「殲圧店長を舐めんなよ」
 17歳の青年が闘技場を凝視する。準決勝第一試合。ミツル・アマギリとパルチザン・デッドエンドが互いに決闘盤(デュエルディスク)を構え、邪帝ガイウスとバッド・エンド・クィーン・ドラゴンが睨み合いを続ける中、当時、高校生のリード・ホッパーが金網の前に立っていた。
「バトルフェイズ」
 ミツルが仕掛ける。気に入らない。気に喰わない。視界に映る何もかも。TCG歴78年(夏)。Team BURSTの主将はたった1人でミツルを睨んでいた。
「熱が違うんだよ、熱が!」

             ―― 死闘峠(デッドエンド) ――

 ミツル・アマギリがトーナメント・シーンに初登場したTCG歴73年の大会……よりも三歩前。当時の西部は荒廃を極めていた。杜撰な決闘行政によりデュエル・ルールが完全に崩壊。無軌道な暴引族が荒れ狂う末期的決闘社会。かつての西部には不足していたのだ。規律と、構築と、全てを束ねる英雄が。

 中央への道が極端に制限され、孤島化(ガラパゴス)を極めた西部。その末路こそ文学性を失った純粋な暴力である。暴引族の集団は来る日も来る日も荒れ狂い、バイクに跨がり路上で暴れ回っていた。ひたすら破壊と略奪を繰り返す。集団で。そう。集団で。情け容赦ない包囲殲滅=かつての英雄・蘇我劉邦の決闘(デュエル)を歪曲した集団リンチこそチームデュエルの華だった。

 そんなある日、暴引族の群れの前に1人の女傑 ―― ファロ・メエラが立ちはだかった。彼女は決闘盤を構えて堂々と言い放つ。よってたかって子供を苛めて楽しいか。そう。ファロの後ろには年端もいかぬ少年が震えながら隠れていた。

 楽しいぜ。クリボーでブルーアイズを釣った時は特になぁ。……嘲笑する暴引族が次々に決闘盤を構える。餓えたハイエナの群れがファロの身体を嘗め回すように見つめていた。

 察しの良い読者諸兄は既にお気づきであろうが、暴引族の真の狙いはファロ・メエラその人である。子供を庇ったままでは対等な勝負など望めない。ジリジリと追い詰められ、半ば強引に決闘が始まった。不平等極まる一対多の決闘が!

 暴引族の先攻。1人目が幻銃士を召喚。粗野な笑みと共に銃士トークンを喚び込む。2人目の暴引族も幻銃士を召喚。銃士、銃士、銃士が並ぶ。

幻銃士(1100/800)
召喚・反転召喚に成功した時、自分フィールド上に存在するモンスターの数まで「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚できる。
また、自分のスタンバイフェイズ毎に、「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに300ポイントダメージを与える事ができる(このターン、「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言できない)
[効果] [4] [闇] [悪魔]


 圧倒的不利。それでもファロは果敢に立ち向かう。ピラミッド・タートルで、ゴブリンゾンビで、ゾンビ・マスターで正面突破を敢行。エースカードの邪神機−獄炎が銃士部隊に突っ込み、最後の1体まで焼き尽くす。ようやく一息……何かがおかしい。銃士が2体。銃士が6体。銃士が14体。銃士が30体。あからさまに増えている!

 なんたる非道! 形勢不利と見るや残りの暴引族が卑怯にも乱入。彼らの言い分はこうである。1人の乱入につき8000ライフをくれてやるのだから不正はない。……詭弁!

 銃士達は背中にキャノン砲を背負っている。隊長機である幻銃士の指揮の下、与えるダメージは銃士1体につき300ポイント。ファロの表情が見る見る内に引きつっていく。幻銃士は4体。そして銃士は30体。ダメージの合計は36000! 

 ファロに大量のライフを与えるのは公平性の為ではない。時間を掛けて嬲り殺す為の方便なのだ。銃士達が背中のキャノン砲 ――シュート・オブ・ビジョンを構える。無情なる一斉砲撃が始まった。防御不可、回避不能。迂闊に逃げれば子供に危害が及んでしまう。ファロは砲撃を受け続けた。耐えて、耐えて、耐え抜いた。

 しかし! 無情なる増援! 銃士が62体。銃士が126体。銃士が254体。銃士が510体。恥知らず達の参戦によって増え続ける銃士・銃士・ああ銃士。最終的に2046体まで膨れあがった銃士部隊がファロの視界を埋め尽くす。

 暴引族の群れはヘラヘラと笑っていた。ルールを守って楽しく決闘してるんだ。乱入上等。なんならそこのガキを参戦させてもいいんだぜ。……孤独なファロを追い詰める。

 子供だけは見逃してくれ。……観念したファロが懇願する。暴引族はほくそ笑んでいた。ああいいぜ。但しこの場で土下座しろ。屈辱の提案。ファロに選択の余地はなかった。身を震わせ、意を決すると、冷たい路上にガンッと頭を叩き付ける。額から血が漏れていた。

 これで満足か。しばらく経って顔を上げると ―― 暴引族は爆笑していた。バーカ、ガキなんてどうでもいいんだよ。死ねや、ファロ。……銃士達が一斉にキャノン砲を構える。連射、連射、連射。シュート・オブ・ビジョンがファロと子供に降り注ぐ。

 ハーハッハッハー! 巻き上がる爆煙と共に暴引族の群れが一様に勝ち誇る。そろそろいいか。ボロ雑巾になったファロを拝むとしよう。少しずつ煙が晴れていく。視界が開けたとき、そこには……ポカンとしたファロが全くの無傷で立っていた。

 バカな。あれだけの砲撃を受けてなぜ。……答えは目の前に浮いていた。あらゆる "傷" を引き受ける黒い龍、すなわち、ブラック・フェザー・ドラゴンの儚くも優しき黒羽根が、2000発以上のシュート・オブ・ビジョンを受け止める。

 想定外の事態に暴引族が慌て出す。誰だ。誰だ。一体誰がこんな真似。……ぐるりと左右に首を振る。いた。20メートル先に立っている。 決闘死盤(デッドエンド) を装備した世にも怪しいエプロン姿の大男。何者だ。てめぇは一体何者だ。

 悪党に名乗る名など無し。……大男はブラック・フェザー・ドラゴンをざっくり生贄に捧げ、アドバンスドローで2枚をドロー。その直後、にわかに突風が吹き荒れた。高等呪文ハリケーン。セットカードが片っ端から吹き飛ばされる。

 それがどうした。無尽の数こそ暴力の完成形。2046体を誇る銃士軍団を前に貴様1人で何ができる。……暴引族の表情が一斉に引き攣った。


 (デッドエンド)


 正々堂々ルールを守って仲良く殲圧。死の狂鬼龍バーサーク・デッド・ドラゴンの全体攻撃が2046体の銃士を一瞬にして一掃。死因となったのは暴引族達の傲慢だった。並み居る銃士全てを攻撃表示とする迂闊なプレイングこそ店意なき横着者の至る道。かれこれ300人以上の暴引族のライフが1ターンでゼロとなり、皆一様に仲良くバタンと倒れ伏す。

 決闘終了後、デッドエンドが2人の元に歩いてくる。ただただ興奮する少年とは対照的にファロは呆然としていた。ふと前を見ると、無骨な右手がただあった。

 "店意(てんい)に叶う決闘者を探していた"

 デッドエンドの瞳には溢れんばかりの店意(てんい)が滲んでいた。ファロは少し考えると、ふっと笑ってその手を掴む。新たなデュエルチームの誕生に少年もまた目を輝かせていた。ファロ・メエラのような正面突破の決闘。パルチザン・デッドエンドのような正々堂々の決闘。なりたい。なりたい。きっとなれるさ。おれだって!

 パルチザン・デッドエンドとファロ・メエラ。西部の復興。世界への架け橋。Team DeadFlameの長きに渡る闘いが今! 始まったのである!

       新機甲決闘文庫:西部英雄列伝より抜粋


DUEL EPISODE 44

店意の名の下に


      ―― インティスタジアム(TCG歴78年) ――

Turn 13
■10000LP
□8200LP
■ミツル
Hand 3
Monster 1(邪帝ガイウス)
Magic・Trap 2(セット/セット)
□デッドエンド
Hand 1
Moster 1(バッド・エンド・クイーン・ドラゴン)
Magic・Trap 3(未来融合/強欲なカケラ/カードトレーダー/セット)
※封印の黄金櫃発動中
■リミッツ
Hand 3
Moster 0
Magic・Trap 2(セット/セット)
□ファロ
Hand 2
Moster 0
Magic・Trap 2

「踏ん張れ! Team DeadFlame!」
 リードのバカでかい声援が耳元に響く。言われるまでもなく。殲圧店長パルチザン・デッドエンドが大樹の両脚に力を込める。
「我が店意(てんい)の結晶、やれるものなら!」
 Team DeadFlame VS TeamEarthBound。13巡目の決闘日和が太陽の熱気で燃え上がる。ミツル・アマギリのターンランプが点灯してから5秒とかからなかった。抜札1秒、指示2秒。兵は神速を尊ぶか。邪帝ガイウスの闇・エネルギーが右拳に集まる。そして、
重力の拳(グラビティ・ナックル)
 来る。ガイウスが来る。両脚に充填した闇・エネルギーをブーストすると、店頭のバッドエンド・クィーン・ドラゴン目掛けて地表スレスレを低空飛行。目を見張るほどのスピードで敷地内に踏み込むと、必殺のミカド・フックを叩き込む!
 ……ガキンという金属音が響き渡った。肉をえぐる音ではない。鉄の塊がきしむ音。バッドエンドではない。デッドエンドでもない。
「さっきの借りは返すよ、ガキンチョ!」
 ファロ・メエラが颯爽と割り込み受け止める。
『こ、これはぁーっ!? 横合いから飛び込む赤い影! 激突主義者が参戦だぁっ!』
 ファロの右腕は鉄の塊と化していた。 "Trap" "Attack" "Burn" OZONEの下で硬い右腕を振り回し、邪帝の拳を受け止める……否!
「そんなシケた拳で!!」
 ファロの両眼がメラメラと燃え上がっていた。
 その場で大きく踏み込むと ―― ミツルのもとへと打ち返す!
『マジカル弾丸ライナー! 《邪帝ガイウス》を吹っ飛ばしたぁーーーっ!』

