「う、嘘だ。《砂バク》を基点としたビートダウンには定評があり、サハラ砂漠を単独で横断した経験すらある二階堂がこうもあっさりとやられるとは。やつは、砂漠をポカリで満たしたとでも言うのか!?」
「どうした。これで終わりか? ならば、このチームは今日消える!」
 ローマの虐殺は続く。最早凶器と化した眼光が、ソリティアの会を抉る!
(大変なことになった。けど、遅刻の言い訳としては完璧だな。信じてもらえさえすれば!)

 いずれにせよ、遅刻は遅刻。加えて勇一達は今、総力戦に臨まんとしていた為、遅刻の罪が、信也の知らないところでぐわんぐわんと重くなっていた。高校最強・翼川高校カードゲーム部VSデュエルクルセイダーズ。冷えた呻き声を上げる、ソリティアの会とは対照的に、2つのチームが今! 熱き激闘を繰り広げんとしていた。当然、信也と彩抜きで! 遅刻者などは蚊帳の外!

「それではデュエルを始めます。まずは第1戦目。タッグマッチ」
 何処からか召集された審判が約1名。彼は、各チームから渡された紙を一瞥。そこには1組のペアのみの名前がそれぞれ記されていた。その事実は、この団体戦に臨機応変の才が要求される事を意味している。1戦ごとに選手をその場で選ぶ試合方式。ある種の、見極めの力が必要となる。普通なら安定した、チーム内の信頼の高い選手が出るべきであろう。だが、翼川高校の一番手は、チーム内の信頼もクソもない連中だった。やつらは、無駄に堂々としていた。

「翼川高校! 新堂翔! 桜庭遥! 前へ!」
「さぁて、チーム内の信頼も厚い、俺達で1勝を貰いにいこうぜハルカ」

「新堂翔に桜場遥……って、なんで!? あの人達って高校生なの!?」
 同じGブロックの、エリーが声を上げる。おかしい。何処をどう見てもおかしい。それが正常な反応。
「おいおい、なんであんな連中が出て来るんだよ。あいつら正気か?」
 ストラを皮切りに皆が口々に騒ぎ出す、が、当然だ。彼らはどうみても高校生ではない。だが、新堂翔は、その程度の反応に一々躊躇するような軟弱漢ではなかった。抜け抜けと、彼は自己紹介を開始――

「翼川高校4年・新堂翔だ。そんでもって、こちらのお方は、“ダブリの貴公子”とまで言われた、翼川高校カードゲーム部の最終兵器、翼川高校11年・桜庭遥さんだ。翼川高校の出身者がこっちのチームの出場条件なんだろ? 出場条件はあっている筈だ! 初戦の相手は俺達がつとめるぜ!」
(あって……ねぇよ……入学した覚え……ねぇよ……大体お前のそれ、どっから持ってきたんだよその学ラン……なぁ……ショウ……俺等本当にこれでいいのか? なんか道間違えてねぇか?)
(折角のレアカード入手チャンスだ。適当に活躍して、ドサクサ紛れに売り払い、私腹を肥やす!)
 今日び、万屋の経営は苦しかった。金の亡者がここにいる。そう、この世は、亡者ばかりである。
「母校のピンチに即参上! 此方は人数が足りない! 助っ人としての参戦を認めてもらおうか!」

「フォッフォッフォ。面白い連中じゃわい。まぁ、いいじゃろう」
「……って、おい! 爺さん、勝手に決めんなよ。即答じゃないか」
「わしの独断ではないつもりじゃ。少なくとも、アレが起きとったらOKを出すと思わんか?」
「……つってもよぉ。そんなんでいいのか?」
「少なくともわしと奴で2票じゃの。あと2票あれば多数決では勝てるのぉ……」
「おいおい……なぁんだそりゃ……」

「我は一向に構わん! はぁぁぁぁあっ! とぅぇえあーっ!!」
「あー駄目だ。ろくなやつがいねぇ……ったく、俺はもう知らねぇからな……」
 眼帯の真っ当な意見を一刀両断に遮り、東側から1人の女が宙を舞う。恐るべき跳躍力。おそらくは、厳しい修行が足のバネを強靭なものに作り変えた結果であろう。この時、寝ているディムズディルを除いたその場の全ての人間が、一瞬空に注意を惹きつけられる。だが、警戒すべきは空ばかりではなかった。陸では、1人の男が大地を揺らしながら突進。踏み抜かれた大地に、小さな亀裂が入る、それ程のパワー。彼は、女の落下地点に向けて手を伸ばす。すると、落下した女もまた手を伸ばし、地上2メートル50センチのところで合体。その後、受け止めた側の男が腕を縦に振り回し、受け止められた側の女を恐るべき勢いで投げ飛ばす。と、女は、縦にクルクル回転しながら前方へ吹き飛び、見事な着地を決める。そこは、新堂翔の目の前だった。

「デュエルクルセイダーズ! 瀬戸川千鳥&ベルク=ディオマース!」
「さぁて仕事だ。レアカード1枚で3日は喰える。その分の働きはしてやる」
「我らが共に闘う以上、必勝を覚悟しろベルク! 今度こそ怠慢は許さん!」
「ああ、だから言ってるだろ。景品分は闘ってやる」

「俺の相手はお前らか。正直、あそこで寝ている灰髪の男とやりたかったんだが、まぁいいさ」
 翔は懐からデッキを取り出すと、軽くもてあそぶ。感触を、確かめるように。
「今後の為の準備運動ぐらいにはなる。助っ人の身だからな。贅沢は言わないさ」
「準備運動だと!? 貴様ァ!」
「ああ、すまない。聞こえない様小さな声で言ったつもりなんだが、手前に居たんだったか」
 新堂翔は、試合開始前から千鳥に対し、露骨な挑発行為に出る。無論、100%本心ではない。彼は、口先ほどには相手を軽んじない。彼が今言ったことで本心と言えるのは、『正直、あそこで寝ている灰髪の男とやりたかった』のみである。彼は、既に千鳥の実力を知っている。彼に油断はない。
「貴様ら如き、我1人で片付けてもよいぐらい。が、ルールはルール。我ら2人が相手してくれよう」
「あぁそうだ。さっさとやってぇ、金目のもの貰って帰るとしようぜぇ」
 千鳥とベルク。やはり対照的なこの2人。迎え撃つのは万の道か。
「なんでもいいぜ。さぁ、試合開始といこうじゃないか」

「それでは試合を始めます。まずは先攻後攻を……」
「我は当然先攻を要求する。その方が早く終わるからな」
「俺も先攻が好きなんだ。ただで譲る気はない」
 2人の意見が衝突。とはいえ、意見が衝突せずともここはコイントスの1つでも行い、先攻後攻を決定する局面。事実、審判もその用意に入る。だが、“普通”を良しとしない男が1人いた。
(瀬戸川千鳥か、面白そうな女。どれ程のものか、挑発してみるのも悪くない)
 新堂翔。彼はポケットに手を突っ込み、あるものを掴んだ。そう、あるものを。

 ピィィィン!

