決闘者(デュエリスト)って生き物は本当にタチが悪いんだ。決闘(デュエル)するためには手段を選ばないんだから

 ―― あの人は私を連れ回す前にこう言った。わたしはまだ知らない。リードさんのことも、ラウンドさんのことも、パルムさんのことも、このチームのことを本当のところ何一つ知らない。そんなわたしに気安く話しかけてくれたテイルさん。それがなんか嬉しくて。なのにわたしは時々この人に妙な警戒心を抱くときがある。あ、でも、それは、こんな場所に放り込まれたからってわけじゃなくて。あの人がデュエルフィールドに立ったとき、あの人の背中がとてもとても遠く感じられたの。正面を向いているときはあんなに安心するのに、背中をみた瞬間どうして今まであの人と喋っていられたんだろうと、そんな風に思ってしまう。決闘者観戦者の間には壁がある。札を引く人と札を観る人。当たり前? そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。馴れ馴れしいくらいに話しかけてきたあの人は、てんさいびしょうじょでゅえりすとのことなどもう忘れてるんじゃないかなって。そんな気がして。あの人の前には地縛神がいる。 "前進" や "腹筋" をも上回る、 "満足" を象ったと言われる地縛神。誰もがその姿に畏敬の念を抱く。誰もが? わたしはまだ知らない。似非天才と呼ばれるあの人のことを。

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Technological Card Duel!


 格好いい。ミィは素直にそう思った。同時に不思議だとも思った。SDTに勝利したミツルが格好いいのは当然としても、決闘盤を弾かれたテイルがこの場所にフィットして見えるのが不思議だった。

 テイルなる決闘者が西のトーナメントシーンに姿を現したのはつい最近。どこの馬の骨ともしれないお気楽で軽薄な若者。テイルはそれである筈だった。なのにしっくりくる。西の全一と向かい合っているのにまるで違和感がない。それが一拍遅れの強烈な違和感を喚起する。もしこれが単なる練習試合ではなく、大会の決勝だとしてもそれ程違和感がないであろう……という違和感。

「あいつとはやりあっておきたかったんだけどな。ミツルさんがああいうんじゃしゃあねえけど」
 梯子を外された形のケルドはぶすっとした表情で愚痴る。横でそれを受けるのはレザール。
「新レギュラーとして、あいつを倒して周りに認めさせたいおまえの気持ちはわからないでもない。それはそれとして、そんなことを言うぐらいだ。あいつの決闘はちゃんとわかってるんだろうな」
「シンクロ使い。その中でもあいつはジャンクモンスターを中心に据えたコッテコテの打撃型」
「そう言ってしまえば酷く分かりやすい決闘だが……」 「ああ、どうにもこうにも胡散臭ぇ」
「安心しろケルド。ミツルさん程の人がダァーヴィットさんの仇を討ち洩らすわけがない。あいつがどんな奸物だろうが、その正体ごとミツルさんが踏み潰してくれる」
「先攻は貰った。いや、与えられたと言うべきなのかな、テイル」
(正解。さてさて、 "子供達" の代表はいったいどれぐらいやるのかな)
「胸を熱くするこの歓声。人と人の絆こそ世の宝。そうだよなミツルさん」
「それは高度な皮肉なのか。テイル」 「ヤダナー。素直に受け取ってくれよ」
 歓声はある。ミツルに向けられた、ミツルの為だけの歓声。テイルに向けられているのは罵声が精々。にもかかわらずテイルは気をよくする。敵陣のど真ん中だというのに。

「この状況で涼しい顔ができる。肝っ玉の太さだけはガチだな」
「あの、リードさんリードさん」 「なんだ? どうしたミィ」
「さっきから気になってたんですけど、言っていいですか」
「ん?」
「なんか……増えてませんか……地縛館の中にいる人」
『放送席放送席。こちらレポーターのノンノンです。なんということでしょう。かつてアースバウンドを追い詰めたチームバーストが再びこの地縛館でリベンジマッチを挑んでいます。あっ、今情報が入ってきました。対戦成績は1勝1敗の五分、1勝1敗の五分です。そしてラストを飾るのは勿論ミツル・アマギリ……と、あのダァーヴィット・アンソニーを引退に追い込んだティル・ティルモット』
「なんで……TV局の人達が来てるんですか。これ練習試合ですよね」
「噂は本当だったようだな」 「ラウンドさん?」 「これがミツルというわけだ」
 ラウは淡々と語る。その現象が意味するところを。
「チームギャラクシーのフェリックスを想像すればわかりやすい。彼の【強豪軍】は観客に強豪を訴える程の威力を持っていた。そしてその正体は、強豪として錬成された肉体が醸し出すパワープレイヤー・フェロモンと聞く。ならばこそ、同じ肉体派決闘者として、西で絶対の影響力を持つミツルが何一つ醸し出さないということが果たして有り得るだろうか。1勝1敗。いかに練習試合と言ってもアースバウンドの沽券に関わるこの決闘、ミツルに寄せられる期待は大きい。期待に応えようとした結果がこれだ。ミツルの身体から高濃度のミツルが放出され、皆を呼び寄せたことは想像に難くない」
『おぉーっと、なんという一戦でしょうか! あのダァーヴィット・アンソニーを引退に追い込んだティル・ティルモットが、あろうことかミツルと向かい合っている。遺恨試合ここにあり!』

「儂はチームアースバウンドを長年見続けているがこのミツルはキテる。キテるぞ」
 数多の決闘を見届け長年コラムを書いてきた批評家がミツルの匂いを嗅ぎ付ける。

「にゃ〜ん、にゃ〜ん」 「ワンワン!」
 かつてミツルに餌を貰った野良猫と野良犬もまたミツルの匂いを嗅ぎ付ける。

「♪♪♪〜〜♪♪〜♪〜〜♪♪♪♪〜♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪〜♪♪♪」
 ミツルのために作曲されたテーマ曲がどこからともなく鳴り響く。

「ミ・ツ・ル! はい! ミ・ツ・ル! はい! ミ・ツ・ル! はい! ミ・ツ・ル!」
 ミツルを鼓舞する応援団がどこからともなく駆けつける。

「しゅ……すごい。これが、これがミツルさんの決闘。あっという間に……」
 ミィは驚愕した。フェリックスのそれが行動だとすればミツルのそれは状態。一種の自然状態。自然発生的な群衆に囲まれて、テイル・ティルモットとミツル・アマギリが向かい合う。
(これでいい。これがいい。ダーヴィッドさん、天国でちゃんと見てますか)
(妙な決闘者もいたものだ。貴方の言うとおりでしたよ、ダァーヴィットさん)

