―― デュエルに、タッグデュエルに打ち込んだ途端、アブロオロスとの別れを告げられた。

 3年前。地上500メートルのビルの屋上で激突する、闇属性の使い手2人。機械族を操作する過去の英雄リュウホウ・ソガと、悪魔族を使役する現在の英雄ミツル・アマギリ。時代の精算を賭けた不毛な決闘が続く中、蘇我劉邦が札を撒く。選んだ布陣は包囲殲滅、古式決闘の花形然り。
「囲め囲め。地の利を制して敵を討つ。このビルも、この屋上も、戻ってきた俺が貰った」
 古式決闘は原始の決闘。自陣敵陣の境界線が曖昧に引かれ、それ故に、一気呵成の展開戦が至上の美とされる。西部男児がこぞって憧れた、闇属性機械族の挽歌がここに。電撃戦の指揮者A・ジェネクス・パワーコールが、火炎放射器を背負ったA・ジェネクス・ベルフレイムが、高速機動に定評のあるA・ジェネクス・リバイバーが、そして、闇殺しの右腕を構えるA・ジェネクス・ドゥルダークが、ミツル・アマギリの周囲四方を囲い込む。下級を中心とした電撃戦 ―― 【四面蘇我】。
「この四面楚歌抜けられるかぁ? ファイナルアタックだ。全機一斉攻撃!」
 "戻ってきた蘇我劉邦" は、その末期に完結を求める。四方を鉄の壁で囲み、部屋の天井に蓋をする……蓋の中身は手製の爆薬。降り注ぐダイナマイト、爆発する小世界。 「ごぉめんな、さぁい!」 自殺の道連れを得た喜びか、はたまた、籠の中の鳥を抹殺した喜びからか、蘇我劉邦が狂ったような笑い声を響かせる。……高笑いは長く続かなかった。いる。ダイナマイトの爆発の中、巨大なる漆黒の巨人・地縛神 Ccapac Apuが浮上。攻撃を堰き止め、爆風を薙ぎ払い、時代を創り出す巨大な拳。現代決闘は対峙の決闘。天地咬渦狗流の拳が過去と現在を確定させる。
 蘇我劉邦は最後にぼそりと言った。
「未来はどこだ。教えてくれよ、英雄」

                  ―― 大会会場(観客席) ――

「おいミツルだ」 「ミツルが1人で座ってるぞ」
 西部個人ランキングからベストジャンパニスト、果ては美肌スベスベ☆キラリン☆スターランキングに至るまで、西部の一位を独占し続けた決闘者、即ち、TeamEarthbound 大将 ミツル・アマギリは1人で観客席に座っていた。ライバルの試合を観戦する為に設けられた、見晴らしの良い特等席。5つ分の席が確保されているが、座っているのは1人だけ。
「リミッツ」 整った眉をひそめ、苦々しげに目を細める。 「いつになったら普通に座ってくれるんだ。暗殺を警戒するような時代でもない。椅子の下に潜行される身にもなって欲しい」
「世間体が気になるなら安心しろ。周囲からは気付かれないよう潜行している」
 無音の潜行者リミッツ・ギアルマに請け負われ、ミツルは軽く溜め息を付く。
「ケルドは椅子に座って待機するのが大の苦手で、フェルティーヌに至ってははしゃぎ過ぎた所為でガス欠。これのどこが 『統率の取れた最強の軍団』 なんだろうな。うちの広報は優秀すぎるよ」 「着席を強制しないおまえが悪い」 「なら座ってくれ」 「いてもいなくてもそう変わらん」 「……」
 ミツルの左右には席が2つずつ空いていた。周囲の観客達が互いに釘を差し合う。
「なあ、あれ、横座っていいのか」 「いいわけないだろ、アホ。チームメイト待ちに決まってる」
 かの有名な 『血の車エビ事件』 を契機とし、西のEarthboundファンはそれなりに訓練されていた。
座布団感覚でディスクが飛び交う流血の時代も今や過去。広報の呼びかけが功を奏したのか、ある種の慎み深さを期待できる、その程度にはファンの質が落ち着いた。
 だが、それらは調味料に過ぎない。ミツル・アマギリという素材があって、初めて、美味しいエビチリができあがる。ミツルは静かに座っていた。究極的にはそれで十分。殺気を放っているわけではないが、その気高く真剣な表情は 『ああ、この人の半径3メートル以内に近付いてはいけないんだ』 という気にさせる。もし迂闊にも近付く人間がいるとすれば、そいつは相当な恥知らずに違いない ――

「あ、懐かしい顔じゃん。おひさ」
 恥知らずがいた。やや具体的には、赤い瞳と黒い髪の美女。より具体的には、赤いパーカーと黒いレギンスのカジュアルな女性。時間を遡ること少し前、2回戦進出を決めた決闘者。
 気軽に話し掛けられたミツルは、しかし大して動じなかった。
「アリア・アリーナ。ようやくでてきたようだな。随分待った」
「例の一件以来だね。色々、デッキを抜き挿しできたから」
 永続魔法発動。気さくに会話を続けるアリアの後方では、コロ・シェル・ティアの3人に《闇の護封剣》がぐっさり刺さる。 「なんで知り合いなの」 「気持ち悪い……」 「おねえちゃんすごい」 揃いも揃って裏側守備表示になる中、当のアリアは気にせず喋る。
「あれ? 席が空いてるじゃん。座っていい?」
「ああ。丁度持て余していたところだ」
「コロ・シェル・ティア、一緒に……」
「ムリムリムリムリ!」 「馬鹿……?」 「ああ〜うん〜ああ〜」
「ありぃ?」 アリアが困惑する。なぜ、なぜ、なぜ…… 「あぁ、もう」 痺れを切らしたのは三女・シェルアリーナ。その場でこれ見よがしに息を吐き無理矢理表示形式を変更、バトルフェイズに入る。
「積もる話でもあるんでしょ。わたしたちは向こうで観てるから」
 シェル・アリーナは数歩前に進むと、パープルフレーム越しにミツルと目を合わせる。 「サインください」 強く、鋭く、何かを訴えるシェルの視線に気付いたミツルは 「ああ、いいよ」 と答え、こんなこともあろうかと常備していた紙を2枚ほど取り出す。シェルはサインを貰うと即反転。きょろきょろ首を振るコロナと、間合いを計っていたティアの手を掴み、すたこらさっさで撤収した。

「 『デュエルテロで偶々一緒に巻き込まれた。事件解決に協力してもらったがそれ以上のことはまだ何も知らない』 って書いてある」 サインと一緒に貰った2枚目の紙を読み上げると、コロナが感心して言った。 「無茶苦茶字が上手い……。ねえシェル、あんたはこれを……」 すぐさま口を閉じる。
 エンドフェイズ、シェルは欄干の側に座り込むと、身体をぶるぶる震わせていた。表示形式を変更した代償。右手は胸元を押さえ込み、左手は黒髪の端をさすっている、宥めるように。 「馬鹿じゃないの」 鼓動を抑え込みぼそぼそと呟く。 「もう、ホント、馬鹿じゃないの」

「なんで俺が真ん中なんですか」 レザールが目を細めて言った。飲み物片手に帰ってきたところでミツルと席を交代。ミツルとアリアの間に座る。 「スキャンダル対策かなんかすか」 「そんなところだ」 「もうマスコミも諦めかけてますよ。まあいいんですけど」 飲み物に口を付けながら横目でアリアの様子を伺う。変わっていなかった。頂上で垣間見たあの時のアリアと同じ顔。
「なあ」 「なに?」 「……」 言葉が出てこなかった。隔絶と緊張。
「ねえ、察してる?」 意味がわからない。あの時のように。
「ああ」 一席飛ばしてミツルが返事をする。あの時のように。
「察すって、何を……」 いる。何かいる。あの時のように。

