決闘者には面倒臭い奴ともっと面倒臭い奴と終わってる奴しかいない

「アリィさんが今日暇で助かりました」
「いいのいいの。わたしも丁度カードショップを巡ろうと思ってたところだから」
 日曜日の昼下がり、ミィとアリアが脚を並べて歩いていた。和気藹々と会話が弾むその後方、陰険な表情で愚痴と尻尾を垂らす者が1人いる。名前はテイル・ティルモット。
「折角のデート。遊園地のつもりがカードショップになったのはいいとしよう。お互い決闘者だ。そういうのも悪くない。悪いのは配置だ。なんであいつの横にはミィがいて……、なんでおれの横にはパルムがいるんだ……。これはもうデートではない。単なる楽しい遠足 ―― 」
「いいじゃないかそれで」 パルムが悟ったような表情でしみじみと呟く。
「遊園地よりもカードショップの方が余程いい。ビニール袋が要らないから」
 男達が陰気な話題に沈む一方、ミィとアリアは言葉の花を咲かしていた。
「あれからコロちゃんたちとは……えっと……」
「うーん、サイドボードからの応援が欲しいかも」
「アリィさんのプレイングは絶妙だから。きっと大丈夫」
「練習会を崖でやろうと思ってるんだけど……なんか間違ってるような……」
「そうですか? わたしなんかは、アリィさんと崖で練習できるなら超喜びますけど」
「ホント? いぃ〜よし! 札は引かれた! みんなで一緒に転がってみる、崖を!」
 着々と女子力を高めていく2人を遠目に、テイルがさもうざったそうに手を振った。
「なんなんだあの物騒なガールズトークは。そもそもさ。 "アリィさん" って呼び方からしててんで意味わかんねえ。なんでそうなるんだよ」
「 "ありあありぃな" だからじゃないの。あんたと同レベルで変な名前だとは思うけど」
「おれが言いたいのは、なんで愛称付きになるほど仲良くなってるのかって話だ。おれなんて酷いもんだぞ。 『我が愛しのドローフェイズ!』 って昨日試しに呼んでみたら、 『うわ、キモ』 ってなもんだ」
「良くわかんないけどあんたが悪いんじゃないかな、それ」
「おまえにわかるか? あんな可愛い娘から、気持ち悪い物を見る目で侮蔑される気持ちが」
「小学生時代のフォークダンス。女子全員から手を繋ぐの拒否られたけど、それが?」
「悪かった。おれたちは兄弟だ。仲良くしよう」
「要らないよそんな後ろ向きな連帯感」
「ミィといちゃつくのがそんなに楽しいか」
「あの娘は隙が多すぎて逆に疲れる。あんま女子と喋ったことないし」
「マイ・ブラザー。嗚呼、今まで寂しい人生を送ってきたんだな!」
「高枝切り鋏が欲しい。心底気持ち悪い連帯感を断ち切る為の」
「わかったよ。本来のパートナー同士に組み替えよう」
「割り込みづらいほど盛り上がってるけど、いいの?」
「おれを誰だと思ってんだ。愛の伝道者って呼ばれてるの知っとけよ」
 テイルは何気ない風を装って前方の2人に接近した。一言二言発しつつ、2人が振り向かないことを確認する。アリアがほんの僅かに右を向いた瞬間、ミィの耳にずっぽり指を入れた。
「ひぃあ!? この人犯罪者です! 捕まえましょう!」
「テイル、今のはちょっと……。ふっつうに終わってる」
「あれが達人の割り込みテクニックか。ふーん……」
 パルムは割り込まなかった。3人が騒ぐのを遠目で眺めながら、ポケットから1枚のカード・ユニットを取り出す。 『幻凰鳥』 と呼ばれるそのカードを握りしめ、パルムは自嘲気味に笑った。
(無能な主人の手を離れ、いい加減飛んでみたいだろ、おまえも)

「着いたよ。カードショップ:ハンドレッド・ハンズ」
 パルムが言うまで誰もそうとは気付かなかった。幽霊屋敷を彷彿とさせる外観。カードショップであることを示す看板などは一切無く、館全体が草木で覆われていた。
「知る人ぞ知る名店……ということにしておこうか。じゃあ、入ろう」
 パルムが扉を開ける。3人が後に続くが、視界は最悪だった。
「暗いね」 「暗いですね」 「割といつもこんな感じ」 「帰ろうぜもう」
 既にやる気を失っているテイルをざっくりと無視すると、アリアは店内を散策し始める。ショーケースが幾つか置かれていた。薄暗い中で目を凝らすと、中にカードが飾られているのがわかる。
「あれ?」 あるものが目を惹いた。 「吊してあるこれって……もしかして……」
 吊された何かにアリアが触ろうとする。突然灯りが付いた。
 店内が明るくなった瞬間、ミィが悲鳴をあげる。あたり一面に吊された手という手。マネキンから剥製までよりどりみどり。恨み辛みを込めてパルムを睨み付ける。遊園地のお化け屋敷を満喫していた少女が、幽霊屋敷(カードショップ)の中で涙目になっていた。
 パルムが溜息混じりに言い放つ。
「いるんだろうアブソル。悪戯なんかしてないで、さっさとでてきてくれ」
 言うが速いか、突然床の一部が割れて中から何かが飛び出した。テイルの尻尾を揺らし、アリアの服をかすめ、ミィの肩に手を置いて馬跳びの要領で飛び上がる。空中で一回転してそのまま着地。カウンターの上に座るとあぐらをくんで、そのまま何事もなかったかのように話し始める。
「パルム・アフィニスじゃないか。あげたカードの調子はどうだい?」
 白髪。身長は160センチから170センチといったところ。ぱっと目を惹くのは髪の長さ。後ろ髪こそ普通の長さだが、目元をすっぽり隠すほど前髪が伸びている。
 ミィは若干戸惑った。
(西部五店長の筈なのに全然若く見える。目元が隠れてるから、かな……)
 来店者達の反応を一通り楽しむと、カードショップの店主が自己紹介を始めた。
「僕の名前はアブソル。こんなんだけど長いこと生きてるんだ。ちょっと身体に異常があってね。その所為でこんな感じなんだけど立派に年を取ってる。面白いだろ?」


DUEL EPISODE 29

本性の所在〜触れてはいけないもの〜


「いやあ、久しぶりだねパルム・アフィニス。今日は何の用でここにきたの?」
「あんたの気紛れに縋ろうと思って。ここにいるミィにカードを融通してくれないか」
「図々しいお願いだ」 アブソルは机に座ったまま言った。目元が完全に隠れている為か、ガラス越しで喋っているような遮蔽感を醸し出している。 「実に図々しい」
「あんたはそういう、図々しいお願いに興味を示す人間なんだろ」
「それは間違っていない」 机から降りると、ミィがいるところまですっと近寄る。
「ミィ、だったよね」 ミィの身体がピクッと固まる。心音が一気に早まった。
「僕は気に入った手に便宜を図ることにしている。パルムの手は良かった」
 ミィの全身を駆け巡る緊張の波。パルムの言葉が浮き上がる。
『アブソルは俗に言う手フェチ。手に並々ならぬ執着を持っている』
(大丈夫。触らせてやればいいんだ)
「あの……どうぞ……」
 互いの左手が前に出る。ミィの手には投盤の跡が刻まれ、アブソルの手は中心部が少し膨らんでいた。2人の手がゆっくりと重なる。ミィは思わずびくっとした。あちらの指がこちらの掌に触れた瞬間、全身という全身に鳥肌が立つ。あちらの中指・薬指・人差し指がこちらの掌をじわりじわりと這い回り、親指ががっちりと、包み込むようにミィの手を押さえ込む。
(気持ち悪い。この人無茶苦茶気持ち悪い)
 心を覆い尽くすほどの嫌悪感。食虫植物の葉に囚われた虫のような感覚。思わず逃げ出しそうになった。動かない。極度の緊張が身体の動きを阻害する。 
「軟らかいな」 小指が手の底をくすぐるようになでる。
「いい生命線だ」 薬指が掌の溝をなぞっていく。
 我慢の限界を超え、堪らず叫び声を上げようとする。ぱっと手が離れた。満足げに手を離したアブソルとは対照的に、ミィの身体からは汗が噴き出している。……いつのまにか息が上がっていた。離れたというよりは外れたに近い。プラグを抜かれたコンセント。
 一通り満喫したアブソルは、机に戻りながら言った。
「面白いね。手は決闘者の命だけど、この娘の手は中々面白い。まだこんなに小さいのに」
「代価を貰いたいところだが」 淡々とパルムが話を繋げる。アブソルは悪戯っぽく笑った。
「どうしようかなあ。確かに可能性は感じるけど、君ほどの輝きが果たしてあるかな。そう、君の掌は本当に面白かった。だから融資を惜しまなかった……」
(触られ損! あの気持ち悪さでそんなのって……)
「チャンスをあげよう。僕に勝てたらここのケースにあるものなんでもあげる」
「え?」 ミィの頭が一瞬真っ白になった。パルムが呆れて首を振る。
「冗談はよしてくれアブソル。今のミィじゃあんたには到底勝てない。強者に勝ちたいからカードを集めているんだ。強者に勝つことが条件なんて論外だ」
「ミィが僕とやる必要は無いよ。そこの君、決闘しないか?」

「え? わたし?」 アリアは自分の顎へ指をさす。

「そう、君」 アブソルが挑発的な気を発した。幽霊屋敷に妖気が漂う。
「ほんの少し迷ったけど、一番手がチャーミングだから。さあどうする?」
「やるよ」 即答一発、アリアが前に出ようとする。