魔法の筒(マジック・シリンダー)(通常罠)
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。


「……っ!」
 ミツルの表情がわずかに揺らぐ。自爆特攻、道連れ、ドッグファイト、そして魔法の筒(マジック・シリンダー)。一貫した決闘姿勢(デュエルフォーム)。ファロの炎弾が見る見る内に、
『跳ね返されたガイウス・ボールがミツル選手に一直線! このままゴールを!』
 今にも迫り来る二千四百の邪帝鋼弾。軌道良し。速度良し。回転良し。……ならばよし。ミツル・アマギリの逡巡は刹那で消える。右の拳を握り締め、
「翔べ、ガイウス」
『アッパーカットで再度吹っ飛ばしたぁっ!』
 帝王は帝王を知る。78戦77KOを誇る古代ボクシング界伝説の帝王、マイク・グレイソンのフィニッシュ・ブローが邪帝ガイウスの土手っ腹に炸裂。飛べ、果てなき空へ!
魔法の筒(マジック・シリンダー)を殴って打ち消し、上空にクリアされたガイウスボールが……いいや違う!』
(まわ)れ、ガイウス」
「そういうことかい!」
 異変。前衛のファロが真っ先に気づく。ガイウス・ボールの打ち上げ軌道はミツルの真上ではない。斜め前方。45度で舞い上がる。

空      ガイウス(ヤッホゥ!)

陸 ミツル    ファロ   デッドエンド
 
 天を仰いだファロの頭上。フィールドの中間点まで打ち上げられた邪帝ガイウスが満を持して新境地を開拓(アドバンス)。己の身体を球体状に丸め込み、
『廻っている! 得意の重力操作でモーター・ドライブ! 廻る、廻る、邪帝ガイウスがぶん廻る! 一体何をしようというのか!』
「あんにゃろう」
(クリアでなくシュート! 直線でなく放物線(ドライブ)! 狙いはあくまで)
 旧時代サッカー界の皇帝、ヨハン・ガーランドのシュートを伝えよう。大きな放物線を描き、重力を増したかのように急降下。雄々しくゴールネットを揺らすのだ。それこそ、


Gravity Drive!


『立ち塞がるファロ選手の頭上を悠々越えて! ドライブ回転のかかったガイウスボールがDeadFlame陣営へと急降下! 後衛に聳え立つ殲圧店長、そのカードラックへと降りそそぐ! 白銀のバリア……シルバァァァフォォォォッス!』

白銀のバリア−シルバーフォース−(カウンター罠)
ダメージを与えるトラップに対して発動できる。そのトラップの発動を無効にし、相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する


「あたしは眼中にないってか?」
 闘技場に掛かる黒い虹(ジャンピングルグルガイウス)を見上げつつ、赤い唇を噛み締めて。
「上等! あんたの視界を燃やしてやるよ! デッドエンド、全力で踏ん張りな!」
「ファロ!」
 反転したファロがデッドエンドの懐に飛び込むと、鉄板の如き胸板を足で踏み、
『ファロ選手も飛んだぁーっ! 相棒の胸板を踏み台に! そのまま身体を大きく捻る!』
 決闘の情報化が進んだ現代社会。上から圧されるメタ・ハラスメント(メタハラ)の脅威は常にある。ならばこそ。対空砲火の心得は最早常識!
『ファロ選手のジャンピングボレー! またしてもガイウスを蹴り返したぁっ!』
 右に、左に、ガイウスボールが飛び交い、デュエルラリーが苛烈に続いていた。リードが、ダァーヴィットが、そしてギャラリーが手に汗握る。
 ……ミツルは揺らがなかった。スッと右手を前方に伸ばすと、高速で向かってくるガイウスボールを右手でキャッチ。加速の付いた邪帝の板金鎧(フル・プレート・アーマー)の圧力がミツルの全身を押し込むが、鍛え抜かれた肉体がボールの勢いを無理矢理止める。
「……一事が万事、大袈裟な人だ」
 ミツルのつぶやきを余所に、ご満悦なファロが着地を果たす。
「お邪魔虫はお嫌いかい? 坊や」

トラップ・ジャマー(カウンター罠)
バトルフェイズ中、相手が発動したトラップの発動を無効にし破壊する。

ミツル&リミッツ:10000LP⇒7600LP
デッドエンド&ファロ:8200LP

『余所見許さぬ激しい攻防! 直立不動のミツル選手がガイウス・ボールをワンハンドキャッチ! メインフェイズ2へと移行します!』

(お互いがお互いを知り尽くしてる)
 観客席のアリアは右眼でボールを追っていた。左眼で売り子の業務を果たしつつ、素敵に職権を乱用。高まる熱気にゾクゾクと身体を震わせて。
(ミツルがファロを警戒している? もしそうだとしたら、あそこからは決定打が出ない)
 今にも職務放棄しそうな両脚を懸命に堰き止める。その代わり、唯一自由な赤い瞳をフル活用。フィールド全域を観る、視る、ジッと見る。
(この決闘は帝王と店長の頂上決戦。最適化された独裁主義と資本主義が札を握って覇を競うなら、勝利の決め手になるのはきっと!)

(危うく同士討ち)
 激しい攻防にようやく一息。デッドエンドが経営の状態を推し量る。
(老獪な決闘さえ繰り出すようになったか)
 殲圧店長がフィールド上をぐるりと俯瞰する。不動の姿勢で佇むミツルに対し、大立ち回りを演じたファロは両膝に両手を付いていた。
「ハァ、ハァ……暴引族相手にくだらねえ喧嘩買ってた時からさー。礼儀知らずを素通りさせた記憶がないんだよ。知っとけガキンチョ!」
「ファロ、無駄に体力を使うな」
「あぁ? なーに言ってんだ、あんた」
「今は持久戦(バッドエンド)の店意だ。殲圧戦(デッドエンド)の店意では二流が精々……」
「いいんだよ二流で」
「何を言う。我々は……」
 殺気。ファロの殺気がひときわ大きく燃え上がる。
「あいつが超一流で〜、そんであたしら一流? 物は言い様。随分とお優しい世界だね。あれから何年経ったと…… "あの決闘" から!」
 その一言が頭蓋を揺らす。TCG歴73年……5年前……西部スタジアム……あの時、DeadFlameの店意は万全だった。マジック・トラップゾーンには品物を潤沢に揃え、《バーサーク・デッド・ドラゴン》の鋭い牙が《ダークエンド・ドラゴン》の喉元を喰い破る。
 優勢、優勢、圧倒的優勢。ミツル・アマギリのフィールドには、墓地には、手札には、発動可能なカードが1枚たりとも ――


Gravity Cannon!


 突然の轟音。現在(いま)を守っていたバッド・エンド・クィーン・ドラゴンが暗黒の彼方へと消え去った。ぐぃっと視線を上げる……板金鎧の帝王が仁王立ちを決めていた。
「ガイウスか」

邪帝ガイウス(2400/1000)
アドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を除外し、除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、相手に1000ダメージを与える。
[効果] [6] [闇] [悪魔]


『邪帝再臨! ガイウスのグラビティ・キャノンがバッドエンドを粉砕。器なくして生はなし。屍なくては復活の(すべ)もありはしない。そして!』
 グラビティ・キャノンが闇属性と交わり弾け、無慈悲な暗黒災害(ダーク・ハザード)が1000GPの重力波を生み出していた。ついでのような二次災害で店舗の外壁が剥がされていく。

ミツル&リミッツ:7600LP
デッドエンド&ファロ:8200⇒7200LP

『我々は見誤っていた! ガイウスはボールではありません! "歩く生殺与奪権" 邪帝ガイウス堂々再臨! 見事シュートを叩き込む!』
 繰り返す。何度でも何度でもEarthBoundは繰り返す。ガイウスとバードマンを瞬時に入れ替え、EarthBoundが同じ歴史を繰り返す。

A・ジェネクス・バードマン(1400/400)
自分フィールドの表側表示モンスター1体を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する(フィールドから離れた場合に除外される)
[効果] [3] [闇] [機械]


 バッドエンドを葬った勢いそのまま、ミツル・アマギリが右腕を静かに突き出す。黒のカリスマがインティスタジアムを支配していた。見惚れた観客達が喉を鳴らして声を張る。
「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」
『お聞きくださいこの歓声。若干二十歳ながらも、その立ち振る舞いはまさしく帝王! Team DeadFlameに付けいる隙を与えません!』

「なーにがテイオーだ」
 リード・ホッパーが金網の前で吐き捨てる。
(虚仮だ。似非だ。なんでみんなあんなのに騙されてんだよ。観客にウケるようそれっぽくしているだけで何の熱も籠もっちゃいない。口では警戒してるだのなんだの言ってるが、ホントはDeadFlameのことなんざ眼中にねーんだよ……クソッ!)

