「帰るぞ」 開口一番、リードがテイルに言ったことはそれだった。
「え? 友情の電波を受信して駆けつけてくれたんじゃないの?」
「連絡がきたんだよ。 『おたくのペットが暴れてるんですが』 ときたもんだ。何回騒ぎを起こせば気が済むんだ? 少しは反省しろ少しは」
「冷たいなあ。あいつらの非道を見逃すのか? 危うくミィが潰されるところだったんだ」
「どうせあいつらはいつものように正々堂々勝負しただけだろ。けしかけたおまえが悪い」
 正論に尻尾を振る男ではない。テイルはリードに顔を近づけ、小声で話しかける。
「あんたの案にのるって言ってんだ。あいつ結構面白いぜ。あんたも押し通してみろよ」
「……ったく」 「アースバウンドの諸君には、後で菓子折分のお返しをしとくから、な、な」

「大した怪我はないようだな」
 ラウがミィに言ったのはそれだけだった。説教から入らないのが逆に辛い。ミィはどうしてこうなったのかを思いだす。負けたんだ。それも為す術なく。ミィは急いで立ち上がり、謝罪した。
「ごめんなさい。チームの名前に泥を塗って、本当にごめんなさい」
 現に周りでは 「前の大会はマグレだったみたいだな」 「あんなガキを使うなんてどうかしてるぜ」 といった具合に嘲笑の声があがっている。ラウはミィの謝罪を軽く流すと、テイルの方へ向き直る。
「テイル、なぜこんなことをした? おまえは時折、理解に苦しむことをする」
「あんまりにもいじらしかったから。あいつさ、決闘防護(デュエルガード)すらわかってなかった。幾らなんでも少し冷たいんじゃないかなあ。脅して宥めて、んで納得させて終わらせる。建設性を第一とするあんたの言い分わからなくもないけど、差別はよくない。天下のアースバウンドだって、レギュラー5人の内の1人は壮麗なレディだった筈だけど? もう少し真面目になってもいいと思うよ、おれ」
「危険防止の講義を怠ったのは事実だが、おまえが連れ出さなければ問題は起こらなかった」
「しょうがないなあ」 言うが早いかテイルは飛び出し、大声で新たな挑戦の声を上げた。
「Team Earthboundの諸君、ようやくこちらも残りの面子が到着した。さあそちらは誰が出るんだ? こちらもチーム、そちらもチーム、前座は終わり。本戦といこうぜ!」
「テイル! なにを考えてるんだ。これ以上話を大きくするんじゃない」
「悪いけどそうはいかないね。もう火が付いちゃってるんだ。あっちみろよ」
 ラウがアースバウンド側に顔を向ける。すぐにわかった。わかりやすいほどの臨戦態勢。
「なんでか知らないけど向こうも相当高まってるみたいでさあ。不思議だよねえ。ねえリード、こっちもこのまま引き下がっちゃ看板に傷がつくってもんだよ。やろうぜこのまま」
「ふざけるな、と言いたいところだが一理あるな」
「おいリード。おまえまでこの茶番にのるつもりか」
「ラウ。一理あるといったのはおまえのことだ。ミィと正々堂々勝負したらどうなんだ。確かにミィは非力なガキで身長も体重もてんで足りてない。レアなカードを使いこなせるわけでも特別な技を持ってるわけでもない。今までの経験値も大してなければ、これからの伸び代があるかどうかもわからない。改めて挙げてみて、おれ自身なんで 『うん』 って言っちゃったのか後悔するレベルだ。だがな、そんなミィにもいいところが1つくらいある。それは……」
「それは?」 興味の証かラウは身体を乗り出した。ミィも聞き耳を立てている。
「おまえがその目で確かめろ。きっとあるはずだ。あるといいよな、なんか」
 去年検挙された宗教法人 『希望の札』 が裸足で逃げ出す無責任な希望的観測。横ではテイルがにやにやと。リードという人間は、やはり相当に大雑把な男であった。
「本当にその場の勢いだけで入部を決めたな、それでも大将か」
「あんとき負けて捨て鉢になってたのは否定しない。だが後悔もしていない」
「あんたはそういう男だったな。わかった。どうせならここで白黒つけるのも悪くない。西部最強のチームの前で、決闘とはいかなるものであるかミィに実演しようじゃないか」

「話し合いは終わったようだな。そちらの結論を聞こうか」 ミツル・アマギリである。
「なあミツルさん。先程はうちの仮入部が拙い決闘を披露して悪かった。しか〜し、これがうちの実力と思われても困る。そ・こ・で・だ。3本勝負と行こうぜ。頭数通り3on3だ」
 リードの両サイドにはテイルとラウが立つ。一方、ミツルの横にはケルドとレザール。
「チーム戦。チーム同士の正式なデュエルで勝負すると。そちらが勝てばランキングがあがるがこちらが勝っても特に得る物はない。受ける意味があるのか?」
「ミツルさん、この勝負受けましょう」
「レザール。おまえもやる気なのか。熱心なのはいいことだが……」
「おい! 俺達が勝ったらミツルジャンパーへの発言を撤回しろ」
「わかったわかった」 リードがぐいっと身を乗り出す。
「俺達が負けたら誠心誠意で土下座する。テイルがな」
「おれ限定? おいおいそりゃないだろ」 「成立だな」 「成立だ」
 いつの間にか全てが決まって。小さな主役だったミィは観客に成りはてていた。それも惨めな観客に。なんとなくわかった。この試合が終わったとき、Team Earthboundの人達は誰も自分のことを覚えていないだろう。しかし、だからこそそれは闘いだった。ミィの闘いだった。


Duel Episode 7

Guard Crash〜腹礎剛筋咬渦咬咬〜


 ―― 惨めな気分に足首から肩口までどっぷり浸かっていたわたしを叱りつけることもなく、黙って打ち合わせを行うラウンドさん。一瞬だけ眼が合った。その視線は冷たくて。当たり前だ。もしこれで怪我でもしていたら迷惑どころじゃなかった。そう思うと涙が出そうになる。話し込む声がところどころ聞こえてた。 「ミィの身体は人生にも決闘にも向いてない」 とか 「ミィのいいところなんて1つたりとも思いつかない」 とかそういうことを言っているように聞こえた。当たり前だ。わたしにも思いつかない。だけど泣いちゃいけない。わたしには口答えする資格もなければ、泣く資格はもっとない。

 3on3。先鋒中堅大将の3人で3回決闘を行い、2勝した方が全体の勝利者となる。西部の大規模大会では採用されていないものの、比較的ポピュラーな決着方法。メンバーの選出に関しては様々なローカルルールが存在する。例えば、この場合は格上にあたるアースバウンド側から先鋒が名乗り出て、以後、勝った側からフィールドに立つことになる。

