「どうやら、決着は第3戦目に持ち越しのようだな。審判は俺がやろう」
 “ジン”と呼ばれたその男は、闘技場に降り立つなりそう言った。
「あそこの燻製よりは役に立つ。審判交代だ」
 グレファー=ダイハードは既にのびていた。名前負けも甚だしいがのびていた。
「先に審判が倒れるとはな。もっとも、このまま放っておいても何時か起きるだろう、が」
 ジンはグレファーを掴みあげると、見た目以上の腕力をもって観客席へ放り投げる。その進路上に座っていたディムズディルは、一回ため息をついた後投擲物を足で止め、その衝撃を受け流しつつ横の席に落とした。避けずに衝撃を和らげた分、投げられた側にしてみれば好待遇といったところか。
「長いことやったものだな。予定外というやつだ……」
 ジンは火炎放射器の方を指差す。既にその火は消えていた。

「火が……消えてる?もしかして……時間をかけすぎ……た?」
 既に、火は消えていた。予想外の長期戦。燃料切れである。
「ヘル・バーニング・デュエルの続行は不可能だ。ここからは……」
 
「あるんだろ?」
 アキラを口を開く。彼の眼は、血に餓えた狂犬のようだった。
「『ある』?」
「炎が駄目でも他にあるんだろ? ヘル・デュエル」
 アキラは求めていた。敢えて、更なる地獄を求めていた。
(ほぅ。こいつ……死んでないどころか……)

「なぁ……早く出せよ。ただでさえ炎が消えたんだ。冷めちまう」
 この時、良識ある人間ならその申し出を断ったのだろうが。
「いいだろう。だが、出す必要はない。もう既に、そこにある」
「ある? どこにだ」
「お前らが今装着している決闘盤。『スタンガン・デュエル・ディスク』だ」
「『スタンガン・デュエルディスク』!? それって……」
「アンダーグラウンドでは最もポピュラーな一品。ロングセラーというやつだ」

「はっ……電撃か。面白いじゃないか。で、発動条件は?」
「相手のカードでライフを失った時、そのダメージ量に応じた電流が装着者を襲う」
「相手のカード……だけか?」
「ああ。ライフコストを払うカードは数多い。だが、自分のカードで一々電撃を喰らっていたら、流石に何がなんだかわからんだろ。自分からライフコストを支 払うだけでぶっ倒れられたら、観客としては興ざめもいいところだ。もっとも、望むならそいう設定もできるんだがな。どうする?」
「成る程な。わかった。要は相手から喰らわず、相手に食らわせればいいんだな」
 アキラの理解は早かった。彼は、それを心から望んでいた。
「そうだ。エリザベート……お前もいいか?」
 問題は対戦相手。だが、拷問の様な戦術を1度仕掛けた以上、もう後にはひけない。
「………構いません。『スタンガン・デュエル』、お受けします」

 是非もなかった。もう後戻りはきかない。インターバル、アキラはとても全身を蝕まれた人間とは思えぬような速度で考える。だがそれはもはや正常な人類の 思考ではなかった。彼は【オフェンシブ・ドロー・ゴー】の強化や補充を一切考えることなく、己の知識・経験を総動員して『策』を練る。エリーを決闘で殺害 するための『策』を練る。
(敵の仕掛けも考慮。この構成から抜くとしたら《ファイヤーダーツ》辺りか。そして……入れるのは……)
『漆黒の魔鏡』『電流決闘』『第三戦』『一勝一敗』『ライフ8000』『【神炎皇ウリア】』『スタンガン内臓決闘盤』『サイドボード』『サレンダー不 可』……彼は考える。地下決闘のあらゆる要素を分解。一つの集合体を再構成する為考え抜く。その眼には、正気の人間には一生かかっても生み出せない程の殺 気が宿っていた。

 エリーは、そんなアキラを遠めで見ながら背筋に冷たいものを感じる。わかっていた。きっとアキラは、立ち上がってくるのだと、頭ではわかっていた。ディ ムズディルの見込み違い、のような事態は最初から考えてすらいなかった。そう、わかってはいた。だが、その気迫は彼女の予想を遥かに上回るものだった。彼 女は、遠目でアキラを見ながら、サイドボードでデッキを最適化する。本来の【神炎皇ウリア】を、100%のデッキを仕上げにかかる。
(今まで色々なデッキを今まで組んできたけれど、このタイプのデッキが私には合う、かも。だから、大丈夫。アキラの【オフェンシブ・ドロー・ゴー】はもう破れた。いける……いける……)
 エリーは、それでも不安を感じていた。得体の知れない、ある種の不安を感じていた。
(私には……合う。でも、それは私の限界がここにあるってこと?あの時、アキラの殺気は一瞬、ディムのそれに近づいていた。だとすると……駄目。決闘前に迷ったら……駄目)
 一方、アキラは迷い無くデッキを組み上げていた。彼は、勢いよく立ち上がった。
「これでいい。エリー……待ってろよ。お前から学んだ分……利子つけて……殺る!」
 地下決闘第3戦。アキラVSエリー。アキラの執念が、エリーのセンスに襲い掛かる。

 

第31話:悪鬼羅(アキラ)


「俺のターン、ドロー! 俺はぁっ!手札から《天使の施し》を発動ォ!」
 勝負を決する第3戦。先攻はアキラ。彼は、1ターン目から怒涛の仕掛けを見せる。
「《封印の黄金櫃》! デッキから《無血の報酬》を除外! そしてぇぇえ! 《タイムカプセル》!」

