「いつも通りの作業に飽きただろ。目の前でみせてやるよ。歴史が変わる瞬間を」
 東西南北中央、それぞれに歴史がある。世界の歴史。決闘(デュエル)の歴史。時には清く美しい汗と共に。時には正視に耐えない血と共に。世界はカードゲームで出来ている。
「もういいだろ? おまえらの実績は認める。けどな。西の記録をみてみろよ。おまえさんとこの名前が多すぎる。それじゃあ駄目だ。それじゃあ退屈だ。移り変わってこそのTCGだろ」
 リードは左腕に取り付けていた決闘盤(デュエルディスク)を右手で掴んで外し、腰を落として構える。残弾は常に一発。十分だ。彼はそう考える。一発もあるという幸運。一発あればどこまでも掘り下げられる。一発あればどこまでも駆け上がれる。今自分が行っている競技はそんな競技。そう彼は認識していた。
「エアーズロック……イン! パク! トォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 まるで円盤投げのように、全身の筋力を解放して決闘盤を空高く放る。フォロースルーはガッツポーズを兼ねていた。勝利を確信した男の顔は限りない充実感で満ちている。大空にその勇姿を示し、落下するコアラ。解放されたコアラの野生は、ヴェロキラプトルの鋭い爪の一撃 ―― それも首筋の急所を狙った必殺の一撃 ―― すら弾き返すと言われている。
「これからは……」
 彼は高らかに宣言した。
「俺達の歴史だ、ミツル」






Duel Episode 5

Team Burst〜撃沈! リード玉砕〜


「ちぃっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 両手を地について絶叫するのはTeam BURSTのリーダー、リードだった。こんなはずはない。これは何かの間違いだ。リードは必死に現実から目を逸らそうとするが、試合の立会人を兼ねていた実況者 ―― YAICHIは無情にも決着を告げる。
『大技の応酬を制したのはミツル・アマギリ。チームアースバウンド3回戦突破!』
 ミツル・アマギリが静かに右腕を挙げ、観客やチームメイトの声援に応える。西のトップチーム:Earthboundのリーダーにして、西部個人ランキング1位を不動のものとする西の英傑。トレードマークを通り越し、今やユニフォームと化した漆黒の決闘服が今日もスポットライトを独占している。
 それは西の日常風景。
『予想外の接戦! だが! やはりアースバウンドは強かった。番狂わせは起こらない!』
 順当な結果。それはそうだろう。誰もが試合前にEarthboundの勝利を予想して、誰もが予想したとおりEarthboundの勝利で終わる……いや違う。少なくとも彼は。
「くそったれ!」
 拳を振り上げ勢いよくく振り下ろす、が、その腕はいつまで経っても落ちてこない。
「利き腕はやめておけ。1人で勝手に悔しがる前に反省会だろ。主におまえのな、リード」
 呆れ顔で腕を掴んだのは彼のチームメイトの1人、ジャック・(エース)・ラウンド。愛称ラウ。多機能型の銀縁眼鏡をかけ、辞書を手に持って佇むのが人一倍似合う男。中央生まれで育ちも良く、広範な知識は勿論、常に沈着冷静な判断を下せるチームの万能鋏……というのがリードの評価でありそこに嘘はない、が、100%の敬意を持ってその説明を終えたこともない。それは彼の辛辣な性格に起因する。もっとも、性格というならこちらの男はより厄介かもしれない。
「やっぱうちのリーダーはやることが違う! 駄目だ、これは笑い死ぬ。やばい」
 なんの躊躇いもなく、文字通り笑い崩れるのはテイルだった。名は体を現すを地で行きたいのか、怪しげな尻尾を腰の辺りからぶら下げている。彼の辞書に遠慮の文字はあるにはあるが、限界まで薄くなっており非常に読みづらい。そしてこのチームにはもう1人、
「 『これからはおれたちの時代だ、ミツル』 ここまで言って負けるとかどんな気分?」
 静かに追い打ちをかけるのはパルム・アフィニス。このチームでは最も若い。
 いつも通りの光景として、ラウの説教が始まる。
「あれだけ慎重に行けと言ったのに。ああも見事に引っかかる」
 相手が傷心状態か否かは一切考慮しない。する気もない。
「《死皇帝の陵墓》でライフコストを払い、コアラの致死圏内までライフを下げる。ここまでが撒き餌。その撒き餌にまんまと引っかかり、のこのこ釣り出された強欲なコアラを《バトルフェーダー》できっちり止め、残り3000を直接攻撃できっちり削る。何が任せておけだ。おまえには学習能力がないのか? 確かに名前だけは売れたな。これで一躍有名人だ。それが狙いなら見事だと言っておこう」
 説教と皮肉の混合物を雨あられのように投げられて黙っていられるほど、彼の、リードの堪忍袋は大きくない。袋のあちこちに穴が空き、リードはラウの胸ぐらを掴む。
「こぉんの……」
「なんだ? 正しい反論があるなら聞こう」
 無言のまま数秒、ようやくリードは口を開いた。
「……悪かった。次は上手くやる。すまない」

 最初に帰ったのはテイルだった。ふと気づくともういない。よくあることだ。次にラウが 「大学のレポートが残っている」 と言い残して去る。残るは4人。もっとも正式なチームメイトはリードとパルムだけ。残りの2人は傭兵 ―― 頭数を合わせる為の存在。彼らにはリードの方から礼を言って解散。リードの傍に残ったのは1人だけ、最年少にあたるパルム・アフィニス。
「あの判断は正解」
 最も若く、最も小さいが、彼は物怖じしなかった。
 5歳は年上のリード相手に対等以上の態度を取る。
「もしラウを殴ってたら、ぼくはチームをやめてたよ」
「見損なうなよ。あいつらはよくやった。戦犯はおれだ」
「……」
「なあパルム。おまえ大会に出る気はないのか? 選手として」
「面倒な連中もいるから。そこまでして出たくなるほどの興味が無い」
「そうか。まあ、たとえ裏方でも、おまえがいてくれて助かってるしな」
「ねえリード。そんなに優勝したいの? そんなに目立ちたいの?」
「スポットライトを浴びるってのはいいもんだ。おれはそう思う」
「あんまりピンと来ないな。あいつらが照らすスポットライトなんて」
「それでもおれは脚光って奴を浴びてみたい。のし上がりたいんだ」
 リードは、腹の底から絞り出すように呟く。
「いつか……必ずな」

                   ―― Now Dueling ――






「やれ、《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》。強豪(はめつ)のフォトン・ストリーム!」
「《万能地雷グレイモヤ》を発動。《銀河眼の光子竜》を……」
「そんなものに引っかかると思うか。《銀河眼の光子竜》の効果発動。こちらの《銀河眼の光子竜》と貴様の《光帝クライス》を、バトルフェイズの間ゲームから除外!」

銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)(効果モンスター)
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードは自分フィールド上に存在する攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースし、手札から特殊召喚する事ができる。このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。(以下略)


