「召喚、《宝玉獣(クリスタル・ビースト) サファイア・ペガサス》。《宝玉獣(クリスタル・ビースト) ルビー・カーバンクル》を魔法・罠ゾーンに……カードを1枚、魔法・罠ゾーンにセットしてターンエンド」
「今度は私の番、ドロー……カードを1枚伏せて《手札抹殺》を発動!」
(いきなり《手札抹殺》?この流れは……もしかして……)
「私はこの4枚を墓地に捨てる……この瞬間効果発動!」
(2体の……それもこれは……上級モンスターの特殊召喚!)

暗黒界の武神 Golld

暗黒界の軍神 Sillva

「さぁ! ガンガンいくわよ! お望みどおりね!」
(来る!ブラフに怯まず、ドンドン攻めてくる!)
「《暗黒界の武神 ゴルド》で《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を撃破!」
「くっ、《宝玉獣(クリスタル・ビースト) サファイア・ペガサス》の効果発動!」
「まだまだ! 勝負はこれから! 《暗黒界の軍神 シルバ》でダイレクトアタック!」

西川皐月:8000LP
エリザベート:5200LP


 既に勝負は始まっていた。第2戦。シングルマッチ。皐月の【暗黒界】とエリーの【宝玉獣】。真っ向勝負。早い展開。まるで、1ヶ月くらい時が止まっていたのを取り戻すかのように、早い展開。

「さて、と。あの娘のお手並み拝見といこうか。遥との試合は終盤しか見てないからな」
「それで喧嘩売ったのか? 相変わらずの見切りの早さだな、ショウ」
 翔と遥。勝者である。彼らは、高みの見物としゃれ込んでいた。所謂ノープレッシャー。
「いい身分だな。まぁ、泥試合でも勝ちは勝ち。偉そうにする資格は、一応認めてやる」
「新手のギャグですか? 森部長。貴方が一番偉そうに見えるのですが」
「悪いな。普通に偉いんだ。一般部員A君とは格とかその辺が普通に違う」
 因縁ある2人の馬鹿馬鹿しい掛け合い。実に、馬鹿馬鹿しい。新手のギャグ。
「まぁ、確かに泥試合だったが、その方が楽しいだろ。綺麗に勝つだけが決闘じゃない」
「自力じゃ勝ちきれずにアイコンタクトか。確かに綺麗じゃないな。そう汚くもないが」
「俺の試合なんてそんなもんですよ、部長。それより試合の方はどうですか?」
 要所要所で無駄に丁寧。どこのホストだ新堂翔。基本的に頭が悪い。
「サツキのやつ、偉く気合が入ってるな。そう因縁があるわけでもないんだが」
「そうだな。エリーに対して因縁はない。エリーにはな」
「どういう意味だ?」
「さっきちょっと話をしたんだよ」
「何を言われて、何を言ったんだ?」
「『流石私と引き分けただけのことはあるわね』と言われて、『冗談だろ?』と返す」
「その心は?」
「ノーコメント。だが、このマッチアップ、これだけはいえるな」
「サツキVSエリー。この戦いに何を見てるんだ? おまえは」
「『モテる男は辛い』。誰か、俺を救ってくれ」
「誰でもいい。こいつの頭に灯油をぶっかけ火をつけろ。俺が許す」

 同時刻。1戦目の敗者の外野は、わりと余裕だった。基本、個人主義の連中。
「どうみるや? ダルジュロスよ。この試合の行方、そう奇手は出せんと思うが」
「んなこと俺にわかるわけないだろ? そういうことはディムズディルに聞けよ」
「寝ている男を起こすことはあるまい。むしろ、起こせんと言うべきかの。フォッフォ」

