「いい決闘を」
「はっ、いいさ。やってやるよ。乗りかかった船だ。とことんやってやる。こうなりゃヤケクソだ!」
 正直、気が狂っていると思った。目の前には金髪の美少女。実にかわいらしい。だが、これは間違っても恋愛沙汰には発展しない。その左腕には決闘盤。要は決闘者としての面会だ。まぁ、ここまではいい。問題は、だ。俺が今立っているこの場所が、試合場と言うよりは闘技場で、より率直に言うとデスリング。大いに問題、デュエルパンクラチオンとはよく言ったもの。基本的に脱出不能。何の因果かは知らないが、今から俺は、デスマッチを期待する素敵にトチ狂った観客達に囲まれた挙句、ヘルデュエル(地獄決闘)なる字面の時点で軽く眩暈を催すような決闘をやる羽目になっている。何故だ。一体なんでこんなことになったんだ。俺の記憶が確かなら、俺こと山田晃は森勇一を倒す為、遊戯王OCGの大会に勇んで参加した筈なのに、なんでこんなことになってんだ。

―大会4日目前日―

「《ヴァンパイア・ロード》の効果を発動。フィールド上に復活!」
 できると決め付けんなよ。こちとら【オフェンシブ・ドロー・ゴー】だぜ! 
「やらせるか! カウンター罠《人誅》を発動! その復活は無効だ!」

《人誅》
カウンター罠
手札が0枚の時発動可能。 効果モンスターの発動と効果を無効にし、そのモンスターを破壊する。このカードの発動に成功したとき、自分は1000ライフを失う。

「《ヴァンパイア・ロード》は、永遠に棺の中で眠っていてもらおうか!」
「またカウンター罠か。だが、俺の布陣はまだまだ崩れないぜ」
 この眼帯野郎。ダルジュロス=……エルメストラだったか。強い! 

アキラ:3600LP
ストラ:5200LP

「元村信也とはまた違うタイプだな、お前……」
「そりゃあ、あいつとは違うさ。あんた、アイツには勝ったのか?」
「負けたなぁ。負け越しだ。まぁ、お前には勝っとこうと思ってるが、な」
 信也の奴、アイツのことを只者じゃないと言っていたが……勝ってたのかよ。
「今日は勝つ為に続けるぜ。この場で負けると、ディムズディルに怒られそうなんでな」
 だが、雰囲気はある。ちっ、三味線弾くのが得意技ってか? どう動く? どう攻めてくる?
「行くぜ! 《越権行為》を発動! どうする? カウンターいっとくか? 俺はどっちでもいいぜ」

《越権行為》 
通常魔法 初出:One Lover 19話
相手の場の魔法&罠ゾーンに伏せられているカードを全て表にし、確認後裏に戻す。その後、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。相手プレイヤーは2枚のカードをドローする。

 とりあえずこれでライフが並んだが、相手の狙いが掴めないこと甚だしいな。
「痛ぇなぁ。ああ、痛ぇぜ。これで、抜き差しならない状況になったってわけだ」
 ああ、そうさ。もし俺がアレを《破壊輪》でぶっ壊しちまったら、その時点で引き分けだ。
「さぁ、お前のターンだ。カードを引けよ」
 引き分け上等の構えか。だが、俺はあくまで勝ちに拘るぜ! 
「ドローだ……」
 《無血の報酬》を引いたか。ダメージソースは歓迎だが、生憎ノーハンドには1枚分遠いな。
「俺は場に1枚のカードをセットしておくぜ。ターンエンド……」
 使いきりの《ファイアーダーツ》をまず伏せる。《炸裂装甲》は迷う所だが、ここはリスク分散だ。
「行くぜ! 俺のターンだ。1枚ドロー。《死霊騎士デスカリバーナイト》を召喚! 更に! 《The big SATURN》を守備表示に変更しておくぜ!」
 やはり、見られた以上ミラーフォースは警戒されるよな。で、あっちを守備表示にするってことは……
「《死霊騎士デスカリバーナイト》でダイレクトアタックだ! 削り取れ!」
 ああ、いいぜ! どうせ終盤戦。出し惜しみは無しだ!
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》発動! 消えやがれ! 死霊騎士!」
「やるなぁ! だったら! 《死霊騎士デスカリバーナイト》を生贄に、手札から《神秘の中華鍋》を発動!」
 死霊騎士を炒め煮にする気か。見逃してやる! だが、素直にライフが増えると思うなよ! 
「ならこっちは!  更にチェーンして《ファイアーダーツ》を発動! サイコロを3回振るぜ!」
 出目の合計は11! 1100ダメージだ。回復量は、800に抑える! 

