「俺のターン、500ライフ払って《先約防御徴兵令》を発動。ターン…………エンドです」

《先約防御徴兵令》 (通常魔法)
自分のライフに500ポイントダメージを与える。このカードが墓地に存在する時に直接攻撃を受けてライフポイントがマイナスされる場合、ダメージを0にする。その後このカードをゲームから除外する。


 大会初日はいよいよ佳境にさしかかり、残す所は最終Nブロックのみとなった。既にNブロックの決闘者は課題構築を終え、決闘に臨んでいる。翼川高校三年・山田 晃もその一人であるが、彼はその表情からもわかるとおり苦戦していた。

(くそ、だがここでまけるわけには行かない。せっかくのチャンスなんだ。最後の――)

 山田 晃は苦戦していた。

 山田晃。彼は昔から「大抵呼ばれもしないのにそこにいるが誰からもこれといって気にされることのない」存在だった。大抵「其処」にいる。「其処」が何処かは時期によってまちまちだが、大抵は「其処」にいる。彼の本当の居場所などこの世の何処にも存在しないが、逆に言えば彼は何処にでも3人目以降として其処にいる。彼はそんな風に生きてきた。

 だがそんな彼にも転機が訪れる。日本屈指とも謳われる決闘者・森勇一と東智恵との出会いがそれだった。彼はこの二人を見てどうしようもないぐらい強烈な衝動を覚える。彼らは「一人目」と「二人目」であり、その存在がどこか晃には眩しかった。彼が翼川カードゲーム部に入った理由の全てはこれであり、これ以外の何物でもないはずだった。

 翼川カードゲーム部における山田 晃は、こんな風に理解されていた。「山田 晃は森勇一に憧れ翼川カードゲーム部に入り、憧れの人と同じドロー・ゴー使いとなったが本家の森勇一には及ばず、そこで新たに【オフェンシブ・ドロー・ゴー】使いとなったがやはり勝利するには至らなかった。だが、森勇一はそんな晃の努力を認めタッグマッチへの道を用意した。」ここまでが既成事実である。だが、これを晃側から見直すとこうなる。「山田 晃は森勇一という存在と自分を天秤にかけるべく翼川カードゲーム部に入り、ドロー・ゴー使いとして真正面から森勇一に挑んだが力及ばず、勝つ為の試行錯誤を重ねてるうちに何時しか【オフェンシブ・ドロー・ゴー】使いという手前勝手な称号を押し付けられ、タッグプレイヤーという欲しくもない地位で飼い殺しにされていた」。端的に言って、彼は既に飽き飽きしていた。馬鹿馬鹿しい。こんなものいるか。

 そんな彼のタッグプレイヤーとしての地位は、期待の新人である元村信也と福西彩の為に崩壊する事となった。例のCブロック騒動である。だが晃にとってそれは果てしなくどうでもいいことだった。何故なら、彼にとってそれは些細な事だったのである。タッグプレイヤー? どうでもいい。

 彼がタッグデュエルに強かった本当の理由。サポートセンスが図抜けていた本当の理由。それらは全ては彼にタッグマッチに対する野心が1%もなかったことに帰結する。つまりは功名心が欠片もなかったのだ。もっともそれは晃が献身的な人間だったからではない。単に興味がなかったのだ。むしろ彼はタッグパートナーに気を使わなくてよくなってせいせいしていた。例のCブロック騒動の時、彼が捨て駒になったのは決してレギュラー入りへの自己アピールではなく…強いて理由を挙げるとすれば勇一の横にいる彼女―東智恵―を真っ先に助けたいと思っただけだった。彼があまりにあっさりとレギュラーから身を引いたのもそこら辺が真相である。彼は斉藤聖辺りとはまた違ったタイプの人間だった。彼にとって重要な事はあくまで『打倒森勇一』であり、それは何処まで行っても何ら変わる事がなかった。山田晃は哀しいぐらいに山田晃のままだった。

 そんな彼にとってこの『遊戯王OCG超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐カップ』は晴天の霹靂だった。そして彼が森勇一と同じブロックになったのは雨天の断崖絶壁だった。これは最後のチャンス。おそらくここでアイツを逃がせばもう二度とは届かない―。だが山田晃は苦戦していた。と、言うより既に死に体だった。


