[必殺魔法3大原則]
@必殺魔法は攻め技である(必殺魔法は攻撃表示でしか使えない)
A必殺魔法は迎え撃つ(必殺魔法は相手ターンのバトルフェイズにも使える)
B必殺魔法は唯一無二(同じ必殺魔法は1ターンに1度までしか使えない)

「そういう闘い方もあるのか。面白い。終わりじゃないんだろ? 続けろよ」
(いつも余裕ぶった、ショウの眼の色が変わっている。アイツ、本気だわ)
 《リミッター解除》の効果でブレイクナインは自壊する運命。だが……。
《パーツ転用》を発動! 死のビリヤードはまだ続く!」

《パーツ転用》
通常魔法
「クラッシュビークル」と名のつくモンスターを1体生贄にささげて発動。デッキから生贄にささげたモンスター以下の攻撃力を持つ「クラッシュビークル」と名の付いたモンスターを1体特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃できない。

「場のブレイクナインを除外。デッキからブレイクナインを守備表示で特殊召喚」
(またブレイクナイン。それも、今度は隠しもせずに。ショウのデッキを見切った上での布陣てっこと?)
 ブレイクナインの攻撃力は6400。特殊召喚可能なモンスターはわんさかいただろう。にも拘らず、ブレイクナイン。他にいなかったのか。いや、違う。これは、新堂翔への挑戦だった。
「ブレイクナインは無敵だ。お前には敗れんさ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
(ヘルゲイナーを見て、俺のデッキが打撃に傾いていると見たか。その前提は間違っていない。だが!)

「俺のターンだ、ドロー……ハハ……続行、か」
 「ああ、続行だ」店長はそう言いながら、手招きをする。
「いいだろう。死のビリヤードとやら、俺は突き手に回るさ。手札から《E−HERO ヘル・ブラット》を特殊召喚。そしてこいつを生贄に《E−HERO マリシャス・エッジ》を生贄召喚。まだだ! リビングデッド発動! 《E−HERO ヘル・ゲイナー》を特殊召喚。そしてゲームから即除外。エッジに2回攻撃を付与する。喰らえ! さっきのお返し、利子つけて返すぜ! 俺は金に汚いんだよ!」
(嘘! 最上級モンスターで愚直に攻撃を仕掛けるというの!? それをやったら!)
「マリシャス・エッジでブレイクナインを2度攻撃する。貫通ダメージは、しめて5200だ!」

ショウ:3400LP
店長:2800LP


「す、すげぇ! 貫通攻撃の2連発、あの店長から一気にライフを削り取ったぜ!」
 ブレイクナイン本来の能力は『0』であり、ゆえに、貫通攻撃の効果が最大化される。
「ヘル・ブラットの効果で1ドロー。カードを1枚伏せターンエンド、にしておくぜ」
 翔の反撃は怒涛の如し。だが、その反撃には、リスクが必ずついてくる。
(ショウが反撃した。だけど、それはブレイクナインの、ビリヤード殺法を誘発する)
 そう、恐怖のビリヤード。悪意ある刃の一撃をもってしても、完全なる球は切れず。衝撃反発により、またもフィールド上を駆け回り、推進力を得たブレイクナイン。ビリヤードの玉が店内を駆け回り、既に破壊され、平たくなった店内を縦横無尽に跋扈する。翔の反撃は、リスクと隣り合わせの代物だった。
(まったく、アンタの所為で私まで危険じゃないの。あの反撃は、きっとキツイわよ)
 危惧を深める皐月。一方、ブレイクナインの動きよしと見た店長は、最後の攻撃を開始する。
「真っ向勝負とはいい度胸だ。だがぁっ! ドロー! ブレイクナインの攻撃力は2600」
 マリシャスエッジの攻撃力も当然2600。破壊されれば、半分の1300ダメージが翔に行く。
「バトルフェイズだ! ブレイクナインで、マリシャスエッジと店内の両方を破壊するぅ!」
「リバースカード《収縮》を発動! 悪いな。破壊するのは店内だけにしてくれ」
「《八式対魔法多重結界》を発動! 店内は当然破壊する。そして、マリシャスエッジも破壊する!」
「ちっ、機械族にそんなもん使ってんじゃねぇっての! 大体言いにくいんだよそのカード!」

ショウ:2100LP
店長:2800LP


「悪あがきだったな。またライフが逆転だ。新堂翔」
 店長の言うようにライフは逆転。だが、翔の眼はまだ死んでいない。
「悪あがき、か。だが、死のビリヤードはまだ続くさ。生憎な」
(そう、まだ続く。ブレイクナインは攻撃表示でパワー0。まるで……)
(まるでチキンレースだな。だが、俺はもうブレーキを踏まないぜ)
(なるほど。いい度胸だな。やはり、この男、この道に引き込むべきか)
 三者三様の思いが交差する中、勝負は、度胸試しの様相を示す。
「オレは1枚伏せてターンエンド。さぁ、お前はどうするんだ?」
 挑発する店長だが、するまでもなかった。翔は、大勝負にうってでる。
「決まってるさ。ドロー。手札の『石』と『刃』を素材に《ダーク・フュージョン》発動!」
 融合代行屋と悪意ある刃の融合。そこからでてくる悪意の権化。いざ、召喚。

