「これで勝負だ。僕と新上さん、2人でアンタに挑む」
 信也には計算があった。ある種の、計算が。
(他の裏コナミの人達は最低限のことしかしていない)
 助成はない。彼はそう見ていた。事実、それは正しい。
「あーもう何もかも嫌になってきた。共同墓地に帰りたい」
 露骨に嫌な顔をしているのはベルメッセ。やる気が感じられない。
(何もすることがなさそうなあの女の人以外は、みんながみんな何らかの意味でバリケードの役目を果たしている。逆に言えば、持ち場を動くわけには行かないということになる)
(発案は元村信也か。いい案ではある。そう、いい案だ。クク……)
(一点に向けて、こちらの最大戦力をぶつける。そこに光明がある)

「元村信也に新上達也か。悪くないタッグだ。いいだろう。闘ってやる」
 無気味に微笑むローマ。彼の声には、謎の「含み」があった。
(あの態度。こちらの狙いなどお構いなしということか? それとも……)
 ローマは、自作の高性能決闘盤を一度構えると、そこからキーボードを引き出す。
通信モード。回線0436209……コードネーム……『S(エス)』……
「なにをやっている。おまえ、今度は何をするつもりだ」
 新上の質問に対し、ローマは笑いながら、こう答えた。
「いい案なんだ。こちらも頭数を揃えようじゃないか。なぁ」
 彼は打ち込みを終えると、身体を捻り振りかぶった。
「頭数をそろえる? まさか、まだもう1人……」

カモォォォォォッッッン! リバース……コナミィィィィィィィ!

 パチンと指を鳴らすローマ。その動作には、不穏なる瘴気。
「何をした! 何をしたんだ!」 信也の怒号。不安ゆえの怒号。
「簡単だ。タッグ戦の為のパートナーを呼んだ。数あわせだよ」
「タッグパートナーを呼んだ? そんな人どこに……」
 ローマは、天に向かって指を付きだして言い放った。
「お前達の眼は、言うまでもないことだがとうに節穴だ」

「上? あ、あれは!? ヘリコプターから人が!?」
「おいおい、何メートルあると思ってるんだ! パラシュートも無しで降りる気か!?」
 空中に待機したヘリコプターから突如フードとマントを纏った決闘者が現れ、ノーロープバンジーを敢行する。普通に考えれば死ぬ。しかし、その決闘者は常識の枠を軽々と飛び越える。いや、飛び降りる。
「馬鹿な。普通に両足で着地しやがった。あの高さから……」
「信じられない。本当に、本当にアレが人間なのか?」

「こいつが俺のタッグパートナー……『S(エス)』だ。さぁ、始めるぞ」
 次から次へと驚きの連続。裏コナミの人間力は底無しなのか。
「本当に驚かせるな。だけど、こうなったらやるしかない……」
(驚いたといえば驚いた。だが、それでもローマよりは大きく劣るに違いない)
 それでも信也は闘う。何故闘うのか。それは、自然な欲求に他ならなかった
(ローマ=エスティバーニ。この美味しい強敵を前に、逃げることなど、できない)
「だな。相手が誰であろうと、俺は俺の決闘をするだけだ」
 新上も呼応。既に戦意はマックス。決闘者としての魂が震い立つ。
「俺は俺の決闘、か。いい心構えだ。貫徹して見せろよ、新上達也」
「ほざいてろ。さぁ、大勝負だ! 宮崎国の魂をみせてやるよ!」
 宮崎はかって独立国だったといわれる。その独立までは、死ねない。
「宮崎のことどうでもいいんですが、僕らは勝ちます! いや、勝つ!」
「いい心がけだ」 「サードデッキスタンバイ。省電力モード解除……
 燃え上がるフィールド。尚、ヘリは何時の間にやら普通に着陸していた。

「勝負だ!」
「栽培(デュエル)!」
「本気で遊んでやる」
「……………………」

【タッグデュエル】
ソリティアの会VS裏コナミ


「ドロー。2枚伏せてターンエンドだ」残り4枚
 コイントスの結果、先攻はローマ。新上、『S』、信也の順番で決闘が進行する。
「次は俺だ。ドロー……モンスターを1体セット。ターンエンドだ」
 淡白だが1ターン目はそんなもの。次は『S』のターン。無気味なるフード。

(こいつ、なんだか怪しい雰囲気を纏っている。どーも、な……)
(次は『S』のターンか。いったいどんな決闘をするっていうんだ?)
「ワタシノターン……」
(ボイスチェンジャー? 尚更無気味な奴……)
(正体不明の決闘者。なんなんだ、こいつは……)
「ドロー。カードヲ2枚セット。ターンエンド……」
(やはり1ターン目は様子見、か。次は僕だ。手札は……)

【元村信也(初手)】
《神獣王バルバロス》
《マシュマロン》
《サイクロン》
《リビングデッドの呼び声》
《風帝ライザー》

「僕のターン、ドロー……(ここで《黄泉ガエル》か。悪くはないが)」
 信也は、1ターン目から時間を使ってやや長考。最良の一手を模索する。
(さぁて、どうしようかな。ローマといい、あの『S(エス)』といい、何をやってくるのか予想もつかないような、一癖ある相手ばかりだ。そして、だからこそ後手に回るのは危険過ぎる。どうする? いきなりバルバロスでプレスをかけ、相手が対処した所を狙って《リビングデッドの呼び声》を発動。攻撃力3000で殴りかかるのも1つの手かもしれない。向こうの弾幕は薄そうだ。だけど……)
「どうした。いきなり長考か?」 ローマが軽く煽るが、信也は気にせず考え続ける。
(僕のデッキ【グッドスタッフ】は、打点においてはそれほど高い性能を有していない。となると、やはりダメージソースに関しては展開力に優れた新上さんのデッキ、【ターボ促成栽培】に頼った方が賢いのかもしれない。どうせ僕の順番は最後だ。サポートに回るのも1つの手。だけど、それならそれで《風帝ライザー》の使い道がキーとなる、か。相手の出方がどうであれ、ライザーならほぼ全ての状況に対応できる。だけど、その相手の出方がわからないのでは……いや、そうでもないか。ローマはコンボ系の決闘者、それだけは既にわかっている。そしてコンボ系の常套手といえば……)