『フェリックス選手、《銀河眼の光子竜》の効果で地雷を迂回! しかし、ケルッコ選手のモンスターも戦闘破壊を免れる! 準決勝第2試合。2人の決闘者が決勝進出を目指し競い合う。残りライフはお互い2500。果たして、Team Earthboundに挑むのはどちらのチームか』
 実況の声が鳴り響く中、ケルッコは打算の網を張る。
(Team Galaxyのフェリックス。この威圧感、この雰囲気、紛れもなく強豪。それがいい。こちらのブロックにはろくなのがいないからベスト4までこれた、そんな風に言われるのは癪だからな。こいつらを踏み台にして勢いをつけ、Team Earthboundのところまで一気に駆け上がる)
「ドロー!」 『さあ、今度はケルッコ選手の反撃! 何を見せてくれるのか!』
「…… "更に" 手札から《フルール・シンクロン》を召喚。レベル6《光帝クライス》に《フルール・シンクロン》をチューニング。時は満ちた。《フルール・ド・シュヴァリエ》をシンクロ召喚」

フルール・ド・シュヴァリエ(シンクロ・効果モンスター)
星8/風属性/戦士族/攻2700/守2300
「フルール・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上:相手が魔法・罠カードを発動した時に発動する事ができる。その発動を無効にし破壊する。この効果は自分のターンに1度だけ発動する事ができる。


 エース・モンスターの到来に、フェリックスは一定の評価を与える。  「中々のモンスター。もっとも、攻撃力が300上がった程度今更どうということはないな」 いかつい表情で凄むフェリックスに対し、若きケルッコは汗だくになりながらもにっと笑う。疲労を感じるわけもない。ここまできたのだ。ようやくここまでこぎつけた。既に勝利への航路はできている。後は仕上げの問題でしかない。
「その驕りが敗因だ。《フルール・ド・シュヴァリエ》は、おまえのマジック・トラップを1度だけ無効にすることができる。そしておまえの場に伏せカードは1枚。フリーパスというわけだ。フェリックス、あんたはもうとっくの昔に詰んでるよ。強豪ぶっていられるのも今日までだ」
『ケルッコ選手が掌に気を集中させている。これは、この呪文はぁっ!』
「天よりの鉄槌よ、愚かな龍を銀河の塵と変えろ! 《ハンマーシュート》!」
 それは思わぬところから来た。剣を構えた《フルール・ド・シュヴァリエ》からではなく、デュエルオーブを付けたケルッコの掌から。ここ一番まで温存していた虎の子の1枚。大物狩りへの渾身の一手。手応えあり。大物が爆散して果てる手応え。必要以上のオーバー・アクションを終え、悠々と顔を上げるケルッコ。しかし、その表情は歓喜によっては染まらない。
「なぜだ! なぜ《フルール・ド・シュヴァリエ》が破壊されている。なぜ……」
「愚か者め。《ハンマーシュート》は 『フィールド上に表側攻撃表示で存在する最も攻撃力が高いモンスターを破壊する』 それが敵であるか味方であるかは問題としない。そして《フルール・ド・シュヴァリエ》が無効にできるのは敵の呪文のみ。おまえの《ハンマーシュート》を無効にすることはない」
「そんなことは知っている。《フルール・ド・シュヴァリエ》の攻撃力は2700。3000の攻撃力を持つ《銀河眼の光子竜》よりも低い……し、しまった」
『このプレイングミスは痛恨! ケルッコ選手は、このターンの始めに永続魔法を発動しています。その名は《強者の苦痛》。《銀河眼の光子竜》の攻撃力は800ポイントダウン! 《フルール・ド・シュヴァリエ》の攻撃力を下回っていたのです。新人離れした正確なプレイングにより、下克上を続けていたケルッコ選手……ここにきて、準決勝のプレッシャーにあてられてしまったか!』
(おかしい。こんな初歩的なミスを犯すなんて。準決勝のプレッシャー? そんなもので俺が……)
「まさか……これが……あの……馬鹿な……そんなものに……この俺が惑わされるはずが……」
「終わりか。ならば決着を付けるぞ。ドロー。《スタンピング・クラッシュ》を発動。《強者の苦痛》を破壊。《銀河眼の光子竜》の攻撃力は3000に戻る。格の違いを教えよう。やれ!」


銀 河 流 星 強 豪 群(ギャラクシー・メテオ・ストロング・ストリーム)



『勝ったのはチームギャラクシー! 決勝進出!』
「雑魚が強豪に挑もうとするからそうなる」
 悠然と睥睨するフェリックスの視界に、次なる、そして最後の敵が姿を現す。
 漆黒の決闘服に身を包んだ西の常勝軍団、その名は ――
「来たかEarthbound。そろそろ決着をつけよう」

『今大会も遂に決勝。よくぞここまで勝ち残った。東の方角から勝ち上がってきたのは 『強豪』 の名をほしいままにするTeam Galaxy。久々の決勝進出だ。念願の初優勝なるか!』
 Team Galaxy。彼らの表情には自信が漲っていた。
『西の方角からは……勿論こいつらだ! Team Earthbound! 連覇まであと1勝。主力の離脱もなんのその! このまま優勝を持って行ってしまうのか!』
 Team Earthbound。彼らの表情には確信が満ちていた。
『先鋒として出てきたのはTeam Galaxy:フェリックス選手と、Team Earthbound:レザール選手。試合全体の流れを占うこの決闘。一瞬も眼を離せない!』
「いくぞ」 「いいぜ」

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Technological Card Duel!


『SDT、先攻を取ったのはフェリックス選手だ!』

「始まった。リード、あんたはこの決闘どうみてる?」
「チームギャラクシーは腐っても強豪だ。腐ってもな」
「ふーん」 「パルム、おまえは?」 「強豪だからね、腐っても」

