「今日集合だ。面倒? いいじゃないか。折角のチームもどきなんだからさ」
 デュエルクルセイダーズ。妙に仰々しいが、その本質はサークル活動の亜種に過ぎない。それも短期の。大会が終われば解散するであろう、その程度の集まり。ディムズディルの知り合いの中で、たまたま暇だった連中の集まりである。ディムズディルは、軽くあくびをしながら電話を切った。
「でゅえるくるせいだーず。定期的に言わなきゃ、自分でも忘れそうになる」
 苦笑するディムズディルだったが、言いだしっぺは当の本人。たまに馬鹿を言わないと駄目な性分。
「適当に引き連れてみたはいいが……やはり僕はリーダーとか、そんな類のものには向いていないらしいな。第1に、カリスマがない。そして第2に……単独行動が好き過ぎる」
 ディムズディルは着替ると、デッキを幾つかもって外に出た。仲間と会う為に。
「まるでピクニックだ。こんな僕をあのローマが見たらなんと言うのだろうか。笑うかな」
 彼は懐から“SCS”と刻まれたカードを一瞥すると、群れの中に向かって歩き出していった。尚、彼が目的地に着くまでの間、10人の決闘者が敗れ去り、コンビニ強盗が捕まり、闇討ちを仕掛けた忍者決闘者が撃退された、この辺の小さな事件に関して彼がいったいいかなる活躍をなしたかについては、最早叙述するまでもないであろう。彼は、空気中の酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すぐらい自然な動作で事件を引きつけては、その荒波の上を素足で走っていた。それが彼の、どうということのない日常である。

「裏コナミ、か。まさかマジで言ってるんじゃねぇよなぁ。マジだったらやっべぇよなぁ」
 ソリティアの会は揺れていた。偽遠藤の爆発に加え、新たに登場したローマを名乗る男。明らかな異常事態。彼らは、2人とも“裏コナミ”を名乗っていた。元村信也は嫌な予感に襲われ、問い質した。
「仲林さん! 裏コナミが何なのか、あなたは知っているんですか!?」
 信也が食い入るように仲林の顔を見つめるが、言った本人は「冗談だろ?」といった表情。
「人を変な目で見るなよ元村君。都市伝説だよ都市伝説。古株の決闘者なら一度は聞いた都市伝説」
 都市伝説と言いつつも、仲林は内心不安を抱いていた。と、そこに、不安を裏付けるもの約一名。

「いえ、この状況、本物の裏コナミかもしれません。私の集めた情報に一致します」
「貴方は確か……津田早苗さん! あの人達のこと知っているんですか!?」
「彼が今左手で弄んでいるあのカード。アレ、コナミの上級社員が所有するものに酷似しています。おそらくは本物。あのエキセントリックな登場方法も、私が各地で聞いたとおりです。何処からともなく現れて、決闘の嵐を巻き起こし、アフターケアなく去っていく。私が知っている裏コナミとはそういう人達の集まりです」
「それ、ろくでもないって言ってるのと同義ですよ。まさか……」
(裏コナミ、そういえばアキラさんが……冗談だと思っていたが、まさかな)

「さぁてと。なんにしてもだ。あんた……ここになにしに来たんだ?」
 意を決した仲林が問う。ローマを、裏コナミを名乗る男は答えた。
「簡単だ。昨日だったか一昨日だったか鮫が数匹バチャバチャと。随分な連中でな。トレードに刃物を持ち出す奴までいた。リーダーの名前は萩山栗滋郎。他にも数人いたが首謀者はこいつだった。適当に目障りだったからな。飯前の軽い運動がてら潰しといたが、そいつはなんでも構築的懐疑とやらのメンバーらしい。それを聞かされては、動かぬわけにはいかないだろ?」
「萩山栗滋郎!? それは確か……」
「知っているんですか、津田さん!」
「萩山栗滋郎。かって構築的懐疑に所属していた決闘者。人呼んで『中部地方の黒き鮫』。決闘者としての実力も中々のものでしたが、それ以上に、カード売買の才に長け、マーケティングで多額の富を築いた男。しかしそれは表向きの姿。実際は手下を用いたシャークトレーディング部隊、通称『萩乃月』を組織。強引なやり方で弱者からカードを貪っていたことが発覚。3ヶ月前構築的懐疑を除名された、あの!」
「あーあいつか。確かにアイツはここにいましたけど、今はもう……」
「だが、第二第三のやつがいないとも限らんな。折角だ。試めさせてもらう」
「試すだと? どうするつもりだ!」

「カードゲーマーを試すにはカードゲーム。お前らに選択権はない。デュエル……スタート」
「選択権がないだと! てめぇ、勝手に決めてんじゃねぇ! 俺達がやるかどうかは……」
「頭の悪い連中だ。お前らは挑まれているのではない。襲われているのだ」
システム正常。安全装置解除……カウントダウン省略型Bモード……
(なんだ? あのデュエルディスク。女性の、電子音声?)
 ローマは右腕につけた決闘盤からボードを引き出す。彼は、懐から《スフィア・ボム 球体時限爆弾》を取り出すと、決闘盤に表側攻撃表示でカードをセット。その時だった。

ドォーン!

(爆発!? アレはこの広場の、西側の入り口!?)
「これで出口が1つ消えた。言っただろう。お前たちに選択権などない。面倒だ」
「て、てめぇ……いったい自分が何をやっているのかわかってんのか!」
「ああ、わかってるさ。逃げられては面倒だ。軽い監禁というやつだ」
 ソリティアの会のメンバー達が騒然とする。もっともそれは、恐怖からではないが。
「てめぇ数を見てものを言えよ。ここには全部で124人(+2)の決闘者がいるんだぜ!」
 そう、数の差は歴然。ローマが、タコ殴りにあうのは必然と思われた。だが!

ブゥオッ!