「手札からモンスターカードを1体セット。カードを1枚伏せてターンエンド」
「長々時間をかけた割には、大した布陣じゃないな。それどころか……」
「そういう貴方はどうなんですか。ローマ=エスティバーニ“さん”……」
「動くさ。このタイミングでな。速攻魔法発動! 《手札断殺》だ!」
「いきなり手札交換か。手が早いな。まったく……」
「さっさと処理を開始するんだな。俺は手札から……」
(ローマめ、早速《ヴォルカニック・バレット》を墓地に送ったか)

「いきなり仕掛けてきた。なんらかのコンボを狙っている?」
 彩が不安を抱く。信也は、信也は大丈夫なのか、と。
「面倒な話だ」 しかし、言葉とは裏腹に、信也は内心でほくそ笑む。
(《手札断殺》。いきなりビンゴ! 読み通りに行くのは楽しいものさ……)
 ローマの《手札断殺》。だが、信也はそれを読んだ上で、動いていた。
「僕は手札から《黄泉ガエル》と《神獣王バルバロス》を墓地に送る……」
「ほぅ。中々気の利いた捨て札じゃないか……」
(ああ、気が利いてるさ。《マシュマロン》を伏せといてやっぱり正解だったな。どうせその辺を使ってくると思ったよ。さて、ローマの捨て札はあの2枚。だが、未だデッキ内容を絞り込めるレベルじゃない、か。まぁいい。これからだ。で、こっちの味方、新上さんは《ロードポイズン》と……おっ、《ダンディライオン》を墓地に送ってトークン2体か。いい流れ。となると後は『S(エス)』の動向。《ハリケーン》と《リミッター解除》、機械族系列か。成る程……ちゃんと覚えておこうか。ちゃんと……)

ローマ:ハンド4/モンスター0/スペル1(セット)
新上達也:ハンド5/モンスター1(セット)/スペル0
S(エス):ハンド4/モンスター2(綿毛トークン/綿毛トークン)/スペル2(セット)
元村信也:ハンド4/モンスター1(セット)/スペル1(セット)

「俺のターンだ、ドロー……墓地の、《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動」
(当然の一手。ターボをかけてきた。ここからが、ここからが読みどころだ)

ソリティアの会:16000
裏コナミ:15500


「500ライフを支払いデッキから同名カードを手札に加える。更にモンスターをセット。ターンエンド」
 ローマの手札は5枚。着々と何らかの準備を進めている。だが、黙って見ているだけの2人ではない。
「手札を補強しつつ時間を稼ぐか。だけど! 新上さん!」
「わかってるさ! そうそう好きにはさせないぜ! 行くぜシンヤ!」
 信也と新上の間には既にサインが交わされていた。ここで、動く。
「仕掛けるというのか。いいぜぇ。遊ぼうじゃないかぁ。なぁ……」

「ローマ。お前に時間を与えると何をやらかすか、それはまだわからん。だが……」
 新上の『気』が高揚する。背後に広がるのは、見渡すばかりのピーマン畑であった。
「そんな暇のないくらい、俺の促成栽培が場を埋め尽くす。覚悟してもらうぜ!」
 戦意高揚。新上の気迫が天を衝く。しかし、ローマは何故か涼しげだった。
「ほぅ。それは怖いな。だが、俺の元に辿り着けると思っているのか?」
 ローマはそういうと、傍らの『S(エス)』をチラリと見やる。だが、新上もまた涼しげに切り返す。
「お前みたいなタイプは、自分よりも強いやつを味方にしないもんさ。どうせただのコケ脅し……なっ!?」
 この時、新上達也は反射的に一歩下らざるを得なかった。何が、一体何がおこったというのか。
「新上さん……今の……」 “嫌な予感”を感じ取ったのは信也も同様。恐るべき、殺気。
「ああ、凄い殺気だ。なんなんだ今のは。瞬間的に、俺たちを押し返した?」
(ヴァヴェリ爺さんと戦った時のような、歴戦のキャリアを感じる? これは一体?)
「くっ、てめぇ。コケ脅しの癖して……」

「タツヤ。ズイブントエラクナッタジャナイカ……」
 Sが喋った。それも、新上への説教という形。
「な? お前、何故俺にそんな口を……」
「ソレハオマエノホウダ。ナァタツヤヨ……」
 その口調は、大昔から新上を知っているかのよう。
(新上さんを知っている? コイツはいったい……)
 その男は新上新上達也を知っていた。知っていたのだ。
「もう少しこのまま試したかったが、やめじゃな。愚鈍過ぎる」
 ボイスチェンジャーがOFFになる、と、同時に真の声が響く。
「うぁ……」 新上の顔が曇り空となり、次の瞬間集中豪雨が到来する。
 「有り得ない。こんなコトは有り得ない」 新上の顔はそう告げていた。

「ま、まさか……こいつは……いや、このお方は……まさか……」
 新上達也が青褪める。ただごとではない、といった様子。
「ソークソクソクソク。タツヤよ。やっと気がついたようじゃのぅ……」
 その男はフードを取った。そこから現れるは、ヴァヴェリ以上の老体。
「あ、あなたは……あなたさまは……」
 目の前には80代の老人がいた。威風堂々としたオーラが、達也を圧倒する。
(あのディムズディル相手にも堂々と戦い抜いた歴戦の決闘者、九州三強の新上さんがこれ程までに怯えている? いったい、いったいこの老人は誰なんだ。新上さんといったいどういう関係なんだ?)
「さ……」 新上達也は、心を「ぎゅっ」と引き締めて呻くように言った。
(さ?)

