決闘中のことだ。森勇一はふと思いだした。昔智恵が万屋の連中と一緒に茶番劇を仕組んだときのことを。あのとき学んだことが一つ。茶番というものは、つき合わせる側はそれなりに楽しいが、つき合わされる側はたまったものではないということだ。何が嫌かって、わかってみると本当に茶番以外の何物でもないのが嫌過ぎる。一瞬でも茶番だと思っていなかった自分が恥ずかしくなってくるわけだ。やる側も馬鹿ならやられる側は大馬鹿だ。そして今、勇一はふと思う。これもまた茶番だな、と。はっきりいうまでもなく心底馬鹿馬鹿しいが、茶番だとわかるだけ現状はまだマシなのかもしれない。そんなことを勇一は何の気なしに考えていた。決闘中に? 少し余裕があったからかもしれない。現に今、天を衝く勢いで皐月を倒した筈の佐伯琢磨は既に顔面蒼白であった。
(おかしい、ですね。プラズマヴァイスの決闘をもってして、まるで歯が立たないとは……)
 佐伯、いやゴライアスは驚いた。事前にデータはとってある。彼が招待された大会においても、常に特等席で試合もみている。確かにこの決闘は確認のつもりだった。店の視察のついで、森勇一の実力が並ではないことを確かめるための決闘。しかし、ここまであっさりとやられることは計算になかった。ゴライアスの行動目的からして喜ばしいといえば喜ばしい。だがしかし、ここまでやられたまま引きさがっていいのだろうか。そんなことをふと思わせるぐらいには強かった。皐月を圧倒した筈の決闘は、最早その名残すらなかった。勇一は既に贋作の動きを見切っていた。彼はおもむろに口を開く――

「さっきの停電のときこっそり聞かせてもらったが、おまえ、ゴライアスっていうんだってな。一応覚えたんだが、この先その名前をもう一度聞くような機会はあるのか? 巷で噂の、裏コナミの決闘者はあの大会にいったいどこまで絡んでいる? おまえはいったい何を企んでいるんだ? 答えろよ」
 勇一の刺すような質問。周りの目もある。彼はとぼけた。
「なんのことでしょうか。私は佐伯、それ以外ではありません」
「そうか。じゃ、続けようぜ。このままじゃ何も変わんないと思うけどな」
 既に勇一は一勝。確かにこのままいけば勇一の圧勝。このままいけばの話だが。
「悪いがサツキとの試合でおまえの手の内は粗方見せてもらった。プラズマがやけに派手だったからなおまえの試合は。といっても、おまえも俺の対戦データぐらいは事前に調べあげてるんだろ? じゃあ不公平はないよな。単に様子見がいらない分実力に応じて試合がさっさと終わるだけ。本当言うとな。おまえが裏コナミの何者かなんて知りたい気分じゃないんだよ今日は。あんたが俺達を大会に呼んだこともそれはそれでいい。それ以上でもそれ以下でもない限りはこうして遊ぶ。だから……さっさと手の内を見せろ」
 勇一とゴライアスの間でのみ意味を持つ会話。周囲は話についていけないがついていく必要もないのだ。ゴライアスは不気味な笑みを浮かべた。この相手はもう少し試す価値がある。彼は手に持っていたコインを上に投げた。反射的にギャラリーの眼がコインに向く。そして彼らの眼が再び戦場に戻るそのとき、既に入れ替わりは完了していた。恐るべき速さ。いつの間にやら、彼は別のものになっていた。
「お、おい。アイツの顔、さっきとちょっと違わないか?」 「そんなわけないだろ。ずっとここにいるんだぜ」
(そうそう変えると流石に不味いですからねえ。しかし、撹乱するにはこれで十分でしょう)
 別の男。かの男は先程に比べ一から十まで力強さを前面に押し出すスタイルだった。
「いくぜ。手札から《E・HERO フォレストマン》と《E・HERO オーシャン》を融合! 《E・HERO ジ・アース》を特殊召喚。更に《ミラクル・フュージョン》を発動! 再度《E・HERO ジ・アース》を特殊召喚!」
「お、おいみろよ! さっきまであんなに《E・HERO プラズマヴァイスマン》一点張りだったのに!」
 静電気は既にない。かわりに熱いマグマのような熱気が店内の温度をあげにかかる。
「《E・HERO ジ・アース》! 別の融合E・HEROを出しやがった。まるで別人のようだあ!」
 たちまちの内に佐伯ではない誰かとなったゴライアスは再び森勇一に襲いかかる。その得体の知れなさ。常人ならば混乱に沈むところである。常人ならば、の話であるが。
「さあ、どうする?」 「どうでもいいけど、そいつは多分通用しないぜ」 
「つまらないハッタリ! 《E・HERO ジ・アース》2体で随時直接攻撃!」

森勇一:3000LP
佐伯琢磨:7000L


 “佐伯ではない誰か”の攻撃は勇一のライフをごっそり削る。スタイルも、態度も、声色すら変わっているのは驚異の一言。しかし勇一は動じない。動じないわけがある。
「俺のターン、ドロー、2枚セットしてターンエンド。もういいぜ」
 勇一はあっさりしたものだった。特に怯える様子もなかった。
(これも一種の自己紹介か? そんなつもりもない癖に。失礼なやつだ)
 内心冷めきった勇一。一方、かの男はマグマで水を湯に変える。
「俺のターンだ、ドロー。行くぜ! 手札から《E・HERO オーシャン》を召喚!」
 “彼”は勢いよく追撃の一手を召喚した。合計三枚の伏せに怯えることもなく、まさに堂々としたものである。しかし勇一は動じない。彼は冷やかな視線を相手に送る。
「よし終わった。時間がかからなくて助かる」 「なんだと?」
「その、無駄に一回右肘を後ろに引っ張る、一度見たら忘れたくても忘れられない珍妙なプレイスタイルは西日本ソリティアの会所属の決闘者・田代……うろ覚えだが、たしか、田代真一だろ」
 実際は田代真二である。もっとも、勇一が脳裏に浮かべたスタイルに違いはなかった。
「何回も悪くてすまないが、そいつには昔勝ってる。周りの眼があるんで日本人の中でも見た目がそれなりに似通ったやつをチョイスしたんだろうが、それじゃ俺には勝てない。ま、別のやつを選んでも大差はなかっただろうけどな。冥土の土産に教えておくと、そいつのプレイングも無駄に肘を張るところが欠点だ。その追撃の一手を出した時点でおまえの負けだよ。リバース、《リビングデッドの呼び声》を発動。《クリッター》を特殊召喚。そしてもう1枚リバース、《つり天井》だ」
「馬鹿な」 「馬鹿だ。そう、馬鹿な茶番に付き合ってやれるほど暇じゃない。さっさとサレンダーしろ」
 勇一は試合放棄を促した。もう決着はついている、そう言いたげである。事実、そうかもしれない。
「おまえの企みなど知ったことじゃないが……レベルの心配をするなら安心しろ。俺が優勝する。面子を保ちたいならそれで十分だろ? わかったら消えろ。俺は今日少し機嫌が悪い。正体もろくに晒していないやつとチマチマ争う時間はない。それとも真の姿とやらを見せるか? それならもう一戦やってもいい」
「正体!?」 「森のやつはなにをいってるんだ?」 「心理戦じゃないか?」 「どういう心理戦だよ」
(素晴らしい。実に優秀。そうですねえ。ここらが引き際でしょうか。もっとも、私がこの店の営業調査のついでにたまたま現れた貴方方の力を調べたのは、面子とやらを保つためではございませんがね)
 結果として、ゴライアスは棄権した。勇一の実力にある程度満足しことが一つ、自己紹介をするといいつつもここで正体を明かす気など更々ないことを看過されていたのがもう一つ。ゴライアスは引き際を知る。流石といえば流石なのかもしれない。決着に湧き上がるギャラリー。一方、勇一は再び溜息をついた。
(息抜きに来た筈が無駄に疲れる。だが評判を落とすような真似をするわけにはいかない。精々遊ばせてもらうさ。そうでもしないと疲れるだけだ。と、そういやシンヤは……あれ? 包帯男と決闘をしているのか? あいつ一回戦で負け下りだろ? 一回戦を勝った包帯男とあたるはずがないが……)
「クッククク……クフフフフ……」 (不気味な奴だ。向こうはどうなってるんだ?)
 流石の勇一も異形の紳士・ゴライアスの相手をしながら包帯男の動向をつぶさに捉えるまではいかなかった。だがやはりというかなんというか相当な異形。勇一はまたも溜息をついた。一難去ってもう一難。向かい合うだけで疲れそうな相手。それが謎の包帯男というものだ。しかしなぜそんな面倒な相手と信也はわざわざことを構えているのか。どうせろくでもないことなのだろうが……。それは勇一が本気でゴライアスを圧倒している間のことだった。珍しく序盤から牙をむいた勇一の迫力におされ、ギャラリーもまた包帯男へのマークを少しばかり緩め出したときのことである。