 突如ローマがしゃがむ。その頭上を、通り抜けていく一筋の閃光。
「なんだ!? 今のはなんなんだ!? あ、アイツは……誰だーっ!?」
 攻撃は、ローマの前からではなく後ろからだった。ローマが呟く。
「ベルメッセ……か。気配の消し方が甘い。殺気がだだ漏れだ」
 そこには、鈍器らしき扇を携えた美女がいた。多少、悔しそうだ。
(今度は美女!? でもなんで殴りかかった!?)
「許さない。絶対許さない。おまえなんか……おまえなんか」
(味方を後ろから殴りつけるってどういう神経……ってあれは!)
 信也が彼女の後方を見やると、そこには地獄絵図が広がっていた。

「み、みろ! あの女の後ろ!どいつもこいつもぶっ倒れてやがる!」
 間違いない。状況証拠から見てやったのはこの女、ベルメッセだ。
「佐東、秋山、坂本、神楽、池松、唐松、六本松、それに池田も! てめぇら、どういうつもりだ!」
 絶叫するのは九州三強・神宮寺陽光。倒れているのは、どいつもこいつも彼の舎弟。
「この辺ふらふら歩いてたら、わたしを見てひそひそひそひそ。だから人間の集まりは嫌い」
(じゃあ来るなって。そりゃアンタほどの美人が何の脈絡なく歩いてたら気になるだろ普通)
「陰口よ陰口。苦しいじゃない辛いじゃない死にたいじゃない。それに、わたしの肩を掴んで『お嬢さん、俺達と一緒にベスト8の神を拝まないかい』なんて……どこまでわたしを嬲れば気が済むの?!」
 わけがわからないが、この時、信也は背中にぞっとするものを感じる。ローマに後ろから殴りかかったあの女は、後ろの連中をどうしたのであろうか。やはり鈍器か。鈍器なのか。
「だから教えてあげたの。それだけ。殺してない。殺すと、その日眠れない気がする」

 ソリティアの会が一瞬沈黙に包まれる。誰にも気がつかれず、自分に気がついた8人だけを失神させたベルメッセ。数の優位が、段々と揺らいでいく。本当に、強がっていいのだろうか、と。
「どうした? 7〜8人やられたくらいで何を怖気付いてるんだ?」
 ローマが嘲笑う。その眼には、一種の狂気が宿っている。
「不味いな。あいつらがホントに裏コナミなら、数の有利など消し飛ぶぜ」
「同感です仲林さん。あの人達はまともではない気がします」
「おいお前ら! 東に小さな出口がある! まずはここを出るぞ!」
「え? 出るんですか! アイツを倒せば……」
「嫌な予感がするんだよ。積もる話は、ここを出てからだ!」
 一端戦略的撤退を促す仲林。その判断は正かった。しかし!
「暮らしを豊かにする企業・裏コナミの提供で地獄に落ちろ」
 ローマは既に用意していた。新たなる、裏コナミの刺客を。

「な、なんだてめぇは……てめぇも裏コナミか!」
 出口には既に、1人の男が待機していた。
「貴様らに怨みはないが、これも大義の為だ」
 男は、並々ならぬ闘気を放つ。まさに仁王立ち。
「おとなしく戻れ。いらぬ犠牲を出すことはない」
「てめぇ、たった1人でこの出口を塞げると……」
 激昂するメンバー達。彼らはアイコンタクトで合図しあう。
「いくぞ! 強行突破だ! ぶん殴ってでも走り抜けるぜ!」
 号令を発し、ガタイのいい6人のメンバーが強行突破を図る。
「おらおら! どかないと怪我するぜぇーっ!」
 その勢いは尋常ではなかった。だが男は、溜息をついた。
「相手を見てその力の差を測れない。貴様らは失格だ」

『札』!『盤』!『引』!『置』!『召』!『喚』!

 一瞬だった。突っ込んだはずの6人が跳ね飛ばされる。
「お、おいお前らしっかりしろ。何が……はっ!?」
 気を失った5人に駆け寄る男が、あることに気がつく。
「馬鹿な。5人が5人カードを握っている。しかも、ライフが『0』だ!」
 通常なら絶対にあり得ない現象。だが男は、さも当然といった風。

瀬戸川流決闘術超奥義『夢想札眼』(クワッ!)


「左端の男は、1ターン目から最上級通常モンスターを《古のルール》で召喚、速攻めを仕掛けたが、俺の仕掛けた罠にかかりそのまま自滅への道を辿った。左から2番目の男は瞬殺戦術を俺に仕掛けたが、わがつばめ返しにより形勢逆転、一刀両断の下に切り捨てられた。中央の男に至っては最早論外。紙の束に対して語る舌など持たん。だが、右から2番目の男はまだましというべきか。術・罠の脅威を省みぬ、果敢な攻め上がりは一応の評価に値する。だが、まだ若い。敵として見るには一枚も二枚も足りん。最後、右端の男だが、炎帝を囮に切り札を温存する策それ自体は悪くなかった。だが、胆力が伴わぬ策など、犬も食わん。裏コナミSCS『武道』担当、この瀬戸川刃と闘うにはいずれも未熟!」
「化物だ! あいつ、5人の特徴を寸分違わず当てやがった。あの一瞬で何をどうやればそんな……」
「決闘力の低い雑魚など、時間をかけて相手をするにも及ばない。あの程度の者の決闘など、我が間合いで一瞥すれば一から十に至るまで判って当然! それが『人札一体』瀬戸川流決闘術の極意」
(瀬戸川流! 瀬戸川千鳥だけじゃなかったのか。それも超奥義! これが裏コナミの層の厚さ!?)
 圧倒的なプレッシャー。瀬戸川流を名乗るその男の迫力は圧倒的だった。加えて、あのような惨状を見せられては、正面突破を図ろうなどとこの上言い出せる者がいる筈もない。今まで数の優位から状況を楽観視していたメンバー達も、次第に危機感を募らせていく。逃げなければ、不味い、と。

「だ、駄目だ。こっちからは脱出できない。おい、携帯で助けを……」
 内からの脱出が不可能ならば外からの救援を呼ぶ。妥当な判断だった。だが、妥当こそが、彼らと顔を合わせるにおいて最も危険な行為であることを、彼らはまだ知らない。否、これから知るのだ。
「そ、それが。さっきからやってるんだが携帯が繋がらないんだ……」
 焦りを募らせるメンバー達に向かって、瀬戸川刃は吼えた。
「だから無駄だと言っている! 天の足場を見据えるがいい!」
「上だと? 一体なにが……あ、アレは誰だ!?」
 彼らを、更なる絶望の底に叩き落す、千両役者がそこにいた。
キェー! 善い人よ。迷うことなく、よく聞くがよい……金剛の眷属、ヴァジュラ・へールカが自らの脳の内から生じ、目の前にその姿が……オーム・アー・フーム!
「左の膝を首筋に乗せ、右足の爪先だけで立っている!? なんだぁ!? あいつは一体なんなんだ!? 手に持っている、あの怪しげな器具は一体なんなんだぁ!?」

大いなる完成(ゾクチエン)

