大会二日目から一晩が開けた朝。今日は血沸き肉踊る試合の日……ではない。『インターバル』。お昼寝の時間である。だが…大会会場にはそれなりに多くの人々がいた。その理由は簡単、フリーデュエルスペースが開放されていたのである。全国から強豪達が集まる折角の機会。この機を逃すまいと様々な決闘者が決闘なり懇談なり観戦なり…思い思いの時間を過ごしていた。無論其処には情報収集という目的も隠されていたのだろうが。
 そんな折、大会会場の直ぐ横に『据え付けられた』建物の一室には、計10名の男女が集まっていた。その内1人は『青年実業家』とでも形容すべき…それなりの地位を占めているであろう男、その内一人はなにやら秘書らしき女性、そして残りの8名は…決闘者だった。彼らはそれぞれ統一感のない風貌をしている。人種すらバラバラ。ただ『決闘者』という肩書きだけが、彼らをそこに結び付けていた。午前10時。一人の重役らしき男が、秘書らしき女性に向けておもむろに口を開く。
「揃ったか」
「彼らが……」
「ああ。いい決闘者達だよ。いや、或いは決闘権化(デュエルインカーネーション)と呼ぶにふさわしい連中かも…な。一応メモを取っといた。『適当』な代物だが、折角だから目を通しておくといい」
 そう言いながら彼は、B5の紙に殴り書きされた『彼等』の簡易版プロフィールを秘書に手渡す。其処には彼らについての最低限の情報が記されていた。そう、決闘者として最低限の……

【ダルジュロス=エルメストラ】
国籍:フランス
年齢:27歳
得意デッキ:マッドスタッフ

【ベルク=ディオマース】
国籍:ドイツ
年齢:25歳
得意デッキ:ターボリクルート

【グレファー=ダイハード】
国籍:アフリカ
年齢:22歳
得意デッキ:チェーンバーン

【ヴァヴェリ=ヴェドウィン】
国籍:アメリカ
年齢:68歳
得意デッキ:メタオブジェクション

【ピラミス[世】
国籍:エジプト
年齢29歳
得意デッキ:ピラミタルシャッフル

【瀬戸川 千鳥】
国籍:日本
年齢:21歳
得意デッキ:悪魔パーミッション

【エリザベート?】
国籍:フランス辺り?
年齢:17歳くらい?
得意デッキ:気分次第?

【ディムズディル=グレイマン】
国籍:不明
年齢:不明
得意デッキ:不明

「……」
 最後までざっと目を通した彼女が顔をいい具合にしかめる。一見してわかるとおり約2名が相当にふざけていた。だが、その大雑把過ぎるメモを手渡した『彼』は、これといって気にした様子を見せず、身体をその8人の方向へ向ける。彼の眼は何処か遠くを見据えていた。
「初対面も何人かいるが。とりあえずは久しぶりだな。君等の初陣には満足している。いや、予想以上だったよ。まさか8連勝を成し遂げるとはね」
 彼等の初陣はまさに完璧と呼ぶにふさわしい出来だった。彼等はそれこそ一敗もしなかった。彼らに課せられた課題が何であれ、これ以上の戦果は望むべくもない。もっとも、本人達はそうでもないらしい。
「対戦相手ガ弱スギタノサ。東洋ノ猿ニハ録ナノガイナイ」
 ドイツの決闘者・ベルク=ディオマースが何処か差別を思わせるような調子で片言の“日本語”を発する。彼の態度には『不満』と『不遜』がありありと現れていた。
「フォッフォッフォッ。お前のパートナーは日本人じゃぞ。もう少し口を慎んだらどうじゃ?」
 ヴァヴェリ=ヴェドゥイン。昨日彩を倒したのはこの老人―
「構わん。ベルクの口が悪いのは何時もの事だ。ヨーロッパに行けば白人を、アフリカに飛べば黒人を、アジアに渡れば黄色人種を、宇宙に上がれば宇宙生物を馬鹿にするのがこやつの通過儀礼。取り合うだけ時間の無駄だ」
「フォッフォッフォ。千鳥。相変わらず健気よの。もっとも、わしには新手のマゾヒズムにしか見えんがの」
「ベルク=ディオマース未満だな。口に五寸釘を刺して残り少ない余生を送るがいい」

