「じゃあ、ゲームを始めるわ。ドロー……手札からモンスターを1体セット……そして……」
 とある『嵐』の後の決闘。彼女は今カードを握っていた。本当は、そんなつもりはなかった。しかしふと気がつくと、彼女は戦場に立っていた。彼女の目の前には、気だるそうに立つ灰色の髪の男。彼女の眼には、いや、脳裏には、その男の姿が焼きつくように刻まれていた。男は静かだった。俗に言う、嵐の前の静けさ? 相手の静けさとは逆に、彼女の鼓動は少しづつ高まり、うるささを増していた……うるさい? 誰にとって? 言うまでもなく、彼女自身にとって、である。
(落ち着きなさいってば。呼吸を整えて、冷静になって。そうじゃないとこの勝負、お話にもならない)
 彼女は驚かれる側だった。しかし彼女は今、自分自身の、過去の驚きに依りに立っている。目の前の男は、己の器量を越えていた。彼女は愚かではない。彼女は、誰よりも、チームの誰よりも、目の前の男が厄介極まりない、混沌とした、わけのわからない戦いの申し子であることを痛感していた。枠に囚われきった自分とは最悪の噛み合わせ。勝てない。だから逃げた。認めたくないからあの時逃げた。しかし――
(ターンエンド。貴方のターンよ、ディムズディル……ブラックマンとお呼びした方がいいのかしら)


―――――

「でてこい。そろそろいいだろう。待ち合わせにはまだ時間があるが、無駄な時間を使うつもりもない」
 その男、ディムズディルは多少うんざりした様子で、物陰に潜む何者かに呼びかけていた。
「流石は我が宿命のライバルこと灰色の魔人。グレイ・ブラックマン! よくぞ朕に気がついた!」
 無駄に偉そうな口ぶりで一人の男が姿を見せる。他方、ディムズディルは気だるそうであった。
「2つ言っておきたいんだが。まず1つ。魔人や妖怪の類になった覚えはない。行く先々で魔王やら化け物やら巨大戦車やら色々あることないこと言われるがそんな大層なもんじゃない。それともう1つ、その格好で潜んでいたつもりなら、速攻で病院に行ったほうがいい」
「朕を挑発するつもりか? 病院? 朕が居座るのは王座と決まっている!」
 ディムズディルは、少し眠そうだった。あまり機嫌が良さそうには見えない。
「確かに。三食昼寝付きの精神病院のベット、王座と似たようなものだ」
 丁々発止の言葉の刺し合い。ディムズディルは、一応、一応聞くことにした。
「一応聞いておく。ここに来る間、色々と刺客に襲われたんだが君の仕業か?」
「強盗以外は、と答えておこうか。この朕と闘うのだ。多少の審査は必要だろう」
 格上の立場からの発言。ディムズディルは呆れ、ため息混じりに言葉を返す。
「審査、か。だが闘うと言った覚えはない。もしあるとすれば、君に勝った覚えしかない」
 『朕』に対し、ディムズディルは今まで10戦10勝。審査もクソもないはずであった。
「それは……それは1億歩譲っても昨日の『朕』。今日の、今日の『朕』は……」
 男は、手に持っていた棒に『気』を集中させ、ディムズディルの前に構えた。
「かっての10億倍は『朕』である!」 棒の先からは刃が飛び出し、男は前に出た。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ! 死ねぇぇぇぇ!!」
 いわゆる槍術。それは恐るべき速度であった。槍が、突いては戻り、突いては戻る。
「……」 だがディムズディルはその全てを軽くかわし、最後の一撃を決闘盤で受け止める。
「速さも威力もある。当れば、人間の身体など容易く貫通するだろう。だが単調すぎるな」
「やるな。だがしかし、これは見切って見せれるかぁ! 仕込み短刀ファァァラオダガァァァ!」
 『朕』は、槍を中間地点で分離させる。と、そこには新たな刃物が唸りを上げていた。
「外れた!?」 だがその仕込み刃は空しく空を切るのみだった。それも当然。
「自分で仕込み刀と叫びながら、意気揚々と切りかかる馬鹿は初めて見たな」
「『朕』の言葉尻を掴むとは……まぁいい。鋭い洞察力と褒めておこうか。だがぁ!」
 『朕』は武器を捨てると、左手の盾を突き出す。それは、盾形の決闘盤だった。

(またか。いや、どこか違うな。この波動は、以前のピラミスには見られなかったものだ)
「『朕』はもう以前の『朕』ではない。高貴なる『朕』は遂に! 『神』の力を得たのだ!」
 この時、ディムズディルには薄っすらと見えていた。『朕』は、新たな、紫のオーラを纏っている。どうやらそれが自信の根拠の一端のようだ。ディムズディルは、今日初めて『朕』に興味を抱いた。
「ピラミス=マスタバ。回りくどい挑戦をした以上は、それなりのものは見せろよ」
 ディムズディルもまた決闘盤を付きだす。大気が、闘いに向けて揺れ動く。
(くっくっく。遂に受けたな。だが『朕』には“あのお方”がついている……)
 ディムズディルとピラミス。2人の戦いは意外な展開を迎える事となる。


第44話:灰色決着(前編)



「ドロー。手札からモンスターを1体セット。1枚伏せでターンエンドだ」
 ディムズディルの先攻。壁モンスターをセット。相手の出方を伺う。
(初手は悪い方だな。ピラミスの動きも気になる。ここは待つ、か)
 今日のピラミスは、どこかが違うように思える。と、その時だった。