アキラ:3600LP
ストラ:4800LP

「俺のターン、ドロー……」
 引いたカードは《叱責》か。悪くない。これでゾーンは、過不足なく満席だ。
「俺は手札の2枚を、全てのカードを魔法・罠ゾーンにセットする。ターンエンド」
 さぁ、アイツはどうくるか。お手並み拝見……
「行くぜ! 俺のターン、ドロー。《タイムカプセル》から良質なカードを仕入れるぜ」
 チッ、だが《大嵐》は既にカウンター済み。くるとしたら、《ハリケーン》辺りか?
「さぁ、行くぜ! 手札から《ハリケーン》を発動!」
 ビンゴ! 2つの意味でな!
「通用、するかよ! カウンター罠! 《叱責》を発動! 生憎、そう簡単には落ちないぜ。さぁ、存分にかかってきやがれ!」
 上手い具合にカウンターが噛み合ったもんだ。流れは俺にあるな。それに、もし状況が悪化したとしても、卓袱台返しの、《破壊輪》の発動権利がこっちにある以上、最悪でも引き分けに持ち込め……なっ! 
「お望み通りにしてやる! 《The big SATURN》を攻撃表示。行くぜ! サターンの特殊効果発動!」
 まさか! 手札事故に痺れをきらし、コストを払って玉砕特攻のつもりか!? こいつぅっ!
「カード1枚をロック解除キーに、そして1000ライフを燃料に、Go! 《The big SATURN》!」

アキラ:3600LP
ストラ:3800LP

 《The big SATURN》の攻撃力は3800。そのまま殴られれば俺のライフは飛ぶ! だが! 
「フルパワーで突っ込め! 単騎特攻! ダイレクトアタックだ! 」
 その無茶苦茶は裏目だ! 俺の勝機を呼び込んだに過ぎないぜ!
「《破壊輪》……使うと思うか? 喰らえ! 《炸裂装甲》!」
 こっちで十分! 奴の残りライフが1000まで落ちるなら、それで勝てる!
「チッ! だったら! カウンター罠! 《地獄の扉越し銃》を発動!」
 やはりか! その辺が来ると思ってたぜ。だが! 俺にはこいつが残ってる!
「注文通りだ! 《魔宮の賄賂》を発動! その発動は無効だ!」
「だったら! そのまま大爆発だ! 特殊効果発動! DOUBLE IMPACT!!」

