「……ったく、どういうつもりだあの灰色め。俺達にまでついてこいだと?」
 2戦目までが終了。だが、一息つく代わりに彼らは移動を強いられていた。
「おいディムズディル」 森勇一は、やや不機嫌そうに呼びかける。
「なぜ場所を変える必要があるんだ?」 当然の疑問だ。
 ディムズディルは、敢えてピントを外してその質問に答える。
「森勇一、君もコナミで遊びたいなら、知っておいた方がいいさ」
「どういう意味だ?」 「くればわかるさ。くればな……」

「私さ。なにやってんだろう」 他方、皐月は朦朧として歩いていた。
「しょーがないじゃん。ドローラックが悪かったのよ。そーゆーこともあるって」
「ヒジリ。でも、なんていうか、私、今、すごく悔しい。すごく、悔しい」
「この私でも負けることあるのよ? だから仕方ないって」
「負けたことじゃなくて……なんって言えばいいんだろう」
 皐月は、言葉を見つけることができないまま、呻くように言った。
「私さ、ホントはいらない子なのかなって……」「サツキ……」
(居座りたいって気持ちだけが、気持ちだけしかなかった、のかな)

「ヘリがどうこうって言っていたの? ディムは……」
 更に他方、こちらは勝者。彼女は、千鳥に話を聞いていた。
「ああ。だが、いったいどういうつもりだ。何があるというのだ」
「はっ、アイツのことだ。争いを嗅ぎ付けてるに決まってるゼ」
「争い? 争いって……」 「闘争の申し子じゃからのう……」
「ま、いいんじゃねーの。そんな心配しねーでも、なるようになっさ」
「うん……」 頷くエリー。しかし、彼女の心配事は、行き先についてではなかった。
(行き先よりも、気になるのはディムの汗。暑いからって量じゃない。これって……)
 エリーは目ざとくディムズディルの異変に気づく。何かが、おかしい。何かが。
(何か、異変が起こっている。ディムの行き先には、その異変の元があるってこと?)

 一方、ディムズディルが嗅ぎ付けたその場所では、まさに今戦いが激化していた。
「どうした。仮にも西日本最強といきがってるんだろ。傲慢な者には闘う義務がある」
 ローマ=エスティバーニ。恐らくはこの襲撃の主犯格。彼こそが、倒すべき相手。
「仲林さん……どうします? 私がいきましょうか?」
「いーや、早苗ちゃんはやめときな。データが揃ってないだろ。無理すんなって」
 仲林は慎重だった。彼の中の第六感が勝負に歯止めをかけている。だが……
「俺に行かせろ仲林。この俺が、村坂剛の【改良型MMR】が神宮寺の敵を討つ!」
 いきりたつのは九州三強村坂剛。いや、彼だけではない。四方八方から声があがる。
「抜け駆けはよくないぜ村坂! ここは俺の……【シーラカンス・バーン】の初陣だ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺の新型HEROデッキ、【置物融合】に決まってんだろうが!」
「後輩は引っ込んでいなさい! ここは古参の私が【トライアングル・エクスタシー・ワイト】……」

(不味いな。熱くなって出てっても、神宮寺の二の舞だ。どうすっかなぁ……)
 リーダーとして、冷静に、打開策を探る仲林。だが、名案は浮かばない。
(やっべぇなぁ。このままじゃ暴動だ。だが、暴動になったらこっちが負ける、よなぁ)
 相手はたったの5人だが、その一方でただの5人ではない。乱戦になれば悲劇の二文字。
(三回転ぐらい回って土下座する……いや、そりゃ流石に卑屈すぎるか……どうなんだろうなぁ)
 しり込みする仲林。運を天に任せて闘うか。いやしかし、負けると後が怖くて動きづらい。
「ふぅ、西日本最強が聞いて呆れるな。見込み違いというやつか……」
 ローマが溜息をつき帰りかけた、その時だった。流星激突大爆発。

 ズドォォォォォーン!!

「なんだ……この、美意識の欠片も感じられない、不細工な爆発は」
 爆発の美醜はともかく、ローマすら知らぬこの爆発。非常、事態。
「爆発、いや、どちらかというと煙幕かな。アレ? 中央に……人影?」
 信也の眼には確かに人影が見えた。それも、5人分の人影である。
「津田さん!」 すぐさま信也は振り返る。振り返ってその意見を仰ぐ。
「断言はできません。できませんが、心当たりがあるとすれば……」
「だな。あいつらだ。毒には毒ってか? こりゃぁ、まいったなぁ……」
 仲林に毒扱いされたその人影。彩も、その反応に驚きを隠せない。
「ってことはまさか、あれもソリティアの会の一部なの? うっそぉ」
 煙が晴れる、や否や彼らは名乗りをあげた。そう、次々に。次々に!