 軽口を叩き合うダルとヴァヴェリの後方では、千鳥がうつむいたまま動かなかった。ベルクはといえば、横でふて寝の体勢。対照的といえば対照的。その横ではディムズディルがぐっすりと寝ている。千鳥は、おもむろに口を開き、静かに喋りだした。彼女の口調は、いつになく寂しいものだった。
「すまん……ベルク……負けたのは我の所為だ。我が……」
「知るかボケ。無駄に喋るぐらいならさっさと死ね。目障りだ。死ね」
「だが……だが……」
「局地戦の勝敗なんて一々眼中にいれてんじゃねぇ。最後に勝ちゃ何でもいいんだよ」
「貴様は強い。だからそう言える。心に退路をつくる余裕は、我には許されていないのだ」
 彼女の眼の中には、兄、瀬戸川刃が常にいる。彼女は、刹那の間際に後れを取った、先の決闘に致命的なものを感じていた。それは、極めて簡単に言うならば、実力で負けた、ということ。
「瀬戸川刃、か。知ってるぜ。化け物なんだろ? だけどよ、そいつだって負けるんだぜ」
「兄が……負ける?」
「俺の横で寝てる馬鹿。俺はこのクソを相手にしてろくに勝った覚えがねぇが、このクソだってたまには負ける。ここ一番にはクソ強ぇ。だが常勝無敗じゃねぇんだ。俺らの世界に、そんなやつは、いねぇ」
「らしくもないものいいは嬉しいが、その、ここ一番で我は負けたのだ。ベルク」
 次の瞬間、千鳥はケリを喰らっていた。ぼかっと。ドメスティック・バイオレンス。
「五月蝿いっつってんだろカスが。てめぇのここ一番はそのクソブラザーだろうが。カスが」
 ベルクは寝転がった。もう、つきあってられんとばかりに。だが、千鳥にはそれで十分だった。
「そう……かもな。そうだ。そうだった」
 千鳥の表情が若干和らぐ。それをなしたのは、伝えられた言葉のカスか、或いは他のカスなのか。
「道半ばで弱音を吐く、そんなところをそこの灰色に聞かれては、後で何を言われるか……ん?」
「おいカス、どうした? どうせカスだろうがカスならカスでさっさとカスれ」
「そのディムズディルなんだが……息を……していないように見える……ぞ」
「あぁん?」
 ディムズディルは、死んだように眠っていた。デュエルフィールド上では2人の女がしのぎを削っている一方、この世の何とも干渉しあわないほどの静けさで、彼は眠っていた。まるで、死んだように……。
「おいおい……冗談だろ?」

(この戦い、負けて退きたくはない。あの娘に怨みはないけれど、私は負けられない)
 外野が少しづつ騒がしくなっていくが、決闘はそんなことお構い無しに進行していく。シングルマッチ、決闘の主役は2人いる。1人は西川皐月。彼女は、どこか生き急いでいたのかもしれない。
(ショウは勝った。私は、私も勝つ。あそこで寝ている、アレを叩き起こす為にも)
 彼女は、翔の方をチラリとみた。次に、死んだように眠っているディムズディルをチラリ。そして、エリーの方を振り返った。意識の分散。多少の気負い。彼女の頭には、様々な思いが巡り巡って、決闘を邪魔せぬ程度に消えていく。無論、消したのは彼女の集中力のなせる業。だが、消えないものもある。皐月の脳裏に、とある一幕がよぎり、皐月の心に居を留める。それは、大会が始まるちょいと前、腐れ縁によってひきつけられた、それなりに馬鹿馬鹿しい御伽話という名の現実だった。


第39話:へブンズアッパー器物損壊事件



「ああ〜暇だ。暇よね。いや、受験とか考えたら暇じゃないんだけど。暇、暇、暇」
 暇人の名は西川皐月。見た目どおり暇。彼女は、鼻歌を歌いながら歩いていた。
「貴方のハートにキャメルクラッチ♪ 臓物出すぞ♪ 味噌ラーメン♪」
 年相応に流行歌を歌う彼女は普通の女子高生のように見えた。と、その時。
「あれ? あれは……」

「いやぁ助かりました。これで会社をこかさずに済みます。本当にありがとうございました」
 下手に出るのは事業者風の男。年は、40前後といったところだろか。
「いえいえ。こちらも仕事ですから。では、報酬については取りハンという約束でしたよね」
 丁寧な受け答えをするのは、ホストまがいの風貌をした、胡散臭い男だった。
「ええ。それでは、この200万は貴方に贈呈します。本当にありがとうございました……」
 1人の男が手形を持って去っていく。もう1人の男は、それを眺めてこう言った。
「ありがたいのはこっちの方だ。これで、暫くは米の飯が食える……はず……ん?」
 そこには、男と女が1人づつ立っていた。男の名は新堂翔。女の名は西川皐月。