 いかにもアクの強そうな連中による不毛な刺し合いが続く中、二分程度この光景を眺めていた彼―中條幸也―が遂に話しに割り込む。流石にこのままでは沽券に関るということなのだろう。
「中々元気のいいことだ。さて……そろそろたった一つの宿題の話をしようか。初日で君等も色々なデュエリストを見たり、或いは実際にデュエルしてみたと思うのだが… どうだ?いいデュエリストはいたか? あまりよろしくない事に僕は決闘が“下手糞”だ。だから……今後のためにも、現役中の現役である君等の意見を聞きたいな」
 彼―中条幸也―に促され8人の決闘者が思い思いの名を挙げる。まずは初日元村信也と出会って意気投合したダルジュロス=エルメストラからだ。
「そうだな…普通に考えればやはりAブロックの西川瑞貴だろうよ。アレの力は一種の怪物とさえ言える。次点は、仲林誠司だ。根拠は『俺よりロックな1キルをやりやがったから』。あとは……そうだな〜大穴に元村信也だな。まっ、あくまで大穴なんだが」
 ベルク=ディオマースが尊大な調子でのたまう。
「日本ノ決闘者ナドドレモ似タヨウナモノダガ。マア、西川瑞貴ダナ。」
 『電獣』と呼ばれし老決闘者ヴァヴェリ=ヴェドウィンが呟く。
「わしの眼には森 勇一というのが輝いて見えたな。いい『読み』を見せおった。もっとも…『誰と戦いたいか』と聞かれれば西川瑞貴で間違いないがの」
 グレファー=ダイハードが勢いよく叫ぶ。
「ダイ(瑞貴)! グレ(皐月)! ファー(LOVE)!」
 ピラミス[世が偉そうに喋る。
「朕にとってはどれも小物よ。だが、西川瑞貴と森勇一だけは一段目までなら認めてもよい」
 瀬戸川千鳥がその意見を表明する。
「森勇一。潜在能力では西川瑞貴にやや劣るやもしれんが、現在の日本遊戯王界を引っ張っているのは名実共に奴だ。決して油断は出来ん。あとは、『ドローフェイズパニッシャー』仲林誠司とその一派ぐらいか。まだ他に猛者がいるやもしれんが…残念ながら全部は見ていない」
 最後にエリザベートが語る。
「私はやっぱり西川瑞貴かな。あとは……え〜と、そうだ! 津田早苗って人が面白い動きをしてました。まあ、結局負けたんですけど。そのぐらいかな? うーん……てかみんな圧勝? もしかして私がビリ?」
「得失点差の要素もあるからな。稼げる分は稼ぐにこしたことはない」
「あ……」
「呆れたな。まさか忘れていたのか?」
「だって千鳥、デッキをぐるぐる回すのが面白くて……」
「……」

 7人の決闘者が、それぞれ大会中に目を付いた決闘者について語る。その光景は中々に壮観。だがその輪の中に一人入らない者がいた。その男はソファーの上で悠然と寝そっべっている。状況的にかなり『いい度胸』の持ち主と見て間違いないだろう。中條がそんな『彼』に問いかける。
「ディムズディル。君の意見を聞きたい。やはり西川瑞貴か? それとも森勇一辺りか?」
 だがその問いに対し、ディムズディル=グレイマンの答えはそっけなかった。
「どっちも見ていない」
「そうか。そういえば君は昨日の大会、少々遅刻したのだったな。しかしNブロックは……早退か?」
 中條による追求を受けたディムズディルは、遂にその名を挙げる。うざったそうに。
「山田晃。それ以外はさしあたってどうでもいい。どうせ来る奴は来る」
「ん? 誰だったかそれは……」
「悪いが僕は今激烈に眠いんだ。後にしてくれ。なんなら後で原稿用紙30枚分、聖書に擬えた序文付きのユーモア溢れる決闘論文を君の元に提出したっていい。兎に角後にしてくれ『中條』。僕は午後から人に会う約束をしている。その為には睡眠が必要なんだ。僕は……今……眠い……」
 最後まで言い終わらぬ内に、ディムズディルは再び眠りの国へ飛び立っていった。この『集合』とて約束の一種……等という考えは彼の脳には存在しなかったようである。この爆睡を目の当たりにした中條は諦めて話題を変える。その扱いざまにはどこか年季のようなものが感じられた。恐らく中條は既に知っていたのであろう。彼が一端『眠る』と言ったが最後、神や悪魔とて起こす事は敵わないという事を――
「全くお前ときたら……まあいい。君等のこれからの活躍に期待している。予選で20勝。決勝トーナメント進出6人以上というノルマ達成も君等なら決して不可能ではない。無論大会が盛り上がるような勝ち方をしてくれると私の顔向けとしては言う事無しだが、まあ、その辺については君等が思い思いやってくれればそれで十分だろう。君等がやることをやってくれればそれで十分お釣りが来る筈だ。それでは『決闘十字軍』の活躍を祈りつつ。解散」
「もう?」
「エリザベート、正直に言おう。私も今眠い」
「……納得」

