Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Underground Card Duel!


1回戦第1試合先鋒戦
テイルVS "英雄盾を好む" バーサ

「殺れ! 殺っちまえ!」 「さっさと殴り合え!」 「こちとら今日の飯がかかってんだ!」
「いいねえこの雰囲気。そんじゃ精々遊んでいくか。マジック・トラップを1枚セットしてターンエンド」
「遊ぶ? このバーサも全く同意見だ。決闘とはまさしく高等遊戯。そして! 常にオリジナリティ溢れる決闘を提供する、我々Team Createこそが遊戯の王道を行く。まさしく遊戯王。行くぞテイルマン! 《地獄の暴走召喚》を発動。場に《E・HERO アイスエッジ》を3体集めリリース、《暴君の威圧》と《暴君の暴言》を展開。2枚目の《リミット・リバース》で《E・HERO アイスエッジ》を再展開。《マスク・チェンジ》を発動。《M・HERO ヴェイパー》を特殊召喚。このモンスターはカード効果による破壊を弾く。《最強の盾》を発動。攻撃力は4800にまで上がる! 罠は封じられた! モンスター効果も封じられた! このカードは戦闘以外では破壊されず、4800もの攻撃力を持つ。まさに無敵! 最強の ――」







1回戦第2試合次鋒戦
ラウVS "覆水盆に返る" イトマン

「セットモンスター1体にセットスペルが1枚。なんとも創作精神に欠けるフィールド。ならば塗り替えよう! このイトマン・スイマーが描き出す、創造力溢れる水芸空間に。フィールド魔法:《ウォーターワールド》を発動。おまえはもう我々の濁流の中に呑み込まれている。手札から攻撃力1300、《コールド・エンチャンター》を通常召喚。当然水属性! 《ウォーターワールド》の下で攻撃力を500ポイントアップする。いいか? こいつは手札を1枚捨てる毎にアイスカウンターを載せ、載せた分だけ攻撃力を300ポイントアップする。この意味がわかるか? 俺は手札を……なんと! 全部捨てる!」
『イトマンの野郎が攻撃力を3000ポイントまで上げ! 漏れ出た水が! 場に戻って来たぁ!』
「《ライト・サーペント》と《魔轟神獣ガナシア》が2枚ずつ。誘発タイプの特殊召喚モンスターか」
「ご名答! これで場に4体のレベル3モンスターが揃った。ダブルエクシーズ召喚! 現れろ! 2体の水属性エクシーズモンスター、リバイス・ドラゴン。《ウォーターワールド》により攻撃力を2500……ノン! ノン! 比類なきノン! ORUを1つ取り除くことで攻撃力を3000まで上げる!」
「なんてやつだイトマン・スイマー!」 「1ターンでブルーアイズ級が3体も!」
「ハーハッハッハッハッハ! このイトマン・スイマーの爆流が今まさに……」







1回戦第3試合中堅戦
リードVS "石の上にも三周" ボザンナ

「今こそ俺達、Team Createの全てを魅せるとき! 手札から《成金ゴブリン》を発動。デッキから1枚ドロー。まだまだ! 《無の煉獄》を発動。更に1枚。《強欲で謙虚な壺》を発動……まだまだぁっ!」
「おぉーっと、満を持して! ボザンナの野郎が欲望のドロー攻勢にでたぁ!!」
「3枚目の《成金ゴブリン》を発動。デッキから1枚ドロー! 遂に揃ったっ! 《タイムカプセル》を3枚連続発動! 更に! 《封印の黄金櫃》をこれまた3枚連続で発動。パーフェクト! 2ターン後、おまえは俺が揃えたゴッドハンドによって滅ぼし尽くされるのだハーハッハッハ! リードとか言ったな! 首を洗って待っているがいい!」







『待つような馬鹿などいなかった! Team BURST2回戦進出! まぐれとはいえおめでとう!』
「……ったく。もっかい練り直して出直してこいってんだ。練り込みが足りねえよ練り込みが」
「なんかまぐれとか言われてるぜ俺達。せめて籤運が良かったぐらいにしろよ」
「ミィも、今のあいつの実力なら楽に倒せる筈だ」
「今試合してるよ。消化試合だ。楽なもん……」
「ファイナル・クリエイティブ・ファンタジスター!」
「気長に見守るか」 「気長に見守ろう」

――
―――
―――――

 やってしまった。正直これは勝てたと思う。これ以上の機会は多分ない。《魔法除去細菌兵器》から始まるクリエイティブ・コンボの意味不明さに戸惑って超簡単な詰めを間違ってしまった。
「なんでテイルさんはこんな落ち着かないところに連れてきたんだろう。絶対嫌がらせだ」
 大抵のことはテイルさんの所為にしておけば問題は無いとリードさんも言っていた。間違いないと思う。そうしたからといって何の解決にもならないけど。気分転換に辺りを見回してみる。
「イヤッホウ! 喰らえ! カードカッター!」
「その手にはのらねえ! スリーブグレネード!」
 清涼な空気なんてあるわけなくて。吸った酸素を片っ端からなんかよくわからない物質に変えていく人間しかここにはいない(カードカッターはカード大のケースになんか変な物質を付けて投げつける。スリーブグレネードはカード大のケースになんか変な物質を入れて投げつける)。途轍もない程の場違い感。極々普通の女子中学生がいていい場所じゃないと思う。時々、変な目で見られる。ラウンドさんに軽く恐怖を訴えたら 「大丈夫だ。チームアリーナの3人娘を連れてきたら一貫の終わりだろうがおまえならなんとかなる」 と言われた。前々から薄々思ってたけどあの人はおかしいと思う。テイルさんもラウンドさんも腕は最高だけど頭はどうかしてる。誰かと喋っていないと落ち着かない。どうしよう。2回戦が始まる前に落ち着きたい。しょうがない。ここはリードさんにでも……あ、アフィニスさん。

