大会4日目。予選リーグ第二回戦。『彼ら』の悪戦苦闘が始まる。

 朝、フリーデュエルスペースで元村信也と西川皐月が練習決闘に臨んでいる。彼らは共に後半の部の決闘者。従って今日は試合がない。彼らは明後日の試合に備え、2人で調整に励んでいた。彼らの決闘は、今丁度1戦目が終了したところ……皐月が信也に話しかけた。
「シンヤ君……【ガジェット】使うんだ。確かに【グッドスタッフ】から遠く離れてるわけでもないし、プレイングもわりと簡単な部類だから覚えやすい方だとは思うけど……なんでまた?」
「一夜漬けってやつです。今は少しでもデッキのレパートリーを増やしたい……。やはり大会で勝ち抜いていくためには、引き出しを増やすしかない……と」
「もう少し前にその情熱を持てればよかったのにね。でもその【ガジェット】、何処から調達してきたの?」
「そりゃあ脚とお金を使いましたよ。脚が棒になって財布がすっかからんになっちゃいました」
 ここまで話を聞いた皐月は『とあること』に思いを巡らす。彼女は嫌な予感を胸に抱いていた。
「シンヤ君……貴方『プロキシー』を使うっていう発想はなかったの? 本番ではカードを大会側が用意することを考えれば、今無理して購入する必要は……」
「プロキシー? 将棋指す人のことですか?」
 皐月が頭を抱える。
「呆れた。いーい。『プロキシー』ってのは……カード資産に乏しい人が新デッキの動きを予め確認するために作る一種のダミーカードのこと。仲間内ならこれで練習する事も可能だし色々便利なのよ。貴方そんなことも知らなかったの?ホントシンヤ君ってデッキ構築は駄目駄目ね。貴方と同じ翼川レギュラーやってて気がつかなかった私も私だけど……それはちょっと酷過ぎない?」
「う……」
 痛いところを突かれた信也は一端話題を変える。皐月と言えば瑞貴―
「そういえばサツキさん。ミズキさんの応援はいいんですか? もうやってますよ多分」
「アレが予選なんかで負けると思う?大丈夫よ。今頃対戦相手が悲鳴上げてるって」

 その頃、決闘場では阿鼻叫喚の渦が発生していた。


第19話:地震雷火事決闘


―Aブロック―


【Aブロック二回戦】
西川瑞貴(翼川高校)―安藤健治(高知)


西川瑞貴:7100LP
安藤健治:1100LP


「《王宮のお触れ》をチェーン……《破壊輪》を無効化します」
「くっ……これは一体なんの冗談ですか! この私が追い詰められる? そんなことが!」
 悲鳴を上げていたのは高知代表安東健治。彼こそは、『土佐のアームド・チェンジャー』の通り名を持つ四国屈指の決闘者。得意の【ダーウィニズム・エーリア ン】を用いたネオ進化論デュエルで相手を追い詰めていく、所謂理論派決闘者として名を馳せた彼ではあったが、有体に言って、今日の相手は悪すぎた。
「圧倒的……あまりに圧倒的だ西川瑞貴!対戦相手は既に戦意を喪失しているが全く手を緩めねぇ!鬼だ!あいつは決闘の鬼だ!血も涙も枯れ果てたデュエルターミネーターに違いねぇ!」
(全く……鬼だの悪魔だの失礼するわよねホント。この程度じゃまだ……)

「今日は何時になく気合入ってるように見えるな。つっても、なんとなくだが……」
「そうなん……ですか?」
 その悪鬼を見守るのは山田晃とエリー。彼らは先日の約束どおり2人で行動していた。
「強い……やっぱりアイツは桁外れに強い」
「そう……ですね」
 この時、アキラは少し思う。ディムズディルの事を。そして彼から紹介されたこの娘のことを。
「なあエリザベート……さん」
「エリーでいいですよ。多分……私の方が年下……ですし」
「なら俺にも気楽に話しかけてくれよ。それでだが……アンタはどうなんだ? あのミズキに打ち負かす、その自信はあるか?」
「わかんない。あの人は、間違いなく強い……」
「確かこの大会に参加してるのは8人だったな。アンタはどこら辺なんだ?」
「……秘密」

「《撲滅の使徒》を発動! (これで対戦相手の息の根を止める……【高速連鎖計画】)」
(な……なんだ。一体なんなんだ!?まるで此方の手札が全部読まれてるみたいじゃないか)
「まずは《砂漠の大竜巻》で右から二番目の罠を破壊。そして……《ホルスの黒炎竜LV8》でダイレクトアタック……よろしいですね」
「く、何故だッ!! 何故私の 論文 ( タクティクス ) 学会 ( デュエル ) に排斥される! まさか! お前は私以上の 論文 ( タクティクス ) を見せたとでも言うのか! そ、そんな馬鹿なぁっっっ!」
 食い下がる安藤健治を瑞貴は華麗にスルー。馬鹿は放置の鉄則――