Evil Hero Malicious Fiend

「エッジの次はデビルか。悪意に満ち溢れているな。ガイアじゃなくていいのか?」
「攻撃力は互角。後でその、ガイアの素材にもなる……が、ぶっちゃけ趣味だ」
 「後で」それは翔にとってどうでもいい言葉だった。今、倒すべきは、今なのだ。
「バトルフェイズ、マリシャスデビルで、ブレイクナインにアタック!」
 このターンでの決着を図る翔。座して待つのは不利との判断だった。
(これで決まるか……)(いぃやまだだ!)(ちっ、あれは!)
「《和睦の使者》を発動! 戦闘ダメージを0に抑える!」
 《和睦の使者》。翔は、やれやれといった表情でバトルを終える。
「バトルフェイズ終了。カードを1枚伏せる。これで手札はすっからかんだ」
 翔の、渾身の一撃も、ブレイクナインを再強化する結果に終わる。しかし、決闘が続いている以上簡単に諦める翔でもない。不利と知って尚、決闘を続行する。まだ、負けが決まったわけではない。
(やはり形勢は不利、か。だが次のターン、追加でアタッカーが来なければ……)
 僅かながら「まだ勝機はある」と考える翔。次のターンにはヘル・ゲイナーも戻ってくる。
「ターンエンド、だ。精々、2枚目の《ピットバイパーアタック》が来ないことを祈ろうか」

「俺のターン、ドロー……これで手札は2枚。さて、最初に言っておこうか新堂翔」
「結構だ……といいたいところだが、敢えて聞こうか」
「この手札の中には、《歯車激突》はおろか3枚目の《ピットバイパーアタック》すら存在しない。加えて、新たなクラッシュビートルも切らしている。元々、そんな多くを入れられる構造でもない」
「そいつは結構な話……と、いいたいところだが、貴様、企んでいるな」
「ご名答! クラッシュビークルデッキの本領はパーツ交換の互換性にある! 今、ブレイクナインの攻撃力は3500。それがいい! 手札から、2枚目の《パーツ転用》を発動!」

《パーツ転用》
通常魔法
「クラッシュビークル」と名のつくモンスターを1体生贄にささげて発動。デッキから生贄にささげたモンスター以下の攻撃力を持つクラッシュビークルを1体特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃できない。
《クラッシュビークル−ステルスジライヤ》
効果モンスター
星5/風属性/機械族/攻 2100/守 2100
このカードは1ターンに1度戦闘では破壊されない。

「デッキから《クラッシュビークル−ステルスジライヤ》を攻撃表示で特殊召喚! これで決まりだ!」
 フロントに巻物とノコギリ。和風、或いは忍者風とも言うべきデザインの刺客が、翔の本陣を狙う。
(新たに出てきた実用新案。そして先の発言。間違いない。アレ専用のカードが手札に来ている)
「必殺魔法《忍法!ミスティストライク》を発動!」(これは……ステルスジライヤが分身している!?)
 ステルスジライヤの必殺奥義が発動。その姿を8体に増やし、驚異的な速度で突進する。フィールド上のマリシャス・デビルには、そのスピードについていくことはおろか、実体を見つけ出すことすらままならない。四方八方から切り刻まれていくマリシャス・デビル。そう、ステルスジライヤのフロントウェポン『フウマ』は、恐るべき殺傷力を有していたのだ。なんという、なんという攻撃!
(そろそろ説明しやがれよな。これは一体……どういう必殺魔法……ば、馬鹿な!?)

「フシュルルルルルルルルゥ〜〜〜〜〜〜シャーシャシャシャシャシャシャシャシャ!!」
 翔の眼球に驚愕の店長が飛び込む。それは、普通に考えれば決して有り得ない店長。
「どういうことだ!? 店長まで……店長まで分身しただとぉ!? いったいなにが!」
 店長は、眼から謎の怪光線を発し、残像分身を展開しながら、必殺魔法の効果を語りだした。
「教えてやろう。まずは、分身したステルスジライヤが悪意の権化を取り囲む。そして……」
 店長の必殺魔法。それはあたかも、「かごめかごめ」のスタイル。その破壊力は桁違い。
「そして……アレがアレをアレすることでぇ! その内部を完膚なきまでに破壊するぅ!」
(駄目だ! ショウが負ける。敵を破壊して、その攻撃力分のダメージを与えるカード!)
「そういうことかよ! ちっ」
「大爆散!!!!!!!」

ショウ:0LP
店長:0LP


「はぁ……はぁ……」「ドロー(引き分け)? ショウ、アンタ何やったの?」
 皐月の問いに、翔は、苦虫を油で揚げて食ったかのような表情で答えた。
「お前の得意技だよ。どうやら、今の俺ではこれが精一杯らしいな」
「中々の実力者だったな。もう少し経験を積まれれば、オレの首も危うかった」
「情報不足と経験不足は補いきれなかった、か。まっ、そこそこ楽しかったぜ」
(翔が引き分け。でも、負けなかった。私は……私だってまだ負けるわけには……)

「だが、ここまでだな。俺は勝っていない。残念な話だが……」
(た、確かに勝ってない……翔にしてみればこれ以上は無意味。けど……けど……)
 条件は勝つこと。彼は負けはしなかったが勝ちもしなかった。もう一度やればどうなるか。向こうは変幻自在のギアデッキ。対するこちらは、ろくにサイドボードも持ってきていない。勝ち目は薄い。それが彼の結論。無駄な勝負はしない、とばかりに彼は背を向けた。
「ここは一端引き上げるしかないな。おい片割……」
 振り返り、帰ろうとする翔。だが、そこには、皐月が立ちはだかっていた。
「どけ。もう終わりだ。任務失敗だが仕方がない。引き際が肝心だ。じゃあな」
「それはアンタの事情。勝ち目がなくなったから引く。アンタは引けばいいじゃない」
「なに? お前まさか……」 翔は呆れた。どうやら彼女は、往生際が悪いらしい。
「ねぇ店長。合理的な解釈としては、4回戦もあるわよね。今度は、私が出るわよ」
「おぉっとぉ。まだやるってのか。いいぜ。叩きのめすだけだがな。お嬢ちゃん!」
「あいつの言うとおりだ。お前の腕じゃアイツには勝てん! いい加減諦めろ!」
「勝つからやるんでしょ。ねぇ、店長。デッキをちょっと調整するから時間くれる?」
「いいぜ。だが、俺のデッキも調整されるってわかっとけよ。後で怨まずにすむようにな」