 何をしているのだろう。何かお話ししてみたい。わたしはこの人のことをまだ何一つ知らないんだ。丁度私には話すべき事が1つある。いいことでもなんでもないし、話の種になるとか考えてる自分のことを思うと軽く叫びたくなるけれど。ギャー。兎に角話してみよう。全てはそれから。
「先日は……あの……悲鳴をあげたりして……ごめんなさい」
「びっくりするようなものをみてびっくりしただけ。謝る必要もない」
 どうしよう。会話が終わってしまった。 @ 本当に怒っていない。 A 本当は怒っているけどそうでないフリをしている。 どっちにしろ、これ以上わたしが何を言ってもしょうがない。反省するしかない。
「何を……観てるんですか?」
「試合以外をみてるようにみえる?」
 やっぱり怒ってるのかもしれない。このそっけなさ。それともこれが普段の態度なのだろうか。
 前言撤回。やっぱりもう一度謝った方がいいような気がする。謝ろう。
「ごめんなさい」 「一々謝らなくていいよ」
「えっと、お知り合いの方の決闘ですか?」
「君は知り合いじゃないと試合観ないの?」
「ごめんなさい」 「一々謝らなくていいよ」
「あの……アフィニスさん……その……」
「無理して話さなくてもいいんじゃないかな」
 そんな。話さなければ始まらないのに。もしかしなくても、わたしのことが本当に嫌いなの?
「別に拒絶してるわけじゃない。話す必要が無いなら無理に話さなくてもいい。正直飽きてるんだ。これといった用もないのに話しかけられることが以前から多くて。話したいなら用事を持ってきて」
 用事。見抜かれてる。わたしが会話の為の会話をする気満々だったってことを見抜かれてる。 「今日は天気がいいですね」 みたいなああいう会話から入ろうとしたわたしの目論見はがらんがらんと崩れ去った。用事。何があるだろう。目玉を左右に動かしてみる。ぐりぐり……っていうかここは地下決闘。決闘以外の何があるっていうんだろう。しょうがない。わたしも試合をみよう。
「《サモン・リアクター・AI》でダイレクトアタック。どうしたんだい? それで終わりなのかい?」
 ピンと来た。嫌な奴だ。人をみかけで判断するのはよくないとお父さんに教えられた。その通りだと思うけど、この手の直感が外れたことはあんまりない。あの顔には見覚えがある。後ろにはあの男もいた。悪魔族を巧みに操り槍の人を翻弄したあの男。Team Belialkiller。今決闘してるのは弟(?)のボラートン。アフィニスさんは偵察するつもりで観ていたんだ。そんなことにも気づかずテキトーに話し掛けていたなんて。邪険にされても文句は言えない。あいつらとは決着をつけないといけないのに。

――――
―――
――

「おやおやここに似つかわしくもない可愛らしいお嬢ちゃん、なぜその名前を知っている?」
 試合中だというのにこの人はわたしのところまで歩いてきた。第一印象は兎に角怖かった。今でも怖くて堪らない。細身で、遠目にはそれ程怖そうにはみえないかもしれない。体格の良さならレザールさんやビッグさんの方ががっちりしてる。なのに怖い。みえない糸で首を絞められているように感じる。
「ブロートン?」 テイルさんは普通に忘れていた。「誰だっけそれ」
「わたしが初めて皆さんに会った時に戦った人達です。かごめかごめでマントルピースとか、文学的強化蘇生とか、肩にライター口にボンベとか、一々変なポーズ取ったりとか、あの変な人達のリーダー」
「ああ! あの時のあいつか。そういう名前だったなそう言えば。埋葬学がどうのこうのとか」
「おやおや。なんでうちの愚弟の名前を知ってるのかな。おまえさん達、チーム名を言ってくれ」
「Team BURST。コアラ使いのリードさんを中心に絆で結ばれた、チームワーク抜群のチームです」
 横でテイルさんが笑いを堪えてる。何か間違ったことを言っただろうか。まあいいやテイルさんだし。
「コアラ? ああ! あれか。あいつのベリアルを潰したチームだろ。泣きついてきたよあの馬鹿が。仇を討ってくれって。笑っちゃうよなあ。そうそう。自己紹介がまだだったな。俺が長男バルートン。向こうにいるのが次男ボラートン……ああ、間違えた。妹のボーラだ。そう、ボーラ。あいつは中々わかってる。そしてあのブロートンが末弟。あれは出来の悪い弟だった。その癖、俺んとこのチーム名を半端にパクってる。あいつはいつも威勢だけは良くて、演説も上手いんだが内容が伴ってない」
 わたしは震えていた。あの時の記憶には良いものと悪いものがあったから。
「あれ? もしかして俺をブロートンにダブらせて脅えてるとか……まあなんだかんだ言っても兄弟だからなあ。輪郭に似てる部分もなくはないんだろうが……傷つくだろ……おい……」
 一瞬、ブロートンよりも軟らかくみえた。一瞬、ブロートンよりも硬くみえた。なんだろう……
「賢いお嬢ちゃんだ。どうせ怯えるなら、俺の顔をちゃん見て怯えてくれ。その方がきっと楽しくなる」