「なんだなんだ?」 「森勇一とパンダ野郎に目を奪われてる隙になにが……」
 後方で何かが起こった。光? 闇? いったい何が起こったのだろうか。
「い、いやだ。もうあいつとはやりたくない。呪われちまうだろ。や、やっぱやめだ」
「お、おいおい今更なにを言ってるんだ。今更放棄なんかされたらうちの店が……」
「まさかとは思った。俺のマシンナーズに限ってと思ったのに…………さ、さよなら!」
「ふん。たわいもない。闘う度胸も無しにこんなところにくるとは……これだから愚民は困る」
 スリーラウンドマッチの決着を待たずして相手を逃亡に追い込んだ包帯男。そうなのだ。ここには包帯男がいたのだ。ざわつくギャラリー。やはりこの男は異形。と、そこに一声。
「成程。確かに怪しすぎる。いざ闘うとなれば逃げたくもなるよな。と、いうわけで、僕とやりましょ」
 謎の包帯男が後ろを向くとそこには信也がいた。彼は、放棄された皐月のデッキを束ねて立っている。
「なんのつもりだ」
「実は僕の二回戦も不戦勝。僕の相手は、貴方との戦いでのショックで蒸発しちゃいました」
 謎の包帯男の余波がここにも出ていた。皐月の1件も含めれば8人中3人が逃亡。残り5人中2人が露骨に変質者と店にとっては泣きっ面に蜂。しかしそれを契機とする者もいる。
「いいだろう。向こうが終わるまでの時間潰しにはなる。かかってこい。遊んでやる」
(これでいい。思わず逃げたくなるような相手と遊んだ方がいいきっかけになるかもしれない)

元村信也VS謎の包帯男

「実はこれ先輩のデッキなんですよ。女子高生の脱ぎたてカードスリープとか言ったら案外高く売れるかなっと……ドロー。カードを2枚伏せるっと。じゃ、これでターンエンド」
 どういう風の吹きまわしか。信也は皐月のデッキで勝負に臨んでいた。特に深い理由はない。単に気分を変えたかっただけかもしれない。彼は、包帯男をチラ見した。男は、やはり不気味だった。
「ドロー……手札からモンスターをセット。ターンエンド」
(さてさて、どういう決闘をやってくるのかなっと……)

2周目
シンヤ:ハンド4/モンスター0/スペル2(セット/セット)/ライフ8000
???:ハンド5/モンスター1(セット)/スペル0/ライフ8000

(いつぞやの1件で暗黒界はもう慣れっこだ。十分使いこなせるはず……あれ? 使いこなせてたっけ)
「ドロー……手札から《暗黒界の取引》を発動。お互いに手札から1枚ドローし、1枚捨てる。僕は《暗黒界の軍神 シルバ》を捨て、その効果により場にシルバを特殊召喚(とりあえずこれで殴っとけ)」
 皐月のデッキの動きは大体把握している。動かすだけなら十分できるはず。そう信也は自分に言い聞かせた。いい加減闘いの幅を広げたくなったのだろうか。手遅れ、という気もするが。
「手札から墓地に捨てるのは《スフィンクス・テーレイア》」
(《スフィンクス・テーレイア》か。初めてみるモンスターだな)
「《暗黒界の軍神 シルバ》でセットモンスターに攻撃します」
「《クリッター》。効果発動。デッキから《ファントム・オブ・カオス》を手札に加える」
(なるほど。少しづつみえてきた。それじゃ今度は、おあつらえ向きの壁でも出すかな)
「手札からモンスターカードを1枚セット。僕はこれだけでターンエンドしときます」
(さあて、そろそろくるか? くるならこい。それでこそ自分がみえてくる……かも)
 今のところ手に震えはない。安定している。しかしそれは戦況がまだ動いていないからに過ぎないのだろう。震えが手を止めるくるタイミングは大体こちらが攻め込んだときだ。それも、打ち込めば一気に勝負手となるような局面が大半。相手のライフをゼロにできそうな場面などはもういけない。信也は手をぎゅっと握りしめた。ここからだ。問題はここからなのだ。他方、包帯男は信也の内情など知る由もなく。いや、たとえ知っていたとしても特にどうということもなく。包帯男は徐々に攻撃を開始する。

「ドロー。手札から《ハンマーシュート》の効果を発動。シルバを破壊する。そして手札から《ファントム・オブ・カオス》を召喚。効果発動。墓地に置かれた《スフィンクス・テーレイア》の効果を得る。小童よ。分をわきまえぬ己を後悔するがいい。バトルフェイズ、《ファントム・オブ・カオス》でセットモンスターを攻撃……」
「破壊されたのは《暗黒のミミック LV3》。コピーされた《スフィンクス・テーレイア》の効果により500ダメージは受けます。ミミックの効果を発動。僕はデッキからカードを1枚ドローする」
「2枚伏せターンエンド」 包帯男は余計なことを一切語らなかった。ただ、黙々と決闘をしていた。
(不気味。なんていうか不気味だ。そんなすごいタクティクスじゃない。だけど、確かに何か得体のしれないものを感じる。どうする? このデュエル、どう捉えればいいんだ?)

