――2ヶ月前(西部森林公園)――

「はぁ……はぁ……」
 息が苦しい。闇雲に走り続けてどれだけ経った? 走っても走っても一向にゴールが見えてこない。身体を左右にふらつかせながら、シェルは森の中を懸命に走る。単調な森林道が恨めしい。かれこれ10年ぐらい走ったようにも思えるが景色の色は変わらない。ちくしょうめ。おなかも痛くなってきた。
 半分近くまで走ったが遂に限界。お腹に手を当ててシェルはとうとう立ち止まった。朦朧とした意識の中で前方をうかがうと……何かが元気に走ってくる。
「向こうで待ってるから!」
 そう言い放ちコロナが加速。これ以上ないほど颯爽とシェルの真横を走り抜けていく。咄嗟(とっさ)に後ろを振り向くが、呼び止めることすらままならない。
「なんで走れるのよ、あんなに」
「いつも走ってるからだよ、きっと」
「……っ!」
 ギョッとして振り向くと、末っ娘のティアが忍び寄っていた。背後からの奇襲を喰らい、じとりと睨み付けるが効果は今一つ。ケロッとした表情で立っていた。
「コロちゃん曰く 『シェルが言ってた無駄な努力を続けると体力が付く』 らしいよ。じゃ」
 走り去るティアを余所にシェルが大きく息を吐く。元運動部の連中はなにゆえこうクソみたく……あと半分には違いない。ゴールの切り株に向けてシェルがもう一度走り出す。

「シェルちゃんゴール!」
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……こんちくしょう」
 疲労困憊のまま地べたにダウン。しばらくは動くまい。そう決意を固めるがなんか来た。一歳年上のコロナがにじり寄ってしゃがみ込む。しっし、じゃますんな、どっかいけ。
「暑いんだからジャージなんて脱げばいいじゃん。なんならあたしのお古あげようか?」
 コロナは夏の意味を知っていた。髪はショートカットで纏めつつ、半袖の運動着で首尾は上々。対するシェルは夏に喧嘩を売っていた。ぐっちょぐちょの汗まみれになるのも構わず、ロングジャージを着込んだまま地べたに寝転がっている。
 なぜ? 目を逸らしたままシェルがつぶやく。
「私は……あんたら変態体操着マニアとは違うの」
「は?」
「あられもなく肌を露出して走るなんて、およそ文明人のやることじゃないわ」
「文……明人? 好きな本ばーっか読んでるから成績も右肩下がりのクセに」

「普通に走っても追いつけない」

「まーたなんか言いだした……」
 突然の話題転換にコロナが首をかしげるが、当のシェルは仰向けのまま空を眺める。
「 "おねえちゃん" は違う世界に住んでいる。変態体操着マニアから体操着マニアを引いた純然たる変態。次元の違う速度で走り抜けていく。……おねえちゃんの独り言を聞いたの」
 長い髪を軽く掻き分けると、身体を起こしながら口を利く。
「昨日の夜中。大会のビデオを観ながら…… "ミツル・アマギリ" "テイル・ティルモット" そして "アブソル・クロークス" "あいつらともう一度" そうあの人は言った」
 "もう一度"。 茶化し気味だったコロナの表情も引き締まる。
「あのミツル・アマギリとも知り合いなんだ。意外じゃないのが怖いけど」
「私達がおねえちゃんと大会に出る。その意味わかる? わからないとは言わせない」
 右手で左腕を、左手で右腕を、ギュッと握りしめる。強く、強く、痛みを感じるほどに。
「おねえちゃんと闘り合えそうな人達。地縛神を使うミツル&リミッツやオース姉弟、火力自慢のエルチオーネ&チェネーレ、人間を軽く吹っ飛ばすライアル&ジャムナード……本気でおねえちゃんと組むんならそんなのと私達がやらないといけない。なのに」
「ドンドン速くなるのはおねえちゃん。今ですら追いつけないのに」
「それが現実なの。取るに足らないあたしたちにはいつだって早すぎる」
 ようやくシェルが立ち上がる。木の影に指を伸ばすと、隠しておいた荷物の中から3枚のカード・ユニットを回収。暗い瞳で一瞥するとそのまま切り株に並べ置く。
「ここにあるのは3枚の片道切符。いつも乗ってる路面電車とはわけが違う」
 "ゴールなんてないかもしれない" 3人娘の心境は森の景色に良く似ていた。初夏の風に煽られ、右に左にざわめくばかりで何も変わらない。ただただ沈黙……

「そうだとしても」
 走れ! 脳からの信号を受け取ると次女のコロナが均衡を破る。シェルの面前を走り抜けると、切り株に向かって無意味にジャンプ。台上のカードをガシッと掴む。
「本当のおねえちゃんと走ってみたい」

No.47 ナイトメア・シャーク(2000/2000)
レベル3モンスター×2
@特殊召喚成功時、自分の手札・フィールド上から水属性・レベル3モンスター1体をエクシーズ素材にできる。
A1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、自分フィールド上の水属性モンスター1体を選択して発動⇒このターン、他のモンスターは攻撃できず、選択したモンスターは相手プレイヤーにダイレクトアタックできる
[装填] [3] [水] [海竜]


「ダメージレースならこの子が一番」
「そのカード、気に入ってないクセに」
 コロナは否定しない。ショートカートのダメージレーサーは正直に、
「あたしの決闘はそういうのも込み込みだから。決闘始めて 『妬けちゃうな』 って人が沢山増えた。この子のこともちょっと妬いてる。うん! 大丈夫! 時々楽しい ―― 」
「いつだって空元気。おねえちゃんの前でもそれ言える?」
 コロナの両肩がビクッと揺れる。しばしの沈黙……。少し考えると静かに告げた。
「家事から仕事まで。何から何まで当たり前のようにやってくれたおねえちゃんより、なんかいきなり大会に出ようとするおねえちゃんの方が好きなんだよきっと。本気で決闘やってる人にしかわからないものがある。あたしはそれを味わってみたい」