「駄目な片割れ……」
「三流の万屋……」

 ―10分経過―

「ご注文をどうぞ」
「コーヒー2つ。あ、おかまいなく」
 ここは近くの喫茶店。皐月は話を切り出した。
「あんた……なにやってたの?」
 暇だったのだろう。皐月は、地味に興味を持っていた。翔は、軽い調子でそれに答える。
「善良な市民に頼まれて手形のサルベージをやってたんだよ。なぁに、ちゃんと依頼者の為に動いてたさ。いい具合に金になった。まっ、金は天下の回り物。俺達にのところには金がくるようにできているんだよ。リッチ過ぎて自分がたまに怖くなる。ふっ……」
 もっとも、必要経費・借金等を控除すると、ほとんど残らならなかったのだが、それはまた別のお話。
「へぇ〜相変わらず胡散臭い仕事やってるわけね。あんたらは」
 偽装監禁のセッティングから手形のサルベージまで、胡散臭い仕事はお手の物。
「ああ、そうだ。胡散臭いといえばもう1つ、ショボイ依頼を受けていたんだったな」
 何かを思い出したかのように、翔が語る。彼は、多少ニヤケながら話を切り出した。
「え? ショボイ依頼? どんなん? 生コンクリートに人つめるとか?」

「いや、依頼ってほどでもないか。友人の弟、これが小学生なんだが、なけなしのレアカードをサメに食われたらしい。昔の借りを返すと思って取り戻して来いってさ。借りた覚えはあまりないんだがな」
「あらら。一気にレベルダウンしたわね。確かに、依頼って呼ぶには躊躇しちゃうわ」
 確かにショボイ。一気にランクが落ちた。というか、それは多分仕事とは言わない。
「まっ、たまには慈善事業の1つでもやったら? 天国にいけるかもよ。それじゃぁ……」
 適当に話して去ろうとする西川皐月。だが、その男、新堂翔は只者ではなかった。

「と、いうわけで後は頼むぞ。『西川皐月』」
「はっ? あんた何言ってるの?」
「場所はこの先100メートルのところにある地下カードショップ『へブンズアッパー』だ」
「だ〜か〜ら〜。なに言ってるの? あんた、頭おかしいんじゃない?」
「カードゲームのことは本場のカードゲーマーが解決した方がいいだろ?」
「だからなんで私がこの話に一枚噛まなきゃならないのよ」
「仕方がないな。2人でやろう。2人でやればきっとうまくいく」
「は?」

 ―30分経過―

「すいません。貴方方にちょっとお話があるのですが」
「あぁん? 俺らになんかようか?」
 2人はすったもんだの末「そこ」にいた。男はやる気である。一方、女はげっそりしている。
(私、なんでこんなところにいるんだろう。いくら暇だっていっても……安売りしすぎじゃない?)
「レアカードを返せだとぉ! てめぇ、アレは正当なとれぇどで入手したんだよ!」
「いえ、しかし……」

(アレ、か。かって16連ドローで日本遊戯王界に伝説を残した、中橋名人のサイン入りレアフィールド魔法《中橋名人の冒険島》。確かにアレならいい値がつくとは思うけど、ぶっちゃけ私も欲しいけど、200万の後じゃ正直ショボイって言葉しか思い浮かばない……って気持ちはわからないでもないわね)
 因みに効果は、ちっちゃい中橋名人トークンがあふれ出てくるとか、確かそんなんだった気がする。
(と、は、い、え、思い出の品に値段はつけられないわよね……って、私はなにやってんだろ……)
「と、いうわけだ。西川皐月VS権藤周作。こっちが勝ったらレアカードは返してもらおう」
「え? なに? いつのまに条件付き決闘が成立したの? てか私がやるの? あんただって……」
 翔とて、初めての決闘で翼川勢を翻弄した決闘の使い手。ならば、自分でやればいいだけの話では。
「一応、あるんだけどな。俺のデッキはちょっと調整が今一なんだよ。それに、お前の方が知識あるだろ」
 知識は大事。前回は、ボロが出なかったが、今回も出ないとは限らない。慎重といえば慎重。
「はいはい。わかったわよ。だけど、後で成功報酬としてケーキ代ぐらいはもらうからね」
 渋々承諾する皐月。その目の前では人相の悪いシャークトレーダーが待機していた。
(本当に鮫ね。ヤクザみたいで笑えるわ。あーでも、ちょっとここ危険かも。でも、ショウも一緒だし……)
 流石に拉致監禁人身売買みたいな真似をカードゲーマーがやるとは思えない。と、その時だった。
「よし、始めよう。あいつらが勝利したら、お前はあいつらの女だ。これで、ルールに異議はないな?」
「ちょ、ちょっと待って。今おかしなこと言わなかった? 具体的には民法第90条の公序良俗違反……」
「いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし! やぁぁぁぁってやるぜぇぇぇぇ。色々やるぜぇぇぇぇ!」
 何か気合が入っている。今更反故には出来ません的なムード。皐月に、殺意が芽生える。
「あんた……後で絶対殺すからね」
「いざとなれば、姉の瑞貴をさしだせば何の問題もないと思わないか?」
「あのねぇ、だいたい私の姉は今アメリカにいるんだけど」
「しまったな。最悪、2人を差し出してセットでお楽しみくださいというつもりだったんだが」
 もっとも、瑞貴に関しては一時帰国の時が迫っていた為、都合がいいといえばいい。
(殺す。絶対後で殺すわ。お母さん、私、生まれて初めて人を殺すかもしれません)
 試合開始。皐月の戦意は、既にMAXを振り切っていた。戦意というよりは、むしろ殺意だった。