 服をぎゅっと掴まれた。

「あの、その、なんて言えば……その……えっと……」
 掴んだのはミィ。顔を伏せ、しどろもどろに訴える。
 アリアは一瞬戸惑うが、すぐにその意図を察した。
「あ、わかった。わたしに借りを作りたくないんでしょ」
 こくんと頷くミィに向けて、優しく微笑んで言った。
「正直言うとあなたの為じゃない。あいつと、西部五店長とやりたいの。一年前も、結局はそういうことなのかもしれない。わたしはそんなに良い人間じゃあないから。けど悪いようにしようとは思わないし、それでお互いのデッキが回るなら……ほら、今回はさ。両方とも得するんだからWin-Win……」
「ずるいですよそういうの」
 顔を伏せたまま言った。
「今日は、お願いします」

「おいパル」 テイルが舌打ちする。
「おまえの知り合いホントろくでもないな」
「否定はしない。こういう男なんだよ一時が万事。ホントは僕がやりたいとこだけど」
「無理すんな。顔馴染みには刺さりづらいだろ。ま、あいつなら上手くやるさ」
「あんたののろけ話がホントなら、それが一番勝率の高い作戦だ」

「それじゃあ始めようか。西部五店長、アブソル……さん」
「呼び捨てで構わないよ。遠慮する必要なんてないんだ」
「そう、それなら……」 瞬間、辺り一面に闘気が迸る。
「わたしの決闘はちょっと激しい、けど、今日は遠慮しないよ。アブソル」
「決闘者の辞書に 『遠慮』 の二文字は鬱陶しいだけさ。そう、鬱陶しいだけなんだ」
 アリアが決闘戦盤(アームズ)を、アブソルが決闘掌盤(クロークス)を構える。合図は要らなかった。互いに間合いを合わせ決闘盤を放る。力で押し切り、先攻を勝ち取ったのはアリア。
「いくよ、アブソル」 「久々の決闘だ。楽しませてもらおうか」

Turn 1
■アリア
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□アブソル
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000

 アリアがデッキからカードを引いた。引いた瞬間ミィの心が1年前に戻る。あの時もああして引いていた。安そうなTシャツに使い古しのホットパンツ。服装の貧しさを上塗りしていく抜札の華。長髪をなびかせ、指先まで神経が躍動した瑞々しいドロー。引いたカードを決闘盤に挿し込むと、最初の一投目が肝心とばかりにやや大きく振りかぶる。 「おんなじだ」 前回は左投げ。今回は右投げ。左右の逆はあれどあの時と同じ。心を震わせる投盤。力強さと柔らかさが同居するアンダースロー。
「《終末の騎士》を通常召喚……効果発動。デッキから、《不死武士》を墓地に送るよ」
 空っぽの世界がにわかに活気づき、打ち込まれた布石にアブソルが反応する。
「レベル3、闇属性、戦士族、攻撃力1200……並びに並んだ凡庸さを上塗りするほどの特性。何度でも蘇る不死身の戦士。けれど、《不死武士》の能力には厳しい制約がある」

@自分の墓地に戦士族以外のモンスターが存在しないこと
A自分フィールド上にモンスターが存在しないこと
B戦士族のアドバンス召喚以外でのリリース不可

「ターンエンド」 簡潔な言葉で締めくくられたファースト・ターン。
 アブソルがデッキに手を添えた。
「僕の番だ、ドロー……《魔界発現世行きデスガイド》を通常召喚」
「低燃費高出力の制限カード。うちにもそういうの欲しいかも」
「小手調べには丁度良い。デッキから "こいつ" を特殊召喚し、この2体でオーバーレイ。《No.17 リバイス・ドラゴン》をエクシーズ召喚。……効果発動。攻撃力は2500……いけ」
 "バイス・ストリーム"
 癖のないまろやかなブレスが《終末の騎士》をさらりと撃ち抜く。

アリア:6900LP
アブソル:8000LP

「曲者っぽい風貌の癖して、随分と素直な先鋒を出すんだね」
「眉一つ動かしてくれないか。マジック・トラップを1枚セット。ターンエンド」

Turn 3
■アリア
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 6900
□アブソル
 Hand 4
 Monster 1(《No.17 リバイス・ドラゴン》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「一つ、《不死武士》を特殊召喚、二つ、《カオスエンドマスター》を通常召喚、三つ、《大地の騎士ガイアナイト》をシンクロ召喚。バトルフェイズ、《No.17 リバイス・ドラゴン》に攻撃」

アリア:6900LP
アブソル:7900LP

 "スパイラル・ストライク"
 2本の槍を構えた馬上の戦士がリバイス・ドラゴンをきっちり討ち取る。
「君も人のことは言えないんじゃないかな」 「うちの子はみんな良い子だよ」
 アリアは手札を一瞥した。マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド。

 ミィの傍ら、テイルがぼそりと言った。
主導権(ターン)を取る為に探り合ってる」
行動権(ターン)? ターンは回ってくるものじゃ……」

「違うよ」 アリアは振り返ることなく言った。
「ターンは回ってくるものじゃない。ターンはこの手で掴み取るもの。ドローとおんなじ。1ターンに1回引かせてもらえるけど、それ以外で引いたりもするし、引いた1枚を高める為に構築を煮詰めもする。それとおんなじ。ぼけっとくちばしを開けて、親鳥から餌をねだる決闘じゃ闘えない」
「嬉しいよ」 アブソルが軽く2〜3度手を叩く。
「真の決闘者とは、ターンやドローの価値を自ら高めていくもの。いつそれを?」
「おかあさんと決闘してたら自然と。初決闘で使われたデッキが【ワールドトランス】で、2回目のデッキが【ヤタロック】だったから」 「それはそれは」 「ターンもドローも、掴み取らないと回ってこない」
 少しずつ、少しずつ大気が熱気を帯びていく。
 そんな中、
 西部五店長:アブソルがゆっくりと動き出す。
「ドロー……二束三文の撒き餌も逝ったことだし、そろそろ僕の手の内を晒そうか」
 胸元に両手を寄せると、手と手の間から壺が一口現れる。中心に眼の意匠が施された不気味な壺。壺という名の吸魂機。墓場に張り付く儀式魔人(リリーサー)の魂が引き剥がされると、ぎゅいんと壺の中に吸い込まれていく。歴史的召喚術。生贄を捧げる点でアドバンスに近く、魔法を用いる点で融合に近く、レベルを合わせる点でシンクロ・エクシーズに近い。温故知新を銘に記した儀式召喚(リチュアル・サモン)。供物を得たことで膨張した壺が臨界点に達し、崩壊。視界を曇らせる瘴気。既に何かが蠢いている。煙が晴れた。人ではない。上半身のみの異形。腹をねじ広げる大穴。巨大なかぎ爪へと膨張した指。食虫植物を彷彿とさせる羽。見るもおぞましいほど飛び出た単眼 ―― 生まれついての捕食者。



Sacrifice    Ritual Summon !

Attack Point : 0  / Defense Point : 0

Special Skill : Dark Hole……Unlimited !



「《サクリファイス》の効果発動。ガイアナイトを "吸収" する」
 腹をねじ広げる大穴は暗黒空間に通じていた。ブラックホールさながら《大地の騎士ガイアナイト》を吸い込んでいく。ランスを捨て、大穴の縁を掴んで抵抗するが無駄なことだった。巨大な爪が騎士の背中をえぐり込むと、どこにそんな力があるのかそのまま内部にねじ込んでいく。OZONEの力場を伝って、カード・ユニットがアブソル側に移動するのをじっと見つめながら、

 アリアはどこか嬉しげだった。

「テイルさんテイルさん、あのモンスターは……」
「アリアは打撃型。タフな打撃屋と付き合っちゃいるが、あいつの前にあってはおおよそ無力。それだけじゃない。ガイドさん経由で供物に使われたリリーサーの効果。特殊召喚を封じられちまった」

サクリファイス(儀式・効果モンスター)
星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0
「イリュージョンの儀式」により降臨。1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値になる。この効果でモンスターを装備している場合、自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手ライフに与える。また、このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

儀式魔人リリーサー(効果モンスター)
星3/闇属性/悪魔族/攻1200/守2000
儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、墓地のこのカードを除外できる。このカードを使用して儀式召喚したプレイヤーから見て相手は、儀式召喚したそのモンスターがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、モンスターを特殊召喚できない。


「シンクロ召喚どころか《不死武士》すら出せない。そんでもって場はがら空きだ」
「最悪じゃないですか」 「あんまそういうこと言ってるとパルムに嫌われるぞ」

「僕はもう1つ、手札から《カードガンナー》を通常召喚して効果発動。デッキトップから《儀式の準備》、《くず鉄のかかし》、《終末の騎士》を……いまいち面白くないけどまあいいか」
 アブソルが己の布陣を見渡す。《サクリファイス》は "守備表示" で場に鎮座していた。アリアのセットカードを一瞥すると、《カードガンナー》に向けて攻撃指令をくだす。
「折角リリーサーを食べたんだ。ミラフォの的にするのは面白くない。ゆるりといこう」

 吸 収 制 手 工 業(インテグレーション・マニュファクチュア) ――
 言わずと知れた吸収学(アブソニクス)の応用。外部要因さえも製造工程に組み入れ、新陳代謝を加速させる新手の工業形態が起動していた。ガイアナイトの守備力は僅か800。反撃を誘うには十分な数値。誘い込んだ攻め手の数をセット・トラップで調節しつつ、《サクリファイス》の手を空ける。そんな手練手管の数々を、アリア・アリーナは1枚の札で凌駕した。

