「くそ! まーた負けた。なんであそこでミスっちまうかなあ。今日は調子良かったのに」
 体感的には随分前のような気もする。当時、Team BURSTは存在しなかった。正確にはこのおれ、リード・ホッパーの頭の中にしか存在しなかった。どこぞのチームに助っ人しては離れ、野良C G(カードゲーマー)同士で組んでは離れ。戦績はそれなりと言えばそれなり。その場凌ぎとしては誘いやすい三桁ランカー。2回戦を上下するチームの眼から見ればそれなりの手頃商品。特定の居場所を持たないおれがデュエルフィールドに困らなかったのは、それだけの理由でしかなかった。
「愚痴ってもしょうがねえな。練習でもすっか」
 西の公園はどこも広い。決闘盤を取り出し投げ込みを開始する。気が入らない。いつまでこんなことを続けていればいい。いつになったら前に進める。焦燥は集中力を削ぎ、散漫はミスを呼ぶ。当然のようにおれの手元は狂い、明後日の方向に決闘盤が飛ぶ。しまった ―― ってな。勿論安全装置は付いている。OZONEの外部に出ようとした決闘盤は、限界領域で推力を失いポトリと落ちる。それにしたって面倒事には違いない。地面に落ちた決闘盤は完全に勢いを失うまで縦に転がっちまうからな。こうなってしまっては自分の足で取りに行くしかない。
(あーあー。始めたばかりでこれか。今日はつくづく……)
 内心愚痴りながら歩き出し、決闘盤を取りに行く。別に慌てることはない。人っ子1人、犬や猫さえいる気配がない。そう決め込んでいたら誰かいた。子供だ。小さい。小学生か中学生か。
「悪い悪い。なんかミスっちまって。それおれの決闘盤なんだ。ちょっと取らせてくれよ」
 少年がおれの決闘盤を拾い上げる。こっちに渡してくれるものと思いきや、何を血迷ったかおれの決闘盤を耳元にあてる。何度か小刻みにふり、そいつは溜息を付いた。
「ちょっと壊れてる。なんかカードくれるなら直してもいいけど」
「あぁっ? それホントか? 振っただけでわかるのか?」
「わかるも何もお兄さん、ちょっと道具の扱いが荒すぎるよ」

――
―――
――――

「本当に直るのか?」
 胡散臭いとは思った。相手は子供だ。子供なんだが……不思議な説得力がその声にはあった。
「あんた運がいいね。偶々道具を持ってきてた。簡単に言うと中に色々詰まってるんだ。完全にぶっ壊れる前なら異物を取り除いて調整し直せばほとんど元通り。
ヘブンズ・セブンが代価として成立する程度の仕事だよこんなのは。中にはぼったくる奴もいるけどね。ほら終わり」
 決闘盤を受け取ると何度か試しに投げてみる。いつもより軽い。
「確かにさっきよりなんか投げやすいな。わりい。世話になった」
 聞いているのかいないのか、そいつはおれに背を向けて帰ろうとする。無愛想なガキだ、その程度のことを思いつつおれも一言呟いて投げ込みに戻ろうとする。その一言がいけなかった。
「にしても、もうちょい早くわかってりゃあんな奴簡単に倒せたのに。運が悪いったらねーや」
 そいつの脚がぴたりと止まる。後で聞いた話だが、無視しようかとも思っていたらしい。偶々だった。偶々その少年は、一身上のいざこざで当時少しばかり気が荒かった。今にして思えば僥倖だった。
「運が悪い?」
「もう少し早く会ってれば、この完璧な決闘盤であの野郎をぶっ飛ばしてやれたんだよ」
「なんで反省しないの?」
「あぁ?」
「運が悪いんじゃない。あんたが悪いんだ。あんたが下手糞なんだよ。それだけだ」
「さっきから黙って聞いてりゃ。おまえ年上に対する礼儀とか親に習わなかったのか?」
「あんたこそ決闘者としての気構えの1つくらい誰かに学ばなかったの? デッキが泣いてるよ」
「やりあったこともない癖によく言うぜ。なんならおれの実力がどれ程のものか教えてやろうか」
 売り言葉に買い言葉ぐらいのつもりだった。そいつはバッグから決闘盤を取り出し装着する。
「構えて。今更冗談とは言わないよね」
「当然だ。後悔すんなよ」
 楽勝だと思った。おれは序盤からガンガン攻め立てる。おれの【サイキック族】は命を力に変える。裏を突かれるとそのまま押し切られる弱点もあったが、こいつにその力はないと思った。
「マックス・テレポーターをアドバンス召喚。2000ライフを払って効果発動!」
「レベル3のサイキック族が2体……サイキックコンボか……」
「オーバーレイ! No.17 リバイス・ドラゴンをエクシーズ召喚」
「リバイス・ドラゴン? ライフを払った割には馬力が低いね」
「言ってろよ。リバイスドラゴンでダイレクトアタック!」
 このままいける。だがあいつはおれにこう言った。
「もう裏返ってるよ」

――
―――
――――

「有り得ねえ。このおれがこんなガキに負ける。それに……」
「決闘が荒い。思った通り過ぎてつまらないな。じゃあね」
「待て!」
「なぁに?」
「なんだあの決闘は。おれを舐めてんのか。ふざけやがって!」
 当時あいつは中学生、おれはそろそろ大人を名乗れる年だった。決闘に負けて胸倉を掴んだのは誰がどうみてもダサい振る舞いだと頭では分かっていた。分かっちゃいたがおれは許せなかった。あいつの決闘はおよそ有り得ない代物だったんだ。ふざけているとしか思えなかったんだ。
「さっきから年上に敬意を払わないのは兎も角、あんな舐めた決闘を……」
「いいから黙れよ。あんたはそれ以上喋らない方がいい」
 敵意だった。おれはそれまで、あれだけの敵意を向けられたことがなかった。
「1つ。ぼくは舐めてない。あれがぼくの全力だ。1つ、仮に舐めていたとしてあんたはそれに負けたんだ。ならそれが全てなんだ。あんたそれでもC G(カードゲーマー)か」