アキラ:800LP
ストラ:1000LP

 確かに痛い。だが、バトルフェイズは終了。《無血の報酬》で削りきれる!
「勝った。攻撃モンスターはもういない。残り1000なら、俺の方が先に削りきれる」
 な、なんだと!? 馬鹿な。こいつ、俺の思考を……
「……って顔してるな。驚くなよ。意外と、見えるもんだぜ。『目印』があればな」
 どういうことだ!? こいつ、さっきまでは引き分け上等みたいな決闘を……
「引き分けでも仕方ない、そう思ってたんだろ。俺のことを。だが、俺は今回100%勝つ気でやっている」
 ハッタリだ! だったら何故! 俺に引き分けの権利を与え続けた! ハッタリに決まって……
「お前は強気だからな。強気な奴は限界まで勝利を目指す。だがその結果、お前は判断を誤った」
 判断を誤った? どういうことだ!? 《魔宮の賄賂》で、いいカードでも引いたのか?
「このターンが始まった時点で、俺の手札は必要十分だった。既に、『歩く爆薬庫』のお陰でプレッシャーは十分だったからなぁ。唯一怖いのは、その強すぎるプレッシャーの所為で共倒れになることだったが……お前さん相手に、その心配はいらなかったよ……」
 なんだ? どういうことだ? 確かにサターンは脅威だったが、最終的には、上手く捌けた筈……
「メインフェイズ2! 墓地の、《D−HERO ディアボリックガイ》を除外!」
 ディアボリックガイ! サターンの効果使用時に捨てていたカードか!
「同名カードを特殊召喚。なんとこいつの攻撃力は800なんだ。面白いだろ?」
「800、俺の残りライフと並んでるな。だが、あんたのバトルフェイズは既に終了している!」
「確かにな! 俺にはもうダメージソースがない! だが、おめぇにはあるだろ! 少なくとも1つはな!」
 俺の……馬鹿な!? 右端のカードが勝手に発動している!? 何故だ! 何故……
「既に、《おとり人形》が動き出している。お前の場の右端のカード、《破壊輪》を強制発動させた。なぁに、難しい話じゃない。俺の火力が足りないなら、お前の分を足せばいい。簡単なことだろ? 残念だったな山田晃。勝利の幻影ってやつが、お前のカウンター罠を根こそぎ刈り取った。もう、お前の場にカウンター 罠は残っていないよなぁ。残っているわけないよなぁ。勝ちに行くつもりだったんだもんなぁ。最後の1枚、そいつは大方《無血の報酬》辺りだろうが、この決闘はとっくの昔に終点だ。お前には、少なくとも引き分けるチャンスがあった。だが、見てはならないものを見てしまった今のお前に残るのは……敗北だけさ」
 ちぃぃぃぃぃっ! 場にはディアボリックガイが1体。《破壊輪》が、はまる! 
「ボンッ……だ」

●アキラ―ストラ○

 何時ぞやの会合以来、俺はディムズディル達と行動していた。今丁度、ダルジュロス=エルメストラなる胡散臭い眼帯男との決闘を終えたところ。結果はこの通り、完敗だ。一昨日も負けた。昨日も負けた。そして今日も負けた。
 要するに、勝ち星から見放されまくっているのが今の俺。最近の勝率は、フリーデュエル を含めて尚どん底のど真ん中。昔の仲間達と比較してみても、聖に次ぐワースト2の成績だ。最悪の極みと言ってしまっていいんだろうよ。正直、不甲斐無い自分を思うと死にたくなってくる。
「ヒジリにも負けそうだな。こんなんじゃ……」
 「俺は一体何をしているのだろう」ってか? つーか、アレだな。期末試験の存在を忘れていた高校生が、1週間前分厚い参考書を目の前にして絶望感を抱くようなあの感覚。自暴自棄になりそうだ。だが何を思ってか、そんな俺を誘った酔狂な男がいる。そいつの名は、ディムズディル=グレイマン。『灰色の魔王(グレイ・ブラックマン)』だの『大地決闘者(アース・デュエリスト)』だの、やたらめったらに物々しい通り名を持つ男。多分人間。何を考えているのかが極め て不明瞭な、怪物みたいな男。外見の優しさに騙されてはいけない。あれは一種の怪物だ。あの男、傍目からは世界制服を企んでいるようにも、適当に暇潰しを 画策しているようにも見える辺りが恐ろしい。今はここにいないが、きっと何処かでよからぬことを考えているに違いない。
「なんで負けたのか、わかるか?」
 ダルジュロス=エルメストラ。感想戦の好きな奴だ。なんで、か。
「どうだろうな。とりあえず、サターンに動揺したのは事実だな」
「ああ。そうだろうな。じゃないと困る。わざわざ、お前に引き分けの選択肢を与えたんだからなぁ」
「わざわざ? どういう意味だ?」
「簡単だ。“なるだけ引き分けないようにカードを捌こう”というお前の意思が、お前の行動を縛る」
 そうか! 一見すると、『最低でも引き分けを俺の方から選べる』以上、俺の有利に見えるが……
「引き分けという、欲しくもない選択肢を敢えて与えることで、俺の決闘をガタガタにしたというわけか」
「性格分析って程上等なもんじゃないが、やってる間にお前の性格は大体把握した。で、そこから、お前はすぐさま引き分けに持ち込んだりはしない。ギリギリ まで粘ってくる……って確信に至った。なら、その間は自由だ。今まで以上に、大胆になれる俺だけがな。逆に、お前は不自由を強いられる……」