 ―15分経過―

「手札から《暗黒界の雷》を発動。手札から《暗黒界の武神 ゴルド》を捨て、あなたの場の《古代の機械巨人》を破壊する……と共にゴルドを特殊召喚。もう終わってるのよ。ダイレクトアタック!」
 その勝負は呆気なかった。皐月の電撃戦術が、フィールド上を縦に貫いていた。
「そんな馬鹿な。俺たち新橋ギアクラッシャーズの、歯車が立たないだと!?」
 呆気に取られるギャラリー達を尻目に、皐月はさも当然といった風だった。
「お生憎さま。大体ね。プレイングが甘いのよ。凡ミスだけで2つもあったわよ」
 多少は緊張していたのだが、蓋を開けてみれば楽勝。彼女はほっと胸をなでおろす。
「さぁ、レアカードは返してもらうわよ。そういう約束だったんだから」
 これで帰れる。任務完了。ケーキ代くらいは奢らせようか、あと一発くらいはアレをブン殴っておこうか、そんな皮算用を始めた皐月だったが、その思考は早々に打ち切られた。声が、響く。
「おいおい。随分と騒がしいな。俺に内緒で事件を起こしてもらっちゃ困るぜ」

「て、店長! 店長が戻って来たぜ! ヒャッホウ! これで俺達の勝ちだ」
「店長待ってたぜ。トイレにしては遅かったじゃねぇか! さっ、こっち来てくれ!」
 にわかに活気付くギャラリー。「店長」は、他の連中とは一線を画していた。
「おいおい。まずは状況報告からだ。そうじゃないと、話に乗れないぜ」
(この男が店長なのか。あの男、只者ではなさそうだが……)
(今更店長が来たからってどうだっていうのよ。勝負はもうついた……)

 ―5分経過―

「ほう、なるほどなるほど。事情は飲み込ませてもらった。オレが決闘しよう」
「ちょ、ちょっと待ってよ! もう私は勝ったのよ! それなのに!」
「生憎だな。お前が倒したその男は、俺達の中では一番の下っ端なんだ」
 新橋ギアクラッシャーズに十二神将アリ。皐月は、その一角を崩したに過ぎなかったのだ。
「あーそうですかそうですか。いいわよ。十二神将だろうが十天君だろうが面倒見てあげるわ!」
(あの店長。ただものじゃなさそうだな。風向きが、変わったか? 不味いかもしれないな)
 強気な皐月に対し、翔は不安を覚える。彼は、何か得体の知れないものを店長に感じていた。
「気をつけろよ片割れ。アイツは、どうも只者じゃなさそうだ。慎重に闘え」
「今更何よ。どうせ、こうなったらやるしかないでしょ。叩きのめしてやるわ」
 2人を遠目に見やりながら、店長は謎の微笑みを浮かべていた。そう、謎の。
「いーい。条件を呑む以上、あんたらが勝っても何も無しよ。わかった?」
「ああ。なんでもいいぜ。だが、そっちの男じゃなくていいのか?」
 店長の一言、それは、彼女には嫌な音。
「どういう……意味よ。あなた、ショウの知り合い?」
 皐月が店長を睨む。軽く見られることを嫌ったか。
「いーや。だけど、俺にはそっちが本命に見えたんだ」
 店長は軽く切り返す。皐月には、それが気に食わない。
「いいわ。誰が本命か、あんたにもきっちり教えてあげるわ」