「くっくっくっく……はまったなディムズディル。なんと凡庸な1ターン目! この時点で愚民の負けだ!」
 ピラミス突然の勝利宣言。ディムズディルは「またか」という具合に聞いていた。違うのではなかったか。
「『またか』とでも思っているのだろう。しかし、朕は見つけたのだ。愚民には『隙』がある。退屈という名の隙が! 愚民が血戦を臨んでいることは既に明瞭。そしてぇ! ブラックマンは敵がいなくなるほどに勝ち続けた。結果、ブラックマンは飽いている。飽いているがゆえに、無理にでも敵に興味を抱こうとする。そして! そこにこそ隙が見える。愚民が本来攻撃的な気質に傾いている、そのことは、朕のこの高貴な脳こそが知っている。だが! この凡庸なる1ターン目はそれ即ち……」
 そろそろうんざりしていたディムズディルは、適当なタイミングで話を打ち切ることにした。
「先攻1ターン目から殴れるなら、とっくに君を殴りつけているところだ、とだけ言っておく」
「朕の新手を心待ちにする愚民の潜在意識が、朕に絶好のタイミングを提供する!」
 聞いていない。ディムズディルもいい加減人の話を聞かないが、この男もまた性質が悪い。

「朕のターン、ドロー……高貴なる《打ち出の小槌》を発動!」
 ピラミスが黄金の小槌を振れば、当然そこにはドローの嵐。
「手札から僕(しもべ)を1体セット。2枚伏せてターンエンド……クク……」
(言うほど大した動きではない。だが、ピラミスの身体からは妖気を感じる。伊達ではないということか)
 ディムズディルは既に直感している。今日のピラミスが尋常でないことを。溢れ出す、妖気。そして瘴気。
(ピラミス=マスタバ。初めて会ったのはエジプトの砂漠を3人で歩いていた時だったか。単なる思いつきの旅だったんだが、その所為でストラとエリーが死に掛けていたんだったか。ストラは文句たらたらだったな。任意同行しておきながら、よくもまぁあんなに愚痴ったものだ)
 この時、ダルジュロスは完全に断っていたのだがそれはまた別のお話。
(あの時たまたま通りすがったのがピラミスだった。気前のいい男だった)
 挑発するとすぐに乗ってくるので利用価値が高かった、ともいう。
(だが、それからだった。僕が何かするたびに絡んでくる。何の怨みがあるのだか)
 親族一同の眼前でピラミスを徹底的に叩きのめしただけなのだが。謎である。
(だが、何度負けても廃れないその傲慢さは買う。買ったそばから売り飛ばす)

ディムズディル:ハンド5/モンスター1(セット)/スペル0
ピラミス:ハンド3/モンスター1(セット)/スペル2(セット/セット)

「ドロー……リバース。《魔導雑貨商人》だ。モンスターが切れるまでデッキを捲る」
 ディムズディルはデッキから3枚の岩石族を墓地に送り《サイクロン》を掴む。だが。
「やらせはせん! リバース! 《強烈なはたき落とし》でそのサーチをカウンター!」
(音の速さで《サイクロン》を叩き落とした。なんらかのロックでも仕掛けるつもりか?)
(朕の戦略は、やつの初手の偏り次第で成功率に差が出る。だがこれで、まず間違いはない)
「だったら。僕は商人を生贄に《守護スフィンクス》を召喚。セットモンスターに攻撃を仕掛ける」
「セットモンスターは《ジェルエンデュオ》。戦闘によっては破壊されない」
「特殊効果により《守護スフィンクス》を守備表示に変更。ターンエンドだ」
(こちらの布陣もそれなりに硬い。さぁピラミス。どう仕掛けてくる。どう攻める)

「朕のターン……ドロー……《打ち出の小槌》を発動! 尊くも! 手札交換を行う!」
(またか。ろくでもないことなのは間違いなさそうだが、何を狙っている? 何を……)
「知りたそうだな愚民よ。いいだろう。そんなに言うのなら、愚民に黄金の方程式を見せてやろう」
(やはり先手先手で仕掛けてくるか。ピラミスには、こちらの手が揃うのを恐れている節がある)
 この時、ディムズディルの手札に《サイクロン》《大嵐》《ハリケーン》の類は存在しなかった。《サイクロン》の入手が初手ではなかったこと、それは彼にとって不運と呼ぶべきことだったのだろうか。
(朕が師たる“あのお方”よ。今日こそ、今日こそこの男を、グレイ・ブラックマンを潰す!)

ハイランカ。ハイランカ。ハンノデキヌムコウニムコウニ。ヌルタワケ……
 ピラミスが怪しげな呪文を唱えると、辺りが薄暗くなり、瘴気が周りを包む。
(これは……あのピラミスに、これほどの力あるとでもいうのか?)
「《ジェルエンデュオ》を生贄に《エンジェルO7》を中央に生贄召喚。生物封印!」
(《エンジェルO7》。弱くはないが、さりとて潰せないカードではない……)
「リバースカードオープン! 左端に《王宮のお触れ》を発動! 罠を封印!」
(封殺戦略か。だが、この戦略には大きな穴がある。気がついているだろうに)

「ピラミス。速度を優先し、手札を湯水のように使ったところで、その布陣には穴がある」
「ふっ。朕の布陣には魔法封じが抜けている、そう言いたいのであろう。だがぁ!」
(ピラミスの周りに漂う妖気が増大していく。手札は後2枚。これでは終わらんということか)
 ピラミスが笑う。この時を、「完成」させるこの時を心待ちにしていたと言わんばかりに。
「見せやろうディムズディル。ピラミス家の、ピラミス財閥の底力を。今こそ発動せよぉぉぉ!」

ショット・ガン・シャッフル!