 【 人間を縛る鉄鎖 ( ジャン・ジャック・ルソー )

「でもってだ。「お前は引き分けをなるだけ拒む」と俺が確信していることを確信していないお前は、俺が引き分け上等の構えでサターンを出したのだと錯覚。見た目の事実に先入観を植えつけられる……」

 【 市場のイドラ ( フランシス・ベーコン )

「ラスト、お前に偽りの勝機を見せ引き分けの権利すら放棄させる、その為の手を打っておく。《D-HERO ディアボリックガイ》をメインフェイズ2までスルーしていたのもその一環だ。もしアレをメインフェイズ1に出してしまった場合、Dに攻撃宣言が出来ること を理由として、お前はサターンに《破壊輪》を打ち込み引き分けを選ぶだろうからな。だ・か・ら、俺はサターンによる単騎特攻をお前に見せ付けた。そうする ことで、仕上げが完了したわけだ。幻を見せるための、な」

 【 大いなる幻影 ( ジャン・ノワール )

「……参考になったよ。しかし、いいのか? 俺なんかに、そんなに色々教えてくれてさ」
 三段式の一発ギャグといえばそうも思えるが参考になるには違いない。
「確かに、商売道具なんか人に教えるもんじゃないが……ただの気紛れさ。じゃあな」

 ただの気紛れ、か。結局の所、気紛れで教えてやっても差し支えない、その程度の決闘者ってわけだ、俺は。確かに参考にはなった、が、正直、それでこれからどうすんだって話だよな……。
「どうにもなんねぇよなぁ……」
 俺はアイツらじゃない。俺はアイツらにはなれない。少なくとも明日までには。どうすんだよ、俺。
「どうやら、煮詰まってるようだな」
 来たよこの声。ディムズディル。壁越しか?
「ああ、とっくの昔に行き詰ってる、さ。否定はしない。どうにもならないんだよ」
 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃん、と来てみたはいいが、無理なもんは無理……
「なるさ。そう、どうにでもなるものだ。君に、覚悟があれば、な」
 コイツなら、壁をハンマーでぶっ壊してでも先に進めるのだろうな。だが俺は……
「簡単に言うなよ……」
「簡単なことを言った覚えはないな。僕が要求する覚悟は、それなりにでかいぞ」
 でかい、か。俺の……俺の覚悟……
「覚悟、か。そうだな。森勇一を倒すのが俺の目標だった。そこまで登る為の覚悟だったら……ある」
「足りないな。山登りなど途中で降りればいい。必要なのは、奈落の底へ飛び降りる覚悟だ」
「ノーロープ・バンジーでもやれってか?」
「即死しろとは言わないさ。だが、魂を削る覚悟ぐらいはしてもらおうか」
「魂、か。削れに削れて、既に残ってるかどうかもわかんねぇが、削れるもんなら削ってやるさ」
 おいおい、我ながら安請け合いもいいところだな。アイツは、何企んでんのかわかんねぇってのに。
「そうか。なら……予定変更の必要は無しだな! 行くぞ!」
 あぁん?なんだって?予定?いったい何を企んで……っておい! 壁にヒビッ! ?

 ズドドドドドドドォォン! ! 

