「チエさんこれは何の騒ぎですか?」
「あ、シンヤ。それにコウジとヒジリじゃん。実はねー……」
「あっ! ユウさんとミズキさんがタッグを組んでる! スゴイ!!」
「人の話……聞く気ある?」
「あ、すいません。でも中々凄い事になってますね。あの2人のタッグなんて最強じゃないですか」
「それで相手は誰や。その世界一の不幸もんの顔を拝んでやろうやないかい」
 デュエルスペースを俯瞰する3人だったが、その光景は彼らの予想を超えていた。

「我のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》の維持コストとして500のライフを支払う。メインフェイズ。我は手札からフィールド魔法《深淵の再生工場》を発動。《天空の聖域》を塗り替える……随分と容易い聖域だったな」

《深淵の再生工場》 (フィールド魔法)
500ポイントのライフを払う。墓地の一番上に存在する悪魔族モンスターをデッキの一番上に置く事ができる。

「更に我は! 《魔装獣チリングワークス》を手札から召喚する!」

《魔装獣チリングワークス》 ☆4 悪魔族/闇属性 800/0
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。相手プレイヤーに与える戦闘ダメージはこのカードの元々の攻撃力となる。このカードが戦闘ダメージを与えた時、フィールド上に「深淵の再生工場」が存在する場合、 自分は墓地から罠カードを一枚手札に戻してもよい。

(チッ、コイツもフィールド魔法でアドを稼ぐタイプ。先に《天空の聖域》を出したのが仇となったか)
「《迅雷の魔王-スカル・デーモン》で《智天使ハーヴェスト》を攻撃。更に《魔装獣チリングワークス》でダイレクトアタック……ほぅ、全部通ったか。ならば我は、墓地に落ちた《盗賊の七つ道具》を回収させてもらおう。更に!」

「えっ!?」
「な、なんや!?」
「う、嘘!?」
 駆けつけた信也、浩司、聖の3人が驚愕する。決闘盤装着制決闘の普及により可能となって久しい、野外決闘ならでは奥義に驚愕する。瀬戸川千鳥が、己の身体を高速回転させることにより生み出した、恐るべき量の砂埃に驚愕する。

 

瀬戸川流決闘術奥義『黄砂陣』

 

「み、みろ! なんなんだあのシャッフルは!」
「砂埃が腕の動きを隠してやがるぜ! まともじゃねぇ!」
「なんてこった! あれでは回収した《盗賊の七つ道具》が何処にいったかわかりゃしねぇ!」
「普通は……たとえ背中にカードを回してシャッフルしたとしても、後ろからの『覗き』の危険性がある! だが! あの技なら! 360度何処にも隙がねぇ! 完璧な奥義だ!」
 驚くギャラリーを尻目に千鳥は改めてカードを1枚セット。自ターンを終了する。
「我の番を終了する」

【第3ターン】
森勇一:3500
西川瑞貴:8000
瀬戸川千鳥:6500
ベルク=ディオマース:8000

「あの2人が押されてる? そんな馬鹿な!」
「う……嘘や」
「その『馬鹿』をやってるのがあの2人の国外招待選手。特にあの、日本人の癖にうんたらかんたら言ってる瀬戸川って人がこれまでの決闘をリードしてるわ。【悪魔族】の変則的な動きに【パーミッション】の防御が加わって……見たこともない戦術よ。あれのせいで2人がいつものペースを乱している。でも、それ以前の問題が連携」
「そういや、良く考えたらあの2人がまともにタッグを組んだとこ見た事ないですね」
「両方とも生粋のシングルプレイヤーなんだもん。大体【天使パーミッション】と【お触れホルス】ってタッグの相性最悪じゃない。まあ向こうは向こうであのベルクって人が最低限の仕事しかしてないからなんとか助かってるけれど……あーもう!私が勇一と組めば最強だったのに。なんだってもう……」

