「クソッタレ! あの野郎……もし決勝トーナメントで当ろうもんならこの俺が凹にしたる」
 武藤浩司はキレ気味だった。最早、レイプとしか思えないようなデュエルに怒り心頭――
「ヒジリ大丈夫かな。あんな負け方してショック受けてるかも。ねえシンヤ君……アレ? シンヤ君は?」
「ん ?そういえば……アイツこんな時に何処いったんや? トイレか?」
 翼川高校1年、元村信也。彼は、何時の間にか階段を駆け下りていた。もっともそれは、先輩思いなどという、殊勝なベクトルに向いた所業ではなかった。 

「おめでとう。いい勝ちっぷりだったぜ」
「あ、アキラ。最後まで見てくれたんだ……ありがとう」
「ペスト感染から死骸勘定に至るまで全部見せてもらったぜ。それにしても、だな。やっぱ強ぇんだなアンタ。ディムズディルに『いい決闘者』って紹介されたのもわかるってもんだ。本当に、いい決闘だったぜ」
「んー、でも、今考えるとマグレっぽいかも。運が向いてた……かな」
「いや、そんなことは……ん? あれは!?」
 エリーと晃が話しこむその最中、そこには2人の男が立っていた。その内の1人は元村信也。彼は先程の決闘において、圧倒的な強さを見せ付けた新堂翔を追って下まで降りてきていた。そしてもう1人は、それこそ新堂翔本人。彼は、信也の存在にも一応気がついていたが、敢えて無視。ゆっくりと歩き出し、エリーとアキラの元に接近した。その表情は、決闘を終えた「OFFの顔」からは程遠かった。

「新堂……翔か。あの時以来か。そういえばお前もこの大会に出場してたんだっけな。ユウイチの奴がちょっとだけ驚いてたぜ」
 翔はかって、晃と勇一、両方に勝利したことがある。それだけに晃は、彼に対し、心のどこかで一目置いていた。もっとも、相手が自分のことを覚えているかはまた別のお話だが、意外(?)にも覚えていた。
「ん? お前は……何時ぞやの、小学校の学芸会で変なデッキを使っていた決闘者か。確か……」
「山田晃だ。ついでにその変なデッキの名前は【オフェンシブ・ドロー・ゴー】。最初に言った筈だぜ?」
「ああそうだ。思い出した思い出した。お前の決闘はそんなに嫌いじゃなかったよ。やってて楽しかった」
「そうは見えなかったがな。スカシ野郎って記憶しかないぜ」
「勝負なんてそういうものさ。お前と話すのもそんなに悪い気はしないが、生憎だな。今、用を果たす相手はお前じゃない。そこの、御令嬢の顔に用がある」
「私に……用? 貴方は……同じブロックの……」
 エリーは、まじまじと翔の顔を眺める。どうやら、その存在に興味をもったようだ。
「新堂翔だ。Gブロック最終戦でお前とぶつかる手筈になっている。無論決勝トーナメント進出を賭けてな」
「第一試合……貴方は勝った?ヒジリに……勝った?」
「ああ。嬉しい事にライフが500しか減らなかった。斉藤聖は実においしい相手だった」

(ヒジリは、そこまで弱いわけじゃない。でもこの人は、あのハルカにすら7000もライフを残して勝っている。頭脳……担当……?)
(得失点差7500!? コイツ……7500も差をつけてヒジリに勝ったってのかよ。幾ら相手がヒジリとはいえ、そんなあっさりいくもんかよ。こいつ、やっぱ強ぇ……)

「余りにあっさり終わったんでこっちの終盤戦を覗かせてもらったんだ、が、中々いい潰しっぷりだったぜ。改造硬貨を使用するよりもよっぽどスマートなやり口だ。だが、それでも……」
「それでも?」
「同類の匂いがするな。俺とお前は。決闘は楽しいか?」
「……楽しい……です」
「俺も楽しい。遊びに対して真剣に、後腐れ無く闘り合うのは……どうだ?」
「……いいと思います」
 エリーは既に、新堂翔の強さを感じ取っていた。彼女の眼の前に立つこの新堂翔という決闘者、彼は『2勝0敗/総合得失点差+14500/予選リーグ総合第2位』という実績に符合するだけの雰囲気を纏った男だった。少なくとも、彼女は持ち前の嗅覚からそうであると感じとっていた。だが彼女は決して気圧されず、翔に向かい合う。晃は、この時少しだけ悔しかった。
(競うべき敵として、お互い分かり合っている、か。俺だけ蚊帳の外だな……)

「貴方とは最終戦で決闘。よろしく。いい……」
 エリーが無地の手袋を外し、握手の為に素手を差し出す。新堂翔はその手を握り返しこう言った。
「全力で潰し合おう。俺とお前……どちらかが潰れるまでだ。その方が楽しいだろ?」
 その申し出は、何処からどう考えても初対面の人間に対して言うべき台詞ではなかった。だが、新堂翔の眼には一点の穢れもない。
 その真剣な表情からは、新堂翔の提案が冗談でも挑発でもない事がはっきりと窺えた。握り返された手に伴う多少の『痛み』がそれを裏付けている。
 『彼は本気だ』『彼は私を認めている』『彼は全力をもって闘う私を欲している』。エリーの思考時間は2秒にも満たなかった。エリーは、新堂翔から提出された一種の決闘状を受け取ることを既に決心していた。
 彼女は新堂翔の手を握り……数秒の沈黙の後……その初対面の男に対し、はっきりとした口調でこう言い放った。
「私の全存在を賭けて貴方と『対峙』する事を誓います……いい決闘を」
「ベストな答えだ。それが欲しかったんだ。ようやく俺も……全身全霊を賭けて決闘できる」

