――誰が一番強いかではなく誰が一番強くなったかが決め手になるかもしれない

「フィールド魔法《同種同源》を起動。墓地の《邪帝ガイウス》と《クリッター》を除外」
 墓地に眠る悪魔の死骸から魂を切り離し、物言わぬ肉体を戦場に供する。狼が羊を喰い、羊が草を食む正道からの逸脱。悪魔の生贄を貪る資格は同じ悪魔の眷属に限られる。
「2体のサクリファイス・トークンをリリース。悪魔族モンスターをアドバンス召喚……」
 西部の守り神:《地縛神 Ccapac Apu》。敵として認識された金属質の物体は情感の籠もらない声で《奈落の落とし穴》を発動。TCG特有の衝撃波はなく、何処か空々しい響きの籠もった機械人形の作業。除外。帰還。場には巨大な地縛神が尚もいる。永続罠:《闇次元の解放》。 「攻撃」 短い宣言と共に一の拳が炸裂する。耐えられる。設計上は耐えられる筈だった。1つの土地に1体が鎮座する原則を超え、もう1つの影が拳を振るう。 『OZONE』 特有の法則。闇の中よりも影は生じる。
 火花が散った。尚も止まらない。闇と影が交わり ――

同種同源フィールド魔法)
墓地からモンスターを除外することで自分フィールド上に「サクリファイス・トークン」(除外したモンスターと同じ種族・闇・星1・攻/守0)を1体特殊召喚する。このトークンは、除外したモンスターと同じ種族のモンスターの召喚・特殊召喚以外で使用することはできない。この効果は1ターンに2回まで使用できる。
 エンドフェイズ、サクリファイス・トークンを全て破壊する。


「素晴らしい!」 「完璧だ!」
「すみません。シミュレーション・ロボを壊してしまいました」
 賞賛の声に気をよくするでもなく、ミツル・アマギリは淡々と謝罪の言葉を口にしていた。
 出資者達は、ミツルの謙虚な態度を受け入れにやりと笑う。
「思い切りやれと言ったのはこちらだ。構わんよ。このシミュレーション・ロボもそこまでヤワに作っているわけでもないのだが。なんにせよ大したものだ。新型の調子は上々とみていいのだね?」
「特に問題は見当たりません。前年度から投入を見据えて訓練を行っていたのが効きました」
「ようやく完成した新型だ。勝利を添えてやってくれ」

「……」 廊下を歩くミツルの表情は何処か物憂げだった。
「何か文句でもあるのか」 影の内から低い声が聞こえる。
「 "ようやく完成した新型"。 なんとも妙な話だとは思わないか」
「上層部が嘘を言っていると」
「去年の訓練内容は完璧過ぎる。あれで当時は未完成か」
「とうの昔に完成していたと? なぜそんなことをする」
「去年までは新型などなくとも極々普通に勝てていた。新型を投入すればいよいよEarthbound一強。Earthboundは最強でなくてはならないが、完全無欠の一強体制では観客の興味を惹けない」
「もしそれで負けていたら。難しい局面はそれなりにあった」
「Earthboundは西部最強であって西部無敗ではない。歴史が変わるほどの負け方でなければ構わないのさ。そこから新たに、新型を引っ提げたEarthboundの逆襲という構図を描くだけだ」
「投入するに足る理由が出来たということか」
「2つ考えられる。1つは、全体のレベルが上がっているという外部的事情。そしてもう1つは、長年うちを支えてきたダァーヴィットさんの引退。新型で新チームを後押ししようと腰を上げた」
「アースハウンド社の思惑か……」

 Technological Card Game ――
 カード開発には2種類ある。1つは公式による開発。そしてもう1つが私人による開発。但し後者に関しては、規格を満たし、条件を満たし、公式に提出して認可を受け、流通に載せられることでようやく使用が可能となる。その意味で秩序は一元化されていた。私人による開発も大抵は企業の類が行っている。中央十傑の1人こと "レインコートの男" が独自に開発し、召喚者の全身さえも凍らせるという理由で回収騒動にも発展した某氷結界シンクロモンスターのような事例はあれど(本人曰く 『何が問題なのかいまいちピンと来ない』 )、直感的な意味での個人による認可は稀であった。
 カード開発の分野で今ホットなのが、エクストラデッキから召喚するシンクロモンスター及びエクシーズモンスターである。低燃費高性能で汎用性が高いので良く売れる。私人の開発元にとってカードとはビジネスであり、需要と供給の振り子を見極めた上での開発が行われてきた。
 シンクロモンスターの開発で特に有名なのがファイブ・ドラゴン・エレクトロニクス(FDE)。シンクロシステムの基礎を築いた会社であり、その中でも五竜と呼ばれるシンクロモンスターは黎明期の傑作として高く評価されている。さて、この会社を語る際には、対抗馬であるネオ・ドラゴニック・カンパニー(NDC)の存在が欠かせない。元々は《タイラント・ドラゴン》のような上級ドラゴン族の開発を行っていた会社であったが、FDEの台頭と共に業績が急降下。追い詰められたNDCが社運を賭けた対抗馬として形振り構わず送り出したのが悪名高い裏五竜である。その容貌は五竜と酷似していた為、深刻な権利問題に発展。本来ならば販売停止で何らおかしくないところ 『これはこれで傑作』 であった為に、裏取引に次ぐ裏取引の末、今では少数が出回り地下では高額で取引されている。この他にも、投盤に癖のあるシンクロン・シリーズを筆頭に、独自路線で一定のシェアを獲得したアイドル・チューナーズなど、現在でも様々な大企業がしのぎを削っている。
 他方、エクシーズモンスターの開発は長らく一強体制が続いていた。その一強とは言うまでもなくナンバーズ社である。彗星の如く登場したこのベンチャー企業はあっという間に市場を自分色に塗り替えた。社長自らが高らかに宣言した "百枚計画" は記憶に新しく、No.1〜No.100の型番を持つエクシーズ・モンスターは年々増加の一途を辿っている。加えて、ある筋からの情報に寄れば 「CNo.」 の開発さえ進んでいるという。目下のところはCNo.39 希望皇ホープレイ、CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイスの2種に限られているが、新型システムによってその数はバクテリアのように増加するのかもしれない。今でこそ "百枚計画" の範疇に収まっているが、何時社長が 『No.101以降も造る』 と言い出しても何ら不思議ではないのだ。このようにエクシーズと言えばナンバーズという風潮が出来上がっているが、他の会社が参入を諦めたわけではない。この鉱脈を逃すまいと日夜開発に励んでいた。採算を度外視した技術実験を行い《重機王ドボク・ザーク》《ヴァイロン・ディシグマ》《ヴェルズ・ウロボロス》《超銀河眼の光子龍》といったトリプル・エクシーズ・モンスターを専門に開発し続ける三重奏社、需要に乏しいながらもランク1の発注を取り付け 『あのデオシュタインがある日大量に買っていった』 ことさえ宣伝の材料に使う黄金鼠社など、ある種の隙間産業として成立している。
 このように、決闘者(デュエリスト)の戦力となり戦型・戦術・戦略の基礎となるカード・ユニットは、各社の開発努力によってその多くが生み出されているのである(記事より一部抜粋)

「極々個人的には《死皇帝の陵墓》が気に入っていたのだが」
「あれで誤魔化すのは限界が来ていた。おまえに見合った性能ではない」
「わかっている。《死皇帝の陵墓》のままTeam FlameGearの相手をするのは流石に厳しい。新型の投入は朗報だが……それで済む時代は何時まで続くのか」
 ミツルはほんの少し眉を寄せ、軽く息を吐いた。
「例えばTeam FlameGear。大エースが抜けて、チーム名が現在のものに変わった。Earthboundはどこまで行ってもEarthboundなのか。開発部と一蓮托生でこのまま進み続けるしかないのだろうか」
「性能を活かす構築、現場での正しい判断。最後に勝負を決めるのは決闘者の腕だ。Earthboundとてそれを最大限重視したからこそ他の誰でもないおまえを選んだ。おまえはミツル・アマギリだ。おまえがいるから西は発展できた。なぜ今更そんなことを言う。何事も持ちつ持たれつだ」
「持ちつ持たれつ。西らしいと言えば西らしい」