「裏コナミ7人委員会『宗教』担当ドルジェダク=ヤマンタカ。最早ここは、あの男の結界の中だ。貧弱な文明によって創出された、微弱な電波の抜け出る余地等どこにもない!」

 恐るべきは裏コナミ7人委員会。一瞬にして治外法権を生み出すその手腕。登場の時点で、全ての足跡を消し去る準備さえ整っているとみて間違いないだろう。いやむしろ、足跡が大きすぎるあまり何が起こったのか外の人間が想像する余地がないとさえいえる。恐怖が右肩上がりで増大していく。この非常事態に際し、既に何人かは冷静さを失っていた。それ程の恐怖。だが、それこそが最も危険なのだ。
「う、うわぁぁぁぁ! こ、こんなところに1秒でもいられるか! 俺には軽業経験がある。壁を登って……」
「中代、ちょっと待つんだ! 下手に動くとヤバイ!」
 危険を感じ取った同僚が静止を促すが、時既に遅かった。中代は壁をするすると駆け上り領域からの脱出を図る。だがその時である。壁に同化していた、1人の決闘者が突如姿を現した。突然の緊急事態に慌てふためく中代。保護色を全身に纏っていたその男は、中代の真上にその姿を見せる、と、その瞬間、驚いた中代のバランスが崩れ、彼は地面に打ち付けられる。中代は、最早ピクリとも動かない。
「中代! 中代! くっ、駄目だ! 気を失っている。何故だ、何故こんなコトに……」
「あのシルクハット。まさか、あの紳士は何時の間にか、壁に同化していたってことなのか!?」
「おっと、言い忘れてたな。その辺の壁には、裏コナミ7人委員会『万化』担当ゴライアス=トリックスターが適当に身を潜めている筈だ。裏口を探そうなどというマネは止めて置いた方が身のためだろう。奴は森羅万象あらうるものに成り代わり、音もなく忍び寄って敵を討つ。精々気をつけることだ」

 突如現れた5人の猛者を前にして場が大混乱に陥る。無論、その中には彩達もいた。
「シンヤ、これなんかヤバイよ。てか、絶対やばすぎる!どうしよう……」
 遠目から様子を伺っていた信也と彩が戦慄する。不味いことになった。遅刻の言い訳にはなりそうだが、そもそもの話として、再び仲間達の元に合流できるのか。それさえも今は怪しい。
「わからない。だけど、ここは様子を見ないと駄目だ。あの人達の二の舞に成る」

「本題に入ろうじゃないか。俺を倒してみろ。日本最強の看板、偽りは許さん」
「マジかよ。裏コナミに狙われたら、企業すら軽く落ちるっつぅのに。それも5人!」
 いずれも一騎当千の5人である。どれもこれも、まともな神経とはとても思えない。
「勘違いするな。後ろの連中はただの見張りだ。この中で闘うのは、この俺だけだ」
 見ると、ベルメッセが座り込んでなにやらぶつぶつ言っている。ジンは仁王立ち。ドルジェダクは祈り続け、ゴライアスに至ってはどこに潜んでいるかすらよくわからない。ローマは右腕に装着した、左利き用決闘盤を突き出し、デュエルモードに移行。十字架状のデッキシリンダーに1つのデッキをセットさせる。
省電力モード解除。デュエルモードへ移行。出力100%。システムオールグリーン……
「さぁ、誰がやる? 潰されたくなかったら、精々足掻いてみろ。決闘の世界は、闘う者が正義だ」
(シャークトレードへの警告の筈が、何故こうなる。あの男、まともな神経じゃない!)
 元村信也が考えるようにこれはまともな状況ではない。だが、彼は心のどこかでわくわくしていた。
(けど、考えようによっては面白い。裏コナミSCS。僕らは特異点の中に巻き込まれたのかもしれない) 
 即席の治外法権の中、信也は胸の高鳴りを感じていた。決闘狂人達の饗宴が始まる――

第36話:同時多発決闘(テロ)


「ならば、親善試合と行こうじゃないか。決闘の世界は闘う者が正義だ。受け売りだがな」
 翼川高校カードゲーム部とデュエルクルセイダーズ、この2つがたまたま同じ場所に集合したことから全てはおかしくなった。そして事態は、千鳥・ベルクといった血の気の多い連中が、翼川のお笑い担当こと武藤浩司&斉藤聖(ヒジリン)を挑発したところから悪化の一途をたどる。最初は馬鹿の言いあいだったが、次第に千鳥が激昂。対抗した浩司も激昂。気がついたら一触即発な状況にまで及んでいた。今日の浩司は何故だかやたら機嫌が悪く、普通なら軽く受け流す所でも、むしろ火に油を注ぐ有様だった。因みに、決め手となったのが千鳥の、「影の薄い男が! お前は誰だ!」であったことは最早言うまでもない。当初、翼川の大将であった森勇一はクールにスルーを決め込もうとしたが、この男はこの男で思いのほか挑発に乗りやすい。気がつけば最前線で言い合いに参加していた。どちらが強いか、以前のフリーデュエルの決着のこともある。このどうしようもない状況の中、コレ幸いに(?)話を持ちかけたのがディムズディルだった。どいつもこいつも、である。カードゲームをやる人間にろくなやつはいない。

「親善試合? だが、数が多いぜ。代表戦でもやるのか?」
「団体戦をやればいいじゃないか。僕らも8人、君らも8人だっただろ?
「成る程な。じゃあ、補欠1人の団体戦だ。タッグ2戦、シングル3で行こうぜ」
「了解だ。大会では、どうせ組み合わせ次第だ。こういうのも悪くないだろ?」
 この間きっかり15秒。物凄い勢いで両大将間の話が纏まる。結局闘いたいのだろう。
「いーじゃなーい。わたしも賛成。でも、なんか景品ないと盛り上がらないんじゃない?」
 十数人いれば内1人くらいはろくでもないことを言い出す。この時のそれはヒジリだった。