3周目
シンヤ:ハンド4/モンスター0/スペル2(セット/セット)/ライフ7500
???:ハンド3/モンスター1(《ファントム・オブ・カオス》)/スペル2(セット/セット)/ライフ8000

(さてさて、どうせ皐月さんほどにはうまくやれないだろうけど、とりあえず殴ってみればいいのかな。それにしてもあれだな。面白みがないというか攻撃型の割には妙に手堅いデッキだなこれ)
「ドロー……(アド効率はよくないだろうけど、まあ、やるだけやってみるか)」
 手札には汎用性の高い「帝」もある。しかし信也は「帝」を温存して別の手を打った。
「リバース、《クリボーを呼ぶ笛》を発動。《クリボー》を特殊召喚。更にこのカードを生贄に《暗黒界の武神 ゴルド》を召喚! バトルフェイズ、《ファントム・オブ・カオス》を撃破!」

シンヤ:7500LP
???:5700LP


「(勘だけど伏せは除去じゃなくフリーチェーン系の何かな気がする。だからデッキの中核を占めていない、総数に不安のある(だったような気がする)帝(っつーか汎用除去)は温存……そういう考え方の時点で既に微妙なのかもしれないけど……まあいいや。エキシビションエキシビション。それにしても効いたのかそうでもないのか。なんとか言って欲しいな。不気味すぎる。) それじゃ、ターンエンド」
 謎の包帯男はその名の通り包帯を巻いている。ゆえに表情がみえない。信也の額から汗が一滴。妙なプレッシャーだ。と、そのとき包帯男が動きを見せる。包帯男は、左手を水平に、右手を垂直に、謎の構えをとった。そしてそこから左手を垂直に右手を水平に……波が寄せては返すように腕を動かす。
「一抹の闇は淡くも消えさり、太陽の時間が訪れる。たたえよ。たたえよ。たぁたぁえよぉ」
 何とか言ってほしい、そうは言ったが、これはない、そう信也は思った。変人奇人変態……様々な二字熟語が浮かんでは消える。包帯男は目をぎらつかせ、そして全てを包み込む。
「ドロー。手札から《クロス・ソウル》を発動。ゴルドを祭壇に捧げ……《光帝クライス》!」
(動いた――?) 包帯男は光を求め、クライスを場に展開した。それはあたかも、太陽への求愛――
「効果発動。対象となるのはフィールド上の《八汰烏の骸》と《強欲な瓶》。そしてこの2枚を連鎖発動。結果、デッキからカードが4枚ドローされることになる。光だ。光を集めよ。祭壇に光を集めるのだ」
「お、おいなんだこれ……」 「なんか明るくないか? 必要以上に……」
「光よ集え。そして全てを滅ぼす源となれ。更なる連鎖を。《連鎖爆撃》」

シンヤ:5900LP
???:5700LP


(焼かれた? だがこの程度ではないはずだ)
「手札からカードを2枚セットする。ターンエンド」

3周目
シンヤ:ハンド4/モンスター0/スペル1(セット)/ライフ5900
???:ハンド3/モンスター1(《光帝クライス》)/スペル2(セット/セット)/ライフ5700

(不味いな。向こうのペースにのせられたら駄目だ。ここで手を打つ。しかしどんな手を? このデッキ、一撃の重みに頼れそうな感じはしない。それ以前に使ってて楽しいのか? これ)
 言うまでもなく、無断で人のデッキを使って愚痴るのは間抜けのやることである。信也は気を取り直してカードを引いた。引き当てたカード《暗黒界の取引》。信也は、何を得て、何を失うのか。
「ドロー。2枚目の《暗黒界の取引》を発動。僕が捨てるのは《暗黒界の狩人 ブラウ》。都合、デッキから2枚ドロー。(よし!) そっちが光ならこっちは闇だ。墓地の悪魔族3体をゲームから除外」
 今更言うまでもなく皐月のデッキはほぼ闇属性。景気づけに言ってみただけだったが、信也にはそれが必要だったのかもしれない。手にピリピリしたものを感じる。もうあまり時間はない? 信也は一瞬、自分は自分をどうしたいのかについて迷ったが、そんなことを考えている暇はない。信也、切り札を召喚。
「《ダーク・ネクロフィア》を特殊召喚。更に手札から《暗黒界の狂王 ブロン》を通常召喚」
(向こうも多重セットをしている。これが全部通るかどうか。だけど手の内はこれでみえる)
「バトルフェイズ、《ダーク・ネクロフィア》で《光帝クライス》を攻撃! 憑依させてもらう!」
「《アストラルバリア》を発動。ダイレクトアタックとする」 包帯男がにやりと笑う――?

シンヤ:5900LP
???:3500LP


「《アストラルバリア》? そんなもの……え? こ、これは!?」
 《アストラルバリア》に驚く暇さえシンヤにはなかった。
(光? どこから? なんでこんな、強烈な光が……?)
 突如としてシンヤを、店内を覆う強烈な光――。
「あれ? 今何があったんだっけ。エンドフェイズになってる? そんなことって」
 決闘盤の故障? いや、それはない筈。あり得ない混沌。信也は戦慄した。
「ターンエンドか?」 「くっ、ターンエンドだ。(今のはいったい……)」
 勢いを得た包帯男がカードを引く。信也の気持ちは、既に押されていた。
「ドロー……手札から《巨大ネズミ》を召喚。バトルフェイズ……みせてやろう」
(みせる? 何をだ? わからない。こいつはいったい何者だ? 何者なんだ?)
 《アストラルバリア》までは一応理解できる。そこまでは覚えている。ライフを大きく減らすので効率は悪いもののネクロフィアの自爆特攻からのラッシュを未然に防ぐ防御の一手。だがそこからが記憶にない。ぽっかりと空いたような感覚。謎の包帯男はいったい何をしたというのか。
「《光帝クライス》で《ダーク・ネクロフィア》を攻撃。《ダーク・ネクロフィア》を破壊する」
(どういうことだ? さっき《アストラルバリア》まで使って守ったのに? 意味がわからない)
 と、そのとき、信也の手が軽く震えだす。症状再発。包帯男へのプレッシャーが深層心理に結びつき、悪夢の記憶と同化しつつあるのだろうか。だが信也は懸命にそれを抑えた。抑えられる。これはまだ抑えられる。包帯男自体に脅威を感じているにすぎない。この点、信也は自分を制御するのに必死だった。
(大丈夫だ。まだ浅い。まだやれる。いや、克服するんだ。克服するんだ……)
「エンドフェイズ、《ダーク・ネクロフィア》の効果を発動。(クライスをもらって勝つ)」
 功を焦る信也はそれでもなんとかかんとか憑依能力を発動。当面の最強モンスターであるところのクライスにてっとりばやく憑依した。そう……憑依した“はずだった”。
「そうか。それならば仕方がない。《リビングデッドの呼び声》を発動。そちらの、2枚目の《暗黒界の取引》に際し墓地に落としておいた《神獣王バルバロス》を特殊召喚。憑依された《巨大ネズミ》に攻撃!」
(え? 《巨大ネズミ》?) 信也はわが目を疑った。しかし確かに、憑依されたのは《巨大ネズミ》。

シンヤ:5400LP
???:3500LP


(そんな馬鹿な。トラウマに気を取られて対象を間違えた。そんな筈は……そんな筈ないのに)
「《巨大ネズミ》が破壊されたことでリクルート効果発動。デッキから《ならず者傭兵部隊》を召喚。メインフェイズ2に移行。《ならず者傭兵部隊》を祭壇に捧げ、狂いし王、ブロンを追放する」
(くっ……相手の手の内すらみえてこない。色々な警戒心が高まり過ぎて慎重どころか単なる臆病になってしまっている。技術以前? ここまでか? ん? あれは……)
 包帯男の後方、信也の視界には勇一がいた。彼は、手で合図をしている。
(時間だ。こっちにまわせ、か。わかったわかったわかりましたよ。しょうがない)
「他も全部終わったようですし試合放棄します。ありがとうございました」