「おい片割れ。勝算があると言ったな。どうする気だ?」
 翔が店の片隅で聞く。いったいどうするつもりなのか。
「アンタは、任務完了したいんでしょ? できるなら、ね」
「ああ。そうだ。誰でもいいから勝てばいい。勝てればな」
「だったら協力してよ。私、今カードあんま持ってないんだから」
「協力……成る程な。だが、勝率はどのくらいを見込んでいる?」
「20%くらい。でも、私はやるわよ。負けっぱなしは嫌だから」
「1人で駄目なら2人がかりか。悪くない。やってみろ、片割れ」
「ええ、やってやるわよ。大勝負。あの店長は、倒さなきゃ駄目」


第40話:へブンズアッパー営業停止事件



店長:7800LP
皐月:5000LP


「いけいけー! 店長! 俺たちはどこまでもアンタについてくぜ!」
「店長! 一気に決めちゃってください! 店はまだ持ちますぜ!」
《クラッシュビークル−紫月》。紫の鎧武者、そのスピンは鉄壁だぁ!」
 湧き上がるギャラリー達。それもそのはず、試合は店長が優勢だった。
「押されっぱなしだな。このままでは、何もしないまま負けになる、が……」

(ふぅ……やっぱり強い。だけど……だけど……このまま……)
「いきがったわりにこの程度か。ならばぁ! このまま決着をぉ!」
 皐月は耐える。店長は吼える。前回と、全く同じ図式だった。
《クラッシュビークル―紫月》の効果を発動。このカードをデッキに戻す」
 鎧武者を象った紫の紫月が、青のクラッシュービークルに変化していく。
《クラッシュビークル―蒼月》を特殊召喚……殺れ! 蒼月! ダッシュだ!」
「くっ……壁モンスターを墓地に送るわ(これがVTシャーシ)の威力なの?」

《クラッシュビークル−紫月》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻 1000/守 1900
このモンスターをデッキに戻す。デッキから《クラッシュビークル−蒼月》を特殊召喚する。この効果を発動したターン、更に特殊召喚を行うことはできない。
《クラッシュビークル−蒼月》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻 1900/守 1000
このモンスターをデッキに戻す。デッキから《クラッシュビークル−蒼月》を特殊召喚する。この効果を発動したターン、更に特殊召喚を行うことはできない。


【VTシャーシ】
第二世代クラッシュビークルに特有の機能。それがVTシャーシである。クラッシュビークルがダッシュモードとスピンモードを使いこなして闘うのは最早常識となって久しいが、古典的なクラッシュビークルには、ダッシュを優先し過ぎるとスピンが、スピンを優先し過ぎるとダッシュが、それぞれ“無駄な機能”といえるまでに酷く弱体化してしまうという構造的な問題点があった。その問題点を克服する為に登場したのが、かの有名なVTシャーシである。走行中、重心移動を任意に行う事により、ダッシュモードとスピンモードへのチェンジ機能を獲得。ダッシュ機能、スピン機能それぞれの、必要以上の弱体化を防ぐ事は勿論のこと、クラッシュビークルの潜在能力を100%発揮することが可能となったのである。一例を挙げると、ある、開発に800億を費やしたクラッシュビークルなどは、VTダッシュ時には炎のオーラを纏って走り、 VTスピン時には冷気のオーラを纏って回転したという。そう、VTシャーシとは、重心移動によりオーラの習得を容易にした、画期的なシステムなのである。


「ターンエンド。この程度か! お前の力はぁ! もっと見せてみろぉ! この俺にぃ!」
(くっ、随分と偉い身分。要求するっての? いいわよ。そっちがその気なら……)
「私のターン……(まだ、まだ待つ。ここは、耐えて待つ)。《暗黒界の取引》を発動」
 皐月はゴルドを墓地から特殊召喚。蒼月を攻撃して数を減らしにかかる、が。
「《和睦の使者》を発動。その戦闘は無意味だったな。西川皐月ぃ!」
(《和睦の使者》。やっぱりあったわね。だけど、これで使わせた)
「私はカードを1枚伏せるわ。これで、ターンエンドよ」
「お、俺のターン、ドロー……そろそろ決着をつけよう……か!」

(なんだ? 店長の殺気が増大していく。この男、やはりどこかまともではない)
 オーラを増す店長は、それと同時に禍々しさを増していく。危惧を深める翔。
(店長……いや、違う。こいつは……こいつの正体は……天超だ!)
「フシュルルルルルルゥ……喰らってみますかぁ……ショーショショショ」
「な、なんだぁ……店長がどこかおかしいぜ」「あ、ああ。店長……」
「随分なハッタリ。手札が5枚もあるなら、仕掛ければいいじゃないの」
「トォーリックゥ……ウォォォォォォォォォォォォォォ……」
 店内が震える。他の誰でもない、天超たるその男の殺気に。
(不味い。俺の直感が正しければ、片割れが死ぬ!)「さつ……」
 翔は皐月に向かって「逃げろ」と叫ぼうとした。だが、その時。
「フシュゥゥゥゥゥ……」(なんだ? 天超が沈静化しただと!?)
「手札から《クラッシュビークル−轟月》を通常召喚!」

《クラッシュビークル−轟月》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻 1500/守 1500
このモンスターの召喚時、以下のモンスターが存在する場合、下の効果の内の1つを選択して発動する。
●クラッシュビークル−蒼月:クラッシュビークル−紫月を手札・デッキ・墓地から特殊召喚する。
●クラッシュビークル−紫月:クラッシュビークル−蒼月を手札・デッキ・墓地から特殊召喚する。

「効果発動! デッキから蒼月を特殊召喚!」
(轟月・蒼月・紫月の3機が揃った! こ、これはぁ!)
「いけぇ! 手札から必殺魔法発動! 突っ込め! 蒼月!」

弧月陣!!!!!!

「くぅぅ……」
 蒼月の武人ダッシュが炸裂。ソリットビジョンとは思えぬダッシュ。
「まだまだぁ! お次はこいつの出番だ! 切り裂け! 紫月!」

円月斬!!!!!!

