(外でもなにかが起こったようだな。俺には関係のないことだろうが。少なくとも眼の前のこれよりは)
 瀬戸川刃は驚いていた。そこには美女がいた。いや、いたのは知っている。粗雑極まりない怪物のような美女がいたのは知っている。しかしにも拘らず、ものの数秒前と今では印象が異なっていた。少なくとも、鋭敏な感覚を持つ瀬戸川刃にはそう思えた。
「おまえは……ベルメッセなのか?」
 ピントの外れた質問だとは分かっていても、そう問わざるを得なかった。
「いる。さっきの。アレのにおいがする」
「誰がいるんだ? 誰のことを言っているんだ?」
 ベルメッセは答えなかった。これはいったい誰なのだろうと刃は訝しがる。元々捉えどころのない人間ではあった。しかし何かが違う。虚ろな表情を浮かべ、何事にも無関心かあるいはつきはなしたような態度を取る瞬間は今までにもいくらか垣間見えた。ただそれは常にとってつけたような激情に上書きされ押し流されてきた。しかし今、彼女はなにもせずそこにいた。時間さえも突き放すように。
(この雰囲気を前面に押し出した方が本物のベルメッセなのではないか?)
 彼はふと思った。そんな彼女は今、何に対して興味を抱いているのだろうか。彼女は目覚めている。それは確かだ。ベルメッセは辺りを見回した。その後自分の五体を観察した。「なあんだ」。彼女はそう言った。彼女のことは裏コナミが、瀬戸川刃が厳重に監視しているためその身体には傷1つない。度々面倒なことになりかけたがなんとか未然に防いでいる。もしやそれが不満なのだろうか。周囲がこれといってなにもない平々凡々な空間であることに退屈しているのだろうか。刃は一歩前に出た。ベルメッセ=クロークスの実体に触れる機会、それは彼にとっても魅惑的なことに思われた。ベルメッセは全身の力を抜いて漂うように立っている。無駄な力を抜いたベルメッセとはこれほど美しいものなのか、刃は驚嘆した。いや、美しいのは既に知っている。みたまんまだ。しかしこれまではピーピー煩過ぎてそれを堪能するどころではなかった。極上の刺身にマヨネーズがたっぷり載せられていたような状態。刃は思った。彼女が脱力した瞬間がこれほど魅惑的なら、ここから彼女本来の発露が行われればどれだけ魅力的だろうか、と。魅力的? もしかしたら暴力的ですらあるのかもしれない。ベルメッセはなにに興味を持つのだろう。そもそも彼女はカードゲーマーなのだろうか。コナミの関係者が新入社員から大株主に至るまでほぼ全てカードゲーマーであるというのは最早常識だがならば彼女は? 掻き立てられる想像。刃がそれと気づいたとき、彼は天井にうちつけられそのまま地面に落下していた。ベルメッセは虚空に消えて――

〜これまでの『死闘! One Lover Boost』〜

何かの間違いか、はたまた何者かの陰謀か、世にも胡散臭いTCG全国大会に招待された翼川高校カードゲーム部の面々。高校最強を飛び越え今や日本最強とすら噂される“ダイヤモンドデュエリスト”森勇一、あるいは“ブレインコントローラー”西川瑞貴を擁する以上その活躍は誰の目にも明らかなものと思われた。だが、そこに待ちうけていたのは西日本最大のカードゲーム派閥『ソリティアの会』を初めとした全国の決闘猛者達……否、それだけではなかったのだ。大会運営委員会が用意したもう1つの爆薬、決闘権化集団『デュエルクルセイダーズ』はその恐るべき決闘で大会のレベルを亜空間に引き上げる。真性の、末期的決闘狂人ディムズディル=グレイマンをはじめとした決闘の猛威を前に覚醒を余儀なくされる決闘者達。西川瑞貴はディムズディルへのリベンジを誓い、西川皐月は己の弱さと向き合い、新堂翔はエリザベートと相見え、山田晃は悪鬼羅となり、新上達也はハイパーモードに目覚め現在窮地に陥っている宮崎県の復興に尽力し、神宮寺陽光はベストセラーを目指し原稿を書き下ろす、各々が各々のやり方で決闘権化達に挑んでいく。この、決闘民族大移動のまっただ中、内に眠る衝動を引き起こされた男がまた1人、元村信也は死闘の末『デュエルクルセイダーズ』の一角ヴァヴェリ=ヴェドウィンに勝利する。だが、その先に待ちうけていたのは、この世の決闘平和を混沌の闇に叩き落とし、阿鼻叫喚の渦を生み、平和的解決を図ることに定評のある善意と良心に溢れた最狂最悪TCG集団『裏コナミ』の雄ローマ=エスティバーニだった。ディムズディル級の決闘狂人が7人いる、この絶望的事実はローマの放った『真・全土滅殺天征波』によって全国津々浦々に広がり、日本決闘界はますます混迷の具合を深めていくのであった。生と死を分けるライン上、魂のカードが乱舞する。西川皐月が放ったデュエルブレードの一閃、それもまた1つのきっかけだったのかもしれない。誰も知らない。まだ誰も知らない。しかし新たな決闘災害(デュエルハザード)はすぐそこまで迫っていたのだ。これは、巨大な決闘の爆流に翻弄されながらも己の脚で立ちあがらんとする熱き決闘者達の物語である。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(駄目だ。立ちあがれない。自分の脚で立ちあがってカードを引くことができない。なんでこうなった)
 元村信也である。本日Nブロック三回戦に予選突破をかける彼の表情はどんよりと暗い。
(これじゃあ予選突破どころじゃない。勝負どころになればなるほど勝ちに行く場面になればなるほど)
 元村信也は頭を抱えている。背負わされた大きな悩み、それは、裏コナミとの決闘がもたらした悪夢。
(試せる手は試した。だけどどうしても、土壇場、勝負を分ける局面になればなるほど身体が硬直して声すらでなくなる。あいつの、あいつの顔がちらつく。裏コナミ『脱構築型デッキ構築の申し子』ローマの……)
 彼が向かう先、それは皐月のところだった。
(悪いところは、なにかにつけ先輩を使ってるところだよな)
 自覚はしつつも自重はしない。そういう人間である。彼はドアを開いた。

(ヴァヴェリさん、ダルさん、千鳥さん、瑞貴先輩、智恵先輩、色々な人と闘ってはやられて)
 朝、目覚めた彩は鏡の前で自分を見つめた。そして1つの結論を口にする。
「正々堂々、真正面から向き合っていくしかない。そうじゃないと成長できない」
 彼女の出した結論は潔いものだった。色々な決闘者をみて、実際に闘ったからこそ、上の上と争うには実力不足だとはっきり分かる。仕方のないことだ。素直すぎる闘い方は試合巧者に翻弄される。しかしだからといって安易に奇手奇策へ走れようものか。西川瑞貴はやはり圧倒的に強い、東智恵はやはり圧倒的に怖い、そこにはデュエルスタイル以前に純粋な『差』がある。だとすれば、それを少しでも埋めるには、自分のスタイルを貫いて伸ばしていくほかない。彼女は小さい胸の内でそう考えた。
「シンヤに対しても」
 怖くはある。信也との勝負は、自分の下から離れ遠く何処かへ行きつつある信也との勝負は怖くはある。しかしだからこそ勝敗にかかわらず最良の決闘にしたいという思い。
(ダルさんとの決闘は楽しかったな。あんな風に、コミュニケーションしながら決闘ができればいい。本物の決闘者は怖い。だけど鬼や悪魔じゃなくて、厳しさがあるってだけなんだ、試合を精一杯やって、それでお互いを称えることができればそれが一番いい。精一杯やれればなんにも、恥じるようなことはないんだ。シンヤのことだって恐れる必要はないんだ)
 彼女はまだ知らなかった。この先彼女を待ち受ける過酷な決闘審判を――