「今度は右端に《ショット・ガン・シャッフル》……まさか! この陣形の真の狙いは……!」
「気づくのが少し遅かったようだなディムズディル。そうよ。これがピラミス家の伝統芸!」

ピラミッドパワー!

「なるほどな。右端に永続魔法。左端に永続罠。そしてこの2つの頂点と共に三角形を構成するもう一つの頂点、即ち生物。これら魔法・罠・生物からなるトライアングルがフィールド上にピラミッドを形成、ピラミッドパワーを獲得するというわけか」
 まさに今、ピラミスの場では3つの点を光が結び、閃光のトライアングルが形成されていた。夥しいほどの、オーラ。今までのピラミスでは到底有り得なかった、圧倒的なエネルギー。
「だが、3枚置いただけでこれだけの力が発生するとは到底思えない。となると可能性はただ1つ……」
「流石に察しがいいな。そうだとも。このジャパンの四方の拠点には既に小規模のピラミッドが建造されている。ピラミス財閥の力をもってすればこの程度は容易い。そして! ピラミス財閥の力を持ってすれば! これら四点と、今日の為空に飛ばした高空金字塔とでピラミタル・ゾーンを構成するなど造作もないこと! そう! この、魔法・罠・生物のトライアングルは、言うなればこの日本を取り囲むピラミッドパワー収束の為のアンテナ! そして今、朕の場にはピラミッドパワーが充足したのだ!」

 驚愕の事実。ピラミスは乾坤一擲のこの機会を生かすべく、大金を投じてこの状況を誂えていた。
「マジックカードがこの布陣の穴をつくといったな。だが、このピラミッドパワーの力を持ってすればマジックカード封殺もまた可能となる。ゆくぞぉぉぉ! 《エンジェルO7》に《ミストボディ》を装着。戦闘破壊耐性を付与、この布陣を更に固めると同時に、朕の布陣がその真価を発揮する……生物の間には棺あり、愚民ならばわかるな?」
「装備『魔法』……やってくれる。こちらのマジックカードを、棺の中に封印し続けるということか」
 装備カード。今でこそ事実上風化したルールだが、本来は装備者に重ねて用いるカード。
「その通り。棺を守りし封印の使者O7に委ねられし過亜奴……それが《鎖付き爆弾》の如きトラップならばトラップを、ユニオンモンスターのごときモンスターならばモンスターを、そして《ミストボディ》のようなマジックならばマジックを棺の中に封印する力を我がデッキは獲得した。そして、この封印力は、1枚のキーカードによって愚民の領域さえを侵す! クククク……朕が黄金の布陣に、盲点などは存在しないのだ」
 そう、キーカード。ピラミスの場にいくらピラミッドパワーが充足しようとも、そこに相手を引きずりこまなければ何の意味もないのは既にこの世の常識。ピラミッドパワー運用の上での大原則である。だが、既にその為のキーカードは展開されていた。そのカードの名は……。
「そうか。《ショット・ガン・シャッフル》。相手のデッキを、己が領域に引き込む魔のカード」
「逝けぇいディムズディル! 300cc(自己申告)の血を流し《ショット・ガン・シャッフル》起動!」
 ピラミスはディムズディルのデッキを無心でシャッフル。それだけでよかった。戦略が、完成したのだ。
「愚民にはもう、魔法カードは一切引かせない。バトル封じ(《ミストボディ》)、トラップ封じ(《王宮のお触れ》)・モンスターエフェクト封じ(《エンジェルO7》)、そしてマジック封じ(《ショット・ガン・シャッフル》)、完全なる封殺がここにある。これが朕の、ピラミス家の最高峰……」

【ピラミタルシャッフル】

ディムズディル:ハンド5/モンスター1(《守護スフィンクス》)/スペル0(セット)/
ピラミス:ハンド0/モンスター1(《エンジェルO7》)/スペル2(《ショット・ガン・シャッフル》/《王宮のお触れ》/《ミストボディ》)

「ドロー……(《砂塵の大竜巻》をここで引くとはな。これが、ピラミス家伝統のピラミッドパワーか)」
「大方罠カードでも引いて立ち往生しているな! 愚民に唯一勝機があるとすれば、朕が叩き落した《サイクロン》の他に、《大嵐》か《ハリケーン》か、こちらの手を無力化するカードを既に引いている場合。しかし、その顔はどうやら引いていない顔! 命運尽きたなグレイ・ブラックマン! 今日こそ愚民の……」
 勝ち誇るピラミス。だがディムズディルは、それでも尚闘志の炎を消さず。彼は、暴れ始めていた。
「墓地の岩石族2体をゲームから除外。《地球巨人 ガイア・プレート》! O7を殴りつけて来い!」

ディムズディル:8000LP
ピラミス:6150LP


「くっ、得意のアース・デュエルか。些細な抵抗を! そのようなことで、朕が王朝は敗れん!!」
 ある意味絶望的な状況だった。しかし、ディムズディルは焦った様子を一向に見せない。
「ターンエンド。一つ聞きたい。コンボ完成の為に全てをかなぐり捨て、どうやって勝つ?」
 言われてみればその通り。守備の堅い岩石族相手に、効果もなく、罠もなく、ろくな戦力もなく勝つのは骨が折れる筈。だが、この時ピラミスは声を上げて笑った。既に、計算済みだった。
「ハッハッハッハッハッハッ! それが戦意を失わぬ根拠と言うのなら、最早愚民は朕のライバルに非ず! この朕が、何の考えもなくこのデッキをくみ上げたとでも思ったか! 2000ライフを支払い《終焉のカウントダウン》を発動! これにより、朕が絶対権力は確約された!」