(《タイムカプセル》までデッキに投入。アキラは、サーチ・カードをフル投入してデッキの回転力を底上げしてきた。でも、それは私の読みどおりの展開。アキラは、前回の失敗を万が一にも繰り返さないよう、デッキが『詰まる』のを回避する構成を取った。けど、それはデッキパワーそのものを落とす諸刃の剣。私はその隙をつけばいい)
 冷静な読みを展開するエリー。奥の奥まで読み取る彼女の決闘に揺るぎはない。
「五月蝿ぇ目だ。てめぇらの目の色……変えてやるよ!」
 アキラはそんなエリーを睨みつけ、1ターン目から火力呪文を解き放つ。
「俺の……メインフェイズはまだ終わってねぇんだよ! 喰らえぇ! 《スクラップ・バースト》!」

《スクラップ・バースト》
通常魔法
相手に700ポイントのダメージを与える。自分のスタンバイフェイズに墓地にこのカードがある時、自分の墓地の罠カード4枚とこのカードをゲームから除外することにより、このカードを墓地から発動することが出来る。

(来た! ファーストアタック……)
 ダメージ自体は微々たる物。だが、初体験の人間には十分な衝撃。そう、電流である。
「くぅ……くっ、うぁあ…ぁ……」

「はっはっはーっ!殺れ殺れ殺れーっ!」
「ぶっ倒れちまえーっ! 潰れろォッ!」
「死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇっ!」

「どうやら始めて喰らったようだな。並みのやつなら……心が折れる」
「ああ。僕らが喰らうところを見たことはあっても、実際に喰らうのは初めての筈だ」

「……大丈夫。これくらい……大丈夫……」
 エリーの決闘盤から700ライフ分の電流が流れる。一瞬だが、苦しそうな表情を浮かべるエリー。だが彼女は、すぐさま持ち直し決闘盤を構える。だが、その光景を舐めるように凝視する者が1人。アキラだ。
(なるほど。700ならこのくらい……結構効くもんだな。流石はSCSマークのついた決闘盤……)
 アキラのファーストアタック。それは『認識』の為だった。楔が、打ち込まれたのだ。
(確認したぜぇ。俺も、お前もな。さぁ、ここからだ。ここからが……)
 アキラは、エリーへのダメージ処理と電撃処理が終わったのを見届けると、メインフェイズを続行する。
「このままでいい。俺はこのままでターンエンドだ」
 変調の兆し。アキラは、カードを1枚も伏せることなくターンエンド。今までとは対極のプレイング。
(【オフェンシブ・ドロー・ゴー】じゃない。戦略を捨てた?)
 驚くエリー。だが、脅威を感じたわけではない。むしろ、その逆。
(私は、今まで色々なデッキを組んできた。色々な人と戦った。その時、わかったこと。それは、土壇場で自分を信じられなくなったら終わりということ……アキラ……)

 エリーは、【神炎皇ウリア】本来の動きを開始する。アキラの、意表をついたノーセットとは対照的に。
「私のターン、ドロー……します。手札から《封印の黄金櫃(ゴールド・サルコファグス)》を発動!」
 アキラ同様《封印の黄金櫃》を発動するエリー。デッキから取り出すカードは、最強の1枚。
「デッキから《神炎皇ウリア(ウリア・ロード・オブ・シーリング・フレイム)》を除外します!」
 エリーは、初手からフィニッシャーをサーチする、やや強気なプレイングに出る。
「更に私は、デュエルディスクにカードを2枚セット。ターンエンドを宣言……します」
 2戦目の勢いそのままにアキラを押し切る構えのエリー。彼女は、迷わない。
(《神炎皇ウリア》か。いいぜぇ。ハハ……壊して……やるよ……)

「俺のターン、ドロー……ハハ…………」
(え? なに!? 何が……来る!?)
《ディメンション・ボム》を発動ォッ!対戦相手のライフを1000回復する!」

アキラ:8000LP
エリー:8300LP

《ディメンション・ボム》。アレは遅効性のカード。私の決闘を遅攻とみて、サイドから入れた?)
「更に俺は!カードを3枚伏せてターンエンドだ!さぁ、ここからが、本番だぁ……」
(ノーセットかと見せてフルセット……揺さぶりをかけてきた。でも……この程度なら!)

「私のターン、ドロー……(アキラは、私のデッキが遅いと考えてアレを入れたのかもしれない。でも……私が……デッキに何も爆弾を仕込まなかったと思ってる? なら!)……リバースカードオープン! 《名推理》を発動! レベルを……指定してください」

グレ(名推理)!?
「やっと起きたのかかグレファー。そうだ、《名推理》。エリーのデッキは少数精鋭のモンスターカードと、多数の雑多な永続罠を基調としている。そして、フィニッシャーは言うまでもなく《神炎皇ウリア》。この構成で《名推理》を撃てば、場合によっては1キルクラスにウリアの攻撃力が膨れ上がる。言うなれば、相手の計算を大きく外す為の一手。らしいといえばらしいな」

「……『3』を指定する」
 アキラの選択は極めて妥当だった。スカラベ・イナゴ・ラクーダといった『御三家』は、アタックモンスターを抱えないアキラには難物中の難物。エリーのデッキに、通常召喚可能な最上級を抱えている様子が伺えない以上、御三家のレベルである『3』を封じに出たのは当然の流れである。もっとも、エリーは最初からアキラの選択を気にしてはいなかった。彼女は、多くの永続罠が墓地に送られることだけを願って、デッキを上から1枚づつ捲っていく。
「私は、《メタモルポット》を表側攻撃表示で特殊召喚……」
(まんまとレベル2を引き当てたか。運の強いこった。で、墓地に送られた本命は……3枚か……)
「メインフェイズ1を終了、バトルフェイズに移行します」