「美玉砕陣の誉れ也! 『漢魂総才』! ゴッドバード藍河!」
 鳥を模したマスク、を装着した筋骨漢。左から2番目に立って吼え立てる!



「毒蛇の巣窟! 『蛇の道は蛇ッカル』! アナンタ凛道!」
 右から2番目に位置するは、毒々しい衣装。いかにも不健康そうなその男!



「紅の一点突破! 『天使の鐘も金次第』! アテナ麻弓!」
 唯一の女性は左端。持ち金の90%が非円。インフレ対策は既に万全!



「最年長の胆力! 『あふれでる団塊世代』! めずき大山!」
 右端。戦争を知らぬがゆえにむしろ最強。ベビーブームを終わらせた男!



「遅れてきた総大将! 『後ろの正面この俺だ』! ギガサイバー六甲!」
 中央の戦慄。せんこーこーこーみなごろしっ! 百戦百勝全て後攻!



「「「「「ソリティア・ファイブ・アタッカーズ! ここに見参!」」」」」

 ザッパァァァァァン!

 この時、湧き上がる眩暈で彩が一瞬倒れかけた件については、最早述べるまでもない。


第41話:裏コナミ(SCS)VS裏ソリティア(SFA)



「な、なんなんだこの人達は。まだこんな変態が、この世にいたのか……」
 信也の眼前には異様な光景が広がっていた。5人の決闘者が次々に名乗りを上げ、挙句の果てには5人揃って意味のわからない決めポーズ。明らかに、明らかに練習の後が見られるだけに一層タチが悪い。体育祭の一週間前、放課後のグラウンドで応援合戦の練習をする程度の情熱が見え隠れする様には、誰もが一歩引かざるを得なかった。信也は、頭が痛くてたまらなかった。一体何がどうなっているというのだ。ソリティアの会は、こんな連中まで囲っているというのか。信也は、このとき初めて「もう潰れちまえよこんなクソ団体」と考えたという。ある意味では、当然の反応だった。このままでは、いつか裏翼川とか言い出しかねない。そんなことになったら、誰が事態を収拾すればいいというのだ。
「なんでこんなことになっているんだ? あの人達は、いったい何がしたいんだ?」
 彼らの狙いはすぐに判明した。リーダーと思われるギガサイバー六甲が、号令を発したのだ。
「散開! 敵を……確固撃破せよ!」

「これは……」
 一瞬にして散会したSFAのメンバー達。彼らの目的意識は、はっきりしていた。
「おぉっとローマ。動くなよ。お前の相手は……このギガサイバー六甲がやってやる!」
 5人の動きを目で追わんとするローマ。だがそれを遮ったのは、ギガサイバー六甲だった。
「デカイ図体だな。だが、この俺の邪魔をすることの意味を、本当にわかっているのか?」
「わかってるかだと? 当然だ。お前はここで負け、俺達こそが最強だと証明するのだ!」

(デカイ! 2メートルはある! いや、それよりも、あの引き締まった筋肉の艶はどうだ!)
 信也が驚愕するのももっともだった。その男の体格は、日本人離れしているにも程がある。
(あれは日々の鍛錬の証。あの太い指先に掴まれたら! ドローカードなんてひとたまりも無いぞ!)
「2メートル3センチ、92キロ。ソリティアの会随一の巨漢。六甲琢磨。まさか、ここに来ていらしたとは」
「津田さん! 教えてください! あのへんた……一風変わった人達はいったい何者なんですか?」
「ソリティア・ファイブ・アタッカーズ。又の名を裏の執行人! ソリティアの会の番人を自称する猛者!」
「裏の執行人。まだそんなのが……(西日本最大規模のカードゲーム団体が、それでいいのか?)」
 信也は今、自分と肩を並べている人間達に猛烈な疑問を感じていたが、尚も津田早苗の解説は続く。
「ソリティアの会は、勢力図の拡大に比例して敵を増やさざるを得ませんでした。その、様々な敵対勢力からの刺客を裏で葬ってきたのが、あのSFAだったのです」
「そういう……ものなんですか。わかりました。千歩ぐらい譲って納得します」
 『SCS』と『SFA』。裏コナミに対する裏ソリティア。この勝負、神にすら読めぬ。
「裏ソリティア……あっ!」

 ガキィッ!

