで生き甲斐を失い、無限遠に向けて改造・保存された肉体を更新し続けるだけの生ける屍であったからです。そう、この時点においては、世界がどうなろうと小生の知ったことではなかったのです。

 生き残った人類は、大変動を生き残っただけあって生命力に満ちていました。復興に次ぐ復興……何かがおかしい。彼らは餓えている。彼らは何かに餓えている。何に? ある日、小生は気付きました。小生だからこそ気付いたと言えましょう。生き残った人類は、生き残った大地は、かつてのそれとは異なった傾向を持っていたのです。古今東西、万物に気(オーラ)が流れているのは周知の通りですが、彼らの気は濃いのです。時には目視可能なほどの濃いのです。小生は打ち震えました。同じだからです。それはかつての決闘黄金期、五指に入る程の決闘者が発していた 決闘波動 に極めて近い性質の代物だったからです。札と威を、大地から引き出した決闘者との近似性が、大変動を生き抜いた人類と大地に宿っている……そうです。思い返せば、決闘中、光合成に目覚めた者さえいたではありませんか。人間は幾らでも進化できるのです。万物と闘い続けることで無限に進化していくのです。ならば決闘でしょう。小生は生き返りました。小生は生き返ったのです。人間の体内を流れる気 ―― 即ちデュエルオーラを利用した新しい決闘を打ち立て、眠れる決闘民族の餓えを満たすこと……それこそが、凡俗なる模倣者の役目。全てを投げ打ってでも完成させるべき小生の大業!

 雄大なる地層、燃え盛る活火山、神秘に彩られた深海……進化した鉱石を用いて多様なるカードユニットを精製。1枚の札に納められた大地の可能性が、決闘者自身との共鳴によって引き出されていく……しかし、ここで小生は壁にぶち当たります。デュエルオーラに同調する決闘盤、それ自体は思いの外あっさりと仕上がりました。しかしそれだけでは足りない。決闘復興とは決闘の再生産に非ず。進化した決闘民族に同調する進化した決闘でなくてはならない。決闘は勿論あらゆるものが減退した世界だからこそ、決闘が文化を、文明を、産業を、歴史を、あらゆるものを引っ張り、それでいて決闘の根源たる "激突" を最大限引き出すものでなければなりません。既に消費され尽くした世界に別れを告げ、人間の可能性を限界まで引き出すツールでなければなりません。何かが必要でした。ブレイクスルーが求められていました。何か、何か使えるものはないか。過去の記録を掘り返した小生の目に思わぬものが飛び込んできました。あの偉大なるエスティバーニ博士が生涯を賭して作り上げた決闘装置『OZONE』。小生は打ち震えました。過去からの贈り物はもう1つあったのです。人類と大地の合作を、誰の目にも明らかなように示すにはこれしかない!

 エスティバーニ博士の考案した初期型のOZONEは、『決闘という現実を、映像に加えて衝撃波で具現化する』 というコンセプトのもとで作られていました。彼は "脱構築型デッキ構築の申し子" と言われた優秀な決闘者であり、『決闘を二次元から三次元に引き上げることで人間の感覚そのものを四次元的に引き上げる』 という常人には理解しがたい思考回路で制作に及んでいたと聞きます。ある種の啓蒙とも言えたその作業は、寿命という名の有り触れた悲劇によって挫折します……挫折したかのように思われました。しかし、今ここにOZONEがあり、今ここに同調型決闘盤があるという事実が、全てを反転させたのです。私はOZONEの特性である物理性と、同調型決闘盤の特性である人間性を合体させることを考えつきました。OZONEより下なら問題はない!

 OZONEは決闘の質感を詳細に再現するシステムでしたが、そこには変数が欠けていました。小生は、その欠けたる部分に、構築と発動を通して編み込まれたデュエルオーラを代入……
 嗚呼、なんと素晴らしいことでしょう! OZONEは決闘者の鏡として、時代を超えた完成を果たしたのです。決闘盤を構え、デュエルオーラを込め、OZONEに投げ入れ、衝撃波に換算し、モンスターを召喚! 小生の研究は加速しました。マジック・トラップはどうされる? 当初は決闘盤で一元化するつもりでいました。しかしどうも上手く行かない。モンスターの時はあれほどしっくりきた投盤にさほどの価値がないとわかります。なぜでしょう。286日間の研究の末にわかりました。元々の性質として、マジック・トラップの情報化自体は優しい。 "レベル7" "地属性" "岩石族" ……煩雑な情報で実体を固めるモンスターと比べればそれは明らかです。一方で、マジック・トラップはイメージを掴みにくい部分を有していました。要はそういうことなのです。確固たる実体化に多大な衝撃波を要するモンスターには投盤力が有効でしたが、流動性の高いマジック・トラップにおいて必要なのはむしろ想像力。投盤においても有効な想像力は、発動においては更なる有効性を持っていると気付きます。そこで小生は、発動者が集中しやすいよう魔術師然としたデュエルオーブを作り上げました。そう! デュエルディスクによる投盤力とデュエルオーブによる想像力。身体性と精神性の両面から、物理性の世界 ―― OZONEへの共鳴を促したのです。

 『OZONEは何もしない。映し出すだけだ』 それがエスティバーニ博士の言葉でした。OZONEはそこにあるのです。OZONEはそれだけの装置でしかありません。その代わり、以前の決闘装置と比べても、より明瞭に決闘者の集大成を映し出すことでしょう。そしてそれらは、より感性的で、より飢餓的なこの世界の住人達に、むせ返るほどの相互作用をもたらすことでしょう。大地と天空、空想と現実、結合と分離、回避と激突……螺旋を描いてぶつかり合う業と業。決闘が観たい。その一心から小生は、新たな決闘装置を創り上げました。札に餓えた決闘民族達は受け入れてくれるでしょうか。実戦の権化と構築の天才に叱咤され、凡俗なる小生が研磨したこの新たな可能性を……。

                                         〜ある決闘紳士の記録〜


                  第六章:小さな部屋と大きな世界


                   □前話 □表紙 □次話








































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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