それは、1週間前の事だった。事の起こりは『デュエルモンスターズ高校選手権』において翼川高校カードゲーム部が優勝してから少ししてからのこと。夏休みの中旬のことだった。そしてその瞬間、翼川高校の大黒柱・森勇一は優雅にコーヒーを飲んでいた。そして次の瞬間軽く戻した。
「すまん、チエ。もう一回言ってくれないか。どうやら耳が腐ってたみたいでよく聞こえなかった」
「だ〜か〜らぁ、私達『遊戯王OCG超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐カップ』に招待されちゃったのよ! 招待よ招待。地区予選やんなくていいの。ていうか、もう別格?」
「なんだ……それは。別格っつってもなぁ。いらない格ってもこの世にはあるぜ」
 勇一が訝しがるのも最もだ。この大会名を聞いて胡散臭いと思わない人間が居たらそれこそお目にかかってみたいものである。それほどの妖気。だが、勇一の『がぁるふれんど』東智恵曰く、それはこういうことだった。

【第一回遊戯王OCG超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐カップ】
それは、世界中を股にかけ「有史以来もっとも巨大な企業」とまで称された世界最強の株式会社『KONAMI』が満を持して開催を決定した遊戯王界の一大祭典。地区予選を勝ち抜いた40名の精鋭と8人の国内招待選手、更には8人の国外招待選手が一堂に会し、最後の一人になるまで魂を賭けてデュエルし続ける遊戯王界の最強決定戦。無論『最強』を掲げるその謳い文句に偽りはなし。予選リーグの段階から一戦ごとにルールを変える苛酷な試合条件の下執り行われる決闘はまさしく前人未到! 前代未聞! 魑魅魍魎!今、遊戯王界に一大カタストロフを引き起こす……ハルマゲドンプロジェクトが今始動する!

  眩暈がするほど胡散臭い説明。恐らくは、智恵の手心付きだろうが胡散臭いこのこの上ない。本当に胡散臭かったが、それでもしかし、智恵との付き合いの長い勇一は、敢えてその辺には深く突っ込まず話を続けた。中々人間が出来ていると見るべきか慣れとは恐ろしいと見るべきか。
「で? 『今』をわざわざ2回も使ってお前は一体何を言いたいんだ?」
「だ〜か〜らぁ。私達『デュエルモンスターズ高校選手権』其の他諸々の実績から『8人の国内招待選手枠』を貰っちゃったの! 凄いでしょ! 凄いでしょ!」
「そりゃすごいな。だがなんだって俺達なんだ? 実績っつっても高校生のだぜ?」
「んー、それがむしろそっちの方がいいんだって。なんでも若い力が云々かんぬんとか。」
「成程な。大体のことはわかった」
 これで『わかった』とのたまえる勇一も中々のつわものである。伊達にTCGはやってない。
「で?」
 智恵が話の核心を付くリバースカード『で?』を発動。この一言の意味は明白だ。出るか、否か。だが勇一の心は既に決まっていた。彼の眼からは、先程の『胡散臭いものを見る目つき』が消え失せていた。
「面白いじゃないか。最近身体も鈍っていた頃だ」
「じゃあ!」
「8人集めようじゃないか。翼川の誇るデュエル・アスリート達を!」
 やはりつわものだ。伊達に修羅場は潜っていない。

「ごめんくださーい」

「おっ噂をすればなんとやら。あの声は未来のエース君じゃないか。早速この話で脅かしてやろう。」
 翼川カードゲーム部の大黒柱・森勇一の家の前につっ立っていたのは元村信也。そこそこの衝撃によってこの事実を受け止め、そして2つ返事(?)でエントリーを決め、そして大会初日物凄い勢いで後悔することになる『あの男』である。こんな具合で智恵ニュースは光の速さで広まり、8人のエントリーはわりとあっさり決まるかと思われた。どいつもこいつも暇人である。