「連戦でも一向に構わないんですがね、レザール先輩。疲れているわけがない」
 ケルドが屈伸運動をしながらアピールするが、レザールがその脚を制す。
「地縛神の召喚で肩が上がっているだろ。俺が先鋒だ。少し休んでろ」
「へいへい」
 三本勝負の一本目、格上にあたるアースバウンド側からでてきたのは爬虫類族を操る決闘者:レザール。前の大会で、強豪を謳われるあのフェリックスに完勝したのが記憶に新しい。その鍛え上げられた肉体から放たれるパワースローが持ち味。これを目の当たりにしたラウ、瞬時に構成を決める。
「レザールか。よし、おれが先鋒を務める。本来ならミツルと手合わせ願いたいところだが、これがもっとも勝率の高い作戦だ。テイル、おまえはケルドを倒せ。デュエルスタイルが噛み合う勝負になるが、おまえの方が経験で勝る。翻弄する隙はある筈だ。お互い、前回のアースバウンド戦よりも苦しい闘いになるだろうが、幸い2勝すればその瞬間勝負が決まる」
「おいラウ、おまえおれのこと数に入れてないだろ」
「当然だ。入れる理由がない。じゃあいってくる。運が良ければ勝てるかもしれない」
 格下にあたるTeam BURST側から進み出たのはジャック・A・ラウンド。体格ではややレザールよりも細いが臆する様子はまるでない。デュエルサークルを挟んで両雄が並び立つ。
「ミツルジャンパーは俺達の命だ。おまえに恨みはないが、勝たせてもらうぞ」
「 『草を打って蛇を驚かす』 か。それはこちらも同じこと。特に恨みはないが……」
「それに、うちのバラックを倒したおまえと一戦交えてみたかった。はぁぁ……」
 レザールが腹筋を中心に力を込め威圧。その猛威はリード達のもとにまで。
「流石はアースバウンドのレギュラー。こっちにまで気迫が伝わってくる、か」
「ラウ先生が気後れするなんて有り得ないから、その点は安心じゃないかな」
 ジャック・A(エース)・ラウンド。通称ラウ。彼はこの完全アウェーとも言える空間にもなんら物怖じせずゆっくりと眼鏡を外す。左腕に付けた決闘盤からホルダーが下がり、そこに外した眼鏡を入れ収納。小さな起動音が室内に響く。戦闘準備完了。デュエルスタンバイ、OK。
(こちらもこちらでそれなりの勝負はさせてもらうぞ、レザール)
 異なる思惑を持つ2人がフィールドに立つ。お互いがお互いから眼を離さない。先程までの喧噪が嘘のように、ピリピリと張り詰めた空間。ものの数秒で、なにをやるべきか理解した者同士の顔。
 10秒前……5秒前……4……3……2……1……

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Technological Card Duel!


「始まった!」 激突する2つの決闘盤。先攻を取ったのはレザール。
「モンスター、マジック・トラップを1枚ずつセット。ターンエンド」
 レザールはしっかりと腰を落とし、迎え撃つ為の構えを見せる。 
「中央生まれだったな。おまえの決闘、あまさず俺にみせてみろ」
「要るだけみせる。あまりが嫌いならそちらでなんとかしてくれ」
「挑発か?」 「事実だ」

「ミィ、今日のことは色々あるだろうが、それよりこの試合をみておけ」
「リードさん、本当にごめんなさい。大丈夫、そんな風に甘えてて……」
「半分以上はテイルの所為だ。気にするな。だから試合をみておけ。全力でな」
(全力……)
 後方で呑気に腕を頭の後ろに組んでるのはテイル・ティルモット。同じく、後方で目立たぬようにしているのはパルム・アフィニス。心持ち、咎めるように一言二言話しかける。
「あんたさ、本当に火遊びが好きなんだな。逆効果だよ。ラウのことだ。この決闘で、かわいいだけしか取り柄のないあの娘をわからせるつもりだ。決闘ってのがどういうものなのかを」
「かもね。ま、そんときはそんときだ」

Turn 2
□レザール
 Hand 4
 Monster 1(セット)
 Spell 1(セット)
 Life 8000
■ラウ
 Hand 6
 Monster 0
 Spell 0
 Life 8000

 ジャック・A・ラウンドは考える。

 問.なぜアースバウンドは西のトップに居座り続けることができるのか。

(Team Earthboundと言えば、その代名詞は言うまでもなく地縛神。しかし、その一言で片付けては事の本質がみえてこない。地縛神は、例えるなら巨大な山だ)
 ジャック・A・ラウンドというプレイヤーはここから始める。そういう男だった。
(山は大きく、そして動かしがたい。一般に質量が増大すればするほど動かすことが困難になる。それは強いということを意味する。吹き荒れる嵐の中でも、山は悠然と聳え立っている。動かしがたいということは不自由であることを意味するが、不自由であるが故に、山は信仰の対象となる程の力を蓄えた。現に、奴らの十八番である地縛神は土地から離れて存在できない極めて不自由な存在だが、それ故に圧倒的なエネルギーを内に持っている。しかし――)
 まだだ。まだ彼は動かない。まだ結論は出ていないのだから。
(動かない山が何かを傷つけることはない。象は蟻よりも圧倒的に強いが、象の置物が蟻を殺すことはない。山ほどの隕石が地上に衝突すれば相当な被害が出るが、動かない内は無害。そして山は動かしがたい。動かない物を動かす者、それがいて初めてこちらの脅威となる)

 答.不自由なものを自由に動かせるから

(ミツルも、ケルドも、そしてあのレザールも。各々のやり方で、何一つ不自由を感じないとばかりに地縛神を筆頭とした巨大なしもべを繰り出してくる。その手腕こそが強さの源。なら――)
 ジャック・A・ラウンドの思考が収束に向かう。根源がわかれば後は ―― 断ち切るのみ。
(「不自由なものを自由に動かせるから強い」 この一文のどこかを崩せば奴らの強さは成り立たない。もっとも、巨大な山をそのまま削り取って更地に変えるだけの力はこちらにない。精々穴を空ける程度のもの。しかし、それでも自由を奪うことはできる)

 ラウはハンドとフィールドを確認した。フィールドには裏守備表示のモンスターが1体潜んでいる。

 アースバウンドのデュエルデータは西に腐るほど散らばっている。彼らはトップチームなのだから。分析を得意とするラウも当然それらに一通りは目を通している。有力な候補は《レプティレス・ガードナー》と《レプティレス・ナージャ》。前者は2000の守備力と破壊された際のサーチ効果を備えている。後者は守備力こそ皆無だが戦闘では無敵の硬性と厄介極まる毒の牙を持っている。他の可能性も考えられるが、ラウはそれらを敢えて無視。この局面、枝葉末節への思考は時間の無駄と割り切る。
(《H・C 夜襲のカンテラ》。そう悪い初手ではない)

H・C 夜襲のカンテラ(効果モンスター)
星4/地属性/戦士族/攻1200/守 300
このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、
ダメージ計算前にそのモンスターを破壊できる。


 壁の粉砕に長けたモンスター、《H・C 夜襲のカンテラ》。何も考えずに放り込むわけにはいかない。仮に、壁が《レプティレス・ナージャ》ならば、効果によって破壊できる夜襲のカンテラは最高の相性。他方、《レプティレス・ガードナー》ならば、破壊したところでレザールは後続をサーチできる。大して打点の高くない夜襲のカンテラは、返しのターンで無惨に破壊されてしまうに違いない。得を取りに行って逆に損を被る形となる。データ上も、先攻1ターン目のセットに関しこれといった偏りはない。損得の可能性はそれぞれ五分。無理に動かず様子見の一手という選択肢もある。
 彼はそうしなかった。
「《H・C 夜襲のカンテラ》を通常召喚。バトルフェイズへ移行。セットされたモンスターに攻撃を行う」
 アドバンテージはエネルギー。相手よりも多くのエネルギーを獲得すれば当然有利ではある。その点を考慮しつつも、エネルギー争奪戦においては裏目を引くかもしれない選択肢を敢えて取る。
(ナージャなら得、ガードナーなら損、運試しといこうかレザール)
「運が悪いな。ナージャなら目論見通りだったんだろうがこいつは《レプティレス・ガードナー》。《H・C 夜襲のカンテラ》に破壊されたこの瞬間、サーチ効果が発動する」
(裏目を引いたか。確かに運が悪いな。まあ、そんなことよりも……)
 サーチされたのは《レプティレス・ナージャ》。ラウは記憶する。
「メインフェイズ2。マジック・トラップを1枚セット。ターンエンド」