 この時、蚊帳の外にいた2人、元村信也と山田晃は戦慄する。一勝触発の状況に戦慄する。
(この2人……今すぐにでも殺し合いを始めかねない『気』を放っている。これがこの人達の本性?)
(なんなんだ……この重い空気は。これが……これがこの大会における決闘の縮図ってやつなのか?)
 戦慄する2人をよそに、当の本人達は、握手の間無の表情を崩さなかった。その表情からは、彼らが今現在心の底で何を考えているかなどわかろう筈がなかった。2人の決闘者は、もはやポーカーフェイスという次元を超越していた。

「デートの日を楽しみにしてるよ。それじゃな!」
「私もよ。Aurevoir(またね)!」

 二人の決闘者がその場を去り、そこには、信也と晃がポツリとつっ立っていた。

第21話:極左と極右(シンヤとアキラ)


 渡り廊下の一角、自販機の前に元村信也と山田晃がたっていた。お互い、取り残されて初めてお互いの存在を知覚、しょうがないのでこちらに場所を変えたという次第。信也がまず口火を切る。

「久しぶりですね。でも、なんでアキラさんがあの人と? あの人は確か……」
「成り行きだよ成り行き。1人の決闘狂人があの時俺の前にたまたま立っていた。そんだけだ」
「決闘……狂人? なんですか?それ……」
 当然の質問。あまりに当然過ぎた為に、晃はちょっとアレな気持ちになって喋りだす。
「そいつは意味不明な奴だった。だが、俺よりは遥かに強かった。わりと説明しづらい人間だが、要は、北極で白熊と決闘するような男だ」
「白熊……白熊……ああ、もしかして、それディムズディルって人ですか?」
 『北極で白熊と決闘』。そこまで聞いた信也は、昨日のフリーデュエルの際の派手な乱入者の名前を、西川瑞貴から聞かされたディムズディル=グレイマンというデュエリストネームを思い出す。他に心当たりがなかったが故の思いつきだが、その思いつきは間違っていなかった。
「ディムズディル=グレイマン。決闘十字軍という胡散臭さの塊の様な団体のリーダーにしてこの大会の企画立案者。なんでも、世界七狂決闘者の1人らしいぜ」
 わりと投げやりな晃。むしろ細かく語れという方に無理があったのかもしれない。
「この大会の……企画立案者ァ?」
「突飛な話だったが、なんとなく納得できる部分もあった。コイツならやりかねないってな。そもそもこの大会の本質は潰しあいにある……と思う。アイツは、 ディムズディルはそれを臨んだんだろう。アイツは決闘する事を誰よりも好んでやがる。アイツは……闘いの権化そのものだ」
「わかるような、釈然としないような。まぁ、ろくな大会じゃないとは思ってましたが……」

 キーン・コーン・カーン・コーン(閑話休題)

「ディムズディル=グレイマン……強い……ですか。やっぱ」
「どうだろうな。鉄壁って感じはしないな。脆さもあるような気がする。ただ、1つ言えることは、『俺はコイツには勝てない』と思っちまった。アイツは、無 理矢理にでも引き入れて来るんだよ、流れってやつを。上手く言えないけどな。なんっつーか、アイツは決闘十字軍の、他の連中ともちょっと毛色が違うような 気がするな。他の連中とも実はやりあったんだが、そう感じた」
「そう……ですか。でも……他の人達も……」
「ああ、強ぇな。流石にあのディムズディルが世界から集めまくっただけのことはあるぜ。もっとも、ディムズディルが言うには金の亡者らしいがな。今日も、 あのエリーと一緒に何人かの決闘を見たが、どいつもこいつも尋常じゃないにも程があるんだよ。あの、エリーを含めてな。全員何かしらのフォームを持っている。あいつらは……」
「ええ。わかります。僕もあの人達を見て全く同じことを思いましたから。彼らは、各々の人間性や特異性を決闘という一つの場に向けて昇華している。だから 手強い。ミズキさんやユウさんでも手に余りかねない人達。そうだ! アキラさんはどう思います?ショウさんとあのエリーさん……どっちが勝つと……」
「知るかよ。ショウも相当に強い。それに、以前やった時とはまた別モンみたいだしな。だが……」
「だが……?」
「いや、なんでもない。正直な話、どっちが勝とうと俺の知ったこっちゃない。確かにあいつらは今の俺より数段高い所にいる。だが、今の俺に必要なのはあい つらを野次馬根性で眺めることじゃない。0.1ミリでも強くなること、それだけだ。それだけが必要なんだ。俺の敵は……あくまで森勇一ただ1人だ」
(アキラさんは焦っているようで、何か掴み掛けている様にも……見える?)
「そうですね。0.1ミリでも強くなれるならそれに越したことはない。でも、1日平均0.1じゃ足りそうにない」
「おまえも、なにか難題にぶつかったのか?」
「明後日僕は、決闘十字軍の1人、ヴァヴェリ=ヴェドウィンと闘わなければばならない」
「ヴァヴェリ=ヴェドウィン……俺の知らない奴だな。どんな奴だ?」
「『電獣』ヴァヴェリ=ヴェドウィン。ユウさん曰く世界最高峰のデッキウォッチャーだそうです」
「初めて聞く名前だな。アイツが知ってるほどの有名人なのか?」
「ユウさん曰く『オセアニアが生んだ怪物決闘者』。彩の【ブラックマジシャン】を難なく破った老人……」

