そこには、ラスト数百ポイント分の電撃を喰らって息も絶え絶えな2人の決闘者が居た。
「ハァ……ハァ……引き分け。最後……もう1戦……?」
 事前の取り決め通り引き分けならば再試合。時間無制限の完全決着方式である。だが何を思ったのか、アキラはエリーを制止した。
「いや、その必要は……ない」
 アキラは決闘盤を外し地面に置く。
「アキラ?」
 アキラがこの時どういう顔をしていたのか、エリーはその後一生を終えるまで語らなかった。
「この決闘、俺の……負けだ」
「え……?」
「お互い……まともに勝負する体力なんか残っちゃいないだろが……。だが、それでもわかることはある。アンタにはまだやれることが幾つも残っている筈だ。だが俺にはもう、今この場ででできることなんざなぁんも残っちゃいない。だから……だからよ……」
「アキラ……」
「だけどよ……お前のお陰で見えてきたもんがある。だから……必ず……お前らのところへ……アイツの所へ……戻ってくる……ぜ。それまで……『貸し』とく……ぜ」
 アキラはそこまで言うと倒れ込み意識を失った。その顔はどこか穏やかに見えた。

【アキラ―エリー】
第一戦:○アキラ―エリー×(ファイアーダーツ)
第二戦:×アキラ―エリー○(神炎皇ウリア)
第三戦:△アキラ―エリー△(破壊輪)
第四戦:×アキラ―エリー○(不戦勝)
Winner:エリー(2勝1敗1分け)

 自ら負けを認め、その場に倒れこんだアキラ。その様子からは、既に決闘続行不可能なほど限界を超えていたことが伺える。そして、その顔を確認したエリーもまた地面にへたり込んだ。
「ディム……この決闘……」
「不甲斐無い自分に納得がいかないかもしれないが勝利は勝利だ。アイツに免じて受け取ってやれ。アキラは認めるべきものを全部認めた。強くなるさ。アイツは……」

「まぁ、今は寝かせてやれ。傷ついた奴は寝るべきだ。君もアイツもな」
「ディムは大丈夫なの? 傷……?」
「僕を誰だと思っているんだ。僕だぞ」
 ディムズディルの言葉を受け、エリーは安堵する。
「じゃあ……ごめんね。あと……よろし……く」
 眠りに着くエリー。やはり、次戦などままならぬほどに疲れていたようだ。
「ああ、おやすみだ……」

「そういうわけだジン。どうにかしろ」
 ディムズディルは、振り返ることすらせず背後のジンに言った。
「どうにかしろ? それは一体どういう意味だ?」
「エリーは昨日試合だったからまだいいが、アキラの試合は明日なんだ」
 因みに、元村信也がガジェット一式をショップで買い漁っていたのも今日の話である。
「お前まさか……その為に俺を呼んだんじゃないだろうな……」
「なんかあるだろ瀬戸えもん。そういう奥義の1つや2つ、脳内麻薬がどぱっとあふれるとか」
「誰が瀬戸えもんだ。まぁ、できなくはないが……まったく、人を便利屋扱いするもんじゃない」
「便利屋扱いされるほどに借金を重ねる君が悪い。あくせく働くんだな……」
「アキラもエリザもまだ若い。関節部に《クリボー》でも差し込んでおけばまぁ動くだろう」
「冗談に聞こえないのが瀬戸川流史上“最高”にして“最低”の天才たる所以、か」
「皮肉か」 「皮肉だ」