●元村信也VS謎の包帯男○

「ユウさん、あいつ……」 勇一は何かを言おうとする信也をとめた。一応はミニ大会中だ。
「何も言うな。仇はうってやるから。(そうだ。挑まれる以上は必ず勝利をもってかえる)」
 勇一は信也の肩をぽんと叩くと前に出た。すぐ横では店長が不安そうに見守っている
「さあて。使えない後輩がお世話になりましたっと。それじゃ、優勝決定戦を始めるか」
(ユウさん、気をつけてください。そいつは妙な術を使います。くれぐれも油断しないでください)
 包帯男は立ち塞がる。それどころか向かってくる。勇一を狙って向かってくる。舞台は優勝決定戦。どうやらお膳立てはきっちり整っているらしい。「やるしかないのか」。勇一は覚悟を決めた。
「クククク。きっちりあがってきたか。いいだろう。貴様を祭壇にささげ、光の礎としてくれる」

【ヘブンズアッパー杯】
森勇一VS謎の包帯男



第54話:勝利を呼ぶ相殺劇(ヴァニティ・カウンター)


「負けた負けた完敗だ」 (おいおい。ユウさんそりゃないだろ)
 驚くを通り越して拍子抜け。スリーラウンドマッチの第一戦、勇一は手もなく完敗した。謎の包帯男は勇一の方を恐ろしい剣幕で睨みつけている(正確には目だけしか見えていないが、それだけでもかなりきつい表情で睨みつけていることは十分に推し量れた)。手を抜いているとしか思えない。包帯男としても、そんな男に全力を傾けることなどできようはずもなく。第一戦目は実にぬるい勝負だった。
「森の決闘だよな」 「さっきの佐伯戦はなんだったんだ?」 「これがあいつの実力……?」
「(そろそろ言わないと客が冷え切るか。しょうがない。)じゃ、そろそろ本番と行こうぜ」
「なに?」 (そろそろ本番って。まさか一戦目は捨てたのか? ハンデでも与えるつもりか)
 勇一はサイドボードを手にするとそこからカードを数枚ぬきとりチェンジ。次戦に臨む。
(おお怒ってる怒ってる。安心しろよ。あんたのことを一応警戒してこうしたんだからさ)
「貴様……愚弄するつもりか」
 謎の包帯男は今にも爆発しそうな勢いであった。火をつければドカンと鳴ってくれるだろう。しかしすぐに静まる。理由は一つだった。森勇一の気配が変わったからだ。明らかに先ほどとは違う。ゴライアスと闘ったときとも少し違う。本来の彼のペースかもしれない。いつもはさすがに一戦景気よくくれてやったりはしないものの後攻めはこの男の基本姿勢。そういう意味では、彼一流の態度なのかもしれない。謎の包帯男は「そうだ、それでいい」と一言つぶやくと次戦へ心を新たにする。本当の意味で全勝同士の対決が始まるということだ。森勇一は決闘盤をはめた左腕を前につきだすと、やはり左手にカードを携える。一方、謎の包帯男はだらりと両腕をおろし、腰をやや落として身構える。正統派スタイルの森勇一に対して謎の包帯男はその異形に沿った異様な構え。今にも飛びかからんばかりの勢いである。しかし勇一は冷静な表情を崩さない。闘牛士のマントごとく前に突き出した左腕の決闘盤で間合いをはかる。ギャラリーはみな押し黙った。流石に心得ているのだ。まだ騒ぐ時間ではない。静寂が時を支配する。そんな中、決闘の火蓋が切って落とされる。勝った方が優勝。もっとも、この2人の焦点は優勝などにはなく――

「ドロー。カードを2枚伏せる。ターンエンド」 「ドロー。カードを2枚伏せる。ターンエンド」
「ドロー。モンスターとスペルを一枚づつセット……」 「ドロー。1枚伏せる。ターンエンド……」
 静かな立ち上がりだった。お互いに息を潜めたまま過ぎる時間。そこには独特の緊張感。敢えて言うまでもないことだが百戦錬磨の森勇一はそんな状況に慣れている。ただあまり歓迎したい空気でもなかった。最早言っても仕方のないことだが今日はそんなつもりで来たのではない。だが状況は既に極地点。弛緩した空気など望む余地もなく。仕方がない。仕方のないことだ。周りもみな期待している。森勇一の闘いざまを期待している。それだけではない。もう一つ期待されていることがある。勇一はそれを察していた。だからこそ溜息をついた。自分は森勇一なのだ。勝ち続けること、そして、軽んじられないこと――
「じゃ、そろそろいくか。ドロー。反転召喚《デス・ラクーダ》。効果によりデッキから1枚ドロー。エンドだ」
 膠着すれば持久型の勇一に分があるのは必定。しかし勇一は隙を見せない。自分を森勇一と知ってすぐに攻めてこないということは、何か狙いがあるのだろう。ではその狙いとは何か。
(だいたい想像はつく。手数よりも一発芸を好むのだろう。問題はどう潰すかだ)
「ドロー……《クロス・ソウル》を発動!」 「《魔宮の賄賂》を発動。打ち消す」
 勇一に迂闊な呪文は通用しない。だがそれは相手にとっても想定内――
「ならば! 1枚引き《サイクロン》を発動! 伏せカードを破壊する!」
「チェーンリバース! 《砂塵の大竜巻》を発動。伏せカードを破壊する」
「チェーンリバース! 《ゴブリンのやりくり上手》を発動! 更にチェーン4で《積み上げる幸福》」
(ユウさんの手を利用して一気にアドを稼ぎにきた。手数を増やして、押しきるつもりか!?)
 信也は思わず勇一の方を見る。相手が相手だ。この先何をしてくるかわかったものではない。しかし勇一は信也の方をチラリと見ると「おまえまでそんな顔をすんのか? いい加減こっちが疲れるから笑ってろ」とだけ言った。気を取り直した信也がフィールドを再びみると、なぜか全ての呪文が消えていた――。
「消えた? あれだけの呪文が、一つ残らず消えた? そんなことどうやって……」
「《虚無を呼ぶ呪文(ヴァニティー・コール)》を発動。全ての呪文を打ち消す」
 勇一が呼びよせた虚空は全てを無に帰す。ただ、それだけのことだった。
「成程。流石のカウンター使い。だが、ライフを半分に減らしてまで使うものか?」
「一度使ってみたかっただけだ。おまえにはこの程度で丁度いいだろうしな」
 挑発?
「いいだろう。手札から《磨破羅魏》を召喚。バトルフェイズ、《磨破羅魏》で《デス・ラクーダ》を撃破。そしてメインフェイズ2、カードを3枚伏せる。《磨破羅魏》を手札に戻してターンエンド」

4周目
ユウイチ:ハンド5/モンスター0/スペル0/ライフ4000
???:ハンド2/モンスター0/スペル3(セット/セット/セット)/ライフ8000

(さて、こちらの伏せがゼロになったところに3枚伏せをするのは通常なら下策。そんな下策を馬鹿正直に用いる可能性は低い。となれば伏せてあるのはフリーチェーンの可能性が濃厚。そしてそれはこっちが殴るチャンスだということ。とはいえ単に無謀なだけという可能性もある。ここは適当な捨て駒を差し向けるのが上等、か。寄せ餌にもなる。だが真に注意すべきは……)
 勇一はがら空きの場に視線を向けた。きな臭い匂いを感じる。ならばどうすべきなのか。
「ドロー……手札から《クリッター》を召喚。バトルフェイズ……(ガラ空き、か。)……は行わない」
 勇一は妙なプレイングに出た。攻撃しないのなら《クリッター》をわざわざ攻撃表示で出す意味はない。《抹殺の使徒》等のリスクもなくはないが一般的にはこの局面、攻撃しないのなら守備表示で《クリッター》を出すのがベター。それ以前に別のカードを展開するという選択肢もある。しかし彼はそうしなかった。そこに何の勝算があるというのか。彼は2枚伏せてターンエンドした。今日の彼はどことなく不機嫌だった。だがだからこそ、そのプレイに迷いはなかった。
「《磨破羅魏》の効果を発動。デッキトップのカードを確認、一番下に戻す。そしてドロー。セット、エンド」
 包帯男は相変わらずの不気味さを内包していた。それはまるで我慢比べのようだった。もっとも、勇一にはもう我慢する気などなかった。彼は、いい加減うんざりしていた――