「栽培仙人。俺の……爺ちゃん……」
「えぇっ! それって……マジすか……」
 驚く信也を尻目にローマが告白する。驚愕の、事実を。
「改めて紹介しておこう。1世代前の裏コナミSCS。『栽培』担当……」



『実存主義的栽培論者』!!


新上=ハイデッガー=辰則!



(ハハ。最高と書いて最悪と読む。愉快な相手を用意してくれたよ。ローマ=エスティバーニ……)
 信也も驚愕。神の頭脳か悪魔の智恵か。ローマ=エスティバーニ、彼の発想は底無しの沼の如く。
「こういうこともあろうかと……新上達也、お前が絶対に勝てないであろう相手を用意させてもらった」
 ローマの、邪悪なる微笑。彼は、この瞬間を拝むそのためだけに、巨額の富を注ぎ込んでいた。


第42話:光合成体質



「ターツーヤー。気がつかぬとは、なんたる未熟ゥ!」
「嘘だ……なんで爺ちゃんが……こんな……」
 まさしく悲劇的な再会。敵と味方、さしずめ現代版ロミオとジュリエット。ああ、ロミオ。何故貴方は野菜をお作りになるの? ジュリエーット! それはビタミンが豊富だからさ。ロミオ、名前って何? 促成栽培と呼んでいるけれど、別の名前で呼んでみても早期出荷には影響ないわ……。ジュリエーット! 君が望むなら、今日からアステロイド・ブルース農法と呼ぼうじゃないか! ロミオ! そういう意味じゃないのよ……。すれ違っていく2人。現代社会の闇が引き起こした、間切れもない一大悲劇がそこにある。
「そんなわけが……そんなわけが……」
 だが、新上達也には見えていた。新上=ハイデッガー=辰則のバックに咲き誇る緑黄色野菜のイメージが見えていた。彼が彼であることの確かな裏付け。間切れもなくあの一族。あの一族以外の何物でもない。間切れもなく、新上の祖父。新上=ハイデッガー辰則。人呼んで栽培仙人!
「どうやら、いまだ収穫が足りとらんようじゃなタツヤ。悪い子にはお仕置きじゃあ!」

「新上=ハイデッガー=辰則……それってまさか……」
「知っているんですか津田さん!」
「“図書館で農業の文献を漁れば当然にでてくる名前”。その程度の理解なんですが、なんでも世界を縦横無尽に渡り歩き、独自の農業理論を打ち立てたお方だと。その筋では、相当の権威」
「でもって新上さんのお爺さん、と。そこまでは百歩譲っていいとしましょう。でもなんでそんな、農業界の権威たる人が、裏コナミの元SCSで、今まさに、僕らと決闘することになっているんですか?」
「それは、私にもわかりません……」
(津田さんにもわからない。万事休すか)

  一方、運命的な再開を果たした2人の間には、深い溝が広がっていた。
「爺ちゃん! 爺ちゃんがなんでこんなことを……なんでこんなことをぉ!」
 新上=ジュリエット=達也は新上=ロミオ=辰則に問う。貴方はなにゆえロミオなのかと。
「爺ちゃん、貴方は偉大な農業家だった。答えてくれ! なんだってデュエリストに!」
「タツヤよ。農業一筋だったこのわしが、裏コナミの決闘者であることがそんなにおかしいか。だが!」

史上最強の企業コナミを、『裏』から支配する組織。農業に通じて何の不思議があるものか!
そしてぇっ! 裏コナミの一員たるもの……カードゲームなど出来て当然!!!!!!!!


「な、なんという迫力だ。この迫力、間違いなく裏コナミ……」
 恐るべき理屈を前に押し黙る信也。最早、文句の1つも出てきやしない。
「爺ちゃん。後生だから退いてくれ。俺達の、敵にだなんて……」
 懇願する達也。しかし目の前の老人は、やはり一筋縄ではいかなかった。
「敵を前にその体たらく。種もろくにまけんその軟弱! 叩きなおしてくれるわ!」
「爺ちゃん……栽培仙人……」
「新上さん! こうなったらもう闘うしかありません。あの男を、倒すしかないんです!」
「無茶を言うな! あのお方を誰だと思っている。農業の権威だぞ! 栽培仙人なんだぞ!」
「これはカードゲームです! カードゲームなんです! 農業はこの際関係ありません!」
「元村信也。ヴァヴェリ=ヴェドウィンを倒したというから少しは気にかけていたがその程度か」
「どういうことだローマ=エスティバーニ……」
「言葉通りの意味だ。まぁ、すぐにわかるさ」
「くっ、言いたい放題やりたい放題。新上さんっ!」
 信也が吼える。このまま、引き下がるわけには行かない。行かないのだ。
「お、俺のターン。ドロー……俺は……俺は……」
 惑う達也。自分のオシメを変えたことすらあるこの恩師と、闘うことなどできようか。
「だ、駄目だ。このお方と戦うことなど俺には……」

「なにをやっている新上! 神宮寺の仇を取るんじゃないのか!」
「む、村坂!」 九州三強の一人、村坂の激が新上の胸を打つ。
「お前の肩には、西日本カードゲーム界の命運がかかっているんだ!」
「そ、そうだ。どんな事情があろうとも、仙人ではなく最早……敵!」
 なんとか戦意を取り戻した新上。それを後押しする大声援。
「あっらっがみ! あっらっがみ! あっらがみ! あっらがっみ!」
「促成栽培ウェイウェイ! 促成栽培ウェイウェイ! ゴー! ゴー!」
「悪魔に魂を売り渡した貴方は、最早俺の敵! 敵なんだ……」
 怒りを増幅させる新上。怒髪、天を衝く。あたかもサトウキビのように。
「ふん。怒りで恐れを払拭したか。じゃが、その程度の胆力で野菜を作れると思うたか!」
「もうお前を仙人とは呼ばない! いくぞ! 手札から永続魔法《ビニールハウス》を発動!」