「なぜ、蘇我劉邦は狂ってしまったのか」
 階段の下から声が響く。大きな声ではない。弱々しい声でもない。レーザーのように一点を貫く高密度に収束した益荒男の声。階段を上がってその身を晒すと、充血気味の瞳を向ける。
「今を去ること10年前。絶頂期を迎えた蘇我劉邦はその勢いで中央に喧嘩を売り、負けた。英雄が敗れたというのに西部の民衆はろくに騒ぎもしない。なぜ西部は、蘇我劉邦を忘れてしまったのか!」
 演説調が徐々に高まる中、アリア・アリーナがぼそりと呟く。
「ドゥルダーク……って顔に書いてある」
 ミツルは目を凝らすと、 "過去の言葉" を反芻した。
「ドゥルダーク……。アーリー、ジェネクス、ドゥルダーク」
 階段の下から上がってきた挑戦者の全身をまじまじと眺める。闇属性使いを匂わせる藍色の決闘着と、強固な砲身を思わせる鍛え抜かれた右腕。短く刈り込んだ頭髪に充血気味の双眸。単なる観客というには殺気を放ちすぎている。脳裏に浮かぶたった1つの心当たり。
「立派になったな、蘇我劉抗」
「なぜ蘇我劉邦は忘れられたのか。その解答がここにある。親父が留守の間に台頭したのがミツル・アマギリ。若干15歳の新たな英雄の台頭により親父は忘れられたんだ。週刊誌で叩かれることもなく、惨めな負け犬と野次られることもなく、親父はただただ何事もなかったかのようになんとなく忘れられたんだ。それもこれもあんたが格好良すぎたから。親父は一瞬で過去になった。そして今となっては、あの事件が親父の全てになっている。親父は、クソみたいな記憶を刻んで死んでった」
「おれを憎んでいるのか。おれがいなければ」
「なぜ憎まねばならない。親父の暴走は誰かが止めなければならなかった。本当は、俺が止めなければいけなかったんだ。直接の負傷者は2名。混乱時の負傷者3名。死者を出さずに済んだのはあんたのお陰だ。その意味では感謝している」
「ならばなぜここに来た。なんとなく決闘をしたくなった、というわけでもないだろう」
「おれはあんたを憎まない。しかし、おれはあんたを認めない。あんたは中央相手に勝利を上げた」
「……君のお父上は、闇属性・機械族を操る当代随一の決闘者。当時の決闘者達に大きな影響を与えていた。西部の闇属性使いが、機械族使いが、当時の荒くれ達が、今もなお彼を忘れてはいない。おれもその1人だ。お父上の十八番、《闇次元の解放》があったからこそ、おれはあの時……」
「ならばなぜ西部に閉じこもる。親父をリリースしておいて、アドバンス召喚した結果がこれか。おれは認めない。勝利をなかったことにしたあんたを認めるわけにはいかない!」
「……っ」
「あんたも、親父も、俺が」
「おい蘇我劉抗」 会話に割り込んだのはレザールだった。
「御託は結構だが、勝てる気でいるのかよ、ミツルさんに」
「先日は世話になったな。あんたのお陰で死角が見えた」
(こいつ) レザールはすぐさま気付く。内包するオーラの差異に。
「遊園地の時よりも……か。本気かい」 「本気でなければここにはいない」
「ちょっと似てるかも」 言われた蘇我劉抗が厳つい視線を向ける。言ったのはアリア・アリーナ。 「わたしもあの屋上にいたからさ」 《タイムカプセル》に安置した記憶を表に返す。 「あんたの父親はどうしようもない向こう見ずの愚か者だよ」 「ああ、知ってる」 「それでも、闘い続けようとする人間ではあったし、何より決闘を愛していた」 「決闘を……愛す……」 「そうでなければ、決闘での決着を受けたりはしないし、何より、ピストルとダイナマイトで自爆する気で乗り込んだ奴がデッキまで持ち込む理由がない。あんだけ心が壊れても、闘っちゃう人間ではあったから……さ」 「……」
「蘇我劉抗」 ミツルが改めて声を掛ける。厳粛に意思を告げた。
「これ以上は決闘で語れ。おまえの戦場は、上ではなく下にある」
「ああ、下にいくさ。上がる為に下がる。急がば回れというやつだ。だが!」
 突如、蘇我劉抗が腰を落とし、全身からデュエルオーラを放出し始める。ひときわ目を惹いたのはその右腕。砲身となる腕を硬め、砲門となる手の平を開く。
「挨拶代わりだ。受け取れ!」
 意気衝天! 溢れ出る蘇我劉抗の殺気に対し、真っ先に動こうとしたのは、無音の潜行者リミッツ・ギアルマ。ベンチの裏側から飛び出そうとする、が、
「リミッツ、大丈夫だ」
 ミツルはその場で立ち上がると、腰を落として腕を曲げる。少年から老人に至るまで、西部一帯に周知された挙動。言わずと知れた 天地咬渦狗流(てんちこうかくりゅう) の構えを取ると、蘇我劉抗の掌底に合わせて正拳を打ち込む。2人を結ぶ直線上のただ一点。人と人の間の ―― 何もない空間が、爆ぜる。



天地咬渦狗流 人間の拳!


破魔空掌対消滅拳!



       
DUEL EPISODE 33

激突する西部


                 ―― 銀河空間(ギャラクシー・スペース) (半年前) ――

「ツメが甘いぞフェリックス!」
 真っ白な壁に真っ青な床。床を照らす天井灯に人を照らすスポットライト。かくれんぼには向かない清潔な空間に札が舞う。多数の構成員に見守られ、Team Galaxyの練習場で光属性の使い手が引き合っていた。東側からは巨大な光龍がブレスを放ち、他方、西側では光の魔導士が守りを固め、
「《次元幽閉》を発動!」
 両手を合わせ、両手を開き、次元の裂け目を走らせる者。即ち、白装束を纏ったTeam Galaxyのリーダー 、ゼクト・プラズマロックが両手を振って裂け目を閉じる。しかし、
「《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》の効果発動」
 Team Galaxyのエース、ギャラクシー・フェリックスもまた札を繰る。龍を彷彿とさせる仰々しい髪を揺らしながら 銀河歪曲航法(ギャラクシー・ワープ) の発動を宣言。己の支配下にある《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》と、ゼクトの支配下にあるモンスターを銀河の海へと緊急退避、難を逃れる。
 バトルフェイズ終了時、しもべを取り戻した白魔導士が哀れむように言った。
「相変わらずだな、フェリックス」  不敵に、苛烈に、人差し指を立てながら。 「1ターン時間を稼げれば、私にとっては最早十分」 シミ一つないホワイトローブの袖から色白の腕を伸ばし、メタルプレート型デュエルディスク 決闘強盤(パワー・プレート) に手の平を寄せ、そして、
「ドロー! メインフェイズ、《ライトレイ ソーサラー》の効果発動」
 Team Galaxyの一般構成員達が 「で、出たぁ! 《ライトレイ ソーサラー》! 眩しすぎるぅっ!」 「例え眼が潰れたとしても見ていてえ!」 「だ、駄目だぁっ! あんなもんを見ちまったら」 「家に帰っても、蛍光灯なんかじゃ満ち足りた日常生活を送れねえ!」 と口々に持ち上げる中、ゼクトは《フォトン・サーベルタイガー》をデッキに戻す。白魔導士の白は光の白。真っ白な空間を光が照らす。
「我が美的観念に応えよ、シャイン・パニッシュ・マジック!」

銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)(3000/2500)
銀河眼とその戦闘対象をバトルフェイズ終了時まで
問答無用で除外する強豪感溢れる効果 by フェリックス
[効果] [8] [光] [ドラゴン]
ライトレイ ソーサラー(2300/2000)  
1ターンに1度 除外された光属性をデッキに戻し
自身の攻撃権を放棄することで相手モンスター
1体を除外する強豪感溢れる効果 by ゼクト
[特殊] [6] [光] [魔法使い]