「なら僕は《Chimaera,the Master of Beasts》を出そう。負けたらこれをくれてやる」
 ディムズディルは懐から1枚のカードを取り出す。そのカードは神々しい輝きを放っていた。
「なっ、幻のレアカード!? そんなものどっから……」
 彼の決断は超高速。考えて行動しているのかすら怪しい速度。
「別にたいしたことはないんだがな。おっと、これだと君らの側で釣り合いが取れないか」
 挑発である。まさしく挑発である。乗っては駄目だと誰もが思った。だが!
「なら俺は、オリジナル版《暴走神−蔑みの足枷の龍》を出す。これでいいな」
 やつはのった。そりゃあもうあっさりと。自信が服を着て歩けば、トラブルに当る。
「ユウイチ!それヤバイって。ヤバイから!」
「負けるかよ。負けるわけがないだろ……」
 駄目だった。ディムズディルはその挑戦を受け、ニヤリと笑う。
「まぁ、正直釣り合わないがそれでいいだろう。さぁ、勝負だ」
「勝つのは当然俺達だ。俺のチームに敗北はない!」
 ディムズディルと森勇一が顔をつき合せ、そして離れる。
「作戦会議で15分、2戦やったら、時間的には飯時だな」
「ああ、じっくりやろうじゃないか。だが、勝つのは俺達翼川だ」

「なんでこうなったんだろう。ねぇダル……」
 確かに馬鹿馬鹿しい展開だったが、ダルジュロスはわりと落ち着いていた。
「まぁ、アイツが集まろうとか言い出した時点で、馬鹿になるとは思ってたがな」

【翼川高校の場合】
「さぁってと。メンバー決めるかな。まずは先鋒だが……」
「シンヤが遅刻やで。あと、アヤもや。携帯にも出えへん」
「なに? おいおい、不味いな。当然いるものと思って合意したんだが、な」
「あらら。あの子らがいないとなると、今ここにいるのはっと……」
「ユウイチ、コウジ、ミズキ、サツキ、ヒジリ、あと私、東知恵の6人……ってアレ?」
「どうすんでっか旦那。アキラがいないもんやから元々ギリやったんですよ。となると……」
「どうすっかな。今更引くのも嫌だしな。とりあえず、息がぴったり合いそうなミズキとサツキに先鋒を頼んで、その間にシンヤとアヤをどうにか……って、ん?ミズキ、どうした?」
「ちょっとのらないっていうか体調悪いっていうか…ごめん」
 瑞貴はのっていなかった。むしろ物凄い勢いでひいている。
「えぇ!?ヤバイじゃん!ねぇ、なんとかならないの?気合よ気合!」
「私は……ちょっと……」

「勝つ気がないならやめときな。傷を増やすだけだ」
「もうちょっと言いようはないのか? 嫌われるぜ」
 そこには、2人の男が立っていた。すわ何者か。
「お前らは…………何しに来た! 何が目的だ!」
 一番驚いたのは勇一だった。そのリアクションを確認した上で、男は言った。
「何しに来た、はないだろ。翼川高校OBとしてお前らの助っ人をやりにきた」

【決闘十字軍の場合】
「そういうわけだ。誰か適当に、やりたいやつが先鋒をやってくれ。僕は寝る。睡眠不足だ」
 ディムズディルの決断は速かった。いや、最早決断ですらない。普通に爆睡である。
「……っておい! ディムズディル! ああ、畜生。自分から言い出しといてもう寝やがった!」
「フォッフォッフォ。流石じゃのう。極めて寝つきのいいことじゃ。これはもう当分起きんの」
 頭を掴んで揺さぶられても目覚める気配0。元々顔はいいが寝るともっといい。安らかな寝顔。
「ったくよぉ。まっ、どうせ大将戦までコレの出番は回ってこねぇ。先鋒決める方が先だな」

「フォッフォッフォ。それはいいがダルジュロス。ピラミスがいないことに気がついとるか?」
「ああん? おいおい。また例の『朕は高貴也』ってアレか? つーか、グレファーすらいねぇじゃねぇか。するってぇと今ここにいるのは……俺だろ。ヴァヴェリのクソジジイだろ。エリーだろ。千鳥だろ。ベルクだろ。そんでもって、トリは、俺の後ろで昼寝ぶっこいてる大馬鹿野郎、全部で6人じゃねーか。足りねぇよ」
「フォッフォッフォ。少ない少ない。まぁ、頭数に関しては大丈夫じゃろ」
「なんでそういえるんだよ。爺ぃ。数が足りなきゃ最悪不戦敗だぜ」
「あそこで寝取る男は戦いの申し子じゃ。こういうことでヘマはせんよ」
「あぁん? それが根拠かよ。アイツもたまには凡ミスするんだぜ。たまにはな」
「その時はわしらだけで3勝してしまえばいいことじゃ。そうは思わぬか?」

「(流石は爺さんだな。負けたショックで落ち込うなだれる、そんな柄じゃ死んでもないってことか。)しゃーねぇーなぁ。そんじゃ、順番決めるとするか。だがな、まず最初に言っておく。俺には何も期待するな。俺を当てにするな。俺のことなど一切信用するな。わかったか!」
「ダル……それ……駄目だと思う」
「フォッフォッフォ。相変わらずじゃのう。それでよく司会が務まるもんじゃ」
「アイツが寝てなきゃ俺は隅っこでデッキでもいじってたさ。大体、俺だって眠いんだぜ」
 彼は、手を肩の上にあげ、背後に親指をさし、ぶっきらぼうな調子で言い放った。
「寝不足の原因。アイツと夜中まで話し込んでたのはこの俺なんだからな」

 ―15分経過―

 大将の2人が向かい合う。ユウイチとダルジュロスだ。
「タッグ・シングル・タッグ・シングルでやって、それで決まらなければラストのシングル戦で決着をつける、だったな。こっちはもう一通り決まったぜ。そっちはどうだ?」
 あくまで一通り。戦略に柔軟性を持たせる構えの森勇一。
「ああ。ぶっちゃけろくに決まってないがもういいぜ。出たいやつが出る。出るやつが強いのさ」
 一通りすら決めてないとうそぶくダルジュロス。勇一は、彼の眼を怪しむ。
(あの眼帯。どうもつかめない男だ。それも戦略の内か。或いは本当に行き当たりばったりなのか)
 お互いが腹のうちを探り合う、そんな時間のことだった、1人の男が場に到着する。

「おっ、あれってまさか審判か?」
「大会でやってた人じゃんアレ」
「審判、だよな。誰が呼んだんだ?」
 誰にも心当たりのない審判到着。ダルは、傍らのヴァヴェリに言った。
「爺さんよ。確かに、馬鹿なことやるにはヘマしないやつだな、アイツは」
 ディムズディルは、携帯片手にすやすやと死んだように眠っていた。
「幾ら払ったんだか。まぁ、いいさ。始めようぜ。2VS2のタッグデュエルだ」