 ―1分経過―

「さぁ、勝負と行こうじゃないの。とっとと始めるわよ」
 殺気立つ西川皐月。デッキOK。ドローOK。勝負が、始まる。
「ああ。いつでもいいぜ。先攻はくれてやる。さっさと仕掛けな!」
 男はぶっきらぼうにそう言い放った。その物腰が、皐月の気を引く。
(この男、確かに他の雑魚とは違いそうね。いったい、どんな闘い方を……)
 後ろでは翔が見守っている。皐月はカードを引き、デュエルを始めた。

西川皐月(翼川高校)VS店長(カードショップ『ヘブンズ・アッパー』)

「私の先攻、ドロー! 手札から《暗黒界の狂王 ブロン》を通常召喚。1枚伏せてターンエンド」
 皐月は初手、攻撃表示でターンを終える、強気の意思表示。だが、彼らはそれをあざ笑った。
「おいおい。あの馬鹿調子に乗ってるぜ」「店長相手に、初手攻撃表示なんてありえないぜ」
(まったく。セコイ威嚇よね。どちらにせよ、取り巻きは取り巻きよ! だけど……)
 威嚇に動じる程やわな皐月でもない。だが、店長と言われる男の行動は気になった。
(さぁ、なにをしてくる? この男は、どう攻めてくるつもり?)
 皐月の、ある種当然の疑問。その疑問は、思いの外早く氷解した。

「オレのターン、ドロー……《クラッシュビークル―レイジングブル》を召喚!」
《クラッシュビークル−レイジングブル》! あ、あれって……」
「出た! 店長の【クラッシュビークル】デッキ。これでアイツもおしまいだぁ!」

《クラッシュビークル−レイジングブル》
通常モンスター
星4/風属性/機械族/攻 1700/守 1700

 武装した四輪車がデュエルフィールド上に出現、皐月に睨みを効かせるが、彼の決闘はここからだった。脅威の戦術が皐月に迫る。皐月も、その到来を予感して身構える。
(クラッシュビークルデッキ。となると、次に来るアクションは……くる!)
 クラッシュビークルにはいくつかのパターンがある。皐月は、それをよく知っていた。
(クラッシュビークル……どっかで聞いたような気もするが……仕掛けてくるのか?)
 一方、翔は知識不足から状況をよく理解できなかった。だが、その理解はすぐに深まることとなる。
「手札から《歯車激突》を発動! デッキから必殺魔法《ハリケーン・クラッシャー》を除外する!」

《歯車激突》
通常魔法
手札・墓地・デッキから必殺魔法を1枚除外して発動する。このターン、除外された必殺魔法をあなたの手札にあるかのように発動することができる。

《ハリケーン・クラッシャー》
必殺魔法
自分フィールド上に「クラッシュビークル−レイジングブル」が表側攻撃表示で存在する場合のみ発動する事ができる。相手フィールド上のカードを2枚までデッキの一番下に戻す。

「いぃっくぞォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 店長の咆哮。同時に、換気扇が異常な勢いで回りだす。
「で、でるぞ! 店長の超絶最高、スーパーな必殺技がぁ!」

ハリケェェェェェェェン!!
クラッシャァァァァァァ!!


(やられた! 場ががら空きに……って、これは何!?)
 壮絶な竜巻だった。異常に回る換気扇が、異常な風を呼び込んだのだ。
「す、すげぇ! 店長の気合が、本物の風を呼び込んだ! こんなこと初めてだぁ!」
「デュエルスペースのカードが跡形もなく吹き飛んだ! 今日の営業はもう無理だぁ!」
 真夏の営業妨害。風が、店内を掻き乱し、カードゲーマーをたたき出す。
「て、店長すげぇ! 今日の店長はマジ逝ってやがる! 店長の中の店長だ!」
 店の中が一時的な混乱に見舞われる。店長が、風を呼んだのだ。THE 店長。
「な、なによこれ。なんでこんなことになるのよ。あやうく飛ばされるところだったじゃない」
 近くの取っ手に捕まりなんとかことなきをえた皐月。だが、その顔には一筋の汗。
「どうやら、嫌な予感があたったようだ。この店長は、ただものじゃない!」
 翔も驚くその自虐的パフォーマンス。第1ターンにして、店内は無茶苦茶だ。
「いくぞ! 《クラッシュビークル−レイジングブル》でダイレクトアタック!」