――――
―――
――

「大会で敗れたことを言い訳するつもりはない。既に引退を決意した。悔いは無い」
 地縛館の一室。ダァーヴィット・アンソニーが私物の整理を行っていた。
 ミツルは先達の横に身体を寄せると、静かに作業を手伝い始める。
「寂しくなりますね。まだ色々と……勉強させて頂きたかったのですが」
「ミツルよ。今さら世辞など要らん。おまえはとうに私を超えている。チームも同じだ。レザールやケルドが台頭してきた。これからは若者達の時代だ。老兵は粛々と去るのみ」
「……今まで本当にありがとうございました。及ばずながら、粉骨砕身の心を忘れず、残った我々の手でアースバウンドの伝統を守っていこうと思います」
「……1つ聞きたい」
「なんでしょう」
「ティル・ティルモット。おまえはどうみる」
「独特の価値観で動いているようにみえますが……はっきりとは……」
「仇を討てと言いたいわけではない。おまえは私を超えているとさっき言ったが、正面から向かい合った者にだけわかることもある。トリックスターかはたまたトラブルメーカーか。あの男は西の原理に囚われていないようにみえる。結局の所何者かはわからん。しかし……ミツルよ。おまえは本当によくやっている。その若さにして非の打ち所のない決闘者と言えよう。だが、それでも1つ、老婆心から助言を与えるならば……あのような男と戯れてみるのも一興かもしれんぞ」
「覚えておきます。……今まで、本当にありがとうございました」


――
―――
――――

(ダァーヴィットさん。貴方の助言に従い、この男と対峙します。全力で)
「ミツルさんが先に構えた!」 「天地咬渦狗流『人狗一対の構え』だ!」

 カードゲームに初めて 『構え』 の概念を取り入れたのは誰か。それに関しては諸説あり決定的な文献はないと言われている。が。その事実こそ、決闘者達がカードゲームに 『構え』 を取り入れるという事態が、極めて自然な現象であったことを何よりも証明していると言えよう。決闘盤を持ち、左右非対称のシルエットを持つ決闘者にとって、攻防に優れた 『構え』 の探求は決して些事に非ず。時には 『構え』 の差異が命の選択すら行ったという。ミツルがTCGに導入してみせたのは、他ならぬ天地咬渦狗流 『人狗一対の構え』。相手に向かって頭を残して右を向き、左脚を突きだして右膝を軽く曲げる。丁度、股下の空白が台形を描くように。ここからが本番。決闘盤を付けた左腕の肘を前に突きだし、前腕を胸元まで上げる。反面、右腕は肘を上げ、前腕を胸元まで下げる。そう、固めた両の拳が胸元数センチで向かい合う格好。これぞ天地咬渦狗流の基本姿勢 『人狗一対の構え』 である!

( 『構え』 ているだけなのに) ミィは圧倒された。
(この威圧感。これが、間近でみるミツル・アマギリ)
 一文字で表すならば 『威』 か、それとも 『華』か。
 ミツルは胸元に置いた右手から指を伸ばし、左腕の決闘盤を掴む。
 左足を軽く上げ、次の瞬間前に踏みこみ、同時に右腕を振る。
「テイル……これがおまえにぶつける決闘だ!」


Duel Episode 9

Earthbound Destruction〜ミツルVSテイル〜



Earthbound Immortal Ccapac Apu Lifeloss Summon

地縛神 Ccapac Apu( 効果モンスター)
星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守2500
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


死皇帝の陵墓( フィールド魔法)
お互いのプレイヤーは、アドバンス召喚に必要なモンスターの数×1000ライフポイントを払う事で、
リリースなしでそのモンスターを通常召喚できる。


 ミツルの剛腕から繰り出された決闘盤は回転の中から光を放つ。闇の中よりはいでしもの。巨大な体躯と禍々しい波動。大地の下から、天を憎悪するかのように突き上がる雄々しき姿。その在りようは、見る全てに畏怖の念を抱かせていた。西の破壊神であり、同時に象徴とも言える怪物。
(初手地縛神。そういうのもあるのか。さあどうする。しくじったら壁にドン!)

「いきなり地縛神かよ。ミツルさんがあんなプレイングするところ初めてみたぜ。先攻1ターン目は攻撃できない。いつもはもっとこう、機を伺って、そんでトドメに使うのに」
 驚くケルドの横でレザールも考え込む。と、その時、ミツルとレザールの眼が一瞬合う。
「わかったぞ。ミツルさんは俺達に教えてくれているんだ。ああいう手合いのあしらい方を」
「レザール先輩、なんすかそれ」
「ラウンドとの勝負。奴の下級に抑え込まれ、結局はそれが最後まで響いた。だが逆も然り。上級で抑え込むのも戦略の1つ。ミツルさんは実演しているんだ、今ここで」
「地縛神の共通能力か。触り合いの拒否。一旦守りに入れば戦闘に関しては不可侵の壁。《突進》も《収縮》も意味がない……っておい。俺が喰らった《ライトニング・ボルテックス》とか、ああいう破壊呪文があるだろ。《死皇帝の陵墓》を割られても終わる。地縛神は最強であっても無敵じゃない」
「ああ。普通なら悪手と言っていいほどのプレイングだ。けど例外はある……」
「例外……そうか。そうだった。テイルの奴には……」
「確定除去がない。奴のアキレス腱をついたんだ」

 発動適正 ――
 Technological Card Gameにおいては適正というものがある。努力次第で覆す余地のある一方、努力=時間・労力・経費がかかるという現実。使えもしないカードユニットを購入し、延々と決闘盤を投げ続けた時間は戻ってこない。故に適正は重要……それとは別に偏重というものがある。決闘者が得意分野に偏りすぎた結果、上級は上手いが下級はからっきしといった事態が生じうる。自らの適正を見極め適切な鍛錬・収集を行うことが、一流決闘者への長く険しい道なのである。

「確定除去が使えないという話は聞いた」
 ミツルが構えを取ったまま向き合う。
「おまえの望み通りにしよう。容赦はしない」
 ケース・バイ・ケース。壁を多用する相手に《ドリルロイド》を使うだけがメタではない。時にはフィニッシャーですらメタカードとして活用できることもある。何事も臨機応変。そうミツルはプレイで語る。
「マジック・トラップを1枚セット。ターンエンド。おまえの番だテイル」
「TVカメラまで来るなんて大変だねミツルさん。おちおちエロ本買いに行くこともできないんじゃストレス溜まるだろ。じゃ、おれのターン、ドロー……ミツルさんミツルさんねえミツルさん。ここでいきなり《サイクロン》とか言い出したらあんたは赤っ恥……いいの? もしかしたら使えるかも」
「 『その可能性は考えていなかった』。そう答えたらおまえは満足するのか」
「言ってくれるね。マジック・トラップを2枚セット。そんじゃ……」
 丁々発止の言葉の差し合い。溜め込むテイル。押し込むミツル。
(ここでおれが《サイクロン》の類を使ったとしても、あの人が失うのは2枚のカードと2000のライフ。痛いには痛いが、先攻ならばなんとかなる。 『実は確定除去があった』という情報を得られるならば必要経費ってとことか。結局、どうころんでもミツルさんの掌の上……)