「なるほど。今の決闘盤による一撃。手馴れているな。それに、随分と重い。合金製だな」
「よく受け止めたな瀬戸川。そうだ。この決闘盤の素材は、デュエリウム合金よ!」
 幾分重いが、その分破壊力は絶品。カードゲーマーの心臓たる、脳を容易に砕くのだ。
「俺の決闘盤は岩をも砕く。お前の頭蓋骨も同じだ。一発であの世にいけるぜ」
 その男は、バードマスクをつけたあの男。ギャラリーが、にわかに色めきだつ。
「ゴッドバード藍川! き、危険だ! こいつはデンジャラスな決闘者だぜぇっ!」

 ザシュ!

「そこに潜んでいるな。他の奴の眼は誤魔化せても、このアナンタ凛道の感覚は誤魔化せん」
 一方、壁際には、蛇の姿を模したピアスを、壁に向かってつきさす男がいた。
「小生の居場所がばれてしまいましたか。今日はもう、店仕舞いのつもりだったんですが……」
「す、すげぇぜアナンタ凛道! 保護色に紛れていた、胡散臭い紳士を見つけ出しやがったぁっ!」

 ドガッ!

「こうも簡単に後ろを取らせるなんて、油断しすぎじゃない? 死にたいの?」
 後ろから殴りつけたのは、現世利益を謳歌するあの女。殴られた方は、地に伏せる。
「あーいたい。いたい。死にたい。あー。あー。あー。てか眠い。あと死にたい」
「み、みろ!あの女をアテナ麻弓が殴りつけた! 何時の間に!?」

 ザッ!

「ふぅむ。どうやらお前さんを倒さん限り、この電波の歪みは続くというわけか」
 最年長らしい風格とともに、今もっとも叩くべき敵を見つける。なんという知見。
「めずき大山! 恐るべき速さで上に上がっている! なんてやつなんだぁ!」

「どうだローマ。乱入はお前だけの技じゃないってわけだ」
「乱入返しか。クク……クククク……」
「なんだ。なにがおかしい……」
「その道の報い。今から教えようじゃないか。特別にタダでな」
「その強がりが何時まで持つかな? コナミは俺達がもらう!」
「コナミを貰う? ほぅ、どうやらお前達、ただの敵討ちではなさそうだな」
「ふっ、その通りよ! 時代を真に担うのは、俺たちSFAだということだ!」
 燃える六甲。ローマはそんな六甲を見ると、ふっと笑ってこういった。
「それなら、それなりのおもてなしが必要だ。だが、1つ困ったことがある」
「なんだ? 今更逃げるとか言うなよ?」
「融合デッキが足りないんだ。いらんと思ってな。だが、本気で相手するとなれば……」
 ローマは、続けて提案した。その提案は、言ってしまえばローマに不利な提案であった。
「実は、あと少ししたらくることになっている。今から始めれば、途中で届くだろう」

「なにぃ?」

「どうせあるだけもってこさせるつもりだ。到着までは、数の上では“ある”ことにしてくれ」
 ローマの提案は奇妙なものだったが、六甲はニヤリと笑い、その提案を受け入れる。
「要は決闘中に到着した分を使わせろ、ということか。いいだろう。それでやってやる」
「話がわかるな。少しだけ気に入ったよ六甲。SCSとして、相手をする気になった」
「言っておくが、到着前に融合モンスターを出す破目になっても聞かないぜ」
 言うまでもなく、これはリスクのある提案。融合デッキを必要とするということは、融合を使用するデッキということになるが、その融合モンスターが最初の時点では存在しない。これは、間切れもないリスク。
「もう1つ条件がある。お前から決闘を始めてもらおうか。そうでなければ受け入れん」
 六甲の駆け引き。そう、彼はハナから己の要求を満たす為だけに了承したのだ。
「丹念なことだ。ああ、いいさ。俺が先攻お前が後攻。SCSとSFA、決闘開始だ」
(遂に激突するのか。裏コナミと裏ソリティア。どっちが、より凶悪な魔界の住人なんだ?)
「第2デッキセットOK。システムオールグリーン。モード正常……」
「6枚ドローだ。さぁ、召喚! 《サイバー・ダーク・ホーン》!」

 張り詰めた空気の中、ローマ=エスティバーニは《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚した。それは、戦闘開始の合図でもある。この瞬間、SCSとSFAの間の抗争の火蓋が切って落とされたのだ。その瞬間、堰を切ったかのように合計10人の決闘者達が次々に決闘を開始していくことになるが、最早誰も、その流れを止めることなどできない。信也と彩は、押し黙ってその戦いの行方を見守っていた。

