「第三の仮面。【一人芝居(ワンマン・ステージ)】に【一人舞台(パフォーミング・ソロ)】、次は何が来るのか楽しみだ」
 本音を言えば興味など些かも無い。人形劇に一から十まで付き合う気など更々なかった。不発のまま終わらせるのが理想。"今日も頼むぜ、相棒" コアラは今日も元気よく鳴いている。弱者が強者に勝つ上で「一撃必殺」ほど都合のいいものはない。青と赤で2つに分かれた第三の仮面がどれ程の腕前かは兎も角リードはいつもそういうつもりでやってきた。下克上、これ程盛り上がるものはない。
「………………」
 第三の仮面は不気味に沈黙していた。もっとも、試合が始まった瞬間から饒舌になるのはここまでの2戦でわかりきっていたので一々気にはしない。むしろ、上からすっぽり被った白装束が肩の辺りで異様なほど盛り上がっているのがほんの少し気になった。それだけだった。
「中堅戦! 果たしてBelial Killerの意地はみられるのか! それじゃ逝ってみよう!」
(向こうの技は大ぶりだ。先手を取れるなら手っ取り早い。本体に突撃してそのまま終わらせる。後手に回ったら迎撃だ。大技に大技ぶつけて押し返せば俺の勝ち。小細工はいらない。シンプルでいい)

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Underground Card Duel!


Turn 1
■オウチュリィ
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□リード
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000

「ドロー。先攻1ターン目、ここはどうすべきかな」
「そんなの決まってるじゃない。セットよセット」
「そうだね。手札からモンスターをセット」
(なんだこいつ。1人で2人分喋ってないか?)
 奇妙な光景であった。SDTを取ったオウチュリィは明らかに2種類の声色を発している。それどころか会話すらしている。仮面を付けているため表情も読み取れず、不気味なことこの上ない。
「ターンエンド」 「ターンエンド」
(おいおい、同時に2人喋ったぞ。何の冗談だか。最初の奴が "一人芝居" で次の奴が "一人舞台"。今度は "一人二役(ダブル・ロール)" とかその辺りか? ったく……)

「おれのターン、ドロー。モンスター、マジック・トラップを1枚ずつセットして……」
「おいみろよ。セットエンドだ。何をセットしたのかな? わかるかい?」
「わかるわけないじゃないの。知りたいのなら殴ってみれば?」
(この一人会話。まさか二重人格とか言わないよな。不気味な奴)
「ターンエンド。……テイルの所為で、こんなところまで来ちまった」

Turn 3
■オウチュリィ
 Hand 5
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□リード
 Hand 4
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「ドロー。モンスターを1体セット」 「これでターンエンド。あんまり面白くないわね」
 今のところは目立った動きなし。動きがなければ何を狙っているのかもわからない。リードはセットモンスターを一瞥。小石を投じる一手に出る。元より攻めなければ勝てない。
「俺の番だ、ドロー。《デス・コアラ》をリバース。手札を持ちすぎだ!」
『リードの野郎が、いきなり2000ライフを掻っ攫っていったぁ!』
(茶番に一々付き合ってられるか。その仮面ひんむいてやる)
「《クリッター》を召喚。《デス・コアラ》とでオーバーレイ!」
 蛇のように細い身体から六枚の大きな翼が展開する。蒼き龍、《No.17 リバイス・ドラゴン》。
「効果発動。ORUを1つ取り除き攻撃力を2500まであげる。バトルフェイズ……先に……いや、後に召喚した方のモンスターをぶん殴る。さっさと正体を現しな!」
「公開されますは《ライトロード・ハンター ライコウ》。破壊させて頂きます」
「破壊するのはリバイスドラゴン……の後ろのセットカードで御座います」
「《砂塵の大竜巻》だ」 (使い損ねちまった。このままセット置かないならいいんだが……)
「ライコウの効果で《カードガンナー》《フルエルフ》《レベル・スティーラー》を墓地に」
(リバイス・ドラゴンを破壊しないのは、技が通れば軽く潰せる自信があるからだろ。お仲間の芸風を考えればむしろ好都合か? 精々調子に乗ってろ。こっちのリバイスも前座だ)
「メインフェイズ2、マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」

Turn 5
■オウチュリィ
 Hand 5
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 0
 Life 6000
□リード
 Hand 3
 Monster 1(《No.17 リバイス・ドラゴン》)
 Magic・Trap 1
 Life 8000

「ラウンドさん、ここまでの攻防は……」
「どうもこうも、リードが一発ジャブを入れただけだ」
 立ち上がりは無難の一言。嵐の前の静けさ。リードの特性と、これまでみてきた仮面の特性がこのままでは終わらない未来を示唆している。先に動いたのはオウチュリィだった。
「《モンスターゲート》を発動! 伏せておいた《クリッター》をリリース、デッキを捲る。1枚目、《死者蘇生》。2枚目、《ゴブリンのやりくり上手》。3枚目……《ガガガガール》を特殊召喚。《クリッター》の効果でデッキから《ガガガキッド》を手札に加えるよ!」
「《ガガガマジシャン》を通常召喚して効果発動。レベルを『8』まで上げて、《ガガガガール》の効果も発動。この娘のレベルも《ガガガマジシャン》と同じ『8』にしちゃうわ♪」
「《ガガガキッド》を特殊召喚!」 「効果発動。この子のレベルも『8』♪
(レベル8? マジかよ……)
「3体のレベル8ガガガモンスターで!」
「オーバーレイネットワークを構築♪」
「「レベルコネクションエクシーズサモン!♪」」



No.88 Gimmick Puppet Destiny Leo

Attack Point:3200

Defense Point:2300

Special Skill:Destiny Strings



 玉座に座るは巨大な獅子王。その貫禄はまさしく王者。ミィは息を呑んだ。ジャイアント・キラーやヘブンズ・ストリングスをも超える、"最強の決定力" を持つギミックパペット。それが ――
「《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》。それがおまえの、おまえたちのコンボか」
「まずは《ガガガガール》から受け継いだ効果を発動。リバイス・ドラゴンを無力化する」
「本命はここから。《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》の偉大なる効果を発動」
「 "1ターンに1度" "自分の場にマジック・トラップが存在しないとき" "戦闘権を放棄することで" "デステニーカウンターを1つ得る" "デステニーカウンターが3つ揃ったその時" 」
「『おまえはこの決闘に問答無用で勝利する』だろ。【特殊勝利】か」
「物分かりが良くて助かるわ。王の布告には誰も抗えない。生まれながらにしての勝者♪」
(重機王で来るかと思ったらマジで獅子王かよ。【三者三様】ってのもバカにしたもんじゃねえな。あいつを前にして攻撃宣言反応型の罠は何の意味もない。今置いてるセットはないも同じだ)
 《ガガガキッド》のリスク(=攻撃制限)はデステニー・レオを縛らない。デステニー・レオは玉座に座っているだけでいい。玉座に座り続けるという事実こそが、この地に覇権をもたらすのだ。
「ターンエンドだ」 「ターンエンドよ」
「死んじゃえばいいのに」 「死んじゃえばいいのよ」