「大丈夫ですか? サツキさん」
 心のこもらない声で彼は言った。本当は他人のことなど構っていられる状態ではなかったのだが、他にやることを思いつかなかった彼は他人のことを気にするふりをすることで心の安定を図ろうとしたのだ。
「ありがと。もう大丈夫。激戦だったから立ちくらみしちゃったのかも」
 立ちくらみどころの話ではないが敢えて皐月はそう言った。
「それで、シンヤ君こそその後どうなの? 私より酷いんじゃないの?」
「何の話? シンヤ君になにか……まさか……」
「あ……あーちょっと姉さんは席をはずして……」
「いいですよ。別に。ミズキさんなら信用できますし」

「成程。信也君程じゃないけれど私にも経験はあるから。それで、今日の試合はどうするの?」
 瑞貴は少し思った。確かに自分も色々あったが信也程の事態には陥っていない。もっとも、瑞貴の場合は裏コナミとの初戦が中途で終わっている。そこからゆっくり立ち直れた。その差だろうか。
「やりますよ。こんなところで終われるわけないじゃないですか。やりますよ」
 もう1つあるかも、瑞貴は敢えて口にせず内心にとどめた。信也は一見すると平々凡々なようで他の決闘者とは少し毛色が違うように思える。もっとも、それが具体的になんなのかはよくわからない。
「僕は決闘を続けたい。当然でしょ? こんな機会そうそうあるもんじゃないんだ」
 瑞貴は違和感を覚えた。情熱的な少年、なにも間違ってはいない。しかしこと信也に関してこれほど情熱を強調されると逆になにかおぞましい気配を感じてしまう。錯覚だろうか。皐月は? 皐月は今の信也をどうみている? 瑞貴は黙って皐月の反応を待った。皐月はゆっくりと口を開いた。
「勝てると、それで勝てると本当に思ってるの?」
(そこから? そこから入るんだ、サツキは……)
「勝ちます! 絶対に!  なにがなんでも! なにをしても!」
 まるで何かに取りつかれているかのようだった。瑞貴は黙って経緯を見守っている。
(シンヤ君は決闘でトラウマを負った。それは確か。なのに決闘へこれほど、以前よりも確実に大きな意欲を。それが……なんだろう。以前の私にみたいに、ただ怖いから敬遠しているのとは違う。シンヤ君はローマにあれほど壮絶に負けたからといって逃げようとか避けようとかは全然口に出さない。それどころか1つでも多く強くなれる機会を、決闘の機会を求めている。ポジティブってこと? 本当にそお?)
「この大会にはローマの気配がある。それは確かだ。なら、もう一度も負けられない!」
 怖い理屈だ。瑞貴はそう思った。本人の中では筋が通っている風なのが特に。信也の目にはなにがみえているのだろうか。たとえば今日の対戦相手のことはちゃんとみえているのだろうか。
「シンヤ君、冷静に考えて。なにをしても勝ちたいっていうけど、あらゆる手を使って勝ちにいって、それで貴方はどこまでいけるつもりなの? 本当に優勝できると思ってる?」
 瑞貴は少し感心した。焦る信也に対し、皐月は外堀から埋めるかのように言葉を紡いでいく。
「思うんだけど自分を擦り減らすような闘いではいつか限界が来ると思うの。ヴァヴェリ戦なんかは確かによくやったと思うけど、自分のフォームを崩して囮にしてまで相手のフォームを崩そうとするような闘い方では先がない。上に行けば行くほど奇策は暴かれ、嵌めにくくなる。そこで頼れるのは結局のところ自分のデッキ。最後に残るのは確固としたものを持って闘い抜けた人。シンヤ君、君にそれがある?」
「う……」
「焦りに焦って奇手奇策に走って少しばかりいい結果を出せたとしてその少しばかりで満足できる? それどころか後に何も残らない悲惨な結末になるかもしれない。目標を持つのはいいけど、目先の決闘に誠実にならなきゃ、結局はろくな話にならないと思う。ローマだけが決闘者じゃないのよ」
 皐月もまた信也の異様な気配を感じ取っていた。それゆえ彼女は遠まわしに信也を牽制する。瑞貴は感心しながら聞いている。話の内容以前に、後輩の精神状態をみとってあれこれと話をふる姿勢に感心したのだ。自分には出来そうもないな、そう思いつつ、彼女は話に加わるべく試しに相槌を打ってみた。
「確かに。なんもかんもつぎ込んで精々ベスト8じゃ割に合わないもんね」
 by瑞貴。
(精々ベスト8……精々ベスト8……いいよ。間違ってないから。それはそれで正しいから)
 一瞬、一瞬皐月は挫けそうになるが「しょうがない。それはしょうがない。そういう姉だからしょうがない」と己を持ち直し話を続けた。夢はでっかく世界チャンピオンだ!
「そ、そういうわけだから……」

「大体がだ。折角おもしろい趣向で大会やってるってのにソリティアの会の連中ってかあの仲林はまるで空気が読めてない。おまえもそう思うだろ?」
「いやまったくもって古市さんの言う通りです!」
「一戦目がドロドロでギリギリだったからとタカをくくっていざ臨んだら2ターンで終わっちまった。その癖三戦目は……兎に角だ。ああいう相手を思いやらない自己満足決闘者をみるとイライラしてくるんだよな。カードゲームってには(れい)に始まって(れい)に終わる。そういうもんだろ」
「おっしゃる通りです古市さん。ソリティアの会なんてクズです」
 古市蒼汰、既に予選落ちした決闘者が舎弟と思しき男と話し込んでいる。既に予選敗退が確定、延々と愚痴を並べる決闘者。《奈落の落とし穴》程度にはありふれて退屈な、その割にどこにでもいる存在。彼が特別でいられるのは数少ない舎弟の前でだけ。デッキを組む時間より敗戦の弁が長くなった決闘者の未来などタカが知れたもの、などとは一切考えることなく彼はまくしたてた。いつもの光景。ありふれた光景。どこにでもある光景。とはいえ、そこにはたった一つだけありふれていない事柄があった。彼のすぐ傍にベルメッセ=クロークスがいたということ。そう。彼女は今、そこにいた。
「おもいやれるんだ」
 いつからそこにいたのだろう。ベルメッセ=クロークスの容姿は確実に人目を惹く。しかし何時の間にか彼女はそこにいて。古市はドキッとした。美人に話しかけられたから? いや違う。何かが、何かがおかしかった。ことの経緯からして古市の発言に惹きつけられて話しかけたのは間違いない。しかし古市自身に対しては何の興味も抱いていない? 古市は知らず知らずの内に拳を握りしめていた。
「な、なにか御用ですか? あ、もしかして決闘の申しこみ?」
 先程の威勢はどこへやら。彼は丁重に彼女を扱おうと試みた。
「デュエル? そんなことより、ほんとうにおもいやれるの?」