 一瞬の出来事だった。新堂による奇襲。彼は、手に隠し持った10円玉を、指の力を効かせ千鳥の正面に弾き出す。至近距離、それも不意をつかれた状況からではまずかわせないであろうその速度。
(これは!?)
(さぁ、どうする?)

舐めるなぁっっっ!

 通常なら避けることすら難しい、無拍子で放たれたコイン弾。だが千鳥は、驚異的な反射神経で眼前のコインをしゃがみ込んでかわす、と同時に次の行動。千鳥は、前方向に縦一回転することで10円玉の軸線上に踵を合わせ、そのまま勢いよくコインを蹴り上げる。当然、空高くはね上がるコイン。彼女は決して表情を崩さず、翔に対してこう言い放った。
「選べ。地に落ちその面を晒すのは、平等院鳳凰堂か否か」
「そうだな、じゃあ俺は、10と描かれた方を選ばせてもらうぜ」
 一瞬のやりとりで成立する賭け。先攻後攻の行方は、今にも地面に落ちんとする、1枚のコインに委ねられた。そのコインは、地面に一度衝突すると、跳ね返ってくるくる回る。と、その時、千鳥は察する。このままでは10と描かれた面が出る、と。彼女には、先攻を譲る気など毛頭なかった。
(このコインの軌跡、そしてこの運動力。このままでは先攻は取れんか。ならば!)





瀬戸川流決闘術奥義『地雷審』





 千鳥の動きは瞬速を極めた。審判には決して見えぬ角度からの脚部高速振動。胴への振動を腰のバネで吸収しつつ、足からの振動エネルギーを大地に伝える、カードゲームの高等技術。それは、時間にすれば1秒にも満たぬ出来事であったが、10円玉に最後の一揺れを与えるには十分な威力だった。
「見よ。平等院鳳凰堂が茶会を開いて微笑んでおる。我の先攻だな」
 千鳥が得意顔で10円玉を掴む。まんまと出し抜かれた新堂翔と桜庭遥は、渋々とこれを受け入れる。
(俺に選ばせておいて不審を拭わせ、審判の死角から操作を加えたか。やられたな)
 コイントスを終えた4人は少し離れ、それぞれが決闘の体勢に入る。
「ショウ。お前も物好きだな。で、どうなんだ?」
「手強そうだ。だが、その方がやりがいがでる」

「それでは試合を始める。先攻、瀬戸川千鳥、以下、新堂翔、ベルク=ディオマース、桜庭遥の順にターンを回します。それでは決闘盤構え! 試合開始ィ!!」

【はぐれ万屋コンビVS武戦殺法コンビ】
初期ライフ:16000(共有)


 十中八九、嵐を呼ぶであろうタッグデュエルの火蓋が、今切って落とされた。


第37話:はぐれ万屋コンビVS武戦殺法(前編)


 「我のターン、ドロー。手札からしもべを1体セット。札を2枚セット。ターンエンド」
 瀬戸川千鳥はやたらと先攻を好む。が、特に理由はない。先攻の方が先攻だからだ。そこに深い意味はない。彼女は生まれた時から強気だった。生えた歯で最初に行った動作は人体への噛み付き行為だった。彼女は今日も強気だった。だが、その一方で彼女は【パーミッション】の要素を持った形式を選択した。その理由は彼女自身もよくわかっていない。強いて理由を挙げるとするならば、彼女の兄が殴り屋だったからだろうか。彼女の闘い方は、常に脆さと隣りあわせだった。彼女は今日も、カードを引く。勝ち続ける為に。

「俺のターン、ドロー。手札から《D−HERO デビルガイ》を召喚!」
 新堂翔は攻撃型のデッキを好む。弱者が強者に勝つ為には何をおいても殺しに行くのが近道だ、というのが彼の哲学である。野球やサッカーとは違い、決闘は殺ったもの勝ち。初回にセコく1点もぎ取った後延々と継投策でかわし続ける必要もなければ、試合開始直後センターサークルからドライブシュートを撃ってその後延々と90分「お前たちとりかごは好きか?」で葛藤する必要もない。例え相手に致命傷とも思える点差を叩き込んだとしても、それは致命傷ではない。ただのでかい傷。仕掛けた側は相手の反撃に備えねばならない。サヨナラ勝ちやVゴールを狙うためには、まずもって互角の勝負を延々と続けなければならない。或いは、こうも言えるだろう。野球やサッカーの場合は、守りの要となるピッチャーやキーパーを殺しても勝利には直接繋がらない。交代要員が出てくるだけで、こちらに課されたペナルティと釣り合わぬこともままある。だが、決闘は違う。自分のターンの間にライフを綺麗ごっそり奪い去るか、或いは、相手の事理分別能力を奪い取ってしまえばそれで100%勝利だ。
(死体はカードを操らない、か。それでいい。だから燃える)
 死体Aは死体Aであり死体Bに代わることはできない。死体Aは蘇らない。彼は、自分が初心者に毛が生えた程度だという事実を軽視せず、己が弱者であるという前提をその胸に抱きつつ、強者を気取って相手を威圧してきた。それが彼の決闘。彼は、自分の不利要素を常に自覚していたがこそ強かった。だが、彼は今日《D−HEROデビルガイ》を1ターン目に出した。彼は今日3つほどデッキを携帯していた。1つは【悪魔族】。パワフルなデッキだ。もう1つは一種の博打型1ターンキル。パンクロックなデッキだ。だが、彼が選んだのは3つ目、【D−HERO】。それは彼が自分のことを最早初心者とは考えていないことから来る自信の表れなのだろうか。或いは、ある種の覚悟の現れなのだろうか。それは、彼のみぞ知る。

「【D−HERO】か。ダークヒーローを気取りよるか!」
「おまえさ、どのデッキにも一度そうやって難癖つける口だろ。疲れる女だ。そういう奴は消すに限る」
 新堂翔は躊躇うことなく特殊効果の発動を宣言した。『地獄の一丁目の曲がり角のバス停(デステニーロード)』。千鳥のモンスターが、裏向きのままゲームから除外される。翔はふっと笑い、手を上に伸ばしパチパチ手を叩いた。だが彼は、それとは無関係に口をしきりにぱくぱくさせる。それは、メッセージだった。
(俺はユウイチに勝ったことがある。お前は苦労した挙句、してやられたんだったな。退屈、させるなよ)
 この時、彼女が用いたのは瀬戸川流決闘術奥義『読唇眼』。要は単純な読唇術である。千鳥は新堂翔の唇の動きを読み取った。否、読み取らされた。“シット・ダウン・プリーズ”と言われてしゃがみ込んだロシア人が思わずコサックダンスの体勢を取るのと同じくらい自然な流れとして、千鳥は反射的にそれを読み取った。千鳥の顔つきが変わる。新堂翔、その人への意識が前のめりになっていく。彼女は、段々と闘志を露にしていく。
「さぁて、カードを2枚伏せてターンエンドだ。次のターンが待ち遠しいな。次は、そこのドイツ人だったか」