「腹話術師のおままごとに負けてられるかよ。おれのターン、ドロー!」
(とは言ったものの迎え撃つ準備はまだ出来てない。おれのデッキはワンチャン型。2500や2800ならまだしも、パーツ集めやってるときに3200ともなるとちょい困る。猶予は実質2ターン……)
「リードさん、大丈夫でしょうか。早くあれを倒さないと負けちゃう」
「あれに負けるようなら、あいつもそこまでの男だったというまでだ」
「どうしたんだい? 動きを止めて」 「玉座に届かないと知って壊れちゃった?」
「美味しいもんは後にとっとく主義なんだよ。まずは攻撃力が0になっちまった《No.17 リバイス・ドラゴン》を守備表示に変更。マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」
 リードは動かなかった。考えてみれば『今』も『次』もない。一発勝負でねじ込む。結局の所そういう勝負だと思った。獅子王デステニー・レオを倒せば勝ち、倒せなければ負け。シンプル・イズ・ベスト。

Turn 7
■オウチュリィ
 Hand 4
 Monster 1(《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》)
 Magic・Trap 0
 Life 6000
□リード
 Hand 3
 Monster 1(《No.17 リバイス・ドラゴン》)
 Magic・Trap 2
 Life 8000

『これぞ煉獄の弾劾捜査! 青の仮面が検察官を、赤の仮面が弁護士を、癒着の二文字が決着の二文字に昇華する! この裁判に希望など有りはしない! 被告人の処分権はどこに行ったというのか! 裁判権の独立が遂に帝国を築いてしまったというのか! 訴訟の初めから終わりまで、揺りかごから墓場まで、雁字搦めの人形のように粛々と有罪判決を待つしかないのかあ!』
「ドロー。《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》の効果を発動」
「2つ目のデステニー・カウンターをゲット。手札から2枚伏せるわ……」
 駆け引きの強制。ラウ曰くそれはブラフと本命の二択で揺さぶる奇手。
 闇雲にセットを続ける限り、獅子王デステニー・レオは高価な置物でしかない。しかし、
「《八汰烏の骸》等を使い、効果発動直前にノーセットを実現すれば安心しきっていた相手の裏をかける。これが1つの可能性。そしてもう1つ、ブラフと思って仕掛けてきた相手に《聖なるバリア−ミラーフォース−》の類を被せ、デステニー・レオを守りつつノーセットを達成しようとしている可能性もある」
「《カードカー・D》を通常召喚。墓地に送ってデッキから2枚引きターンエンド」
「交通事故のリスクも獅子王の前には関係なし! 生まれながらの無事故無違反!」

(ブラフか本物か。んなもん考えてもわかるわけねえ。まあでも1つと言えるとすれば……)
 皆の心配を余所にリードは勇ましくカードを引く。結論は既に出ていた。
「だからどうした」
 何もせずターンエンドを宣言して馬鹿をみるくらいなら前のめりに踏み込む。結論は既に出ていた。
(ドローカードはこいつか。リビングと一緒に使って驚かせたいところだがそんな暇はねえな。いくぜ)
「リバース。《リビングデッドの呼び声》を発動。《クリッター》を特殊召喚。おまえさんらと同じ手を使う。《モンスターゲート》を発動。《クリッター》をリリースして……《サイコ・コマンダー》を特殊召喚。《クリッター》の効果で俺はデッキから《デビル・フランケン》を手札に加える。いくぜ!」
 リードは身体を沈め、全身という全身に力を込めた。
(出すんだ。あれを!) ミィも思わず拳を握る。
「闘いもせずに王者を気取ってられるのもここまでだ!」



Master of Oz

Attack Point:4200

Defense Point:3700

Favorite Attack:AYERS ROCK IMPACT



『コアラが上から降ってきたああああああああああああああああああああああ!!』
「わあお。バトル開始前、《ゴブリンのやりくり上手》の2枚目3枚目を発動!」
「《非常食》がなければ大したこたねえ! ブラフに脅えなくて残念だったな! 沈んでろ!」

オウチュリィ:6000LP
リード:3000LP

「なんで!?」 ミィが素っ頓狂な声を上げた。
「獅子王が……リードさんのコアラが効かない!?」
「ちっ、外したか……」
『不服申し立てならず! コアラの恫喝でもさえも獅子王を起立させることはできなかったぁっ!』
「《ジェントルーパー》。《マスター・オブ・OZ》の攻撃はこの子が身代わりになってくれる」
『まさにトカゲの尻尾切り! 民主制を装った独裁権威構造に傷一つ付けることができない!』
(ぬか喜びさせがって。だがな……)

「上手くデステニー・レオを操っているなゼッペス」
「ゼッペスの眼にも中々の驚きとなって映る」
「ん? ちょっと待ておまえ達」
 ボーラは、偶々耳にしたガスタークとゼッペスの会話に疑問を抱く。
「まるで知らない人間の話をしているように聞こえるけど。知り合いじゃないの?」
「ああ。借金をチャラにしてやるってんでバルートンの奴に組まされたが」
「ガスタークとは以前から付き合いのある仲だが、あんな奴など知らん」
 言われてみればボーラにも心当たりがない。 "一人芝居" のジャイアント・キラーや "一人舞台" のヘブンズ・ストリングスは知っていたが、 "一人二役" のデステニー・レオなど聞いた試しがなかった。それでも、綺麗に三人組を成しているのでゼッペス・ガスタークの知り合いであろう。そう思っていた。
 ボーラが舌打ちする一方、バルートンは、何食わぬ顔で試合観戦を満喫していた。
「いやあ中々いい感じに遊んでくれてるな。あのくらいはお手の物ってわけだ」
「バル兄ィ。もしかしてまた、よからぬ真似を企んでいるんじゃないか? あいつは誰だ?」
「誰なんだろうなあ。面白い奴だといいなあ」 バルートンは楽しそうにはぐらかした。

(これが王者の力かい。おれはそういうのと縁がある。悪くない)
 リードは思った。それはそれでいい。気合いも入る。
(王者をぶっ倒す。それが挑戦者だろ? ならそれでいい)
 リードはマジック・トラップを1枚セット。エンドフェイズ、残り物で作っておいた《マジカル・アンドロイド》で600ポイントライフを回復し、そのままターンエンドを宣言する。
『ターンエンドを宣言してしまったぁっ! 遂に、Belial Killerが一矢報いるのか!』
「ドロー。残念だったね。これが王者というものさ。獅子王は君臨し続ける」
「そのコアラ、結構可愛くて好きよ。もう手も足も出ないけど」
「スタンバイフェイズ!」 「スタンバイフェイズ♪」
「リードさん! 負けないで!」
 ミィの叫びにリードは右腕を伸ばし、親指を立てる。
「手も足も出ない? だからどうした! リバーストラップ、《猛突進》!」