【試合結果】
○西川瑞貴―安藤健治●
得失点差±7100


「ふぅ……これで予選は大丈夫かな」
 とりあえずとばかりに安堵の息を漏らした西川瑞貴だが、その近くでは安藤が悶絶していた。 

―フリーデュエルスペース―

「シンヤ君……貴方もしかして焦ってる? あの外国人軍団の一角が相手だから……彩に勝った決闘者が相手だから……」
「お察しの通りです。そりゃ焦りますよ。あの連中は……あの人達は只者じゃない」
「私あいつらのことそれこそ話でしか聞いてないんだけど……なんか直接知ってる風な言い方ね」
「昨日のフリーデュエルで幾つか見たのと…あと実際に決闘した事があります」
「え? ホント? で、どうだったの?」
「なんていうか……得体の知れない部分があるんですよ。例えば僕が大会初日にちょっとした縁で会ったダルジュロスさん。あの人は何処か得体の知れない『何か』を隠し持っています。」
「『何か』……随分と抽象的な言い方ね。もしかして何処かぼかしてない?」
(相変わらず鋭いな人だなサツキさんは。そりゃ言えないこともあるさ。あの人が元『決闘師』だってことは。それにしてもあの人、正体をあっさりばらすあたり、やっぱ言葉通り“やる”気はないってことなのか。それとも全部冗談なのか。いずれにしろ、只者じゃない気が……)

―Bブロック―

【Bブロック二回戦】
荒崎順次(埼玉)―ダルジュロス=エルメストラ(フランス)

荒崎順次:2200LP
ダルジュロス:5400LP


「馬鹿な。お前は確かに【悪魔族】の【ビートダウン】を構築していた筈……なのに何故貴様は今【ロックバーン】を使っている!? 何故だ!何故なんだ!」
 埼玉代表荒崎順次が呻いている。彼は『迸る目線のマイロード』の異名を持つ、多角形を無理矢理正方形に直したような決闘者。埼玉でも有名な西武ライオンズファンであり、特に西口文也の大ファンである。だが、そんな彼は今、正気を失わんばかりに呻いていた。
「へぇ……一体どんな根拠で俺が【悪魔族】の【ビートダウン】だと?」
「それは……お前はデッキ構築の際右手を台の上に置き、左手一本で高く積み上げられたカードの山から一枚一枚デッキに使うカードを選出していった。その時どのカードが選ばれてたのか、此方からは丸見えだったんだよ!」
「怪しいとは思わなかったのか?」
「思ったさ。だが、お前の左手は選ばれたカード以外を全部適当に放り投げ、右手は台の上に置いて動かさなかった。だからあのデッキ以外完成する筈がないんだ! そうだろう!」
 執拗に抗議の声を上げる埼玉代表荒崎順次。だが彼の見通しは甘かった。『毒薬』ダルジュロス=エルメストラは、そんな荒崎順次を茶化すように話しかける。彼の口元は既に、笑いを浮かべていた。
「おっと……こんなところに右腕が一本余計にあるな。コイツは何だ?」
「な……なにぃ!?」
「悪いな。どうやら俺は右手が2本ある特異体質の持ち主だったらしい。コイツは参ったな」
「右手が……2本だと!? キ、キサマァ……さてはデュエルボックスに義手を持ち込んだな!その義手を俺に見せつけ、水面下では本物の右腕でデッキ構築を……卑怯者め!」
「卑怯? 甘いな。『デッキ構築の為に義手を持ち込んではいけない』なんてルールはないんだぜ。怨むんなら自分の眼の悪さを怨むんだな。この程度ディムズディルなら0.2秒で見破る……クライマックスだ!」

「な……なんだ!? 義手!? あの眼帯野郎……一体どういう決闘者なんだ!?」
 アキラはその間抜けともいえる光景に呆れる。彼はエリーにその素性を尋ねた。
「ダルは全部で573のデュエルトリックをその身体の中に収めている決闘師。普段はあまりやる気ないけれど、すごく強いの。ついでに……昔私の保護者だった人。見た目はちょっと怖いけど……優しい人よ」
「573のデュエルトリック!? なんだよ……なんだよその決闘師って……」
「あれはダルの573のデュエルトリックの中でも下級に属するトリック。【 神の見えざる手 ( アダムスミス ) 】」
「神の……見えざる手……見えてるような見えてないような……」

【試合結果】
●荒崎順次(埼玉)―ダルジュロス=エルメストラ(フランス)○
得失点差±5400


「ストラ。少しはやる気になったのか?」
「ディムズディルか。別に、どうということはない。俺は最初から“少し”やる気だ。それ以上でもそれ以下でもないぜ。今は適当が一番さ」
「君が昨日ヴァヴァエリと話してた男、“少し”に“やや多く”が増えたんじゃないのか?」
「お前あの時寝てなかったか?……ったく油断も隙もねぇな。別にどうってことはないさ。それも含めて、適当は適当だ。ふぁ……お前じゃないが眠いな。さっさと帰って寝るとするか。片目は疲れるんだよ」
「相変わらず都合のいい隻眼だな」