「しかし……この男をここまで駆り立てる『森勇一』、か、やはりそれなりにはやるのだろうな……」
「このアキラの闘志を引き立てずには置かなかった男。僕がその素性を尋ねた所、アキラはたった一言、『ムカつく』と彼を評していたが、一体どれだけムカつく男なのか。1回だけ少し喋ったことがあるが、決闘は最後の一瞬だけしか見ていない。面構えはそう悪くなかったが、まだ、未知数……ってなんで君は知っているんだ? 僕は普通に知らなかったぞ」
「ん? 発案者の癖して森勇一も知らんのか?」
「だから……何度も言っているだろう。発案しただけだ」
「日本決闘界ではわりと有名な男だ。最近は日本に顔を出さない俺でも知っているくらいにはな」
「そうなのか? まぁ、仮にも“あの”中條が呼んだんだ。やり手なんだろうなぐらいには思っていたが」
「呆れたな。まぁ、ブロックも違うんだ。詰まらん情報に左右される事を嫌う、お前らしいと言えなくも無いか。森勇一……『カウンター・トラップ界のベンチャー企業』とまで称された程の実力を誇る、チェーン・スペルのトップ頭脳賞、デュエルフィールド上の支配者と呼ばれる男。年こそまだ若くまだ高校生だった筈だが、そのセンスは日本、いや世界を含めてもトップクラスの逸材だと専らの噂だ」
「なんだ結局噂―“詰まらんな情報”―じゃないか。だが、君はそこまで噂に敏感な人間だったか?」
「……コナミとの接触関係があるらしい。俺が知ったのも最初はその縁だ」
「だからなんで君だけがそんなことを知ってるんだ。同じ日本人だからか? おかしいだろ……」
 ジンは頭を抱えた。例え注意力・観察力が高くとも、忘れる馬鹿につける薬はない。
「以前『R』がWEB上にに試験的な“リスト”を作って、そのキーを俺等に振舞っただろだろ。忘れたのか? お前とて見たければ何時でも見れる。全く、北極での決闘で文明を忘れたといっても程があるな」
「ああ……そうか。なるほどな……若くしてコナミ参入を決めたダイヤモンド……か……」
「『D』……一応裏コナミの役員として言っておこうか。一応な」
「なんだ? 新入社員としての心がけを教えろとかか? 僕等の……仕事じゃないだろう」
「仕事じゃなくて道楽だろお前のやることは……“殺す”なよ」
 ディムズディルがふっと笑う。世にもおかしなことを聞かされた、かのごとく。
「殺すな……か。笑えないジョークだ。他の誰に言われても、君だけには言われたく……ないよ」
「どうした? 『D』? さっきから……」

「まぁ、どうでもいいさ……後はよろしく頼む……ぞ……」
 ディムズディルの身体がふらつく。どこかおかしい。
「お前まさか……」
 ジンが頭を抱える。どうやら『大丈夫』ではなかったらしい。
「僕を誰だと思っている。君ほど丈夫にはできて……いないんだ……」
 止血もほどほどにアキラVSエリーを見続けた代償。丈夫以前の問題である。
「後始末……しておけよ。2万とんで6500ドルの借金は……それで……完済……だ」
 そういい残すとディムズディルは、ばったりと地面に倒れこんだ。
「いっそのことこいつだけここに放置しても罰は当らんかもな……」
 一瞬、止めを刺すことを真剣に考えるジンだった。

 

第33話:金剛決闘者(ダイヤモンド・デュエリスト)


「予選リーグ最終Nブロック第1試合! これがNブロックにおける事実上の代表選手決定戦に違いない。み、見ろ! 数多くの決闘者達がこの一戦を見る為に集まっているぞ! Aブロックからは、『ブレイン・コントローラー』西川瑞貴と、九州三強決闘者の1人『千のメタゲームを11秒台で駆け抜ける男』村坂剛が、Dブロックからは『ドローフェイズ・パニッシャー』仲林誠司が……いや、奴は既に帰宅の準備に入っているぞ! カバンを背負って見るかどうかを迷っている! ああっ! 今やっと帰った! なんてやつだ! そして昨日激戦を演じたEブロックからは、これまた九州三強決闘者の1人『鬼の洗濯板』新上達也が、Fブロックからはあの怪しげな『瀬戸川流決闘術』の瀬戸川千鳥が、Gブロックからは異常な強さを発揮して連戦連勝中の新堂翔が、Hブロックからはあの西川瑞貴の妹・西川皐月と、あ、ああ〜! アレは日本神道と決闘の折衷に成功したと言われる奇跡の決闘者こと『シャーマニズム・デュエリスト』南野葉月! なんと観客席で降霊術を行っている! いや、それだけじゃない! Kブックの津田早苗に至っては大小10台のビデオカメラをあの華奢な身体から取り出したぁ! なんて注目度の高い決闘なんだぁ! 夜になってすらこの人だかり! 半端じゃねぇ! 半端じゃなさ過ぎるぅ!」

