《先約防御徴兵令》 (通常魔法) |
山田
晃:200LP
神宮寺陽光:3400LP
「ターンエンドだ。お前さ。いい加減諦めろよ。なんたって最終Nブロックだ。もう夜なんだぜ。ただでさえ5本マッチなんていう罰ゲームみたいな課題なんだからよ。フィールド上をよく見ろ。《王宮のお触れ》が既に発動している。そして俺の手札にはもう一枚の《王宮のお触れ》。付け加えれば後一勝で俺の勝ち。オマケにお前のライフはたったの200。もうお前の紙の束……【ドロー・ゴー】に用はねぇんだ!」
既に5本マッチの内第3戦までが終了し、試合結果は晃の1勝2敗。そしてこの第4戦も既に後一歩というところまで進んでいた。だが晃は何故か楽しげだ。何故か微笑を絶やさない。それは、勝算がある故の含み笑いでも、或いはヤケになったが故の自嘲とも違う。そんな微笑であった。疲労の極限に達しながら……。
「【ドロー・ゴー】……そうだ。俺のデッキは【ドロー・ゴー】だ。それでいい。大会っていいよな。もっと沢山出てればよかった。そうだ。【ドロー・ゴー】でもいいんだよな。ハハ……」
「何言ってやがる……追い詰められておかしくなったか!」
「だからこそ教えてやる。誰かから聞かされる前にな。よーく聞いとけ。これが俺の………………………………【オフェンシブ・ドロー・ゴー】だ。通常魔法発動《ハリケーン》。魔法・罠ゾーンに置かれたカードを全て戻す。更に俺はカードを3枚、いや、違うな。手札を全部伏せてターンエンド」
「チッ。俺のターン。カードを2枚伏せて…《異次元の女戦士》を召喚だ。二体でダイレクトアタック」
「攻め急ぎすぎたな。《聖なるバリア−ミラーフォース−》」
(畜生。気持ちよく勝って帰らせろよ――)
早くデュエルを終えて帰りたがっているアキラの対戦相手・神宮寺陽光が見せた一瞬の隙を付き、晃は相手モンスターの一掃に成功する。「一昨年の日本選主権ベスト8」。格上だからこその驕りが神宮寺にはあった。それを晃は見逃さない。鋭い眼光で神宮寺を睨みつける。
「チッ、ターンエンド」
「その前に! 《無血の報酬》2枚をダブルで発動。2400ダメージだ」
《無血の報酬》 |
「この野郎…。」
山田
晃:200LP
神宮寺:陽光:1000LP
「ドロー。《天よりの宝札》でカードを2枚引く。更に、カードを1枚捨てて……《閃光の宣告者》!」
《閃光の宣告者(フラッシュ・デクレアラー)》 |
【第4ゲーム】
○山田晃―神宮寺陽光●
「くそったれ。なんなんだよおまえ」
「ハァ、ハァ、ハァ……さぁラストゲームだ」
―30分後―
「負けちまったか。あと少しだったんだけどな。にしても……寂しい景色だな」
【試合結果】
●山田
晃(招待選手)―神宮寺陽光(奈良)○
総合得失点差±500
最終戦、それも3時間近くの激戦を終えた晃の周りは既に閑散としていた。デュエルに集中していた時にはあまり気にならなかったが、確かにこれは帰りたくなるかもしれない。無論そこには翼川メンバーすらいなかった。おそらくは早々に大勝利を挙げた同じNブロックの森
勇一に率いられて和気藹々としながら皆で帰って行ったのだろう。もっとも、今の彼にとってはそんなものどうでもよかったのだが―
「なんつーかあれだな。くたびれもうけ……」
しかし世の中には奇特な人間と言うものがいる。こういう変な大会なら尚更だ。いきなり後ろから『山田晃』と名前を呼ばれる晃。驚いて振り向く晃。相手を見定めてもう一度驚く晃。
「やっぱりそうだ。君『こそ』がさっきまで決闘していた山田晃。どこからどうみてもその存在以外の何者でもない。ぶしつけだがさっきのデュエル見させてもらったよ。実に素晴らしかった。ホント、あんなに胸が高鳴るのは久しぶりだったよ。3時間の間生理現象に向き合うことすらすっかり忘れていたくらいだからね。君は本当にいい決闘者だ」
(なんだコイツ――)
目の前にいたのは、日本語を日本人よりもなだらかに喋る外国人―それも東欧系―だった。髪は灰色、眼は青く、服も灰色を基調としている。趣味がいいがどうかは微妙だったが、それよりなにより、この男にはよくわからない雰囲気があった。「外国人ってのはどれもこんなものなのか」。晃にはその辺がわからない。わからないので晃は、その辺については敢えて無視しつつ目の前の相手に答える。
「そりゃなによりだが、俺は結局負けたんだ。だから……」
「だから? 君の価値はそんなものでは計れない。土台、価値ってのは入れるだけだ」
(価値? まさか新手の新興宗教の勧誘か―?)