――
―――
――――

「くそっ。なんなんだあいつは……なあ聞いてくれよ店長」
「おまえのことだ。どうせろくなことでもあるまい」
 這々の体で退散する破目になったおれは 『ヤタロック』 店長、パルチザン・デッドエンドに愚痴を持ちかけた。いつものノリで聞き流していた店長だったが、決闘の顛末について詳しく説明すると急に態度を変える。店長は少年の特徴について聞いた。
「その少年、手を何かで覆ってみえないようにしていなかったか?」
「ん? そういえばそうだな。野良だし一々気にしなかったけど……」
「おまえの話を総合すると、その子はパルム・アフィニスだ」
「知ってんの? 店長」
「少し前に有名になりかけた少年だ。話が広がる前に表から去ってしまったが」
「どういうことなんすか」
「決闘を蝕む病気。あいつの決闘の特異性には病気が関係していると聞いた。我々はチームデュエルが基本。ああいう患い方をしては肩身が狭かろう。子供というのは時に残酷で容赦が無い。そうか。それでも腕を磨いていたのか。そこには並々ならぬ苦労があった筈だ」
「もしかして……おれってばまたやらかしたのか……」
「一つ言えることは……」
「一つ言えることは?」
「おまえは弱い」
「ぐっ……」

――
―――
――――

「偶然会ったってわけでもないみたいだねその顔は」
 後日、おれはあいつの、パルム・アフィニスの前に立っていた。もう一度よく確かめる。未熟児らしく、低くて細い身体。同年代からも侮られることは想像に難くない。その上、『隠された腕』。店長から聞いた話が確かなら、こいつの決闘には肉体と社会から二重の制限がかかっている。
「ああ。随分歩き回った。そんでようやく、おまえと巡り会えた」
「逃げ回った覚えはないし、探し方が悪かったんだろ」
「んなことはどうでもいい。あれで終わるわけにはいかねえんだ」
「目の前に突き付けなくても、それがデッキだってことはわかるよ」
「もう一度勝負しろ。いや、勝負してくれ」
 おれにはそうすることしかできなかった。そうすることに何の意味があるのか。リベンジしたからって何が変わるのか。そういうことはまるで頭になく、ただただ、おれにできることをしようと思った。
「……わかった。構えて」

――
―――
――――

「デビル・フランケンからのマスター・オブ・OZ……払うライフを増やしたのか……」
「初見殺しもいいところだがおれにはこれしか思いつかなかったし、これしかなかった」
「決闘盤が重いだろ、それ。半分ぐらい禁止カードみたいなもんだし」
「出力が高過ぎるってんで禁止になって、決闘盤にかかる負荷が大き過ぎるってんで制限になったカードだ。確かにクソ重いっちゃクソ重いが、その為にデッキをできる限り軽量化した。副作用で獣臭くもなった。ま、なんつーか、腕のいいガキに決闘盤をチューニングしてもらったからな。あれからずっと考えたんだ。おまえの方がおれより強い。だから手段は選ばない。これでいいんだろ」
「ああ。あんたの勝ちだ。それであんたはどうしたいの? 単にリベンジしたかっただけ?」
 結局何をしたかったのか。今となってはどうでもいい。おれはその時思ったことを口にした。
「おまえと一緒に天下を取りたいんだ。おれとチームを組まないか。てゆうか組め」
 パルムは一瞬、きょとんとした年相応の表情を浮かべた後、元の仏頂面に戻る。
「別にあんたの野望を否定する気はないけど純粋に興味が湧かない。他をあたれよ」
「勝ったのはおれだろ」
「賭け決闘をした覚えはない」
「そういう流れだろ。そういう流れ」
「知らないよそんなの。悪いけど……」
「おまえのデッキ……病気の話は聞いた。 "五枚規制" の話も聞いた。それでもおれは誘いたい。力を借りたいんだ。おまえには決闘者の魂がある。それをおれに貸してくれ」
「頭を上げろよ。ぼくにそれだけの価値はない。ぼくは欠陥品だ」
「大して価値がないなら30円ぐらいで貸してくれたっていいだろ!」
「どうでもいいけど、なんでそんな、西のチャンピオンになりたいの?」
「世界だ」
「へ?」
「西部一は通過点。おれは "世界一" になりたい」
「正気で言ってるの?」
「正気で言ったら不味いってルールでもあるなら正気なんて喜んで捨ててやる。いいか。世界は広いんだぞ。旅番組ぐらいしか報道されないけど本当はあっちでも決闘が盛り上がってるんだ。ミツル以上の決闘者がいるって話も小耳に挟んだ。西部一よりも世界一だろどうせなら」
「ミツル以上とかいう前に、ミツルに勝てるつもりなの? あんた」
「確かにおれは弱い。おまえよりも弱い。でもさっきおれはおまえに勝った」
「ミツルはぼくみたいな "欠陥品" とは違う。パーフェクトだ。チームも強い。あいつらの張るフィールド魔法は西の摂理と直結している。ぼくは歯車街の効果すら使えなかった。そういうことなんだ」
「勝ち目はある。勝ち目のない相手なんていない。いつだってチャンスはあるんだ」
「なんでそう言い切れるの?」
「世界は広いんだ! 10歳の時にそれを知ってワクワクした。今まで真ん中だと思ってた場所が端っこに過ぎないって知ったときおれは心が震えるのを感じた。別に西が嫌いなわけじゃない。嫌いじゃないけどこのままじゃ嫌いになっちまう。閉じた世界の中で 『これが普通だ』 と思い続けて何になる。エアーズロックって知ってるか? 御伽噺に出てくるむっちゃでかい岩なんだ。その上に乗って世界を見渡したらどんだけ気持ちいいだろうなって10年間ずっと考えながら生きてきた。おれは "世界" って岩の上に立ってみたいんだ。世界は広い! 世界がうんと広いなら、おれが勝てる可能性の1つや2つ転がってるかもしれない。そう思ったら挑むしかないだろ!」
「無茶苦茶な理屈だ。でもまあ1つだけ同意できることもある。ぼくもいつか西を出たいと思ってた。世界を回れば1つくらい "馴染む場所" があるかもしれない。ないかもしれないけどあるかもしれない」
「そうだろ。あんな規制は糞だ。俺達の世界は完璧じゃないんだ。わかってくれたか!」
「だからといって西の大会に出る気にはならない。チームデュエルなんて疲れるだけだよ」
 パルムのそれは寂しさを帯びていた。それがわかった以上、無理強いはできないと思った。
「そうか。わかった。言うことは言ったからこれ以上は言わない。もし気が変わることが……」
「でも整備くらいはしてもいい。今聞かせてもらったあんたの考え方は嫌いじゃないから。あんたの馬鹿げた野望に乗るだけの価値があるかどうか、見極めさせて貰うよ」
 Team BURSTは、この時初めて現実の何かになったんだ。