《ビニールハウス》
永続魔法
●カードを1枚捨てる:自分フィールド上に野菜トークン(植物族・地・星1・攻/守0)を2体特殊召喚する。(このトークンは植物族モンスターの生け贄召喚のため以外の生け贄にはできない)
●2度以上起動したこのカードを墓地に送る:カードを1枚引く

「カードを1枚捨て、場にトークンを2体特殊召喚! 更に《ボタニカル・ライオ》を反転召喚!」
 一気にモンスターを展開する新上。その数、なんと5体。これが【ターボ促成栽培】の真骨頂!
「《ボタニカル・ライオ》の効果は知っているな! 攻撃力は3100だ! 覚悟しろぉ!」
 一気にバトルフェイズへ移行する新上。彼は肉親への憎悪をもって攻撃を行った。だが!
「どうしたタツヤ。その程度の攻撃でわしを倒そうなど、二毛作の後期よりも早いわ!」
「な、何故だ。俺は、俺は確かに攻撃力3100の《ボタニカル・ライオ》で攻撃した筈……」

ソリティアの会:16000
裏コナミ:13900


「何故だ。何故ライフが1600しか減らないんだ!?」
「あ、あれは! 見てください新上さん! 新上=ハイデッガー=辰則の場を!」
「そ、そんな。そんな悪夢のようなことが。嘘だ。嘘だといってくれよ爺ちゃん!」
 『悪夢』。そこには、新上にとって悪夢の様な光景が広がっていた。

《DNA改造手術》を発動。俗に言う遺伝子組換食品というやつじゃ。宣言は、機械族じゃけぇのぉ」
「ば、馬鹿な! 自然を愛し、ありのままの地球を愛したこのお方が、悪魔の技術、遺伝子操作を!?」
「我が孫よ。わしは世界を回って気がついたのじゃ。世界は飢餓に溢れておる。食わなければ、死ぬ。この現実の前では金だの女だのつまらぬこと。食いたい、この一言の前では全てが霞む。かつて『この世を支配するのは金力・権力・暴力だ』とのたまった者がいたが、わしに言わせれば未熟も未熟ぅ! 真に世界を支配する力、それは即ち『食力』よ! 『食力』を制する者が世界をも制す!」
「食力……食力だと……」 達也驚愕。辰則変貌。これは悪夢か現実か。
「そうじゃ、世界を真に支配するのは食力よ。わかるか我が孫よ。食を制するものが世界をも制す。わしは気がついたのじゃよ。食そのものを変革する力を持てば、世界を意のままに操れると。そしてその力こそ、遺伝子組換農業じゃ。この悪魔の力をもってすれば、世界の実権を、裏コナミが握る事さえ可能!」
「世界……征服……それが貴様の野望なのか! 新上=ハイデッガー=辰則!」
「狂ってるよ。爺ちゃん、正気に戻ってくれ……」
「わしは正気じゃよ。現に見よ! 《DNA改造手術》によって【ターボ促成栽培】は死んだ!」
「くっ、カードを2枚伏せてターンエンドだ……爺ちゃん……爺ちゃん……」

「わしのターンじゃ、ドロー……《光の護封剣》を発動!」
 《光の護封剣》が信也の《マシュマロン》を露にする。
「ゆくぞぉぉぉぉっ! 従わぬ者は土地ごと全て滅ぼしつくす!」
「この流れ、まさか! アレを発動する気か! 不味い!」
「この大地に死の雨を降らせ! 腐食滅殺! 全てに死を!」

環境破壊(アシッド・レイン)

「こ、これはっ! 僕らのモンスターが……腐食していく!?」
 一瞬にして信也と達也のモンスターが全滅。圧倒的なパワー。
「だ、駄目だ。地球環境すら破壊するパワー。俺達に、勝目なんかない」
 敵は世界規模。最早、個々人の力でどうにかなるものではないというのか。
「強すぎるよ。デュエリストとしても超一流。この人は……強いわ」
 彩も恐れるその実力。《酸の嵐》が、人々の涙となって流れ落ちる。
「この程度突破できんとは呆れたものよ。祖父としては恥の一言ォ!」
「最小限の力で最大の収穫。完璧だ。あまりに完璧すぎる」
「そしてぇ! 墓地の、《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動!」

ソリティアの会:16000
裏コナミ:13400


 ブルータスお前もかとばかりに手札を補充する栽培仙人。その決闘に死角無し。
「デッキから同名カードを手札に。モンスターをセット。更にカードを2枚セット。ターンエンド」残り1枚
「無理だ。この人が悪魔に魅入られてしまった以上、もう世界は終わりだ」
「ソークソクソクソク! それがお前の限界かぁ! タツヤよォッ!」

「《サイクロン》……」
「ソ? もう1人の方。今、なんと言った?」
 聞き耳をたてる新上=ハイデッガー=辰則に対し、信也は吼えた。
「ぼけてんじゃねぇよこの老害! 《サイクロン》だ! 消し飛べ護封剣!」
「な、なにをしてるんシンヤ! 栽培仙人に向かってなんたる暴言を!」
 突然の事に慌てる新上。だが、信也は止まらない。止まるわけにはいかない。
「そんな弱腰じゃ勝てるものも勝てないでしょ! 僕らは勝つ為に名乗り出た!」
 この場面、普通なら勇み足のエンドサイク。だが、今は勇まなければならない。信也は、勝つ為に、失いかけた流れを引き戻す為に、敢えて流れをぶった切る道を選んだのだ。。
「上にクソがつく爺ィの相手は慣れてるんですよ。呑まれたら負けですよ!」
「シンヤ……お前……」
「元気のいい小僧だ。しかしその程度でこの、未曾有の食糧危機を克服できるできると思うたら!」
「ドローだ! スタンバイフェイズに《黄泉ガエル》を特殊召喚! 食糧なんてこれで十分。食ってでろ!」

