その決闘はどことなく胡散臭かった――

「さあ信也。お前の【グッドスタッフ】が何処までの物か見定めてやるよ。『テスト』だ国内招待選手の実力、存分に見せてもらって構わないぜ」
 なんか面白いことになったな。まさか外国人と野良デュエル出切るとは。僕のブロックにも外国人が一人居る事を考えればこの決闘は場慣れの意味でもいい経験になる。いや、違うな。単純にこの機会を楽しみたい。それだけだな。それで今は十分だ。さあ『決闘』だ。いや、あるいは『試験』なのか。
「僕はモンスターと魔法・罠カードを一枚づつセット。ターンエンドです」
 とりあえずは様子見。さー相手はどうくるのかな。
「定石だな。だが、俺のターン、ドロー。《手札抹殺》!」
 いきなり《手札抹殺》!? いや待てよ。今あの人の墓地に送られたカードから意図を読むんだ。《大嵐》《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・キール》。そして最後にドラゴン族である《仮面竜》と、意味不明なアレ。だとしたら――
「俺は《サイバー・ダーク・エッジ》を通常召喚し……」

 来た! やっぱりあの人のデッキはアレか。つーかアレしかないよなどう見ても。
「《仮面竜》を《サイバー・ダーク・エッジ》に装着する。かっちょいいアタッカーの完成だ」
 攻撃力2200。更に直接攻撃能力か。厄介だな。でも……
「ダルジュロスさん」
「ダルさんでいいよ。いっそのこと呼び捨てでもいい。俺は辛気臭いのが嫌いでな」
「じゃあダルさん。そのデッキって……さっき使ってたアレですよね」
「ハンデ付きは気に入らないってか? 見かけに依らず中々気位が高いじゃないか。だがそれについては安心しな。お前が一度トイレに行っている間現環境用に直しておいた。だから遠慮なくかかってきな。もっとも、今は俺のターンだがな。《サイバー・ダーク・エッジ》のパワーを1/2に減らし、直接攻撃だ」

元村信也:6900LP
ダルジュロス:8000LP

「俺はカードを2枚セットしてターンエンドだ。」
 ふぅ。【サイバー・ダーク】を相手にするのは初めてだな。どうなることやら。けどまずは!
「僕のターン、ドロー。まずはモンスターをリバース」
「なんだ《異次元の女戦士》じゃないか。俺もついてるな」
 『ついてるな』。直接攻撃可能な《サイバー・ダーク・エッジ》を引いたことを指しているのか、或いは――
「オイ。それでどうするんだ?」
 どうするだって? ここはたとえ罠にかかろうと攻撃の一手。いや、待てよ。それだけじゃないよな。向こうの手札は2枚。伏せも2枚。墓地は《仮面竜》を除いて4枚。確かその陣容は……なーるほどな。そういうわけか。じゃあ、行くぞ。それも一興ってやつだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず――
「《異次元の女戦士》で《サイバー・ダーク・エッジ》を攻撃」
「悪いな。そいつは通さねぇよ。《炸裂装甲》発動だ!」
「構いませんよ。では、此方のモンスターだけが消えたので《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚します。更に僕は場に1枚カードを伏せてターンエンド」
「成る程な。こちらの狙いに敢えて乗り、《サイバー・ドラゴン》の召喚条件を満たしたか。だが……」
 わかっている。《サイバー・ドラゴン》の攻撃力は2100。あちらのゲテモノには僅かに及ばない。だが向こうもその辺は察してるはずだ。それ自体が一種の罠だという事を――
「さあて。今度は俺が罠に飛び込む番だな。俺のターン、ドロー。さぁーて、行くぜ! 《サイバー・ダーク・エッジ》で《サイバー・ドラゴン》を攻撃だ!」
 直接攻撃能力を敢えて使用しないまま《サイバー・ドラゴン》に対する単体攻撃。アレに相性のいい某有力カードの存在を考慮すれば、模範解答が見えてくる。やはり向こうは『罠』にかかる気なんか更々ないってわけだ。なら、いいさ。やるだけやってやる。
「《突進》!」
「来たか。ならリバースカードオープン《魔のデッキ破壊ウイルス》」