「ドンドン速くなるなら今しかないよね」
 いつの間にかもう1人。サイドテールの陽気な末っ娘、ティア・アリーナが2人の死角にちょこんと座っていた。パンパンパンと手を叩きながら、にっかり笑って2人に告げる。
「一緒に遊べる時間があるんだよ。絶対楽しいって」
「たとえ今であっても変わらない。私達の間には」
「崖があるなら橋を掛ければいい。みんなで渡れるから!」
 珍しくはっきりと主張する。瞳がキラキラと輝いていた。
「TCGは凄いんだよ。カードとカードが行ったり来たりして、タッグデュエルなら決闘中にそれができて、いつもできないことができるの。だから決闘してみたい、この子と」

No.17 リバイス・ドラゴン(2000/0)
レベル3モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、このカードの攻撃力を500ポイントアップする。このカードのエクシーズ素材が無い場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。
[装填] [3] [水] [ドラゴン]


「リバドラちゃんは誰とだって組める」
「リバイス・ドラゴンでは決定力が足りない。小粒すぎる」
「そこはほら、うちのエース・デュエリストがガツンと!」
「おねえちゃんのバ火力頼り。他力本願でよくそんな」
「うん! よろしく! シェルちゃんもうちのエースだよ!」
 満面の笑みを押し付けられてシェルが両眼をパチクリさせる。
「バカげてる……」
 先日の情景を嫌でも思い出す。 "おねえちゃん" と向かい合ったあの日の決闘。 "大丈夫?" デュエルガードもろとも軽々と吹っ飛ばされ、 "おねえちゃん" から優しい声をかけられる。敵意もない。悪意もない。壊れやすい家具をいたわるように。
「なにもなかった。壁の向こう側に本物のあの人が立っていて、壁に向かって歩いてみたら当たり前のようにぶつかって会えなかった。それだけのことなのに」
 空を眺めてもわからない。怪しげな尻尾が瞳を過ぎる。
「 "この世には、どうしようもないこともある" 」
「シェル……」 「シェルちゃん……」
 無害なはずの "おねえちゃん" を前にして震えていた。3年あるいは10年分の準備を放りだし、ガタガタと震えるだけの無力なプチモス。それだけだった。
「いつも言ってるじゃない。追いつけないのに追いかけても時間の無駄。効きもしない攻撃を何度繰り返しても労力の無駄」
 長い髪を向かい風に晒しつつ。シェルが2人に背を向ける。
「近道を探して回り込む。急所を目掛けて鈍器で殴る。その為に必要なのは?」
 少し歩いて立ち止まり、切り株の上から最後の1枚をしっかり掴む。
「……闘ってみなければわからない」

No.30 破滅のアシッド・ゴーレム(3000/3000)
レベル3モンスター×2:自分のスタンバイフェイズ時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除くか、自分は2000ポイントダメージを受ける。このカードのエクシーズ素材が無い場合、このカードは攻撃できない。このカードがフィールド上に存在する限り、自分はモンスターを特殊召喚できない。
[装填] [3] [水] [岩石]


「この世には……譲れないこともある」
「イエス!」 「シェルちゃん大好き!」

 大会まではあと2ヶ月。小型水車型の 決闘掻盤(ストラグル) に各々のカード・ユニットを装填。急ピッチの練習会が始まった。OZONEを起動しながらシェルがつぶやく。
「あの日からうちは違うチームになった。さ、リーダー。号令お願い」
「やっぱし……言わなきゃダメ? なんか畏れ多いんだけど」
「ダメ! コロちゃんはうちの "リーダー" なんだよ!」
「マジモンの変態が10年間も決闘を抑えつけていた。あのおねえちゃんならきっと "そういうこと" を考えている。だからうちのリーダーにも言って欲しい」
 2人の妹に促されると、コロナが大きく息を吸う。シェルも、ティアも、固唾を呑んでその瞬間を待っている。3人の他に誰もいない森の奥。本気の誓いが木霊(こだま)した。
「 "優勝" 目指して気張っていくよ。GO! Team Arena!」
 3人の少女が決闘盤をブン投げた。マメのできた指から離れ、3つの水車が低空の青空を駆け抜ける。コロナがナイトメア・シャークを、シェルがアシッド・ゴーレムを、ティアがリバイス・ドラゴンを。回転する3つの水車が水溜まりを跳ね上げて ――

                 ―― ターミナル・ワールド ――

「デカブツ風情がっっ!!!」
 瞳に映るのは必殺の拳。決着の瞬間を前にしてシェルが叛逆する。黒鉄の機関巨人《レアル・ジェネクス・クロキシアン》が右腕を振り上げるその刹那。震えたままの左手が荒々しく発光。 "Reverse" "Trap" "Normal" "Draw" 《凡人の施し》を寸前で発動。全身にオーラをみなぎらせ、右手で "2枚" を引き抜く……が、そこで痛恨。なおも震える指先が《思い出のブランコ》を掴めない。
「知ったことかっ!」
 シェルは拾わない。目の前だけを、振り上げられた黒い腕だけを見つめていた。来る、来る、決闘者の黒腕が殺りに来る。極度に肥大化した右腕をハンマーのように振り下ろし、
「レイジング・アーム・インパクト!」
「Team Arenaを……舐めるなっ!」
 背中の髪を大きく揺らし、両手の煌きと共にシェルが特攻! 黒鉄の巨人だろうと、闘技場の戦士だろうと。 "Hand" "Trap" "Reborn" "Block" 《千載一札》の覚悟と共に。



サウザンド・シールド!