Turn 3
□レザール
 Hand 5
 Monster 0
 Spell 1(セット)
 Life 8000
■ラウ
 Hand 4
 Monster (《H・C 夜襲のカンテラ》》)
 Spell 1(セット)
 Life 8000

 レザールは己の中心部に力を溜めつつ、目の前の獲物を静かに睨み付ける。ジャック・A・ラウンド。戦型は【オールラウンダー】。これと言った特徴はないものの、沈着冷静な闘い方で着実に勝利を挙げている。ランキングではまだ十傑入りしていない筈だが、元々は中央出身――
(短期間でよくここまで名を上げてきた。全力をもって、倒す)
「デッキから1枚引き、フィールド魔法:《レプティレス・サプケット》を発動」

レプティレス・サプケット(フィールド魔法)
1ターンに1度、メインフェイズ、ターンプレイヤーは自分フィールド上に「レプティレストークン」(爬虫類族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚できる。墓地に存在する爬虫類族モンスター1体を除外することで、このカードを対象にする魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする。


「お得意の蛇籠か」
「派手にいこうぜラウンドさんよ。蛇を沼地から呼び出す。そして、こいつを召喚!」
(己の力を十全に発揮できる自分好みの舞台。そうだろうな。それでこそ強者の決闘)
 レザールが放った決闘盤からぞっとするような化け物が姿を現す。攻撃力1800、《レプティレス・スキュラ》。レザールはそのままバトルフェイズに突入する。
「殺れ! 《レプティレス・スキュラ》」
「《炸裂装甲》を発動」
 爆散……した筈の《レプティレス・スキュラ》が煙を超えて尚も突進する。《リビングデッドの呼び声》。即時復活を果たした《レプティレス・スキュラ》が《H・C 夜襲のカンテラ》に迫る。
(正面突破か。適当に受けても支障はないだろうが、この際ミィにみせておく)
 《レプティレス・スキュラ》の、5つの口の中でもっとも巨大な正面のそれが《H・C 夜襲のカンテラ》に牙を突き立てる。為す術もなくが鉄の装甲が砕かれ、その余波が衝撃波となってラウの下に迫る。その瞬間、ラウは決闘盤を変形させ、前方に円形の盾を展開する。
「衝撃を止めた! そっか。アレがあるんだ決闘盤には」 叫ぶはミィ。説くはリード。
「ジュニアデュエルでは衝撃が極力抑えられる。あの極限状況じゃ忘れていたのも無理はない。決闘防護(デュエルガード)。決闘者が決闘に持ち込んでいい武具はデッキと決闘盤のみ。デッキが武器なら決闘盤は防具。決闘者を襲う衝撃波から身を守るための救済措置だ」
「あ。わたしもあれを使ってれば吹っ飛ばされずに済んだってことですか?」
「但し問題もある。できるなら、あれは使わない方がいいくらいだ」
(問題。どっちにしろわたしは、そんなことも忘れたまま決闘をしてたんだ)

Turn 4
□レザール
 Hand 4
 Monster 1(《レプティレス・スキュラ》/レプティレス・トークン)
 Spell 1(《レプティレス・サプケット》/《リビングデッドの呼び声》)
 Life 8000
■ラウ
 Hand 4
 Monster 0
 Spell 0
 Life 7400

「おれのターン、ドロー。メインフェイズ……」
「遠慮せず蛇を呼んでもいいんだぞ」 「願い下げだ」
「なんでトークンを召喚しないんですか? タダなのに」
 ミィの疑問にリードが答える。 「タダより高いものはない。迂闊に出すと利用される恐れがある。《レプティレス・ヴァースキ》って厄介なデカ物がいるんだよあっちには」
「えっと。どういう効果だったっけ……でしたっけ」
「場の攻撃力0を2体サクることで特殊召喚できる最上級モンスター。攻撃力0であれば相手のモンスターでもコストにできるのが面倒くさい。引いてるかどうかは知らないが、引いてる前提でやんないとな。あのトークン、召喚したターンに処分できないなら出すべきじゃない」
( "あるかもしれない" だけで相手の動きを制限できるってこと?)
 リードの一説とミィの一驚。そしてラウは ―― より深く先を読む。
 ラウは焦らない。ただ分析する。ラウは恐れない。ただ評価する。
「《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚……召喚成功」通常召喚権を行使してもう1体、《魔導戦士 ブレイカー》を通常召喚。効果発動。魔力カウンターを乗せる」
 2100の攻撃力と、召喚権要らずの機動力を誇る《サイバー・ドラゴン》。1900の攻撃力と、《サイクロン》要らずの破壊力を誇る《魔導戦士 ブレイカー》。ジャック・A・ラウンドが牙城に攻め込む。
「バトル、2体で攻撃を仕掛ける」
(1度に2体。さっきといい今といい、高速戦を仕掛ける気か)
「ちっ」 レザールのしもべはあえなく全滅。フィールドにモンスターが残らない。
(サプケットもどうにかしたいところだが、あれには自衛能力がある。今は放っておくしかない。あとは伏せるカードをどうするか。まあ、そろそろ頃合いかもな)
「マジック・トラップを1枚セット。ターンエンド」

Turn 5
□レザール
 Hand 4
 Monster 0
 Spell 1(《レプティレス・サプケット》)
 Life 7700
■ラウ
 Hand 2
 Monster 1(《サイバー・ドラゴン》《魔導戦士 ブレイカー》)
 Spell 1(セット)
 Life 7400

 思っていたよりもずっと静かだ。ミィはそう思った。なのに背筋は冷たい。一瞬でも目を逸らせばがぶっと頭から持って行かれそうな感覚。レザールのもとから発せられる闘気。ここまでの小競り合いは嵐の前の静けさに過ぎない。目の前に2体いるということ。それ自体がレザールへの挑戦状。
「俺のターン……ドロー。メインフェイズ、レプティレス・トークンを展開。そして……」
 ミィは反射的に一歩下がった。対戦者の遙か後ろまで射貫く眼光。
「手札から、《レプティレス・ナージャ》を攻撃表示で通常召喚!」
(ジャック・A・ラウンド。おまえのことだ。ナージャを踏んだりはしないだろ。2枚目か蘇生か生還か、カンテラ再びって未来予想図はごめんだ。今の内に正面突破をかける)
 レザールのプレイングが伸びる。目を丸くするミィ。
「攻撃力0のモンスターを攻撃表示で!? これって……」
(トークンにナージャ。これで攻撃力0が2体。さあいくぜ)
 強引に力を働かせ、山が動く。しかし、
「この……トラップは……」 「それだ」
 例外を許さない駆逐の鎖。
「《連鎖除外(チェーン・ロスト)》」