ディムズディル:8000LP
ピラミス:4150


「《ショット・ガン・シャッフル》を、ピラミッドパワーを発動! 愚民のデッキは【ピラミタルシャッフル】の影響下に入り、愚民にはマジックカードを決して引かせない! そしてぇ! 《エンジェルO7》を守備表示!」
 ピラミスは唯一の戦力をも守備表示。戦闘ダメージによる敗北さえも、封じる構えだ。
「岩石族に《メガロック・ドラゴン》があることは知っている。だが! これでその僅かな勝機も絶たれた!」

ディムズディル:ハンド5/モンスター2(《《地球巨人ガイアプレート》《守護スフィンクス》)/スペル0(セット)/
ピラミス:ハンド0/モンスター1(《エンジェルO7》)/スペル2(《ショット・ガン・シャッフル》/《王宮のお触れ/《ミストボディ》》)

「ドロー……今墓地にある最後の岩石族を除外、ガイアプレートを維持する」
 魔法カードはやはり引けず。現状維持。現状維持でターンを回すのみなのか。
「愚民らしい愚行。まさに悪あがき。そのようなマネに何の意味がある!!」
 嘲るピラミス。高みから見下ろすのがピラミス本来のペース。しかして他方。
(愚行に悪あがき、か。しかし、悪いあがきがあるのなら良いあがきもあるかもな)
 ディムズディルは数秒眼を瞑った。そして、眼を開き、更なるあがきを開始した。
「スフィンクスとガイアプレートを生贄に、《地球巨人 ガイア・プレート》を生贄召喚」
「馬鹿な。ガイアプレートを生贄にガイアプレートを召喚するだと!? 狂ったか!」
「カードを2枚伏せターンエンド。ピラミス、もっと足を踏み込めよ。大地が泣いてるぞ」

(くっ、戯言を……恐れるな。やつの狙いは透けている。朕を怯えさせ、なんらかのプレイングミスを誘おうというのが狙い。だが、悠然とそびえるピラミッドの如く、王者として構える限り朕に敗北はない。あの奇妙な生贄召喚も、使えもしないスペルカードの多重セットも、深い意味などないのだ。やつ得意のハッタリに過ぎない。朕の場を見ろ。完璧なる【ピラミタルシャッフル】。一度極まったこの布陣を破る方法など、この世には存在しない、しないのだ。朕に、敗北の2文字はありえない)
「朕のターン、ドロー……《黄金の天道虫》を手札から見せ、朕はライフを500回復する!」

ディムズディル:8000LP
ピラミス:4350LP


(そうだ。負けるはずはないのだ。黄金のピラミッドによるによる完璧なる防御。黄金の天道虫がもたらす高貴なる幸福。《終焉のカウントダウン》で失ったライフすらこうして常に回復している。この、水も漏らさぬ完璧なピラミッドに『崩壊』などは有り得ない。そうだ。負けることなどは決して有り得ない。黄金、黄金なのだ。朕こそはエジプト決闘の金字塔……誰もがその威光にひれ伏し、恐れおののく……)
「……」 ディムズディルは黙っていた。しかしそこには、諦念の類は見られない。
「どうした愚民よ……黙っていないで朕を讃えてみたらどうだ。さぁ、何か言え……」
「……」 ディムズディルは押し黙り戦況を見守る。そこに、決闘前の軽さは一切ない。
「何か言ってみろと……この朕が言っているのが聞こえんのかぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
「盛者必衰だピラミス。絶対権力などを志向した時点で、お前は地に足をつけ損なった」

ほざくなディムズディルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 ピラミスはまたもナイフで己の身体を傷つけ、【ピラミタルシャッフル】を再起動。怒髪天を衝く。
「フハハハ……ハハハ! 引けるものなら《大嵐》でも《ハリケーン》でも引いてみるがいい。ピラミッドパワーを矮小なる個人の力で超えられるというのならな! ターンエンド!」
「そこだ。エンドフェイズまで処理を巻き戻し、リバーストラップを使う。構わないな?」
「なにぃ?」 一瞬、呆気に取られるピラミス。が、すぐさま気を取り直し、猛烈に罵る。
「馬鹿め! 朕の場には権力の象徴《王宮のお触れ》が存在する! 無駄なことをぉ!」
 無謀とも思える行動に猛るピラミス。しかし、ディムズディルは動じなかった。
「《岩投げアタック》を発動する。当然、無効になるな。だが、岩石族は墓地に送る」
「馬鹿な! 発動が無効になった以上、《岩投げアタック》の効果はつかえないはず!」
「実に不思議な話だが《岩投げアタック》の墓地送りは効果じゃなくてコストなんだ」
 効果は火力。埋葬はコスト。用途の所為で誤解されるが、ネーミング的には火力呪文。
「そういうわけで、僕はデッキから《メタモルポット》を墓地に送っておく。そしてシャッフル。
 『そしてシャッフル』。デッキを見たことによる帰結、当然の処理。ピラミスは、狼狽した。
(シャッフル……し、しまった! 《ショット・ガン・シャッフル》はメインフェイズに1回しか使えない。このタイミングでシャッフルされてしまっては、ピラミッドパワーの効力がリセットされてしまう!)
「しかし【ピラミタルシャッフル】は笑えるほどに強力だな。毎回発動するもんから一番上だけかと思っていたが、3段目まで魔法が1枚もない。これはアレかな? 使えば使うほど強力になるとかとかそういう……ん? どうしたピラミス。ああそうか。君もシャッフルに加わった方がいいな。さぁ、こっちへ来てシャッフルに加われよ。もっとも、こちらの陣地で発動した《岩投げアタック》でのシャッフルに、そっちの場に収束されたピラミッドパワーの力が及ぶとは思えないが、やるだけやっておいた方が……」
「この…………愚民めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ディムズディル:ハンド3/モンスター1(《地球巨人ガイアプレート》)/スペル2(セット/セット)/
ピラミス:ハンド1/モンスター1(《エンジェルO7》)/スペル2(《ショット・ガン・シャッフル》/《王宮のお触れ/《ミストボディ》》)