「受け止めた!?」
 極太の右腕をブロックしたのは巨大な防壁。その正体は単眼の模様を刻んだ大きな盾。召喚士であるシェル自らが両手を繰り出し、極太のレイジング・アームを《千年の盾》で迎え撃つ。ぜぇぜぇはぁはぁ言いながら目元をわずかに緩ませた。
「これで決闘はまだ続く。続けられる」

千載一札(通常罠)
相手ターンのバトルフェイズに発動可能。
自分の墓地のレベル7以下の通常モンスター1体を特殊召喚し、相手モンスターと戦闘を行う。
墓地に「千年」と名のつくモンスターがいる場合、このカードは手札から発動できる。
次のターンのエンドフェイズ、この効果で特殊召喚したモンスターを破壊する。


千年の盾(0/3000)
古代エジプト王家より伝わるといわれている伝説の盾。
どんなに強い攻撃でも防げるという。
[通常] [5] [地] [戦士]


パルム:6000⇒5500LP
シェル:2500LP

(ここまでやるのか)
 パルムはふと思い出す。 "異文化交流" その言葉を発したシェルの瞳を。
(単なる社会科見学のつもりなら今ので決まっていた。ターミナル・ワールド、トークデュエル……ぼくは異文化交流の舞台を用意した。なのにこの娘はありとあらゆる手段でぼくの本気を引き出そうと。ハナから読み違えていたのかもしれない)
 パーティの情景がじわりじわりと浮かびあってくる。徐々に間合いを詰めて 『在り方』 を学ぶコロナ、スッと間合いを詰めて 『喚び方』 を学ぶティア、強引に間合いを詰めて 『闘い方』 を学ぶシェル。
(大会が始まってから聞きに来るのは遅い……違う。ミィはぼくのことを、両腕の秘密がバレない程度にしか教えていない。大会でぼくを知って、その2日後に行動を起こしている)
「きみがマジなのはよくわかったけど、強引な同調を続けていたらいつか身体が」
「それぐらいでなければ残らない」
 低い声だった。腹の底から絞り出すような低い声。
「移り変わっていくデッキでも、思い出は残ると貴方は言った。大事な思い出ならそうかもしれない。……取るに足らない思い出は消えていく。消えてしまう」
「……そういうこともある。それがいけないことなのか」
「……自然な成り行きを許せないおバカな人間もいる」
「きみは何かと闘っている。きみには何が見えているのか。それはきっとぼくであってぼくじゃない。ぼくじゃないけどぼくでもある。だんだん決闘らしくなってきた」
 バトルフェイズを終了。メインフェイズ2。パルムが 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) を構える。
「決闘で交流するなら本気で殴り合うしかない。さっきまでのぼくは間違っていた。そっちの目的がなんであれ決闘したいってんなら全力で迎え撃つ。そんで最後にぼくが勝つ」
 手札から1枚のカード・ユニットを選択すると、守備表示で静かにセット。《ダーク・クリエイター》及び《レアル・ジェネクス・クロキシアン》と逆三角形の陣を組む。
「ターンエンド。 "きみの決闘を見せてくれ"」

 コロナ・アリーナは【ダメージ・ロード】を走る。

 ティア・アリーナは【クロス・ブリッジ】を渡る。

 そして、

 シェル・アリーナは【クラッシュ・コア】を打つ。


DUEL EPISODE 42

ぶつけあい


「貴方は 『本物のパルム・アフィニス』 を教えてくれた」
 シェルのオーラが徐々に高まっていく。逆三角形の布陣、その圧力を真っ向から受け止めるかのように。ダーク・パープルの少女は敢然と立っていた。
「お返しをしなければいけない。100%の私で」
 シェルが 決闘搔盤(ストラグル) を構える。かすかな向かい風によって長い髪を揺らしつつ、身体をゆっくりと捻り込み……全身を一気にブン回す。
「私のターン、ドロー!」
 腰部の回転力を利用した抜札。肩が捻じ切れるほどの勢いで、
「スタンバイ。トーク・ワールドの誘発効果を発動。質問カウンターをチャージ!」
 一瞬の硬直。質問の到来にパルムが構える。……何も起きなかった。シェルはスタンバイフェイズを無言のまま終了。 "Magic" "Normal" "Draw" デュエルオーブが光り輝く。
「2枚目の、《馬の骨の対価》を発動」

馬の骨の対価(通常魔法)
効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を墓地へ送って発動。デッキからカードを2枚ドローする


「《千年の盾》を墓地に送り、デッキからカードを2枚引く」
(この気配。敢えてまっさらをぶつける気か? 上等だ)
 シェルのドローは必要以上に大ぶりだった。乾坤一擲。極から極へ。
(投盤能力はお察し。呪文についてもセンスがあるとは言い難い。ぼくが召喚の為に精神同調率を上げたように、シェルは呪文の為に身を投げる。この娘はむちゃくちゃ不器用だ)
「リバース・トラップ・オープン、《補充要員》を発動」

補充要員(通常罠)
自分の墓地にモンスターが5体以上存在する場合に発動する事ができる。自分の墓地に存在する効果モンスター以外の攻撃力1500以下のモンスターを3体まで選択して手札に加える。


「墓地の通常モンスター3体を手札に戻す」
(弾薬を補給。ライフル、ショットガン、マシンガン。いいや違う。あいつの性格なら)
 想定するのはロケットランチャー。パルムは手札装填型(ハンドコスト)の重火器を知っていた。ミィが何よりも得意とし、フェリックスからも頂戴した雷光煌めく必殺呪文。

ライトニング・ボルテックス(通常魔法)
手札を1枚捨てて発動する。相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。


(ぼくの全力を盤外戦で引き出し、大量破壊兵器(ボルテックス)で一網打尽。やらせない)

     セットモンスター

  クリエイター  クロキシアン

(表と裏の三角形なら被害は最小限。くれてやるのは2体まで)
 黒鉄の創雷巨人《ダーク・クリエイター》。黒鉄の機関巨人《レアル・ジェネクス・クロキシアン》。そしてもう一体。逆三角形の布陣に保険あり。最終防衛線(セットモンスター)が雷を避ける。
(シェルのデッキに貫通はない。セットを踏ませて)