 智恵の、お決まりの愚痴を聞かされるのが嫌だった信也はできる限り試合の方に話を向ける。その頃試合は、瀬戸川・ベルク組の優勢のままターンが進み、森勇一が第3ターンを迎えていた。
「さあどうした森勇一! 貴様の【天使パーミッション】はこの程度か!」
 挑発する千鳥を余所に、勇一と瑞貴は生き残りの道を模索していた。彼等の眼はまだ死んでいない。
(こっちは前ターン《智天使ハーヴェスト》で《盗賊の七つ道具》を回収。あちらは今ターン《魔装獣チリングワークス》で《盗賊の七つ道具》を回収。やってることは結果として同じなんだが……じりじり削られてる分だけこっちの方が旗色が悪い。そろそろ何らかの手を打たないと本気で手遅れになるが……いや待てよ。むしろこっちの側から積極的に手遅れになってみたらどうだ? 予想を上回る過剰によって相手を霍乱する、 か。ま、やってみる価値はあるかな。変則は変則に弱い。さあ反撃と行こうじゃないか。まずは俺からだ!)
 あるビジョンを纏めた勇一は仕掛けに打って出る。その顔つきは先程より幾らか明るい。
「……ったくよ。千鳥とか言ったよな」
「どうした。降参か?」
「あんまり俺達を舐めるなよ!」
「そんなことは我に勝ってから言うがいい」
「そうさせてもらうぜ。俺のターン、ドロー。《豊穣のアルテミス》を召喚」
「甘い! 《落とし穴》を発現! 《豊穣のアルテミス》を破壊する!」
「随分と古典的なカードを使ってんだな。なら俺は、リバースカードオープン! 《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地に落ちた《天空聖者メルティウス》を特殊召喚だ。どうする?」
「(《豊穣のアルテミス》ではないのか?) よかろう。通す」
「そいつはありがたいな。それじゃあ、《天空聖者メルティウス》で魔装獣に攻撃しようか」
「ほぅ。ならば毒を見舞ってくれよう! 《死のデッキ破壊ウィルス》発現!」
「読めてんだよ! 《神の宣告》!」

森勇一:2750LP
西川瑞貴:6600LP
瀬戸川千鳥:4900LP
ベルク=ディオマース:7000LP

「このタイミングで《神の宣告》。其れ故の《天空聖者メルティウス》か。だが…1000ではたかが知れてるぞ!そのような消極策で我らを倒せると思うな!」
「思ってるから闘ってんだよ。俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。デーモンの維持コストとして500ライフを支払う。いざ! 尋常に勝負! 《迅雷の魔王-スカル・デーモン》で《天空聖者メルティウス》に攻撃!」
 積極果敢に攻撃を仕掛ける千鳥。だがこの時、勇一と瑞貴が動く。

「ミズキ!」
「わかってる!」
(何だ……何をする気だ!?)
「リバースカードオープン! 《炸裂装甲》!」
「今度は『ブレインコントローラー』の方か! だが、無駄だと言うのがまだわからんようだな! 喰らえ! 瀬戸川流決闘術奥義『賽気煥発』!」
 千鳥の身体がまたしても大きく捻られ、超高速回転からの飛翔により賽が放られる。賽の目は『6』だ。だがこの時、森勇一は瀬戸川千鳥の息が上がっているのを確認していた。
「見たか! 我はこのままバトルフェイズを続行……」
 森勇一がその名の如く勇躍。セットカード1枚をリバース。彼は『暴挙』に打って出た。
「《迅雷の魔王-スカル・デーモン》に……《炸裂装甲》だ!」
「はぁ、はぁ……正気か!? 何度やろうと……」
「いいじゃねぇかこんなのも。さあ、早く賽を振れよ。1/2なんて確率の内に入らないんだろ?見事当てて俺達に引導を渡してみろ。その代わり外した時は……」
 森勇一の眼光が鋭く変わる。その眼は、弓矢の如く千鳥を射抜く。
「覚悟しろよ。てめぇが成仏だ」
「馬鹿な! そんなことは有り得ん! 自滅する気か森勇一!」
「お前も日本人なら日本の諺の1つや2つ知ってるだろ? 『押して駄目なら押しまくれ』ってな!」
(なんだこの圧力。これが日本最強の一角を謳われる『森勇一』の存在感。いや、それだけではない。これは、この視線は『西川瑞貴』か! 2人掛かりの…… プレッシャー!この我を怯ませるだと!? 馬鹿な! この我にそんなものが通用してたまるか! この一投で体勢を決してくれる!)
「瀬戸川流決闘術奥義! 『賽気…』」
 意を決した瀬戸川千鳥が身体を捻り高く飛び、賽を放ろうとしたその瞬間だった。突如倍化されるプレッシャー……二人の叫び声が響く!