Turn 5(バトルフェイズ)
■アリア
 Hand 4
 Monster 1(《カオスエンドマスター》)
 Magic・Trap 0
 Life 5000
□アブソル
 Hand 2
 Monster 2(《サクリファイス》/《カードガンナー》)
 Magic・Trap 1(《強欲なカケラ》)
 Life 7900

 テイル・ティルモットは知っていた。その身をもって知っていた。
「打撃耐性だのSS対策だの、厄介な刺客がひとーつふたーつ……それで倒せるなら苦労はない」
 リバイス・ドラゴンは高打点を引き寄せる為の撒き餌。そう見抜いたアリアは3ターン目、ほんの1枚トラップを伏せていた。4ターン目、攻撃宣言に対して《邪神の大災害》を発動。吸収された《大地の騎士ガイアナイト》を墓地に収容しつつ、アブソルが温存していたセットカードを同時に吹き飛ばす。
 5ターン目の強襲。《戦士の生還》で呼び戻す。《カオスエンドマスター》を喚び戻す。カンフー高じてカオスに達した白銅の師範代(マスター)。攻撃力:1500。守備力:1000。白光を血で染める者。闘えば闘うほどに、殺れば殺るほどに、血に誘われた戦士が躍り出る。能力の名は 『修羅』。かつて中央で猛威を振るった蒼炎のシュラへの畏敬からそう呼ばれる能力。貫通や直撃よりも時に恐ろしい能力。歴戦の勇士唱えて曰く、闘い続ける為の能力 ―― 吸命機の単眼に肘を打ち込む、修羅の名の下に。
「アリィさんの肘! アリィさんの得意技!」
「《カオスエンドマスター》の効果発動。デッキから "レベル5" "攻撃力1600" "地属性の忍者" 《機甲忍者アース》を特殊召喚。バトルフェイズ続行。《カードガンナー》に攻撃」
 機甲忍法:鉄山靠(てつざんこう)。忍術的体当たりがガンナーをスクラップに変える。

アリア:5000LP
アブソル:6700LP

「ならばこちらは、《カードガンナー》の死に際効果を発動。デッキからカードを1枚……」
「メインフェイズ2、《カオスエンドマスター》で《機甲忍者アース》にチューニング……」
 アリアにとって、決闘盤は最早道具ではない。肩⇒後腕⇒肘⇒前腕⇒手首⇒指先⇒決闘盤。単なる腕の一部と言うに相違無し。必然的進化。象は鼻を伸ばす。虎は牙を生やす。なればこそ、決闘者が決闘盤を生やさぬとなぜ言える。生やした盤を手に掴み、獲物に向けて手を伸ばすように投げる。渾身の力を込めたアンダースロー。漏れ出した気の作用で直下の風をえぐり取り、振り抜いた腕の外側には衝撃波が発生する。着盤。たったそれだけの現象がここでは異常だった。
同調召喚(シンクロ・サモン)




Gigantic Fighter    Synchro Summon ! ! ! !

Attack Point : 3400 / Defense Point : 1000



 目を覆う深紅のゴーグル。肩を彩る真紅のサークル。血を力に変える漆黒のボディ。大柱の如き脚は大地との関係を育み、大砲の如き腕は敵軍の防御を砕く。
 テイルが実感を込めて言った。
「黒い《ギガンテック・ファイター》。地獄に行きたいんなら、あいつに頼むのが手っ取り早い」
「まだまだ行くよ。マジック・トラップを2枚セットしてターンエンド」
「ドロー。いいね。それの手にかかれば今日こそ天国にいけるかもしれない。スタンバイフェイズ、《強欲なカケラ》の効果を発動。強欲カウンターを1つ載せる。手癖でメインフェイズ2に発動してるけど、それで残ったんだから習慣も馬鹿にできないね。《マンジュ・ゴッド》を通常召喚。デッキから2枚目の《サクリファイス》を手札に入れる。マジック・トラップを2枚伏せてターンエンド」

Turn 7
■アリア
 Hand 2
 Monster 1(《ギガンテック・ファイター》)
 Magic・Trap 2(セット/セット)
 Life 5000
□アブソル
 Hand 1
 Monster 1(《マンジュ・ゴッド》)
 Magic・Trap 3(セット/セット/《強欲なカケラ》)
 Life 6700

「アリィさんが主導権(ターン)を取ってる! これなら……」
「ドロー。全人格が 『ここは普通に殴れ』 って言ってる。遠慮はしないよ。バトルフェイズ」
 手を振ると同時に《ギガンテック・ファイター》が腕を引く。弓矢の如きしなりから、鉄塊の如き黒腕が炸裂。《マンジュ・ゴッド》を腕一本残さず消し飛ばす。アブソルの服が小刻みに揺れた。
「いい衝撃波だ。本当に、いい衝撃波だ」
「直撃を避けておいて、そういうこと言っちゃう?」
「《ガード・ブロック》の発動……寸前まで遅らせてしまったよ」
「破壊は狙わないんだ」 「ここでそれでは面白くないからね」

「本当に主導権(ターン)を取れたのかな」 パルムの一言が場の意味を揺らす。 「あいつは曲者だよ」

「メインフェイズ2。3枚目のマジック・トラップをセットして……」
 セットされたカードが一瞬にして吹き飛ぶ。Quick-Play Spell:《サイクロン》。撃ち抜かれたのは《禁じられた聖杯》。 「そっちは狙うよ」 アブソルの妖気が高まり、徐々にフィールドを覆い尽くしていく。
「君のペースということは僕のペースということ」
(この感じ) アリアが揺れた。観測不可能なほどの小さな武者震い。
(下の決闘や夜の決闘とはちょくちょく違う。振り子刃の道を目隠ししながら歩いてる気分)
「ドロー」  アブソルはゆっくりとカードを引き抜き、視線を吸い込むドローで魅せる。
「《強欲なカケラ》を《強欲な壺》に変え、デッキから2枚引く。Normal Spell:《闇の誘惑》。デッキから2枚引いて《サクリファイス》を除外」 (儀式使いが儀式を除外) 「狙いはこっちだ! 《金華猫》を通常召喚して効果発動。墓地からレベル1の《サクリファイス》を釣り上げる。さあ! 捕食しろ!」
 単眼の吸命機の穴が開き、あらゆる力学を無視して黒腕の戦士を吸い込もうとする。強風が縄となって絡みつく中、血のように赤いゴーグルが光る。 「ここで食べちゃったら勿体ないよ」 高々と掲げられる右腕。フィールド上に闘気の渦が迸り、黒腕の闘士を光の柱が包み込む。
強襲召喚(アサルト・サモン)



Gigantic Fighter/Assault Mode

Attack Point:3300

Defense Point:1500

Special Skill……



The Atmosphere Favorite Attack

強 襲 の 嵐(アサルト・テンペスト) !!



アリア:700LP
アブソル:6700LP

「アリィさん!」
 凝縮された衝撃波の鉄球。アリアの身体が宙に浮く。 「君のこと。1度見せた技なら1撃目はかわす。なら2撃目はどうだろう」 狙われた着地硬直。最上級レベル8、風属性、攻撃力1000……場の《金華猫》と《サクリファイス》、墓地のリバイス・ドラゴンを除外、更なるしもべを喚び出していた。鎧を纏った空間鳥。おぞましき《サクリファイス》とは対照的に美しい羽根を広げるが、そこには確固たる共通点があった。爪にがっしりと掴まれた水晶玉が吸い上げる。アサルト・モードを吸い上げる。
 ミィは瞠目した。
「攻撃力4300……《The アトモスフィア》……パルムさんが使ったカード……」
「あちらが本家だよ。【反転世界(リバーサル・ワールド)】はアブソルの決闘を参考にしている。ぼくはこんなんだからちゃぶ台を引っ繰り返す決闘に全力を注いだけど、アブソルはもっと上品だ。吸収するまでがちゃぶ台の上。劣勢になるまでが戦略の内。初手のリバイスは勿論、制圧戦さえも撒き餌に過ぎない。相手が優位を築けば築くほどそれを吸収して自分の優位に変える。西部五店長の1人、吸収店長アブソルに "追い詰められる" という概念はない」
「自分の技ってこんなに痛いんだ」 アリアが立ち上がる。 「黒腕単騎からアサルト・モードを読んで二段吸収。あんたならそういう真似が簡単にできる。 【吸収戦略(ドレイン・ストラテジー)】……それがあんたの決闘」
「君のターンが僕の為にあるとすれば、僕のターンが永遠に続くということ。マジック・トラップを1枚セットしターンエンド。この決闘は君と僕の合作だ」
「ならぶっ壊す」

Turn 9
■アリア
 Hand 2
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 700
□アブソル
 Hand 2
 Monster 1(《The アトモスフィア》)
 Magic・Trap 2(セット/《ギガンテック・ファイター/アサルト》)
 Life 6700

Duel Orb Liberation

強 制 転 移(フォースド・バーター) ! !