 ―ローマ=エスティバーニVSギガサイバー六甲―

「《サイバー・ダーク・ホーン》。この俺を相手に、攻撃力たったの800を攻撃表示で召喚する。だが、貴様の手の内は読めているぞ。奇行で相手を惑わし、その隙を付くセコイ決闘。だが、軍隊流決闘術を修めたこの六甲琢磨の布陣“鉄の後攻”の前には全くの無力! その残酷な現実をお前の墓標に刻んでやろうか。コマンド・デュエル・タクティクス! 手札から《アメーバ》を攻撃表示で通常召喚!」
「御託はいい。さっさとこい。またお前を嫌いになりそうだ」
「《シエンの間者》を発動! コントロールを移す! そしてぇ! 《魔導ギガサイバー》特殊召喚!」

ローマ:8000LP
ギガサイバー六甲:6000LP


 超高速の仕掛け。一瞬にして、ローマを抉る大ダメージ。信也は呻いた。
「は、はやい。けどそれよりも、まるで最初から後攻で攻めることを想定したかのようなあの攻めは……」
「アレがギガサイバー六甲の【後攻至上主義】。予め後攻によるミッションを想定し、後攻の後攻による後攻の為の布陣を引く合理的な戦闘法。対応性には多少難がありますが、その分安定性は高く、高いミッション成功率を誇るといわれる軍隊式の決闘思想。この決闘、後攻になった時点で既に勝負は付いたようなもの」
「後攻一本槍、あっさりと俺に先攻を許すわけだ。お前こそ、随分とセコイデュエルだな」
「合理的な手法といってもらおうか。お前が調子に乗って先攻を選んだ瞬間、既にタクティクスの99%は終了していたのだ。バトルフェイズ! 《魔導ギガサイバー》で《アメーバ》を攻撃!」

ローマ:4100LP
ギガサイバー六甲:8000LP


「ちっ……このパワー……」
「お前の負けだ。いや、お前達の、だな」
「お前達? ま、まさか……」

 ―ゴライアス=トリックスターVSアナンタ凛道―

「それでは小生らも始めましょうか。手札から《死霊騎士デスカリバーナイト》を召喚……」
 北のゴライアスは静かにカードを決闘盤に置く。だが南に寄り立つ、アナンタ凛道はむしろ高速。
「甘い! その程度で私を倒せると! 《スネーク・レイン》を発動! 地獄に招待してくれる!」
 スネーク・レインが墓地に合計5枚の爬虫類族を送り出す。その狙いはただ1つだった。
「現れろ《蛇龍アナンタ》! 愚かな虫けらを食い破れ! 蛇骨連斬拳!」

ゴライアス:6900LP
アナンタ凛道:8000LP


「こ、これは……」
 何かを感じとったゴライアスはとっさにガード。しかしその瞬間、服の生地が千切れ飛ぶ。
「ふっ、我が蛇骨連斬拳はライフを奪うだけの、生温い攻撃とは一味違うぞ」
 攻撃エフェクトと同時に起こった衝撃。遠目で見る信也にはそれが何だかわからない。
(いったい何が起こったっていうんだ? まるで、鋭利な牙に抉られたかのような……)
 SFAの猛攻がローマに続きゴライアスを襲う。だが、彼らの攻めはまだ続く。
「裏コナミ7人委員会SCS。その影の歴史は今日終わる! 覚悟してもらおう!」

 ―ベルメッセ=クロークスVSアテナ麻弓―

「炙りな《ファイヤー・トルーパー》! ほらほら今度は《デス・メテオ》! ほうらお逃げ!」
「熱い。死にたい。てか熱い。人生は寒い。外は暑い。最悪。てか死にたい……」

ベルメッセ:6000LP
アテナ麻弓:8000LP


 アテナ真弓の決闘は壮絶だった。2人の周りに火柱が踊る。
「これでもう逃げられないわね。焼き殺してあげるわぁ」
 恐るべきはSFAの灼熱地獄。信也も、これには舌を巻く。
「対戦相手を絶対に逃がさないつもりか。なんていう自信」
 むしろ、刑法典に堂々と触れるその意気込みこそを褒めるべき、か。
「さぁ、血に這いつくばって許しをこいな! 全財産貢げば許してあげる!」