「あーんのクソガキ!」
 ファロ・メエラも戦場で憤っていた。
「ちょ〜〜っと王座貸してる間につけ上がる」
「落ち着けファロ。今日のおまえは ―― 」
「昨日の今日ならあんたこそ!」
「!!」
 胸倉を掴むほどの勢いに殲圧店長が気圧される。
「5年だよ! あいつが二十歳になるまで何回……違うんだ。今日は違う!」
 決意に満ちた烈火の形相。ファロの言葉がデッドエンドに突き刺さる。
「 "伝説" なんざぶっ壊せ!」

 "この世に必要なものなど何もない"

 TCG歴73年。《ダーク・ゾーン》が生み出す暗闇の真っ只中。当時15歳の少年、ミツル・アマギリはその一言と共にカードを引いた。
(戯れ言を)
 そしてその時、パルチザン・デッドエンドは店意を胸に立っていた。
(品物なくして繁盛なし。交易こそ自由。陳列こそ正義。育成と殲圧、それこそが ―― )
 突然、少年が吼えた。一帯に響き渡る虚ろな咆吼。ピキピキと暗闇にひびが入り、OZONEを塗り潰していたダーク・ゾーンがパリンと割れる。
「自らの意思でダーク・ゾーンを……血迷ったかEarthBound。己の基盤を自ら砕く愚行。そんな店意があるとでも……むぅっ!?」
「《天よりの宝札》を発動」

天よりの宝札(通常魔法)
自分の手札・フィールドのカードを全て除外して発動できる。
自分は手札が2枚になるようにデッキからドローする。


「何たる愚行!」
 殲圧店長が憤る。
「品物全てを無軌道に捨て去り、わずかばかりの現金を得る破滅主義者のブラック・カード。気まぐれな天にへつらい、店意を捨てた愚か者に勝利など!」
「ならおれは……愚か者で構わない」
 そう言い捨てると、目の前の少年は《おろかな埋葬》を発動する。意外にも? 墓地へと送られたのは第三の種族、アンデット族だった。

馬頭鬼(1700/800)
自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外する
⇒自分の墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。
[効果] [4] [闇] [アンデット]


 《馬頭鬼》の効果を発動。前のターン、《終わりの始まり》の発動時、墓地に残したモンスター・カード ―― 《ダブルコストン》を復活させる。残るカードは1枚。そう、1枚。

ダブルコストン(1700/1650)
闇属性を生贄召喚する場合、2体分の生贄にできる
[効果] [4] [闇] [アンデット]


「その選択は正しかろうぞ」
 デッドエンドの両眼が大きく開く。
「カイザー・コロシアムの支配下にあっても最上級を喚べる。墓地のスキル・サクセサーを発動すればバーサーク・デッド・ドラゴンに迫るやもしれん。中々の足掻きではある。しかし! しかし! さりとてしかし!」
(愚者の取引、終末の黒き龍、そして死人。なんたる終末思想。なんたる刹那主義。未来を望む才気溢れた若者の構築ではない。あの少年の心中にはドス黒い闇・エネルギーが満ちている。勝たねばならん。我らが店意が勝たねばならん!)
 畏怖を胆力で抑え込み、歴戦の店長が黒い服の少年を凝視する。
「我らが店意、遅れは取らぬ!」

生贄の抱く爆弾(通常罠)
アドバンス召喚された相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールドの表側攻撃表示モンスターを全て破壊し1000ダメージを与える。


(貴様が最後に頼るのは生贄召喚。それしかないとわかっていた。 "帝" であれ "神" であれ最後の1枚でしもべを繰り出すその瞬間こそ、我らが店意は完熟の時を迎えるのだ)
 デッドエンドが待つ。待つ。待つ。来い。来い。来い。まだか。まだか。まだか。
「ダブルコストンを生贄に……」
 来た。来た。遂に来た。会心の笑みを店意の忍耐で噛み殺す。罠の正体を悟られてはならない。万全の体勢で迎え撃つ。聳え立つ店舗の真正面、ミツルのラスト・カードがOZONEに具現化されるその一瞬……殲圧店長パルチザン・デッドエンドが大きく一歩退いていた。
「……っ!!?」
 対岸に立っているのは少年のはずだった。若干15歳の少年が禍々しいほどのデュエルオーラを発している。有り得ない。圧倒されている。有り得ない。
「何者だ。貴様はいったい何者だ」
「あんたがさっき言ったじゃないか。愚か者だ。自分にすらなれない愚か者だ」
「き、貴様は!」
 生贄召喚! 狼狽するデッドエンドの視界を巨大な何かが埋め尽くす。龍。それは龍。禍々しいまでの瘴気があふれる闇属性の黒き龍。ライフ差も、カード差も、何もかも度外視し、この世の全てを消し飛ばす闇の龍。狼狽を極めたデッドエンドが畏れと共に口にする。

 その名は……

「ガンドラ!」



Destroy Giga Raze!!



 全てを無に帰す破壊竜ガンドラの咆哮。全身から噴き出す無軌道な闇・エネルギーがOZONE空間の全てを消し飛ばす。店舗も、品物も、そして勝利も、何もかもが消し飛んだ。

デッドエンド:0LP
ミツル:50LP

破壊竜ガンドラ(0/0)
特殊召喚できず、召喚・反転召喚したターンのエンドフェイズに墓地へ送られる。
LPを半分払って発動⇒このカード以外のカードを全て破壊し除外する(この効果で破壊したカードの数×300攻撃力がアップする)
[効果] [8] [闇] [ドラゴン]


 デッドエンドがその場で崩れ落ちる。

 ファロがベンチの前で涙を流す

 西部の観客達が一斉に湧き上がる

 西の中心にミツル・アマギリが立っている。

 そして伝説が始まった。

店舗壊滅(ガンドラ)!)
 視界を埋め尽くす暗闇が四方八方に弾け飛び、デッドエンドの時間がTCG歴78年へと戻る。ハァハァと呼吸が大きく荒れていた。バクバクと心臓が激しく鳴っていた。百戦練磨を誇る殲圧店長。その肉体が小刻みに震えている。
「わ、私のターン、ドロー。《カード・トレーダー》で手札を交換!」
(《ドレッド・ドラゴン》。この程度の火種では)

ドレッド・ドラゴン(1100/400)
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を手札に加える事ができる。
[調律] [2] [炎] [ドラゴン]


(震えている。このパルチザン・デッドエンドが震えているというのか……否! 強敵を前にした武者震い。血湧き肉躍ると言うものだ)
「リバース・カード・オープン! 《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から……グラビ・クラッシュドラゴンを特殊召喚!」

グラビ・クラッシュドラゴン(2400/1200)
自分フィールドの表側表示の永続魔法カード1枚を墓地へ送り、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊する。
[効果] [6] [闇] [ドラゴン]


「店舗への侵略を退けよ!!」
 【死炎龍(デッドエン・ドラゴンズ)】の中でも破壊工作に長けた龍人界の用心棒。店内に残る永続魔法と引き替えに、店舗を荒らすならず者を始末する。
「未来融合を墓地に送り効果を発動。グラビトン・クラック!」
 筋骨隆々の龍人が巨大な両腕を大地に向かって振り下ろす。地表を砕き、地面を裂き、縦一直線に伸びる大きな裂け目を造り出し、邪帝ガイウスを呑み込まんとするその瞬間 ――
「……っ!!!?」
 突如、強烈な温水が裂け目から吹き出し、グラビ・クラッシュドラゴンの両眼を潰す。突然の事態に理性を失い、龍人が喘ぎ声を張り上げる。
『ギョッとするカウンター・トラップが炸裂! 虚を突かれたグラビ・クラッシュ・ドラゴンが右往左往。自ら砕いた地盤の下へと落ちていく!』
「……リミッツ・ギアルマか」

ギョッ!(カウンター罠)
ゲームから除外されている自分の魚族・海竜族・水族モンスター1体をデッキに戻して発動する。効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する


『決闘の流れは完全にEarthBound! 攻めのミツルと守りのリミッツ。西部No.1の闇と影が混ざり合い、死と炎の挑戦者を黙らせる!』
(我が【死炎龍(デッド・エン・ドラゴンズ)】がまたしても。すまない、グラビ・クラッシュ)
「通常召喚権を行使。モンスターを1体セット。ターンエンド」
『Team Earthbound優勢! ターンを回してペースを掴む!』

「こなくそっ!」
 リードが懲りずに吼えていた。向こう岸の店長へ声なき声を張り上げる。
(このおれをチームに入れてりゃ……おれのスーパー・スペシャル・サイキック・デッキ[未完成]がエナジーほとばしって勝てるかそんなもん!)
 誰より己が知っていた。丈夫な金網をガタガタ揺らす。
「くそったれ……」

Turn 17
■7600LP
□7200LP
■ミツル
Hand 3
Monster 1(邪帝ガイウス)
Magic・Trap 1(セット)
□デッドエンド
Hand 1
Moster 0
Magic・Trap 3(強欲なカケラ/カードトレーダー/セット)
※封印の黄金櫃発動中
■リミッツ
Hand 2
Moster 0
Magic・Trap 4(セット/セット/セット/セット)
□ファロ
Hand 3
Moster 0
Magic・Trap 2(セット/セット)

『《闇の誘惑》からなおも追撃! ミツル選手の《カードガンナー》が店舗城塞を砲撃! アーム・キャノンがドレッド・ドラゴンを粉砕! フィールド上がガラ空きだ!』
「くぅっ! こうも我々が煽られるか!」
「行け、《邪帝ガイウス》!」
 来る。帝王が来る。両眼が紫色に輝き、両脚のダーク・ブーストで一気に加速。低空飛行でデッドエンドの懐に飛び込むと、今日3発目となる重力拳(グラビティ・ナックル)を ――
『あ、あれはぁーーーーーーーーー!!』
 ぐしゃり。帝王の板金鎧が大きく凹んでいた。何の前触れもなく飛んで来た巨大な車輪(ビッグ・ホイール)が邪帝ガイウスの板金鎧をえぐり込み、そのまま一気に吹き飛ばす。車輪もろとも金網へ!
「わーお!」
 金網の前でリードが感嘆の声を上げていた。邪帝ガイウスが金網と車輪にギギギと挟まれ責め苦の炎に包まれる。永続罠・拷問車輪。そしてその燃やし手は、
「なーにやってんだよデッドエンド」

拷問車輪(永続罠)
@このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターは攻撃できず、表示形式の変更もできない(フィールドから離れた時にこのカードは破壊される)
A自分スタンバイフェイズに発動する。相手に500ダメージを与える(この効果は対象のモンスターがモンスターゾーンに存在する場合に発動と処理を行う)


「ファロ」
 デッドエンドの瞳に映るのは赤い髪の決闘女傑。両目から火を出し訴える。
「あんたのターンだろーが」
「私の……私のターン……」
「あんたのターンじゃなきゃいけないんだ! 長期的な経営戦略なんて今更寝言! 今日なんだよ今日! 待ち続ける時間はもう終わり。ぶつかるしかないんだ!」
『いよいよエンジン全開か! さらに2枚をセットしてミツル選手がターンエンド』
「あそこに立ってるクソガキはチョーツエー。デカイ家の御曹司で、デュエルセンス抜群で、オマケに面構えもまぁまぁだ。チマチマお上品にぶつかったところで勝てるわけがないんだよ。それでも捨て身の決闘なら活路はある!」
「捨て身……まさか、我が活路を造る為に敢えて。なぜだ。なぜこうも燃え盛る」
「あんたが望むなら幾らでも捨て石になってやる。なーに構うな。火打ち石があたしの本領。元暴引族のしみったれなくそったれ…… "火打総長" ファロ・メエラは不死身さ」

 火打(ひうち)!!