 白衣の魔導士 《ライトレイ ソーサラー》が、両手の間に光を圧縮する。 「消え去れ!」 両腕をばっと広げて凝縮された光の球を解放。目の前の龍を、光に載せて消し飛ばす。
「《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》を除外、私はこれでターンエンド」
「……」 沈黙するフェリックスに向け、ゼクトは尚もまくし立てる。
「不完全除外とは違う。これこそ、真の除外美というもの。美は威に勝ると知るがいい。そして! 私はおまえのことを知り尽くしている。強豪の威、圧倒できるものならしてみるがいい……ふっ、嘆かわしいと言ったらないな。そんなザマ故に、腹筋風情から逆威圧を喰らうのだ」
 フェリックスの太い眉がぴくりと動く。
 ゼクトは不遜な態度を崩さない。瞳の底を下まぶたに貼り付け、見下ろすようにして言った。
「 『強豪は存在感を醸すべし』 それがおまえの持論だ。しかし! そんなものでは矜恃と言えぬ。そんなものでは強豪と言えぬ。 『強豪は美意識を誇るべき』 なのだ。銀河眼の戦闘除外など、我が愛杖の効果除外に比すれば塵芥も同然……否! 塵芥すら残さん!」

「今日のゼクトさん、厳しいな」 「おかしいのはフェリックスさんだ」 「何も言い返さないからゼクトさんも苛ついてんだよ」 「いつもはもっと、格好良く見栄を切ってるのに」 「あれじゃあ借りてきた龍だ」

「ドロー」 必要最小限の言葉でフェリックスが札を引く。数秒の間断の後、装備魔法 《銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)》を発動。墓地から《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》(B)を釣り上げる。これに対しゼクトは、「指一本動かせぬ木偶の坊。そんな見かけ倒しを引っ張ってどうするつもりだ」 と捲し立てるが、フェリックスは表情を変えなかった。己の場に 『フォトン』 または 『ギャラクシー』 を名乗るモンスターが存在することを条件に、レベル8の《銀河騎士》を妥協召喚。己の攻撃力を代償に、《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》(C)を守備表示で釣り上げる。 「貴様、」 白魔導師を前にして、龍髪の偉丈夫は同じ事を繰り返す。

 なまくらの騎士と借りてきた龍、一騎二龍が場に並ぶ。

銀河零式(装備魔法)
自分の墓地の「フォトン」または「ギャラクシー」と名の
ついたモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚
(装備モンスターは効果を発動できず、攻撃もできない)
銀河騎士(2800/2600)  
効果による召喚成功時⇒攻撃力を1000ダウンし、
墓地から銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚
[効果] [8] [光] [戦士] 

 フェリックスは "召喚" と "発動" 以外の言葉を何も発さなかった。攻撃力1800の《銀河騎士》1体と、攻撃不能の《銀河眼の光子竜》2体を前に、折れず曲がらずの 決闘強盤(パワー・プレート) を手にしたフェリックスが無言で構える。全身のデュエルオーラを開放。太い眉の下、収束した瞳がゼクトを睨む。
「まさか……」 ゼクトが一歩退くと同時にフェリックスは投盤を行った。フィールド上に描かれる魔方陣。《銀河騎士》と、2体の《銀 河 眼 の 光 子 竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》を装填。室内を揺るがす地鳴りと共に ――

「はっは」 ゼクトが嘲笑する。 「何かと思えば投盤失敗。使えもしないモンスターなど……
 木偶にも劣る! 私のターン、ドロー!」 銀河を超えて、時空を超えて、《タイムカプセル》の中から2体目の、「《ライトレイ ソーサラー》を特殊召喚! 2体連続で効果発動!」 放出される二乗の光、消滅する2体の龍、 「まだまだぁっ!」 決闘強盤(パワー・プレート) が放たれ、魔方陣が煌めく。 
「2体の《ライトレイ ソーサラー》でオーバーレイ!」 魔法使いは奇跡の担い手。火を燃やし、氷を固め、森を育む大自然の代弁者。その全てに原初あり。光あれ、白魔導師が光を放つ。
「エクシーズ召喚はこう使う!」
 2つの光源を装填し、満を持して現れる光属性の巨人。遙かなる巨体は古の大陸を模していた。左肩に氷山を、右肩に森林を、両脚に溶岩を。光の彼方より巨人よ出でよ。
「故あって守備表示! 第1の効果発動」 大陸を模した巨人の腹には穴が空いていた。墓地に存在する《No.20 蟻岩土ブリリアント》を更に装填。二重の光源を得て、遂に覚醒した光の巨人が大きく右腕を振り上げる。 「真っ二つに裂かれた大陸は、醜い方が消えゆく定め」 地上への審判を下す為、大地に向かって拳を放つ。 「第2の効果発動!」



超大陸の業を知れ!

金 門 封 鎖(オルハリコン・ゲート)




No.6 先史遺産アトランタル(2600/3000)
召喚成功時 墓地の「No.」を装備することで、その攻撃力の半分を自身の攻撃力に加える
ORU1つと装備した「No.」を墓地に送り、攻撃権を放棄することで相手のライフを半分にする
[装填] [6] [光] [機械]


 大地を揺るがす衝撃波が光の波と化し、迫り来る黄金の壁となって地上の半身を押し潰す。並列変異の大災害に煽られ、壁際まで吹き飛ばされるフェリックス。音は鳴っても声は響かなかった。銀河眼使いは尚も沈黙。デッキホルダーに手を近づけ、ドローの体勢を取る。しかし、
 ゼクトは左右に首を振った。軽く息を吐くと、失望の色を露わにする。
「腑抜けたなフェリックス。貴様などもう必要ない。この門より出奔し、夜の闇に消えるが良い」
 ゼクトは 決闘強盤(パワー・プレート) を仕舞い込むと、フェリックスに背を向ける……白魔導士が目を見張った。ゼクトの前にTeam Galaxyのレギュラーが立ちはだかる。参謀ゴック・アイゼンマイン、工兵バーベル・クラプトン、歩兵ガックブルー・ハラハーラの3名がそこにいた。
「貴様達、何のつもりだ」 訝しがるゼクトに対し、工兵バーベルが疑問を呈す。
「なぜ決着するまで闘わない。フェリックスのライフはまだ4000も残っている」
「これ以上続けるのは時間の無駄。奴の戦力は尽きている。頼みの銀河眼もその全てが除外され帰還のアテもない。ここで決着とするのが美しい決闘というもの。本来ならば《ライトレイ ソーサラー》で必要十分。アトランタルを使うことも憚られるが、敢えて腑抜けに……」
「そんなことだから」 参謀アイゼンマインが横槍を入れた。 「ミツルに7000差を付けられる」
「ふっ、笑止! 敗れた事実は認めるが、ライフ差と実力差を同視するなど初心者の発想もいいところ。そもそも! おたおた目先のライフを狙うなど、《ライトレイ ソーサラー》に失礼千万」
「効果を発動した《ライトレイ ソーサラー》は殴りたくても殴れない。アトランタルでさえそうだ。前々から思ってたんだよ。あんたの言ってる事は、美意識を盾にした単なる言い訳じゃないか。《封印の黄金櫃》に加えて《タイムカプセル》まで入れて、最近のあんたは優美が過ぎる。ミツル・アマギリのガイウスの方が、テイル・ティルモットのアーチャーの方が、余程戦果を上げていた」
「我が愛杖を愚弄するとは聞き捨てならん! 《ライトレイ ソーサラー》を殴れもしないというのなら、フェリックスの銀河眼は何だ! 牙を剥いてから尻尾を巻く、半端者の効果ではないか!」
「フェリックスは努力している! 試行錯誤しているから……調子を落としているんだ」
「調子の維持も強豪の役目。消え失せる理由にはなってもここにいる理由にはならん」
「じゃああんたは何をやったんだよ! フェリックスは気にしている。見掛けばかりの強豪、格下狩り専門、そう言われぬよう【強 豪 軍(パワー・マーチ)】を【強 豪 循 環(パワー・サーキュレーション)】に進化させた。確かに結果は残念だったが、フェリックスは前を向いている。あんたはどうなんだよ」
「むっ……」
「フェルティーヌ・オースを倒した頃のあんたは確かに凄かった。これ以上ないくらい光り輝いていた。けど、時代は動いてるんだ。フェルティーヌ・オースは新しいデッキを組んだ。あんたがその間やったのは、見栄え重視の羽根作りじゃないか!」
「揃いも揃って……私こそ貴様等には愛想が尽きた! 美意識のない集団になどいられるか!」
 ゼクトは再び背を向ける。シミ1つない真っ新な空間の果てにはフェリックスがいた。論戦の間一言も発さず沈黙を続けるエースを視界に入れると、すれ違いざま皮肉を放つ。
「私のいないチームで、精々お山の大将を気取るがいい」
 フェリックスは表情を変えなかった。怒りも悲しみも表に出さず、戦友に向けて淡々と言った。
「前大会の3回戦。ミツルを相手に、《デビル・フランケン》で一撃必殺を狙った者がいた。あの男の眼光、あれは本気でミツルを喰らおうとするそれだった」
「弱小は強豪の対極。道化者にでもなりたいというのか」
「ならば我々は何者であろうか。ゼクト……」
「くどい。さらばだ、フェリックス」