『フェリックス選手は動きを見せずにターンエンド。レザール選手の行動待ちかぁ?』
「俺のターン、ドロー。モンスター、マジック・トラップを1枚ずつセットしてターンエンド」
 場はがら空きであるが、レザールは敢えて攻めない。各々、自らが得意とする戦型を優先した格好。先に仕掛けたのは先攻の決闘者。力を溜めていたフェリックス。
「俺のターン、ドロー。ファーストアタックはもらった。手札から2枚の《銀河眼の光子龍》を《融合》。龍の尖兵、《ツイン・フォトン・リザード》を融合召喚。こいつの能力は知っているだろうな、レザール!」
「《ツイン・フォトン・リザード》の効果、リリースすることで融合素材を墓地から喚び出す」
「ご名答だ。効果発動! 墓地から《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》2体をフィールドに特殊召喚!」
「いきなり派手なことを。息切れしないようにしてくださいよ」
「無用な気遣い。おまえこそ、恐怖で酸欠を起こすなよ、レザール」
 決闘者が何かを仕掛けるときの表情。果たしてフェリックスは動いた。全身から紫の、霧のようなものが吹き出し、銀河眼の、翼から漏れる粒子と混ざって伸びる。フェリックスは嗤い、リードは唸る。
「でた! フェリックスの【強豪軍(パワー・マーチ)】! 強豪だ。じわじわと強豪にみえてきた!」
「おいみろよあれ……」 「強豪がいるぜ」 「そりゃ決勝だもんな」 「バーカ、強豪じゃなくても決勝に出ることくらいあるさ」 「だけどこれどうみても強豪だろ」 「なんか語りたくなってきたな」 「なんか逸話とか調べたくなるような……」 「この雰囲気がたまらねえよな……」
 フェリックスの必札奥義【強豪軍】。雰囲気だけの強豪と揶揄され続けてはや5年。逆転の発想。 『強豪』 の看板を背負った決闘者が醸し出す独特の雰囲気を《銀河眼の光子竜》 ― 強豪感溢れる巨龍 ― の粒子に混ぜ込み散布。直に強豪感染を引き起こす。いわば強豪の押し売り。この霧に包まれた哺乳類及び決闘者は、醸し出される強豪感に押し潰されて平常心を失い、まともな決闘の続行が困難になってしまうという。事実、決勝に至るまで並み居る格下決闘者が不可解なプレイングミスで敗退していった。ひとたび強豪に感染すれば最後、全身が恐れおののき、敗北に至る。
「遂にこの俺が覇を唱える瞬間が来た。強豪に跪け、レザール。《銀河眼の光子竜》で壁を攻撃……ここで効果を発動。《銀河眼の光子竜》と壁モンスターをゲームから除外する!」
「でたぁ! 壁を強制的に排除、ダイレクトアタックへのコースを……」
「気が早いんだよ! 速攻魔法:《禁じられた聖杯》を発動」
 除外寸前の発動。レザールは、臆することなく魔術を選ぶ。
「《銀河眼の光子竜》の効果は無効化される。もっとも、こいつは《デモンズ・チェーン》と違って攻撃までは止めない。それじゃあご対面だ。ナージャとキスする権利をやるよ」
「止めたぁ! 《レプティレス・ナージャ》! 鉄壁のディフェンスで通さない!」
「それだけじゃないぜ。バトルフェイズ終了時、《レプティレス・ナージャ》の効果発動。こいつとキスしたウドの大木は、腑抜けて攻撃力が "0" になる」
「 『強豪軍』 をものともしないというのか。ターンエンド」


Turn 4
■フェリックス
 Hand 4
 Monster 2(《銀河眼の光子竜》/《銀河眼の光子竜》)
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□レザール
 Hand 4
 Monster 1(《レプティレス・ナージャ》)
 Magic・Trap 0
 Life 8000

「ドロー。そいつを放置しておくほど俺達は悠長な決闘者じゃない。攻撃力 "0" となった《銀河眼の光子竜》Aと、《レプティレス・ナージャ》をリリース!」
 特定の条件の下、相手方のモンスターをリリース・コストに変えるモンスター群が存在する。《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》、《ヴォルカニック・クイーン》、そして、
「《レプティレス・ヴァースキ》を特殊召喚。効果発動、1ターンに1度、表側表示で存在する相手モンスターを破壊することができる。《銀河眼の光子竜》Bを破壊。そいつとドッグファイトなんてご免だ」
「恐るべきは蛇の女王。毒霧がもう1つの銀河を覆い尽くしたぁ!!」
「こちとらトップチームなんだ。格下が強豪ぶったところで知ったこっちゃないんだよ。さあ行くぜ。バトルフェイズ、《レプティレス・ヴァースキ》でダイレクトアタック! レプティレス・スパイラル!」
「ぐあっ!」 蛇の尾がフェリックスを穿つ。
「1枚セットしてターンエンド」

レザール:8000LP
フェリックス:5400LP

Turn 5
■フェリックス
 Hand 4
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 5400
□レザール
 Hand 3
 Monster 1(《レプティレス・ヴァースキ》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「やっぱしこういう展開になったね」 パルムは、頬杖をつきながら経過を見守っていた。
「フェリックスの【強豪軍(パワー・マーチ)】は、虎の威を幾らかでも感じる連中、ぶっちゃけ格下か、精々同格までにしか効かない。雰囲気強豪と言われちゃうのも仕方ないか。これじゃトップは取れない」
「そうくさしたもんじゃないぜパルム。タッグとか勝ち抜き戦とか、実力差を広げることに意義のある決闘だとかなり役に立つ。流石の高等技術だ。やっぱ強豪は違うぜ」
(あーあ。しっかり感染してる。権威主義に肩までどっぷり。これで天下を取るとか言っちゃうからなこの人。ん? ああでも、肩までどっぷりだから天下取りたいとか考えちゃうのかな)
「ドロー。手札から《カードカー・D》を召喚。効果発動。こいつをリリース、2枚引く」
「失った分の戦力の補充か。間違ってはいない、が、その隙を見逃すと思うか!」

レザール:8000LP
フェリックス:2800LP

「ぐはぁっ!」
『6ターン目、再び《レプティレス・ヴァースキ》のダイレクトアタックが決まった! 強い、やはり圧倒的に強い! 強豪Team Galaxyをもってしても、Earthboundの牙城は崩せないのか』
「メインフェイズ2。手札から永続魔法:《強欲なカケラ》を発動。ターンエンド」

Turn 7
■フェリックス
 Hand 6
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 2800
□レザール
 Hand 3
 Monster 1(《レプティレス・ヴァースキ》)
 Magic・Trap 2(セット/《強欲なカケラ》)
 Life 8000

「もう少し上げていこうぜ。折角の決勝がこれじゃあ、観客が盛り上がらない」
「いいや。観客はきっと盛り上がる。レザール、おまえは少しばかり調子に乗りすぎた」
 フェリックスは、再度全身に力を込め霧を放射した。決闘が進み、心地好い決闘汗が流れる……彼にとっては好都合だった。【強豪軍】、その燃料は口許から毛穴に至るまで穴という穴から湧き出るパワー・プレイヤー・フェロモン。銀河眼の残滓に混ぜてフェリックスは【強豪軍】を放射し続けた。
「そいつは効かないと言わなかったか? どれだけ放射しようが俺には効き目がない」
「そんな話は誰より知っている」 「ならなんで無駄なことを続ける」
「おまえには無駄かもしれないな。おまえには」

「強豪が苦戦してるぜ」 「強豪でも苦戦するんだ」 「相手が相手だからな」 「でも! あのレザールと渡り合ってる。その辺の決闘者ならとっくに潰れてるよ」 「強豪ならではの粘りか。流石だぜ」 「あれはまだ何かを隠してる。あの人ならやってくれるんじゃねえの」 「強豪の必殺技か。やべえ!」