グレ(表側攻撃表示)? グレ(バトルフェイズ)?
「《無血の報酬》対策だな。微々たるダメージしか与えられずとも、ダメージはダメージ。《無血の報酬》の起動を阻止できる。或いは、《無血の報酬》の起動を阻止しようとするエリーの攻撃を阻止しようとするアキラの動きを観察する事によって、アキラの次の手を読み取ることにも繋がる。もっとも、アキラのデッキには最初から罠モンスターぐらいしか投入されていないだろうがな」
グレ(gure)! グレ(gure)!
「サイドからアタッカーが投入されている可能性もなくはない。だが、エリーの手札には攻撃抑止方永続罠が1〜2枚程入ってきている、かもな。今、エリーが使っているデッキはその性質上、永続罠を出来る限り投入する必要がある。だが、そもそも永続罠は種類に難がある。相手のデッキに100%刺さる永続罠ばかりで固めるわけには行かず、その結果、攻撃抑制系罠も数枚デッキに残る。加えて、当然の話だがアキラが裏をかいてくる可能性も考慮しなければならない。わりと用心深いエリーのことだ。アキラの行動を意識した上で、幾つかの攻撃抑止系永続罠をデッキの中に残しているだろうな。もっとも僕ならば、何もなくともここは殴りの一手。決闘は、殴ってみなければ始まらない」

「《メタモルポット》でダイレクトアタック!」(さぁ、アキラは……どう動く?)
 エリーはアキラの戦法を見極めるべく、凝視の構えに入る。アキラは……怪しく微笑んだ。
「りぃばぁすかぁどはつどぉおっ!ライフポイントを6000支払い!《光の護封壁》を発動するぅ!」
 アキラの前に光の壁がせり上がり、壺の一撃を受け止める。典型的な攻撃抑止系トラップ発動シーン。だがその際払われた代償は、尋常一様な代物ではなかった。決闘が、動かされる。

アキラ:2000LP
エリー:8000LP

「なんだとぉ!? 攻撃力700相手に、6000の直払いだとぉ!」
「馬鹿な! アイツは死ぬことを恐れていないのかぁ!」
「わからねえ! わからねえぜ! 逝っちまうぅぅぅぅぅぅぅぅう!」

グレ(6000)!? グレ(LPが)! グレ(残り)! ファー(2000になっちまうぜ)!
「落ち着け、グレファー。一応、《神炎皇ウリア》の登場を見越した、コストの先払いともとれる」
グレ(そうか)!
「そうすぐに納得するもんじゃないさ。エリーが今使っているあのデッキは、僕の【岩石族】と似たような動きをする一点必墜型。《名推理》の採用が示すように、《神炎皇ウリア》の圧倒的出力で相手を薙ぎ倒すのがその真骨頂。あのデッキなら、今から1〜2ターンの内にもう1枚永続罠を墓地に送るなど造作もない。そして、そうなってしまえばあの護封壁に支払った6000の内5000分は無駄払いとなる。つまり、アキラの行動は下の下。それが世の常識だろう。(だが……)」

(あれは……今召喚すれば、攻撃力6000が見込めるウリア対策ってこと? でも……)
 エリーは、今さっき起こった謎の現象に対し怪訝な表情を浮かべている。
「さぁ……バトルフェイズはこれで終わりだろ……続けろよ……キヒッ!」
 一方、アキラの挙動不審には更に拍車がかかっていた。彼は、謎の薄笑いを浮かべ続けている。
「私は……メインフェイズ2に移行!手札から《天使の施し》を発動します。私はデッキから3枚のカードをドロー……手札から……と……を捨てます……」
 エリーの手は早かった。手札からもう1枚永続罠を墓地に送ることで、ウリアの想定攻撃力を7000まで引き上げる。更にエリーは、自分の手に一通り必要なカードが揃った事を確認。勝負に出る。
「私は手札を4枚セット、ターンエンド……」
 エリーは、自分の手札4枚全てをセット。アキラのデッキが《大嵐》を投入していないと見切った上で、或いは、万が一投入していても問題ないと考えた上でのフルセット。細心にして大胆な一手にでる。

(このままのペースなら……次のターン、アキラに何もさせないまま勝てる)
 アキラが尋常でないのは既に察していた。だが、何かやる前に倒せば問題は……ない。
(私の動きを察知したアキラは次のターン、焦って仕掛けてくるかもしれない。でも、捌ける)
 彼女の場には、攻防一体の手が揃っていた。最も早ければ、次のターンで決着が付く。
(今必要なのは、此方からプレッシャーをかけていくこと。そして、痛みに耐えること……)
 エリーは覚悟していた。電流による直接ダメージを覚悟していた。エリーは身構える。