                   ―― 大会当日・選手専用通路 ――

「ようやくこの日が来たか」
 決闘男児が目を開く。22歳、身長186センチ、西部個人ランキング57位、そして、Team BURSTの大将。何やら色々掻き集め、野望に向けて再起を図る何者か。その名はリード・ホッパー。薄暗い通路の、備え付けられたベンチに座ったまま軽く深呼吸。少しずつ、丹田に力を貯めている。
「いい顔してるじゃないか」
 横合いから声を掛ける者がいる。27歳、身長188センチ、西部個人ランキング未登録、そして、Team BelialCrossの代表。地下の住人バルートンがリードの顔を覗き込む。
「ああ」 "ぼさぼさ頭" がその場でにっと笑い、強気な言葉をサーチする。
「コンディションは最高だ。初戦の相手も悪くない。試金石には丁度良いだろ? 新生Team BURSTの力を試すには手っ取り早い相手だ。はっ、負ける気がしねえよ」
 軽口の間、膝ががくがくと震えていた。敢えてバルートンは話題を変える。
「おまえの調子などは今更聞く必要もないが、他の連中はどうなんだ?」
「そいつは企業秘密だろ……なんてな。おれはいいとこ半分ぐらいしか把握できてない。大将の癖してほとんど個人練習してたんだ。けれど、なんていうかさ、こう……わくわくするんだよ」
「ほう」 「あいつらはあいつらで決闘を高めてくれていた。おれの為じゃあないんだろうが、この2ヶ月間、決闘を高めていてくれたんだ。だからさ、一緒に決闘をしたいんだ、あいつらと」
「ならいってこい。俺に欲望(デュエル)を見せてみろ」 地下の抜札者に促され、
 リードが、大改造を施された決闘盤を手に立ち上がる。決意を胸に。
「強豪共に、片っ端から挑戦してやる」

「はい、はい。わかりました。必ずご期待に応えられるよう全力を……はい……」
 偉丈夫が携帯をオフにする。32歳。身長192センチ、西部個人ランキング8位、そして、Team Galaxyのエース。畏敬の念を込めてギャラクシー・フェリックスと呼ばれる男。虚空を眺めて軽く1回溜め息を付くと、ベンチに座って物憂げな表情を浮かべている。
「フェリックスさん、調子はどうですか?」
 微風の室内、長いもみあげがほんのり揺れた。26歳。身長174センチ、西部個人ランキング3位、そして、Team MistValleyの主将。薄緑の髪と、黄金の瞳を持つ物腰の柔らかな優男。
 フェリックスはライアルの顔を一瞥、首を正面に戻すと自嘲気味に言った。 
「うちの後援会からのお達しだ。不甲斐ない決闘はもう終わりにしろとさ」
「不甲斐ない? 冬期の準優勝チームに言うべき言葉とは……。なんとも不理解な」
「気を遣う必要はない。おまえを含め、ほとんどの強豪はTeam Earthbound側のブロックで潰し合っていた」 フェリックスは淡々と回想する。前期の敗戦風景を。 「レザールの地縛神に気圧され、ろくな抵抗も試みぬまま無様に敗れ、そのまま呆気なく三連敗。今日うちと戦うチームの方が余程善戦している。我々のそれは消化試合でしかなかった」
「……貴方は優秀な、精神感応系決闘者です」
「現実は現実。観客達は、我々が形ばかりの強豪に過ぎんと批判している。支援者達も、我々を見限って別の強豪を探し始めている。笑えよライアル。その間、我々がしたのは言い争いだ」
「Team Galaxyの二本柱 ―― リーダーのゼクトさんとエースのフェリックスさん ―― の間で諍いが起きたことは聞き及んでいます。あの新チームのメンバーは、貴方が人事を……?」
「時間だ」 フェリックスが、増盤された決闘盤を手に立ち上がる。矜恃を胸に。
「ライアルよ。我々は、強豪なのだ」

                       ―― 観客席 ――

 太陽とは生粋のデュエルファンである! そう言わんばかりに照りつける夏の日差しに当てられながら、「そろそろ行くぞ」 「あいよ」 ラウとテイルが下に降りようとする。 「うちと当たるまで負けるなよ!」 親戚のおじさんのようなテンションで発破を掛ける "砲銃店長" ダァーヴィットや、「ラウンド君、 『ヤタロック』 に繁栄をもたらしたキミならできる!」 何やら明後日の方向に発破をかける "殲圧店長" デッドエンドを軽くいなしつつ、通路に足を向ける2人だ、が、
「ヴォォォルカッカッ! なんと! おもしれえのがいるじゃねえか!」
 観客席の最上段、突如、火柱が天を衝く。交わる火炎が渦を巻き、観る者全てを圧倒する、が、すぐさまラウが真相を見抜く。 「OZONEを小規模で発動している。あれを観ろ」

  いるぞ、いる、何かいる!

 常在 『噴火』 の特攻隊長
 生体輸送機 ヴォルカニック・ロケット を飛ばすのは
 陽気な花火師、エルチオーネ・ガンザ!
 左翼で腕薙ぐ外炎の構え!

 魂に刻むは 『火葬』 の矜恃
 死と炎の循環者 炎帝近衛兵 を侍らすは、 
 寡黙な葬儀屋、チェネーレ・スラストーニ!
 右翼で腕組む内炎の構え!

 今日も 『七輪』 焼き鳥、美味い!
 鳳凰崇拝 ネフティスの導き手 を頼むのは
 古色蒼然のいぶし(たん)、フーモ・レッサー!
 背後で火を焚くうちわの構え!

 『火打』 の心意気は今なお健在
 高機動不死族(デッドスピード) スカル・フレイム を走らすは、
 "フリントロック" 店長、ファロ・メエラ!
 炎陣のド真ん中で指揮を執る!

 ごうごうと燃やしている。その決闘集団の名は!