 『解散』。この言葉を聞いて散る者残る者がそれぞれの行動を開始する。
「おい千鳥、お前何処に行く気だ?」
「下のデュエルスペースだ。まだそれなりに暇人決闘者が残っている筈」
「付き合うぜ。大して興味はないが……暇だしな」
 大柄のドイツ人・ベルク=ディオマースと、そのパートナーらしき日本人・瀬戸川千鳥が去っていく。何時の間にかピラミスも消えていた。一方、ダルジュロスとヴァヴェリは一端足を止め話し込んでいる。
「お前さん。さっき元村信也の名を挙げとったの。そんなにあの『一敗小僧』が気になるか」
「99%心配はしていない。奴は限定戦においてろくにデッキも組めない奴だ。だが、残りの1%がな」
「1%。デュエルをしていればそのぐらいの確率は絶対に存在する。それこそお前さんにだってある」
「ああ……そうだな。スマン忘れてくれ」
「お前の下手糞な通訳は忘れんがの。フォッフォッフォッフォッ」
「チッ、やっぱわかってたか。嫌な爺ィだ」
「お前さんほどじゃないがな」
「おい、エリー。行くぞ」
「ハーイ」
 ダルジュロスとヴァヴェリ、そしてエリザベートの三人が部屋から次々に去っていく。その結果、後に残ったのはあらゆることを意に介さず寝むりこけているディムズディル=グレイマンただ一人であった。グレファー=ダイハードは、解散2分前から既に消えていた―

第10話:決闘十字軍(デュエル・クルセイダーズ)



 瀬戸川千鳥がデュエルスペースに付くと、そこは中々盛況であった。どうやら大会運営宣伝含めは中々上手くいっているとみて間違いない。
「今直ぐ下に行くという割りには寄道が多かったな」
「腹が減っては戦が出来ぬだろう?頭を使う前には腹6分〜8分の辺りが望ましい」
「あれだけ食って6分か」
 ベルクの皮肉が本格始動する前に前に千鳥は本来の目的に移行する。
「さて、いい決闘者はいるか否か」
「イネエヨ」
「水を注すなら油を被れ。そして火をつけ灰になれ。ん? あれは……何の騒ぎだ?」
 怪訝な顔をしてデュエルスペースを直視する千鳥。その答えはわりとあっさりでた。

「グレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレグレ……ファー!!!」
(なにコイツ。チェーン1チェーン2チェーン3チェーン4……嘘でしょ!? 手も足も出ない――?」
「グレ(《八汰烏の骸》)!グレ(《強欲な瓶》)!ファー(《仕込みマシンガン》)!グレ(《一陣の風》)!グレ(《熱光の宣告者》)!ファー(《連鎖球菌》)!グレファー―――――(《連鎖爆撃》)!」

グレファー:3500
津田早苗:900

「なんだグレファーか。相手は……やはり女か。グレファーは相手が女だとはりきるからな」
「お前の時は大して熱くなっていなかったな。もっとも、エリザの時は発狂せんばかりだったがな」
「空を舞う鳥を捕まえようとせんだけの深謀遠慮をもっているということだ。そろそろ決着だな」
「ダーイ・グーレ・ファー(《破壊輪》)!!!!!!!!!!!!!!」