――
―――
――――

「前から思っていたことだが西の人間はおれのことをなんだと思っている。中央出身だからといって誰も彼もが決闘上手というわけでもない。逆に、誰も彼もが小手先の決闘に溺れた単なる自信過剰とやらでもない。自分に都合の良い世界観を抱くのは……いいから人の話を聞け。大体2人ではチームのていすらなしていない。天下を取る? 正気か……わかったわかった。この詰め決闘を明日までに解いてこい。そしたら少しは……おい待て。確約じゃないからな。ちゃんと人の話を聞け」
 快諾してくれた。驚いたことに場所と資金まで提供してくれる。親切な奴もいたもんだ。

「チームデュエル? ふーん。あれこれ束縛されないならやってもいいよ。正直天下取るとかどうでもいいけどあんたらといるのは楽しそうだ。改めて自己紹介するけどおれはテイル・ティルモット。王虎のワンフー、疾風のゲイル、そんで尻尾のテイルってね。覚えやすいだろ?」
 正直、もう1人の女(アリアとかそんな名前だった気がする)の方がよかったんだが贅沢は言えない。こいつはこいつで腕が立つ。 『平和主義者だから破壊が苦手』 という、その場でブン殴りたくなるような説明を受けたが、 『破壊』 よりも 『バウンス』 や 『一時除外』 の方が捗る場面もある。センスで言えば申し分ないんだ。要は起用法の問題。それがチームデュエルの醍醐味だ。んでもって、

「わたしもチームに入れてください。なんだってやります! わたし、リードさん達と一緒に決闘やりたいんです。情熱だけならいくらでもあります。わたし、このチームで決闘したいんです!」
 こいつを入れたのは確実に気の迷いだ。トチ狂って良かった、今ではそう思いつつある。

――
―――
――――


 ラウやテイルとスパーデュエルを重ねる内に、俺自身も気が付いたら二桁ランカーになっていた。それでもてっぺんは遠く険しい。だが諦める理由はない。手は届く。届くところにいる。5人の個性を十全に活かしきれれば勝機はある。ラウの対応力と堅実性、テイルの打撃力と意外性、パルムの爆発力と異常性、そこにミィの成長性とおれの突破力を掛け合わせる。未来はきっとある筈だ。

第一試合:テイルVSガスターク(第1の仮面)
第二試合:ラウVSゼッペス(第2の仮面)
第三試合:リードVSオウチュリィ(第3の仮面)
第四試合:ミィVSボーラ(ボラートン)
第五試合:No EntryVSバル―トン(不戦勝)

「なんだこれ」 リードの第一声がそれだった。
「なんだもなにも決勝の対戦表に決まってる。さっき渡してきた。決勝は丁度10分後だ」
 ラウは例によって例の如く真顔でそう言い放つ。リードは首を90度曲げてテイルを睨み付けるが、 「それ書いたのラウ先生」 と受け流される。もう一度首を90度曲げた。標的はラウ。
「ブロートンの兄貴達とあんな因縁付け合ったってのに、全然噛み合ってないぞこのオーダー」
「そういうことは早く言ってくれ。おれはあの時手続きをやっていたから何も見ていない。いずれにせよ、これがもっとも勝率の高い作戦だ。あの兄弟は決して侮れない」
「いいのかそれで。おれたちは本当にそれでいいのか」
「優勝することを前提に決闘するんじゃなかったのか? どのみち戦力が足りていない以上、3連勝できっちりケリをつけるのが望ましい。わざわざ相手の土俵に乗る必要はない」
「おまえには熱く燃えたぎる闘いへの渇望とかないのか……ったく……」
 愚痴混じりに後ろを向くリードを尻目に、ラウはテイルと小声で話す。
「空気を読めていなかったようだが。間違っていたのだろうか」
「どうだろうね。背中痛いし、正直今日はテキトーに乗り切りたい。先鋒でいいよ」
「3回戦でチラッとみたんだが、あのバルートンという男とおれが闘ったらどうなる」
「おれも一目で全ての力を計れるわけじゃないからね。まあでも分は悪いかな」
「なるほど。この地下決闘の中にあって、あいつはなんというか……」
「なんというか?」 「捉え所がない。おまえにも少し似ている……ってどこへ行く」
「すぐ戻るよ」 「あと8分しかないぞ」 「すぐ戻るって」 テイルはひらひら手を振った。

「なあバル兄ィ……」
「 "Team Earthboundのスポンサーとして有名なアースハウンド社が新型カードユニット《同種同源》の開発に成功、性能検査を経て決闘管理委員会の認可を受ける。同社の製品では《地培神獣メル・ウォレス》を超える傑作であり、次の大会での活躍が期待されている" ……なんともまあ」
「バル兄ィ、決勝戦のことなんだが……」
「おっ、これすげえな。 "久しく動きのなかった 『殴れる蛍光灯』 が社運をかけて開発した新型ライトロード、《裁きの龍》、認可秒読みか" ボーラ、これみろよ。こいつすげえこと書いてあるぞ」
「少しはこっちもみろよバル兄ィ。あいつらとんだ腰抜けだ。あたしたちから逃げやがった」
 ボラートンが忌々しいとばかりにぼやくが、バルートンは手を叩いて面白がった。
「嫌がらせのようなオーダーもこの大会の醍醐味だろ」
「やるのは良くてもやられるのは困るだろ、あんたも」
「なあボーラ。1人でも勝てばおまえに出番がまわってくる。ならどうにでもなるさ」
「バル兄ィはいつでも楽しそうだ」
「そうでもない。ここまでの決闘は本当に楽しくなかった」
「あれだけ好き放題死にかけておいて? 3回戦では乱闘までした癖に」
「駄作でも極力楽しむ主義なんだ。いつでもどこでも楽しんでいたい」
「バル兄ィにとっては、努力も手抜も王道も邪道も、乱闘さえも枝葉末節に過ぎないってか……」
「地上のレベルは上り坂。世代交代と共にレベルが上がり始めている。Earthboundは痺れを切らして新人と新型を導入し、FlameGearはエルチオーネ・チェネーレが順位を上げ、Galaxyは新体制を築きつつある。あのTeam BURSTも上がり目の1つだろ。新しい勢力もでてきている」
「地上にも詳しいんだな」 「安い情報だ」 「あんたは読むのが早い」
「地下も地上もそんなには変わらない。天下のEarthboundなんていっても、最初は暴引族に毛が生えたような連中の集まりに過ぎなかった。 "節制が必要な" 地縛神を与えて、日の当たる土地に縛り付け、品行方正が服を着て歩いているミツルを大々的に売り出す。地上は地上に、地下は地下に。なんとも面白味に欠ける話だ……あーあ。誰かこの地下のリングをぶっ壊してくれねえかな」
 バルートンは軽くのびをしてから淡々と言い放つ。
「じゃないと、そろそろ俺がぶっ壊さないといけなくなる。それはあんまり面白くない」
 物々しい発言を聞いたボーラは、ほんの一瞬身を震わせる。
(バル兄ィには未練がない。快楽の追求の為にはあらゆる努力を惜しまないが、苦労して作り上げたものでさえ 「要らねえ」 ってなったら本当にサクッとぶっ壊す)
「決勝戦か。さあ、おまえらの欲望(デュエル)をみせてみろ」