「僕のターンだ。何を引くかは運次第。カードゲームらしくなってきたな。ドロー……」
 事も無げにカードを引くディムズディル。他方ピラミスは、気が気ではなかった。
(有り得ん。岩を一発投げられただけで、朕がピラミッドが崩壊する? 断じて……)
「《地球巨人ガイアプレート》を維持。《地球巨人 ガイア・プレート》をゲームから除外……」
(またも維持を続けるかディムズディルめ。ん? やつが笑った……まさかぁ!)
「速攻魔法《ハイパーリロード》を発動。【ピラミタルシャッフル】、短い天下だったな」

《ハイパーリロード》
速攻魔法
モンスターカードが4枚以上ゲームから除外されている場合に発動する事ができる。自分の手札を全てデッキに加えてシャッフルする。 その後、デッキに加えた枚数に2を加えた数のカードをドローする。

「除外枚数は既に4枚。発動条件は合っているな。シャッフルした後、5枚のカードをドローする」
(これを見越して維持コストの支払いを……。【ピラミタルシャッフル】が……ピラミッドの威光が……)
「ピラミス。少なくとも今まで君と戦った中では、ダントツで焦りを感じる決闘だった」
 ならもう少し焦った顔をしろと言いたくなったピラミスだったが、自分が惨めになるだけなので口をつぐんだ。焦っているからと、勝負中に焦った顔をするなど三流のやること。ディムズディルは、土壇場まで内に闘志を秘め、今この瞬間に爆発を引き起こす。実戦の申し子は、その場の一瞬の判断で人生を打開する、一瞬の申し子でもあった。
「今まで面白いものを見せてもらった礼だ。こちらもやりたい放題やらせてもらう。《ハリケーン》!」
(不味い。今までの、マジックカードを封印し続けた『流れ』が『裏返』った。ディムズディルの手にマジックカードが溢れているのは最早必然。この流れは、止まらん!!)
「2000ライフを支払って《次元融合》を発動。さぁ、反撃だ」
 《魔導雑貨商人》経由で墓地に捌かれ、その後除外された《N・グラン・モール》《伝説の柔術家》《日和見主義の物神折衷論者》、そして先ほど除外された“2体目”の《地球巨人 ガイア・プレート》がフィールドに帰還。既に場に存在していた1体目のガイアプレートを中心に、合計5体の岩石族が場に並ぶ。
「馬鹿なァ! たった1ターンで、こうも戦況が動くだとぉ!?」
「それがデュエルだ。やれ! 《地球巨人 ガイアプレート》!」

Great Tempest!

ディムズディル:6000LP
ピラミス:4050LP


「《N・グラン・モール》、《伝説の柔術家》、《日和見主義の物神折衷論者》、ダイレクトアタック!」
 怒涛の連続攻撃。ピラミッドを失ったピラミスに防御手段はない。ただただ、殴られるのみだった。
(つ、強い。強すぎる。ここまで強いかディムズディル。“あのお方”よ。朕を……迷える朕を……)

ディムズディル:6000LP
ピラミス:950LP

 ピラミスは最早虫の息だった。なにをどう考えても、ここでの決着はまさに必然。
「とどめだピラミス。2体目のガイアプレートによる攻撃で、この勝負には決着がつく……」
 「とどめだ」。だがこの時ディムズディルは何か違和感を感じていた。今日のピラミスのオーラは異常。確かに今、ディムズディルは逆転勝利を収めんとしている。しかし、どこか納得いかない部分があった。
「ピラミス……そういえば君に1つ……」

――――

 その時の話をしよう。ディムズディルに油断はなかった。しかし、このピラミタル・ゾーンは敵地。気配を消すにはうってつけの場所だったといえる。もっとも、ディムズディルは直前で“もう1人の誰か”の存在に気づく。しかし、それは左から来た。左といえば、先日ディムズディルが負傷(自傷)した箇所。その“もう1人の誰か”の放った一撃は、負傷した左ですぐさま防御できるような生易しい代物ではなかった。結果として、灰色の髪の男は吹き飛んだ。あれはまさしく……“フィアーズ・ノック・ダウン”!