DUEL EPISODE 25

受身の所在〜天地を貫くもの〜


「言ってくれれば私の方から出向いたというのに」
「ご冗談を。いい店ですね、ダァーヴィットさん」
 カードショップ:ハウンドショット。ミツルは数ヶ月前に引退した決闘者の店に来ていた。ダァーヴィット・アンソニー。テイルとの決闘(デュエル)を最後に、怪我と劣化を理由として引退したEarthboundの古参。定休日の午後。2人がテーブルに着き、コーヒーを片手に会話が始まる。
「西部個人ランキング2位等という、どれだけ実体に合っていたかも分からん重荷も消えた。今となっては、どこにでもいる有り触れた店長と言うわけだ」
「西部五店長は何処にでもいませんよ」
「私と入れ替わりになったケルドの調子はどうだ?」
「全盛期の貴方と比較すれば流石に見劣りしますが、将来性は十分です」
「それではいけない。私如きは早々に抜いてしまわねば話にもならん」
「ご自分の腕前を下に見過ぎかと」
「時代には区切りがある。リュウホウ・ソガが東西南北中央交流戦で完膚無きまでに倒され、哀れみのように渡ってきた技術と人材によって西部決闘界は飛躍的に向上した。我々……今でいうところの西部五店長の台頭。しかしそれでは足りなかった。若い英雄が不足していた。そこに現れたのがおまえだ。他の五店長には悪いが、おまえに誘われたあの時、私は自分が勝ち馬に乗っていることを確信したよ。それから何年も経ち、我々も引退した。今こそおまえの時代なのだ」
「……今の言い方には語弊があるのでは。西部五店長にはまだ現役がいます」
「あいつか。FlameGearのファロはまだ引退してないな。あの女は男よりしぶとい」
「何度も手痛い目に遭わされてます」 「褒めるな褒めるな。つけあがる」
「今繰り上がりで2位ですよ」 「それだよ。引退したことを後悔したくなる」
「西部五店長と言えば、もう少し闘ってみたかった人もいますね」
「その言い方からするとアブソルか。あの人を喰ったような性格故に認めたくはないが、西部五店長の中で最強の決闘者が誰かと言えば、奴のような気がしてならんのも事実だ」
「あの人は余力を残して引退したように思えます。もし本気であれば……」
「いずれにせよ西部五店長の如きは一蹴出来ねばいかん」
「なぜそこまでご自分を卑下なさるのですか」
「言った筈だ。私はEarthboundで一番の下っ端に過ぎないと。そうでなければいけない。ミツル、私達を過去にしてくれ。たとえ全盛期であってもまるで歯が立たぬほどに。それが若者の義務だ」
 若者。新しい時代。ミツルはふと頭に思い浮かべた。女性の顔。共に銃弾と闘った決闘者。
「若者の義務。肝に銘じておきます」

                     ―― 夜の公園 ――

「はぁむぅらび!」
 人気のない公園。半ばやけくそ気味の奇声を響かせミィが決闘盤(デュエルディスク)を放る。もう何百回目になるかもわからないぐらいには投げ続けた。一向に進展しない。汗だくになったTシャツをパタパタしながらミィはテイルへの呪詛を吐く。このカード変な癖ありすぎ、もう少し投げやすいのが欲しかった……
(違う違う。自分が下手なこと棚に上げてたら。こういうのは時間がかかるってラウンドさんが言っていた。テイルさんも似たようなことを言ってた。延々と……投げ続けるしか……)
 一息付いたミィは近くにあった一番大きい木に登り始める。頂上まで付くと中々の高さ。ミィはいつもやるようにすっと飛び降りた。普通の女子中学生なら怪我をするところだが、ミィは器用に受身を取る。昔から何かに付け受身を取ってなんとかしてきた。……一向に進展しない。
「全然駄目」
 大の字に寝そべって目を瞑る。似非文学、地縛館、夜の決闘、地下決闘……記憶がぐるぐると頭を巡り、脳裏に浮かぶ最後の像は決まって少年の姿をしていた。テロ・ヘルコヴァーラではない。
「 『喰らい付くだけでは駄目。喰い千切らないと決闘には勝てない』 」
 ミィは立ち上がった。ソリティア・モード起動。
 (もや)を晴らそうとするように(いかずち)を呼ぶ。
「ライトニングゥ! ボル! テッ! クス!」
 虚空を切り裂き雲散霧消する筈だった破れかぶれの雷は、逆方向から来た雷とぶつかり合う。ミィは目を丸くした。相殺。普通の決闘ならば決してあり得ない同時魔法。靄が晴れる。何かいる。 
「さっきから横で見てたけど、むっちゃ受身上手いよね」
 女性。年齢は18〜20歳辺り。身長は170センチを少し超えるぐらい。長い黒髪を幾つかに束ねて動きやすいようにしている。締まりのない箇所がまるで見当たらない滑らかな身体のラインが目を惹いた。和らいだ表情を浮かべつつ、恒常的に隙の無い立ち方をした既知の顔。ミィは思わず叫んだ。
「アリアさん!?」
「おひさ。わたしのこと覚えてた?」
「それは……もう……忘れたことなんか……」
「なんかある度にバタンバタンしてた感じだけど、なんであんなことやってるの?」
「いや、それは、その、テスト前とか切羽詰まった時は教科書読みまくって高いところから落ちて受身を取るとなんか覚えられるっていうか。全部やってると時間なくなるから出そうなとこだけ……」
 しどろもどろになりながらミィは夢中で喋った。 真っ先に聞くべき事を聞き返す余裕もない。一方のアリアは極々自然な調子で応答した。半年前の続きのように。
「ちょっとわかるかも。うん、わたしも大昔似たようなことなら良くやってた」
「アリアさんも? 木の上から落ちて受身取ってたんですか! お仲間なんですか!」 
「わたしの場合は崖だったけどね。懐かしいなあ。7歳の頃、お母さんに連れられてキリング高地に行ったんだっけ。最初は軽く50メートルぐらいの崖から突き落とされて。テストの役に立った記憶はないけど、決闘者としての下地作りってことで何度も何度も転がったっけ」
「崖ですか。わたしなんてまだまだですね」 ここまでで3分経過 「そんなことないって。ミィのは転がるどころか落ちてるんだから難易度高いよ」 会話してる間に 「そうなんですか? 子供の頃からやってるから難しいのかどうかよくわかんないかも」 段々と冷静になってくる 「ああでもほんと……」 ミィが  「……ってなんでここにいるんですか!」 冷静な判断能力を取り戻す。
「コロがさ、色々話してくれるの。それで、聞けば聞く程ありりってなってそれで……」
 回収した筈の冷静な判断能力がもう一度何処かへ飛んでいきそうになる。
(そういえばコロ、お姉さんのことちょろっと言っていたような。そんなこと)
 混乱に次ぐ混乱。ミィは1回深呼吸すると、顔の緊張を解いて頬を緩める。
 軽く微笑んだ。
「世間って結構狭いんですね」
「そうかもね。おかげでまた会えたけど」
「あの時は本当にありがとうございました」
「コロたちと仲良くしてもらってるんだって?」
「はい。まあ、ちょっと、色々あって……。あ、そういえば、アリアさんが決闘者だってこと、コロちゃん全然言ってなかった。言ってくれればすぐ気付けたのに」
「コロたちには言ってなかったからね。決闘者やめてたから」
「やめてた? あんなに決闘上手いのにやめてたんですか?」
「テイルの所為で気が付いたらまたやってた……なんて、人の所為にしちゃいけないね。遅かれ早かれこうなってたんだと今は思う。発情期の兎みたいに決闘が好きだから。ミィは決闘好き?」
「大好きです! あの時の《ライトニング・ボルテックス》をお手本に練習しまくって、そしたらなんかの拍子に上手くいって、魔法使いみたいで超嬉しくて……あ、でも……」
 ミィが伏し目がちに目線を逸らす。アリアは腰を少し曲げてから目線を下げると、膝に手を当てて 「んー」 と柔らかい唇をすぼめた。 「よし!」 ぱんと一回手を叩く。 
「あっちのベンチに座ろっか」