「観客が盛り上がりだした? 死力を振り絞り立ち上がる、その姿に強豪の意地をみたわけか。そいつを【強豪軍】で数倍に増幅し期待に変える。歓声だけはもらえる……が、単なる期待で終わる」
「終わりじゃない。時間をかけすぎたなレザール。既に 『強豪』 は溜まった」
「溜まった?」
「残念だったなレザール。効きもしない【強豪軍】を何の意味もなく撒いていたと思ったか? おまえが余裕で受け流している間も観客は強豪に感染していた。熱しにくく冷めやすいのが強豪だが、こうも長く浴び続ければどうなるか。重度に感染した観客は何をする? そうさ。増幅して撒き散らすのさ。 『名声』 としてな! 強豪は1人で強豪になるんじゃない。大衆に認められて初めて強豪と呼ばれる。大衆の追認を受けて強豪はより強豪となる。決勝まで上がり、おまえと闘ってる間、既に!」
「まさか……あんたの狙いは……」
「その通り。俺が撒いた強豪の種を観客が育てて大樹にする。その実を囓ればどうなるかな? おまえは強豪を誤認した! はあああああ……ふっ!」
「吸っているのか。自ら発した強豪の霧を吸って……」
 大衆によって肯定され精度を増した 『強豪』 を、己の身に再度吸収したらどうなるか。瞬く間に霧が晴れ、強豪を吸い出された観客が元に戻ってゆく。同時に、変わっていくものがある。
「【強豪軍】は格下か精々同格にしか通用しない。しかし! 己は己と同格、己には通用する」
「おおっと! これは盲点をついた絶妙なプレイングだ! フェリックス選手が変わっていくぅ!」
「俺は強豪……俺は強豪……俺は強豪……俺は強豪……俺は強豪だあああああああ!」
 解き放った強豪感が観衆の期待を上乗せして再収束、より高位の強豪として昇華されていく。
「あれ? なんだ強豪なんていないじゃないか」 「強豪っぽい気がしてたんだけどな」 「強豪詐欺だよ強豪詐欺。最近多いから」 「あいつだ。フェリックスの強豪詐欺だ」 「あの野郎……」
 霧から覚めたギャラリーが口々に強豪詐欺をさえずる、が、その声はすぐに止む。
「おいみろよあれ……」 「なんてこった……」 「あの、押しつけがましさのない佇まい……」
「強豪だあ! 強豪がいるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そこには ―― 雄々しく翼を広げた1人の強豪がいた。

「ふう。レザール君。君と闘えるのを光栄に思う。先程の攻撃は実に素晴らしかった」
 彫りの深い顔立ち、鋭利な鼻、妖艶な唇、1キロ先まで射貫くような眼光、全てが強豪の "顔" を彩っている。先程まで挑戦者であった筈が、まるで立場が逆転したかのようにレザールを見下ろす。
「てめえ……」
『おおっと! なんという佇まい。評価している。強豪らしく敵に一定の評価を与えている』
「だが!」 『強豪だ! この逆接は強豪の常套句』
「私の決闘はその上を行く。ドロー」
『なんという強豪のドロー! 指先から強豪が溢れているぅ!』
「手札から速攻魔法:《サイクロン》を発動。セットカードを破壊する」
『おおっとお! ここで《サイクロン》! 高等呪文《サイクロン》! 流石は強豪中の強豪!』
「それでは披露させてもらおうか。真の強豪 ―― ギャラクシー・フェリックスの決闘を。第一の光芒《OToサンダー》Aを6番に召喚。このモンスターの効果により第二の光芒《OKaサンダー》Aを7番に召喚。まだだ! モンスター効果を続々と、そして堂々と発動! 第三の光芒《OToサンダー》Bを9番に、続いて第四の光芒《OKaサンダー》Bを10番に連続召喚」
『一気に4体ものレベル4光属性モンスターを展開! ここから一体何をするつもりなのか!』
「オーバーレイ! 闇属性、《竜魔人 クィーンドラグーン》を7番と9番にダブルエクシーズ!」

竜魔人 クィーンドラグーン(エクシーズ・効果モンスター)
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2200/守1200
レベル4モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、自分の墓地のレベル5以上のドラゴン族モンスター1体を選択して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターンそのモンスターは攻撃できない。(以下略)


「《竜魔人 クィーンドラグーン》……これまでにない投盤を……ぐっ」
 怒濤の連続召喚が生み出す衝撃波がレザールの土手っ腹を抉ってゆく。その間もギャラクシー・フェリックスの連続召喚は止まらない。速く、鋭く、そして何より美しく。
「効果発動。《竜魔人 クィーンドラグーン》のオーバーレイユニットを1つずつ取り除き、墓地の《銀河眼の光子竜》2体をフィールド上に引き上げる。蘇れ! 2匹の《銀河眼の光子竜》!」
『あっという間に戦線を回復ぅ! これが! これが強豪フェリックスの狙いだったのか!』
「戦線を回復するのが狙い? ノン! 鮮明に、明瞭に、瞭然とノン! 強豪の決闘は原状回復に妥協しない。2体の《竜魔人 クィーンドラグーン》を祭壇に捧げ《ドラゴニック・タクティクス》を発動」

ドラゴニック・タクティクス(通常魔法)
自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスター2体をリリースして発動する。
自分のデッキからレベル8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。


「まさか!」 「これは!」 「眩しい!」 「強豪が眩し過ぎてとてもじゃないが正視できない!」
『これは驚き! 入れ替わり立ち替わり、シンメトリックに強豪の花を咲かせているぅっ! なんという美しいコンボ! 観衆も総立ちでこの強豪ぶりに見惚れているぅ!』
「輝け! 光こそが! 栄光こそが強豪にふさわしい。3体目のギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴンをデッキから特殊召喚! これこそが! ヴェリィ・ストロング・フォーメーションだ!」


「光から闇、闇から光。4本の電柱が3匹の光龍に化けた!」
 リードは身体を観客席から乗り出して叫び、そして慄く。
「あれだけの召喚を可能にする投盤技術。フェリックス……いや、ギャラクシー・フェリックス……」
「バトルフェイズ、《銀河眼の光子竜》で《レプティレス・ヴァースキ》を撃破! このターン、残りの2匹はクィーン・ドラグーンの誓約効果により攻撃はできない。マジック・トラップを1枚伏せてターンエンド」

Turn 8
■ギャラクシー・フェリックス
 Hand 1
 Monster 3(《銀河眼の光子竜》/《銀河眼の光子竜》/《銀河眼の光子竜》)
 Magic・Trap 0
 Life 2800
□レザール
 Hand 3
 Monster 0
 Magic・Trap 1(《強欲なカケラ》)
 Life 7600

「ちっ、ドロー……スタンバイフェイズ、《強欲なカケラ》に強欲カウンターを1つ置く。モンスターを1体、マジック・トラップを2体セット。ターンエンドだ」
「甘い! 《砂塵の大竜巻》! セットカード1枚を光の速度で破壊する」

「見ろよパルム、あのレザールが完全に押されてる。【強 豪 循 環(パワー・サーキュレーション)】とは考えたもんだ。一旦強豪を空気中に放出してから身体に戻す。倉の中で熟成するだけでは強豪のラベルは貼られない。市井(しせい)に強豪を撒いてから、それを体内に戻すことで自他共に認める強豪が誕生する。自分の中にただ強豪を溜め込んでいたときと違って、今の強豪には嫌味がない。角がとれてやがる。あれならそうそう揺らがない。あいつ、上手いところに目を付けやがったぜ」