第57話:決闘狂人は止まらない



「ミスター中條! 大変なことになりました。第一試合場が、第一試合場が!」
「聞いたよポー。しかし私の下には率先して扱うべきもっと大事な事件が控えている」
「大会運営者としてこれ以上大事なことなんて……もしかして私事でなにかあったのですか?」
「いやいや。大会運営者として憂慮すべき一大事件だ」
 ポーは身震いした。どうやら本気で言っているらしい。中條の見込み違いでなければ、本当に第一試合場がフリーズした一件よりも予想外の異常事態ということになる。
「それはいったいなんなんですか?」
「女性がお1人お目ざめになった」
「は?」
「要点をかいつまめばそういう趣旨と思われる連絡が入った」
「冗談を言っておられるのでしょうか。そんなことより……」
「大丈夫だ。そちらについては適当にごまかしておく。だがこちらについては適当では済まない。今から出動する必要がある。誰か手があいている者の手を借りれればいいが」
「手があいている者? それでしたら」
「普通の人間など不要だ。何せ相手は裏コナミでもっとも危険なベルメッセ嬢」
「まさか!」
 裏コナミというフレーズを聞いてポーは飛び上がった。ヤバい。それはヤバい。
「何故ですか。今回の件はただの大会運営でしょう。何故彼女がそもそもいるのですか」
「何故だろうなあ」
(くそっ、これだからこいつらの下に就かされるのは嫌なんだ)
「同じ裏コナミクラスを『呼ぶ』のが手っ取り早い。だがそれよりももっと手っ取り早い方法がある」
 ポーは知らなかった。いつの間にそれだけの危険人物が集まっていたのか。彼は知らなかった。
「と、いいますと?」 「私がでる」
 中條の影が広がり、別の何かに変わっていった。ポーの背中を冷たい何かが通り過ぎる。
「貴方は、貴方はこの大会をどうなされるおつもりですか」
 問いに対し、中條は不気味な笑みをたたえた。
「盛り上げるおつもりです」

「それで何の用なんだ?」
「ろ、ろろろ、ローマさんですよね!」
「そうだな。ヴェネチアではないだろうな」
 ローマは溜息をもらしている。第一試合場の異変を見物する為わざわざ下の世界に降りてきたところで捕まった。どうもローマのことを尊敬しているらしい口ぶり。喧嘩の1つや2つ、売られた方が手っ取り早くて助かるんだが。そんな物騒ことを考えつつ彼は黙って話を聞いていた。彼は気が立っていた。この場とは不釣り合いなイライラさえため込みつつあった。そんなローマの心境を推し量るなど思考の埒外。目の前の男は延々と無駄なお喋りを続けて。ローマは、とうとう面倒になったのか自ら口を開いた。
「人から敬意とやらを景気よく振舞われる人生を送った覚えはない。なんでそんななんだ?」
「そりゃ憧れてますよ! なんたって“伝説のファンデッカー”なんですから!」
 ローマは溜息をついた。またか。彼はそう思った。
「おい、1ついいか」
「なんですか?」
「今すぐ消えるか決闘を売るかさっさと選べ」
 ローマは相手を睨みつけた。
「え? え? え?」
 当然、蛇に睨まれた蛙は竦み上がる。
(こんなザマだ。あいつらの方がどんなにマシか)
 ローマはもう一度溜息をついた。
「いや、消えるべきはむしろ俺か。じゃあな」
(イライラしているのか? あのゴミを本気で張り飛ばしたくなる程の欲求を感じていた? まさか。雑魚を薙ぎ払うのはそれなりに爽快でも、ゴミを掃除するのは流石にただの単調作業だ。だとしたら? さっきから、俺の内側を掻きたてようとする蠅のようなモヤモヤはいったいなんだ? 心当たり? なくはないな)
 ローマの思考はある1つの可能性にぶちあたり、彼はくつくつと笑った。
(ないといえばないが、あいつのことだからないといえばないということはない、か)

「わからないんですよ! 決闘を始めたと思ったら古市さんが……それで両方とも倒れて……あの女がフラフラと立ちあがって『はじまらないからおわらない』って一言呟いて去ってって……どこにいったのかですって? しょうがないじゃないですか? わけがわからなくて自分を保つので精一杯。もうなにがなんだか」
「事態が悪い方向に向かっていることだけは確実に飲み込めました」
「それは私にしてもそうだ。何故彼女が今覚醒したのか」
「覚醒も何も彼女はみたまんまの危険人物でしょ!」
「君はベルメッセ嬢の上っ面しか知らない。ほとんどの人間がそうであるように。そしてそれを恥じる必要はない。我々も、大抵の場合は『危険人物だから近付くな』程度のことしか伝えない。だが……」
「『だが……』の後をこれほど聞きたくないのは初めてです」

(さてさて、どう考えても私は邪魔だと思うんだけどどうして真ん中にいるのやらっと)
 瑞貴は頭の中で頭をかいていた。右には信也、そして左には先程合流した彩。これから試合をすることになる後輩二人に挟まれ微妙な空気を味わう苦悶。
「それで、シンヤの調子はどう?」
「それを教えるわけにはいかないと言いたいところだけど敢えて言うなら絶好調だ。アヤは?」
「それだったら私も絶好調かな。お互い絶好調なら思い切りやれるね。勝っても負けても恨みっこなしで」
「勝つけどな」
「すぐ話の腰を折る」
「だってそうだろ。勝つためにやってる。それ以外に何があるっていうんだよ」
「シンヤだって今回のを通して色々な人とふれあえたでしょ。そういうのが」
「そりゃ否定はしないけど今回はもろ身内戦じゃないか。今更なんだよ」
「そういうことじゃなくて。なんでこう冷淡っていうか、そういう……」
(なんだろうこの疎外感。なんかこうアテにされてないというか。もしかして私、人望がない? いやいやいやいや。人望がないとかあの馬鹿じゃあるまいに。そんなことあるわけ)
 しかし一向に話が振られる気配がない。瑞貴の脇で2人が話し続ける。たまに話が途切れ、割り込むチャンスもあるにはあるが、瑞貴はボールをけりこめない。そして再び2人の間でキックオフ。
(駄目だ。なんかこう、こういうときどうやって後輩に話をふればいいんだろ)
 普段お高く止まり過ぎた反動かはたまた単に付き合いが希薄だったからか。
(アヤとはあんまり話したことないし。かといってどっちかに偏るのも不公平)
 誰も気にしてはいないことを延々と考える瑞貴。こうなるともう止まらない。
(誰かこの空気を断ち切って欲しい。なんかこう私の入る余地をつくってほしい)
 瑞貴の願いはあらぬ方向から叶えられることとなる。だが事の当事者達はまだ知らない。
(アヤは僕の変調に気が付いているのか?) (自信満々。私のこと、全然恐れてない?)
 幼馴染の2人が各々の呼吸で探り合いを続ける中、瑞貴は明後日の方向に思考を伸ばす。
(折角の機会。なんか一言二言かけてあげたいけど、こう、なんか、2人いるっていうのが)
 信也と彩が神経を張り詰めていくのとは逆に、今回、部外者にあたる瑞貴の頭の中は平和だった。この程度の思考にかまける程度には。しかし混沌の闇はそんなときにこそ訪れる。最初に気がついたのは瑞貴だった。信也と彩は言葉の牽制合戦を延々と続けている。気が付いていないようだ。しかし現実問題としてそこに「いる」。瑞貴は、背後に忍びよる何者かの気配を感じ取っていた。なにかが「いる」。
(なに? 殺気を感じる。後ろにいる。私の背後にいる。なんだろう、私はこれを知っている?)
 瑞貴の背筋が凍る。何者かが、瑞貴の知る何者かが背後にいるという圧倒的事実。ここはもう先手を取って振り向くしかない。いや既に後手かもしれない。だとしても一刻も早く振り向くしかない。しかし振り向けばその瞬間何かが、恐ろしい何かが始まってしまうのではないか? しかし振り向く以外に道は無し。瑞貴は意を決して振り向く。そこには、誰もがよく知る決闘者が鬼の形相で立っていた。