「おまえらだって大差ないだろ。ぶっちゃけ」
 リードさんが来た。少し頼りないけどいてくれると嬉しい。
「パクリ野郎ってラウに一蹴されてた奴の兄貴だろ?」
「パクリ野郎? ああ、なるほどあいつらしい。あいつは本当に進歩がない」
「試合みたぜ。随分と趣味の悪いことやってるじゃないか。流石はブロートンの兄貴」
「我ながらろくな生き方してないとは思うが、"決闘文学"なんて自己欺瞞に逃避した奴と一緒にしてもらったら流石に哀しい気分になる。決闘とは欲望を巡る果たし合い。他人の欲望を潰し、自分の欲望を通す。積木みたいなもんだ。た〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぷり時間をかけて構築された積木を見るも無惨にぶっ壊すのが決闘の醍醐味。そいつの中では永遠不滅の一大構築を、積木一本抜いただけでぶっ壊す快感は何物にも代え難い。あいつは自分の世界に浸ることしかできなかった」
 違わない。あいつらとおんなじだ。相手のことを考えない決闘で他人を不幸にしている。そう言いたかったけどふんぎりが付かなかった。テイルさんが私の肩を左手でポンと叩いて、右手の親指をぐいっとあっちに向けた。 「言いたいことがあるなら言ってやれ。もし乱闘になったら、死なない程度に助けてやるから」 と言わんばかりに。それでも駄目だった。弱い。弱っちい。なんでだろう。さっきは決闘を売れたのに。なんだかわからなくなってきた。もしここにいたのがバルートンではなくブロートンだったらわたしは震えただろうか。それとも毅然とした態度を取れただろうか。わからない。
「はぁ〜〜あ。我が弟ながら情けなさ過ぎて涙が出てきそうになる。ていうかおまえが大将なのか? おいおい。なんで一番しょうもなさそうな奴がリーダーやってるんだ?」
「てめえ喧嘩売ってんのか」
 リードさんがバルートンの胸倉を掴もうとする。掴んだ。なのに反対に極められる。なんで。
「そこの尻尾君はいいとしても、これに負けたのかブロートンの馬鹿は。どうせ意味もなく手札断殺使いまくって、ろくに防御もしないでブチ殺されたんだろうが……。恨みを買うほど勝ちまくって俺にまで飛び火するならまだいい。楽しいからな。負けちまったら悪評としても三流だ」
 リードさんが藻掻く度に回り込まれる。全て読まれているかのように。どうしよう。どうしよう。わたしが焦っていると、テイルさんの尻尾がびゅっと伸びた(伸びるんだあれ)。
「そうは言ってもうちの大将だ。離してやってくれないか」 
 バルートンを牽制したけど、あの笑みは消えない。
「いい動きだがブレがある。怪我でもしているのか?」
 次の瞬間、リードさんが力技でバルートンの腕を外す。
 あの人は、口笛を吹きながら手を叩いてた。楽しそうに。
「ぱっと見よりも底力はある。なるほどなるほど。上がってこい。色々楽しめそうだ……ん?」
「あんた、魔王ディアボロスや地縛霊の誘いは何の為に入れたの? あれ不便だろ」
 声を掛けたのはアフィニスさんだった。バルートンは嗤う。何が楽しいのかはわからない。
「あれか? そうだなあ。思いついたからかな。それがどうかしたのかい?」
「別に。聞いてみただけ。ああでも……いや、なんでもない」
「そうかい」 バルートンが去って行く。丁度、チームが勝利を決めていた。
「あんにゃろう。ブロートン同様俺がぶっ飛ばしてやる。どうせ大したことはない」
「大将」 「なんだテイル」 「気を付けた方がいい。あいつは相当できる奴だ」
 えらく真面目な顔でそう言っていたのが印象に残ってる。
「……おまえ、怪我してるのか?」 「ああ。腹と背中がちょっとね。高いところから落ちて」
「んなことで怪我してんじゃねえよ」 あれ? タワーってもしかして……あれ……まさか……
「おまえら何を油売ってんだ」 手続きを行っていたラウンドさんが戻ってくる。
「ブロートンの兄のバルートン? 聞いたことがあるようなないような。それより2回戦の手続きしてきたぞ。オーダーは先鋒ミィで、後は俺達が適当に3勝する」
 この時わたしは、特に理由はないけどほとんど確信していた。
 あの人達と闘うことになると。