「へえ」 アブソルが呟く。 「捕らえられたアサルト・モードを破壊して、その効果で《ギガンテック・ファイター》を取り戻す……来るとしたらその辺かと思っていたのに。搦め手もあるのか」
「この際だから、鳥のお面ごと返して貰うよ、アサルト・モード」
 効果を受けるのは《不死武士》と《The アトモスフィア》。不平等な交換を持ちかけ、事態の打開を図る……そう一筋縄ではいかなかった。アブソルは、1枚の札を裏返す。
「甘いよ。《強制脱出装置》を発動。《不死武士》を手札に戻す」
「《強制転移》の無効化と《不死武士》の無力化……」
「虎の子の1枚が良く刺さる。一挙両得濡れ手に粟……」
「冗談! 二兎を追う者は一兎をも得ず! チェーン3、《リビングデッドの呼び声》を発動!」
「……っ!」

 アブソルは瞬時に気が付いた。アトモスフィアの、かの攻撃時にも発動できたということに。黒腕の戦士を壁とするアイディアもあったということに。 ライフを温存し、衝撃波を抑えることもできたということに。なのにそれをしなかった。反撃の成功率を1%でも上げる為、アリアは限界まで引き付けた。

リビングデッドの呼び声
不死武士 ギガンテック・ファイター
   ↓強制転移↑

The アトモスフィア/バスター
強制脱出装置


「逆順処理。一つ、《ギガンテック・ファイター》を特殊召喚、二つ、《不死武士》を手札に戻す、三つ、アトモスフィアと《ギガンテック・ファイター》の支配権を交換」
「なるほど。これもある種の奪取耐性。君の場のアトモスフィアで僕の場の《ギガンテック・ファイター》を倒し、復活効果で取り戻した《ギガンテック・ファイター》でもう1発。4000オーバーの……」
「《The アトモスフィア》をリリース! 《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」
「そうくるか!」
「墓地から《カオスエンドマスター》を釣り上げチューニング……シンクロ召喚、おいで」
「アリィさんが、もう1体の《ギガンテック・ファイター》を!」
「うちの子は良い子だから、お互いの墓地に眠る戦士族の数だけ攻撃力をあげる。こっちにいようがあっちにいようが上がる攻撃力はおんなじ。今墓地に眠ってる戦士族は、《カオスエンドマスター》、こっちの《終末の騎士》、そっちの《終末の騎士》、《機甲忍者アース》、《サルベージ・ウォリアー》、《大地の騎士ガイアナイト》、ギガンテック・ファイター/アサルトで合計7体。《ギガンテック・ファイター》1体辺りの攻撃力は3500。2体合わせれば7000!」
 黒腕の戦士2体が向かい合って合掌。闘気が衝撃波となってフィールドを揺さぶる。
「バトルフェイズ、《ギガンテック・ファイター》:αで《ギガンテック・ファイター》:βに……」
 2体の闘士が黒腕を構える。テイルが眼前の光景を補足した。
「アリアの決闘 ―― 【黒腕戦技(ブラック・アームズ)】は、倒れても倒れても立ち上がり、無限に力を増して闘い続ける。あれが殴れば殴るほど、衝撃波は累乗式に跳ね上がる」
「それって……」 ミィの身体に震えが走る。

 【黒腕戦技(ブラック・アームズ)】は止まらない。

「攻撃」 同威力の剛拳が真正面から砕き合う。決壊したダムのように溢れ出す衝撃波。砕かれた黒腕が墨となって溶け込み、OZONEが暗闇に染まっていく。色の存在を片っ端から否定する漆黒の中、真紅の閃光が力強く浮かび上がった。眼を覆うゴーグル、肩を彩るサークル、躰を走るライン……血のモチーフをその身に纏い、黒腕の闘士が数を倍にしてそこにいる。事実上の3体目と4体目が浮上。目指すは完全粉砕唯1つ。四腕の闘士が動き出す。
「アリィさん駄目っ!」
「いいよ……」 アブソルが言った。無防備な身体を晒して言った。 「君になら殺されてもいい」



黒 腕 戦 技(ブラック・アームズ)


四 肢 萬 裂(ビーイング・ヴァニッシュ) !



アリア:700LP
アブソル0LP

ギガンテック・ファイター(シンクロ・効果モンスター)
星8/闇属性/戦士族/攻2800/守1000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードの攻撃力は、お互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイントアップする。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分または相手の墓地の戦士族モンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚できる。


 骨の砕ける音がした。黒腕の双撃が炸裂し、壁際のショーケースへ2秒足らずで叩き込む。
 ミィの震えが止まらない。ミィの動悸が止まらない。眼下に広がっているのは血溜まりの渦。ガラス製のショーケースが割れ、商品が血に染まっている。
 アリアはぼそりと言った。
「久々にMAXで打ち込んだ……これで良かったんだよね」
「アリィさん……良かったって……そんなの……」
「ありゃほんまもんの化け物だ」
「テイルさん、暢気にそんな……」
「あの店長も化け物だった……」
「え?」

「返事をしなよ、アブソル。立てるだろ?」
「はは。一瞬だけど天国がみえた。僕の見込みに間違いは無い」
 皮を剥かれ、血を流し、骨を砕かれた筈のアブソル。
 少しばかりよろつきながらも、その場に立ち上がって言った。
「 『当然立つよね』 みたいに言わないでよ。とっても痛いんだ。骨も折れたし」
「あんにゃろう」 テイルが珍しい反応を示す。
「盾を構えるでも受け流すでもなく、完全無防備で立ち上がるのかよ」
「割と不死身で通ってるからね僕も。そうはいっても……ゲホッ……」
 口から軽く血を吐くと、棚の1つまで近付いて中からメスを取り出す。迷うことなく自分の身体にメスを入れ、日曜大工でもするかのような調子で身体を切り裂き始めた。
「規格外の暴力。さあどうなってるかな。あーあー、完全に折れちゃってるよ」
 切り裂いた腹にピンセットを挿入。あばら骨を摘出してみせる。
「まあ別に困りはしないけどね。いつか生えてくるだろうし」
 何気ない動作で骨を軽く放り投げ、口を大きく開けた。
 ミィが思わず叫ぶ。
「飲んだ!? 骨を……丸呑み……」
「カルシウムは取らないと。さてさて……」
「負け逃げは御免だよ」

 言ったのはアリア。

 応じたのはアブソル。

「サイドデッキ……あるの?」
「なんとかなるよ、きっと」
「なら5分後に再開しよう」

「これでおっけ」 「僕もいいよ」 「じゃあ……」 「やろうか」
 ミィが事態を把握した頃には、サイドチェンジを終えた2人の決闘者が立っていた。1戦目以上の昂ぶりが場外にも伝わる。高揚する戦意が闘技場の輪郭を規定した。
 それは本能的行動だったのかもしれない。互いが互いを求め合う。それが、

決闘(デュエル)!」 「決闘(デュエル)!」

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Technological Card Duel!

Turn 1
■アブソル
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□アリア
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000

「ターンエンド」
 アブソルは自然体だった。両脚をぴったりと付け、両腕をふわりと広げる。どこからでもおいでと言わんばかりに。誘われたアリアはほんの少し口の角を釣り上げた。笑っているようにも映る。
「わたしのターン、ドロー。マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」
「攻めないのかい?」 「攻めたら吸うんでしょ?」 「出し惜しみはよくない」
「それはこっちの台詞。あんたは力を出し惜しみしている。自分がどういう決闘者なのか1つ分かった。遠慮はいらない。矛盾した言い方になるけど、ぶっ殺してでもあんたを引っ張り出す」
「西部五店長として、そうそう手加減したつもりはないが……手が残っているのは否定しない」

「なんで」 ミィは困惑の色を隠せない。 「なんで3本勝負なんかに」
「様子見段階相手にワンショット」 テイルは頭を軽く掻く。
「あれじゃ勝った気がしないんだろうよ」
「じゃあ。アブソルさんはまだ……」
「底を晒してない。お互い様っちゃお互い様だが」
 ミィは確証を求めて横を向いた。パルムは静かに肯定する。
「アブソルは隠居者だ。性格的にもお手並み拝見を好む。1戦目で全て出し尽くしたとは言い難いかもしれない。 君の友人はどうかしてるね。待ちの決闘を相手にもう一戦くれてやるなんて」
「パルムさんと似たようなもんだと思います。決闘が好きなんですよ、きっと」

Turn 3
■アブソル
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000
□アリア
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

 攻撃宣言が既に解禁されたフィールド上、空白地帯(モンスター・ゾーン)を挟んで向かい合う2人。不気味な沈黙。不自然な均衡。アリアの視線が空間を押し込み、アブソルがゆったりと口を開く。
「吸収型の戦果は相手依存。吸収対象がいなければ威力は落ちる。けれど……」

 《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚引いて《金華猫》を除外。

 《マンジュ・ゴッド》を通常召喚。デッキから《サクリファイス》をサーチ。

 Continuous Magic:《強欲なカケラ》。2巡後、《強欲な壺》へと完成する。

「吸収型は待つ決闘。待ち時間の有効活用はお手の物。ターン……」
「あげない」 アリアが両手を広げた。右手に黒を、左手に白を、
永 続 罠 発 動(コンティニュアス・トラップ・オープン)



Duel Orb Liberation

明 と 宵 の 逆 転(リバーサル・デイズ) ! !