―大会二日目Lブロック第二試合―

「通常魔法《地砕き》を発動、《ハーピィ・クィーン》を破壊します。魔法カードの発動によって《熟練の黒魔術師》の効果発動。2個目の魔力カウンターを《熟練の黒魔術師》の上に載せますね。それでは、バトルフェイズ、《熟練の黒魔術師》で裏守備モンスターに攻撃!」
「《ドラゴンフライ》じゃ。わしはデッキから《ブレードフライ》を召喚する」
(単純な【風属性】。私の【ブラックマジシャン】の敵じゃない。お爺ちゃん、この勝負貰います)

福西彩:8000LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:6500LP


 福西彩は圧していた。その決闘の序盤は、『マジシャンズ・アヤ』の2つ名に後れを取らぬだけの迫力、ライフ差こそそこまでついてはいなかったが、その分 1発も攻撃を喰らわない横綱相撲。
 ヴァヴェリが途中、防御・回復カードで急場を凌いでいたことをも考慮すれば、その差は歴然だった。彩の勝利も時間の問題 かと思われた。翼川のメンバー達もまた、この時、彩の勝利を疑っていなかった。だが、開始から3ターン以上が経過して尚、ヴァヴェリ=ヴェドウィンの表情は、ほんの1ミリすら変わることが、ない。まるで、石像かなにかと対峙しいているかのようだった。
「あのー、もしもし、私、ターンエンドなんですけど……いいですか?」
 福西彩が呼びかけるが、反応は薄い。かわりに、ブツブツとした英語……
「福西彩。大会通算成績121戦98勝15敗。その内71勝はジュニアで稼がれた勝ち星。フム、申し分ないの。だが高校進学以降は若干伸び悩み通算成績 34戦27勝8敗。無論表面上はそこそこの数字じゃが、その内訳をみれば決闘者としての『格』が一目瞭然じゃの。格下相手には絶対的な支配力を誇る一方、 格上に大しては金星を一つとしてあげることがない。そこから窺えるのはパターン化し硬直したデッキ構築。典型的な1流半決闘者の傾向か。まぁ、戦跡はこん なところでいいじゃろう。あてにならんことも多いでの……」

(英語だからよく聞きとれないけど……このお爺さん私の決闘について何か言ってる?)

「肝心要、得意デッキは【ブラック・マジシャン】。速攻魔法の連打をその本領とする俗称『詠唱乱舞』は下位ランカーでは対応不能。《魔法の筒》→《ディメ ンションマジック》→《突進》→《破壊輪》の如きスペルスピード2の連携で序盤の数ターン以内に決着した決闘がその勝ち星の内の7割弱を占めることからも 判るとおり、その闘い方はエクスプロージョン・タイプに特化。じゃがその反面、序盤で出鼻を挫かれるか或いは長期戦に持ち込まれると意外な脆さを見せる、 か。机上のデータはこんなもんじゃが、今のところ拍子抜けするほどに事前のデータ通りじゃな。フム、つまらんの。これではせっかくの観察が徒労に終わりそうじゃわい。しかしそれでも初戦の入りは重要じゃ。例え事前のデータ収集程度で勝てる相手でも、わしはけぇっして手を抜かん……」

(つまらない?このお爺ちゃん、今確かに詰まらないとかそんな意味の……この劣勢の中?)

「初見の相手との一騎打ち。にも拘らず普段着を着れるならばそれに越した事はないという消極的なデッキ構築態度。初見だからこそ、見えぬ手を仕込むという意気込みに欠けた決闘。どうせ相手は自分のことを知らない筈だという愚かな前提……一思いに終わらせてくれよう!」
「終わらせる……今の英語は確かに聞こえた。無理だと思いますよ」
 彩は、日本語が理解できないことを承知で言った。だが、彼は聞いていた。
「無理か。フォッフォッフォ……福西彩、お主には少々勿体無いがこれも親善じゃ。四海を渡り歩いて手に入れたわしのデュエルスキル……とくと『鑑賞』していくが良い!既に観察は終了している!」
(えっ……嘘。さっきまで違う……この威圧感。来る!?)
 ヴァヴェリ=ヴェドウィンの雰囲気が眼に見えて変わる。目付きは突如として鋭くなり、曲がっていた筈の背筋は伸び切り、全身に血管がありありと浮き出る ほどの威容。まさしく『牙を剥く』と呼ぶにふさわしい『電獣』の猛威。そこに齢70を過ぎた老人の顔は存在しない。否応無しに身構える福西彩。

ハァァァァァァァァァァアッッッ! 