連鎖除外(チェーン・ロスト)(通常罠)
攻撃力1000以下のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。その攻撃力1000以下のモンスターをゲームから除外し、さらに除外したカードと同名カードを相手の手札・デッキから全て除外する。


(残りのナージャはやはりデッキにあったか……)
(こいつ、妨害と同時にこちらの二択防御を潰しに来たのか)
 ラウは直後のターン、《魔導戦士 ブレイカー》でトークンを狩り、《サイバー・ドラゴン》でダイレクトアタック。マジック・トラップを1枚セットして彼は言う。ターンエンドと。
「ジャック・A・ラウンド。あの男は考えるのをやめるために考えたんだ」
 ざわめくギャラリーとは対照的に。戦況を静かに見守っていたミツルが語る。
「裏守備の正体を読むのは難しいものだ。迂闊に殴って《レプティレス・ナージャ》を踏めば手痛い反撃を受ける。かといって、有効札を引くまで静観に徹するのも旨味がない。有効札を引いたと思ったら実は《レプティレス・ガードナー》……というのも馬鹿馬鹿しい」
 レザールがハンドに《レプティレス・ナージャ》を引っ張った点をラウは見逃さない。《レプティレス・ヴァースキ》を引っ張らず、なぜ敢えて見え見えの壁を引っ張ったのか。答えは簡単、 "既に持っているから" 故に、牽制としても生贄としても活用できるナージャを引っ張った。
「序盤からガンガン押し込んで基礎を作らせず、無理に動いたところで足元を狩る。それも根元までざっくりとだ。これでラウンドはナージャを気にすることなく攻めていける」
(リバースカードによる妨害は覚悟していた。だが、まさかナージャを……)
(Team Earthboundに腰抜けはいない。敢えて挑発にのってくる。それなら、敢えてのってきたところを、少しずらしたポイントで迎え撃てば良い。それで十分止まる)

Turn 7
□レザール
 Hand 4
 Monster 0
 Spell 1(《レプティレス・サプケット》
 Life 5600
■ラウ
 Hand 2
 Monster 1(《サイバー・ドラゴン》《魔導戦士 ブレイカー》)
 Spel 1(セット)
 Life 7400

「ドロー。《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚引き、《レプティレス・ゴルゴーン》を除外。レプティレス・トークンを特殊召喚。マジック・トラップを2枚セット。《強欲なカケラ》を発動」
「ならこちらは《砂塵の大竜巻》を発動。左のセットを破壊する。《毒蛇の供物》か。運がいい。俺のターン、ドロー。《魔導戦士 ブレイカー》の効果を発動。残った1枚のセットを破壊する」
(こいつ、ドローサポートを放置してセットを。押し切るつもりか)
「おれのターンだ、デッキから1枚ドロー」
「不思議」 「どうしたミィ。ラウが押してるのがそんなに意外か?」
「違うんです。アースバウンドの試合だから、もっと、こう、派手な打ち合いになると思ってたんです。それこそケルドさんみたいに。なのに、隣の家の吠えない犬みたいになってる。ラウンドさんはわたしと比べても、そんなに強いカードを使ってるわけじゃないのに」
「……ぶっちゃけたことを言うと、おれはラウのことが嫌いだ」
「リードさん?」
「あいつはいっつもおれに小言や皮肉を言ってくる。それも真顔でな。そんでむかつくことに、あの冷血動物が言うことは大抵おれよりも正しい。あいつは目先の勝利に一々執着しないが、なのに気がついたらうちで一番勝ってる。あいつはやるべきことをやれるんだ。誰よりも上手く」
 ミィは改めてラウを見た。何を考えているのだろう。何を読んでいるのだろう。
 ジャック・A・ラウンドは徹底して考える。ジャック・A・ラウンドは徹底して読む。
(データをみても、雑誌の発言集をみても、実際に手合わせしてみてもわかることだが、この男の決闘はミツルへの尊敬が基礎となっている。尊敬しているが故に、戦型にはミツルの影響が色濃く出ている。闇属性・上級多用……しかし一方で、尊敬しているが故に、ミツルと全く同じ決闘ができるとは思っていない。ハイリスク・ハイリターンを常態化するのではなく、堅い壁で一旦受け止め、間合いを詰めて切り返す。センスに頼らない堅実な戦法だが、付けいる隙もそこにある)



「ジャック・A・ラウンド。相当な使い手だ。レザールの動きが見きられている」
 ミツルは、一回頭を左右に振ることで、団員の注意を自分に引きつける。
「壁を置き、蛇を置き、罠を置き、そこから大物を出して仕留める。腹で受け、腹で返す決闘だ。一見すると攻防一体で隙がないが、そこには落とし穴がある。攻防一体は、片方を潰されればもう片方も道連れ。あの男は果敢な攻撃でレザールの布陣を潰し、動きづらくしている。レザールは無理な加速を強いられるが、それも奴の計算の内。先読みで潰され更に追い込まれる」
「《魔導戦士 ブレイカー》でトークンを狩る。《サイバー・ドラゴン》でダイレクトアタック」

レザール:3500LP
ラウ:7400LP

「ちぃっ。調子にのりやがって。何度も何度も……」
「あっちゃあ。先輩ったら完全に頭に血が上ってる」 ケルドだ。
「常に沈着冷静な己を保て、アースバウンドの基本っしょ基本」
 自分を棚にあげ新人が喋る。ある意味ではそれが持ち味。
「やっぱさあ。俺が連戦すればよかったんじゃないの」
「ケルド。少し黙れ」 「WHAT!?」 「レザールを信じろ」
「マジック・トラップを2枚セットしてターンエンド」
(そうだ。レザールは鍛えてきた。ずっと)

「練習熱心だなレザール」 「ミツルさんには及びませんよ。このくらいはやらないと」
「そうか。余計なお世話かもしれないが。練習メニューが少し偏ってないか?」
「偏らせたんですよ。これでも足りないくらいです」 「どういうことだ?」
「俺はミツル・アマギリ二世にはなれない。自分の身の程は弁えてるつもりです。あれもこれも全部やれるほど俺の器はでかくない。それでもいつか引退する時、カードゲーマーとして 『これだけはやった』 って胸を張って言えるようになりたいんです」
「そうか。オーバーワークにだけは気をつけろ」


Turn 9
□レザール
 Hand 2
 Monster 0
 Spell 2(《レプティレス・サプケット》/《強欲なカケラ》)
 Life 3500
■ラウ
 Hand 1
 Monster 1(《サイバー・ドラゴン》《魔導戦士 ブレイカー》)
 Spel 2(セット/セット)
 Life 7400