猛突進(通常罠)
自分フィールド上に表側表示で存在する獣族モンスター1体を選択して破壊し、
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択してデッキに戻す。


「地獄への道連れが王様ってんなら上等だ! 飛べ、《マスター・オブ・OZ》!」
 あたかもロケット噴射のように発進したコアラが王者に組み付く。
 尚も玉座に居座り続けようとするデステニー・レオ。しかし!
「おんなじ所にいつまでもたむろってる奴が、立ち向かう奴に勝てるかよ!」
 無理矢理デステニー・レオを持ち上げたコアラはそのまま高く飛び上がり反転、地表に向かって脳天から激突。撒き散らされる砂埃。身命を賭したコアラが、王者に下克上を叩きつけた瞬間だった。
『コアラがデステニー・レオをKOしたあああああああああああああああ!』
「獅子王だろうが何だろうが知ったことか。おれはこれで世界まで突っ切る!」
 リードは力強く宣言した。
「俺は世界一になる!」

 真っ先に気付いたのはバルートンだった。

「世界一……大言壮語にも程がある……そうか、それが必要だったのか」
「バル兄ィ。デステニー・レオが墜ちたぞ。もう駄目なんじゃ……バル兄ィ?」
「そうだな。デステニー・レオが墜ちた時点でオウチュリィの負けだ」
「バル兄ィ……?」 実弟ですら、今まで見たことがないほどの笑みだった。
「ガスタークやゼッペスと同格のCG、オウチュリィは敗れた。但しそれは設定上の話だ」
 リードVSオウチュリィとはそれ即ちコアラVS獅子王。コアラが獅子王を凌駕した以上、リードは確かに勝利した。リードは、オウチュリィというCGに辛くも勝利した。もっとも、それが勝利として実際に計上されるには、オウチュリィというCGがこの世に存在しなければならない。
「ありがとうリード! 本当にありがとう! 君が君でいてくれてありがとう!」
「おいバル兄ィ、それはどういう……」
 ボラートンが何事かを問おうとしたとき、ざわめきが起きる。《猛突進》が起こした砂埃のエフェクトが張れたとき、そこにはもう仮面もフードも白装束もなかった。目に見える "異形" のみがそこにある。
「肩のボルトに人形2つ。それがおまえの正体か……」
 爆風と共にその正体が露わになる。かの決闘者は、肩に人形を2つ付けていた。男の人形と女の人形。先程まで喋っていたのはこの2つ。そのファンシーな人形とは対照的に、本体はグロテスクと言っていい代物だった。頭蓋に肩に背中に、何本ものボルトが埋まっている。
「中々エキセントリックな野郎だが、決闘は見た目じゃ勝てな……」
 リードが言い終わらぬ内に、男は決闘盤を頭より上に掲げた。ヒビが入っている。瞬く間に亀裂が走り、外装が割れる。そこから出てきたのはボルトで組まれた十字架だった。ボルトクロス型決闘盤『決闘架盤(クロスティア)』を掲げた男は、あからさまな禍々しさと共にある種の神々しさを備えていた。

「駄目だろ、ああいうの出しちゃ」 「あれはなんだ。何者だ」 「あの人、なんか怖い」
 テイル・パルム・ミィは、三者三様ではあるが似たような印象を抱いていた。そしてもう1人。
「あの "一人二役(ダブル・ロール)" もどきはトゥリスとミーラの人形劇か。なぜだ。なぜあの男、トゥリスミーラ・デオシュタインがここにいる。あの決闘盤、偽物でもあるまい」
 ラウの知識がその何かを裏付ける。彼は珍しくも ―― 叫んだ。
「リード! そいつとはもう闘うな! 棄権しろ! そいつは人間じゃない!」

 世界は十字架で出来ていた。今にも破裂しそうなほど歪な十字架でできていた。


DUEL EPISODE 21

The Central World〜夢が現実になった時〜


「リード! 聞こえているのか! 返事をしろリード!」
「聞こえてるよ。ギャースカ騒ぐなって。わかるさ。違うんだろこいつは。こいつからは西の匂いがしない。余所者の匂いだ。それもおまえが驚くほどの化け物なんだろ。じゃあ好都合だ」
「あいつ、まさか闘うつもりか。デオシュタインと」
(ラウ、おまえ程の男が騒ぎ立てる所なんて滅多に拝めないが、それだけにヤバイってのはわかる。わかるけど、それは好都合なんだ。逃げる理由にはならない。夢が1つ、叶ったんだ)
 リードは一回大きく伸びをすると、デオシュタインに向かって啖呵を切る。
「いつか世界に喧嘩売りに行こうと思ったら、世界の方からこっちに来たってわけだ。観光か迷子かは知ったこっちゃないが、おまえを倒せばおれが世界になるんだろ」
(いい機会だ。少しばかり予定が速まったが、こいつはいい機会だ)
「ラウ先生どうすんの? うちの大将むっちゃやる気出してるけど」
「テイル、おまえならこの場合どうする? 力尽くでも止めるか?」
「いんや。おれはなんていうかここにいるだけだから。止める?」
「……リードはおれに言った。『1%の可能性がある限り諦める理由にはならない。その1%を掴む為にデッキを組み、勝負に臨む』 おれは可能性がないと思ってるしあいつは可能性があると思っている。それだけの話だ。よくよく考えればおれにも止める義務はない。あいつ次第だ」
「そうなるわな。パルムはどう思う?」 「みてみたい。ここからどうなるのかを」
 ミィはこの時背筋に冷たいものを感じた。このTeam BURSTという集団はミィが言うほどには厚い『絆』で結ばれてはいない。騒ぎ立てるべきだろうか。ミィは、結果的に押し黙る道を選んだ。
(『世界』 リードさんと公園で話したとき、あの人が取るって言ってたものだ)
 自分が何かを言う、あるいは何かを言える局面ではない気がした。