「デッキ内容はちょこちょこ変わってるけど大筋は一年前と変わってないと」
 ベンチに座ると、アリアはミィから受け取ったデッキをまじまじと眺める。
「もっともっと強くなりたいけど、どうしていいか全然わかんなくて……」
「あれ、アブオロス残ってる。まずはこれ抜いたらいいんじゃ……」
「抜きません」 「え? いや、でも、これ……」 「抜きません」
 アリアは一瞬戸惑ったが 「うん、頑張れ」 と激励するに留める。
「そっか。そういえばあの夜も、アブロオロスで頑張ってたもんね」
「あの夜?」
「あ、やべ」
「あの夜……アブロオロス……跳腕のウエストツイスト……それってもしかして……あのむっちゃ強かった変態仮面さん! あの変態仮面さんってアリアさんだったんですか!?」
「えっと、その、多分思い浮かべたので合ってるんじゃないかな。変態じゃないけど」
「そういえば誰かがが言ってたような。あの時、わけわかんないスピードでわたしを助けてくれた人もあの変態仮面さんだったって。なんだ。2回もアリアさんに助けられてたんだ、わたし……」
「うん、まあ、そういう……変態じゃないけど……」
「あれ? 投盤フォームはその場で変えてたんだろうけど……、右利きでやってませんでした? 一年前わたしを助けてくれた時、わたしの左利き用をちゃんと左手で投げてたのに……」
「両利きだから。はは、あんときはバレないか冷や冷やしてた」
「本当に世間って狭いんですね。夜道によくいる変態さんの1人だと思ってました」
 ミィは、あの異様に強かったレオタードスタイルの変態的勇姿を脳裏にありありと描く。
「ミィの悩みって具体的にどんな感じ? 非ィ変態なお姉さんに聞かせてくれないかな」
「あ、そうだ。今は変態のことより自分のことですよね。あの、その……」

 ミィは膝に手を置くと、拳をぎゅっと握りしめたまま自分の中にある悩みを1つずつ告白していった。
「えっと、わたしのコーチ、ラウンドさんって言うんですけど、この前の大会で対戦した人に 『おまえはジャック・A・ラウンドの下位互換だ』 って言われちゃったんです。今までそういうこと全然考えたことなくて。ラウンドさんは無茶苦茶上手いし、少しでも近づけるなら……って思ってたんです。なのに……ラウンドさんはラウンドさんで 『おれを真似るのはもうやめろ』 って言うし……わかんなくて……」
「そのコーチさんは多分、個性を活かして決闘しろって言ってるんだと思う」
「わたしに個性なんて……。アリアさんはそういうことないですよね。強いから」
「んーと、下位互換。難しい問題かも。わたしのお母さんは、わたしにお母さんの上位互換になって欲しかった……んだと思う。 『私になりなさい。私を超えなさい』 が口癖だったし」
「お母さんも……決闘者だったんですか?」
「最初のお母さんはね。結局わたしはお母さんを継げなかった。出来損ないだったから。指導を受けたのは生まれてから今日までの半分くらい。本当はまだまだ一杯教えようとしてたんだと思う。わたしはお母さんにはなれない。それでももう半分生きて、やっぱり決闘が好きなんだってわかったから、もう止まれそうにない。わたしもミィと同じかも。お母さんの敷いたレールの上を走ってた時と違って今は何から始めればいいのかよくわかんない。自分のことがよくわかんなくて、自分の決闘もよくわかってなくて、霧の中を一歩一歩前に進んで道に迷ったりぐるぐる回ったりしてる」
「アリアさんでも悩むんですね。わたしじゃ……」
 ミィは膝の上に置いた手をぎゅっと握った。
 アリアは、そんなミィに対して優しく言った。
「大丈夫」


                  ―― 夜の街路 ――

「大会前に引退したOBの話を聞く。ミツル・アマギリの休日の過ごし方としては悪くない」
 ハウンドショットからの帰り道。冷やかし混じりの声が影の中から耳に響く。
 ミツルはふっと溜息を付いた。
「気の利いた休日の過ごし方を実践して欲しいなら、もう少し友人らしく振る舞ってくれ」
「これでもおまえ寄りの価値判断をしている筈だが。おまえの無茶を何度止めようと思ったか」
「それについては感謝している。それはそれとしてもう少しマシな付き添い方はないのか。談笑の間、天井に張り付いて茶をすする友人がどこにいる」
「四六時中付き添っていられるわけではない。もし目に見える形で付き添っていれば、いなくなる瞬間を狙われる。それとなく護衛がいると噂を流した上で、姿を隠していれば牽制になるということだ。そんなことより何か収穫はあったのか? 最近物思いに耽ることが多いようだが」
「……次の大会、どうみる」 ミツルは影に話題を振った。影は淡々と答えを返す。
「現状最大の敵はTeam FlameGear。日を追うごとに力を付けている。Team Galaxyは内紛で弱体化したから敵ではない。逆に怖いのはTeam Mistvalley。あの男も出てくる」
「ライアル・スプリット。コンディションに不安を抱えがちだが、もし全力勝負ともなれば……」
「後はテイルとラウンドがいるTeam BURSTだが、あの2人だけでは決め手に欠けるか」
「次の大会は、誰が一番強いかよりも誰が一番強くなったかが決め手になるかもしれない」
「レザールやケルドが順調に腕を上げている。フェルティーヌも怪我を治して戻ってきた。フェルティーヌは新型を使わんだろうが、いるならいるで使い道はある。その条件でも問題はない筈だ」
「かもな。いずれにせよ全体のレベルが向上すれば今まで使いやすかったカードが逆に足を引っ張ることもある。調整は念入りに行わなければならない。いつ何が起こってもいいように ―― 」
「……!」 「……っ!」
 会話を断ち切る強引な割り込み。ミツルを鞭のようなものが襲った。突然の奇襲。一流はかわしながら考えるとばかりに後ろに飛び退いてかわす。飛んできた方角を確認。誰かがいる。
「流石は西部一の使い手。軽々と躱されてしまいました」
「何者だ」 問いを発したミツルは自ら相手の異様さに気づく。強ばっているような、和らいでいるような、手を伸ばせば届く距離にいるかのような、はたまた無限遠の彼方にいるかのような、何一つはっきりしない印象。誰でもあるようであり、誰でもないかのような表情。彼は己をこう評す。
「この世の切れ端のようなものです。御二方、ご準備ください」
 突然翼を展開する。不可思議な光景ではあったが謎はすぐに解けた。OZONEの申請。ウイング型デュエルディスク "決闘翼盤(ソニック・エッジ)" が悠然と翼を広げている。
「この決闘翼盤(ソニック・エッジ)ならば1VS2もこなせます。もう1人いらっしゃるのでしょう?」
「リミッツ、タッグデュエルだ。デッキパターンはタッグ用のノーマルセッティングでいく」
 ミツルの命を受け、それまで姿を隠していた1人の男が、まるでミツルの影の中から浮かび上がるかのように姿をみせる。Team Earthboundレギュラー・潜行のリミッツ。
「ミツル、電波妨害が行われている。ここは一旦退くべきだ」
「他に誰かいる気配はない、か。我が侭に付き合ってくれ」
 ミツルは、目の前の男に再度問いかける。
「もう1つ質問させてくれ。どこから来た」
「 "どこにでもいる男" を自負しておりますが」
 襲撃者は、両腕を広げて包むように言った。
「強いて言うなら "世界" です」

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Technological Card Duel!