・森勇一
・東智恵
・福西彩
・武藤浩司
・西川皐月
・斉藤聖
・山田晃
・元村信也

 誰の眼にもこの8人が翼川の主力で異存はない。だが突如として智恵がこの話を辞退すると言い出した。話の発端の癖してデュエルしないというのは一体どういう神経の持ち主かは知らないが、なんでも今回は『まねぇじゃあ』にまわりたいらしい。微妙に魂胆が透けているが、皆それにはあまり突っ込まなかった。下手につっつき過ぎた為に拉致監禁やスタンガンがでてきたらどうしようかという具合に。もっとも、本当ならそうならないよう予め突っ込んで置くのが筋なのだが、とにかく智恵は辞退し、その代わり勇一の提案で只今日本滞在中の『西川瑞貴』が御呼ばれすることとなった。彼女は既に翼川の生徒ではなかったが、招待されているのは『翼川カードゲームにゆかりのある強い決闘者8名』ということなので、まあギリギリOKだろうと思って申請してみたところ、果たしてその通りになった。いい加減な大会運営のような気がしなくもないが、まあ『西川瑞貴ならば』ということなのだろう。とにかく大会に臨む8名の決闘者が決定した。ここまでがこの謎めいた大会に臨む翼川高校カードゲーム部の前日譚である。

第1話:歪んだ翼

―大会初日―

 大会初日。そこには元村信也がいた。彼は、初戦の惨敗をその肩に背負い、翼川の他のメンバーのところに帰ろうとするところだった。だが目の前には先輩が1人。アメリカ帰りの西川瑞貴である。
「あれ? 瑞貴さん……ですよね」
「ええそうよ。いい加減皐月との違いを覚えなさい」
「すいません。でも、なんで瑞貴さんだけ?」
「忘れたの? 私はAブロック。次が試合よ」
「あっ、そっか。頑張ってください。」
「ありがと。でも頑張るのはどっちかっていうとシンヤ君の方じゃない?」
「う……」
「幾らなんでも【スタンダード】1個しか駄目だなんてカードゲーマーとしてどうなのかなぁ。そりゃ翼川の他のメンバーだって―勇一ですら―一芸に特化しているのは事実。でもユウイチなんかはあれで結構引き出しが多いのよ。少なくともシンヤ君みたく『本気でそれしかない』って人は他にいないと思うけど。チームの中にも、外にも」
「じゃ、じゃあ僕はこれで。向こうでたっぷりしぼられてきます」
 説教を恐れた信也が、瑞貴との会話を程ほどにその場を去ろうとする。だが、瑞貴はそんな信也を引きとめた。その顔は何処か真剣みを帯びている。袖にするにはちょい重い。
「ちょっと……時間いい?」
「?」「瑞貴さんが大丈夫なら。僕の方は至って暇ですから。なんか用ですか?」
「あのさ。貴方はどう思ってるのかなって。ちょっと2人だけで聞いてみたかったの」
「何を……ですか?」
 その『何」』はそこそこの重量感を有していた。
「アキラ君が退部したこと。」
(この人―やっぱり『ブレイン・コントローラー』だ。)

―後に元村信也は語る―

 今思えばアレが全ての発端だったのかもしれません。あの人は何処か別の所を見据えてた。

 三年生は本来なら既に引退してる筈で、そういう意味で考えるとこの大会は三年生の方々にとっての『エキストラターン』だったのかもしれません。あの人はその『エキストラターン』に全てを賭けたかったんだと思います。だから、本来ならとっくに引退扱いの状況から『退部届け』をユウさんに渡したのも、『決意』故の行動だったんだと僕は考えています。確かに僕等は何処か緩んでいた。『お祭りだから』『楽しもう』『修学旅行みたいなもの』そんな空気が何処かにあって、正直に言うと僕も初戦で敗退した後何処か拍子抜けしていました。それが……