「《闇の量産工場》を発動」

闇の量産工場(通常魔法)
自分の墓地の通常モンスター2体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。


「墓地の通常モンスター2体を手札に戻す」
 おかしい。得体の知れない悪寒に背筋が凍り付く。違う違う何かが違う。
「硬い殻が目の前にある。その中にある 『核』 を掴みたいならどうするか」
 デュエルオーラが徐々に膨張。少女の執念が形を成して広がっていく。
「火で炙る? 水に漬ける? 私は 『違う』 と知っている」
 次の瞬間、激動の世紀末が始まった。身体の隅々からありったけのオーラを解放。煌めく光が真っ白な雪原の上を走り抜け、シェルの足下を中心に大きな五芒星が描かれる。
「硬いものには硬いものをぶつける。そうすればきっと割れる」

1枚目 ―― 《千年の盾》!

2枚目 ―― 《千年ゴーレム》!

3枚目 ―― 《弾圧される民》!

4枚目 ―― 《逃げまどう民》!

5枚目 ―― 《団結するレジスタンス》!

「このエフェクト、本気か!?」
 五芒星の各頂点が一斉に煌めき、真ん中に立つシェルの両腕がガタガタと揺れる。恐怖ではない。ただただ暴力的な反動。カード・ユニットに秘められしコア・エネルギーが両腕を激しく揺らしていた。暴れ狂うエネルギーを懸命に両手で抑え込む。
(一事が万事シェルは徹底している。呪文が封印された  『(カード)』  に全身をぶつけてブチ割り、閉じ込められた『(こうか)』を剥き出しにする。それがあいつの生き様(デュエル)。だとしたら)
 デュエル・エナジーの高まりに比例してシェルの全身が大きく揺れた。5枚のカードが一世一代のブレイク! エネルギー・チャージがピークに達したその瞬間!
「手札5枚をコストに! 効果を発動!!」
 シェルが両手を振り上げるや五芒星が弾け飛ぶ。各頂点から5つの光芒が一斉に上昇。大空を突き抜け、成層圏を突き抜け、宇宙を(ただよ)う "あるもの" を ――
「質問に答えるのを忘れていた。 『私の目的は何か』 ―― それは……」

 頭の上で両手を編み込み、

 流線形の身体を大きく反ると、

 ハンマーのように振り降ろす!

「それは 『貴方が知っているっっ』!」
(シェルは決闘(けっとう)を望んでいるんだ!)
 両手を振り下ろしたその瞬間、遙か上空から謎の轟音が鳴り響く。一も二もなく空を仰ぐと……巨大な隕石群が地表に向かって落下していた。パルムの瞳に映るもの、それは隕石。真っ赤に燃える隕石の嵐が吹雪を燃やして降り注ぐ。




最終戦争(ファイナル・ディステニー)!!!



 何もかもが吹っ飛んだ。降り注いだ隕石群がOZONE全域を圧し潰す。《ダーク・クリエイター》を、《レアル・ジェネクス・クロキシアン》を、そして虎の子のセットモンスターを、なにもかもを貫き砕く。

 隕石の衝突が世界を変えた。

 表面の雪が跡形もなく消し飛び、冬の大地が大きく割れる。

最終戦争(通常魔法)
手札を5枚捨てて発動する。フィールド上に存在するカードを全て破壊する。


「どんだけ不器用なんだよ」
 パルムの中で今日の記憶が木霊(こだま)する。重力の波が廃炎龍を押し潰し、次元の刃が砂塵の魔精を斬り裂き、隕石の嵐が黒鉄の巨人を消し飛ばす。ダーク・パープルの決闘少女、シェル・アリーナがそこにいた。極度の疲労により片膝を付く一方、闘技場(アリーナ)と向き合う瞳だけは変わらない。暗く、鋭く、大きな瞳で世界に挑む。
(シェル・アリーナ。センスは知らねーけど存在が決闘にフィットしている。強引に押し掛け喰らい付く偏執狂的な執念。呪文をテコに身体でぶつかるその姿勢。似ている……)

「最終戦争」
 ミィは呆然としていた。
「倉庫に転がっていたから試したことある。あるけど」
 うんともすんとも発動しなかった。 『おれだって使えないし使えたって使わない。金もらっても使わねえよあんなもん』 そうテイルに告げられ放っておいた。
(弱かったり使えなかったりなカードをコストに大逆転を狙う。……似てる)
 相棒の様子を不安げにうかがうと、パルムは唖然としながらも喜んでいた。ミィの前では一度も晒していない摩訶不思議な表情。得体の知れない不安がじわじわと広がっていく。
「うちのシェルは半端じゃないから」
 隣に立つコロナはギュッと右手を握りしめていた。口惜しそうなコロナを一瞥すると、屈辱が伝染したのかミィも右手を握りしめる。
「わたし今まで……今までずっと……間違っていたのかも」

 《最終戦争》の視覚効果はあらゆる呪文の中でも飛び抜けていた。雪原を溶岩に塗り替え終末へと変えていく。それだけではない。荒れ狂う猛吹雪と処理が重なったことで未曾有の事態へと発展。架空の世界がバグり始めるそんな中、
「ようやくわかった」
 パルムが瞳の焦点を合わせると、疲労困憊の少女がふらついていた。剥き出しの地べたに片膝を付き、乱れきった呼吸を懸命に鎮めている。そんなシェルに言い立てた。
「 『きみの目的は何なのか』。 そうぼくはきみに聞いた。そしてその答えは 『ぼくが知っている』。 なのにぼくは決闘しか知らない。なら答えは1つ」
 人差し指を大きく突きつけ、パルムが真実を汲み取る。
「きみのおねえさんは決闘(デュエル)だ。きみは決闘(デュエル)決闘(けっとう)している!!」
「……っ!!」
「きみのおねえさん、アリア・アリーナは決闘が服を着て歩いている。それを嗅ぎ取ったからテイルは追いかけていたし、アブソルも……服の下にある決闘を暴こうとしていた」
「厚着のコーデで誤魔化しても 『(コア)』 は隠しきれない。夏が来たら上着を脱いでしまう」
「アリアは両腕の使い方に定評がある。さっきまでやってたあのパーティで、真っ先にぼくの両腕を抱きしめたのは……そこに決闘があると推測したから。だからきみは、」
「貴方を利用した」
 雪原の嘘が、部屋の嘘が暴かれる。現実と虚構の間に明確な線は引かれていない。蒸し暑い部屋の中も、寒々しい雪原の上も、全てが嘘と本当でできていた。
「ぼくが喚ばれた "1回戦突破記念パーティ"。 あれはハナから造りもの。 『折角だから話を聞こう』 どころじゃない。結局のところ、この決闘は随分と前から始まっていたんだ」