「俺のターン、ドロー。モンスターセット。マジック・トラップセット。ターンエンド」
「相変わらず早いじゃねぇか。じゃ、俺のターンだ、ドロー。モンスターセット。ターンエンド」
 ベルクと遥はお互い軽目のプレイでターンを終える。攻撃の出来ない1ターン目。そこに大きな盛り上りはハナから期待できない。だが、その均衡は直ぐに破れることとなる。2週目だ。

「我のターン、ドロー! 行くぞ! 手札から《ニュードリュア》を通常召喚! バトルだ!」
(《ニュードリュア》か。《グレイブ・スクワーマ》と違って殴れる、が、いい性格してるな)
 攻撃力1200の《ニュードリュア》で真向かいの新堂翔に攻撃を仕掛ける千鳥。D−HEROの攻守は低い。1200でも十分勝負になるとの読み。現に、デビルガイの攻撃力は600だった。翔は無抵抗のままこの攻撃を受け止める。破壊されるモンスター。削られるライフ。壊れる均衡。

はぐれ万屋コンビ:15400LP
武戦殺法:16000LP


「リバーストラップ発動! 《デステニー・シグナル》! 《D−HERO ディスクガイ》を特殊召喚!」
 千鳥の攻撃に対応した、新堂翔の動き。一見するとどうということもないようだが、よくよく見ると美しい。彼のカード捌きには、遙の技術的なそれとも違う、堂に入った捌き具合が見受けられた。決闘歴が短いとは、とても思えぬその動き。だが、そんなことで怯む千鳥でもない。
「ふっ、新手を呼んだか! ならばぁ! 我は! このままターンエンド!」

「五月蝿い奴だ。俺のターン、ドロー。メインフェイズ、《D−HERO ダイヤモンドガイ》を通常召喚。特殊効果発動! 俺が捲ったカードは《D−HEROディアボリックガイ》だ。デッキの底に送る。残念賞ってやつだな。だが、俺の決闘はここからだ! 手札から《トレード・イン》を発動! 《D−HEROドレッドガイ》を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドロー。そして! 手札からカードを2枚セット。《D−HERO ディスクガイ》を守備表示に変更! さぁ、ターンエンドといこうか。どっからでもいいぜ」
(円盤男児。この場は壁として用い、後々のアドヴァンテージを稼ぐ狙い。悪くはない。そして金剛男児。入れる以上はそれなりに成功を見込んでいる筈。次あたり当ててくるやもしれん。長引かせると多少厄介。だが、こちらにはベルクがいる。今のうちに新堂翔を2人で叩く!)
 新堂翔への集中攻撃を目論む千鳥。それは、作戦としては悪くなかった。無論、遥の邪魔が入るであろうが、曲者である新堂翔を封殺するメリットは大きい。彼は大会でも相当な実績を残している。警戒すべきはこの男。彼女の考えはそう見当外れのものでもなかった。だが、見当はずれがあるとしたら、この期に及んで彼女が、学習仕切れていなかったところにあるだろう。彼女の、パートナーの性格を。

「さぁ、ボチボチ行くぜ。俺のターン、ドロー!」
 ベルクに対し、千鳥からサインが出される。元々、ベルクのデッキはリクルーターがメイン。即ち、1200〜1500のラインがその大部分を占めているということ。新堂翔の場には攻撃力1400の《D−HEROダイヤモンドガイ》。まさしく鴨ネギ。アレを狙え、とのサインが出る。が、彼は彼だった。
「《巨大ネズミ》を攻撃表示に変更! 桜庭遥に戦闘を仕掛ける! 殺れ!」
「俺がセットしたのは《ジェルエンデュオ》だ。悪いな。こいつはバトルじゃ破壊されないぜ」
 哀しいかな。攻撃失敗。千鳥が、その怒りを露にする。なにをやっているのだと。

「ベルク! 何故金剛男児を狙わん! 相打ちで、労せず召集行為を達成できたのだぞ!」
「五月蝿ぇんだよ千鳥。俺は目の前の奴を倒す。お前が無能じゃなければそれで足りるんだよ!
「何を勝手なことを! どういうつもりだ! ベルク!」
「俺は俺の仕事をする。賞品分の仕事だけをな! それで沢山だ! ターンエンドォ!」

「なんかまたもめてるなぁあいつら。ま、いっさ。ほんじゃ、俺のターン、ドロー!」
 揉める2人を尻目に遥が動く。彼は、主力となる上級モンスターを足早に召喚する。
「《ジェルエンデュオ》を生贄に捧げ、出ろ! 《天空騎士パーシアス》! バトルを仕掛けるぜ!」
 桜庭遥のデッキは【エンジェル・ビートダウン】。彼が得意とするデッキ類型の1つである。彼は今日、翔との連携を考えた上でデッキに若干の調整を加え、もって決闘に臨んでいた。タッグマッチはお互いの呼吸がものをいう。相手の呼吸が乱れたならば、そこは攻め時に相違ない。彼は、ここ数日の汚名を返上すべく、勇躍、ベルクに攻撃を仕掛ける。
「【エンジェル・ビート】か! 貧弱なデッキをぉ!」
「《巨大ネズミ》にヤキを入れるぜ! 入ったなら1枚ドローだ!」

はぐれ万屋コンビ:15400LP
武戦殺法:15500LP


「引きやがれ! 俺も出すぜぇ! ハイパァア・ハンマァァア・ヘッドォォォオ!」
「激しいな。じゃあ俺は、このままターンエンドといこうじゃねぇか」
(序盤から激しい攻防、か。悪くないな。俺とハルカが上手く交差しながら叩く)

「我のターン……くっ……」
「どうした? さっさとカードを引けよ。後がつかえてるぜ」
 千鳥は数秒動きを止めた。彼女の脳裏に、先日の決闘がよぎる。
(ベルクの奴め。また適当に手を抜きおって。前回よりはマシだが、奴らはこちらの連携無しで勝てる相手ではない。もっとも、奴にしてみればそれすらも大した問題ではない、大会で賞金を勝ち取る方が大事、か。どうする。このままでは良くて5分。ここ一番でフォローが期待できないのは、やはり不味い)