「1だ!」
「いいえ6よ!」

(こやつら――)
 連投により既にエネルギーを消耗していた瀬戸川千鳥が微妙にバランスを崩す。元来が絶妙なバランスによって成り立っていた奥義。そのバランスが崩れた瞬間、事象の表裏が逆転する。数秒の滞空時間の後地面に落ちる賽。その目を真っ先に覗き込む勇一。
「賽の目は『2』か。どうした『人札一体』。弘法も筆の誤まりか?」
「チッ、私はカードを二枚伏せてターンエンドだ」
 賽の目が『2』を示した事により《迅雷の魔王-スカル・デーモン》が《炸裂装甲》の効力を無効化できずに破壊される。攻め手を失った形の千鳥はカードを2枚伏せてターンエンド。一転して守りを強いられる。次は瑞貴のターンだ。だが、この時既に、瑞貴と勇一はアイコンタクトでこのターンの戦略を定めていた。
「私のターン、ドロー。じゃあ……いくよユウイチ」
「ああ。派手に頼むぜミズキ」
「《サイバードラゴン》を特殊召喚。瀬戸川千鳥にダイレクトアタック!」
「甘い! 《万能地雷グレイモヤ》!」
(今だ!)
(今だ!)
 この瞬間2人の思惑が交差する。反撃の布石は既に置かれていた。
「リバース。《王宮のお触れ》を発動!」
(なんと! 【天使パーミッション】使いの味方がいるにも拘らずこの戦術。さては、既に死に体間近の森勇一を切り捨て勝負に出たか西川瑞貴! だが……やらせん!)
「ライフコストを1000支払い、《盗賊の七つ道具》を発現する!」
 カウンター使い殺しの《王宮のお触れ》。だが生粋の【悪魔パーミッション】使いであった瀬戸川千鳥がこのようなマストカウンター・カードの発動を易々と許すわけがない。彼女は《盗賊の七つ道具》を発動、当然の防衛策に打って出る。しかし! この時シングルマッチなら決して起こらないことが起きた。
「甘いぜ! お前がさっき墓地から『それ』を回収した事実をこの俺が見逃すとでも思ったか! こっちも《盗賊の七つ道具》を発動! 第1ターンのお返しだ!」
(しまった――)
 
森勇一:2750LP
西川瑞貴:6600LP
瀬戸川千鳥:1300LP
ベルク=ディオマース:7000LP

(くっ……やられた。《王宮のお触れ》で罠を封じられた場合、多大な損害を被るのが我と森勇一なのは赤子でもわかること。特にライフの少ない森勇一は完全に死に体となる。西川はそれを覚悟した上で『押し』の一手を我に叩き込み五分の乱戦を狙った……と我は思い込んだ。だが、今の連鎖合戦により《天空聖者メルティウス》の効果が発動。森勇一はライフを失わなかった……ばかりかこちらは《盗賊の七つ道具》と《サイバー・ドラゴン》によってライフが1300まで落ち込んだ。何もしなければライフ差がつかなかったものを……くっ。この状況、不利なのは此方側ということか。まさか【パーミッション】使いが《王宮のお触れ》を守る為のプレイングをするとはなんたる盲点。思考の隙を突かれたか)
 タッグデュエルならではのプレイングに驚いたのは千鳥だけではなかった。翼川のメンバー達もまた、彼らの機転に舌を巻く。
「す、凄い。ホントにあの二人コンビ組んだ事ないんですか? 凄い連係じゃないですか!」
「その筈……なんだけどなぁ。アレ?」
「対応力や。おそらく第1〜第2ターンにおいては本気で戸惑っていた。だがあの二人は瞬時に状況を理解し、その上で反撃の方策を練ったっちゅーわけや。ホンマ恐ろしい人達やで。これで決まりやな」

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」
 一転してピンチに陥った瀬戸川千鳥。だが、千鳥は諦めていなかった。彼女はゆっくりと口を開く。隣の、ベルク=ディオマースに向けて口を開く。
「すまんなベルク。奴らの強さは尋常一様な代物ではない。もはや奇襲だけでは、我の『技』だけでは押し切れまい。本領を発揮したこの2人を相手に勝利を掴み取るには……それこそ鉄の連携が必要となろう。だから……お前の『力』を今こそ貸してくれ。

決闘傭兵(デュエルマーセナリー)』ベルク=ディオマースの『力』を!」

(そうだった。まだ敵はもう1人。本領を発揮していない敵がもう1人―)
「決闘……傭兵だと。チッ、武術家の次は傭兵か。やってくれるじゃねーか」) 


第13話:決闘傭兵(デュエル・マーセナリー)