「ドロー。《強欲なカケラ》にカウンターを置き、レプティレス・トークンを特殊召喚。あまり調子にのるなよジャック・A・ラウンド! 展開手段は幾らでもある。1000ライフを支払い《簡易融合》を発動」
 状況に応じて、様々なレベルと攻守を持った融合モンスターをエクストラから引っ張れる1枚。
 ここでレザールが取り出そうとするのは、攻撃力0の《おジャマ・ナイト》。
「これで……」 レザールの動きはそこで止まる。ラウンド再び。
「妨害する手段もそこら中にある。カウンター・トラップ:《マジック・ドレイン》」
「くっ」 「どうする。この発動は通るのか?」 「……通る」 「それは結構」
 踏みこもうとしたところへの執拗な足払い。またしても不発に終わる。
「ジャック・A・ラウンド。力の流れを読み切って上手く止めている。流石だ」
「ミツルさん、褒めてていいんすか。うちの先輩負けますよこのままだと」
「褒めるべき手練だ。大味さの目立つうちの連中にはいい勉強になる」
「くぅ……カードを1枚セットしてターンエンド」
(この程度か? もう少し粘り強い相手かと思っていたが。いや、油断は禁物か……)
「レザールはいつかおれに語ってくれた。【爬虫類族】を極めるにはどうすればいいか。爬虫類の華型と言えばやはり蛇。レザールは蛇の動きを研究した。山奥で蛇と戯れ、時にはコブラの毒を喰らって死にかけたこともある。レザールは考えた。蛇の本懐とはなにか。獲物を貫く鋭い牙なのか。かすっただけでも全身を巡って息の根を止める猛毒なのか。あるいはロープのように長い身体を駆使した締め付けなのか。どれも魅力的に映る。だが……」
「おれのターン、デッキから1枚ドロー。バトルフェイズ、ブレイカーでトークンを狩る」
(一番怖い一発目が通ったか。このターンのノルマは達成。後はゼロになるまで……)
「セカンドアタック。《サイバー・ドラゴン》でダイレクトアタック」
「宣言、したな」 (気配が違う。これは――)
 耐え続けた男が笑う瞬間、それは例外なく危険を示す。
「言ったな。ダイレクトアタックと。確かに聞いたぜその言葉」
(レザールの気配が今までとは違う。これは……)
 ラウに油断はない。しかし、小さな揺らぎがあったことも認めねばなるまい。
「安心したよ。あんたも人の子だったようだ。功を焦ったかジャック・A・ラウンド」
(土壇場に来てこの余裕。なぜ? 決まっている。土壇場ではないということだ)
「さっきの態度は演技か。怒ったふりを。そこまで演技派とは知らなかったな」
「いいや。半分は本気さ。己の怒りに決闘をのせる。俺の腹は煮えくりかえって」
 レザールは自らのシャツを勢いよく破り捨てる。垣間見えるは蛇腹の柵。
「遂に煮詰まった。ありがとう。腹筋を育ててくれてありがとう」
(なんだ。やつの腹……このエネルギー……溜めていたというのか)
「そう。レザールは鍛えた。蛇の本質をレザールは腹筋に求めた」
「俺の腹筋はここからだ! リバース・トラップ、《栄誉の贄》を発動」

栄誉の贄(通常罠)
自分のライフポイントが3000以下の場合、相手が直接攻撃を宣言した時に発動する事ができる。そのモンスターの攻撃を無効にし、自分フィールド上に「贄の石碑トークン」(岩石族・地・星1・攻/守0)2体を特殊召喚し、自分のデッキから「地縛神」と名のついたカード1枚を手札に加える。「贄の石碑トークン」は、「地縛神」と名のついたモンスターのアドバンス召喚以外のためにはリリースできず、シンクロ素材とする事もできない。


(ライフ2500で直接攻撃を宣言される。それも最後の攻撃宣言。理想的な発動タイミングだ。丸っきり偶然というわけでもあるまい。地道に攻撃を腹に受け、この瞬間のために鍛え上げていたのか)
「レザールは叩き上げだ。そうそう決闘を投げるような奴ではない。いかにラウンドが場を支配しているといってもここは俺達のフィールド。正気を失う方が難しい……あいつは打たれ上手でもある」
「おまえが削ったライフと、《簡易融合》のコストで条件は満たした。簡易は捨て駒さ。《サイバー・ドラゴン》の攻撃を無効にして、贄の石碑トークンを2体展開。更にデッキから、 "こいつ" を手札に加える。ターンエンドか? そうかい。俺の腹筋が鳴いてるぜ」
「レザールは辿り着いたんだ。牙も、毒も、締め付けも、あたらなければ意味がない。蛇は腹を使って動く。レザールは来る日も来る日も愚直に腹筋を鍛え続けた。苦境にあっては粘り強く地に吸い付き、好機にあっては抜群の地離れをみせる、そんな腹筋をつくりあげた」
「そうだった。先輩はいつだって腹筋を鍛えていた。俺は、なんてことを……」
「そうだ。レザールには腹筋があるんだ」 「いけ! おまえの腹筋をみせてやれ!」
「さあ……」 レザールが 「いくぜ」 腹筋を剥く。

Turn 11
□レザール
 Hand 2
 Monster 2(贄の石碑トークン×2)
 Spell 2(《レプティレス・サプケット》/《強欲なカケラ》)
 Life 2500
■ラウ
 Hand 2
 Monster 1(《サイバー・ドラゴン》《魔導戦士 ブレイカー》)
 Spel 1(セット)
 Life 7400



Earthbound Immortal Ccarayhua Advance Summon

 無惨に握り潰される《サイバー・ドラゴン》。ラウとて黙ってみていたわけではない。抵抗は試みた。制限カード:《聖なるバリア−ミラーフォース−》。防がれる。より正確には弾かれる。 "我が腹筋を盾に" 己の腹筋を呈して、1500のライフを支払って無理矢理ラウの防波堤を突破していた。《強欲なカケラ》により補充も完了している。ぶち破るには十分な出力。

レザール:1000LP
ラウ:6700LP

「マジック・トラップを1枚セットしてターンエンドだ」
(流石にそう都合良くはいかないか。さて、どうする)
 上策はなし。ならば最低限を試みるしかない。《魔導戦士 ブレイカー》で最早ルーチンワークと化したレプティレス・トークン狩りを行い2枚セットしてターンエンド。
「 『腹筋』 を象ったと言われる地縛神。ラウンドさん……」
「大丈夫だ。地縛神の本領は防御を無視して巨体をぶつける直接攻撃にこそある。あいつは《サイバー・ドラゴン》を狙った。レザールの残りライフは1000。最悪の事態に備え、まずは目の前のモンスターをどうにかしたかったんだ。直接攻撃さえこなければ、あれは並の最上級とそう変わらない」
「リード」 テイルがぼそっと言った。 「そんならさ。 『本気の本気』 はここからかも」

Turn 13
□レザール
 Hand 2
 Monster 1(《地縛神 Ccarayhua》)
 Spell 2(《レプティレス・サプケット》/セット)
 Life 1000
■ラウ
 Hand 1
 Monster 1(《魔導戦士 ブレイカー》)
 Spel 2(セット/セット)
 Life 6700

「ドロー。2枚目の《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚引き、《レプティレス・バイパー》を除外。メインフェイズ、レプティレス・トークンを展開。認めるよ。紛れもなく実力者だ。だがな!」
 レザールは掌に 『気』 を集中。腹筋に 『力』 を込め、解き放つ。
「喰らえ! 《地縛旋風》を発動。セットカードを纏めて吹き飛ばす」
「2番に伏せた《八汰烏の骸》を発動。デッキから1枚ドローする」
「それがどうした! おれの狙いは最初から、場をがら空きにすることだ!」
(本命ごと、纏めて吹き飛ばされたんじゃデコイもブラフもない。喰らう……)
「墓地のガードナーを除外して《レプティレス・スポーン》を発動」
「……っ!?」
 場にレプティレス・トークンを2体。攻撃力0の、この2体をリリース。
「さっきまではちまちま殴ってくれてありがとよ。だがな! 蛇の生殺しは腹筋という名の執念を育む。みせてやるよ。腹筋の入った決闘を! 《レプティレス・ヴァースキ》を特殊召喚!」