           ティア
コロナ パルム ミ ィ
           シェル

「言いたいことがあるなら聞くよ」
「何も。言えることなんて何もない」
 シェルは造りのない表情で静かに立っていた。軽く首を振り、大袈裟に造られた舞台装置 ―― 端末世界(ターミナル・ワールド)を遠望すると少し哀しげにつぶやく。
「強いて言うなら……コロとティアはもう少しマシだった」
 両腕をダラリと下げる。殺気が淡くなっていた。
「今更 "ごめんなさい" とは言わない」
「それを言ったらぼくが怒る」
「……」
「今ぼくが言いたいのはひとつだけ」
 パルムは人差し指をピンと立てると、そのまま倒して指を差す。殺気。布陣を失っても戦意は消えない。ギラリと睨み付けるや、シェルの間合いに踏み込んだ。
「何やら一段落付いたような言い草だけど……殻の中身を覗くだけで満足なのか」 「!」 「この程度の成果できみは満足なのか。剥き出しにするだけで満足か」
 シェルがハッとする。今もなお、対峙するパルムがありったけの闘気を放っていた。ズシンと両脚で大地を踏みしめ、 決闘集盤(ウエストピッカー) を突き出して。
「ぼくはまだ立っている。立っている限り対峙決闘(スタンディングデュエル)は続くんだ」
「私は……私達は……」
 立ちはだかるのは決闘者。パルムの実像にアリアの虚像が重なっていく。決闘の名の下に混じり合った二重の威圧感に押し込まれ、少女はぐぐっと拳を握り締めていた。今なお立ち続けるシェルとパルムの睨み合い。緊張がピークに達したその瞬間、
「きみらの決闘を見せてみろ!」
「優勝するのはTeam Arenaだ!」
 シェルが跳んだ。片膝立ちからの横っ跳び。さっき落としたカードを拾い上げると、デュエルオーブが燦然と煌めく。 "Magic" "Normal" そして "Reborn" 、
「私のターンは終わっていない! 効果発動!」
 溶岩の中から巨大な投石機が浮上した。回転式のカタパルト・アームをぶん回し、 "思い出" を載せて投げ飛ばす。その遊具(ぶき)の名は

思い出のブランコ(通常魔法)
自分の墓地の通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。


「私は! 墓地から《千年ゴーレム》を選択!」

千年ゴーレム(2000/2200)
千年もの間、財宝を守りつづけてきたゴーレム。
[通常] [6] [地] [岩石]


「残り1枚で《思い出のブランコ》? ……特攻する気か!」
 巨大な投石機は回転構造でできていた。アームの端に岩の塊を搭載するとぐるんぐるんと大回転。玉砕を覚悟した一世一代の特攻。遠心力を利用して岩の巨人が空を飛ぶ!
「思い出は残る? それなら!」
 跳んだ、飛んだ、翔んだ。岩石の単眼巨人が単騎で特攻。頭部の単眼が徐々に大きく……近づいているのだ。策もなく、技もなく、身体そのものを砲弾に、
「私の思い出を喰らえ!」



千 年 肉 弾(サウザンドタックル)



「………………っ!」
 シェルが目元を歪める。《千年ゴーレム》の肉弾を喰らっても、パルムは一歩も退かなかった。華奢な身体も高度な技術も知ったことか。真っ向勝負で受け止める。
「きみのデッキ。解決力はあっても決定力が未完成。この程度じゃ……」
 力む。力む。全力で。毒々しい両腕からデュエルオーラを解き放ち、
「負けられない!」
 《千年ゴーレム》を吹っ飛ばす。

パルム:5500⇒3500LP
シェル:2500LP

「自分から吹っ飛ばす……って、きっちり喰らってるじゃない」
「2000コスト払って吹っ飛ばしたんだよ。さっき、きみの所為で使い損ねた手札誘発の防波堤。この程度じゃ使うまでもない……なーんて言ってみたり」
「その口ぶり。ゴーズもトラゴもフェーダーもハナから抱えていなかった」
「今回は特別仕様。ハナからデッキに入れた覚えがあんまない」
「……っ! 何が何でも《ダーク・クリエイター》を喚ぼうと? コロやティアの為に」
「そんなお人好しじゃない。 "きみを利用して" 一刻も早くマスターしたかっただけだ」
「トーク・ワールドの効果でデッキから1枚ドロー。メインフェイズ2、手札からモンスターを1枚セット。……ハナからスカートの捲り損。もったいないことをしたわ」
「ハナからぼくへの催促だろ。大丈夫。最高の思い出にするから」
 《思い出のブランコ》は片道切符。《千年ゴーレム》の身体が崩れ落ちていくその最中、敬意を持って見送るパルムは決意を固めていた。不退転の覚悟と共に。
「決闘はぼくの人生だ。中途半端にはしない!」