「断る」
 屈強な体格を有したその決闘者が、返答までに要した時間はわずか0.2秒だった。
「なっ……。断る……とはどういうことだベルク。ここはどう見てもお前が動く局面。その為の布石として、敢えて先程の《サイバー・ドラゴン》の一撃を庇わなかったのではなかったのか? 我は……お前の手札がいまだ揃いきっていないものだとばかり……」
「お前が負けようがグレファーが負けようがこの俺の知ったこっちゃないぜ」
「お前も負けるのだぞ! このままでは!」
「知るかよ。こんな金にもならん決闘の勝敗になど興味ねぇ。俺の目的は大会賞金500万だけだ」

「なんだ……仲間割れか?」
「なんか本気を出すかどうかで揉めてるみたい。あれドイツ語よ」
「オイオイ。そんなんで勝負を申し込むなよな。全くどういう連中なんだ?」

「いくらだ。いくらだす。それ次第では考えてやってもいい」
「お前……パートナーである我から金を踏んだくろうというのか!?」
「Give&Takeはこの世の常識だぜ。お前もいい加減学ぶんだな」
「人の足元を見おって。お前には渡世の義理というものはないのか!」
「あるぜ。『お前』だからここにいるんだ。他のやつだったらリングに上がりすらしない」
「くぅう、抜け抜けと……本気をださんならいない方がましだ!」
「じゃあ金を出すんだな。年中同じものを着ている、お前の財布は厚いだろ?」

「なんか……『本気出してほしければ金を出せ』的なこと言ってるみたい」
「あいつらホントにパートナー同士なのか? あの女の強引さといい、あの男の態度といい」

「わかった。もしこの決闘に勝ったら3日分の食事は保障しよう。それでどうだ」
「辛気臭いな。だが、食い物は生きる為に不可欠だ。いいだろう。5日分で手を打とうじゃないか」
「なっ……」

 空しくも哀しい論争が終わり、遂に話が纏まる。多少だれた空気で待ち受ける勇一と瑞貴。だが、彼らの精神は、直ぐさま『闘争』の2文字に引き付けられることとなる。ベルク=ディオマースの眼は先程とは異なりギラギラと紅く燃えていた。だが勇一はまだその変化に気がつかない。瑞貴の通訳を聞いた勇一は、ベルクが根底においてやる気のない人間だと思っていた。勇一は、ベルクを軽く揶揄する。
「随分と薄情な野郎なんだな。女の子のピンチには颯爽と駆けつけるのがいい男ってもんの……」
 その時だった。突如笑い出すベルク。彼の精神回路は既にオーバーブーストしていた。

ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!

「女? 子供? 老人? 知ラネェナ! 戦場デハ死ヌ奴ガ死ヌンダヨ! 今カラコノ俺ガ! 『決闘傭兵』ベルク=ディオマースガ! 戦場ノ掟ヲ教エテヤル!」
(片言の日本語か。だがコイツ、なんなんだこの殺気は!? 戦場!?)
 ベルク=ディマースが動く。試合場…否、戦場が熱く燃え上がる!

「リバース! 《キラートマト》!
溢レ出ロ! 《巨大ネズミ》!
戦争ハ数ダ! 《二重召喚(デュアルサモン)》!
寄ッテ来イ! 《ハウリング・インセクト》!
場モ墓地モ関係ネェ! 《早すぎた埋葬》!
眠リカラ覚メロ! 《ピラミッド・タートル》!」

(なんだ?この異常な熱気はなんだ? こいつは!?)
(瀬戸川千鳥とはまた違ったプレッシャー。これはなに!?)

「バトルフェイズ! 全軍《サイバー・ドラゴン》ニ突撃ィィィ!!」

「この数…このサイズで自爆特攻だと!?馬鹿な!死ぬ気か!」

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!
死ネ! 死ネ! 死ネ! 死ネ! 死ネ! 死ネ! 死ネ!死ネ!死ネェェェェ!
血ヲ流セ! 骨ヲ晒セ! 骸ト消エロ! 糞ニマミレテ死ヌガイイィィィ!!
ソノ『血』ヲ持ッテェ! 戦場ニ猛者ヲ引キツケロォ!!

《キラートマト》ノ効果発動!

現れろォ! 首領・ザルーグゥ!!

《ハウリング・インセクト》ノ効果発動!

押し寄せろ! イナゴの軍勢!

《巨大ネズミ》ノ効果発動!

来やがれ! ハイパァハンマァァヘッドォォォオ!