突然迫ってきた日本語を流暢に喋る何がなんだかわからない外国人。もしかするとこれは疲れが見せる幻か? いや、確かにそこにいる。さあどうするか…ここまで考えてようやく晃は相手に素性を名乗らせることを思いつく。やはり疲れているのかも知れない。
「アンタ……何者だ?」
「失礼。僕の名はディムズディル=グレイマン。この大会へはEブロックにエントリーしている」
(選手か――! だがなんで俺のところに?)
何だか無性に気になってきた晃は適当に質問してみることにした。彼も相当暇な人間である。
「アンタは今日勝ったのか?」
「不覚を取った」
(やっぱ俺と同じ穴の狢ってところか――)
だが帰ってきた返答はかなりいかれていた。
「200ライフも削られてしまった」
「200!? たったの……200?」
「驚くことじゃない。対戦相手がゴミだっただけさ。そんな奴に200も削られたら君だって不覚だと思うだろ? 古今東西傷というのは概して深さの問題じゃない。毒素の問題だ」
(なんだコイツ。何者だ?)
多少戸惑いつつも晃は次の―核心的な―質問をする。
「アンタ……それで俺に一体何の用だ」
「決闘者が2人向き合えば『用』と呼べるものは一つしかない……というのはローマ法以来の大原則だろ? 僕と決闘してくれ。君のような見所のある決闘者とデュエルするのが僕の数少ない喜びなんだ! 頼む! 受けてくれ! もし今日疲れているというのなら他の日でもいい。とにかく決闘してくれ。頼む! 君と、君のアグレッシブな“それ”に僕は惚れこんたんだ」
『決闘者が2人いればそこには決闘しかない』。まあ理屈としてはそうかもしれないが、やはりこの男は変わっている。そんなものそうそうわからないだろうに。とはいえ晃は、それでもこの男に多少の好意を持ったのか、ある種快い返事を目の前の人間に向かって投げ返す。
「わかったよ。だがまともにやれる自信ないぞ。ちょい眠いしな。それでもいいなら……見せてやるよ。お望みどおりこの、【オフェンシブ・ドロー・ゴー】をな」
「まともに、か。そういうことなら僕も今日フェイバリッドデッキを持ち合わせていない。丁度調整中で、加えて今日はいらないと思っていた。これで5:5になるのか4:6になるのか、はたまた7:3になるのかはわからないが、とにかくこれでいかせてもらう。それでいいかな?」
「ああ。それじゃ……決闘だ。先攻はそっちにやるよ」
「そうかい。ならいくぞ。僕のターン、ドロー。僕は《日和見主義の物神折衷論者》を攻撃表示で召喚!」
これが『第三のきっかけ』であった。誰もいない会場近くの屋根の下。二人の決闘が始まる。
【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
馬鹿と大馬鹿との邂逅。「類は友を呼び、変態は変態を呼び、決闘者は決闘者を呼ぶ」。それがブーストです
↑気軽。ただこちらからすれば初対面扱いになりがちということにだけ注意。
↑過疎。特になんもないんでなんだかんだで遊べるといいな程度の代物です。