「この……パワー……」
 紫月の武人スピンが炸裂。ソリットビジョンとは思えぬスピン。
(天超。やはり恐ろしい男だ。ソリットビジョンに紛れて、デッキケースを投げつけるとは!)
 色々と、それこそ色々とあって、皐月のライフは虫の息。そしてそこに!
「これで止めだ! 《歯車激突》を発動! 車は歓び庭駆け回れ! 轟月よ!」

「まずい。ゴルドがこの攻撃を喰らえば、片割れのライフは0となる」
 鎧武者型四輪車・轟月。氷のオーラを纏ったまま、ゴルドの周囲を高速で回りだし、冷気の輪を作り、その内部でゴルドをピンボールのように弾き続ける。徐々に凍りつき、戦闘能力を失っていくゴルド。必殺魔法の効果により攻撃力は0。既に、まな板の上の鯉も同然。この状態で正規の攻撃を喰らえば一巻の終わり。完全に、死に体となったゴルド。店内も、当然のように凍りつく。
「店長……早く決めてくれ! 冷房が寒くて、寒くて死にそうだ!」
 既に氷点下−10度。ここが夏の東京とは、最早誰にも思えない。
「さぁフィニッシュだ! 飛べ轟月! 串刺しの刑を執行しろ!」

氷月閃!!!!!!

 遂にフィニッシュの瞬間が訪れた。轟月による正規の攻撃宣言。店内の障害物を利用して高々と飛び上がった鎧武者型四輪車・轟月は冷気のオーラを武器に変えてゴルドに特攻。先端のフロントウェポン(槍)の一撃を、凍りついたゴルドが喰らえば大ダメージは免れない。だが! だが!
「なにぃ! 氷月閃が……氷月閃がはずれただとぉ!?」
 凍りつき、動けなくなった筈のゴルド。そのゴルドが、動いた。
「いったい、なにが……はっ! これは……《クリボー》の細胞か!」
「そうよ。《クリボー》が氷の中に入り込み、機雷爆発によって、ゴルドを動かした」
 ゴルド最後の噴射劇。凍りついたゴルドは、最後の役目を終え割れていく。
(片割れめ、往生際の悪い事だな。だが、状況は以前不利……いや違うか!)

「いいでしょ……だろう。ならばわた、俺はターンエンドだ。さぁ、この後どうする!」
「こうするのよ! ドロー……あてが当ったわ。1枚伏せて、《手札抹殺》を発動!」
「手札3枚を捨て、ゴルドとシルバを特殊召喚したか! だが、その程度で!」
「その程度じゃ終わらない! フィールド上から《ダーク・コーリング》を発動!」
 皐月は、耐え忍ぶ間墓地に溜めた、悪魔族を片っ端から除外していく。
「《ダーク・コーリング》? 貴様、新堂翔のデッキからカードをかき集めたか!」

「相手の攻撃をギリギリまで耐え忍びつつ、重いデッキの機動性をドロー加速で補う。そして、重量級の大量展開を持って戦線の伸びた相手陣営を一気に叩く。無茶だが、成功報酬はデカイな」
「クラッシュビークルデッキは一騎当千のデッキ。だけど、一騎当千である以上、場を見ればどういう攻め手でくるかは大体わかる。だったら、喰らえばいい。死なない程度にね! 《E−HERO ヘルゲイナー》を通常召喚! ゲームから除外して、今さっき召喚した《E−HERO マリシャス・デビル》に2回攻撃を付与! これで4発。3機を壊して、直接攻撃が1発入る。そして私にはまだ、手札が1枚だけ残っている。これでラスト!」
(天超に動きはない。この攻撃は入るな。まるで、何かを封印したかのような静けさ……)
「……」店長は最後、黙したまま何も語らなかった。そう、何も……
「これで終わりよ! 800ライフを支払って《早すぎた埋葬》……」

 ―10分後―

「ふぅー勝った勝った。どう? 私、勝てたでしょ?」
 皐月はいつになく上機嫌だった。無論、勝利したからである。
「あの店長……」しかし、翔はどこか府に落ちない、といった表情。
(あの時、店長は確かに天超だった。しかしラスト、店長に戻った)
(ラストの攻防、アイツはまだもう1枚のカードを持っていた……)
「ねぇ、ショウ聞いてるの? 自分が引き分けだったからって……」
「いや。まぁ、確かに勝ちは勝ちだな。ご苦労だったよ」
「何か引っかかるものいいね。いつものことだけどさ」
「ああ。いつものこと……な」

 翔と皐月がグダグダいいながら歩くその時だった。翔に、電流が走る。
「いま俺たちの脇を通り過ぎたの……あの店の店長じゃなかったか?」
「なに言ってるの? 店長が私たちの前から来る訳ないじゃないの……」
「ああ……そうだな。後ろからならともかく、な……そうだよな……」

 カランカラン♪

 翔が困惑したその数分後、店内に1人の男が姿を現す。それは、良く見た顔だった。
「あ、店長がトイレから戻ってきたぜ! てんちょ……あれ? どうしました? 店長?」
 しかし、店長の顔はひきつっていた。とても先程までの、豪放磊落な店長とは思えない。
「なんで……なんで俺の店がこんな酷いことになってるんだ? 何があったんだ?」
 店長は困惑していた。何故、自分の店が無茶苦茶になっているのかを理解できない。
「え? 全部店長の仕業じゃないですか。ハンマーもって棚をぶっ壊したり……」
 確かに店長の姿をした男が、ハンマーを振るっていた。しかし、それは……
「馬鹿を言うな! 俺は今日、寝坊して、今来たばっかりなんだぞ!」
 店長は前日、バー『ブリッツフォーゲル』で飲みつぶされていた。
「そ、それじゃあ……あのハッスルした店長はいったい何者……」
 店長の言葉が冗談ではないと判って騒然とする店内。と、そこへ。
「お、おい! こっちきてくれ! レアカードが! レアカードがぁ!」
「ど、どうした! なにがあった! 俺たちのレアカードがいったい……」