「な、なんだぁっ!?」
 ドアがぶっ壊れて。煙が巻き上がって。どんな異常事態だよ! これは!?
「メガロック・ドラゴン!? イリュージョンじゃない……まさか実体! ?」
 カードが実体化するなんてありえないだろ。いや、違う! アレは……
「戦……車……!?」
 キャタピラだよキャタピラ。文明だよ文明。エンジン音だよエンジン音。
「……って、嘘だろ! ここ3階だぞ! どうやって持ち込んだんだよ! いや、それ以前にあんなもん!」
 どうやって作ったんだよあんな恐竜戦車もどき……って口が開いた!? 人影!?
「お前、ディムズディルだな! 一体何のつもりで……っておい!」
 おい、ちょっと待て。なんで、アイツはガスマスクを付けてるんだ? 灰色の髪。灰色ベースのフロックコート。特注臭い、灰色ベースに黒の文様が施された決闘盤。左手には灰色の携帯電話。どう考えてもアレはあいつだ。だが、何故ガスマスクをつけてるんだ?
 つーか、アイツが今右手に持っている、デッキケースみたいなものはなんなんだ? ケースの留め金を外した……ってなんでこっちに投げるんだよ! なんで中から変な煙が出て来るんだよ! なんで……まてよ! まさか、 さっきの留め金は安全装置かなんかで、蓋っぽいのはレバー……デッキケース型の手榴弾!? だとしたらヤベェ! 野郎、予想の遥か上を行きやがった!
「おい! ちょっと待てディムズディ……」
 不味い。この眠気は……催眠ガス……あの野郎……どういう……つもり……だ。
「安心しろよアキラ。僕は、見込みのない奴には期待しない男だ」
 安心……できる……わけねぇ……だ……ろ……。

 

第29話:地獄灼熱地下決闘(ヘル・バーニング・アンダーグラウンド・デュエル)


「ん……ここは……確かあの野郎が……なっ! 」
 あれは……釘で四肢を打たれた《ブラック・マジシャン・ガール》の絵……だよな。
「なんであんなもんがあるんだよ。いや、あれだけじゃない……みたいだな……」
 横に並べられたワイト印の蝋燭に、『DUEL IS DEAD!』の血文字……
「趣味が悪すぎるだろ。なんなんだよいったい……大体ここはどこなんだ!」
「俗な言い方をすれば、地下闘技場というやつだ。特別試合。お前は、さっきエントリーされた」
 エントリー? なんのことだ? そんなもんに申しこんだ覚えはないぞ。大体……、
「お前は……誰だ! 何のつもりだ! 何がしたいんだ!」
 どうか、地球人でも理解可能な、まともな答えが返ってきますように。
「裏コナミ……とだけ言っておこうか」
 お父さん、お母さん。ホントは大人になってから親孝行するつもりでした(過去形)。

「ジン、もう少し説明してやれよ。折角の逸材なんだからさ」
「お前! ディムズディル! これはなんだ! どういうことだ!」
「ようこそ! 地下決闘場へ。歓迎するよ、アキラ……」
「なにがようこそだ! てめぇ! 俺をどうしようってん……」

「待ちくたびれちまったぜぇ!」
「殺せ殺せ殺せぇー! 殺っちまえー!」
「ハッハー! ヘル・デュエルの始まりだぁ!」

「な、なんだあいつらは。オイ! ディムディル!」
「ただの観客だ。安心していいぞ。暇そうだったから呼びかけてみたんだが、みんな気のいい連中だ」
 気のいい連中。そうか。気のいい連中なのか。そりゃあ結構な……。
「ファック! ファック! ファック! ファーック!!」
 いや、殺してるよな。あいつらの内、誰かは人殺してるよな。
「安心できるかぁ! おい! これはなんだ! 裏コナミってなんだ!  大体ここは日本なのか!?」