 投盤の瞬間、違和感が頭をよぎる。気配。どこか懐かしい気配。決闘を承諾に至らせた気配。妙。記憶のどこを探ってもあのような知り合いはいない。ミツルははっとした。襲撃者が、こちらの興味を惹くような気配を身体の節々に仕込んでいたとしたら。時既に遅し。決闘盤は放られていた。若干中途半端なスローイング。軽々と弾かれる決闘満盤。後攻。ほんの一瞬、嫌な予感が頭をよぎる。今の一投が致命傷になるのではないか。そんな危うささえ ――

                    ―― 夜の公園 ――

「だい……じょう……ぶ……?」
「ミィのコーチはできる人だね。こうしてミィをみてると大体わかる。ちゃんと力はミィの中にある」
「力?」 ミィが目をぱちくりとさせる。拳を解いて、掌をじっと見つめながら話を聞いた。
「ミィの身体はあの時よりしっかりしてるよ。立ち向かう為の力がミィの中にはある」
「わたしの中に……」 「ちょっと物陰からみてたけど、立ち方からして全然違うしね」
(これがよく聞くキソリョクってやつ? ラウンドさん……)
「それにさ、ミィはちゃんとわかってる。わかってるから飛び降りた。わたしの崖下りはお母さんからの受け売りだけどミィは自分で考えついた。決闘者の力は指向性のある力。ただ振り回すだけじゃなくてどこかに辿り着く為の力じゃないと。地球の重力はそれを知るにうってつけ。5歳の頃最初に言われた時は何が何だかわからなかったけど、今考えてみるとそんなに難しいことじゃない。人間が引力(グラビテーション)に縛られるように、決闘者も引力(ドロー)に縛られる。大きな枠の中に押さえつけようという力がまずあって、抵抗したり逆に利用したりする力がわたしたちの中にはある。その為の基礎練。基礎が出来てるなら応用にもいける。ルール、カード、コンボ、デッキ、タクティクス、ストラテジー……力を知るのが決闘者の基礎なら、力を自分で動かしてモノにしていくのが応用」
「力を動かす……。そういうのがすん〜ごく上手い人を、1人身近に知ってます」
「1人で考えるのもいいけど、折角チームがあるなら頼ってみてもいいかも」
「あの人は、頼らせてはくれないと思います。けど……」 「けど……?」
「食らい付くのはわたしの得意分野だから。一回食らい付いてみます」
「その意気その意気。決闘者なんて、ひっくり返してなんぼだよ、きっと」

                     ―― 夜の決闘 ――

 襲撃者は決闘盤という名の翼を左右に生やしていた。ミツルの対岸に向けて伸びるライトウイング。リミッツの対岸に向けて伸びるレフトウイング。両翼の上空にはもう4枚の翼が広がっていた。ミツルとリミッツはほんの少し顎を上げて空を仰ぐ。天を泳ぐは龍の翼。9ターン目。ミツルがカードを引く。
「ライトウイングとの間にチェーンラインを張り、フィールド魔法:《同種同源》発動。墓地から《クリッター》を除外し、悪魔族のサクリファイス・トークン1体を展開……《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚」
 破壊ではなく除外。重力波が歪曲することで生み出される暗黒空間。除外の対象となったのは、裏五竜の中にあって最も流通しており、拠点防衛に優れた1体。光属性:《閃b竜 スターダスト》。

閃b竜スターダスト(シンクロ・効果モンスター)
星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。


「ならば」 襲撃者が動いた。フィールド上に置かれた "重要な何か" に防御膜を張る。
「レフトウイングから飛翔した《閃b竜 スターダスト》の効果発動。自身の除外は防げずとも」
「《タイムカプセル》を守るか。……バトルフェイズ、《邪帝ガイウス》で攻撃。《禁じられた聖杯》を発動」
 ここぞとばかりに強化を付ける。グラビティ・オーラを拳に纏って突進。戦闘の対象となったのは、表五竜の中にあって最も有名であり、広域防衛に優れた1体。風属性:《スターダスト・ドラゴン》。

スターダスト・ドラゴン(シンクロ・効果モンスター)
星8/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚できる。


「残念無念。レフトウイング:《閃b竜スターダスト》の効果では、ライトウイング:《スターダスト・ドラゴン》は守れない。終わりですか? それではレフトウイング・ドロー……」
 闇夜の襲撃者は、モンスターを1枚、マジック・トラップを2枚セットしてターンエンド。襲撃という行為とは裏腹に守勢を強いられる。 「ドロー」 ミツルの鋭い攻めを受け、退いた隙を見逃さずリミッツが仕掛けた。無音投盤術(サイレント・スローイング)の使い手が、淡々とフィールド上に戦果を刻む。
「《氷結界の水影》を通常召喚。効果適用。ダイレクトアタック」
 (しのび)の一閃。氷結の刃が襲撃者を斬る。

氷結界の水影(チューナー・効果モンスター)
星2/水属性/水族/攻1200/守 800
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターがレベル2以下のモンスターのみの場合、
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。


Turn 13
■12100LP
□15400LP
■ライトウイング
 Hand 6
 Monster 1(《ヘル・セキュリティ》:C)
 Magic・Trap 1(セット)
□ミツル
 Hand 5
 Monster 1(《邪帝ガイウス》)
 Magic・Trap 1(《同種同源》)
■レフトウイング
 Hand 2
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 3(《タイムカプセル》/セット/セット)
□リミッツ
 Hand 4
 Monster 1(《氷結界の水影》)
 Magic・Trap 2(セット/セット)

(若干優勢) ミツルは襲撃者の輪郭を伺う。
(しかし、おれの勘が正しければこれは……)

「ライトウイング・ドロー。……さてさて、そろそろおいおい……」
 曖昧だった輪郭が一瞬浮かび上がる。埒外からの襲撃によって。
「始めましょうか! エクストラデッキから2枚目の《スターダスト・ドラゴン》を除外」
 ミツルが目を細めた。堅く閉じられた唇の裏で、あらゆる可能性を検討する。
(エクストラデッキのカードをコストに? 除外召喚の一種? これは……)
「《Sin スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚」

Sin スターダスト・ドラゴン(効果モンスター)
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
Text Error

 龍。ライトウイングから繰り出された《スターダスト・ドラゴン》、及び、レフトウイングから繰り出された《閃b竜 スターダスト》同様、スターダスト・ドラゴンの系譜を踏んでいるのは一目瞭然。
 ミツルは決闘盤を確認した。OZONEを通じた同調によりテキストを読み取ろうとする。
 あったのは一言。
  "Text Error" ミツルは顔をしかめた。
(電波妨害の次は同調妨害。勝利を得る為の卑劣な手段。そう考えるのは容易いが)
「おまえはどうも、普通の決闘者ではないらしい」
「お喜び頂き光栄至極に存じ上げます」
「フィールド魔法か」 「これはこれは」
「エクストラから《スターダスト・ドラゴン》を除外するだけで攻撃力2500が現れるのは妙だ。何かしら維持条件があるとみた。こちらがフィールド魔法を張ったのを見てから……」
「流石は地縛神の使い手ミツル・アマギリ。その通りです。これが新規開発のSINモンスター。壁を透過する術を持たず、単騎攻撃を強いられる故、地縛神よりも攻撃能力では劣りますが……何より軽い。SINモンスターはそのほとんどが天翔る龍の姿をしています。もっとも、土地に縛られる哀れな存在であることに変わりはありませんが。まるでどこかの……」
「御託はいい。さっさとそいつでかかってこい」
「断じて……お断りします!」 襲撃者が声を張り上げた。嘲笑うような調子で言い放つ。
「地にしがみつくなど真っ平御免。《アドバンスドロー》を発動。地に縛られし哀れな《Sin スターダスト・ドラゴン》を墓地に送ることでツゥ・ドロー。羽根は大地のオブジェではありません。自由に大空を飛ぶ為のもの。通常魔法《星屑のきらめき》を発動。墓地に送った《Sin スターダスト・ドラゴン》を除外することで、同じレベルのドラゴン族シンクロモンスター、《スターダスト・ドラゴン》を再び飛翔させます。さて、こちらも使わせて頂きましょうか。《同種同源》を起動。墓地から《デブリ・ドラゴン》を除外することで、ドラゴン族のサクリファイス・トークンを展開。更にチューナーを通常召喚。……では飛びましょう」
 龍の申し子達が空中で縦一列に並ぶや否や、光の道が大空へと続き、龍の群れが白い光となって天空へと消える。向かう先は唯一つ、命を失った空っぽの死骸が転がるエクストラゾーン。モンスターの血液とも言うべきレベルを抜き出し輸血=同調することで、彼らは今一度命を受け入れ魂を震わせる。召喚師は戦力を、死骸は命と魂を。
同調召喚(シンクロ・サモン)



Saver Star Dragon

Attack Point:3800

Defense Point:3000

Special Skill:Sublimation Drain



(《ギブ&テイク》!?)