「シャークで仕入れて、売り飛ばす予定のレアカードが……」
 決闘で興奮する最中、何時の間にかの犯行。理解不能の大失態。
「軒並み消えてやがる。なにが……いったいなにが……あっ!」
 店長の発見。それは、壁に描かれた、アルファベット3文字だった。
「『SCS』……裏……コナミ……」
 店長の表情がかわる。顔面、蒼白。
「知ってるんですか? だったら追っかけてヤキを入れて……」
 にわかに色めきだつチンピラ達。しかし、店長はそれを遮った。
「馬鹿野郎! そんなことすんじゃねぇ! 死にてぇのか!」
「え? でも……」
「このことは誰にも他言するな。誰にもだぞ……」
 そう言い放った本物の店長の身体は、心なしか震えているようだった。
「終わりだ。最近調子に乗り過ぎていた。終わり……ハハ……ハハハハ」

「また負けてしまいましたか。小生、決闘が下手すぎますねぇ」
 紳士が歩いていた。そう、紳士が道を歩いていた。紳士は、考えた。
「それにしてもあの娘、西川瑞貴の双子の妹さんとは驚きました。確かに瓜二つ。中々面白かったですねぇ。また会えると面白い、ですか。まぁ、その時は西川瑞貴ともども、招待できるように取り計らいましょう。うん。それがいい。そうしましょう。そうなった方が、あのディムズディルとて結果的には喜んでくれるはず。そういう方針で行きますか。あとは……やはり、やるなら盛り上がるにこしたことはないでしょうから……」
 男は、紳士だった。紳士であり、紳士だった。紳士は、携帯をとった。
「もしもし。ローマさんですか。宴を計画しているんですが、貴方も来ますか? 色々な事情を、抱えに抱えた人間ばかりを呼ぶ予定なので、遊び道具には困らないと思いますよ? ええ、そうですか。え? 瀬戸川流に、ベルメッセ嬢、ドルジェダク卿まで呼ぶのですか? 面白いことを言う人ですねぇ。まったく、そんなことをしたらこの国のカードゲーム界が跡形もなく消滅するかもしれないというのに……まぁ、それも一興でしょうか。しかし私が思うに、ベルメッセ嬢とドルジェダク卿は来ないと思いますよ。それに……小生、ベルメッセ嬢の居場所を知りません。え? 彼女、また自殺未遂ですか? それも、貴方の前で? 今病院ですか? それはよかった。好都合とはこのことです。それでは、日本でお会いできることを願って……。ええ、勿論ディムズディルには内緒にしておきますよ。彼には、2年前、スペインで出し抜かれほんの1千万程度もっていかれた借りもありますから、この程度は……ええ。はい……」
 紳士は携帯を切り、再び歩き出した。だが、すぐに止まった。
「おっと、いけないいけない。忘れてましたねぇ。“誰があの店の店長か”を、あの2人にちゃんと教えることができませんでした。これは失態。店の破壊が楽し過ぎて、ついうっかりしてましたねぇ……思わず分身しちゃいました。楽しむのもほどほどにしておかないと。大事の前の小事とも言います、し」

 裏コナミSCS『万化』担当:ゴライアス=トリックスター
 場を盛り上げる為にはあらゆる手段を厭わない決闘紳士

 一方、2人は尚も歩いていた。向かう先などは、最早なかったのだが。
「お前さ……あんなんで楽しいのか?」自然に、出た言葉だった。
「ご挨拶よねー。勝ったら勝ったで文句つけんの?」
「いや、悪いな。別にどうでもいいんだけどよ。ただな……」
 珍しく、はっきりとしない物言い。自分でも、なぜそう言ったのだったか。
「俺には……お前が何か、帳尻あわせの為に闘ってるように見えたんだ」
 皐月の足が止まる。彼女は、不快そうに振り向いて喋りだした。
「喧嘩売ってるの? だったら今から勝負して……」
「悪い。遠慮しとくわ。俺には関係のないことだった……」
「…………ええ、そうよ。もとより関係ないことよ」

 ――――

「酷く散漫な決闘だな。あの女は、本当に闘う気があるのか?」
「ディムズディル、生きていたのか?」「お、起きやがった」
「生きているに決まっているだろ。もう少し、寝ていたかったが」
 ディムズディルは、どこか疲れたような顔をして立ち上がった。
「酷い戦い様だ。見るに耐えないな。あんな府抜けた戦いは」
「女の決闘が酷い? それは、どっちのことだ? ディムズディル」

「ドロー。手札から《宝玉の導き(クリスタル・ビーコン)》を発動。デッキから《宝玉獣(クリスタル・ビースト) サファイア・ペガサス》を守備表示で特殊召喚するわ! 効果発動!」
(守備表示で召喚。私の攻めを、耐え忍ぶつもり?)
「デッキから《宝玉獣(クリスタル・ビースト) アンバー・マンモス》を魔法・罠ゾーンに置く。更に!」
(宝玉はこれで3つ。そろそろうざったくなってきたわね……)
「手札から《レア・ヴァリュー》発動! 選ばれた宝玉を1つ、墓地に送り2枚ドロー。モンスターを1体フィールド上にセット。更に、カードを1枚、魔法・罠ゾーンにセットします。ターンエンド」

「完全な守備陣系。宝玉の璧ってわけ……突破してあげるわよ!ドロー!手札から《大嵐》を発動!」
 大嵐で地均しを試みる皐月。エリーは、《宝玉の祈り》のチェーンで対抗する。
「ゴルドがやられても!手札から《暗黒界の狂王 ブロン》を通常召喚!更に!」
 皐月の攻めは止まらない。恐るべきスピードで、ライフを削りに行く。
「受けに回ったなら!好き勝手させてもらうわ!手札から《シールド・クラッシュ》!」
「バトルフェイズ!《暗黒界の軍神 シルバ》で《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を撃破!」
「まだまだぁ!《暗黒界の狂王 ブロン》でダイレクトアタック!特殊効果発動!」
「うっ……速い……」