「ここだ! 俺はこのタイミングでリバースカードをオープン!」
 《メタモルポット》の攻撃が防がれた。その意味を、エリーは悟る。
(来る! 《無血の報酬》による1200ダメージ……これを耐えれば……)
 だが、アキラの思惑はエリーの予想を超える。彼は、信じがたい行動に出た。
「リバース・トラップ・オープン!! 《無謀な欲張り》を発動する!」
(《無謀な欲張り》!? ドロー増強……)
「どうする? カウンターしたけりゃご自由にってな……」
「私は……構いません……」
 《無謀な欲張り》には強烈なデメリットが備わっている。エリーは、この発動をさして脅威には感じなかった。エリーのライフは8300。簡単には落ちない。ならば長期的に見ればディスアドヴァンテージを負うことになる《無謀な欲張り》など、エリーにしてみれば脅威でも何でもなかった。アキラが引いたカードの内もっとも危険な1枚をカウンター、後はドロー・スキップによる自滅を待てばいい、彼女にしてみればそれだけの話であった。だが、アキラはそんなエリーを見届けると、更なる狂気に打って出る。彼は……既にキレていた。
「クク……そうかいそうかい。だったら……次はコレだ! リバースカードオープン! 1000ライフを支払い《闇よりの罠》を発動! 墓地に落ちた《無謀な欲張り》を除外!その効果を発動するぅ!」
「えぇっ!? そんな……嘘……」
「何を驚く! 発動条件は合っている筈だぜ!」

「そ、そうか! 奴のライフは2000! 《闇よりの罠》が発動可能だ!」
「《光の護封壁》に6000……奴の、真の狙いはこれだったのかぁッ!」
「捨て身の戦術だ! まともじゃねぇ……まともじゃねぇよアイツぅ!」

アキラ:1000LP
エリー:8000LP

「チェーンは……ないのか?」
「……先程と同じく……スルーで」
 エリーがスルーしたことでアキラの追加ドローが確定。《無謀な欲張り》を《闇よりの罠》で使いまわしたことにより、アキラは4ドローを達成する。だが、仕方のないことだった。4枚ものドローは、確かに次のターンの脅威を予感させるに十分な枚数だが、この時、エリーが発動できるカウンター罠は《魔宮の賄賂》のみ。相手の魔法・罠を打ち消す代わりに1ドローを許すタイプのカウンター罠。そう、相手のドローを打ち消してドローを与えるなど本末転倒甚だしいことこの上ない。エリーは、伏せていたカウンター罠が《魔宮の賄賂》であることを悟られないよう、静かに、あっさりとスルーした。さも、どうでもいいとばかりに。だが、その心中は穏やかでなかった。
「《無謀な欲張り》の次は《闇よりの罠》……中々個性的なサイドボード……なんですね」
 そう、1〜2戦目、エリーが観察し続けたアキラのメインデッキには、《無謀な欲張り》やら《闇よりの罠》やらが入っている形跡は見当たらなかった。となると、考えられるのはサイドからの投入。だが、どこの次元に《無謀な欲張り》や《闇よりの罠》を嬉々としてサイドボードに差し込む狂人がいるだろうか。これは最早オフェンシブ・サイドボードどころの騒ぎではない。クレイジー・サイドボードだ。だが、アキラはその疑問に対し、事も無げに答える。それは、魔界の住人と呼ぶにふさわしい模範解答だった。

「ポケットの中に入ってたんでなぁ。そりゃぁ、使うさ……」
「ポケットの中……それって……反則じゃぁ」
 エリーの口から思わず漏れた反則の二文字。だが、エリーはこの一瞬で悟る。この決闘の盲点に。
「まさか……」
 審判の方を仰ぎ見るエリー。だが、ジンは黙したまま一向に動く気配を見せない。
「反則ぅ!? 言い掛かりはよしてくれよ。俺はただ、サイドボードのカードをばらして15枚別々の場所に持ち歩くことを習慣にしているだけだぜぇっ! 当然、合法だよなぁ!」

グレ(おい)! グレ(ディムズディル)! グレファー(いいのかアレ)!
 エリーを贔屓目に見るグレファーは憤慨する。だが、ディムズディルは涼しい顔。
「むしろいけない理由を聞きたいぐらいだな。地下ではあの程度日常茶飯事。驚くにも値しない。エリー……油断したな。この急ごしらえのデュエル、サイドボードの登録など最初からやっちゃいない。つまりサイドボードは、“15枚まで”なら何処から調達したカードでも問題は無い。単純に、気がついたアキラが賢かった。そして、その可能性を考慮しきれなかった、エリーが甘いんだ」

「俺のターン……1回目のドローフェイズ・スキップ。俺はカードをドロー出来ない。だが! スタンバイフェイズ、俺の場には2つの箱が出現する! 過去の箱と、未来の箱だ!」
 アキラは、《封印の黄金櫃》に収められていた《無血の報酬》と、《タイムカプセル》に収められていたもう1枚のカードを右手で掴む。時は満ちた。アキラは、狂気の戦略を始動する。
「なぁ……エリー……アンタには礼を言わなきゃな。アンタの決闘を見て、そんで実際にアンタとやって、自分に足りないもんが丸ごと見えてきた。それは……」
「アキラ……?」
「相手を……ぶっ壊す意思だ! 壊してやるよ! お前を……このカードでなぁ!」
 殺気立つアキラは1枚のカードをエリーに提示する。それは、エリーが予想だにしないカード。
「それってまさか…………………………………………………………………自爆スイッチ!?」