「壁をセットしない……直接攻撃があるからセットしても無意味と考えたか」
「《地縛神 Ccapac Apu》が持つ、他の地縛神にはない効果を恐れたか」
 群衆が思い思いの事を呟くが、当のテイルはどこ吹く風で札を置く。
「忘れてた! 召喚しない理由なんてないよな。1体セットしてターンエンド」
「あんにゃろう」 Earthboundの団結力は更に向上していた。

Turn 3
□ミツル
 Hand 3
 Monster 1(《地縛神 Ccapac Apu》)
 Spell 2(《死皇帝の陵墓》/セット)
 Life 6000
■テイル
 Hand 3
 Monster 1(セット)
 Spell 2 (セット/セット)
 Life 8000

「あの娘をダシに、チームをダシに、おまえは何を企む」
「それを伝えたところでミツルさんは信じてくれるのかな、小悪党の言うことを」
「ドロー。確かに、おまえと言葉で小競り合ったところで正しい道には到達できまい」
 目の前の男を問い糾すとすれば愚直な全力こそが望ましい、そう彼は考え、構える。

「出るか! 天地咬渦狗流の拳」 「リードさん、あれって……」
 高度な精神統一からの一連の動き。左足を前に出し、右手を引いて、腰を落とす。
「地縛神は超大型。故にその動きは鈍重。だが! ミツルの鍛錬と研究は地縛神に格闘技の習得を可能にした。見ろよあの動き。地縛神もまたミツルの動きに同調している」

 ミツルは裏守備モンスターを一瞥した。可能性として最も警戒すべきは、巨人の一撃を受けたところで痛くも痒くもない低攻撃力リバースモンスター……ミツルの狙いが1つに決まる。

 自由と義務は表裏一体

 大地に義務を負うことで

 何者にも遮られはしない

 それが地縛神の一撃



 天地咬渦狗流一の拳、人間の拳(ダイレクトアタック)



ミツル:6000LP
テイル:5000LP

 ミツルの拳が空を裂き、地を駆ける。ミツルに連動した地縛神は引いた拳をまっすぐに、怪物とは思えぬほど美しく最短距離で打ち抜く……その時だ。何を血迷ったかテイルは両腕を広げ、まるで十字架を模したように棒立ちになる。 「危ない!」 地縛神の恐怖を知ったミィが叫んだのも束の間、地縛神の直撃を喰らったティルはものの見事に吹き飛ばされる。
「決まった!」 「ミツルさんのダイレクトアタック」 「金を払っても喰らいてえ一撃だ!」
「ティルさん。なんで、なんであんな棒立ちで……ティルさん、起きてくださいティルさん!」

『おおーっと、立てません! まさか、まさかこの一撃で試合が終わってしまったのかあ!?』
「跳ねっ返りの新人がミツルの一撃を甘く見すぎたか。これで全てが終わるのもまた自然」
『放送席放送席、地縛神です。地縛神の一撃がティル・ティルモットを吹き飛ばしました』

「立ちやがれ、馬鹿!」 リードが叫んだ。
「ここまで引っかき回しといて1秒でくたばんなさっさと立て!」
 どれだけ経っただろうか。 「慌てんなって大将」 その一言と共にぴくりと身体が動き、ゆっくりとティルが立ち上がる。終わっていない。尻尾が左右に揺れていた。
(挨拶代わりでこの威力、この衝撃。生身じゃ受け流しきれないか。そうこなくちゃ)
(半分ほど衝撃を逃がしている。決闘気功(デュエルオーラ)の扱いにも長けるか)
「一撃でこのザマ。意識が飛ぶかと思ったぜ。これが現役の地縛神か。堪能した」
「欲しいなら何発でもくれてやる。ターンエンド」

「気前がいいね。ドロー。リバース、《魔導雑貨商人》の効果を発動。デッキを捲って……3枚目。《くず鉄のかかし》をハンドに。《レベル・スティーラー》を墓地に送り《クイック・シンクロン》を特殊召喚」
「テイルさんがチューナーを特殊召喚した!」 「地縛神がいるんだ。やらなきゃやられる」
「続いて《チューニング・サポーター》を通常召喚。《クイック・シンクロン》をチューニング」
 三連召喚はシンクロの基本形。決闘盤が宙を舞い、放射状に広がる衝撃波。
「《ジャンク・アーチャー》をシンクロ召喚。チューサポの効果で1枚ドロー」
(案の定アーチャーで仕掛けてきたか。打撃型と言ってもケルドとは少し毛色が違うな。あいつが好んで狙うのは決闘者 『本体』。そういう意味では、こちらと通じるものもある)
「得意のダメージレースを挑むのがあいつの狙いだな」
「だめえじれえす?」 ラウの言葉に、ミィは首を傾げてみせる。
「地縛神の攻撃を《くず鉄のかかし》で防ぎ、《ジャンク・アーチャー》の効果で一時的に地縛神を排除してダイレクトを決める。6000スタートのミツルが相手なら、3回ダイレクトを決めれば勝利できる。地縛神が倒せないなら倒さない、あいつらしい柔軟かつひねた発想と言える」
「消えてもらうよ。効果発動。ディメンジョン・シュート!」
 矢を放たれたミツルは、テイルを一瞥した。
 無風の室内での尻尾の揺れ。
 誘うように。
 甘えるように。
「いいだろう。《地縛神 Ccapac Apu》にはいっとき眠っていてもらう」
「効果が通るなら戦闘も通してもらうよ。バトル、アーチャーでダイレクトアタック」
「そうはいかない。ハンドから《バトルフェーダー》を守備表示で特殊召喚する」
「《ジャンク・アーチャー》の攻撃を止めた!」 「流石はミツルさんだあっっっ!」
(そんくらいで騒ぐなっつうの。といっても、ここで使ってくるのは確かに『流石』かも)
「最終防衛ライン切るの早すぎない?」 「おまえの一矢に焦ったかもしれないな」
(ここでフェーダーを切るのは正しいか否か。正しいと踏む。あいつはこちらにフェーダーがあることを知っている。テイル・ティルモットのラストショットは、恐らくフェーダーをかいくぐる)
「ご冗談を。メインフェイズ2、マジック・トラップを1枚セット。んで、アーチャーのレベルを喰って《レベル・スティーラー》を特殊召喚。ぶっちゃけ忘れてた。ターンエンド」