店長:8000LP
皐月:6300LP


「2枚伏せてターンエンド。どうだ、これが俺のクラッシュビークルデッキだ」
「くっ、やってくれるわね。だけど、殴り合いならこっちの土俵よ! ドロー!」
 だが、負けるわけにはいかない。皐月は、気合を入れなおし決闘に臨む。
「手札から《暗黒界の取引》を発動。シルバを捨ててドロー。当然シルバを特殊召喚。さらに、手札から《暗黒界の狂王 ブロン》を通常召喚。一気にいくわよ!」
 ブリッツデッキの本領発揮。高速戦を臨む皐月。
「《暗黒界の軍神シルバ》で《クラッシュビークル−レイジングブル》を攻撃!」
(向こうが序盤から仕掛けてくるなら、こっちもこっちで……え?)
 積極果敢に仕掛ける皐月。だが、店長は更なる一手に打って出る。

「リバース! 必殺魔法は迎え撃つ! 《グラビトンバスター》を発動!」
 必殺魔法は相手のバトルフェイズにも発動可能。これは最早常識!
(レイジングブルオンリーに特化した構築!? 動きが一本化されて……)
 皐月がリアクションをとりきる暇もなく。店長は、またも吼えた。
「ハァァァァァァァァァァァ……一殺心中! 喰らえ小娘!」

グラビトォォォォォォォン!!
バス! タァァァァァァァ!!

《グラビトン・バスター》
必殺魔法
自分フィールド上に「クラッシュビークル−レイジングブル」が表側攻撃表示で存在し、相手モンスターが攻撃してきた場合にのみ発動する事ができる。「クラッシュビークル−レイジングブル」と指定したもう1体を生贄に捧げ、その攻撃力の合計分のダメージをお互いに受ける。

「す、すげぇ店長! 机を持って店内を壊しまくってる! なんてパフォーマンスだ!」
「デュエルはパフォーマンスだ。わかるか娘っ子。この俺が、俺がこの店の店長だ!」
 店長ならば、店長ならば営業妨害も許される。まさに、店長ならではの大破壊。
「おい片割れ! 不用意だろ! そのくらい前もって備えとけよな!」
「五月蝿いわよ! カードプールもろくに知らない癖に……」
「おまえのことを言ってるんだ。お前を基準に恥を知れ!」

店長:4000LP
皐月:2300LP


 圧倒的な破壊力の前にライフが致死圏に到達。窮地に立つ皐月。
「くっ! だけど、そのやり方は命取りよ! ブロンでダイレクトアタック!」
 だが、ピンチはチャンス。皐月は、飽くなき追撃戦に打って出る。

店長:2200LP
皐月:2300LP


「これでフィニッシュ! ブロンの効果発動。《暗黒界の武神 ゴルド》を手札から捨て特殊召喚。ゴルドでダイレクトアタック!」
 これが通れば皐月の勝利。だが、そうは問屋が卸さない。店長は、ギリギリの緊張感を楽しんでいた。
「そこだぁ! リバースカードオープン! 《和睦の使者》を発動。これ以上は無意味だ」
「くっ、やるわね。メインフェイズ2。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
 ここにきて《和睦の使者》。皐月に攻めさせるだけ攻めさせた格好。
(《和睦の使者》があったなんて、手札のブラウを捨てて、手札交換した方がよかった?)
 少し引っかかるものがあったが後の祭り。翔は、そんな皐月を不安そうに眺める。
(いかんな。確かにライフの上では互角だが、あの余裕が気に食わない。片割れも不用意なことだ。あのカードのことを知っていたなら、バトルフェイズに入ることを少しは躊躇いそうなもの。どうせ、そんな自爆技など使ってはくるまいとタカを括っていたのだろうが……脇が甘いな。この勝負、先が見えたか)

「俺のターンだ。ドロー……どうやら、お前は俺の敵ではなかったらしいな」
「え?」
《蘇るガルダ》。墓地のクラッシュビークルを1機、レイジングブルを場に戻す!」

《蘇るガルダ》
通常魔法
自分の墓地からレベル4以下の「クラッシュビークル」を1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚する。

「さぁ、そろそろ決めるか。《クラッシュビークル−レイジングブリット》を生贄召喚!」
(こ、これは……換気扇が……扇風機が……異常な回転値を示している!?)