レプティレス・ヴァースキ(効果モンスター)
星8/闇属性/爬虫類族/攻2600/守 0
このカードは通常召喚できない。自分・相手フィールド上にの攻撃力0のモンスター2体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊できる。 「レプティレス・ヴァースキ」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。


「そんな!」 ミィは叫ぶ。 「地縛神だけでも大変なのにもう1体の最上級!」
「蛇姫の効果発動。ブレイカーを破壊する。さあ、バトルフェイズだ!」
「不味い! ラウの場はがら空きだ。これではもろにくらう」
「さっきサイドラをやったのはこれをやるためか!」
 ラウはたまらず決闘防護(デュエルガード)を展開。
 しかし、それこそが、それこそが彼の狙いだった。
「遠慮すんな! お預けした分もらってけ!!」



 腹礎剛筋咬渦咬咬(ふっそごうきんこかこっこう)



 《地縛神 Ccarayhua》のアッパーカットをかろうじて耐えるラウ、と、その時床の、《レプティレス・サプケット》から2本の槍が突きだして。《レプティレス・ヴァースキ》が間髪入れずにその脚を(あるいは尻尾を)潜行させていたのだ。たまらず吹き飛ばされるラウ。吹き飛ばされる、そう、吹き飛ばされる。人間の身体が宙を舞い、無惨にも床に叩きつけられたのだ。
「【蛇腹の双剣】。これが俺の腹筋(デュエル)だ。ジャック・A・ラウンド」

 説明せねばなるまい!
 実のところ、ラウの《マジック・ドレイン》に対し、その時抱えていたマジック・カード《我が身を盾に》を捨て無効にすることは可能であった。しかしレザールは、功を焦る己の妄念を尋常一様ではない腹筋力で抑制する。なぜか。無論《栄誉の贄》である。《栄誉の贄》による地縛神の緊急招集。ラウの実力が予想以上であることを痛感したレザールは、限界までラウの攻めを引きつけた末に、己の最大腹筋力を持って一気呵成に殲滅する、その一手に及んだのだ。
 己の限界を知り、己の鍛錬を信じる男。レザールとはそういう男である。


レザール:1000LP
ラウ:1300LP

  "ガードクラッシュ"
  "ペナルティモード起動"
 電子音。発信源はラウの決闘盤。
「これって。リードさん、これって!?」
「ガークラ連携だ!」 「ガークラ連携!?」
「強烈な衝撃波を放つ地縛神の一撃で半ば強制的に決闘防護(デュエルガード)を展開させておいて、そこに間髪入れず第二陣をぶち込むことで一気にガードクラッシュまで持っていた。流石はチームアースバウンド。そうそう簡単に封殺できる相手じゃなかったか」
「そんなことじゃありません!」
「ん? ああ、前提の話が抜けてたな。決闘防護(デュエルガード)にはガークラゲージが存在する。このガークラゲージが厄介でな。コレが振り切ると決闘防護(デュエルガード)が限界を超えてペナルティを追う。身一つで戦場に向かうことを美徳される決闘者が盾を使うことへのリスクだ。だからおれたちは滅多に決闘防護(デュエルガード)を使わない。身体で耐える。街の不良なんかだと、あれ使った瞬間腰抜け扱いされて輪から弾かれるなんて話もあるぐらいだ。だが、奴は無理矢理使わせた」
「そんなことじゃないって! ラウンドさんが! ラウンドさんが!」
「五月蠅いよ」 「アフィニス……さん」
「ガークラ連携ぐらいでうだうだ騒ぐようじゃカードは握れない」
 涙目のミィに追い打ちをかけるように。だがそれこそが現実。TVの中での、凄まじすぎて逆に演出っぽくみえる映像が単なる現実でしかないということ。本当はわかっていたのに。ここにいるのは、西の全一:Team Earthboundのレギュラーなのだから。自分だって喰らったじゃないか。軽減されたとはいえ、喰らったじゃないか。飛んでいた記憶が蘇る。震えと共に。
「これが、これが上級者のカードゲーム……」
「その通りだミィ。これが、カードゲームだ」
(ラウンドさんが……ラウンドさんが立った)
「やるな。想定していた威力を大幅に上回ってる」
「そちらこそ。俺の本気連携を喰らってぴんぴんしている」
「それは流石に過大評価だ。それなりに苦労して立っている」
 ラウはズボンをパタパタとはたき、後方のミィに意識を飛ばす。
(わかる筈だ、ミィ。まともに喰らう破目になったがこれが決闘だ。弱い力でも強い力を押さえ込むことはできる。だが一瞬でも潰し漏らせばこのザマ。この競技で上にいくということはこういうことだ。おまえに覚悟はあるのか。おまえに壁とキスする覚悟はあるのか。両親よりも、恋人よりも、熱く何度も壁と抱き合うのがカードゲームだ。おまえにその覚悟があるのか。ないだろう)
「これが、これがカードゲームの世界。本物の決闘者の闘い……」
「問題はここからだ。ガードクラッシュを喰らった場合、次のターン、上級召喚、シンクロ、エクシーズ、融合、儀式……辺りの使用が不可能になる。それがあるからホントは使いたくないんだよあれ」
「え!?」 リードが基本事項を解説。パルムがそれを引き継ぐ。
「決闘盤自体も壊れやすくなる。直す側ならそっちのが痛い。家計に響く。それとこのガークラゲージ、何が面倒くさいってファジー領域なのが面倒くさい。バトルのやりとり、ライフのやりとりは一々数字が出てそれで厳密に計算できるけどガークラゲージはそうじゃない。攻撃力の高いモンスターが必ずしも高い蓄積率を持つとは限らない。だから極力使わない。補助輪は使わない方が速いから」
「使わないのを使わせる。使わせた上で、割って壁に叩きつける。こんなプレイングが……」
 ミィは震える声で復唱した。Technological Card Game。決闘者と決闘者の闘い。
「大丈夫だ。レザールは2つの最上級を並べてきた。 "リスク" を承知で並べてきた。あいつもあいつで苦しい筈。ラウなら、奴の布陣の急所をつける……と思うんだけどな」
「メインフェイズ2! 俺はマジック・トラップを1枚セットする……」
「なるほど……」  ラウは体勢を立て直し、レザールに向かい合う。
「レザール、流石はアースバウンドのレギュラーだな。攻めが鋭い」
「俺の腹筋をわかってもらえて嬉しいよ、ジャック・A・ラウンド」
「さて、流石に分が悪くなった。それになにより腹が痛い。もう一度ガークラ連携を喰らったら身が持たないな。もっともコカライアとヴァースキ、どちらか一発喰らえばそれで終わりなのだから楽で助かる」
「喰らうつもりなどないだろう。さあ、ターンエンドだ。かわせるものならかわしてみろ」
(いいだろう。もののついでだ。ここまで来たら、最後まで付き合おうじゃないか)