「Team FlameGear」
「真夏に会いたい連中じゃねえな、つうか喋れや」
「ご挨拶ぅっ! 覚えてくれてサンキューなぁっ!」
 オレンジ色のつなぎを着た歩く活火山、エルチオーネが真っ先に声を上げる。そして、
「よおデッドエンド」 FlameGearを代表する女傑、揺らめく赤髪のファロ・メエラが猛る。
「眼鏡男子と尻尾男子。この2人はあんたの愛弟子かい?」
 問われたデッドエンドは首を左右に振り、一際低い声で言った。
「愛弟子に付き合ってくれる極めて貴重な御友人達だ。あまりぞんざいに扱うなよ」
「そらそうさね」 ファロは意気揚々と言った。 「そこにいるトリガーハッピー(ダァーヴィット)を引退させた子と、うちのチェネーレがお世話になってる子。いいねえ、是非やり合って欲しいもんだ、うちの子とね!」
(チェネーレ……) ラウの視線は、背後に控える男に固定されていた。寡黙な葬儀屋、チェネーレ。赤いジーンズに灰色のタートルネック。炎と灰を基礎とした始まりと終わりの決闘者。
「調子よさそうだな、チェネーレ。《真炎の爆発》の発動、成功させるとは恐れ入る」
「おまえを相手にするならこの程度は必然。直接対決を楽しみにしている」
 "過大評価を" そう言いたいのをぐっと堪え、しばし沈黙が訪れる。
「おれはごめんだ」 テイルがそっけなく沈黙を破る。 「ただでさえクソ熱い夏真っ盛り、おまえらは見た目も中身も暑苦しすぎるんだよ。おれを見習えよ! このTシャツを!」
 テイルは自分のTシャツを軽く持ち上げる。サーフボードに乗った "波乗りジャンク" がプリントされている夏真っ盛りな運動着。一通り自慢すると、そのまま捲し立てる。
「特におばさん、年を考えろ年を。なんだそのジャンパー。流行らねえぞ、そんなもん」
「おい尻尾ぉっ!」 エルチオーネがすぐさま割り込む。 「おばさんじゃなくて姐さんだ。確かに限界ギリギリ棺桶に足を突っ込みかけてはいるが……」 「待つんだ、エルチオーネ」 チェネーレも横槍を入れ、そのまま貫通した。 「そういう言い方では解決力が足りない。 『人生80年、その半分程度しか生きていない若造』 とでも言えば、少しは若さを強調……」 「おまえらぁっ!」 ファロに頭を叩かれる。エルチオーネはゲラゲラ笑い、チェネーレは右から左に受け流す。
(そんな馬鹿な) ラウが内心驚く。 (あのチェネーレが冗談を……)
 真顔で動揺する理屈屋を余所に、赤髪の女傑が総括を始める。
「楽しみにしてるよ。うちのもんをがっかりさせたら承知しな……」

「その通り。折角ここまで遊びに来たんだ。もてなしてもらわないと困る」

 深淵から響く声。床に嵌め込まれた非常用の蓋がぱかっと開き、正方形の肉塊が縦に飛ぶ。嗚呼、なんと、ボキボキという不穏な音を響かせながら、腕が、脚が、そして頭が肉塊から飛び出し、人の形となって札の世に顕現する。阿鼻叫喚の悲鳴の中、テイルが真っ先に声を上げた。
「アブソル・クロークス!」
「やあ」
 無から生じたかのように現れたそれは、あらゆるものを吸い尽くす異形の擬人化に他ならない。ブラックホールが形を持って歩いているかのような、そんな錯覚さえ惹起する。
「なんと! こうも無駄に目立つとは!」 エルチオーネが文句を付けるが 「年季が違うよ坊や」 の一言でひらりと躱す。デッドエンドからも 「試合が終わってからずっとここで待ち構えていたのか」 と聞かれるが、アブソルは自然体のままさらりと返す。 「待つのは得意なんだ。僕はね、ずぅっと気長に待っていたんだから」 穴蔵から這い出すような言葉に、テイルが言葉で唾を吐く。
「帰れ、アブソル」 冷たい視線で一言もらったアブソルは、嬉しそうに口を利く。
「久しぶりだね、我が親友テイル・ティルモット。そして勿論、我が同胞西部五店長」
「死ね、アブソル」 ファロは混じりけのない嫌悪を叩き込む。 「そしたら好きになってやる」
「おやおや」 アブソルは吸い込む、嫌悪さえも。 「相変わらずだね、ファロ。僕は君のそんなところが大好きだ。デッドエンドも、ダァーヴィッドも、ゴーストリックも、皆元気そうで何より。さて」
 まるで最初からいたかのように。アブソルは場の中心に立って高らかに言ってのけた。
「僕ら西部五店長は、推しメンの違いはあれど若者に期待しているんだ。西部決闘界は今まさに成長期。その価値は、不肖、この僕が請け負おう。テイル、君ももっと覇気を絞りたまえ」
「んなもんゴミ箱に捨てちまったよ。けどな、この会場には大真面目なバカがちょこちょこいるんだ」
 ぞわっと空気が荒立つ。 「テイル?」 横で意外そうにしているラウのことを知ってか知らずか、テイルはポケットから手を引き抜く。瞳に静かな殺気を込め、低い声で言った。
「もししょうもない茶々を入れるってんなら、おれがおまえの喉を封じてやるよ」
「決闘で?」 「勿体ねえよそんなもん。この尻尾で十分だろ。ぐぃっと
「それは困るな」 「なら大人しくしてろ。ラウ先生、さっさと行こうや」
「ああ」 ラウは今一度、Team FlameGearのエースを一瞥する。アブソルが喋る間も姿勢を崩さず、静かなる闘気を放っていた好敵手。徹夜続きの眼で視界に入れると、静かに言った。
「拘る為には勝つしかない。なら、やることは1つだ。行くぞ、テイル」
「オーライ」 テイルは軽く頭を下げると、悪戯っぽく笑う。
「あいつらも、そろそろ起きてる」

                  ―― 大会会場(控え室) ――

 遊具の山が壁際に積まれていた。 "赤い球を棒に突き刺すあれ" "ワニをハンマーで叩くあれ" "銀玉を誘導してゴールに運ぶあれ" …… 一人遊びの遊具が、また1つ壁と同化する。寂しくはなかった。一人遊びは、それはそれで楽しかったから。寂しくはなかった。遊具の王様を手に入れたから。寂しくはなかった。同じ決闘盤を構える上位互換がそこにいたから。自分に似ていて、けれど自分とは違っていて、自分より決闘が上手い "テロ" と呼ばれた男の子。《デーモン・ソルジャー》を《炸裂装甲》で凌ぎ、《リビングデッドの呼び声》を《ツイスター》で捌き、およそ有り得ないぐらい完璧に "用心棒" を使いこなすトモダチに向かって、ミィは、口癖のように言った。

「わたし、テロくんみたいになりたい」

「ん……あ……そうだ試合!」
 ミィが瞼をぱちりと開ける。場所は? 大会出場者の為に用意された共用の控え室。時間は? わからない。首を振る。右に、そして左に。いた。2ヶ月間、一緒に鍛えた相棒が。
「そろそろ起こそうと思ってたけどいい体内時計してるよ。はい、水とチョコレート。大丈夫?」
 ミィはこくこくと鳥類のように頷くと、チョコレートを咥えながら水を喉に流し込む。大丈夫? 気を落ち着ける。大丈夫。準備は万端、体調も万全。なら大丈夫? それで済むなら苦労はしない。
「むっちゃ怖い。おっきな大会ってこんなに……。この震えって、どうすれば止まるの?」
「安心して。ぼくもむっちゃ怖いから。そういう時は決闘盤を持てばいいんだよ、ほら」
 彼一流の防犯対策 ―― 地下決闘からヒントを得た防犯用スタンガン ―― を設置した大きめのケースから2人分の決闘盤を取り出すと、パルムはミィに 決闘小盤(パルーム) を手渡す。 「ん、ありがと」 愛機に手が触れた瞬間、ミィの脳裏に様々な思い出が沸き上がる。
(あの時から1年くらい? 5年くらいドローしてた気がする)
 ミィは目を瞑る。色々なことがあった。そう、色々なことが。