プロローグV:雨天の断崖絶壁


「いい加減しつこいなお前。諦めるって言葉をしらないのか? 俺ターン、ドロー。《ジェルエンデュオ》を召喚。プレイヤーにダイレクトアタックだ」
「前のターン墓地に送った《先約防御徴兵令》を起動。ダメージを0にする」

山田 晃:200LP
神宮寺陽光:3400LP


「ターンエンドだ。お前さ。いい加減諦めろよ。なんたって最終Nブロックだ。もう夜なんだぜ。ただでさえ5本マッチなんていう罰ゲームみたいな課題なんだからよ。フィールド上をよく見ろ。《王宮のお触れ》が既に発動している。そして俺の手札にはもう一枚の《王宮のお触れ》。付け加えれば後一勝で俺の勝ち。オマケにお前のライフはたったの200。もうお前の紙の束……【ドロー・ゴー】に用はねぇんだ!」
 既に5本マッチの内第3戦までが終了し、試合結果は晃の1勝2敗。そしてこの第4戦も既に後一歩というところまで進んでいた。だが晃は何故か楽しげだ。何故か微笑を絶やさない。それは、勝算がある故の含み笑いでも、或いはヤケになったが故の自嘲とも違う。そんな微笑であった。疲労の極限に達しながら……。
「【ドロー・ゴー】……そうだ。俺のデッキは【ドロー・ゴー】だ。それでいい。大会っていいよな。もっと沢山出てればよかった。そうだ。【ドロー・ゴー】でもいいんだよな。ハハ……」
「何言ってやがる……追い詰められておかしくなったか!」
「だからこそ教えてやる。誰かから聞かされる前にな。よーく聞いとけ。これが俺の………………………………【オフェンシブ・ドロー・ゴー】だ。通常魔法発動《ハリケーン》。魔法・罠ゾーンに置かれたカードを全て戻す。更に俺はカードを3枚、いや、違うな。手札を全部伏せてターンエンド」
「チッ。俺のターン。カードを2枚伏せて…《異次元の女戦士》を召喚だ。二体でダイレクトアタック」
「攻め急ぎすぎたな。《聖なるバリア−ミラーフォース−》」
(畜生。気持ちよく勝って帰らせろよ――)
 早くデュエルを終えて帰りたがっているアキラの対戦相手・神宮寺陽光が見せた一瞬の隙を付き、晃は相手モンスターの一掃に成功する。「一昨年の日本選主権ベスト8」。格上だからこその驕りが神宮寺にはあった。それを晃は見逃さない。鋭い眼光で神宮寺を睨みつける。
「チッ、ターンエンド」
「その前に! 《無血の報酬》2枚をダブルで発動。2400ダメージだ」

《無血の報酬》
永続罠
このカードは手札の枚数が0の時にしか発動できず、相手のターンのエンドフェイズ終了時に、自分の手札が1枚以上有ればこのカードは破壊される。戦闘ダメージを受けなかった相手ターンのエンドフェイズ時に相手のライフに1200のダメージを与える。

「この野郎…。」

山田 晃:200LP
神宮寺:陽光:1000LP


「ドロー。《天よりの宝札》でカードを2枚引く。更に、カードを1枚捨てて……《閃光の宣告者》!」

《閃光の宣告者(フラッシュ・デクレアラー)》
星2/光属性/炎族/攻500/守300自分の手札からこのカードとカード一枚を墓地に送って発動する。相手ライフに1200ポイントダメージを与える。 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