「こんちくしょう」
 ミィの身体は小刻みに震えていた。怒りと哀しみが混ざり合い激情の階段を一足飛びで登っていく。今すぐ駆け出したくなるのを懸命に抑えながら、突き出た言葉を吐き出した。
「わたしがパルくんに言わせたかった。言わせないといけなかった」 
 会話しようとしては続かなかったあの時……、無理矢理遊園地に連れ出したあの時……、2人でタッグを組んだあの時……、新しいデッキを試そうと練習試合に及んだあの時……
「わたしは、わたしはパルくんに……まだ一度も……本気の決闘を挑んでない」
 自然と一滴、眼から涙が漏れていた。魂が剥き出しになっていく。
「誰かの決闘を観るの大好きだったのに。くやしくて……。なんでわたしはあそこに……。パルくんはずっと待ってたのに。もっともっと決闘がしたい。なのに!」

Turn 13
□パルム
Hand 2
Monster 0
Magic・Trap 0
Counter 1
Life 3600
■シェル
Hand 0
Moster 1(セット)
Magic・Trap 0
Counter 1
Life 2500

「ぼくのターン、ドロー! メインフェイズ!」
 指先のカードを 決闘集盤(ウエスト・ピッカー) に差し込むと、小さな身体を大きく使う。パルム・アフィニスの身体が躍動していた。決闘盤を投げ入れた瞬間、足元が数センチ浮き上がる。
「手札から《黒薔薇の魔女》を通常召喚!」
 薔薇の香りのゴシック・ドレス。召喚僧を師と仰ぐ紫髪(しはつ)の魔女が杖を振る。 "Effect" "Draw" "No Card" サモン・ルートを創り出す。

黒薔薇の魔女(1700/1200)
このカードは特殊召喚できない。自分フィールド上にカードが存在しない場合にこのカードが召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。この効果でドローしたカードをお互いに確認し、モンスターカード以外だった場合、ドローしたカードを墓地へ送りこのカードを破壊する。
[調律] [4] [闇] [魔法使い]


「モンスター・カードをドロー!」
「そのカードは……ぐっ!」
 ドロー・カードに釣られた瞬間、混沌としたフィールドを一陣の疾風が吹き抜ける。霊体と化した吸魂の鎧鳥 ――  《The アトモスフィア》が次のデッキトップから低空飛行。高速のソニックブームがシェルを押し込む。
 演出したのは1匹の獣。《星見獣ガリス》が天地に吠える。
「今日の【反転世界(リバーサル・ワールド)】はまだまだいける。24枚目のデッキトップから《The アトモスフィア》を墓地に送り、1600ポイントのダメージを与える!」

パルム:3500LP
シェル:2500⇒900LP

星見獣ガリス(800/800)
手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与えこのカードを特殊召喚する。そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。
[効果] [3] [地] [獣]


(ガリスと黒薔薇の魔女ならレベル7。ド安定バニラの《スクラップ・デス・デーモン》を喚べばシェルの残存戦力をゼロにできる……それでいいのか? この決闘がそれで)
 シェルの様子を今一度うかがう。同世代(ライバル)の1人がそこにいた。
「ぼくもきみにお返ししないといけない。大事なことを教わったから」
「私に教えられることなんて何もない。何もないから私は、」
「ぼくは勝ちたかった。使える効果は片っ端から試した」

 単体破壊 ―― スクラップ・ドラゴン

 複数破壊 ―― アーカナイト・マジシャン

 地雷駆除 ―― デザート・ツイスター

 施設破壊 ―― ギガンテス

 召喚回収 ―― バードマン

 対象除外 ―― カオス・ソーサラー

 対象吸収 ―― The アトモスフィア

 対象奪取 ―― レアル・ジェネクス・クロキシアン

 燃料補給 ―― 多数により枠内に記述不能

「何度も喚んでも不発に終わる。そんな効果(カード)が1つある。ダクリの時とおんなじだ。きっと "なにもない" が怖かった。なのにきみが捨て身の決闘で教えてくれて……そんでもって……ぼくを決闘者と見込んで挑んでくれた。……ありがとう、シェル」
「寝言が過ぎる。私は貴方を……」
「きみが勝手に利用して、ぼくが勝手に感謝する。シェル、この決闘が楽しいんだ」
「たの……しい……?」
 パルムの瞳にはかつての自分が映っていた。天丼のアルマッサに限界を突きつけられ、石鍋のガンチャンに現実を突きつけられ、空っぽになったパルムは来る日も来る日も1人でデッキを組み続ける。できた。飛び上がって喜んだ。やっと掴んだんだもう二度と……
「あの場所であの人達に勝った瞬間、きっとぼくらは何かを背負ったんだ。背負ったやつが零点にビビるなんて有り得ないし、百点満点ぽっちじゃつまらない」
 何かを背負った重圧で背中がズシリと重くなる。なのに不自由ではない。自分の中にあるエンジンが一回り大きくなっていた。重さと速さが強さに変わる。
「ぼくはあの1回戦を誇りに思ってる。だけど、あの決闘で満足することはフェリックスや蘇我劉抗への裏切りなんだ。だから!」
 挑み、挑まれ、挑戦状が巡り会うフィールド上。Team BURST最古参パルム・アフィニスの名において。高らかにその一言を言い放つ。
「優勝するのは、Team FULLBURSTだ!」
 "優勝" いざ口にすると何かが変わり、身体中の血がグツグツと沸き立つ。
 "優勝" ギャラクシー・フェリックスが目指し続けた西部のゴール。
「レベル3の《星見獣ガリス》に」

 ―― 闘ってきたのは何の為だ!

「レベル4《黒薔薇の魔女》をチューニング」

 ―― この腕におれは負けた。必ず戻ってくる

「きみらが挑んでくる。だから……ぼくらはもっと挑むんだ!」
  決闘集盤(ウエスト・ピッカー) を掴んだ瞬間、過去の情景が濁流のように過ぎていく。リードとぶつかり何かがそこで始まった。ラウ、テイル、アブソル、バイソン、バルートン、フェリックス、蘇我劉抗……。終点に1人の少女が立っている。幻凰鳥と激震鳥、2つの思い出を飛ばしてくれた投げ身の魔法使い。相棒(ミィ)の顔がそこにある。

 ―― もっともっと決闘がしたい!