「手札から光属性・戦士族:《カオスエンドマスター》を墓地に送って、デッキから闇属性・戦士族:《不死武士》を手札に加える」 エンドフェイズの間隙を突いた発動。ターンを引き寄せ、カードを引き抜く。
「スタンバイフェイズ、《明と宵の逆転》を再起動。手札から《不死武士》を墓地に送って、デッキから2枚目の《カオスエンドマスター》を手札に」

明と宵の逆転(永続罠)
以下の効果から1つを選択して発動できる。
「明と宵の逆転」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
●手札から戦士族・光属性モンスター1体を墓地へ送る。
 その後、そのモンスターと同じレベルの戦士族・闇属性モンスター1体をデッキから手札に加える。
●手札から戦士族・闇属性モンスター1体を墓地へ送る。
 その後、そのモンスターと同じレベルの戦士族・光属性モンスター1体をデッキから手札に加える。


「いくよ」 決闘戦盤(アームズ)を裏返し、左手でしっかりと掴む。一年前、ミィがその眼に焼き付けた投盤像と重なっていく。闘技場を彩る第二の構え。両利きのアリアが盤を引く。
「腕は2本あるから」
両面式決闘盤(リバーシブル・デュエルディスク)によるアームズチェンジ……」
「墓地から《不死武士》を、手札から《カオスエンドマスター》を展開」
「ディレイをかけてからの高速奇襲戦……」 「さあ、いくよ」
 緑色に光るアリアの手。躍動するは闘技場の戦士達。
 局地的全体効果系永続魔法(ルーム・シェアリング・エフェクト):《一族の結束》。
「《一族の結束》の効果は、種族全体の価値を引き上げる。下級を上級に、上級を最上級に、《不死武士》を不死武将に、混沌の師範代(カオスエンドマスター)混沌の先導者(カオスエンドリーダー)に飛躍させる」

「1年前のアリィさん……あの時もあの人は、なんか変なこと言い張ってた!」

「1年前は貫徹できなかった」 アリアは覚えている。はっきりと覚えている。
「今日は止まらないよ。止められるものなら止めてみろって言ってやる」
「強襲型から結束型へのサイドチェンジ。機会はくれても時間はくれないか」
「ターンは自分でもぎ取るもんだよ。バトルフェイズ」
 フィールド中央。先頭で拳を振るうは、《一族の結束》を固めた白銀の戦士。攻撃力2300:混沌の先導者(カオスエンドリーダー)が《マンジュ・ゴッド》を狙う……首元への抜き手。万の動きを一撃で断つ。900ダメージと共に 『修羅』 を発現。攻撃力2400:機鋼忍者アースを展開。機鋼忍法:鋼山靠(こうざんこう)を仕掛ける。

 フィールド上に線が引かれた。

 戦場を切り離す調停の使者:《バトルフェーダー》。

 アリアの戦意は萎まない。停戦協定さえも力に変える。 
「何回でも使えばいい。マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」

Turn 5
■アブソル
 Hand 5
 Monster 1(《バトルフェーダー》)
 Magic・Trap 1(《強欲なカケラ》)
 Life 7100
□アリア
 Hand 3
 Monster 3(《カオスエンドマスター》/《不死武士》/《機甲忍者アース》)
 Magic・Trap 1(セット/《一族の結束》/《明と宵の逆転》)
 Life 8000

「ドロー。置物を入れ、《バスター・モード》を外し、《邪神の大災害》を外し、《サルベージ・ウォリアー》は……際どいところかな。随分と思い切ったサイドチェンジを試みたようだね。怖い怖い」
「三味線弾いても意味ないよ。あんたはどうみても楽しんでる」
「恐怖と快楽は矛盾しないんだ。スタンバイフェイズ、《強欲なカケラ》に強欲カウンターを1つ載せる。《ファントム・オブ・カオス》を墓地に送って《ワン・フォー・ワン》を発動。デッキからレベル1:《サイバー・ヴァリー》を特殊召喚。効果発動。《バトルフェーダー》と《サイバー・ヴァリー》を除外。デッキから2枚引こう。モンスターを1体セット。更にマジック・トラップを3枚セット。ターンエンド」
「カウンター・アタック、仕掛けないの」 「良い性格してるよ、君も」

「初っぱなから《バトルフェーダー》。1戦目とは決闘風景が違う」 テイルの言葉にパルムが頷く。
「吸収型という名のカウンター・スタイル。ぼくも似たような決闘をやるからわかるんだけど、カウンター・アタックを仕掛ける為には2つの条件がある。1つは攻め込まれること。もう1つは生き残ること。モンスターで阻み、マジック・トラップで捌き、ライフポイントで受ける。緩やかなボード・コントロールを仕掛けておいて、即死しない程度の反撃をもらう。もらった反撃を吸い込んでカウンター……」
「その皮算用を土壇場で覆したのが1戦目のアリア。暴力120%のフルショットを喰らえばターンは回ってこない。制圧戦を捨てたんだよあいつは。生き残らないことには始まらないってわけだ」
「 "後の先" そのものを捨てる気がないのはいかにもアブソルらしい。ミィ、覚えがあるだろ」
「あ、蘇我劉抗さん! 《バトルフェーダー》から、《強制転移》を狙ってたっていう……」
「手札誘発の延命札(モンスター)。分類上はモンスターだけど、その特殊性から第四の防御とも言われている。最大出力が低下しやすい傾向はあるけど、布陣で止まらない分もきっちり止まる。狙いをカウンター・アタックに絞ったんだ。けれど」
「アリアはその上を行く」

一族の結束  機鋼忍者アース  混沌の先導者(カオスエンドリーダー)  不死武将  明と宵の逆転

「ドロー。カオスエンドリーダーでセットモンスターに攻撃」
「そいつは流石に通せない。《聖なるバリア−ミラーフォース−》を発動」
(楽しい) アリアはたぎっていた。 (迂闊な選択肢を採れば跳ね返される) 子供の頃に仕込まれた暴力を逆手に取る吸収戦術。 (1戦目は直感を頼りに刺せた) 暴力装置としての彼女の成長は生後10年弱で凍結している。 (2回目は通用しない) アリアはみなぎっていた。 (なら ―― )
「カウンター・トラップ、《大革命返し》。《聖なるバリア−ミラーフォース−》を打ち消す」
全体除去(邪神の大災害)を抜き、全体除去返し(大革命返し)を入れる、か」

 解力いうものがある。
 アリアはもう1つの力を持っていた。解く力と書いて解力。吸収される前に倒しきる、プレイングレベルの暴力的解決を図ったのが1戦目の決闘。対して、吸収戦略そのものを瓦解させる、構築レベルの解力的解決を試みたのが2戦目の決闘。延命札の多重搭載さえも見越した構築。出力の低下したアブソルを襲ったのは、質の攻勢ではなく量の攻勢。曰く、《サクリファイス》は一度に一体しか吸収できない。曰く、《サクリファイス》は2体がかりの攻撃に弱い。曰く、《サクリファイス》は《一族の結束》までは吸えない。曰く、下級中心ならばリリーサーの影響を最小限に抑えられる。曰く、直列強化より並列展開の方が吸収型に刺さる……右手に暴力左手に解力、アリア・アリーナは2つの顔を持つ。

「アリィさんはエースに、《ギガンテック・ファイター》に頼り切ってない。それでも闘えるんだ」
 
 一回り大きくなった結束の発案者が《クリッター》を切り裂く。太刀筋に映るもの……八百長決闘、深夜の決闘、アリーナ家での雌伏の生活。強敵との対峙に才が咲く。
「不死武将で」
 理不尽を叩きつける為の暴力。
「機鋼忍者アース[A]で」
 理不尽に立ち向かう為の解力。
「機鋼忍者アース[B]で」
 2つの性質の止揚現象。それが、
「攻撃」
 アリア・アリーナという決闘者。

アブソル:300LP
アリア:8000LP

「この衝撃波。使い手が使い手ならこうも違う。ならば! Normal Trap:《フリッグのリンゴ》を発動」
「あんにゃろう」 テイルが舌を鳴らす。 「ギリギリまで引き付けやがった」
「最後の攻撃を、機鋼忍者アースの攻撃力を吸収。2400のライフを回復し、同じ攻撃力の邪精トークンをフィールド上に特殊召喚。《一族の結束》の分、吸収できないとは言っていない」

アブソル:2700LP
アリア:8000LP

フリッグのリンゴ(通常罠)
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、自分が戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。自分が受けた戦闘ダメージの数値分だけ自分のライフポイントを回復し、自分フィールド上に「邪精トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守?)1体を特殊召喚する。このトークンの攻撃力・守備力は、この効果で自分が回復した数値と同じになる。


「打撃しかないとは言ってないよ」
 その寿命は短かった。ものの数十秒で傭兵部隊に撃ち抜かれる。《カオスエンドマスター》と《不死武士》でオーバーレイ。正道を外れた傭兵の長、《M.X−セイバー インヴォーカー》をエクシーズ召喚。攻撃力1600。その本領は召集能力にある。ORUとなった《不死武士》を呼び水に、1枚挿しの《ならず者傭兵部隊》を特殊召喚。狙撃一発で撃ち抜かれ、邪精は虚空に消え去った。
「マジック・トラップを2枚セット。ターンエンド」

Turn 7
■アブソル
 Hand 3
 Monster 0
 Magic・Trap 2(《強欲なカケラ》/セット)
 Life 2700
□アリア
 Hand 2
 Monster 3(《M.X−セイバー インヴォーカー》/《機甲忍者アース》×2)
 Magic・Trap 2(セット/セット/《一族の結束》/《明と宵の逆転》)
 Life 8000