【第4ゲーム】
○山田晃―神宮寺陽光●


「くそったれ。なんなんだよおまえ」
「ハァ、ハァ、ハァ……さぁラストゲームだ」

―30分後―

「負けちまったか。あと少しだったんだけどな。にしても……寂しい景色だな」

【試合結果】
●山田 晃(招待選手)―神宮寺陽光(奈良)○
総合得失点差±500

 最終戦、それも3時間近くの激戦を終えた晃の周りは既に閑散としていた。デュエルに集中していた時にはあまり気にならなかったが、確かにこれは帰りたくなるかもしれない。無論そこには翼川メンバーすらいなかった。おそらくは早々に大勝利を挙げた同じNブロックの森 勇一に率いられて和気藹々としながら皆で帰って行ったのだろう。もっとも、今の彼にとってはそんなものどうでもよかったのだが―
「なんつーかあれだな。くたびれもうけ……」
 しかし世の中には奇特な人間と言うものがいる。こういう変な大会なら尚更だ。いきなり後ろから『山田晃』と名前を呼ばれる晃。驚いて振り向く晃。相手を見定めてもう一度驚く晃。
「やっぱりそうだ。君『こそ』がさっきまで決闘していた山田晃。どこからどうみてもその存在以外の何者でもない。ぶしつけだがさっきのデュエル見させてもらったよ。実に素晴らしかった。ホント、あんなに胸が高鳴るのは久しぶりだったよ。3時間の間生理現象に向き合うことすらすっかり忘れていたくらいだからね。君は本当にいい決闘者だ」
(なんだコイツ――)
 目の前にいたのは、日本語を日本人よりもなだらかに喋る外国人―それも東欧系―だった。髪は灰色、眼は青く、服も灰色を基調としている。趣味がいいがどうかは微妙だったが、それよりなにより、この男にはよくわからない雰囲気があった。「外国人ってのはどれもこんなものなのか」。晃にはその辺がわからない。わからないので晃は、その辺については敢えて無視しつつ目の前の相手に答える。
「そりゃなによりだが、俺は結局負けたんだ。だから……」
「だから? 君の価値はそんなものでは計れない。土台、価値ってのは入れるだけだ」
(価値? まさか新手の新興宗教の勧誘か―?)
 突然迫ってきた日本語を流暢に喋る何がなんだかわからない外国人。もしかするとこれは疲れが見せる幻か? いや、確かにそこにいる。さあどうするか…ここまで考えてようやく晃は相手に素性を名乗らせることを思いつく。やはり疲れているのかも知れない。
「アンタ……何者だ?」
「失礼。僕の名はディムズディル=グレイマン。この大会へはEブロックにエントリーしている」
(選手か――! だがなんで俺のところに?)
 何だか無性に気になってきた晃は適当に質問してみることにした。彼も相当暇な人間である。
「アンタは今日勝ったのか?」
「不覚を取った」
(やっぱ俺と同じ穴の狢ってところか――)
 だが帰ってきた返答はかなりいかれていた。
「200ライフも削られてしまった」
「200!? たったの……200?」
「驚くことじゃない。対戦相手がゴミだっただけさ。そんな奴に200も削られたら君だって不覚だと思うだろ? 古今東西傷というのは概して深さの問題じゃない。毒素の問題だ」
(なんだコイツ。何者だ?)
 多少戸惑いつつも晃は次の―核心的な―質問をする。
「アンタ……それで俺に一体何の用だ」
「決闘者が2人向き合えば『用』と呼べるものは一つしかない……というのはローマ法以来の大原則だろ? 僕と決闘してくれ。君のような見所のある決闘者とデュエルするのが僕の数少ない喜びなんだ! 頼む! 受けてくれ! もし今日疲れているというのなら他の日でもいい。とにかく決闘してくれ。頼む! 君と、君のアグレッシブな“それ”に僕は惚れこんたんだ」
 『決闘者が2人いればそこには決闘しかない』。まあ理屈としてはそうかもしれないが、やはりこの男は変わっている。そんなものそうそうわからないだろうに。とはいえ晃は、それでもこの男に多少の好意を持ったのか、ある種快い返事を目の前の人間に向かって投げ返す。
「わかったよ。だがまともにやれる自信ないぞ。ちょい眠いしな。それでもいいなら……見せてやるよ。お望みどおりこの、【オフェンシブ・ドロー・ゴー】をな」
「まともに、か。そういうことなら僕も今日フェイバリッドデッキを持ち合わせていない。丁度調整中で、加えて今日はいらないと思っていた。これで5:5になるのか4:6になるのか、はたまた7:3になるのかはわからないが、とにかくこれでいかせてもらう。それでいいかな?」
「ああ。それじゃ……決闘だ。先攻はそっちにやるよ」
「そうかい。ならいくぞ。僕のターン、ドロー。僕は《日和見主義の物神折衷論者》を攻撃表示で召喚!」

 これが『第三のきっかけ』であった。誰もいない会場近くの屋根の下。二人の決闘が始まる。


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
馬鹿と大馬鹿との邂逅。「類は友を呼び、変態は変態を呼び、決闘者は決闘者を呼ぶ」。それがブーストです



↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。


↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。

                TOPNEXT





































































































































































































inserted by FC2 system