ノーマルスペル・アクティベート!

カード・デストラクション!!!!

―オーストラリア/某日某所―

「ふむ、遊戯王で真に“強い”カードとな。まぁ、世間に問えば色々あるじゃろうて。カオス、八汰烏、勝利を呼ぶ龍……じゃが、これらの強さなど所詮はまやかしに過ぎんわい」

 ――まやかし、ですか。

「強過ぎるとわかりきったカードなど、誰もが使うに決まっとる。そんなものは強いと言わん。強いとは周りから飛び抜けているということじゃ。じゃが、抜けるとはなんじゃ? 何が頭1つ抜けるのじゃ?」

 ――それは、やはり、個々のカードや総体としてのデッキ……

「たわけが! 抜けるべきは、カードを選び、デッキを作る決闘者のここじゃ! (※指で頭をコンコンと軽く叩く) ここが抜けたもののこと、それをこそを“強い”と言う。ならば、じゃ。頭1つ分抜かしてしまうカード、それこそが真に“強い”カードじゃ」

 ――では、そのカードとは……

「《手札抹殺》……色々あるが、まずはこれじゃわい」

 ――《手札抹殺》……ですか。いや、ですが教授……

「ふむ、君等は《手札抹殺》の価値を判っていないようじゃの。じゃが、カードマスターとは何ゆえカードマスターか。ただ、カードを持ったが故にカードマス ターと呼べるのか。ただ、ラケットを持っただけでテニスプレイヤーと呼べるのか。小六法で素振りをすれば弁護士か! (※「バンッ!」と机を叩く) 否! 違う のじゃ! カード1枚黄金1枚。我らカードマスターにとって、最も大事なこと、それは、カードの価値をあまねく理解、もってデッキへの帰納を果たすこと じゃ! ならばこそ! 《手札抹殺》こそがTCGの核心をついたカードと言える!ヒヨッ子どもよ!活目せよ!近頃の若いもんは、やれ《ファントム・オブ・カオ ス》だ、やれ《ダーク・アームド・ドラゴン》だ、見た目の派手さに眼を奪われるばかり……実に滑稽!カードの真実と、マスターとしての矜持を見失うでな い! まずは黙って《手札抹殺》! そうじゃ! 《手札抹殺》を扱えずして、どうしてP・O・Cを扱えるのじゃ。冗談も休み休み言うがよい!  この、痴れ者どもがぁ!」

―デュエル講演会inオーストラリア/ヴァヴェリ=ヴェドウィン発言集より抜粋― 

「んっ……なら! 《熟練の黒魔術師》の効果発動! 3個目の魔力カウンターを……」
 彩は今までとの、空気の違いを感じ取るが、そこはやはり実力者。必要な作業を確実にこなす。だが!
「温いわ! 手札から《ハンター・アウル》を召喚。永続効果発動! 場の風属性モンスター1体につき攻撃力を500ポイントアップ! わしの場には、《ハン ター・アウル》と《ブレードフライ》の2体! 攻撃力は2000!まだじゃ!《ブレードフライ》の永続効果、場の風属性モンスターの攻撃力を500ポイント アップ! 合計攻撃力2500!」
(風属性は需要が少ない分、安心して全体強化が行える。その利を生かしてきた。でも!)

「バトルフェー――イズ! 《ハンター・アウル》で《熟練の黒魔術師》に攻撃ィィィ!!」
「させません! 場の罠カードを発動!《炸裂装甲》!」
「フォーッフォッフォッフォッフォッ、フォー――ッ! トラップカード! 《ゴッドバードアタック》! 《ハンター・アウル》を生贄に捧げ、《熟練の黒魔術師》と伏せカードの計2枚を破壊するぅ!」

「だったら!伏せカードオープン!速攻魔法発動《ディメンション・マジック》!《熟練の黒魔術師》を……」
「フォッフォッフォッ……甘いのぉ!その手はとうの昔に見えておる!《リビングデッドの呼び声》をチェーンじゃ!《手札抹殺》の効果によって墓地に送られ た《マジック・キャンセラー》を吊り上げるぞ!今じゃ!《マジック・キャンセラー》の効果発動!《ディメンション・マジック》を抹消……そろそろライフを 削らせてもらおうかのぉ」

(何よこの人。さっきまでは大した事なかったのに。まるでこっちの手を全部読んでるみたい……)
 彩がヴァヴェリの異能を感じ取る。5ターンもの時を経て、ある種の歯車が噛み合いだしたかのような印象が福西彩の心を覆っていた。眼に見えぬ包囲網が彩を覆う。そして、その不安は正しかった。
「《マジック・キャンセラー》の効果によって魔法効果は全て無効となる! じゃが、効果は別じゃ! 生命のサイクルは止まらん! 《ブレードフライ》の永続効 果! 《マジック・キャンセラー》の攻撃力は2300にはね上がるぞい! フォーッフォッフォッフォー――ッ! ダブルでダイレクトアタックじゃ!」

福西彩:4600LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:6500LP


(《マジック・キャンセラー》もまた【風属性】。魔法強化は不可能でも、《ブレードフライ》のような効果モンスターの効果なら受け付ける。【風属性】デッキへの投入の余地は0じゃない。でも怖いのはその召喚経緯。墓地に3ターン前から《アームド・ドラゴン LV5》が落ちていたにも関らず、《リビングデッドの呼び声》を今の今まで温存したのはこれが狙いだった。でも、私は負けない! シンヤの1回戦があんなんだったことを考えれば、ここが事実上の決勝トーナメント進出者決定戦。ここで引くわけには、いかない!)