「トゥリスミーラ・デオシュタイン、決闘者の覇気に応えて決闘をみせる決闘機関。遂に現れてくれた」
「バル兄ィも人が悪い。何が "三者三様(トロワ・ファクティス)" だ。一人芝居も一人舞台も一人二役も全部大嘘だったんだな。仮面を付ければ正体が気になる。だからあんたは3つの仮面を用意した。仮面の1つ1つがそれぞれ1人1人の正体を隠しているかのように。でも違った。3つの仮面 "三者三様(トロワ・ファクティス)" は最初から、たった1人の化け物を隠す為だけに存在していた。木を隠すなら森の中、仮面を隠すなら仮面の中。バル兄ィらしいドッキリだ。3人の内の1人が勝てばいいだなんて今から考えればお笑いぐさだね。本当は3人が3人綺麗に負けてもよかったんだ。あそこにいる男をあんたはアテにしてたんだろ。あんな奴、一体どこから引っ張ってきたんだ?」
「決闘巡礼の旅の途中らしい。白装束でこの辺を歩いてて、擦れ違ったときにピンと来て思わず話し掛けてしまったんだ。気が付いたら友達になっていたよ。意外とユーモアもある。付き合ってくれた」
「……質問を変えよう。じゃああれは一体どのぐらいの強さなんだ? 《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》を使った戦法が破られた事実には変わりない。デッキの中に他の技はちゃんとあるのか? これ以上、何かをやる為の余力はちゃんと残っているのか?」
「ボーラ、それはあらゆる質問の中で一二を争うぐらいの愚問だ」
「というと?」
「実は俺にもよくわからない」
「あんた、ホント馬鹿だな……」
「さあ、俺に決闘をみせてくれ」

(違う。仮面がないとかフードがないとかそういう問題じゃない。何か、気配そのものが違う)
 デオシュタインは明らかに先程までとは違っていた。姿を隠していた白装束から解き放たれ、その異形が衆目に晒されたことだけが原因ではない。 "3人いる"  先程までは2人分しか、人形の分しか気配を感じなかったが今は3人分の気配を感じる。新たな決闘が解き放たれたのだ。
「さっきまでは人形風情がおれの相手をしてたのかよ。舐められたもんだ」
「人形風情とは何だ! 人形風情とは何だ!」
「五月蠅い黙ってろ。おれは本命と話をしてるんだ」
(腹話術じゃないな。電子音声か何かか? ま、どうでもいいか)
「トゥリスミーラ・デオシュタイン……だったか。そろそろ口を開けよ」
 リードの注文に応えたのか、重厚な唇がようやくその扉を開けた。
「『世界制覇』」
「ああそうだ。世界一になる。それがおれの夢だ。笑うか」
「是も非モナク。タダ審判ガアルノミ。《ガガガドロー》ヲ発動。《貪欲な壺》ヲ発動」
(仕切り直しってわけか。墓地のほとんどを燃やして手札を補充する。これで墓地は残り2枚。といっても、墓地が消えるのはおまえだけ。おれの墓地は肥えっぱなし。それだけなら ―― )

時械神メタイオン(効果モンスター)
星10/炎属性/天使族/攻 0/守 0
このカードはデッキから特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードはリリースなしで召喚する事ができる。
このカードは戦闘及びカードの効果では破壊されない。
フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、このカード以外のフィールド上に存在するモンスターを全て持ち主の手札に戻し、戻した数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。
自分のスタンバイフェイズ時、このカードはデッキに戻る。


「なに!?」 (投盤が ―― 見えなかった ―― )
『いつの間にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! フィールド上にデカ物が召喚されているうううううううううう!』
 よく見るとデオシュタインは左腕を高く上げている。投げたのだ。ノーモーション ―― 直立の体勢からまるで機械の振り子のように、決闘盤を装着した左腕を高速で縦に回すことによる投盤は意外にして怪異であり、故に、直前まで投盤行為として認識することができなかった。
(肩にバネかゼンマイでもしこんでんのか。本当に人間かよこいつ)
 召喚を終えたデオシュタインはややゆっくりと左腕を降ろす。それは合図だった。おもむろに召喚されたメタイオンの効果によりリバイス・ドラゴンとマジカル・アンドロイドが一瞬にして場から消失し、600ダメージを喰らう。ボルトヘッドが発する異様な瘴気に気圧されそうになったが、(こんなもんは、こんなもんは想定の範囲内だろ) リードは心を持ち直す。しかし、
 メインフェイズ2、新たな脅威が現前する。
「《おろかな埋葬》。不死ナル虫ヨ冥府ヨリ現レルガイイ。《レベル・スティーラー》」
 ライコウで1体。《おろかな埋葬》で1体。《レベル・スティーラー》2体が《時械神メタイオン》の横に侍る。デオシュタインはゆっくりと投盤姿勢に入った。デュエルオーブは光らない。《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》の類ではないということ。2体目の《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》ではないということ。デオシュタインは少しずつ腰を回し……回し……おかしい。人間の可動域を明らかに超えて回っている。そんなことは有り得ない。人間の ――



Arcana Force EX - The Dark Ruler

Attack Point:4000

Defense Point:4000

Special Skill:Catastrophe Destruct




アルカナフォースEX−THE DARK RULER(効果モンスター)
星10/光属性/天使族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在するモンスター3体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードが特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:このカードはバトルフェイズ中2回攻撃する事ができる。この効果が適用された2回目の戦闘を行った場合、このカードはバトルフェイズ終了時に守備表示になる。次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
●裏:このカードが破壊される場合、フィールド上のカードを全て破壊する。


『攻撃力4000! 超最上級が降臨したーーーーーーーーー!』
(逆位置の《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》……)
 リードは表示されたカードテキストを凝視。その怪物性を確認する。
 デオシュタインはマジック・トラップを1枚セットしてターンエンドを宣言。
『何かがここまでと違っている! こいつは一体何者なんだーーー!』

「ようやくターンエンドしてくれましたと。有り難いこった。今度はおれの番、ドロー!」
 リードの思考は敵の手の内に及ぶ。《No.88 ギミック・パペット−デステニー・レオ》や《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》……超重兵器をいとも容易く扱える、そんな相手に時間を与えすぎるプレイは死に繋がる。それだけは明らかなように思われた。リードの思考が加速する。
(逆位置のあれを迂闊に倒すと大爆発。いや、そんなこと考えていたら決闘はできない。爆発したいならさせてやればいい。あれを倒さなければ始まらない。始まらないが手札が足りない)
 リードはフィールド上を一瞥した。置きっぱなしになっている攻撃宣言反応型トラップ……それがダークルーラーを倒せないのは、ここまでの決闘でとうの昔に見抜かれている筈。第2の刺客は第1の刺客よりも厄介。得体の知れないボルト仕掛けの怪物が、厄介極まる怪物を繰り出してくる以上、安全策を採って打開できるとは思えない。リードは方針を定め、腹を括った。
(数ターンあれば手札の補充は効く……が、その為には、危ない橋を渡るしかねえ)
「《エア・サーキュレーター》を通常召喚。効果発動。2枚引いて2枚デッキに戻す」
『自殺志願者かリード・ホッパー! 攻撃力0の《エア・サーキュレーター》を晒したぁ!』
「マジック・トラップを2番にセットする」
(こいつじゃダメージを防げない。一点張りだ)
「殴りたいなら好きにしろよ。ターンエンド」

Turn 11
■デオシュタイン
 Hand 5
 Monster 1(《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 6000
□リード
 Hand 1
 Monster 1(《エア・サーキュレーター》)
 Magic・Trap 2(セット/セット)
 Life 3000