「ベスト8を愚弄したな〜」

「え……? 貴方は確かソリティアの会の……神宮寺陽光……さん」
 驚く瑞貴。次いで振り返る信也と彩。なにかが、いた。
「ベスト8を愚弄する子はいねえがあ。ベスト8を愚弄する子はいねえがあ」
 何をどうやって瑞貴の「ベスト8どまり」発言を聞きつけたのか、そこには神宮寺陽光がいた。いや、これは神宮寺陽光なのだろうか。むしろ地方妖怪ベストエイトー。普段はベストエイトベストエイトと念仏を唱えながら夜道を徘徊する無害な妖怪だが、ひとたびベスト8を貶す発言を聞きつけるや次元の狭間より現れ「8を横に倒せば∞」などといった危険思想を無理矢理植え付け去っていくと言われている。
「あ、あの、いや、その、別にその、神宮寺さんのことを悪く言ったわけじゃ」
「瑞貴さん無駄です! 一旦地方妖怪ベストエイトーを怒らせてしまったら、ベスト8の神にベスト4を生贄に捧げなければその怒りは鎮まらないと言われています。ここは逃げましょう」
「シンヤ君、どこでそんな情報を!?」
「前にサツキさんから教わりました。本に書いてあったそうです」
(サツキはいったい何を読んでるんだろ。ああもお。兎に角逃げなきゃ!)
 逃げるしかない、瑞貴がそう決意したときだった。再度瑞貴は心に冷たいものを感じる。地方妖怪? 違う。これはもっと別の何か。その刹那、瑞貴の目の焦点は地方妖怪にではなくその奥に定まっていた。信也、彩、そしてベストエイトーまでもがその瘴気を感じ取り振り向く。虚脱しきったその姿勢が、むしろ観測するものの緊張を促す。誰もが触れてみたいと思い、誰もが触れてはならないと思いとどまる者。

 ベルメッセ=クロークスであった。

「おまえも……ベスト8を愚弄する子はいねえがあ」
「どうでもいい」 「なぬぅ!?」 「必要ないから」
 瑞貴はドキリとした。地方妖怪の後ろには裏コナミの怪物。それも、あの晩エリーと自分を窮地に追い込んだベルメッセ=クロークス。しかし何かがあのときとは違う。それも、決していい方向性にではなく、自分達をあらぬ方向に誘導しそうな……。ベストエイトーはベルメッセを睨みつけた。「どうでもいい」というのが琴線に触れたのだろうか。しかし何かがおかしい。瑞貴は横目で信也と彩をチラリと一瞥。やはり何かがおかしい。二人とも歯を食いしばっている。ベルメッセの異様な雰囲気を感じ取ったのなら当然の反応? 何かがおかしい。何かが。
(おかしい。いかに地方妖怪ベストエイトーとはいえここまで?)
 瑞貴の違和感。神宮寺改めベストエイトーがいかにベスト8に固執することで知られる地方妖怪だとしても、必要以上に怒気を掻きたてられているようにみえて仕方がないのだ。
(こんなことなら私もベスト8の関連書物を記憶しておくべきだった。ベストエイトーの習性とか……)
 瑞貴ならば、瑞貴ならば国数社理英にベスト8を加えるなどその気になれば何ら問題ない筈だった。それをしなかったのはひとえに怠慢といえる。しかしないものねだりをしても仕方がない。彼女の推理が正しければベストエイトーといえどもこの反応はおかしい。そしてそこにこそ、得体の知れない何かがある。
「ぐぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 瞬間、鬼の形相で掴みかかっていったベストエイトーが壁に叩きつけられていた。疑念に囚われている隙の一瞬の出来事。何が起こったのだろうか。はっきりと見切ることができないとはなんたる不覚。
「地方妖怪がやられた!? なんだ、あいつはいったいなんなんだ!?」
 ベルメッセの唇からは血が漏れていた。どうも今のやりとりで切ったらしい。しかし意に介する様子もなく。ベルメッセは瑞貴に近づいた。そして顔を近づけぼそりと呟く。
「ちがう。にてるけどこれじゃない。あっち?」
 ベルメッセは瑞貴達が歩いてきた方角を一瞥。瑞貴はベルメッセの言葉の意味を即座に察知した。皐月だ。皐月を狙っている。いや、狙っているのかどうかはわからない。食事に誘おうとしているだけの可能性もなくはない。しかし瑞貴は平穏無事と思われる選択肢を片っ端から切り捨て、悪い想定と、もっと悪い想定と、最悪な想定だけを残して叫んだ。危ない。このままでは皐月が危ない。
「止めて。ベルメッセを止めて!」
 言った傍から瑞貴は後悔した。誰に何を言っているのだろうか自分は。近くにいるのは後輩二人。それも自分以上に情報が不足している後輩二人。にも拘らず「止めて」。瑞貴は己の底にある他力本願性を呪った。なにがブレイン・コントローラーか。少し得体の知れない化物が地方妖怪を倒した程度でおそれおののき「止めて」? なんと脆い。第一、「止めて」といったところでこの場の誰がそれを実行できる?
「待て! そっちにはなにもない。引き返して……引き返せ!」
 信也だった。ベルメッセの前に立ちはだかり、一心に睨みつける。しかしベルメッセは意に介する様子なくその場を通り過ぎようとした。信也は尚も言う。「引き返せ」と。遂にはベルメッセに掴みかかる。その行動に驚く彩。彼女は突然の事態にただただ呆然としている。しかし事態は収まる気配なく。