西川皐月:7200LP
エリザベート:4500LP


(私の後ろにはショウがいる。姉さんだっている。私は、負けるわけには行かない)
「付かず離れず、ってか。あの女、だからあの女の決闘はつまんねーんだ」
「それ、どういう意味?」瑞貴が翔に問いかける。翔は瑞貴を振り返る。
「笑えるよ。敬愛する姉さんが世界の中心にいないといけないんだってさ」
「は?」「なーに、馬鹿馬鹿しい話だ。端役としての存在意義が欲しいのさ」

「殺気を感じて眼が覚めた。だが、覚ます価値はなかったな」
「殺気? 誰の?」「アレだ。西川瑞貴と同じ顔をしたアレ」
「西川皐月だ。そう名乗っていた」「ああ、そうか。サツキか」
「殺気を感じたとはどういうことだ?」
「怨まれる覚えはないんだが、とにかく感じた。目の前に敵がいるにも拘わらず、どうも僕をどうにかしたいらしい。いや、それだけじゃない。後ろにもだ。敵意と敬意。酷く散漫だ。あの女は、真面目に決闘をする気があるのか? 僕が相手なら生かしてはおかんがな。エリー……君は舐められているぞ」

(ディムズディル。あの男は倒されなくてはならない。あの男は、姉さんに敗北感を植え付けた)
 皐月は、立ち上がったディムズディルを睨みつける。ディムズディルは、それをうざったそうに退ける。西川皐月は、西川瑞貴の双子の妹であった。彼女の価値観は、姉を中心として存在していた。絶対的な能力を持つ姉という名の確かな基準。それは、彼女を統制する基準だった。
(敗北しただけならいい。だけど、敗北感は駄目。姉さんはもう一度やっても勝てないと思っている)
 しかし、基準は今揺らいでいる。誰の所為? ディムズディルの所為だ。あの男は姉を上回った。勝敗の問題ではない。完全に、上回っていた。その根拠は、本人が現に今そう思っているからである。
(許してはいけない。貴方は姉さんを、私たちを汚した。貴方は、倒されなくてはならない)
 瑞貴は、ディムズディルを恐れている。瑞貴を遥か高みに据えることで保ってきた己の価値。だが、姉の瑞貴の価値が下落した今、自分の価値はどこまで下る? 皐月には、それが激しく気に食わなかった。姉の敗北感は何かの間違いだった。錯誤だった。そう立証しないわけにはいかなかった。
(それに、今私の後ろにはショウもいる。あの男は勝った。「私は?」ってなる。だから……)
 かろうじて引き分けて以来、翔に対する負い目が深まっていく。翔が、より強くなったからだ。
(一度落ちたらもう這い上がれない。私はここにいなければならない。ここに……)

(視線を感じた。後ろでディムが見ている。前では、ショウが私を見ている)
 奇遇であった、というべきかもしれない。2人が意識する男は、今同じだった。
(サツキも同じだ。私と同じ……だけど……だけど私の相手は……)
「あの馬鹿。お前が今戦うべき相手は、俺でも、ましてやディムズディルでもない」

(私は……)
(私は……)

(私はショウにも、ディムズディルにも、姉さんにだって負けたくない)
(私の相手は西川皐月。私は、この人と闘って、勝利してみせる)

「片割れ、お前の相手が、そこの女だってのがわからないのか?」
「皐月は、焦ってる?」瑞貴もようやく気づき始めた。その、脆さに。

「いけるじゃん!サツキの圧勝よ!これで2連勝はもらいっ!私が出るまでもないわ!」
「いや、油断は禁物だぞヒジリ。確かにエリーは防戦一方だ。だが……」
「そうね。【暗黒界】はスピード重視の結果、パワーや持続性が犠牲になっている……」
「向こうは宝玉で長期的なアドヴァンテージを狙える。押し切れればいいけど……ショウ?」
「なぁ、片割れの姉さんよ。アンタは、アイツに勝って欲しいか? 負けて欲しいか?」
「私には……わからないわ」
「そーかい……」

 ――――

「納得いかないって? 何がだ? 何が納得いかないんだ?」
 それは、『へブンズアッパー器物損壊』事件の、数日後のことだった。
「アンタとの決着よ。引き分けのままじゃ納得いかないって言ってるの」
 皐月と翔はかって勝負して引き分けた。事実である。彼女は、申し出た。
「ふーん……初心者相手に引き分けたくらいで、暇なんだな……学生は」
 万屋内の会話。翔は、気だるそうに答えた。さも、興味なさそうに。
「面倒だな。俺の言ったこと、そんなに気に触ったか? 覚えてないけどな」
 事実、翔は自分の台詞をよく覚えていない。元々が、ふと浮かんだ言葉の束。
「逃げる気?」
「別に。あん時も今も、これ以上続けても楽しくないと思ってるだけだ」
 「あん時」。翔と皐月は昔、決闘後倒れた。しかし、翔は狸寝入りだった。
「やめとけよ。傷口を広げるだけだ……」
「傷口!? 罵倒して! 見下して! それが貴方の商売手口?」
 新堂翔は、状態を少し起こした。時計をチラリと見て、彼は言った。
「なぁ、片割れ。お前はさ。何と戦ってんだ?」
 翔自身、発現に確固たる根拠があるわけでもない。だが、彼は言った。
「強がり過ぎは、見てて疲れるぜ。お前のルールにはつきあいきれない」
「強がってる? 誰が!」
「少なくとも、お前が見てる相手は俺じゃないな。そんなデュエルは、詰まらん」
 新堂翔は立ち上がった。40枚のカードが入った、デッキケースをもって。
「俺は、西川皐月主演の、舞台演劇のエキストラをやれる程暇じゃない」