「さあお待ちかね! 《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》のアタックだ!」
 人形の宣言通り、デオシュタインはドロー後即攻撃宣言に移る。DARK RULERの本体から伸びた双頭の龍が球形のエネルギー体を生み出し、《エア・サーキュレーター》に向けて放射する。
「リードさん!」 ミィは思わず叫んだ。無事に帰ってきて欲しい。それだけが願いだった。



Arcana Force EX - The Dark Ruler

Favorite Attack

"影の創世記(ジ・エンド・オブ・シャドー)"



『大★爆★発! 換気扇が跡形もなく吹っ飛んだ! これは決まったかぁ?』
「そうそう簡単にくたばってたまるか。《ガード・ブロック》でダメージはゼロになる。破壊された《エア・サーキュレーター》の効果と併せて、おれはデッキからカードを2枚ドローする」

「間一髪で防いだ……ってこと?」 ミィは、横のラウに恐る恐る聞いた。
「デステニー・レオに《時械神メタイオン》、《ガード・ブロック》を使う機会がなかったからここで無理矢理発動させたんだ。残りライフ3000、ダークルーラーを目の前にして《エア・サーキュレーター》を立てるのは危険な賭けだがあれで正解だ。《ガード・ブロック》は、戦闘ダメージが発生しないことには発動できないカードだからな。《エア・サーキュレーター》を表側攻撃表示で召喚することにより手札を回転させつつ、場で腐っていた《ガード・ブロック》を別のカードに代える」
 ラウが一つずつ説明する傍ら、テイルがぼそりと言った。
「これで光明がみえないようなら、もう死ぬしかないよな」
「テイルさん、不吉なこと言わないでください!」

「……ったく、たまんねえよな」
 リードはほっと一息付く。《ガード・ブロック》は4ターン目に伏せてから一向に発動機会のなかったカード。その分、然程警戒されないと踏んでいたが、それでもちょっとした賭けであったことに変わりはない……それでいいと思った。賭けに出るのは、世界への礼儀だとすら思った。敢えて都合の良い方に張る。ハイリスク・ハイリターンこそが望ましい。そんな風に考えていた。
(何かに付け、引くカードは沢山入れてあるんだ。まわしてまわして引き寄せる)
 他方、デオシュタインは黙々と作業を続行していた。デュエルオーブが鈍く光る。
「《封印の黄金櫃》ヲ発動」 未来に向けて除外したカードは ―― 《究極封印神エクゾディオス》。
 リードの額を汗が走る。
(レベル10の特殊召喚。まさか、おれのライフが少ないとみてグスタフマックスを……)
 ターンエンド。リードは思った。もうあまり時間はない。準備を、準備を整えなければ。

「獅子王だろうが運命王だろうが! おれのターン、ドロー!」
(逆位置のダークルーラーには弱点がある。倒された瞬間、全てを巻き込んで吹っ飛ばす効果故に、自分も迂闊にカードを置けないところだ。その分守りも薄くなる。あくまで逆位置の効果。でもってあっちは茶番の為のデステニー・レオでデッキもプレイも一度脇道にそれている。付けいる隙は、ある)
「《強欲で謙虚な壺》を発動。デッキトップから3枚捲る」
(残り時間は少ない、間に合ってくれ……)
 《サイコ・コマンダー》
 《ダブル・サイクロン》
 《マジック・プランター》
(《サイコ・コマンダー》は要らないから実質2択。どっちもリミリバと連携して美味しいカード。安全に攻撃を通すなら《ダブル・サイクロン》だが、本当にあいつのセットは防御札なのか? さっきも《ゴブリンのやりくり上手》でハッタリをかけてきた。フリーチェーンで《無謀な欲張り》とか如何にも地下決闘でありがちな話じゃないか。手札誘発の方が怖いくらいだ。なら……)
「《マジック・プランター》を選択」 (あれが防御札の可能性もあるがここはでかく張る)
「マジック・トラップを1枚。ターンエンド」 (場は空けた。殴って来いよボルト野郎)

Turn 13
■デオシュタイン
 Hand 5
 Monster 1(《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 6000
□リード
 Hand 3
 Monster 0
 Magic・Trap 2(セット/セット)
 Life 3000

 デオシュタインが決闘盤から無造作にカードを引く。
 発動:《強欲で謙虚な壺》
 《ジェントルーパー》
 《魔導書整理》
 《レベル・スティーラー》
(《レベル・スティーラー》を取った。これで手札誘発の線は消え……いや待てよ。テイルみたくもう1枚《ジェントルーパー》が手札にあるから見送ったんじゃ……もしそうだとすれば……いや……)
 発動:《闇の誘惑》
 除外:《トラゴエディア》
(遠慮なく攻めて来いとでも。どれだけ強気なんだこいつ。何を考えて……)
 《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》が二回目の攻撃態勢に入る。
 双頭の龍が "暗い光" を発し、再び、今度はリードに向けて直に放射する。
(迷ってられるか。やりきるだけだ!)
 彼はこの瞬間を待っていた。
「デカ物上等! その攻撃力はおれがもらった!」 
 力強くそう言い放ったリードがデュエルオーブを光らせると、瞬く間に光の壁を形成する。一見頼りなくもみえるその薄い障壁がダークルーラーの暗色光を一分洩らさず吸収、己の『力』に変える。
「《ドレインシールド》。デカイ面して偉そうにしてればいいってもんでもないだろ」

「あっという間にライフ差が……。これがリードさんの闘い方なんだ。ライフを回復して……」
 その狙いはミィにもわかる。もう一度試みるつもりなのだ。この大敵を倒す為に。

 デオシュタインはモンスター、マジック・トラップを1枚ずつセットしてターンエンド。
 セットしたモンスターは高確率で《レベル・スティーラー》。面倒な蟲がうじゃうじゃと。
 けれどそんなものはもう知らない。行くか行かないか。リードは行くと決めた。
「おれのターン、ドロー。《リミット・リバース》、《クリッター》を復活させ《マジック・プランター》を発動」
 補充、圧縮、選択。ただ一つの必殺技に向けてリードは決闘の地平を駆け抜ける。
「デッキから2枚引き、《クリッター》の効果で《ネクロ・ガードナー》を手札に加える」
 手札には《死者転生》。準備は整った。如何に気持ち良く《デビル・フランケン》を放るか。平均出力において劣るリードが弾き出した結論とは言わば最適化。ただ1つの突破力に全てを賭ける。交換なり補充なり回復なり、他のカードは《デビル・フランケン》に繋がってさえいればそれで良かった。リードは連続ドローで引き当てた1枚を挿し込み、デュエルオーブを光らせる。
「喰らえ! 《死者への供物》! ドローフェイズと引き替えにダークルーラーを破壊する!」
 空間を彷徨う巨大な手がダークルーラーを押し潰そうとする、が、別の力に妨げられる。
「《魔宮の賄賂》。横着はよくないわ♪」
(さっき伏せた奴か。向こうは向こうで揃ってやがる。だが……)
 一撃は無理と知る。それでも収穫はある。
(賄賂のお陰でドローは飛ばない。使い捨てのブースターも引いた。もうここまで来たらセットカードも手札誘発も知ったこっちゃねえ。持てる最大の力であいつのライフを少しでも多くぶっこ抜く。ここから先はおれが力尽きるかあいつがぶっ倒れるかの根比べだ。何度だってやってやる)
「《死者転生》。《ネクロ・ガードナー》を墓地に送り《デビル・フランケン》を回収。いくぜ!」