「止まれって言ってるだろ!」
 バチン、と大きな音が響く。信也がベルメッセを殴りつけたのだ。
(違う。これは勇敢さとかそういうのじゃない。掻き立てられている。ベルメッセの存在に感情を掻き立てられ、防衛本能からか掴みかからずにはいられなかった? ベルメッセにはそういうなにかがある? 私がいけないんだ。「止めて」だなんて。導火線にわざわざ火をつけ、後輩をあの狂人の前に晒してしまった)
(嘘だ。あのシンヤが女の人を殴るだなんて。私の知ってるシンヤはもっと平和的で……どうしちゃったんだろうシンヤは。最近どこかおかしい。まるでネジが2〜3本外れてしまったかのように)
 各々の立場から異なる結論を引き出していく瑞貴と彩。真実がどこにあるにせよ、現に今信也はあろうことか思い切りベルメッセの顔を殴りつけた。信也自身、自分のしたことに戸惑っている。震えが止まらない。そしてその震えは、信也がよく知っている類の震えだった。信也は戸惑っている。何故か。実のところ、彼は殴る前から震えていた。なのになぜ殴ることができたのだろう。ダイレクトアタックが止まるように、拳もまた止まるのが自然。にも拘らず信也はベルメッセを殴りきった。そこに得体の知れない何かを感じ、信也は怯えた。
「ローマのにおいがする。こわいんだ」
(ローマ。そうだ。同じなんだ。こいつはローマと)
 敵意の源泉がどこにあるかを認識する信也。
(なんで殴ったんだ? なんで殴れたんだ?)
 同時に、今起こってる現象に混乱する信也。
「シンヤ君、無事? 身体は大丈夫?」
 信也は頷いた。なんともない。なにもされてない。真相は不明だが地方妖怪の二の舞とはなっていないようだ。ベルメッセは信也を凝視した。興味を持ったのだろうか。興味を持ってしまったのだろうか。
「こうすればいい」
 ベルメッセは手袋をはめた手で信也の手を取ると自分の首まで持っていく。
「ぶちたくて、ぶちかえされるのがこわいならこうすればいい。すぐわかる」
(なぐりたくて、なぐりかえされるのがこわい? あれ? なんだこれ)
 信也の指に力が入っていく。止まらない。信也の意思を超えて力が入る。
「こっちにおいで」
(こっちだって? そっちにいけばローマにも勝てるのか?)
 信也の口元に笑みが浮かぶ。 彩はショックで動けない。
(いけない。なにかがいけない。止めなきゃ! 私が止めなきゃ!)
 このままでは何かが起こってしまう。瑞貴はたまらず飛び出した。
「ダメ!」
 瑞貴は渾身の力でカットに入る。手を外し困惑する信也。
「僕は、僕はいったいなにをやってたんだ??」
 信也は自分の手をみつめた。瑞貴は、信也が何かを考える前に叫んだ。
「気にしない! 全てはあの女の所為。気にしない!」
 隣では彩が震えながらも安堵している。瑞貴の言葉が幾分救いになったのだろうか。一方のベルメッセはむせている。信也の首締めはベルメッセに人間的なダメージを与えていたようだ。もしも瑞貴がカットに入らなかったらどうするつもりだったのか。単なる余興で、いつでも抜けることができたのか?
(私の所為だ。これ以上後輩2人をここに置いておくわけにはいかない)
 瑞貴は決意を固めていた。ベルメッセを目の前に、ある決意を。

「こちらとしても一応手は打っておく。君は大会運営の方を頼む」
「わかりました。ですが、やっぱり少しは聞いておきたいですね。私も自分の身が大事なんで」
「彼女は普段幾つかの“顔”を張り付けて生きている。喜怒哀楽が誇張されたつくりもののような表情。彼女は“顔”を張り付けたまま放置して眠り込んでいる、普段は」
「何故そんなことが可能かは一先ず置いておくとして、何故そんな真似を? そんなことをすればどんな事態になるか、他人はおろか自分にも危害が加えられる可能性だってあるじゃないですか」
「ある日などは、目が覚めたら一通り暴れた報いとして縛られ吊るされていたこともあったとか。そんなに不思議がることはない。彼女は、はっきりいってしまえば暇なんだ。彼女にとってみれば、人生の何分の一かを放棄して、いつも知らぬ土地で目が覚めるぐらいが丁度いい。彼女には色々なものが欠けているが、その内の1つとして、彼女には……」
「少なくとも良心が欠けているのだけは間違いなさそうですね」
「良心か。良心といっていいかどうかは分からないが、彼女にも僅かばかりの拘りというものがある。その1つが“顔”への禁止令。彼女が貼り付ける“顔”にはたった一つだけ―私が知る限りではたった一つだけ―“条件”が付加されている。それが“殺すな”。ベルメッセの“顔”は本物の残り香を漂わせながら表を出歩き、色々と不味いことを仕出かす恐れを秘めているが、今のところ誰かを死なせたという話は聞かない。もっとも、我々が彼女を監視していなければ死人は出ずとも不味い事態には陥っていただろうが」
「貴方方に保護されていることをいいことに好き放題しているのでは?」
「そうかもしれない。しかし仮に、我々がいなかったとしても彼女は似たような真似に出ていただろう。ベルメッセは自分の身をほとんど案じない。案じる必要性を感じていない。だからこそ本当に危険なのはベルメッセ=クロークス本体。人格的にも、能力的にも」
「まったくさらっとろくでもないことをおっしゃる」

「1つ聞いていい?」
 瑞貴はベルメッセから視線を外すことなく、後輩2人に聞いた。
「サツキなら、サツキならこんなとき、身体を張って後輩を守りに行ったかな」
「ミズキさん……」 「西川先輩……」
「そうでしょ。前に出たんでしょ。さ、行きなさい。早く、一刻も早く――」
 瑞貴が固めた決意。それは2人を先へ行かせること。
「先輩はどうするんですか? あんなのを相手にしたら先輩が……」
「これでも私、一種の天才……『ブレインコントローラー』で通ってるのよ」
 『天才』、普段ならこれほど頼もしい響きもないだろう。しかし目の前にいるのは天才とか秀才とか、そんな日常で耳にするような単語で表せる生物ではない。怪物、化物、妖怪変化、おそらくはそのあたり。仮に瑞貴がテストで『100』点を取るとしても、ベルメッセは同じテストで『グリーミリオΩアストラルノブレッシュ』点を取るだろう。取ってしまうだろう。そういう類の決闘狂人。1人で相手をするには未知数すぎる、危険すぎる相手だ。このベルメッセからは手心の気配がまるで感じられない。信也達が本能的に恐れる最大の根拠はそこにこそあった。
「行きなさい! これから試合なんでしょ、雌雄を決するんでしょ、行きなさい!」
 瑞貴との繋がりはどちらかといえば希薄だった。しかし彼らには今、瑞貴が「先輩」に見えた。2人は駆けだした。ありがとう西川瑞貴さようなら西川瑞貴。
(先輩の死は、無駄にはしません) (なんで、なんでこんなことに)