――
―――
――――

「あまり調子に乗るなよ。儀式魔法《闇の支配者との契約》を発動」
 対戦相手のC G(カードゲーマー)が反撃に出た。儀式魔法。そういえば間近で観るのは初めてかも知れない。ちょっとわくわくした。大きなモンスターが出てくるに違いない。
「それだ」
 儀式魔法が消える。それだけじゃない。結界(?)が張られた。
「《封魔の呪印》? 何だろうあれ。儀式魔法が消えちゃった……」
「《マジック・ジャマー》の相互互換、ハイリスクハイリターンな調整が施されている。ハンドコストがマジックに限定され、その分威力が上がっている。あれに打ち消された呪文はその決闘の間使えなくなる。儀式や融合の使い手にとっては顔も見たくないカードだ」
 あれ? 今の会話になってるんじゃ。こういうのならいいのかな。
「じゃあじゃあ! 今ので勝負は決まっちゃったようなもんなんですか?」
「他に攻め筋がないわけじゃないけど、相当不利になったのは間違いない」
「《天魔神 エンライズ》を特殊召喚。喰らえ!」
「ぽんぽん放り込むだけ。安易な戦法だね。《煉獄の落とし穴》を発動」
「また潰されちゃった。あんなに潰されたらどうしようもなさそう」
「タイプとしては【パーミッション】。ここの連中らしい癖の強さがあるけど」
「さあ決めにいこうか。《サモン・リアクター・AI》に《ブラック・ボンバー》でチューニング、《ダーク・フラット・トップ》を守備表示でシンクロ召喚。効果発動。墓地の《サモン・リアクター・AI》を特殊召喚」
「シンクロ素材にした《サモン・リアクター・AI》が復活するんだ。便利ですねあれ」
「母艦である《ダーク・フラット・トップ》を倒さない限りリアクター軍団は無限に墓地から再生産される。《ダーク・フラット・トップ》の守備力は3000。儀式を封じられた儀式デッキで突破するのは難しい」
「あの布陣を突破する方法ってそんなに多くなさそう。なのにそれをカウンタートラップで封じられたら身動きが取れない。なんかもう無敵ですね。倒す方法とかないんですか?」
「身動きが取れなくなる前に倒すのが理想と言えば理想。ペースを握られさえしなければ意外とあっさり倒せたりするけど、そうでなければひたすら厄介なのが【パーミッション】というスタイルだ」
 あれが【パーミッション】。話には聞いていたけど直に観るのは初めて。大変そう。
「サレンダーだ。終わった」 「サレンダー? 試合放棄ですか? まだ試合は……」
「勝ち目がなくなったんだ」 「そうですか。わたしはあんまり……折角……」
「ラウやテイルから聞いていた通りだ。死ぬ程諦めが悪いんだってね」
「え? あ、その、あの、え〜と、すいません」
「責めてるわけじゃない。間違ってはいない」
 不思議な人だ。わたしと同じくらいの背丈で年もあまり変わらないのに。横に立って対等にお話できる気がしない。自分の小ささが恨めしい。もう少し大きくなりたい。今の試合が終わって観戦の興味をなくしたのか、パルムさんは手持ちのカードユニットを弄り始めた。わわ……《ダーク・アームド・ドラゴン》に《スクラップ・ドラゴン》。聞いたことある。超いいカード。どうやって手に入れたんだろう。欲しい。
「あのさ」
「はい!」
「 "五枚規制" って知ってる?」
「あ、えっと、あ〜どこかで聞いたことあるようなないような〜え〜っと……」
「知らないんだね」 う、あ、う…… 「知らないんなら別にいいよ。ありがとう」
 こんなに辛い "ありがとう" は初めて。なんだろう。わたしは知らなさすぎる。

――
―――
――――

準決勝第1試合
テイルVS "遅延師・ノー・フェイズ"

「《ジャンク・ウォリアー》、《ジャンク・アーチャー》、さっさと殺してこい!」
「そうはいかない! 《魂の氷結》! おまえのバトルフェイズは凍結された!」
『あと4000ライフが遠い! 尻尾野郎の攻撃がさっきから一向に通らないぞ。ざまあみろ!』
「《終焉のカウントダウン》や《波動キャノン》でトドメを刺してもらえるなどとはゆめゆめ思うな。あんなものは防御の隙を生むだけ。俺の目指す遅延デッキの中では異物にしかならん」
「それでどうやって勝つつもりなんだよおまえは」
「どうでもいいなあそんなことは。俺は遅延させるのが大好きなんだ。世の中には遅延に遅延を重ねて最終的に勝つのが好きだと言う奴もいるが俺に言わせれば半端者に過ぎん!」
「そんなんでよくもまあチームに入れてもらえたもんだな。準決勝まで来たということは他の連中がちゃんと勝ってるってことで、そいつらからすればおまえを入れる理由はないだろ」
「世の中には、金を払ってでも貪る価値のある快楽というものがある」 「馬鹿か」 (背中痛ぇ)
「さあどうする。遅延に嫌気がさしてサレンダーするか、それとも遅延に次ぐ遅延で苦痛に顔を歪め、こちらのデッキ切れでうんざりするような勝利を掴むか。俺はどちらでも構わん!」
「なるほど。敵さんの士気を落とすにはうってつけかもな。しょーじき、今おれは相当萎えてる」
「そうだろうそうだろう! それこそが遅延デッキの本領。萎びた心で……」 「《マインドクラッシュ》」
「あ?」 「《ハネワタ》。ほら手札みせろって。あれ? ねえのか。まあいいや。俺の手札捨てて……」
「おい」 「ドロー。スタンバイフェイズ、《トラップ・スタン》」 「甘い! 《威嚇する咆哮》を発動」
「そんだけか」 「俺の決闘にバトルフェイズはない!」 「そんだけなんだな。要らねえよそんなもん」
「?」 「腐る程ある手札使って……ほらさっさと出てこい。こっちは背中がくっそ痛ぇんだ」
「《カタパルト・ウォリアー》×2ぃ! ジャンク作りの弾丸が装填されたぁ! こいつはやべえ!」
「ちょ、ちょっと待て。遅延を……」 「技名は……ああ、ええっと【二重螺旋の尻尾】とかでいいや」
「でいいや……っておい……」 「背中が痛いんだよ……頼むからさっさと死んでこい!」

準決勝第2試合
ラウVS "一つの口を持つ単なる嫌われ者(ワンマウス・ミアレパー)"