5周目
ユウイチ:ハンド3/モンスター1(《クリッター》)/スペル2(セット/セット)/ライフ4000
???:ハンド2/モンスター0/スペル4(セット/セット/セット/セット)/ライフ8000

「(やはり待ちに入ったか。)俺のターンだ、ドロー。《クリッター》でダイレクトアタック!」
 誰もが、誰もが勇一の意図を理解できていなかった。なぜ今更? 
「リバース! 《ゴブリンのやりくり上手》を発動! 2枚引いて手札から1枚をデッキボトムに」
 しかし相対する包帯男のプレイングは更に奇妙なものであった。処理を繁雑にするためとしか思えないようなリバース。わけのわからない攻防。しかし《クリッター》の攻撃が決まるその瞬間、包帯男は人知れずあるアクションを起こしていた。だがそれは、何も起こしはしなかった(・・・・・・・・・・・)
「あれ? 今のって……」
「恐ろしいですねえ。あの包帯男。しかし森勇一はもっと恐ろしい」
 ゴライアス扮する佐伯はそう評価した。皆は首を傾げた。それほど一瞬の出来事であった。森勇一のスペル・スピード・スリーは神速を超える……それは、紛れもなく事実であり、真実であった。わけのわからない状況下、ようやく口を開いた勇一は、やや苛立ちつつこう言った。
「悪いが、おまえのそのショボイ手品はもうお仕舞いだ」
「手品?」 信也が反復したその言葉、「手品」。少なくとも、重い響きでないことは確か――
「リバース罠《閃光弾》。こいつをどさくさ紛れに発動。そのゲーム離れした強烈な光により一種の催眠効果と忘却効果をもたらし、その後のプレイングに支障をきたさせる。《閃光弾》 だったことさえ記憶のどっかに吹っ飛ばしてしまうおまけつきでな。どうやってそんな強烈な光になったかは知らない。サングラスでも用意しようかと思ったが残念ながら俺にはあんまり似合わない。そしてそれ以前にはっきりいって面倒くさい。だからてっとりばやく《神の宣告》を発動させてもらった。《閃光弾》 の発動は無効だ」
 普通ならそんなカードにカウンターはいらない。しかし勇一は迷わず発動していた。
「そうか。僕のときも、気がついたらエンドフェイズになっていた。トラウマが発症した所為かとも思ったけれど、そういうことだったのか。だから《ダーク・ネクロフィア》の効果がズレた」
「ほお」 包帯男は感心したようにつぶやいた。どうやら正解らしい。
「偉そうにしてた割に、随分としょうもない手品を使うもんだな。そしてそんなもんでどうにかなると思ってるのが腹が立つ。おまえらは俺の名前を引き合いに出す癖して、自分では都合よく勝てると思い込んでいるんだよな。もう少し真面目にやってくれ。じゃないと流石に泣けてくる」
「《虚無を呼ぶ呪文》に《神の宣告》。残りライフは2000。いいのか?」
「(おまえと喋るののもそろそろ飽きた。)メイン2。2枚セット。ターンエンド」
 勇一は包帯男の問いに応えずゲームを進めた。2000で勝てるつもりなのだ。
「成程。よい。よいよいよいよいよいよいよい。2000で勝てるだろう。勝てるだろう」
 包帯男は不可解なことを言う。敗北宣言? 違う。そんなものでは断じてない。
「この程度の技がこちらの力の全てなら確かに2000で勝てるだろう。勝てるだろう」
 包帯男が不気味な『気』を醸し出す。彼は笑っていた。笑いながら気を発していた。
「な、なんだ!? 包帯男が、包帯男が……」 「あいつ、一体何者なんだ?」
(ユウさんを前にしてなんでこんなに笑ってられるんだ? まさか、この上なにか……)
 その、まさかだった。
「森勇一とはこの程度だったか。小手調べというものを知らない。この程度をこちらの力量と見誤るその愚かしさに敬意を表し、今こそ光をみせてやろう。ドロー。手札から《砂漠の絶対王制》を発動!」

《砂漠の絶対王制》
通常魔法
手札から「スフィンクス」と名のつくカードを相手に見せることで発動。このターン、魔法・罠の効果は無効化されない

(カウンター封じ! 不味い、このカードが通ったということは、ユウさんの力が封じられるということ!)
「手札から《クロス・ソウル》を発動! 《クリッター》を生贄に捧げ、《光帝クライス》を召喚。効果発動。フィールド上の2枚、《光帝クライス》と《ゴブリンのやりくり上手》を破壊。チェーン発動によりデッキから3枚引いて1枚を戻す。これで手札は完璧となった。リバース! 永続罠《光のピラミッド》を発動!」
 にわかに空気が変色していく。なにかが、なにかが起こる前触れか。勇一は《クリッター》の効果で次の展開に備えつつ、これから起こる光景を見守った。
(匂いますねえ。このタイミングで《光のピラミッド》。やはりあの男の正体は……)
 包帯が少しづつ剥がれていく。徐々に姿を現しつつある決闘狂人。その猛威が勇一に迫る。
「500ポイントのライフを支払い! 金字塔右翼の番人《スフィンクス・テーレイア》を特殊召喚」
 四足歩行の強靭なる生体。翼を生やしたキメラが唸りをあげる。
「500ポイントのライフを支払い! 金字塔左翼の番人《アンドロ・スフィンクス》を特殊召喚」
 強靭な肉体と猛るたてがみ。破壊のみを求める、哀しき追及者の熱き咆哮――
「《光のピラミッド》倒壊。《スフィンクス・テーレイア》と《アンドロ・スフィンクス》を祭壇に捧げる」
「これは……」 不思議な現象。倒壊したピラミッドがまるで店を新たに、ピラミッドで覆うかのように。
(成程。この力が、この力が光を増幅していたというわけですねえ。こんなことができるのは……)
「この店は幸運な店として記憶しておこう。光の生贄となるのだから。現れよ! 『朕』が僕!」