「さってと。ベルメッセ。私は貴方に決闘を申し込むわ。私が勝ったらここから去りなさい!」
 後輩2人がその場を去ったのを確認した瑞貴は、呼吸困難から完全に立ち直ったとみられるベルメッセに向き直り、あろうことか決闘を挑む。これしかない、彼女はそう思った。得体の知れない相手、元々喧嘩などしたこともない瑞貴がベルメッセという説得の通じなさそうな相手をどうにかするにはこれしかない。カードゲームという論理体系に持ち込めばこの非論理的な相手をどうにかする術もある、筈。
「いつかの決着をつけましょう!」
「いつか? いつか、いつか、いつか、いつか、いつか」
(問題は裏コナミ級の相手に私が勝てるのかということなんだけど。そんなことを言っている場合じゃない。カードを引かなきゃ命を引かれる……袖からデッキケースを出した! 殺る気だ!)
 四の五の言わずに決闘に臨む瑞貴の姿勢を良しとしたのかベルメッセはくつくつと笑い声を洩らす。聞いているだけで不安な気持ちにさせられる、呻くような笑い声。
「カードは(ふだ)にはじまって(ふだ)に終わる」
「そうかもね。なら……」
 瞬間、ベルメッセは大きく踏み込み、瑞貴の懐に入り込んだ。
「いつだったっけ」
 彼女は瑞貴の首の後ろに両手をまわし、まるで抱擁するかのように。
「“ずっとお城でくらしてる”」
(しまっ……)

 「中條と呼ばれていた男」と別れたポーは復旧作業にいそしみながら思い出す。
「しかし、それにしても倒れていたあの男をみているとつくづくかわいそうになる」
「被害に遭った男ですね。今日一番運がないのは間違いないでしょう」
「被害? ありえない。決闘をやって何故被害と言えるのか」
「いや、だって、あんな目に遭ったんですよ」
「自業自得だ。聞けば決闘をしていたらしいじゃないか。ベルメッセがあのような小者相手に本気になることなど有り得ない。おそらくは彼女に耐えきれず、覚悟なき決闘の責任を取れなかった」
「だったら! なんでかわいそうなんていったんですか?」
「かわいそうじゃない
ですか(・・・)。ああ、なんてかわいそうな『私』」
「なんですって!?」
「この程度の覚悟なき決闘者をのさばらせているということは、それこそは決闘の監視と刺激を生業とする『小生』の無能を証明するということ。しかしですよ。少なくともあのディムズディルがもう少し時間と余裕をもった上で『小生』への委託を行っていれば、この数合わせまでは必要なかった。にも拘らずレベルの低下を招こうものなら怒りを向けられるのは小生です。ああ、なんとかわいそうな『小生』」

(一瞬でも何かを期待した私が心底馬鹿だった。これだから裏コナミは)
 もっとも、ポーはあることを同時に確信していた。あることを。
(だがそれでも、味方にすれば間違いなく最強だ。味方にすれば)

「これって……」
 虚をつかれた格好の瑞貴。しかし吹き飛んだのはベルメッセ。強烈な一撃。壁まで吹き飛ぶ破壊力。
「ディム……」
 条件反射。「無駄にジャストタイミングでこんな真似を嬉々としてやりそうな性質の悪い知り合い」の名を口走りそうになった瑞貴だが、そこにいたのは違う人物。瀬戸川流決闘術、瀬戸川刃、その人である。
「すまない。自分の身に起こったことを考えるあまり寝坊してしまった。おっと、流石は裏コナミの先輩だ」
 ベルメッセは立ち上がった。大きなダメージを受けている。にもかかわらず立ちあがる。
「あ、薬指いたい」 薬指どころではなさそうだが。フラフラになりながらも立ち上がる。
「後輩の瀬戸川刃だ。お初にお目にかかるなベルメッセ=クロークス」
「えーっと……」
「聞いていた通りか。華奢な身体でよく立ちあがる。しかしこれ以上は」
「足止め御苦労ですジンさん」
(あれって!? なんで室内なのに飛んでくる!?)
 無意味に空中で三回転して捻りまで加える決闘紳士、勿論ゴライアス=トリックスターだ。
(ん? ベルメッセの影に何か潜んでいる。あれって……嘘!? なにかでてきた!?)
 瑞貴の視た物に誤り無し。影から現れし狂える僧侶。勿論ドルジェダク=ヤマンタカ。
(続々と変態が……。違うでしょサツキ、私これとは違うでしょ? 同類項じゃないでしょ?)
 余所事を考える程度には安堵したのも事実。この3人はベルメッセを止めるために集まったのだ。
(となると後は……)

「ローマ……」
 最悪の事態には最悪の人選がチョイスされる。何故ここにローマがいるのか。信也は身震いした。
「そこをどいてくれませんか? 今、逃げてる途中なんで」
(逃げる? ああそうか。やはりそういうことだったか)
「そうかそうか。なら逃げればいい。ここからも、俺からもな」
「どういう意味だ」 「シンヤ、相手にしてる場合じゃないよ!」
(別に急ぐ必要はないな。こいつを鏡にしてみるのも悪くない)
「深い意味はない。ただ、そうみえただけだ。それだけのこと。他意はない。じゃあな」
 図星だった。信也は、もしベルメッセの脅威がなかったとしてもローマ相手には逃げ腰になっていただろう。事実、ローマを目の当たりにした信也の手は微かに震えていた。目線もどことなく逃げ腰だ。
「う……く……」
 このときの信也、哀しいかな、彼は若過ぎた。図星をつかれて「ああそうですかそうですか貴方がそういうならそうなんじゃないですか」といった具合にスルーすることができなかった。次の瞬間、信也はローマの胸倉を掴む。掴んでどうするのか、そんなことは考えない。とにかく掴む。
「逃げると言った矢先に胸倉を掴む。おまえはそういう人間だ」
「僕の何を知っているっていうんだ」
「大したことじゃない。前に決闘をやったとき……」
「僕の何を知っているって……」
 心理的に追い詰められたからだろうか、更に強く握りこむ、が、信也は呻き声をあげてローマの服から手を離した。指からは血が出ている。まるで、鋭利ななにかを握ってしまったかのように。
「カードゲーマーたるもの、襟に硬質のカードスリーブの1つや2つ、なにか不思議があるのか?」
 熱くなったが故の凡ミス。一流のカードゲーマーならその程度の備えは至極当然。それを考慮できないほど信也は冷静さを欠いていた。度重なる異常事態、その終着点にローマがいることは信也の神経を逆なでするどころの騒ぎではなかった。
(シンヤはやっぱりなにかおかしい。どうしちゃったんだろう)
 彩は信也との間に大きな温度差を感じる。ローマを体験した者としなかった者。あのときローマと闘ったのは元村信也と新上達也であり、断じて福西彩ではないのだ。

「おまえのせいで、おまえのせいで僕は……」
「どうした。もし俺が憎いなら、その握った拳で殴ればいい」
 信也は押し黙った。ローマはそんな信也をあざ笑うかのように続けた。
「どうしたんだ? 反撃が怖いなら一発無抵抗で殴られてやってもいい」
 ローマの申し出に対しても黙り続ける信也。拳は一向に放たれない。
「僕は……俺は……」
「どうした? 何故殴らない」
「カードゲーマーだからだ。カードゲーマーは殴らない」
「成程。そういう主義もいいだろう。否定はしない。だが1ついいか?」
「なんだ。なにがおかしい。なにがおかしい」
「殴らないと殴れないの間には雲泥の差があるんじゃないか?」
 図星だった。信也は既に殴るのに十分なだけの害意をローマに対して抱いていた。時間とともにトラウマが熟成、ローマと出会った瞬間スパーク、ゲージは既に3本溜まっていた。にも拘らず殴らない。いや、殴れない。信也は、理性や道徳心をもって拳を抑え込んでいたわけではなかった。ただ単に、獅子に猫が噛みつけないのと同じ理屈で噛みつけなかった。即ち、足が竦んだのである。見抜かれた。またしてもローマに見抜かれた。それも当然だった。ローマはこれまでに幾度となく己の眼前で虚勢を張る雑魚をみてきている。彩は首を横に振った。苦しい。あまりに苦しい。いかになんらかの事情があろうともベルメッセをさっき殴りつけた人間のいいわけとしてはあまりに苦しい。