「くっくっく、フェリックスめ遂にその真価を発揮したか」
 チームギャラクシー、参謀:ゴック・アイゼンマイン。
「あの可動式の羽根作るのに32時間はかかったからねえ」
 チームギャラクシー、工兵:バーベル・クラプトン。
「きゅるっきゅう。大変だったなあ。徹夜の作業だったぜ」
 チームギャラクシー、歩兵:ガックブルー・ハラハーラ。
「ここからはチームギャラクシーの独壇場……いけ!」
 チームギャラクシー、大将:ゼクト・プラズマロック。

「私のターン、ドロー!」

「銀河を〜駆け〜ろ〜♪ ギャラクシィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜フェリックス!」
「GO! GO! KYO−GO! GO! GO! KYO−GO! レザールた・お・せ〜GO!」

「聞こえるかねレザール君。君は強豪の風下に立ってしまったのだよ。《貪欲な壺》を発動。デッキからカードを2枚引く……《スタンピング・クラッシュ》を発動。セットカードを破壊。バトルフェイズ、中央の《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》で攻撃……効果発動。《銀河眼の光子竜》と貴様の壁を戦闘から除外」
『おおっと! 強固を誇るレザール選手の壁を除いた! これで場はがら空き。でるか!』
「実況よ! 応えよう! 実況よ! 伝えるがいい。強豪がいかに強豪であったかを。聞け!」



銀 河 流 星 強 双 曲(ギャラクシー・メテオ・ストロング・コンチェルト)



『かーなーでーたー! 遂に奏でてしまった。銀河の波を駆け抜ける! 2匹の龍の協奏曲(コンチェルト)! 総ダメージ6000! 一気に形勢を逆転! いやむしろ、終わらせてしまったのか!』
「ふっ、決闘はまだ終わっていない。立ち上がりたまえレザール君。観客が冷めてしまう」
「立ち上がる必要なんかねえよ」 「むっ……」
 ブレスの余波が晴れたとき、彼は、レザールは仁王立ちしていた。
「やるな。曲がりなりにも決勝まで勝ち残ってきただけのことはある」
『これはあ! 評価しているぅ! 対戦相手に一定の評価を与えているぅ!』
「私の【強豪台詞(パワー・ラインズ)】を……」 フェリックスは瞠目した。
「私の最高の技を腹に受けてこうもハキハキと……はっ! なんだ、その輝きは」
「みたいか? それならみせてやる。めんたまひんむいてよーくみな! これが!」
 レザールは着ていたシャツを勢いよく破り捨てた。フェリックスは驚きの表情で視認する。
「なんだそのえげつないほどの腹筋は。その腹筋が私の攻撃を弾いたとでもいうのか」
「勝負には騙し合いが日常茶飯事。顔なんて簡単に作れるし簡単に壊れる。あんたの強豪っぷりは上から貼り付けたシールのようなもの。この腹筋、これがあんたと俺達との決定的な違いだ。いかに見栄えが強豪であろうとも、強豪の決め手は "味" ! あんたの強豪は所詮張り子の虎だ」
「顔だけの強豪だとでも言うのか。薄っぺらであると主張するのか」
「あんたの決闘は潔癖すぎる。壁を駆除、罠を駆除、気色悪いほど綺麗な掃除ぶり」
「それが悪いとでも」 「いんや。俺もよくやる。別に間違ってないさ。けどな」
 レザールはここで一息おくと、腰を据え、角度を変えて語り出す。
「強豪強豪五月蠅いこった。フェリックスさんよ、あんたトップチームの条件ってわかるか? ま、色々あるだろうが、とりあえずこれってのが1つある。勝つことだ。勝たなければ始まらない。そりゃトップともなれば、華があるとか、キャラが立ってるとか、コアなファンは色々要求してくるんだろうが、そういうのも全て勝ってからの話だ。まずは勝たなきゃ、格好いいことの1つも言えないんだよ」
「何が言いたい。そんな御託と、私のデュエルスタイルに何の関係がある」
「あんたに足りないものは1つ、泥臭さだ。いつだって綺麗に勝ちきれるとは限らない。時には無理矢理にでもねじ込んでいかなければ勝てないときがある。トップチームのレギュラーはってりゃ嫌でも身につく技術みたいなもんだ。完璧の代名詞みたいなミツルさんですら、時には勝利を拾いに行かなければならないときもある。俺如きなら尚更だ。それがあんたにはねえ」
(なんだ、このプレッシャーは、こいつのプレッシャーはなんだ……)
 汗。先程までの心地好い汗とは違う。恐怖による汗が止まらない。
「先鋒で長話も後がつかえる。そろそろ決着つけようぜ」

Turn 10
■ギャラクシー・フェリックス
 Hand 0
 Monster 3(《銀河眼の光子竜》/《銀河眼の光子竜》/《銀河眼の光子竜》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 2800
□レザール
 Hand 1
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 1(《強欲なカケラ》)
 Life 1100

「ドロー。スタンバイフェイズ、《強欲なカケラ》に2つ目のカウンターを置く。メインフェイズ、《強欲なカケラ》を墓地に送り、デッキから2枚をドローする」
「大口を叩いた以上、みせてくれるのだろうな。貴様のフォーメーションを!」
「要らん」
「なに?」
「小細工は要らない。一発だ。あんたは一発でわからせる」
(なんだ。これは泥……いや、沼か……奴は、奴の決闘は一体……)
「フィールド魔法:《レプティレス・サプケット》を発動。ほうら。沼地に蛇がよってきた」

レプティレス・サプケット(フィールド魔法)
1ターンに1度、メインフェイズ、ターンプレイヤーは自分フィールド上に「レプティレストークン」(爬虫類族・地・星1・攻/守0)1体を特殊召喚できる。墓地に存在する爬虫類族モンスター1体を除外することでこのカードを対象にする魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする。


「俺の腹筋は攻防一体。泥を被ろうが血に塗れようがあんたに向かって倒れ込む。前のめりだ。あんたのシミ1つない決闘をまだらに塗り替えてやるよ」
 レザールは大きく振りかぶると、全腹筋力を集中、決闘盤を沼に向かって投げる。着盤と共に《レプティレス・ガードナー》とレプティレス・トークンが沼地に消え、ボコボコと音を立てる。いる。何かがそこにいる。レベル4……違う。レベル6……違う。レベル8……違う。巨大な何かがそこにいる。
「俺達の決闘を代弁してくれ。這い出でろ!」




Earthbound Immortal Ccarayhua Advance summon



『で、でたああああああああああああああああああああ! 巨大な、巨大な地縛神!』
(なんという巨躯。しかし、虚仮威しに過ぎん。これを封じてしまえば私の勝利)
「ハッ! 君にはセットカードへのケアが足りなかったようだな。奈落の ―― 」
 その瞬間、フェリックスはレザールの視線に射貫かれ、悟る。
(この迫力……そうだ。コカライアの能力。コカライアの能力は ―― )

地縛神 Ccarayhua(効果モンスター)
星10/闇属性/爬虫類族/攻2800/守1800
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド上に表側表示でフィールド魔法カードが存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。このカードの効果以外の効果によってこのカードが破壊された時、フィールド上に存在するカードを全て破壊する。