 その名が2人の歴史を呼び起こす。闘い、闘い、ひたすら闘い続けた決闘の日々を。
「チョー大昔のあたしは暴引族との闘いに明け暮れてった。ぶっちゃけクソつまんない人間でさ……。そんなあたしをドローして、ここに召喚したのはあんただ」
「私が……この俺が……」
「あんただ。あんたのターンなんだ」
 2人の瞳に映るのは荒廃の世紀。決闘倫理の欠落。暴引族の跋扈。荒廃する西部の路上、2人の決闘者が見果てぬ夢を共有した。 "環境の打破は構築にあり" をスローガンに掲げ、来る日も来る日も闘い続け、何度も何度も挫折した。
「わかっちゃいるさ。暴引族の放逐に一番貢献したのはあの坊や。あたしらは精々2番目さ。それでもあたしは言ってやる。何度でも何度でも言ってやる」

TCG歴72年(春):少年を助ける為、暴引族と交戦したファロ・メエラがデッドエンドと共闘しTeam DeadFlameを結成。以後、環境清浄化と世界進出を掲げて各地を転戦

TCG歴73年(冬):冬季大会決勝戦でパルチザン・デッドエンドとミツル・アマギリが初対戦。残り100まで追い詰めるが、まさかのデストロイ・ギガ・レイズで惜敗。

TCG歴73年(夏):リベンジを誓った準決勝。中盤までは互角の戦いを繰り広げるも、ミツル・アマギリが囮になって引き付けたところをダァーヴィット・アンソニーが精密狙撃。抜群のコンビネーションを前に惜しくも敗退

TCG歴75年(冬):ミツル・アマギリとファロ・メエラが決勝で互角の激戦を繰り広げる。一旦、引き分けてからの再試合。奇襲を仕掛けたミツル・アマギリのプレイングが光り、Team EarthBoundが冬季大会の連覇を果たす

TCG歴75年(夏):ファロ・メエラが大型トラックから3人の少年を庇って複雑骨折。入院。デッドエンドも精彩を欠き、変幻店長ゴーストリック・ライアスタに敗れる

TCG歴77年(冬):準々決勝でTeam Galaxy期待の新人ゼクト・プラズマロックが立ちはだかる。ゼクトはライトレイ ソーサラーを召喚し "美しい" 決闘で翻弄。決勝戦でもフェルティーヌ・オースに完勝するが、優勝を決めたのはTeam EarthBoundだった

TCG歴77年(夏):デッドエンドとファロはベスト4でまたもTeam EarthBoundと激突する。しかし、戦歴を重ねたミツル・アマギリ&リミッツ・ギアルマ組のタッグデュエルは芸術の域に達していた。ほとんど何もできないまま完敗を喫する

TCG歴78年(冬):夏のタッグ大会に勝負を賭けるべく敢えて冬季大会を辞退。 "臨終の崖" で新必殺技の特訓に励む。そして ――


 あんたなら……


 あんたなら……


 あんたなら勝てる!


「我らがターン! ドロォォォォッ!」
『デッドエンド選手が燃え上がったぁーっ!』
 TCG歴78年(夏)。くすぶる種火が炎となって燃え盛る。パルチザン・デッドエンドからミツル・アマギリへの挑戦状。西部最強の "黒い男" がそこにいる。
(ミツル・アマギリの決闘は黒を基礎とする。その特性は天への道を阻む不動の『重力』。有り余る才能で拒絶の意思を突きつけてくる以上、死ぬ気で炎を燃やさねば)
「ファロ、それがおまえの店意(てんい)なら!」
『デッドエンド選手が苛烈に店長化していく! なんというデュエルオーラ!』
 殲圧店長再来! 鉄板のような胸板。丸太のような手足。悪鬼の如き形相。殲圧を是とする巨漢、パルチザン・デッドエンドが吼え猛る。
「スタンバイフェイズ! 《カードトレーダー》と《強欲なカケラ》で搬入を促進。さらに《封印の黄金櫃》から《ハリケーン》を我が手に。このパルチザン・デッドエンド、これより一世一代の決闘を売り捌く。地獄の果てでも買ってもらうぞ!」
 両手を大きく合掌。【死炎龍(デッド・エン・ドラゴンズ)】よ、時は来た。
「龍の里より民芸品を出荷する。産地直送! 《ミンゲイドラゴン》を特殊召喚!」

ミンゲイドラゴン(400/200)
@ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、2体分の素材にできる。
Aこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、自分のスタンバイフェイズ時に墓地から表側攻撃表示で特殊召喚できる(自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できず、この効果で特殊召喚されたこのカードはフィールド上から離れた場合ゲームから除外される)
[効果] [2] [地] [ドラゴン]


「強欲なカケラで2枚を搬入……ミツル・アマギリ!」
 無骨な指を真っ直ぐに。挑戦状を叩き込む。
「西部を隆盛させた貴様の功績はひとまず評価! しかし! 西部中央に全てを固定し世界への道を堰き止める。それが真なる店意に添うものか。我らが決闘で確かめようぞ! リバース・カード・オープン《強制終了》を発動!」
『持久戦用永続トラップ《強制終了》。ここに来て守備を固めるというのかぁーっ!?』
「律儀なる実況! 勤勉なる解説! ひとまず感謝。だがしかし!」
 "Trap" "Release" "Draw" 《マジック・プランター》が店内循環を加速する。
「強制終了を搬出し2枚の商品をさらに搬入。死して屍を拾う死中に活の営業力。通常魔法《ハリケーン》を発動。リミッツ・ギアルマのセットカードを ―― 」
「《魔宮の賄賂》を発動。効果を打ち消す」
「カード供給ご苦労! 今こそゆくぞ!」
 薪を組み上げ店意を発火。燃え上がる焚き火の中に民芸品(ミンゲイドラゴン)を放り込み、己の店意を一気に燃焼。いざ。大型の龍を喚び入れる。
「照明の光は顧客を照らし、倉庫の闇は商品を育む。今こそ示そう店意の召喚(サモン)!」


Light and Darkness Dora……


Gravity Horn Cannon!


『またしても! 《光と闇の竜》が一瞬にして吹っ飛ばされたああああああ!!』
 突然の爆発に目を見張る。堂々着地したはずの《光と闇の竜》の土手っ腹に何かが衝突。なんだ。なんだ。一体なんだ。すぐさま前方の様子を窺うと、
「いかに《光と闇の竜》であっても、カウンター・トラップには抗えない」
『鉄壁を誇る龍を一撃で粉砕! 人間大砲ならぬ帝王大砲。《昇天の角笛》が《邪帝ガイウス》を撃ち出し、《光と闇の竜》を真正面から貫いた!」
 土手っ腹に穴を穿たれ、今にも崩れ落ちる光と闇の竜を前に、デッドエンドが嘆息する。
「己が身体を張って味方の窮地を救う。高貴なる義務(ノブレスオブリージュ)か」
「大袈裟だよデッドエンド。おれはそれほど物を大事にしない」
「そうだったな。並み居る挑戦者をそうして退けてきた。クッ……フフフ……」

 初めは小さな笑みだった。

 絶望の笑み?

 それは会心の笑みだった。

「待っていたぞ」
「……っ!」
「光と闇の竜では破壊竜ガンドラに勝てぬ。勝てぬのだ」
「おれとリミッツが防御札を消耗する……その瞬間を、」
「待っていたのだ。我が真の店意は屈辱の過去さえ凌駕する!」
 序中盤の持久戦(バッドエンド)殲圧戦(デッドエンド)への布石。店意の火は消えない。割れた照明と砕けた倉庫が焚き木となって燃え盛り、
光と闇の竜(ライトアンドダークネスドラゴン)は散り際に命を燃やす。店舗に残存するカードトレーダーの廃棄を糧として……店意を継いで燃え上がれ。ドレッド・ドラゴンを特殊召喚!」

ドレッド・ドラゴン(1100/400)
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を手札に加える事ができる。
[調律] [2] [炎] [ドラゴン]


火種の小竜(ドレッド・ドラゴン)
 ミツルが遠方でつぶやく。Team DeadFlameの宿敵はそのカードの意義を知っていた。
「ある意味で、DeadFlameを象徴するカードだ」
「しかり! 我が【死炎龍(デッド・エン・ドラゴンズ)】は小さな火種より始まった」
「火種があっても焚き木がなければ」
『チューナーはあってもシンクロ素材がありません。召喚権は使用済み。バッドエンドも除外済み。早すぎた埋葬はリミッツ選手が序盤で止めた! それでも "次" を喚べるのか!』
「喚べる喚べるぞ喚べるのだ。我々はこの瞬間を待っていた!」
 口にしたそばからバクンと心臓が高鳴る。一旦、フィールドを見渡すと、ミツルのセットカードが何枚か伏せられていた。半透明の地雷が恐怖を煽る。
(死中に活を求めるならば今こそ好機。Earthboundの構成を踏まえれば防御札も枯渇寸前。しかし1枚。1枚刺されば閉店直下。いいのか。本当にここで)
「1500ライフを支払い……」
 身体が凍ったように硬直していた。今なら引き返せる。戻れ。戻れ。戻れ。もう1人の自分がつぶやく。今なら間に合う。今なら。今なら。今なら、
「踏ん張れデッドエンド!」
 後方からの声援。金網を挟んだ後方からリード・ホッパーが懸命に声を張り上げる。
「初めて道場破りに行ったとき、あんたおれになんつった! 初対面のやつに『全部が足りない』っつったよな! なら全部を教えろよ!」
「小僧……」
 そしてもう1人。
「あんたの判断ならそいつが決闘だ!」
 ファロの叱咤が心に挿さる。既に恐れは消えていた。
「いい常連。いい相棒。店長冥利と言うものだ。ならば! 店意の名の下に《自律行動ユニット》を発動! 帝王と店長、今こそ統一の時は来た! 貴様の墓地から……」
『奇襲札法(さっぽう)! 邪帝ガイウスが死装束(デッドエプロン)を纏ったぁぁぁぁぁぁっっ!』