Turn 5
□ミツル
 Hand 3
 Monster 2(《地縛神 Ccapac Apu》/《バトルフェーダー》)
 Spell 2(《死皇帝の陵墓》/セット)
 Life 6000
■テイル
 Hand 2
 Monster 3(《ジャンク・アーチャー》/《魔導雑貨商人》/《レベル・スティーラー》)
 Spell 3 (セット/セット/セット)
 Life 5000

「ドロー。その《ジャンク・アーチャー》は厄介だ。バトル……フェイズの前に発動!
 《地縛旋風》。地縛神の巨躯を盾として。敵地に塵風、本拠に無風。

「ヒャッホウ! ミツルさんの《地縛旋風》が遂に!」
「俺はあれを喰らって3日はセットできなくなった!」
「ジャストタイミング! 鼻血がとまらねえ! 3枚もらった!」
『放送席放送席。《地縛旋風》です。《地縛旋風》が上陸しました』
 有象無象に入り交じってレザールも語る。自慢げに、それはもう自慢げに語ったという。
「俺如きの《地縛旋風》とミツルさんの《地縛旋風》では通常魔法としての品格からして違う。地縛館が揺れている! あの決勝戦。ディレイをかけた《地縛旋風》からのガークラ連携はまさに伝説」

「いけない! テイルさんのカードが! 3枚同時に割られちゃう!」
 空間限定の大竜巻がテイルのマジック・トラップゾーンを襲う。歓喜するアースバウンド。悲鳴を上げるミィ。にもかかわらず、当のミツルはなんら喜ぶことなく静かに告げた。
「テイル、さっさとチェーンしたらどうだ。子供騙しはもう終わりにしろ」
「え?」 ミィの視線の先、露骨に嫌そうなテイルの表情が全てを語る。
「リバースカードオープン、《強欲な瓶》をダブル発動。カードを2枚引く」
「残りの1枚 ―― 《くず鉄のかかし》には早々に消えてもらおう」
「あーあ。2巡目に撃ってくれたら良かったのになあ。しゃあないか」
「最初の2枚は両方ともブラフ。タイミングを遅らせて正解だったな」

「テイルさんのあれ……確かさっきの決闘で……」 ミィはラウをチラリとみる。
「《八汰烏の骸》はあいつに借りた。ああいうのを沢山もってるんだ、あいつは」

「これで丸腰。《地縛神 Ccapac Apu》! おれについて動け。バトルフェイズ」
 狙いは《ジャンク・アーチャー》。攻撃宣言を行う……瞬間の出来事だった。
(これは ―― )
 耳を打ち抜く不快な爆音。
(今更 ―― 止まるのは下策)
 ミツル、敢えて黙殺。



 天地咬渦狗流二の拳、怪物の拳(モンスター・ブレイク)



ミツル:6000LP
テイル:2000LP

「ちぃ……」 突き抜けた拳は、盾を構えた決闘者本体にまで伸びる。
(一発でガークラ寸前までいくのか。半端じゃねえなこの衝撃波は)

「みたか! かいくぐることしかできないおまえの《ジャンク・アーチャー》とは違う! ミツルさんのコカパクアプには状況なんて関係ない。ダイレクトアタックでも、エースモンスターの撃破でも、等しい痛みを対戦相手に与える。あらゆる敵を等しく折るのがミツルさんの決闘だ。にしても……」
「おい! なんだあの音は!」 「あの方角、テイルが飛んできた方角だ!」 「くそっ!」
「ナンノコトカナー。ボクバカダカラワカンナイナー」
「すっとぼけやがって!」 「ここをどこだと思って……」

「鎮まれ!」

「ミツルさん」 「しかし!」 「このまま奴を野放しにしては調子に乗らせる一方!」
「あの音で何か問題があったわけでもない。おれが怪我をしたか。地縛神は止まったか」
 詭弁。負傷者がいなかったからといって問題行動であることに変わりは無い。しかし、今ここで闘ってる者はミツルであり、そして決定権もミツルにある。構成員達は渋々引き下がった。
「慕われてるねミツルさん。殴られやしないかドキドキしちゃった」
「個人的には、あの局面で音を出したおまえの狙いが知りたい」

「あの馬鹿」 リードは呆れ返ると、両手で頭を抱えた。
「またやりやがった。喧嘩じゃないんだぞこの決闘は」
「リード、テイルは馬鹿じゃない」 
「ラウ、あいつの擁護なんかしなくていいぞ」
「擁護じゃなくて事実の提示だ。あのチームが、恵まれた規模・豊富な人材・十分な実力とは裏腹に1人の人間のカリスマに依存していることをテイルは知ってる。裏を返せば、ミツルの逆鱗に触れなければ大抵の無茶は許してもらえる。あいつはその辺を計算して動いている」
「ラウ、おれはそれを含めてあいつを馬鹿と言ってるんだ」
「なるほど、一理ある」

「メインフェイズ2、マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」
「おれのターン、ドロー。特殊召喚権を放棄して《強欲で謙虚な壺》を発動。《ジャンク・シンクロン》と《ライジング・エナジー》と《ボルト・ヘッジホッグ》……《ライジング・エナジー》を貰っとくよ」
(《ライジング・エナジー》。これまた打撃用のカード。ミスリードの匂いもするが……)
「《レベル・スティーラー》を攻撃表示にしてバトルフェイズ、《バトルフェーダー》を狩っておく。あとは……カードを3枚セットしてターンエンド」
(性懲りもなく3枚セット。《地縛旋風》の2発目はないと踏んでいるのか、それとももう一度ブラフを仕掛けたのか。1つの駆け引きが次の駆け引きに繋がっている。これがこの男の決闘か?)
(さてさて。さっきから地縛神以外のモンを出してこないな。何を考えているのやら)
(読み違えれば即死も有り得るか?) (即死しない程度に読まないとな)
(この勝負、見掛けよりも綱渡りな決闘だ) (外せば終わり、さあどうする)

Turn 7
□ミツル
 Hand 2
 Monster 2(《地縛神 Ccapac Apu》)
 Spell 3(《死皇帝の陵墓》/セット/セット)
 Life 6000
■テイル
 Hand 2
 Monster 2(《魔導雑貨商人》/《レベル・スティーラー》)
 Spell 3 (セット/セット/セット)
 Life 2000