 それはいかなる障害をも無理矢理こじ開け、単騎であらゆる壁を透過する力の決闘。仮に、志半ばで朽ち果てたとしても、その執念は天駆ける光龍を底なし沼に引きずり込むだろう。
 冥府への道連れに。
(罠で破壊すれば、私は全戦力を失って闘わなければならない。闘う? あの腹筋と? 素手で?)
 壁と罠の駆除を徹底する姿勢がレザールに余力を残す。潔癖な決闘は、相手にも余力を残すもの。レザールの手札には未だ《スケープ・ゴート》がある。あと10ターン闘ってもいい。
「どちらを選ぼうと俺は一向に構わない。龍と共にくたばるか、龍を失い闘い続けるか……」



選べ



(無理だ ――)
 フェリックスの腕が落ちる。【強豪軍】が【腹筋】に反射された瞬間であった。強豪をとしてのプライドを増幅しすぎたが故に、強豪が折れた反動もまた増幅される。
「バトルフェイズ。ミツルさんに代わって、あんたに強豪(うち)の心得を教えてやる」
 コカライアがその規格外の腕を振り上げる。 「ギャラクシーアイズ!」 縋るようにフェリックスは叫ぶが、交戦状態に入っていない以上、《銀河眼の光子竜》の効果は発動しない。そう、コカライアはそもそも相手になどしていない。地縛神が戦闘を拒むのは潔癖だからではなく、単純に、スケールが違い過ぎるからに他ならない。触り合いにすら発展しないほどのスケール。
 故にその一撃は、他の同攻撃力帯と比べても圧倒的に重い。
「ギャラクシー・フェリックス……あんたの翼はここで折る。喰らえ!」

 強豪はミスにつけ込んでもアテにはしない。

 強豪は顔では語らない。躰で静かに語るもの。

 強豪は引くことはあっても折れはしない。



強 豪 三 訓(アースバウンド・アドモニション)



「ぐはぁ!」 ギャラクシー・フェリックスは、文字通り銀河の流れ星となって飛び果てる。
『けっちゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああく! 先鋒戦を制したのはレザール選手!』
「これだ。この力」 リードは吐き捨てるように言う。
「あいつらの強さの源。戦術も戦略も技術も構築も、西のトップを張る以上一定の水準は当然満たしてるが、あいつらの根っこを支えてるのがあの決闘筋力主義。くそったれ……」
「よくやった、レザール。誰に恥じることもない見事な先鋒戦だった」
「ミツルさんにはまだまだ遠く及びませんよ」
「この勢いのまま、油断せずに闘おう」

アラン・バラック:3200LP
ゴック・アイゼンマイン:2300LP

「《バイス・ドラゴン》と《バロックス》でオーバーレイ! 《終焉の守護者アドレウス》をエクシーズ召喚。効果により《マジカル・アンドロイド》を破壊。ダイレクトアタックだ!」
『決まったぁっ! バラック選手。3回戦で伏兵ジャック・A・ラウンド選手に敗れたものの、それ以外は全勝! 立派に負傷者の穴を埋めてくれました! チームアースバウンド二連勝』

ミツル・アマギリ:7000LP
ゼクト・プラズマロック:3400LP

「《No.20 蟻岩土ブリリアント》でセットモンスターを攻撃。喰らえ!」
「《聖なるバリア−ミラーフォース−》を発動。全てのモンスターを破壊。俺のターン、ドロー……《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚。効果発動。闇属性である自身を除外することで、1000ポイントのダメージを与える。リバース、《闇次元の解放》。除外した《邪帝ガイウス》を帰還……ダイレクトアタック!」
『流石はミツル選手! 残りライフ3400をきっちり削り取ったあ!』
 ミツルは、皆に求められるまま、雄々しく腕を上げて観衆に応える。
『優勝は……』



Team Earthbound



『おめでとう! おめでとうチームアースバウンド。君らが西のチャンピオンだ!』
「気にくわねえ」
 リードは無意識に呟いた。何が気にくわなかったのか。決勝に出られなかったことが気にくわない。チームアースバウンドが優勝したことが気にくわない。3人で決められたことが気にくわない。ゆっくりと腕を上げ、さも当然とばかりに歓声に応えるチームリーダーのことが気にくわない。とどのつまりは全てが気にくわない。柵の棒を握りしめ、もう一度呟いた。 「気にくわねえ」

                     ―― 帰り道 ―― 

「ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。おれだって、おれだって……」
 リードは無意識に飲んでいた。気づくと千鳥足で街を横断している。その様をばっさりと言い表すなら 『惨めな負け犬』 、もう少し穏当な言い方をすれば 『やや惨めな負け犬』 、比喩を交えれば 『雨に濡れた子犬のような負け犬』 。要約するなら 『負け犬』 だ。彼は二軒目で叩き出され、街を徘徊する。どれだけ歩いただろう。流石に酔いも覚めてきたが、彼は 『負け犬根性』 という名の卑屈な酒に酔っていた。足はもつれ、体は流れ、いつしか彼は公園に辿り着く。
「確かこうやって、腕の角度をこうして……こう! あれ? 違う……」
 そこには不思議な生物がいた。年は十代半ば、女子中学生とおぼしき哺乳類が公園であろうことか決闘盤の投げ込みをしている。今日日決闘盤の投げ込みなど珍しくもないが、それが女子中学生なら話は別。大半の女子中学生にとって決闘は投げるものではなく見るものだ。 「女子中学生でもやる気あるのによお」 リードはふらふらと女子中学生に近づいた。
「はっは。畜生。なんでだ。なんで上手くいかねえんだ。どう思うよ、おじょうちゃん」
 無視されて当然。最悪通報されかねない絡み方であったが、彼女は笑みと共に答える。
「もしかして……リードさん、リードさんですよね。凄い! こんなところで会えるなんて」
「はあ? なにいってんだおめえ。ふざけてると決闘盤投げるぞこら。みせもんじゃねえぞ」
 ふと頭を違和感がよぎった。聞いたことのある声……思い出せない。女子中学生とおぼしき体つき。そんな知り合いはそういない。誰だ。誰だ。おまえは誰だ。ふうああゆう。
「ミィです。覚えて……ません……よね、やっぱり」
 酔いが覚め、目の焦点が段々と合っていく。
 リードは思い出した。そんな生物がいたことに。
「ミィ……ヘブンズアッパーの……ミィ……」
「そうです! 以前助けて貰ったミィです」