自立行動ユニット(装備魔法)
1500LPを払い、相手の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを自分フィールドに攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

ミツル&リミッツ:7600LP
デッドエンド&ファロ:7200⇒5700LP

「狙っていたのか、ガイウスを」
 ミツルの目の前で人事再編。帝王から店長へ。邪帝ガイウスが移籍を果たす。
「ノーチェーン。ならば優先権は再び我が元に……揃ったぞ。火種と焚き木が我が元に。メインフェイズ続行。マジック・トラップを3枚セット」
「レベル8なら《スターダスト・ドラゴン》。しかし、その戦略は5年前に破っている」
「店を構えるばかりでは消極主義。従来型の【全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル)】では敵うまい。しかし!」
『あ、あれはなんだぁーっ!?』
 何かが始まっていた。デッドエンドが両腕を左右に伸ばした瞬間、王者の店舗がインティスタジアムに迫り上がる。
「永続魔法《王家の神殿》を発動!」

王家の神殿(永続魔法/準制限カード)
トラップカードをセットしたターンに発動できる


「王家の神殿……まさか!」
 ミツルが目を見開く。何かが違う。デッドエンドから強烈なオーラが溢れ出し、
「私は罠を速攻発動できる。魔法と合わせれば速度は2倍。すなわち!」
 恐怖は商機の裏返し。デッドエンドが新たな衣装を装備する。普段の死装束(デッドエプロン)ではない。生へと向かう緑一色の一張羅。背中に刻むは "店意無縫(てんいむほう)"。 至純の特攻服をその身に纏う!
「大いに刮目せよ、我こそは!」



超機動大店長!


パルチザン・デッドエンド!



「超!」 「機動!」 「大店長!」
「パルチザン・デッドエンドだとっ!」
 ミツルが、リミッツが、ダァーヴィットが、そしてリードが驚愕の声を張り上げた。デッドエンドのオーラが天井知らずで跳ね上がる。
「《一族の結束》を発動。ドラゴン族の攻撃力を800上げる。そしてこの瞬間、リバース・カード・オープン! 行くぞファロ!」
「おうよ! リバース・カード・オープン! 《As−八汰烏の埋蔵金》を発動!」
「チェーン3! 《ゴブリンのやりくり上手》を発動! さぁ行くぞ。チェーン4!」
『この高速チェーンは、まさか!』
積み上げる幸福(フォーチュン・ロード)!」

積み上げる幸福(通常罠/制限カード)
チェーン4以降に発動できる。デッキからカードを2枚ドローする(同一チェーン上に複数回同名カードの効果が発動している場合、このカードは発動できない)


『なんというデッキ構築! なんというデッドスピード!」
「【全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル)】に《積み上げる幸福》を!」
 ミツルの視線が左右を往復する。熱気が渦を巻いていた。デッドエンドが昂ぶり燃えて、ファロが言葉を燃やして発破に変える。
「あんたが西部の帝王(てんちょう)だ!」
「我らが道は……我らが開く! バトルフェイズ! ドレッド・ドラゴンでカードガンナーを攻撃 ―― ドレッド・バーン!」

ミツル&リミッツ:7600⇒6100LP
デッドエンド&ファロ:5700LP

『火炎弾炸裂! フィールド上ががら空きだ!』
「今こそ知ってもらうぞ。店長は! 帝王の上位互換だということを! 店長化した邪帝ガイウスでダイレクトアタック ―― 店舗列強グラビティ・ナックル!!」

ミツル&リミッツ:6100⇒3700LP
デッドエンド&ファロ:5700LP

『炎と闇の連続攻撃がミツルに炸裂! 効いている! 確実に効いている!』
「……っ!!」
 直撃を喰らったミツルがすぐさま体勢を立て直す。前方を一瞥……なんたる速さ! このとき既に、デッドエンドは《緊急同調》を発動していた。
「ドレッド・ドラゴンで邪帝ガイウスを決闘着火(チューニング)! 我らが店意の本領を!」
 カードショップの経営にあたってもっとも重要なファクターは一体何か。商品の品質? 無論重要。価格の安定? 無論重要。しかし!
 時は暴引族荒れ狂う決闘戦国時代。カードショップ荒らしにも揺らがぬ鉄壁の耐久性。嗚呼それこそが! 並み居る死炎龍(デッド・エン・ドラゴンズ)の中にあり、死でも炎でもない風の龍が前衛を務める布陣の店意。守護龍の矜恃が店意を汲むか!


Stardust Dragon!

Synchro Summon!!


『満を持して! 守護龍《スターダスト・ドラゴン》をデッドエンド選手がシンクロ召喚! 得意の【全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル)】を堂々開店するとでもいうのかぁーーーっ!』
「超高速の搬入と搬出を繰り返すことで我がデュエル・エネルギーは貴様を超える! 行け、スターダスト! シューティング・スパイラル!」
 スターダストが飛翔! スターダストが回転! スターダストが突進! シューティング・ドリルと化したスターダスト・ドラゴンがミツルの土手っ腹へと突進。
 あと少し、あと少しで、
『リミッツ選手が《次元幽閉》を構えているぅっ!』
さようなら(デッドエンド)だ」

 頂上への道はあまりに険しい。

 西部の王者には世界への道が開かれる。しかしその門までの道は遠く険しい。踏み込んでは払われ、踏み込んでは払われ、ようやく門に辿り着く。なのに入れない。ありったけの力で門を叩いても遥か彼方に追い返される。
「何度も何度も阻まれてきた」
 頂上へ行くには何かが足りなかった。追い求め、追い求め、そして遂に辿り着く。
『スターダスト・ドラゴンが消えたぁっ!』
「光と闇の竜では体力不足。スターダスト・ドラゴンでは出力不足。ならばこの2つを……我が店意の中で概念融合! 持久戦(バッドエンド)殲圧戦(持久戦)へと昇華する!」
 概念融合。聞き慣れない言葉に誰もが困惑する中、ミツルはその真意を汲んでいた。
「超機動大店長の高速思考で決闘を飛躍……。構築の断絶を店意で連結」
「EarthBound式ショッピング・モールは今日で閉店! 我らが店意が今日こそ正す!」
 デッドエンドがブレイク。右の拳を大きく突き上げ、解き放たれたオーラが天を衝く。
「バァス! タァァァ! モォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォド!」
『星屑の龍が次元幽閉を突き抜けているぅっ!』
「敵ながら天晴れ!」
 砲銃店長ダァーヴィット・アンソニーが堪らず立ち上がる。ギュッと拳を握り締め、
「遂にそこまで達したか、デッドエンド!」
『デッドエンド選手が高まったぁーーっ!』
「私の威力とファロの火力、すなわち、マジック・トラップを十重二十重に畳み掛け瞬時に殲圧。これぞすなわち【超機動全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル・アクセラレーション)】!」
 リミッツ・ギアルマのマークを振り切り、追い掛けてきた目標を今一度凝視する。5年前のあの日から追い掛け続け、遂に辿り着いた決闘領域。

 もうそこに。

 ミツル・アマギリはいなかった。

「上だ! デッドエンドォォォ!」
 ファロに指示され空を仰ぐ ―― いた! ミツル・アマギリが遥か高みで空を翔ぶ。
「なぜだ!? なぜミツルが空に!」
「『サーマル』という現象がある」
 死角からの返答。即座に2人が振り向くと、直線上にはもう1人の決闘者が立っていた。
「空気というものは冷たくなれば重くなり、暖められれば軽くなる」
「わけのわからないことをゴチャゴチャと!」
「リミッツ・ギアルマ! 何を言いたい!」
 名を呼ばれたリミッツは含み笑いを浮かべる。ぞくり。得体の知れない不安がよぎる。
「ファロの炎気によって十二分に暖められたデュエルフィールド。こうも熱気に満ちた空間で、超機動大店長が風の龍を喚べばどうなるか。炎と結束した風は自然と高く舞い上がる」
「……っ! 熱上昇気流(サーマル)か!」
「ミツルは天地咬渦狗流の師範代。気流の核を掴んで翔び上がるなど……造作もない!」



 スカァァァイ、ラァーイ、ジーング!!

 

 2つの誤算がある。1つ目を生んだのは先入観。ミツル・アマギリ=不動の決闘という思い込みが人々の目を曇らせる。オーガ・ドラグーン、ダークエンド・ドラゴン、そして破壊竜ガンドラ。やつらには脚が生えている。やつらには翼が生えている。地上から隔絶された真夏の青空。誰に聞かれることもなく。ミツル・アマギリのスカイライジングが始まった。
「空はいいよなあ。最っ高だ! さっすがはあの2人の決闘」
 熱風を追い風にグングンと上昇していく。満面の笑顔で頂点へと到達。何もかもが最高の景色だった。ほんの一瞬、ミツルはミツルだった。

 次の一瞬、ミツルはミツル・アマギリになっていた。

「なんでこの世には重力なんかがあるんだろうな」
 地上の重力に引っ張られ、二十歳の青年が自由落下に身を委ねる。もう1つの誤算。このターン、Earthboundは攻めに回っていた。
「 "地縛陣" を仕掛ける」

「この店舗はまさか!」
「なんだい、コイツは!」
 Team DeadFlame陣営が凍て付いた。大地から迫り上がり、2人の前に聳え立つのは数本の巨大な柱。何なのか。何が始まるのか。すぐには理解が及ばない。
 代わりに実況が叫びを上げた。
『チェーン5とチェーン6。ミツル選手とリミッツ選手が《As-終末の在処》を連続発動!』

As-終末の在処(通常罠)
相棒のデッキからフィールド魔法を発動する


『《神縛りの塚》が迫り上がり、フィールド全域を覆い尽くしている! そして!』


 天地鳴動!