 ―ドルジェダク=ヤマンタカVSめずき大山―

「効果解決。《邪神アバター》《邪神ドレッドルート》《邪神イレイザー》を墓地に送る。オーム」
「随分と重いデッキを使うのだなヤマンタカ。だが温い! 墓地の《馬頭鬼》3体を除外! 《龍骨鬼》3体を特殊召喚! 更に手札から《ゾンビ・マスター》を通常召喚。手札から《ゾンビ・マスター》を捨て《ゾンビ・マスター》を特殊召喚!全軍一斉攻撃! 塵1つ残すな! ふぁぁッ!」

ドルジェダク:400LP
めずき大山:8000LP


 めずき大山。その真髄はアンデットによる高速展開。まさしく地獄。
「ふっ、我が【アンデット・ドクトリン】。倒せるものなら倒してみぃ!」

 ―瀬戸川刃VSゴッドバード藍河―

 追い詰められていくSCS。入り口付近には2人の武道家。お互いの制空権が遂に触れ合う。
「瀬戸川家史上最強の天才と言われた男。一度死合ってみたかったものだ。行くぞ!」 
 その男俊足也。あっという間の出来事。彼がターンエンドしたその刹那、既に扉は閉ざされた。
「《ダーク・シムルグ》と《魔封じの芳香》、そして《強者の苦痛》。最早貴様に逃れる術はない」
「なるほど。これが噂に聞く藍河流捕縛術というやつか」
 SFAの一大攻勢。ローマも、これには舌をまいていた。
「なんということだ。なんという……まさか、こんなことが……」
「アテが外れたようだなローマ。これが俺達の実力だ!」 

「SFA。すごい。圧倒的! これなら助かるかも!」
 彩も驚くその実力。圧倒的。圧倒的な実力。
「瀬戸川刃に、もう打つ手はありません。まずは1勝」
 勝利を確信する津田早苗。完璧なる、布陣。
「ん? 信也、どうしたの? なんか浮かない顔して」
 理想の展開。だが信也は、直感で何かを感じていた。
(なんだ。理想的だというのに、この嫌な感じは……)

「俺の番だ。そろそろカードを引かせてもらおうか」
 ギャラリーの眼が明後日の方向に向くその一瞬、彼はそう言った。
「ふっ、いいだろう。だがこの布陣、そう簡単に破れるとは思うなよ」
 完璧なる自信。鍵はかけられた。それによる、過剰なる自信。
「ああ。そうだ。御託は無意味で空しいだけだ。空しく消えろ」
 瀬戸川刃は腰を落とし、例の刀剣型決闘版に手を添える。

「ん? サレンダーは流石に無しか。だけど、どうやって挽回……」
 信也が言うように、サレンダーすら視野に入ってくるその窮状。
「物凄いゴッドドローだったもんね。あれじゃぁ……」
 彩も同意見。これならば、SFAの勝利は間近に思われた。
(そうだ。このままいけば、そうなる。だけど、この胸騒ぎは……)

 と、その時だった。瀬戸川刃がカードをデッキに直し、フィールドから背を向ける。
「お、おい! 瀬戸川刃が試合放棄だ! ゴッドバード藍川の大勝利だ!」
 歓喜に沸くギャラリー。だが、瀬戸川刃は、首を横に振って一言だけ呟いた。
「もう、終わっている。だからもうやる必要はない」
 だしぬけに『バタッ!』という音が響く。それは、無造作に人間が倒れた音。
「え? ゴッドバード藍川が倒れて……る? 馬鹿な。いったい……」

「闘えぬやつとこれ以上決闘しても無駄だ。そいつの決闘は、出来の悪い贋作だ」
(キーカードの位置を“操作”した割には脆い布陣。俺を殺したいならエクゾディアでも積むんだな。もっともお前風情がそれをやった時などは、物理的に人一人が消滅していただろうがな)
 瀬戸川刃。鍛えられたその眼力は、背中を舞うダニすら見抜く。
(SCSを相手にあのような戦いを挑んだこと、それがお前の敗因だ)
「お、おいヤバイぜ。藍河が目覚めねぇ! 肋骨が折れてやがる!」 
 「何時の間に!?」 そう嘆くギャラリーに対し刃は、自嘲気味に思う。
(肋骨2本か。俺も随分と甘いものだな。ふっ……)
「なんなんだ。なにが、あの一瞬にいったい何が!?」