「きみらにはっ! 絶対にっ! 負けられないっ!!」
 大股で踏み込み、腕を振り 「パルくん!」 ミィの目の前からパルムが消える。捨て身の投盤で全身を投げ出し、視界の枠を超えてぐるりと回転。地べたに倒れて、立ち上がる。
()べっ!   決闘集盤(ウエスト・ピッカー) !」
  決闘集盤(ウエスト・ピッカー) がまばゆいまでの光を放ち、
「《最終戦争》のお返しだ!」
 炎の華を解き放つ。



破 流 無 掌 創 世 神 拳(パル・クリエイト・バースト)



「ブラック・ローズ!?」 「リュウコウさんの!」
 炸裂したのは焼夷弾。フィールド上の赤いマグマを真っ黒な爆煙が覆い尽くし、映像処理の激化によりバグが拡大。吹雪と爆煙とバグがシェルの視界を覆い尽くして、
「蘇我劉抗と同じ技。《最終戦争(わたし)》と同じ効果を」
「同じじゃない! ぼくのデッキはその先を行く!」
 なにかが来る。どこから来る。どこから……モンスター・ゾーンの右サイドが爆発した。溶岩と氷雪が勢いよくあたりに飛び散り、大地の下から巨大な何かが迫り上がる。
 そう! それは人型の巨人! 荒れ狂う吹雪の中でオレンジ色のゴーグルが光り輝き、黒鉄の創雷巨人《ダーク・クリエイター》が戦場の右翼に名乗りをあげる。
「2体目の《ダーク・クリエイター》。 ……まさかっ!」
 連鎖するように左サイドも爆発した。吹雪と爆煙を豪気に蹴散らし漆黒の巨人が左翼に浮上。オレンジ色の翼は飛ぶ為に非ず。アビスパネルによる闇力発電。1体目の《ダーク・クリエイター》が威風堂々復活を遂げる。そして、
「3倍返しだ!」
 グツグツと煮えたぎる溶岩を撥ね除け、ド真ん中から今日の真打ちが三度登場。黒鉄の巨人はもう1種類存在していた。機関車を彷彿とさせる巨大な胸部がトレードマーク。脚は太く、腕も太く、重量級のボディはそれでも機動力を失わない。黒鉄の機関巨人 ―― 《レアル・ジェネクス・クロキシアン》が明日へと向かう。

 全てを砕く《最終戦争》。さらにその先の始まりへ。
 


Dark Creator α


Real Genex Kurokishian


Dark Creator β


Triple Special Summon!


 天地再誕からの文明開化。三大巨人が新たな舞台を創り出す。

ダーク・クリエイター(2300/3000)
1ターンに1度、自分の墓地の闇属性モンスター1体を除外する事で、
自分の墓地の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。
[特殊] [8] [闇] [雷]


レアル・ジェネクス・クロキシアン(2500/2000)
「ジェネクス」と名のついたチューナー+チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
シンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上のレベルが一番高いモンスター1体のコントロールを得る。
[同調] [9] [闇] [機械]


「3倍……三千年ゴーレム……」
 シェルは圧倒されていた。手札と体力を全て失い、ハリのあったブラウスは汗でベタつきヨレヨレに。眼前に聳え立つ三大巨人を前にして、自然と手の平が胸へと伸びる。
「 『思い出をぶつけたいなら』……胸に刻んでおく。それでも 『参った』 とは言わない」
「何度でも言うけど当たり前だ。自分からサレンダーを選ぶ決闘者なんていない」
「……」
 胸元からゆっくりと手を離す。次の言葉は決まっていた。
「私は往生際が悪いから。最後にもう一勝負しましょう、パルム」

 Battle Phase!

「走れ! 黒汽車クロキシアン!」
 パルムが号令。小さい身体を大きく振ると、黒鉄の機関巨人《レアル・ジェネクス・クロキシアン》がトランスフォームを開始した。機関車を模した巨大な胸部を先頭に突き出すかたわら、両腕と両脚を後端へと折り曲げ変形完了。The・機関車へと姿を変えたクロキシアンがフィールド上を駆け抜ける。
「あいつに全部魅せてやれ!!」
 パルムの全力にクロキシアンが呼応した。両腕・両脚にあたる車両の後端部から四連バーニアを一気に噴射。加速、加速、さらなる加速。限界を超えて未来へと ――

「ラストワン、質問魔法を発動」

 シェルは哀しげに微笑むと、

 最後の質問をパルムに告げた。

「 『決闘(デュエル)って……何が楽しいの?』 」



レイジング・フォース・バーニア!



パルム:3500LP
シェル:900⇒0LP

 架空の世界は消え去った。現実を主張するのは壁一杯の広告か。役目を終えたデュエルルームは静かに時間を刻んでいた。部屋にはもう3人しか残っていない。その内の1人、コロナはテクテクとフィールドまで歩くと、大の字に倒れていたシェルの前で立ち止まる。
「結局ボコボコにされましたと。2枚も多く引いたのに」
「ボコボコにされて……ムナクソ悪くないの久々かも」
「今日はパーティして、お話を聞くだけにしてって、言ったのに……」
「引いてみないとわからないことがある。逆になんで挑まないの?」
 シェルに問いただされて黙り込む。 "実力的に格上だから" "流石に今日は迷惑だから" それらしい言い訳はいくらでも浮かんでくる。それだけだった。
「あのさ」
 シェルが身体を起こして何かを告げる。少し言い辛そうに。
「Team Arenaのリーダー。今ここにいる方の姉さんだから」
 シェルがジッとコロナを見つめる。睨むというよりは頼むかのように。 「……」 コロナの沈黙はそう長く続かなかった。ニュッと両手を前に伸ばすと 「!」 シェルの眼鏡をガタガタ揺する。されるがままでなすがまま。一通りガタガタ揺すって手を離す。
「ナイトメア・シャークを120%ものにする。あんたが3000打点……アシッド・ゴーレムを投げられないってんなら、その間に7000馬身差付けてやる」
 気丈な宣言を聞き取るとシェルはかすかにやわらいだ。
「姉さんらしい。なんなら8000馬身って言えばいいのに」
「うっさい! 絶対あんたを(接戦の末に)負かしてやるから」