「おい兄ちゃん、そんな個性の欠片も感じられないデッキでよくこの地下決闘に出てくる気になったな! 《荒野の女戦士》? 《ならず者傭兵部隊》? 絶望的なオリジナリティの欠如。笑いものとしても3流以下がいいところ。なあおい。何が楽しくて決闘をやってんだ?」
『キタキタキタァ! 建前も本音もねえ! あいつにあるのはただ一つの煽り文句!』
「難しい問いだ。 『何の為』 と言われると恥ずかしながら即答できない自分がいるのは事実だ。今日日自分探しなど心底くだらないものではあるが、人生の楽しみ方を模索して色々やっている内に気が付いたらこうなっていたのは言い分けしようがない。願わくば、賽の目が好転することを望んでいる」
「……おいてめえわけのわからないこと言ってんじゃねえぞ! その服からしてインテリ気取りか!」
「正解を求めて自分なりに当面の正当性や合理性を追求してきたが、言われてみれば外から見て面白味のないものになっていたかもしれない。おまえの言葉には興味深い問題提起が含まれている」
「なにうんうんうなってんだ! 俺の言葉に傷つけ! 何の為に決闘やってると思ってんだ!」
「それはそうと、おまえが付けているアクセサリは 『ロスト』 で市販されている物を改造したのだろうが似合っているとは言い難い。紫と黒に拘りすぎて折角のアクセサリが没個性的な印象しか与えない」
「な……」 「チーム内での差別化には成功しているが、他と比較すれば個性に乏しいとわかる」
「てめえ」 「上着は兎も角、他の部分はバルートンの後追いだ。服に着られていることからも……」
「この野郎」 「デッキも、墓守の防御能力の高さを今一活かしきれていない。折角の良効果が……」
「ぶっ殺してやる! 偵察者! 暗殺者! 司令官! トリプルアタックで女戦士を殺れ!」
「《聖なるバリア−ミラーフォース−》」 「な……それは……ねえだろ……」
「煽るのが好きでも煽られるのは好まないようだな。おれのターン、ドロー……《荒野の女戦士》と《ならず者傭兵部隊》でオーバーレイ! やれ! 《機甲忍者ブレード・ハート》!」

 大会の方は思いの外順調だった。回を追う毎に少しずつ相手も強くなってはいたけれど、地下決闘独特の荒っぽい戦法に追い詰められることもあったけど、元々Earthboundとも渡り合えるこの人達に黒星を付けられる人は流石にいなかった。誇らしい気持ちになる一方、自分のことが情けない。 『先鋒は腕自慢が多い』 と慰めては貰ったけど、黒星で塗りつぶされる戦績表をみては溜息を付く。引き摺らない引き摺らないと自分に言い聞かせているのに、いざ試合場に立つとプレッシャーを感じてしまう。ミスる。しくじる。負ける。地下決闘の雰囲気に馴染めない。ラウンドさんは早々に順応してしまって 『向こうの方から色々仕掛けてくれるお陰で逆にやりやすい。裏をとれればそれで勝てる。全勝を狙うならむしろ好都合だ』 とまで言っているのに。テイルさんに至っては 『地下戦法がどうのこうより、なんとなく置かれた《次元の裂け目》が一番面倒だった。ていうか背中痛ぇ』 とまで言ってるのに。
「準決勝第4試合! リードVSコンボスタンス! こいつに勝った方が決勝戦だ!」
「さーて! いっちょ決めてやるか!」 「コンボとは何か、あの新参者に教えてあげよう」
 リードさんの試合には親近感が湧く。こういうとあれだけど今までの試合で一番危なっかしい勝ち方をしてきたのがリードさんだから。身近に感じる。わたしにコアラはないけれど。
 対戦相手のコンボスタンスさんは不気味な人だった。なんかぶつぶつ言ってる。そうは言っても、地下決闘に来る人達は大抵どこかおかしい。 『ヤタロック』 にも変な人はいたけど、なんて言えばいいんだろう。どこか暗いものを感じる。そう言えば《ジェネティック・ワーウルフ》 と付き合っているアリエッティさん(だったっけ)が歩いていた。 『ヤタロック』 の時よりも目が据わっている。 「今日こそ生むぞ」 とかぶつぶつ言ってた。怖い。そうだ。ここは怖い。あの人もきっと怖いんだ。

準決勝第3試合
リードVS "表明するコンボスタンス"

Starting Disc Throwing Standby――

Three――

Two――

One――

Go! Fight a Underground Card Duel!


Turn 4
■リード
 Hand 4
 Monster 2(セット/セット)
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 8000
□コンボスタンス
 Hand 3
 Monster 1(セット)
 Magic・Trap 2(《強欲なカケラ》/セット)
 Life 8000

『おらおらおら! てめえらさっさと動きやがれ! 時間がおしてんだバーカ! バーカ!』
 4ターン目。お互いに動かないまま、場に少しずつカードを増やしてる。リードさんのデュエルスタイルは差し込み型。差し込めるならすぐにでも差し込むし、すぐには差し込めないようなら差し込めそうになるまで亀のようにじっとしたままチャンスを窺う。自分からペースを作る決闘ではない、そうリードさんは言っていた。 『もしペースを握る時があるとすればそれは俺が勝つ時だ』 とも言っていた。早すぎても駄目だし遅すぎても駄目。まわるスロットの、 "勝利" が揃うところをピンポイントで押す決闘。
「このまま黙して動かずと言うのも面白くはあるまい。1000ライフを与えて《成金ゴブリン》を発動。安心したまえ。バルートンとは違う。美しいショーへの先行投資だ。《強欲な瓶》を発動」
 当のリードさんは 『なんにせよ、相手にくれてやるのは馬鹿げてるぜ』 とか言いそう。
「手札も揃ってきた。そろそろ開幕と行こうか。《モンスターゲート》を発動」
 コンボスタンスさんが動いた。《クリッター》をリリースして《モンスターゲート》。飛び出てきたのは《E・HERO プリズマー》。 「Excellent」 なんて言うからには当たりを引いたに違いない。効果発動。墓地に《ブラック・マジシャン》を送って……《ブラック・マジシャン》、凄い。間近では初めて見た。格好いい。
「《騎士の称号》を発動。《ブラック・マジシャン》の名を得た《E・HERO プリズマー》を墓地に送り、デッキから《ブラック・マジシャンズ・ナイト》を特殊召喚。効果発動。セットモンスターAを破壊」
 攻撃力2500。守備力2100。《ブラック・マジシャン》と同じだけど種族が違う。戦士族。《騎士の称号》を受けることでジョブチェンジ、目の前のカードを薙ぎ払う。けれど、
「勘が悪いな。《エア・サーキュレーター》だ。破壊されたことにより1枚ドロー」
「バトルフェイズ、《ブラック・マジシャンズ・ナイト》でセットモンスターBを攻撃」
「《デス・コアラ》を発動。おめえの手札は4枚。2000ダメージを与える」
「なるほど。これでライフ差は3000。ハンデとしては丁度いい。《封印の黄金櫃》を発動」