【団体戦】
[][]VS[][]
[]VS[]
[][]VS[][]
[]VS[]
[]VS[]


―『ソリティアの会』集会場―

「どうした。はやく立ち上がれよ」
 大の字に倒れた男に向かってローマは、冷酷な声を投げつける。
「くぅ……図に乗るなよ。まだテンカウントは聞いちゃいねぇ!」
 男は、ふらふらしつつも立ち上がる。だが、その膝は既に笑っている。
“Ancient Gear Knight”の生存を確認。バトルフェイズ終了。メインフェイズ2に移行します
「さぁ、ここからが本番だ! 死にたくなければ見極めてみろ!」
“Future Fusion”を発動。2ターン先の未来に“Superalloy Beast Raptinus”の命を、過去の世界に“Chthonian Emperor Dragon”の骸を2つ、送り出します。システム正常……
「手札から下僕を1体場にセットする。ターンエンドだ」
「はぁ……はぁ……くそっ。調子に乗りやがって……」

神宮寺:5800LP
ローマ:7200LP


「あの神宮寺さんが押されているなんて。もう3回もダウンを……」
「立っているので精一杯なのか。神宮寺! 頑張ってくれ……」
 悲痛な表情で応援するメンバー達。ローマは、ふっと笑う。
「仮にも日本最強を名乗るなら、その証を見せてみろ」

「ちっ、俺のターン、ドローだ……」
 ローマの挑戦に対し、真っ先に名乗りを上げたのは他でもない九州三強決闘者・神宮寺陽光だった。彼は、自分の舎弟がやられた恨みを晴らすべく真っ先に名乗りをあげ、ローマと対峙する。だが、3ターン目、神宮寺は圧されていた。必死の形相でドローを行う彼だったが、何時までたっても体勢が整わない。
「もうやめておけ。お前のレベルでは準備運動にもならない。さっさと殺られろ。無抵抗なら、こちらとしても慈悲を与える気持ちがないでもない。なんなら、地獄の鬼達から馬鹿にされぬよう、散々いたぶりぬいた挙句、2度とカードを握れない身体にしてやってもいい。破格の条件だろ?」
「くそっ、てめぇ。誰に向かって口聞いてると思ってんだ!」
 強がる神宮寺だったが、現実は非情。じわじわと追い詰められる。
(駄目だ。このままでは負ける。俺は……負けるのか。このままでは……)
 このままでは、ローマの言うとおり準備運動未満で終わる。だが、この時神宮寺にとって幸運だったことは、ここがソリティアの会による、即興の集会場であったということ。100名を越す仲間達がそこにいたということ。叱咤激励を行える竹馬の友がそこにいたということ。そう、竹馬の友が!

「情けないぞ神宮寺! おめおめとやられてんじゃねぇ!」
 
 九州三強! 【MMR】で、一躍名を成した決闘界の快男児!
 『千のメタゲームを11秒台で駆け抜ける男』! 村坂剛!


「村坂! くっ、だが……」
「思い出せ神宮寺! 俺達が、九州三強と呼ばれるようになる前の、あの頃の苦境を!」

 九州三強! 【ターボ促成栽培】で決闘農業の第一人者と呼ばれた栽培師!
 『鬼の洗濯板』! 新上達也!


「新上! お、俺は……俺は……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「おぉっ! 神宮寺の気迫が天をついたぞっ! 復活だぁっ!」

 九州三強! 【ベスト8開運術】でベストセラーに王手をかけた文豪!
 『インフィニット・エイトマン(∞×8)』! 神宮寺陽光!


「そうだった。俺達は、俺達はあの時代を乗り越えてここにいるんだ……」

「おい見ろよあいつ。今時ノーマルな【推理ゲート】使ってるぜ。環境にあわねぇっての……」
「植物族? やめてよね。僕の【ガジェット】が本気になったら、君が勝てるわけないのに」
「おいおい、そんなデッキが回るわけないだろ? ベスト8? 8人大会なら行けるかもな」

「そうだ。俺達は、関東の糞野郎どもを見返すため、三者三様厳しい修行に耐え抜いた……」

【『千のメタゲームを11秒台で駆け抜ける男』村坂剛の場合】
「村坂! やめろ! それ以上腕のスピードをあげたら! 腱鞘炎じゃすまない!」
「メタゲームをギリギリまで読むには、カード探査のスピードをあげるしかねぇ!」
「もうあいつは駄目だ。博多弁を喋らなくなっちまった。チームHA☆KA☆TAも終わりばい」
「村坂君! 私、私はもう見てられないばい! 貴方は変わってしまった。さよならっ!」
「も、もい子、……っく! だが! 俺にはもう、カードしか見えねぇ! うぉぉぉおっ!」

【『鬼の洗濯板』新上達也の場合】
「仙人。確か来週からまたドイツでしたよね。頑張ってきてください」
「タツヤよ。大会が3ヵ月後に迫っていると聞いたが、こんなところで農作業をしている暇があるのか?」
「栽培仙人。いえ、いいんです。植物族の声を聞くには、やはり農業しかない。それが俺の結論です」
「しかし、この畑一体を大会までに1人で捌くとなると……タツヤ! お前まさか! 死ぬ気か!」
「死は最初から覚悟の上です。宮崎式促成栽培の本質、必ず見極めてみせます!」
(タツヤ、あのひよっこが……言うようになったわい……)
「見える、見えるぜ。土の角度から水のタイミングまで、全てが見える!」

【『インフィニット・エイトマン(∞×8)』神宮寺陽光の場合】
「神宮寺君、もうそれくらいにしたまえ。何が君をそこまで駆り立てるのだ」
「和尚、むしろ水が足りないくらいですよ。できれば、もっと強烈な滝を紹介してください」
「おい、見たかよ。あの神宮寺ってやつ。毎日の様に滝に打たれながら念仏を唱えてるらしいぜ」
「念仏、か。あの、ベストエイトーベストエイトーとかいう……」
「流れ者らしいな。どういう宗派かは知らないがすごい執念だ。俺たちも見習わないとな」
「ベスト8の神よ! 俺の魂を受け取ってくれ! ベスト8の神よ! 舞い降りてくれ!」