『鬼神』風帝ライザー

「《DNA改造手術》をデッキトップに戻す。殺れぇライザー! 食料(=焼きガエル)分は働いてこい!」
「ならば! 攻撃を受けた《聖なる魔術師》の効果発動! 墓地の《ハリケーン》を手札に戻す!」
「かまいませんよ! だが、これで場はがら空きだ! 新上さん! 稼ぎましたよ!」
(この少年、達也の為にこのターンを使ったというのか!? 面白い小僧じゃ)
(タッグデュエルは、一方がこけたら負けなんだ。これは、絶対に必要な一手)
 熱い、熱い一手。もっとも、不安を抱かない人間がいないわけではなかったが。
「シンヤが闘っていく。決闘に、のめりこんでいく……?」
 彩、不安。彼女は、この信也の戦いに不安めいたものを感じる。
「カードを2枚伏せてターンエンド。1ターン、稼ぎましたからね」
 信也もこれで、達也と同じく残り2枚となったが仕事は十分。後は……
「そういうことか。確かにな。この状況、新上に1ターンはでかいぜ」
「どういうことですか? 仲林さん……」
「言葉通りさ。《DNA改造手術》発動までには次のターンを待たないといけない」
「あっ、そうかそうでした。タッグデュエルだと、それは通常より長い」
「だが、その前に【ターボ促成栽培】の第2波があの爺さんを倒すってな」
「場もがら空き。1ターンで一気に攻め込める、あの人はそれを見込んで」
「だが、今の新上にそれができるか。次の、ローマの動きも気になる」

ローマ:ハンド5/モンスター1(セット)/スペル1(セット)
新上達也:ハンド2/モンスター0/スペル3(《ビニールハウス》/セット/セット)
新上=ハイデッガー=辰則:ハンド2/モンスター1(セット)/スペル2(セット/セット)
元村信也:ハンド2/モンスター1(《風帝ライザー》)/スペル2

「俺のターン、ドロー……ふっ、どうする?」
 ローマは問う。「どうする?」 その答えは明快だった。
「折角の日本。孫の相手はまかせてもらおうか! ローマよ」
「了解だ。墓地の、《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動」

ソリティアの会:16000
裏コナミ:12900


「同名カードを手札に。カードを1枚伏せるだけでターンエンド、だ」
「いいのか? ローマ。アンタが動かないなら新上さんが一気にライフを削るぜ」
「新上、か。だが、恩師に牙を剥けるのか? 相手はただの老人ではない。栽培仙人だ」
 ローマの、鋭い問いが新上を抉る。だが彼は、最後の気力を振り絞って奮い立つ。
「ああ、剥けるさ。俺は、パートナーが稼いだ時間を無下にするような男じゃない!」
 信也の発破を受け新上達也が復活。信也の気合が、彼の魂をゆり動かす。
「例え恩師だとしても! 祖父だとしても! 俺は、栽培仙人を倒してみせるぅっ!」
「ほぅ。だが、本当に稼いだのか? お前達はこの期に及んで、あの老人を甘く見ている」
「俺達が爺ちゃんを甘く見ている……はっ!?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!

 そこには、元SCSの猛者たる1人の決闘者が、文字通り赤く目を光らせていた!
「その通りよ。わしが何の備えもなくターンエンドしたと思うたか。《砂塵の大竜巻》を発動!」
「《砂塵の大竜巻》を新上さんのターン開始前に発動。新上さんのカードを1枚破壊……しまった!」
「チェーンして速攻魔法《手札断殺》! 手札2枚を墓地に送り、そして2枚をドロー!」
「不味い。《砂塵の大竜巻》の効果で、デッキトップから引いた《DNA改造手術》を今伏せる気か!」
 新上=ハイデッガー=辰則。元SCSの名は伊達ではない。圧倒的な、決闘力。
「なんという戦術眼。これが世界農業の権威、新上=ハイデッガー=辰則の、決闘者としての実力!」
 復活する《DNA改造手術》。加えて、新上の伏せた《聖なるバリア−ミラーフォース−》が墓地に。

「く、俺のターン……」
「《DNA改造手術》を発動! 機械族を指定!」
 遺伝子決闘の猛威。それは、人一人の魂を折るに十分なパワー。
「また遺伝子組換え。本当に、本当に悪魔へ魂を売り渡しちまったのかよ」
 遂に膝を突く新上。もう彼に、この残酷な運命に抗う力は残っていなかった。
(強すぎる。やはり俺なんかが、栽培仙人相手に勝てるわけがなかったんだ)

(いや、駄目だ! ここで倒れたら世界の農業は、世界の命運は……だが、俺は……)
「新上。優しいのがお前のいいところだ。だが思い出せ。その優しさが仇となることもあると」
「神宮寺!? オマエ、身体は……」 村坂に肩を担がれ叫ぶのは、散ったはずの神宮寺陽光。
「俺のことなどいい。お前は去年の日本選手権のベスト4決定戦、お前は九州三強同士の潰しあいを嫌い、その矛を鈍らせた。だが、その所為で俺はベスト4に入ってしまい、経歴に傷がつき、体調を崩してその年を棒に振った。あの時は本当に死ぬかと思った。2度とベスト4には入りたくないと思った。そうだ! 闘わなければ駄目なこともある! 闘うんだタツヤ! 九州の、いや世界人口60億の食闘者(デュエリスト)の為に! あんな遺伝子爺ィをのさばらすな! 世界を……守……れ」 そういい残すと、神宮寺は倒れた。
「神宮寺。おまえってやつは……」 「立つんだ新上! お前は立つんだ!」 村坂も叫ぶ。
「若造共は黙っていろ。 世界を制するのは、遺伝子技術よ! 世界は、早晩我々に跪く!」
 阿修羅の如き栽培仙人。しかし、彼は、新上達也は天に向かって吼えた。
「黙れぇぇぇっ!」
「なんとぉっ!」