「時間、遅いぞ。飯に遅れちまうぞ」
「うち、そういうの遅めだから大丈夫です」
 ベンチに座ってみる。なぜ座っているのだろう。リードは少し戸惑っていた。なぜこういうことになったのかよくわからない。酔いが覚めれば覚めるほどに何か道を誤ったように思われる。ここがある種のホテルでなかったのは幸いだが、倒錯していることに変わりはない。
「それに、憧れのリードさんに話しかけてもらえるなんて、こんな機会もうないし」
 『話しかけてもらう』 それはそんなに大事なのだろうか。訝しむリード。
「それで、おれに何の用なんだ? まさか世間話ってわけでもないだろ」
「あ、あの〜」 途端にトーンが下がる。何も考えていないのだろうか。
「あ、そうだ。リードさんのチーム、凄いですよね、今日の大会観てました」
「観てたのか」 「はい!」 「ふーん、観てたのか」 「そりゃあもう。凄くて」
「そうかい。じゃあおれのチーム、おまえの眼にはどう見えたんだ?」
「6人のチームですよね」 「4人だ」 「え? だけど確か6人いて……」
「4人。あとの2人は助っ人。西の主流は知っての通りチームデュエル。といっても中にはハナからチーム組めない奴らもいる。ギリギリで足りない奴ら、要するにおれらみたいなのもいる。後者が前者を引っ張って無理矢理大会に出るなんてよくあることさ。中には実力も人脈もあって敢えて助っ人やってる奴もいるが大抵は単にダチがいないだけ。うちも余所を笑える身分じゃなくて、ほんとは最低5人いないとまわらないところを助っ人雇ってなんとかしてる」
 ミィがほんの一瞬表情を変えた。何を考えているのだろうか。
「で、誰が一番気になった」
「え〜っと、一番心に残ったのは眼鏡をかけてる」 「ラウだな」
「そうそう。ラウンドさんですよね。ジャック……ラウンドさん」
「ジャック・A(エース)・ラウンドだ。西では聞かない形式の名前だが、あいつは中央出身だ。もっとも、中央でも今ではあんまりない名前みたいだけどな。昔の名家はそうだったらしい」
「名家、偉いんですか。貴族なんですか」 「生まれるよりずっと昔の話だって言ってたよ」
「中央出身……決闘があんなに上手いのも向こうで学んだからですか?」
「そうなるな。あいつは中高まで向こうで、それからこっちに留学してきた。うちでは唯一といっていいくらい学歴がまともだよ。そんで頭も良くて決闘も上手い」
「観てました。連戦連勝。あの第2試合なんか一気に勝負を付けちゃって」
「ああ。あいつは確かに勝負を仕掛けるのが上手い。元々は急戦型じゃないのに、相手が1敗して浮き足立ってるのをみるや一気に勝負を仕掛ける。あいつはいつも何食わぬ顔で、最善といえる戦法を迷わず実行できるんだ。ラウに負けたアースバウンドのあいつ、次もいるか怪しいもんだぜ。下からもっと使えるルーキーがあがってくるって話だ。層が厚いからなあそこは」
「ラウンドさんの決闘をみてると 『あんな風にできたらなあ』 って思うんです。お手本みたいで。あ、ほら、テイルさんの決闘も格好良かったんですけど……」
「真似しようとか、考える気にもならないもんなテイルのは。ロデオで地雷原を走破するのが三度の飯より大好きな奴なんだよあいつは。自称 『天才』。自称だけどな、自称」
「はあ」 「あいつは練習もろくにやんねえしな。今日勝ってたのも胡散臭い」 「胡散臭い……」
「得意不得意が偏ってるんだよあいつは。単に好きなことばっかやってるから偏るんだ。同じ偏ってるでもパルムとは違う。ずぼらなんだよ要するに」
「パルム……パルムさんって最後の1人ですよね。決闘するところはみてないけど」
「パルム・アフィニス。気難しそうにみえて実はそうでもないようでやっぱり気難しい奴だが、あいつは少し特殊なんだ。基本的には裏方の技術面を担当してるよ」
 ここでミィは少し黙った。次の言葉を選びかねてるように。
「あいつは甘えさせてくれないから、あいつの前ではいつも緊張する」
 ミィは軽く相槌を打ってもう一度黙る。バツが悪そうに。次に何を言うべきか決めかねている顔だ。チラチラとリードの方を伺っては口ごもる。先に口を開いたのはリードだ。
「おれの名前は出さないんだな。憧れとか言ってなかったか?」
 ミィが明らかに動揺した表情をみせる。何かを間違えたかのように。
「まああんな惨めな負け方した奴について語ることなんてないもんな」
「違います」 「どう違うんだよ。ホントはラウやテイルに会いたかったんだろ」
 ミィの顔がみるみる青くなっていく。リードは、何かが切れたように言い続ける。
「あいつらに頼んでやろうか。サインが欲しいですって。あいつらイケメンだもんな」
 リードはミィの顔を直視しないまま煽り立てた。もう止まらない。
「ラウは口が腐ってて、テイルは根性が腐ってて、パルムに至っては無関心、そんであんな連中よりどうしようもない奴が確かにいるな。笑えよ……」
「違います!」 ミィは両の掌をベンチに叩きつけた。その眼には涙が浮かんでいる。

 ―― あいつは単に気を遣っただけだと思うんだ。あいつはおれが敗戦直後なのを知ってた。本当は葛藤していたに違いない。怖かったに違いない。もしかすると最初は、突然のご対面に舞い上がってて、ここで話してる内に気がついちゃったのかも知れない。いずれにせよ、おれは自分を哀れんで特別視してただけだ。パルムなら 「酔いしれるな」 と言ってるところだ。