Turn 5
■リード
 Hand 5
 Monster 0
 Magic・Trap 1(セット)
 Life 9000
□コンボスタンス
 Hand 2
 Monster 1(《ブラック・マジシャンズ・ナイト》)
 Magic・Trap 3(セット/《強欲なカケラ》/《封印の黄金櫃》発動中)
 Life 6000

「ドロー……手札から2体目の《エア・サーキュレーター》を通常召喚。2枚戻して2枚引く。《緊急テレポート》を発動。《メンタルプロテクター》を特殊召喚。こいつらでオーバーレイ・ネットワークを構築」
 《No.17 リバイス・ドラゴン》。攻撃力は(効果込みで)2500。使い勝手のいい良質なエクシーズ・モンスター。《ブラック・マジシャンズ・ナイト》と同じ攻撃力。行く気だ。
「《No.17 リバイス・ドラゴン》で《ブラック・マジシャンズ・ナイト》を攻撃」
「甘い! リバースカードオープン、《スキル・サクセサー》で400アップ!」
「奇遇だったな! こっちも《スキル・サクセサー》。400ポイントアップ!」
「ドラゴンとナイトが激しくぶつかるぅ! 互角。この勝負は全くの互角ぅ!」
「1枚セット。やるな」 「そっちこそ、思ったよりは使える」 「そりゃこっちの台詞だ」

「ドロー……《強欲なカケラ》を墓地に送り、デッキからカードを2枚引く。リードとか言ったな。ここまでの攻防に免じて1つ話をしてやろう」 「いや、しなくていい」
「1回戦でバルートンに敗れた槍使いのマンドック。あいつに何が足りなかったかわかるか?」
「実力じゃねえの?」 身も蓋もない答えだけどわたしもそう思う。あの人が強過ぎたんだ。
「この問いに答える為には決闘という競技の深淵を紐解く必要がある。聞きたいか」 「知るか」
「突き詰めれば決闘とは、8000のライフを奪い合う競技。即ち減点方式と言うことだ」
 1つ分かったことがある。ここの人達は基本的に人の話を聞かない。
「しかしそれは表層でしかない。深淵にはもう1つの評価軸がある。マンドックにはそれが足りていなかった。加点方式……即ち、芸術点の上乗せが足りなかった。《暗黒騎士ガイア》……《竜騎士ガイア》……《氷結界の龍グングニール》……ここまで載せておいてツメを誤った。《氷結界の龍グングニール》が墓地に落ちなければならなかったのに。それこそが最後の扉であったのに」
「グングを呼ぶ為のデブリは《はたき落とし》で打ち落とされた。どうしようもないだろ」
「話をちゃんと聞いていなかったのかこの間抜け。芸術への執念が足りていないと言っている。意地でもグングを墓地に送るべきだったのだ。こんな風に! 《ゲール・ドグラ》を通常召喚!」
 《ゲール・ドグラ》!? あのカードは一体……
「3000ポイントのライフを支払い、。エクストラデッキから墓地に《閃b竜 スターダスト》を送る」
 あの動き! リードさんのあれにそっくりだ!
「もう一度言う。マンドックの敗因は芸術点が足りなかったこと。《暗黒騎士ガイア》と《氷結界の龍グングニール》を用いて 『最後の竜騎士』 を召喚する……斯くの如き芸術的執念が足りなかったことだ。《龍の鏡》を発動。墓地の《閃b竜 スターダスト》と《ブラック・マジシャンズ・ナイト》を融合。現れろ!」



Dragon Knight Draco-Equiste

Attack Point:3200

Defense Point:2000

Favorite Attack:Spiral Javelin



「《カース・オブ・ドラゴン》などという駄馬では攻撃力を300上げるのが精々だった。しかし、《閃b竜 スターダスト》を纏ったことで我が竜騎士は更に600の上乗せが可能となる。もっとも、私は槍一本と戯れる気などない。いいかねリード君。屈強なる戦士、奇跡を操る魔法使い、そして天翔るドラゴン! TCGの華形! それらを自在に組み合わせるデッキこそ決闘の王道とは思わんか。んん?」
 うんうん。正確には戦士・魔法使い・ドラゴン・アブロオロスの四種族が四強だけど。あんな召喚方法もあるんだ。超強化版《竜騎士ガイア》。攻撃力が600も上がってる!
「《ゲール・ドグラ》で、そして《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》でダイレクトアタック! 通るか。悪いが君の一発芸は既に知っている。ダメージステップ、墓地から《スキル・サクセサー》を発動」
 もう準決勝。リードさんの技はばれてる。あの人はちゃんとわかっていた。《成金ゴブリン》を使った上で、こっちのライフを5000以下にする自信があったんだ。でも、リードさんはその上を行く。

リード:5950LP
コンボスタンス:3000LP

「《スキル・サクセサー》にチェーンして《銀幕の鏡壁》を発動。足りねえな」
 100%。間違いなくリードさんは《銀幕の鏡壁》のコストを払ったりしない。0:1交換。それでいいとリードさんの顔が言っている。それでいいんだ。リードさんはそれでいいんだ。
「いいだろう。ならばその、詰まらない一発芸を披露してから散るがいい」
「五十歩百歩だな」 ラウンドさん酷い。
「五十歩百歩だ」 テイルさんまで。
「とはいえ」 「まあなんつうか」
「「五十歩は大事だ」」 確かに。