「おれのターン、デッキから1枚引く。バトルフェイズ……」
「さいなら! 《強制脱出装置》を発動。手札に戻ってもらうよ地縛神」
(バウンスか。それはそれで厄介。あいつの戦法は 『除けて殴る』 一撃離脱……)
(ミツルさんのことだ。この勝負、2000払ってもう一度召喚するリスクに気付かないわけがない)
 払えなければ召喚不可。召喚できなければ除去したのと変わらない……ミツルはその上を行く。
「メインフェイズ2、《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚引き、地縛神をゲームから除外する」
(あらら。温存してたのね《闇の誘惑》。いい具合にこっちの狙いを見透かされてる。となると……)
(奴は曲者。真っ直ぐな打撃とは裏腹に性格がねじ曲がっている。ジャンクモンスターによるダイレクトアタックが本命とは限らない。地縛神を立てれば打撃への牽制にはなるが、ここでライフを4000にするのは避けたい。あちらには《カタパルト・ウォリアー》もある)
(ミツルさんがどこまでおれの動きを読んでるか。いずれにせよ……)

「ミツルさん、なんか楽しそうだな」
 レザールは少し寂しそうに言った。
「あの奸物の相手、満更でもないのか」

「マジック・トラップカードを1枚セットする。ターンエンド」
「へえ。通常召喚権余ってるけど、それでいいの?」
「下手に出しても、 『除けて』 『殴られる』 だけなんだろ」
(なるほど。これがミツル・アマギリの決闘か。ダァーヴィットの旦那と闘り合ってから、本命探すついでに色々調べたよあんたの逸話。悪魔族を主体とするアグレッシブ・オールラウンダー。ライフが100でも残っていれば勝ちは勝ち。99勝1敗ではなく100勝0敗を目指す決闘。綱渡りのような立ち回りさえ厭わず、結果としての勝利を盤石にする。他の連中とは違うな)

【ミツル式】
 トップデュエリストであるということは何を意味するか。その1つに 『研究される』 というものがある。ミツルを倒せば名が上がる。ミツルを倒せば成り上がれる。例え一過性の紛れだったとしても、西のフィールドでミツル・アマギリを倒すことは大きな意味を持つ。故にミツルは研究される。ミツルは斯くの如き手合いを相手にしなければならない。斯くの如き手合いを相手に百戦百勝でなくてはならない。故にミツルのデッキは全方位対応型である。《死皇帝の陵墓》等、リスクのあるカードやプレイングをもフルに活用。あらゆる状況に無理にでも十全の解答を出す。可能だろうか。可能である。可能だからこそミツル・アマギリはミツル・アマギリでいられるのだから。この全方位対応型の決闘をさして、西では満足型、果てはミツル式などと呼ばれるのは今や周知の事実である。自ら危険を冒すことで得られる対価、それこそが 『紙一重の完勝』 であり、西の観客が求める王者の姿なのだ。

(なんだろう。この空気) ミィは思った。 (物凄く息苦しい。これが決闘の緊張感……)

(この決闘。一見おれがペースを握っているようにみえるが、それも含めて奴の手の内だ。ならば、奴が動こうとするワンテンポ前に動く理由を与えよう。その為なら敢えて通常召喚権も放棄しよう。おれのデュエルフィールドをほんの一箇所空けておく。仕掛けて来い、テイル)
(なんともおれ好みなことをしてくれる。わかったよ。ミツルさん……)
「おれのターン、ドロー……。手札から《死者蘇生》を発動。《クイック・シンクロン》を特殊召喚」
「チューナーモンスター!」 「《ジャンク・アーチャー》か!」 「いや、《ジャンク・ガードナー》だ!」
「オマエラアタマカタイナー。チューナーヲシンクロニツカウトハカギラナイダロー」
「なんだあのむかつく顔は!」 「まるで鏡の前で練習したかのような……」 
「細部まで行き届いた頬肉の構成、極度に洗練されたむかつき☆フェイスだ!」
 非難の声を無視し、テイルは重々しく決闘盤を振りかぶる。
 まるでじゃじゃ馬を扱うように。
「ほらほら暴れない暴れない。いっせーの……」 
(シンクロではない。おれたちが得意とする動き……)
「アドバンス召喚……上級……最上級……いや違う」
「せっ! 暴れてこい!」 
(超最上級か!)



THE DEVILS DREAD-ROOT


Attack Point:4000


Defense Point:4000


Special Ability:Horror



邪神ドレッド・ルート(効果モンスター)
星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
このカードは特殊召喚できない。自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。


 黒緑の体躯。威圧的な羽根。恐怖の象徴とも言える大角。
 『邪神』 の二文字は、佇むだけで地縛館を威圧する。
「《邪神ドレッド・ルート》。それがおまえの切り札だとでもいうのか」
「そろそろ本気出してもいいかなあって。ちょっと待ってろ。まずは星を食って《レベル・スティーラー》を守備表示で特殊召喚。通常魔法《貪欲な壺》を発動。デッキからカードを2枚ドローする。補充完了。それじゃあいくよ。バトルフェイズ」
 邪神が腕を振り上げる。触れたもの全てを滅する恐怖の拳。
「いけぇ! ドレッドルート!」



Fears Knock Down



「んなっ!? フィアーズ・ノックダウンが弾かれた!?」
「《闇次元の解放》。地縛神を地に戻す」

「流石ミツルさんだあ!」 「地縛神は戦闘そのものを支配する」 「これで返しのターンにぶん殴れば!」  「勝利は決まったも同然」 「ミツル! ミツル! ミツル! ミツル!」

「はっ……ターンエンド」

Turn 9
□ミツル
 Hand 3
 Monster 2(《地縛神 Ccapac Apu》)
 Spell 3(《死皇帝の陵墓》/《闇次元の解放》/セット)
 Life 6000
■テイル
 Hand 2
 Monster 2(《邪神ドレッド・ルート》/《レベル・スティーラー》)
 Spell 2 (セット)
 Life 2000

「ドロー」
「いけない! テイルさんのライフは残り2000。地縛神の直接攻撃を受けたら……」
「大丈夫だミィ。邪神は単なる木偶の坊じゃない。己以外の全てのモンスターの攻撃力・守備力を半分にする能力を備えている。だから直接攻撃を食らってもかろうじてライフが残る。まだ安全圏だ」
「良かった……ってあれ!?」



「なんか邪神が真っ白に燃え尽きてるんですけど……」
「ちょ、ちょっと待て! なにやってんだよドレッドルート。さぼってんじゃねえぞこら」
 狼狽するテイルを余所に、パルムが淡々と言った。
「あーあ。やっぱり壊れた」
「おいパルム、心当たりでもあんのか?」
「申しわけ程度の処置はしたけど、所詮は怪しげな通販で買った中古の邪神だから」
「通販で買った……」 「中古の邪神……」 「それ、神様って言っていいんですか……」
 ミィは以前リードが放った《デビル・フランケン》のことを思い出した。攻撃宣言のできない半分ポンコツの《デビル・フランケン》。しかしこれは、半分どころか全部がポンコツ。ということは……
「地縛神の攻撃力が3000に戻っちゃう!」
「おい! 目を覚ませ。ちょ、ちょ、タイムタイ……」