 無限の大空がバリンと砕け、不変の大地がゴゴゴと軋む。天空を舞うミツル・アマギリが次元の門を開け放ち、大地に潜むリミッツ・ギアルマが墓地の蓋を解き放つ。
「チェーン4、《闇次元の解放》」
「チェーン3、《早すぎた復活》」
『上から、下から、来た来た来たぁっ!』


 驚天動地!


 仰ぎ見上げよ大空を! 次元の裂け目を無造作に両手で広げ、天の穴蔵から規格外の大巨人が降ってくる。上空50メートル ―― 25メートル ―― 10 ―― 鳴り響く轟音! 大巨人が着地を果たした瞬間、大気を歪ませる程の衝突音が西部の人民を震撼させる。特殊召喚成功。大巨人の肩にはミツル・アマギリが立っていた。

 そして!

 大地にひれ伏せ愚民共! 墓地の深淵を巨躯が這い上がり、地の境界から超弩級のシャチが迫り上がる。波高(なみたか)1メートル ―― 5メートル ―― 10 ―― 舞い上がる大波! 大シャチが浮上を果たした瞬間、一帯を覆い尽くす程の波紋がインティスタジアムを戦慄させる。特殊召喚成功。大ジャチの背にはリミッツ・ギアルマが立っていた。

 西部最大の闘技場。その全てを支配する巨人と大ジャチ。

 誰にも、もう、止められない!


Earthbound Immortal


Ccapac Apu!!


Ccarayhua!!


Special Summon!!


地縛神(共通効果)
@「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
Aフィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。
B相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
Cこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。


『地縛神が降臨したぁぁぁーーっっ!』
 暗黒への畏怖。それこそが西部の震源であった。ガンドラがまっさらにしたフィールド上に死皇帝の陵墓を築き上げ、5年間に渡って君臨し続けた西部の守護神。それが今、
「2体の地縛神だと!?」
 デッドエンドの店意が揺らぐ。目の前が真っ暗になっていた。空も、陸も、真っ暗に。
「地縛神は戦場に1体。その先入観を打ち破り、タッグデュエルのルールを活かしてもう1体。それが貴様の店意か。ミツル・アマギリ!」
 興奮と疲労。一瞬の目眩からぐらつく一方、ミツルは平然と立っていた。
「身体に負担が掛かるバスター・モードは一決闘に一度が限度。そのワンチャンスを活かす鍛え抜かれた瞬発力。超機動大店長の瞬間風速はEarthBoundを凌駕していた」
 敬意の籠もった視線は束の間だった。冷たい視線が店意を裁く。
「TCGは後手に回った方が時として速い。俺達が尊ぶべきは決闘の原則。その一言を……無駄に気取って飾り立て持って回って強いて言うなら……それがEarthBoundの "天意" だ」
 店意VS天意。煽られたデッドエンドが残存店意を振り絞る。
「来い! スターダストッ!」
『そしてここで! スターダスト・ドラゴン/バスターがフィールドに!』

スターダスト・ドラゴン/バスター(3000/2500)
@「バスター・モード」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。
Aマジック・トラップ・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する(エンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを特殊召喚できる)
Bフィールド上に存在するこのカードが破壊された時、自分の墓地に存在する「スターダスト・ドラゴン」1体を特殊召喚する事ができる。
[特殊] [10] [風] [ドラゴン]


『しかし目の前には……目の前には!』
(なんという巨躯。2体がかりで直販へのルートを塞ぐとは。ひとたび地縛神の間合いに入ろうものなら、我が龍さえも畏怖によって立ち竦む)
 チェーンライン制の西部式タッグデュエルでもその脅威は継続する。相手陣地にアンチ・トラップ・フィールドを伸ばすサイコ・ショッカーの類とは一風異なる独自の効果。地縛神の間合いに踏み込むモンスターの群れそのものが、一様に恐れをなして立ち竦む。
「先に召喚を許した以上、スターダスト・ドラゴン/バスターでさえも……」
 デッドエンドが右手を握りしめる。胸が張り裂ける程の無念と共にバトルフェイズを終了。苦悶の表情でターンエンドを宣言する。
『デッドエンド選手のターンが遂に終了。さぁそして、次のターンを担うのは……』

「EarthBoundのターン、ドロー」
 影の裏側に潜んでいたもう1人のブラック・ジャンパー。 "潜行" のリミッツ・ギアルマがカードをドロー。地縛神 Chacu Challhuaと共に浮上を開始する。……疑問を差し挟む者が1人いた。ファロが唇を噛み締める。
(巨人はいーよ巨人は。いつか来るとは思ってた。あのチャクチャルアはなんだ。バッドエンドの効果で墓地にいって、なんで意識から消えていた。迂闊な!)
「そう恥じることはない」
 対岸のリミッツ・ギアルマが淡々と語る。
「ミツルがインティなら俺はクイラにも劣る」
(眼中になくても仕方がないってか? 相棒様を研究しないわけねーだろ。パワー三流、アシスト一流、散々研究したさ、散々……) 
「ま、強いて言うなら非力なあんたが地縛神を喚べるなんてな。なぁ実況さん!」
 ファロが向かい火を焚き付けると、実況が律儀に補足する。
『デビュー戦以降、リミッツ選手はサポート役に徹していました。公式戦で超最上級を、それも地縛神を喚ぶのは今大会が初めてです!』
(以前は精々ブラック・ミスト。今更こうも目立つ真似。一体どういう ―― )

「デッドエンド、おまえは店意を見誤った」

「……っ!!」
 突然の非難。目を見開いたファロが急いで真横を伺うと、
「貴様に店意の何がわかる」
 デッドエンドが反駁するが、リミッツは不適な態度を崩さない。
「ならば聞こう。そもそも店意とはなんだ」
「店意とは! 環境を活性化させる決闘!」
 デッドエンドが威勢良く答えるが、ファロの脳裏に言いようのない不安がよぎる。
「ダメだ。ダメだデッドエンド……」
 うわごとのようにつぶやくが聞こえていない。その間もリミッツが詰め寄って、
「五枚規制や四面蘇我と同じく、生物至上主義がはびこる西部決闘界を見事啓蒙したのが【全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル)】。虚飾を排して真正面から立ちはだかることで、対戦相手に知恵と勇気を絞らせる布陣。そこまでは賞賛を惜しまない。しかし、おまえはそこから何をした」
「知れたこと。西部行政と結託したEarthBoundを打倒し、世界の店舗を知るために!」
「だが今日のおまえは勝利のみを追求した。急戦(デッドエンド)持久戦(バッドエンド)の過剰供給。店舗防衛の枠をはみ出し超高速であらゆる販売を封殺する超機動大店長の決闘。その苛烈さは顧客さえも置き去りにする。最後に1つ聞いておきたい……そこに店意はあるのか」
「……っ!」
 無情な指摘にデッドエンドが狼狽える。風がいつの間にかやんでいた。炎はそれでも燃えていた。すぐさまファロが会話に割り込む。
「ふざけるな。勝利を目指して何が悪い」
「むしろおれには好ましい姿勢だ。しかしこれは信念の問題。デッドエンドの底力は信念の結晶。裏を返せば……それが全てだったのだ」
「……っ!?」 「……っ!!」
「勝利を求めるあまり奇襲に走り、自らの店意を空文化したデッドエンドなど案山子(かかし)1体倒せはしない。手札から……《霧の王》を生贄なしで通常召喚」

霧の王(キングミスト)(0/0)
@生贄1体または生贄なしで召喚できる(生贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる)
Bこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、いかなる場合による生贄も行う事ができない
[効果] [7] [水] [魔法使い]


「霧の案山子(かかし)……!」
「相棒の場に通常召喚する。ミツル!」
「パルチザン・デッドエンドにチェーンラインを結び、《霧の王》の永続効果を適用」
 乱れた風の中に一抹の水が忍び寄り、大気に溶け込み霧と化す。霧の内部は結界と化していた。劣悪な視界の中、星屑の守護龍も自らの店意を見失う。
「私の店意が……霧の中に……」
「この一戦は天意と店意の対決。パルチザン・デッドエンドの店意が西部の決闘環境を促進するなら、ミツル・アマギリの天意は西部の決闘秩序を構築する。ミツルの決闘は天意の決闘。そして……天意を体現するのが地縛神!」
 地縛神が荒ぶる。深黒の巨躯を大きく揺るがし西の大地を震わせて、
「吼えろ、チャクチャルア」
 ブラック・オルカが大地を透過し地中へ潜る。
『背ビレ1つを地表に突き出し、シャチの地縛神が大地を泳いでいる! これは!』
 チャクチャルアが大地を泳ぐ時、大波のような衝撃波が巻き起こる。防御不能。回避不可。黒い衝撃波がTeam DeadFlameを薙ぎ払う。


Dark Dive Attack!