「パルパル格好良かったなぁ」
 いつの間にやら。末っ子のティアもしゃがんでいた。
「シェルちゃんも格好良かったよ」
 ミネラルウォーターをポンと渡すと、シェルはちびちびと飲み始める。なんとか水分補給を終えるとしばらく沈黙。思考の沼に沈み込む。
「シェルちゃん何考えてるの? パルパルのこと?」
「あの人は最後の質問に答えなかった。なんでかしら」
「うーん……思いつかなかったから? ……いたっ! 痛い!」
 ティアのサイドテールを片手で軽く引っ張る。そこそこ軽く。
「貴方の目は節穴? あの人なら、その気になればいくらでも」
「あっ! シェルちゃんはもうわかってるんだ。離して教えて!」
 シェルがパッと手を離す。引っ張ったお返しとばかりに、ティアがポカポカ背中を叩くが気にはしない。他力本願な末っ子に自説を告げた。
「トークデュエルの究極は……自分の未来を知ること」
「トークデュエル? あれはー、お互いのことを聞く為でー」
「質問というのは "自分が知りたいこと" を聞くものよ」
「あ」
「回答がなかったら "自分の" デッキからカードを引く。あれは強制効果。質問した私はカードを引かないといけない。それが彼のメッセージ」
「シェルちゃん。それって、もしかして……」
「未来は 『自分の手で引き当てろ』。 そう言っている」
  決闘搔盤(ストラグル) のデッキトップを一瞥。軽く右手を添えたが止まってしまう。
「私は……あの場ですぐに引けなかった。もし《千載一札》を引いていれば」
「決闘が続いた? んーでもあそこから逆転する方法なんてあるの?」
「立っている限り決闘は続く。怯んでしまった者に勝利はないわ」
「パルパルあんなに優しいのに。同じくらい厳しいんだ」
「そうよ。あの人達はきっと……そういうものなの。その気になればもっとテキトーに勝てるのに、敢えてその先まで示してくれた。なのに私を安心させてはくれない」
 ペットボトルの水を自分の頭にぶっ掛ける。円盤型の 決闘掻盤(ストラグル) をコツンと額に押し当てながらシェルはそっと眼を瞑る。まぶたの裏側にはあの日の尻尾がありありと。 "決闘は楽しいからな" そうほざいて決闘盤を押し付けた筋金入りの変質者。
「ド変態共の世界。私にはまだ……わからない……」
 未だ全てをドローできない3つのデッキ。【ダメージロード】、【クラッシュコア】、【クロスブリッジ】。Team Arenaの水車がグルグルと回っていた。

「!?」
 突然の乱行にパルムが目を丸くする。部屋から廊下に出た途端、預けていた長手袋を投げつけられた。慌てて両手で掴み取ると、すぐさまミィに苦情を入れる。
「乱暴に扱わないでよ、折角預けたのに」
 困惑しつつもミィの表情をうかがうと、何かがいつもと違っていた。
「いつだったかな。ラウンドさんと練習してるとき教えてもらったの。大昔のローカルルールで、手袋を相手に投げつけるとちょっとした意味ができるんだって」
「それは初耳。どういう意味があるの?」
「シェルとの決闘、どうだった?」
「は? いや、その前に……」
「シェルとの決闘、どうだった??」
 有無を言わさぬミィの口調。折れたパルムが語り出す。
「あの娘はきっと試したかったんだ。ただなんていうか、一方的に試すのはフェアじゃないから、だから試し合いを……試合という形を選んだんだ」
 手元に戻った長手袋を嵌めつつ、毒々しい素肌をジッと眺める。余韻が残っていた。
「 『気に食わなければ殴ればいい』 そうあの子は言っていた。補助輪(デュエルガード)付きなのを気にしてて……優しいよ、あの子は。ぼくらの世界(フィールド)で勝負してくれた」
「そっか。そうなんだ……」
「あ、そうだ。さっきの答えをまだ聞いてない。 『手袋を投げつけるとどうなるか』 」
 中々答えが返ってこない。首を傾げつつ待ってると……ミィの表情がいたずらっぽいそれに変わっていた。左手の人差し指を口元に添えると、満面の笑顔でパルムに告げる。
「秘密です!」
「へ?」
 お別れはいつも突然。ミィが自動ドアに向かって走り出す。
「優勝したら教えてあげる♪ 人に聞いたりしたらぶっ殺すよ♪ じゃあ、また明日!」 
 ウキウキ、ルンルン、スキップしながら去っていく。

 パルムは間抜け面で立っていた。

「女の子って……ホントわからない生き物なんだな……」
 パルムも端末世界(ターミナル・ワールド)の外に出る。1人で歩く帰り道。路地裏に潜り込んで近道しながら人気の少ないルートを歩く。夕暮れの道を静かに歩いて1時間。
「ただいま」
 汗だくになったシャツを脱ぎ捨て、スクドラ・クッションをまくら代わりに横になる。 「……」 落ち着かない。起き上がって窓を覗くと空が赤く染まっていた。
「わからないことがいっぱいだ」
 "リードやラウは今頃何を" "明日テイルに文句を言おう" "ミィがトチ狂った" "アリアは結局何をしていた?" "明日は出番があるのだろうか" "優勝……優勝……"

 ―― 決闘(デュエル)って……何が楽しいの?

「それはきみらが知っている」



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話











































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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