天地咬渦狗流一の拳、人間の拳(ダイレクトアタック)



 ―― 少しおかしいとは思った。それでもいいと思った。

「ミツルさあああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
「へ?」 ミィにはみえなかった。その時何が起こったか。聞こえただけ。沸き上がる悲鳴が。
『なんということだーーーーーーーーー! 技を決めたのは……テイル・ティルモット!?』
 吹き飛ばされたのはミツルだった。地縛神の魔手がテイルの身体に触れるか触れないか、その刹那。ミツルの眼前に忽然と現れたのは猫の尻尾を追っていたはずの地縛神そのもの。決闘盤でガードポジションを取る猶予があろう筈もなく。所領に根を張る巨大な拳が、ミツルの身体を地から無理矢理引きはがす。ミツルの勝利を疑いもしなかったギャラリーの大半が揃いも揃って狼狽えた。かろうじて確認できたのは唯一つ……壁にうちつけられ、床に倒れ伏すミツルの姿のみ。即ち ――



Player Destruction



「いつぞやみたいに言うなら不可視の尻尾(テイル・オブ・インビジリティ)といったところかな。ね、ミツルさん」
「なんで? なんで吹っ飛んだ筈のテイルさんが立ってて、ミツルさんが吹っ飛んで」
「《ディメンション・ウォール》だ!」 ラウが真実を喝破する。
「あいつ、ブラインドを作ってぶちあてやがった」

ディメンション・ウォール( 通常罠))))))))))))))
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、かわりに相手が受ける。


「どういうことですかラウンドさん。ブラインドってなんなんですか?」
「それは……いや、それよりも問題はギャラリーだ。乱闘になるぞ」
「乱……闘?」
 なにが起こったか。おぼろげながらもそれを理解した瞬間怒りが沸いて、遂には地縛館を罵声と怒号が支配する。もう止まらない。我慢の限界点に達していた。
「ふざけんなペテン師」 「卑怯者! 恥を知れ恥を」 「ぶっ殺してやる!」
『放送席放送席! 大変なことになりました。ミツル・アマギリが、ミツル・アマギリが』
「もう我慢できねえ!」 二軍筆頭のバラックがテイルの前に走り出る。
「この野郎!」 テイルの顔面向かって拳を突き上げんとする。
「やめろ!」 レザールが静止せんとするが人混みに押され間に合わない。
「不味い。あの野郎。あの奸物の狙いはそれか ――畜生! ミツルさん!」
(OK. こういう決闘は一皮剥いてからが本番。利き腕以外はくれてやる)



Fame Destruction(名誉の失墜)



「喰らえ! 正義の鉄槌!」
 その一撃は乱闘の引き金となる筈だった。
 にもかかわらず、
 彼がこの場の主役になることはなかった。
 その瞬間、彼を含めた全員が同じ方向を向く。
 溢れかえったオーラが西の全てを導くように。
「やめろバラック。それは俺達のやり方じゃない」
「ミツル……さん……」
 頭から少量の血を垂らしながらも、地に根を張った一人の決闘者が大地に立つ。
「ミツルさんが……」 「ミツルさんが立ち上がったーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「まともに喰らったが、この事実をどう捉えるべきか。己の技を受けきって倒れない、己の躰の硬さを誇るべきか……己の躰一つ倒しきれない、己の技の弱さを恥じるべきか……」
「前者でいいんじゃないかなあ。ちょっと立ち上がるの早いんじゃない?」
「とんだ食わせ物だなおまえは。ライフを含めたアドバンテージの奪い合いそれ自体がフェイク。《強制脱出装置》の局面で使われなかったあの2枚のリバースカードを警戒しなかったわけじゃない……が、あの2枚で致命傷を負わせるのは無理だと思って仕掛けた。ライフカウントがゼロになることはないと思って仕掛けた。そこまでがおまえの計算だったわけだ」
「物理的にノックアウトするのは、あんたらだけの専売特許じゃないってことさ」
「カードアドバンテージを丸っきり無視した2枚技。それ故に虚を付ける、か」
「2枚?」 ミィは再度首を傾げる。それに答えを出したのはラウ。
「恐らく《ライジング・エナジー》だ。《ディメンション・ウォール》で跳ね返した地縛神の一撃を《ライジング・エナジー》で加速……不意を突く。邪神と地縛神のサイズも計算の内だろうな。視界を悪くすればするほど反応を遅らすことができる。あまり感心できる戦法じゃないがな」
「それだけじゃない」 ミツルは血を拭いながら解説を始める。
「盲点だったよテイル。攻撃宣言反応罠を引きつけるとは」
「攻撃宣言を引きつける?」 ミィは困惑した。 「そんなことできるんですか? やっていいんですか」
「反則ギリギリと言えば反則ギリギリ。仕様の問題だ。攻撃宣言反応型と一口に言っても、見た目の上では "攻撃しきってから発動している" のがほとんどだ。《魔法の筒》なんかも、ドラゴンが火を吐ききってからそれを跳ね返してるのが現実だろ。テキストを衝撃波という形で具体化するのがOZONEだが、そこにはほんの少し現実と文面の間にズレが出る。あいつはそれを利用した。《ディメンション・ウォール》のエフェクトは引き付けるのに向いている。……もう1つ、あいつの立ち位置をみろ。ラインギリギリに立っている。恐らく、最初の地縛神の一撃から立ち上がるとき、こっそり前の方に立ち直したんだ。さりげなくラインギリギリに立つことで地縛神との距離を狭め、攻撃宣言を更に引きつけた」
「引き付けて、引き付けて、当たった瞬間に跳ね返る……」
「《ライジング・エナジー》による加速付き。致命傷を避けるのがやっとだろう。周到な奴だ。遠目に真横からみてるのでなければ、何が起こったか把握できないのも無理はない」

「テイル」 ミツルが端的に言った。
「おまえの本当の狙いはノックアウトじゃない。TVカメラだ」
「ご名答。あ〜ららあらら。上手くいくと思ったんだけどなあ」
「へ……TV……カメラ……」 悪い予感にミィは身体を震わせる。
「ダメージレースの読み合い勝負とみせかけ、残りライフを度外視した必殺技で文字通りあんたの意識を刈り取り、激怒した団員に暴力を振るわせチームアースバウンドの名声を地に堕とす……そういう筋書きだったんだけど、全然上手くいかねえなあ。困ったもんだ」