Turn 14
□レザール
 Hand 0
 Monster 2(《地縛神 Ccarayhua》/《レプティレス・ヴァースキ》/レプティレス・トークン)
 Spell 2(《レプティレス・サプケット》/セット)
 Life 1000
■ラウ
 Hand 2
 Monster 0
 Spel 0
 Life 1300

「ドロー……フィールド魔法の効果は使わない」
 手札は3枚。この内、"有効札"は何枚か。
(上級もエクシーズも使えない。それなら……)
 ラウの手が光り、掌から一冊の本が飛び出す。
(ラウンドさんはこの状況でも、諦めていない?)
 開かれるためではなく、閉じられるための本。
「《月の書》を発現。対象は《地縛神 Ccarayhua》」
(コカライアを裏守備表示にすれば地縛神の固有能力が消え、奴への攻撃宣言が可能になる。守備力は1800。倒せないラインではない。しかし、あちらにはヴァースキもいる。両方倒せなければこちらの負け。それなら利用すればいい。あちらの能力を)
(ガークラされた以上、大駒ではなく小駒で来る。こちらの場には最上級が2体。小技ではそうそう倒しきれない。奴が飛びつくとすれば、全てを吹き飛ばすコカライアの爆弾)

地縛神Ccarayhua( 効果モンスター)
星10/闇属性/爬虫類族/攻2800/守1800
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
フィールド上に表側表示でフィールド魔法カードが存在しない場合このカードを破壊する。
相手はこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
このカードの効果以外の効果によってこのカードが破壊された時、フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 "《月の書》でコカライアを裏返し" ラウの思惑が "《H・C 夜襲のカンテラ》で攻撃すれば" レザールの思惑が "一旦表になったコカライアが《H・C 夜襲のカンテラ》の効果で破壊され" フィールド上で交わり "爆弾の導火線に火が付く" 重なったその時――



 嗚呼、なんと恨めしきは天の光よ――――EARTHBOUND

 祭壇に置かれしナスカの腹筋は――COUNTER TRAP

 木漏れ日1つ通さず――――――DARK ILLUSION



闇の幻影(カウンター罠)
フィールド上に表側表示で存在する闇属性モンスターを対象にする、
効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


「カウンター・トラップ:《闇の幻影》を発動。《月の書》を打ち消す」
 《闇の幻影》は対象を取る刺客を封じるカウンタートラップ。
 対象を取らない夜襲のカンテラを待っては打ち消せない。
 レザールは、月の夜のカンテラを見破ったのだ。
 故に――
「流石だなレザール。見破る方に賭けておいて正解だった」
「……っ!?」
「利用させてもらうのはここからだ。手札から《精神操作》を発動」
「しまっ……」 「最早カウンタートラップはない。ヴァースキを奪う」
「そちらの腕前に感謝する。ヴァースキの効果。コカライアを破壊する」
 《精神操作》で奪ったモンスターは攻撃宣言できないが、効果の発動は可能。ヴァースキは口から毒霧を放つ。触り合いを拒否する地縛神も毒霧の進入までは防げない。防げないとどうなる?
 レザールの顔が引きつった。コカライアの爆弾に火が付いて。
「くっ、コカライアの効果、死に際に全てを道連れとする」
 巨大な、あまりに巨大なダイナマイトに火炎瓶がぶつかるようなもの。
 大爆発は全てを巻き込む。フィールドも、ヴァースキも、全てを巻き込み滅び去る。
「やった」 無邪気に喜ぶミィ。歯を噛みしめるレザール。
(なぜだ。なぜあいつはあんなことを……)

Turn 14
□レザール
 Hand 0
 Monster 0
 Spell 0
 Life 1000
■ラウ
 Hand 1
 Monster 0
 Spel 0
 Life 1700

「レザールさんの技が凌がれた」 「フィールドもゼロ、ハンドもゼロ」 「あいつだってほとんど使い果たしてる」 「振り出しか」 「これからだ」 「互角ならまだまだいける」 「ぶっ倒せ、レザール」
 ちゃぶ台返しを目の当たりにしたギャラリーが口々に騒ぎ出す。勝負は互角で仕切り直し。そう皆が口にする。ミィは、そこにほのかな違和感を覚えていた。
「互角? 違う。違う。違う、これ……」
 真剣そのものの眼差しで見守っていたミィは思う。
「この勝負は……この勝負はラウンドさんの勝ちだ」
 フィールド上、ジャック・A・ラウンドは尚も考える。
(自由を奪われるということはニアリーイコール楽な選択肢を奪われるということ。厳重な警備を敷いた刑務所の中で 『貴方には脱獄の自由がありますよ』 と言われたところで誰も自由を感じない。楽でないということは、ニアリーイコール疲れるということ。疲れるということは、ニアリーイコール余力がなくなるということ。ドローサポートを潰すだけが疲れさせる方法じゃない。自由を奪えば人は勝手に疲弊する。これでお互いに余力はない。ならどうなる)
 コカライアによるリセット後の世界。先に仕掛ける権利を持ったのはレザール。仕留めるチャンスなのに動けない。やむなく《レプティレス・スポーン》を発動してエンド。他方ラウンドは、トップで引いた《荒野の女戦士》で攻め立てる。地縛神で入れ替わった攻守が再度入れ替わる展開。
 そう。Team Galaxyとの一戦では、例えフェリックスの心が折れず、コカライアが爆発していたとしても、レザールは、ハンドに残していた《スケープ・ゴート》と《レプティレス・ヴァースキ》で何の問題もなく決闘を続行できた。今は違う。レザールに余力はないのだから。ミツルが淡々と場を語る。
「ジャック・A・ラウンドの戦術の延長線上、むしろ戦略と言うべきか」
「ミツルさん。あいつはこの状況を予測してたってんですか。そんな馬鹿な……」
「予測というよりは期待だ。ライフもハンドもないトップ合戦なら先に動ける方が有利。この条件なら上級多用のレザールよりも下級多用のラウンドの方が速い。たとえ序盤の速攻で封じ込めきることができなかったことしても、この構図にさえ持ち込めば優位に立てる、奴はそう期待していたんだ」
「《雷帝ザボルグ》を召喚。ラスト! ダイレクトアタック」