(ベルク。貴様、本当にそのまま闘うつもりか? 奴らは並みの手錬ではないぞ!)
(面倒だ。もらえるのがレアカード1枚なら、俺はその分だけ働く。文句は言わせねぇ)
(貴様ぁ……)
(ああ、そうかい。自信がないってわけか。だったら。自信が出るように闘えよ。俺は、目の前のアイツだけはちゃんと叩きのめすぜ。要は、お前があの新堂翔を確実に、どうにかできればそれでいい)

「動きが止まってる? もしかして、仲間割れ?」
「不味いな。アイツは現金至上主義。代価以上には働かないのがアイツの性分」
「ダル、あの人、デュエルが嫌いなのかな。お金お金って二言目には物欲出してるけど」
「いーや、好きな筈だぜ。ただ、ムラっ気が有り過ぎるんだ。やる気が出た日はトコトン強いが、やる気が出なきゃグレファーより弱い。はまった時のアイツは、あのディムズディルですら手を焼く相手なんだがな」
「うーん、なんで千鳥さんはあの人と一緒にいるんだろう。なんか、変」

「わかった。お前の案に乗ろう。だが、今言ったことだけは果たしてもらうぞ」
 協議の末、結局は千鳥が折れる。この2人には良くあるパターン。だが、千鳥もまた一筋縄でない。この時、彼女は既に新たな策を考え付いていた。ベルクは遥を倒すといった。ならばそれでいい。彼女には、残りの男への用があった。当初の挑発を受け流した様ようで、彼女はガンガン燃えていた。一挙両得。彼女の眼がキラリと光る。瀬戸川流の真骨頂が、デュエルフィールドに根を下ろす。

「あいつら、何やってんだ? なぁショウ……」
「さぁな。だが、事前に挑発しておいたこともある。上手いこと、俺に都合のいい結果になるかもな」
「なんだぁ? またなんか策でもうったのか? で、その策とやら。なんかいいことあんのか?」
「いいこと、か。俺に都合のいい決闘は、俺達がボコボコになる決闘だ」
「おいおい、そりゃどういうことだ? 俺達がボコボコって、お前一体何考えてんだ?」
「前回のテーマは『雑魚に時間をかけるな』。今回のテーマは……『若い内の苦労は買ってでもしろ』、さ」

「新堂翔! 桜庭遥! 貴様らに提案がある!」
「提案? いきなりだな。どんな提案だ? サレンダーか?」
「この決闘、“ツーブリッジ・デスマッチ”で決着をつける!」
「なに? この局面でルール変更だと!?」
「この申し出、受けるも自由! 受けぬも自由!」
「自由って今更そんなもん……」
「だが! 受けぬならば後世までの笑いものとなろう! さぁ! 返答は如何に!」

「ツーブリッジ・デスマッチ? なにそれ? 美味しいの?」
「フォッフォッフォ。ツーブリッジ・デスマッチとな。面白いことになったのぅ」
「ヴァヴェリお爺様。どういう決闘なんですか?」
「元々はデュエルマフィアの間で行われたいわくつきな拷問方法じゃよ。2人の捕虜をそれぞれ2本の平行棒の上に立たせ、向いに立った相手2人とそれぞれ決闘を行わせる。巷に蔓延るタッグマッチ同様、初期ライフは16000を共有するわけじゃ、が、こいつはのぅ、単純なタッグマッチとは多少趣が異なっておっての。決闘者Aがカードを使えるのは、自分と、自分と真向かいに立っておる相手のターンのみ。そして、攻撃防御を行えるのも真向かいの相手に対してのみじゃわい。これが曲者での」
「それって、AはC相手に、BはD相手に、シングルマッチを平行してやるってこと?」
「そういうことになるの。じゃが、ライフポイントは共有じゃ。Aがダメージを受ければ当然Bも窮地に陥る。ここからがマフィアの拷問たる所以じゃ。仮に、Aがダメージを受け総ライフが減った場合は、同時にBが苦しみ悶える仕掛けになっておってのぉ。これを数ターン続けると、信頼関係がもう滅茶苦茶。フォっフォッフォッフォ。自らのシングルマッチに集中しなければ勝てん一方、集中し過ぎると信頼関係が危うくなる。中々に嫌らしい。じゃが、あの2人ならば元々が喧嘩三昧、上手い事やるじゃろうてぇ。フォッフォッフォッフォッフォ。さぁ、あの万屋とやらは、この申し出を受けられるかどうか。面白くなってきたわい」

「受けよう。ツーブリッジ・デスマッチ。面白いじゃないか」
「ほぅ、受けるか。どうやらただの腰抜けではなかったらしい」
「チッ、仕方ねぇなあ。そんじゃ、俺はあのベルクをどうにか止めるぜ」
「ああ、頼む。だが油断するな。シングルプレイヤーとしての奴は、それ相応に怖い筈だ」
「そんじゃ、いっちょやってみっか。万屋の対応力を見せてやるぜってな!」
「ああ。俺はこういうのを待っていた。大丈夫さ。既に、やることはやっている」

「ねぇ、ユウイチ。このデュエルって……」
「ああ。最早これはタッグデュエルじゃない。ライフ連環制の変則シングルマッチだ!」
 試合開始から僅か2ターン。当初の趣旨がレイプされ、新たな乱交が始まる。
「初期ライフは16000と何時もの2倍だが、その分自分の決闘とは無関係にライフが減っていく厄介な試合形式。どちらかのパートナーが一気呵成に攻められれば、その分もう一方のパートナーには一刻も早く相手を倒すことが要求される為難しい決闘になるだろうな」
「特にライフ計算が大変よ。自分のターンにはまだ8000あると思ってターンエンドを宣言したら、次の瞬間にはパートナーへの大打撃。次の自分の番には残りが4000になっていた、なんて可能性も十分。この決闘形式が、あの2人にとって命取りにならなきゃいいけど……」

TWO BRIDGE DEATH MATCH
@ライフは16000を共有
A場も共有(例.《ブラックホール》で全滅)
Aお互いは向い合う者同士とのみ戦う

「はっ、考えたな。いいぜ。アイツは俺が殺ってやる」
「黙れ……」
「あぁん?」
「我は勝ち続ける。何処の相手であろうが、我は勝たねばならんのだ」
 千鳥の眼は、殺気立っていた。彼女は、勝利の二文字だけを見ていた。 

―ショウVS千鳥―

「どうした? お前が提案した決闘だろうが。さっさとこいよ。サシで決着、つけようぜ」
「…………………………………………………………………………………………」
 既に試合は再開していた。だが、千鳥は黙して動かない。痺れを切らした新堂翔が挑発を行うも、瀬戸川千鳥は目を瞑ったままだった。集中力を高めているのだろうか。或いは、新堂翔との間合いを計っているのだろうか。彼女はすり足で2歩分新堂翔に接近、新堂翔と瀬戸川千鳥の制空圏が触れ合う、と、その時だった。フィールドの一点を穿つべく決闘盤に気を高めていた瀬戸川千鳥が、一気呵成に攻め込む!