―フリーデュエルスペース―

「よーう。シンヤにサツキ……ようやっとるやないか」
「あ、コウジさん。試合はもう終わったんですか?」
 信也と皐月が調整を行う中現れたのは翼川高校2年武藤浩司。信也とはウマの合う仲でもある。彼は上機嫌だった。それは、どうみても勝利した顔に他ならない。
「圧勝やな。お前らにも見せたかったなぁ。【融合】という難しいテーマの中、【スライム】を巧みに操り《フュージョンゲート》からの融合……《キングスライム》の 一撃が鮮やかに炸裂。だが相手も歴戦の雄。《フュージョン・ゲート》から《サイバー・ツイン・ドラゴン》や《ガトリング・ドラゴン》を繰り出す一大攻勢。 だが僕等のコウジさんは耐え切った。100ライフ残して意地と根性と、溢れんばかり潜在能力でその全てを凌ぎきった。融合モンスター軍団を鮮やかにしとめ る華麗なるプレイングby武藤浩司。更に! 相手がアドバンテージを稼ぐ為不用意に出した《氷帝メビウス》を《エネミーコントローラー》で奪取。そのまま手 札に残っていた《固定化氷結ゲル》とのハイパー・フュージョンで大勝利を上げたっちゅーわけや。どや、凄いやろ。コウジさん破竹の二連勝や」
「凄いですよコウジさん。コレで予選リーグ2連勝。あと少しで決勝トーナメント進出じゃないですか」
「なぁにが圧勝よ。要するにぐっちゃぐちゃの泥試合の末、運よく勝っただけじゃない。《氷帝メビウス》が相手の手札にあったってことは『風車の理論』で【スライム】の融合を逆用された可能性もあるってことよ。相手がヘボかったからよかったようなものの……そんな勝ち方じゃ新キャプテンも先行き不安ね。もっと精進しなさい。そんなんじゃ……新入部員からも見放されるわよ」
「その新入部員が『凄い』言うとるんやからいいやないか。なあ信也」
「得失点差わかってんの? +900じゃ3連勝しないとやばいわよ」
「へいへい……ん?」
 皐月の説教を聞き飽きた浩司がふと机に散らばっているカードに気がつく。そのカードとは【ガジェット】のパーツ郡諸々。向き的に皐月のカードとは思いづらい。となると後は……
「なんなそれ。【ガジェット】か? ははーん。わかったでシンヤ。【グッドスタッフ】しか使えんもんだからデッキの幅を少しでも広げよう魂胆やろ。その根性は認めたる。でもな…そーいうことやってると余計に勝率下るで」
「シンヤ君。私もコウジと同意見だわ。正直……そのガジェット二流。《機動砦 ストロング・ホールド》なんて誰も入れないよ」
 武藤浩司と西川皐月……二人の先輩から同時に駄目だしを喰らった信也の顔は相当に渋かった。
(あ、そうだ。もうすぐEブロック。あの男の決闘が始まる。けど、今は見てる暇がない。先輩がデータ取るって意気込んでいたことだ。僕は僕で今目の前にある課題をどうにかするしか……)

―Eブロック―

【Eブロック二回戦】
ディムズディル=グレイマン(ポーランド)―新上達也(宮崎)


「Eブロック第一試合は注目のカードだ! アイツだ! あの灰色の髪の男。アイツこそ、初日最多得点者のディムズディル=グレイマン! 奴は昨日! 集中豪雨を予知したと専らの噂だ!」
「だが! 奴の相手はそのあまりの存在感ゆえ、『鬼の洗濯板』と言われ近隣住民からひどく恐れられた九州三強の1人、宮崎代表新上達也! 1年前、 集中豪雨の中必死にカードスリープを洗濯し続けたことで伝説になったあの男こそ、今大会の優勝候補の1人と見て間違いない! この闘い、ディムズディルの降 らせた雨を、新上が如何に洗濯板で流しきるか、そこに勝負がかかっていると見て間違いない!」
「み、みろ! 新上のデッキ構築! あのフォームは間違いない! 洗濯だ! 日本古来の洗濯だ!」

「初日最多得点差だかなんだか知らんがこの俺の……『鬼の洗濯板』の実力をてめぇの脳裏に得と刻み込んでやる! まずはデッキ構築から一発かますぜ! 今日の為に用意した宮崎デッキの真髄……【ターボ促成栽培】の圧倒的な高速展開を……なっ!?」

「み、みろ! グレイマンの野郎! あそこに立ちっぱなしでピクリとも動かないぞ!」
「勝負を投げ……いや……これは、おい、なんかおかしくねぇか?」
「あ、ああ。なにか………なんだ? アイツ……」