「『金剛決闘者(ダイアモンド・デュエリスト)』森勇一! 奴のSST(スペル・スピード・スリー)は、相手にチェーンする暇すら与えない! 完全無欠! 論理の黄金比! これが最強を誇る高校生の実力なのかぁ! 予選リーグレベルじゃアイツの勢いは止まらない! 既に1勝をマーク、この実力は本物だぁ!!」

「だが、勝負はまだ決まったわけじゃない! 何せ森勇一の相手は、あの! 『インフィニット・エイトマン(∞×8)』の異名を持つ九州三強決闘者の1人・佐賀代表神宮寺陽光! 今まで奴は40もの全国大会でベスト8を勝ち取ったといわれるベストエイト・オブ・ベストエイト! 去年1度、何かの間違いでベスト4に入ってしまい身体を壊したと聞いていたが遂に完全復活! この大会で奴は、今年5つ目のベスト8を勝ち取ると豪語している! 当然予選リーグ最大の強敵、森勇一を倒してベスト8を目指すのが奴の狙いだぁ! この決闘、一瞬たりとも眼が離せねぇ! 共に1勝同士、上に上がるのは一体どっちだ!?」

「よぉ、森勇一。この日を楽しみにしてたぜ。高校生最強なんて触れ込みを聞いて以来、俺の輝かしいベスト8の戦跡に入れたくて仕方がなかったんだ。結局の所、有名人なお前と西川瑞貴を呼ぶ為、ついでに学校ごと招待したと噂がたつくらいの存在だそうだからな。だが……それも見当違いだったことが今からわかるわけだ。俺たち相手には、お前らじゃ誰も通用しないってな。高校生最強など虚栄よ虚栄」
 いきなりつっかかる神宮寺。相当の自信家である。だが、自信家ぐあいならこちらも負けず。
「悪いが……訂正しておいてくれないか。俺は高校生最強なんじゃない。全てで最強なんだ」
「言ってくれるなぁ高校生。だが、この変則大会において真の実力を発揮できるのは、決闘歴8年の俺の方だと言う事を教えてやるよ……栄えあるベスト8を勝ち取るのは……この俺だ!」

「ここ、いいですか」
「あなたは……」
 西川瑞貴・皐月姉妹と共に勇一の決闘を見守らんとしていた東智恵が頭を上げると、そこには物腰の低そうな、青年実業家風の男が立っていた。
「え〜っと、どこかで……」
 智恵が思い出そうとするが、どうも名前が出てこない。
「あなたは開会式の時の……確か中條さんでしたよね」
 西川瑞貴は一応記憶していた。まぁ、記憶していただけではあるが。
「ええ。優勝候補に覚えていてもらって感激です。コナミの、中條幸也です」
「ああ、そういえば……開会式の……試合、見に来たんですか?」
「はい。もっとも、私、決闘は不得手でしてよくわからないのですが……詳しそうなお方達の近くで見てればわかるんじゃないかなっと。例えば……優勝候補の方とか、フリー対戦で活躍なさっていたお方とか」
「おだてても何も出ませんよ。でも、ま、勇一の決闘は見とくといいですよ。格好良く勝ちますから」
 おだてても何もでないといいつつ、智恵は調子良かった。瑞貴はともかく、大会に出ず、フリー決闘でのみ存在感を示した自分のことまでチェックしていた、その根性の良さを気に入ったのかもしれない。
「はい。私の方と致しましても、ここだけの話、それを期待して見に来ました。一応、呼んだのは私ということになってますから」
 物腰の低い男。もっとも、初対面相手にいきなりフランクに話しかけられても困るだけである。大会運営者としては、選手は大会成功の為の大事なパーツ。それも自分から招待したのだ。邪険にするのも駄目だろう。それ自体に不審な点はない。だがこの時、皐月は何か違和感のようなものを感じとっていた。
(この人……なにか……)
「おっ、そろそろ始まるみたいですね」
 もっとも、彼への違和感は一瞬。皐月の疑念は直ぐ消えた。今問題なのは、勇一の試合の行方である。