Player Destruction



Fame Destruction



Earthbound Destruction




「プレイヤー・デストラクションとフェイム・デストラクション、連鎖式のデストラクションコンボ。さっきの音はその為のジャブといったところか。ハンド・デストラクション、デッキ・デストラクション、ショップ・デストラクション……その手の戦術は数あれど、こんなタクティクスは初めて聞いたよ、テイル」
「ミツルさんはアースバウンドそのもの。裏を返せばアースバウンドはミツルさんそのもの。アースバウンドを倒せばミツルさんも倒れる。世の中上手いこといかないもんだ」

「なに……この人……」 ミィが戦慄する一方、リードが疑問の声を上げた。
「おかしいな。どう考えてもおかしい。あいつがそんなことやるとは到底思えない」
「そ、そ、そ、そうですよね。幾らなんでもあんなの……」
「いや、そうじゃなくて。もしトントン拍子に成功して出場停止に追い込んだとして、得をするのは主におれだ。あいつがそんな殊勝な真似をする筈がない。だからおかしい」
「へ?」

「1つの1つの動作を見抜かれるのも計算の内、1つ見抜かれることが次の手を見えにくくする。そうはいってもこの場合、タイミングがちょっとでもズレれば吹っ飛んでいたのはおまえの方だ」
「そこは、ほら、天才だからさ……はは」
「センスか。それもいいだろう」

「なにがセンスだ。ミツルさんはおまえみたいな似非天才とは次元が違うんだよ」
「ミツルさんやっちゃってください!」 「怒りを、圧倒的な怒りを地縛神にのせて!」

(ダメージは浅くない。しかし手は動く。足は動く。頭も動く。ならば何の問題も無い)
「おまえの戦法は素晴らしいものだった」 「ミツルさん!?」 「素晴らしいだなんて!」
「しかし、おればかりかアースバウンドを穢そうというのなら、おれはおまえを許せない」
「それならブチ殺してみろよ。ここにはおれとあんたしかいないんだ」
 2人の間の緊張が再度高まる。一触即発。テイルが欲するのはアースバウンドではない。その中身。その為なら骨すら折らせる。殻はつついた。フィールド上に何が出る。
(怖い。あのミツルさんも、あのミツルさんを引っ張りにいったテイルさんも)
 味方にすればこの上なく心強く、敵に回しても畏敬の念を抱けるであろうミツル。
 敵に回すとこの上なく厄介で、味方にしたところで常に不安が付きまとうテイル。
 ミィの息が一瞬止まった。ミィはテイルの言葉を思い出す。 "決闘者はタチが悪い"
 決闘者は決闘を求め続ける。自らが持つあらゆる手段でテイルが決闘をでっちあげれば、ミツルもまた自らが持つあらゆる手段で決闘を受けきろうとする。ミィにとってそれは衝撃だった。

『どうやら試合再開のようです。ライフは1500対2000。テイル選手が僅かにリード』
「クソ、面倒臭い状況だな」 レザールだ。横でケルドも頷いている。 
「あの馬鹿がアドバンテージを無視した戦法を使っている以上、この局面で有利なのはミツルさんだ。といっても、残りライフは1500。ミツルさんのバトルフェイズが終わってしまった以上、先に仕掛けるのはテイルの野郎だ。1ターンでも与えれば何をしでかすかわからない……ん?」

 違和感。

 最初に気付いたのは誰だったか。おかしい。誰かがそう思った。ある筈のものがないことによる違和感。ミィも思った。おかしい。何が? テイルとミツルが、邪神と地縛神を挟んで向かい合うフィールド、その何かがおかしい。テイルも思った。おかしい。邪神と地縛神をブラインドにしたことで、テイルの目にも映らなかった一連の動き。その残滓とも言える跡がそこにある。
「ミツルさんの……決闘盤がない」
「上……か」 テイルが苦笑いを浮かべる。
「わからないなりに手癖で投げておいた」
「ミツルさんは何を……」 「み、みろ!」 「邪神と地縛神の間だ」
 邪神と地縛神が向かい合う影にその狂態が蠢いて。
 テイルが策に嵌めた時、既にそれは完了していた。

トラゴエディア(効果モンスター)
星10/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
自分が戦闘ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の枚数×600ポイントアップする(中略)


「トラゴエディアだあああああああああああああああああああ!」
 ミツルは手をかざし、決闘盤を我がもとに戻す。そして、
「メインフェイズ2」
(おいおい) テイルは面食らっていた。  (反射された地縛神の戦闘ダメージをトリガーに《トラゴエディア》を展開。あれを喰らう瞬間、喰らい当ての要領で……)
「ダァーヴィットさん。貴方から受け継いだこの技を今こそ放つ。おれは……おれは《地縛神 Ccapac Apu》と《トラゴエディア》でオーバーレイネットワークを構築」
「これがミツル・アマギリか」 

 一つの悪魔が砲台に

 一つの悪魔が砲弾に

 魔界の双頭混じるとき

 新たな世界が開かれる

 光無き世界へ ――




Superdreadnought Rail Cannon Gustav Max

天地咬渦狗流十八の拳、砲殺の拳(キャノン・ショット)



ミツル:1500LP
テイル:0LP

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス(エクシーズ・効果モンスター)
ランク10/地属性/機械族/攻3000/守3000
レベル10モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手ライフに2000ポイントダメージを与える。


「決まったああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ミツルさんの勝ちだあああ!」 「悪は滅びた!」 「溜飲で酔いしれるぅううう!」

「地縛神自らを砲弾に変えるダァーヴィット・アンソニーの忘れ形見、習得してたのか」
 テイルは大の字に転がって、天井を見つめながらミツルに問う。
「ああ。投げ込みが完成したのはつい一昨日だ。ダァーヴィットさんの十八番、永続罠の役目を悪魔族で代用させてもらった。これをもっておまえへの 『解答 』としたい」
「……」
「さて、ひとまずの決着をみたわけだが、何か言いたいことはあるか、テイル」
「ミツルさん……」
「なんだ?」
 テイルは軽く尻尾を振って一言。
「その服って超格好いいっすね」
 ミツルは軽く溜息を付いて一言。
「だろ?」