「我のターン、ドロー! 場の《ニュードリュア》を生贄に捧げ、《迅雷の魔王 スカルデーモン》を生贄召喚!」
(遂に仕掛けて来たか! 上等! 丁重に、礼儀正しく迎え撃つ!)
「バトルだ! 《迅雷の魔王 スカルデーモン》で、《D−HERO ダイヤモンドガイ》に攻撃ィィィイ!」
 《迅雷の魔王 スカルデーモン》、ライフコスト痛いものの攻防に優れた怪物。千鳥の十八番。だが!
「甘いな! その流れは既に見切っている! 《聖なるバリア−ミラーフォース−》発動!」
 だが、それ故に読める。翔の、対象を取らない鏡返しが千鳥の場を覆い、《迅雷の魔王 スカルデーモン》の攻撃を跳ね返さんとする。しかし、彼の相手はそんじょそこらの決闘者ではなかった。瀬戸川千鳥は、瀬戸川流決闘術奥義の極意により既に! この流れさえも読んでいた。
「甘いわ! その術策は既に見切っている! 千を支払い《盗賊の七つ道具》発動!」

はぐれ万屋コンビ:15400LP
武戦殺法:14500LP


「殺れ! 《迅雷の魔王 スカルデーモン》! そのまま金剛男児を押しつぶせ!」
 得意顔で翔を見下す千鳥。だが、男は笑みをたたえている。彼は、この瞬間を待っていた。
「いーや、そうはいかないな! 新たにリバースカード・オープン! 《リビングデッドの呼び声》を発動!」
「ここで蘇生だと!? 何をするつもりだ! そんなものでは! 破壊もダメージも免れまい!」
「こういうつもりだ! 既に抜け道は作られていた! 墓地から《D−HERO ドレッドガイ》を特殊召喚!」

「《D−HERO ドレッドガイ》。攻撃力はたったの1700……いや、違う! “ドレッドバリア”か!」
 墓地から吊り上げられたドレッドガイが悪魔の行進を阻む。運命の盾が、千鳥を阻む。
「その通り。《D−HEROドレッドガイ》は、時計塔が12時をさす時真価を発揮するわりと特殊なモンスターだが、別に12時をささずとも、その能力の一部は依然として使用可能。1ターン限りの無敵のバリアを張るだけならば、どんな方法で特殊召喚してもいい。残念だったな。既に石ころは置かれていた。呪うなら、自分の眼の悪さを呪うんだな、お嬢さん!」
「我の攻撃は無効ということか! 姑息なマネをぉ!」
「姑息? 違うな。お前が今から味わうのはそれ以上のものだ。特殊召喚されたドレッドガイは俺の場のD−HERO全てを守る。そう、特殊召喚されたドレッドガイは俺の場のモンスターだけを守る。逆に言えば、この“特殊召喚”によって、俺『以外』の場の、全てのモンスターは何一つ保護されない」
 瞬間、千鳥の顔が青ざめる。彼女はこの先何が起こるかを理解した。理解したが故に青ざめる。
「ドレッドガイの特殊召喚をトリガーに《激流葬》を発動! 俺のモンスターは全て“囚人の人柱(ドレッドバリア)”に守られる。だが、お前らのモンスターは全部サヨナラだ。賽を振るまでもなかったな」

「やるじゃねぇかショウ! 相手がカウンター罠使いと見て、2大全体除去を惜しげもなく使い、自分は上手いこと被害を免れるってわけか……って! おぉい!」
 拍手喝采かと思われたプレイング。だが、遥にとっては逆だった。
「俺の天使族も巻き込まれちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだこれっ! 次のベルクのターン、タコ殴りにされちまうじゃねぇか! 無茶してんじゃねぇぞ!」
「戦争に犠牲はつきものだ。戦争のない平和な世の中がくればいいが、それまでは致し方ないな」
「お前なぁ。覚えてろよ! 絶対てめぇのモンスターも隙を見てぶっ潰してやるからな!」

「あっちゃぁ。いきなり仲間割れしてるよあの2人。確かにこの決闘って、直接的な“干渉”はできないけれど確実に“影響”が出る。基本がシングルなだけに水を差される感覚が2人の仲を引き裂きかねない。この決闘、確かに怖い。最初からあんなだと、勝負どころの、後半でヤバイって言うか……」
「ああ。今回は『策』がはまったからまだいいものの、それでも一種の“しこり”は残る。コウジ! ヒジリ! やはりあいつらに過度な期待は出来ない。お前らの出来が重要だ。今の内。デッキチェックを怠るな!」
「りょ、了解……でっせ」
「新堂翔に桜場遥。まぐれで一度私に勝ったのは事実だけど、地力なら私と互角ぐらい。そして、コンビネーションなら、私とコウジの方が数段上よ!」

 新堂翔と桜場遥が多少険悪なムードを形作る。だが、勇一の言うように策がはまったのは事実。瀬戸川千鳥は唇を噛む。まんまとやられ、彼女の頭に血が上る。『やり返す』、その思考が彼女を覆う。
「くっ、カードを1枚伏せてターンエンドだ! この借りはでかいぞ! 新堂翔!」
 だが、当の新堂は、何処吹く風といった調子で受け流す。水と油のような格好。
「そうかいそうかい。そいつは困ったな。まぁ、困ったらとりあえずカードを引け、が死んだばあちゃんの遺言だ。俺のターン、ドロー! この瞬間! デビルガイによって除外された裏守備モンスターがお前の場に戻ってくる! だが、そいつの寿命はそう長くないぜ。まずはメインフェイズだ。《D−HEROダイヤモンドガイ》の効果を発動。俺が上から捲り当てたカードは通常魔法《デステニー・ドロー》、ビンゴだ。発動が確定する。俺はディスクガイとダイヤモンドガイを守備表示に変更。さぁ、バトルフェイズだ! ドレッドガイで壁モンスターに攻撃するぜ!」
「時間差攻撃か! 小癪なぁ! ならば! フィールド上から墓地に送られた! 《クリッター》の効果を迅速かつ正確に、一分の隙も無く発動ォォオ! 《魔装獣チリングワークス》をデッキから手札に! どうした新堂翔。2体ものしもべを守備表示とは随分と弱気だな。それで我のライフを削りきれるつもりかぁ!」

《魔装獣チリングワークス》 
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族 800/0
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。相手プレイヤーに与える戦闘ダメージはこのカードの元々の攻撃力となる。このカードが戦闘ダメージを与えた時、フィールド上に「深淵の再生工場」が存在する場合、 自分は墓地から罠カードを一枚手札に戻してもよい。

「生憎だが俺は、どっかの誰かさんとは違って、ライフをどかどか支払う、変態趣味はないんでな。カードを1枚伏せてターンエンドだ。欠伸をかいてりゃ、その内運が巡ってくるさ」 