ギブ&アンドテイク(通常罠)
自分の墓地に存在するモンスター1体を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚し、そのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上げる。


(守備表示の《カードガンナー》をこちらに……奴の狙いはあれか)
「《セイヴァー・スター・ドラゴン》の効果。 "サブリメイション・ドレイン"。 《カードガンナー》の効果を獲得。デッキトップから3枚を墓地に送り、その攻撃力は5300まで上昇。バトルフェイズ!」
 見惚れるほど美しい流線型のボディ。内側から漏れ出すのは膨大な光がミツルを照らす。
(下手に刺激しようものならスターダスト・フォースを喰らう。これが奴の……)
 スターダスト・シリーズの中でも一撃離脱に特化した《セイヴァー・スター・ドラゴン》の特攻は触れるもの全てを吹き飛ばす。シューティング・ブラスター・ソニック。
 《邪帝ガイウス》の土手っ腹に穴が空く。

???????:11500LP
ミツル&リミッツ:12500LP

セイヴァー・スター・ドラゴン(シンクロ・効果モンスター)
星10/風属性/ドラゴン族/攻3800/守3000
「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+「スターダスト・ドラゴン」+チューナー以外のモンスター1体:相手が魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし、相手フィールド上のカードを全て破壊する。1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、その効果をエンドフェイズ時まで無効にできる。また、この効果で無効にしたモンスターに記された効果を、このターンこのカードの効果として1度だけ発動できる。エンドフェイズ時、このカードをエクストラデッキに戻し、自分の墓地の「スターダスト・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。


「マジック・トラップを2枚セットしてエンドフェイズ、《セイヴァー・スター・ドラゴン》をエクストラデッキに戻し、墓地から《スターダスト・ドラゴン》を再度特殊召喚。ライトウイングはこれにてターンエンド」
「ドロー。もらった《カードガンナー》の効果発動。デッキトップから3枚を墓地に送る」
(勘が正しければ、奴は自分のデッキにフィールド魔法を入れてはいない。対策どうこうというよりは挑発の一種に映る) ミツルは襲撃者のフィールドを一瞥、最善のプレイングを模索した。 (セットは4枚。攻撃札か防御札かでこの後の展開が変わる。……敢えて飛び込む、それも一興か)
 ミツルが合図のような視線を送ると、リミッツは《As-八汰烏の埋蔵金》を発動。アシストスペルの援護を受け、1枚引いたミツルが悪漢討伐に向けて動く。決闘盤(デュエルディスク)にオーラを、決闘宝珠(デュエルオーブ)にライフを注いで投盤&発動。決闘盤から《ダーク・リゾネーター》を、《簡易融合》から《バロックス》を引き出す。合計レベルは8。シンクロ・サモン……決闘盤から闇の龍が浮上する。
「《ダークエンド・ドラゴン》をシンクロ召喚。効果発動。《スターダスト・ドラゴン》を墓地に」
 かざした右手が微かに揺れる。藪から蛇。天から龍。襲撃者はこの展開を待っていた。
「貴方は完璧だった。この西部に目映いまでの栄光を築き上げたのだから。レフトウイングから《AS-アシスト・アタック》を発動。《スターダスト・ドラゴン》をライトウイングから逃がす」

AS-アシストアタック速攻魔法)
パートナーのフィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動できる。このターンのエンドフェイズまで、選択したモンスターのコントロールを得る


「As(アシスト・スペル)の中でも代表的な1枚。相棒のしもべを一時的に借用する呪文の用途は、何も攻撃ばかりとは限りません。タッグデュエルにおいて自分(=プレイヤー)と相棒(=パートナー)のフィールドは別々です。そう、《ダークエンド・ドラゴン》の効果は、貴方がチェーンラインを結んだライトウイング・フィールドに標的がいなければ何の意味もありません。さあどうされますか」
「効果を使用した《ダークエンド・ドラゴン》の攻撃力は2100まで下がる。1枚伏せてエンドフェイズ」
「この瞬間をお待ちしておりました! リバースカードオープン!」
 謎の男が掌を天空へ突き出した瞬間、フィールド上に光の柱が立ち上る。《スターダスト・ドラゴン》が光の中に飲み込まれるや否や、華奢であったその肉体が膨張していく。如何なる砲撃を受けようとも決して堕ちることなく迎撃任務を続行する重装甲高火力の一機。強襲制圧の使命を帯びる。
「強襲召喚(バスター・サモン)」



Stardust Dragon/Buster

Attack Point:3000

Defense Point:2500

Special Skill:Buster Sonic



(アシストアタックはこの為の布石。レフトウイングに転移したスターダストをバスターモードで強化。1ターンで元に戻るセイヴァーの刹那的な特性を利用したのか。この男の投盤技術は……)
「レフトウイング・ドロー。《タイムカプセル》のターンカウントを1つ進めます。的が多くて目移りするところですが、ひとまずダークエンドには消えてもらいましょう。……アサルト・ソニック・バーン!」
 武装龍の口から衝撃波が放たれ、闇龍を一瞬にして貫く。

???????11500:LP
ミツル&リミッツ:10600LP

スターダスト・ドラゴン/バスター(効果モンスター)
星10/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚する事ができる。魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。また、フィールド上に存在するこのカードが破壊された時、自分の墓地に存在する「スターダスト・ドラゴン」1体を特殊召喚する事ができる。


「マジック・トラップを1枚セット。ミツル・アマギリ。資産家の息子として生まれ、幼少期は両親の元で何不自由なく過ごし、少年期は天地咬渦狗流師範を初めとした数多くの厳格な師の元で素養を高め、若くしてEarthboundのエースとなり、キャプテンとなり、ヒーローとなり……素晴らしいご経歴」
 ほんの一瞬だが、ミツルの表情にミリ単位の変化が現れる。特に遠慮することなく男は続けた。
「地位・名誉・人格・能力・容姿……貴方を嫌うものですら、貴方がこの西において完璧な存在であることを認めざるを得ない。この10年程の西の発展は、貴方を抜きにしては有り得なかった。貴方は象徴でした。貴方に憧れた人間が、貴方に勇気づけられた人間が、貴方に惚れ抜いた人間が、或いは貴方を目標とした人間がどれだけいることやら。そう、西は貴方を抜きにしては有り得なかった。しかし一方でこう考えることも出来ます。貴方という存在は、西を抜きにしては成立しなかった……」

「不毛な決闘だ」 リミッツが口を挟んだ。 「ミツルはおまえほど暇じゃない」
「これはこれはリミッツ様。ミツル様にスポットライトが当たる一方、貴方は影の内から外堀を埋めてきた。巨大極まる地縛神は嫌でも目立つと滅多に使わず、ミツル様の為に……」
「ミツルなら放っておいても全一になっていた。影の仕事は……」
「仕事とは?」 「ミツルに纏わり付く胡散臭い輩を早々に始末する。それで十分」
 リミッツがカードを引く。《鬼ガエル》を特殊召喚。効果発動。デッキから《粋カエル》を墓地に送る。続けざまに《粋カエル》の効果を発動。墓地の《裏ガエル》を除外して特殊召喚。
「水影、黄ガエル、粋カエルの3体でオーバーレイ」
 モンスターゾーンを囲い込むかの如く大地に魔方陣が浮かび上がり、影の従者達が黒い光となって吸い込まれていく。向かう先は、今か今かと闘いを待ち望む傭兵達が集う場所、エクストラゾーン。魔方陣の中に吸い込まれたモンスターが個性を失い弾丸となることで、彼らはその能力を十全に引き出された状態で戦場に躍り出る。召喚師は戦力を、傭兵は弾丸と戦場を。
装填召喚(エクシーズ・サモン)
 異形。影の中より現れたそれは、巨大な頭蓋から四肢と尻尾が鋭く伸びたようなフォルムを有していた。本来、腹と呼ばれるべき箇所は捕食者の如き大きな牙を生やし、胸と呼ばれる筈の箇所には燈色の(まなこ)が怨嗟の炎を燃やしている。全身黒一色の暗殺者。