――――


「くっ…………!」 壁にたたきつけられるディムズディル。常人ならこの一撃で終わっている。
「あのお方ぁぁぁぁぁ! なんという奇跡! この勝負貰ったぞディムズディル! 喰らえぇぇぇ!」
 ピラミスは、この千載一遇の勝機を逃すまいと、隠し持っていたものに点火。ダイナマイトだ。
「このピラミタルゾーンは一種の結界! 音は漏れん! 人知れず死ねぇ! ディムズディル!」
 「どぉーん!」という強烈な音が響く。爆発共に、ディムズディルは瓦礫の中に消えていた。
「3分もたったが攻撃無し……それ即ちターン終了の合図ということ! 朕のターン、ドロー……」
 恐るべきはピラミス。ディムズディルに動きなしと見て、尚も決闘を続行する体勢に入ったのだ。
「《黄金の天道虫》の効果を発動。ライフポイントを500回復する」

ディムズディル:6000LP
ピラミス:1450LP


「そしてぇ! 天道虫をコストに《ライトニング・ボルテックス》発動! 全てのモンスターを消し飛ばす!」
 やりたい放題のピラミス。ディムズディルが爆破されたのをいいことに、まさにやりたい放題の決闘。
「ハァーハッハッハッハ! 《ショット・ガン・シャッフル》を再発動、《王宮のお触れ》を再セット、高貴なるターンエンドを宣言する。このままターンが経過すれば、《終焉のカウントダウン》の効果により朕の勝利が確定……いやむしろ、ドロー不能による朕の勝利の方が早いと申すか! 類稀なる“あのお方”! “あのお方よ”! 遂に朕はディムズディルを、やつがもっとも得意とするカードゲームの場で打ち倒しました! お褒め下さい“あのお方よ”! 朕こそが、次の裏コナミSCS……」

ズドドドドドドォーン!

「!?」 だがその時だった。瓦礫が吹き飛び、その中から人の影……。
「なっ!? 馬鹿な……そんなはずは……そんなことは……有り得ない……」
 煙の中から浮かび上がる1人の男。ピラミスは、この時あることに気がついた。
「ディムズディルではない……ディムズディルではないな……髪の色が黒い……貴様は……貴様は何者だぁ! 誰に断って、このピラミッドの中に入ってきたのだ!」
 「ディムズディルではないな」。ピラミスが大声で叫ぶ。しかし、ある種の悪寒が未だ消えない。
「ピラミス。1つ昔話をしよう。“グレイ・ブラックマン”。灰色の破壊者だの灰色の魔王だの無駄に噂が広がって無駄に意味が付与されていったが、元々はそんな大層な意味じゃないんだ」
 煙が晴れていく。と、ともにピラミスの顔が青ざめていく。青ざめていく。
「あ……あぁ……」 ピラミスの目の前、そこには血塗れの、黒い髪の男がいた。
「髪の色が灰色だったり真っ黒だったりするからグレイ・ブラックマン。命名者は裏コナミの人間だった。そこに込められた意味についても、魔王だなんだとかそんな仰々しいものはなにもなく、薄汚い溝鼠ぐらいのものだった。それがだ。ふと気がつくと、“グレイ・ブラックマン”は都市伝説になっていた。迷惑な話だ」
「ディムズディル……愚民は……ディムズディルなのか……」

「1対1のカードゲームの最中、横入りの不意打ちに加え、ダイナマイトによる爆破、あまつさえ、敵が瓦礫の中に埋もれたことを利用したプレイング……明らかに、“一線”を越えた振る舞い……」
(ぐっ……これは……この殺気は……こちらにまで伝わってくる大気の振動。朕への怒りか!?)
 ピラミスを睨みつけるディムズディル。だがしかし、その言葉はピラミスの予測を超えていた。
「ありがとう」 「なんだと!?」 突然の謝礼。そこにあったのは、憎悪というよりは感謝だった。
「“一線”を越えてくれてありがとうピラミス……」 ディムズディルは、先ほどまでと明らかに違っていた。
(ディムズディルの『気』が変わった。違う。どこかに隙のあった、先ほどまでの愚民とは違う……)

 ディムズディルが初めて人を傷つけたのは、10人からなる大家族が皆殺しにあった時だった。10歳だった。親の仇を討とうと犯人を1人で追い詰め、左腕を切りつけ、そのまま殺しかけた。その後少年は発狂し、病院に送られた。いや、発狂しているように見えた、といった方が正確か。その2年後、少年は脱走した。12歳の少年は、その後どうやって寄る辺もなく生き抜いたのか。少年は、殺人犯と戦った時に気がついていた。殺人犯の名前はダオ=バステル。欧州の人間なら名前くらいは聞いたことのある名うての殺人狂。殺しにかけては天才的なセンスを持つ男だった。しかし少年ディムズディルはそれを独力で打ち倒した。その時少年は、自分にちょっとしたセンスがあることに気がついていたのだった。少年は闘った。殴り合いもよくやった。賭け事もやった。彼が今生き残っていることがその証明となる話だが、少年は勝った。勝ち続けた。少年はふと気がつくと勝負事それ自体を楽しんでいる自分に気がついた。悪くない、そう少年は思っていた。天分を生かして生きられるなら、それは恐らく幸福であるはずだ。しかし、何年かたって、ふと気がつくと誰も彼とは闘わなくなった。少年の頃から容赦を知らず、生存か破滅かの戦いこそを戦いとしてきたかっての彼の戦いは、後に何も残さないものだった……。

「エンドフェイズに処理を巻き戻し、手札を1枚墓地に送る。永続罠《岩の牢獄》を発動」
 決闘狂人はなにゆえ決闘狂人か。ディムズディルは、今この時を駆け抜ける。
「ここへきてコントロール奪取……朕の《ショット・ガン・シャッフル》を奪う気か!」

《岩の牢獄》
永続罠
手札から岩石族モンスターを1枚捨てる。このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚のコントロールを得る。コントロールを得たカードがモンスターカードの場合、攻撃できない。コントロールを得たカードが破壊された時このカードを破壊する。