「なあ『D』。やはりここはセオリー通り衝撃増幅……」
「いや、ジン。こういう時はヘル・バーニング……」
「ならいっそのこと両方……」

 お前らなぁ……人の質問に……答えろよ……。
「レディース・エーンド・ジェントルメーン!」
 なんだ!? 何が始まるんだ!?
「これより! 裏コナミ名物! 地獄灼熱地下決闘(ヘル・バーニング・アンダーグラウンド・デュエル)を行う!」
「うぉぉぉぉぉぉおお! ! ヘッル・デュッエル! ヘッル・デュッエル!」
「ヘッル・デュッエル! ヘッル・デュッエル! ヘッル・デュッエル!」
「ヘッル・デュッエル! ヘッル・デュッエル! ヘッル・デュッエル!」
 駄目だ。嫌な予感しかしない。まさか、あの火炎放射器らしき物体は……。
「ファイヤー・サービス! スタンバイ!」
 まんま火炎放射器じゃねぇか。燃やして、どうすんだよ。
「皆の衆! この燃え盛る炎によって闘技場は、MAX50度にまで燃え上がる!」
 おい、待てよ。50度って人が死ぬぞ。よくて熱射病。
「灼熱の炎が、決闘者の身を、骨を、削り尽くすというのかぁー!」
 おいディムズディル。お前は、お前は何を言っているんだ。
「よっしゃー! これを待ってたぜーっ! 流石は『実戦』担当だぁ! ヒャッホー!」

【地下決闘】
 アンダーグラウンドデュエル。ヨーロッパ発祥のこの決闘方式は何時の時代も時の権力者達を悩ませ続けた。夥しい量の掛け金と、過剰なまでの刺激が大陸の秩序を裏から侵食していたのである。
 無論、その事情は現代においても何ら変わるところはない。電流・火炎・地雷・爆薬・刀剣・毒薬・罠・トリック……ありとあらゆる無法がまかり通る、勝ち残ったった者だけが全てを手に入れる世界。それがアンダーグラウンドデュエルである。
 だが、誰もがその無法に対し手をこまねいていたわけではない。その無法に更なる無法をもって対抗した決闘集団が存在した。いや現在進行形で存在している。それが裏コナミ七人委員会……通称 SCS(スペシャル・センター・セブン)である。「SCSがアンダーグラウンドデュエル独自の秩序形勢に一役買っていた」……この噂に確証などありはしない。彼らは闇より現れ闇に消える。確証などありはしないのだ。だが地下決闘者達は知っている。その鮮やかな手並みがSCSのものだと言う事を知っている。
 SCSとは、誰も知らない一方で皆が知る、そういう存在なのである。

「ふ、ふざけるな! ここから出しやがれ! 」
「何故だい? 今から、君の為にセッティングした決闘が始まるというのに。今日の主役は君だ!」
「五月蝿い! 誰がやるかこんなもん!」
 そうだ。覚悟を決めるとは言ったが、ここまでやる覚えは……
「ふぅ……お前には失望したよ」
 あん? なんだって?
「所詮、お前如きが胸の内に抱く、『勝利への餓え』などその程度のものだったか……」
 ちょっと待て。なんでそうなる。
「魂の上っ面に幾ら執念の模造品を貼り付けようが、性根の腐敗は隠しようが無いな!」
 性根!? 腐敗!? おい、ディムズディルてめぇ……
「お前は既に負けている! 闘うことなく負けている! お前は決闘者ではない! ただの惨めな負け犬だ!」
 負け犬?俺が!? 惨めとかヒジリに言っとけよ!
「負け犬のDNAは世紀を超えて尚負け犬に収まるのがふさわしい。輪廻転生一億巡に渡って哀れな負け犬を演じ続けるのがお似合いと言うわけだ。お前のような、カードスリープに付着する塵芥の如き負け犬にはな! 這い蹲れ! 尻尾を振れ! 負け犬は負け犬らしく地に立つな!」
「負け犬だと! ふざけるな! 訂正しろ!」
 こいつ、言わせておけば……ふざけやがって……
「負け犬に負け犬と言って何が悪い。度重なる連戦連敗という事実から眼を逸らし、都合のいい妄想に尻尾を振る負け犬根性。ああそうか。そうだったな。お前には犬の称号すら生温かったか。デュエルフィールドに吸い付く寄生虫。それがお前の正体だ! お前は最初から勝利を目指してなどいない。目指している自分に 浸っているだけの、決闘寄生虫だ!」
「てめぇ! 言うに事欠いて……この俺が寄生虫だと! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「違うとでも言うのか?ならば闘って証明してみろ! この闘技場で! この極限で! その腑抜けた魂を決闘盤に賭け、ドローで天命を見極めてみろ!」
 く、くそ! 言いたい放題言いやがって。だがこの闘技場には……危険な香りが……
「お前如きにくれてやる言葉など、一々持ち合わせてはいない! だがこれだけは言っておく! この闘争から逃走を試みる事それ即ち勝利からの永遠の逃走! お前 は一生勝てはしない。お前が目指していた男には未来永劫宇宙終焉の時まで勝てはしない! さあここが分岐点だ! だが! お前がここから惨めに逃げ出すというのなら僕はもう止めはしない! 精々真剣勝負の真似事に耽りきり、無知蒙昧の愚を晒しながら虚空に消えるがいい! この……臆病者ォ!」
「こ、この……」
「聞こえんぞエキノコックス! 寄生虫の声など届きはしない! みんな笑え!」
「臆病者! チキン野郎!」
「やる気がないなら、そこの暖炉でカードを燃やせ!」
「そうだ! てめぇも一緒に燃えちまえぇ! 土に帰りやがれ!」
「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」