Black Mist

Attack Point:100

Defense Point:1000

Special Skill:Shadow Gain



「バトルフェイズ、攻撃と同時に効果発動。攻撃力で100上回り、バスターダストを狩る」
「必要最小限の力で任務を遂行する暗殺向きの妙技。しかし残念! 自前の攻撃力に自信を持てない時点で貴方に勝機はない。《スターダスト・ドラゴン/バスター》の効果発動」
 墓地への回避と墓地からの砲撃をほぼ同時に行う新手のSearch&Destroy。曰く、バスター・ソニック。 「それだ」 リミッツはその瞬間を待っていた。既に潜行させておいた1枚をカウンター・リバース。《ギョッ!》を発動。除外されている自分の魚族・海竜族・水族モンスター1体:《裏ガエル》をデッキに戻すことを条件に、効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。
「スターダスト最大の特性はヴィクテム・サンクチュアリ。その瞬間こそが最大の弱点でもある」
 リミッツは、攻撃力100の《No.96 ブラック・ミスト》で申し訳程度に一発殴っておくと、トラップを2枚伏せて迎撃態勢を取る。《激流葬》ともう1枚のトラップ。
「珍品の展示会なら余所でやれ。ミツル、様子見はもういい。片を付けろ」
「ああ。そうしたいところだが、向こうは向こうでまだ底を見せていない」
 ミツルの指摘を受け、襲撃者の輪郭が徐々に浮かび上がってくる。
「そろそろ両翼を使いましょうか」

No96 ブラック・ミスト(エクシーズ・効果モンスター)
ランク2/闇属性/悪魔族/攻 100/守1000
レベル2モンスター×3:このカードが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その相手モンスターの攻撃力を半分にし、このカードの攻撃力はその数値分アップする。


Turn 17
■11400LP
□10600LP
■ライトウイング
 Hand 3
 Monster (《ヘル・セキュリティ》:C)
 Magic・Trap 2(セット/セット)
□ミツル
 Hand 4
 Monster 1(《カードガンナー》)
 Magic・Trap 2(セット/《同種同源》
■レフトウイング
 Hand 2
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 2(《タイムカプセル》/セット)
□リミッツ
 Hand 2
 Monster 1(《No.96 ブラック・ミスト》)
 Magic・Trap 2(セット/セット)

「ライトウィング・ドロー。……そもそも1人8000ずつ削る義務はありません。タッグデュエルにおいて、主であるミツル様は普段よりもやや攻撃重視、従であるリミッツ様は普段よりもやや守備重視と聞きました。ならばこうも言えます。リミッツ様の守備を封じれば、ミツル様に攻撃を当てるのは普段よりも容易い。……カウンター・トラップはもう結構。レフトウイング・リバース、リミッツ様との間にチェーンラインを結び《トラップ・スタン》を発動。トラップの効果を無効に」
 ミツルとリミッツが身構える中、襲撃者が徐々に本性を現していく。
「ライトウイングからの《セイヴァー・スター・ドラゴン》! レフトウイングからの《スターダスト・ドラゴン/バスター》! ……片翼ずつではご満足頂けない様子。ならば!」 
「……っ!」 "決闘翼盤(ソニック・エッジ)" が不気味に跳ね上がり、襲撃者が深淵を抉り出す。
「貴方の器は素晴らしい。貴方なら、もっと広い世界で活躍する未来も選択できたでしょうに。それは困難を伴う道ではあります。きっと今よりもご苦労されることでしょう。しかし、貴方は困難を厭う人間には見えません。かつての東西南北中央交流戦。貴方は西の人間としては初めて勝利を挙げました。素晴らしい快挙です。にも関わらず! にも関わらず! それにも関わらず! 西の皆様のほとんどがその件をあまりよく知ってはいないご様子。何故でしょうか。活躍ではいけないのでしょうか。最強でなくては許されないのでしょうか。貴方が西の英雄として過ごしたこの10年の間……」
「おまえは喋りすぎだ」 地が軋んだ。西の大地と接続したミツルが威を放つ。
「決闘はクイズ番組でもトーク番組でもない。言いたいことは決闘で語れ」
「なるほど。ごもっとも」
「改めて。名前を聞いておこう」
「小生、名乗るほどの者でもありませんが、敢えて固有名詞でお呼びしたいとあらば "GT-NEO" とでも名乗っておきましょうか。さて、不肖の身ながら1つ2つ御披露しましょう。地に縛られた英雄にお届けする、天をも超える決闘というものを。小生の……特殊効果を発動!」
 背中の両翼が6枚に増えたのは序の口でしかなかった。花が咲き乱れるかのように、あるいは触手でも伸ばすかのように。第3、第4、第5、第6の腕が伸びる。
「ミツル、あの男の決闘は……」  「腕自慢にも限度がある」
 総勢6本。更に! 3つの声がフィールド上に響き渡る。
「しからば!」 「天の名の下に!」 「地の果てを越えていく!」
 襲撃者が遂にその決闘を露わにした。高度に入り交じった三組の腕が決闘を織り上げる時、同時多発的な超高速コンビネーションが新たな衝撃波を紡ぎ出す。
それこそが、どこにでもいる有り触れた決闘紳士!

我々のコンボは神速を尊ぶ! 決して退屈はさせません!

手札断殺 ゾンビキャリアとD−HERO ディアボリックガイを墓地に

ディアボリックガイの効果発動 デッキから同名Bを喚びシャッフル!

サイバー・ヴァリー:Aを通常召喚 通常魔法:機械複製術を発動

サイバー・ヴァリー:B サイバー・ヴァリー:Cを喚び同じくシャッフル!

サモンシャッフルの次は ドローの華を咲かせて御覧に入れましょう

ヘル・セキュリティ:Cで サイバー・ヴァリー:Bにチューニング

フォーミュラ・シンクロンをシンクロ召喚 効果発動 デッキからワン・ドロー!

ブースト・ウォリアーを特殊召喚 サイバー・ヴァリー:Aの第2効果発動

ブースト・ヴァリーを除外することで デッキからツゥ・ドロー!

リバース・カード・ダブル・オープン ゴブリンのやりくり上手:A&B

デッキからスリィ・ドロー・アンド・ツゥ・デック・ボトム!


「なんというコンボスピード」 「三組の腕で三乗の衝撃波。これほどのテクニシャンとは」

前菜のシャッフル&ドローは如何でしたか

ここからはぁっ!


メインディッシュを 世界を盛りつけるにふさわしい皿を御用意しましょう

永続魔法 "天変地異" 天は地を見下ろし! 地は天を仰ぎ見る……デッキ反転!

スターライト・ヴァリーを除外することで サイバー・ヴァリー:Cの第3効果発動

地の底に眠りしヘル・セキュリティ:Bを 地の底より浮上したデッキトップに

ダーク・バーストでヘル・セキュリティ:Aを回収 ゾンビキャリアの効果発動

ヘル・セキュリティ:Cをデッキトップに置き ディアボリックガイにチューニング!

天翔る守護龍(スターダスト・ドラゴン)よ! 音速の調律師(フォーミュラ・シンクロン)よ! 今こそ新たな光路を 光路をぉっ!

「小生の特殊効果を発動……ブースト・オン!」
「まさか……。両翼を使って飛ぶ気か」
「そのまさかでございます!」
 背中に2枚の決闘翼盤(ソニック・エッジ)を装着した決闘紳士はブースターを点火。重力を跳ね返すような加速で上昇していく。10メートル、20メートル、50メートル、100メートル……視界から消え天を超えていく。
「本当に空を飛んでいくとは。リミッツ、おまえならこういう時どうする」
「六本腕の時点でルールもクソもない。回れ右して家に帰るというのは」
「採用したいところだが……来るぞ!」
 ミツルは身構えた。何かが落下してくる。
 隕石か? 違う。コアラか? それも違う。
「あれは……龍……」
「天に羽ばたくことで!」
「引力さえ武器となる!」
「天より御覧に入れましょう!」
「これぞ!」 「これぞ!」 「これぞ!」



Accel Synchro Acceleration !