【自爆スイッチ】
古今東西最も恐怖を喚起する戦術。それが自爆であるところは昨今のテロ活動や旧日本軍が証明するところである。自分の身を省みず特攻するその発狂した精神構造が相手に与えるダメージは、肉体・精神共に多大なものがあるのは既に周知の事実であろう。だが、『有史以来最も捩れたゲーム』と言われた遊戯王OCG に置いては、この『自爆』への認識もまた異なっている。スイッチを押しても本人が実際に死ぬわけではない。当然、相手の身体が傷つくわけでもない。だが、代わりにゲームそのものが終了する。つまり、『戦争そのものの自爆』を行うのが遊戯王OCGにおける自爆、即ち《自爆スイッチ》の本質である。結局の所、自軍の優位を築いた後“勝ち逃げ”行為をなす為に存在するのが遊戯王OCGにおける《自爆スイッチ》であり、当然そこには美学も恐怖も一切存在しない。旧日本軍のそれのように、自軍から何時の間にか神格化されることもなければ、他軍から当然の様に異常者扱いされる事もない。それどころか、盛り上がったゲームを強制的に終わらす以上、発動者が『臆病者』とさえ罵られるのがこの《自爆スイッチ》。だが、この時アキラはこの《自爆スイッチ》を、自分が『不利』な状態から、『ゲーム』ではなく『対戦相手の人生』を終わらせる為に使用する!

グレ(アキラ:1000LP)! グレ(エリー:8300LP)! グレ(発動可)! グレ(But)! グレ(1勝1敗)! グレ(再試合)! グレファー(無意味)!
 グレファーが吼える。傍から見ても、これは何処からどう考えても意味不明な展開。だが!
「やはりか! アキラの狙いは《自爆スイッチ》を用いた事実上の1ターンキル!」
 ディムズディルが吼える。彼には心当たりがあった。その、異常な戦術の!
グレェェェ(何ィィィ)!?

「どういう……こと!?そのカードでなんで私を倒せるの?そのカードじゃ引き分けにしか……」
「『倒す』? 違うなぁ……『殺す』んだ! この《自爆スイッチ》でなぁ!」
(アキラの殺気……尋常じゃない。なに……これ……なに!?)
「嬢さんよぉ……今までアンタ《自爆スイッチ》を押したことあるか? ないよなぁ。あんたはデュエルを楽しむ。苛酷なまでに楽しむ。どうあっても、どれだけ身を痛めても、真っ向から相手に立ち向かう。そんなアンタだ。勝ち逃げなんてしないよなぁ。だが、俺は違う。チームのポイントの為、何度も押さなければならなかった。率先して『決闘』であることを放棄。死ななければならなかった。だが、だからこそ俺は知ってるんだよ。決闘盤のウィークポイントをなぁ!」
「決闘盤の……ウィークポイント!?」
「《エクゾディア》や《ウイジャ盤》、そしてこの《自爆スイッチ》。発動してしまったが最後、強制的にゲームが終了するカードは幾つかある。だが……知らないだろぉ? その時決闘盤が一体どういう処理をするか!」
「グレ(処理)!?」
「例えばこの《自爆スイッチ》。このカードのテキストは「自分のライフポイントが相手より7000ポイント以上少ない時に発動する事ができる。お互いのライフポイントは0になる」だ。だが、この特殊すぎる効果を機械処理するにあたっては、100%テキスト通りの解決がなされているわけじゃない。特例は無駄が多いからな。よってぇ……便宜上同じ効果が見込めるような処理が行われる。決闘盤による《自爆スイッチ》の処理は、「お互いのプレーヤーに軽減・無効不可能なダメージをお互いの残りライフ分喰らわせ、お互いのライフが『0』になるまでその処理を繰り返す」だ。残りライフが0になるまでダメージを喰らう以上、ライフ回復カードと組み合わせてもその効果からは絶対逃げられない。そういう仕組みなのさぁ。そう、0になるまでライフを失うようにインプットされているぅ! 『俺の』カードで! 『お前』はぁ! 全部で8300ダメージを喰らうのさぁ!」
「あなたのカードで私にダメージ……あっ!」

“相手のカードでライフを失った時そのダメージ量に応じた電流が装着者を襲う

「まさか……」
 エリーが戦慄する。“事実上の1ターンキル”の脅威に戦慄する。アキラの狂気に戦慄する!
「8300『ライフポイント』を……『ボルト』に換算したら一体何ボルトになるんだろうなぁ! サレンダーは……当然却下だぁぁぁぁぁぁあ! いくぞエリー。殺してやるぅ……喰らえぇ!」 

 

自爆スイッチ!!

 

遂にその全貌を現した、地下決闘必殺の1ターンキル。いや、これこそ最高のマッチキルというべきかも知れない。完全に意表を突かれたエリーの顔が見る見るうちに青ざめる。だが、エリーは必死に己を取り戻し、打てる手を打つ。彼女は事前に5枚のカードを伏せていた。それはこのような非常事態を想定してのことではなかったか。彼女の眼が生気を取り戻す。彼女は、アキラの思惑を打ち砕くべく、対抗策に打って出る。
「やらせない! リバースカードオープン!」
「なにぃ!?」
「ライフを半分支払い《神の宣告》を発動! 《自爆スイッチ》をカウンターします!」
「はっ、やらせるかよぉ! リバースオープン! 《魔宮の賄賂》を発動!どうだ!」
「だったら! リバースカードオープン! 《魔宮の賄賂》!」
「ダブルのカウンター・トラップか!」
「ハッ、ハッ……逆順処理により……《自爆スイッチ》は……無効。発動は……させない!」

「グレ(エリーが勝った)!グレ(エリーが勝った)!」
 激しいチェーン合戦の応酬。だが、その攻防を制したのはエリーだった。《自爆スイッチ》が発動後一歩のところで解体、無効化されていく。エリーは惨劇を未然に防げたことに対し、心から安堵した。
「これで……あなたの狙いは未然に……」





ハーッハッハッハッハッハッハ!ハーッハッハッハッハッハッハ!