「そうだ! 俺は、いや、俺達は! 九州最強の誇りをかけて闘う! 野郎共! コールだ!」
「おい、神宮寺さんがエイトパワーモードになるぞ!」
「8を横に倒せば無限大! よし! 全員でコールだ! あっ、せーの!」
「神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8!」
「万年ベスト8神宮寺! はいっ! 万年ベスト8神宮寺! はいっ! ジン・ジン・ジングウジーッ!」
「四強激突の時代は終わった! これからは末広がりのベスト8! ジン・ジン・ジングウジーッ!」
「誰よりもイカしたベスト8入賞劇! 最早優勝したも同然だ! ジン・ジン・ジングウジーッ!」
 100人がかりのスプラッシュコールが領域内に響き渡り、神宮寺の闘気が吹き荒れる!
「神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8!」
「『万年ベスト8』、いい響きだ。そうだ、俺には神がついている」
「俺は唯一神『ゴッド・オブ・ベストエイト』に選ばれたベスト8戦士!」
「俺は……俺はベストセラーを出すまでは死ねんっ! べェェェストォ! エイトォ!」
「神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8!」

「な、なんだ!? なんなんだこの無気味なコールは。彼らは、一体何をどうしたいんだ!?」
 信也と彩が首を傾げるが領域のボルテージは高まる一方。と、そこへ彼女が顔を出す。
「神宮寺さんのアレが出ましたか。これで面白くなってきました。まだまだ勝負はわかりません」
「あの現象を知ってるんですか!? 津田さん!」
「構築的懐疑の風物詩の1つ。毎年の、全国大会のベスト8決定戦では最早見慣れた光景です」
(ソリティアの会の風物詩? どういう意味なんだ?)
「神宮寺さんは本気で、刺し違えてでもあのローマという男を倒すつもりのようです。元々神宮持さんがよく好んで用いるのは、ガンガン相手のリソースを削っていくタイプのデッキですが、それ程切れ味が鋭いわけでもありません。また、他の属性についても、全体的に適性値が低いと自分から告白しています。残念ながら、全体としても中の中の上程度がいいところでしょう。あの人は、元々カードゲームには向いていませんでした」

 「ですが、ベスト8という十字架を己に架した時の神宮寺さんは違います。敢えてベスト8を天井とすることで、見違えるほどに決闘の切れが増しました。それが【ベスト8開運術】」
「で、でも!今回はベスト8がかかっていない。能力は発動しない筈だ!」
「アレは神宮寺さんの【ベスト8回想術】。ベスト8を極めに極めた人間だけが用いれるといわれる禁断の大技。割れんばかりのスプラッシュコールと共に、今まで築き上げたベスト8の栄光を回想することで、気力・体力・集中力・精神力を飛躍的に高め、決闘能力を増大させます」

「一時的に、グッドスタッフ、ビートダウン、コントロール、ロック、サイドアタック(デッキデス&バーン)、コンボ、といった各属性を全て、全国プレイヤーに比肩するレベルで扱えるようになる。勿論、その分体力・精神力を削るため諸刃の剣ですが……恐らく神宮寺さんは、今から3ターン以内に決着をつけに行く筈!」
「己に暗示をかけたか。瀬戸川流にも似たような技がいくつかあるが……あの男、かなり特殊な方法を用いているようだな。それも、肉体がきしむほどの思いいれ。あの男、心中するつもりか!」
「鬱病時のベルメッセ、アレの亜種といったところか。いいだろう。決闘再開だ」

「《打ち出の小槌》を発動! 手札の、3枚のカードをデッキに戻し、戻した分引きなおす!」
 適性値が一時的に上昇した神宮寺。彼は今、築き上げてきた栄光と共に燃えていた。
「手札から《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚! 墓地の、《仮面竜》を装着することで、攻撃力を2200まで引き上げる! お前の場には《古代の機械騎士》がいるが、最早敵じゃねぇ!」
「そうか。なら試してみるか?」
「ふんっ、のるかよ! 手札から装備魔法《レインボー・ヴェール》を発動!《サイバー・ダーク・ホーン》に装着! 行くぜ! バトルフェイズ。俺の狙いはこっちだ! 《サイバー・ダーク・ホーン》で、裏向きのまま縮こまった、そこの壁モンスターを攻撃する! 喰らえ!ダーク・ベストエイト・スピア!」
“Magician of Faith(聖なる魔術師)”をリバース。効果発動タイミングに入りますが、レインボー・ヴェールにより“Magician of Faith(聖なる魔術師)”の特殊効果は無効。ダメージ計算に移行します
「だろうと思ったぜ。貫通ダメージを喰らいな!」

神宮寺:5800LP
ローマ:5400LP


ダメージポイント1800。パワーダウン、パワーダウン……
「すごい、攻撃のレベルが上がっている。これが、【ベスト8回想術】の力なのか!」
「ええ。こうなった以上、神宮寺さんの優位性は揺るぎません。この勝負、貰いました」
「シンヤ、これなら私達も、ここから出られるかもしれないよ!」
(物凄い気迫だ。まるで、己の全てをベスト8に捧げたかのような強さ)

「俺の番だ。1枚引いてメインフェイズに移行! 《古代の機械騎士》を生贄に捧げる!」
(ローマの反撃! 一歩も引かない。いや、一歩でも引いたら負けということか!)
「上級モンスター“Chthonian Emperor Dragon”を召喚。ノーマルスペル“Double Summon”発動。セカンドサモンOK。“Chthonian Emperor Dragon”デュアルモードスタンバイ。バトルフェイズへ移行」
「《ヘルカイザー・ドラゴン》で《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃。その煩わしい飾り物を引き剥がせ!」
「《サイバー・ダーク・ホーン》の効果発動! 《仮面竜》を切り離し、破壊を免れる!」
「今の《ヘルカイザー・ドラゴン》は2回の攻撃を可能としている! 《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃!」
「ちっ、《サイバー・ダーク・ホーン》を墓地に送る。だが、その程度では、ベスト8には程遠い!」
「メインフェイズ2に移行。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

神宮寺:4000LP
ローマ:5400LP


「ここまで見て、どう思いますか元村さん。どちらが優勢かと」
「やられたらやり返す。強者の基本ですね。あの男は抑えるべき所を抑えてきた。だけど、【ベスト8回想術】を発動した神宮寺さんの精神力は強靭の一言。優勢なのは、神宮寺さんの方だ!」
「神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8!」
「万年ベスト8神宮寺! はいっ! 万年ベスト8神宮寺! はいっ! ジン・ジン・ジングウジーッ!」

「ベスト8の栄光は俺の下にある! ドロー! よし! 《手札断札》を発動! 手札を交換。更に! 手札から《サイバー・ダーク・エッジ》を召喚! 墓地の、《ハウンド・ドラゴン》を装着、攻撃力は2500だ! 更に! 800ライフを支払い装備魔法《早すぎた埋葬》を発動。墓地の《ダーク・ホルス・ドラゴン》を特殊召喚する!」
リバーストラップオープン“Torrential Tribute(激流葬)”。場の全てのモンスターを消去します
(《激流葬》! だが神宮寺さんの眼はまだ生きている! あ、あれはぁ!)
「かかったな! 手札から《サイバー・ダーク・インパクト!》を発動! 墓地の、ホーン、エッジ、キールをデッキに戻すことで! 融合サイバー・ダークを特殊召喚する!  現れろ!」

鎧黒竜−Cyber Dark Dragon!!