 リード・ホッパーは飛び跳ねる。リードは嫌いだった。漫然と続く西の現状が嫌いだった。チームデュエルは嫌いじゃない。皆で大きいことをやり遂げるのは素晴らしいとは思う。けど大きいとはなんだ。少なくとも世界とは 『東西南北中央』 を内に抱えている筈。最低でも今知っているものの5倍はある。にも関わらず、西に蔓延るのは閉鎖的な構築主義。他の区域との交流は不自然なほど少なく、それこそラウのような物好きが偶にやってくる以外、西の向こうを窺い知る術はほとんどない。Earthboundが日常的に繰り返す予定調和的な名勝負にリードはもう飽きていた。むしろなぜみんなは飽きないのだろう。ミツルが台頭した辺りからずっとそうだった。『西』には暗黙のタブーがある。薄々そう感じていた。ある日彼は一冊の本を手に取る。それは神話の時代に存在したと言われる大きな大きな岩について書いていた。登りたいと思った。寝そべりたいと思った。そこから世界を見渡したいとも思った。



Master of Oz Combination Attack

"岩の創世記(エアーズロック・インパクト・マキシマム)"




「《野性解放》! これが俺のコンボだ! 俺はこれで世界に行く! 消し飛べダークルーラー!」
 野生を解放したコアラがダークルーラーに接触した瞬間、会場中に大きな衝撃が走り、観衆は "闇の光" とも言うべき矛盾した何かに覆われた。ミィは反射的に顔を手で覆って防御する。何も見えない。何も聞こえない。それは10秒間ほど続いただろうか。ミィはようやく手をどけた。
「凄いエフェクト……リードさんは……リードさんとあの人の決闘はどうなって……」
 会場中を覆った閃光から何とか視力を回復したミィはリードの方をみた。立っている。デオシュタインもだ。しかし何かがおかしい。リードの様子が何か変だ。
「デオシュタイン……てめえ……」

デオシュタイン:2100LP
リード:8000LP

「リードさんのライフが8000に戻ってる。ラウンドさん、一体何が……」
「AYERS ROCK IMPACTがDARK RULERに決まる直前、奴はあのカードを発動していたんだ」

ヒロイック・ギフト(通常罠)
相手のライフポイントが2000以下の場合に発動できる。
相手のライフポイントを8000にして自分のデッキからカードを2枚ドローする。
「ヒロイック・ギフト」は1ターンに1枚しか発動できない。


「ドレインシールドで7000、デビルフランケンで2000、発動条件は満たしている。しかし、あんなカードを実際に使う奴がいるとは。《活路への希望》なら兎も角……」
 ラウが半ば呆れたように言う一方、テイルも尻尾を揺らしていた。
「うちの大将が先にライフを減らしてくるのを見越したお人形さん達が、獅子王様主演の舞台演劇で半ばおちょくりに使う気だったのかな。なんにせよ、伏せて使ったのはデオシュタインってことになる」

「ざけんな!」 リードは怒りを露わにした。
「おれのライフは弾丸だ。おまえはおれの弾丸を補充した。てめえの手札を1枚増やす為に、こっちの弾丸を丸々補充? 随分と気前がいい真似を……あんま舐めんじゃねえぞ」
「リードの悪い癖だ」 パルムがぼそっと呟く。
「2回コアラを投げて2回とも致命打を与えることができなかった。それが全てなのに」
 デステニー・レオにダークルーラー。リードは壁を砕いた。しかし、
 その先には行っていない。
「アフィニスさん、それを言ったら向こうのダークルーラーだって2回殴って倒せてません」
「それが同じことを意味しているのかどうかは、もうすぐわかる」

「1枚セットしてターンエンド」 (2段重ねで守る。さあ来い)
 しかし ――
「《デビル・フランケン》。ソンナモノガコンボデアルモノカ」
 それは怒りというよりも哀れみに近い響きを持っていた。
(なんだ ―― っ!?)
 本物のフランケンシュタインである彼の、禍々しき咆哮。
 それは声ではなく軋み。全身に刺さったボルトの軋み。
 会場全体に歪みが伝わる。闘気に空間が呼応したのだ。
(なんだ。何が起こっている。びびるな。同じ人間のやることだ)
「舐メテイルノハオマエナノダ。オマエハ神ヲ、世界ヲ舐メテイル」

Turn 15
■デオシュタイン
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 2100
□リード
 Hand 2
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「そうだよねデオシュタイン。あんなものをコンボと言うなんて。ミーラもそう思うだろ」
「そうねトゥリス。その場凌ぎと一枚芸で成り立ってるだけ。よくあんなことが言える」
 デオシュタインは己に幾つかの誓約を架し、決闘の権化であろうとした。
 故に、神の見守る世界を軽んじる者には啓蒙を行う。破壊的啓蒙活動を。
 デオシュタインはデッキに手をあてると、視認不可能な速度でカードを引いた。
「《大嵐》」
(そろそろ来るとは思っていた。セットを潰されるのは痛いが想定内だ)
 "想定内" そのフレーズをリードが頭に浮かべることは ―― 二度とない。
 デオシュタインが動き出す。ボルトの軋みと共に動き出す。
「《封印の黄金櫃》。《究極封印神エクゾディオス》ヲ手札ニ加エル。《死者転生》ヲ発動。《究極封印神エクゾディオス》ヲ墓地ニ送リ墓地ノ《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》ヲ手札ニ加エル。《魔導書整理》ヲ公開シ《ネクロの魔導書》ヲ発動。墓地ニ置カレシ《究極封印神エクゾディオス》ヲ異界ノ彼方ヘ除外。《フルエルフ》ヲ守備表示デ特殊召喚。レベルハ『12』」
「レベル12の《フルエルフ》……手札に加えたのはダークルーラー……まさか!」
「《フルエルフ》ノ効果発動。手札カラ《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》ヲ公開」
 誰もが気圧された。ボルトの一本一本が瘴気を纏い、未曾有の恐怖を煽り立てている。
「《フルエルフ》ノレベルヲ22マデ上ゲル」
「おい……ちょっと待て……何やってんだよおい……」
「 ―――― ヲ通常召喚。《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》」
「レベル22が2体……幾らレベルを上げようが……なに!?」
 次の瞬間、リードは肩口に強烈な衝撃波を受けてのけぞる。
(何だ、このクソ重い衝撃波は。超高速でぶつかってきて爆発したような……)
 一体何を見逃したのか。リードは凝視した。それにより、肉眼での確認にかろうじて成功する。恐るべき速度の投盤により蘇生した3体の《レベル・スティーラー》が返す刀でエクシーズ、《ベビー・トラゴン》となり場のモンスター……《キャノン・ソルジャー》によって発射される。
(人形爆弾か!)
「ぐはぁっ!」