クァーハッハッハッハッハッハ!





(アキラが……笑ってる? なに? この嫌な感覚は……なに!?)
「俺の狙いが未然にぃ? 甘いなぁ。《自爆スイッチ》は囮さぁ!」
「おと……り?」
「俺にだってわからないんだぜ? どれだけの電流が流れるか! もしかしたら安全装置の1つや2つ余計なもんがくっついてるかもしれない。即死は流石にめんどうだろうからなぁ。それに……だ。景気よく解説してみたはいいが、この特注決闘盤が本当に《自爆スィッチ》発動時、お前に電流を流すかどうかなんて俺にわかるわけねーんだよ。何もかもが未知数! そんなもんに奇襲の成否を託せるかぁ? 託せないよなぁ……託せるわけがないよなぁ! だがぁっ! 脅しには十分だ! お前のライフを半分削り取って、此方はカードまで引かせてもらう、その為の囮にはなぁ!」

アキラ:1000LP
エリー:4250LP

グレー(なんじゃー)???
「アキラにはもう後がない。もし万が一エリーが電流を耐え切り、引き分け再試合になったらアキラにはもう何も無い。戦術は既に見切られ、万策尽きたとしたら座して死を待つ以外にない」
グレ(ディムズディル)!?
「結局の所アキラは、どうあってもこの試合で決着をつける以外にない、ということだ。アキラは其処まで自分を追い込んでいた。となると……あれは一世一代のフェイクだな。まさか自爆を盾に脅迫を行い、エリーに、自分から4150ものライフを差し出させるのが真の狙いとは誰も考えない、か。どこか懐かしい闘い方じゃないか。これがアキラの潜在能力の……発露……面白い……」
 ディムズディルの表情が見る見るうちに変わっていく。グレファーは、横で怯えきっていた。
「ああ嫌だ。自分の愚かさを今噛み締める思いだよなぁ。そうさ、「『適材適所』など無視して僕がやればよかったよなぁグレファー。まったくさぁ……この手が疼いてしょうがないな」

「俺の残り手札枚数は……厳選されたこの5枚。奇しくも初期手札と同じ枚数だ。そうだよなぁ。残り8000なら、もし残り8000なら、決定力・パンチ力・制圧力に欠ける【オフェンシブ・ドロー・ゴー】では、お前の的確な『読み』と『捌き』を相手取れば厳しいかもしれないな。だが! 4250ならどうだ! 4250なら! 削りきれるかもなぁ!」
(そ……そんな……まさか……こんなことって!?)
「お前のデッキは“一撃必殺”だったなぁ。なら!ライフが1000あろうが8000あろうが似たようなものだよな。わかってるぜぇ。俺はディムズディルの《メガロック・ドラゴン》の一撃を喰らい、“一撃必殺”を身体で味わってるからな。なぁ……当然読んでたんだろ。俺のデッキの薄さを。攻防一体であるが故の薄さ。押し切れると読んでたんだよな。だから《光の護封壁》も《無謀な欲張り》も当然のようにスルーした。だがぁ! もうお前にカウンターは無い! 《天使の施し》で調整が効いた、動きのよさが仇となったな! その3枚は永続罠のはずだ! 見えてるぜ、エリー!」
 この試合、初めてアキラがエリーの急所を捉える。エリーの戦略は、《自爆スイッチ》1枚の為に既にガタガタになっていた。【オフェンシブ・ドロー・ゴー】に一撃必殺は有り得ないと踏んでいたエリー。その読みは、正しい筈だった。だが、地下決闘の狂気にアキラの狂気が累乗されることで、そのセオリーは跡形もなく消し飛んだ。
(自分の身を切り刻み、自爆までチラつかせ私に駆け引きを持ちかける。これは……)
「更に! 俺は手札をシャッフルする! そしてシャッフル後……上のカードから順番にセットだ!」
 アキラは5枚中4枚のカードを場に伏せる。アキラの眼は獲物を狩るそれに変わっていた。
(手札をシャッフルして上から順番に伏せる。セットの際の癖を散らすプレイング。ここにきて、アキラの殺気が増した。今ならはっきりわかる。最初の、伏せたり伏せなかったりには最初から何の意味もなかった。一気呵成に攻め立てる時の為のカモフラージュに過ぎなかった。そして、今がその時……)
「楽しいだろぉ……これが俺の、地獄への通行証……」

 

 

自殺許可証(スーサイド・パーミッション)】!

 

 

「どうしてもこの決闘で死にたいってんなら……お望み通り介錯してやるよ! エリー!」

アキラ:1000LP
エリー:4150LP

グレ(【自殺許可証】)!? グレ(何がどうなってんだ)!?
「アキラはその殺気と執念でエリーを泥沼に引きこんだ。カウンター合戦の際、アキラは《魔宮の賄賂》を使ったが、あの瞬間エリーは《魔宮の賄賂》に対する《魔宮の賄賂》発動の是非を少なくとも1回は考慮すべきだった。エリーのライフはあの時点で4150。4150なら例え電流が走っても気力が充実していれば耐え切れるかもしれない。だが、エリーは思考の枠外から襲ってくる戦法の前に思わずカウンター罠をもう1度使ってしまった。その結果、アキラは一方的に追加の1ドローを獲得したことになる。つまり、エリーは更なる追撃を喰らった。『得意の戦法を捨て去ってまで奇襲を仕掛け、更にカウンター罠を使ってまで奇襲を成功させようとししてきた以上、此方も全力で潰さなければきっと負ける』。アキラはエリーの思考を、そういう方向に無理矢理誘導した。そうすることで最大の戦果を獲得した。そしてエリーはまんまとそれに引っかかった。踏みとどまることが……できなかった。まだまだ甘いな」