【森勇一VS神宮寺陽光】
試合形式:ダブルライフ
試合概要:初期ライフ16000でスタートする(得失点は残りライフの1/2によって決定)
特別禁止:《ライフチェンジジャー》《自爆スイッチ》

【予選リーグ二回戦】
森勇一(翼川高校)―神宮寺陽光(佐賀)


 先攻は森勇一だった。注目を集めし決闘が、今開始の時を迎える。
「ドロー……手札から《豊穣のアルテミス》を攻撃表示で通常召喚。更に手札からフィールド魔法《天空の聖域》を発動。ラスト、カードを1枚セット。ターンエンドだ。もういいぜ」
「面白みの無い【エンジェル・パーミッション】か。16000のライフに幅を利かせ、鉄壁のコントロールで決闘を掌握する……だがな!  ドロー! 俺はモンスターを守備表示でセット。ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー……」
(『だがな』……なんだろうな。まっ、すぐにわかるさ。これからな……)
 勇一は、神宮寺の狙いを既に幾つかの中から絞り始めていた。だが、真実への確証はまだ無い。多少の沈思黙考の後、勇一はまず自分から仕掛けに入り、相手の狙いを絞り込む。
「……バトルフェイズだ。《天空聖者メルティウス》でセットモンスターに攻撃……」
「かかったな! リバース……《ニードルワーム》だ! てめぇのデッキを上から5枚削るぜ!」
「……いきなり正体を現した、か。早かったな……」

「デッキ破壊! 佐賀代表神宮寺陽光の戦術はデッキ破壊だ!」
「なるほど! これなら16000のライフも関係ねぇ! 削りきったもん勝ちだ!」
「ま、まさか! ア、アイツ! 本気でベスト8を狙ってやがるのか!?流石は神宮寺だぁ!」

「デッキ破壊……うーん……あんなことをして何か意味があるんですか?」
「中條さん。あの〜流石に常識ですよ。デッキから引くカードががなくなったら無条件で負けです」
「ああ、そうなんですか。殴ればいいとばかり……一応アニメを100話ばかり見たんですけどね」
「……好きなデッキは?」
「【玉砕粉砕大喝采】です。あれは爽快……」
「それ……デッキじゃないですよ……多分……」

「どうする? 《天罰》でも使うか? 使えるもんならいくらでも使ってみやがれってな」
 型通りの挑発を開始する神宮寺だったが、それにのるほど勇一は愚かに非ず。当然軽く受け流す。
「いや、それには及ばないな。俺は《ニードルワーム》の効果処理終了後、メインフェイズ2に移行。手札から《天使の施し》を発動する。デッキからカードを 3枚ドロー、その後2枚のカードを墓地に捨てる。そうだな、どうせだから《カードガンナー》辺りも召喚しておくか。さて、神宮寺さん。ベスト8の常連な ら、こいつの効果ぐらいは当然知ってますよね。破壊されたら1ドロー。天使族じゃなくて機械族なのがネックだが、1枚刺しとくと意外と便利……ん? どう かしました? 顔色が変ですよ……」

「な、なにぃ! 森勇一の野郎! デッキ破壊相手にドローを見せ付けたぁ!」
「高校生離れした大胆不敵なプレイ! むしろアレは傲慢の域に達しているぅ!」
「なんて憎らしいプレイングなんだ! つーか、神宮寺ぃ! さっさとそいつを殺せぇ!」