《ピラミッド・タートル》の効果発動!

棺の中からグーテン・タッーグ!
ヴァンパイアァァ……ローーーッド!

森勇一:2750LP
西川瑞貴:6600LP
瀬戸川千鳥:1300LP
ベルク=ディオマース:3000LP

更ニ俺ハ《貪欲な壷》ヲ発動。墓地ノモンスターヲ五体デッキニ戻シ、カードヲ2枚引クゼ! 更ニ! 場ニ《イナゴの軍勢》ヲ潜マセルゥ! カードヲ2枚伏セ……タァァァン……エンドォォ!」

 恐るべき勢いでベルクのライフが削られ、その血に引き寄せられた『傭兵軍団』が超速の勢いで『募兵』されてゆく。そこでは『種族』も『属性』も全く関係なかった。弱肉強食・適者生存。墓地に送られた屍すらも無駄にしない恐るべき『募兵術』! 地獄の傭兵軍団が天に向かって吼えたてる!

「なんだ? 一瞬にして4体のモンスター。それも、全部違う能力に、全て違う種族だと!?」
「これが……『決闘傭兵』ベルク=ディオマースの決闘!?」
「コレガ俺ノ【ターボリクルート】ダ。コノ俺ノ部隊二ハ……『国籍』モ『人種』モ関係ネェ!」

【『決闘傭兵(デュエルマーセナリー)』ベルク=ディオマース】
 彼はドイツに生まれた。これは事実ではあっても決して真実ではない。彼はドイツ人であってドイツ人ではなかった。彼は物心付いた頃には『孤児』であり『餓鬼』であった。彼は生まれ付いて以来ずっと本拠を持たない典型的な『傭兵人間』だった。彼は生きる為に何処へでも行き、あらゆることに手を染めた。だが、そんな彼にも娯楽の時間はある。それが『決闘』。彼は『決闘』と言う呼び方を知らぬまま―ディムズディル曰くそれは『真実』だったのだが―カードゲームという名の『戦争』に没頭する。ベルクにとって、『決闘』とはもっとも自分の生き方に沿った賭け事だったのだ。彼の右手には何時も何かが握られていた。ナイフ、拳銃、そしてカード。彼はあらゆる武器をその手に携え、ありとあらゆる形式の『戦場』を生き抜いてきたのである。
 ベルク=ディオマースは『枠組』を嫌っていた。彼にとって『枠組』とは毒ガス以上に不快な『兵器』に他ならなかった。それ故にベルクは『枠組』に関して差別的な言動を繰り返す。欧米に渡れば白人に、アフリカに渡れば黒人に、亜細亜に渡れば黄色人種に、宇宙に上がれば宇宙生物に、天国に昇れば神々に、地獄に落ちれば閻魔達に、それぞれ唾を吐きかけることが彼の通過儀礼となっていた。彼はあらゆる枠組を嫌うという意味においては類稀な平等主義者でもあった…… と言えるかもしれない。だが、そんな彼にも相応に居心地のいい空間が存在する。彼は多国籍軍の様相を示す『決闘十字軍』を幾らか気に入っていた。気紛れの権化とすらいえるディムズディル、何を考えているのかさっぱりわからないエリザベート、表裏の区別に偏見を持たないダルジュロス、『デッキ』を見極める為だけに世界中を歩き回ったヴァヴェリ、何がしたいのかわからないピラミス、もはや生物レベルでよくわからないグレファー……彼等の様ないい加減な連中によって構成される移動式の空間は、ベルクにとって住みやすいものだった。彼は何処までも傭兵気質だったのである。彼には『転戦』こそがふさわしかった。もっとも……彼がその中でパートナーとして選んだのは、最も勤勉な女・瀬戸川千鳥だったのだが―

「一ツダケ言ッテオイテヤル。俺ハ、【ドロー・ゴー】ヤ【パーミッション】ガ嫌イダ。ロクニ人員ヲ裂カズ、戦死数ヲ抑エテ守リ勝ツ? ハッ、戦場ニ必要ナモノハ『死』ダ! 屍ノ上ニ屍ヲ築キ、ソノ上デ生者ガ阿鼻叫喚ノ雄叫ビヲ上ゲルノガ戦争ッテモンダ。オマエラノヤリ方ハ甘インダヨ! 反吐ガ出ルゼ!」
 自分の横に【悪魔パーミッション】使いがいるにも関らずこの暴言。これがベルク=ディオマースだった。千鳥は物言わずそれを見つめ、勇一は多少イラついた顔でそれを眺めている。いや、彼は既に切れていた。
「全くよ。さっきまでやる気がないかと思えば今度は五月蝿いのなんのって。おいてめぇら……何時までも調子に乗ってんじゃねぇ! 俺のタ-ン、ドロー。貴様らが『武術』や『募兵術』で来るなら、俺は神術を持っててめぇらを倒す! 俺のターン、ドロー……出ろ龍神!」
「むっ! これは……」
「ホゥ……」

 

暴走神―蔑みの足枷の龍!!