 まったく、《異次元の女戦士》を潰した次のターンまで温存とは随分と焦らしたプレイングだ。あーあ。《マシュマロン》が動く前からスクラップか。 まっ、【グッドスタッフ】は全体としての攻撃力が其処まで高くないことを考えれば、これくらいは当然か。それに手札が《風帝ライザー》と《リビングデッドの呼び声》だってことがばれてしまった。先行き不安。こりゃ『落第』かもな。
「俺はこのままターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー。引いたのは《破壊輪》です。それでは《サイバー・ドラゴン》で攻撃」

元村信也:6900LP
ダルジュロス=エルメストラ:5900LP


「カードを1枚セットしてターンエンド」
 さあ、あとは野となれ山となれだ。あの人が僕の思ったとおりの人間なら、それはそれで面白くなるさ。
「俺のターン、さあ行くぜ。《サイクロン》だ。その『端』に置かれたやつを破壊する。で、何が壊れたんだ? ケチらずに見せてみろよ。笑ってやる」
「《激流葬》です。中々お目が高いですね」
「そいつを1ターン目から伏せたまま放置してたってわけか。もういいぜ。しっかり堪能させてもらった」
 このタイミングで《サイクロン》をあの位置に向けて発射。そしてあの墓地構成。そしてあの人の使ってるデッキ。これらを総合すれば可能性は一つしかない。それも楽しい可能性だ。来る――
「さあて、お待ちかねの時間だ。さあいくぜ! 《オーバーロード・フュージョン》! 予め墓地に送った《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・エッジ》《サイバー・ダーク・キール》を除外し《 鎧黒竜 −サイバー・ダーク・ドラゴン》を融合召喚だ。そして! 『たまたま』墓地にあった《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を装着! 攻撃力5100……」
「《破壊輪》です」

元村信也:1900LP
ダルジュロス:800LP


「ほぉ。《破壊輪》か。じゃあおれは《地砕き》で《サイバー・ドラゴン》を破壊。カードを一枚伏せてターンエンドだ。精々『頑張って』カードを引きな」
 やっぱり。この人は全部わかった上で戦術を組み立てている。《魔のデッキ破壊ウィルス》の影響下では下級のローパワーカードを引いても即死亡。無論上級は 生贄がない以上使えない。つまり引いて即使えるモンスター・カードは相当程度限られているってわけだ。この人はここまで読んだ上で行動している。やはりこ の人は強い。いや、この場では大胆といった方がいいのかもしれない。あのデッキでここまで仕掛けてくる、か。
「俺のターン、ドロー。僕が引いたのは《D.D.アサイラント》です。」
「おっと、そりゃ参ったな」
 『参ったな』。ホントよくやるよ。僕が『表』か『裏』かもまだ知らず。それがテストってわけか?
「攻撃……」
 伏せカードが1枚。ホント、デュエルって楽しいな。それも、こういう人と決闘できるなら尚更だ。
「します」
「ねぇよ」