「なあミィ」 リードがミィに問いかける。
「あの優勝カップ欲しいか? なんか薄汚れてるけど」
「もっちろんですよ。なんでそんなこと聞くんですか?」
「ラウやテイルは別に欲しがってないと思うぞ」
「……リードさんはどうなんです? 大規模大会じゃないと駄目なんですか?」
「当然……と言いたいところだが、実を言えばあの優勝カップが欲しいんだよ。初優勝は初優勝。権威もへったくれもない大会とはいえおれのチームが決勝にいる。優勝しない手はない」
 ミィは頷いた。その考え方は素敵だと思った。あの優勝カップを一度自分の手で持ってみたい。
「おれたちはこっからだ。こっから始まる。そう思えばやる気も出るってもんだろ……」
「ほら、大事に使って」 横合いからパルムが決闘盤を手渡す。リードはその場で黙考していた。
(大規模大会でEarthboundやFlameGearを倒すってんなら、目標に向けて一丸となっていないといけない。ここで優勝して 『西部一を目指すぞ!』 と叫べばちょっとした説得力が生まれる。あいつらにも何かしら訴えるものがあるかもしれないじゃないか。西部一を取る。 "まずは" 西部一を取る)

『遂に決勝! よくぞ帰らなかったおまえ達! 帰った奴らは真っ当だ! おまえ等は間違っている! 間違ってるなら精々騒げ! 騒げ! 騒げ! もっと騒げ! ぶっ倒れるまでトチ狂え!』

「テイルはどこだ。もう始まるぞ」 ラウは辺りを見回した。
「はい! はい! はい! 【屑鉄の直送便】は今日も絶好調」
「さっさと行ってこい」 「その前に、ちょっと1つお話がありまして」

「よくここまで上がってきたな」 「歯ごたえがなさすぎるんだよ」
 バルートンとリードが舌戦を開始する。お互いに一歩も譲らない。
「同感だ。俺もそれで悩んでた」 「おまえも同じ穴の狢だろうが」
「それだよそれ。何も恐れていない向こう見ず。それが堪らない」
「恐れて決闘はできねえだろ。おれにはおれの野望がある。その手始めがここだ」
「いい啖呵の切り方だ。精々練習していけ。 "三者三様(トロワ・ファクティス)" 、出番だ」
「ティル、いってこい!」 「はいよ」 テイルはラウと別れると、そのまま戦場に向かう。
「ラウンドさん、テイルさんと何を話してたんですか?」
「ろくでもないことだ。あいつらしいと言えばあいつらしい」
 フィールドを挟んで向かい合う2人。実況が叫び声を上げる。
『舌戦は盛り上がったか? 因縁は付いたか? ならそろそろ始めるぞ! ベリアルカップ決勝戦、てめえらなんでもかんでもぶっ殺せえええええええええええええええええええええええええええ!』


DUEL EPISODE 20

Duelist Dream〜手繰り寄せられた糸〜


Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Underground Card Duel!


決勝戦第一試合
テイルVSガスターク


Turn 1
■ガスターク
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000
□テイル
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 0
 Life 8000

『さあ遂に始まった! 先攻を取ったのはBelialKillerの一番手! 地獄の沙汰も札次第! 何重にも糸が絡み合う七面倒くさい構築も、こいつにかかれば一山いくらの因果論に過ぎないというのか! 阿鼻叫喚のまっただ中、半笑いの糸をたらし込み、冥府のクソったれ共を弄ぶ! 七色の仮面に刻まれた殺人芸能、奴こそは 『地獄の "無限軌道(ベルトコンベニスト)" 』 ガスターク!』
「モンスター、マジック・トラップを1枚ずつセット。ターンエンド」
『後攻に甘んじたのはBURSTの一番手! 腰元の尻尾がチャーミング……なんて言うとでも思ったか! 舐め腐った闘いぶりに不人気絶賛上昇中! 破壊を嫌う平和主義者と書きまして、たった3文字糞野郎と読ませるこの胡散臭さ、屑鉄拾いのティル・ティルモットだ!』
「ドロー。仮面付けるの流行ってるの? マジック・トラップを1枚。ターンエンド」

Turn 3
■ガスターク
 Hand 4
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000
□テイル
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「ドロー。《強欲なカケラ》を置く。ターンエンド」
「あれ? 置くのはいいけど殴んないの?」
 不気味な沈黙を続けるガスタークに何かを感じとったのか、テイルは《ジャンク・シンクロン》と《ジャンク・サーバント》を速攻展開。《ジャンク・アーチャー》。投盤の衝撃波がガスタークを軽く煽る。テイル得意の戦法。ほんの一瞬壁を取り除きその隙にダイレクトアタックを決める。2300ダメージ。あからさまに怪しいセットモンスターは殴らず放置。 (これで向こうも焦る筈……っておい) ガスタークを二度見したテイルが見たもの。それは、見るからに怪しげな人形だった。
「ダイレクトアタックダー」
「なんだそれ。人形か?」
 いつの間にかガスタークの手の甲には尻尾付きの人形が装着されていた。
「俺ノ《ジャンク・アーチャー》ハ無敵ダ。おまえニ勝チ目ハナイゾ降参シロ」
 尻尾付きの人形が主人であるガスタークを挑発する。
「なに? 降参しろだと? 三流の挑発は己の身を卑しめるだけだぞ」
 本物のテイルを置き去りに、ガスタークが腹話術の人形を煽り返す。
「おい。おれはんなこと言わないぞ。なに勝手に人の人形作って……」
「サンリュウダトー。ナンダッテー。ムガー」
「おい……」
「バル兄ィ、ガスタークの一人芝居が始まったみたいだ。ガスタークの人形芸にかかっては、相手はいつの間にやら都合のいいやられ役と成り果てる。あいつは最早人の話を聞かない!」