「立っているだけ……だと。舐めやがって」
 表面上は憤る新上だったが、内心では焦りを感じていた。立っているだけ。そう、彼は立っているだけだ。だが、それならば何故自分は汗を流しているのか。 疲れからではない。まだ序盤だ。照明の暑さからでもない。彼は南国育ちだ。だが、それならば何故自分は汗を流しているのか。
(なんだあの鋭い眼光は。俺を……俺を食い殺そうってのか!? そんなハッタリに!)
 新上は、ペースを上げるべく気合を入れなおす。だが、その行動は焦りの裏返しに他ならなかった。彼の、ペースを上げようという内心とは裏腹に身体の動きが鈍い。まるで、重い荷を背負わされたかのように動きが鈍る。その空間は異常だった。空間そのものが歪んでいた。
「お、おまえ! こっちばっか睨んでないでさっさとデッキを作れ! 無駄なことを!」
 新上が構築時間の中盤に叫び声を上げた。彼はもう、我慢の限界だった。
「無駄? デッキならもう出来ているが、それがどうかしたか」
 事も無げに言葉を返すディムディル。彼の手には1つのデッキ。
「な……いつの間に……」
「暇だったから君の出方をおとなしく見学していたのだが、何か悪い事でもしたか?」
(大人しく……だとぉ! こいつ、ハッタリじゃないのか? これが普通だとでも……)

「なんだ?アイツ、なんか錯乱してるな。まさか……」
 アキラが怪訝な顔で試合場を見つめる。その傍らにはエリー。
「ディムの存在感が相手に幻影を見せた。最初の数分間、両の脚で立ち続けたディムの【決闘波動】が、その後数十分間に至るまで対戦相手の心理に影を落とす。それが、ディムと対峙し続けるということ」

【決闘波動(デュエル・ウェーブ)】
 ディムズディル=グレイマンが持つナチュラルデュエルスキル。それが【決闘波動】である。その実態はもはや『技』の範疇には収まらない。ディムズディルがその力を解放した際の副産物として発現する『自然現象』と叙述した方が或いは正確なのかもしれない。ディムズディル=グレイマンという一個の圧倒的な決闘力を依り所として生み出される強烈な『威』がある種の波動となって対峙する者を威圧。その体力或いは精神力を根こそぎ削り取ってしまう。
 この為軟弱な決闘者では彼に『敵』と認知されることすら出来ないのだ。事実、今日のディムズディルはピーク時から見て50%程度の『出力』で対戦相手の新上達也を圧倒した。仮にも全国大会に出てきた決闘者に対し、ただ対峙するだけでライフポイントを削り取ってしまうという事実、それこそがディムズディル=グレイマンの特異性を端的に表しているといえるだろう。力なき者には抵抗すら許さないのである。同僚のダルジュロス=エルメストラは言う。『奴と五分の条件で闘えるならば、既に超一流の決闘者』だと。

 帰る帰ると言いながらそこにはダルジュロスがいた。彼は欠伸をかきながらその光景を見守っている。
「おっ、ディムズディルの奴、結構やる気じゃないか。つっても、あの程度なら、アイツにとっては自然体(・・・)みてーなもんか。まったくよぉ、何時見ても決闘中のアイツの眼は怖いぜ。皮、肉、骨、そして辺りを包む大気まで切り裂いちまって、中身をもってっちまうからなぁオイ」

ディムズディル:7900LP
新上達也:2900LP

「ハァ……ハァ……ち、畜生」
 決闘は既に、ライフポイントにして5000もの差がついていた。数多のアプローチを完全に見切って跳ね返すディムズディルの圧倒的決闘に、新上は手も足も出ない。
(なんて野郎だ。一瞬の隙すら見せず、此方の喉元を確実に噛み切ってくる。強い、強過ぎる。こいつ強ぇよ。心技体何を取っても勝てる気がしない。それに、立ち会ってるだけで既にこの重圧)
 決闘中、ディムズディルの闘気は新上の身を更に圧迫していた。
(奴の眼を見てるだけで心が折れそうになるぜ畜生。だが、俺にはわかるんだ。アイツはただ突っ立ってるだけ。まだ、本気で俺に殺気を放つ気配すら見せていない。なのに、なのにこの圧力。もう、立っていることですら限界ギリギリか。俺は……俺は……こんな奴相手にどうすればいいんだ。爺ちゃん……)
 この時、追い詰められた新上の脳裏に浮かんだ風景。それは故郷・宮崎のとある洞窟の中だった。

―宮崎―

「爺ちゃん。いや、栽培仙人! 俺の迷いを聞いてくれ。田舎育ちの俺の力なんかが、都会で通用……」
「タツヤよ。促成栽培とはそれ即ち埋める心じゃ。世界にとって必要なことは、必要な者に必要な物を提供すること。需要と供給を合わせることじゃ。確かに我々宮崎農業連合は弱小。だが、『力』は要らぬ。気を合わせ機を掴むことさえ出来れば、それでよいのじゃ。そして、その理念の具体化こそが促成栽培。ただ力を増せばいいのなら人の智恵は要らん。例え弱くなってでも気を合わせ機を掴む……それが我々一族の誇りじゃ!」
「栽培仙人! 俺……自分が恥ずかしいぜ。俺は……俺は……一族の名に恥じない促成栽培をしてみせる! 宮崎県民の誇りに誓って! 必ず!」
「タツヤよ……植えるのじゃ……心ゆくまで……」