【試合結果】
○元村信也―ダルジュロス=エルメストラ●


第4話:『異端』と『毒薬』

「さて、ここからが本番だ。感想戦と行こうじゃないか」
 まずはダルジュロスのターン。『質問』が雨霰と降り注ぐ。
「何故《破壊輪》を伏せた? 何故あのタイミングで《破壊輪》を使うことに決めた? お前には躊躇の跡が全く見られなかった。それに何故《リビングデッドの呼び声》を同時に伏せなかったんだ?」
「『何故』が多いですね。とりあえず最後の質問から行きましょう。2枚同時に伏せなかったのは……流石に仕掛けてこないでしょ。それじゃ。或いはその状況で 仕掛けられたとしたらそれはそれでつらい。その場合、大抵は制限カードである《大嵐》が対戦相手の手札の中にあるのでしょうから。もっともその《大嵐》は 第1ターンに発動された《手札抹殺》の所為で墓地にあったからその点は心配してませんでした」
 信也がダルジュロスの質問に対し淀みなく答える。次は信也のターンだ。
「1つ答えたので今度は僕からの質問、いいですか?」
「いいぜ。なんらりと聞きな」
「あのタイミングで《サイクロン》を『端』に使ったのは何故ですか? 《魔のデッキ破壊ウイルス》のピーピング効果によって、《破壊輪》と《リビングデッドの呼び声》の内どちらかが2段目に伏せられていると知りながら……」
「怪しかったんでな。お前が何を企んでいるのか。やはり1枚伏せが怪しい。あの場で両方伏せない理由など普通は三つしかない。@全体除去回避A挑発B片方 で十分だから。この内@については代表格である《大嵐》が落ちているので半ば没。俺はお前が言ったようなAの可能性を踏まえた上でBの可能性を考えた。挑 発する以上は十分な勝算を用意するのが筋だからな。事実あそこにあったのは日本語で言う所の『虎視眈々』が似つかわしい《激流葬》だった。これでいい か?」
「やはりそこまで読んでましたか」
(やはり――?)
 だがダルジュロスは其処には触れず、そのまま話を続ける。
「お前は俺のデッキをBブロックで一度見ている。なら《激流葬》を《サイバー・ダーク・エッジ》のような小物に使うのは勿体無いと考えても何ら不思議はない。『三代誅殺』が目に焼きついてる筈だからな」
「焼きついてました」
 ダルジュロスのターンが続く。
「聞かせろ。伏せの数を2枚に抑えたのはもうそれでいい。だが、それこそ片方で済む《激流葬》と《破壊輪》を同時に置いたのは何故だ? 何故《リビングデッ ド》ではなく《破壊輪》を採用した? 《激流葬》を葬ったあの瞬間、お前はてっきり『《激流葬》で流す』→『《リビングデッド》で強襲』の流れを思い描いて いるものと俺は考えていた。だが結果はあれだ。あの場で《破壊輪》を伏せた理由はなんだ?」
 ダルジュロスが『問い』と共にターンを終了し、信也のターンランプが点灯する。
「大した理由はありません。《破壊輪》を使ったらどう戦況が動くのかが知りたくてつい、です。あの偏った墓地状況から《
鎧黒竜 − サイバー・ダーク・ドラゴン》が攻撃力5000になって奇襲を仕掛けるんじゃないかと僕はまず考えました。だとすれば《破壊輪》は『楽しい』じゃないです か。もしそうなったらどうなるのかなって。それが最初の『何故』の答えです。もっと言えば思考の出発点。あのターン、どうしても《破壊輪》を使っておきた かった。それだけですよ」
 どうも信也には正直なようで正直でない部分がある。そう考えたダルジュロスは更に別の角度から問いを続ける。彼の眼はどこか楽しそうだった。信也も同様である。
「1枚刺しの《サイクロン》についてはどうだ? 《大嵐》がない以上《サイクロン》で潰される可能性がある。もう一枚伏せておいた方が、お前さんの大好きな《破壊輪》除去の可能性を減らせるぜ」
 相手はやはり一筋縄では行かない。信也の中にあらゆる答えを求めてくる。信也のターン。
「《サイクロン》についてはあまり心配してませんでした」
「何故だ?」
「貴方の強さを信頼していたからです。《大嵐》が落ちたのを知りながら1枚しかカードを伏せない僕のプレイング・そして第1ターンから伏せていた怪しげな カード。もし《サイクロン》を使うなら『端』を潰してくれると信じていました。ほら、さっきダルさんが根拠を述べたじゃないですか。僕もああなるんじゃな いかなと」
「不安定過ぎる信頼だな。《大嵐》関連について俺がお前を侮る可能性もある。それに、俺のプレイングは決して定石じゃない。定石にないものを『予測』する理屈としてはちと弱い。そう思わなかったのか?」
 不安定な理屈。確かにそうかもしれない。だが信也は何処か余裕だった。
「ホント厳しいな。そうですね。じゃあこんなのはどうです?」
(コイツ。引き出しを開け放つ前に一度俺の反応を試しやがった。喰えない餓鬼だ)
「最初ダルさんは『テスト』って言ってましたよね。ダルさんは僕に興味を持って、だから試そうと考えていた。詰まるところ『興味』がこの決闘の『動機』で す。だとすれば…ダルさんはあの『端』のカードに《サイクロン》を撃たずには居られなかった。どうしてもそうしたかったのです。その『興味』という『動 機』故にダルさんは《サイクロン》を『端』のカードに撃った……僕はそう考えています」
「何故だ。何故そこまで断言できる。何故俺の『興味』とあの『伏せ除去』が連結するんだ?」
 ダルジュロスは何時の間にかのめりこんでいた。彼は、信也との語らいを楽しんでいた。