「……」 今度はリードが黙った。ミィの迫力に押されて何も言えない。
「ごめんなさい。わたし馬鹿だった。さっきの今なのに話しかけたりして、それであんな失礼な……。でも! 信じてください。わたしはリードさんのことも他の人達と同じくらい尊敬してるんです。あんな風に……あんな風に感情を込めて決闘できるリードさんのことを」
 リードは唇を噛んだ。自分が発した言葉を反芻して今すぐ消えたい気分になる。
「だからあんなこと言わないでください。リードさんがさっきチームメイトの皆さんを語ってるとき、凄い楽しそうで、聞いてるこっちも楽しくなってきて、それで……」
「ごめんな。見苦しいところみせちゃって。折角のファンなのに」
「え……そんなこと……ないです。わたし……ていうか……あの……」
「どうかしてるよ。チームでのし上がりたくてあいつらをスカウトして、そんであいつらはちゃんと仕事したんだぜ。アースバウンドを相手にまともにやり合える連中なんて西にそうはいない。過程はどうあれ、内心どうあれあいつらは成果をあげてくれたんだ。それなのにおれはあんなことを言っちまった。自分の失敗で周りに当たり散らして」
「それは、その、仕方ないと思います。負けたら、やっぱり悔しいから」
「悔しい。勿論それもある。あるけど、最低な話が根っこにあるんだ」
「差し支えないなら教えてください。ちゃんと聞きますから、わたし」
 気がつくとリードは踏みこんで喋っていた。あるいは喋らされていた。
「あいつらは勝ちたいと思ってない。伝わってくるし隠そうともしない。ラウにとってもテイルにとってもチームは腰掛けみたいなもんだ。パルムも、あいつは栄光ってもんを掴みたいとは思ってない。だがおれには夢がある。世界を取る。おれのチームで取る。おれが作った最高のチームで最高の勝利を掴むんだ。なのにあいつらは違う。あいつらの視線は上に向いてない」
「あの、 『聞きます』 って言っておいて難ですが1つ聞いていいですか」
「なんだ」
「それはあの人達が、チームに入ってからわかったことなんですか」
「いいや。ピーンときたよ。人を見る目には自信があるからな」
「それなら、なんでそういう人達をチームに?」
 ミィの意外なめざとさに感心しつつリードは繋ぐ。
「一言で言うと力があるからだ。めぼしい人材は強豪どころにいっちまう。強いところがどんどん強くなるのが世の中だ。所謂エリートってやつを求めてもそうは集まらない。これで探そうと思ったら、これはもう真っ当じゃない奴に目を付けるしかない。それに、少しばかり真っ当じゃない方がチームのポテンシャルを高める上でも丁度いい」
 言葉の意味をとらえあぐね、ミィは小さく首をかしげる。
「小で大を倒すには個々の特性を最大限活かしていかないと駄目だ。普通に上手いだけじゃウリにならない。活かせるだけの希有な個性と、うちに入ろうという奇特な精神、2つ揃ったある種のイレギュラー、それがあいつらだったんだ。この際選り好みする余裕なんてない。だいたいあいつらも負ける気でやってるわけじゃないんだ。無気力とは違う。ただ、目標に対する熱意がナチュラルに欠けてるだけなんだ。おれが、おれにもっとカリスマがあれば今すぐにでも解決する。おれに付いてこいと言わんばかりに道を示してやれればあいつらだって……なのに現実はこうだ。ここ一番でしくじって負けた敗残兵が愚痴ってる。おい、勢いで喋っちまったがこんな話あいつらに告げ口なんてするなよ。こんな甘えた話、パルムに聞かれたら今度こそ愛想を尽かされる。いや、ここで喋るのも十分ダサいか……」
「熱意だけならここに落ちてますよ。あ、あと愚痴も聞けます」
「あ?」
「才能は……どうかな。身体の隅々まで探せば1個くらいくっついてるかも。だけど、熱意だけは保証できます。目標に、勝利に向かって一直線。わたしを……チームに加えてくれませんか?」
 突然の申し出に目を見開いて驚く。完全に酔いが覚めた。
「おいおい。冗談は二十歳超えてから言えよな。まだおまえは……」
「1つ聞かせてください。助っ人の方はなんで正式に入団できなかったんですか」
「あ? そりゃああれだ。半端に上手い連中程あいつらの濃さに負けて自信を失う」
「それなら大丈夫! わたし、失うほど大事なもの……何ももってないんです!」
「おい。自慢して言うことかよそれ。そんなの無理に決まってるだろいくら……」
「情熱が欲しいんですよね。わたし、リードさんとか、あの人達の決闘をみて、感動して、あの人達とやれるならなんでもやります。もし戦力にならないなら掃除とかしますから」

 ―― 最後まで一笑に付すことが出来なかった。今にして思えばなんでその言葉を信じたのかまるでわからない。女子中学生の言葉を本気で信じる駄目な大人が1人いて。だけどこいつはおれの話を必死で聞いて、おれの懐に必死で自分をねじ込んできた。そうだ。熱意。選り好みしてる余裕なんてない。才能は言うに及ばず、熱意にしたところで一緒だ。もしかしたらこれが最後のピースなのではないか。そんなこんなを、おれの頭は適当にこじつけて正当化した。

             ―― Team BURSTの秘密基地(倉庫) ――

「え〜っと、うちのスーパールーキー、天才美少女決闘者のミィだ。よろしくやってくれ」
「何の冗談だ、リード」 冷めきったラウの質問に対し、リードは悠々と答える。
「勿論冗談だ。天才美少女決闘者のくだりは無視してくれていい」
「そういう意味じゃない。おまえはいったいなにを考えているんだと聞いている。答えろ」
「ラウの質問に答えよう。Team BURST5人目の決闘者は以後不可欠。育てていきたい」
「まさかリーダーがロリコンだったとはなあ。いったい何を育てて何を収穫するのかな」
「テイル、女子の前だ。下ネタは控えろ」 「ラウ先生真面目過ぎ」 「尋問するから少し待て」

「質問@:おまえはロリコンか?」
「質問@:おまえが知っての通りだ」
「趣味が変わったということは?」 「ない」
「質問A:その娘のデッキレベルについて聞きたい」
「質問A:市販品に多少の捻りが加えられている程度だ」
「正気か?」 「基本性能の高いタイプだ。改造すれば十分やれる」
「質問B:その娘はどれだけ自分のデッキを使いこなせるのか」
「質問B:公園で投げ込みを続けていた。地盤だけは妙に出来ている」
「質問C:その娘の ―― ミィの体格で闘えると本気で思ってるのか?」
「質問C:肉の堅さよりも心の堅さが衝撃を和らげる、そういうもんだろ」
「質問D:おまえがつきっきりで鍛えるということか」
「質問D:おまえがつきっきりで鍛えるということだ」
「……」 「……」
「苦情@:ふざけるな。なぜおれがそんなことをしなくてはならない」
「苦情@:基礎は重要だ。おれよりも知識豊富なおまえにこそできる」
「疑問@:なぜおまえはこうも堂々と意味不明な要求をすることができる」
「疑問@:どうやらおまえにはまだわからないようだな。おれにもわからん」
「宣言@:今からおれはおまえを殴り倒そうと思うのだが言い残すことはあるか」
「宣言@:わかった。妥協しよう。おまえが内の指導、おれが外の指導を受け持つ」
「確認@:どうしても引く気はないんだな、おまえは」
「確認@:決めたことだ。今更引ける柔軟性はおれにない」
 ラウはうんざりした表情で反転、ミィの前に立つ。
「質問@:年は?」
「ししし質問@:今年で14歳です」
「質問A:本当にやる気はあるのか」
「あります! あ、その、質問A」
「いいよ。わかった。但し当面はこちらの好きにやらせてもらう。当然の権利だ」
「わかってくれたか!」 「おまえがリーダーだ。この程度で人事に口は挟めんよ」
(あらら) テイルは内心呟く。 (こりゃ駄目だ。ラウ先生、追い出す気満々じゃん)
 テイルの読みを知って知らずかリードは元気よく宣言する。
「Team BURST。今日から心機一転頑張っていくぞ!」
 この間パルムは一言も喋らず、ほんの1回だけ頭をかいた。

 ―― ラウにミィをぶつけるのは一種の賭け。賭けってんなら、 『乗りかかったトウモロコシは炭火でこんがりブラックコーン』 という諺よろしく、前のめりにやり通す。尋常一様で世界は取れない……なんて格好良い話をおれは考えていた。いずれにせよ賽は投げられたんだ。もう後には引けない。そんなこんなでおれは、あの異様に縦長な建造物に足を踏み入れた。Team Earthbound訓練施設 『地縛館』。この場所にはあいつがいる。おれが超えるべきあいつがいる。西地区最高のチームリーダーにして、西地区最高の決闘者……ミツル・アマギリが。


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読んでくれた皆さんと頑張ってくれたキャラクターと活躍したカード全てに感謝します。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。

□前話 □表紙 □次話









































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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