《クラッシュビークル−レイジングブリット》
効果モンスター
星6/風属性/機械族/攻 2400/守 2400
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、 カード名を「クラッシュビークル−レイジングブル」として扱う。「クラッシュビークル−レイジングブル」を生贄にこのカードを召喚した場合、相手フィールド上のカードを2枚までデッキの一番下に戻すことができる。

グレェェトォォォ……
ハリケェェェェェェェン!!
クラッシャァァァァァァ!!


「換気扇に続いて扇風機が暴走を始めたぁ! 店の中がしっちゃかめっちゃかだ!」
「場のカード2枚をきっちりデッキに戻してもらおう! 西川皐月ぃぃぃぃ!」
「く……この……調子に……」

「フィニッシュだ! 2枚目の《歯車激突》を発動! デッキから……」
(不味い。後手に回った!? この私が!? 気迫におされたっていうの?)
「店長がハンマーを持って振りかぶった!? て、店長! まさかそこまで!」

グランドスラムゥゥゥゥゥゥ!!
ハン! マァァァァァァァァ!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 店長のハンマーが、異常な勢いで店を破壊する。
「く、この圧倒的な出力。これが店長の実力か!」

《グランドスラム・ハンマー》
必殺魔法
自分フィールド上の「クラッシュビークル−レイジングブル」1体を対象として発動可能。このターン、選択した1体の「クラッシュビークル−レイジングブル」は直接攻撃することができる。

店長:2200LP
皐月:0LP


「圧倒的だ。圧倒的だぜ今日の店長! ハンマーでレジを、棚を、残らずぶっ壊した!」
「やべぇ。俺もう逝きそうだぜ。今日の店長相手なら、ケツを掘られたって文句は言えねぇ!」
「嘘。私が負けた? こんなにあっさり? そんなことって……」
 その勝負の決着はあっさりとついた。店長>それ以外。圧倒的な図式。
「どうやらオレの勝ちのようだな。レアカードはありがたく貰っておこう」
 勝ち誇る店長。店は無茶苦茶だが、完全なる勝利だった。だが!

「いや、そういうわけにはいかない。3回戦を始めよう。選手交代だ」
「なに? 3回戦だと?」
「合理的に解釈すればこの試合、2VS2の3ラウンドマッチと考えるべきだろう。1回戦はうちのサツキが勝利した。2回戦はお前の勝ちだ。となると、次の3回戦で全てが決まるとは思えないか?」
 合理的と書いてジャイアニズムと呼ぶ提案だが、翔は、兎に角申し入れた。
「なるほどなるほど。やはり、オレの眼に狂いはなかったようだな。いいだろう」
「そういってくれると思ってたよ。さぁて、3回戦、真打ち登場と行かせて貰おうか」

「ちょ、ちょっと待ってよ。あんた、今まで黙ってみてたくせに、今更何よ!」
 皐月の抗議。皐月からしたら、何を今更と言いたくなるのも当然か。
「事情が変わったんだよ。あの店長は、お前の手には負えそうにない」
「私と引き分けどまりの男が何を言ってるのよ。勝ち目あんの?」
「さぁな。だが、一応向こうのデッキの傾向は把握した……」
 その発現を聞いて皐月は猛る。彼女の忍耐が、臨界点を超えた。
「あんた! わたしを当て馬にしたわね! この……」
 だが、翔はそんな皐月に対し、わりと素直にこう言った。
「人聞きが悪いな。俺は一応、お前が勝つ前提だった。分かれよ。事情がわかったんだ。正直、俺だって100%勝てる保証はない。だが、ここまでやって駄目でした、というのはプライドが許さないんだよ」
「だからって……」
 釈然としない皐月。どうもやりきれない。それは、自分が結局のところ甘く見られているのではないか。そしてその苛立ちは、結局甘く見られる状態を作ってしまった自分自身に向けられていた。
(このままじゃ……このままじゃ私……私はこのまま終わっちゃいけないのに……)

「誰がやるのか決まったか? それ以前に、やるのか? やらないのか?」
「悪かったな待たせて。俺だ。俺が次の、お前の相手をやる。これで決着戦だ」
「いいだろう。俺も、その方が都合がいい……もとい、燃えるものがある」