「だったら! だったら俺と決闘しろ! ここで俺と勝負しろ!」
 若さゆえの暴挙か。弱さを見抜かれた信也は半ば捨て鉢となってローマに決闘を申し出る。
(これだ。こいつのこの姿勢。もう少しつついてみるか)
「断る。俺もそれなりには忙しい。さしあたってはこの先に進むつもりでいる。手を震わせた雑魚とやってえるものなどありはしない。だが、どうしてもというなら条件がある。そうだな、予選ぐらいは突破しろ。そうしたらこの先少しおもしろい余興がある。精々頑張るんだな」
「ふざけるな! 今闘え!」
「最終戦があるんだろ? 今から」
「ぐ……分かった。じゃあ予選を勝ち抜いたら、すぐ勝負しろ!」
 信也の目は血走っていた。段々と、自分でも何を言っているのかわからなくなっているかのようだ。釈然としないのは彩だった。この一連の流れにおいて彩の都合は完全に無視されている。いつの間にやら、本命と付き合うための踏み台扱い。彩は信也の腕を引いた。
「いこ! こんなのに構ってちゃ駄目になっちゃうよシンヤ!」
 地獄の番犬も道を譲りかねないこのローマを前にして言うも言ったり。無論恐怖もあったがそれ以上に憤怒が勝った格好か。もっとも、「こんなの」扱いされた当の本人は依然として笑っていたのだが。彩は信也の腕を引いてその場を去ろうとした。と、そのときだ。ローマが彩に声をかける。
「おい、おまえ」
「福西……彩です」
「そうか。なら福西彩、おまえは俺とやらないのか? やる気はないのか? もし予選をシンヤの代わりにおまえが勝ち上がったなら、そのときは相手をしてやってもいい」
 遊び半分、からかい半分の提案だったのだろうか。彩は毅然として答えた。
「貴方みたいな、他人を狂わせて楽しそうにしているような人とは決闘をしません」
 はねつけられる格好となったローマは薄く笑みを浮かべ、信也の方を指差した。
「だがおまえはそこのそれと決闘をやろうとしている。それはどう説明するんだ?」
「シンヤは貴方とは違います! 貴方なんかとは違います!」
「違うか。確かに違うだろうな。俺も一緒にされたくはない。されたくはない、が」
 彩はぶるっと身体を震わせた。この男は信也の中に何をみたのだろう。
「さよなら! いこ! シンヤ!」

「ここまでくれば流石に安心だと思うけど、先輩はどうなったんだろう」
 試合場近くまで退避。彩は出来る限りローマのことは口にしないように努めた。そうすれば信也が戻ってくる、そんな気がしたからだ。彩の気持ちを知ってか知らずか信也は試合場の方を向いていた。
「ごたごたしたけど、それで丁度よかったのかもしれないな。皮肉だけど」
「どうして?」
「みろよあれ。第二試合場だけでやってる。これじゃペースも落ちるだろ」
「ホントだ。ちょっと安心。さっきの騒動で気疲れしちゃったから」
「ミズキさんからメールが来ている。変態が数名いるけど大丈夫だから安心してだってさ」
「あ、ほんとだ。だけど変態が数名ってなんだろう。なんか安心しにくいんだけど……」
「あの人もいい加減ずれてるからな。あの人が変態って言うぐらいだから多分……」
「よかった」
「ん?」
(なんかゴタゴタしてたけど大丈夫そう。そうだよ。あんな約束大したこと……)
 彩は安堵した。正確には安堵してしまった。信也の目が正常に戻ったような気がして。しかし彩はまだ知らなかった。この先待ち受ける過酷な運命をまだ知らなかった。

「はてさて。ベルメッセさん、随分とおはやいお目覚めですね」
「においがしたから。だけどもういい。ねむくなってきたから」
(匂い? はてさて。この方が急きょお目覚めになるとは? それに同じ頃起こった試合場での出来事)
 突如、ゴライアスは大きな声を上げ笑いだした。それも、狂ったように。
(そうですかそうですか。そういうことですか。成程。それならば全ての説明がつく。遂に、遂にと言いますか。大会を開いた甲斐があったというもの。そうと分かったからには式典の場が必要ですねえ。忙しくなりそうなことです。しかしこれは目出度い。それでこそ決闘の祭典というものです)
「なにがそんなにおかしいんだ? ゴライアス」
「この声は……」
 ゴライアスの笑いを遮る鋭い声。同時に、カードが木の葉のように乱れ飛ぶ。と、そのときカードの1つ1つが次々に爆発していくクィックエフェクト。ソリットビジョン、いや、単なるソリットビジョンではない。現実の爆風と、強烈な存在感が皆の目を一点に引き寄せる。ローマ=エスティバーニの到着だった。
「おまえがなにを企もうが知ったことじゃないが俺の遊び場ぐらいはついでにつくれ。野暮用ができた」
「それはもう。貴方方のご活躍が不可欠でございます」
(いやはや。皆さんよくもまあ駆けつけさなることですねえ)
(古狸がいったい何を企むか。まあ、こちらは当分放置でいいか。それよりも)
「久しぶりだなあベルメッセェ! まだ生きる気は残ってるか!」
 ローマはベルメッセの前に立つといきなり首を締めあげ、そして放り投げる。
「ああ、それそれ。いたいのはいい。裏切らないから。とりわけあんたのは」
(一刻も早くドサクサまぎれに離脱したいところだけれど)
 迂闊な動きは逆に危険。瑞貴は植物のように気配を消そうと努めていた。
(だけど不思議。これだけそろってると逆になんか安全な気がしてくる。一種の牽制効果? それにしても、ここまで集まってるのに、集まってるのに)
「あ、ディムズディルがいない」
「よく覚えてたなベル。だが記憶を更新する必要がある。あいつは幾分腑抜けた」
「そうですねえ。周知の通り裏コナミの一員としての必須技能に“ジャストタイミング”というのがございます。少し前までの彼は裏コナミでも屈指のタイミングを誇っていました。にも拘らずこの体たらく。実に、実に嘆かわしいものです」
「大方、慣れないことに構ってるんだろうさ。だから登場さえ疎かになる」
(ここにいないアイツ。いると「死ね」って言いたくなるけど、言いたくなるけど……)
 瑞貴は不安を覚えた。何故いないのだろう。まるでぽっかり穴があいたかのように。