 ○瀬戸川刃VSゴッドバード藍川●

「眠れぇゴライアス! 《蛇龍アナンタ》最後の一撃を喰らえぇっ!」
「み、みろ! ちょっと眼を離した隙に決着がつきかけてるぞ!」
 藍川の仇か己の信条か。凛道の、容赦のない一撃が迫る。
「や、やめろぉっ! お、俺は……」 命乞いともとれる紳士の発言。
「死ねぇ!」 北の方角に立つ蛇の使い手、アナンタ凛導に慈悲は無し。
「これで終わりだ! 蛇骨連斬拳!」
 苛酷な一撃。ゴライアスが地に倒れ付す。

「よ、よし! これで1勝1敗! SFAが並んだぞ!」
 歓喜に沸くソリティアの会メンバー達。だが……
「どうしたの信也。なんか浮かない顔して……」
「なぁアヤ。なんか、おかしいと思わないか?」
「えっ?」 信也の、疑問の根拠。それはある単純な事実。
「なんであの人達、さっきと立っている位置が逆なんだ?」
「位置が逆……あっ!」 それは、悪魔的な現実だった。

「な、なんだぁ!? アナンタ凛道の顔が剥がれて……」
「ふぅ。この顔は、未来永劫使いそうにありませんねぇ」
「ゴライアス=トリックスター!? てことは、あっちは!?」
 ゴライアスだと思われた失神決闘者。しかしてその正体は。
「顔が割れて……アナンタ凛道!? まさか、入れ替わっていただとぉ!?」
「そうか。そういうことだったのか。どうりで位置関係がおかしかったわけだ」
「シンヤ……これって……」 彩にはなにがなんだかわからない。それほどの、混迷。
「アナンタ凛道だったゴライアス=トリックスターをゴライアス=トリックスターだったアナンタ凛道が倒したところで、倒されたそのプレイヤーの正体はアナンタ凛道。つまり『ゴライアス=トリックスターがアナンタ凛道に倒される』という既成事実が生じた瞬間、勝者だったアナンタ凛道がゴライアス=トリックスターに戻ることで勝敗があっちからこっちに入れ替わり、アナンタ凛道ではなくゴライアス=トリックスターが真の勝者となった」
「そんな。そんなことって……」 アヤを襲う恐怖ももっともだった。悪魔的な、ゴライアスの発想。
「小生、決闘が苦手なものですから。負けで勝たせて頂きました」

(何て恐ろしい決闘者なんだゴライアス=トリックスター。僕とやった時の謎かけは、ただのお遊びでしかなかったというわけか。僕らの眼が瀬戸川刃に向いていた、あの一瞬の隙を付いて《強制転移》かなんかを発動。《蛇龍アナンタ》を奪う。そして、自分にはアナンタ凛道への変装を、アナンタ凛道には自分への変装を施し、そのまま決闘を続行した。恐るべき手練。だが、いったいなんでそんなことを?)
 信也には知る由もない、その変装の意義。だがこの変装劇は、ある1つの真相を有していた。
(蛇の戦闘エフェクトに紛れて実際に蛇を差し向ける。発想はよかったと思いますよ発想は)
 ゴライアス=トリックスターは見抜いていたのだ。対戦相手の、これまた常軌を逸した戦術に。
(ですが躾が足りませんねぇ。小生が一寸入れ替わっただけで、どちらが本物の飼い主であるかがまるでわからなくなってしまうんですから。或いは、その程度のカリスマだった、ということですか)

 ○ゴライアス=トリックスターVSアナンタ凛道

「なんということだ。まさか、こんなにあっさりやられるとはなぁ。実にまさか(・・・)だ」
 ローマ=エスティバーニは怪しい笑みを浮かべていた。その一方に、冷や汗の六甲。
「ば、ばかな。あの2人がやられるわけが。こ、こいつら……」
 六甲が一歩退く。それを見たローマは、静かに死刑宣告を読み上げていく。
「2人? お前は何を言っているんだ?」
「なんだと? ん? あ、あれは!」

「人生なんか、人生なんかクズよ。生まれてきてごめん……なさい」
「アテナ真弓!?」 ベルメッセと闘っていた筈のアテナ真弓。だが、その眼は既に死んでいた。
「享楽至上主義者にして、あの世ですら財を営むと豪語した金の亡者が、鬱病にかかっている!?」
「あーあー。ベルメッセと闘った、心の弱いやつはああなるんだよなぁ。まったく、欲が足りなすぎるぜ」
「ローマ。きさ……」 だが、六甲にリアクションを取る暇は与えられない。空から、決闘者が落ちてくる。
「めずき大山! 新興宗教の誘いを頑なに断り、SFAの前は労働組合にしか入らなかったお前が!?」
 六甲の悲痛な叫び。めずき大山の全身には、経文が施され、当の大山は、謎の呪文を唱えていた。
「そんな馬鹿な。SFAが、SFAが……」