グレ(わかるか)! グレ(そんなもん)!
「だからお前達は甘い。現に、アキラの手を読むチャンスはあった。アキラが何故自分から《自爆スイッチ》の狙いをわざわざ暴露したのか。この時、一瞬でも疑問を抱いたなら、せめてカウンターへのカウンターは思いとどまれたかもしれない。そして、アキラもまたその気配を感知して《魔宮の賄賂》までは使わなかったかもしれない。この決闘は、そういう次元を読み合う闘いだ」

(今のアキラは……怖い。けど! アキラのドローは止まっている。この急場を凌ぎきれれば……)
「ターンエンド……」
「この瞬間リバース罠《心鎮壷》を発動! セットカードを2枚封印! 更に永続罠《神の恵み》を発動!」
「セット封じにライフ回復……急場凌ぎか! 随分と必死だな」
「なんとでも! 私のターン、ドロー! ライフを500回復!」
「涙ぐましいな! どうせなら攻めて来いよ!」
「くっ……(《光の護封壁》があるから攻撃力6000以下の、ほぼ全てのモンスターが攻撃不能。私の手札、デッキの中で、あの護封壁を越える方法は……)」

アキラ:1000LP
エリー:4650LP

 エリーは圧されていた。アキラのプレッシャーに圧されていた。ヘル・バーニング・デュエルによる長期戦で既にその体力の大部分を消費していたエリー。その疲れが、アキラのプレッシャーを受け滝の様に噴出してくる。快調だったころには感じない類の疲れ、それが今、エリーを痛めつけ弱気にする。彼女の手札には、このターンのスタンバイフェイズ、《封印の黄金櫃》経由で仕入れた《神炎皇ウリア》がある。『トラップ・ディストラクション』を持つウリアで思い切ってこのターン仕掛けるのも一つの手。だがエリーには見えない。アキラのフルセットに込められた『心』が読めない。今まで、相手の急所を鮮やかに読みきって勝利を挙げてきたエリーは、今、アキラの『気』に圧される。無論今までとて勝つ保障のない戦いを幾多も潜り抜けてきたエリーではあったが、ことここに至って動きが鈍る。エリーは動けない。
「私はモンスターを1枚セット。《メタモルポット》を守備表示に変更してこのままターンエンド……」
「そーかよ! リバース! 《心鎮壷》を対象として《砂塵の大竜巻》を発動!」
 第2戦、アキラを苦した《心鎮壷》。だが、アキラは既に、その脅威を乗り超えていた。エリーの恐れをトリガーに、更なる仕掛けに打って出る。
「ここだぁ! 《砂塵の大竜巻》にチェーン! 《ゴブリンのやりくり上手》を発動するぅ!」
(単発のやりくり上手、1枚引いて1枚セット。この場ではアドが取れない……)
「《ゴブリンのやりくり上手》チェーン終了。続いてぇ!《砂塵の大竜巻》の効果発動! 《心鎮壷》を破壊! そしてぇ! やりくり上手によって魔法・罠ゾーンに空きが出来たことにより! この瞬間、《砂塵の大竜巻》、もう1つの効果が発動可能ォ! 手札からカードを1枚セットするぅっ!」
(カードを1枚セット……発動は……違う!手札が0! アキラの狙いは!)

「りぃばぁぁす! 《無血の報酬》発動ォ! さぁ……喘げ! 苦しめ!悶え死ね!」
 手札0によって発動する【オフェンシブ・ドロー・ゴー】、消えていた筈の脅威が今、再生される。
「う……あぁああぁぁぁあああぁっぁあ!」
 畳み掛けるような電流。エリーのライフ、身体が、そして心が、アキラによって蝕まれる。
(痛い……自分の全てが否定されそうな痛さ。この痛みは……キツイ……けど!)

アキラ:1000LP
エリー:3450LP

「ダメージを受けたこの瞬間! リバースカードオープン! 永続罠《神の赦免》を発動します!」

《神の赦免》 
永続罠
相手がコントロールするカードから自分がダメージを受けた時このカードを発動した場合、デッキから《神の放免》と名の付くカードを1枚表側表示で場に出すことができる。

《神の放免》
永続罠
自分はこのカードの発動時、フィールド上にある『神の』と名の付くカードを全て破壊することができる。フィールド上で1度発動されたこのカードと《神の赦免》が墓地にあるとき、自分は各種ライフコストの支払いを行わなくても良い。そうした場合、自分は墓地から『神の』と名の付くカードを1枚取り除く。

「デッキから《神の放免》を発動……します」
「デッキからカードを補充とはいい御身分だな! こっちはドローフェイズが飛んでるってのによ。今度は俺のターンだ。2回目のドロースキップを行う…… が、この瞬間! リバースカードオープン! 《ゴブリンのやりくり上手》を発動! 前のターン、墓地に1枚目が落ちたことにより! 俺は2枚のカードをドロー……その内の1枚をデッキボトムに送る!」
 アキラは先程の《ゴブリンのやりくり上手》で引き入れた《ゴブリンのやりくり上手》を発動。アド差をイーブンに戻すが、彼の、本当の狙いはそこではない。彼は、まるでパズルのように魔法・罠ゾーンを自在に操る。その姿には鬼気迫るものがあった。アキラの執念が、エリーを襲う。
「スタンバイフェイズに移行! 行くぜぇ! 墓地の、《スクラップバースト》の効果発動!」