――――

「栽培仙人……そうだ。俺は、宮崎促成栽培精神をこの肩に背負って決闘しているんだ。例えお前のプレッシャーが圧倒的であっても、虚仮威しに屈して終わる俺じゃないんだよ! 本当の勝負はここからだ!」
 新上は気合を入れなおす。その目には気合が漲っていた。彼は疲労の限界を超えドローを掴む。
「俺のターン! ドロー……」
 この時、新上の墓地には3体の水属性モンスターが残っていた。一方、ディムズディルの場には2枚のリバースカードと1体のセットモンスター。新上は自分の手札と相手の場を確認。千載一遇の機にかける!
「スタンバイフェイズ、俺は《タイムカプセル》からカードを1枚手札に加える。行くぜ! 800ライフポイント支払って《早すぎた埋葬》を発動! 墓地から《レクンガ》を場に戻す。そしてこの瞬間、場に伏せておいた罠カード発動! 《連鎖破壊》! 俺のデッキから2枚の《レクンガ》を墓地に送る。更に!手札から《ゴギガ・ガガギゴ》を捨て通常魔法《スネーク・レイン》を発動!デッキから爬虫類族モンスターカードを4枚……《爆風トカゲ》3枚と《ゴギガ・ガガギゴ》1枚を墓地に送る。これで準備は完了だ。宮崎名物とくと味わえ!《レクンガ》の効果発動!促成栽培の魂をお前に見舞ってやる!」
 新上達也の真骨頂。それは植物系トークンの超高速大量生産―通称【ターボ促成栽培】―。彼が、この栽培能力を存分に発揮、九州三強決闘者の一角にのし上がったという事実。九州では最早常識!
(ここだ! このタイミングでの出荷がベストだ!)

「み、みろ! 新上の背中を! ピーマンだ! ピーマンが決闘に駆けつけたぁ!」
「いや、それだけじゃない! きゅうりだ! それに……かぼちゃも一緒にかけつけたぁ!」
「宮崎平野だ! 新上の奴! 決闘で宮崎平野を表現しやがったぁ! なんて気迫なんだぁ!」

「ハァァァァァア……これが俺の【ターボ促成栽培】だ! 出荷時期を早めた、この時期の促成栽培に追いつけるものなどいるはずがない! 墓地の水属性モンスターを8体分一気に除外! フィールド上を埋め尽くす量のレクンガトークン(植物族)を栽培……」
 出荷に向けて奮起する新上。この時、誰もが出荷の成功を確信する筈だった。だがっ!
「……セットカードオープン」
 そこには、1人の男が立っていた。促成栽培の猛威をものともしない、1人の男がそこには立っていた。
「なっ……ここで……だと」
 その男の名は言うまでもなく……ディムズディル=グレイマン!
「促成栽培に敬意を表し、此方から先に出荷させてもらう! 《マインドクラッシュ》をトークン栽培に際しチェーン発動。指定するカードは……《団結の力》だ!」
「な……馬鹿な……何故俺のビニールハウスを……」

「促成栽培。ビニールハウスや温室効果を利用した栽培方法。出荷時期を早めることで商品価値を高める、技術の進歩が可能にした脅威の栽培法。だが、そこには弱点もある。成育期間中、様々な加温施設を用いることにより、余分な経費がかかる。つまりはハイリスクハイリターン。もしも商品を早期に売りさばききれなければそこに待っているのは身の破滅。元々が常識を超えた“早さ”をウリにしている以上、商売敵に先んじれなければ意味がない。だからこそ、仕掛ける際は必ず自分の時間内での勝利を視野に入れる。そう、僕の季節が回って来る前に、全ての作物を捌ききろうとする筈だ」
 ディムズディルが、何処で知識を仕入れたのか促成栽培について語る。彼は全ての事情を察していた。
「僕のライフはまだ7900丸々残っている。いかに促成栽培で早期大量生産を成功させたとは言え、トークンが次のターンまで残る保証などどこにもない。商売敵が体勢を整えきる、その前に売りさばいてしまうのが促成栽培の妙だ。だが、トークン4体と《レクンガ》本体の総攻撃力は4500。《ヘル・アライランス》をトークンの内の1体に装備させたとしてもまだ7700。1ターンキルは達成できない。それに、僕の場にはまだ1体の裏守備モンスターがいる。1ターン目の《手札抹殺》で《激流葬》、そして前ターンの《押収》で《聖なるバリア−ミラーフォース−》を立て続けに落とされたとは言え、まだ僕の場にはこいつが残っている。こいつを何とかしなければ総ダメージ量は更に減る。だが、君は僕の手札を《押収》でピーピング、市場の最新情報を抱えつつ、ここなら売り切れると踏んだ。いや、ここでしか売り切れないと考えた。そして、その出荷を可能にするのが……後生大事に抱えられた最後のツーカードだ!」
「なっ!?」
「1ターンで売りさばいてしまわねば反撃を食う。だが君は、その戦力で勝算アリと考えたからこそ、このタイミングでの促成栽培に踏み切った。君が抱えているのは……《抹殺の使徒》の如き裏守備除去が1枚と、総攻撃力を8500まで引き上げる《団結の力》が1枚だ!」
 図星である。彼の手札は《団結の力》と《抹殺の使徒》。彼の顔が見る見るうちに青ざめていく。
「くっ、まだだ!まだ勝負はついちゃいない! 手札から《抹殺の使徒》を発動! その裏守備モンスターを除外する! 俺はまず《レクンガ》でダイレクトアタックだ!」
「セットカードオープン! 《化石岩の解放》! 今除外された《番兵ゴーレム》を守備表示で場に戻す!」
「なんだとぉ!?」
「前ターン、僕が常設市場で購入した農具の情報までは掴めていなかったな! 全部で二手遅れだ!」
「くっ……バトル終了……俺はこのままターンエンド」