ディムズディル:ハンド2/モンスター0/スペル2(《岩の牢獄》《ショット・ガン・シャッフル》)/
ピラミス:ハンド1/モンスター0/スペル2(/《王宮のお触れ》)

《岩獏》
効果モンスター
星4/闇属性/岩石族/攻1900/守0
このカードと自分フィールド上のカード1枚を墓地に送ることで、カードを1枚引く。

 ディムズディルは続けざま《岩獏》をフィールド中央に通常召喚。憤慨する、ピラミス。
「永続罠、永続魔法、そして生物。やはりそうか! 朕のピラミッドパワーを奪い、その権力を己が手中におさめるつもりかぁ! 許さん! 許さんぞぉ! ディムズデ……」
《岩獏》の効果発動、このカードと《岩の牢獄》を墓地に送ることでドロー効果を発動する」
 当然、《岩の牢獄》が墓地に送られると同時に、《ショット・ガン・シャッフル》も墓地へ送られる。
「馬鹿な! 折角築いた黄金三角形を自ら崩すとは! 貴様は、絶対権力が惜しくはないのかぁ!」
「黙れ」
「ぐっ……」
「ピラミス=マスタバ、お前の作った『ガラクタ』は今ここで全て叩き潰す。なぁ、お前もそうしたいだろ?」
 煙が完全に晴れる。すると、ディムズディルの背後には巨大な岩石の塊が……いや違う。これは!
「瓦礫と共に……愚民の後ろにあるのは《地球巨人 ガイア・プレート》の残骸……ま、まさかぁ……」
 ディムズディルが手を振り上げると、大地の底から、守護スフィンクスの残骸を載せた発石車が出現。その直後、発石車に積まれたスフィンクスが、ガイアプレートの残骸に向けてロックオンされる。
「手札1枚を燃料として、霹靂車を起動。半端に壊してくれたお陰で、取り出しやすかった」
 と、その時だった。発射されたスフィンクスが巨大な岩の塊と成り果てたガイアプレートに激突。ガイアプレートの、岩の装甲が剥がれ落ちていく。そして、その中には鋭い眼光……。
「外装を脱ぎ捨てた!? あ、あれは……あのモンスターはぁ……!!」

地球鋼人 Mantle Plate!

(アレの攻撃力は3000。朕のライフは2700。ダイレクトアタックを喰らえば、即死!)
 ピラミスに、最期の時が迫る。だが、この男の、この一族の往生際の悪さは並に非ず。
「くぅぅぅぅ……負けんぞぉ! 朕は、朕はピラミス家の頭首、愚民如きにぃぃぃ!」
 なんということか。ピラミスのオーラが異常に増大し、そのオーラが像を形成する。
「それが“何者か”の助力によって得た、お前の力の源。親の七光り、か」
 ディムズディルの眼前には巨大なビジョンが映し出されている。いやむしろ、実体!
「愚民の声など届かん。なんとでもいうがいい、これがピラミス家! 王者の伝統!」

《絶対王者ピラミスT世》
スピリチュアルモンスター
星10/王属性/王族/攻10000/守10000
????????????????????????????????
??????????????????????(テキストは不明)

「カードも、デュエルディスクも使わず召喚行為を行うとは節操がないなピラミス」
「フハハハハ! 攻撃力は1万! そしてぇ! 戦闘を行った者を無条件で破壊する!」
 見も蓋もない完全破壊宣言。最早反則がどうという次元ではない。だがしかし!
「それでいい。むしろそれがいい」 待っていた。決闘狂人は待っていた。
 三つ子の魂百までとはよく言ったもの。ディムズディルは決闘を欲している。彼は、西川瑞樹を見逃し、エリザベートを挑発し、アキラを育てた。何の為に? 闘い続ける為だ。決闘の芽を、絶やさぬ為だ。
「仮にも【裏コナミ】を騙ったんだ。そのぐらいはやってもらわないと闘いがいがない」
 ディムズディルの人生は闘いだった。それも、強敵との闘い。彼は“自分との闘い”などという最もらしい言葉には満足しなかった。何故か? 自分とは、常に、当然に、闘い続けているからだ。それに、自分と闘いたいだけなら1人で山にでも登ればいい。彼は決闘を望んでいた。ゆえに彼は、各地を回り、より強い者を、そして、より強くなりそうな者を探し、時には勝負を挑み、時には成長を促してきた。

 そして今、ディムズディルは血を流しながらも敵の前に立っている。ディムズディルは退かない。どう考えても反則。だがしかし、この男は退かない。相手が汚らしく強く、これ以上ない程に膨張した今、ディムズディルもまた一線を越えた。見逃すのでもなく、挑発するでもなく、育てるでもなく、ただ純粋に、闘って打ち倒す道を選択した。彼は徹することができた。他方ピラミスは、棺桶に片足をつっこんでいた。

「ほざくなぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!」
 ピラミスは先祖と一体化して突撃。その一撃は大地を揺らし、砂埃を巻き上げる。
「殺った。今度こそ、今度こそディムズディルを殺ったぞ。流石はご先祖……なにぃ!?」
 強烈な一撃。しかし、マントルプレートは、鋼の指一本でそれを受け止める。そしてぇ!
「無駄だピラミス。《地球鋼人 マントル・プレート》の第1の効果を発動。戦闘を行った者の効果を無効化する。そして第2の効果を発動。装備カードが装着されている場合に限り、戦闘を行ったモンスターの攻撃力を0にする。そうだピラミス。こちらは戦闘前、手札から装備魔法《メガロック・ユニット》を発動していた」
 カードゲーム。あくまでカードゲームで決着をつける。それも、完膚なきまでに決着を。