「墓地の、《ダーク・ホルス・ドラゴン》を装着。攻撃力は、4400だ! ダイレクトアタック!」
ダメージポイント4400。活動限界ゾーンに移行します。至急対処してください

神宮寺:4000LP
ローマ:1000LP


「はぁ……はぁ……カードを1枚セット。ターンエンドだ」
「すげぇ! 流石は神宮寺さんだ! 一気に大逆転!」
「積み上げてきたベスト8が違うんだよ! 見たか白人野郎!」
「神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8! 神宮寺! ベスト8!」

「はぁ……はぁ……どうだローマ、これが俺様の実力だ!」
「なるほど。確かにな。ギミカルな【サイバー・ダーク】を使いこなしている。いい反撃だ」
(強い。確かにいい攻めだ。だけど、神宮寺さんの様子がどこかおかしい?)
「はぁ……はぁ……今更わかったか! 覚えておくんだな。これが、九州三強の底力だ!」
「底力、か。だが、お前のプレイには余裕がない。敷き詰められただけの布陣は退屈だ」
「なに!? どういう意味だ!」「神宮寺! のるな! 苦し紛れの挑発だ!」
「諸君。覚えておけ……」「あーあ。まぁた始まった。眠くなるから嫌なのに」

サイバー・ダークは貴様らゴミ共が思っている以上に味と深みを持ったメカニズムだ。たった5枚のリリースで1つの領域を形作る、なんと無駄のない配置だろうか。装着して殴るという単純極まりないメカニズムだからこそ、そこには美学が潜んでいる。だが、それもこれも、確率論上の、基本を抑えることによって成り立つ。主力となるホーンとエッジを合計6枚デッキに搭載できることで、初手にこれらのカードを引き当てる確率が増加。メカニズムをメカニズムならしめる、反復可能性を獲得した。考えてみるがいい。6枚積みのガジェットの無駄のない動きを。考えてみるがいい。風帝氷帝が6枚積みされた帝デッキの効率化された動きを。考えてみるがいい。前線に立ち尽くす虎と馬の双璧ぶりを。そう、単なるあてずっぽうではないメカニズムが、たった5枚のリリースで既に確保されている。これを見事と言わずしてなんと言おう。無論、そこにキールを加え、インパクトへの道を広げることにより、更に緻密な計算を行うこともできる。これこそ決闘者冥利に尽きるというもの。各種闇属性サポートとの兼ね合いをも踏まえた、決闘の奥行きがそこにある。墓地と場を繋ぐタイトロープは儚くも美しい。だがしかし、これは単なる基礎に過ぎない。この俺のレベルともなれば、その奥に更なる美学を発見することもまた容易い。そもそも人類史上〜(中略)〜コナミは最早単一の企業ではない。世界経済を繋ぐ命綱そのもの。だが、その発展は、あの不自然なまでの発展はいったいなにゆえに可能だったのだろうか。それはコナミが、己自身を食い荒らしかねないほどの客人を囲っていたからに他ならない。当時、客人とコナミの利害が一致したことで、外部特殊機関『裏コナミ』が生まれた。コナミの隆盛最大の原因は、そこにこそあったのだ。聞いたことはないか? ヨーロッパの大企業『ベルフェゴール』壊滅事件。コナミ躍進の、最初の契機ともなったあの事件。当時の裏コナミ『交渉』担当『鉄拳の』バルザック=ローファルが中心となったあの事件! 素晴らしいじゃないか。だが、コナミは1つだけ見誤っていた。その1つとは、裏コナミを制御しきれると思っていたことだ。当然、その見込みは、コミックデストロイのラブコメよりも甘かった。裏コナミは、あらゆる束縛を嫌ったのだ。これに1周遅れの危機感を募らせた当時のコナミ幹部会は、業を煮やし、裏コナミへ刺客を差し向けた。それも並みの刺客じゃない。当時のコナミが、いかなる手を使ってでも敵対企業との戦争を制する、その為に設けた、573の両翼とでも言うべき特殊機関。そう、『五大猛虎』の異名を取り、様々なアイディアであまねく消費者を洗脳してきた漆黒の企画部と、『三龍将軍』を謡われ、他の企業からも恐れられた暗黒の執行部に属する、あの忌まわしき連中が、裏コナミを闇に葬り去ろうとしたのだ。だが! 裏コナミの実力はコナミの想像を遥かに超えていた! 結果、全てを返り討ちにした裏コナミは……(中略)……最早裏コナミにとって企業間闘争など児戯に過ぎない。裏コナミの7人は、己の闘争欲を満たす為、日夜己の意思に従って決闘活動を続けているのだ。わかったか! 貴様のサイバー・ダークなど所詮は青二才だということが!

「はぁ……はぁ……わかるか……てめぇ……五月蝿くしてる暇あったらさっさと決闘を……」
「喜べ! 腹の足しにしてやる! デッキからカードをドロー! この瞬間! 《未来融合−フューチャー・フュージョン》の効果発動! 選択された、《超合魔獣ラプテノス》を特殊召喚する!」
(ラプテノスの攻撃力は2200。例え、デュアルモンスターの効果を発動されても……くっ)

「不味い。このままでは不味い。このままでは神宮寺さんが!」
「シンヤ? どいうことなの? 神宮寺さんが押してるじゃない!」
「神宮寺さんの、あの汗を見ろ! あの汗の量は異常だ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……くっ、こんなところでぇ」
「【ベスト8回想術】は己の身体に絶大な負担をかける。副作用!」

「くっ、酸素(ベスト8)が、酸素(ベスト8)が足りない。お、俺は……」
「実力以上のものを出そうとするからだ。自業自得というやつだな」
「神宮寺さん! もうベスト8のことを思い出すのはやめてください!」
「神宮寺さんの身体が……村坂さん! 新上さん! もうとめてください!」
 村坂に、静止を懇願するメンバー。だが、村坂も新上も一向に動こうとしない。