Sphinx Androjunesu

「《スフィンクス・アンドロジュネス》の効果発動。500CCの血を捧げ、攻撃力を6500にぃ!」
 王者の風格。強靭なる肉体が、高貴なる血を浴び強化される。だが、それだけでは終わらない。
「朕の力、その一端をみせてくれよう! 更に2000ライフを支払い《次元融合》発動! 祭壇に捧げられていた《スフィンクス・テーレイア》と《アンドロ・スフィンクス》を特殊召喚」
 圧巻だった。中央の《スフィンクス・アンドロジュネス》を左右から補佐するは《スフィンクス・テーレイア》と《アンドロ・スフィンクス》。この3体がフィールド上で圧倒的な存在感を得るのは当然の理といえよう。しかし、勇一はこのとき眉一つ動かさなかった。「虚仮脅しだろ」、彼はそう言った。現に、特殊召喚された従者2体はこのターン攻撃できない。ならば、勇一が競り負けることもないようにも思える。だが、包帯男はその全てを一笑にふす。なぜか? 彼には更なる力があったのだ。彼は笑った。大いに笑った。彼には、大衆の愚かしさがおかしくておかしくてしょうがなかったのだ。彼は既に掴んでいる。光を掴んでいるのだ。包帯の3分の1を取り去ったその男、傷だらけのその男はさらなるカードを取り出した。
「この威を虚仮脅しと断じた時点で貴様の負けだ! みせてくれようこの力!」
 包帯男は1枚のカードを取り出すと、魔法・罠ゾーンに表向きでセットする。
「あ、あれはあ! 《ユニオン・アタック》!?」 「多重合体! ピラミタルユニオン!」
 二足歩行の《アンドロ・スフィンクス》の五体が分離、その強靭だった腕は《スフィンクス・アンドロジュネス》の肩に装着され、他方張り詰めた両足は《スフィンクス・アンドロジュネス》の四足の足に加わる。合計四腕六脚だ。他方胴体は《スフィンクス・アンドロジュネス》の胴体と同化することでより一層の筋肉の鎧を構成。頭蓋は顔のパーツが陥没、強固なシールドとなって《スフィンクス・アンドロジュネス》の左腕に装着される。更にここからが圧巻。四足歩行の《スフィンクス・テーレイア》は頭蓋を切り離すとなんと身体を折り曲げ、加速用のバックパックとして《スフィンクス・アンドロジュネス》に装着される。最後に残った《スフィンクス・テーレイア》の頭蓋はその紫の髪をドリルのような形状に束ね硬質化。凶悪無比な武装として《スフィンクス・アンドロジュネス》の右腕に装着される。いや最早、それは《スフィンクス・アンドロジュネス》ではなかった。そう、多重合体を成し遂げたこのモンスターこそが、このモンスターこそが……伝家降臨!



轟獣将(ごうじゅうしょう)ギガピラミタル



「全ての力を一点に収束! ハァッハッハ! バトルフェイズ時、轟獣将ギガピラミタルの攻撃力は一万二千ポイントを記録するぅ。ハァッハッハッハ! これがあのお方の庇護を受けた朕の力よ!」
「馬鹿な! 《ユニオンアタック》では戦闘ダメージが通らない」 「あいつ、ここへきて血迷ったのか?」
 大衆は口々に懐疑の声をあげるが、そんなもの包帯男にとっては全てが笑いごとであった。彼は叫んだ。大声で叫んだ。店内の、どの人間にも聞こえるように大きく叫んだ。
「我が一族にそんなものは必要ない! みるがいい! この光をぉ!」
 光が、光が《スフィンクス・アンドロジュネス》に収束していく。それは、通常では絶対にあり得ない光の可能性だった。信也はあっと気が付き声をあげる。そうなのだ。店内を包む、物理的制約から解放された大気のピラミッドの存在が《ユニオンアタック》による光の収束を倍加させていたのだ。《スフィンクス・アンドロジュネス》に集められた光は、まさに爆発前のダイナマイト同然だった。バトルフェイズに入れば? それは、惨劇の予感だった。信也は震えた。最悪の可能性に気がついてしまったからだ。
「そうか! かつてサツキさんがショウさんと闘ったとき、《破壊輪》のあまりの過剰エフェクトによってサツキさんが気を失った。原理はあれと同じこと。ただ、危険度はその数倍。あの男は攻撃力一万オーバーのバトルエフェクトをピラミッドパワーとやらで増幅し、その溢れんばかりの光量でユウさんを完全気絶に追い込み勝利することを狙っているんだ。つまり、攻撃宣言がなされた瞬間ユウさんが負ける!?」
「どうやら気がついたようだな。この攻撃を防ぐ方法は皆無。ひ弱な学生風情がこの光に耐えることなど不可能。たとえなんらかの罠を発動して防ぎにでたとしても、衝突エネルギーの暴発で、貴様は勿論、この店はたちまちの内に滅ぶだろう。つまり、絶対に防げぬということだ。貴様も、店も!」
「僕も噂には聞いていたけど見るのは初めてだ。これが、これが【ショップデストラクション】!」


【ショップデストラクション(※略称ショップデス)】
TCGにおいて破壊(デストラクション)が重要なファクターであることは最早言うまでもなく、故に特定の破壊に特化し、そこから対象全体の機能不全を引き起こすデッキ、所謂デストラクションデッキが歴史上度々台頭して来たのは読者諸兄の知るところである。この点、手札を破壊するハンドデストラクション、デッキを破壊するデッキデストラクション、等が有名どころとして名の挙がることだろう。しかし当然のことながら、日々研鑽を続ける決闘者達が生みだすデストラクションデッキは日毎に数を増している。そしてその一つが何を隠そうショップデストラクションである。これは某ゲームのランドデストラクションを参考にして生み出された戦略であるが、即ち「活動母体を潰せば勝てる」という思想を軸としている。現代決闘において、公式戦の多くがカードショップで行われる現実を鑑みれば、決闘者達が「地の利」を制すことを考えるのはある意味当然の帰結だったのかもしれない。


「おいおいなにを言ってるんだ? 店が滅ぶって、いや、ちょっと、いや、嘘だろ……」
 カードショップでのカードゲームという不可抗力によって店が滅びる。まさに最悪の事態だった。
「僕の見立てではこのままいくと99%この店は滅びます。だけど、今はそんなことよりユウさんです。最悪僕らはここから逃げればいい。しかしユウさんがここで逃げれば試合放棄で負けになる。だけど試合を続ければ完全気絶。最悪の二択だ。このままじゃユウさんが、翼川最強のユウさんが負ける!」
「光よ膨れろ! バトルフェイズ、この店ごと全てを生贄に捧げる!」
「や、やめてくれ! そんなことされたら! 俺の、俺の店があ……」
「光だ。この光こそが朕の傷を癒す。癒えるぞ。癒えるぞお!」
 包帯男は包帯の三分の二を解き放った。ゴライアスは「やはり」という顔をした。しかしそんなことはお構いなく『朕』は手を左右に広げ光を浴びた。まるで、それが目的であったかのように。勝ち誇る『朕』。うろたえるギャラリー。ノイローゼ寸前の店長。震える信也。だが1人だけ、毅然とした態度でこの異常な事態に立ち向かう者がいた。森勇一である。

「おい包帯」 「ぬ!?」
「今更おまえに言っても仕方がないとは思うが一応言っておく。俺を挑発しておきながら俺を無視して勝手に話を進めるな。とりあえずだ。俺は店から逃げない。そしておまえにも負けない」
「ユウさん!」 「流石は森勇一。しかし、どうされるおつもりか」
 勇一は信也の方をみた。そしておもむろに話を切り出した。
「おいシンヤ、カウンターの基本はなんだと思ってる?」
 謎の質問。しかし勇一にふざけた様子は見られない。
「え? それは……その……あんまり使ったことない……」
 既に動揺しまくっている信也に応えられるはずもなく。勇一は彼なりの答えを言った。
「同等の力をぶつけて相殺することだ。そして俺は既にカウンターを完了している」
「え?」 「馬鹿を言え!」 「よく場を見てみろ」 「場を……あ、あれは!」
 恐ろしい光景だった。メキメキと形作られる黒い像。その像は轟獣将と同じ像だ。
「バトルフェイズ直前。こちらには永続罠を発動する機会があった。このカードをな!」