キャノン・ソルジャー(効果モンスター)
星4/闇属性/機械族/攻1400/守1300
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースする事で、相手ライフに500ポイントダメージを与える。


 44まで膨れあがったレベルを喰って《レベル・スティーラー》3体を特殊召喚。そのままではリリースできない《レベル・スティーラー》もエクシーズ・モンスターに変えてしまえば射出できる。使えるレベルは残り33。1発や2発では済まない。この馬鹿げた威力の人形爆弾をこのまま受け続ければ……
『デオシュタインの腕が凄まじい! 最早、何をやっているのかもわからない!』
 円盤形のチェーンソーのように超高速で回転を続ける腕によって射出された《ベビー・トラゴン》、《巨星のミラ》、《No.83 ギャラクシー・クィーン》……。リードは形振り構わず盾を展開して生き残りを図ろうとしたが既に遅すぎた。衝撃波に次ぐ衝撃波はマシンガンのようにリードの全身を撃ち抜いてく。最早動くことも出来なかった。その様子を一言で表すなら 『嬲り殺し』 と言う他ない。
「駄目! あんなの受け続けたらリードさんが死んじゃう!」
(ふざけんな。おれは……おれは世界を……世界を……)

 デオシュタインは神学者であった。敬虔な信徒でもありそれ故に決闘者であった。神を信じる者が札を引くのは当然の所作であった。信仰とは運命を受け入れることであり、それは即ち抜札であった。十字架型決闘盤 『決闘聖盤(クリスティア)』 を構えたデオシュタインは控え目に言っても一流の決闘者であったが、それ以上の領域を目指そうとはしなかった。悪鬼羅刹が凌ぎを削る上の世界にとりたてて興味を示すこともなく、凡庸なデッキで平穏無事に抜札を続けた。デッキは札を引き続ける限り応えてくれる。それは神との交信に他ならない。そんな彼には守るべきものがあった。家族。幼い頃に両親を失い孤児院で決して少なくない時間を過ごしたデオシュタインにとって妻と息子はかけがえのない宝物だった。決闘はあくまで世界の安寧を願う儀式でありそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 それがいけなかった。

 妻は死んだ。息子は死んだ。彼は狂い泣いた。一ヶ月に渡る慟哭の末に彼は決断する。自分も後を追うのだと。最初はいつも通っている公園の大きな木を使って首を吊ろうと思った。普段の聡明なデオシュタインならばもう少し人目に付かない方法を選ぶところだが既に手遅れだった。なんでもいい。これで全てが終わる……終わらなかった。突然飛んできた決闘盤が彼の自殺を阻止したのだ(※昔の決闘盤にはろくな安全装置が付いていない)。それは偶然だった。偶々手が滑ってあらぬ方向に飛んだ決闘盤が彼の自殺を止めたというのだ。気を取り直してもう一度自殺することにした。外出などは行わず、家を燃やして自分も灰になろうと思った。しかし、デオシュタインはまたしても生き残った。一体いかなる経過を辿ったというのか、コレクションとして集めておいたカードユニットがデオシュタインの身体を覆い尽くし炎から守ったというのだ。何度となく自殺を試みその度に失敗を繰り返す。その全てに決闘が絡んでいた。デッキからカードがあぶれだし、およそ理解不能な順列組み合わせがデオシュタインを決闘に誘おうとする。全てを理解したとき、彼は天に向かって吼えた。

「神よ! 貴方は私に何をお望みになるのですか! 親を持つことも! 妻を持つことも! 子を持つことも! そして命を捨てることすらお許しにならないというのですか! いいでしょう。貴方がそう望むなら私は神の名の下に引き続けましょう。私が持ち続けていいものは札と盤のみ。人は札のみにて生くる者に非ず。だが私はもう人を辞める。いつまでもどこまでも引き続けてご覧に入れましょう!」

 死ぬことは諦めた。代わりに人間を辞めることにした。尚も人間であり続けることは苦痛と悲劇しか生まないとわかったからだ。決闘そのものになろうとした。決闘の神に愛されすぎた孤独な肉体を決闘に純化しようと試みた。どうすればいいのかはわからない。聖書にもやり方は載っていないのだから。何もかもが手探りだった。とりあえず頭にボルトをねじ込んでみる。悪くない。まだ足りない。二本目、三本目、四本目……折角だから全身にもねじ込もう。段々人間離れしてきた気がする……駄目だ。これでは駄目だ。人間離れを実感してる内は人間だ。 "自我" 人間としての自我を徹底的に破壊しなくては。思い切って脳を破壊すべきだろうか。駄目だ。それでは決闘者として不的確。人間であってはならない。しかし決闘者でなければならない。前例のない不規則不確定不条理な抜札を、最大最強の奥義に昇華する構築能力がなくてはならない。悪鬼羅刹が荒れ狂う決闘の荒波の中でさえ、悠然と決闘を執行できる思考精度がなくてはならない。ボルトをねじ込んだ頭を壁に叩きつけ何度も吼えた。分厚い壁が崩れ落ちるだけで何の解決にもならない。小賢しい自我が全ての行為に理屈を付けていく。不要だ。不要なのだ。私は決闘であればいい。いやむしろ決闘は決闘であればいい。いやむしろ決闘……思考の袋小路に陥ったデオシュタインの目に入ったものが人形だった。息子が持っていた人形。思いついた。所詮人間である自分に決闘の存続と自我の消失を両立することはできない。ならば自我を移し制御権を放棄すればいいのだと。日常的自我を道化に変えて人形に移し、決闘専用の自我と肉体を切り離す。儀式は凄惨を極めた。拷問と暗示が1分起きに繰り返される、そんな日々を数年間にわたって繰り返す。デオシュタインの肉体は決闘の神に愛されていた。押し潰れそうな程の愛を受け止める必要があった。気紛れで我が侭な決闘の神は通り一遍の決闘では満足しない。神の欲望とも言うべき過剰な贈り物を決闘の中で制御するには、単なる信仰では足りず、狂気を代価とする程のボルトで支えなくてはならない。デオシュタインは最後のボルトを埋め込んだ。