Turn 7
■リード
 Hand 3
 Monster 0
 Magic・Trap 1(《銀幕の鏡壁》)
 Life 8150
□コンボスタンス
 Hand 2
 Monster 1(《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》/《ゲール・ドグラ》)
 Magic・Trap 1(セット/《封印の黄金櫃》発動中)
 Life 3000

「《銀幕の鏡壁》を解除。何が最強最後の竜騎士だ。2300から2600? 2600から3200? そういうのをなんて言うか知ってるか? 五十歩百歩だ。決闘に芸術点なんてねえ。勝つか負けるかだ」
 リードさんが腰を落とした。やる気だ。あれを。
「おまえはまだるっこしい。ワンアクションだ。ワンアクションでおれは呼べる」
「ならばこちらのトリプルアクションを予め教えておこう。《戦士の生還》。《E・HERO プリズマー》で《バスター・ブレイダー》の姿を写し取り、《封印の黄金櫃》で引き込んだ《死者蘇生》で《ブラック・マジシャン》を美しく釣り上げ、《超魔導剣士−ブラック・パラディン》を降臨させる。まさに美の展示会」
「わざわざ説明してもらって悪いが観たいとは思わない。言っておくがおまえに次のターンはまわってこない。学芸会はお開きだ。5000ライフを支払い……飛んでこい!」
 リードさんが決闘盤を投げた。一撃必殺。《マスター・オブ・OZ》。これで決勝進出……
「そう来るのを待っていた。ライフを5000以下にするだけが防御策と思ったか。使いたいなら使えばいい。弾数一発の大砲など恐るるに足りん。吹き飛べ! 《激流葬》!」
 いけない。リードさんのライフは残り950。払うライフがどこにもな……え!?
「そしてぇ! 途中での試合放棄など許さない。【マグネティック・リサイタル】!」
 え? なになに? なんでわたし押さえつけられてるの。ちょ、やだ……
『出たあっ! Team Railless必殺のフォーメーション。【マグネティック・リサイタル】!』
 人質。それも勝利の為ではなく、完走の為の人質。あの人のチームメイト4人がかりでわたしは地面に押しつけられ、押さえつけられた。 「コンボスタンス! こちらは確保した。安心してコンボを決めろ! もうあいつにサレンダーはない!」 信じられない! コンボを決める為だけにこんなことする? 「こいつの命が惜しければ試合放棄しろ」なら百歩譲ってまだわかるけど 『こいつの命が惜しければ試合放棄するな』だなんて。幾ら地下決闘の人達が堪え性のない人達だからってこんなの……
「ラウンドさん、テイルさん、助けてください!」 「……」 「写真写真……」
 腹が立った。わたしを押さえつけてくる4人にも勿論腹が立ったけど、それ以上に、この2人に対して無性に腹が立った。テイルさんは爆笑してる。笑い転げてる。最低だ。この人最低だ。腕はいいけど最低だ! ラウンドさんに至っては静観している。 『人質か。これはこれでいい経験になるだろう』 とでも言わんばかりに。馬鹿だ。この人馬鹿だ。頭いいけど馬鹿だ! アフィニスさんに至ってはこっちを見てすらいない。呪ってやる。おまえらみんな呪ってやる。末代まで呪ってやる!
「これぞチームデュエル! これぞパーフェクトウィン! さあ……」
「盤面を良く見ろ間抜け」

Turn 7(メインフェイズ1)
■リード
 Hand 1
 Monster 1(《デビル・フランケン》)
 Magic・Trap 0
 Life 150
□コンボスタンス
 Hand 2
 Monster 0
 Magic・Trap 0(《封印の黄金櫃》発動中)
 Life 3000

「《デビル・フランケン》が生き残っているだと!?」
「チェーン2で《神秘の中華なべ》を使ってコアラをライフに戻し、チェーン3で《禁じられた聖衣》を使って《デビル・フランケン》を守った。おまえがぐだぐだフルトーク決めてる間に、ミツルなら "一の拳" を思い切りぶち込んでるところだ。それが華ってもんだろ。前置きが多すぎるんだよおまえは」
「貴様等に何がわかる。美の殿堂を前にして立ち去る無知がどれだけ……ぐわっ!?」
 コンボスタンスの野郎が吹っ飛んだ! リードさんの2投目はとっくに終わってたんだ。
「説明してから投げるのは時間の無駄だ。投げてから説明させてもらった。じゃあな」
 ほぼ同時に、テイルさんの尻尾が鞭となって人質確保要員達を威嚇する。動揺した人質要員達の隙を付きラウンドさんがわたしを救い出した。ああ、この人達は本当に 『面白いから』 『経験になるから』 ぐらいの理由でわたしを放っておいたんだ。
「《スキル・サクセサー》は結局要らなかったな……。ミィ、大丈夫だったか?」
 頼りないとか言ってごめんなさい。 『本当に面白かった。連れてきて正解だった』 とか言ってる尻尾星人や 『いい経験になった筈だ。自分でも分かったと思うが無駄にバタバタするのは体力の無駄遣い。息を潜めて脱出の機会を待つのが正しい』 とか言ってる理屈星人のことなんて知らない。