「カードを2枚伏せてターンエンド。どうぞ」
「てめぇ……俺のターン、ドロー! 俺は手札から《手札断殺》を発動!」
「スルーだ。2枚墓地に送って2枚ドロー……」
「俺も2枚墓地に送って2枚ドロー。更に俺は2枚目の《手札断殺》を発動!」
「スルーだ。2枚墓地に送って2枚ドロー……しつこいな。もう少しスマートにやれないのか……」
 ニードルワームを皮切りに、続々とデッキ破壊の刺客を放つベスト8常連・神宮寺陽光。だが、彼のデッキ破壊はいまだ序の口。更なる刺客が勇一に迫る。
「俺は手札から《ピラミッド・タートル》を召喚! 《豊穣のアルテミス》に攻撃!」
「自爆特攻か。だが、それは通らないな。リバースカードオープン! 《炸裂装甲》!」
「それはこっちの台詞だ! ライフコストを支払い、手札から速攻魔法《我が身を盾に》発動!」
「激しいな……ならプレゼントだ! 《マジック・ドレイン》!」
「やらせるか! 俺は手札から《魔法石の採掘》を捨てその効果をガン無視……処理続行!」
「なんだ。もってたのか。割合にどうにかなるかとおもってたん……だ……が」

森勇一:17000LP
神宮寺陽光:14100LP


「戦闘破壊されたこの瞬間《ピラミッド・タートル》の効果発動! 《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」
「まいったな……ああ、頭がイタイ、イタイ」
 アルテミスの効果でカードを1枚引けたものの、戦況は芳しくない。ヴァンパイア・ロードは【エンジェル・パーミッション】にとって思いのほか厄介なカー ド。効果で破壊した所で、1ターン後には再生される脅威の能力を備えた吸血鬼。当然、戦闘破壊を心がけたい所だが、生憎天使達の攻撃力はそう高くない。一 応、森勇一は防御カードを後1枚場に伏せていたが、使う様子なくスルーを決め込む。彼の顔に動揺は未だ見られない。
「《ヴァンパイア・ロード》で《豊穣のアルテミス》に攻撃だ」
「スルー推奨。もっとも、戦闘ダメージは《天空の聖域》の効果で『0』。デッキ破壊は行えないな……」
「俺は《浅すぎた墓穴》を手札から発動! そして手札から《太陽の書》を発動! 《メタモルポッド》だ!」
 神宮寺はカウンター罠を恐れない。そのまま更なるデッキ破壊に移行、強気のプレイに出る。
「両方スルー、まだ裏向きとは言えアルテミスが蘇った……随分と派手なプレイングだな」
「だが、俺は賭けに勝ったようだな。俺は効果で5枚ドローだ! さあ! お前も引きなおせ!」
 神宮寺はこの一気呵成な引き上がりに賭けていた。カウンター使いに対し、濫りに突っ込むのは確かに危険。だが、ダラダラと突っ込まないのはもっと危険な のである。体勢が完全に揃ってからではもう遅い。最低でも、相手が此方の使用カードを悉く読み取ってくる前、遅くとも2ターン目までにはある程度の仕掛け を完了していなければ勝機は無い。相手はそんじょそこらのボンクラではない。あの、森勇一なのだ。弱みを見せればつけ込まれるのは必定。だが神宮寺は、こ こで仕掛けることにより森勇一の防御を乗り越えた。彼は、ニヤっと笑みを浮かべ、おもむろに言葉を紡ぎ始めた……。

いいぜぇ。何故俺がベスト8常連として名を連ねているか、その理由を今からおしえてやるよ

 それなりに際どい綱渡りではあったが、彼はこの賭けの成功と、その後のデッキ回転を疑っていなかった。彼は大会1ヶ月前から、九州のありとあらゆる寺で願掛けを行い、髭は一切切らず、服を着替えず、風呂に入らず、大会まで万全の体制を整えていた。もっと言えば彼の願掛けは宗派を選ばない。朝仏教徒として 起きたかと思えば、昼には上から下までキリスト教徒になっていることもそう珍しいことではなかった。無論、これらが彼の執念の発露であることに疑いの余地はない。彼のベスト8は、日頃からの不断の努力によって実を結ぶ。それこそが彼の、九州三強決闘者『インフィニット・エイトマン』の真髄! ベスト8前に 負けるなど、彼の人生においてあってはならないのだ!