「ターンエンドじゃわい」
「丸腰でターンエンドなんて随分と余裕じゃないですか。でも、私の手が速攻魔法だけだと思ったら大間違いですよ。私のターン、ドロー。罠カード・オープン!《リビングデッドの呼び声》を発動します!」
 彩は、墓地を一通り見直す事もなく、墓地の、上から5番目のカードを選び出す。それは、前のヴァヴェリのターン、《手札抹殺》の効果で墓地に送られたカード。彩の反撃が始まる。
「私は墓地から《混沌の黒魔術師》を特殊召喚! そして、この瞬間効果発動! 墓地の、《ディメンション・マジック》を手札に戻します。バトルフェイズ、《混沌の黒魔術師》で《マジック・キャンセラー》に攻撃!」
「フム……」
「《混沌の黒魔術師》の効果発動!戦闘破壊した《マジック・キャンセラー》をゲームから除外します! これで魔法封じは消えました! 速攻魔法《ディメンショ ン・マジック》を発動! 《混沌の黒魔術師》を生贄に捧げ、《ブラック・マジシャン》を特殊召喚、と同時に、《ブレード・フライ》を破壊。じゃあ、行きます よお爺ちゃん。バトルフェイズ続行、《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタック!」

福西彩:6500LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:3500LP


「カードを1枚伏せてターンエンド」
 彩は得意顔でターンエンドする。だが、ヴァヴェリの顔は、違った。
「甘いのぉ。本当に甘い。折角回収した《ディメンション・マジック》、フィニッシュの時まで温存すべきじゃったのぅ。ノーガードに釣られて、景気のよいこ とじゃ。じゃが、お主が《混沌の黒魔術師》を溜めておったのは見抜けておった。ふむ、50%くらいかの。故に、《手札抹殺》で出しやすくしておいたぞい。 スペルの連発を重視するデッキ、魔法を封じれば罠でくるのは当然じゃわい。じゃが、罠を基点としての攻めで削りきるには、お主のデッキは浅すぎる。この ターン、《マジック・キャンセラー》を落としただけで満足すべきじゃったな、小娘よ」
(何を言ってるのかが今一だけど、このお爺さん。やっぱり無気味。でも、《ブラック・マジシャン》を1度場に出すことに成功した以上、あとは復活した魔法中心の攻めで残り3500は軽い筈……)

「温いわ! わしのターン、ドロー! リバースカードオープンじゃ! 《洗脳−ブレイン・コントロール》を発動! 《ブラック・マジシャン》のコントロールを得る! 小娘よ!【ブラックマジシャン】封じの真髄は、その進化系にこそあると知れぇぇぇえ!」
「進化系……うそ! そんなのって!」
「手札から《融合》を発動! 場の《ブラック・マジシャン》と手札の《沼地の魔神王》を融合! 現れよ! 全魔を封ずる鋭角の脳波! 巨龍を切り裂く伝家の妖刀! 五臓六腑の万巻全書!」

 

超魔導剣士−Dark Paladin!!

 

(《洗脳−ブレイン・コントロール》も《融合》も、全部魔法カード。《マジック・キャンセラー》の射程に入る。なのに!? 「【風属性】で統一したメイン デッキに合わせた私用のメタカード《マジック・キャンセラー/風属性》」を用いた、今までの決闘は単なる撒き餌?本命は、闇属性のコッチだったってこと?)
 彩も良く知っていた筈の、魔導剣士の最高峰。それが今、独特の形状を備えた愛剣を携えたまま、彩を上から見下ろしている。その眼線は、思いの外冷たかった。
(高い攻撃能力に加え、強力な魔法否定能力を持った《ブラック・マジシャン》の最終進化系。私だって昔、【ブラック・マジシャン】の、バリエーションの一 環として召喚した記憶がある。あの時は、相手のデッキに上手く刺さって、私に勝利をもたらしてくれた。けど、それが今、私のデュエルを否定しようとしている……)

「甘いのぉ。そもそも【メタオブジェクション】の本質はその『徹底性』にある。デッキのコンセプトを崩さぬ程度に対策カードを放り込むなど本来は下の下。 自分の眼力に自信を持てぬ2流どころがやることじゃ。そのような愚策を実行に移すくらいならば、まずはデッキそのものを対戦相手用に差し替えることを考え るのがわしらデッキウォッチャーの慣行というものよ。わしらはあの忌々しいデッキウォーリアーやデッキビルダーとは違い、デッキ自体に無駄な拘りを持たな いからのぉ。従って、わざわざ【風属性】に《マジック・キャンセラー》を放り込むだけような場当たり的な構築なぞする筈がないのじゃよ。ホレ、ダイレクト アタックじゃ。フォッフォッフォ……いい調子じゃわい。ターンエンドじゃ」