―ハルカVSベルク―

「俺のターンだ、ドロー! さぁ、遊ぼうぜぇ! レアカードの分け前分は相手してやるよ!」
「片言でも、喋れるなら日本語で喋りやがれよ! 俺はドイツ語なんてさっぱりだぜ!」
 白熱する翔VS千鳥を尻目に、もう1つの闘いも加熱。この時のベルクは、水を得た魚。
「手札から《サイバー・フェニックス》を召喚! ダイレクトアタックだ! さっさと死ねぇ!!」

はぐれ万屋コンビ:14200LP
武戦殺法:14600LP


(この野郎はリクルーターを多用した、大量展開戦術を得意していた筈。それも、殴ることを第一に考えた攻撃型の展開戦術。となると、アレをはっとく価値が大きそうだな)
 遥の決闘能力は思いの外高い。翔も、それを理解しているからこそ、このベルクという得体の知れない決闘者の相手を任せることができた、と言ってもいい。遥だからこそ「《激流葬》で場ががら空きになってもアイツなら多分なんとかするだろ」的な信頼感があったのかもしれない。大会では翔とエリーに不意打ちを喰らったものの、彼はかって、あの元村信也を鼻差で下した経験を持っている。ついでながら、斉藤聖に完勝した経験も持つ。彼は、昨日の汚名を今日返上する気で満々だった。返上する日は、今日をおいて他に無し。
「俺のターン、ドローだ。手札から《天空の使者 ゼラディアス》を墓地に送り、《天空の聖域》を手札に加え即セット。そして、手札から2枚目の《ジェルエンデュオ》、攻撃表示で召喚! バトルフェイズ、《サイバー・フェニックス》を戦闘破壊するぜ!」

はぐれ万屋コンビ:14200LP
武戦殺法:14600LP


「あめぇ! 《サイバー・フェニックス》の効果発動! ドローだ! ライフは豪勢につかわねぇとなぁ!」
「かまわねぇよ。じっくり引いて、じっくりやろうじゃねぇか。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
 遥は《天空の聖域》の加護の下、ベルクの攻め疲れを待つ構えだった。手札には、墓地の天使族の数に応じてパワーを上げる《ムドラ》もある。焦ることはない。彼はそう考えていた。だが、その目論見は、思わぬところで破られることとなる。彼の運気は最悪だった。

―ショウVS千鳥―

「我のターン、ドロー。フィールド魔法《深淵の再生工場》を発動!」

《深淵の再生工場》 
フィールド魔法
500ポイントのライフを払う。墓地の一番上に存在する悪魔族モンスターをデッキの一番上に置く事ができる。

  バトルフィールドが光り輝く聖域から一転、薄暗い魔工場に変わる。頭が痛いのは、当然この男。
「おいおい! 俺の《天空の聖域》をどうしてくれんだよ! 俺のシングル戦を邪魔しやがって!!」
「知らんわ! 更に! 我は《魔装獣チリングワークス》を召喚! 勝負! 直接攻撃を仕掛ける!」
「スルーだ。伏せカードは発動しない。いや、発動するまでも無い。その程度ならかすり傷だ」

はぐれ万屋コンビ:13400LP
武戦殺法:14100LP


「ふっ、ならば効果を発動! 墓地の、《盗賊の七つ道具》を回収させてもらおうか。行くぞ!」
 『行くぞ』。この言葉に翔は微妙な不安を感じる。アレか? まさかまたアレなのか?
「まさかお前、アレをやる気か? 砂埃を巻き起こす例のアレ。だが今日は無理だろ。地面に砂が無い」
 身も蓋もない話だが、砂のないところに砂嵐はない。だが! 馬鹿はいる!
「ふっ、甘いわ! 瀬戸川流のカード隠匿術は! 全方位対応型と知れぃ!」





瀬戸川流決闘術奥義『日新札保』





「なんだぁ!? 瀬戸川千鳥が手札3枚を全て空高く放り投げた! 一体何をするつもりなんだ!?」
「な、なにぃー――ッ! 瀬戸川千鳥も! 空高く飛びあがった! 一体何の意味があるんだぁ!?」
「太陽だ! 太陽の光の所為で! 奴がどのように手札をシャッフルしているかが全くわからねぇ!」

「ふっ、鈍い頭で把握できたか! これが我が決闘の真髄! 回収したものを易々と伏せるものか。我は、カードを1枚伏せる。そして、このままターンエンドだ」
 恐るべき千鳥の奥義にギャラリーの精神が一瞬凍る。だが、この時の翔には、別のものが見えていた。
(よくやるぜ全く。だが、惑われさるわけにはいかない。お前の真の狙いは既に見えている。お前はあの大技で、俺の眼を手札に釘付けにしたつもりだろうが、生憎だな。万屋は疑い深いんだ)
(ふっ、我が奥義に目を奪われたが最後、貴様は最早、空を仰ぐばかりで地が見えず! そう、貴様は我が網にかかったのだ。これぞぉ! 瀬戸川流決闘術奥義『地雷蜘蛛』。絡めとってくれる!)
 そう、千鳥の狙いはここにこそあった。瀬戸川流の罠。だが、翔の思考はその上を行く。

(この局面、俺が真に気にすべきは、奴が1ターン目《盗賊の七つ道具》と共に伏せておいたカード。アレの正体が何かってことだ。奴は俺が《激流葬》を撃った時、カウンターする気配を一切見せなかった。デーモンやニュードリュアを一方的に失い、その後《クリッター》を含め、ボコボコに殴られることが判りきっていたにも拘らず、カウンター罠発動の気配を一切見せなかった。つまり、あの1枚はカウンター罠じゃない、或いは、カウンター罠だとしても《マジック・ジャマー》や《マジック・ドレイン》の類ということになる。それが俺の読み。さぁて、この読みを前提に、何が見えてくるかだな)
 長考する翔。だが彼は、極力「今自分が考えている」という事実を隠した。それが彼のやり方。
「ピョンピョンピョンピョン……まったくよく飛ぶよな。陸上選手目指した方がいいんじゃないか?」
 翔は冗談交じりに時間を稼ぎ、その間頭をフル回転させる。勝つ為に。
(仮に、カウンター罠じゃなかったとしたらどうか。《激流葬》でデーモンが破壊される前にチェーン・タイミングがあったことを考えれば、《魔のデッキ破壊ウイルス》の可能性は『0』だ。もしセットされていたなら、俺のデッキに対しあの瞬間に発動しない理由がない。となると、残る可能性は3つ。@ただのブラフA攻撃宣言誘発系罠B《死のデッキ破壊ウイルス》、他にも考えようと思えば幾らでも考えられるが、とりあえずはこんなところか。特に怖いのはBだな。魔装獣の召喚で発動条件は既に合っている。俺が本気出してアレを殺りにいった瞬間、チェーン発動される可能性があるな。となると、迂闊な真似は出来そうにない。俺の手札のドグマガイ様が酷い目に遭うだろうな。だが、放っておくわけにもいかない。あの魔装獣にポカポカ一方的に殴られ続けるのは流石によろしくない。まったく、疲れることだ。色々考えてみると、ここは中々辛い局面なのかもしれないな。だが、抜け道はある。いや、作ろう思えば作れる。さぁ、万屋らしく、あらゆるものを利用してやろうじゃないか!)