 ○ベルメッセ=クロークスVSアテナ麻弓●
 ○ドルジェダク=ヤマンタカVSめずき大山●


(強すぎる。SFAは決して弱くなかった。なのに、この個人能力の高さときたら!)
 信也を戦慄させるその能力。とてもではないが、一騎打ちできる相手ではなかった。
「さぁ、お前で最後だ。折角最後にとぉっておいてぇやったんだ。派手に散らせてやる」
「う、うわぁぁぁぁっ! 《E-HERO マリシャス・エッジ》! 《魔導ギガサイバー》!」
 六甲最後の抵抗。「早くそいつを殺せぇ!」 と呻きながら闘うその様はあまりに悲痛。
「痛いなぁ。そんなことされたら、大事なライフがなくなっちゃうじゃないかぁ」

ローマ:1703600LP
ギガサイバー六甲:8000LP


「ローマのライフが170万オーバー!? そんな馬鹿な! デュエルディスクの故障!?」
 驚く信也。普通ならありえぬ異常事態。だが、彼女はそれが現実である事を知っていた。
「いえ、これはリアルな状況です。私はあの人の決闘をずっと見ていましたから」
「津田さん」
「《血の代償》を経由した無限ライフコンボ」
「だけど、3分や6分であんなことが!?」
「恐るべき処理速度を持つ、あの決闘盤があれば可能。おそらくはカスタムメイド!」

(恐ろしい。あんな男を僕が倒せるのか?)
 信也は考える。その、強大な敵について考える。
(あれだけの強大な敵を、僕だけの力で……?)
 この先の展開を迷う信也。だが、その時ある閃き。
(僕だけの……そうだ。だったら、『僕ら』にすれば!)
「信也! 大変! このままじゃSFAが全滅……」
 福西彩。信也の幼馴染にして魔道デッキの使い手。
(2人なら、アイツの技を見切れるかもしれない……)

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
「!?」 信也の思考を遮ったのは、ローマの高笑い。
「さぁ、懺悔の時間だ。予告どおり、“おもてなし”の時間だ」
(くっ、だがローマのデッキは残り4枚! 耐え切りさえ……)
「いかに打撃が効かなくても、耐え切りさえすれば、と考える」
「ぐっ!?」 図星をさされ、狼狽の色を深めるギガサイバー六甲。
「安心しろよ。おもてなしなんだ。お前は、もう何も考えなくていい」

 バババババババババババババ!!

「な、なんだ!?」 その時だった、空からけたたましい音が鳴る。
「おもてなしの時間。裏コナミ流のティータイムの始まりだ」
「あれは軍用ヘリコプター!? なんであんなところに!?」
 そう、その正体ヘリだった。なぜ、この局面でヘリが来るのか。
「な、なんだ。何が始まるっていうんだ。お前はいったい何を……」
「カード1枚の価値すら知らぬお前らに……無限の愛を教えてやる」

「《ゲール・ドグラ》通常召喚」 ローマは、そのカードを静かに置いた。
「《ゲールドグラ》だと? そんなクソカードでいったいどうしようってんだ?」
 『クソカード』。だが六甲の声は怯えている。ローマの、狂気を感じたからだ。
「クク……フフフククク……クハハハハハハハハハハッ! ショータイムだ!」






百三十九万五千のライフを支払い…………

ゲール・ドグラの効果を465回起動するゥ!





「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?」
「そうか。《ゲール・ドグラ》の効果はライフがある限り何度でも使える。だが465回もだなんて常軌を……あ、あれはっ! ヘリコプターからカードが降ってきたぁっ!? ま、まさかアレは!?」


ハーッハッハッハッハッハ!


ハーッハッハッハッハッハ!


ハーッハッハッハッハッハ!


ハーッハッハッハッハッハ!


フアーッハッハッハッハッ!


俺は……融合デッキ(ヘリコプター)から465枚の融合モンスターカードを墓地に送るゥゥゥ!
ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハハッハッハッハ……産み落とせぇぇぇ! 
サイバァァァァァァ! ダァァァァァクゥゥゥゥゥゥ! イン! パク! トォォォォッ!
 