「気迫に満ちた促成栽培。存分に堪能させてもらった。だが、次はそちらが見る番だ! 活目しろ! これが大地の決闘だ!」
 ディムズディルが叫んだその瞬間、空間が今まで以上に歪む。それは異常なまでの威圧感をもって新上の前に立ち現れる!その場にいた新上は勿論のこと、観客達もまたそのスケールに圧倒される!
「僕の市場(ターン)、店開き(ドロー)だ! 来い! 生命(デュエル)を循環させるもの! Burial Golem!」

《ベリアル・ゴーレム》 
効果モンスター
星4/闇属性/岩石族 攻1000/守1500
このモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、あなたは自分フィールド上のモンスター(トークンは除く)を任意の数だけ生け贄にできる。生け贄に捧げた場合、デッキから生け贄に捧げた数と同数の岩石族モンスターを墓地に送る。

「特殊技能発動! 《番兵ゴーレム》と《ベリアル・ゴーレム》を肥料に、新たな岩石族の芽を植える!」

「み、みろ! ディムズディルの背中に……あれはフランスの国旗だ!」
「ま、まさかアレは! 世界第6位の生産額を誇るフランス式大農業!?」
「いや、それだけじゃない! ドイツにイタリア、ポルトガルにスペインもだ!」
「EUだ! EU式のボーダーレス生産! 遂にヨーロッパ大陸が一丸となってその牙を剥いたぁ!」
「なんて凄まじい動きなんだ! これはまさか! 産地直送の勢いなのかぁ!?」

「一出荷ァ!」
 ディムズディルは疾風の如く《アステカの石像》を墓地から除外する!
「二出荷ァ!」
 ディムズディルは華麗な動作で《カオスポッド》を墓地から除外する!
「三出荷ァ!」
 ディムズディルは怒涛の勢いで《N・グラン・モール》を墓地から除外する!
「四出荷ァ!」
 ディムズディルは不動の構えで《伝説の柔術家》墓地から除外する!
「五出荷ァ!」
 ディムズディルは収穫の喜びそのままに《番兵ゴーレム》を墓地から除外する!

「なんて奴だ。死者の眠りし墓地を、まるで、生命を育む大地の如く扱うこの決闘。そうか、そういうことだったのか。そりゃぁ……勝てねーよなぁ。御伽噺だとばかり思っていたがお前がそうだったというわけか。元来……墓地を積極利用するタイプの決闘者には大きく分けて3つの類型があると言われているが……お前は……お前は!」

【墓地決闘者】

 古来より墓地決闘には大きく分けて三つの類型があったと古文書には記載されている。墓地に落ちたカードの『量』を利用する墓地勘定系、墓地に落ちた『質』 を呼び戻す墓地復活系、そして墓地のエネルギーそのものを別の次元に転移させる墓地除外系。この3つは墓地御三家と言われていた。
 だが、その内情は、口に 出すのも憚られる血の歴史に彩られている。彼らは互いに犬猿の仲。そこには三者三様の伝統・格式・ヒエラルキーがあり、決して交わる事はなかったと言われ ている。特に復活系と除外系などは、かっての東西ドイツを思わせる捩れた関係を築いていたというのが、決闘界の暗黒部の1つとして数えられるほどである。 黎明期、除外系の戦力が乏しかった頃などは、『除外を見つけたら石を投げろ』『親が除外なら親殺せ』とまで言われたものだ。無論除外系も黙ってはいない。 水面下で力を付け、復活系への逆襲を開始する。更に、第三勢力として今まで黙して語らなかった勘定系も台頭。
 ここに三国鼎立が行われ、戦乱の世は長く続く と思われた。だが、そこに1人の英雄―墓地系聖位決闘者―が現れる。彼は勘定・復活・除外を束ねたった3年で天下統一を成し遂げたのだ。その男に付せられ た称号こそ……

 「墓地の岩石族を手札に戻し、墓地の岩石族の数を数え、墓地の岩石族を除外する。そしてなにより、これら全てが三位一体の様相を示す。俺の勇み足とは錬度が違う。墓地こそ人の世の大地。それを両の足で踏みつけ、聳え立つお前は……」

 

大地決闘者(アース・デュエリスト)

 

【大地決闘者】
 墓地とは何か。十字架を用いるものもいる。墓石を用いるものもいる。或いは何も用いず灰をばら撒くものもいる。だが、何れもそこには大地がある。生命は大地から生まれ大地に帰る。地球上に重力がある以上、人々は大地に肉を、骨を、灰を返し続けてきたのである。即ち、墓地とは、文明化した人類が最も大地と接近する空間に他ならない。墓地こそが人間にとって最も高濃度の大地。即ち『ガイア・オブ・ガイア』。それ故、墓地道を極め、棺桶に片足を突っ込んで戦い続けた誇り高き決闘者は、民から畏敬の念を込めて『大地決闘者』と呼ばれたのである。