Go ! Shooting Star Dragon !



「直列進化を天に描いた同調召喚(シンクロ・サモン)。これが垂直落下式アクセルシンクロ! これこそが音速龍《シューティング・スター・ドラゴン》! 至高の絨毯爆撃を御覧に入れましょう!」
「《シューティング・スター・ドラゴン》!」 「《スターダスト・ドラゴン》の進化形か」
 羽化を果たした音速の龍は地面衝突すれすれで頭を上げて滑空。
 どこからともなく声が響く。
「音速龍の効果。デッキトップから5枚を捲り、チューナーの数だけ攻撃を!」
(これが奴の技)  (ゴブリンのやりくり上手) (2枚) (デッキボトム) (天変地異) (デッキの反転) (デッキトップ) (ヴァリー) (ゾンビキャリア) (4枚積んだ) (躱しきれない) (喰らう)
 地が天に、ボトムがトップに引き上げられることで生み出された驚天動地。天地合算のダイナミズムのもとで音速の龍が分身し、衝撃波という実体を伴ってミツルの身体に触れる。
(1発……2発……3発……4発……耐えきっ……なに!?)
 ミツルの身体が宙を舞い OZONEに嗤い声が響き渡る。
「HA HA HA HA HA HA HA HA! Duel is Beautiful!」



Shooting Star Dragon

Full Performance Attack

四つの虚像、一つの真実(スターダスト・ミラージュ)



 衝撃波。OZONE内部で発生し、決闘の一挙一動を形作る衝撃波が、高度化した決闘に呼応して牙を剥く。決闘紳士の技は恐るべき衝撃波を帯びていた。跳ね飛ばされたミツルはその先に立っていた電柱に激突。一方、砂埃の中から現れる1人の男。決闘紳士が錐揉み回転と共に上昇し、電柱の天辺に立つ。輪郭はこの上なくはっきりとしていた。嫌が応にも目立つシルクハット。ステッキの柄に両手を重ね、紅の閃光を放つ非人間的な眼球が倒れし者を見下ろしている。空間を貫く紳士の烈声。
「天を地に送り! 地を天に返し!
 天地神妙に誇るべきデッキの名は……
 そう! 【天変万化(コンヴァルジョン・ミラージュ)】!
 虚実を愛する小生上々のお気に入り 堪能して頂けましたか ? 」
 ミツル・アマギリは気を失ってはいなかった。彼一流の意志の強度と、彼一流の肉体の練度が倒れたままであることを許さない。ふらふらとではあるが立ち上がり、天を見上げて呟いた。
「待て、リミッツ……」
 決闘紳士の背後。潜行していたリミッツの手が止まる。
「これはこれは。暗殺とは。これもEarthboundの戦法の内ですか」
「おまえはまだこれが決闘のつもりでいるのか。とぼけられるとでも」
 ミツルもその意を汲んではいたが、尚もリミッツを静止する。
「借りは決闘で返そう。幸い、こちらにはおれとおまえの2人がいる」
 リミッツが持ち場に戻ると決闘紳士はフィールドを眺めた。軽く口角を上げる。まるで蟲の如く、六本の足を生やした悲憤の悪鬼が夜のフィールドに蠢いていた。それも2体。

トラゴエディア(効果モンスター)
星10/闇属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
自分が戦闘ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の枚数×600ポイントアップする。
1ターンに1度、手札のモンスター1体を墓地へ送る事でそのモンスターと同じレベルの
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択してコントロールを得る。
また、1ターンに1度、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択し、
このカードのレベルをエンドフェイズ時まで、選択したモンスターと同じレベルにする事ができる


「《トラゴエディア》? 一度に2体? ああ、なるほど。タッグ特有の現象ですか。ミツル様とリミッツ様が1体ずつ……モンスター・ディスパーチ。アシストスペルと双璧をなすタッグデュエルの連携要素。リミッツ様の得意技でしたね。しかし、こちらはこちらで《カードガンナー》の効果が既に発動しています。《天変地異》の効果で露わになった、《スターダスト・ファントム》を手札に加えていることをお忘れなく」
 決闘紳士は《タイムカプセル》を一瞥すると、嬉々としてターンエンドを宣言する。
「後がつかえている以上、音速龍の1つや2つ攻略して貰わねば困ります。さあ……」
 三者の視線がミツルの、晒されたデッキトップ上で交錯する。
「お引きなさい。地の底に眠っていた地縛神をお引きなさい」

決闘紳士 GT-NEO:11400LP
ミツル&リミッツ:700LP

シューティング・スター・ドラゴン(シンクロ・効果モンスター)
星10/風属性/ドラゴン族/攻3300/守2500
シンクロモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」:以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ使用できる。
●自分のデッキの上からカードを5枚めくる。このターンこのカードはその中のチューナーの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。その後めくったカードをデッキに戻してシャッフルする。
●フィールド上のカードを破壊する効果が発動した時、その効果を無効にし破壊する事ができる。
●相手モンスターの攻撃宣言時、このカードをゲームから除外し、相手モンスター1体の攻撃を無効にする事ができる。エンドフェイズ時、この効果で除外したこのカードを特殊召喚する。

地縛神 Ccapac Apu(効果モンスター)
星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守2500
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


「遠慮なく引かせてもらう」 ミツルがデッキトップに手を添え 「ドロー!」 美しくも力強く引き抜く。
「流石はミツル様。敢えてギリギリまで《トラゴエディア》の特殊召喚を遅らせるとは。高潔なる決闘を身上とした【ミツル式】の面目躍如と言ったところでしょうか。しからば!」
 決闘紳士が電柱の上から地に降り立った瞬間、路面が豆腐のように砕かれる。
「ミツル、どうも奴には、テクニックに加えて相応のパワーもあるようだ。殺らなければ殺られる」
「決闘紳士に1つ質問をしたい。その決闘盤、奇妙な形だが防御機能は備えているのか」
「小生の決闘盤は特別製。飛行機能の為に防御機能はオミットされています。問題はないでしょう。貴方とて決闘盤付属の盾を使おうとはしなかった。同じくEarthboundのレザール様などは、腹筋を最大限活かす為に盾をオミットしていなさる。ガードクラッシュに怯えた決闘など……」
「受身の準備をしろ」
「これはこれは……」
 ミツルが天地咬渦狗流(てんちこうかくりゅう)の構えを取る。
 膝を落とし、肘を曲げ、軸を定める。
「もう一度言う。受身の準備をしろ」
 GT-NEOが両手を広げ嘲笑う。
「決闘紳士の辞書に、着地はあっても受身はないのです。むしろ! 前進させて頂きましょう」
 一歩踏み出すごとに。踏みつけられた路面がひび割れ、悲鳴をあげる。
 禍々しい程の瘴気と共に一歩一歩ゆっくりと、悠々自適に闊歩する。
「前進はケルドの専売特許だ。止めるのには慣れている」
「ミツル。これはもう決闘ではない。化物退治だ」
 ミツルは軽く頷くと、決闘紳士GT-NEOと対峙する。
「《トラゴエディア》の効果を発動。レベル10《地縛神 Ccapac Apu》をコストに……」
 同じくレベル10、《シューティング・スター・ドラゴン》の支配権を所望する一手。しかし決闘紳士の歩みが止まることはなかった。封じ込められた悪魔の誘惑。翼を生やした魔術師が踊る。

エフェクト・ヴェーラー(チューナー(効果モンスター))
星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0
このカードを手札から墓地へ送り、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。