福西彩:3600LP
ヴァヴェリ=ヴェドウィン:3500LP

 事『前』のデータ収集から対戦相手のデッキパターンを分析、更には事『後』の決闘で対戦相手のデッキリズムを掴み取ることによって当該デッキのデッキエ ナジーを吸収。対戦相手を完膚なきまでに打ち倒す。世界を視野に入れればもはや測定不能のキャリアを持つとさえ言われる百戦練磨、ヴァヴェリ=ヴェドウィ ンは、既に『福西彩の【ブラックマジシャン】』を捉えきっていた。

「(勝ち誇って……でもまだ!) 私はモンスターを裏守備でセット。カードを1枚セットしてターンエンド」
 魔法を半ば封じられた彩は罠で勝負に出る。攻撃用の罠は既に使い切ってしまったが、守りの罠は未だ手札に健在。ならばまだ勝機はある筈。既に相手のライフは半分を切った。そこに1点の勝機を見出す為の第一手。だが時既に遅かった。もう、終わっていた。
「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!」
(また……趣味の悪すぎる笑い声。この嫌な感じ。嫌な予感がする。物凄く嫌な……)
「眼の動きと……カードを出す際の呼吸には気をつけるべきダナ。デッキとリズムがかち合い過ぎてイル」
(え、何? 片言の日本語!? このおじいさん何言ってるの?呼吸?)
「そのセットカードは……」
(え?何?ちょっと待って。一体……何のつもりなの?)

「《分散魔術》と……そうダナ。今さっきセットしたのは《魔法の筒》辺リカ。」
「嘘……なんで」
「ホゥ……全くの図星か。フォッフォッフォッッフォッフォッフォッフォッ。今日のわしは冴えとるのぉ。だが、これもお前さんがそのデッキに習熟し、自らが 築き上げた通りのパターンで闘っておるが故じゃ。若いのに勤勉なことじゃの。だが、それは一方で素直過ぎる習熟でもある。聞いたとおりの日本人像じゃの う。或いは幼さとすら言い換えられうる、脆い習熟じゃわい。その程度では、読めて当然。わしらの界隈では、お前さんのような素直な決闘者など鴨葱同然じゃ わい。さてラストじゃ。その裏守備セットは……《召喚僧サモンプリースト》か或いは……」
 その先を言う必要は、なかった。彩の、「習熟の未熟」は全て見抜かれていた。 

――――

「前半は彩が圧してました。彩が得意とする、通常魔法や速攻魔法を中心に据えた戦術『詠唱乱舞』でライフを半分まで削る。その時までは彩が勝つ流れでした。いえ、勝つ流れだと信じていました。けど後半、雰囲気が変わった。《ディメンション・マジック》を始めとしたあらゆる呪文が発動一手前か、或いは発動直後に握り潰される。まるで、デッキと、そのデッキを操る決闘者の動きを完全に捉えきったかのように」
「デッキウォッチャーか。随分と厄介な奴に眼を付けられちまったな」
「試合後、彩は空ろな表情で『最後は伏せカードが何かまで当てられた』と言っていました。事前のデータ収集と、決闘中のデータ照合の2つが噛み合った事に より発現する神ががかった洞察力、ユウさん曰く『世界を股にかけたデッキウォッチャー・ヴァヴェリ=ヴェドウィン特有のデュエルスキル』。それが……」

 

札魂吸収 ( デッキドレイン )

 

「あの人と真正面から対峙する以上、コレを破らない限り僕に勝機は……無い」
 晃はそれら一連の話をほとんど黙って聞いていた。信也は、そんな晃に対し1つの『問い』を投げかける。其処には『単一のデッキしか使えない似た者同士』に対するちょっとした期待があったのだろうか。
「アキラさんならどうします? 相手が自分のデッキを見切ってくるとしたら……」
「どうもしねーよ。俺にはこの【オフェンシブ・ドロー・ゴー】しかない。ならこいつをその『電獣』とやらに叩き込む術を全力で、必死こいて考える。そんだ けだ。今更『他に用意しろ』って言われてもそいつは無理な相談だぜ。進化系の【スーパー・オフェンシブ・ドロー・ゴー】を作るってんなら考えるかもしん ねーけどな」
 晃の返事はそっけない一方で率直だった。だが信也は其処まで率直にはなりきれない。
「確かに……そうかもしれません。でも『彩の【ブラックマジシャン】』が見切られてしまったように『僕の【グッドスタッフ】』が見切られてしまったら…叩 き込む前に全て封殺されかねない。恐らくあの人は、僕が今まで【グッドスタッフ】以外で勝利を上げた記録を持たない事を当然の前提として調べ上げている 筈。だとしたら……」
「【グッドスタッフ】が見切られるなら【ベストスタッフ】を出すしかないんじゃねーか」
「先輩って……結構身も蓋もないこといいますね。それが出来たら苦労はしませんよ」
「そうか?」
「そうですよ。幾らなんでも……って、どうしました?」
 その時晃は信也の顔をじっと覗き込んでいた。晃は何か『気がついた』ような顔をしている。
「ああそうか。成る程、こういうことか。エリーが特別なだけじゃなかったんだな。今まで俺は他人に無関心だったが、ちゃんと覗き込んでみればちょっとはわかるもんなんかな。つーか、今まで見えなかった俺が間抜けだったってだけなのか? ちょっと考えればこのくらいは軽かった……ってことなのか?」
「どう……したんですか? ……アキラさん? 生きてます?」
「別に。俺達はこの大会に臨む決闘者として……同類に非ずってだけの話しだよ」
「えっ?」