                       〜土下座中〜

                       〜土下座中〜

                       〜土下座中〜

「ミツルさん、お疲れ様でした」
「レザールか。全員帰らせたか?」
「はい……ったくあの野郎好き放題暴れやがって。にしてもミツルさん、アリアのことは……」
「どのみち居場所を知らない以上、話に出してもしょうがないだろう。それにしても……」
(ティルにアリアか。波がくるかもしれないな。その時おれは……)
「ミツルさんミツルさん」
「どうかしたのかケルド」
「掃除してたらこんなものがみつかりました」
「包み? 手紙付きか。まさか爆発物じゃないだろうな」
「カチカチ鳴ってたりとかそういうのはないみたいですが」
「レザール、悪いが手紙を開けて読んでくれないか」
「了解……………………………………う」
「どうした?」
「読み上げます。 『チームアースバウンドの皆様、この度はお付き合い頂き真にありがとうございました。つきましては、僅かばかりのお礼の気持ちとして、先月私が撮った自主制作映画:魔法少女マジカル☆テイルを封入させて頂きます。泣くなり笑うなりご自由にお使いください。ばいちゃ』」
「……」 「……」 「……次会ったときはぶっ殺す」
「あの男、最初から出場停止に追い込む気などなかったな。引っかき回すための材料に過ぎなかったわけだ。言ってみれば挨拶代わりの茶番ということか」
「なんっっって傍迷惑な男だ。邪神まで持ち出してダァーヴィットさんのいないうちを試したのか」
「自分の身すら代価にして計りにかける決闘か。こちらにも収穫はある。レザール、次は頼むぞ」
「わかってます。今日の借りは必ず……」
「あ、先輩先輩。姉御さんからメール来てます」
「おいケルド、なんでおまえの携帯に来てるんだよ」
「偶々、今何やってるか教えてくれと頼まれたので……」
「言ったのか。結果を……」
「はい。以下伝言。 『え? れじゃるくん負けちゃったの? あっれ。負けちゃうかー。西部5位の御方が負けちゃうかー。れじゃるくぅ〜ん大丈夫でちゅか〜れじゃるくぅ〜〜〜〜〜〜ん♪』 だそうです」
「あの糞姉貴……」
「 『もうすぐ復帰するから一緒に頑張りましょうね〜れじゃるくぅ〜ん』 とも言ってました」
「永遠に帰ってこなければいいのに……」
「ミツル」 他方。影の内から声が通る。
 ミツルは潜行者に向けて一言言った。
「次はおまえの力も借りることになる」
「御意」

「バーカ」
 とぼとぼとした帰り道。開口一番、リードの口から漏れるのは溜息と罵倒。
「ミツルがすぐ立てなかったらどうするつもりだったんだ。乱闘になってたぞ、たぶん。乱闘になってたら数の暴力でいくらおまえでも勝ち目がない。いっとくがおれは助けなかったからな」
「それでもいい。むしろそれがいい。付き合って貰ったお返しがてら、折角だから5〜6発殴られようと思ったんだけど。ミツルさんがさっさと起きちゃって。嫌われ損だよホント」
「なにが嫌われ損だ。それを言ったら結局うちの評判が落ちただけじゃねえか! あ、おまえもしかして本当はアースバウンドじゃなくてうちの評判落とすのが狙いじゃないだろうな!」
「ああでも発見はあったよ。やっぱレギュラー陣はレギュラー張るだけあるよ。あの時も冷静に場を見守ってた。あいつらに勝とうと思ったらチーム力の底上げも必要になるんじゃないかな」
「真面目なこと言って誤魔化そうとしても無駄……」
「これからもよろしくな、リード。しばらくはあんたの世話になる」
「あ?」 「ここが気に入ったって言ってるんだよ。そんだけ」
「当たり前だ。今日の分は貸しとくからな。ちゃんと活躍して返せ」
「はいよ」

「ミィ。今日の決闘、ちゃんと見たか?」
 沈黙を破ったのはジャック・A・ラウンド。
「はい、見ました。すごかったです。本当に」
 唐突ではない。ミィは、今か今かと待ち受けていた。
「今日のでわかっただろ。生半可な覚悟で挑めば怪我をする」
 チームバーストVSチームアースバウンドの一戦は終了したが、ミィの決闘は終わっていない。
「はい。歯が立たなくて、吹き飛ばされて。あの時、テイルさんとミツルさんが決闘盤を横から打ち込んでくれなかったらわたしは壁にぶつかっていた。そしたら……」
「その通りだ。この際はっきり言う。おまえのお守りをするつもりは……」
「だけどラウンドさんは見せてくれた。大きな力を受け止める技を」
「……所詮は小手先。勝ったのは僥倖。それがわからないわけでも」
「わかります。だからこそ尊敬しているんです。尊敬してるから」
「おべっかを使っても無駄だ。重要なのはおまえが……」
「ラウンドさんは凄い。そのためにわたしに走れって」
「は?」
 テイルのやり方はおよそ間違っていると思った。それでも参考にしようと思った。
「わたしとあの人達と何が違うのか。威力を抑えて貰ったのに、踏ん張れなくて、吹き飛ばされて、立ち上がれながった。みんなは違った。そうじゃないといけない。そうじゃないと決闘者と言えない。だからわたしに走れって言ったんですよね。踏ん張る為の脚を鍛えろって。……テイルさんったら酷いんですよ。ラウンドさんはわたしをやめさせるつもりで無茶ぶりをしているとか、平気で嘘を付いたんです。けれどそんなことなかった。わたしが怪我しないように、気をつかってくれていた。わたし、ラウンドさんを信じます。信じてついていきます。あ、そういえばまだランニングの途中でした。テイルさんったらホント酷いんですよ。折角沢山走れるっていうのに、こんなところまで連れ回して」
 その間、そこには呆然とするラウと、後ろで笑いを堪えるテイルの姿があった。
「残りの分走ってきます、それじゃ」 
 そう言い残して走り去るミィ。
「あいつ、おれに喋らせなかったな……」
「流石のラウ先生も、ああまで言われたら叩き出せないわな。おもしろいじゃん。まさかおれのことまでダシにするなんてさ。なあ大将、あんたもそう思うだろ」
「かもな。次回はミィご指名のラウ先生に頑張ってもらおう」
 ラウは掌を額にあて、数秒黙った後口を開く。
「あいつ、吐くと思うか?」
「吐くだろうなあ」
「それで辞めるか?」
「辞めないだろうなあ」
「……まったくどいつもこいつも」
 その数時間後、へろへろになって帰ってきたミィに対し、ラウがTCGの基礎中の基礎中の基礎を懇切丁寧に教えると嫌々もとい熱く請け負ったのは言うまでもない。

 これは、札に魂を注ぎ込んだ熱き決闘者達の物語である。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。地縛館編は一段落。次回からミィとラウの「初めてのTCG」編が始まります。
↓匿名でもOK/長文は勿論のこと、「読んだ」「面白かった」等、一言からでもガンガンうちの暖炉に投げ入れてください。


□前話 □表紙 □次話
























































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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