               ブロートン一派との遭遇
          "家の外" での初決闘。惨敗、そして暖炉
    決闘者達との出会い                テロとの別れ
 リードとの邂逅 チームへの加入       テイルの悪戯  地縛館での闘い
 ラウとの訓練   未勝利の日々       コロナとの実戦  最低の初勝利 
 勝利に喰らい付いた夜の決闘         現実を突き付けられた地下決闘
     アリアとの再会                  パルムとの特訓
       黒震鳥                        幻凰鳥

 酷い目に遭った。楽しくもあった。決闘を通じて沢山の人達と知り合い、そして、

 目を開ける。声を出す。出せる。

「引こう。パルくん」 「うん、引こう」

                ―― フィールド(東側のベンチ) ――

 デュエルフィールドに直結する通路は東西南北全部で4つ。通路の入り口の扉には《月影龍クイラ》の中心部、即ち、フルムーン・フェイスが描かれていた。月の扉を開けると、廊下の四隅を龍の首が伸びる。蒼色の四龍に導かれ、薄暗い廊下を進む、進む、進む。龍の頭が見えると同時に出口も見える。扉のない出口から脚を踏み出した途端、降り注ぐのは光の洗礼。夕方に差し掛かって尚、容赦なく照りつける。 「……ったく」 東の出口からフィールドに入り、ベンチに到着した "1人" が言った。
「なんだって一番後に倉庫を出た奴が、どうして真っ先にベンチ入りしてんだよ」
 太い眉に大きな瞳、リード・ホッパーが忌々しげに呟く。定刻15分前というのに誰も来ていない。カタカタと貧乏揺すりをしながらああだこうだと呪詛を吐く……と、誰かが来る。1人ではない。2人いる。
「遅い!」 リードが大声で喚き立てるが、ラウは素知らぬ顔で言ってのけた
「文句なら後ろの尻尾に言ってくれ。直前まで女のケツを追っかけていた」
「おいおい」 テイルが反論する。 「 『チェネーレが冗談を言えるとは』 とか何とか言いながら、対抗してクソおもんないギャグを聞かせ続けたのはどこの誰なんだよ」
「おまえら、やる気あんのか……」
「ある」 ラウは真顔で言った。
「若干」 テイルはしれっと言った。
「……ったく。おまえらと来たら。ミィとパルムを見習え」
「見習うべき対象が見当たらないんだが」 「おお、来た来た」
 3人が北側を向くと、少年がベンチに向かって走ってくるのが見えた。間もなく到着。若干息を切らせながら腐腕の少年パルム・アフィニスが謝罪する。
「ごめんごめん。ちょろっとああだこうだして……」
「おい、パル。ミィはどうしたんだ? 一緒なんだろ」
「トイレ。あんたが心配しないよう先に来たってわけ」
「あいつを1人にする方が心配なんだが……」
 言いかけたところで、ラウとテイルが保証する。
「大丈夫だ。ここで間に合わないようには教えていない」
「 『ふぎゃぁっ!』 とか言いながらすぐ来るよ、多分」
「……ったく、妙な信頼寄せやがって……良し! 来た!」
 同じ北口からもう1人。全速全開、少女がベンチに向かって走ってくる。定刻内にきっちり到着するのを目の当たりにしたテイルは、ここで一計、悪巧み。
「なあなあパルムくん。あそこにバナナの皮が落ちてる」
「何が言いたいの」 「賭けようぜ。ミィが転ぶかどうか」
「ろくでもないことを」 「自信ないのかよ、相棒」
「おい。阿保みたいなことやってんじゃ……」 リードが割り込みかけるが途中で止まる。ラウが遮断機のように右腕を突き出し、無言で制止していたから。
 パルムは、少し考えて答えを出す。
「……転ばない方に500デュール」
「じゃあ俺は、転んで受身を取るに1000デュール」
「ふぎゃぁっ!」 果たしてミィはすっころんだ。すっころんだ上で、異様なほど綺麗に受身を取ってそのままの流れですっと立ち上がる。まるで何事もなかったかのように。
「はぁ……はぁ……ごめんなひゃい! 遅れちゃって……」
「パル」 テイルが釘を刺すように言った。 「ミィに期待して転ばない方を選んだんだろうが、下手な期待は目を曇らせるぞ。じょ〜ずに期待するなら、ミィが転んでから起き上がる方に賭けろ」
「パルム」 ラウが補足した。 「土壇場で他人を信じるのは難しい。そういう時は過ごした時間を思い出せ。何を信じればいいかが見えてくる。自分と、自分の相棒を信じろ」
「七転び八起き。うん、わかった。この2ヶ月、色々ありがとう。でもさ、」
 それはそれとして、とばかりに、パルムは小声で尻尾を掴む。
「テイル、ぼくらが寝てる間に身体を寄せたな」
「コミュニケーションの一環だよ。そう怒んなって」
「……目が覚めた時に怖いだろ、ぼくが近くにいたら」
「あの〜、もしも〜し」 
 他方、ミィがぴょんぴょん自己主張するが誰も聞いていなかった。
「ぐれてやる……」 ぐれかけたところで、ようやくリードが声を掛ける。
「まさかおまえと一緒にやってるなんて、あん時は思いもしなかったよ」
「リードさん……」
「おまえと会ったのは1年前で、一緒にやったのは半年間か」
「いままでの、何歳の時よりも長〜く感じました。色々あって……」
「正直おまえを入れたのは気の迷いだった」 「え」 「まあ3回ほど……いや、5回は入れちまった事を後悔した」 「あの」 「ていうかなんでこいつなんだろうと未だに思う」 「おい」 「けど」 リードは腰を落として肩を掴み、目線を合わせて言った。 「今のおまえはうちの立派なメンバーだ。誰にも文句は言わせないし、俺達みんなおまえでいいと思ってる。頑張ろうぜ」
「はい!」 力一杯返事をしたミィは東側のベンチを見渡す。ミィから見たそれは小さな部屋だった。あの時とは違う、壁のない小さな部屋。怖く、五月蠅く、それでいて楽しいびっくり箱。ミィは対岸にも目を向けた。ある。これから雌雄を決する、もう1つのびっくり箱が。
「あれが、わたしたちの対戦相手」

               ―― フィールド(西側のベンチ) ――

「なんだよあれ」 「どの面下げて戻ってきたんだ」 「てかあいつ誰だよ」
「アイゼンマインさんは納得してるのか?」 「なんで闇属性使いが2人も」
 世にも怪しげな魔法使い2人がベンチの前に佇んでいた。高潔を矜恃とする白装束の美札家と、豪気を身上とする黒装束の大札漢。対照的の2人が周囲の目を惹いている。1人は光属性使いの白魔導師ゼクト・プラズマロック。もう1人は闇属性使いの黒魔術師バイソン・ストマード。人呼んで "正閏叛列Boy's"。 夜の決闘 ―― 薄汚い変態から清らかな変態まで自由自在に跋扈する気の迷いに溢れた世界 ―― を席巻した2人組が何かを待っている。
「遂にこの時が来たか」 白装束の男はフードを取らず、声を抑えて言った。
「決闘仮面こと、アリア・アリーナを倒したい気持ちは無論ある」
「ああ」 黒装束の男はフードを外していた。示威的なドレッドヘアが自在に伸びる。
「あれから俺達は一から決闘を煮詰め直した。試したい気持ちはわかるぜ、相棒」
「だが」 ゼクトがゆっくりと言葉を区切り、一語一語噛みしめるように言葉を放つ。
「私は確かめねばならない。私が進んだ道と、あの男が進んだ道、その決算とやらを」
「わかってるよ、相棒」 「すまん、付き合わせてしまった」
「はっ、俺は俺で楽しむさ。……俺は夜の決闘者。シロサギの群れの中にクロマグロがいるんだぜ、こんな面白いことがあるかよ。それもこれも相棒に出会えたお陰だ、今更何を水臭い」
 意気揚々と戦意を高めるバイソンとは対照的に、ゼクトはシミを拭いきれない。前門の白、後門の黒、2つの後ろめたさに挟まれながら、ゼクトは、後門の黒に伝えんとする。
「バイソン、実はな……」 「なんだ?」 「いや、なんでもない。それより……来たぞ」
「来たぁっ!」 前門の白の到来に一般構成員が歓声を上げる。 「強豪!」 「強豪!」 「強豪!」 「強豪!」 雷鳴のような声援、西側のベンチが一瞬にして小銀河へと変質する。