「はぁ……はぁ……ベストえいと……べすとえいとぉ……」「神宮寺……」
 村坂と新上は、苦しみに悶える神宮寺を見ながら、苦悶を押し殺していた。
「神宮寺の、ベスト8への拘りは、俺達が思うよりもずっと高潔で、そして深い!」
「神宮寺が創始した【ベスト8開運術】。その教義に、『棄権』の二文字はない!」

「クク……あくまで向かってくるか神宮寺。ならば! ここで引導を渡す!」
「こい……俺の、俺のベスト8は永遠に不滅だ。この試合が俺の……ベスト8だ!」
「そのベスト8を消してやる! 《正当なる血統》を発動。《ヘルカイザー・ドラゴン》を場に戻す」
“Superalloy Beast Raptinus”の永続効果適用。デュアルモードへ移行します
(やはりか。だが……俺の場には……予め《スケープ・ゴート》が伏せられている。お前がラプテノスの効果を用い……再び2回攻撃を仕掛けることは読めていた。例え鎧黒竜が何らかの手段で除去されたとしても……俺はこの場を凌ぎきれる。凌ぎきりさえすれば次のターン、俺の《サイバー・ダーク・キール》による直接攻撃で……お前は負ける。あと少し……あと少し持ってくれこの身体よ。そうすれば……)
「ふっ、わかるな。お前の浅はかな考えが手に取るようにわかる。手札から《融合解除》を発動!」

 「“Superalloy Beast Raptinus”の融合を解除“Chthonian Emperor Dragon”を2体場に特殊召喚します。更に、“Chthonian Emperor Dragon”のデュアルモードを解除。ノーマルモードに移行
「まずは1勝……お前にはコレで十分だ! 手札から《デルタ・アタッカー》発動!」
ノーマル・モンスター“Chthonian Emperor Dragon”を3体確認。発動条件はOKです
「デ、デルタ・アタッカーだとぉ!? 馬鹿な!」
「デュアルとは、お前らの国の言葉で表せば『二重』。2つの重なりだ。そこには、深い洞察が要求される。だがお前は、事物の表面だけに囚われ真実を見誤った。お前の如き、既成概念の奴隷の末路など何時の時代も決まっている。呪うなら、ラプテノスがデュアルの為だけに存在していると思い込んだ、浅薄な思考を呪うんだな。だから言った筈だ。お前の思考には余裕がない。そして、余裕のない思考は目の前のものしか読み取れない。だが安心しろ。ゆとりある睡眠を提供してやる」
ラストアタック“Delta Attacker”。キル・スリープにカードを装填
 ローマが攻撃宣言を行った瞬間、決闘盤が三椏の槍のような形状に変形。3枚の《ヘルカイザー・ドラゴン》が漆黒のカードスリープに収められ、ものの数秒の内に槍もどきの各先端に3枚のキル・カードが収められる。そう、これは槍などではなかった。所謂滑走路。キル・カードを首尾よく飛ばすための、滑走路。
カウントダウン、10、9、8……
「な、なんだ!? てめぇいったい何を……」
ファック! ファック! ファック! ファック! ファーーーックッッッ!!

神宮寺:0LP
ローマ:1000LP


「俺が負け……ぐはっ!」
 決闘に敗北した神宮寺を襲ったのは3枚の高速カード。漆黒のカード・スリープは人のどてっぱらを抉るのに十分な強度を有していた。悶絶する神宮寺。慌てるメンバー。
「神宮寺! この野郎! 何を……」
「超過ダメージと俺の残りライフ分の負債を、負け犬の身体で払ってもらっただけだ。よかったなぁ神宮寺。お前は一応合格だ。雑魚は雑魚だが、雑魚也に準備体操ぐらいにはなった。ご褒美だ。そこでじっくり好きなだけ悶えてろ。人間、骨にひびが入った程度では死にはしない」

「この野郎、調子に乗りやがって。よくも俺達の神宮寺を。このまま好き勝手やれると思うな」
 激昂する『鳥取砂丘の青い空』。二階堂真一!
「お前は今、『構築的懐疑』を1000%敵に回したんだ。千の構築がお前を襲う……」
 臨戦態勢に入ったのは『ヴェニスの決闘人』、斉藤ラッセル。
「ひっひ……殺しちまえよぉ。あいつ、殺しちまえよぉ……デュエルなら俺らの土俵だぜ」
 精神鑑定はなんと正常! 猟奇決闘者の坂本鎌次郎!
「俺の新デッキが唸りを上げるんじゃねぇの? わかんないけどさぁ」
 48個のデッキを左半身のみに装着する男。恵那誠司!
「ちょっとぉ。道場破りなんて今日び流行んねぇの。メタ外れの決闘は死んじまえっての」
 元暴走族! 決闘盤が鈍器でないことを知ったのはほんの半年前! 西絵里華!
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。もう我慢できねぇ。デュエ殺す!」
 原人! ロッキー! ソリティアの会の中でも、武闘派に位置するメンバー達が叫びをあげる!
「可及的速やかにこいつは倒さねばならんと俺の勘が言ってるぜ。誰もでもいい。やっちまえ!」
 殺気立つソリティアの会。だが、ローマはなんでもないとばかりに微笑んだ。大胆不敵!
「残り100人ちょっとか。さぁ、生き残るのはどっちかな? カードゲーマーらしく闘おうじゃないか」
 
 湧き上がる一方で、静まり返る場所が1つ。
「神宮寺! おいしっかりしろ神宮寺!」
 それは、あまりに哀しき邂逅だった。
「俺はここまでらしい。村坂、新上……」
「もう喋るな神宮寺。お前はよくやった!」
「俺はベスト8に……ベスト8に……」
「ベスト8! お前は立派にベスト8だった!」
「ベスト8……そうか……ありがと……よ」

神宮寺ィィィィィィィィィィィィ!





ひとたび人と生まるるば
争い競うは宿命か
されど我は輪を造ろう
嗚呼、ベスト8の魂は
末広がりの八なりて
寛容の中育ち行く
嗚呼、ベスト8よ永遠に

―神宮寺陽光著『侘び寂びのベスト8』
より抜粋―



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
裏コナミにはまともなカードゲーマーがいない。ソリティアの会にはろくなカードゲーマーがいない。こんな世界に誰がした


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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