Turn 5
■ガスターク
 Hand 4
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 2(《強欲なカケラ》/セット)
 Life 5700
□テイル
 Hand 4
 Monster 1(《ジャンク・アーチャー》)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000

「ドロー。《強欲なカケラ》にカウンターを1つ……セットしておいた《グリズリーマザー》を反転召喚」
 ガスタークが動いた。《ジャンク・アーチャー》に向けて自爆特攻を仕掛ける。狙いは墓地肥やしか、そうでなければコンボパーツのリクルートか。いずれにせよ通せば不味いと考えたテイルは、セオリーに従い《くず鉄のかかし》で自爆特攻を堰き止める。
「そんなあからさまに倒し損臭いモンスター、馬鹿正直に迎え撃つかよ」
(流石はテイル) リードは頼もしげにチームメイトを見る。
(人の話を聞かないことにかけてはあいつも負けちゃいない)
「おれをデートに誘いたいなら、もっと気の利いたもんを用意しろって」
「ゼーゼーハーハー。コレガ俺ノ《くず鉄のかかし》ダ。マ、マ、マケルモノカー」
「必死の防御というわけか。その時点でおまえの底が知れるというものだ」
「……」 (珍しいな。あのテイルが呆れている。あんま良くない兆候……か?)
「メインフェイズ2にモンスターを1枚セット。思う存分かかってこい。ターンエンドだ」
 壁が2体。《ジャンク・アーチャー》の効果は1ターンに1度きり。2体同時に除外することはできない。しかしそれで参るテイルでもない。1枚引いて流れ作業のように《ジャンク・アーチャー》で《グリズリーマザー》を除外。手札からモンスターをセット。今度は《異次元隔離マシーン》を発動。
「ダイレクトアタックだ。そんなあからさまに殴り損臭いモンスター、馬鹿正直に殴るかよ」

ガスターク:3400
テイル:8000

『またしても壁を取り除いた! 身も蓋もない闘い方でガスタークを追い詰める!』
「まともに勝負しろ!」 「セコイ手使ってんじゃねえ!」 「どうでもいいから死ね!」
「……ったく、直接攻撃なら地縛神も同じなのに、なんでおれだけセコイって言われんだ……」
 愚痴るテイルの後方、リードは比較的穏やかな感情で分析していた。
(地縛神は神様が海を割るとかそういうノリ。あいつのは留守を狙ってコソ泥やるようなもんだからな。とはいえ流石はテイル。人の話をどこまでも聞かない。これなら流石のあいつも焦る筈……)
「コ、コ、コ、コ、コ、コ……コンボナンカゼッタイサセテヤラナインダカラナ」
「泣ける話だ。確かにコンボ使いはリクルーターやサーチャーを用いて時間を稼ぎつつパーツを集めるものだ。それに付き合わず攻める。哀しいな。心の怯えが透けて見えるぞ」
「コンボコワイコンボコワイ。モウカエリタイヨコンボコワイウエーンウエーン」
「おまえいい加減にしろよ。なんでおれがびびってるみたいな話になるんだよ」
「かっかしてきたかっかしてきた」 ボラートンが戦場を楽しげに眺める。
「そうはいっても、あのテイルマンが挑発一つで簡単に崩れるようにはみえない。そうはいっても、ガスタークもガスタークでそのくらいは "織り込み済み" だ。なあバル兄ィ、どっちが勝つと……」
「 "常に最高級の黒魔術をお届けします。魔導結社 『Faith Book』 が自信を持って送り出す奇跡の実用新案《トーラの魔導書》" 確か去年が《ネクロの魔導書》で一昨年が《グリモの魔導書》だったか。毎年毎年細々と新型出してるよなあこいつら。あと10年ぐらいしたらブレイクすんじゃねえの」
「あんたも少しは人の話を聞け」

Turn 7
■ガスターク
 Hand 4
 Monster 1(《グリズリーマザー》)
 Magic・Trap 1(《強欲なカケラ》/セット)
 Life 3400
□テイル
 Hand 3
 Monster 1(《ジャンク・アーチャー》)
 Magic・Trap 3(セット/セット/《異次元隔離マシーン》)
 Life 8000

「ドロー。これで《強欲なカケラ》が完成した」
「どうぞどうぞ引いてください。干渉しないよ」
「しない? そこはできないと言うべきだ」
「ハカイデキナイ。ヒカレテシマウ、ヒカレテシマウ」
「 『破壊』 はいいぞおテイルマン。リバースマジック、《大嵐》」
(《大嵐》を使えるのか。初手に伏せるとはやってくれるね……)
 《くず鉄のかかし》を筆頭に、積み上げた防波堤を一網打尽に崩される。
「コワイヨーコワイヨー。サッキノターンデタオセテタラヨカッタノニー。モウダメダー」
「せわしない決闘者に朗報だ。《一時休戦》を発動。お互いにカードを1枚引きダメージはゼロになる。バトルフェイズ、《グリズリーマザー》で《ジャンク・アーチャー》にノーダメージ・スーサイド・アタックを仕掛ける。2体目・3体目をリクルート。ラストは《スクリーチ》。劇の礎になるがいい」
「《グリズリーマザー》に《スクリーチ》、そんなん墓地に落としてなんとやらっと」
「モンスターを1体、マジック・トラップを1枚ずつセットしてターンエンドだ」
「ダメージヲアタエラレナインジャカチメガナイヨウエーンウエーン」

 軽く舌打ちをしてテイルはドロー、《強欲で謙虚な壺》をそのまま発動する。捲れたカードは@《死者蘇生》A《ジャンク・ディフェンダー》B《受け継がれる力》。テイルは実質二択の選択肢を吟味した。攻撃重視の《死者蘇生》か守備重視の《ジャンク・ディフェンダー》か。軽口を叩くこともなく長考を重ねる。 「テイルさんが真面目に迷ってるところ初めてみた」 ミィの言うようにそれは珍しい光景。1分経過。にわかに騒がしくなる。ここにいる観客は我慢という言葉を知らないのだから。2分経過……
「どうしたテイル・ティルモット。そんなに怖いのか」
「コワイヨオ。ガスタークノコンボガコワイヨオ。コワイヨオ」
「その人形がさっきから目障りなんだが」 「コワイヨオ!」
「なあ、そろそろそれ引っ込めろよ」 「ドウシヨ! ドウシヨ!」
「引っ込めろって言ってるだろ。背中に響くんだよ……」
「ジャンクディフェンダーヲ選バナイト! 守ラナイト勝テナイ!」
 マイペースを貫いてきたテイルの表情が徐々に険しくなる。
「《死者蘇生》を選択。面倒臭いからもう殴らない」
「おやおや」 ボラートンが薄ら笑いを浮かべる。
「何やら胡散臭いやりとりが始まってるみたいだ」