「だって、あの場でダルさんがその正体を知らないカードはアレ1枚だったのですから――」
(ほぉ。俺の心理状況まで把握した上でであの状況に持って行こうとしていたのか。俺が《サイクロン》を手札に抱えていたかどうかすらも定かではないあの状況からここまで)
 内心驚愕するダルジュロスは、それでも表面上は驚愕をおくびにも出さず話を続ける。ラスト・ターンだ。
「最後のターン、お前は攻撃の瞬間軽く躊躇したな」
 『やはりそうきたか』そう思いながら信也は軽く考え―そして回答を提出する。
「《魔のデッキ破壊ウィルス》の影響下では此方が下級のローパワーカードを引いても即死亡。無論上級は生贄がない以上使えない。【スタンダード】は意外に『そういう』アタッカーが少ない。ダルさんは其処までを前提とした上でデュエルプランを立てていました」
「中々買被ってるな。まあ、いいさ。だがお前は引いた。それも戦闘敗北時における道連れ能力を持った優秀な潰し屋《D.D.アサイラント》(攻1700守1600)をな」
「確かに僕は引きました。でも…あれだけのことを考える人が、相手の手札を逐一見ておきながら何の対策もなくターンを終えるのかなって。もしかしたらそこ までが一連の『罠』なのかもしれない。本当に運否天賦で決着がつく?疑問が頭をよぎりました。だから少し躊躇った」
「ほぉ。じゃあなんですぐさま攻撃した。《リビングデッドの呼び声》を伏せ、次のターン2体のモンスターを場に召喚。更にその内の内の1体を生贄に《風帝ライザー》。此方の伏せを潰した上で総攻撃を仕掛けよう、とは思わなかったのか?」
「却下しました」
「何故だ?」
「そこまでが『試験』だったからです。なら攻撃しないと格好悪いでしょ」
(コイツ。本当にこれが、開幕戦で醜態を演じたガキと同一人物なのか?)

 一通りの質疑応答が済み、感想戦が終わる。その瞬間、二人の決闘者がこの決闘を同時に総括した。

「疑問の余地の残るデュエルだったな。面白半分で《破壊輪》を使ったことといい……」
「疑問点の多いデュエルでした。《大嵐》を伏せないまま《手札抹殺》を用いた事といい……」

 2人の決闘者は軽く微笑み、軽く沈黙する。その数秒後、再びダルジュロスが口を開いた。
「さあ、あと十戦。ここからが本番だ。お互いにな」
「そうですね。とことんやりましょう」

(面白い奴だ。《破壊輪》に拘り俺をもテストに巻き込んだことといい、俺の心理まで論拠に組み込んだ事といい、日本人にもこの手のタイプが居るとはな。そ れもまだ若い。ひょっとすると化けるかもしれないな。だが、その前にもう1個だけ遊ばせて貰う。俺も『物好き』なんでな)

「おっと、忘れるところだった。その前に一つ見せておきたいものがある」
 そういってダルジュロスは決闘盤から1枚のカードを外す。そのカードは、ラストターンに伏せておきながら、結局発動されなかった、所謂『ブラフ』の為のカード。信也は怪訝な顔でそのカードを見つめる。
「何ですか?」
「俺が最後にブラフとして伏せたこの魔法・罠カード。実は魔法・罠ですらないんだ」
 ダルジュロスがカードを裏返したその瞬間、信也の眼に入った1枚のダーク・ブラウン。それは正真正銘モンスターカード…それも《サイバー・ダーク・ホー ン》であった。信也はダルジュロスの方を急いで振り返る。そこには、先程までとは異なり殺気すら備えた決闘師の顔があった。

「さて、そろそろ俺の正体を異名込みで教えてやる。俺は『
決闘十字軍 ( デュエルクルセイダーズ ) 』に所属する決闘権化様が一人。ダルジュロス=エルメストラ。昔は『毒薬』なんて言われてたよ」
 今度はふっと笑うダルジュロス。世迷いごとを言うのが楽しくてたまらないという顔。
「『毒薬』の意味は……もうわかるよな。中々面白いだろ?」


ええ。実に興味深いお話です。


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
一見すると頭を使っているかのように見えるますが騙されてはいけません。この当時の作者は気軽に出して気軽に殴れる子として《サイバー・ドラゴン》と《D.D.アサイラント》しか認知していなかったと言われています。そして言うまでも無く、キールとエッジの区別もろくすっぽついていません。尚、この「サイドラ−アサイラント」ラインは、後々の執筆になると「バルバロス―マリシャスエッジ」ラインへと進化を遂げることになります。青春ですね。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です

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