「ふ、ふざけるな……」
「聞こえないなぁ。ああ、聞こえない」

ふざけるなぁ!

 ぶっ殺す。最低でも半殺し。兎に角ぶっ殺す! 
「やってやる……やってやるさ!」
 矢でも鉄砲でもなんでも来やがれ! 
「君が? 君如きが?」
「如きかどうか今すぐ見せてやる。相手は誰だ! お前か! それとも、お前の横にいるそいつか!」
 どうせ、胡散臭いデュエル・マスクマンかなんかが出てくるんだろ? 上等じゃねぇか!
「ならば紹介しよう。君の相手は……彼女だ!」
 彼女? なんだこの煙幕は! 人影? あ、あれは……
「エリー……お前が、俺の相手を!?」
「いい決闘を」
「はっ、いいさ。やってやるよ。乗りかかった船だ。とことんやってやる。こうなりゃヤケクソだ!」
「ルールを発表する! 3ラウンドマッチで2本先取したものの勝利だ。引き分けによって対戦成績が五分になった場合は再試合を行う。サイドボーディングは、15枚までなら自由」
 普通のルールだな。だが、気になるのはやはりあの火炎放射器。
「そして! 今回は特別に! 1ターンごとに闘技場の温度が上がる。負けた奴は切腹だ。以上!」
 ……っておい! 以上ってなんだよ。もう少し詳しく教えろよ!
「質問は許さん。面倒だ。後は審判に任せる!」
 面倒、面倒ってなんだよ。まぁいい。審判に……
「グレグレグレー(審判やるぜー)! グレファー(エリーLOVE)! 」
 ……ったく。人語を喋れ人語を。端から端までとんでもねぇな……しょうがねぇ! 腹、括ってやるよ! 
「グレ(デュエルディスクスタンバイ!)! グレ(デッキセット)! グレファー(デュエルスタート)!」 

 と、まあ、その日の進行は、駆け足で言うとこんな具合だった。ふと気がつくと。思いっきり道を踏み外していたわけだが、数時間後にはそんなことどうでも よくなっていた。
 俺はここで、今まで味わったことのない決闘をやることになる。ディムズディルは勿論、ジンと呼ばれた男、加えて観客数名に見守られなが ら、俺とエリーの決闘は始まった。ディムズディルに紹介された時から、なんとなく、アイツとは真剣に決闘することになるんだろうな、とは思っていた。
 だが、その決闘は、俺がいつか予想していたような、生易しい決闘ではなかった。俺は、ふと気がつくと、あらゆる意味で己の真価を試される、地下決闘に臨んで いた。

やってやるさ。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
あの馬鹿が絡むと、当初の予定がほんの300%ぐらい過激になるから不思議だ。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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