「十体出荷……《メガロック・ドラゴン》の売り上げは……7000だ!」
 ディムズディルの波動が新上を直に押し潰す、それはまさしく悪夢だった。
「促成栽培が負けたんじゃない! 俺が……俺がただ未熟だっただけだ! 栽培仙人……俺……やっぱまだまだでした。もっと修行して……爺ちゃー――ん!!」
 新上は、渾身の叫びと共に気を失っていた。

【試合結果】
○ディムズディル=グレイマン(ポーランド)―新上達也(宮崎)●
得失点差±7900

「み、みろ! 新上が倒れてるぞ!」
「担架だ! 担架を用意しろ!」
「新上! 新上! うぉぉぉぉぉお!」
 新上が倒れ、騒ぎが巻き起こる。だが、ディムズディルだけは意にも介さず背中を返して去って行く。そこには明確な決着があった。非情なまでの完全勝利である。
「宮崎式促成栽培……悪くはなかった」 

―フリーデュエルスペース―

「信也く〜ん。新しいデッキってのはちゃんと前々から準備しておく物よ。こんな風にね」
 そう言うと皐月がバッグの中から一つのデッキを取り出す。信也はそれを呆けた顔で眺めていた。
「なんですかそれ。まさか……秘密兵器かなんかですか?」
「そんな大層なものじゃないわよ。最近流行ってるからね。【悪魔族】の中でもちょっと特殊なデッキ。信也君はまだ戦った事なかったんだっけ?」
「それって、もしかして……」
「【ハンデス】に強いのがいいわ。最近また【ハンデス】が流行り始めてる気配を感じるからね。機会があったら使ってみるつもりよ」
(成る程。確かに僕とは違うな。サツキさんは抜け目がない。はてさて……)

―Fブロック―

 愛知代表山神悠馬。彼はその残虐非道な戦いぶりにより、名古屋では最早誰からも相手にされないと言われる恐るべき決闘者。ついた渾名が『名古屋のマイク・タイソン』。表面に特殊加工が施された、5枚ものレアカードを同時に破るその握力には定評がある。持論である『決闘は握力』を生かした彼のパワーデッキは、予選で凡庸な決闘者達を次々と、文字通り血祭りに上げたという。だが、今日の相手は凡庸ではなかった。

【Fブロック二回戦】
瀬戸川千鳥(瀬戸川)―山神悠馬(愛知)

「なんだ? 昨日飛んだり撥ねたりしてた女が俺の相手かよ。ハッ、今日は天上に頭ぶつけないように気をつけろよ! まっ、そん時は俺が存分に“介抱”してやるよぜ? ハッハッハ……」
「愚かよな。事物の表層しか見ようとしない俗人の発想など所詮はその程度」
「てめぇ……何がおかしい!」
「賽の目の操作など我等瀬戸川流にとっては余技に過ぎん。今より瀬戸川流の真髄……瀬戸川流のデッキ構築術を貴様らに見せてくれようぞ! 冥途の土産とするがいい!」
「な……瀬戸川流のデッキ構築術だと!?」
 山神悠馬が思わずカードを握りつぶす。そこには信じられない光景があった。

 

瀬戸川流決闘術奥義

『阿修羅札陣』

 

「み、見ろ! 瀬戸川の腕が6本に増えてやがる! 一体何をやりやがったんだ!?」
「スピードだ! 超スピードで腕を動かす事で6本に増えたように見える! なんて構築なんだぁ!」
「あれなら作業効率が6倍だ! あれが……伝説の決闘一族・瀬戸川家の真髄だってのか!?」

「あの女……やっぱおかしいだろ。何であんなことできるんだよ」
「うーん、でもディムは昔、やろうと思えば自分でも出来るって言ってたよ」
「俺はアレを基準に物を考えるつもりはない……っつーかアイツもサイコロ投げるのか?」
「サイコロは……『やると天運が落ちるから覚えなかった』って言ってた」
「ああ……そうかい。で、今俺が見てるあの悪夢みたいなアレは一体なんなんだ?」
「あれは瀬戸川流決闘術『阿修羅札陣』。予選でアレを使うなんて……千鳥も気合十分」
「いや、だからさ。そもそも瀬戸川流決闘術ってなんなんだって話だよ」 

【瀬戸川流決闘術奥義『阿修羅札陣』】
『人札一体』……カードと一体化することが瀬戸川流の真髄であることは既に述べたとおりである。そしてその極意が最も眼に見えて現れるのがデッキ構築の瞬間だという事実は同業者なら誰もが知る所。彼ら瀬戸川流の伝承者達は苛酷な修練を詰む事でカードを超高速で捌く事に成功し、デッキ構築の精度を飛躍的に向上させたと言われている。その秘訣に関しては諸説様々あるが……最も有名なのは床から天井に至るまで全てカードによって作られた一室『カー堂』の存在であろう。彼らはここで一日中カードと戯れる事で何時しかカードと己を一体化。人間の反射速度を超えるスピードで遊戯王百人一首ができる程に感覚を研ぎ澄ませたと言われている。瀬戸川流決闘術『阿修羅札陣』とはこのような濃密な修練によって初めて成立する決闘奥義なのである。