「『単一のデッキしか使えない者同士として山田晃と元村信也は類友だ』。そんな風にさっきまでは思ってた。けど、違ったな。俺とお前は似てるようで対極。さしずめ同ベクトル上の逆向きの極同士ってわけだ」
「ベクトル? えーっと……それって確か……」
「ああそうか。悪かったな。お前はまだ高校一年だったよな。え〜っと、実は俺もよくわかってるわけじゃないんだ、が。要は同じ道を逆方向に歩いて互いの終 点間際まで来ちまったってわけだ。まっ、終点には近くて遠いんだろうが、よ。とにかく来る所まで来てどんつまってるってわけだ。お互い、逆方向にな」
「逆方向……」
「俺はアイツに、森勇一に勝つ為に試行錯誤を重ね何時しか【オフェンシブ・ドロー・ゴー】使いになった。部の連中からそうやって適当なレッテルを貼られる のは癪だったが、俺にはこれしかなかった。だから俺は他人からなんと言われようが『自分のデッキ』に拘り続けようと思っている。だからその結果として…他 人から【ムーンサルト・ドロー・ゴー】だの【アン・ドゥ・ドロー・ゴー】だの言われようが、俺はもう構わない。そして、今俺が求めているのは自分のデッキ と心中する為に必要な何かだ。その為に俺はディムズディルやエリーの決闘を見続けた。その中に新たな何かを探した……」
「アキラさん…」
「だが信也。お前は違うよな。大体、お前は俺と違ってデッキ構築自体の経験に乏しい。俺のように『一つのデッキ系列を徹底的にあらゆる角度から構築する』ことすらお前の眼中には無かった。お前は……」
(アキラさん……暫く合わないうちに……追い詰められた獣は怖いというが……)

ドサッ

「え? なんだ? なにが起こった!?」
「物が落ちた音だな、近いぞ」
 人間の性として突然の事態に身構える2人。だが、それはすぐさま脱力に変わる。其処にいたのは何処かで見た顔。一度見ると忘れないタイプの男。
「灰色の髪……って、あの時のあの男!?」
「お前……なんでそこいるんだ?」
 其処には、1人の男が倒れていた。一体何がどうしたというのか。
「なんで、とはご挨拶だなアキラ。僕も大会出場者の1人なんだ。居るところには居る」
「今、落ちたよな。落ちたってことは天井からだよな」
「ん? どうした? 決闘談義の途中だったんじゃないのか? 気にせず続けろよ」
 続けろと言われても微妙な相談である。いきなり予想外の角度から登場、場の空気を180度変え切った男の事を今更無視しろとでも言うのか。
 信也はディム ズディルとの間合いを計りつつ押し黙っていたが、当のディムズディルは誰も喋らないと見て自分から喋りだした。或いは、最初から人の話を聞くつもりなど、 さらさらなかったのかもしれない。
「アキラ、エリーはどうだった? 少しは君の参考になったか?」
「それ相応にな。お前が何を考えてアイツを紹介してくれたのかはわからない。だが……」
「その顔は中々いいものが得られた顔だ。完全な、100%、徹頭徹尾、あらゆる次元の思考において、神に誓って単なる思い付きだったが、こちらも紹介した甲斐があったというものだ」
 アキラの表情を見て上機嫌になったディムズディルは尚も話し続ける。むしろ黙る気が感じられない。
「エリザベートの目標は一点の曇りもない決闘。憎悪も嫉妬も功名心もなく、ただその瞬間己が胸に止まった決闘像の為に、全身全霊を賭けて対戦相手と対峙し続けることを目標としている……」
「そうかもな。つっても、俺がアイツと全く同じ事をやろうとしても土台不可能だ。けどよ……」
「それでいいさ。君は君の型を見出すべきだ。短い期間でも見える奴には見えるもんさ。さて……」