「違う……自然は……敬わなければならない。そして……」
「新上さん……」
「食べ物は人を幸せにする為にあるんだ。食べ物で、人を憎んではならないんだ」
 新上は立ち上がり、言葉を説く。それは、かって恩師に授けられた御魂拠所。
「貴方が食を歪めるというのなら……私は全身全霊を持って食を浄化する!」
 新上達也。ふと気がつくと彼は、雄雄しく、神々しい光を放っていた。
「あ、あの輝きはぁ! タツヤが、あのタツヤが遂に光合成を。アレはぁ!」
「な、なんだ! 何が起こったっていうんだ! これはいったい……」

「新上達也。いいものを持っているとは思っていたが、遂に己の本領に目覚めたか」
「その声はぁ! ディムズディルか!」 「久しぶりだなローマ。そしてご老公!」
 電柱の上に1人の、灰色の髪の男が立っている。言わずと知れたその男。
(ディムズディル? 薄々そうじゃないかと思っていたがやはり関係者か!)
 信也の考えるとおり、この状況の裏が薄々読める。ろくでもない、真実。
(しかし、あの紳士といい、ディムズディルといい、よくよく高い所が好きな連中だ)

「なんだ? こいつらいったい何をやっているんだ?」
 森勇一他その他大勢も到着。もっとも、状況が状況。何が何やらわからない。
「シンヤが闘っとるんか? それにこの人だかり。尋常じゃないでぇ!」
「ディムズディルゥ! 貴様が連れてきたのか! どうやってここを知ったぁ!」
「愚問だなローマ! あのように高くヘリを飛ばしてカードを散らせば一目瞭然!」
「あのようなことをする人間は、世界に僕を含めてたったの7人しか知らないなっ!」
(7人もいるのか……) 今この時、其の他大勢の気持ちが1つになったがそれはそれ。
「僕のことなど所詮は些事に過ぎない! 新上達也を見ろ! あの光を見ろ!」
 ディムズディルが新上に向かって指を指すと、そこには美しき悟りの姿があった。
「私が栽培するのではない。私が栽培なのだ。栽培は私なのだ」
 新上は輝いていた。その光は、何処かで見た懐かしい光。
「栽培と一体化することで自らも栽培と化す。よくぞ会得したな」



光合成体質(ハイパーモード)



「ぬぅ。あの出来の悪いタツヤめが、これほどの光を放つとはぁっ!」
「我が祖父栽培仙人。いや、世界征服を企む悪の秘密結社裏コナミの決闘者『実存主義的栽培論者』新上=ハイデッガー=辰則よ。宮崎国の誇りを汚した悪しき魂よ。この私が、貴方の心を正しき方向に栽培して見せる!」
「いいじゃろう。だが! この遺伝子組換農業の前には、全てが無駄であると知るがいい!」
「そ、そうだ! 《DNA改造手術》。あれがある限り新上さんの勝利の芽は……」
「いや、彼が、僕と戦った時の経験を種として芽を出したなら、結論は変わる!」

「ディムズディルと闘ったあの時、俺は大地の恵みの尊さを知った……」
「ぬぅ! 戦いの経験値があの孫を大きく見せておるというのか!?」
「うわっつらだ。遺伝子組換など所詮はうわっつらの技法。私の死骸を見ろ!」
「死骸……そうか墓地だ! 墓地なら……」
「死骸は大地に帰り、また新たな生命を育む! 手札から《二重召喚》を発動! このターン、俺は2度の召喚が可能となる。手札1枚を種として永続魔法《ビニールハウス》の効果を再発動! トークンを2体栽培する。そして、このトークンの内の1体を生贄に《ギガプラント》を生贄召喚! 更に! 通常召喚の権利をもう1度行使、《ギガプラント》を再度召喚。効果を発動、そう、《ギガプラント》は効果を発動することができる!」
「墓地には《DNA改造手術》の効果が及んでいない。そういうことかタツヤよ!」
「今の新上達也には栽培の妙が見えている。出るぞ! 大地の恵み!」
「墓地には、《手札断殺》の時墓地に送っておいた、最強の植物が眠っている! 現れろ!」

《千年大樹(サウザンド・ジョーモン)》
効果モンスター
星8/地属性/植物族/攻2600/守3500
自分の手札・デッキ・墓地から「ジョーモン・ディフェンダー」を2体特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用することができない。ダメージステップ終了時にこのカードの表示形式を守備表示にする事ができる。
《ジョーモン・ディフェンダー》
通常モンスター
星4/地属性/植物族/攻500/守2100
地上の楽園ヤ・クシーマを守る植物戦士。蔓の腹巻は鉄壁だ!

《千年大樹》を召喚。効果栽培! 現れろ! 尊き自然を守る……植物戦士達!」
 新上の手から生命があふれ出していく。これは、これはなんたる光。生命の光なのか。
「なんとぉっ! 促成栽培が、この荒廃した地球環境を救うというのか!? なんという!」
 機械化したはずの植物達が、今、間違いなく光合成を行っている。これが奇跡なのか。
「今……命を……全ての作物でダイレクトアタァァァック!」
「ぐぉおぉぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ!!!」

ソリティアの会:16000LP
裏コナミ:6900LP


「タコ殴りだ。あの、栽培仙人をタコ殴りにしている。これがハイパーモードなのか!?」
(凄い。あの栽培仙人から6000ものライフを削りとった。これが九州三強の底力……)
 皆が皆驚愕するハイパーモード。さしもの栽培仙人も、ただ殴られる一方だった。
(タツヤよ。よくぞここまで成長した。ここまで栽培しきるとは。じゃが……じゃがぁ!)
「はぁ……はぁ……《千年大樹》を守備表示に変更。ターン……エンドだ……」
 達也の進化。手札は0になったが、十分な戦果であった。
「お見事です、新上さん。コレで、戦いの流れはこっちに……」





ぬぅぅぅおおおおおおおっ!