ミツル&リミッツ:3700LP
デッドエンド&ファロ:5700⇒4500LP

地縛神 Chacu Challhua(2900/2400)
1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える事ができる。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない(固有効果)
[効果] [10] [闇] [魚]


「チャクチャルアの衝撃波は近づくもの全てを薙ぎ払う」
「ちっ、なんて衝撃波だい」
 懸命に耐えるファロを尻目にリミッツが淡々と進行する。
「墓地から《黄ガエル》を除外して《粋カエル》を特殊召喚。残りの札をセットしてターンエンド。……かつてはミツルを追い詰めた戦いぶり。高い評価に値する」
「ガキが上から言ってんじゃねえぞ」
「それでも正解は唯一つ。不完全な店意など、この西部には必要ない」
「あたしらの決闘は欠陥品で、おまえらの地縛神は完全無欠……って言いたいのか!」
 懸命に吼えるファロの前方には絶対の秩序が立ち塞がっていた。あらゆる店舗競争を天意で否定し、全てを独占する不可侵の領域が。

神縛りの塚(フィールド魔法)
@レベル10以上のモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない。
Aレベル10以上のモンスターが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。破壊されたモンスターのコントローラーは1000ダメージを受ける。
Bフィールドのこのカードが効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから神属性モンスター1体を手札に加える。


「 "YES" とだけ言っておく」
 黒が浸食を開始した。情熱の赤も、包容の緑も、絶対の黒の前には塗り潰される。漆黒の地縛神がDeadflameの店舗を浸食。全てを覆い尽くして、
「……っざけんな!」 
 ファロが激昂。ギラリと鋭く睨みつけるや、渾身の勢いでカードを引いた。
「いつまでも調子に ―― 」
 背中を駆け抜ける謎の悪寒。すわ何事かと振り向くと、暗殺者の刃が既に潜行していた。水属性1体を生贄に凝縮された氷の刃。暗殺(ハンデス)の刃がファロのカードをつけ狙う。

水霊術−「葵」(通常罠)
自分フィールド上の水属性モンスター1体をリリースして発動できる
相手の手札を確認し、カードを1枚選んで墓地へ送る。


『ファロ選手、万事休すか!』
「調子に乗るなって…… "今" 言ってるだろ!」
 致命傷を喰らうその刹那。 "Magic" "All" "Destruction" ファロの右手が大きく唸り、アンダースローで1本の矢をぶん投げる。
『必殺必中、斬られる前に矢を投げたぁーっ! EarthBound対策はこちらも万全!』

魔法効果の矢(速攻魔法)
相手フィールドの表側表示の魔法カードを全て破壊し、
破壊した数×500ダメージを相手に与える。


「欠陥品はおまえらの方だ、くたばりな!」
『地縛神は土着の神! 土地が滅べば道連れダイブ!』
 大きな柱に火矢が突き刺さり、括り付けられていた爆薬が激突着火。目障りな結界柱を見事粉砕……したはずだった。
「衝撃波の壁がバリアに!?」
『《地縛波(グランド・ウェーブ)》! チャクチャルアの衝撃波が矢を消したっ!』
「チャクチャルアの衝撃波は近づくもの全てを薙ぎ払う」

地縛波(グラウンド・ウェーブ)(カウンター罠)
自分フィールド上に「地縛神」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。相手が発動した魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する

「二度も同じこと言ってんじゃないよ」
「対策札を抱えるとすれば、遊軍となるおまえ以外に有り得ない。……そして今度は水霊術−「葵」の効果を改めて解決。ファロの手札から《燃えさかる大地》を墓地に捨てる」
(序盤はもっぱらミツルに任せて必要最小限のピンポイントブロック。ドサクサ紛れに余力を蓄え、ここ一番でズドンってわけね。この野郎)

燃えさかる大地(永続魔法)
このカードの発動時に、フィールド上のフィールド魔法カードを全て破壊する。また、お互いのスタンバイフェイズ時、ターンプレイヤーは500ポイントダメージを受ける。


「ロックに、ハンデスに、カウンター。地縛神でコントロール? 気でも狂ってんのか」
「地縛神の崇高にして傑出したテキストを読み込めばその本質が支配にあるとわかるはず。固有効果で戦闘を制圧し、神縛りの塚で効果を遮断。我々EarthBoundが西の大地を守り抜く。これこそが! ミツル・アマギリ発案の【地縛陣】!」
(さっきまで空気だったクセに……。地縛神を喚んだ瞬間クソお喋りに)
「んならこっちは《生者の書−禁断の呪術》を発動。あんたの墓地の《粋カエル》を除外して、こっっちの墓地の《ピラミッド・タートル》を特殊召喚! 攻撃表示!」

生者の書−禁断の呪術(通常魔法)
自分の墓地に存在するアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚し、相手の墓地に存在するモンスター1体を選択してゲームから除外する


ピラミッド・タートル(1200/1400)
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
[効果] [4] [地] [アンデット]


(せめてあの、霧の王(キング・ミスト)だけでも……)
「そんなに地縛神のことが知りたいか」
「ホントなら今すぐ消えて欲しいね」
「ならば冥土の土産に詳しく説明しておこう。元より地縛神は不可侵の存在。そしてチャクチャルアの固有効果はその極限。チャクチャルアが守備表示でいる限り、チェーンラインを結ばれた者は自らの戦闘意欲(バトルフェイズ)を喪失する」

地縛神 Chacu Challhua(2900/2400)
表側守備表示で存在する限り、相手はバトルフェイズを行えない(固有効果)
[効果] [10] [闇] [魚]


『ダメだぁーっ! チャクチャルアの召喚時、リミッツ選手が選んだのはファロ選手! ピラミッド・タートルが四つん這いで立ち往生!』
 闘えば闘うほどに。ミツルへの道が遠ざかる。
(負けちまう。デッドエンドが負けちまう)

Turn 21
■3700LP
□4500LP
■ミツル
Hand 2
Monster 1(地縛神 Ccapac Apu/霧の王)
Magic・Trap 2(神縛りの塚/闇次元の解放)
□デッドエンド
Hand 1
Moster 1(スターダスト・ドラゴン/バスター)
Magic・Trap 3(王家の神殿/一族の結束/セット)
■リミッツ
Hand 0
Moster 1(地縛神 Chacu Challhua)
Magic・Trap 1(神縛りの塚/セット)
□ファロ
Hand 0
Moster 1(ピラミッド・タートル)
Magic・Trap 1(ご隠居の猛毒薬)

「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」 「ミ・ツ・ル!」
 西部に君臨するミツル・アマギリ。その眼下にて、
(目先の欲望に己の店意を見失ったか)
 湧き上がる無力感に打ち震えながら。デッドエンドは微動だにせず立っていた。
(下克上を果たせば盛り上がる。現にあの瞬間、西部の観衆は湧いていた。その事実こそが甘えの震源であり、今日の決闘のキモなのだ。やつらは奇襲にメタを張っていた)
 前方ではミツルがカードを引いていた。無表情のまま淡々と。
(天意を貫くあの小僧は何なのか。あやつに欲望はないというのか。かつて一度だけやつはガンドラを喚び、全てを更地にした。何の為に ―― )


天地咬渦狗流拾参の拳 旋風の拳!


 思考中断。地縛神の豪腕が大地を砕き、殲圧の嵐を巻き起こす。

地縛旋風(通常魔法)
自分フィールド上に「地縛神」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。相手フィールド上のマジック・トラップを全て破壊する。


『【全展開決闘(フル・エキスパンション・デュエル)】破れたりぃーーーっ! そして!』
 なおも吹き荒れる暴風雨を突き抜け、闇の護封剣がバスターダストに突き刺さる。能力を封じられ、守るべき商品を失ったバスターダストに抗う術などありはしない!


天地咬渦狗流 弐の拳 怪物の拳!


ミツル&リミッツ:3700LP
デッドエンド&ファロ:4500⇒500LP

『地縛神 Ccapac Apuの拳は防御不能! 効果ダメージが3000、神縛りの塚でさらに1000。合わせて4000大打撃!』
 クリーンヒットが入った瞬間、観客達が一斉に盛り上がる。西部の象徴 "ミツル・アマギリ" の味わい方を西の民草は知っていた。
『《スターダスト・ドラゴン》が墓地から復活! ここからの反撃は……通らない! 埋葬ブーストを経由して《ネクロ・ガードナー》が封じている!」

(始まって、終わった)
 耳をつんざく喧噪の中、アリアはフィールド上をジッと見つめていた。
(後戻りが効かないところまで引きつけ、一気に決める。Team DeadFlameの得手・不得手を全部見極めた上で完全なる勝利を狙ってきた。徹底的に潰す気だ)
 ドクンと動悸が高まる。トマル。コオル。キエル。サワレナイ。チカヅケナイ。ナニモデキナイ。言葉の濁流が頭の中に流れ込み ――

「何が《地縛旋風》。シケた風を吹かせて」
「そう腐すな。あれもまた見事な戦略だ」

 背後から何者かの気配がする。決闘者の気配にチラリと一瞥。……男女2人の新進気鋭が立っていた。緑髪黄眼の優男と、モデル体型の烈女。すなわち、

Team Mistvalley(主将)
ライアル・スプリット(12位)
デッキ名:魅洲斗芭麗(みすとばれい)

Team Mistvalley(副将)
クリス・マーカー(49位)
デッキ名:ハーピィ・ダンス

(Team Mistvalley!)
 日進月歩でランキングを上げ、今や西部十傑さえも視界に入る新進気鋭の決闘集団。その内の1人、鵠ッ黄眼のライアル・スプリットがボソリと呟く。
「あまりに正しく、哀しい風だ」


Dark Dive Attack!