《サイバー・シャドー・ガードナー》
永続罠
このカードは相手ターンのメインフェイズにしか発動できない。このカードは発動後モンスターカード(機械族・地・星4・攻/守?)となり、自分のモンスターカードゾーンに特殊召喚する。このカードが攻撃宣言を受けた時、このカードの攻撃力・守備力は相手攻撃モンスターと同じ数値になる。このカードは相手ターンのエンドフェイズ時に魔法&罠カードゾーンにセットされる。(このカードは罠カードとしても扱う)

「《サイバー・シャドー・ガードナー》だと? そんな安物レアで何をするつもりだ!?」
 うろたえるギャラリー。しかし当の本人には道がはっきり見えていた。カウンターへの道が。
「状況をよくみろよ。カウンターの基本は相殺することだ。それも、できるだけお手軽にな」
「状況……あ、あれは! 《サイバー・シャドー・ガードナー》が、まるで深い深い、漆黒の闇をため込んでいるかのようにスタンバイしている。これはまるで……これはまるで……」
「そういうこった。影ができて視界が丁度よくなってきたな。これで攻撃宣言でもされた日にはもっと丁度よくなるだろうさ。知ってるか? 光あるところには影がある。俺が何の備えもしないと思ったか?」
 包帯男が目を見開いた。勇一の意図に気がついたからだ。彼の神算鬼謀は想定の斜め上を突っ走る。
「影の守り手。まさか、【ピラミッドパワー】によって増幅された光を同等の闇で相殺するというのか……」
「流石はユウさん! この空間内で、どんなに過剰な光を供給したとしてもあのカードはそれと同量の影を常に供給する。この壁があればユウさんが光にあてられ気絶することはあり得ない!」
「カウンター罠を使うだけがカウンターじゃない。この際だから二流と三流の違いをいっとくぜ。名札の意味を考えることもなく名札にとらわれちまうかどうかだ。馬鹿とそれ以外の境界線ってな」
 カウンターの妙味はここにありと言わんばかりの勇一である。誰もが驚かざるをえない。
「す、すごい。これが実力派最強決闘者として名高い森勇一の決闘なのか!?」
「だ、だが《サイバー・シャドー・ガードナー》なんてカード、普通は持ち歩かないぞ!?」
(そ、そうだ。いったいユウさんはどっからあのカードを仕入れてきたんだろう……)
 信也はキョロキョロとあたりを見回した。すると、勇一のバックがごみ箱の近くの机に置いてあり、そしてごみ箱からはどこかでみかけた『帯』がどうでもよさげなコモンカードとともに数多くぶちこまれていた。そう、『帯』。カードを3〜5枚束ねるのに丁度よさそうな帯。どっかでみたことのある白い帯。
(おやあ? あ、あれは……まさか…………それはないだろう流石に)
 流石にないだろうということはむしろある。勇一は平然と答えた。
「500円くらい使ったら普通にでてきたぜ。《虚無を呼ぶ呪文》とかも
(やっぱり。カードダスだ。それも必ず胡散臭いレアが1枚は入ってる100円カードダス)
 店のドアの外のエレベーターの前に設置されているカードダス機。それが調達源泉だった。
「なんて無茶で投げやりな発想……」 「いいんだよ。無法には無茶だ。それで十分」
「なんでもいい。俺の店が、俺の店が助かるんだな。よかった。本当によかった……」

さーどーかな?

「カウンターは消すだけじゃない。相手の力を倍返しするのもカウンターの内。おいあんた、仕掛けてくるなら覚悟を決めろよ。この勝負、もうあんたの首に手がかかってるんだからな」
「なに?」
「(倍返し? ユウさんは何を……いや待てよ!) そうか! ユウさんにはまだ最後のリバースカードがある。そして《サイバー・シャドー・ガードナー》は機械族。機械族ってことは……」
「《リミッター解除》ですか。やりますねえ森勇一。もしあのカードが《リミッター解除》ならば轟獣将ギガピラミタルが攻撃した瞬間そのパワーを2倍に、二万四千にまで跳ね上げた《サイバー・シャドー・ガードナー》がカウンター。闇の力による店の崩壊と引き換えに、彼は気絶することなく勝利する」
「力を返される側の逆にいる俺には何の被害も及ばない。壊れるのはおまえとこの店だけだ」
「おいおい……勇一君ちょっと待ってくれ。俺の、俺の店を守ってくれるんじゃなかったのか?」
(ユウさんの目が笑ってない。本気かこの人。本気で店ごとあの包帯男をふっとばすつもりか)
 一難去ってまた一難。まさに極限状況。店の崩壊を食い止められる人間はもういないのか。
「ならば《サイバー・シャドー・ガードナー》がどこまでのものか。ハッタリかどうか試してみようか」
 包帯男もまた簡単に引き下がる男ではない。カタストロフの予感。魔性を剥き出しにする男達。

「クック……ウアーハッハッハッハ! いいだろう。轟獣将ギガピラミタルで《サイバー・シャドー・ガードナー》を攻撃する。破滅の咆哮―永遠の試練―。この店もろとも光の中に消えろお!」
「《サイバー・シャドー・ガードナー》の効果発動。この店ごと闇の中に消えてもらう!」
「ふ、2人ともやめてくれえ! 俺の、俺の店を決闘で壊さないでくれえ!!」
 決闘による破壊は不可抗力と千年の昔から決まっている。竜と虎、そしてキリギリスからなる三つ巴の攻防は光と闇の壮絶な激突となった。あたりは一瞬おそるべき波動に包まれ、誰もが逃げまどい、誰もが伏せた。そして、全てが終わったとき、彼らがみたものは光か闇か。
「大丈夫ですか? 元村さん」 「あ、はい。大丈夫です」
「大変でしたねえ」 「大変……そ、そうだ。どうなったんだ?」
 信也があたりを見回すと、そこには驚愕すべき光景……。
「嘘だろ。こんなことって……こんな結果になるなんて……」
 それはおよそ信じられない光景としか言いようがなかった。
「あの2人も、ギャラリーも、そしてヘブンズアッパーも……」



何も壊れてない!?



「ユウさんの狙い通り、光と闇が相殺し合うことでカタストロフを免れたということか。しかし、ということは、ユウさんのリバースは《リミッター解除》じゃなかったってことなのか」
 激突と激突。その先に虚無を呼ぶのがカウンター使いの宿命か。
「カウンター成功。だから言っただろ。逃げないし、負けないってな。勝つとはいってない」
「ユウさん……」 「驚いたか?」 「人が悪いですよほんと。そうならそうって言ってください」
 勇一は精力漲る包帯男の方を見た。無理だとは思っていたがやはり撤退しなかった。そう、勇一の先の発言はブラフ。流石に《リミッター解除》まで用意しているわけもなく。予め自分が吹っ飛ぶ可能性を示唆することで相手にドロップを宣言させるのが狙いだった。いかに計算していたとはいえ、不測の事態が起きないとも限らない。それを踏まえての勇一のブラフだった。単に憂さを晴らしたかったというのもなくはない。しかしそれだけで行動するような軽率な男でもない。そんな勇一の前にはまだ包帯男が立っている。そろそろ頃合いか。彼はそう思った。
「お互い虚仮脅しはこのぐらいにして……あんたはさっさと全部吐きだせ。それかさっさと消えろ」
「え? ユウさん?」 「アンタはまだ力を残してるな。わからないとでも思ったか?」
 その発言は場を震撼させた。これほどの呪力溢れる決闘を展開して尚本気ではない?
「くっくっく。それは、かわしに徹するおまえも同じことだ。この朕を相手に白々と……」
 まさに一触即発、『朕』を自称する男は勇一の挑発に乗りかける。しかし……。
(ここは引け。貴様に与えた力をこんなところで使い果たすのは愚の骨頂と知るがいい。強者との戦いは貴様のプライドが轟獣将を生み出すための活力となった。だが、これ以上は無意味だ)
(あ、あのお方……しかし……) (貴様は誰を倒すつもりだ) (森勇一め。命拾いしたな)
「おい……」 「目的を果たした以上もうここには用などない。目先の勝利などくれてやる」