「な、なんだ!? この気迫!? 空気が揺れている? まさか!」
「わしのターン、どろぉぉぉぉおっ! わしを超えるにはぁ! まぁだ早い!」 
 大地を震撼させる新上=ハイデッガー=辰則の気迫。まさに、執念。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううう!!!」
「これは!? 《千年大樹》に僕のライザー、こちらのモンスターが吸収されている!?」
 達也と信也のモンスターが、ある1体のモンスターに悉く吸収されていく。その正体は!
「《サイバー・ドラゴン》!? まさか、まさかあの怪物を出すというのか!?」
「タツヤよ。お前は、我が最大の絶技によって葬ってくれようぞ!」
 新上=ハイデッガー=辰則の気が膨れ上がる。遂に、勝負の時が来た。
「あれは、遊戯王OCG史上、最凶にして最悪の、生命を弄ぶ悪魔のモンスター!」
「攻撃力6000!! 統合召喚!! むぅぅぅぅおおおおおおおおおおおお!!!!」



異種遺伝子交配連鎖要塞龍(キメラティック・フォートレス・ドラゴン)



 場の全てのモンスターを吸収した、恐怖の権化が新上に迫る。
「これが遺伝子の最高傑作よ! 地獄にて、泣いて許しを請うがいい!」
(こちらのモンスターが全部消え去った。なんという化け物!)
「いざ尋常に勝負! 覚醒せよ! 《キメラティック・フォートレス・ドラゴン》!」
 《キメラティック・フォートレス・ドラゴン》。《サイバー・ドラゴン》に吸収されたモンスターの数だけ、シリンダーからドラゴンヘッドを生やすその姿はまさに異形。だが! かってのSCSとして、『栽培』担当を担ったこの男! 新上=ハイデッガー=辰則の要塞龍は、更なる異形を極めにかかる!
「み、みろぉ! 5つのシリンダーから……新上=ハイデッガー=辰則の生首が生えてきたぁ!」
 最早《栽培ネティック・フォートレス・ドラゴン》とでも呼ぶべき異形の要塞龍。だが、これはほんの序の口だった。シリンダーから生えた5つの生首が伸びて飛び出すと、そのまま要塞龍を包み込み、1つの巨大なエネルギー体、そう、巨大な1つの新上=ハイデッガー=辰則ヘッドが生み出される。これこそが、彼の最強にして最大の絶技!

「あの技を出すとは! 新上=ハイデッガー=辰則め。魂を賭けるか!」
「知っているのかディムズディル!」
「裏コナミSCS栽培担当絶技『我錬栽培波動玉輪砲門』! まず気合でソリットビジョンを掌握、次に、気合でソリッドビジョンを自家栽培。そして最終段階、気合で己とソリットビジョンを一体化。全身全霊を賭けて対戦相手に突っ込むことにより、対戦相手を気合で押し切り、リバースカードの発動すら許さぬほどの恐怖と共に相手を打ち倒す、SCSクラスの決闘者にのみ可能な絶技。だが、それも彼が全盛期だった頃の話。老いて尚……まさか! 足りない気力・体力を、命を削って補うというのか!」
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 新上=ハイデッガー=辰則はエネルギー体と一体化。達也に挑む。
「ゆくぞ我が孫よぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 我が絶技を受けてみよ!」



我錬栽培波動玉輪砲門!



 新上=ハイデッガー=辰則ヘッドが、剛速球となって達也に迫る。
「こ、これは……なんて凄まじいパワー! う、うわぁぁぁっっっ!」
 鬼気迫るは、新上=ハイデッガー=辰則の迫力か! しかし!
「わかる。これは爺ちゃんの、全身全霊の攻撃。ならば……!」

超えてぇぇぇぇぇっ みせる!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!」
 一本の、丸太状の鈍器を手に持ち、新上は構えを取る。
(あの打法は、かって世界一をうたわれた一本足打法!?)
 鍛え抜かれた農家の足腰が、往年の超打法を可能にする!
「たぁぁぁぁぁぁつやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 160キロを計測した辰則ヘッドが、打者の手元でホップする。
「せぇぇんんにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
 だが、達也は、顔面スレスレの剛速球を渾身の力で受け止める。
「ぐ、ぐほぉっ! 愚かな孫がぁ!」 (あの爺ちゃんが……吐血?)
「み、みろぉ。新上が……俺たちのタツヤが……」

マァジィックゥ! シリンダァァァァァァァア!

「《魔法の筒》で打ち返したぁ! 逆転満塁の……グランドスラムだぁっ!!」
 達也最後の1枚。彼は辰則のプレッシャーを耐え忍び、《魔法の筒》のリバースに成功する。はね返されたエネルギーは辰則と分離、ローマ陣営に向かって突き進む。このまま行けば破滅は必定! ただ1人場に残された、ローマ=エスティバーニの身に迫る!
「俺を狙っているだと。なっ……」



舐めるなァァァァッッッ!


フュゥジョン・ガァァッド!