Turn 9
■ガスターク
 Hand 5
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 3400
□テイル
 Hand 5
 Monster 2(《ジャンク・アーチャー》/セット[※異次元隔離マシーンの破壊により帰還])
 Magic・Trap 0
 Life 8000

「ドロー。全てはレールの上に乗った」
 ガスタークの一人芝居に釣られた決闘者はいつの間にか操られている。原因と結果の反転。コンボの成立でテイルの興味を惹くのではなく、テイルを煽り立てることでコンボは成立に向かう。
「おまえの意思はこの決闘から既に消えている。《レクンガ》を反転召喚」
 《レクンガ》。度重なる墓地肥やしは、 "質" よりもむしろ "量" を基準としていた。《レクンガ》の効果発動。墓地の水属性モンスターを2体除外する毎に、レクンガ・トークンを生産する大目玉。テイルの芸風を考慮に入れ、待つ空気を作り出した上で罷り通っていく。 「始めようか」 ガスタークは1000ライフを支払い《簡易融合》を発動。《レア・フィッシュ》を特殊召喚。
「水属性レベル4の《レクンガ》及び《レア・フィッシュ》でオーバーレイ!」

バハムート・シャーク(エクシーズ・効果モンスター)
ランク4/水属性/海竜族/攻2600/守2100
水属性レベル4モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。水属性・ランク3以下のエクシーズモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。このターンこのカードは攻撃できない。


「水属性専用エクシーズ……」 「効果怖イ効果怖イ」 「黙ってろ」 「怖イ怖イ」
「ORUを1つ取り除き効果発動。エクストラデッキから水属性ランク3以下のエクシーズモンスターを格安でリクルートする。雇い上げるのは《No.30 破滅のアシッドゴーレム》。《強制転移》を発動。《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の支配権を移す」
「《大嵐》に続いて《強制転移》まで使いこなすか。ならセットモンをくれてやる」
「ほう。セットモンスターは《クリッター》か。延命札へのラインはこれで断たれた」

「リードさんリードさん、あれって何がヤバイんですか?」
「《バハムート・シャーク》のリクルートにはORUが付いてこない。傷物だ。格安のリクルートにはそれなりの裏事情がある。それを逆用したのがあいつのコンボ。ORUのないアシッドゴーレムは木偶の坊にすら劣る曰く付きの一品。ORUの切れ目が縁の切れ目、薬中患者顔負けの暴れっぷりで持ち主に迷惑をかける。といってもテイルの負けが決まったわけじゃない。処分する方法は幾つかある」

 テイルとガスタークが向かい合う。お互いが腹に一物を抱えながら、丁々発止の攻防を繰り広げる。先に笑おうとしたのはテイルだった。しかし現実には、同時にほくそ笑んでいた。
「おいおい。この程度なら」 「コレガオマエノコンボカ」
「 『除外』 や 『リリース』で破れるぞ」 「コノテイドナラヤブレルゼ」
「ありゃ?」 人形の声が徐々に重なっていく。申し合わせたかのように。
「残念だがおまえにやれることなどもう何一つ無い。 『除外』 に 『リリース』 、できると思うか?」
 次の瞬間、テイルの場に2つの箱が出現した。重々しく蓋が開く。1つの箱には串刺しとなった《ジャンク・アーチャー》の死骸、もう1つの箱には《バハムート・シャーク》。
『伏せられていたのは《死のマジック・ボックス》! 《バハムート・シャーク》までくれてやったぁっ! 否応無し! ベルトコンベアに乗せられた荷物のように、テイルのしもべがエクシーズと入れ替わる!』
「ショータイムだ! 場のレクンガ・トークン2体をリリース、通常召喚権を行使、レベル8《フォトン・カイザー》をアドバンス召喚。効果発動。デッキからもう1体の《フォトン・カイザー》を特殊召喚、そのままオーバーレイ! 糸は既に絡まった。もう逃げ道はない」

No.15 ギミック・パペット−ジャイアントキラー(エクシーズ・効果モンスター)
ランク8/闇属性/機械族/攻1500/守2500
レベル8モンスター×2:自分のメインフェイズ1でこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊する。破壊したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、さらにそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。この効果は1ターンに2度まで使用できる


『でたあ! 準決勝、Team Birdwatchingのエクシーズ部隊を虐殺した《No.15 ギミック・パペット−ジャイアントキラー》! シンクロ使い・テイルを相手にして尚、その砲身は健在だぁ!』
「ジャイアントキラー……相手依存の技を自分から……」
「効果発動。2体纏めて取り込め! ギミック・パペット−ジャイアントキラー!」
 玉座に座った執行者が首括りの糸を放ち獲物を絡め取ると、そのまま自らの内部へと引きずり込む。一石二鳥。エクシーズの死骸を砲弾に変えて。胸部キャノン砲を展開 ―― 発射。



Gimmick Puppet Giant Killer

Combination Attack

一 人 芝 居(ワンマン・ステージ) ! !