《地球鋼人 マントル・プレート》
融合・効果モンスター
星10/地属性/岩石族/攻3000/守0
「岩投げアタック」+「地球巨人 ガイア・プレート」+「レベル5以上の岩石族モンスター 」
手札1枚を墓地に送り、自分の墓地に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、 融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このモンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。
このモンスターが装備カードを装備している場合、戦闘を行ったモンスターの攻撃力を0にする。

《メガロック・ユニット》
装備魔法
岩石族にのみ装備可能。このカードを装備したモンスターが攻撃を行った時、デッキの上から4枚を墓地に送る。この効果によって岩石族が墓地に送られた数により以下の効果を得る。
●1枚:装備したモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
●2枚:装備したモンスターの攻撃力は1200ポイントアップする。
●3枚:装備したモンスターの攻撃力は1600ポイントアップする。
●4枚:装備したモンスターの攻撃力を倍にする。

「あ……ああ……」 形勢逆転。血塗れのディムズディルが、ピラミスを圧倒する。
「一体化のお陰で標的がぶれずに助かるな。二度殺す手間が省けていい」
(ま、まずい! や、やつはまさか、このまま完全決着を狙うつもりなのか!?)
 因果応報、リスク&リターン。勝つ為にここまで呪力を振り絞ったピラミス。だが、それが仇となることもある。能力を失い、一体化しまま次の一撃喰らえばどうなるかは最早必然。
「や、やめろぉぉぉぉ! そんなことをしたら、朕への被害が……被害がぁ……」
 ピラミス再起不能の危機。しかし、ディムズディルに躊躇う様子は見られない。
「もうやめてくれディムズディル。朕と貴公の中ではないか、デュエルクルセイダーズの仲間ではないか」
「ああ、それな。そろそろ飽きたんで解散しようかなと思ってるんだ。だからなぁんの問題もない」
「そ、そうだ。こんな決闘は非常識だと思わないか? む、無効だ。この勝負は無効……」

「お前はコナミが決めた理を無視して己の理を押し通した。それはいい」
 「それはいい」。なぜなら、ディムズディルの側でそれを受け入れたからだ。当事者の合意に比べれば、コナミの理などヘリウムガスより軽い。だが、他人の理を踏みにじってまで己で推し進めた理を破り捨て、あまつさえ逃げを請う……それを許すほどこの男は甘くない。
「外法には外法なりの法がある。外法の道をあまり舐めるなよ。代償は、存分に払ってもらう」
「ディ、ディムズディルーーーーーーーー! お前は、お前には一片の慈悲もないのか! 躊躇は……」
「ないな。あったら自分に驚く」
(なんだ。なんだあの目は。あの、目を合わせているだけで窒息してしまいそうなあの視線は……)
「魔王だなんだとかそんな仰々しいものはなにもなく、薄汚い溝鼠ぐらいのものだった。それがだ。ふと気がつくと、“グレイ・ブラックマン”は都市伝説になっていた。迷惑な話だ」
 ピラミスは今こそ知った。都市伝説が、都市伝説となった所以を。
「や、やめろディムズディル! 助けた暁にはこの朕が……」
 瞬間、黒い男は“黒い顔”を浮かべた。そして、決着へ向け動き始めた。4枚の岩石族を墓地に送ったマントルプレートは攻撃力を6000に増大させ、そのままの勢いでピラミスを投げ飛ばす。
「馬鹿なぁっ!」
 センタリングの先にはディムズディルがいた。そして、更にその先には……。
(あ、あれはガイアプレートの残骸。崩れた岩が集まって、まるで棺桶のように……うぉぉ!?)
 ディムズディルは脚を振り上げシュート体勢に入る。鋭い蹴り脚。ノートラップで放つその一蹴!

灰 色 決 着(ダス・グラオエ・エンデ)

 鋭いドライブ回転のかかったピラミスが、虹を描きながら先祖共々宙を舞い……。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお! あ、“あのお方”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 哀れ也ピラミス。ピラミッドの申し子は、分相応な棺桶の中に叩き込まれるのだった。

○ディムズディル=グレイマンVSピラミス=マスタバ●(ネオ・テンペスト・ドライブ)

「お互い、生きて終われるなら灰色だろうさ。つくづく甘い」
 棺桶に叩き込まれたピラミスに対しやや不機嫌な調子でそう言い捨てると、彼は荒ぶった「気」を静めにかかった。殺意が内側にこもり、髪の色も徐々に元へ戻っていく。
「だがこの傷は……少しキツイな……」
 ディムズディルは周囲を警戒しつつ、その場に座り込んだ。
(もう1人の方は去ったか。恐るべき手錬。ダイナマイトよりも、やつに喰らった一撃の方が遥かに深刻だな。まったく酷いヘマをやらかしたものだ。ローマやストラが聞いたらどれだけ笑うか。“実戦担当”が聞いて呆れるこの失態。帰ってそのまま寝たいところだが……“祭り”の予感だ。乗り遅れるわけにはいくまい)

まずは着替えるか……。


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
ピラミスはやりたい放題すぎるので相手を選びます。具体的に言うと相手も相手でやりたい放題になります。ビバハムラビ法典。
【ピラミタルシャッフル】が遊戯王wikiに載る日を祈ってます。プレイングが難しく玄人好みな上級者向けのデッキ。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


                TOPNEXT


















































































































































































































































































































































































































































































































































































inserted by FC2 system