「おーい! ショウ! 開けろよ!」
 ふいにノックが鳴り響く。客人だ。
「来た来た。依頼人だ。な、俺は忙しいんだ」
「依頼人……って、なんで決闘盤をつけるのよ!」
「なんでもクソも、そういう客だからだに決まってるだろ」
 翔は階段を下りて扉を開けた。皐月が、その後に続く。
「よぅタツヤ。相変わらず、時間には正確だな」
「促成栽培は時間が命。職業病ってやつだ」
(タツヤ……この人、どっかで聞いた…)

「さぁて、今日もやるか。新しく調整したコイツで、昨日のリベンジだ」
「返り討ちにしてやるよ。俺も伊達に、九州三強とは呼ばれていないさ」
「九州三強!? それって、去年の日本選手権ベスト4、『鬼の洗濯板』新上達也!?」

「昔の友人だ。なんだよ。そんな意外な顔をするなよな。俺にだって人脈の1つや2つはある。大会かなんかの関係で上京したはいいが、初めての1人旅。どうしていいかわかんなくなったんだとよ。で、俺を頼ってきたわけだ。金を取るような話でもないからな。こうして、暇つぶしの相手をしてもらってる」
「何時の間にカードを握ったかは知らんが、いいセンスしてるよな。でもって相も変わらず憎たらしい」
「そろそろ慣れてきた、10勝10敗だったな。今日がラスト。折角だ。勝ち越しを目指すぜ」
「冗談に聞こえないのが怖いな。毎日強くなる。だが、こっちにもプライドがあるんだぜ」
(何よ。何でアイツとはやって私とはやらないのよ。これ見よがしに……新手の嫌がらせ?)
「俺のターン、ドロー……800ライフ支払って洗脳! そして! 《豪腕の合成獣 ガーゼット》召喚!」
「やるな! だが負けん! 大会用に誂えた【ターボ促成栽培】のプロトタイプ、お前で試してやる!」

 新堂翔VS新上達也。激しい決闘が続く。西川皐月は、全く話についていけなかった。
「って、ちょっと!放置しないでよ!私の話はまだ終わって……」
 翔は、もう皐月に興味を抱いていなかった。彼は、事務的な口調で言った。
「どうしてもっていうんなら、依頼料だ。『新堂翔と戦いたいんですがどうすればよろしいでしょうか』って一文を添えてな。大体……そうだな。15万くらい持ってくれば話を聞いてやる」
「こ……のぉ……」
「ああそうそう。1個だけサービスだ。俺の意見を聞かせてやる」
「なによ! 今更……」
「そういう生き方は、いつか気張って馬鹿を見るぜ。勝って負けてでいいんだよ」
「余計なお世話よ! 勝手にほざいて! 今に潰れろ」 「はいはい一名様お帰りっと」

 ――――

(私とは、全然やりたがらなかった癖に。立ち上がろうとすらしなかった癖に。なんでこんなところにノコノコ出てきて楽しそうにやってんのよ。なんであの女と戦いたがってるのよ。冗談! 大体、私の方が優勢じゃない。ライフ、勝ってるじゃない。場には入れ替わり立ち代りゴルドとシルバが踊ってる。手札には緊急退避用の《クリボー》だってある。私の方が勝ってる。なのに、それなのに、なんで……)

西川皐月:7000LP
エリザベート:800LP


《虹の古代都市−レインボー・ルイン》
フィールド魔法
自分の魔法&罠カードゾーンに存在する 「宝玉獣」と名のついたカードの数により以下の効果を得る。
●1枚以上:このカードはカードの効果によっては破壊されない。
●2枚以上:1ターンに1度だけプレイヤーが受ける 戦闘ダメージを半分にする事ができる。
●3枚以上:自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついた モンスター1体を墓地へ送る事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
●4枚以上:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に 自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
●5枚:1ターンに1度だけ自分のメインフェイズ時に 魔法&罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名のついた カード1枚を特殊召喚する事ができる。

《宝玉の恵み》
通常魔法
自分の墓地に存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターを2体まで選択し、 永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く。

《召喚僧サモンプリースト》
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1600 このカードは生け贄に捧げる事ができない。 このカードは召喚・反転召喚が成功した場合守備表示になる。 自分の手札から魔法カード1枚を捨てる事で、 デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。 この効果によって特殊召喚されたモンスターは、そのターン攻撃する事ができない。 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに発動する事ができる。

《非常食》
速攻魔法 このカードを除く自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地へ送る。 墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

「止まったな……」
 翔は、ぼそっとそう呟いた。
「ああ、止まった」
 不本意ながら、相槌を打つ勇一。

(はぁ……はぁ……なんで……なんで……残りたったの800が削れないのよ……)
 唇を噛み締めていた。強い筈。負けない筈。だが、宝玉の壁は厚い。
「このっ! 《暗黒界に続く結界通路》を発動! 《暗黒界の武神 ゴルド》を……」
「そこっ! リバース・トラップ《激流葬》を発動! 全てのモンスターを破壊!」
「《激流葬》は流した後に特殊召喚を喰らうとキツイ。限界まで引きつけたな」
「いや、引きつけられたと言った方が正しい。速攻と拙攻は違うんだがな……」
 勇一と翔が冷静に状況を検分しあう。彼らは既に、検討戦の段階に入っていた。
(流れの中、今までは上手く勝敗を調整してきたんだろうが、受け止められた、か)

「片割れのデッキは高速仕様の【暗黒界】。電撃戦を得意とする一方……」
(後一歩、後一歩詰めれれば、それでもう勝てるのに……こんなんじゃ……)
「一度流れが止まれば、それで終わりだ。足を止め、正面から殴り合う力はない」
(あと少しなのに……このターンを、無傷で凌がれたら……)
「9割9分9厘、決まったな。こうなったら、もうどうしようもない」
(負けたくない。翔は勝ったのよ。姉さんも見てる。ここで負けるわけには……)