 こうして誕生したのが中央十傑、"ボルト仕掛けの抜札神器" トゥリスミーラ・デオシュタインである。


「負けてたまるかああああああ!」

デオシュタイン:2100LP
リード:2500LP

「止まった……」 ミィはほっと胸をなで下ろす。 「食べちゃうレベルが尽きたんだ……」
 ミィは1回息を吐くと、痛ましい姿になったリードの状態を確認した。既にボロボロで虫の息だが確かに立っている。全身に被弾した高速の人形爆弾がリードの皮膚という皮膚を痛めつけはしたが、それでもリードは立っていた。頭から血を流しながら根性だけで耐え抜いた。
「ご自慢のコンボ……全部耐えきったぞボルト野郎!」
『なんというクソ根性! 根性一つで耐えきったあああああああ!』
(奴の手札は2枚。その内1枚は《魔導書整理》でもう1枚は《アルカナフォースEX−THE DARK RULER》……《ネクロ・ガードナー》だ。正位置でなければ守りきれる。確率半々のギャンブルならそうそう悪い話でもない。相手が世界なら尚更だ)
「さあダークルーラーを投げてみろ! 確率50%の勝負といこうぜ!」
「いける。今のリードさんなら勝てる……ラウンドさん? どうしたんですか?」
「料理をするとき、最初は油を引いてフライパンを温めるところから始める」
 藪から棒に。この人はいきなり何を言い出すのだろう。最初はそう思った。
「運動をするとき、最初は身体を曲げたり伸ばしたりで適度に準備運動をする」
 何か嫌な予感がする。ラウは首を振りながら痛ましげな表情で言った。
「あいつはコンボを耐えきってなどいない。デオシュタインは拳を突き出してなどいないんだ。精々が、殴る為に振りかぶっただけなんだ。あいつはそれだけで……デオシュタインが殴る為に振りかぶったとき余波として発生したソニックブームを喰らっただけで半死半生まで追い込まれたんだ」
 ミィの顔が徐々に青ざめる。段々何を言いたいのかがわかってきた。しかしそんなことが有り得るのだろうか。あれだけボロボロになったというのに、必死の覚悟で耐え抜いたというのに。
「単なる墓地肥やしだ。あいつは墓地肥やしを観てるだけで死にかけた。勝てると思うか?」

 達人の単なる精神統一に気圧され呼吸困難に陥った道場破りが七転八起の末にようやく姿勢を立て直し、疲労困憊の中で「俺はおまえの技を破った」と思い込まざるを得ない程の差。ミィは身体の震えを抑えるのが精一杯だった。舐めていたのは誰なのか。確率50%の勝負など有り得ない。デオシュタインは既に、リードが試みた下克上の限界点を見切っていた。攻撃力、防御力、できること、できないこと、それらを悉く呑み込んだ上で決闘を報いるのが抜札神器。人形の道草さえも呑み込み勝利へ向かう。神に言い分けなど効かないのだから。己が身に降りかかるありとあらゆる条件を受け容れ、己の身を滅ぼしかねないほど神がかったドローポテンシャルを現実の試合の中で活かしきり、神さえ唸らす決闘に昇華せんとするのが彼の、デオシュタインの孤独な死闘。
「レベル4マデ下ガッタ《キャノン・ソルジャー》ト《フルエルフ》デ……オーバーレイ」
 効果発動と共にリードの表情が歪んでいく。その1体、《ラヴァルバル・チェイン》のORUを1つ取り除き、デッキの中から1枚をデッキトップに置く。普通なら次のターンのドローを待たねばならないが、場にはもう1体、ランク1エクシーズが存在していた。《No.56 ゴールドラット》の効果を発動。デッキトップからその1枚を引き抜き、手札の《魔導書整理》と入れ替える。全方位に荒れ狂う力を、闘う為の力として最大収束させる決闘能力。デオシュタインは不規則不確定不条理を制御した。
(まさか……そんな……あいつのループコンボは……単なる準備運動だったっていうのか……)
 神の欲望と闘い続けた決闘狂人、トゥリスミーラ・デオシュタインに妥協はない。





Sephylon, the Ultimate Time Lord



Arcana Force EX - The Dark Ruler



Metaion, the Ultimate Time Lord





究極時械神セフィロン(効果モンスター)
星10/光属性/天使族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。自分の墓地にモンスターが10体以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、レベル8以上の天使族モンスター1体を自分の手札・墓地から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力は4000になる。


「委員会が認めた掌握不可能な決闘者達。その内の1人が中央十傑トゥリスミーラ・デオシュタイン。墓地を削ることを要求する《貪欲な壺》や《ガガガドロー》と、墓地を肥やすことを要求する《究極時械神セフィロン》の両立も奴ならば可能だ。ダークルーラーは正位置。2回攻撃を可能とする。平均攻撃力は横並びで4000。総攻撃力は16000。人形爆弾も数に入れれば20000オーバーだ」
 死刑宣告を読み上げるラウの向かい側、バルートンは狂喜を露わにしていた。
「あれが本当の【三者三様(トゥリスミーラ・デオシュタイン)】。リード、おまえには本当に感謝している」
 当のリードは何一つ言葉を発せなかった。《ネクロ・ガードナー》を壁にする気も起きない。8000まで回復させるとかさせないとか、この光景の前には些細な問題だった。
 総合力では敵わずとも一札勝負なら勝機はある……その発想自体が、世界に対する認識不足に他ならない。リードは認識した。残酷なまでに単純明快な事実を。
(次元が……違う……)
 全てを諦め呆然とするリードをみて、パルムは舌打ちした。
「折角1つ、夢が現実になったんだぞリード。少しくらい、喜べよ」
 リードは動けない。デオシュタインはあまりに誠実な抜札神器である。リードは石を投げた。AYERS ROCKという名の石を投げた。デオシュタインは世界の名の下に波紋を返す。
「軽ンジル者ヨ……世界ノ名ノ下ニ知ルガイイ。三界ノ理ノ下ニ悟ルガイイ」



The Central World Final Duel Attack

"過去消失/現在崩落/未来未踏−三界対滅(ジ・エンド・オブ・アカシックストーム)"




 その刹那、盾を展開して飛び出したのはラウとテイルだった。呆然とするリードに防御の指示を与え、3人がかりで三界対滅を受け止める……しかし止まらない。中央十傑は止まらない。2人を弾き飛ばし、そのままリードを吹き飛ばす。弾き飛ばされた2人の内、ラウは何とか受身を取りつつ回転、テイルは尻尾を手近な柱に巻き付けて減速。決闘盤はシステムフリーズしたもののなんとか事なきを得る。……1人、無事では済まない人間がいた。
「リード……さん……?」
 リードはピクリとも動かなかった。命は絶えずとも魂は砕かれていた。
 静まりかえった会場の中でミィの絶叫とバルートンの哄笑だけが虚空に響く。 
 パルム・アフィニスは、冷たい眼で "リードだった何か" を一瞥。同時に一言 ――

 喜べよ、ぼくは喜ぶぞ……


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました!!! 残暑お見舞いついでにコメントする文化が日本に根付けば良いと思う
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話


























































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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