【試合結果】
●津田早苗―グレファー○

「オイオイ、あのグレファーってやつ、もうかれこれ8連勝だぜ」
「誰かアイツを止めろよ。五月蝿くて気が散るじゃねぇか」
「じゃあお前やれよ」
「なんで俺がわざわざ……あんなのの相手しなきゃいけねーんだよ」
 どうやらグレファーがデュエルスペースを荒らしまくっていたらしい。これを見た千鳥が一言。
「ふむ。これではあまりよろしくないな。知己と対決するつもりはなかったが、これも使命だろうて」
「無駄に勤勉だな。そんなことを考える馬鹿は俺らの中でもお前ぐらいのもんだぜ」
「放るがいい。ん?」
 瀬戸川千鳥が決闘に臨もうとした、その瞬間のことだった。
「へぇ。あれが外国人決闘者か。それにしてもなんで誰も名乗り出ないんだ?」
「なんでもものすご〜く勝ちまくってるんだって」
 この膠着した場に二人の決闘者が現れる。その場に居合わせた何人かが即座にそれと気がつくマーク対象。翼川カードゲーム部の大黒柱・森勇一とその敏腕まねぇじゃあ・東智恵だ。彼らはここで西川瑞貴と待ち合わせる予定だった。三人で視察に出ようというわけである。だが……
「そうか。じゃあ今度は俺が相手だ」
「グレ!?」
「ユーイチ!?」
 彼は辺りを見回し誰もグレファーに挑戦しないと見るや否や自分が挑戦者に名乗り出た。どうやら西川瑞貴と合流するまで待ちきれなかったらしい。或いはこうしていれば見つかりやすいと考えたのかもしれない。
 とにもかくにも彼は決闘相手として名乗り出る。そのやる気は十分。
「そういうのに勝つのが格好いい。どうせアイツも壁の一つだ。じゃあちょっと待っててくれ。いい経験だ」
(あれは……森勇一か。手の内を探るいいチャンスだな。だが、既にグレファーは9戦目か。よくよく考えればそろそろかもな。アレが相手ではおそらく……)
 果たして千鳥が案じたとおりとなった。勇一がデュエル体勢に入った瞬間グレファーが露骨にやる気のない声を漏らす。先程までの覇気は何処へやら。
「グレグレグレファ〜(なんだ男かよ〜)
「なんだ? 一体どうしたってんだ?」
 しかし勇一の近くに知恵がスタンバイした瞬間グレファーのテンションが急上昇する。
「グレ(女)! グレ(女!) ファー(もっと女を)!」
「な、なんだ!?」
 物凄い勢いで智恵に寄り添うグレファー。その眼は先程とは打って変わって輝いている。
「もしかして……私とやりたいの?」
「グレ(女)! グレ(女)!」
 これではどうにもならんと判断した千鳥は勇一の側に回り、持ち前のキビキビとした態度で語りかける。
「森勇一か」
「誰だお前は」
「誰でもよかろう。それよりも…そこにいるグレファーは大の女好き。練習試合に男相手では、もうテンションが上がらないのだろう。残念だったな」
「なんだよそれ。まったく、人が折角やる気になってるっていうのに。あーくそっ! 帰る……」
 その時だった。いきなり話に割り込む智恵。
「ふーん。じゃあ私が決闘する。デュエルデュエル〜♪」
「チエ?」
「だって暇だったし。それに……ね」
(成る程な――)
 勇一は瞬時に智恵の狙いを看過した。確かにこの方が都合がいい。大会に出る勇一がこんなところで手の内をさらすよりは、大会に出ない智恵が決闘した方が相手の手の内だけが見えて都合がいい。中々敏腕なマネージャ−様だ。もっとも、勇一にとっては別にどちらでもよかったのだが。
(別にやってもいいんだが。やはりここはチエの顔を立てるのが最善行動か)
「頼むぜ。チエ」
(ほう。あれが噂に聞く『ウィザード・チエ』か。大会の決闘者でないのが残念だが…中々いい見世物にはなろう)
「それじゃあデュエル、始めるよ」
「グレファー!!!」
 魔法使いVS鎖使いの対決は意外な方向へと発展する。





【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
ある意味真の第一話。第10話から本格始動だから十字軍。安直。「デュエルボラスキニフ」とか、「渦亜怒」とか、「万願寺ドリームス」とか、色々迷いましたが「小学生を主なターゲットにした決闘小説」なる趣旨から通用性の高いこれにしました。現在は軽く後悔してます。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。


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