「宵と明がひっくり返ったわけだ。闇属性の《ギガンテック・ファイター》ではなく、光属性の《カオスエンドマスター》を中心に据えた殴り込み。敢えて言うなら【白腕戦技(ホワイト・アームズ)】といったところか。出来上がったのは分厚い槍衾(やりぶすま)。1体吸った程度では滅多刺しになって終わる……」
 アブソルが構えを変えた。闘技場に妖気が迸る。 「ミィ」 顔は真正面を向いたまま、フィールドの横っ腹に立っていたミィに向けて言った。 「君は、決闘者を魔法使いのように捉えているね」
「え? あっ、うん……」 虚を突かれた格好。ミィはたどたどしく言葉を返す。
 アブソルは満足げに微笑むと、フィールドに言葉を撒き続けた。
「いい着眼点だ。大昔はモンスター、マジック、トラップのことを召喚魔法、通常魔法、設置魔法なんて呼んでいたんだよ。色々細分化したり、設置も出来る速攻魔法なんかが登場したりして、結局今の区分に収まったところがあるけど、決闘者というのは元を辿ればみんなみんな魔法使いだ。魔法を使おうと思ったら何がいるかな……そう、魔力。僕ら決闘者の魔力とは……札の数」
 アブソルがデッキからカードを引いた。眼前にある《強欲なカケラ》を一瞥する。
「ほうら完成。久々の感覚だ。これの完成を待ちわびるなんて……」
「ならぶっ壊す」
 眼には釘を、歯には石を、吸収には展開を、女神(フリッグ)には傭兵を、反対運動(ミラーフォース)には大革命返しを、そして今。《強欲なカケラ》には《砂塵の大竜巻》を。アブソルは呆然としていた。両腕をぶら下げ、膝を付きそうになる。ミィの頬が緩んだ。勝利を確信して歓声を送ろうとする。
 音がした。床に手を付く音。床に手を付き倒立したアブソルは、そのまま腕の力だけで飛び上がる。空中でぐるりと身体をまわすと脚から着地。口元に笑みを浮かべて言い放つ。
「ミィ! 僕はね、本物の魔法使いなんだ。リバース・カード・オープン!」



Duel Orb Liberation

活 路 へ の 希 望(ゴー・トゥー・ヘル) ! !



アブソル:1700LP
アリア:8000LP

「僕のライフポイントが1000以上少ないことを前提条件に、1000ライフポイントを支払って発動できる。僕らのライフポイント差2000に付き、デッキから1枚……この場合は3枚……」
「ダメージ・コントロール」 アリアの目の色が変わる。 「延命札によるダメージ・コントロールを効かせておいて、下がった出力はドロー・ブーストで補う。《マンジュ・ゴッド》で攻撃しなかったのも、《フリッグのリンゴ》の発動タイミングが遅かったのも、この為の布石……」
「吸収型は待つ決闘。待ち時間の活用法には手慣れてるんだよ。 "何年" 待ったか」

「西部五店長」 パルムはぼそりと言った。
「全盛期なら今の西部十傑にも引けを取らない。でもってあいつは……」

 西部に五店長あり
 元Team Earthbound 砲銃店長ダァーヴィット・アンソニーは腕が壊れるまで撃ち続けた
 元Team DeadFlame  殲圧店長パルチザン・デッドエンドは店長業を極めんと今日も引く
 元Team BoostUpper 変幻店長ゴーストリック・ライアスタは数多くの決闘を供給してきた
 現Team FlameGear  火打店長ファロ・メエラは今も現役で闘志を燃やしている
 長年に渡って戦い抜いてきた英傑達。そして、 
 吸収店長アブソルが 今も変わらぬ容姿でここにいる

「《死者蘇生》を発動。墓地から《ファントム・オブ・カオス》を特殊召喚」
 闇属性レベル4、攻守共に0。戦闘ダメージを代償に、死骸を吸収することでその能力をも吸収する異形の悪魔。1体ではない。3体。Quick-Play Spell:《地獄の暴走召喚》。3体の幻影が列を成す。
「なら! こちらもデッキから、3体目の機鋼忍者アースを特殊召喚!」
「修羅の火力を最大限高める構成。ならばこちらも、吸収の威力を最大限高めよう! Normal Spell:《手札抹殺》。僕の手札はこの4枚。こいつらを墓地へ送ろうか!」
「一つ目が3枚? 儀式魔法もなしに、一つ目ばかりを」
「《サクリファイス》の使い道は儀式召喚だけじゃない。3体の《ファントム・オブ・カオス》の効果発動。3体の《サクリファイス》を墓地から吸収し、その効果で3体の機鋼忍者アースを吸収!」
「二段階の三連続 ―― 六連続吸収。これが西部五店長の……」

ファントム・オブ・カオス ファントム・オブ・カオス ファントム・オブ・カオス
                                   
  サクリファイス       サクリファイス      サクリファイス   
                                   
  機鋼忍者アース     機鋼忍者アース     機鋼忍者アース   

「仕上げといこうか。もう1つ!」
 レベル4のファントム・サクリファイス3体をオーバーレイ。三重奏社が独自に開発した重エクシーズモンスター。不埒な傭兵斡旋者(インヴォーカー)を喰らうべく、幽霊屋敷の黒金卿(ハウンティング・ニエロード)が浮上する。
三 重 装 填 召 喚(トリプル・エクシーズ・サモン)!」



Vylon Disigma Favorite Attack

荒 廃 の 記 憶(ディストピア) !!



アブソル:1700LP
アリア:5500LP

ヴァイロン・ディシグマ(エクシーズ・効果モンスター)
ランク4/光属性/天使族/攻2500/守2100
レベル4モンスター×3:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールド上に表側攻撃表示で存在する効果モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードが、この効果で装備したモンスターカードと同じ属性のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。


「【All-Drain】。僕のデュエルはあらゆるものを吸い続ける」
「七連続吸収……」 
「並列展開というのは悪くないアイディアだけど、そうそうしてやられる西部五店長じゃないさ」
 空っぽになったモンスター・ゾーンの向こう側、泰然自若を体現するかのように、依然ゆったりとアブソルが手を広げていた。マジック・トラップを1枚セット、悠然とターンエンドを宣言する。
「さあどうする?」

「 『さあどうする?』 はこっちの台詞」
 アリアは退かなかった。眼前の相手に問いかける。
「《サクリファイス》3枚を除外。今のは効いたけど……もう一度できる? 同じこと」
 問いかけと共にデッキからカードを引いた。《不死武士》を蘇生すると共に《明と宵の逆転》を起動。《ネクロ・ガードナー》を墓地に送り、デッキから3枚目の《カオスエンドマスター》を手札に加える。
「お互い考えることは同じかも。リバースカードオープン、《無謀な欲張り》。ドローフェイズを2回スキップする代わりに、デッキから2枚引く」 「……っ!」 「もう1つ! 《明と宵の逆転》を墓地に送って《マジック・プランター》を発動。同じことをもう一度……こっちはできる」

「丁々発止の攻防だが、アリアが1枚上を行った」 テイルが熱い視線を送る。
「下級の槍衾(やりぶすま)は攻撃の為だけにあったんじゃない。防御の役割も担っていた。致命傷を負わされなければカウンターを狙える。あいつの狙いはカウンターへのカウンター」
「《増援》から《切り込み隊長》を通常召喚……効果発動。《カオスエンドマスター》を展開。《一族の結束》の効果により、切り込み総長、混沌の先導者(カオスエンドリーダー)に飛躍」 更に踏み込む。 「《一族の結束》の効果は、下級を上級に、上級を最上級に飛躍させる。じゃあ、2枚置いたら?」
「一族の……二重結束……。下級が……最上級に……」
「《一族の結束》を発動。総火力は8700まで上がる」

一族の結束 切り込み大将 混沌の統括者(カオスエンドルーラー) 不死将軍 一族の結束

 不死将軍:攻撃力2800
 切り込み大将:攻撃力2800
 混沌の統括者(カオスエンドルーラー):攻撃力3100

 ある者は言った。最大の解力とは最強の暴力である。
 ある者は言った。最大の暴力とは最強の解力である。

「【All-Warriors】、わたしの決闘は、あらゆるものと闘い続ける」
「……」 アブソルの口元から、薄笑いの名残が消えた。
 防波堤(ミラーフォース)が崩れた戦場を精鋭達が跋扈する。不死将軍が一騎打ちを買って出た。脳震盪が起きない特性を利用し、《ヴァイロン・ディシグマ》にヘッドバットを叩き込む。
 場が空いた。雪崩れ込むのは切り込み大将。
「そうはさせない! 《スケープ・ゴート》を発動。羊トークンを4体……」
 アリアは戦闘を続行した。急ぎはしない。慌てもしない。切り込み大将がダイビングボレーで一匹を屠ると、混沌の統括者(カオスエンドルーラー)が光を掴む。白金の戦士は手を抜かない。《青眼の白龍》さえも一撃で倒すと言われる心臓への掌底を叩き込む。残る羊はあと2匹。アブソルの首筋に手を掛ける。
「ここまでやられるとは思わなかった。それでも僕は生きている」
「それでも倒す。マジック・トラップを2枚セットしてターンエンド」

「妙だ」 声を発したのはパルムだった。
「《サクリファイス》を失った。ネクガもある。実質3倍近い戦力差に吸収対策も万全。カウンターの限界点を超えている。少なくともぼくは、あの状況からひっくり返せるアブソルを知らない。なのに……」
(なんだろう、これ) ミィは思った。 (延命する度に差が開いてる筈なのに……なんで……)
 胸騒ぎがした。得体の知れない胸騒ぎ。