「公示前の新型……」 「ミツル、あのカードは……」
「おれの記憶が確かなら、中央の技術者達が開発に難航していた1枚だ。戦闘に干渉する手札誘発は数あれど、効果に干渉する手札誘発はその制御が難しいと言われていたが……」
「代名詞の地縛神を捨て、目先の奪取に走るとは。この程度ですか?」
「……音速龍の実体は既に捉えている。後は順番の問題だった」
 ミツルは《同種同源》を起動。墓地の悪魔族を除外し、サクリファイス・トークンを特殊召喚。
 決闘紳士は何ら動じることなくゆっくりと歩き続ける。踏んだ数だけ征服していくかのように。
 ミツルはサクリファイス・トークンをリリース、2枚目の《邪帝ガイウス》を特殊召喚。
 効果発動。《シューティング・スター・ドラゴン》を次元の彼方へと幽閉する。
 決闘紳士は止まらない。《シューティング・スター・ドラゴン》が除外されても止まらない。
「奪取の次は除外とは。なんと間の悪いことでしょう。逆にしていれば奪えたものを」
 決闘紳士は、あと少し歩けばという距離まで迫っていた。ミツルは尚も毅然とした態度を取る。
「これだけの技をみせておいて今更素人ぶるのはやめておけ。フィールドには《トラゴエディア》がみえていて、ハンドにはレベル10の地縛神がみえている。先に《邪帝ガイウス》を投げたところでおまえはその《エフェクト・ヴェーラー》とやらを使うまい。奪われるくらいなら大人しく除外することを選ぶ」
「おや……」 決闘紳士が刮目した。リミッツが鋭い視線を飛ばす。
「未知の攻撃があるなら未知の守備があってもおかしくない。この場であるとすれば手札誘発。ミツルの狙いは最初から、おまえの手札誘発を引きずり出すことだ。覚悟はいいか?」
 いる。《邪帝ガイウス》の影の内。もう1体の《邪帝ガイウス》がそこにいる。
「《イリュージョン・スナッチ》……」

イリュージョン・スナッチ(効果モンスター)
星7/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
自分がモンスターのアドバンス召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したこのカードの種族・属性・レベルは、アドバンス召喚したそのモンスターと同じになる。


「これは……リミッツ様の……」

 リミッツの【シャドウバウンド】は ――
 ミツルの支援・補佐を目的としている。自らが目立つことを良しとせず、個人ランキングでは10位前後を守り続け、ミツルの決闘がより映えるよう影に徹する。ミツルのデッキの中に《イリュージョン・スナッチ》という名の影武者1枚を予め潜行。それさえもがリミッツ・ギアルマのデッキ構築。

「最後の忠告だ」 ミツルは低い声で最後通牒を口にした。
「受身の準備をしておけ。おまえには聞きたいことがある」
「お断りします」 決闘紳士は尚も歩き続けた。
「小生の身を案じるなら杞憂と申し上げましょう」
「わかった。その言葉を信じる。バトルフェイズ ―― 」
 2体の《トラゴエディア》が口から怪光線を発射した。十二本足を支えとした対地迎撃。手札1枚・効果無効と微々たる衝撃波だが、その間、2体の《邪帝ガイウス》が掌を頭上に掲げ、重々しく縦に振り下ろしていた。重力波の二重奏。決闘紳士を路面に押し付ける。しかし、
「これは程良い! あたかも風呂上がりのマッサージのように! あるいは……」
 例えを最後まで言い切ることはできなかった。Earthboundの衝撃波は層を成す。固定された状態から5発目の、特大の衝撃波を受けた決闘紳士は襟を正す暇もなく吹き飛ぶ。 "戻ってきた男" 蘇我劉邦が得意とした永続罠:《闇次元の解放》。地に喚び戻すは西の神……《トラゴエディア》で墓地に送り、《同種同源》で除外した《地縛神 Ccapac Apu》。漆黒の拳が悪漢を撃ち抜く。
「はぁっはっは! 流石ですねえ! これが噂に聞く壱の拳。しかし! 小生に受身を取らせようなどとは笑止千万! トランスフォォォォォォォォォォォォォォム!」
 決闘紳士は吹き飛ばされながらも腕を、足を、そして頭を180度を超えて曲げた。蘇る記憶。そう、スターダスト・ミラージュの5発目は、己の身を戦闘機に変形させた彼自身による突撃の衝撃波。余人の想像を絶する高等技術により、地縛神の衝撃波をも推進力の一部に変える。そのまま後方に向かって飛び続け、縦に円を描くようにして旋回。およそ人間離れした折り返し。 「それではこちらも……」 機首を前方に向ける。飛翔する決闘紳士の目に映ったのは慌てふためく弱者達……
 に非ず。
 天をも超える左右の翼を捉えるは
 天地を貫く二門の砲身だった。
「ダブルグスタフ……マックス……」
「天地咬渦狗流は全方位対応型の拳。おれに地縛神を引かせた時点でおまえの負けだ」



天地咬渦狗流弐拾弐の拳 対空の拳(アンチ・エアクラフト)



決闘紳士 GT-NEO:0LP
ミツル・リミッツ:700

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス(エクシーズ・効果モンスター)
ランク10/地属性/機械族/攻3000/守3000
レベル10モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手ライフに2000ポイントダメージを与える。


 並列変異を地に刻んだ装填召喚(エクシーズ・サモン)。ミツルの《地縛神 Ccapac Apu》と《トラゴエディア》、リミッツの《メタル・リフレクト・スライム》と《トラゴエディア》による2体の《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》。投盤適正のないリミッツはグスタフマックスを撃てないが、撃てずとも撃たせる能はある。衝撃波重視のEarthbound Formation。西部最強の連装砲が大地のもとで唸りを上げた。
 撃墜。
 両翼に一撃ずつを受け見事に撃墜された決闘紳士は、緩やかな風を受けつつゆっくりと落下を始める。ミツルに先駆けて落下地点に向かうリミッツ。一転、捕獲対象となった決闘紳士が呻く。
「地縛神で一度弾き飛ばし……堪らず小生が変形したところを不意に撃ち抜く為に……敢えてメインフェイズ2までグスタフを……なんともはや……《タイムカプセル》を使う暇すらない……」
「延命からの奪取も警戒したが、何よりも、この場は両翼を抜いてこそ勝利と言える」
 両翼の限界を突きつけられた決闘紳士は尚も妖しい笑みを絶やさなかった。 「安心しました」 決闘紳士が満足げに一人納得した表情を浮かべると、地上に向けて高らかに言い放つ。
「しかし! 小生が受身を取るなど! 決闘紳士は受身を取らぬ!」
「リミッツ逃げろ! そいつは自爆する気だ!」
 ミツルが叫ぶとほぼ同時に爆発が起きる。割って入るには時間が足りなさすぎた。爆風が路地を吹き抜け、視界が晴れた頃には誰もいなかった。決闘紳士も、そしてリミッツも。
 しかし、次の瞬間、2人の決闘者が月下に並び立つ。
 1人、Team Earthbound ミツル・アマギリ。
 1人、Team Earthbound リミッツ・ギアルマ。
 ミツルはふっと息を吐いて言った。
「奴が踏み抜いた路面の下へ潜り込む……日頃の行いが功を奏したな、リミッツ」
「爆風と共にどこかへ消えたか。探せばその辺に死体が転がっているかもしれないが……」
「あれで死んだとは思いづらい。世界か……もしかするとあれは……試していたのかもしれない」
 今回の一件は不思議なほど騒ぎとはならなかった。まるで最初から何も起きなかったかのように。ミツルは彼の言葉を心の中で反芻しながら数歩足を進めると、天空からの使者が踏み砕いた路面を覗き込む。物理的には何もないが、彼の目には "地上" の下にあるものが映り込んでいた。
(誰が呼んだか【ミツル式】。アースハウンド社が生み出した《同種同源》、リュウホウさんの忘れ形見《闇次元の解放》、リミッツから受け取った《イリュージョン・スナッチ》に、ダァーヴィットさんから受け継いだグスタフ・マックス。西部の絆……。あいつは昔言っていた。デッキの中に自分の世界を構築し、互いの世界をぶつけ合うのが決闘であると。世界……世界か……)

 バルートン、おまえは今でもおれを笑ってくれるだろうか


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。決闘しようぜ!
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□前話 □表紙 □次話





































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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