Technological Card Game Duel All Over.
WINNER:ジャック・A・ラウンド


 決着。数秒の沈黙の後でレザールは、ラウのすぐ前に進み出た。
「答えてもらうぞ。あの時持ってた最後の1枚は、《H・C 夜襲のカンテラ》じゃないんだな」
「ああ。ザボルグだ。ガークラ喰らって直後に引いたのがあれって事実に苦笑を強いられた」
「もし俺が《月の書》をカウンターできる状況になかったらどうするつもりだったんだ。ヴァースキの破壊効果は表側表示限定。《精神操作》でヴァースキを奪っても、裏のコカライアを破壊することはできない。《月の書》をカウンターされなければ、おまえは今頃負けていた」
「《闇の幻影》を《月の書》に打ってくれなければおれは負けていた。それは事実だ。リスクがあったのは間違いない。それでも、おれはあのセットが《闇の幻影》かなんかだと期待していた」
「根拠はあるのか。いや、あるんだろうな」
「データも、実際に決闘した感想も同じ結論を示していた。レザールとは、大胆な決闘者だが無謀な決闘者ではない。果敢な攻め込みは、堅固堅実な腹筋を土台にして初めて成り立つ。そんなあんたが、コカライア暴発の危険性を何ら省みることなく、真横にヴァースキを出したとは思えない。あんたの優秀な腹筋に敬意を表した、そう思ってもらえればこちらは助かる」
 ラウは敢えて大雑把な説明に抑えたが、そこにはもう少し深い評価が隠されていた。レザールの無茶は生来の無茶に非ず。堅実な筈のレザールが時折無茶をするのは、己の限界を知っているからに他ならない。時には無茶をしなければ勝てぬと知っているからこそ無茶をする。ラウに言わせればそれは 『合理的な無茶』 勝率を上げるための無茶。 『ブラフの砂塵を伏せてコカライア・ヴァースキの2体で攻める』 といった戦法は流石に無茶が過ぎる。それをやるくらいなら単騎で攻める筈。故に、伏せた1枚はコカライアを直に守れるカードと踏んだ。あの局面、ラウのハンドは健在。ガードクラッシュを決めたとしても1枚で守りきれるかは未知数。リスクは残る。しかし、そのリスクは勝算のあるリスク。受け入れるに足るリスク。ラウは、レザールの落としどころをそう読んだ。ならば、後はいかなるカードでコカライアを守るのか。《我が身を盾に》? ライフが足りない。なら、後は―――。
「先に《精神操作》をヴァースキに打っていたら打ち消されて終わりだからな。何が何でもセットカードを使ってもらう必要があった。正直、巡り合わせが良かったと思う」



「もし、読みを外していたらどうするつもりだったんだ?」 「負けるだけだ」
「ドローしてからのあの一瞬でそこまで考えていたのか」 「そういうことになる」
(本当はダウンしてからゆっくり考え始めていたんだが……一応、黙っておこう)
「腹に響いた。次は負けない」 「ああ」 レザールとラウはがっちりと握手をかわす。

 戻ってきたラウをリードが流石と讃えるが、チーム内最多勝選手はにべもなく言った。
「まぐれ勝ちに近い。幾つか小細工を弄したが、初顔合わせでなければどうなっていたか」
「セットを読めたのは兎も角、よくあいつが《月の書》をカウンターするとわかったな。《月の書》自体に破壊能力はない。もしかしたら温存したかもしれないぜ。これも論理的思考やってやつか?」
「大した論理的根拠はない。強いて言うなら、おまえの人生に敬意を表した結果だ」
「なんだそりゃ」
「《闇の幻影》が効く《月の書》と《闇の幻影》が効かない《H・C 夜襲のカンテラ》のコンボ。止めようと思ったら《月の書》に打ち込むしかないが、その可能性を読むことすらできない脳味噌腹筋馬鹿なら、そんなのを目指して日夜ヘマを繰り返しているうちのリーダーがあまりに哀れだ。敵は強くあった方が良い。その程度の話でしかない。最初に言ったはずだ。運が良ければ勝てると」
 やっぱりおれはこいつが嫌いだ。リードは改めてそう思った。何事も大雑把な自分よりも深く精密に論理を組み立て決闘するにも関わらず、決め手を 『運』 ということを憚らない。ラウにとってそれは謙遜でも卑下でもなく。単なる事実。その程度の差しかなかったとラウは淡々と説く。淡々と、真顔で彼は最善を尽くし続ける。そこに夢の匂いはしない。それでも彼は最善を尽くし続ける。
 それがジャック・A・ラウンドの決闘である。

 あんな風にできたら。ミィは1秒で空想にふけり1秒で現実に戻る。できたら? 決闘を終え眼鏡をかけ直すラウはあらゆる意味で自分とは違う。パワーに頼らない闘い方を演じるラウと、単にパワーがないだけの自分。あまりに違う……その時だ。いつの間に移動していたのか、2階から柵を越えて飛び降りる馬鹿がいた。テイル・ティルモット。2回転3回転捻りをつけて着地……はほんの少しミスる。一見無意味に思えるこの派手な登場は、一瞬にして館内の注目を引きつける。
 テイルは、一旦ミィの方を向いた。
「なあミィ。おまえおれのこと好き? 嫌い?」
 不思議な人間だ。軽薄であると同時に底が知れない。
「人を玩具にして遊ぶ酷い人だと思います」 「すんごいお言葉」
 弄ばれている感覚は確かにあった。それでも――
「でもそのおかげで、わたしはあの人の決闘を間近でみれた」
「いいね、それ。んじゃいってくっか」
「おいテイル、2番手だからっておれに遠慮するな。倒しちゃっていいぞ」
「わかってるわかってる。こういうのでおれが遠慮した事なんてないだろ」
 手をひらひらさせながら。テイルは1メートル程横にいたラウと接触。
 耳打ちで話す。
「ミィのことはおれが終わってからにしなよ。物事は順番が大事だから」
 ラウと別れたテイルは尚も前に進む。向こうからはケルドが試合開始の瞬間を今か今かと待ち受けていた。テイルは悪戯っぽくにっと笑うと、意外なことを言い出す。それも大声で。
「これで1勝1敗だよな! 大将! 白黒付けようぜ!」
「ちょっと待てテイル。1敗ってなんだ1敗って」
 あわててリードが文句をつける。意味がわからない。
「ミィの分に決まってるだろ。さっきのでようやくイーブン」
 ミィはきょとんとしている。まだ意味がのみ込めてない。
「ミィ、おまえうちのチームで負けたんだよな、そうだよな」
(わたしが負けた……このチームで、このチームの一員として)
 遅まきながら理解した。もう少し好きになれるかもしれない。
「はい! 負けました!」
「いくらなんでもそれをリセットというのは、いくらミツルさんが寛大でもかけがえのないプライドってもんがあるだろ? 勝負はやっぱり、正々堂々じゃないといけないよねえ」
「あの野郎、もしラウが負けてたら何事もなかったかのように黙って試合してたな」
 どうもそういうことらしい。ミィは、それを知って尚不快ではなかった。あの人はきっと善人じゃない。ミィはそう思った。ミィに便宜を図ったのも単なる慈善行為ではない。彼はきっと、ここで遊びたかったのだ。猛者が溢れる地縛館で。ミツルのいる地縛館で。それでもよかった。むしろそれがよかった。
「なるほど。先鋒はケルド対あの娘でこちらの勝ち、中堅はレザール対ラウンドであちらの勝ち。そうなると次は大将戦か。ケルド、そういうわけだから下がっていろ。おまえの出番は終わった」
「ミツルさん、あいつの言い分を認めるってんですか?」
「偶にはこういうのも悪くない。これもおまえの思い通りか? テイル」
 西の全一のリーダーにしてエースプレイヤー、ミツル・アマギリ。彼はすくっと立ち上がり、ギャラリーの声援を受けつつゆっくりと歩き出す。いつものように。歓声をじっくり受けるのも義務とばかりに。目と鼻の先ではテイルが人差し指をくいくいっと動かしている。フィールドに足を踏み入れたミツル・アマギリは、テイルに向かって手を軽く突きだし、言った。
「あの試合以来、おまえとやりあうのを楽しみにしていた」
 "最後尾の尻尾(テイル・エンド・テイル)"
 ティル・ティルモットがフィールドに立つ。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました!
↓匿名でもOK。なんか送っちゃいましょう。ワンチャン更新意欲と更新頻度が跳ね上がります。


□前話 □表紙 □次話




































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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