「手札全てを捨てて5枚ドロー……っと、マジックはマジックでも、ジャマーにしとくべきだったかな……」
「反省会は試合後にしときな! 喰らえ! 3枚目の《手札断殺》を発動!」
「またかよ……2枚墓地に送って2枚ドローだ」
「手札から《月の書》を発動!《メタモルポット》を裏向きに戻す。そしてカードを2枚伏せ、手札から《太陽の書》を発動! 《メタモルポット》をリバース……お互いにカードを5枚ドローする」
「まだやるのか……いい加減飽きてくるぜ……全て捨てて5枚ドロー……」
「《手札抹殺》! お互いに手札を全て捨てて引きなおす!」
「お前……なぁ……」
「これで終わり……なわけねーだろぉ! 墓地に落ちた《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動!500ライフを支払い同名カードを手札に加える。そしてぇ! リバース! 《魔法石の採掘》を発動。手札を2枚捨てて墓地の《手札抹殺》を回収……くっくっく……」
(コイツ……強いといえば強いんだろうが……)
「即発動! 手札を全て捨てその分引きなおせ!」

「馬鹿なぁ!たった2ターンで、森勇一のデッキは既に壊滅目前だぁ!」
「このドローセンス、やはりベスト8を唯一最大の目標に据えた神宮寺の引きは神がかってるぜ!」
「やはり人生は、ベスト8ぐらいをメドにして生きていくのが幸福への正しい道のりだったのかぁ!」
「神宮寺の残りライフは14100。天使デッキじゃ削りきれるわけがねぇ!デッキ破壊の方が先だ!」

「す、すごい。これ……不味いんじゃ……」
「大丈夫です」
「なんでです? 今ので35枚のところまでデッキが削れました。このままいけば後6ターン、いえ、更なるデッキ破壊により後2〜3ターンの内にデッキが0に……」
「だから大丈夫って言ってるんです! ちょっと黙ってみててください!」
「あ、はい……」
 智恵が中條に対し怒鳴る。もっとも、それは敗北への予感に苛立っていたからではなかった。この時、智恵あはることを直感。それは、神宮寺の死角をついていた。それも、かなり馬鹿っぽく。

「ククク……見たかぁ。これが8年間の研究によって練り上げられた究極の開運法【ベスト8開運術】だ! 俺はこの開運法を自ら実践する事によりベスト8の 実績を積み上げ、その後満を持して開運本を出版、ベストセラーを狙う! お前には、この俺の印税生活を花開かせるための……肥料になってもらう!」
 恐るべきは神宮寺の野望。まさに驚愕の事実。彼のベストエイト道―別名ベストエイドー―は順風満々に思われた。だが勇一は、この期に及んでも尚冷静な表情を崩さない。彼は、どこまでも彼だった。
「それはいいんだが……お前の手札はもう3枚だろ。俺の攻撃が決まりきる前に、どうやって残り10枚を削るんだ?ちょこっとつらくないか? なぁ……」

「なに? 11枚だと? 馬鹿な! 俺は既に34枚削っている。残りは6枚の筈……な!? なぜお前のデッキはそんなに厚い! どう見ても残り5枚では……」
 驚愕する神宮寺に対し、勇一は溜息混じりに答えた。馬鹿馬鹿しい、とばかりに。
「別に語るようなことじゃない。最初からデッキを45枚にしておいただけだ」
「な……にぃ!?」
「上級者は特別な理由でもない限り大抵デッキを40枚に合わせて来るからな。全国大会で、上級者相手に大会でベスト8を狙うことに慣れすぎた為に、相手の デッキが40枚きっちりだと思い込む。デッキ破壊を使った時に起こる凡ミスだな。だがライフ16000制で、デッキ破壊の可能性を1%たりとも思い浮かべ ない方がどうかしている。どうせ長期戦になるんだ。5枚くらい上増ししたって、意外とどうにかなるもんさ」
「セコイ真似しやがって。だが、俺のデッキ破壊の方がお前のフィニッシュよりも先だ! 残りライフ14100! 削れるものなら削ってみろ! カードを1枚伏せてターンエンドするぜ!」