○森勇一VS謎の包帯男●

「茶番だったな。やっぱり」
 二束三文の商品を手にして階段を降りる勇一と信也。帰り道だ。
「なんかずっと不機嫌だったみたいですけどどういう意味なんですか? それ」
「あいつは最初から俺を試し切りかなんかの相手としか考えていなかったってことだ。以前にどっかで会って話した覚えもないからな。大方“森勇一”なる名前を聞いてこれ幸いに挑んできたんだろう。そんなやつ相手に必死こいてやれるか? 余計格好悪い。100円カードダスでメタる程度が丁度いいんだよ」
「大変ですねああいう手合いは。逃げたら逃げたで色々言われてそうですし。」
「その癖肝心なところで人を無視するからなああいう連中は。都合よく壁の大きさをでかくしたり縮めたり。俺のことをなんだと思ってるんだろうな。しっかしよお、なんか段々と、アキラが大分マシな人間に思えてきた。なんだかんだで、あいつが俺の一番の理解者のように思えてくんのが腹が立つ」
(理解者、か。僕はどうだろう。僕の決闘は……独りよがり……かな……)
「あいつの正体には一応心当たりがあるが、正直もうやりたくない。疲れる」
 本気を出せとか言ってた癖に、とは思わなかった。信也も同じ心境だ。

「ただ一つ気になることがあります」 「ん? なんだ? 他に何かあったか?」
「ユウさんってカードダスでサイドボードをまるまる調達したんですよね」
「そうだが」 「あのカードダスって1回100円なんですよね確か」
「そうだが」 「帯の数がどう考えても500円分ではないような……」
「シンヤ」 「なんでしょう」 「これをやる」 「え? これってカスレア……」
「これはお前が出したものだよな」 「え?」 「そうだよな」 「あ、はい」
 是非もなかった。信也はこれ以上何か言うのをやめた。ある意味流石だ。
「お、サツキだ。ずっと外で待ってたのか? おまえならどうする? シンヤ」
「黙って飯でも奢るのがいいと思います。勿論ユウさんが。僕もご一緒します」
 勇一は、黙って携帯を取り出した。かける先は勿論……。
「ユウイチ? どこいるの? なんで今日電話にでなかったのよ」
「悪い悪い。今からサツキとシンヤとで飯を食う予定なんだが……」
「私も来るかって? おっけ。ご馳走になろうじゃない」
「いや、金の持ち合わせがないから奢ってほしいんだ」

ツー……ツー……

「……」 (ユウさん、もうお金もってないんだ……) 
 原因は、言うまでもなくカードダスのやり過ぎだった。
(ガチャガチャやってたんだろうなあ。負けず嫌いな人だ)
 賢い一方で大人げない。そんな先輩が嫌いではなかった。

「あ、そうだ。サツキさん、このデッキ、お返しします」
「いいよいいよ。それ、あげる。どうせもう使わないから」
「マジすか。大切にします。(売ったらどのくらいになるかなこれ。微妙か)」
「おいシンヤ。白々しいぞ。どうせ売ることしか考えてないだろ。守銭奴め」
「ユウイチにそれを言う資格はないと思うんだけど。絶対返してもらうわよ今日の分」
「ケチくさいことをいうなチエ。今回ぐらいは奢れ今回ぐらいは……烏龍茶おかわり!」
「そうですよ。今日はパーっと行きましょう。すいませーん! 追加注文……」 「だ〜か〜ら〜」
「やっぱ、私自分で払うわ」 「いや、それには及ばない。ガンガン食ってくれ」 「そうですよ」
「だからなんでサツキにだけそんな優しいのよ」 「今日だけだ。色々あったんだ」 「色々?」 「プラズマとかピラミッドとか」 「なにそれわけわかんない」
「(な〜んか腫物みたいに扱われてるよーな。ま、いーか。うん。食べよう) すいませーん!」
「ていうかなんであんたら揃いも揃って疲れた顔してるの?  詳しく説明してほしいんだけど」
「シンヤ、“適当”に説明しろ」 「シンヤ君お願い。“適当“なとこだけ喋ればいいから。“適当”なとこだけ」
 信也は拒否した。智恵も問い詰めるのが馬鹿馬鹿しくなったのか自分も何かあったのかすごい勢いで飯を食いだした。皆、黙々と食べていた。皿が1枚2枚と平らげられていく。彼等は黙々と食べていた。そして皿に盛られた料理が全て尽きたとき、勇一がぼそりとこう言った。溜息混じりにこう言った。
「しかしあれだよな。遅かれ早かれつぶれるだろ、あの店」
「同感です」 「異議なし」 「あの店って……どの店のこと?」

                       ――大会6日目――

「新堂でも灰色でも瑞樹でも誰でもいいからあいつを倒せ。俺はもうめんどうくさい」
 勇一は思わず目を背けた。かかわりあいになりたくない男がそこにいた。
「お、おいみろよ。あいつ、あいつは……あいつだよな。2回戦でカード・ピラミッドを建築した……」
「なんなんだ? 全身に包帯を巻いているぞ。この短期間に、いったい何があったってんだ?」
「それより決闘だ。二回戦までのゆったりしたデュエルとはまるで違う。危機迫るあの調子!」
 そこには先日の包帯男がいた。邪な光を受けることで目覚めし、新たなる決闘狂人が。
「う、うわ……なんだ……なんだこの感じは……う、うわああああああああああ《大嵐》ィ!」
「《アヌビスの裁き》を発動! 《大嵐》を打ち消し、《ギルフォード・ザ・レジェンド》を破壊する!」
(くっくっく。ディムズディルよ。感謝しておこうか。この朕を棺桶に叩きいれたことをなあ)



ピラミタル一族の決闘は


棺桶に入ってからが本番!!



 日本の諺で言うところの“家に帰るまでが遠足”と対をなす格言だ。
「見守りたまえあのお方! 朕のこの、ネオピラミタルストームを!!」
 ピラミス=マスタバ。いやむしろ、ミイラピラミスとでもいうべきか。
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!」
 技を発動するまでもなく。新たな犠牲者が地に伏せる。最早日常風景となったデュエルフィールドの惨劇。森勇一は「面倒くさい」といい、その他大勢に至っては「単純にかかわりたくない」といい、それぞれ異なる反応を示したがその意味するところはだいたい同じ。新たなる決闘狂人の誕生が風雲急を告げる。

つづく。


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
いつもに増して無理があると思うけど折角なので轟獣将のイラスト募集中(宛先:新掲示板)。しっかしエジプト系の決闘者を棺桶に叩き込むのが復活フラグであることに気付かれた方はどのくらいいたのだろう。ああいうやつなんですあいつは。しょうがないやつですが末長くお付き合いください。最後に業務連絡ですが次回は52−2です。

↓今週おもろかった? 一言でも二言でもテンションゲージの上昇に力をお貸しください。更新力の源になります。いやマジで。







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