《スクラップ・バースト》
通常魔法
相手に700ポイントのダメージを与える。自分のスタンバイフェイズに墓地にこのカードがある時、自分の墓地の罠カード4枚とこのカードをゲームから除外することにより、このカードを墓地から発動することが出来る。

「墓地から4枚の罠カードをゲームから除外! 700ポイントのダメージ!」
 畳み掛けるようなアキラの猛攻。電流がエリーを襲う。
「くぅぅぅっ……あぁっ」

アキラ:1000LP
エリー:2750LP

「カードを1枚セット、ターンエンド。当然、手札枚数は『0』だ!」
「私のターン、ドロー。《神の恵み》の効果でライフを500回復……」

アキラ:1000LP
エリー:3250LP

「私は……《イナゴの軍勢》を反転召喚……効果により……《無血の報酬》を破壊します」
 エリーの動きはやはり鈍い。恐怖や迷いからか、いつもの快活なプレイは影を潜め、後手後手な戦いが続く。だが、アキラの狙いは、あるいはそこにこそあったのかもしれない。エリーを精神的に追い詰め、そのプレイングを封じ込めること、それ即ちエリー殺しである。アキラの眼が鋭く光る。
「そこだぁ! 速攻魔法《死者への供物》発動! 自分のドローフェイズを飛ばすことを代償に! 表側表示になった《イナゴの軍勢》を破壊するぅっ!」
「またドローフェイズを飛ばす……そこまでして!?」
「まだまだぁ! リバースカードオープン! 《無謀な欲張り》を発動ォ! 自分のドローフェイズを2回飛ばすことを代償にぃっ! カードを2枚ドローするぅっ!」
 アキラの、ドローフェイズを省みない異常なプレイイングが続く!
「楽しいよなぁ。楽しいよなぁ……決闘ってのはよぉ。まだまだ、行くぜ……」
 その姿はまさに、悪鬼羅刹の化身の如く。アキラの決闘は止まらない。止まる気配が見当たらない。

「俺のターン、《死者への供物》と《無謀な欲張り》のデメリット効果により、当然ドローフェイズをスキップ! そして……お待ちかねのスタンバイフェイズだ!」
「お待ち……かね……?」
 《自爆スイッチ》を巡る攻防に眼を奪われるあまり、見落とされた現実。それが今! 迫り来る!
「この瞬間! 時を超え! 1枚のカードが俺の元に帰還! 3ターン前、《自爆スイッチ》の布石としてお前に1000ライフを与えた《ディメンション・ボム》。だが! その真価は! 次元の狭間で超進化を遂げることによってぇっ! 発揮されるぅっ! さぁっ! 次元の狭間より現れろ!」

《ディメンション・ボム》
通常魔法
相手のライフを1000回復する。この効果は魔法・罠・モンスター効果による影響を受けない。このカードは発動後ゲームから裏向きで除外される。このカードの発動後3回目のスタンバイフェイズに自分はこのカードを手札に戻す。自分はこの効果でこのカードを手札に戻した場合、ターン終了時までこのカードは、名称を《バスターローリングギャラクシーバスターキャノン》として扱い、「速攻魔法/相手のライフに3000ダメージを与える。このカードの発動に対して、魔法・罠・モンスター効果による影響を受けない」というテキストを持つ。

(いけない……これを貰ったら……こんなのを……叩き込まれたら私は……)
 決闘盤が赤く煌き、直接火力の発動が確定。アキラは艱難辛苦に塗れながらも、遂にエリーの首筋に刃をつきたてた。アキラの執念が、その一撃に籠められる。
「自分がどうしたいのか……俺は……【オフェンシブ・ドロー・ゴー】に拘っているわけじゃなかった。俺が拘ってんのは……道を……道を全うすることだ……。なら俺は……俺はこの先に行く……」
(怖い? 私は……アキラを恐れている?)
「そのためには……どれほどの覚悟がいるのか、どれほどのことが必要なのか……ありがとよ。お前らのお陰でそれがはっきりした。寝てる間に眼が覚めたってな。俺は、目の前の絶壁をぶっ壊す! 最上級の謝礼だ。受け取りやがれぇっ! バスタァァァ・ロォォリィングゥゥゥ……ギャラクシィィィ・バスターキャノン発射ァ!」
「この……パワー…………あ……あぁああぁああああああ! いやぁっ」

 ズドォォォォォン!

アキラ:1000LP
エリー:250LP


ハーッハッハッハッハァー!

 アキラはこれを狙っていた。一見すると長期戦狙いと見せかけ、その実《自爆スイッチ》のトリガーを満たすための絵図と見せかけ、この一撃を見舞う機会を 狙っていた。最大火力を効率よく叩き込むこの機会を、スタンガンデュエルの効果を最大化するこの機会を、アキラは狙っていた。炎による疲労、アキラによっ て掛けられたプレッシャー、そして、間をおかぬ度重なる電流の連打。エリーは、その場にばったりと倒れ付していた。もはやぴくりとも動かない。エリーの意 識は完全に飛んでいた。そしてアキラは……決闘を続行した。

カードを2枚セット。ターン……エンドだ



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
【自殺許可証(スーサイド・パーミッション)】。初めて僕の口から聞いた時、ルール担当のankさんは死ぬほど笑ったらしい。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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