「ああ、そうそう、45枚にしたのにはもう1つ理由がある。こっちの方が…… 抜くカードに困らなくて済む ( ・・・・・・・・・・・・・ ) 。俺のターン、ドロー。俺は場から永続罠《光の護封壁》を発動。ライフを16000支払う」
「16000だとぉ!! ま、まさか……」
 神宮寺の背筋に冷たいものが走る。ベスト8常連の彼は、その経験則から最悪の事態を思い浮かべる。その、あまりの絶好調故に見逃してきた事実があるのではないか。その悪寒が彼を包む。
「このカードを使うのは生まれて初めてなんだが……入れてみると笑えるものだな。他のカードでも別に良かったんだが……何かの記念だ。手札から《黙する死者》を発動。《E・HERO ネオス》を特殊召喚。更に《N・エアハミングバード》を通常召喚」
「し、しまったぁ!!」
「あぁ、気がつかれましたか。俺はこの2体をデッキに戻して、《E・HERO エアーネオス》を融合デッキから特殊召喚、攻撃力は15600だ。天使族じゃないのが難点だが、まぁ、羽も生えていることだ。似たようなもんだろう。五十歩百歩ってやつだ」
 全国の天使族愛好家に対しさらっと喧嘩を売りつつ、彼は尚も言った。
「丁度、アンタの場には壊し甲斐のありそうな壷が縦向きになっている。これを叩き壊せば一体どんな音がするのやら……試してみましょうか、先輩」
 敬ってない、全く全然何一つ敬ってない無駄な敬語が神宮寺の血管を軽やかに摘み上げる。
「くっ! 調子にィ……乗りやがってェ!!」
 神宮寺が当然の様に怒るが、森勇一は意に介す事がなかった。最早眼中にないっといた表情。
「当然の帰結に調子も何もありはしないさ。《E・HERO エアーネオス》でダイレクトアタック!」

 完全に、全面的に、徹底的に、ありとあらゆる角度から完全に神宮寺を見下した森勇一が、眼前の不燃ゴミ相手に最後のアタックを仕掛ける。だが、彼の目の 前に置かれた不燃ゴミは、今までありとあらゆる困難を退けベスト8に君臨し続けた歴戦の勇者。その運命力はやはり一級! 彼はこのような窮地を凌ぐべく、 10キロの重りが入ったジャケットを装着、お百度参りを大会直前まで実行し続けた。全ては華のベスト8を勝ち取らんが為に!
「そうそう好きにやらせてたまるか! リバース! 《収縮》を発動ォ! 《ヴァンパイア・ロード》の攻撃力を半分に下げる! そしてぇ! 《収縮》の処理 終了後《ヴァンパイア・ロード》を生贄に《死のデッキ破壊ウイルス》を発動! 貴様のデッキはこれで終わりだぁ! ウイルス感染で消しとべぇ!」
 なりふり構わぬ神宮寺陽光のカウンター・ウイルス。病原菌がエアーネオス及び森勇一の残存戦力を滅ぼし尽くすべく、フィールドへの侵蝕を開始せんとす る。だがその侵蝕は、謎のバリアの前にに阻まれる! すわ何事か! 光子力研究所のパリーンと割れるバリア……いや違う! これは鉄壁を誇るセーフティ シャッター! カビ1つの侵入すら許さぬ鉄の防壁!  

無駄だ。俺は既に、手札から《紫光の宣告者(バイオレット・デクレアラー) 》の力を解き放った。
お前への 判決(ジャッジメント)は……当然有罪だ

「お、俺のベスト8が……俺のベストセラーが……」
 呻き声を上げる神宮寺。だが、森勇一はそれすらも冷ややかに眺めていた。
「アンタには悪いが……この予選も……ベスト8如きも……俺の眼中にはない」
「なにぃ! 俺の栄光の……ベスト8を『如き』だとぉ!」
「もっと言えばこの大会も俺の眼中にない。だが、“当然のこととして”俺は誰にも負けない。だから得失点差など正味どうでもいいんだ。俺は、この大会もま た全勝のまま制覇する。相手が地方の実力者だろうが、世界の強豪だろうが、俺の道を妨げることなど何人たりともできるわけがない。当然のこととして俺は勝 ち続ける。さあ……アンタとの無駄話はもう終わりだ。潔く予選で散ってもらおう。殺れ、 エアーネオス」
 森勇一がパチンと指を鳴らしたその瞬間、チェーン処理が完全に終了。《E・HERO エアーネオス》が神宮寺のライフを削りきる。それは、あまりにあっさりとした結末だった。
(お前如きに貴重な時間を消費している暇など無い。俺は忙しい……消えろ……雑魚)