 声援、

 声援、

 大声援、

 銀河的大声援の先には、ベンチに向かってゆっくり歩くユニフォーム姿の決闘者がいた。 「強豪、故に強豪」 敢えて愚直な同語反復を口にしながら、ギャラクシー・フェリックスが到着する。
「思いはそれぞれあるだろう。言いたいこともあるだろう。しかし、我々はここにいる」
 重々しく語る現リーダー・フェリックスに対し、旧リーダー・ゼクトが言い放つ。
「今の私は傭兵に過ぎん。貴様の言葉の真偽は、貴様の決闘で見定める」
 苛烈な宿題に頷いたフェリックスは、ゼクトの相棒にも声を掛ける。 
「バイソン・ストマード。ここに来た以上は、死力を尽くして闘って貰うぞ」
「相棒のニーズに応える形とは言え、俺なんかを入れて伝統って奴は大丈夫か?」
 挑戦的な含み笑いを浮かべながら、闇属性使いの黒魔術師が言った その背後では、観客席に座るレギュラー落ちしたメンバー一同が、複雑な表情で事態を見守っている。
 フェリックスはゆっくり首を縦に振ると、混ざり合うシナジーを肯定した。
「《カオス・ソーサラー》の中にある光属性……我々の光属性と共鳴する事を信じる。そして、」 拳を握り、魂を込める。 「強豪の矜恃とは、守り抜くものではなく、攻め取るものだ。故に、出自が強豪であろうとなかろうと、強豪への意思があるのなら受け容れよう。……受け入れようではないか!」

「その姿勢、気に入った!」

 声が響くと同時に、観客席から1人の男が飛び出した。頭を下にしたまま落下すると、突き出した右腕を大地に打ち込む。丁度逆立ちした状態から身体を起こすと、不敵な表情で前進。打倒Earthboundに燃えるもう1人の闇属性、蘇我劉抗がフェリックスに向けて言った。
「俺は闇属性、あんたは光属性。年齢も、経歴も、趣味も、何一つ噛み合ってねえが……」
 50日前。 "光属性を知っておくのも悪くない" と言い放ち、 銀河空間(ギャラクシー・スペース) に勝負を挑んだ若者がいる。対闇属性仕様のデッキでありながら、バーベル・クラプトン、ガックブルー・ハラハーラと粘り強く闘い、勝利し、その意思を認められた藍色の決闘着。その意思とは唯一つ。
「Earthboundを倒す。そいつが一致してる限り、あんたとは組む価値がある。そうだろ?」
 フェリックスが静かに頷くのを見ると、もう1人の闇属性、バイソンがニヤリと歯を見せる。
「はっ、中々話の分かる大将だ。おもしれぇ……。やってやろうじゃないか」
「時間だ」 ゼクトが促す。 「全ての美を明らかに。これぞ即ちライトレイ!」

                  ―― デュエルフィールド ――

『1回戦も遂に大詰め! トリを飾るのはこいつらだぁ!』
 実況が声を張り上げると同時に、観客達の目が一斉にフィールドを向く。観ている。観客達は勿論のこと、目を凝らして強豪達が観ている。《太陽龍インティ》に囲まれたフィールドを観ている。フィールドの中心部にはサンシャイン・フェイスが描かれ、そこから四方に龍の首が伸びていた。フィールドの四隅に到達した緋色の四龍は、巨大な昇龍のオブジェとなってスタジアムの四方を囲い込む。4つのドラゴンヘッドと、無数の観客に見守られながら、決闘者達が前に出る。
『1回戦最終試合! 西の方角で構えるは …… 冬季大会準優勝! Team Earthboundに惜しくも敗れた強豪が、更なる力を得て戻ってきたぁっ! 西部個人ランキング8位フェリックス選手、 "白旗の王" ゼクト選手らを中心とした、強豪の中の強豪がカードを引きます! 対して、東の方角から挑むのは …… 冬季大会ベスト16! あのTeam Earthboundを追い詰めた新鋭が再び見参! 西部個人ランキング9位まで駆け上がったラウンド選手に加え、あの 『砲銃』 店長ダァーヴィット・アンソニーに引導を渡したテイル選手が所属しています。打倒Earthboundに向けて前進するは、一体どちらのチームかぁっ! フィールド中央、2つのチームが睨み合っている!』

「覚えてるぞ」 口火を切ったのは蘇我劉抗。 「遊園地で一度会ってる。 『パルム』 に 『ミィ』。 今では名前も覚えたが、それだけだ。立ち塞がるなら打ち抜く。それ以外にない」
「ああ」 パルムが応じた。 「ぼくらもそのつもりだよ、蘇我劉抗。試合前に1つ聞いていい?」
「なんだ」 「あんたは西をどう思ってる」 「 "どう" とは?」 「うわべは取り繕っても中身は適当。ミツル・アマギリの品性一つで成り立ち、セメントで固めたような西部をどう思っている」
「バイソンから聞いたよ。その腐腕で西部の首を絞めるか」 「あんたこそ、その右腕で」 「おれはこの、ミツル・アマギリが造り上げた西部を認めない。その為に、俺はドゥルダークと化した」
「ドゥルダーク」 ミィはぼそりと呟くと、蘇我劉抗と視線を合わせる。
「ドゥルダークに、ありったけの思いを込めている。それがあなたの」
「西部には壁があるだろ」 「……っ」
「俺は壁を打ち抜く。おまえらはどうだ」 「わたしは……」
 徐々に戦闘意思を高める3人から少し離れたところ、リードの目の前にはゼクトがいた。 「冬季大会はスタンドで観てたよ」 リードは、やや挑発的に言葉を送り出す。
「いい負けっぷりだったが、おれの負けっぷりには及ばねえ」
「敗北自慢とはお笑いぐさだな、三流決闘者らしい物言いだ」
「おれがリベンジした方が盛り上がるだろ、二流白魔導師さんよ」
「二流か。それもいいだろう。しかし、二流の強豪を舐めない方がいい」
「二流の強豪なんて矛盾だろ」 「二つの流れが強豪を彩ることもある」
 ゼクトはバイソンを一瞥した。ふんっと鼻を鳴らしてバイソンが応える。
「兄ちゃんよお、魔法使いは1人じゃないんだぜ。相棒をDisるってんなら」
「三流呼ばわりはそっちが先だろ」 「ふっ、私は事実を言ったまで」 「ほらみろ。こういうのをぶっ飛ばすのが醍醐味ってもんだろ」 「はっ、いい度胸だ」 バイソンがリードの胸ぐらを掴む。 「離せよ。伸びるだろ」 「伸ばしてやろうか」 一触即発の状況の中、

 解放されたデュエルオーラが辺り一帯を威圧した。

 バイソンがぱっと手を離し、リードがのけぞる。ゼクトとラウが互いに距離を取り、テイルが、リュウコウが、パルムが、ミィが、全員の視線が一点を向く。威を発したのは1人の偉丈夫。
「強豪を語るに、小競り合いの必要はない」
 ギャラクシー・フェリックスがそこにいた。
「我々は、決闘を持って強豪を規定する」