「うーんと、じゃあ私はこれで……」
「ん?」
「Gブロックの試合に出場してくるから……」
「ああ。そうだったか。頑張れよ。因みに、相手は誰だ?」
「『桜庭遥』」
「そう……か。アイツかぁ……アイツなあ。俺はほとんど聞いただけのようなもんだが、アイツは相当手強いぜ。つーか、Gブロックって要はヒジリのブロックか」
「うん。ヒジリとはもう闘った。あ、友達……」
「気を使うなよ。大昔だ。そういえばアイツ無駄に燃えてたが、要はそういうことか。どうでもよすぎて気に留めてなかったよ。だが、ハルカはヒジリにも一度勝ってるぜ。アイツは……」
 だが、アキラがその先を言う事はなかった。途中まで言いかけた山田晃の口元に、エリザベートが人差し指で栓をする。其の先は必要ないとばかりに。彼女はその先を必要としなかった。
「ありがと。でも先に聞くとなんか鈍っちゃうから……」
(鈍る? そういうものなのか?)
「それより私の試合……絶対見に来てよね。張り切るから!」
「わかった。これも何かの縁だ。必ず見に行くよ……」

【試合結果】
○瀬戸川千鳥(瀬戸川)―山神悠馬(愛知)●
得失点差:4500LP
 

―フリーデュエルスペース―

「シンヤ君。敵は決闘十字軍だけじゃないのよ。その辺もちゃんと頭に入れておきましょうね」
 軽く釘を刺す皐月。信也はそんな皐月を見ているうちにちょっとした茶々を思いつく。
「ショウさんとかのことですね。やっぱり……あの時の決着付けたいんですか?」
「んー、どだろ。ブロックが違うから。それにしても……Gブロックはアレね。ヒジリ大丈夫かなぁ」
「やっぱ気になりますよね。だったら……見に行きません?」
「信也君また趣旨変え? ディムズディルの時は『見たいのは山々だが僕にはそんな余裕がない』って言ってたじゃん。そんな移り気だと女の子にふられるよ?」
「んー、なんとなく……です。コウジさんも……見に行きますよね」
「そやな。アイツは既に『一敗』。ここは意地でも勝たんといかんところや。俺らが応援したらんと……」
「では……行きましょう!Gブロックへ……」 

―Gブロック―

【Gブロック二回戦第1試合】
新堂翔(東京)―斉藤聖(翼川高校)

 そこには、ピシッとした服装で決めた1人の男が立っていた。今時の若い娘っ子達が好みそうな、端正な顔立ちをした男である。その見た目からは、彼が万屋を営んでいるとは―最近金がなくてカップ麺で急場を凌いでいるとは―夢にも思えなかった。全国大会予選リーグ2回戦、しかし、彼にプレッシャーなどありはしない。生来の強気な性格も勿論だが、対戦相手が昔見た顔に相違なかったからだ。彼は、彼女の決闘を見たことがあった。その男の名は新堂翔である。

「久しぶりですね斉藤さん。随分昔の事の様に思えます。貴方が遥に瞬殺されたのは……」
 丁寧な口調だが、明らかに人を馬鹿にしている。それも相当見下している。話しかけられた斉藤聖は、彼へのイラつきを隠すことなく、強い口調で切り替えした。
「スカシた口調はお断りだよ。アンタの本性はわかってんだから」
 その時、新堂翔の気配が変わる。彼本来の気配。獲物を狩る気配である。
「そうか……じゃあ遠慮なく潰させてもらおうか。お前の決闘に未来はない……ってな」
「言ってくれるじゃない。あの時とは違うってところ見せてあげる!アンタにも……次の桜庭遥にもね!」 

【Gブロック二回戦第2試合】
桜庭遥(東京)―エリザベート(フランス)

「エリザベート……です。今日はよろしくお願いします。楽しみに……」
「なあ……お前も国外招待選手なんだよな。」
「はい。ご存知の通り。けどそれがどうか……しましたか?」
「お前は……『普通に』デュエルするよな?」
「お前『は』って……皆何時もどおり普通に決闘……してますよ。ダルもディムも千鳥もいつも通り……」
「いや、そういうことじゃないんだ。要は……義手を出したり……腕を6本に増やしたり……対戦相手を医務室送りにしたりしないよなって話だ。わかるだろ?」
「あっ、それは無理。私のデュエルスキルじゃないから……」
「ああ……そうかい。『私の』じゃない……か(なんでこんなブロックに来ちまったかなぁおい)」

 Gブロックの生き残りを賭けた闘いが始まる。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
日本カードゲーム界の都市伝説。事実を中心として順調に増加中(「それはもう都市伝説ではないのでは?」とか言わない)。しかしこの辺からかな。一発系のキャラに過剰なまでの愛着が湧きだしたのは。


↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。




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