【試合結果】
○森勇一(翼川)―神宮寺陽光(佐賀)●
得失点差±500

「500か。まっ、どうだっていいんだ、が……」
 16000ライフでスタートしたため、残りライフの半分が得点となるルール。森勇一が得たのはたったの500ポイントだった。だが、彼は笑っている。決 闘が直ぐ終わったからだ。彼は負ける事などゆめゆめ考えていなかった。彼の眼は自信に満ち溢れている。ポイントなどどうでもいい。1回も負けなければいいだけの話。彼はそう考えていた。勝ち続けるのは、己のみ、と。だが……

「よう、見てたぜユウイチ。相変わらず詰まらない決闘してるな」
 そう言ったのはアキラだった。彼は、勇一の前に立っていた。
「……詰まらない?」
 水を差された格好の勇一が、やや不機嫌そうな声をあげる。
「ああ。詰まらないな。どこをどうみても詰まらない」
「アキラか。ご挨拶だな。無駄の無い完璧な決闘と言ってもらおうか。そういうお前は……」
「まださ」
「まだ?」
「試合開始直前にボックスだか補助シュミレーターだかがガンガン逝っちまってな」
「そうか。なら、忠告しといてやる。寺門吟は強いぞ。お前が一回戦で負けた、あの神宮寺などよりよっぽどの強豪だ。お前に奴の【寺院龍】は荷が重いかもな。だが、かわして行けば……」
 今度はアキラの顔が不快に染まる。それは、昔よく聞いた声色だった。
「ああ、そうだった。お前はそういう奴だったな。我が物顔で詰まらん論理を振り回す……当然に輝いてるってか? 気に入らない……だが、それでいい……」
「我がもの顔かどうかは知らない。だが、振り回した覚えはないな……無駄な力を使った覚えはない」
「なら、教えてやるよ。次の俺の決闘でな。お前のお上品にがっついた決闘とは違う……決闘をな」
「上品はわからいなでもないが……直後に『がっついた』? 相変わらずの言語矛盾だな」
「だぁからお前は……ま、いいさ。次の次、俺がお前を直接倒しに行く。俺もお前と一緒で得失点差なんかどうでもいいんだ。お前を直接倒す。それだけが俺にとっての勝利であり、お前にとっては敗北だ」
「挑戦は何時でも受け付けるが、息巻くならせめて次の試合ぐらいには勝つんだな。俺と対等に戦うというのならそれ相応の実績を残してみろ。じゃなきゃ真剣に戦う気が失せる」
「だから言ってるだろ。次の決闘を見てろってな。決闘終了後、お前は俺を無視できなくなる……ぜ。おっと、そろそろ試合が再開されるようだな。じゃあ、またな」
 『得失点差など関係なく勝ちを目指す』。確かに勇一は相手がどうであれ負けるつもりは無い。アキラが相手でもそれは変わらない。だが、アキラもまた得失 点差など関係ないと言った。そして自分を倒すといった。もっとも、今の2人は対等ではない。傍から見ても彼ら2人は立場が違う。既に勇一は2連勝して王手 をかけているが、一方のアキラは王手をかけられている。だが、森勇一は心の何処かに引っかかりを感じていた。アキラの言葉には、どこか突き刺さるものがあ る。“敗北”……勇一は一瞬想像したその言葉を一笑に付した。

挑発から既に下手糞な野郎だ。俺のどこががっついてるんだか……


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
胡散臭さを狙って出したエアーネオスは予想以上に胡散臭かった。流石はネオス系列。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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