「その程度ォォォ! 受け止めろぉっ! 《レインボー・ネオス》!」
 《魔法の筒》によりはね返された光球を、《レインボー・ネオス》の巨大な羽が受け止める!
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッ! ハァッ!!!!!」
(かき消したか。流石は我が永遠の友ローマ。常人ならライフは守れても、気絶は免れぬというのに)
 ディムズディルが言う通り、ローマもまたSCSの猛者。我錬栽培波動玉輪砲門は立ち消えとなった。
「まさか絶技まで出すとはな。そしてそれを、受け止めるどころかはね返す、か」

「タツヤ……」
「爺ちゃん……」

(今の攻防。ローマが守らねば完全に負けておった、か)
 新上=ハイデッガー=辰則。彼は、左手を下ろし、息をついた。
(タツヤよ、わしがお前に伝えるべきことなどもう何もない) 
「わしの負けじゃ。よい決闘じゃった。あの世に自慢の種ができたわい」
 新上=ハイデッガー=辰則は、己の決闘盤を左腕から外した。
「爺ちゃん?」
「ローマよ。受け取れ……」
 新上=ハイデッガー=辰則は、ローマに向けて決闘盤を投げた。
「孫の成長を促す為闘ってみたが、もう立派に育っておったよ」
 彼はローマに己が持つ最後のカードを渡し、その場を去らんとする。
「感謝するぞローマ。この世を去る前に、孫と本気で語り合う機会を持てた」
「その必要はない。俺は俺で、自分の為に動いているだけだからな」
「相も変わらず可愛げのない。さぁて、たまには故郷にでも立ち寄るとするか」
「ご老公! 後でご馳走願えませんか!」 電柱から降りたディムズディル。
「ふん。灰色か。お前はもう少し自分で自分をいたわれい。死相が見えとるぞ」
「(ふぅ。流石だな)。おたっしゃで。10年後、お互い生きてたら戦いましょう」

 こくりと頷いた新上=ハイデッガー=辰則は歩き出し、新上達也のすぐ脇を通る。
「タツヤよ。よい決闘じゃった。じゃが、今日の決闘で会得したこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「爺ちゃん? まさか! 俺の為にわざと……」
 この時、達也は祖父の真意に気がついた。新上=ハイデッガー=辰則は遺伝子組換農業の魅力に取り付かれたわけではなかったのだ。むしろその逆。その魔力を危惧するが故に、若者たちへその恐ろしさを、その身をもって伝えていたのだ。食力は世界を支配する。だが、支配させてはならないのだ、と。
(そうだ。アシッド・レインを発動した際、一瞬爺ちゃんは哀しそうな眼をしていた。いや、それだけじゃない。思えばあの時もあの時も! 爺ちゃんは……俺の爺ちゃんは……あれこそ、爺ちゃんが昔の爺ちゃんであった証。爺ちゃんはどこまでも爺ちゃんだったんだ)
「孫の相手をするのも楽ではない、か。じゃが、それは誇れることじゃ……」
「爺ちゃん……はっ、その血は! 吐血……そんな大量に……」
 それは全盛期を過ぎて尚、本気でカードゲームに臨んだ代償であった。
「もし爺ちゃんが全盛期だったら今頃俺は消し炭になっていた。あの時だって……」
 新上達也は見た。最後の瞬間、血を吐き手を緩めた祖父の姿を。だが、祖父は首を振った。
「いぃや。お前はわしを超えたのじゃ。お前を含めた他の誰が認めずとも、わしがそう認めておる」
「爺ちゃん……」
 達也が何事かを言いかけたその刹那、彼の祖父は胸元から煙玉を取り出し爆裂させた。
「じ、爺ちゃん! 何を……」
「さらばだ我が孫よ! 精進せぇ!」
 煙が晴れると、老人の姿は消えていた。
「爺ちゃん……」

「今の新上となら、もう1度闘ってみたいものだな。なぁ、みんな」
 新上を讃えるのはディムズディル。彼もまた、戦友の成長を喜んでいた。しかし……
「だが、このままでは済むまい。ローマがいる。それなりに長い付き合いだが、アイツがまた強いんだ」
 『ローマ』。それはディムズディルでさえ危惧を抱く名。もっとも、エリーは別のことを危惧していた。
(ディムの調子がやっぱりおかしい? 電柱に登っただけで、肩で息をしている。登らなきゃいいのに)

「爺ちゃん。爺ちゃん……」
「申し訳ありませんが、向き直って下さい。新上さん」
「シンヤ……」
「まだ敵が1人残っています。でかい、でかい狂敵が!」
「わかってるさシンヤ。爺ちゃんの、栽培仙人の教えは俺の中で生きている」
「やってやりましょう新上さん。僕らの力を合わせれば、きっと勝てます」
 団結する2人の決闘者。しかし、その相手は容易ならざる決闘狂人だった。
「さぁ、決闘続行だ。ライフは半分を切った。だが、だからこそ面白い」

(オセアニアで最強を誇った『電獣』ヴァヴェリ=ヴェドウィンを倒した元村信也の頭脳に)
(腐っても元SCSの栽培仙人、新上=ハイデッガー=辰則を退けた新上達也の気迫)

「クククク……フハハハ……」
「何がおかしいんだ。ローマ=エスティバーニ……」
 ローマの『気』が変わる。栽培仙人ともまた違う、あまりに禍々しい、オーラ。
「不味いな。言っても無駄かもしれんが言っておく。気をつけたほうがいい……」
 ディムズディルは、自分の仲間及び、ついてきた翼川のメンバー全員に言った。
「ローマが本気だ。大地が再び、いや、さっき以上に揺れるかもしれない」
「さぁて、そろそろ、『俺』を教えてやるよ……」
「人は彼をこう呼ぶ。裏コナミSCS構築担当……」

『脱構築型デッキ構築の申し子』ローマ=エスティバーニ……と。





【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
栽培仙人が実際に出てきてカードゲームをやることを予想できた人間がはたしているのだろうか。少なくとも私は夢にも思っていませんでした。キャラが勝手に動くどころの話じゃねーぞ。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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