ガスターク:2400LP
テイル2400LP

『ライフが並んだ! これで五分……いや、違う! ガスタークはダイレクトアタックを残している! テイルの場には何もなし! ベルトコンベアに乗せられて、地獄に宅配されて逝ったぁっ!』
「入れ替え、消し去り、殴り殺す。後に残るはトドメを運命づけられた兎一匹。装備魔法《エクシーズ・ユニット》を発動。攻撃力は3100まで上がる。さようならテイル、さあ……」
(残念だったなガスターク) 「ザンネンダッタナガスターク」
(その攻撃は通らない) 「ソノコウゲキハトオラナイ」
(読まれた ―― こいつ ―― )
「素直に殴るとでも思ったか? 言った筈だ。おまえにやれることなどもう何もない」
「おい、まさか……」
「バトルフェイズに入る前、《禁止令》を発動。《ジャンク・ディフェンダー》を宣言」
「《ジャンク・ディフェンダー》!?」 ミィは大声をあげた。 「なんで! 選んでないのに」
「テイルらしいと言うべきか」 ラウは呆れたように言う。 「あの長考自体には何の意味もなかった」
 テイルは試合前、カードチェンジの規制が一切ないのをいいことに、《ジャンク・ディフェンダー》を積めるだけ積んだ。普通に1枚目を引き、《強欲で謙虚な壺》で2枚目が捲れたのをいいことに、あたかも虎の子の1枚であるかのように悩んでみせる。挑発されるのも計算の上。挑発に乗ったふりをしてガスタークの勇み足を誘えばいい……筈だった。
「策士策に溺れたなテイル。前の試合も、《BF−熱風のギブリ》で延命を図った奴がいた。そういう子供騙しの延命行為を潰せないほど安い決闘は演じていない。ダイレクトアタックだ!」
『立場逆転! ガスタークが一枚上を行っていたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああしかし死なない!!』
「なにぃ!?」
『《ガガガガードナー》がいつの間にやら立ちはだかっているぅ!』
「《ガガガガードナー》……あれって確か……ラウンドさんが使ってた……」
「この大会、試合前におけるカードチェンジの制限は一切ない。あいつの言う通り、次鋒のおれのデッキが試合開始1秒前まで39枚だとしても何の問題もないということになる」
「ならば! ジャイアントキラーで《ガガガガードナー》を攻撃する!」
「攻撃を受け止めた《ガガガガードナー》の効果発動。ギブリを捨てる」
「《BF−熱風のギブリ》だと!? なぜ貴様がそれを持っている!」
 コンプの難しさに定評のあるBFシリーズ、それも《ジャンク・ディフェンダー》と役割の被る《BF−熱風のギブリ》をテイルが持っているのは不自然、そう考えるのも無理はない。しかし無理はない。
「敵の敵は味方。あんたを凹ましたいって言ったら気前よく貸してくれたぞ」
「延命を3種類……まさか……」 「三種九枚の正面防御だ。いかした真っ向勝負だろ」

 名付けて ――

「【壁撞き遊び(ナイン・ウォール)】」

「く……」 「く……」 「く……」

「「「くだらねえ…………」」」

『ガスタークが仕掛けた匠の技を死ぬほど単純な方法で受けきったぁっ……ってふざけんなバカ!』
「なに奥義みたいに言ってんだ!」 「延命札9枚とかてめえは小学生か!」 「9枚あっても1回1枚しか使えねえだろ!」 「得意面なんかしてんじゃねえ!」 「あのやりきった顔を誰でもいいからブン殴れ!」 「死ね!」 「生まれる前に死ね!」 「輪廻転生から転げ落ちて死ね!」
 正直ちょっと感心したミィと、腹を抱えて爆笑するバルートンは兎も角、リードを含めたほぼ全員が罵声を放るが、テイルは尻尾をぱたぱたさせながら何食わぬ顔で 「あれ? どうかしたの?」 と言わんばかりのとぼけた態度。チームメイトすら呆れさせる戦法を大真面目にやってのける。
「外見も決闘も黙ってやってりゃ二枚目で通るのに、なんであいつはあんなんなんだ」
「相手の性質上、最後の1発さえ止めれば勝てると踏んだ。間違ってはいないが……」
「テイルはシンクロ使いだ。いくら余った分はシンクロ素材になるっつってもよ……」
「ああいう身も蓋もないひっくり返し方が好きなんだろう。あいつらしいとは言える」
「あいつ、デッキ名も技名もその場で適当なこと言ってるだけだろ。クビにしてえ……」
「ふむぅ……」 (この娘……) パルムは思った。(こんな展開でも真剣にみてるのか)

「小細工を! しかし、こちらの場には2体のモンスターがいる。そうそうすぐにはやられん!」
「学習能力がないね。底の知れた人形風情と、今更おれが時間をかけて殴り合うと思うか?」
 テイルは《ジャンク・ディフェンダー》をコストに《ワン・フォー・ワン》を発動、《チューニング・サポーター》を呼ぶ。《死者蘇生》で《ジャンク・シンクロン》を引っ張り上げ、《アームズ・エイド》を展開。1枚引いて《貪欲な壺》。2枚引いてレベル2モンスターを通常召喚。《アームズ・エイド》を装着すると共に、《受け継がれる力》で《ガガガガードナー》の力を足す。攻撃力は3000。テイルはバトルフェイズを宣言した。ステルス機能を発現したそれは、ジャイアント・キラーの高感度センサーをかいくぐり目標に到達。目にも止まらぬ早技で "目障りな程素晴らしい人形" を狙う。
「この決闘は【屑鉄の直送便(ジャンク・ジャパネット)】の提供でお送りいたしました。隙間に蔓延る頑固な汚れをすっきり綺麗にさっぱり快適。地獄の底までお届けします。送料無料でさっさとくたばれ」


Jinzo #7 Combination Attack

隙 間 掃 除 の 尻 尾(スニーク・テイル) ! !



人造人間7号(効果モンスター)
星2/闇属性/機械族/攻 500/守 400
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。


『夜中の通販で売っていたああああああああああああああああ! 人形が吹っ飛び試合が決まる! 負けた糞野郎はガスターク、おまえら速攻で煽り殺せ!』
「ざまあみろガスターク!」 「ご自慢の糸で首吊って死ね!」
 罵声の中を掻き分け、テイルがチームに帰還する。
「所詮は子供騙し、おれの決闘はその上を行く」
「子供騙し以下じゃねえかバカ!」
「ラウ先生、これ返すから後宜しく」
「ああ。ここで一気に流れを掴む」

決勝戦第二試合
ラウVSゼッペス


「下々の者達は、我が身に嫉妬し迫害を始めた。しかしそれは、伝説を彩る香辛料に過ぎない!」
『Belialkiller、第2の仮面が独演会を開始した! 聞く物全てを天国に誘う一大演説! 圧倒的自由言論がインテリ気取りを追い詰める! その歩みの前に障害物など存在しない! 『唯我論的天国観(パラダイム・オブ・ゼッペス)』 今こそゼッペスここにあり! 緑一色の仮面が今更何を隠すというのか! こいつにとっての仮面は、最早顔の一部に過ぎないとでも言うのかああああああああああ!』
 封殺を図ろうとするラウの果敢な攻めにゼッペスは膝を付く。敢えて付く。立ち上がる為に。
「英雄とは幾多の、卑劣なる暗殺を乗り越えた者でもある。敵が卑劣であればあるほどに英雄はその輝きを増し正義を獲得していく。ゼッペスは立ち上がった。民は喝采の声を上げ祝福する」
 実際は罵声の嵐だがゼッペスには聞こえていない。祝福のラッパしか聞こえていない。
「ゼッペスよ剣を取れ! 今こそ命令をくだすのだ。一度ゼッペスが剣を振り上げれば、命を惜しまぬ兵士達が鬨の声をあげ駆けつける。兵士達は自ら魂を捨て人形となる」
 《次元幽閉》は確かに1体目を幽閉した。しかしそれは端末の1つを封じたに過ぎない。
「ゼッペスの指揮によって動かされる人形は、一点の曇りもなくゼッペスそのものを体現する!」
 《連鎖除外》は一足遅かった。墓地の2体目までは除外しきることができない。
「聞けぃ! ゼッペスとはそれ自体が、完璧唯一の概念なのだ!」



No.40 Gimmick Puppet Heavens Strings

Combination Attack

一 人 舞 台(パフォーミング・ソロ) ! !