新堂翔VS店長

「オレのターン、ドロー。守備表示を1機スタンバイ。1枚伏せてターンエンドだ」
 今度は店長の先攻。先の速攻とは対照的な守備表示スタートだった。
(リバース効果はなさそうだ、が。伏せカードで対処する気か? ここは、手の内を知っておく必要もある)
 翔は、裏守備表示に攻撃を仕掛けることを決意。最低でも、敵を表に変える一手。彼は、仕掛けた。
「《E−HERO ヘル・ゲイナー》を召喚。攻撃力は1600。さぁ、始めようか。ゲイナーでアタックだ!」

「甘いな! リバース! 《クラッシュビークル−ブレイクナイン》の効果発動!」
 フィールド上に球体型の四輪車が姿を現す。それは、罠と呼ぶべきものだった。
《クラッシュビークル−ブレイクナイン》? 新手のクラッシュビークルか!)

《クラッシュビークル−ブレイクナイン》
効果モンスター
星1/炎属性/機械族/攻 0/守 0
このカードは戦闘によっては破壊されない。このカードが攻撃を受けたとき、次のターンのエンドフェイズ時まで攻撃モンスターの攻撃力を得る。このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、 破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

「さぁて、ビリヤードの始まりだ! フィールド上を駆け巡れ! ブレイクナイン!」
 攻撃を受けたブレイクナインは完全な球体となって衝撃を吸収しつつフィールド上を駆け回り、推進力を得る。その推進エネルギーは、相手の攻撃が強ければ強いほど、つき手の力が強ければ強いほど、右肩上がりに増加する。それが、ビリヤード殺法、ブレイクナインの本領であった。
「はっはーっ! アイツまんまとひっかかりやがったぜ。間抜けなやつめ! 【クラッシュビークル】デッキを相手に裏守備を見たら、真っ先にブレイクナインを疑えって格言を知らねぇのか!」
(初耳だな。やはり、情報不足は補いきれないか。先に言えよな! そういうことは!)
 翔は皐月の方を軽く振り返るが、皐月はツンとした態度を崩さぬまま静かに頷いただけだった。
「(ちっ、ブラフでしのぐしかないか。)バトルフェイズは終了。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「オレのターン、ドロー! 手札から《歯車激突》を発動! デッキから《ピットバイパーアタック》を除外!」

《ピットバイパーアタック》
必殺魔法
自分フィールド上に「クラッシュビークル−ブレイクナイン」が表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。このターン「クラッシュビークル−ブレイクナイン」の攻撃力は倍となる。

「攻撃力は3200! まだだ! 《リミッター解除》を発動! 攻撃力は6400! カードゲームで、この技を使うことになるとは思わなかったぜ! 喰らえ! 紅蓮の疾走!」

PIT VIPER ATTACK!!

ショウ3400LP
店長:8000LP


「なにぃ!?」
 ビリヤードの球と化したブレイクナインが、火花を散らしてフィールド上を蛇行しながらの高速移動を開始。その直後、大ジャンプで推力を更に増したブレイクナインは、炎の一球となって新堂翔のどてっぱらを抉る。ソリットビジョンでその迫力。店長の迫力はそれに輪をかけたものだった。
「や、やめてくれ店長! お、俺たちが! 俺たちまで巻き添えを食っちまう!」
 味方も懇願もなんのその。店内を幾つものボールが跳ね回る。ボールがボールを打ち合い、加速度を増したボールが辺り一体を破壊で包む。ライトが壊れ、上からはガラスが落ちてくる。その勢いは壮絶の一言。ふと気がつくと、そこに立っているのは店長だけだった。店長だけが、立っていられたのだ。
「どうだ……これがクラッシュビークルの醍醐味。必殺魔法の威力だ!」

(こいつ……やはり強い。今のデッキと知識で、こいつに勝つことは可能なのか?)
(ショウが押されている。このままこいつも負ければ……違う。違う違う。私は……)
 巡り巡る人の思惑。だが、その思いを一顧だにせず弾き飛ばす、店長の迫力。
「さぁ、死のビリヤードを続けようぜ。俺が、この身をもって教えてやるよ……」

誰がこの店の店長かをな……!



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
サツキの話を書く為に前振ってみたところ趣旨が変わってしまったが、そんなことは些細な問題です。ええ些細ですとも



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。



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