                          ――――

「ストラ、1つ聞きたい。我が思うにヴァヴェリは遅攻型だった筈だが」
「俺が知ってる限りではそうだな。だがもっぱら守備型というわけでもない。そもそも爺さんが時間をかけるのは相手のデッキをある程度ではなく完全に見切るためだ。そこから一気に戦略・戦術を引きだして本丸に至るのがあの爺さんの決闘。冴えるときは兎に角冴えてるが、ホントのところ別に相手の心をどばっと読み取ってるわけじゃない。んなことできるなら時間かける必要ねーからな。デッキウォッチへの絶対的自負を軸とし、経験則で補完しつつ相手の心情を推し量ってたまにハッタリをかまして揺さぶるのが本領。裏を返せば、元々オールラウンドに闘える、高い技量をつっかえ棒にしてるから出来る決闘」
「確か弱点としては手順が面倒、他には、型破り過ぎる相手だったり、型のアレコレを勘違いさせられると、なまじ徹底しているだけに弱みを晒しやすい、だったか」
「結論から言えばだ。確かに強敵相手にはじっくり粘っこく闘うヴァヴェリでも、相手の田中ってやつが死ぬほど平々凡々ならじっくり観察する理由も必要もないってこった」

○ヴァヴェリ―田中×
得失点差±8000LP


「要は死ぬほど雑魚だったということか」
「身も蓋もない言い方をすればそうなるな」
「フォーフォッフォッフォッフォッフォッフォ!」
「おーおー元気だな爺さんは。しっかしシンヤはなんでアレに負けたんだ?」

「シンヤ。これって、今から試合する私達にも……」
「影響するだろうな。あんにゃろう、最悪の嫌がらせだよ」

Lブロック 元村 信也 田中 聡 ヴァヴェリ 福西 彩 得失点差
元村 信也 No Duel ●(-1500) ○(+5000)   +3500
田中 聡 ○(+1500) No Duel ●(−8000)  ●(−7000) −13500
ヴァヴェリ ●(−5000) ○(+8000)  No Duel ○(+3500) +6500
福西 彩   ○(+7000)  ●(−3500) No Duel +3500

「お互いに3000差つけて勝たないといけないわけだ」
 試合前だというのに、先の騒ぎの影響かなんとはなしに一緒にいた2人は揃って蒼ざめた。老兵はただでは死なず。ヴァヴェリ=ヴェドウィン、意地とも言えるパーフェクト・ゲーム。
「そうか。3000差をつけないと駄目なのか。そうしないとローマとやれないのか。ハハ、大変だな」
「大変なことになったね、シンヤ。だけどこうなったからには私も全力で3000差を……」
「そうか。そうなんだ。3000差つけないとローマとはやれないんだ……」
 彩はぶるっと身体を震わせた。なんだろう。この感じ。信也の目は一体どこを向いているのだろう。1分ほど経過しただろうか。信也は彩の方を向き直った。やっと対戦相手の自分に目を向けてくれる。当然のことなのに少しばかり嬉しさを感じる自分に多少の違和感を覚えつつも彩は信也の顔をみた。しかし彼女はまだ知らない。この先待ち受ける過酷な運命をまだ知らない。

「ちょっとこっちに来てくれ! 話があるんだ!」
「え? もう試合が始まっちゃうよ!」
「トイレにでも行くって言っておけ!」
 半ば強引に彩を連れ出す信也。彼は誰もいないと思われる場所まで彩を引っ張っていくとそこで足を止める。憮然とした表情で信也の真意を問いただそうとする彩の口を遮り、彼は予想だにしない行動に出た。なんということだろう。信也はいきなり地に頭を擦りつけ彩に懇願したのだ。何を? それは正気の決闘者としてはおよそ有り得ぬ懇願。その内容を一言で簡潔にまとめるなら「負けてくれ」。

 恥も外聞も知ったことか――

「なに……してるのシンヤ。顔をあげてよ。意味がわからない」
 分かるはずもない。だが信也は尚もまくしたてる。
「頼むアヤ。今日のところは黙って僕に負けてくれ。僕はローマともう一度やらないと駄目なんだ。あいつとの闘いで何かを落っことしてしまった気がするんだ」
「そんなの錯覚だよ! お願い、顔をあげて!」
「頼む、靴を舐めるから。むしろ舐めさせてくれ!」
 彩は引いた。それも一歩引くどころではない。三歩は引いた。舐められる。このままでは有無を言わさず舐められる。なんでこんなことになってしまったのだろう。ただただ、正々堂々闘って雌雄を決したかっただけなのに。なぜ信也は八百長を持ちかけてまでローマと闘おうとするのだろう。私のことを無視するのだろう。いつから、いつの間にそんな遠くなってしまったんだろう。
「そんなの! だったら実力で私に勝って! じゃないとローマに勝つなんて!」
 自分から自分を踏み台とみなすような言い方をするのは本意ではない。本意ではないがしかし、彩には最早そう言うことしかできなかった。
「実力? 出してるさ。どんなことをしても、それを貫いてこそあいつにだってくらいつける」
「それが間違ってるって言ってるの! カードゲームを舐めないで!」
「誰がカードゲームを舐めるって言った! 僕は靴を舐めると言ったんだ。勘違いするな!」
「わからない! シンヤ、どうしちゃったの? 私、もうわからない……」
 彩は顔を覆った。気まずすぎる沈黙。1分ほどして、信也は「わかった」と口を開いた。
「わかった。ローマに勝ちたいなら靴を舐めるとかチンケなことを言わず爪先から頭のてっぺんまでおまえの全身を隈なく舐めつくせ、そういうことだな。そういうことなんだな!」
(シンヤは、シンヤは病気なんだ。ミズキ先輩だってあのときシンヤがおかしくなったのはあの女のせいだって言ってた。シンヤはローマに毒されたんだ。シンヤを元に戻すには決闘でコミュニケーションを取るしかない。正々堂々ぶつかって、シンヤが奇行に走ったり、私を軽んじたり、そんな風にならないようにするしかない。心を込めれば、正気を取り戻してくれるに決まってる)
「そうよ! 私に勝てるものなら!」
「そんなこといって。危なくなったら僕を勝たせまいとわざと試合から降りるんだろ!」
「そんなことしない! 私は、私だから! 試合場で待ってるから! 私は、私は!」
 彩は駆けだした。信也は病気なんだ、そう結論づけた彼女には悲壮感が漂っている。なんでこんなことになってしまったのだろう。彩は泣きたい気持ちをこらえて試合場に向かった。邪悪な笑みを浮かべる、野生の決闘狂人を後に残して。発症する決闘狂人。隣人は恐怖と決闘を運ぶのか。
(舐めつくす。福西彩を舐めつくす。フフ……待ってろよ、ローマ)

これは、巨大な決闘の爆流に翻弄されながらも己の脚で立ちあがらんとする熱き決闘者達の物語である


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
みなさんお久しぶりです。もっぱら初体験の手術と初体験の遊戯王OCGにかまけてましたが、久々に紙面で遊ぼうと思います。久方ぶりのの更新とあって色々と不安ですが折角なので読者諸兄を混乱の極みに叩き落とすべくブースト史上でもとりわけ性質の悪いシリーズを書いたつもりなので暫くお付き合いいただければもっけの幸いでございます(村中捨長)。


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