Turn 9
■アブソル
 Hand 3
 Monster 2(羊トークン×2)
 Magic・Trap 0
 Life 1400
□アリア
 Hand 2
 Monster 3(《カオスエンドマスター》/《不死武士》/《切り込み隊長》)
 Magic・Trap 2(セット/セット/《一族の結束》/《一族の結束》)
 Life 5500

「ねえアリア。愛しいアリア。部屋の電気が付いたとき君が触った手……あれは凄くいいものなんだ。かつて2人の決闘者がいた。あれはまさしく死闘の域。一方は血塗れになったが勝者だった。敗者はもっと酷いことになった。腕を切り飛ばされたんだよ。それを拾って剥製にしたんだ」

「え? ちょ……」 ミィは辺りを見回した。 「じゃあここにある手って……」

「なんてね。冗談だよ冗談。驚いた? 僕はナマで食べるのが好きだから」
 手を胸元に近づけ、両手の指先同士をぴったりと合わせる。
 歯を噛み合わせるように。
(なんだろ) アリアは思った。 (これ……)
(なんだ) テイルは思った。 (こいつ……)
「手は第二第三の口なんだ。僕のターン、デッキから1枚を食べて《一時休戦》を発動」
「遅めのお昼ご飯。お腹いっぱいになれた?」
「お腹いっぱいはこれからだ。まずはライフを吸収しよう」

 ―― アリィさんの懐に、びっくりするぐらいあの人は自然に入り込んできた。鳥肌が立ったのを覚えてる。あの人は、試合中に握手を求めてきたの。《友情 YU−JYO》と《結束 UNITY》。

友情 YU−JYO(通常魔法)
相手プレイヤーに握手を申し込む。
相手が握手に応じた場合、お互いのライフポイントは現時点でのお互いのライフポイントを合計して半分にした数値になる。
自分の手札に「結束 UNITY」が存在する場合、そのカードを相手に見せる事で、相手は必ず握手に応じなければならない。


 『握手を求める魔法』 と 『握手を強いる魔法』。 あの人は骨の髄まであの人だった。いけしゃあしゃあとアリィさんの手を握っている。嫌悪感が沸いてくるのと一緒に、とてもとても大事なことに気がついた。 『決闘者は魔法使いみたい』。 わたしがそんな風に思っていたの、なんであの人が知ってるの?

「無駄に伸ばさない爪、繊細な神経の通った第一関節、強靱さとしなやかさを備えた第二関節、デュエルオーブを収める為にあるような掌……」 感触を楽しむアブソルの手の甲に、アリアの親指がふと触れた。 「突起物が気になるかい? なに。大したことじゃないんだ。僕は資格を持っていた。その資格を生かすには入り口が必要だった。僕にとってそれは手だった。長い長い訓練中、視界と手界が一致しないのがとてもとてもしっくりこなかったから、両手に喰わせてみたんだよ」
 妖気の高まりと共にアブソルの白髪が跳ね上がる。ミィが絶句した。
 アブソルの眼窩には、収まるべき物が収まっていない。 
「君の力は西部五店長をはっきり凌駕していた。ありがとう。僕の手を覚ましてくれた君には感謝の言葉も生温い。100年じっくり待っていた……僕達は間に合ったんだ」

アブソル:3450LP
アリア:3450LP

「なんで……」 ミィは信じることができない。
「なんで……」 眼前の光景を信じることができない。
「なんで……!」 アリアの乱心を信じることができない。
 握手終了後、アリアは《ネクロ・ガードナー》の効果を発動していた。攻撃宣言はおろか、モンスターの召喚すら行われていない状況下でそれをした。何の意味もないのにそれをした。
 棒読みに近い口調でアブソルがエンド宣言を行う。
 アブソルのターンが終わった。アブソルのターンが始まる。
「僕のターン! 《無謀な欲張り》の効果でドローフェイズをスキップ!」 
「なんで……なんで今、 『僕』 って……なんで……」
「決闘者は手が命。手を握るということは、全てを喰らうも同じこと」
 人と札を結びつける決闘の中枢部を掌握、妖怪変化が上がり込む。
「随分と鈍っていたけれど……ようやく間に合った。君のおかげだ。君が強すぎるおかげで、僕の決闘が解放されていく。素晴らしい肉体、素晴らしい精神、そして何より素晴らしい指先。味もいい……」
「アリアじゃない!」 テイルが叫んだ。
「アブソル……まさか……まさかおまえなのか!」
「今日はいい日だ。能力を使えるところまでいったのだから。……【決闘丸呑(デュエルイーター)】。見ての通りさ。握手した相手の(デュエル)を、文字通り掌握する」
「アブソル……おまえは……おまえは何者だ!」
「《一時休戦》で引き入れた《貪欲な壺》を発動。墓地から5体をデッキに戻し、デッキから2枚引く。カオスエンドルーラーと切り込み大将でオーバーレイ、M.XXX(ミッシング・トリプルエックス)−セイバー インヴォーカーをエクシーズ召喚。効果発動。デッキから、さっき戻したばかりのならず者傭兵軍隊を特殊召喚……リリース。M.XXX(ミッシング・トリプルエックス)−セイバー インヴォーカーを破壊する」
「この無茶苦茶なプレイング!」 「アブソルだ! アブソルがやっているんだ!」
「尋常一様ではない肉体の冴え! 最高だよアリア! 手札から《サイクロン》を発動。自分の場の《大革命返し》を破壊する。リバース・カード・オープン、《戦士の生還》を捨てて《鳳翼の爆風》を発動。羊トークンを……《禁じられた聖槍》を発動。効果をはじく!」

「くそっ! パル、おまえはこのことを知っていたのか」
「知ってたらやらせるものか。アブソルには、僕の知らない顔がある」
「あっちの肉体の方は半分抜け殻みてえに……なんて野郎だ……」

「そんな……じゃああの握手は……いやっ!」
 ミィは膝を突き、耳に手をあて身体を震わせる。
 覗かれた。呑まれた。何かをされた。
「何もしてないよ。もののついでに "ちょろっと" 視ただけ。いい魔法使いになれるといいね。そろそろ時間だから仕上げと行こうか。《不死武士》をリリース、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚! 《カオスエンドマスター》を復活してチューニング……西部最強の投盤だ。現れろ!」



Gigantic Fighter    Overspec Summon !

Attack Point : 5200 / Defense Point 1000



 吸収型は相手依存が原則。しかし、もしここに対戦相手のプレイングを直に操作できる決闘者がいるとすれば。盤面を吸収型好みに操れる決闘者がいるとすれば。残りライフ半分以下、セットカードゼロ、場には最上級一体、そんな状況を演出できるとすれば……どうなるか。
 百年越しの決闘狂人。
 類い稀な才能と狂気が一体となった時、歪んだ奇跡が溢れ出す。《一族の結束》を二重に受けた《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は5200にまで上がっていた。他方、アブソル側の決闘盤には《The アトモスフィア》と《フォース》の2枚がスタンバイしている。即ち、

「またしても僕のターン! ドロー! 召喚! 発動! 吸収! さあ羽ばたけ!」



Gigantic Atmosphere


Full Performance Attack


Final Gigantic Tempest ! !



 防御不能の一撃が闘技場を貫いた。新手の目覚まし時計が身体を鳴らす。二重三重に強化された暴力を ―― ファイナル・ギガンテック・テンペストをその身に喰らったアリアは吹き飛ばされ、そのままショーケースに激突。ガラスの割れた音が響き渡り、転がったカードが血に染まる。
 全てを喰らい尽くす白髪の決闘者がそこにいた。
 胸元で両腕を交差させながら、眼球付きの掌を広げて言った。
「改めて自己紹介しておこう。西部五店長改め中央十傑(せかいじっけつ)、アブソル・クロークスだ」

アブソル:3450LP
アリア:0LP

「アリィさんが……なんなの……これ……」
 ミィが狼狽する一方、アブソルは悠々と補足を始めた。
中央十傑(せかいじっけつ)とは中央が認定した決闘狂人の総称。中央に本拠を置く義務はない。そうはいっても僕は隠居者。未だに十傑というのも不思議な話だ」
「なんなの……ねえ……なんなの……」
「君らは世界の歴史にてんで疎い。僕はさ、なんでか全くわからないんだけど ―― 本当に何一つ心当たりがないんだけど嫌われ者で、色々面倒臭くなったからこちらに越してきたんだ」
「なんなの……なんなのこれ……」
「視力のこと? 眼球を入れて以来、掌を通してうっすらと映像を……」
「違う! そんなことじゃない! こんなの、こんなの決闘じゃない……!」
「尊くも哀しい一般見解だ。それで、君はどう思うんだい? アリア」

 3人が振り向くとアリアが立っていた。頭から血を流しながらも立っていた。

「 "最古の晩餐(サイコイーター)" それがあんたの通り名だろ」
「おや。知っていたのかい」
「お母さんがほんのちょろっと言ってたっけ。名前聞いてないし、闘ったこともないからド忘れしてた」
 頭の血を拭うと、手に付いた血をまじまじと眺める。
「むっちゃ痛かったよ。また1つわかった、わたしはとっても負けず嫌い。ねえ、1つ聞かせて欲しいんだけど、乗っ取ったんなら 『サレンダー』 って言えばそれで終わるんじゃないの」
「そんなの決闘じゃない。ライフをゼロにしないと決闘とは言えないよ。当たり前だろ」
「そっ……か」 「3本勝負は1勝1敗。どうする?」
「あらゆるものと闘い続けるのがわたしの決闘。ぶっ殺してもぶっ殺されてもいい」
「この西部の片隅に ―― 安い歴史と引き替えにミツルを詰まらなくしたこの西部の片隅に、こうも育っていたのか。店を畳まずにおいて正解だった。時代のうねりを感じるよ」