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、墓地の《デステニー・ドロー》を発動! ノーコストでカードを2枚ドロー。コレで俺の手札は4枚だ。だが、もう少し強欲になろうか! 《D−HEROダイヤモンドガイ》の効果発動! 俺が捲り当てたカードは、通常魔法《エクスチェンジ》だ。発動確定。さぁて、俺は……」
 一瞬攻めのそぶりを匂わせる新堂翔。この時、千鳥の気配が一瞬変わる。ほんの、一瞬。
(攻撃するなら攻撃するがいい新堂翔。こちらの準備は整っている。我が伏せたのは《死のデッキ破壊ウイルス》。《魔装獣チリングワークス》はこの為の餌に過ぎん。下級D−HEROを生贄に捧げて来るか、或いは、《魔装獣チリングワークス》に除外でも仕掛けてこようものなら、それこそこちらの思う壺。お前の損害は最大化される。無論、そのまま攻撃を仕掛けてきたとしても、その取引、我は一向に構わん! ウイルスでお前の戦力を破壊する。○か◎か。それだけの話よ。さぁ、どうする)
(一言だ。それ以上は相手の不審を呷り、転ばぬ先の杖で叩かれる。奴を押し留める為の一言……)
 この時、翔はたった一言こう言った。それは、千鳥の性格を考慮、彼が考え抜いた一言だった。
「甘いな千鳥。“お前の手には乗らないぜ。”ドレッドガイは守備表示、ターンエンドだ」
(さぁ、後は野となれ山となれ。千鳥がどう出るか、そして、傍らの遥がどう粘ってくれるかだ)

―ハルカVSベルク―

「俺のターン、ドロー! 手札から《二重召喚》を発動! 《ピラミッドタートル》と《キラー・トマト》を連続召喚! 行くぜ! 手札から《ツヴァイ・ラッセルト》を発動! バトルだ!」

《ツヴァイ・ラッセルト》 
通常魔法
種族・属性の異なる、攻撃力1500以下のモンスター2体を対象にして発動。そのモンスター2体の攻守はそれぞれ、2体の攻撃力を合計した数値となる。2体のモンスターは、このターン罠の対象とならない。このカードの発動ターン、他のモンスターは攻撃できない。

 「馬鹿みてぇな攻撃力! にゃろう! いい気になりやがって!」
 《天空の聖域》が隣の平行棒の側から上塗りされたことにより、ハルカの防御は薄かった。
「ロケット噴射だ! 受け取りなぁっ! 連続攻撃! 《ジェルエンデュオ》を激砕! 更にもう一撃ィ!」

はぐれ万屋コンビ:9900LP
武戦殺法:14100LP


(……ったくよぉ。《天空の聖域》があっちの《深淵の再生工場》に上塗りさえされなきゃ、俺の場はこんなことにはならなかったってのによぉ。全く面倒な決闘だぜ。つーか、さっきから俺ばっかあおりを喰ってるじゃねーか。ホンット、最近の俺、全然いいことねぇよなぁ。なんでこうなるんだ?)
「ハルカ! やられっぱなしじゃないか! しっかりしろ!」
「五月蝿いんだよショウ! てめぇがもう少し我慢しやがれ!」
「カードを1枚伏せてターンエンドだぁ! ハーッハッハッハッハーッ!!」

「笑い声が五月蝿いんだよ! 通常ドローだ。カードを1枚引くぜ! ライフを800支払って手札から《洗脳−ブレイン・コントロール》発動! 《ピラミッド・タートル》のコントロールを奪い、そのまま生贄に捧げる! 召喚! 《光神機−桜火》! 《キラートマト》を戦闘破壊してやるよ!」

はぐれ万屋コンビ:9100LP
武戦殺法:13100LP


「《キラートマト》の特殊効果発動! デッキから、《グレイブ・スクワーマ》を特殊召喚!」
「お前のデッキは四次元ポケットか! ドカドカ出しやがって! カードを1枚伏せてターンエンド」

「ユウイチ、少しづつだけど、差がついてきたわね。やっぱりあいつらは、強い」
「まぁな。だが智恵、どうせあいつらは捨て駒なんだ。そんな期待することもないさ」
「本当にそう思ってるの? ユウイチ。私は一応応援してるんだけど。結構お世話になったんだし」
「ふぅ、そうだなぁ。1つ何か言うなら、万屋の連中は耐えて待っているようにも見えるぜ。何かをな」

―ショウVS千鳥―

「我のターン、ドロー。バトルだ! 《魔装獣チリングワークス》でダイレクトアタック!」
 千鳥は思う。この決闘の、勝利への道を思う。彼女には、勝利までの道のりが見えていた。
(我の手には乗らない、か。慎重策もそこまで行くと滑稽だな。我の場に伏せられたのは《死のデッキ破壊ウイルス》。お前がどのような手に出ようが、結局は感染する以外に道は無い。お前は《次元幽閉》かなにかを恐れたのだろうが、ウイルスカードは何時でも何処でも、ドレッドガイ以下全ての攻撃要員を根こそぎ破壊できる。躊躇するなら好きなだけ踏みとどまるがいい。お前の手札に切り札が舞い込み、ウイルスがより高い効果を発揮するだけの話だ。ベルクも優勢。焦る必要もない。貴様が踏みとどまるその間は、削れるだけ削らせてもらおうか!)