「楽しみ過ぎだ」 一旦ベンチまで退がると、ラウがざくりと釘を刺す。
「大将ならもう少しドンと構えていろ。軽く見てると痛い目に遭うぞ」
「わかってるさ。あいつらがそんなヤワじゃないってことぐらい。わかってんだよ、ハナっから」
「大将」 テイルが注文を付ける。 「あいつらの視線がガンガン攻めてきてうざったい。塩の1つでも撒いた方がいいだろ」 「塩?」 「号令をかけるのはあんたの仕事だ。デカイのを頼む」
「……ああ、任せろ」 リードは軽く頷くと、大きく胸を張って叫びを上げた。
「初戦はおまえらに任せた! 全力全開で引いてこい!」

『選手入場!』

『First Duel スタンバイ! 西側に立つのはギャラクシィィィィ・フェリックス! 打倒Earthboundを掲げてはや10年! 銀河色のユニフォームに刻まれた "Neo Galaxy" の真意やいかに。何かが違うぞ強豪銀河! オーダーを大幅に変えた今期、並々ならぬ覚悟が窺えます!』
 太い三角眉を蓄えた、面長の偉丈夫がフィールドに直立する。他方、ゼクトはベンチに腰を落ち着けていた。ホワイトローブの中に感情を押し込め、焦げ付くような視線を送る。
「無様な生き方を肯定するというのなら……見せてもらおうか、この私に」

『東側から登場するのはパルム・アフィニス選手。チームの裏方に回っていた少年が、遂にそのベールを脱ぎます! 一体、どのような決闘を魅せてくれるのか!』
 "伸びたら切る" 以外の何物でもない髪。 "あるものを着る" 以外の何物でもない服。青紫色の両腕と双眸を持つ16歳の少年が、己の業を西の大地に馴染ませる。
「はっ、」 バイソンがニヤリと笑う。 「あいつも昼の陽気に釣られて来たか。フェリックスとの身長差がえらいことになってるが……あいつの両腕は怖いぜ」

『北側からはこれまた初参戦! 知る人ぞ知る西部の忘れ形見、リュウコウ・ソガ選手。左腕に装着したパイルバンカーで、一体何を貫こうというのか! 注目です!』
 充血気味の双眸と藍色の決闘着。二十歳の引き手が右腕を構える。
「あの右腕は要注意だ」 観客席にて、ミツルが体験談を口にした。
「並々ならぬ執念が伝わってくる。レザール。おまえはどう見る」
「遊園地でやり合った時は、若干の隙が残ってました」 「今は違うと」
「この2ヶ月、どれだけあの右腕を高めたか。決闘の行方はそれで決まる」

『南側から登場するのは若干14歳! 聖コアキメイル学園中等部三年、登録名ミィ選手! 受身検定A級以外、一切の記録を持たない決闘少女! 強豪相手にいかなる立ち回りを見せるのか!』
 ショートカットの髪は2ヶ月前よりほんのりと伸びている。首筋まで伸ばしたセミショート。
 肌に纏ったのは、半袖の白いスクールシャツと黒いスパッツ。赤いプリーツスカートを履いて装備完了。パルムの 『もうあれでいいんじゃないの』 という一言が決め手になった。聖コアキメイル学園中等部から許可を取り付け、制服を着て決闘に臨む。
「あいつがあそこにいるとはな」 テイルがぼそりと言った。
「骨ぐらいは拾ってやるから、やるだけのことやってこい」

( 『不正防止の観点から、両手まわりにデュエルオーブ以外は付けちゃいけない』 か……)
 パルムは手から覆いを外す。青紫色に変色した、毒々しい腐腕を日の下に晒していた。
 心なしか、歓声の質が違って聞こえる。
(真っ当なルールじゃないか。 "五枚規制" なんかに比べれば、遙かに合理性のあるルール。大丈夫、問題ない。大抵のことは自意識過剰で説明できる。大丈夫だ。大丈夫……) 
(パルくん "も" 緊張してる? 地下決闘とも違う。こんなおっきなところで、ホントに決闘するの?)
 瞬間、ミィの脳裏をよぎるパルムとの2ヶ月。 ぎゅっと拳を握ると、腹の底から声を出す。
「パルくん! わたし、」 「わかってる。ぼくの腕はいつでも腐りかけ。腐りきってはいないんだ」

                      ―― 昨日 ――

「夜風が気持ちいいよね」 倉庫の屋上。ミィが軽く伸びをした。 「高いところに1人で登って、風を浴びるのがずっと前から好きで」 空を見上げると星空がデッキを組んでいた。 「カードを集めて、プレイを学んで、デッキを組んで、決闘盤を投げて……通用、するのかな。強豪が一杯いるのに」
「……最後の1枚はこれにする」 出し抜けに、傍らに座るパルムが言った。ミィが聞き返す。
「なんかいっぱいいっぱい迷ってたよね。ユーティリティ・カード、みたいな?」
「こいつはステータスもそれなり。《スポーア》や《トラゴエディア》とは違って、墓地のモンスターと連携する必要もない」 「便利……ってこと?」 「それがぼくには問題児だったり」 「じゃあなんで」
 パルムは星空を見上げる。その横顔は濁りなく、どこまでも澄み切っていた。
「一生懸命頑張ったからって、何でもかんでもできるようになるわけじゃない。やり残しなんて幾らでもあるし、時には博打も打たないといけない。それでも、やれるだけのことはやってきたと思う」
「……ありがとう」
「明日の試合は遅いし、寝る前最後に、もっかい投盤合わせするとして」
 パルムが躊躇いがちに聞いた。 「本当に制服でやるの? 明日」
「やる。パルくんも、『もうあれでいいんじゃない』 って言ってたじゃん」 
「ジャージを勧めたつもりだったんだけど」
「うちのスカート可愛いから。なるだけ決闘者っぽくしたいの」
「スカートを履くと決闘者っぽいの? 初めて聞いた説なんだけど」
 率直な疑問を向けられたミィは、悪戯っぽく少し笑った。
「昔、わたしの部屋にはテロくんがいたの」
「それは、前にもちょっと聞いたけど」
「それだけ」 「それだけ、か」
「……みんながいたから」 ミィは立ち上がると、腹の底から絞り出すように言った。
「みんながいたから頑張れた。みんなに引っ張ってもらってた。けど、それじゃいつまでも届かない。勝ちたいし、勝ちたいなら喰らい付くだけじゃ足りない。喰い千切るところまでいく。いきたい」
「そうだね。じゃなきゃやってらんない。大規模大会ではそれこそみんな必死で来る。だから踏みにじろう。ぼくらに躊躇する余裕なんてない。誰だってさ、譲れない思いの1つや2つ、胸に抱いてるんだ。勝ちたいなら踏みにじらないといけない。踏んで、踏みにじって、踏み越えていくしかない」
「パルくん、わたし逃げないから。自分で決めた決闘、絶対最後までやりきるから」
「うん、頑張ろう。そしたら、きっと楽しいよ」

                ―― 試合会場(試合開始30秒前) ――

『4人の決闘者が決闘盤を構えます。Starting Disc Throwing スタンバイ!』

 号令がかかった瞬間、全員が決闘盤を構える。

 フェリックスがメタルプレート型デュエルディスク 決闘強盤(パワー・プレート) を、

 パルムがモンスター偏重型デュエルディスク 決闘集盤(ウェスト・ピッカー) を、

 蘇我劉抗が破城槌型デュエルディスク 決闘杭盤(パイルバンカー) を、

 ミィが小型円盤型デュエルディスク 決闘小盤(パルーム) を、

(始まるんだ、決闘が ―― )

 世界は歪な十字架でできていた。

 四方からの激突が、始まる。

Team FULL BURST

VS

Team AGD 正閏叛列(せいじゅんほんれつ) Neo Galaxy Boy's Σ



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。ようやく目処が立ちました。次回からは決闘三昧。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


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