 軍用ヘリをバックに、ローマが吼える!悪夢を、実現するが為に!
「現れろ! 『龍』と『死』を貪る、漆黒の鎧! おもてなしを、してさしあげろ!」



鎧黒竜−Cyberdark Dragon



 ローマは勇躍、空を舞うカードの中から最強の1枚を選び出す。
「第1の効果発動! 《F・G・D》を装着!攻撃力6000!そしてぇっ!」
 ローマはカードの沼の上で手を広げ、狂った笑い声を発しながら、叫ぶ。
「第2の効果発動! 死骸の数だけ攻撃力を上げる! 死骸の数は四百七十八ィィ!!」
 死骸の上に立つ、ローマの禍々しいその姿はまさしく決闘狂人の姿そのもの!
「よってぇ! 《鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン》の総攻撃力はぁっ!!」

五万三千八百ゥ!!

「なんなんだ。なにが、なにがどうなってやがるんだ……」
「無限のライフを無限の墓地に変換! そして無限の墓地を無限の攻撃力に変換!」
 無限の伝達構造。如何に変換コストが大きかろうが、元が無限ならば即ち無限。
「ローマ=エスティバーニ我流! 【エターナル・サイバー・ダーク】! 消えろ虫けら!」
「ま、まずい! みんな逃げろ! あれは、決闘の核兵器だ! 早く散れぇ!!」
「この世に逃げ道などありはしない! 空間の中に消し飛べ! 前人未到の殺人音波!」

Eternal Fulldarkness Burst!

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ○ローマ=エスティバーニVS六甲琢磨●

「あ……あ……こうこ……こ……うこ……」
 六甲は既に破壊されていた。よくて再起不能である。
(化け物か。だが、だが、向こうの技は見た。見たんだ)
 圧倒的なローマ。信也は、それに身震いしつつも考える。
(向こうが異常なコンボで力を増すなら、こっちも、10×10を100に変えれば!)
「さぁ、身体が暖まってきた。さぁ、誰でもいい、何人でもいい。俺に殺されてみろ」
 静まり返るフィールド。この、凄惨なカードゲームを見せ付けられた後で、いったいいかなる人種の人間が名乗りを上げられるだろうか。SFAを一掃したSCSの決闘能力は、明らかにずば抜けていた。最早、泣いて許しを請う以外にないのだろうか。場は停滞していた。だが、ローマが、飽きてやる気をなくしかけたまさにその時―放っておけばわりと平和に収まったかもしれないその時―彼は名乗り出た。いや、彼らが名乗り出た。闘う為に、名乗り出たのだ。

「まったく。実際いい迷惑なんだけど、悪くないと思っている自分がたまに怖いな」
「実は熟した。収穫するのは今をおいて他にない。俺も、そう思っていたところだ」
「あ、あれはーっ! ヴァヴェリ=ヴェドウィンを倒した元村信也に!」
「九州三強! 『鬼の洗濯板』の異名を持つ宮崎の猛者、新上達也!」

「ほーお。2人か。まだまだ楽しめそうだな」 舌なめずりをするローマ。
「纏めてかかってこい的なことを言っていたようなので、纏めてきました」
 ただでさえ謎の多い強敵。信也は、力を結集する事でその強敵を迎え撃つ。
「お前からは嗅ぎ逃せない匂いがするんでな。俺がその匂いを栽培していやる」
 そのパートナーこそが新上達也。九州、いや全国を見渡しても屈指の実力者。
(ローマは強敵だ。だが、僕らのタッグなら勝機を探れるかも。いや、掴んでみせる)
「シンヤ……闘うの? あの人と、闘えるの?」 怯えつつも見守るのは、幼馴染の彩。
(安心しろよアヤ。確かに、僕にもこのタッグがどうなるかは予測のつかない部分がある。だけど、これは思いの外面白いタッグかもしれないんだ。【グッドスタッフ】の『質』と【ターボ促成栽培】の『量』。この2つをかけあわせれば、ローマを討つ、一本の剣にもなりえるはずだ!)

「中々骨があるな。いいだろう。お前らの脳を脱構築してやる」
 尚も不敵なるローマ。その顔には、邪悪なる信念が宿る。
「お断りしますよ。ですが代わりに、勝利を貰っておきます」
 不敵には不敵。元村信也。彼の戦略がローマに迫る。
「進化した宮崎式農業、お前の身体に教え込んでやるよ」
 敗北を糧に己を栽培する男。九州三強の意地。新上達也。

 異色のタッグ結成!




【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
言うまでもなく、新ルール施行前に書かれました。《カオス・ネクロマンサー》とどちらにしようか一瞬迷いましたが“無限の無駄”の魅力に取りつかれた私に鎧黒竜以外の選択肢があろうはずもなく。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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