 あの人はユウさん相手を除いては、誰とも付かず離れずの距離を保つタイプの人でした。でも僕とは妙に気があって……もしかしたら同類だったのかもしれません。だからあの人がこのタイミングから『退部する』って聞いた時は凄く驚きました。今でもよく覚えています。『お前らと戯れるぐらいなら俺は一人でもいい』たった一言でした。これに怒りを露にしたのが浩司さん。新キャプテンになって責任感が増したあの人はかなり怒ってました。『なんで今になってそんなことを』って。一方で終始静かだったのが皐月さんと聖さん。あの人達は何処か『仕方ない』という顔をしてました。今思えば浩司さんも内心ではそうだったのかもしれません。少なくともあの場で本気の困惑を見せていたのはユウさんと智恵さんだけ…そして何処か不安げな表情をしていたのが瑞貴さん…だったような気がします。そういうところがあの人には我慢ならなかったんじゃないかと……全部憶測ですけどね。

 あの人のデッキは【オフェンシブ・ドローゴー】。敵と刺し違える為のデッキだって冗談めかしてあの人が言っていたのをよく覚えています。刺し違えてでも倒そうという相手はユウさんなんでしょう。今思えばもっと速く気がつくべきだった。あの人がユウさんと同じ最終Nブロックに配置されていたのを見た瞬間に――

「僕は……その……」
「こっちに休暇で戻ってきてから、ちょっとの間部内を眺めてたんだけど……なんていうか、貴方アキラとよく話してたよね。だからちょっと気になって」
「瑞貴さん」
「何?」
 瑞貴の質問攻めに対し、信也は意を決したかのように瑞貴に話しかける。その表情は何処か暗い。
「その前に一つ答えてください。貴方は…この大会どうしようと思ってますか?」
 投げ返された質問。そこには無気味な意思が込められていた。瑞貴は数秒考え、そして答えを出す。
「優勝するつもりよ」
「流石。中々言えませんよそんな風には。でも、その為にどれだけのものを捧げることができますか?」
「捧げる? なんで?」
 表情を曲げる瑞貴に対し、信也は静かに口を開いた。
「アキラさんはユウさんを決闘で殺そうとしています」
「えっ?」
「それがあの人にとっての優勝だからです。あの人はその為だけに全てを賭けた。シンプルでしょ? だからあの人とは話しやすかったんです。だから、ちょっとショックでした。今の時期とはいえ退部届けを提出した。その意味が僕にはちょっと重かった。あの人は文字通り全てを捧げてユウさんに挑むつもりです」
「それって……」
「ああ、そうそう。さっき『本気でそれしかない』のは僕ぐらいしかいないって言ってましたけど…それは違います。あの人の【オフェンシブ・ドロー・ゴー】はあの人の全てです。僕よりも濃い。ずっと。」
信也の話を一通り聞き終えた瑞貴は、ある疑問を漏らす。晃の事はそれで多少なりともわかったかもしれない。だが、今度はもう一つの事が気になってしまった。瑞貴はそういう人間である。瑞貴の持つ『特異性』は、瑞貴本人を細心にしていた。
「信也君。貴方は、じゃあ貴方はどうしたいの?」
だが信也は軽く微笑むだけだった。
「『ブレイン・コントローラー』がそんな聞き方しちゃ駄目ですよ。それじゃ。決闘頑張ってください。」
 信也は去っていく。その心内を決して明かさずに去っていく。それを何処か寂しそうに眺める瑞貴。
「私は……勝つよ。必ず。私にも……がある……」

 『ブレイン・コントローラー』西川瑞貴の眼の色が変わっていた。本人すら気がつかぬうちに―



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ】
この辺の執筆が酷い酷い。空気が掴めない掴めない。最近になって読み返し「この人やっぱりブレインコントローラーだ」が失笑物にも程があると気がついて大笑い。酷いなぁこの辺。何一つ誇れる所が……ああ、でも『第一話にして退部届けを出す』だけは誇れるな。うん。しばらくはこんな感じで借りてきた猫状態が続きます。



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です

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