 ここまで話したディムズディルは身体を信也の方に向ける。何処までも暇な男だ。間違いない。この男は、暇に任せて会場中を這い回っていたのだ。信也はやや呆れながら聞いていた。
「悪かったな。君を無視して話を続けてしまった。確か元村信也だったか」
「僕のことを……知っているんですか?」
「昨日アキラから『ウイング・リバー・ハイスクール・カードゲームクラブ』について軽く教えてもらったのと、あとは、ストラが君の事を注目していたのを思い出した。大会の中にまかり間違って異分子が紛れ込んでいるとか、なんかそんなことを言っていたような気がする」
(ストラ……ダルさんか。異分子ってなんだ?)
「この大会の発案者として言わせて貰えば、僕もどうせなら君のような決闘者に1人2人勝ちあがってもらいたいな。もっとも、ヴァヴェリ=ヴェドウィンは面倒な相手だ」
(面倒……か。言いえて妙……)
「あの爺さんは決闘の為、自らの脳に改造手術を施したような決闘者。七つの海を股に駆け、あらゆるデッキをその脳内に納めた爺さんだ。経験豊かなそのデュ エルスタイルは、疾さに欠ける部分がある一方、大樹の如く簡単には揺るぎようがない鉄壁の『軸』を備えている。磐石の決闘を保証すること請け合いというわ けだ。従って並の変化ではあっさりとあの爺さんに追いつかれ、一片残らず『吸収』される。故に【デッキドレイン】。ああ、そうそう、ついでに言っとくが、 『電獣』の決闘に容赦の二文字は存在しない」
「へぇ。中々気前良く教えてくれるんですね。随分と余裕じゃないですか。お仲間なんでしょ」
「そうか?言って本人から怒られるようなことを言った覚えはないな。それとも……何か聞きたいか?」
 確かに、この辺は勇一から聞いた話と大差なかった。無論、ヴァヴェリと闘った事のない勇一が、どっかから普段着スタイルで仕入れた情報程度、漏れて困る 程のことはない。
 或いは、彩戦から窺い知れる情報を超える事はない、とも言える。信也にとって、本当に知りたいこと、それはヴァヴェリの経歴に非ず。
「ええ。聞きたいですね。例えば『電獣』の、ヴァヴェリ=ヴェドゥインの攻略法を」
「『敵に塩を送れ』と躊躇い無く言い放つ。半ば無理を承知で敵陣に切り込み、何らかの光明を持ち帰ろうとする。その性根は嫌いじゃない。むしろついつい乗ってみたくなるが……無いな」
「無い?」
「少なくとも、今君が期待している意味での攻略法は存在しない。無論『終盤に比べて序盤がやや弱い』といった情報ならあるにはあるが、それは、君が期待している情報じゃないんだろ?」

 『ヴァヴェリ=ヴェドウィンは終盤に比べて序盤がやや弱い』。それは確かに信也の求める情報ではなかった。
 何故ならこの一文は、『ヴァヴェリ=ヴェド ウィンは序盤に比べ終盤で強い』と言っているのと同義。言わばヴァヴェリ=ヴェドウィンという決闘者が持つデュエルスタイルの、表裏一体となった長所短所を現しているだけで、決してヴァヴェリ=ヴェドウィンの攻略法ではなかったのだ。
 今の信也にとってその情報はなんら希望をもたらさない。そんなことは彩戦の時点でわかりきっている。土台、序盤から速攻で圧倒すればそれでなんとかなる程度の相手なら最初から悩みなどしないのだ。
 彩戦におけるヴァヴェリは、それこそ爆発力に優れた【ブラックマジシャン】による序盤からの猛攻を、『詠唱乱舞』を受け流した上で反撃に転じ、見事大逆転勝利を収めて見せた。『電獣』のキャリアは十分に『時』を稼ぐ力を備えている。その決闘はまさに万戦錬磨と形容するにふさわしい代物。

(他の、僕より優れた人なら、その情報でハッピーになれるかもしれない。けど、僕じゃ無理だ)
 加えて、元村信也の【グッドスタッフ】は元来が対応性重視で爆発力に欠ける部分がある。従って『速攻で勝てばいい』などは身も蓋もない机上の空論そのものだった。今必要なのはその机上論に加えるべき身や蓋なのである。それがなければ勝機とは言えない。

「『決闘十字軍』No.4『電獣』ヴァヴェリ=ヴェドウィン。あの爺さんとはイタリアで遊んでいた時に出会ったのが最初だった。あんまりにも暇だった僕が 現地のイタリアンマフィア『エゼクツィオーネ』相手に決闘を売っていた時の話だったかな、確か。相手側が一種の刺客として送り込んできたのがあの爺さん だった。予め捨て駒代わりの影武者をぶつけた上で正体を現す、あの用意周到振りは当時から筋金ものだったよ。世界で鍛えられたアレのデッキ観察眼そのものは、僕の眼から見ても相当高いレベルに達していた」
「そう……ですか」
 ディムズディルの眼力については信也自身も聞き及んでいる。或いは、雨を予知(?)したところも見ている。相当の眼力。それだけのものを持った人間が下す高い評価。信也の不安が増大する。
「さてそろそろ帰るかな。一応定刻があるんだ。予定では7時に全員集合する手筈になっている」
 喋るだけ喋った挙句、もう帰るらしい。やはりというか、なんというか、暇人の行動そのものである。
「あの……もう7時10分ですよ?」
「それは不味いな。じゃあ僕はもう行くが、アキラ、折角だ。君も来いよ」
「……ああ、いいぜ。どうだっていいさ」
「そうか。そりゃ結構だ。だが、エリーはどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「最終戦の相手、新堂翔と数秒睨みあった後1人で帰っていったな。とてもじゃないが声をかけられる雰囲気じゃなかった……つーわけで放っておいたんだが……それがどうかしたか?」
 ディムズディルは、軽く頭を抱えていた。彼は最後に一言こう言った。

是が非でも声をかけておくべきだったな。アイツは興奮すると方向音痴になる。遅刻者が2人に増えた。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
「五臓六腑の万巻全書!」とか無駄口上をのたまっている時、無駄に幸せな気分になる。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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