「おやおや決勝まで上がってきたのか」
 背中がぞわっとする。急いで振り向くとそこにはバルートンが立っていた。怖い。なんでだろう。ブロートンとの一件の所為だと思ってた。それもある。あるけど本当は違う。ブロートンとは違う何かを感じる。何が違うんだろう。そうだ。視線だ。視線が違うんだ。ブロートンは押し付けてきた。この人は違う? そうだ。この人と向かい合っていると身体の内側から掻き毟られるような気分になる。
「おいおまえら自己紹介しておけ……と言っても仮面部隊に自己紹介も糞もないか」
 後ろに立っているのはオカマの(ここ重要!)ボラートンと、3人の仮面付きの決闘者。この人達が決勝の相手になるのだろうか。なるに違いない。誰と闘うことになるのだろう。
「それじゃあ後でな。今日めぼしいのはおまえらぐらいだ。精々楽しもうや」
 その通りになった。相手も結構強かったのにあっさりと。テイルさん曰く 「まだまだ全部の力を出してるわけじゃなさそうだ。実際に闘ってみないとなんとも言えないな」 とのこと。拳をぎゅっと握りしめた。今日の戦績のことは忘れる。集中。集中しなければあの人達とは勝負にもならない。

「おまえさ、バルートンのこと嫌いなんだな」
「テイルさん。だって、こう、あの……」
「歯切れが悪いなあ。バルートンが真摯でないと思うなら怒ればいいじゃないか」
「不真面目な人がそういうこと言う。そういえば怪我してたんですよね。もしかして決闘で?」
 テイルさんは口元を薄く動かした。思い出して笑っているようにもみえる。
「タワーって……危険ってわかりきってる。なんでそこまでして決闘を?」
「好きなことを好きなように好きなだけしたからな。しょうがない」
「あの人もそうなんですか。あの、バルートンって人も……」
「俺はあいつじゃないからなあ。地上も地下も大会も路上も、それなりに適応して、できることをできるようにできるだけのことをやってる。おれにそういうのぶつけたところでな〜んも返ってきやしない」
「わたしは強くなって勝ちたいのに、あの人は弱くなって、なのに勝ってて。わからない」
 わたしは下を向いた。正確には、下を向いていたことに後で気が付いた。
「西というのも中々面白いもんだ。妙に治安がいいかと思えば、裏街道にはまだまだろくでもない連中が屯ってる。おれはどっちも嫌いじゃない。ミツルさんのような勤勉さも、あのバルートンみたいな享楽っぷりも、 "参加させてもらってる側" にしてみれば色々ある方が楽しいもんさ」
「……」 わからない。わたしはこの人ほど自由自在にはできてない。
「なあミィ、おまえはそれでいいのか?」
「え?」 
「バルートンがなんか言ってる時、おれの服を掴んだりしてただろ」
「……」 テイルさんがわたしの肩をポンと叩いたのは、わたしがこの人の服を掴んでいたからだ。
「さっきのあれも、結局おれらが助けたわけだが、なんつうかさあ。同じチームのよしみで、手が届く範囲ならこれからも死なない程度に助けてやってもいいけど……おまえってさ、助けられたいのか? おまえだって色々やってきたじゃないか。危険な目にだって十分遭ってる」
「……」 
 弱くなるのは簡単。わたしは簡単に弱くなっていた。心が弱いから。バルートンの 『気』 に押し込まれていたんだと思う。カードカッターやスリーブグレネードは大丈夫だった。耐えられる。なのに、自分の中でどうにかできなくなると途端に閉じ籠もってしまう。それじゃあ前と変わらないのに。
「愛玩動物扱いが嫌ならもうちょい強くなれ。強くなりたいならなるべく逃げない方が手っ取り早い」
 テイルさんのことは嫌いになれない。好きにもなれないけど。そうだ。わからなくてもぶつかるしかない。知らないなら知ろうとしないといけない。なにはなくとも、下を向いてる場合じゃない。
「ほら」 テイルさんは尻尾からカードを2枚取りだしてわたしに手渡した。
「……」 「くれてやる。簡単には使いこなせないだろうが遊んでみろ」
「いいんですか?」 「おれにはもう要らないものだ」
「なんでですか?」 「さあ決勝だ。あいつらと合流しよう」

『決勝戦! ギャラリーの数は十分だ! 何の為? 決まってる! 負けた憂さを晴らす為! おまえらブーイングの準備はできてるかあああああああああああああああああ』
「さっさと負けちまええええええええええええええええええええええええええ!」
 この後ろ向きな前向きさときたら。その中でも、あいつは一段と楽しそうだった。
「この大会の決勝はいつだって最高だ。負け犬共の怨嗟が気持ちいい気持ちいい」
『バルートン・ベリアルが現れた! お聞きくださいこの罵声! 大会創立者の1人ながら、誰1人としてこの男を応援しない。 "負けちまえ" その思いで胸が一杯だ。だが、しかし、とはいうものの!』

「優勝商品はもらってくぜ。それでこの大会ともおさらばだ。さあぶっ飛ばしていくぞ」
『ゲストが調子に乗っているうううううううううううううううううううううううううう! 両方負ければいいのに。誰もがそう思っている。俺だってそうだ。しかし勝者は一組、敗者も一組。わかってんなてめえら! 勝者からは全力で目を逸らせ! 敗者には気合い入れて罵倒句をぶつけろ! それじゃあいってみよう! ベリアル・カップ決勝戦! 決着つけるぞてめえらああああああああああああ!』

Team Burst

VS

Team Berialkiller

 わたしはまだ知らなかった。この闘いがわたしたちのきっかけになるということに。

EPISODE 19

Burial Cup Final Killing〜決戦、地下決闘〜


【こんな決闘小説は紙面の無駄だ!】
読了有り難うございました。2話で決勝まで来たけどなんだかんだで80ページ分ぐらい使ってるという事実。
↓匿名でもOK/「読んだ」「面白かった」等、一言からでも、こちらには狂喜乱舞する準備が出来ております。


□前話 □表紙 □次話












































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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