「なんで……」 ミィは戦慄した。 「あんな目に遭ったのに。なんで……」

「なんか不思議。頭の中を弄くられて、体はこんなザマで、こんなにも楽しい」
 アリアの闘気が開放されていく。目の前の妖気と絡み合って膨張……
 窓ガラスが割れた。闘気と妖気の鬩ぎ合いが実在さえも揺るがす。
「お父さんが言ってた。 『中央十傑は人間じゃない』 ならわたしも……」
「一度の敗北が手を変えることもある。美味しそうだ」
「食あたり起こすかもよ」
「本望だ」
 混ざり合う自然な殺意。
 体を砕かれ飽き足らず、
 心を(えぐ)られ飽き足らず、
 おぞましいほどの決闘空間が形成されていく。

「おい、そこの馬鹿共」 テイルがうざったそうに割って入る。
「何を必死こいてそんなことやってんだ。趣旨忘れすぎだろ」
 横槍を入れられて尚、アブソルの態度は変わらない。
「僕は果報者だ。手を首に当ててぎゅっと締め上げるような殺気を満喫できるんだから。集中力に満ちた手。君もそこに惹かれた口だろ? 決闘者特有の飢餓的な……彼女のポテンシャルは未知数。上手く行けば本当に殺されるかもしれない。そう思うとわくわくする。彼女はあれだけ完成度が高いのに生まれたての赤ん坊のようだ、君も札兄弟ならわかるだろ? ごめんね、独り占めしちゃって」
「……」

 ―― なんでもいいから言い返して欲しいと思った。

「あの拳にはもう触れた? あれが触れた瞬間天国に逝けそうな気がしたよね」
「一緒にすんな」 

 ―― 短かった。もっとだらだら馬鹿みたいなことを言って欲しいと思った。

「床から出てきた時にほんのちょっとだけ触ってみたんだけど、君の心にははっきりとした断絶がありありと描かれていた。ほんのちょっとでわかるほどには…… "仲が良かった" ようだね」

 ―― わたしはこの店で三回 『怖い』 と思った。アブソルが狂気じみた能力を露わにした時、アリィさんが狂気じみた闘志を露わにした時、わたしは怖いと思った。けれど、テイルさんが何も露わにしなかった時、わたしは別の意味で怖かった。わたしは叫んだの。 「ティルさん!」 って。振り向いたテイルさんはいつも通りのテイルさん。そんな筈ないのに。周りの空気があれだけさっと凍り付いているのに、テイルさんは本当にいつも通りの表情で。それがどうしようもなく怖くて。何かが壊れてしまいそうな気がしたの。何かを言わないといけない気がしたの。だから……

「テイルさん! 帰って練習しましょう!」
「……練習?」 「色々やりましょう!」
「2人でイチャイチャやればいいだろ」
「5人です!」 「あ?」
「リードさんは必死な思いで崖を転がってます。ラウンドさんは忙しい中時間を作って必死にプランを立ててます。今は一緒にいなくても、最後は一緒に闘う為にやってるんです。5人でやりましょう!」
 ミィが必死に呼びかけるのを目の当たりにすると、パルムもすぐさま乗っかった。
「テイル、ぼくからも頼みたいことが幾つかある。ぼくだけではこなしきれないノルマがある」
 数秒の沈黙。テイルはふっと笑うと、尻尾を鞭に変えてアブソルを狙う。 「いいよ、君になら」 アブソルは悠々と構えるが紙一重で当たらない。テイルはそのまま身体を捻ると一回転、今度はアリアを狙う。ほんの一瞬視界を遮ると、一足飛びで距離を詰め、
「アリア! 好きだ! 愛してる! 結婚しよう!」
 告白した。一瞬、時間が止まる。ミィが、パルムが、アブソルが、そしてアリアがポカンとしていた。一方のテイルは何かをやりきった顔をしている。時間にして5秒が経過。ようやく事態を把握したアリアが、頬をぽりぽりと搔きながら軽い調子で返答した。
「いや、普通に断るけど。あんまお金なさそうだし」
 3秒弱で断られたテイルは、それでもどこか満足げだった。
「これで五分だろアブソル。おまえには付き合ってられん」
「何が五分かは知らないが、すっかり毒気を抜かれてしまった」
 それはそれで面白い……そう言いたげに手を叩いている。
 テイルはアリアの両肩を掴むと、いつになく真剣な表情で言った。
「落ち着け。あいつのフィールドに嵌まり込むな。喰われちまうぞ」
「ありがと。少し落ち着いた。けどあいつとは決着を付けたいの」
「ああ、わかってる。わかってるさ」
「ねえアブソル、どうする?」
「折角だから1ヶ月後にしよう。少し鈍ってる分を鍛えたいし……大会もある」
「大会に出る気なの?」 「君は出るアテある?」 「あるけど……」
(大会に?) ミィは唇を噛んだ。苦虫を噛み潰したような顔をする。
「決まりだ。楽しみにしてるよ。ああそうそう!」 ミィの方を向くと、アブソルはさらりと言い添えた。
「君のことを忘れていた。カードはあげるよ。好きなのを持って行くといい。三本勝負はぶっちゃけ後付けだから。彼女が1回僕を倒したのは事実だ。欲しいんだろ? 君の心はそう言っていた。ほら……」
 満面の笑みを浮かべながら喋るアブソル。ミィは "きっ" と睨み付け、パルムは首を振った。
「そんなカード……」
(ミィ。ごめんよ)
「そんなカード……」
(何も知らずに、君をあんな目に遭わせてしまって)
「そんなカード……さん……5〜6枚しか要りません!」
「ミィ。わかった。君の意思を尊重……って、もらうの!?」
「ここまで好き放題されてカードもらわなかったら大損ですよ大損!」
「ミィ……」 「反省してるなら、あの人からいいカードを巻き上げてください」
「わかった。君が好きなだけ貰えるというのなら僕の分も貰えるね」 「イエス」
「おやおや」 「文句ないだろ」 「いいよ。どうせしばらく営業できそうにないし」
「いぃ〜よし! じゃあ、1人10枚もらっていきましょう!」

 窓ガラスが割れ、ショーケースが砕け、出血大サービスの昼下がり。ミィとパルムは砕けたショーケースの所まで近寄ると、慎重にガラスを避けながらカードを選ぶ。たまに血もついてる。
「あ、《畳返し》。これ結構強くないですか」 「ちょっと、局地的過ぎるところあるけどね」
「ミラフォありましたよミラフォ! これに凄い憧れて……」 「サクッともらっとこう」
「《カードカー・D》! 《カードガンナー》! 欲しい!」
「車の方は何気に高いけど、ガンナーは予備がうちにあるから貸すよ。あ、ダクリみっけ。どうしよ

「ああいう風に、一歩ずつ強くなっていかないと」
 アリアはテイルに囁いた。悪戯っぽく小声で。
「そんなに強くなってどうすんだよ……ったく」
「あいつにはまだ余裕がある。わたしにもまだ余白がある」
「……」 「テイル」 「あんだよ」 「最後の一撃、わたしを庇いに入らなかった」 「あ?」 「ありがと」 「バカか」 「大会ではライバルだね」 「……」 「ライバル……だよね」 「ああ、まあ、そうかもな」

――
―――
――――

「大漁大漁。これで色々と捗りますね」
 ミィは意気揚々と歩いていた。下手な口笛を吹きながら。
「いや〜ホント〜あれ? パルムさんどうしたんですか?」
 パルムが立ち止まった。自分の腕を一瞥、視界を上げる。
「さっきの立ち回り……改めて思った。きみに見せたいものがある」
 懐から1枚のカードを取り出す。ミィはそのカードをまじまじと眺めた。
《幻凰鳥−トリック・トランス・トルネード−》。このカードは……えっと……」
「性質上、このカードが直接きみを勝たせることはない。けれど、きみのプランの助けにはなると思う。屈辱に甘んじてでも強くなりたいっていう、そんなきみにならあげてもいいかなって思ってる」
「ホントですか! このカード。これがあれば……」
「但し」 「?」 「1つだけ条件がある。バルートンよろしく二者択一だ」
「もうこの際なんでも言ってくださいよ。崖下りでも山登りでもなんでもやりますよ。もうなんか色々酷い目に遭ってきたし、今更矢でも鉄砲でも」
「同じ鳥獣族、《BF−激震のアブロオロス》と交換だ」
「え……」 「それ以外ではこのカードを渡せない」
「そんな……それは……駄目……駄目だよ……」
 ミィは狼狽した。顔を歪め、頭を左右に振るが何も変わらない。パルムは淡々と話を続ける。
「もうわかってるだろ。そのカードは構築に必要ない。そのカードは矛盾しか生まない。石に齧り付いてでも強くなろうとするなら真っ先にそのカードを外すべきだ。君は本当に《サイバー・ドラゴン》と《異界の棘紫竜》をリリースしてこれを召喚する気なのか。あんまりこういうことを言いたくはないけど、それでも僕はタッグパートナーだし、このカードを受け取る人間にはそうあって欲しい」

 思い入れを思い出に変えて。そうやって強くなるのが決闘者だ。



【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。5章完結。全力で疲れました。コメントブーストからの6章バーストで前のめりに逝きたい
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話
















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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