『チャクチャルアの衝撃波がまたしても炸裂! ガード不能のアタックが残りの500ライフを削りきる! これで決まったかぁーーーーいや違う!!』

ミツル&リミッツ:4300LP
デッドエンド&ファロ:500⇒500LP

ご隠居の猛毒薬(速攻魔法)
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分は1200LP回復する。
●相手に800ダメージを与える。


『ご隠居の猛毒薬で生き延びている!』
 ファロが足掻いていた。店舗と品物を失ったデッドエンドが棒立ちし、リード・ホッパーが金網の前で項垂れる一方、ファロ・メエラはDeadFlameを支えていた。
「……もう諦めろ」
 心持ちやわらかい語調でリミッツが告げる。
「超機動大店長で致命傷を与え、討ち漏らした分はバスターダストを盾にバーン・カードで削りきるのが今回の戦略。あと一撃でもいいのが入っていれば、残りの火力でも足りただろうが……。もう十分健闘したはずだ」
「寝言はベットの上だけにしときな。あたしの生き場を決めるのはあんたじゃないんだ。あたしの、あたしらのターン……ドロー! 坊や……いや、ミツル・アマギリ!」
 ファロから名前を呼ばれ、淡々と作業を続けていたミツルの表情がギュッと強張る。豪壮極まる地縛神の肩の上に立ったまま静かに地上を見下ろす。その刹那、
「札が燃え尽きるまでの命さ。逝っときな!」
「……っ!」
 突然の爆発! 不意の一撃にミツルの身体がのけぞる。火元になったのは己の手札。 "Level10" 《トラゴエディア》を点火するファロの意地。
「Team DeadFlameを舐めんじゃないよ!」
「……」

炎帝テスタロス(2400/1000)
アドバンス召喚に成功した場合に発動する。相手の手札をランダムに1枚選んで捨てる(モンスターカードだった場合、レベル×100ダメージを相手に与える)
[効果] [6] [炎] [炎族]


ミツル&リミッツ:3700⇒2700LP
デッドエンド&ファロ:500LP

『本体への直接攻撃! 未だ闘志は消えていない!』
「ざまーみやがれってんだ。……ターンエンド」
 エンド宣言と同時に気配が変わる。紅の女傑はとうに腹を括っていた。あらゆる虚飾を排したノーガード。唯一、人差し指をくぃっと動かし、
「ちゃんと潰さないなら未来永劫あんたを祟るよ」
 毅然と言い放つファロに対し、ミツルの目元はわずかに歪んでいた。地縛神の肩の上からそっと空を仰ぐ。西部の空は今日も美しかった。
「本当に……変わっていない」

 ―― Team DeadFlame、中々いい名前じゃんか。

 ―― それじゃあ坊やを送っていくか。また暴引族に襲われたら面倒だしね

 ―― ほらほら、これに懲りたら夜歩きなんてするんじゃないよ

 ―― 2人みたいに強くなる。絶対!

 ―― 懲りないね。後ろでガタガタ震えてた坊やがなーに言ってんだ。10年早いよ!

 ―― 今日のことは絶対絶対忘れない。いっぱいカードを引いて絶対強くなるんだ!

 ―― ほーそうかい。なら名前ぐらいはトレードしとこうか

 ―― あたしはファロ。火打のファロ。そんでこいつがデッドエンド。あんたは?

 ―― ミツル。ぼくの名前はミツルだ!

「あなたは美しすぎる!」
 ミツル・アマギリが天地咬渦狗流の構えに入る。地縛神もまた右腕を振り上げた。ファロのフィールドを対象に必殺拳が唸りを上げて ――

 ―― この世に必要なものなど何もない



天地咬渦狗流 弐の拳 怪物の拳!



ミツル&リミッツ:3700LP
デッドエンド&ファロ:500⇒0LP

 巨大な拳を一身で受け止めたのはファロ……ではなくテスタロス。耐えきれるはずもなく爆発四散。一緒に吹き飛んだファロが苦々しげにつぶやく。
「あんたって子は……ツメが甘いんだよ」
『試合終了! ファロ選手の懸命な粘りも及ばず、EarthBoundが終始圧倒! 決勝一番乗りを決めたのは……Team EarthBound!』

 試合終了から約2分。ファロはその場に寝そべっていた。四肢を目一杯伸ばして大の字に倒れたまま、近付いてきたデッドエンドに声を掛ける。
「負けちまったな」
「果敢に攻めたつもりだった。だが土壇場で……今の自分を守ってしまったのかもしれない。己の枠を超えきれなかった。店意を貫く……難しいことだ」
「なーに気にすんな。発想は悪くなかったんだ。次こそあいつらを」
「もう終わりだ。……今日でTeam DeadFlameを解散する」
 数秒の沈黙を経て、ファロがドバッと立ち上がる。煮え滾る怒りと共に。
「今……なんて言った」
「全身全霊を尽くしたが及ばなかった。我が店意ではなく、我が器量が足りぬのだ」
「それがなんだってんだ! もっと強くなればいいだろ。もっともっと強く!」
「なれんのだ! わかっていよう。今回がラストチャンスだったのだ。あやつからは年々隙がなくなっていく。対する我々の成長は頭打ち。これ以上の成果は望めん。……潮時だ」
「本当にそれでいいのか。EarthBoundに勝たなきゃ世界進出はないんだぞ!」
「一介の店長として、殲圧ならずとも育成はある。ファロ、おまえも……」
 5年前と同じように。デッドエンドが静かに右手を差し出す。
「うるせー、バーカバーカ! あたしは認めないぞ! そんな妥協はクソ喰らえだ!」
 デッドエンドの手をパチンと払いのけると、ファロは走り去っていく。行くあてなどありはしない。ただただ走っていたい。それだけだった。

TCG歴78年8月
Team DeadFlame 解散

             ―― TCG歴83年 ――

「1つの転換点になる決闘だった」
 アリアが自重気味に総括する。
「私の口からだと全部は伝えきれない。ミツルが飛んでるときも何か言ってたっぽいけど、地上から距離がありすぎて流石にちょっとわからないし」
「なんであの人、空飛んだんだろーな」
 聞き役を努めていたテイルも少しばかり考える。
「おれの知ってるミツルさんに近づいて来たようなそうでもないような……」
「あなたが知ってるミツル・アマギリってどんな人?」
洒落が通じる堅物(エンターティナー)
「……」
「にしてもデッドエンドのおっちゃん、あれで結構しんどい人生送ってきたんだな」
「……知り合いなの?」
「大将の師匠ってだけで、マジで知り合いレベル……なんだけどさー、ちょっと前の大将になんか似てるっつーか、なんで大将を鍛えてるのか段々わかってきたかもしんねーわ」
 なんとなく空を仰ぐ。西の空はいつものように青かった。
「ミツルさんの牙城がマジ硬いのはわかったが……」
「この大会はまだ終わっていない」
「そういや準決勝第1試合が終わっただけか。次の試合は……フェリックスか?」
「西部五店長アブソル・クロークスと、彼に隠居を決意させたライアル・スプリット」
「……そら詳しく思い出すわな」
「本当は忘れようとしても忘れられないのに。私はいつだって忘れたフリして生きていた」
人の記憶を掘り起こすバカ(サイコ・イーター)ってんなら、アリアにうってつけだったわけだ)
「次のページをめくって。わかる範囲で話をするから」

            ―― TCG歴78年 ――

「悪かったなリミッツ、おれの分まで喋らせて」
 そう言いつつも、ミツル・アマギリは無の表情で立っていた。デッドエンドとファロの会話を遠目で眺めながらも、ひたすら表情を押し殺し、
「随分と恐がりな決闘をするんだね」
 声をかけられ振り向くと、ミツルの目の前には奇異な決闘者が立っていた。目元が髪で覆われていて、それほど大きくはない。その男の名は、
「アブソル……さん」
「別に呼び捨てで構わないよ。まーそんなことより今はきみのことだ。酷い決闘をするね」
「……そうでしょうか」
「きみの持ち味は "紙一重の完勝" らしいが……、世にも怪しげな鉄板一枚を差し込んでめいっぱい距離を離す。そんなやり方を果たして紙一重と呼べるのか」
「ミツル、相手にする必要はない」
 かたわらのリミッツが無視を促すが、なおもアブソルが畳み掛ける。
「そんなにファロ・メエラが怖かったのか。きみにとってパルチザン・デッドエンドは至極真っ当な強豪。天意VS店意であれば理合の勝負。しかしファロは違う。気合一つで喰らい付いてくるタイプだ。きみはファロを恐れ、そして ―― 」
「お喋りはそこまでだ」
 会話を遮ったのはやはりリミッツだった。これ以上は必要ないとばかりに2人が一旦引き上げていく。1人残されたアブソルはほんのり愉快げに佇んでいた。
「残念。 "握手" をしそこねてしまった」

 それから15分後、アリア・アリーナの片耳は実況の言葉を拝聴していた。今から始まるのはもう1つの準決勝。熱戦の予感に観客席も湧き上がる。
『東側から登場するのは新進気鋭のライアル・スプリット。儚く、それでいて、鋭く。コクのある物腰とキレのある決闘で人気も急上昇。風属性の真髄、今こそ魅せてくれるのか!』
 実況に合わせて優男が入場する。ミツル・アマギリとはまたタイプの美男子であり、民族衣装然とした衣装が風になびいてゆらゆらと揺れていた。
「追い風が少し強いか。時代に煽られている」
『南側に立つのは紅一点。 "Phase" のデュエルモデルを務めるクリス・マーカー選手。豪華絢爛、ド派手な決闘で今日も勝利を呼び込むか』
 自信に満ちあふれたウォーキングで女性決闘者が入場。鳥獣族を象る衣装がひときわ目を惹いた。Beautiful。憧憬と羨望が先行する中、クリスが優雅に手を挙げる。
「麗しきモデルと寂れた店長。どちらが決闘者にふさわしいかたっぷりと教えてあげるわ」
『そして! 西側から登場するのは西部四店長が1人。 "吸収店長" アブソル・クロークス! 久々の参戦ながらもその札さばきは未だ健在!』
 泰然自若。アリアは咄嗟にそっぽを向いた。 "あまり長々観ていると知らぬ間に吸い込まれてしまいそう" 生で観た第一印象がそれだった。
「ぼくらの人気も捨てたものではないな。さあいこうか」
『北側に立つのは今大会初登場! ファントム・ファストランド! 吸収店長の相棒を務める経歴不明の決闘者。何を見せてくれるのか!』
 全てが曖昧だった。何かに似てるようであり、何にも似てないようである。首を傾げるアリアを余所に、不可思議な男がデュエルロードをしれっと歩く。
「地下の穴蔵もいい加減飽きてきました。地上に迷路を設けてみますか」
『それではみなさん、始めていきましょう!』

Team BigEater VS Team Mistvalley

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Cross Spiral Chain Duel!



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。ちょっとミスがあるみたい。ごめんね
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話











































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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