No.40 ギミック・パペット−ヘブンズ・ストリングス(エクシーズ・効果モンスター)
ランク8/闇属性/機械族/攻3000/守2000
レベル8モンスター×2:1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターにストリングカウンターを1つ置く。次の相手のエンドフェイズ時、ストリングカウンターが乗っているモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。


『ひしめき合った戦場に、ヘブンズストリングスが導火線を伸ばしきったーーーーー!』
 爆薬仕掛けのクリスマス・ツリー。墓地の《ギミック・パペット−ネクロ・ドール》を蘇生すると同時に生贄に捧げ、《ナイトメア・デーモンズ》を発動。ラウの場にナイトメア・デーモン・トークン3体を特殊召喚。更に手札からは《クラスター・ペンデュラム》を通常召喚。自らの場にクラスター・ペンデュラム・トークンを4体特殊召喚する。フィールド上に9体のモンスターがひしめき合う大混戦。その中心に立つ主役は勿論ヘブンズ・ストリングス。かの人形が飛ばす8本の糸に哀れな端役達は縛られる。
「 "一人舞台(パフォーミング・ソロ)" 尊ぶべき犠牲と共に、ゼッペスは唯一無二の英雄となる」
『これぞ英雄性仮面舞踏会! 舞台は整った! 次のターンのエンドフェイズまでにヘブンズ・ストリングスを倒さない限り大爆発。合計6400ダメージだあああああああああああああああああ!』
 実況が大声を張り上げる中、ラウは淡々とゼッペスを批評した。
「仮面で顔を隠していながら、自己主張が強過ぎる」

Turn 9
■ラウ
 Hand 2
 Monster 4(《魔導戦士 ブレイカー》※効果使用済/ナイトメア・デーモン・トークン×3)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 5100
□ゼッペス
 Hand 0
 Monster 5(《No.40 ギミック・パペット−ヘブンズ・ストリングス》/《ペンデュラム・トークン》×4)
 Magic・Trap 2(セット/セット)
 Life 900

「おまえの演説はそろそろ聞き飽きた。ドロー」 (《つり天井》。ここでこれを引くか)
 今すぐ打開しなければならない以上、折角のマスデストラクションも罠では宝の持ち腐れ。
(大本を叩くか、トークンを減らすかの二択……奴からは絶対の自信が見てとれる。なら……)
 ラウは《八汰烏の骸》を発動して1枚補給。ヘブンズ・ストリングス攻略に向けて動き出す。
『おおっと! 《死者蘇生》で《ならず者傭兵部隊》を特殊召喚! 英雄に傭兵を差し向ける!』
「《禁じられた聖衣》を発動。聖衣を纏ったゼッペスに暗殺は効かない」
「ならば接近戦だ。バトルフェイ……」
「《威嚇する咆哮》で突入を却下。足掻きを捨て跪け愚民よ! 神判は絶対だ!」
「絶対に発動するならむしろ好都合。確認の為仕掛けさせて貰った。セット2枚で盤石を気取るなら、戦闘対策と効果対策で1枚ずつ。それもフリーチェーンが望ましい。《魔導戦士 ブレイカー》をリリース、《ドドドバスター》をアドバンス召喚。効果発動。墓地にあるもう一体の《ドドドバスター》を空いているスペースに釣り上げる。新戦力を試す良い機会……利用しない手はない」
『ラウの野郎が2体の《ドドドバスター》でオーバーレイネットワークを構築! これはぁっ!?』
 ラウはすかさずエンドフェイズを宣言。ヘブンズストリングスが導火線に火を付ける。しかし ――
『ばっさりいったああああああああああ! 真空刃がヘブンズ・ストリングスの糸を1つ残らず直に刈り取っていく! 導火線が断ち切れてしまった! これでは爆発しない!』
「《禁じられた聖衣》が破られた……」
「こいつは対象を取らない。そんなことより自分の胸元をちゃんと確認しておいた方がいい」
 愕然とした。ヘブンズストリングスの剣から一本の糸が自分の胸に繋がっているのだ。 「やめろ! 中止だ!」 大声で叫ぶがもう遅い。その兵士達は愚鈍なほどに忠実過ぎた。
「一人舞台なら他人を巻き込むな。1人で一生人形劇でもやっていろ」



Photon Strike Bounzer Special Skill

"お客様当店はもう閉店で御座います(ストリーク・ブレイク)"



フォトン・ストリーク・バウンサー(エクシーズ・効果モンスター)
ランク6/光属性/戦士族/攻2700/守2000
レベル6モンスター×2:相手フィールド上で効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その効果を無効にし相手ライフに1000ポイントダメージを与える。この効果は1ターンに1度しか使用できない


『弾け飛んだーー! 勝ったのはジャック・A・ラウンド! これでなんと2連勝!』
「バル兄ぃ。2連敗だ。どうするんだ? このままじゃ出番が回ってこない」
「あれあれ? 負けちまったなあ。大変だなあ。どうしようかなあ」
「バル兄ぃのお遊びはいつものことだけど、50:50で危ないんじゃないか。幾らバル兄ぃの読みが優れていたとしても、今から試合をするのはバル兄ぃじゃない。アテが外れる可能性はある」
「ボーラ、おまえは本当にいいことを言う。確かに可能性はある」
 バルートンは不敵な笑みを浮かべた。それは不可解であった。
「優勝か。別にくれてやってもいいんだが……あいつ次第だ」
 バルートンの視線の先にはリードがいた。彼は颯爽と立ち上がる。
「中々手強そうだが、勝てない相手じゃないってことはわかった」
「リード、相手はランク8の大型を上手く使う。気を付けろ」
「大型同士のぶつけ合いなら任せとけ」
「第三試合、リードVSオウチュリィ!」

 そろそろぶっ壊れねえかな


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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