 

《暴走神―蔑みの足枷の龍》 星12/神属性/神族/攻?/守?
神属性のモンスターは元々のレベルに関係なく、生け贄を無しで召喚する(生け贄召喚扱い)。神属性のモンスターを操るコントローラーは神属性のカードが場にいる限りいかなる召喚もできない。墓地に有る罠カードの枚数×500の数値がこのカードの元々の攻撃力・守備力となる。このモンスターはモンスターの効果・魔法・罠の対象にならない。

「な……《暴走神―蔑みの足枷の龍》! あの輝きはオリジナルか! やってくれる!」
「ユウイチ……そのカードもデッキに!?」
「お守り代わりってやつさ。さあ……墓地の罠カードは6枚。従って攻撃力は3000だ!」
「ハッハッハッハッハー! イイゼ! ソイツデカカッテキナ! 格ノ違イヲ教エテヤルヨ!」」
 ベルクの繰り出した傭兵軍団と、勇一の召喚した龍神が真正面に向かい合う。彼ら二人の精神は極限の緊張状態の中に在った。いや、2人だけではない。『ブレイン・コントローラー』西川瑞貴と『人札一体』瀬戸川千鳥もまたこの二人をサポートせんと息を潜めている。四者四様の決闘者が『その一瞬』を巡って向かい合う。天に浮かぶ雲の群れが……彼らの頭を覆ったその時だった。遂に勇一が動く。
「ターン続行!俺は……




Megarock Dragon Attack!!




  森勇一が攻撃宣言を行おうとしたその刹那だった。突如デュエルフィールドが謎の巨大生物によって蹂躙される。その正体は岩石族最強クラスのモンスター……《メガロック・ドラゴン》だ。そのあまりに突然の強襲劇を前に、勇一と瑞貴は一瞬我を忘れる。
(何だ……何が起こった!?)
(このスケール……そして《メガロック・ドラゴン》。まさか……まさか――)
 だが千鳥とベルクは驚きつつも『強襲』の正体を突きとめていた。「こんな気の触れた真似をする人間などこの世でただ一人」とでも言わんばかりの表情。千鳥は激昂してその名を叫ぶ。高らかに叫ぶ!
「ディムズディルか! 何故我らの邪魔をする!」
 その瞬間、群衆の中から1人の若い男が決闘場のど真ん中に飛び込んでくる。灰色ベースののフロックコートに灰色と黒の決闘盤、そして灰色の髪を持つ男。その男は、それまで4人の決闘者が集めていた視線を独り占めにしてしまっていた。そんな『彼』は、なぜか天を指差していた。
「ディムズディルゥ!」
 尚も呼びかける千鳥。だが“ディムズディル”と呼ばれた男は千鳥の抗議には一切取り合わず、天を指差したままたった一言「日本語」でこう叫んだ。

水入りだ!

 その『事態』が決闘上に降りかかったのは、彼の宣言から数秒後のことだった。集中豪雨がそれまで屋根を必要としなかったデュエルスペースの頭上から襲い掛かる。すぐさまカードを片付け防水を試みる決闘者達。彼らは、あの直前の一言によって被害を大幅に減らしていた。もっとも、「集中豪雨」の到来を予見し、カードへの防水戦略を整えていた『彼』だけは、何事もなかったかのように雨の中立ち尽くす。集中豪雨によってずぶ濡れになりながらも彼は、雨により混雑した人の群れを適当に見回していた。

参ったな。待ち合わせの時間に遅れるじゃないか



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
Q:決闘中飛んだり回ったり罵声を浴びせたりしていいんですか?
A:はいでぇーっ! かってんぐわーっ! しみてぃいちゅんどーっ!
Q:決闘中収集がつかなくなった時はどうすればいいんですか?
A:《メガロック・ドラゴン》を乱入させ、雨を降らせればいいのです。




↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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