はぐれ万屋コンビ:8300LP
武戦殺法:13100LP


「ちっ、せこく削ってくる奴だな。ようやく8300か。長い決闘だよホントに」
 翔は思う。この決闘の、逆転への道を思う。彼は、勝利までの道のりを、無理矢理捻じ曲げ作り出す。
(瀬戸川千鳥の墓地に罠カードは無い。つまり、魔装獣による回収行為は行えないということ。なら、これでいい。1ターンという『時間』を、たったの800ライフで買えるなら儲けものさ。アイツは今、やろうと思えばここでウイルスを発動、再生工場でアレを戻す手も使えた。なのにそれをしなかった。それはやつが、あくまで後の先を狙っているからだ。それに、ベルクの好調も計算に入っている筈。ベルクがこのまま遥を圧倒すれば、“負けさえしなければ勝てる”わけだからな。遥は実にいい決闘をしてくれる。精々、立ち往生しようじゃないか。俺の為にな!)
「我はカードをセットしない。このままターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー。メインフェイズ、《D−HEROダイヤモンドガイ》の効果発動! デッキから1枚捲る。通常魔法《オーバー・デステニー》だ。発動確定、は嬉しいんだが、どうせラッキーが続くならこいつを捲り当てて欲しかったな。手札から《デステニー・ドロー》発動! 《D−HERO ディアボリックガイ》を墓地に落として2枚ドローだ」
「流石は純正のD−HERO、《トレード・イン》まで投入し、超高速でデッキを回転させる。その回転力は褒めておこうか。だが、所詮は仇花よ。1枚1枚のパワーが低ければ何の意味もない、空回り! それとも、温存してるのかな? 我の方は何時でもいいぞ。何時、誰の挑戦でも受けよう!」
 千鳥は余裕だった。相手が痺れを切らして動いた瞬間を見極めウイルス発動。その瞬間から息の根を止めに行く。『人札一体』、そのシナリオに変わりはなかった。ベルクの場も優勢。焦る必要はない。逆に向こうは、そろそろ焦って仕掛けてくる筈。千鳥は、最も効率のいい取引を選べる立場にあった。だが!

(やっとコイツを引いたか。これでいい。1ターン、うまいこと場が膠着したもんだ。これで、いい)
 だがしかし! その優位な状況こそが、逆に決闘のキレを鈍らせることがある、新堂翔は既にウイルスの発動を確信していた。そう、隠匿されたかに思われた、千鳥の思惑を見抜いていた。そして、1ターン待つ危険を冒してまで、D−HEROの回転力により必要な手札を揃えてきた。彼にとっては、今この瞬間こそが千鳥に一泡吹かせる絶好の機会だった。彼にとって、停滞は迷いではなく、決断だった。

「わかったよ瀬戸川千鳥。このままにらめっこするにも飽きてきた。カードを2枚伏せてバトルフェイズ! 《D−HERO ドレッドガイ》で《魔装獣チリグワークス》を攻撃する!」
「単体攻撃か! 《魔装獣チリグワークス》を媒体に! 《死のデッキ破壊ウイルス》発現!」
「参ったな。そいつはナシだろう……」
 当然『嘘』。だが新堂翔は、既に判明している通り性格が悪い。彼は、土壇場まで話を引っ張った。
「ふん! これで《D−HERO ドレッドガイ》はまず死んだ。さぁ、手札を見せてもらおうか!」
 翔の手札を覗き込む千鳥。はたしてそこには、目当ての獲物が居座っていた。
(《D−HERO ダガーガイ》と《サイクロン》、そして《D−HERO ドグマガイ》か。大物が落ちたか!)
 一瞬心にガッツポーズを浮かべようとする千鳥。だがその時背に悪寒。何かが、おかしい。
「ああなんてことだ。こりゃぁまったくヤバイヤバイ。哀しくて死にそうだ」
 翔は笑みを浮かべている。何かが、おかしい。単純な、見落としがあったのではないか。
(何故3体もの生贄がいたにも拘らず、今の今までドグマガイが生贄召喚されなかったのか。単に引かなかったのか? いや違う。アレは左端のカード。そして奴は手札のシャッフルを今まで一度も行っていない。奴は右側から引いたカードを加えていった。つまり、ドグマガイは既にあった。にも拘らず温存…… ちぃぃぃっ!)

「確認は終わりか? なら、ショータイムだ! バトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移行しようか! 手札から《サイクロン》を発動! お前が場に伏せといた、残りの1枚を破壊するぜ!」
「我が伏せたのはカウンター罠《魔宮の賄賂》だ。このまま墓地に送ろう」
「危ない危ない。《盗賊の七つ道具》かなんかだとタカを括ってたら、今頃痛い目にあうところだったな。さぁて、俺はさっき場に伏せたカードの内の、1枚を今使うぜ!」
 千鳥が、そのカードの正体に気がつくがもう遅かった。翔は、最初から場の情勢を出来る限り現状維持に仕向けつつ、自分が動いた瞬間に千鳥が動いた瞬間、更にもう一度動ける体勢を水面下で整えていた。彼は、《死のデッキ破壊ウイルス》の持つ、高い汎用性を逆に利用、この瞬間を演出した。

「《戦士の生還》を発動。《D−HERO ドグマガイ》を手札に戻す。更に! 墓地の《D−HEROディアボリックガイ》をゲームから除外! 同名カードを場に特殊召喚する。これで全部OKだ。これで平穏かつ公然と、善意無過失でこいつを即時取得することが可能となった。サルベージにウイルスは効かない、この世の常識だ。さぁ、行くぜ! 場の3体のD−HEROを生贄に捧げ、《D−HEROドグマガイ》を特殊召喚! こいつの能力は勿論知ってるよな。かわいそうなくらい凶悪だぜ」
(やられた! こやつは我の伏せカードが《死のデッキ破壊ウイルス》だと読んだ上でドグマガイの生贄特殊召喚を見送り、この瞬間を待った。ドグマガイの守備表示にも、『お前の手には乗らないぜ』という、あの忌々しい一言にも深い意味はない。ウイルスを抱えた上での“有利な”膠着状態に、我を釘付けにするのが狙いとは! 甘い! なんと甘いのだ我は!)

「まだだ! ダイヤモンドガイの効果はまだ生きてるぜ! 墓地の《エクスチェンジ》を発動!」
 晒される決闘者の手札。隠しに隠された秘密の花園が、その露な姿を衆目に晒す。
「成る程な。俺は《冥府の使者ゴーズ》を選択。俺の最後の1枚、《D−HERO ダガーガイ》と交換だ」
(チッ、当然そうくるか。出来るならば、《エクスチェンジ》で《冥府の使者ゴーズ》を奪われた後に、《死のデッキ破壊ウイルス》を撃ちたかった。だが、感染を読まれていた以上は詮無きことか!)
(《冥府の使者ゴーズ》が貰えるとは流石にラッキーだったな。こちらに都合よくウイルス発動を先送りしてくれた背景には、こういう裏事情もあったというわけか。まぁ、一応その可能性をも考慮した上で《エクスチェンジ》を最後に発動したのは事実だが、何にしても上手くいったもんだな。さぁ、仕上げだ)
「ラストだ! リバース! 《封印の黄金櫃》を発動。俺はデッキから《早すぎた埋葬》を除外する。さぁて、俺にはもう何もやることがないな。これでターンエンドとしゃれ込みたい所だが、折角の機会だ。1つ予告しとくぜ。時を操るダークヒーローらしくな」

“Life Absolute(彼は大事なものを奪っていきました。それは、貴方の貞操です)”


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
“ツーブリッジ・デスマッチ”。偶然の思いつきだが、カードプールの制限とかよりもよっぽど気が利いていて、気に入ってます。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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