「私のターン、ドロー……《虹の古代都市(エンシェント・シティ)−レインボー・ルイン》の効果発動」
 エリーは遂に動いた。防空壕の中で耐え凌いだ、彼女の時間が訪れる。
「4つ目の効果により1枚ドロー……そして、5つ目の効果も発動。魔法・罠ゾーンから《宝玉獣(クリスタル・ビースト) ルビー・カーバンクル》を特殊召喚。特殊効果発動。」
 エリーは、魔法・罠ゾーンに溜め込まれた、《宝玉獣 サファイア・ペガサス》《宝玉獣 トパーズ・タイガー》《宝玉獣 アンバー・マンモス》《宝玉獣 アメジスト・キャット》の4体特殊召喚。総攻撃に出る構え。
(合計攻撃力7000。これを全部喰らったら、一環の終わり!)
 バトルフェイズ。虎が、魔象が、猫が、ポケットモンスターが矢継ぎ早に攻撃を見舞っていく。
「これでラスト、《宝玉獣(クリスタル・ビースト) サファイア・ペガサス》でダイレクトアタック!」
「くっ、だったら! 手札から《クリボー》を捨て、戦闘ダメージを0にする」

西川皐月:1800LP
エリザベート:800LP


(大丈夫。これでまだ首の皮一枚繋がった。まだ、やれる……)
 賢明に耐える皐月。だが、それを見守る視線はどれも冷ややかだった。
「救えないな……。僅かばかりの時間を稼いだところで、何もできやしないさ」
 新堂翔は、どこか哀れなものを見るような目で、西川皐月を見つめていた。
「《クリボー》を入れる暇があったらその分殴れ。俺なら、そうする」
「決め付けるなよ。お前の時は、《クリボー》で引き分けに持ち込めたって聞くぜ」
 勇一は、一応、一応庇う姿勢を見せた。翔は、履き捨てるように言葉を捨てた。
「だからどうしようもないのさ。お前らは。負けたくないだけで……そんな奴がっ!」
 翔とて《クリボー》がささった『昔』を見ている。しかし、彼は『今』を不思議に思わない。
「言いたいことはわからないでもない……」勇一は、渋々とながらそう言った。
「皐月は、闘志の出しどころを履き違えたままここまで来てしまった、のかもな」

「ドロー……」エリーはカードを1枚伏せでターンエンド。皐月のターンが始まる。
(来た。逆転の一打。向こうの戦線は延びきっている。ここで、叩ければ!)
(来る。向こうは最後の仕掛けに打って出る。だけど、それは絶対に通さない)
「手札から《暗黒界に続く結界通路》を発動! 《暗黒界の魔神レイン》を特殊召喚!」
 起死回生の一打だった。暗黒界最強の、虹色の魔神が闇の中より現れる。
「はぁ……はぁ……ブリッツ・デッキの力を甘く見たわね。一手あれば十分よ!」
 西川皐月の執念。普段落ち着き払った彼女だけに、その執念は仲間達の胸を打つ。
「見た?  ショウ。これが粘りの報酬! 攻撃表示のポケモンを叩けば、サツキの勝利!」
 ヒジリが叫ぶが、翔は何も言わなかった。一方、勇一は勇一でため息をついていた。
「バトルフェイズ! 《暗黒界の魔神 レイン》で……《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》に攻撃!」
(勝った。私は……勝った……ショウ……生憎……私の勝ち……えっ!?)
 振り向き、翔の反応を伺う皐月。だが彼の、皐月への眼線は冷え切っていた。
「バーカ」

「既に“勝機”は流れているさ。貫けない者に勝利はない」 
 意識の散漫な決闘。ディムズディルは、そう評していた。
「相手が戦いを舐めるなら、敗北を叩きつけろ。エリー」
「リバース・トラップ、《虹の行方》を発動!」
 龍によって巻き起こされた、虹の障壁。
「レインの攻撃を無効に抑え、デッキから……」
「決まったな。さて、これからどうするか、だな」
「どういうことだディムズディル。何かあったのか?」
 千鳥がディムズディルに問う。彼は一言こう答えた。

 ヘリコプターが飛んでいる。

「そんな……なんでよ……」
 虹の名を冠する魔神も、虹の化身の防御を破ることは叶わなかった。
「私の……ターン……ドロー。《愚かな埋葬》を発動。《宝玉獣 コバルト・イーグル》を墓地に」
 楽天コバルトイーグルが墓地に送られ、7体の宝玉獣が揃う。手には《虹の行方》で引き入れた1枚。機は熟した。エリーの決闘は、皐月という対戦相手に向かって収束する。持てる、己の力を出しつくした上で、一本の道に収束していく。
「虹……嫌な……虹……」
 雨もなく、虹が空にかかる。幻想的で美しい光景。翔は、その虹を見つめていた。
「パラレルレア版。いや、コナミが限定で配ったパラレルバスターローリングウルトラバスター版か。綺麗なものだな。俺のダークとは違って神々しいもんだ。そしてその下にいる奴が、俺の標的だ」
「バトルフェイズ! 《暗黒界の魔神 レイン》に攻撃する……Au revoir!」



●西川皐月VSエリザベート○

(これで、貴方が見せた分のお返しにはなりますね。最終戦。真っ向勝負……)
 眼前の相手、西川皐月に勝利したエリザベートは、新堂翔を見据えていた。
(ああ、そうだな。俺もお前も全力で闘う。それで十分だ。それでな)
 条件は五分と五分。2人の決闘者の間には、強烈な磁場が発生していた。

「負けた……私が……負けちゃった? こうもあっさり……」
 負けて帰ってきた皐月。翔は、やれやれといった表情。
「俺がなんでアイツと闘いたいか、教えてやろうか。片割れ」
「聞きたい、わね」皐月は、小声で、やや空ろな眼でそう呟いた。
「あいつは、いや、あいつらは対戦相手を蔑ろにはしない、それだけだ」





【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
《パーツ転用》の効果が変動した攻撃力に適用されるのかは調整中。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。



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